説明

表面ガス検知法および検知装置

【課題】皮膚表面から遊離する主に水素ガス成分を非侵襲的に採取し、生体内の代謝情報を連続的にモニターする。
【解決手段】 容器、ガスセンサー及び固定手段を有するガスの検知装置であって、
前記容器は通気用細管および開口部を有しており、前記固定手段は前記容器を皮膚に密着させるものであり、
前記開口部を皮膚に密着させ、前記細管を通して通気させ、前記容器内のガスを前記ガスセンサーで検知することにより連続的に測定することができる検知装置。
皮膚表面のガスを検知する方法であって、
通気用細管および開口部を有する容器、ならびにガスセンサーを準備し、
固定手段を用いて皮膚に容器を密着させ、皮膚と容器との間に閉鎖空間を設け、
閉鎖空間内のガスの濃度をガスセンサーによって測定する
ことを特徴とする検知方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物、特にヒトの皮膚表面をチャンバーで覆い、常圧としたまま皮膚表面から放出される遊離水素ガスの濃度を連続的に記録できる。チャンバー、ガス通気用細管、ガスセンサー、記録装置、固定手段の組み合わせからなる。
【背景技術】
【0002】
従来の皮膚ガス分析法として、対象ガスにより主に(1)酸素/二酸化炭素分圧計測法(PtO2/PtCO2)と(2)その他の微量皮膚ガス成分のための皮膚ガス採取・計測法に分けられる。前者は濃度が%オーダーと高いため連続測定が比較的容易でそのモニター法はほぼ確立されている。すなわち、皮膚表面から赤外線などの加熱手段を加え、動静脈吻合を開口させることにより、動脈血分圧に相応する酸素分圧と二酸化炭素分圧を計測しようというもので市販品製品がすでに出ている。 40℃程度までに加熱しなければならないため、長時間計測では低温熱傷などの問題があった。また、皮膚ガスそのものを計測する方法ではないが、赤外線透過性を用いた経皮的酸素飽和度(SpO2やCO-Hbの分析技術も開発され臨床で広く使用されるに至っている。
【0003】
他方、その他の皮膚ガスから放出される低濃度微量ガス成分は濃度がppmオーダーあるいはそれ以下ときわめて低濃度であるため、センサー特性(感度、選択性、耐久性、他種ガスからの干渉)、雰囲気の混入、採取分析系の揮発性素材の存在などといった特殊な課題がある。そのため、微量ガス成分の採取法として、皮膚表面に還流ガスを流し皮膚ガスを含ませたガスを直接採取または吸着濃縮し、直接ガス分析装置で計測する方法、積極的に皮膚表面に陰圧をかけてガスを吸引して採取する方法、皮膚表面に吸着剤を近接させ皮膚成分を吸着採取、皮膚をテドラーバッグなどで覆い一定時間後あるいは一定時間間隔により皮膚ガスを採取計測する方法がとられてきた。
【0004】
しかし、従来の公知となった皮膚ガス採取検出法として、本発明による「皮膚表面に密閉または大気への開放スペースを作り、微量流量のガスを自然な状態で大気中に排気させるガス採取を行う方式、また、大気開放にすべき通気用細管の記載やその長さ、断面積や容積については検討した文献報告はなく、かつ簡便な皮膚ガス連続検知法は知られていない。
【0005】
水素ガスは揮発性化合物の中でももっとも軽い化合物のひとつであり、透過性や拡散性が極めて高く、常時放出されるppm程度の低濃度・微量の皮膚ガスを継続的に検知するには、本発明で示すように細管を設け、かつ雰囲気の混入を極力少なくするための工夫が必要であった。
【0006】
従来技術の例としては、次のものが挙げられる。
特開2002-195919号公報(津田孝雄他)は、皮膚透過ガス収集装置及び皮膚透過ガス測定装置を開示しており、特開2005-214855号公報(下内章人他)は、表面ガス採取装置および方法を開示しており、特開2006−214747号公報(関根嘉香他)は、皮膚ガス捕集装置を開示している。
【特許文献1】特開2002-195919号公報
【特許文献2】特開2005-214855号公報
【特許文献3】特開2006−214747号公報
【0007】
