説明

表面プラズマガス処理

本発明は、平面状配置された光触媒の近傍で表面プラズマを生成するように構成されたガス処理ユニットに関する。光触媒は、薄膜(4)の形態で誘電性基板(3)上に積層されて、少なくとも1つのプラズマ供給電極(1、2)が光触媒薄膜の上方に形成される。このような構成によって、プラズマと光触媒との間の相互作用が増加する。上記ユニットは、汚染制御、臭気削減、もしくは細菌処理といった種類のガス処理に対して高い効率で使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、表面プラズマガス処理ユニット、少なくとも1つの該ユニットを備えた装置、および該処理ユニット製造方法に関する。
【0002】
汚染防止基準が実施され、特に欧州レベルではより厳しい制限がある。この基準は製造業者に対して課せられ、製造業者は基準を新しい生産ユニットの設計に組み込まなければならない。この基準は、生活水準が確実に向上しつつある中で、人々の環境問題への関心が高まっていることに対する応答でもある。しかしながら、現在用いられている、もしくは用いる予定がある汚染制御方法は、エネルギー消費が可能な限り少ないことが必須であり、処理対象である溶出物中における汚染物質の濃度が低いもしくは非常に低いときには、特に必須である。このような場合、汚染物質の濃度が低くなればなるほど、上記汚染制御方法は一層効率的でなければならない。
【0003】
すでに使用されている汚染制御方法は、プラズマを利用するかしないかに応じて2つのカテゴリーに分類することができる。
【0004】
汚染物質の熱分解、汚染物質の触媒反応、吸着、もしくは低温凝縮、またはバイオフィルタを利用する方法は、プラズマを使用しない。これらの方法は、主に汚染物質を酸化させるか、あるいは捕捉する手法を用いる。酸化法は、純粋に熱的(熱分解)であるのかおよび/または触媒の存在下で実施(触媒酸化)されるのかに関わらず、ガスを数百度まで加熱する必要があり、主に汚染物質濃度が高い場合に効果的である。しかし、酸化法のエネルギーコストは非常に高く、処理対象となる汚染物質が低い濃度で存在している場合にはコストがかかり過ぎる。濃度が非常に低い汚染物質を除去する必要があることもあり、汚染物質が環境にとって特に有毒もしくは有害な場合は特に除去する必要がある。捕捉(もしくは吸着)法は、一般に多額のメンテナンスコストを必要とする。また、この方法は、汚染物質を除去するのではなく、単に支持部上に固定することによって抽出するだけである。支持部は飽和すると交換しなければならず、この状態の支持部は、保持する多量の汚染物質のために取り扱いが難しい。したがって、支持部の再処理の問題、あるいはリサイクル不可能な場合には支持部の破壊もしくは埋め立て地での保存の問題が生じる。最後に、バイオフィルタは、揮発性有機化合物を消費することのできる微生物を保持している。問題となる汚染物質がこうして効果的に除去されるが、バイオフィルタはそれ自体が非常に嵩張り、また、微生物を生存させておくために複雑なメンテナンスが必要である。
【0005】
これらの方法と比較すると、プラズマを利用する方法はエネルギーコストとメンテナンスコストが低い。特に、大気圧におけるプラズマの使用は、様々な用途において適用可能である。特にいわゆる低温プラズマを使えば数種類の汚染物質種を安価に破壊することが可能である。ただし、低温プラズマは、例えば特に、窒素酸化物(NO)、一酸化炭素(CO)、もしくはその他の揮発性有機化合物など、有毒化合物の生成の原因になることが多い。
【0006】
これらの短所を解消するために、プラズマの使用を触媒の使用に組み合わせることが提案されている。こうすることによって、利用している化学反応をよりよく制御することが可能になり、したがって、それ自体が有毒もしくは汚染物質にならない分解生成物を選択することが可能になる。“充填層反応器”として知られている装置が最初に開発された。この装置は、触媒材料からなるビーズが充填された円筒状の反応器を備えている。ただし、装置は嵩張り、処理対象となるガス流が反応炉中で循環すると重大な圧力損失を発生させる。また、装置の構成上、特に大きなガス流をプロセスするために直列もしくは並列に配置するのには適していない。
【0007】
さらに、誘電バリア放電装置が開発された。この装置では、複数の放電電極の間に設けられた誘電性絶縁体によって電弧の発生が抑制される。こうすることによって、環状放電とは異なり、低温プラズマの一定供給を維持するために電極形状が非対称である必要はなくなる。ただし、電源が直流(DC)であれば電荷が急速に誘電体に蓄積して、電極間に生じる定常電界を破壊するので、電源は直流であってはいけない。したがって、このように誘電バリアの存在下で直流電圧によって電力供給されるプラズマは、ただちに消滅する。しかし、この誘電バリア放電装置の長所は数多くある。すなわち、
