説明

表面フッ素化B型酸化チタンを含むリチウムイオン電池用負極材料とその製造方法、およびそれを用いたリチウムイオン電池

【課題】簡潔な処理によってB型酸化チタン(TiO2(B))粉末の充放電特性ならびにレート特性を向上させ、好適にリチウムイオン電池の負極材料として用いることのできるB型酸化チタン粉末を提供すること。
【解決手段】B型酸化チタン粉末を0℃〜200℃にて、1分〜10日、フッ素含有ガス雰囲気下にて反応させ、表面がフッ素化されたB型酸化チタン粉末を得る。フッ素化処理は、0.01atm〜2atmで行われることが好ましい。フッ素含有ガスとしてはフッ素(F)、三フッ化窒素(NF)、三フッ化メトキシ窒素(N(CF)、三フッ化塩素(ClF3)ガス等から選択されるフッ素化合物を含有するガスを用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池の負極として用いることができる酸化チタン系負極材料に関する。より詳しくは、高容量を有するB型酸化チタン(TiO(B))負極材料とその製造方法、およびそれを用いたリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー、環境問題の観点から電気自動車用電源、電力負荷平準のための大型二次電池としてリチウムイオン電池の大型化が期待されている。しかし、大型二次電池として実用化するためには、コスト、安全性、寿命の飛躍的な向上が必要であると考えられている。
【0003】
リチウムイオン電池の高出力化、低コスト化、高安全性化、長寿命化のためには、1.0V以上の電位で充放電反応が進行する高電位負極を用いることが一つの解決策であり、このような高電位負極の一つとして、スピネル構造を有するリチウムチタン複合酸化物LiTi12の開発が進められている。
LiTi12は1.55V(vs. Li/Li)付近に平坦な放電電位を持ち、極めて良好なサイクル特性を示す一方で、その理論容量は低く(175mAh/g、607mAh/cm)、エネルギー密度の観点からは魅力に欠ける。LiTi12について、表面フッ素化処理を行った報告がある(非特許文献1)。この報告では、120℃で前処理したLiTi12を、加熱(70℃、100℃)・加圧(3atm)下で2分間フッ素化処理することにより、高電流密度での充放電特性が向上することが開示されている。しかしながら、25℃でのフッ素化処理では効果が得られないこと、充電特性の向上がみられたのは高電流密度(300mA/g、600mA/g)の場合に限られること等、フッ素化処理による良好な効果を得られる条件は限定されている。
【0004】
一方、本発明者らは、負極材料としてTiOの一種であるB型酸化チタン[TiO(B)]に注目し、研究を進めてきた。B型酸化チタンは準安定相であるが、理論容量は、重量あたり(335mAh/g)では黒鉛に匹敵し、体積あたり(1246mAh/cm)では黒鉛を超え、また優れたサイクル特性を有するため、高容量高電位負極材料として期待される。本発明者らは既に、固相法により得たKTiを前駆体とし、イオン交換、脱水することにより、平均放電電圧1.6V、放電容量200〜250mAh/gという容量を有し、良好なサイクル特性とレート特性を有するB型酸化チタン粉末を得ることに成功している(非特許文献2)。
【0005】
しかしながら、実際の製造で得られるB型酸化チタン粉末の充放電容量を理論容量により近づけ、B型酸化チタン粉末を負極材料として有効に使用するためには、簡便な方法を用いて、更なる充放電特性やレート特性の向上を図ることが期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T. Nakajima et al. /Journal of Fluorine Chemistry 130 (2009) 810-815
【非特許文献2】M. Inaba et al. /Journal of Power Sources 189 (2009) 580-584
