説明

表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の製造方法

【課題】長期間保管しても、優れたサーモクロミック性を維持することが可能な表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の製造方法、該製造方法によって得られる表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子、並びに、該表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子を用いたサーモクロミック性フィルム、合わせガラス用中間膜、合わせガラス及び貼り付け用フィルムを提供する。
【解決手段】表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子を製造する方法であって、周期律表第4、13及び14族の元素から選択される少なくとも1種の特定元素とフッ素とを含有する錯体イオンを含有する表面処理液と二酸化バナジウム粒子とを混合することにより、前記二酸化バナジウム粒子に表面保護層を形成する工程を有する表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期間保管しても、優れたサーモクロミック性を維持することが可能な表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の製造方法、該製造方法によって得られる表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子、並びに、該表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子を用いたサーモクロミック性フィルム、合わせガラス用中間膜、合わせガラス及び貼り付け用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化バナジウム又は二酸化バナジウムのバナジウム原子の一部を他の原子で置換した置換二酸化バナジウムは、特定の温度以上になると半導体から金属に相転移し、赤外線透過率を大きく減少させるサーモクロミック特性を有することが広く知られている(例えば、特許文献1)。即ち、例えばガラス上に二酸化バナジウム膜を形成すると、相転移温度未満では可視光線及び赤外線の透過率が高いが、相転移温度以上になると可視光線の透過率が高い状態で、赤外線の透過率が低下する性質を示す。
【0003】
従来より、二酸化バナジウムが有するサーモクロミック特性を利用したサーモクロミック性フィルムの製造が試みられてきた。
例えば、上記サーモクロミック性フィルムの一用途として、合わせガラス用中間膜を製造する場合、合わせガラス用中間膜中に二酸化バナジウムを分散させることにより、二酸化バナジウムの相転移温度未満では可視光線及び赤外線の透過率が高いが、相転移温度以上になると可視光線の透過率が高い状態で、赤外線の透過率が低下する性質を示す合わせガラス用中間膜が得られることが期待される。
しかしながら、実際には二酸化バナジウム粒子を分散させたサーモクロミック性フィルムを長期間保管すると、サーモクロミック性が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−233929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、長期間保管しても、優れたサーモクロミック性を維持することが可能な表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の製造方法、該製造方法によって得られる表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子、並びに、該表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子を用いたサーモクロミック性フィルム、合わせガラス用中間膜、合わせガラス及び貼り付け用フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子を製造する方法であって、周期律表第4、13及び14族の元素から選択される少なくとも1種の特定元素とフッ素とを含有する錯体イオンを含有する表面処理液に二酸化バナジウム粒子を混合することにより表面保護層を形成する工程を有する表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0007】
本発明者は、二酸化バナジウム粒子を含有するサーモクロミック性フィルムを長期間保管すると、サーモクロミック性が低下する原因を検討した。その結果、サーモクロミック性の低下は、二酸化バナジウム粒子の酸化が原因である可能性が高いことを見出した。本発明者は、更に検討の結果、二酸化バナジウム粒子の表面に所定の方法で表面保護層を形成することにより、長期間保管しても、優れたサーモクロミック性を有するフィルムを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の製造方法は、周期律表第4、13及び14族の元素から選択される少なくとも1種の特定元素とフッ素とを含有する錯体イオンを含有する表面処理液と二酸化バナジウム粒子とを混合することにより、前記二酸化バナジウム粒子に表面保護層を形成する工程(以下、単に表面処理工程ともいう)を有する。このような表面処理工程を行うことで、表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子が得られることから、二酸化バナジウム粒子の酸化を抑制され、長期間保管しても、優れたサーモクロミック性を維持できるものと考えられる。
【0009】
上記表面処理工程において、表面処理液と二酸化バナジウム粒子とを混合する方法としては、二酸化バナジウム粒子を表面処理液に分散させて混合させる方法等が挙げられる。
混合条件について、二酸化バナジウム粒子を均一に分散できる方法であれば特に限定されず、例えば、磁気スターラー攪拌、モーター付きの機械的な攪拌、ガスバーブリング、液循環、超音波分散、ボールミルやロータリーミキサーのような回転分散、又は上記方法を併用することによって行うことができる。
【0010】
上記表面処理液は、周期律表第4、13及び14族の元素から選択される少なくとも1種の特定元素とフッ素とを含有する錯体イオンを含有する。
上記特定元素とフッ素とを有する錯体イオンを含有することで、表面処理工程において水による二酸化バナジウムの劣化が生じることを防止することができるため、表面処理を水溶液中で行うことができる。
【0011】
上記錯体イオンとしては、例えば、AF2−(A:周期律表第4、13及び14族の元素から選択される少なくとも1種の特定元素)が挙げられる。
上記周期律表第4、13及び14族の元素から選択される少なくとも1種の特定元素としては、例えば、Ti、Zr、Hf、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn等が好ましい。なかでも、Siを用いることが好ましい。
【0012】
上記表面処理液における上記錯体イオンの含有量の好ましい下限は0.0005M、好ましい上限は2.0Mである。上記錯体イオンの含有量が0.0005M未満であると、遊離フッ素イオンが低いため、表面保護層の形成が困難となり、2.0Mを超えると、溶液自身が不安定となるか、反応が速すぎて、良質な表面保護層が得られにくくなる。好ましくは0.005〜1.0Mである。
【0013】
上記錯体イオンを形成するために添加する錯塩としては、例えば、上記特定元素とフッ素とを含有するフッ化物が好ましく、上記フッ化物としては、H、NH又はアルカリ金属を有するものが好ましい。