・誘電バリアはより安全性が高く、プラズマの分布がより均一である。
・冷却流体回路を必要に応じて誘電バリアに組み込むことができる。
・このタイプの反応炉は、特に産業分野での応用に適した容量の処理を達成するためには、容易に拡張可能である。
・大気圧での運転において適用可能である。
【0008】
これらの理由によって誘電バリア放電装置は広く使用されており、その使用範囲はオゾン生成、表面処理、エキシマランプにおける紫外線生成、およびCOレーザにおける赤外線生成などがある。これらの装置については、個々の使用の具体的特徴に応じて多数の形状が開発された。特に、OAUGDP(One Atmosphere Uniform Glow Discharge Plasma)として知られている表面構成は、ガスの流れを生み出すために開発された。初めは”沿面放電”として知られている構成がレーザへの応用のために開発されたが、電弧が出現せず、広範囲に拡がる安定したプラズマを生成するためにも使用されている。
【0009】
最後に、誘電バリア放電の使用と触媒(特に光触媒)の使用とを組み合わた数種類の装置も最近開発された。このタイプの装置の一例として特にトルエンの分解のために設計された装置を挙げると、この装置は、アナターゼ形態の酸化チタン(TiO)で被覆されたガラスビーズが充填された円筒を通過する電極ワイヤを備えている。
【0010】
米国特許出願公開第2005/0118079号明細書には、このタイプの別の装置が記載されている。この装置は、表面放電の生成用に構成されていて、電極は平面状の構造である。光触媒材料からなるビーズは複数の電極のうちの一つの上方に設けられ、この電極が処理対象となるガスに曝露される。ただし、電極および光触媒材料のこの構成では、表面放電によって生成されたプラズマが、光触媒材料に対して部分的にだけしか接触していない。この理由によって上記装置は、ガス流処理の効率が非常に低く抑えられてしまう。
【0011】
本発明の目的は、上述の従来のシステムの短所を有しない、ガス内に存在する汚染物質を取り除くためのガス処理装置などを提案することである。
【0012】
さらに具体的には本発明の目的は、製造費用が安価であり、運転中のエネルギー消費量が低く、処理効率が高く、大量の処理対象ガスに対して適用可能であるガス処理装置を提案することである。
【0013】
この目的を達成するために、本発明は、
・互いに平行な活性面および後面を有する誘電性支持部と、
・上記支持部の活性面によって担持されている第1の電極と、
・上記支持部の後面によって担持されており、第1の電極に対して上記支持部に平行な方向にオフセットされている第2の電極と、
・上記支持部の活性面の上方に配置された、光触媒(4)の少なくとも一部分と、を備え、上記光触媒が放射を受けるとガス処理を開始させることができるガス処理ユニットを提案する。
【0014】
第1の電極および第2の電極が電源の2つの端子に接続されると、第1の電極から第2の電極に向かって拡がるゾーンにおいて、上記ガス処理ユニットは上記支持部の活性面の上方で表面プラズマが形成されるように構成されている。したがって、上記プラズマは上記光触媒が受ける放射を生成する。
【0015】
本発明によれば、上記光触媒の部分は、上記支持部の活性面上に配置された薄膜であり、第1の電極は、上記薄膜における上記支持部と反対の面上に、少なくとも光触媒の薄膜の一部分に被さるように配置されている。
【0016】
本発明において、“薄膜”とは、材料の一部分がこの部分の他の寸法に比べてはるかに小さな厚さを有する、当該部分の構成を意味する。この部分は、物質がガスもしくは液体の形態、またはプラズマの形態ででも支持部の表面上へ運ばれる堆積プロセスを使って支持部上に生成される。特に、この薄膜は、個々に基板上へ運ばれる分子、原子、原子のクラスタ、液体膜、液滴などから形成可能である。本発明の処理ユニットにおける上記光触媒材料に対してこの薄膜堆積プロセスを使用することは、特に費用対効果が高く、上記ユニットを低い費用で製造可能にする。
【0017】
さらに、本発明の処理ユニットは、処理対象となるガスの流速に応じて選択された任意の寸法を有していてもよい。特に大きなユニットは、産業分野における使用に適しており、簡単に製造できる。該処理ユニットを構成する各種のパーツは、薄膜状の光触媒を含めて、容易に大きなサイズで製造可能である。