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、簡潔な処理によってB型酸化チタン粉末の充放電特性ならびにレート特性を向上させ、好適にリチウムイオン電池の負極材料として用いることのできるB型酸化チタン粉末を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために検討を繰り返す中で、B型酸化チタン粉末に対してフッ素化処理を行うことにより、高い充放電容量を有し、優れたレート特性を示すB型酸化チタンを得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、リチウムイオン電池用の負極材料であって、表面がフッ素化されたB型酸化チタンを含むことを特徴とする。フッ素化処理によって表面がフッ素化されたB型酸化チタンは、BET比表面積が1m/g〜20m/gであることが好ましい。また、本発明は、リチウムイオン電池の負極材料である表面がフッ素化されたB型酸化チタンの製造方法であって、B型酸化チタン粉末を、通常0〜200℃、好ましくは20〜150℃にて、1分〜10日、好ましくは10分〜数時間(例えば、1時間又は2時間)、フッ素含有ガス雰囲気下にて反応させ、フッ素化処理を行う工程を有することを特徴とする。
【0010】
前述した非特許文献1の記載によれば、70℃又は100℃で2分間フッ素化を行ったLiTi12について充電特性の向上がみられ、25℃でのフッ素化処理によって得られた材料は未処理物と同等、もしくは同等以下の充電特性を示している。
これに対し、本発明では、常温を含む比較的低温度域からのフッ素化処理が可能であり、処理時間または処理温度の幅広い調整により表面フッ素化の程度が適度に制御されたB型酸化チタン粉末を製造することを特徴とする。かかる処理は、比較的低温度域から処理が行えるため、特に、常温処理の場合には反応場における温度の検知及び制御が不要であり、反応装置のコストや処理にかかるエネルギーコストを低く抑えることができる。
【0011】
かかるフッ素化処理を行ったB型酸化チタン粉末は、少なくとも表面がフッ素化されており、粉末の形状は、表面が若干平滑となる以外は処理前後でほぼ変わらず維持される。また、かかるフッ素化処理を行ったフッ素化B型酸化チタンは、未処理物と比較して充放電容量が顕著に向上し、さらに、あらゆる電流密度において充放電レート特性が向上し、良好なレート特性が得られる。
【0012】
フッ素化処理は0.01atm〜2atmの範囲で行われることが好ましく、常圧で処理が行われる場合には、処理装置に密閉機構を設けることや処理装置を耐圧構造とすることが不要となるため、装置コストの点で有利である。常圧以上で行われる場合には、常圧での処理と比較して処理時間を短くできる利点がある。
【0013】
さらに、本発明の方法によって得られた表面にフッ素を有するB型酸化チタン粉末を利用して作製した負極材料として有するリチウムイオン電池は、優れた単位重量あたりの充放電容量(mAh/g)が達成できることが確認された。
【発明の効果】
【0014】
本発明の表面がフッ素化されたB型酸化チタン粉末は、重量当たりの放電容量が高く、多様な充電速度において、充電容量が安定的に向上するB型酸化チタン粉末であるため、リチウムイオン電池の高電位負極材料として、非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例及び比較例のB型酸化チタン粉末について粉末X線回折(XRD)測定を行った結果を示す。
【図2】本発明の実施例及び比較例のB型酸化チタン粉末についてフィールドエミッション型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて表面形態の観察を行った結果である。(a)は5000倍、(b)は30000倍での観察結果をそれぞれ示す。
【図3】本発明の実施例のB型酸化チタン粉末について、EDS測定を行った結果を示す。
【図4】本発明の実施例及び比較例のB型酸化チタン粉末について、XPS測定を行った結果を示す。
【図5】本発明の実施例及び比較例のB型酸化チタン粉末を用いたリチウム二次電池の性能評価を行った二極式コイン型セルの模式図を示す。
【図6】本発明の実施例及び比較例のB型酸化チタン粉末を用いたリチウム二次電池の充放電曲線を示す。