なかでも、RAFに示す構造を有するフッ化物(A:周期律表第4族の元素及びケイ素から選択される少なくとも1種の特定元素、R:H、NH又はアルカリ金属)等が挙げられる。
【0014】
上記錯体イオンを形成するために添加する錯塩の具体的な例としては、例えば、フッ化ケイ酸アンモニウム((NHSiF)、フッ化ケイ酸(HSiF)、NaSiF、KSiF、(NHTiF、NaSiF、(NHTiOF、(NHZrF、NaZrF、AlF、NaAlF等が挙げられる。
【0015】
上記表面処理液における上記錯塩の添加量の好ましい下限は、二酸化バナジウム粒子の単位表面積(m)に対して5.0×10−10モル、好ましい上限は1.0×10−5モルである。
上記フッ化物の含有量が5.0×10−10モル未満であると、表面保護層の形成が困難となり、1.0×10−5モルを超えると、表面保護層の厚みが厚くなりすぎ、厚み制御が困難となる。より好ましい下限は5.0×10−8モル、より好ましい上限は5.0×10−6モルである。
なお、上記二酸化バナジウム粒子の単位表面積(m)当たりのフッ化物の含有量(Q)は、下記式により求めることができる。
Q = Wr/(Mr × Wp × Sp)
ただし、WrとMrはそれぞれフッ化物の添加量(g)と分子量であり、WpとSpはそれぞれ二酸化バナジウム粒子の仕込量(g)と比表面積(m/g)である。
【0016】
本発明では、表面処理液に、ホウ素(B)を含有する化合物を添加してもよい。
本発明では、このようなホウ素を含有する化合物は遊離のフッ素イオンの濃度を調節する調整剤として使う。表面処理工程において、上記錯体イオンとホウ素を含有する化合物とが反応することで、フッ素が消費され、表面保護層の形成を促進させることができる。
ホウ素を含有する化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
上記ホウ素を含有する化合物としては、例えば、酸化ホウ素、四ホウ酸ナトリウム、ホウ酸(HBO)等が挙げられる。これらの中では、ホウ酸が好ましい。
【0017】
上記表面処理液のpHは、2.0〜10とすることが好ましい。上記pHが2.0未満であると、溶液の酸性が強すぎて、処理過程中での二酸化バナジウム粒子の分解劣化を完全に抑えることが困難となり、10を超えると、処理液が不安定になり、表面被覆層の形成が困難となる。
【0018】
本発明では、上記表面処理液に使用する溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール等が挙げられる。なかでも、水を用いることが好ましい。
【0019】
上記表面処理工程における反応温度は、形成する表面保護層の厚みに応じて適宜調整すればよいが、通常、0〜90℃、好ましくは5〜70℃、より好ましくは10〜50℃である。上記温度が0℃未満であると、反応に時間が掛かり、90℃を超えると、処理過程中に二酸化バナジウム粒子の劣化が起こる恐れがある。
【0020】
上記表面処理工程における反応時間は、目的とする表面保護層の厚み、表面処理液の濃度、温度等の反応条件に応じて適宜調整すればよく、通常、5分〜20時間程度、好ましくは10分〜10時間程度、より好ましくは20分〜5時間程度である。
一般には、仕込みの二酸化バナジウム粒子の量が一定であれば、反応時間が長くなるほど表面保護層の厚みが厚くなる。反応時間が短すぎると表面保護層の形成が不完全となる。一方、反応時間が長すぎると非経済的である。
【0021】
上記表面処理工程を行った後は、ろ過、洗浄、乾燥工程を経て回収する。乾燥は常圧乾燥でもよく、減圧乾燥でもよい。乾燥時の温度は室温〜150℃が好適である。
また、本発明の製造方法では、上記乾燥した表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子を200〜600℃の温度で更に熱処理してもよい。
【0022】
本発明において原料として用いられる二酸化バナジウム粒子(以下、単に二酸化バナジウム粒子ともいう)は、サーモクロミック特性を有するものである。
二酸化バナジウムは様々な結晶相が存在するが、単斜晶結晶と正方晶結晶(ルチル型)が可逆的に相転移する。その相転移温度は約68℃である。
上記二酸化バナジウム粒子として、バナジウム原子の一部が、タングステン、モリブデン、ニオブ、タンタル、タリウム、スズ、レニウム、イリジウム、オスミウム、ルテニウム、ゲルマニウム、クロム、鉄、ガリウム、アルミニウム、フッ素及びリン等の原子で置換された置換二酸化バナジウム粒子も含まれる。
【0023】
上記相転移温度は、例えば、二酸化バナジウム中のバナジウム原子の一部をタングステン、モリブデン、ニオブ及びタンタルから選択される少なくとも1種以上の原子で置換することにより調整することができる。従って、二酸化バナジウム粒子又は置換二酸化バナジウム粒子を適宜選択したり、置換二酸化バナジウム粒子において置換する原子種や置換率を適宜選択したりすることにより、得られるサーモクロミック性フィルムの性能を制御することができる。
上記置換二酸化バナジウムを用いる場合、金属原子の置換率の好ましい下限は0.1原子%、好ましい上限は10原子%である。置換率が0.1原子%以上であると、上記置換二酸化バナジウムの相転移温度を容易に調整することができ、10原子%以下であると、優れたサーモクロミック性を得ることができる。
なお、置換率とは、バナジウム原子数と置換された原子数との合計に占める、置換された原子数の割合を百分率で示した値である。
【0024】
上記二酸化バナジウム粒子は、実質的に二酸化バナジウムのみで構成された粒子であってもよく、コア粒子の表面に二酸化バナジウムが付着した粒子であってもよい。同様に、上記置換二酸化バナジウム粒子は、実質的に置換二酸化バナジウムのみで構成された粒子であってもよく、コア粒子の表面に置換二酸化バナジウムが付着した粒子であってもよい。上記コア粒子として、例えば、酸化ケイ素、シリカゲル、酸化チタン、ガラス、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化チタン、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、リン酸ジルコニウム、ハイドロタルサイト化合物、ハイドロタルサイト化合物の焼成物、及び、炭酸カルシウム等の無機粒子が挙げられる。
【0025】
上記表面処理工程で形成される表面保護層は二酸化バナジウム粒子の酸化を抑制する役割を有する。
上記表面保護層は、二酸化バナジウム粒子の表面の少なくとも一部に形成されていてもよく、二酸化バナジウム粒子の表面全体を被覆するように形成されていてもよい。上記二酸化バナジウム粒子の酸化をより一層抑制できることから、上記表面保護層は、二酸化バナジウム粒子の表面全体を被覆するように形成されていることが好ましい。
【0026】
長期間保管しても優れたサーモクロミック性を有するサーモクロミック性フィルムが得られることから、上記表面保護層は金属酸化物又はフッ化物を含有することが好ましく、金属酸化物を含有することがより好ましい。
上記金属酸化物は、例えば、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化アルミニウム及び二酸化ケイ素からなる群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。なかでも、長期間保管しても優れたサーモクロミック性を有するサーモクロミック性フィルムが得られることから、上記表面保護層は上記金属酸化物として二酸化ケイ素を含有することが好ましい。