【0018】
本発明のユニットを使って実施されるガス処理では、大気圧における低温表面プラズマの使用と光触媒の使用とを組み合わせている。該表面プラズマは、触媒を活性化する安定した放射源を構成する。そして次に触媒は、運ばれてきてその触媒に接触する汚染物質の化学変化を開始させる。このように実施されるガス処理は、当該ガスの少なくとも部分的な汚染制御、特に処理開始時にこのガス中に存在する揮発性有機化合物に対する少なくとも部分的な汚染制御、当該ガスの臭気削減、細菌処理、もしくはこれらの処理のうちの少なくとも2つの処理の組み合わせであってもよい。さらに、上記処理ユニットは軽量小型であるから、特に換気システムもしくは空調システムに組み込むことによって、作業場、家庭、車両、飛行機、もしくは潜水艦に容易に設置可能である。最後に、上記処理ユニットは、開放された環境および閉鎖された環境の双方、もしくは閉塞的な環境においてガス処理を実施するように構成されている。
【0019】
本発明の上記処理ユニットは処理効率が特に高い。薄膜としての光触媒が、電極をも支持する基板により支持された構成の結果、該光触媒は放電プラズマと接触する広い領域を有する。同時に、光触媒は非常に高い表面積/堆積比を有する。このようにして、プラズマと光触媒との相互作用が大幅に進む。この相互作用が、第1の電極を光触媒層に被さるように配置することによってさらに促進される。これを達成するために、第1の電極におけるプラズマゾーン側の1つの縁が、光触媒の薄膜に被さるように配置されてもよい。こうすることによって、上記表面プラズマは、光触媒層の表面で電極の縁から直接生成される。
【0020】
さらに、本発明の処理ユニットは、上記光触媒の薄膜が第1の電極と支持部との間で連続している場合、特に簡単に製造できる。この場合、第1の電極は、光触媒の一部を前もって除去しないで、光触媒の薄膜上に形成される。
【0021】
このように使用された光触媒は、特に、揮発性有機化合物を効率的に分解をすることを可能にし、しかもそれら自体が有毒もしくは汚染性を有する廃棄物分子を生成しない、あるいは廃棄物分子を有害効果を持たないほど十分に小さな比率で生成する。
【0022】
本発明の特に記載する価値のあるもう一つの利点は、上記光触媒の薄膜が少なくとも部分的に第1の電極と基板との間に配置されているので、これにより表面放電プラズマの開始電圧が減少する点である。上記光触媒層は一般に支持部よりも高い誘電率を有し、その結果、プラズマの開始時に効果的な活性電界の強化に寄与する。プラズマの開始電圧が、開始後にこのプラズマを維持するために必要な電圧よりも一般に大きいので、この開始電圧の減少は、処理ユニットとともに使用される電源の大幅な簡素化を可能にする。この結果、本発明のユニットを組み込んだガス処理装置の全般的な設置費用および運転費用は削減される。さらに装置によって生成される電磁ノイズも削減される。
【0023】
本発明に対する複数の改良点を、個々にもしくは組み合わせて、各実施形態に導入してもよい。これらの改良点には以下の2つが含まれる。
・上記処理ユニットは、もう一つの表面プラズマを支持部の後面で形成するようにさらに構成され、光触媒の少なくとも1つの他の部分がこの後面上に配置され、当該光触媒の他の部分が上記もう一つのプラズマによって生成された放射を受けるとガス処理を開始させることができてもよい。
・第3の電極が、上記支持部の活性面によって担持され、第2の電極に対して上記支持部に平行な方向に第1の電極とは反対向きにオフセットされ、電圧が第2の電極と第3の電極との間に印加されると上記プラズマゾーンを増加させることができてもよい。
【0024】
さらに、本発明は、以下の部材を備えたガス処理装置を提案する。すなわち、
・前述の少なくとも1つの処理ユニットと、
・プラズマゾーンにおいてガスを光触媒の薄膜上に導くことのできるガス流誘導手段と、
・第1の電極および第2の電極に接続された電源とである。
【0025】
この装置は、処理対象となるガスを処理することを意図されており、特に軽量で設置が容易である。特に、ガスが大気圧において直接処理されるので、ポンプも気密性低圧パイプも不必要である。
【0026】
好ましくは、上記電源は、2つの反対の極性間で周期的に変化する信号を生成するように構成される。このようにして、上記処理ユニットのある部分上、特に誘電性支持部上および/または光触媒部上に出現する可能性が高い静電荷の蓄積が削減もしくは中性化される。こうすることによって上記処理ユニットの連続動作の実現が容易になる。
【0027】