従来、生体内で産生される水素は終末呼気中の水素濃度で推定されていた。呼気水素の由来は大腸における未消化炭水化物の嫌気性代謝醗酵によるものとされ、主に小腸通過時間、腸内異常発酵、小腸内細菌叢の存在、過敏性腸症候群などの消化器疾患の診断に用いられてきた。1988年英国研究者により水素分子の還元性から酸化ストレスの消去作用を予測する仮説が提唱されたが、2007年以降、吸入水素は脳梗塞/心筋虚血における再還流障害、肝障害、小腸移植の動物モデルにおける反応性の強いヒドロキシルラジカル(OH・)を選択的に消去し、それぞれの障害を有意に改善することが報告された。さらに、ごく最近、水素ガスを溶存させた0.4〜0.6mM水素水の飲水によりマウスの拘束ストレスモデルに伴う認知機能低下の改善作用が報告された。ガス状水素分子がOH・を選択的に消去することはin vitroでは実証されているが、上述の動物実験報告からも示唆されるように、外因性水素のみならず生体内で産生される内因性水素もフリーラジカルの消去作用を有し、生体ガス中の水素は抗酸化ストレス作用をもつものとして、新たな酸化ストレス指標として臨床的に有用になることが予想されるようになってきた。呼気水素濃度は上述の消化管疾患に伴う他、食事(牛乳、乳製品、大豆食品、食物繊維など)や運動、心理的ストレス、薬剤(αグルコシダーゼ阻害剤)などで上昇する。さらに早朝空腹時のベースライン値は年齢に依存して低下する。また、大豆食品を含む日本食では高齢者より若年者で呼気中水素の上昇幅が大きいことが報告されており、高齢者では生体内でのフリーラジカルの消去のため内因性水素が消費されていることが強く示唆される。水素は生体内における抗酸化ストレスとして作用している可能性が高く、内因性水素をモニターすることにより生体内酸化ストレスの変動が推定可能になるものと考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
水素ガス濃度の経時的変動をみるためには、被験者の協力を得て呼気採取をしながら計測する方法しかなかった。また、睡眠中における呼気水素の計測も容易には実施することができなかった。
そこで、内因性水素の日内変動または水素産生量と抗酸化ストレスとの関係を明らかにする簡便な計測記録可能な装置の開発のため、本発明を行った。
【0009】
皮膚ガスからの水素濃度は1ppm以下の低濃度であり、呼気水素の200分の1程度の濃度である。また、皮膚ガスは呼吸と異なり能動的に採取できない。皮膚の採取部位によっても水素濃度はかわり、特に角質の厚さにより影響を受けるものと考えられる。さらに0.1から1ppm程度の範囲で計測可能なセンシング技術は現在のところ、ガスクロマトグラフ質量分析や半導体センサー、熱電水素センサーなどに限られており、これらの通常の検知法では定量限界も0.1ppm程度であり、しかも、連続的な計測法も現在時点では半導体センサーや熱電ガスセンサーなどの開発途上のセンサーに限られてくる。このため、もっとも水素濃度が高く計測可能であり連続モニターに適する部位を探索する必要があった。本発明は皮膚表面から遊離する主に水素ガス成分を非侵襲的に採取し、生体内の代謝情報を連続的にモニターしようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、容器、ガスセンサー及び固定手段を有するガスの検知装置であって、
前記容器は通気用細管および開口部を有しており、前記固定手段は前記容器を皮膚に密着させるものであり、
前記開口部を皮膚に密着させ、前記細管を通して通気させ、前記容器内のガスを前記ガスセンサーで検知することにより連続的に測定することができる検知装置を提供する。
本発明の検知装置は、
半密閉型チャンバー(1)、ガスセンサー(2)、通気用細管(3)、信号処理デバイス(4)、固定手段(5)、バッテリー(6)を有する、皮膚表面の水素ガスを検知する装置であって、
チャンバー(1)は、皮膚に密着させることによって、チャンバー(1)と皮膚が閉鎖された空間を形成し、
ガスセンサー(2)は、チャンバー(1)の中に設置されており、閉鎖空間において皮膚から放出される水素ガスの濃度を測定し、
通気用細管(3)は、チャンバー(1)に接続されており、閉鎖空間と装置外部とを連通しており、
信号処理デバイス(4)は、ガスセンサー(2)によって連続的に測定され、ガスセンサー(2)から送られた測定データを処理するデバイスであり、
固定手段(例えば固定用バンド)(5)は、装置を装着する時にチャンバー(1)を皮膚に密着させるように働く手段であり、
バッテリー(6)は、ガスセンサー(2)および信号処理デバイス(4)に電力を供給することができる検知装置であることが好ましい。
【0011】
さらに本発明は、皮膚表面のガスを検知する方法であって、
通気用細管および開口部を有する容器、ならびにガスセンサーを準備し、
固定手段を用いて皮膚に容器を密着させ、皮膚と容器との間に閉鎖空間を設け、
閉鎖空間内のガスの濃度をガスセンサーによって測定する
ことを特徴とする検知方法をも提供する。