【図7】本発明の実施例及び比較例のB型酸化チタン粉末を用いたリチウム二次電池の充放電レート特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る表面がフッ素化されたB型酸化チタンとその製造方法をより具体的に説明する。
<B型酸化チタン>
本発明のリチウムイオン電池用の負極材料に含まれるB型酸化チタンは、フッ素化処理の直前に製造されてもよく、予め製造され、保存されたB型酸化チタンを必要に応じてフッ素化処理してもよい。フッ素化処理に供されるB型酸化チタンは公知の製造方法によって作成することができ、製造方法は特に限定されるものではないが、例えば以下の方法で製造される。
【0017】
工程1:焼成工程
焼成工程では、公知の酸化チタン原料、例えば、ルチル型及び/又はアナターゼ型酸化チタンと、アルカリ金属(ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム)の炭酸塩、硝酸塩、水酸化物からなる群より選択されるアルカリ金属塩とを混合し、焼成することによって、チタン酸アルカリ(前駆体)を得る。アルカリ金属塩としては、ナトリウムの炭酸塩(NaCO)、カリウムの炭酸塩(KCO)又はセシウムの炭酸塩(CsCO)が特に好ましい。酸化チタン原料の粒径は特に限定されないが、30nm〜10μm程度のルチル型及び/又はアナターゼ型酸化チタンを使用できる。
酸化チタン原料とアルカリ金属塩との混合割合は、例えばアルカリ金属塩がMCOの場合(Mはアルカリ金属)、モル比で2〜6:1(より好ましくはナトリウム塩の場合3±0.2:1、カリウム塩の場合4±0.2:1、セシウム塩の場合5±0.2:1)である。このような割合で混合された混合試料を、850℃〜1100℃、好ましくは900〜1000℃で焼成することにより、チタン酸アルカリを得ることができる。焼成は空気中、又は窒素等の不活性ガス雰囲気中で行われ、焼成時間は30分〜100時間程度、好ましくは2時間から30時間程度とできる。
本工程においてアルカリ金属塩としてNaCOを使用した場合は、焼成後に得られる前駆体はNaTiとなり、アルカリ金属塩としてKCOを使用した場合は、焼成後に得られる前駆体はKTiとなり、アルカリ金属塩としてCsCOを使用した場合は、焼成後に得られる前駆体は、CsTi11となる。
【0018】
工程2:イオン交換工程
イオン交換工程では、工程1で得られたチタン酸アルカリ(前駆体)のアルカリ金属イオンを、水素イオンにイオン交換することによりチタン酸を調製する。
イオン交換は、前駆体粉末を0.01〜5mol/Lの塩酸(HCl)中で1〜300時間撹拌しながら浸漬することによって行うことができる。HClの代わりに、硫酸、硝酸、過塩素酸等を用いてもよい。イオン交換は室温で行っても良いが、30〜60℃程度の加熱条件下で行うこともでき、加熱条件下では浸漬時間を短縮することが可能である。イオン交換後は、得られたチタン酸粉末を、ろ過、洗浄した後、乾燥してから次工程で使用することが好ましい。
【0019】
工程3:脱水工程
脱水工程では、イオン交換工程で得られたチタン酸粉末を脱水することによりB型酸化チタン粉末を得る。
脱水は、チタン酸粉末を、350〜600℃程度にて10分間〜10時間熱処理を行うことによって行うことができる。より好ましい熱処理条件は、400〜550℃程度、30分〜2時間である。
【0020】
上記工程1〜3により得られたB型酸化チタン粉末は、基本的に針状結晶として得られるが、粉末の形状は特に制限されず、例えば、粒子状のB型酸化チタン粉末や、針状結晶と粒子の混合物、或いは、小粒径の一次粒子が集合して二次粒子を形成している不特定形状の粉末であってもよい。さらに、B型酸化チタンとしてチタンの一部がニオブ(Nb)、バナジウム(V)、クロム(Cr)等、また酸素の一部が窒素(N)、硫黄(S)等の他種金属に置換された、金属ドープB型酸化チタンを用いることもできる。
