説明

表面保護フィルムの製造方法

【課題】フィルムの片面に微粘着性を有し、フィルムをロール状に巻き取ったり、又は積み重ねたりする際にブロッキングし難く、およびフィルムのフィッシュアイを低減することができる表面保護フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】結晶性または半結晶性である熱可塑性樹脂をTダイから溶融押出しすることによって、熱可塑性樹脂溶融膜を得る工程(工程1)、該熱可塑性樹脂溶融膜を、特定の金属製冷却ロールと、特定の弾性ロールとで挟圧する際に、挟圧される部分の該熱可塑性樹脂溶融膜の幅を、該金属製冷却ロールの面長より小さく、該弾性ロールの面長より大きくなるように調整して挟圧することによって、フィルムを得る工程(工程2)、および該フィルムを巻き取る工程(工程3)を有する、フィルム厚みが30μm未満である表面保護フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィルムの片面に微粘着性を有し、フィルムをロール状に巻き取ったり、又は積み重ねたりする際にブロッキングし難く、およびフィルムのフィッシュアイを低減することができる表面保護フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂フィルム、樹脂板、金属板(以下、「被着物」と記載することがある。)の表面に貼り合わされる表面保護フィルムの製造方法としてはいくつかの方法が知られているが、その中でもTダイフィルム加工機を用いる方法の場合には、ダイから押し出された溶融樹脂膜を冷却ロールに密着させるための補助装置として、特許文献1および2にはエアナイフを、また特許文献3にはエアチャンバーを用いる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−229080号公報
【特許文献2】特開平5−229082号公報
【特許文献3】特開平6−143406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載されているような、エアナイフやエアチャンバーを補助密着装置として用いる方法で得られた表面保護フィルムは、フィッシュアイが存在する部分で、フィルム表面が突起状に盛り上がり、この表面保護フィルムを例えば光学フィルムなどの被着物に貼り合わせた場合、この突起状部が被着物に押し傷をつけることがある。特に表面保護フィルムの厚さが薄くなると、表面保護フィルムの両表面ともに大きく盛り上がることもあり、被着物により大きな押し傷をつけるという問題があった。
かかる状況の下、本発明の課題は、フィルム厚さが30μm未満の薄い表面保護フィルムにおいても、フィルムの片面に微粘着性を有し、フィルムをロール状に巻き取ったり、又は積み重ねたりする際にブロッキングし難く、およびフィルムのフィッシュアイを低減することができる表面保護フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意検討の結果、本発明が上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、1種以上の、結晶性または半結晶性である熱可塑性樹脂をTダイから溶融押出しすることによって、1層以上の熱可塑性樹脂溶融膜を得る工程(工程1)、該熱可塑性樹脂溶融膜を、下記要件(1)および下記要件(2)を満足する金属製冷却ロールと、下記要件(3)および下記要件(4)を満足する弾性ロールとで挟圧する際に、挟圧される部分の該熱可塑性樹脂溶融膜の幅を、該金属製冷却ロールの面長より小さく、該弾性ロールの面長より大きくなるように調整して挟圧することによって、1層以上のフィルムを得る工程(工程2)、および該フィルムを巻き取る工程(工程3)を有する、フィルム厚みが30μm未満である表面保護フィルムの製造方法に係るものである。
要件(1):金属製冷却ロールの表面の表面粗さが、最大高さ(Rmax)で2.0μm以上である
要件(2):金属製冷却ロールの内部温調温度が、15℃以上かつ該熱可塑性樹脂の結晶化温度−40℃以下である
要件(3):弾性ロールの表面が金属製であり、かつ鏡面である
要件(4):弾性ロールの面長が金属製冷却ロールの面長より小さい
【発明の効果】
【0006】