本発明のガス検知方法は、皮膚表面の水素ガスを検知する方法であって、
(a) ガスセンサー(2)および通気用細管(3)を有する半密閉型チャンバー(1)を準備する段階、
(b) 固定手段(5)を用いて皮膚にチャンバー(1)を密着させ、皮膚とチャンバー(1)との間に閉鎖空間を設ける段階、
(c) ガスセンサー(2)からの測定データを信号処理デバイス(4)で処理しながら、測定を連続的に行う段階、
を有する検知方法であることが好ましい。
【0012】
本発明によれば、皮膚表面から発するガス中に含まれる水素ガスを検出できるガス採取システムが得られる。
本発明のシステムは、(1)半密閉型チャンバー、(2)ガスセンサー、(3)通気用細管、(4)固定手段、(5)信号処理デバイス,(6)バッテリーを有する。(1)〜(4)を組み合わせて、皮膚表面をチャンバーで閉鎖し、そのまま、あるいは予め高純度ガスで充填した注射筒でチャンバー内をパージした後、チャンバー内を皮膚ガスが自発的に発生する状態に保ったまま、皮膚表面から放出されるガスを自然な形で細管より逃し、目的とする化合物のガスセンサーを皮膚表面に近づけた状態で連続モニターできる。
本発明によれば、皮膚(特に臍の部分)から発生する、すなわち、体内で発生して皮膚を透過する、水素ガスを検出およびモニタリングすることができる。皮膚は、動物の皮膚であり、特にヒトの皮膚である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、次のような効果が得られる。
(i)皮膚ガス測定を連続的にモニターできる。
(ii)消化器疾患の診断およびモニターができ、治療効果が判定できる。
(iii)生活習慣等と生体内水素との関連に関する知見を得ることができる。
(iv)抗酸化ストレス能を推定できる。
(v)検知装置に対する不純物の付着が抑制される。
(vi)検知装置は携帯性に優れる。
(vii)検知装置の保守が容易である。
(viii)検知装置は多目的な応用が可能である。
(ix)検知装置の操作に資格が不要である。
【0014】
臍帯ベルト使用にすると入浴時以外の覚醒活動時、睡眠時にも使用可能で格段に携帯性に優れている。さらに、本システムは必要に応じて形状を変えることにより、角質や皮下組織が薄く低分子ガス成分が放出されやすいと考えられる腋や会陰部などの局所の皮膚ガス採取も可能であり、部位も自由に選べる利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の検知装置は、半密閉型チャンバー(1)、ガスセンサー(2)、通気用細管(3)、信号処理デバイス(4)、固定手段(5)、バッテリー(6)を有することが好ましい。検知装置は、さらに、操作ボタン(7),表示パネル(8)、ポンプ(9)およびデータロガー(10)を有していてもよい。半密閉型チャンバー(1)と通気用細管(3)は、ガスセンサー(2)の形状に応じて、種々の形状を採りうる。本発明の検知装置は、ケースを有しており、ケースがチャンバー、ガスセンサー、通気用細管、信号処理デバイス、バッテリーを包囲することが好ましい。
【0016】
(1)半密閉型チャンバー
チャンバーは、開放容器(開口部を有する容器)の形態である。容器の開口部を皮膚によって閉鎖させる。チャンバーをヒトの皮膚に密着させることによって、チャンバーとヒトの皮膚が閉鎖された空間を形成できる。
【0017】
チャンバーの形状および大きさは検体に応じたものであればよく任意である。ただし、構造を複雑にするとチャンバー内の汚染除去が困難になるため、極力、円筒状(例えば、内径が5〜100mm、高さが5〜100mm)や半球状(例えば、内径が5〜100mm)の単純な形状であることが望ましい。目的によっては耐圧性があれば、複雑な表面形状に密閉できるような吸盤型のものでもよい。また、チャンバーには流出口となるように細管を接続可能なものとする。チャンバーの素材は、内面が平滑な石英、ガラス(例えば、パイレックス(登録商標)ガラス)、あるいは表面を研磨したステンレスあるいはアルミニウムなどの金属のいずれであってもよい。場合により、プラスチックなどの高分子材料も使用可能である。素材は、化学反応を起こさず、かつ素材そのものからの遊離化合物が出ないものを選ぶのが望ましい。チャンバー内面に付着した脂質や有機化合物などを容易に除去できるような材質を選ぶことが望ましい。あるいは、内面に被覆膜(例えば、酸化珪素膜(SiOx)、ダイヤモンドライクカーボン膜)を形成させる処理を行うことによりチャンバー内面に対する不純物の付着を抑制してもよい。皮膚表面と密着する部分は皮膚表面を傷つけないように丸みをもたせ平滑にし、破損の危険のあるものは避けなければならない。ただし、透明な素材のものが皮膚表面の吸引の状態を確認できるので便利である。また、非使用時は雰囲気による汚染を防止するため、気密性が保てるような蓋(例えばアルミ箔など)を装着させるのが望ましい。同じチャンバーを頻回に使用する場合には着脱可能なものにし、アセトンやエタノールなどで十分に不純物を拭い去ってから使用する。
