説明

表面不動態化したリチウム金属及びその製造方法

本発明は、少なくとも2の難溶性リチウム含有成分を含有するか又は前記成分からなる複合材カバー層を有する表面不動態化したリチウム金属に関する。本発明はさらに、リチウム金属を180℃未満で、すなわち、固形の状態で、一般式Li[P(C243-x/2x](x=0、2又は4)の不動態化剤と不活性非プロトン性溶媒中で反応させる、表面不動態化したリチウム金属の製造に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
有機溶媒中のリン含有不動態化剤を用いた固形リチウム金属の表面不動態化方法が記載される。
【0002】
リチウムはアルカリ金属に属する。より重い元素同族体と同様に、リチウムは、数々の物質に対する強力な反応能力により特徴付けられている。そうして、しばしば燃焼しながら水、アルコール及びプロトン性水素を含有する他の物質と、リチウムは激しく反応する。空気に対しては不安定であり、酸素、窒素及び二酸化炭素と反応する。したがって、通常は、不活性ガス(希ガス、例えばアルゴン)下で取り扱われ、パラフィンオイルからの保護層下で貯蔵される。
【0003】
さらに、リチウムは、多くの官能化した溶媒と、これがプロトン性酸素を含有しない場合にすら反応する。例えば、環式エーテル、例えばTHFは環開裂下で開環され、エステル及びカルボニル化合物は一般にリチオ化及び還元される。しばしば、前述の化学薬品又は環境物質の間の反応は水により触媒作用される。そうして、リチウム金属は乾燥した空気中で比較的長期間貯蔵され、かつ加工されることができ、というのも、これは、進行する腐食を妨げる、ある程度安定な不動態化層を形成するからである。類似のことは、官能化した溶媒、例えばN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に該当し、これは水不含の形で、例えば水含有量>100ppmを有するリチウムに対して、反応性が本質的に低い。
【0004】
リチウム金属の貯蔵能及び加工の際の安全性を高めるべく、一連の腐食低下コーティング方法が開発された。そして、例えばUS5,567,474及びUS5,776,369からは、溶解した、微細分割したリチウム金属を、CO2を用いて処理することが知られている。このコーティングのためには、典型的には液状リチウムが不活性炭化水素中で少なくとも1分間少なくとも0.3%のCO2と接触させられる。しかし、これによりもたらされる保護は、多くの適用、特にNMP懸濁物中でのバッテリー電極材料の予備リチオ化には、十分でない。
【0005】
リチウム金属を安定化させる更なる方法は、その融点を超えて加熱し、この溶融したリチウムを撹拌し、そして、フッ化剤、例えばペルフルオロペンチルアミンと接触させることにある(WO2007/005983A2)。欠点は、フッ化剤がしばしば毒性であるか又は刺激性であり、したがって、工業的実施では好まずして使用されることである。
【0006】
リチウム金属の保護性表面処理の更なる方法は、ワックス層、例えばポリエチレンワックスでリチウム金属をコーティングすることにある(WO2008/045557A1)。欠点は、極めて微細分割したリチウム金属粉末では比較的多くのコーティング剤を適用すべきことである。前述の特許出願の実施例では、約1%である。
【0007】
US2008/0283155A1は、以下の工程により特徴付けられているリチウム金属の安定化方法を記載する:a)溶解したリチウム金属を製造するために、融点を超えてリチウム金属粉末を加熱する工程、b)溶解したリチウム金属を分散する工程、及びc)実質的に連続的なリン酸リチウム保護層をリチウム金属粉末上に作成するために、溶解したリチウム金属とリン含有物質とを接触させる工程。この方法の欠点は、リチウム粉末をまず溶解させなくてはならないこと、及び、リチウム融点を超えた温度での被覆である。一方では、比較的高温で相応するエネルギー出費が要求され、他方では、溶融したリチウムは種々の原料、例えばガラス、シーラント及び多くの金属性原料、例えば炭素含有鋼に対して極めて腐食性である。したがって、その取り扱い性は、まさに工業的規模では不所望な安全性リスクを提示する。さらに、酸性エッチング性物質(リン酸)を用いたハンドリングは一般的にかつ特にリチウム金属の存在下では不利であり、というのも、この両物質は接触の際に著しい熱を放出しながら極めて激しく相互に反応するからである。さらに、リチウム金属とリン酸の反応の際には爆発の危険性のある水素ガスが発生する。
【0008】