本発明により、フィルムの厚さが30μm未満の薄い場合でも、片面に微粘着性を有し、ロール状に巻き取ったり、又は積み重ねたりする際にブロッキングし難く、フィッシュアイ部の突起高さがほとんどない表面保護フィルムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に関わる装置の一部を示す概略図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0009】
本発明の表面保護フィルムの製造方法は、1種以上の、結晶性または半結晶性である熱可塑性樹脂をTダイから溶融押出しすることによって、1層以上の熱可塑性樹脂溶融膜を得る工程(以下、「工程1」と記載することがある。)、該熱可塑性樹脂溶融膜を、下記要件(1)および下記要件(2)を満足する金属製冷却ロールと、下記要件(3)および下記要件(4)を満足する弾性ロールとで挟圧する際に、挟圧される部分の該熱可塑性樹脂溶融膜の幅を、該金属製冷却ロールの面長より小さく、該弾性ロールの面長より大きくなるように調整して挟圧することによって、1層以上のフィルムを得る工程(以下、「工程2」と記載することがある。)、および該フィルムを巻き取る工程(以下、「工程3」と記載することがある。)を有する。
要件(1):金属製冷却ロールの表面の表面粗さが、最大高さ(Rmax)で2.0μm以上である
要件(2):金属製冷却ロールの内部温調温度が、15℃以上かつ該熱可塑性樹脂の結晶化温度−40℃以下である
要件(3):弾性ロールの表面が金属製であり、かつ鏡面である
要件(4):弾性ロールの面長が金属製冷却ロールの面長より小さい
【0010】
工程1は、1種または2種以上の結晶性または半結晶性である熱可塑性樹脂をTダイから溶融押出しすることによって、1層または2層以上の熱可塑性樹脂溶融膜を得る工程である。
【0011】
工程1で用いる結晶性または半結晶性である熱可塑性樹脂とは、溶融した熱可塑性樹脂を冷却することによって100%または部分的に結晶化させ得るものである。このような樹脂として、好ましくは、ポリオレフィン系樹脂であり、より好ましくは、ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂であり、更に好ましくは、ポリエチレン系樹脂である。
【0012】
ポリエチレン系樹脂とは、エチレンに由来する構成単位の含有量(重量%)が50重量%以上含まれる樹脂を意味し、例えば、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、エチレンの単独重合体、エチレンと炭素数4〜12のα−オレフィンとの共重合体、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体、エチレンと不飽和カルボン酸との共重合体、エチレンと不飽和カルボン酸エステルとの共重合体、エチレンとビニルシクロヘキサンとの共重合体等が挙げられる。α−オレフィンとしては、例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチルペンテン−1等が挙げられ、不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられ、不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、エチルアクリレート、メチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、グリシジルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。エチレンと炭素数4〜12のα−オレフィンとの共重合体として、例えば、エチレンと1−ブテンとの共重合体、エチレンと1−ヘキセンとの共重合体、エチレンと1−オクテンとの共重合体等が挙げられる。エチレンに由来する構成単位の含有量(重量%)として、好ましくは、60重量%以上であり、より好ましくは、70重量%以上であり、更に好ましくは、80重量%以上である。
【0013】
ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレンと、エチレンおよび炭素数4〜12のα−オレフィンの1種以上との共重合体、主にプロピレンからなるモノマーを重合して得られる重合体成分と、プロピレンとエチレンおよび/または炭素数4〜12のα−オレフィンからなるモノマーを共重合して得られる共重合体成分を、少なくとも2段以上の多段で製造して得られるポリプロピレン系共重合体等が挙げられる。ポリプロピレン系樹脂に含まれるプロピレンに由来する構造単位の含有量(重量%)として、好ましくは、60重量%以上であり、より好ましくは、70重量%以上であり、更に好ましくは、80重量%以上である(ただし、ポリプロピレン系樹脂の全重量を100重量%とする。)。
【0014】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は結晶性または半結晶性である。結晶性または半結晶性であると、工程2で、金属製冷却ロールと弾性ロールとで熱可塑性樹脂溶融膜が挟圧される際に、金属製冷却ロールと弾性ロールの表面温度が熱可塑性樹脂の結晶化温度より低いと、熱可塑性樹脂の結晶化により熱可塑性樹脂の粘度が高まり、フィルム切れが生じにくいと考えられる。
【0015】
結晶性または半結晶性の熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は0℃以下であることが好ましく、より好ましくは−10℃以下である。工程2で、通常、ロールの温度はロール表面に水分が結露する温度よりも高い温度、あるいは冷却ロールが冷却水で冷却される場合は、通常冷却水循環装置等の装置で可能な冷却水温度以上の温度、すなわち10℃以上であるため、金属製冷却ロールと弾性ロールとで熱可塑性樹脂溶融膜が挟圧されることによって熱可塑性樹脂溶融膜が冷却される際に、結晶性または半結晶性の熱可塑性樹脂のTgが0℃以下であると、熱可塑性樹脂が脆くなりにくいためフィルム切れ等のトラブルが生じにくく好ましい。
【0016】
結晶性または半結晶性の熱可塑性樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上であってもよい。ひとつの層を構成する樹脂は1種単独でもよく、また2種以上の混合物でもよい。2種以上の混合物とする方法は、通常の混合操作、例えば、タンブラーブレンダー法、ヘンシェルミキサー法、バンバリーミキサー法、押出造粒法、または計量混合機を用いてペレットを所定の配合比に混合する方法等が挙げられ、これらの方法によって得られた混合物を押出機に投入すればよい。
【0017】
また、本発明のフィルムは単層であってもよく、または複数の層が積層されたものであってもよい。複数の層を積層とする場合は、例えば、共押出法によって、2層以上の結晶性または半結晶性の熱可塑性樹脂の溶融膜を得ることができる。
【0018】
工程1で用いる結晶性または半結晶性の熱可塑性樹脂は、本発明の効果を損なわない限り、必要に応じて、添加剤を混合して用いてもよい。添加剤としては、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、金属不活性剤等が挙げられる。被着物への残存付着物を少なくするという観点から、結晶性または半結晶性の熱可塑性樹脂に対する添加剤の濃度として好ましくは、500ppm以下であり、より好ましくは250ppm以下である。また滑剤や抗ブロッキング剤は、被着物を汚染したり、傷をつけたりしない程度に添加してもよい。
【0019】
これらの添加剤は、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂に予め練り込まれたマスターバッチの形態であってもよく、本発明の効果を損なわない限りマスターバッチのベース樹脂の種類に特に制限はない。
【0020】
工程1において、Tダイのリップ内の溶融樹脂温度またはTダイから押し出された直後の溶融樹脂温度が200℃以上となるようにTダイから溶融押出しすると、工程2で用いる弾性ロールの表面の平滑性が熱可塑性樹脂溶融膜に転写されやすく、得られるフィルム表面が平滑になりやすいため、得られたフィルムを被着物に貼り合わせた際の密着性が高まり好ましく、より好ましくは、240℃以上であり、さらに好ましくは、270℃以上である。温度の上限については、高温過ぎると金属製の表面をもつ鏡面の弾性ロールや、抱き角が大きい金属製冷却ロールに熱可塑性樹脂の溶融膜が巻きつきやすくなったり熱可塑性樹脂の熱劣化が激しくなったりするため、300℃以下であることが好ましく、より好ましくは290℃以下である。