必要であれば、処理対象となるガスの流速に対する各処理ユニットの相対的な寸法に応じて、装置中に複数のほぼ同一の処理ユニットを互いに平行に並べて配置し、2つの隣接するユニットは、当該2つのユニットが上記ガス流誘導手段の一部を形成するように調整された距離で離間されるようにしてもよい。
【0028】
最後に、本発明は、以下のステップを含むガス処理ユニットの製造方法を提案する。すなわち、
(1)2つの平行な面を有する支持膜を準備するステップと、
(2)光触媒の薄膜を堆積するためのツールを使用することによって、該光触媒の層を上記支持膜の少なくとも一方の面上に堆積するステップと、
(3)2つの導電部が上記膜に平行な方向にオフセットされ、2つの導電部のうち1つが少なくとも部分的に上記光触媒の薄膜に被さるように、少なくとも第1の導電部および第2の導電部をそれぞれ、上記支持膜の2つの面上に配置するステップとである。
【0029】
この方法を使用して、例えば前述のガス処理ユニットを製造してもよい。ステップ(3)で配置される複数の導電部は、上記第1の電極および第2の電極を形成する。
【0030】
特に低価格の処理ユニットを実現するために、上記支持膜は最初に複数の処理ユニット対応する長さを有していてもよい。つぎに、光触媒の薄膜を堆積させるための上記ツール内で支持膜が平行移動している間に、ステップ(2)が連続的に実施される。そして、上記支持膜は各処理ユニットに対応する寸法にそれぞれ切断される。特にこの方法によって、新しいガス処理ユニットに使用するための膜が部分的に生成されるたびに薄膜堆積ツールを再調整する必要がなくなるので、この連続的な方法は特に高い出力および製造レートを有する。
【0031】
本発明の他の特徴および優れた点は、添付図面を参照した、非限定的な実施形態の以下に記す記載によって明白になるであろう。
図1aと図1bはそれぞれ、本発明の第1の実施形態のガス処理ユニットの断面図および平面図である。
図2aと図2bは、図1aと図1bにそれぞれ対応し、本発明の第2の実施形態の場合を示している。
図3は、本発明の複数の処理ユニットが組み込まれたガス処理装置の概略的な斜視図である。
【0032】
明瞭に記載するために、これらの図に図示された部材は実寸もしくは実寸の比に比例しているわけではない。これらの寸法については下記の説明中で与える。さらに、異なる図面中の同一参照番号は、同一部材もしくは同一機能を有する部材を指し示している。
【0033】
図1aおよび図1bに示すように、全体を参照番号11として図示したガス処理ユニットは、誘電性材料からなる支持部3を備えている。この支持部3は好ましくは平面状であり、例えば正方形(例えば辺の長さが60cm×60cmの寸法)である。支持部3は厚さが低減されており、特に数百μm(マイクロメートル)から数mm(ミリメートル)であってもよい。必要に応じて、支持部3は積層構造を有していてもよい。支持部3は0.4mmから2.0mmの厚さを有する板状ガラスを備えている。あるいは、支持部3は、例えばポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、もしくはポリイミド系の有機材料からなる膜を備えていてもよい。この場合、ユニット11の動作中に上記有機膜が劣化することを防止するために、有機膜はパッシベーション処理されていることが好ましい。
【0034】
支持部3の2つの面には、S1およびS2と記号を付す。2面のうちの少なくとも一方が光触媒の薄膜で被覆されている。ここに記載の本発明の実施形態では、面S1およびS2それぞれが、酸化チタン(TiO)の薄膜層(4および5)で被覆されている。該薄膜層4および5には、例えば酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化クロム(Cr)、ジルコニア(ZrO)、酸化セリウム(CeO)などの他の光触媒材料を使用してもかまわない。これらの光触媒材料は、特に汚染物質の化合物の酸化による分解に適したレドックス効果を有する。薄膜層4および5はそれぞれ、10nm(ナノメートル)から100μmの厚さ、好ましくは50nmから200nmの厚さを有する。
【0035】
必要に応じて、上記支持部3は、それ自体が、2つの面S1およびS2の一方もしくはこれらの両面上に、基板および基層を担持して備えている。この基層(図示せず)は、少なくとも支持部3の活性面S1を形成し、薄膜層4を担持している。該基層は、薄膜層4の基板に対する接着性を向上させる、および/または光触媒材料からなる上記薄膜層4の、例えば粗さもしくは多孔率などのテクスチュアを改良し、ユニット11の処理効率を増加させる。