最後に、US2009/0061321には、実質的に連続的なポリマー被覆を有する安定化したリチウム金属粉末を製造することが提案される。このポリマーは、ポリウレタン、PTFE、PVC、ポリスチレン等の群から選択されていてよい。この方法の欠点は、保護性リチウム金属が、その使用の際、例えば電極材料のプレリチオ化に障害となることがある、定義されていない、有機物質の表面被覆を獲得することである。
【0009】
・ガス状又は酸性エッチング性又は毒性の不動態化剤を使用しないで成功する、
・水素ガスの形成を引き起こさない、
・リチウム融点未満の温度で適用可能である、
・定義されない有機物(Organika)を形成しない、特に有機ポリマーを形成しない、及び
・リチウム表面で不動態性保護層の形成を引き起こす、
不動態性カバー層を用いたリチウム金属の被覆方法が探索されている。
【0010】
本発明の課題は、メインクレームに挙げた特徴により解決される。更なる好ましい実施態様は下位クレーム中に説明してある。
【0011】
表面不動態化したリチウム金属は、少なくとも2の難溶性リチウム含有成分を含有するか又は前記成分からなる複合材カバー層を有する。
【0012】
好ましくは、前記難溶性成分からの複合材カバー層は、炭酸リチウム、フッ化リチウム及びメタリン酸リチウムを含有するか又はこれらからなる。
【0013】
特に好ましくは、前記難溶性成分からの複合材カバー層は、炭酸リチウム及びメタリン酸リチウムを含有するか又はこれらからなる。
【0014】
リン含有量は、表面不動態化したリチウム金属の0.01〜2質量%、好ましくは0.03〜1質量%である。
【0015】
本発明により、表面不動態化したリチウム金属の製造は、リチウム金属を180℃未満で、すなわち、固形の状態で、一般式
【化1】

の不動態化剤と、不活性非プロトン性溶媒中で反応させることで行われる。
【0016】
好ましくは、不動態化剤としてリチウムトリス(オキサラト)ホスファートが使用される。リチウム金属は100〜175℃の温度範囲で不動態化剤を用いて処理される。
【0017】
不活性非プロトン性溶媒として、炭化水素、エーテル又は前述の溶媒群の混合物が使用される。
【0018】
好ましくは、溶媒として芳香族炭化水素、好ましくはトルエン、キシレン、クメン又はテトラリンが使用される。
【0019】
特に好ましくは不動態化剤は溶解した形で使用される。
【0020】
不動態化剤のための溶媒として、エーテル、好ましくはTHF、THP;エステル、好ましくはエチルアセタート、ブチルブチラート;ラクトン、好ましくはγ−ブチロラクトン(GBL)又は炭酸エステル、好ましくはエチレンカーボナート、プロピレンカーボナート、ジメチルカーボナート又は前述の溶媒からの混合物が使用される。リチウム金属は、粒径<0.5mmを有する粉末、粒径範囲0.5mm〜10mmを有する顆粒、又は厚さ最大1mmまでを有するシートとして使用される。
【0021】
好ましくは、前記粉末は平均粒径(D50)<200μm、好ましくは<100μm、特に好ましくは<50μmを有する。
【0022】
不動態化剤とリチウム金属との間の接触時間は少なくとも5分間、好ましくは少なくとも10分間である。
【0023】
不動態化剤は、モル比0.2〜20:1000、好ましくは0.5〜10:1000(リチウム金属粉末に対して)、かつ0.02〜1:1000、好ましくは0.05〜0.5:1000(顆粒又はシートに対して)で使用される。
【0024】
不動態化剤として一般式
【化2】

のリン含有物質が使用される。好ましくはx=0であり、すなわち、不動態化剤はフッ素不含であり、その際、不動態化剤として特に好ましくはリチウムトリス(オキサラト)ホスファート(「LiTOP」)である。
【0025】
LiTOPは、約140℃超の温度で、以下反応式に応じて分解する:
【数1】

【0026】
発生するガス状分解生成物は、炭酸リチウム含有表面フィルムを形成しながら、リチウム金属と反応する。意外なことに、一緒に発生するメタリン酸リチウムが同様に表面フィルムへと組み込まれることが見出され、その結果、カーボナート−/メタホスファート−混合相の発生を予期することができる。リン含有不動態化剤が非不活性極性非プロトン性溶媒(例えば炭酸エステル)中の溶液として使用される場合には、保護フィルムは更にこの溶媒からの崩壊生成物を含有できる。本発明は以下の利点を有する:
−一方法工程において、複合材−不動態化層が発生し、その一方で、先行技術によれば複合材カバー層は多工程方法によってのみ、例えばまずCO2ガスと反応させ、次にリン酸と反応させることで、製造されることができる、