チャンバーの大きさは、チャンバーとヒトの皮膚によって形成される閉鎖された空間の容積が、0.1〜50mL、特に1〜10mLになるようなものであることが好ましい。
【0018】
(2)ガスセンサー
ガスセンサーは、チャンバーの中に設置されており、閉鎖空間においてヒトの皮膚から放出される水素ガスの濃度を検出する。
低濃度の皮膚ガス成分を計測するのは高感度の水素ガスセンサーを用いる。また、結露や二酸化炭素などは、一般的なガス分析(例えば半導体センサー)の妨害因子となることが多いので、この妨害因子の影響を受けにくいものが望ましい。
ガスセンサーは、一般に、バッテリーからの電力によって作動する。
ガスセンサーの例としては、マイクロ熱電式水素センサー、接触燃焼式水素センサー、弾性表面波水素センサー(例えば、ボール弾性表面波水素センサー)、MEMS熱伝導式水素センサー、起電力変化方式水素センサー、薄膜型水素センサーまたは半導体水素センサー(例えば、薄膜型半導体水素センサー)、光ファイバ水素センサーが挙げられる。
【0019】
(3)通気用細管(および接続器具)
通気用細管は、チャンバーに接続されており、閉鎖空間と装置外部(周囲雰囲気)とを連通している。通気用細管の存在により、チャンバー内の閉鎖空間が大気圧に保たれるようになる。細管は、一般に、排気を行うために存在するが、吸気を行ってもよい。吸気は、ポンプを用いることによって行える。
細管は、チャンバーに設けた穴に接続されている。チャンバーの穴は、ガスセンサーの感応部分の位置よりも高い位置にあっても低い位置にあってもよい。一般に、チャンバーの穴は、ガスセンサーの感応部分の位置よりも高い位置にあることが好ましい。これにより、ガスセンサーの感応部分の水素ガス濃度が、皮膚表面の水素ガス濃度にほぼ一致するという利点が得られる。チャンバーの穴は、ガスセンサーの感応部分の位置よりも少なくとも0.1mm、例えば1〜10mm高くてよい。
細管は、チャンバー容積と皮膚ガス排気、雰囲気の巻き込みを勘案した口径と長さを有する。細管は、実施例では直線状の細管を用い実験を行ったが、管の形状はチャンバーや装置内に丸め込む形にしてもよい。ただし、この場合は内空の形状変化により、粘性抵抗と拡散抵抗が変るため、形状に合わせた長さとしなければならない。材質は内面が平滑で吸着しにくいものが望ましいが、必要に応じて医療用で用いられている規格のものが医療現場では入手しやすい。例えば脇窩、陰部、肛門周囲などの解剖学的に本装置を留置しにくい場合には、接続器具を用いることが可能である。接続器具の例は、医療用エクステンションチューブ(例えば、JMSエキステンションチューブなど)などであり、三方コック部分を操作しやすい部位に持ってくることも可能である。超高感度分析を目的とする場合にはハイパー処理済みの光輝焼鈍管の素材を使用することがのぞましい。結露を防止するために、ガス流路・配管系にヒーターを巻いてもよい。
細管の内径は、一般に、0.2〜5mm、特に2〜5mmであってよい。細管の長さは、5cm以上、8cm以上、例えば8〜40cm、特に10〜30cmであってよい。
【0020】
(4)信号処理デバイス
信号処理デバイスは、ガスセンサーによって連続的に測定され、ガスセンサーから送られた測定データを処理する装置である。信号処理デバイスは、システムを制御する。信号処理デバイスは、マイコンの形態であってよい。
信号処理デバイスは、ガスセンサーにより得られた水素濃度のアナログデータをAD変換によりデジタルデータに変換し、デジタルデータを保存する。
なお、ガスセンサーと信号処理デバイスとは一体型とし、ケースの腹側面は腹部にそったゆるやかな面を形成し、密着性が高くなるようにすることが好ましい。
信号処理デバイスは、例えば、外部のパーソナルコンピューターと接続することができ、種々の設定を行うことができる。また、ガス濃度などのデータを転送することもできる。
【0021】
(5)固定手段
固定手段(例えばバンド)(5)は、装置を体に装着する時にチャンバー(1)を皮膚に密着させるように働く。