【0036】
上記薄膜層4および5ならびに必要に応じて設けられる基層は、例えば陰極スパッタリング堆積ユニットなどの適切な薄膜堆積ツールを使って、上記基板もしくは支持部3の上に堆積される。この堆積ツールおよびその動作は当業者にとって既知であり、ここでは詳細を記載しない。上記支持部3が折り曲げ可能な膜の形態である場合、光触媒4(および5)の薄膜堆積のためのツールは、支持膜3の供給用ロールから引き出された状態の支持膜3の下流に配置されてもよい。このような堆積ユニットは、通常”ロールコーティング装置”と呼ばれ、高い生成レートの実現を可能にする。
【0037】
2つの平行な導電部1および2は、上記面S1およびS2の上にそれぞれ形成されている。例えば導電部1および2は、導電性を有する酸化スズ(SnO)、銀(Ag)、もしくは任意の他の安定した導電性を有する材料で構成され、数nmから数十μmの厚さを有していてもよい。上記導電部1および2は支持部3のほぼ全幅lにわたって延在し、共通方向Lに沿った導電部1および2の寸法xは10cmでもよい。なお、共通方向Lとは、上記面S1およびS2に平行、かつ支持部3における幅lの方向に垂直な方向を指す。これらの導電部1および2の少なくとも一方は、導電性材料の薄膜を堆積させるツールを使って形成されてもよく、あるいは、スクリーン印刷によって形成されてもよい。
【0038】
上記導電部1および2は、互いに対してL方向にオフセットされており、各導電部1および2は、他方の導電部側に縁を有している。これらの縁は導電部1および2の内縁と呼ばれ、それぞれ参照番号B1およびB2で示す。該内縁B1およびB2は、面S1およびS2に平行な距離dで離間している。距離dは数mmから10cm(センチメートル)の距離であってもよい。
【0039】
これらの条件下で、上記導電部1および2をAC電源10(図1b)の2つの端子にそれぞれ接続すると、各面S1およびS2上で放電が起こる。この放電が、導電部1および2の各内縁B1およびB2から他方の導電部に向かって拡がる表面プラズマを生成する。図1bでは、参照番号P1およびP2がこれらの表面プラズマの三次元的な広がりを示している。そして導電部1および2は、各プラズマに対する供給電極となる。この理由によって、以後は導電部1および2を電極1および2と呼ぶ。低出力電圧を供給するように、上記電源10を構成してもよい。この低出力電圧は、一般的には3kV(キロボルト)であり、ある特定の形状の場合は1kV未満であってもよい。この電圧は、数Hzから数百kHzの周波数を有する正弦状もしくはパルス状であってもよい。
【0040】
各電極1および2は、光触媒材料4および5の対応する層に被さるように形成される。好ましくは、各導電部1および2の少なくとも内縁B1およびB2は、対応する薄膜層4および5に被さるように配置される。こうすることによって、投影すると電極1と電極2との間に存在する、薄膜層4および薄膜層5それぞれの一部分では、プラズマP1およびP2の内側にある薄膜層4および5の表面が被覆されない。この理由によって、上記薄膜層4および5の光触媒活性は最大限に使用される。
【0041】
好ましくは光触媒の薄膜4における、少なくとも支持部3と電極1との間に配置された一部分は、6.0よりも大きい比誘電率を有する。この比誘電率の値が支持部3の比誘電率の値よりも大きい結果、電極1および電極2が電力供給を受けたときに電極1と電極2との間に存在する見かけ上の電気的な厚さが減少する。最初に表面プラズマを発生させるために必要な最小電圧がこうして引き下げられる。本発明の実施形態では、2つの薄膜層4および5は同じであり、したがって、表面プラズマの開始電圧の引き下げに対して同様に寄与する。
【0042】
必要に応じて、図2aおよび図2bに示すように、第3の導電部6を面S1上に配置してもよい。この導電部6も、電極1および電極2と同じ電極であってもよく、また、電極2に対して方向Lに沿って電極1とは反対向きにオフセットされていてもよい。電極6は、数百Vの直流電圧電源20を使って、電極1および電極2に対する相対的な電気極性が与えられることを意図して設けられている。この構成によって、電極1および電極2とのの離間距離dだけの結果として生じる拡大範囲と比較して、面S1上に形成された表面プラズマの方向Lと平行な方向の拡大範囲を拡げることができるようになる。このように、プラズマの三次元的な広がりであるP1内に存在する光触媒材料の薄膜層4の面積が増加し、その結果、このプラズマによって生成される放射によって活性化される薄膜層4の面積が増加する。図1aおよび図1bに図示するようにわずか2つの電極しか有しないユニット11と対比して、得られた放電を沿面放電と呼ぶ。