上記フッ化物は、例えば、フッ素イオンと化学反応することにより得られた化合物又はトリフルオロプロピルトリメトキシシラン等のフッ素を含有するシランカップリング剤を化学反応することにより得られた化合物等を含有することが好ましい。
【0027】
上記表面保護層は単層であってもよく、多層であってもよい。上記表面保護層は、フッ化物を含有する層と金属酸化物を含有する層とを有することが好ましく、フッ化物層と金属酸化物層とを有することがより好ましい。上記表面保護層が上記フッ化物を含有する層と金属酸化物を含有する層を有することにより、又は、上記表面保護層が上記フッ化物層と上記金属酸化物層とを有することにより、二酸化バナジウム粒子の酸化をより一層抑制することができる。
上記フッ化物層は、主成分がフッ化物であることが好ましく、実質的にフッ化物にて構成されていることがより好ましい。
上記金属酸化物層は、主成分が金属酸化物であることが好ましく、実質的に金属酸化物にて構成されていることがより好ましい。
【0028】
上記表面保護層は、フッ化物を含有する層と金属酸化物を含有する層とが積層されていることが好ましい。上記表面保護層を容易に形成することができることから、上記二酸化バナジウム粒子側から上記表面保護層側に向かって、フッ化物を含有する層と金属酸化物を含有する層とがこの順に積層されていることが好ましい。同様に、上記表面保護層を容易に形成することができることから、上記二酸化バナジウム粒子側から上記表面保護層側に向かって、フッ化物層と金属酸化物層とがこの順に積層されていることが好ましい。
【0029】
上記表面保護層の厚みの好ましい下限は0.5nm、好ましい上限は2000nm、より好ましい下限は1nm、より好ましい上限は1000nmである。上記表面保護層の厚みが上記下限以上であると二酸化バナジウム粒子の酸化をより一層抑制することができ、上記上限以下であると、優れたサーモクロミック性を有するフィルムが得られる。
【0030】
上記金属酸化物を含有する層及び上記金属酸化物層の厚みの好ましい下限は0.5nm、好ましい上限は2000nm、より好ましい下限は1nm、より好ましい上限は1000nmである。上記金属酸化物を含有する層及び上記金属酸化物層の厚みが0.5nm以上であることで、二酸化バナジウム粒子の酸化をより一層抑制することができ、2000nm以下であることで、優れたサーモクロミック性を有するフィルムが得られる。
【0031】
上記フッ化物を含有する層及び上記フッ化物層の厚みの好ましい下限は0.5nm、好ましい上限は2000nm、より好ましい下限は1nm、より好ましい上限は1000nmである。上記フッ化物を含有する層及び上記フッ化物層の厚みが0.5nm以上であることで、二酸化バナジウム粒子の酸化をより一層抑制することができ、2000nm以下であることで、優れたサーモクロミック性を有するフィルムが得られる。
なお、上記表面保護層、上記金属酸化物を含有する層、上記金属酸化物層、上記フッ化物を含有する層及び上記フッ化物層の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定することができる。上記厚みとは最も厚い部分の厚みを意味する。
【0032】
本発明の製造方法で得られる表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子、及び、上記表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子と、熱可塑性樹脂とを含有するサーモクロミック性フィルムもまた本発明の1つである。
【0033】
本発明のサーモクロミック性フィルムにおける上記表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の含有量は、サーモクロミック性フィルム100重量%中、好ましい下限は0.001重量%、好ましい上限は20重量%、より好ましい下限は0.01重量%、より好ましい上限は10重量%、更に好ましい下限は0.02重量%、更に好ましい上限は5重量%である。上記表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の含有量が0.001重量%以上であることで、優れたサーモクロミック性を有するフィルムが得られる。上記表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の含有量が20重量%以下であることで、サーモクロミック性フィルムの透明性が高くなる。
【0034】
また、本発明のサーモクロミック性フィルムにおける上記表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の含有量は、上記熱可塑性樹脂100重量部に対して好ましい下限が0.001重量部、好ましい上限が20重量部である。上記表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の含有量が0.001重量部以上であることで、充分なサーモクロミック特性を得ることができ、20重量部以下であることで、サーモクロミック性フィルムの透明性が高くなる。上記表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の含有量のより好ましい下限は0.01重量部、より好ましい上限は5重量部である。
【0035】
上記表面保護層を形成する方法は特に限定されない。例えば、上記表面保護層が酸化チタン層である場合、上記酸化チタン層を形成する方法として、チタンフッ化アンモニウムとほう酸を含有する水溶液と、二酸化バナジウム粒子との混合液を攪拌しながら一定時間反応させた後、回収した粒子を高温環境下にて真空乾燥させる方法等が挙げられる。
【0036】
本発明のサーモクロミック性フィルムは熱可塑性樹脂を含有する。
上記熱可塑性樹脂として、従来公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。上記熱可塑性樹脂は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記熱可塑性樹脂としては、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−アクリル共重合体樹脂、ポリウレタン樹脂及びポリビニルアルコール樹脂等が挙げられる。
上記熱可塑性樹脂は、ポリビニルアセタール樹脂であることが好ましい。上記ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤との併用により、ガラス板に対するサーモクロミック性フィルムの接着力をより一層高くすることができる。
【0037】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、例えば、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することにより製造できる。上記ポリビニルアルコールは、例えば、ポリ酢酸ビニルをけん化することにより製造できる。上記ポリビニルアルコールのけん化度は、一般に80〜99.8モル%である。
上記ポリビニルアルコールの平均重合度は、好ましくは200以上、より好ましくは500以上、更に好ましくは1600以上、最も好ましくは2700以上、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3500以下である。上記平均重合度が200以上であることで、本発明のサーモクロミック性フィルムを合わせガラス用中間膜として用いた場合、合わせガラスの耐貫通性がより一層高くなる。上記平均重合度が5000以下であることで、サーモクロミック性フィルムの成形が容易になる。
【0038】