チャンバーの皮膚への密着を良くし、雰囲気の混入を予防するために、マジックバンド等で巻きつけ固定しても良い。またはさらに皮膚とチャンバーの気密性をもたせるために、素材を分析目的に応じて選択すれば、粘着性のジェルまたはゲル(例えば、合成樹脂製ゴムやシリコン)を使用しても構わない。また、結露防止などの目的により試料表面を加熱させる場合にはチャンバー内の温度調節機能を追加してもよい。
臍で水素ガスを測定する場合には、固定手段は、腹および背中に回すベルトの形態であることが望ましい。
また、チャンバー、信号処理デバイスなどの固定のために、バンド以外にも皮膚への刺激が少ない粘着性素材(例えば,両面テープなど)を用いてもよい。
【0022】
バッテリー(6)
バッテリーは、ガスセンサー(2)および信号処理デバイス(4)に電力を供給できる。バッテリーは、他の要素、例えば、表示パネルにも電力を供給できる。
バッテリーは、携帯性に優れる小型の乾電池(例えばボタン電池)や充電式バッテリー(例えばリチウム水素電池)を使用できる。移動を伴わずに特定の場所(例えば室内やベッドサイド)での使用が主な用途である場合には、家庭用電源などから直接電力を供給してもよい。
【0023】
操作ボタン(7)
操作ボタンは、例えば測定を開始または終了するために用いる。
操作ボタンによって、作動要素、例えば、ガスセンサーおよび信号処理デバイスおよび表示パネルの操作が可能である。また、作動要素の設定(例えば、データの取り込み間隔の設定)を変更することもできる。ガスセンサーによっては測定の前にウォーミングアップを要することがあり、スイッチを入にしてから測定を開始するまでの待機時間(例えば、10秒〜1時間)があることがある。本発明の検知装置を表面に密着させることにより自動でスイッチを入にして測定を開始する場合には,操作ボタンはなくてもよい.
【0024】
表示パネル(8)
表示パネルは、種々の情報を表示できる。表示パネルは、例えば、水素ガス濃度および検知装置の作動状況を表示できる。
表示パネルは、あらかじめ校正済みの係数を積算することにより、皮膚表面から出てくる水素ガス濃度の表示を行う。場合によっては、操作ボタン(7)の操作により校正前のデータをそのまま表示することもできる。
【0025】
ポンプ(9)
ポンプ(9)は、チャンバー(1)から空気を排出し、またはチャンバー(1)に空気を送る。ポンプにより、チャンバーにおける閉鎖空間を減圧または加圧することが可能になる。
【0026】
データロガー(10)
データロガーは、デジタルデータを保存することができる。データロガーは、連続的に測定された水素ガス測定データの入力、保存および出力を行える。
データロガーは、信号処理デバイスから分離しており、信号処理デバイスと一体になっていなくてもよい。さらに、データロガーは検知装置に含まれていなくてもよく、検知装置の外部にあってよい。
データロガーの外部入出力端子を介してパーソナルコンピュータなどに接続し、ガス濃度の取り込みやキャリブレーションガスによる校正が可能な設定をする。あるいは、特定の周波数帯の信号に応答する受信機を有する機械(例えば携帯電話機、パーソナルコンピューター)に対して、ガス濃度などのデータを無線で送信することができる発信機があってもよい。
【0027】
本発明の検知装置を用いて、水素ガス濃度を容易に連続的に測定することができる。
水素ガスを検知する皮膚の部位の例は、臍、手掌、指間、臍部、頚部、手首、耳、外耳道、眼球、頚部、体幹部、足底部、脇である。検知部位が、臍であることが好ましい。
【0028】
本発明の方法は、次のようにして行える。
皮膚表面をチャンバーで閉鎖する。高純度ガス(例えば、窒素ガス、酸素ガス)でチャンバー内をパージする。高純度ガスのパージは、例えば、高純度ガスを充填した注射筒によって行える。あるいはパージを行わずにそのまま測定に入ってもよい。こうしてチャンバー内を皮膚ガスが自発的に発生する状態に保つ。次いで、皮膚表面から放出されるガスを自然な形で細管より逃し、ガスセンサーを皮膚表面に近づけた状態で連続モニターする。ガスセンサーの感応部分と皮膚との間の距離は、1〜100mm,例えば2〜10mmであってよい。
【0029】
本発明のようなシステムは従来の報告では存在しない。類似するものとしては、開口部ならびに貯留部を有する皮膚透過ガス採取容器およびガス検知用の発色試薬を有する皮膚透過ガス測定方法が提案されている(津田孝雄、特開2006−234843号公報)が、本発明のようにガスセンサーを用いた検出方式の方が連続的な測定が可能であるという点において優れている.