フッ素化処理の効果をより好適に得るためには、B型酸化チタン粉末のBET比表面積は1m/g〜20m/gであることが好ましい。比表面積が20m/gを超えると、電極活物質の嵩密度が低下し電極密度が減少することから実効容量が低下するという問題が生じ、1m/g未満であれば、リチウムイオンの活物質内部への十分な拡散および収納に時間がかかり急速充電、あるいはこの反対の反応として急速放電といった電極特性が低下するという問題がある。
【0021】
<フッ素化処理>
本発明のフッ素化処理では、B型酸化チタン粉末をフッ素含有ガスに暴露させてフッ素化処理を行う。フッ素含有ガスへの暴露は公知の方法によって行うことができ、例えば、環状炉内にB型酸化チタン粉末を載置し、炉内にフッ素含有ガスを循環させることで暴露を行ってもよく、また炉内にフッ素含有ガスを充填し密閉して行ってもよい。
【0022】
フッ素化処理は、通常0℃〜200℃、好ましくは20〜150℃にて行われる。0℃未満であれば十分なフッ素化が行われず、200℃を超えると、フッ素化により酸化チタン粉末がTiFという気体になり表面から徐々に気化して消耗されていくという問題がある。処理時間は1分〜10日の間であり、好ましくは1分〜数時間(例えば、1時間又は2時間)である。処理時間が1分未満だと十分なフッ素化が行われず、10日を超えると酸化チタンの結晶構造が変化するため活物質としての機能が損なわれる問題がある。
処理温度及び時間は、用いるB型酸化チタンの形状、処理量、フッ素含有ガスの流量等に従って定められ、必要に応じて予備的な実験を行い、好適な処理条件を定めることができる。一般的に、処理温度が高いと処理時間は短くて済む傾向にある。
【0023】
フッ素化処理に用いられるフッ素含有ガスとしては、フッ素(F)ガスのほか、三フッ化窒素(NF)、三フッ化メトキシ窒素(N(CF)、三フッ化塩素(ClF)ガス等を用いることができる。フッ素化処理においてこのようなガスは、単体で用いられてもよく、他種の不活性ガス(例えば窒素ガス、アルゴンガス)と混合し希釈されて使用されてもよい。フッ素化処理に用いられるガス中の、フッ素含有化合物の濃度は100%であることが好適であるが、窒素、アルゴンガス等で希釈した0.01容量%以上、好ましくは0.1容量%以上、より好ましくは1容量%以上のフッ素含有ガスも使用できる。フッ素含有化合物の濃度が0.01%未満であると、処理効率が低いためフッ素化が効率的に行われない。
【0024】
以下、本発明にかかる、表面がフッ素化されたB型酸化チタンの製造方法、および得られたフッ素化B型酸化チタンを用いてリチウム二次電池の負極を作製する場合につき、さらに実施例を交えて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
[実施例1]
フッ素化B型酸化チタン粉末の製造
出発原料として、平均粒径が100nmのTiO anatase(Aldrich社製、純度99%以上)とKCO(和光純薬社製、純度99.8%)を用いた。まず、TiOanataseとKCOをモル比で4:1となるように秤量し、遊星ボールミルを用いて400rpmにて1時間、試料が均一に混ざるよう混合を行った。続いて、試料をアルミナるつぼの中に入れ、空気中で1000℃にて24時間、2回焼成を行った。得られた試料をそれぞれ1MのHCl中にて常温で72時間イオン交換を行った。イオン交換後、洗浄、濾過して真空乾燥機にて80℃にて約24時間乾燥を行った。乾燥後、試料を500℃にて30分熱処理を行うことで脱水を行い、B型酸化チタンを合成した。その後、合成したB型酸化チタンをNi製トレイに移し、容量3Lの環状炉内に設置した。環状炉内を0.001atmに減圧した後、常温、処理圧力1atmでフッ素ガス100%を1時間曝露し、フッ素化B型酸化チタン粉末を得た。
【0026】
試験電極の製造
得られたフッ素化B型酸化チタン粉末と、導電助剤のカーボン(ライオン社製、ケッチェンブラック EC600JD)および結着剤のポリフッ化ビニリデン(PVdF)(呉羽化学社製、KFポリマー)を8:1:1の重量比で秤量・混合した。混合には遊星ボールミルを用い400rpmで40分間混合を行った。ドクターブレードを用いて銅版上に塗布をし、試験電極を得た。フッ素化B型酸化チタン粉末を含有する混合材料の塗布時の厚さは約50 μm、電極面積は約1.54 cmとした。
【0027】
[比較例1]