【0043】
第4の電極7は、電極6が電極1および面S1に対して有する機能と同一の機能を電極2および面S2上に生成された表面プラズマに対して有する。
【0044】
図2aおよび図2bに対応するユニット11を、図1aおよび図1bに図示されたユニットと同様の、方向Lに並置されたユニット2つを組み合わせたものとして代用してもよい。この場合上記電極6は、電極1の機能と同一の機能を有し、電極1とともにAC電源10の第1の端子に接続される。同様に、上記電極7は、電極2の機能と同一の機能を有し、電極2とともに電源10の第2の端子に接続される。上記極性を有する電圧電源20は設置しない。
【0045】
周辺大気中に存在しする汚染物質の濃度を下げるために、上記ユニット11を使用してもよい。これらの汚染物質は特に揮発性有機化合物であってもよい。こうするために、複数のユニット11〜13を、ガス処理装置の枠100内で互いに平行に配置してもよい(図3)。この枠100は平行六面体形状を有していてもよく、例えば方向Lの互いに反対側に位置する2つの面EおよびSは開いている。これ以外の枠100の面101〜104はパネルを使って閉じられている。ガス流は面Eを通って装置に入り、面Sを通って装置から出る。2つの面EとSとの間でガス流は、ガス流の流れを補助し隙間eで離間されたユニット11〜13の間を流れる。なお、上記隙間eは、数mmから数cmである。必要に応じて、ガス流が装置内で一つの流れを形成して複数のユニットによって連続して処理されるように、ユニットを一列に並べて配置してもよい。
【0046】
各ユニット11〜13の電極1および電極6、ならびに電極2および電極7は、図1a(図3には図示せず)のAC電源10の2つの端子にそれぞれ接続されている。そして、全てのユニット11〜13の上記2つの面S1およびS2の大きな部分で、複数の表面プラズマが同時に生成される。
【0047】
この装置は、周囲の空気を処理し、大気圧で動作するように構成されている。必要に応じて、面EおよびSの一方のレベルで送風機(図示せず)を配置して、ユニット11〜13間を流れて枠100を通り抜けるガス流を発生させてもよい。各ユニット11〜13の構成の結果、処理しようとするガスと、生成される表面プラズマとの間でかなりの接触が得られる。特に、すでに上記で説明したように、光触媒材料層(下層)に被さっている各電極の内縁の構成が、表面プラズマと光触媒との相乗効果を促進する。ユニット11〜13の各面上において、上記プラズマは、上記電極の長さ全体にわたって拡大する。こうすることによって、装置は高い汚染制御効率を有する。さらに、上記電源10が供給する電力によって決まる、装置のエネルギー消費量は低い。
【0048】
最後に、上記薄膜層4および5に光触媒材料を使用することで、化学的方法を選択的に促進することによって、望ましくない分解生成物の形成量の削減が可能になる。特に、酸化チタンを使用することで、処理開始時に存在する様々な汚染有機化合物について、被処理ガス中の二酸化炭素(CO)の比率を増加させることが可能になる。汚染物質の分解は、その汚染物質の完全酸化に対応する。
【0049】
上で詳細した実施形態は、本発明の長所を少なくとも一部は保持しつつ、特に考察中の応用に応じて種々の変更が可能である。これらの構成には、以下のようなものが含まれる。
・電極1および電極2は非常に薄くてもよく、幅xは1mmのオーダであってもよい。さらに、互いに対して数mmの距離dによってオフセットされていてもよい。そして、各支持部3は、ガス流の流れにそって連続して配置された電極1および2の組を多数備えていてもよい。
・適切な触媒を使用することによって、汚染物質濃度を支持部の表面で局所的に増加させることが可能になる。ガスがさらに効率的に処理でき、特に汚染物質が非常に低い濃度で存在しているときには一層効率的に処理できる。
・ガスの処理は、ガスが連続的なストリームの形態で供給されるのか、あるいはガスが一定量ずつある任意の期間、処理装置中に滞在して連続的に処理されるのかに応じて、連続的もしくは順に実施してもかまわない。
・上記ガス処理装置は、ガスが表面プラズマによって処理されている間に生成される可能性のあるオゾン分子を分解するためのセクションをさらに備えていてもよい。このようなセクションは、例えば酸化マンガン(MnO)もしくはアルミナ(γ−Al)などの多孔質の物質を組み込んでもよい。