【0021】
またブレーカープレートに金網フィルター、金属繊維焼結フィルター等のフィルターをセットしておき、予めある程度フィッシュアイや異物を除いておくと挟圧時にフィッシュアイを押し潰しやすく、好ましい。特に大きめのフィッシュアイはなるべく除いておくのが望ましい。さらにはリーフディスクフィルターを押出機とダイの間に配置し、予めフィッシュアイや異物をある程度除去しておくことが好ましい。
【0022】
工程2は、工程1によって得られた1層以上の熱可塑性樹脂溶融膜を、下記要件(1)および下記要件(2)を満足する金属製冷却ロールと、下記要件(3)および下記要件(4)を満足する弾性ロールとで挟圧する際に、挟圧される部分の該熱可塑性樹脂溶融膜の幅を、該金属製冷却ロールの面長より小さく、該弾性ロールの面長より大きくなるように調整して挟圧することによって、1層以上のフィルムを得る工程である。工程2によって、工程1によって得られた少なくとも1層以上の熱可塑性樹脂溶融膜が冷却固化され、1層以上のフィルムが得られる。
要件(1):金属製冷却ロールの表面の表面粗さが、最大高さ(Rmax)で2.0μm以上である
要件(2):金属製冷却ロールの内部温調温度が、15℃以上かつ該熱可塑性樹脂の結晶化温度−40℃以下である
要件(3):弾性ロールの表面が金属製であり、かつ鏡面である
要件(4):弾性ロールの面長が金属製冷却ロールの面長より小さい
【0023】
工程2における調整とは、例えば、金属製冷却ロールと弾性ロールとを配置する位置によって、調整できる。
【0024】
また、工程2は、工程1を行った後、連続して工程2を行うことが好ましい。
【0025】
工程2で用いる金属製冷却ロールは、その表面の表面粗さが、最大高さ(Rmax)で2.0μm以上であり、好ましくは、2.5μm以上であり、より好ましくは4.5μm以上である。表面の表面粗さが、最大高さ(Rmax)で2.0μm以上である金属製冷却ロールを用いると、該金属製冷却ロールの表面あれが熱可塑性樹脂溶融膜の片面に転写され、該金属製冷却ロールに接触した側の熱可塑性樹脂溶融膜の表面が適度にあれることにより、製造するフィルムが、ブロッキングし難くなる。このような金属製冷却ロールは、一般に梨地ロール、セミマットロール、マットロールと呼ばれているものが含まれる。得られたフィルムが工程3で巻き取られる際にはフィルムが重なり合うが、金属製冷却ロールの表面あれが転写されたフィルム表面のあれが大きすぎると、フィルムの反対側表面に傷がつきやすくなったり、光学フィルムなどのフィルム状物の表面を保護するために用いられる表面保護フィルムとして用いられる場合には、光学フィルム等に貼り合わされた後に巻き取ったり、重ね合わせたりすると、金属製冷却ロールの表面あれが転写されたフィルム表面が、被着物である光学フィルム等の、表面保護フィルムが貼り合わされていない方の面に接触するため、光学フィルム等の表面に傷をつけやすくなったりするおそれがあるため、金属製冷却ロールの表面の表面粗さは、最大高さ(Rmax)として好ましくは、10μm以下であり、より好ましくは、8μm以下であり、更に好ましくは、6μm以下である。なお、最大高さ(Rmax)は、金属製冷却ロールの表面の状態を表す指標であり、JIS B0601−1982に規定されている。
【0026】
工程2で用いる金属製冷却ロールの金属の材質は一般的にフィルム加工機の冷却ロールに用いられているものであれば特に制限はなく、例えば、炭素鋼やステンレス鋼などが挙げられ、さらにこれらに硬質クロムメッキ処理を施したものが好ましい。冷却効率の点から冷却ロールの表面材質は金属製が好ましい。
【0027】
工程2で用いる金属製冷却ロールの内部温調温度は、15℃以上かつ熱可塑性樹脂の結晶化温度−40℃以下である。金属製冷却ロールの内部温調温度は、ロール内に水や油等の冷却媒体を流すことによって調整できる。内部温調温度とは、金属製冷却ロールの内部に導入される直前の、入り側配管内を流れる水等の冷却媒体の温度で、例えば入り側配管に温度計や温度センサー等を設置して配管内を流れる冷却媒体の温度を測定できる。金属製冷却ロールの内部温調温度を熱可塑性樹脂の結晶化温度−40℃以下とすることによって、熱可塑性樹脂溶融膜が金属製冷却ロールと弾性ロールで挟圧される際に、熱可塑性樹脂の弾性が十分な大きさをもつほどに冷却されるため、フィルムが切れにくくなる。一方金属製冷却ロールの内部温調温度が熱可塑性樹脂の結晶化温度−40℃よりも高いと、熱可塑性樹脂溶融膜が金属製冷却ロールから離れにくくなる、いわゆる離ロール不良が生じる場合がある。15℃より低いと、金属製冷却ロールの表面形状が熱可塑性樹脂溶融膜に十分に転写されず、ブロッキングを起こすことがある。またフィルム加工時の環境によっては、金属製冷却ロールが結露する可能性もあり好ましくない。