【0030】
図1は、本発明の表面ガス検知装置の概略図および断面図である。図1の左は、ヒトが表面ガス検知装置を装着している様子を示す。図1の右上は、本発明の表面ガス検知装置の上面図である。図1の右下は、本発明の表面ガス検知装置の断面図である。表面ガス検知装置は、半密閉型チャンバー(1)、ガスセンサー(2)、通気用細管(3)、マイコン(信号処理デバイス)(4)、固定用バンド(5)、バッテリー(6)、操作ボタン(7)、表示パネル(液晶ディスプレイ)(8)、ポンプ(9)およびデータロガー(10)を有する。通気用細管(3)の末端は、通気口(11)となっている。ケース(20)が半密閉型チャンバーおよびガスセンサーなどを収容している。
【0031】
図2は、皮膚局所から発生する水素ガス濃度を示すグラフである。手掌、前腕、臍、頚部、第一指と第二指の間、手首でのデータを示す。臍で、水素の発生が最大であることが理解できる。
図3は、周囲ガスの巻き込みを示すグラフである。(通気用)細管の長さが、0cm、5cm、7.5cm、10cmおよび15cmである場合に、外部から進入した水素ガスの濃度を示す。細管の長さが10cm以上であれば、外部から水素ガスがあまり進入しないことが理解できる。
図4は、ヒトが高濃度の水素(0.6mM)を含んだ市販水素水を1分間で飲み、その後90分間、本発明による臍部からの皮膚水素をモニターしたグラフである。臍部での水素ガス濃度は、生体皮膚から放出される水素ガスをほぼ追随していることが分かる。
【0032】
本発明には、次のような利点がある。
(i)皮膚ガス測定の連続モニター:
従来の方法では、酸素や二酸化炭素以外の連続測定以外での簡便な皮膚ガス計測の報告では、単回採取または不連続の測定が報告されているのみであったが、本発明により24時間以上の計測が可能となる。水素濃度に適当な係数値(濃度×時間×(全体表面積/チャンバー面積)を算出することにより、1日あたり生体内水素産生量が推定可能となる。実施例で示したように、半導体センサーまたは熱電水素センサーを用いることにより、データロガーの記録容量にもよるが毎秒数10回程度のデータサンプリングの取得が可能になる。皮膚水素ガス濃度は生体の準静的な変動に追随し、日内変動の詳細な変動を記録することが可能になる。
【0033】
(ii)消化器疾患の診断・モニター・治療効果の判定:
この装置を用いることにより、生体内水素濃度の上昇にかかわる診断(主に小腸通過時間、腸内異常発酵、小腸内細菌叢の存在、過敏性腸症候群などの消化器疾患)や開腹術後の消化管蠕動開始の判定、経口食開始の消化管運動の推定などが可能になる。データの無線送信システムを利用することにより、遠隔地からのモニタリングが可能でありさらにその有用性があるものと考えられる。
【0034】
(iii)生活習慣等と生体内水素との関連に関する知見:
生体内水素は、食事(牛乳、乳製品、大豆食品、食物繊維など)や運動、心理的ストレス、薬剤(αグルコシダーゼ阻害剤)などで上昇することが知られている。早朝空腹時のベースライン値は年齢に依存して低下することが知られている。これらのことから生活習慣の推定や、日常生活活動、睡眠における生体内水素変動と健康との関連に関する知見が急増するものと考えられる。
【0035】
(iv)抗酸化ストレス能の推定:
生体内水素はその還元性から抗酸化ストレス能があることが実験的に証明され、外因性水素ガス吸入や水素水摂取により、酸化ストレスにより障害を引き起こす病態を改善することが報告されている。さらにこれに伴い生体内水素濃度は内因性活性酸素種(過酸化水素、スーパーオキシド、ヒドロキシラジカルなど)を消去する抗酸化ストレス作用があることを示す実験結果が報告されている。本発明では生体内で発生する内因性水素ガス計測を連続的に計測することにより、生体のもつ内因性水素濃度を経皮的にもっともガス濃度が高い状態で計測が可能な部位を選んで連続的に評価することも可能になる。
【0036】
(v)不純物の抑制:
チャンバー構造が単純であるため、不純物の付着が少なく、また内面のクリーン化も容易である。付着してもチャンバーを熱脱離あるいは有機溶媒などにより不純物を遊離することができる。また、チャンバーの取替えを可能にすることもできる
(vi)携帯性:
チャンバーを含めた検知装置(電池込み)は重量が80g以下に押さえることができ、チャンバーと高純度ガス以外の各パーツはどの医療現場にも常備されている三方活栓、注射筒、延長チューブなどを用いることが出来る。集団検診や往診などのフィールドワークにも利用可能で、システム全体の携帯性に優れている。また,データロガーを内蔵した検知装置を使用すれば,使用済みの検知装置をそのまま郵送して別の場所でデータを解析することもできる.