フッ素化処理を行わない以外は実施例1と同様にして、B型酸化チタン粉末を得た。また、かかるB型酸化チタンを使用して、実施例1と同様に試験電極を製造した。
【0028】
[実施例2]
粉末の結晶構造の分析
実施例1及び比較例1で得られたB型酸化チタン粉末について、粉末X線回折法(XRD)を用いてバルクの結晶構造を分析した。粉末X線回折装置として、 Rint2500(Rigaku社製)を用いた。X線源にはCu Kαを使用し、測定は管電圧 40kV、管電流200mA、測定範囲5゜≦2θ≦60゜、受光スリット0.3 mm、発散スリット1゜、散乱スリット1゜の条件で行った。
分析の結果、図1に示すとおり、実施例1及び比較例1に関してXRDピーク形状の変化及びピークのシフトは見られず、フッ素化処理によってB型酸化チタン粉末のバルク構造が変化していないことが確認された。
【0029】
[実施例3]
粉末の表面形態の観察
実施例1及び比較例1で得られたB型酸化チタン粉末について、フィールドエミッション型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて表面形態の観察を行った。電子顕微鏡として日本電子製のJSM7001FDを用いた。試料は電子伝導性が低いため、金スパッタを施した後、加速電圧15kVにて表面観察を行った。
観察の結果、図2(a)に示すとおり、5000倍観察では実施例1と比較例1とで顕著な表面形態の変化は見られなかった。また、図2(b)に示すとおり、30000倍観察では、実施例1は比較例1と比較して、わずかに表面が平滑化されていることが確認された。
また、実施例1及び比較例1で得られたB型酸化チタン粉末について、BET比表面積計を用いて比表面積測定を行った。測定装置として、島津製作所製の自動比表面積/細孔分布測定装置TriStar3000を用い、試料粉末を80℃で40分真空乾燥させた後、充填ガスとしてヘリウム、吸着ガスとして液体窒素を用いて評価した。
測定の結果、実施例1のBET比表面積は7.3(m/g)、比較例1のBET比表面積は8.6(m/g)であり、実施例1の比表面積はフッ素化処理のエッチングの効果により、比較例1に比べてわずかに減少していることが観察された。
【0030】
[実施例4]
粉末表面における元素構成の分析
実施例1で得られたB型酸化チタン粉末について、上記実施例3に記述の日本電子製の電子顕微鏡JSM7001FDを用いてエネルギー分散型X線分光分析(EDS)を行い、表面に存在するフッ素原子を調査した。また、実施例1及び比較例1で得られたB型酸化チタン粉末について、X線光電子分光分析(XPS)を行い、試料表面のフッ素原子の確認、更に試料表面層のチタンや酸素の化学的・電子的状態の変化を検討した。
分析の結果、図3に示すとおり、EDS測定ではフッ素原子を表すピークが検出され、実施例1のB型酸化チタン粉末の表面にはフッ素原子が存在することが確認された。また、図4に示すとおり、XPS測定においても、実施例1ではF 1sのピークが確認でき、更に、Ti 2pでは、比較例1と比較してピークが高エネルギー側にシフトしていることから、チタン原子はフッ素原子により電子吸引を受けており、導入されたフッ素原子はチタン原子と化学結合を形成して存在しているものと考えられる。O 1sにおいても、Ti 2pと同様に高エネルギー側へのシフトが見られ、またピーク強度が低下していることから、試料表面の一部の水酸基(-OH)がフッ素原子と入れ替わり、その量が減少したことが示唆される。
【0031】
[実施例5]
リチウム二次電池の性能評価
実施例1及び比較例1で得られたB型酸化チタン粉末の充放電特性を下記に示す二極式ハーフセル法により評価した。なお、以下に示す電位は対極であるリチウム金属箔を基準としたものである。
図5に示す二極式コイン型セルを用い、実施例1で製造したフッ素化B型酸化チタン試験電極と、リチウム金属対極(厚さ0.5mm、 直径15mm)でセパレーター(Celgard2325)を挟んで、コイン電池を作製した。セルの組み立ては循環装置付アルゴングローボックス内で行った。電解液にはエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DMC)とを1:2とした混合溶媒に、電解質として六フッ化リン酸リチウムを1M(mol/L)溶解したものを用いた。