−ガス状不動態化剤の取り扱いは回避される、
−この不動態化活性原料は、均質相中のリン(P)含有不動態化剤の分解により発生し、すなわち、全てのリチウム粒子は均一に不動態化剤と接触させられ、被覆される、
−酸性物質の取り扱いなし、
−種々の、リチウム金属に対して反応性の溶媒の使用によって、表面フィルムが有機物含分及びその組成に関して変動し、かつ異なる要求に適合される、
−Li融点未満で作業されるので、使用されるリチウム金属の形は維持されたままである、
−不動態化方法は比較的低温で操作される。
【0027】
本発明の表面不動態化したリチウム金属は、電気化学的活性材料、好ましくはリチウムバッテリーのグラファイトアノード、合金アノード又はコンバージョンアノードの化学的リチオ化に適している。
【0028】
以下、本発明を3つの実施例、1つの比較例及び3つの図面に基づいて詳説するが、これによって、請求される態様の範囲が制限されることはない。
【0029】
図には、以下のことが示される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、40℃の貯蔵での、実施例1からのLiTOPコーティングしたLi粉末の熱的挙動を示す図である。
【図2a】図2aは、40℃の貯蔵での、比較例4からのコーティングしてないLi粉末の熱的挙動(ズーム、2h)を示す図である。
【図2b】図2bは、40℃の貯蔵での、比較例4からのコーティングしてないLi粉末の熱的挙動(18h示す)を示す図である。
【0031】
実施例1
LiTOPコーティングしたリチウム金属粉末の製造
還流冷却器を備える、不活性化した(すなわち、加熱及びアルゴン充填した)100mlのシュレンクガラスフラスコ中に、クメン17.2g中のリチウム分散液(<50μm)5.06gを装入し、油浴を用いて、電磁的撹拌下で還流(約152℃)まで加熱する。次に、ポリプロピレンカーボナート中の30質量%LiTOP溶液1.47gを、セプタムを通じて10分間のうちにシリンジ添加する(シリンジ計量供給ポンプ)。添加の間に、わずかな泡及びガス発生が観察される。添加終了後に、なお更なる10分間還流下で沸騰させ、次に室温(RT)で冷却する。この懸濁液を反転フリットを介して濾過し、2×20mlのクメン及び3×20mlのヘキサンで洗浄し、次に室温で20分間真空乾燥させる。
収率:4.85g
P含有量:0.70質量%
金属含有量:98.5質量%(ガス体積により算出)。
【0032】
実施例2
NMP中のLiTOPコーティングしたリチウム金属粉末の安定性
実施例1からのコーティングしたリチウム粉末99mgをアルゴン充填したグローブボックス中で5mlの鋼オートクレーブ中に秤量し、1−メチル−2−ピロリドン(カールフィッシャーによる水含有量190ppm)2.27gと混合する。この容器を、圧力センサーと連結している蓋で閉鎖し、特殊なDSC装置(Systag社(スイス国)のRadex)中で40℃に加熱した。図1から認識できるとおり、この混合物は優に2時間の期間にわたり安定である。この後になって初めて、発熱反応の開始を認識できる。この場合に、圧力は2.2barから約2.8barにわずかに増加する。温度40℃での更なる貯蔵時間の間、更なる熱による結果はもはや観察されない。
【0033】
RTへ冷却後に、この鋼容器を開放し、この金属残存含有量を水を用いた加水分解で決定した。これは78質量%であった。
【0034】
実施例3
発火特性の検査
実施例1のように製造した、コーティングしたリチウム金属粉末を、正式UN試験 N.2、固形物質の発火特性試験に供する。個々の実験のいずれにも粉末の燃焼は観察されなかった。したがって、この生成物は非発火性として分類できる。
【0035】
比較例1
NMP中のコーティングしてないリチウム金属粉末の安定性
処理してないリチウム粉末(<50μm)102mgをNMP(水含有量190ppm)2.2gと混合して鋼オートクレーブ中で充填し、実施例2に記載のように熱安定性試験に供する。
【0036】
40℃に到達後数分で既に0barから38barへと爆発性の圧力増加が観察され、強力な発熱を伴った(図2a及び2b参照)。
【0037】
RTへ冷却後に、この鋼容器を開放し、この金属残存含有量を水を用いた加水分解で決定した。これは49質量%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2の難溶性リチウム含有成分を含有するか又は前記成分からなる複合材カバー層を有することを特徴とする表面不動態化したリチウム金属。