【0037】
(vii)容易な保守:
皮脂や有機化合物などで汚染されたチャンバーは、使い捨て方式にしてもよい。再生して使用するには、通常の中性洗剤や純水で洗い流し、乾燥させるのみで保守が非常に簡便である。ガス流路は極力単純化し、内面平滑な素材を用いることにより、取替え可能なものにする。汚染に対する対策は、加熱脱離や流水等の物理的洗浄で済む。または有機溶媒(例えばアセトン)を浸したベンコット(小津産業株式会社)などで内面を拭い取った後、加熱脱離により溶媒を除去すればよい。高感度質量分析で観察する限り、以上の方法で不純物のほとんどは除去可能である。
【0038】
(viii)多目的な応用:
手掌、足底、体幹部、四肢、顔面など全身いたるところの皮膚ガスを採取することが可能である。皮膚発汗量、加齢臭物質、腋臭成分など皮膚特有の情報も得られ、肌の美容、化粧物質の動態解析にも利用できる。また、食品の鮮度・腐敗などの試料もチャンバーを覆うように留置すれば、それらの表面からの微量揮発性化合物を非破壊的にすることが可能になる。さらには、実施例でも述べたように、排便・放屁による体周囲雰囲気中の水素濃度の上昇も検知できる。海水あるいは土壌などの液体や粒状物質においても,検知装置と接続可能な容器内に入れることにより,ヘッドスペースガスを連続的にモニタリングすることも可能である.
(ix)資格不要:
皮膚ガス採取は非侵襲的な方法であり、現行法では、医師、看護師、臨床検査技師などのような医療資格を要せず、資格をもたない一般人が在宅や職場でも簡単に気軽にガス分析可能である。さらに、採血の難しい新生児や乳幼児などの生体成分分析にもこうした皮膚ガス採取装置が有用となる可能性がある。
【実施例】
【0039】
以下の実施例により本発明をさらに具体的かつ詳細に説明する。ただし、実施例は本発明を限定するものではない。
【0040】
実施例1(図2)
半球状のガラス容器(内径26.5mm)に細管(内径2.8mm,長さ15mm)及び円筒状の半導体ガスセンサーを接続可能な円筒状のガラス管(内径13mm,長さ32mm)を溶接したチャンバーに半導体水素ガスセンサーを埋め込み、手掌、前腕、臍部、頚部、指間、手首の皮膚から放出される皮膚水素ガス濃度をモニターした。結果を図2に示す。
その結果、臍部からの水素ガス濃度が最も高かった。その他、耳、外耳道、眼球、頚部、体幹部、足底部、脇などと比較しても臍部の水素濃度が最も高かった。
【0041】
実施例2(図3)
チャンバーを完全な密閉系にすると発汗による結露や応答が悪くなるため、細管を通して皮膚から放出される微量なガス成分を逃してやらなければならない。また、細管を具備させることにより、放屁や排便による高濃度の水素ガスも検知できるようになる。
図3は細管(テフロン(登録商標)製、内径2mm)の長さを変えて周囲に比較的高濃度の水素ガス中に置いたときの水素ガスセンサーの応答を示す。これにより長さ10cm以上が周囲水素濃度の影響を受けにくいことが分かった。なお、このときのチャンバーの皮膚接触内径は10.3mm、空間容積は3.2mL、センサー先端深さは4mmであった。チャンバーの穴(細管に接続するための穴)は、センサー先端(センサー感応部分)よりも1mm高い位置にあった。センサー先端は感度を稼ぐには極力皮膚表面の至近距離にあることが望ましいが、結露の付着や皮膚との接触を避けるため4mmと設定した。
【0042】
実施例3(図4)
安静坐位で30分間安静にした後、高濃度の水素(0.6mM)を含んだ市販水素水を1分間で飲み、その後90分間、本発明による臍部からの皮膚水素をモニターした結果を図4に示す。この間、終末呼気を5分間採取して、呼気水素の経時変化と対照させて観察した。高濃度水素を準備したため、臍周囲の雰囲気中水素濃度が一過性に増加したことによる変動がみられたものの、ほぼ生体皮膚から放出される水素をほぼ追随していることが分かる。現在、市販されている選択性の高い半導体水素ガスセンサーでもノイズが認められるが、水素センサーの感度上昇の技術開発により充分に日常生活における皮膚ガス水素放出量の変動が観察できるものと考えられる。さらに細管の通気管を用いたことにより、雰囲気の混入は避けられるものの、高濃度水素にセンサーが暴露される場合がある。それは放屁または排便による生体周囲の水素ガス濃度の上昇である。衣服内または布団・シーツ内での放屁は一過性の急峻な水素濃度の上昇により鑑別できるため、放屁回数や排便のモニターとしても使用可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、動物、特にヒトの皮膚表面をチャンバーで覆い、常圧としたまま皮膚表面から放出される遊離水素ガスの濃度を連続的に記録できる。水素は生体内における抗酸化ストレスとして作用している可能性が高く、内因性水素をモニターすることにより生体内酸化ストレスの変動が推定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の表面ガス検知装置の概略図および断面図である。