【0028】
露点温度とは、水蒸気を含む空気を冷却したときに凝結が始まる温度であり、露点温度計で直接測定するか、気温と相対湿度から水蒸気圧を求め、その水蒸気圧を飽和水蒸気圧とする温度を求めることから得られる。
【0029】
結晶化温度は、例えば、示差走査熱量計を用いて、樹脂の融点以上まで昇温させた後、降温させた際の発熱ピークを示す温度から得ることができる。
【0030】
工程2で用いる弾性ロールは、その表面が金属製であり、かつその表面が鏡面である。ここで、「弾性ロールの表面が、鏡面である」とは、弾性ロールの表面の表面粗さが、最大高さ(Rmax)で0.5μm以下であることを意味し、好ましくは、0.3μm以下であり、より好ましくは0.2μm以下である。表面が鏡面である弾性ロールを用いると、弾性ロールの表面が平滑であり、これが熱可塑性樹脂溶融膜の片面に転写されることにより、製造するフィルムの表面の平滑性が高まり、フィルムとして被着物に貼り合わせる際に密着しやすくなり、すなわち微粘着性の効果が得られる。
弾性ロールの表面の表面粗さが、最大高さ(Rmax)で0.5μmを超えると、被着物を貼り合わす面の平滑性が悪く、粘着性が低下するため、被着物への貼り合わせが不十分となりやすくなる。最大高さ(Rmax)として好ましくは、0.01〜0.5μmである。
【0031】
工程2で用いる弾性ロールは、その表面が、金属製の材質である。内面は、弾性体の材質が貼りあわされていてもよいし、または金属製の表面である薄いスリーブの中に、スリーブの内面の全周で接触するのではなく、挟圧部付近のみで接触している状態でゴムロールが存在し、金属製の薄いスリーブとゴムロールの隙間には冷却水等が存在しているものでもよい。金属製の材質としては、例えば、ニッケルに硬質クロムメッキされたもの等が挙げられる。弾性体の材質としては、例えば、ゴム等が挙げられる。また、金属製の表面と、弾性ロールの軸部との間の空間に冷却や加熱用の水や油を存在させていてもよい。工程2で用いる弾性ロールとしては、例えば、フレックスロール(商品名:住友重機械モダン株式会社製)、TESロール(商品名:東芝機械株式会社製)、UFロール(商品名:日立造船株式会社製)等が挙げられる。特に、弾性ロールのうち、樹脂を挟圧するための構造体部分が、その両端を含め全て弾性変形可能なものであれば、ロールの幅方向の全てにおいて弾性変形させることができるため、線状に挟圧するのではなく面状で挟圧することができるため、よりフィッシュアイを押し潰しやすく、好ましい。
【0032】
表面が、金属製でなく、表面が、ゴム等の弾性体であるロールを用いた場合、弾性体の弾性力は用いる材質によって固有であるため、熱可塑性樹脂溶融膜への面圧力を変化させるときには、面圧力の異なる他材質の弾性体にその都度交換が必要となり手間がかかる。一方、表面が、金属製の材質であるロールを用いた場合、ロール表面の金属外筒の内部に存在する、水等の冷却用流体の供給圧力を変化させるだけで熱可塑性樹脂溶融膜への面圧力を変更することができる場合がある。また表面がゴムより金属の方がフィッシュアイを押し潰しやすい。
【0033】
工程2で用いる金属製冷却ロールと、弾性ロールの表面粗さを所定のあらさに加工する方法としては、例えば、バフ研磨等の公知の表面仕上げ方法を用いることができる。
【0034】
工程2で用いる弾性ロールの内部温調温度は、ロール内に水や油等の冷却媒体を流すことによって調整できる。弾性ロールの内部温調温度とは、弾性ロールの内部に導入される直前の、入り側配管内を流れる水等の冷却媒体の温度で、例えば入り側配管に温度計や温度センサー等を設置して配管内を流れる冷却媒体の温度を測定できる。弾性ロールの弾性ロールの内部温調温度は15℃以上であることが好ましい。温度が低すぎると結露が生じやすくなる。また弾性ロールの内部温調温度が結晶化温度以上では溶融樹脂がロールに巻きつきやすくなるため、結晶化温度より低くすることが好ましい。