上記ポリビニルアセタール樹脂に含まれているアセタール基の炭素数は特に限定されない。上記ポリビニルアセタール樹脂を製造する際に用いるアルデヒドは特に限定されない。上記ポリビニルアセタール樹脂におけるアセタール基の炭素数は3又は4であることが好ましい。上記ポリビニルアセタール樹脂におけるアセタール基の炭素数が3以上であると、サーモクロミック性フィルムのガラス転移温度が充分に低くなる。
【0039】
上記アルデヒドは特に限定されない。上記アルデヒドとして、一般には、炭素数が1〜10のアルデヒドが好適に用いられる。上記炭素数が1〜10のアルデヒドとしては、例えば、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n−バレルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、n−オクチルアルデヒド、n−ノニルアルデヒド、n−デシルアルデヒド、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド及びベンズアルデヒド等が挙げられる。なかでも、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド又はn−バレルアルデヒドが好ましく、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド又はイソブチルアルデヒドがより好ましく、n−ブチルアルデヒドが更に好ましい。上記アルデヒドは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0040】
上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率(水酸基量)は、好ましくは10モル%以上、より好ましくは15モル%以上、更に好ましくは18モル%以上、好ましくは40モル%以下、より好ましくは35モル%以下、更に好ましくは25モル%以下である。上記水酸基の含有率が上記下限以上であると、サーモクロミック性フィルムの耐湿性がより一層高くなる。上記水酸基の含有率が上記上限以下であると、サーモクロミック性フィルムの柔軟性が高くなり、取扱いが容易になる。
上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率は、水酸基が結合しているエチレン基量を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率(モル%)で表した値である。上記水酸基が結合しているエチレン基量は、例えば、JIS K6726「ポリビニルアルコール試験方法」に準拠して、原料となるポリビニルアルコールの水酸基が結合しているエチレン基量を測定することにより求めることができる。
【0041】
上記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度(アセチル基量)は、好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは0.3モル%以上、更に好ましくは0.5モル%以上、特に好ましくは15モル%以上、好ましくは30モル%以下、より好ましくは25モル%以下、更に好ましくは20モル%以下である。上記アセチル化度が上記下限以上であると、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤の相溶性が高くなる。上記アセチル化度が上記上限以下であると、サーモクロミック性フィルムの耐湿性がより一層高くなる。
上記アセチル化度は、主鎖の全エチレン基量から、アセタール基が結合しているエチレン基量と、水酸基が結合しているエチレン基量とを差し引いた値を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率(モル%)で表した値である。上記アセタール基が結合しているエチレン基量は、例えば、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠して測定できる。
【0042】
上記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度(ポリビニルブチラール樹脂の場合はブチラール化度)は、好ましくは60モル%以上、より好ましくは63モル%以上、好ましくは85モル%以下、より好ましくは75モル%以下、更に好ましくは70モル%以下である。上記アセタール化度が上記下限以上であると、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤との相溶性が高くなる。上記アセタール化度が上記上限以下であると、ポリビニルアセタール樹脂を製造するために必要な反応時間が短くなる。
上記アセタール化度は、アセタール基が結合しているエチレン基量を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率(モル%)で表した値である。
上記アセタール化度は、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により、アセチル基量と水酸基の含有率とを測定し、得られた測定結果からモル分率を算出し、次いで、100モル%からアセチル基量と水酸基の含有率とを差し引くことにより算出され得る。
なお、ポリビニルアセタール樹脂がポリビニルブチラール樹脂である場合には、上記アセタール化度(ブチラール化度)およびアセチル基量は、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により測定された結果から算出され得る。
【0043】
本発明のサーモクロミック性フィルムにおける上記熱可塑性樹脂の含有量は、上記サーモクロミック性フィルム100重量%中、好ましい下限は10重量%、好ましい上限は95重量%、より好ましい下限は20重量%、より好ましい上限は90重量%、更に好ましい下限は30重量%、更に好ましい上限は85重量%である。
【0044】
本発明のサーモクロミック性フィルムは可塑剤を含有することが好ましい。
上記可塑剤は特に限定されない。該可塑剤として、従来公知の可塑剤を用いることができる。上記可塑剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。上記可塑剤としては、例えば、一塩基性有機酸エステル及び多塩基性有機酸エステル等などの有機エステル可塑剤、並びに有機リン酸可塑剤及び有機亜リン酸可塑剤などのリン酸可塑剤等が挙げられる。なかでも、有機エステル可塑剤が好ましい。上記可塑剤は液状可塑剤であることが好ましい。
【0045】
上記一塩基性有機酸エステルとしては、特に限定されず、例えば、グリコールと一塩基性有機酸との反応によって得られたグリコールエステル、並びにトリエチレングリコール又はトリプロピレングリコールと一塩基性有機酸とのエステル等が挙げられる。上記グリコールとしては、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール及びトリプロピレングリコール等が挙げられる。上記一塩基性有機酸としては、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2−エチル酪酸、ヘプチル酸、n−オクチル酸、2−エチルヘキシル酸、n−ノニル酸及びデシル酸等が挙げられる。
【0046】