・処理対象となるガスの流れは、各ユニットの支持部3に平行である限り、電極1および電極2のオフセット方向Lに関してはどのような向きに配置してもかまわない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1aおよび図1bは、本発明の第1の実施形態のガス処理ユニットのそれぞれ断面図および平面図である。
【図2】図2aおよび図2bは、図1aと図1bにそれぞれ対応し、本発明の第2の実施形態の場合を示している。
【図3】図3は、本発明の複数の処理ユニットが組み込まれたガス処理装置の概略的な斜視図である。
【図1a】

【図1b】

【図2a】

【図2b】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性面(S1)、および該活性面に平行な後面(S2)を有する誘電性支持部(3)と、
上記支持部の活性面によって担持されている第1の電極(1)と、
上記支持部の後面によって担持されており、上記第1の電極に対して上記支持部に平行な方向(L)にオフセットされている第2の電極(2)と、
上記支持部の上記活性面の上方に配置された、光触媒(4)の少なくとも一部分と、を備え、上記光触媒が放射を受けるとガスの処理を開始させることができるガス処理ユニット(11)であって、
上記ガス処理ユニットは、上記第1の電極および上記第2の電極が電源(10)の2つの端子に接続されると、上記第1の電極(1)から上記第2の電極(2)に向かって拡がるゾーン(P1)において、上記支持部の上記活性面(S1)の上方で表面プラズマが形成されるように構成されており、上記プラズマは上記光触媒が受ける放射を生成しており、
上記ガス処理ユニットは、
上記光触媒の部分(4)が、上記支持部の活性面(S1)上に配置された薄膜であること、ならびに
第1の電極(1)が、上記薄膜における上記支持部と反対の面上に、少なくとも上記光触媒の薄膜(4)の一部分に被さるように配置されていることを特徴とするガス処理ユニット。
【請求項2】
請求項1に記載のユニットであって、第1の電極(1)における上記プラズマゾーン(P1)側の1つの縁(B1)が、上記光触媒の薄膜(4)に被さるように配置されているユニット。
【請求項3】
請求項1または2に記載のユニットであって、上記光触媒の薄膜(4)が上記第1の電極(1)と上記支持部(3)との間で連続しているユニット。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のユニットであって、上記光触媒の薄膜(4)が10nmと100μmとの間、好ましくは50nmと200nmとの間の厚さを有するユニット。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のユニットであって、上記ガスの処理が、当該ガスの少なくとも部分的な汚染制御、当該ガスの臭気削減、細菌処理、およびこれらの処理のうちの少なくとも2つの処理の組み合わせから選択されるように構成されているユニット。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のユニットであって、もう一つの表面プラズマ(P2)を上記支持部の後面(S2)でさらに形成するように構成されており、光触媒(5)の少なくとも1つの他の部分が上記支持部の後面上に配置されており、上記光触媒の上記他の部分が上記もう一つのプラズマによって生成された放射を受けるとガスの処理を開始させることができるユニット。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のユニットであって、上記支持部の活性面(S1)によって担持されており、上記第2の電極(2)に対して上記支持部に平行な方向(L)に上記第1の電極(1)とは反対向きにオフセットされている第3の電極(6)をさらに備え、電圧が上記第2の電極と第3の電極との間に印加されると上記プラズマゾーンを増加させるように構成されているユニット。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のユニットであって、上記支持部(3)が積層構造を有するユニット。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のユニットであって、上記支持部(3)自体が基板、および該基板によって担持されている基層を備えており、上記基層が上記支持部(S1)の活性面を形成し、上記光触媒の薄膜(4)を担持しているユニット。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のユニットであって、上記支持部(3)が、0.4と2.0mmとの間の厚さを有する板状ガラス、もしくは有機材料からなる膜を備えているユニット。