【図2】皮膚局所から発生する水素ガス濃度を示すグラフである。
【図3】周囲ガスの巻き込みを示すグラフである。
【図4】ヒトが高濃度の水素を含んだ市販水素水を飲んだ後に、臍部からの皮膚水素をモニターしたグラフである。
【符号の説明】
【0045】
1 半密閉型チャンバー
2 ガスセンサー
3 通気用細管
4 信号処理デバイス
5 固定用バンド
6 バッテリー
7 操作ボタン
8 表示パネル
9 ポンプ
10 データロガー
11 通気口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器、ガスセンサー及び固定手段を有する水素ガスの検知装置であって、
前記容器は通気用細管および開口部を有しており、前記固定手段は前記容器を皮膚に密着させるものであり、
前記開口部を皮膚に密着させ、前記細管を通して通気させ、前記容器内の水素ガスを前記ガスセンサーで検知することにより連続的に測定することができる検知装置。
【請求項2】
半密閉型チャンバー(1)、ガスセンサー(2)、通気用細管(3)、信号処理デバイス(4)、固定手段(5),バッテリー(6)を有する、皮膚表面の水素ガスを検知する装置であって、
チャンバー(1)は、皮膚に密着させることによって、チャンバーと皮膚が閉鎖された空間を形成し、
ガスセンサー(2)は、チャンバー(1)の中に設置されており、閉鎖空間において皮膚から放出される水素ガスの濃度を測定し、
通気用細管(3)は、チャンバー(1)に接続されており、閉鎖空間と装置外部とを連通しており、
信号処理デバイス(4)は、ガスセンサー(2)によって連続的に測定され、ガスセンサー(2)から送られた測定データを処理するデバイスであり、
固定手段(5)は、装置を装着する時にチャンバー(1)を皮膚に密着させるように働き、
バッテリー(6)は、ガスセンサー(2)および信号処理デバイス(4)に電力を供給できる検知装置。
【請求項3】
検知装置が、操作ボタン(7)および表示パネル(8)を有しており、表示パネル(8)が水素ガス濃度および検知装置の作動状況を操作ボタン(7)により切り替えて表示できる請求項2に記載の検知装置。
【請求項4】
検知装置が、ポンプ(9)を有しており、ポンプ(9)は、チャンバー(1)から空気を排出し、またはチャンバー(1)に空気を送る請求項2または3に記載の検知装置。
【請求項5】
検知装置における信号処理デバイス(4)が、データロガー(10)を有しており、データロガー(10)は、連続的に測定された水素ガス測定データの入力、保存および出力を行う請求項2〜4のいずれかに記載の検知装置。
【請求項6】
通気用細管(3)の長さが少なくとも5cmである請求項2〜5のいずれかに記載の検知装置。
【請求項7】
検知する皮膚の部位が、臍、手掌、指間、臍部、頚部、手首、耳、外耳道、眼球、頚部、体幹部、足底部、脇である請求項1〜6のいずれかに記載の検知装置。
【請求項8】
検知する皮膚の部位が、臍である請求項1〜6のいずれかに記載の検知装置。
【請求項9】
皮膚表面の水素ガスを検知する方法であって、
通気用細管および開口部を有する容器、ならびにガスセンサーを準備し、
固定手段を用いて皮膚に容器を密着させ、皮膚と容器との間に閉鎖空間を設け、
閉鎖空間内の水素ガスの濃度をガスセンサーによって測定する
ことを特徴とする検知方法。
【請求項10】
皮膚表面の水素ガスを検知する方法であって、
(a) ガスセンサー(2)および通気用細管(3)を有する半密閉型チャンバー(1)を準備する段階、
(b) 固定手段(5)を用いて皮膚にチャンバー(1)を密着させ、皮膚とチャンバー(1)との間に閉鎖空間を設ける段階、
(c) ガスセンサー(2)からの測定データを信号処理デバイス(4)で処理しながら測定を連続的に行う段階、
を有する検知方法。
【請求項11】
段階(b)と段階(c)の間に、高純度ガスでチャンバー(1)内をパージする請求項9に記載の検知方法。
【請求項12】
検知する皮膚の部位が、臍である請求項9〜11のいずれかに記載の検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−148692(P2010−148692A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330582(P2008−330582)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(305059871)株式会社タイヨウ (4)
【Fターム(参考)】