【0035】
工程2で用いる金属製冷却ロールの面長は、熱可塑性溶融樹脂の幅よりも大きくないと溶融樹脂膜が金属製冷却ロールの側面に回りこんだりするため製膜が困難となる。また弾性ロールの面長は熱可塑性溶融樹脂膜の幅よりも広いと、弾性ロールの両端が直接金属製冷却ロールに接触し、ロールが傷む。従って熱可塑性樹脂溶融膜の幅が弾性ロールの幅よりも大きくなるように、熱可塑性樹脂溶融膜のネックイン幅を調整する必要がある。ネックインの調整は、溶融樹脂の温度、溶融膜の引取速度、エアギャップ等を適切に選択することにより行えばよい。これらのことから弾性ロールの面長は金属製冷却ロールの面長より小さいことが必要である。ここで面長とはロールの構造のうち、ダイから押し出された溶融樹脂が接触する部分として設計されたロール面の幅の長さのことである。また安定して製膜を行うためには、熱可塑性樹脂溶融膜の幅方向や流れ方向の厚み分布を可能な限り小さくすることが好ましい。また弾性ロールは、熱可塑性樹脂溶融膜の両端の、ネックインにより厚みが大きくなっているエッジビード部とは可能な限り接触しないことが望ましい。
【0036】
工程2における挟圧とは、金属製冷却ロールに、前記弾性ロールを押し付けることによって、これらのロールの間を通過する、Tダイから押出された熱可塑性樹脂溶融膜を挟むことである。
【0037】
前記金属製冷却ロールと、前記弾性ロールとで、工程1によって得られる少なくとも1層以上の熱可塑性樹脂溶融膜を挟圧する方法としては、例えば、前記金属製冷却ロールの位置を固定し、前記弾性ロールを移動させて押し付ける方法、前記弾性ロールの位置を固定し、前記金属製冷却ロールを押し付ける方法等が挙げられ、好ましくは、前記金属製冷却ロールの位置を固定し、前記弾性ロールを移動させて押し付ける方法である。押し付ける際の圧力は、熱可塑性樹脂溶融膜が、前記金属製冷却ロールに完全に密着する圧力以上であればよく、熱可塑性樹脂溶融膜の溶融粘度や熱可塑性樹脂溶融膜の厚みなどによって適宜調整すればよい。
【0038】
工程2で前記金属製冷却ロールと、前記弾性ロールとで、工程1によって得られる1層以上の熱可塑性樹脂溶融膜を挟圧することによって、該熱可塑性樹脂溶融膜が冷却固化され、1層以上のフィルムが得られる。この際に、前記弾性ロールと接触した熱可塑性樹脂溶融膜の片面が平滑となり、得られるフィルムの片面が微粘着性を発現する。また、前記金属製冷却ロールと接触した熱可塑性樹脂溶融膜の片面は、表面あれが転写され、得られるフィルムの片面がブロッキングを起こしにくくなるとともに、フィルムの加工時においてもフィルムが滑りやすくなるためにきれいに巻き取りやすくなる。さらにフィルムを繰り出す際にフィルム同士のブロッキングも軽減されているため繰り出しやすくなる。さらに挟圧によってフィッシュアイが押し潰され、フィッシュアイ存在部のフィルム表面が盛り上がることがなく平滑になるため、被着物に貼り合わせてもフィッシュアイ部の盛り上がり部による押し傷が被着物に転写することがない。
【0039】
工程3は、工程2で得られる1層以上のフィルムを巻き取る工程である。巻き取る方法としては、巻取機で巻き取る等、通常の方法で巻き取ればよい。
【0040】
本発明の製造方法によって得られるフィルムは、表面保護フィルムとして用いられる。表面保護フィルムとしては、例えば、樹脂板、金属板;液晶ディスプレイ用基盤ガラス、液晶表示用偏光フィルム、位相差フィルム、光拡散シート等のフラットパネルディスプレイ(FPD)用部材;ブルーレイディスク、DVD等の光ディスクを構成するフィルム;等の表面を保護するためのフィルムとして好適に用いられる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。
【0042】
[物性測定法]
実施例における物性は、以下の方法によって測定した。
【0043】
(1)ブロッキング強度
上下ブロッキング法により次のように行った。前記の方法で得られたフィルムを225mm×100mmの大きさに切り出し、弾性ロール面同士、および弾性ロール面と金属製冷却ロール面が接触するように重ねたものを用意し、23℃で、3kgの荷重をかけた状態で30分保持した後、東洋精機製作所製試験機上下ブロッキング計に、フィルム面に垂直な方向に剥離するよう(上下方向)、また重ね合わせた2枚のフィルムが100cm接触するように取り付け、密着状態から20g/分の一定剥離速度で剥離していき、上下の冶具が開いたときの荷重を読み取り、ブロッキング強度とした。