【請求項2】
前記難溶性成分が、炭酸リチウム、フッ化リチウム及びメタリン酸リチウムを含有するか又はこれらからなることを特徴とする請求項1記載の表面不動態化したリチウム金属。
【請求項3】
前記難溶性成分が、炭酸リチウム及びメタリン酸リチウムを含有するか又はこれらからなることを特徴とする請求項1記載の表面不動態化したリチウム金属。
【請求項4】
リン含有量が、0.01〜2質量%、好ましくは0.03〜1質量%であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の表面不動態化したリチウム金属。
【請求項5】
リチウム金属を180℃未満で、すなわち固形の状態で、一般式
【化1】

の不動態化剤と、不活性非プロトン性溶媒中で反応させることを特徴とする表面不動態化したリチウム金属の製造方法。
【請求項6】
不動態化剤として、リチウムトリス(オキサラト)ホスファートを使用することを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
リチウム金属を100〜175℃の温度範囲で不動態化剤を用いて処理することを特徴とする請求項5又は6記載の方法。
【請求項8】
不活性非プロトン性溶媒として炭化水素、エーテル又は前述の溶媒群の混合物を使用することを特徴とする請求項5から7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
溶媒として芳香族炭化水素、好ましくはトルエン、キシレン、クメン又はテトラリンを使用することを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
不動態化剤を溶解した形で使用することを特徴とする請求項5から9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
不動態化剤のための溶媒として、エーテル、好ましくはTHF、THP;エステル、好ましくはエチルアセタート、ブチルブチラート;ラクトン、好ましくはγ−ブチロラクトン又は炭酸エステル、好ましくはエチレンカーボナート、プロピレンカーボナート、ジメチルカーボナート又は前述の溶媒からの混合物を使用することを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
リチウム金属を、粒径<0.5mmを有する粉末、粒径範囲0.5mm〜10mmを有する顆粒、又は厚さ1mmまでを有するシートとして使用することを特徴とする請求項5から11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記粉末が好ましくは平均粒径(D50)<200μm、好ましくは<100μm、特に好ましくは1μm〜50μmを有することを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項14】
不動態化剤とリチウム金属との接触時間が少なくとも5分間、好ましくは少なくとも10分間であることを特徴とする請求項5から13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
不動態化剤を、モル比0.2〜20:1000、好ましくは0.5〜10:1000(リチウム金属粉末に対して)、かつ0.02〜1:1000、好ましくは0.05〜0.5:1000(顆粒又はシートに対して)で使用することを特徴とする請求項5から14のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【公表番号】特表2013−514459(P2013−514459A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543753(P2012−543753)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069901
【国際公開番号】WO2011/073324
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(500399116)ヒェメタル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (32)
【氏名又は名称原語表記】Chemetall GmbH
【住所又は居所原語表記】Trakehner Str. 3, D−60487 Frankfurt am Main,Germany
【Fターム(参考)】