上記多塩基性有機酸エステルとしては、特に限定されず、例えば、多塩基性有機酸と、炭素数4〜8の直鎖又は分岐構造を有するアルコールとのエステル化合物が挙げられる。上記多塩基性有機酸としては、アジピン酸、セバシン酸及びアゼライン酸等が挙げられる。上記有機エステル可塑剤としては、特に限定されず、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジカプリレート、トリエチレングリコールジ−n−オクタノエート、トリエチレングリコールジ−n−ヘプタノエート、テトラエチレングリコールジ−n−ヘプタノエート、ジブチルセバケート、ジオクチルアゼレート、ジブチルカルビトールアジペート、エチレングリコールジ−2−エチルブチレート、1,3−プロピレングリコールジ−2−エチルブチレート、1,4−ブチレングリコールジ−2−エチルブチレート、ジエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、ジエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート、ジプロピレングリコールジ−2−エチルブチレート、トリエチレングリコールジ−2−エチルペンタノエート、テトラエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、ジエチレングリコールジカプリエート、アジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ヘキシルシクロヘキシル、アジピン酸ヘプチルとアジピン酸ノニルとの混合物、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ヘプチルノニル、セバシン酸ジブチル、油変性セバシン酸アルキド、及びリン酸エステルとアジピン酸エステルとの混合物等が挙げられる。これら以外の有機エステル可塑剤を用いてもよい。
【0047】
上記有機リン酸可塑剤としては、特に限定されず、例えば、トリブトキシエチルホスフェート、イソデシルフェニルホスフェート及びトリイソプロピルホスフェート等が挙げられる。
【0048】
上記可塑剤は、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)及びトリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート(3GH)の内の少なくとも1種であることが好ましく、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエートであることがより好ましい。
【0049】
上記熱可塑性樹脂100重量部に対して、上記可塑剤の含有量は25〜50重量部であることが好ましい。上記熱可塑性樹脂100重量部に対して、上記可塑剤の含有量は、より好ましくは30重量部以上、より好ましくは50重量部以下である。上記可塑剤の含有量が上記下限以上であると、サーモクロミック性フィルムの耐貫通性がより一層高くなる。上記可塑剤の含有量が上記上限以下であると、サーモクロミック性フィルムの透明性がより一層高くなる。
【0050】
本発明のサーモクロミック性フィルムは分散剤を含有してもよい。
上記分散剤は、サーモクロミック性フィルム中に、上記二酸化バナジウム粒子を分散させる役割を有する。
上記分散剤として、グリセリンエステル、ポリカルボン酸等が挙げられる。
上記グリセリンエステルは特に限定されず、例えば、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリントリステアリン酸エステル、デカグリセリンデカステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンモノステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンジステアリン酸エステル、ヘキサグリセリントリステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンペンタステアリン酸エステル、テトラグリセリンモノステアリン酸エステル、テトラグリセリントリステアリン酸エステル、テトラグリセリンペンタステアリン酸エステル、ポリグリセリンステアリン酸エステル、グリセロールモノステアレート、デカグリセリンモノオレイン酸エステル、デカグリセリンデカオレイン酸エステル、ヘキサグリセリンモノオレイン酸エステル、ヘキサグリセリンペンタオレイン酸エステル、テトラグリセリンモノオレイン酸エステル、テトラグリセリンペンタオレイン酸エステル、ポリグリセリンオレイン酸エステル、グリセロールモノオレエート、2−エチルヘキサン酸トリグリセライド、カプリン酸モノグリセライド、カプリン酸トリグリセライド、ミリスチン酸モノグリセライド、ミリスチン酸トリグリセライド、デカグリセリンモノカプリル酸エステル、ポリグリセリンカプリル酸エステル、カプリル酸トリグリセライド、デカグリセリンモノラウリン酸エステル、ヘキサグリセリンモノラウリン酸エステル、テトラグリセリンモノラウリン酸エステル、ポリグリセリンラウリン酸エステル、デカグリセリンヘプタベヘニン酸エステル、デカグリセリンドデカベヘニン酸エステル、ポリグリセリンベヘニン酸エステル、デカグリセリンエルカ酸エステル、ポリグリセリンエルカ酸エステル、テトラグリセリン縮合リシノール酸エステル、ヘキサグリセリン縮合リシノール酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル等が挙げられる。
上記グリセリンエステルのうち市販品としては、例えば、SYグリスターCR−ED(阪本薬品工業社製、縮合リシノール酸ポリグリセリン酸エステル)、SYグリスターPO−5S(阪本薬品工業社製、オレイン酸ヘキサグリセリンペンタエステル)等が挙げられる。
上記ポリカルボン酸は特に限定されず、例えば、主鎖骨格にカルボキシル基を有するポリマーにポリオキシアルキレンをグラフトしたポリカルボン酸重合体等が挙げられる。
上記ポリカルボン酸のうち市販品としては、例えば、日油社製マリアリムシリーズ(AFB−0561、AKM−0531、AFB−1521、AEM−3511、AAB−0851、AWS−0851、AKM−1511−60等)等が挙げられる。
【0051】
また、上記分散剤として、水系分散剤を用いることができる。上記水系分散剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンアルキル(ヤシ)アミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレン牛脂アルキルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンアルキルプロピレンジアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキサイド付加物等を挙げることができる。
上記水系分散剤は、表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子を分散させるために、添加することもできるが、二酸化バナジウムの表面保護層を形成する際にも分散剤として使用することもできる。例えば、酸化チタン層の表面保護層を形成する場合に、チタンフッ化アンモニウムとホウ酸を含有する水溶液と、二酸化バナジウム粒子との混合液に、上記水系分散剤を添加することができる。
【0052】
本発明のサーモクロミック性フィルムにおける上記分散剤の含有量は、上記表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子100重量部に対して、好ましい下限は0.1重量部、好ましい上限は5000重量部、より好ましい下限は1重量部、より好ましい上限は2000重量部、更に好ましい下限は10重量部、更に好ましい上限は1000重量部である。上記分散剤の含有量が上記下限以上であると、上記表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の分散性が向上するため、サーモクロミック性フィルムの透明性が高くなる。上記分散剤の含有量が上記上限以下であると、上記分散剤の析出を抑制できるため、サーモクロミック性フィルムの透明性が高くなる。