【0044】
実施例におけるフィルム中のフィッシュアイ形状は次のようにして確認した。
キーエンス製超深度形状測定顕微鏡VK−8500を用いて、フィッシュアイ部の形状観察およびフィッシュアイ部のフィルム表面の盛り上がりの高さ(突起高さ)を測定した。突起高さは同じFE部をフィルムの両面について、それぞれ2箇所測定し、その平均値とした。またエアチャンバー品については、同じフィッシュアイ部をフィルムの両面について1箇所測定した。なお、ここでいう突起高さとは、FE核の存在によりフィルム表面が、フィルム面内の大きさとして数十μmから数mmに渡る領域で盛り上がるものであり、フィルム表面自体の粗さによる細かい凹凸は含まない。従って、金属製冷却ロールと弾性ロールとで挟圧した場合、フィルムの金属製冷却ロール面側表面には、金属製冷却ロールの表面形状が転写されるため、FEの存在有無によらず、フィルム全面に、凹凸のひとつの山あたり、フィルム面内方向の大きさ(山の幅)で数μm〜20μm程度の小さなスケールで、大きいもので3μm程度の高さの細かい凹凸が見られるが、これはフィルム表面自体の粗さであって、FEの存在に基づく突起ではないため対象外である。弾性ロール面側ではFEが押し潰されて突起高さが低くなっており、金属製冷却ロール面側では、ほぼ平滑であった。また弾性ロール面同士に微粘着性が見られ、かつフィルムの表裏面ではほとんどブロキッキングしなかった。
【0045】
[実施例1]
[樹脂]
住友化学社製低密度ポリエチレンであるF723−Pを用いた。結晶化温度は93.5℃であった。結晶化温度は、示差走査熱量計(パーキンエルマー製 PYRIS Diamond DSC)を用いて、24℃でサンプルをセット後、200℃/分で150℃まで昇温し、150℃で5分間保持した後、20℃まで5℃/分で降温したときの発熱ピークを示す温度とした。結晶化温度−40℃は53.5℃である。
【0046】
[フィルムの作成]
住友重機械モダン社製のφ40mm押出機を用いて、住友化学社製低密度ポリエチレンであるスミカセンF723−Pを有効幅600mmのTダイからダイ温度240℃で押し出し、押し出された溶融樹脂を、面長が650mmであり、表面粗さがRmaxで4.5μmである梨地状の、表面が硬質クロムメッキ処理されたスチール製の冷却ロールと、面長が430mmであり、ロール内部にゴム部を備えた、表面粗さが0.2Sである鏡面状の、表面が硬質クロムメッキ処理されたニッケル製である弾性ロールとで、溶融膜の幅が冷却ロールより小さく、弾性ロールより大きくなるようにして挟圧し、そのまま冷却ロールに巻き掛けることによって溶融樹脂が冷却され、得られたフィルムを引取り機で引取速度30m/分で引取り、巻取り機で巻き取ることによって、厚さ25μmの単層のフィルムを得た。弾性ロールは両端含め、全面長において弾性変形可能なものを用いた。冷却ロールの内部温調温度は50℃、弾性ロールの内部温調温度は50℃であった。ダイはクリーンルーム内にあり、溶融樹脂はクリーンルーム内で押し出され、巻き取られた。押出機はクリーンルームの外に設置され、押出機とダイをつなぐフィードパイプがクリーンルームの壁を貫通している。クリーンルーム内の気温は22℃、相対湿度は50%であり、露点温度は11℃であった。ブレーカープレートには上流側から下流側に向かって、80メッシュ、120メッシュ、80メッシュの順で金網フィルターを配置した。結果を表1に示した。
【0047】
[実施例2]
引取速度を38m/分にし、フィルム厚さを20μmとした以外は実施例1と同様に実施した。弾性ロール面側ではFEが押し潰されて突起高さが低くなっており、金属製冷却ロール面側では、ほぼ平滑であった。また弾性ロール面同士に微粘着性が見られ、かつフィルムの表裏面ではほとんどブロキッキングしなかった。結果を表1に示した。
【0048】
[実施例3]
弾性ロールの内部温調温度を60℃とした以外は実施例1と同様に実施した。弾性ロール面側ではFEが押し潰されて突起高さが低くなっており、金属製冷却ロール面側では、ほぼ平滑であった。また弾性ロール面同士に微粘着性が見られ、かつフィルムの表裏面ではほとんどブロキッキングしなかった。結果を表1に示した。
【0049】