比較例1で得られたB型酸化チタンの試験電極についても、同様にしてコイン電池を作製した。
充放電サイクル試験は、コイン電池を組み立ててから24時間後に定電流充電方式(CCモード)で充電を開始した。定電流充電の際の電流値は、B型酸化チタンの理論容量を335.6mAh/gとし、それぞれの作用極粉末の重量から計算される容量を基準にしてレートがC/6(6hで理論容量となる電流値)になるように設定した。
まず、充電電位が1.4Vに達するまで上記方法で求めた電流値で定電流充電を行なった。30分の休止時間を経て、放電をカットオフ電位3.0Vに達するまで行った。その後の充電−放電間の休止時間は全て30分とした。
充放電レート特性の評価については、初期3サイクルをC/6レートとし、その後3サイクル毎に、C/30、C/10、C/6、C/3、C、3C、6Cと変化させ、他の条件は上記と同様にして放電容量を測定し、行った。
【0032】
図6及び表1に、実施例1及び比較例1の充放電特性試験の結果を示す。実施例1、比較1のいずれにおいても1.6V付近で充放電が観察された。充電容量・放電容量ともに、実施例1は比較例1と比較して顕著な向上がみられ、理論容量の335mAh/gに近づいた。また、1回目から3回目までの充放電試験において充放電容量はほぼ一定した値であった。
【0033】
【表1】

【0034】
図7にレート特性試験の結果を示す。6C、3C、1C、C/3、C/6、C/10、C/30のいずれの電流密度においても、実施例1は比較例1より高い放電容量を示した。また、各電流密度でそれぞれ3回試験を行ったが、いずれの電流密度でもほぼ一定の放電容量を示した。
【0035】
以上の試験結果より、本発明の方法によってフッ素化処理を行ったB型酸化チタン粉末は、処理を行っていないB型酸化チタン粉末と比較して、放電容量を顕著に向上させることが可能となり、また、レート特性も顕著に向上し、B型酸化チタン負極材料の高容量化に資することが実証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面がフッ素化されたB型酸化チタンを含むことを特徴とする、リチウムイオン電池用の負極材料。
【請求項2】
B型酸化チタン粉末のBET比表面積が、1m/g〜20m/gであることを特徴とする、請求項1に記載の負極材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用の負極材料の製造方法であって、B型酸化チタン粉末を、0℃〜200℃にて、1分〜10日、フッ素含有ガス雰囲気下にて反応させ、フッ素化処理を行う工程を有する方法。
【請求項4】
フッ素化処理が、0.01atm〜2atmで行われることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
フッ素含有ガスが、フッ素(F)、三フッ化窒素(NF)、三フッ化メトキシ窒素(N(CF)、三フッ化塩素(ClF)ガス等からなる群から選択されるフッ素化合物を含有するガスであることを特徴とする、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
負極材料として、請求項3〜5のいずれか1項に記載の方法によって製造されたフッ素化B型酸化チタンを使用することを特徴とする、リチウムイオン電池。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−30420(P2013−30420A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167046(P2011−167046)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、文部科学省、地域イノベーションクラスタープログラム(グローバル型)における特許出願
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】