【0053】
本発明のサーモクロミック性フィルムは、低揮発性有機溶剤、ショ糖脂肪酸エステル等の保留剤、接着力調整剤、非カチオン性界面活性剤、安定剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤等の従来公知の添加剤を含有してもよい。
【0054】
上記赤外線吸収剤は、サーモクロミック性フィルムの遮熱性を向上させる役割を有する。上記赤外線吸収剤として、錫ドープ酸化インジウム粒子、アンチモンドープ酸化錫粒子、セシウムドープ酸化タングステン粒子等の金属酸化物粒子を含有してもよい。
【0055】
本発明のサーモクロミック性フィルムの膜厚は特に限定されないが、合わせガラスに適用する場合、最小限必要な耐貫通性を考慮すると、実用的には、好ましい下限が0.1mm、好ましい上限が1.0mmであり、より好ましい下限が0.3mm、より好ましい上限が0.8mmである。
【0056】
本発明のサーモクロミック性フィルムは、耐貫通性の向上を目的として、必要に応じて他のフィルムが積層されてもよい。また、本発明のサーモクロミック性フィルムは、遮音性能を有する遮音膜等が積層されてもよい。上記他のフィルム及び上記遮音膜としては、特に限定されず、公知のフィルム又は遮音膜を挙げることができる。
【0057】
本発明のサーモクロミック性フィルムを製造する方法は特に限定されないが、上記表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子と上記熱可塑性樹脂と必要に応じて配合する添加剤との混合物を用いてサーモクロミック性フィルムを製造する方法や、上記表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子と有機溶媒とを含有する分散液と上記熱可塑性樹脂と必要に応じて配合する添加剤との混合物を用いてサーモクロミック性フィルムを製造する方法が挙げられる。
上記混合物を作製する方法として、押出機、プラストグラフ、ニーダー、バンバリーミキサー、カレンダーロール等を用いる方法が挙げられる。なかでも、連続的な生産に適することから、押出機を用いる方法が好適である。
本発明のサーモクロミック性フィルムを成形する方法として、押し出し法、カレンダー法、プレス法等が挙げられる。
【0058】
上記表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の分散性を向上させるために、分散液を用いることが好ましい。上記分散液は、上記表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子、上記分散剤及び有機溶媒を含有することが好ましい。
上記分散液中における上記表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の分散径(D50)の好ましい上限は100μmである。D50が100μm以下であると、透明性に優れるサーモクロミック性フィルムを製造することができる。D50のより好ましい上限は10μmである。D50の下限については特に限定されないが、実質的には10nmが限界であると考えられる。
なお、本明細書においてD50とは、粒子をある粒子径から2つに分けたときに、大きい側と小さい側が等量となる粒子径のことを意味する。
【0059】
上記分散液中における上記表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の含有量の好ましい下限は0.001重量%、好ましい上限は60重量%である。上記表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の含有量が0.001重量%以上であると、優れたサーモクロミック特性を有するフィルムを得ることができ、60重量%以下であると、透明性に優れるサーモクロミック性フィルムを製造することができる。上記表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の含有量のより好ましい下限は0.01重量%、より好ましい上限は40重量%である。
【0060】
上記分散液中における上記分散剤の含有量の好ましい下限は0.001重量%、好ましい上限は30重量%である。上記分散剤の含有量が0.001〜30重量%の範囲内であると、上記表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の優れた分散効果を得ることができる。上記分散剤の含有量のより好ましい下限は0.01重量%、より好ましい上限は10重量%である。
【0061】
上記有機溶媒は特に限定されず、メタノール、エタノール等のアルコールが挙げられる。また、上記有機溶媒として、例えば、合わせガラス用中間膜の可塑剤として用いられる従来公知の液状可塑剤等を用いることができる。上記液状可塑剤は、例えば、ジヘキシルアジペート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、テトラエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、テトラエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエート及びトリエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエート等が挙げられ、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエートであることがより好ましい。
【0062】
上記分散液を製造する方法は特に限定されないが、例えば、上記表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子、上記分散剤、上記有機溶媒及び必要に応じて添加する添加剤を、ビーズミル、遊星式攪拌装置、湿式メカノケミカル装置、ヘンシェルミキサー、ホモジナイザー、超音波照射機等を用いて混練する方法等が挙げられる。
【0063】
上記分散液は、表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の分散安定性に優れ、これを用いることによりサーモクロミック性を有し、透明性に優れたサーモクロミック性フィルムを製造することができる。
【0064】
このような優れたサーモクロミック性を有する本発明のサーモクロミック性フィルムは、合わせガラス用中間膜として使用することができる。このような本発明のサーモクロミック性フィルムを用いた合わせガラス用中間膜もまた、本発明の一つである。
【0065】
本発明の合わせガラス用中間膜が、2枚の透明板の間に挟み込まれている合わせガラスもまた、本発明の1つである。
本発明の合わせガラスの製造方法は特に限定されず、従来公知の製造方法を用いることができる。
【0066】
上記透明板は特に限定されず、一般に使用されている透明板ガラスを使用することができる。例えば、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入り板ガラス、線入り板ガラス、着色された板ガラス、熱線吸収板ガラス、熱線反射板ガラス、グリーンガラス等の無機ガラスが挙げられる。また、ポリカーボネートやポリアクリレート等の有機プラスチックス板を用いることもできる。
【0067】
上記2枚の透明板は、同種の透明板であってもよいし、異種の透明板であってもよい。異種の透明板の組み合わせは、例えば、透明フロート板ガラスとグリーンガラスのような着色された板ガラスとの組み合わせや、無機ガラスと有機プラスチックス板との組み合わせ等が挙げられる。