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のユニットであって、上記光触媒(4)がレドックス効果を有する材料であるユニット。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のユニットであって、上記支持部(3)と上記第1の電極(1)との間に配置された上記光触媒の薄膜(4)の部分が、6.0を超える比誘電率を有するユニット。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の、少なくとも1つの処理ユニット(11〜13)と、
上記プラズマゾーン(P1)において上記ガスを上記光触媒の薄膜(4)上に導くように構成されているガス流誘導手段と、
上記第1の電極および上記第2の電極に接続された電源(10)と、を備えたガス処理装置。
【請求項14】
請求項13に記載の装置であって、互いに平行に並んで配置された複数の処理ユニット(11〜13)を備え、当該装置における隣接する2つのユニットは、当該2つのユニットが上記ガス流誘導手段の一部分を形成するように調整された距離(e)で離間している装置。
【請求項15】
(1)2つの平行な面(S1、S2)を有する支持膜(3)を準備するステップと、
(2)光触媒(4)の薄膜を堆積するためのツールを使用することによって、該光触媒の層を上記支持膜(S1)の少なくとも一方の面上に堆積するステップと、
(3)2つの導電部が上記膜に平行な方向(L)にオフセットされ、2つの導電部のうち1つが少なくとも部分的に上記光触媒の薄膜(2)に被さるように、少なくとも第1の導電部(1)および第2の導電部(2)をそれぞれ、上記支持膜における2つの面(S1、S2)上に配置するステップと、を含む、ガス処理ユニット(11)の製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、請求項1〜12のいずれか1項に記載のガス処理ユニット(11)を製造するために使用する方法。
【請求項17】
請求項15または16に記載の方法であって、
上記支持膜(3)が複数の処理ユニットに対応する長さを有し、
上記光触媒の薄膜を堆積させるための上記ツール内で上記支持膜(3)を平行移動させることによってステップ(2)を連続的に実施し、
つぎに、上記支持膜を各処理ユニットに対応する寸法にそれぞれ切断する、方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法であって、上記支持膜(3)が折り曲げ可能であり、ステップ(2)において使用される上記光触媒の薄膜を堆積させるための上記ツールを、上記支持膜の供給用ロールから引き出された状態の支持膜の下流に配置する方法。
【請求項19】
請求項15〜18のいずれか1項に記載の方法であって、導電性材料の薄膜を堆積させるためのツールを使用すること、もしくはスクリーン印刷によって、上記導電部(1、2)の少なくとも1つを形成する方法。


【図3】
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【公表番号】特表2010−532253(P2010−532253A)
【公表日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514058(P2010−514058)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【国際出願番号】PCT/FR2008/051137
【国際公開番号】WO2009/007588
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(510005775)エコール ポリテクニック (2)
【氏名又は名称原語表記】ECOLE POLYTECHNIQUE
【住所又は居所原語表記】F−91128 Palaiseau Cedex,France
【出願人】(508374243)サントゥル ナシオナル ドゥ ルシェルシュ シアンティフィック(セエヌエルエス) (4)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE RECHERCHE SCIENTIFIQUE(CNRS)
【住所又は居所原語表記】3,Rue Michel Ange,75794 PARIS Cedex 16,France
【Fターム(参考)】