[実施例4]
弾性ロールの内部温調温度を80℃とした以外は実施例1と同様に実施した。弾性ロール面側ではFEが押し潰されて突起高さが低くなっており、金属製冷却ロール面側では、ほぼ平滑であった。また弾性ロール面同士に微粘着性が見られ、かつフィルムの表裏面ではほとんどブロキッキングしなかった。結果を表1に示した。
【0050】
[実施例5]
冷却ロールの内部温調温度を30℃とした以外は実施例1と同様に実施した。弾性ロール面側ではFEが押し潰されて突起高さが低くなっており、金属製冷却ロール面側では、ほぼ平滑であった。また弾性ロール面同士に微粘着性が見られ、かつフィルムの表裏面ではほとんどブロキッキングしなかった。結果を表1に示した。
【0051】
[実施例6]
冷却ロールの内部温調温度を40℃、弾性ロールの内部温調温度を15℃とした以外は実施例1と同様に実施した。弾性ロール面側ではFEが押し潰されて突起高さが低くなっており、金属製冷却ロール面側では、ほぼ平滑であった。また弾性ロール面同士に微粘着性が見られ、かつフィルムの表裏面ではほとんどブロキッキングしなかった。結果を表1に示した。
【0052】
[比較例1]
弾性ロールを使用せず、エアチャンバー(AC)を使用した以外は実施例5と同様に実施した。エアチャンバーによる吹き付けエアの温度は室温(22℃)であった。フィッシュアイ部は、両面とも突起高さが大きかった。結果を表2に示した。
【0053】
[比較例2]
冷却ロールを、表面粗さが0.1μmの鏡面のものとした以外は実施例1と同様に実施した。フィルムの表裏面でのブロッキング強度が大きかった。結果を表3に示した。
【0054】
[比較例3]
溶融膜の幅が冷却ロールより小さく、弾性ロールより小さくなるようにした以外は実施例1と同様に実施したところ、弾性ロールの両端が冷却ロールに直接接触してしまい、弾性ロールが破損するおそれがあったため、直ちにテストを中止した。結果を表3に示した。
【0055】
[比較例4]
冷却ロールの内部温調温度を60℃とした以外は実施例6と同様に実施した。フィルムが冷却ロールに貼り付きやすく、冷却ロールからフィルムが離れにくく、皺が見られるという問題があった。結果を表3に示した。
【0056】
[比較例5]
冷却ロールの内部温調温度を10℃とした以外は実施例6と同様に実施した。フィルムの表裏面のブロッキング強度が大きかった。結果を表3に示した。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【符号の説明】
【0060】
1 ダイ
2 金属製冷却ロール
3 弾性ロール
4 フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上の、結晶性または半結晶性である熱可塑性樹脂をTダイから溶融押出しすることによって、1層以上の熱可塑性樹脂溶融膜を得る工程(工程1)、該熱可塑性樹脂溶融膜を、下記要件(1)および下記要件(2)を満足する金属製冷却ロールと、下記要件(3)および下記要件(4)を満足する弾性ロールとで挟圧する際に、挟圧される部分の該熱可塑性樹脂溶融膜の幅を、該金属製冷却ロールの面長より小さく、該弾性ロールの面長より大きくなるように調整して挟圧することによって、1層以上のフィルムを得る工程(工程2)、および該フィルムを巻き取る工程(工程3)を有する、フィルム厚みが30μm未満である表面保護フィルムの製造方法。
要件(1):金属製冷却ロールの表面の表面粗さが、最大高さ(Rmax)で2.0μm以上である
要件(2):金属製冷却ロールの内部温調温度が、15℃以上かつ該熱可塑性樹脂の結晶化温度−40℃以下である
要件(3):弾性ロールの表面が金属製であり、かつ鏡面である
要件(4):弾性ロールの面長が金属製冷却ロールの面長より小さい
【請求項2】
結晶性または半結晶性である熱可塑性樹脂がポリエチレン系樹脂である請求項1に記載の表面保護フィルムの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−22742(P2013−22742A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156389(P2011−156389)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】