【0068】
本発明のサーモクロミック性フィルムはまた、貼り付け用フィルムとして使用することができる。上記貼り付け用フィルムは、例えば、ビルや一般家庭の住居における窓ガラス、又は、自動車や電車等の輸送機材に用いられる窓ガラスに貼り付けて使用することができる。
このような本発明のサーモクロミック性フィルムを用いた貼り付け用フィルムもまた、本発明の1つである。
上記貼り付け用フィルムは、更に接着層を有していてもよい。上記接着層としては、特に限定されず、上記貼り付け用フィルムを窓ガラス等に接着し得る公知の接着剤を含む層を挙げることができる。
【発明の効果】
【0069】
本発明によれば、長期間保管しても、優れたサーモクロミック性を維持することが可能な表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の製造方法、該製造方法によって得られる表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子、並びに、該表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子を用いたサーモクロミック性フィルム、合わせガラス用中間膜、合わせガラス及び貼り付け用フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0070】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されない。
【0071】
(実施例1)
(1)表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の調製
0.1mol/Lチタンフッ化アンモニウム((NHTiF)と0.2mol/Lほう酸を含有する水溶液500mlと、体積平均粒径が77μmの二酸化バナジウム粒子(新興化学社製)3gとを混合し、混合液を得た。混合液を攪拌しながら、35℃で2時間を反応させた。なお、水溶液におけるTiF2−の濃度は0.2Mであった。
反応後に、ろ過、洗浄工程を経て回収した粒子を120℃で1時間真空乾燥した。
FE−SEMに付属されているエネルギー分散型X線(EDX)(HORIBA社製「EX−320」)を用いて、得られた粒子の表面保護層の元素組成を分析した。その結果、二酸化バナジウム粒子の表面を被覆するように表面保護層が形成されていることを確認した。更に、二酸化バナジウム粒子の表面に、酸化チタン層(厚み50nm)が形成されていることを確認した。
【0072】
(2)表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子分散液の調製
表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子3重量部と、分散剤として縮合リシノール酸ポリグリセリンエステル(SYグリスターCR−ED、阪本薬品工業社製)1重量部と、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)28重量部とをビーズミルで混合し、表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子分散液を得た。
【0073】
(3)合わせガラス用中間膜の作製
表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子分散液32重量部とポリビニルブチラール樹脂(水酸基の含有率30.5モル%、アセチル基量1モル%、平均重合度が1700であるポリビニルアルコールをn−ブチルアルデヒドでブチラール化して得られた樹脂)72重量部とを混合し、混合物を得た。得られた混合物を、押出機を用いて、厚み760μmの合わせガラス用中間膜を作製した。
【0074】
(4)合わせガラスの作製
合わせガラス用中間膜(縦5cm×横5cm)を、2枚の透明なフロートガラス(縦5cm×横5cm、厚さ2mm)の間に挟み、積層体とし、この積層体をゴムバックに入れ、ゴムバック内の圧力−53.2KPa下で100℃まで昇温し、100℃、−53.2KPa下で20分間保持した後に室温まで冷却し、減圧を解除し、合わせガラスを得た。
【0075】
(実施例2)
表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の調製において、反応時間を5時間に変更した以外は実施例1と同様に、表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子を作製した。
なお、FE−SEMに付属されているエネルギー分散型X線(EDX)(HORIBA社製「EX−320」)を用いて、得られた粒子の表面保護層の元素組成を分析した。その結果、二酸化バナジウム粒子の表面を被覆するように表面保護層が形成されていることを確認した。更に、二酸化バナジウム粒子の表面に、酸化チタン層(厚み200nm)が形成されていることを確認した。
得られた表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子を用いた点以外は、実施例1と同様にして、合わせガラス用中間膜及び合わせガラスを作製した。
【0076】
(実施例3)
0.1mol/Lチタンフッ化アンモニウム((NHTiF)と0.2mol/Lほう酸を含有する水溶液500mlと、体積平均粒径が230nmの二酸化バナジウム粒子(新興化学社製)3g、分散剤としてポリオキシエチレンアルキルアミン(アミート320、花王社製)3gと混合し、混合液を得た。混合液を攪拌しながら、35℃で5時間反応させた。反応後に、ろ過、洗浄工程を経て回収した粒子を35℃で1時間真空乾燥した。
FE−SEMに付属されているエネルギー分散型X線(EDX)(HORIBA社製「EX−320」)を用いて、得られた粒子の表面保護層の元素組成を分析した。その結果、二酸化バナジウム粒子の表面を被覆するように表面保護層が形成されていることを確認した。更に、二酸化バナジウム粒子の表面に、酸化チタン層(厚み125nm)が形成されていることを確認した。
得られた表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子を用いた点以外は、実施例1と同様にして、合わせガラス用中間膜及び合わせガラスを作製した。
【0077】
(実施例4)
0.1mol/ケイフッ化アンモニウム((NHSiF)と0.2mol/Lほう酸を含有する水溶液500mlと、体積平均粒径が230nmの二酸化バナジウム粒子(新興化学社製)3g、分散剤としてポリオキシエチレンアルキルアミン(アミート320、花王社製)3gと混合し、混合液を得た。混合液を攪拌しながら、35℃で2時間反応させた。反応後に、ろ過、洗浄工程を経て回収した粒子を35℃で1時間真空乾燥した。
FE−SEMに付属されているエネルギー分散型X線(EDX)(HORIBA社製「EX−320」)を用いて、得られた粒子の表面保護層の元素組成を分析した。その結果、二酸化バナジウム粒子の表面を被覆するように表面保護層が形成されていることを確認した。更に、二酸化バナジウム粒子の表面に、二酸化ケイ素層(厚み190nm)が形成されていることを確認した。
上記で得られた表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子を用いた点以外は、実施例1と同様にして、合わせガラス用中間膜及び合わせガラスを作製した。
【0078】
(実施例5)
表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の調製において、反応時間を5時間に変更した以外は実施例4と同様に、表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子、合わせガラス用中間膜及び合わせガラスを作製した。
FE−SEMに付属されているエネルギー分散型X線(EDX)(HORIBA社製「EX−320」)を用いて、得られた粒子の表面保護層の元素組成を分析した。その結果、二酸化バナジウム粒子の表面を被覆するように表面保護層が形成されていることを確認した。更に、二酸化バナジウム粒子の表面に、二酸化ケイ素層(厚み220nm)が形成されていることを確認した。
上記で得られた表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子を用いた点以外は、実施例1と同様にして、合わせガラス用中間膜及び合わせガラスを作製した。
【0079】
(比較例1)
表面保護層を形成しなかった以外は実施例3と同様に、合わせガラス用中間膜及び合わせガラスを作製した。
【0080】
(比較例2)
表面保護層を形成しなかった以外は実施例4と同様に、合わせガラス用中間膜及び合わせガラスを作製した。
【0081】
(比較例3)
体積平均粒径が77μmの二酸化バナジウム粒子(新興化学社製)5gを水/エタノール混合液(10/90g)に添加し、混合液を得た。混合液を攪拌しながら、シランカップリング剤(KBE−403、信越化学社製)0.25gをゆっくり滴下した。滴化後、35℃で1時間反応させた。反応後に、ろ過、洗浄工程を経て回収した粒子を120℃で1時間真空乾燥した。
FE−SEMに付属されているエネルギー分散型X線(EDX)(HORIBA社製「EX−320」)を用いて、得られた粒子の表面保護層の元素組成を分析した。その結果、二酸化バナジウム粒子の表面を被覆するように表面保護層が形成されていなかった。
【0082】
(比較例4)
体積平均粒径が230nmの二酸化バナジウム粒子(新興化学社製)5gを水/エタノール混合液(10/90g)に添加し、混合液を得た。混合液を攪拌しながら、シランカップリング剤(KBE−403、信越化学社製)0.25gをゆっくり滴下した。滴化後、35℃で1時間反応させた。反応後に、ろ過、洗浄工程を経て回収した粒子を120℃で1時間真空乾燥した。
FE−SEMに付属されているエネルギー分散型X線(EDX)(HORIBA社製「EX−320」)を用いて、得られた粒子の表面保護層の元素組成を分析した。その結果、二酸化バナジウム粒子の表面を被覆するように表面保護層が形成されていなかった。
【0083】
(評価)
実施例及び比較例で得られた二酸化バナジウム粒子について以下の方法により評価を行った。
結果を表1に示した。
【0084】
(1)酸化促進評価
得られた二酸化バナジウム粒子を、X線回折法(XRD)(Rigaku社製「RINT1000」)を用いて測定し、VOメインピーク((011)面、2θ=27.8°)における半値幅βを算出した(酸化促進評価前)。更に、得られた二酸化バナジウム粒子を85℃のオーブン内に1時間保管した後、同様に、半値幅βを算出した(酸化促進評価後)。なお、酸化等の劣化が進行すると、半値幅の数値が高くなる。
【0085】
(2)サーモクロミック性評価
酸化促進評価前の二酸化バナジウム粒子及び酸化促進評価後の二酸化バナジウム粒子の相転移時の熱量ΔH(mJ/mg)を、示差走査熱量計DSC(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製「DSC6220」)を用いて測定した。酸化促進評価前の二酸化バナジウム粒子の熱量ΔHを100とした場合の酸化促進評価後の二酸化バナジウム粒子の熱量ΔHを算出した。なお、0℃〜100℃までの温度範囲を昇温速度5℃/minの条件で、窒素雰囲気下にて、熱量ΔHを測定した。
【0086】
【表1】

【0087】
実施例の表面保護層が形成された二酸化バナジウム粒子は酸化を抑制することができるため、長期間保管しても優れたサーモクロミック性を得ることができた。また、実施例の表面保護層が形成された二酸化バナジウム粒子を含有する合わせガラス用中間膜も同様に、長期間保管しても優れたサーモクロミック性を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、長期間保管しても、優れたサーモクロミック性を維持することが可能な表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の製造方法、該製造方法によって得られる表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子、並びに、該表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子を用いたサーモクロミック性フィルム、合わせガラス用中間膜、合わせガラス及び貼り付け用フィルムを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子を製造する方法であって、
周期律表第4、13及び14族の元素から選択される少なくとも1種の特定元素とフッ素とを含有する錯体イオンを含有する表面処理液と二酸化バナジウム粒子とを混合することにより、前記二酸化バナジウム粒子に表面保護層を形成する工程を有する
ことを特徴とする表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の製造方法。
【請求項2】
錯体イオンは、AF2−(A:周期律表第4、13及び14族の元素から選択される少なくとも1種の特定元素)であることを特徴とする請求項1記載の表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の製造方法。
【請求項3】
特定元素が、ケイ素、チタン、ジルコニム、及び、アルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2記載の表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の製造方法。
【請求項4】
表面保護層を形成する工程において、更にホウ酸を添加することを特徴とする請求項1、2又は3記載の表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載の表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の製造方法で得られることを特徴とする表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子。
【請求項6】
請求項5記載の表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子と、熱可塑性樹脂とを含有することを特徴とするサーモクロミック性フィルム。
【請求項7】
更に、可塑剤を含有することを特徴とする請求項6記載のサーモクロミック性フィルム。
【請求項8】
請求項6又は7記載のサーモクロミック性フィルムを用いることを特徴とする合わせガラス用中間膜。
【請求項9】
請求項8記載の合わせガラス用中間膜が、2枚の透明板の間に挟み込まれていることを特徴とする合わせガラス。
【請求項10】
請求項6又は7記載のサーモクロミック性フィルムを用いることを特徴とする貼り付け用フィルム。

【公開番号】特開2013−75806(P2013−75806A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217937(P2011−217937)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】