説明

表面修飾カーボンナノ材料及びPt系触媒の製造方法

【課題】 Pt微粒子の凝集を防止し、Ptの使用量が少なくても触媒能が高いPt系触媒、及びそのための表面修飾カーボンナノ材料の製造方法を提供する。
【解決手段】 カーボンナノ材料とコハク酸アシル過酸化物とを溶媒中で加熱し、該カーボンナノ材料の表面にカルボキシル基を導入して表面修飾カーボンナノ材料を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面修飾されたカーボンナノ材料の製造方法、及び燃料電池等に好適に使用できるPt系触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車の動力源である燃料電池の触媒活性の向上が重要な課題の一つとなっている。このようなメタノールを使用する燃料電池の電極材料として、従来から白金系触媒をカーボンに担持させたものが用いられている。又、白金−ルテニウム(Pt−Ru)合金触媒が用いられてきている(例えば、特許文献1、2参照)。Ruは、Pt上に吸着したCOをCOに酸化し、Ptの被毒を防止する。
しかし、これらの技術の場合、担体上でPtやRuの微粒子が凝集して粗大化し、触媒の有効表面積が向上し難いという問題がある。
【0003】
このようなことから、担体上にアルコール還元法で生成したPtRu合金を、300〜500℃で加熱処理することにより、PtとRuの金属微粒子の原子間距離を更に接近させて合金化する技術が開発されている(例えば、特許文献3参照)。この技術によれば、粒子径1nm〜50nmのPtRu触媒微粒子が得られるとされる。
【0004】
【特許文献1】特開平2−111440号公報
【特許文献2】特開2004−267961号公報
【特許文献3】特開2005−177661号公報(段落0023)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した特許文献3記載の技術を用いても、PtやRu微粒子の凝集を防止することは難しく、触媒の有効表面積を向上させる点で不充分である。
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、PtやRu微粒子の凝集を防止し、Ptの使用量が少なくても触媒能が高いPt系触媒の製造方法、及びそのための表面修飾カーボンナノ材料の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の表面修飾カーボンナノ材料の製造方法は、カーボンナノ材料とコハク酸アシル過酸化物とを溶媒中で加熱し、該カーボンナノ材料の表面にカルボキシル基を導入することを特徴とする。
本発明のPt系触媒の製造方法は、前記表面修飾カーボンナノ材料と、Ru前駆体及び/又はPt前駆体とを共存させた状態で、前記Ru前駆体及び/又はPt前駆体を還元させ、前記表面修飾カーボンナノ材料表面にRu金属微粒子及び/又はPt金属微粒子とを担持させる工程と、前記Ru金属微粒子及び/又はPt金属微粒子を担持させた前記表面修飾カーボンナノ材料を、非酸化雰囲気で熱処理する工程とを有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、Pt微粒子の凝集を防止し、Ptの使用量が少なくても触媒能が高いPt系触媒が得られる。又、本発明によれば、このようなPt系触媒の製造に適用可能で表面にカルボキシル基を導入した表面修飾カーボンナノ材料が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0009】
<表面修飾カーボンナノ材料の製造>
表面修飾カーボンナノ材料は、カーボンナノ材料とコハク酸アシル過酸化物とを溶媒中で加熱し、該カーボンナノ材料の表面にカルボキシル基を導入することで製造する。
1)カーボンナノ材料
カーボンナノ材料としては、例えば、多層カーボンナノチューブ(MWNT)、単層カーボンナノチューブ(SWNT)、カーボンナノ繊維(CNF)、活性カーボンナノ繊維(ACF)が例示される。
特に、以下のカルボキシル基の導入反応が進み易いことから、直径2nm以下のSWNT、又は直径10nm以下のMWNTを用いることが好ましい。
【0010】
2)コハク酸アシル過酸化物
コハク酸アシル過酸化物は、以下の式(1)
【化1】

で表され、溶媒中でカーボンナノ材料と加熱することにより、以下の式(2)
【化2】

で表される末端にラジカルを持つ分子に分解する。
コハク酸アシル過酸化物は、例えばコハク酸を過酸化水素水溶液中で攪拌することにより得られる。
【0011】
3)カーボンナノ材料とコハク酸アシル過酸化物との反応
カーボンナノ材料とコハク酸アシル過酸化物とを溶媒中で加熱することにより、カーボンナノ材料の表面にカルボキシル基を導入する。コハク酸アシル過酸化物を加熱すると式(2)のラジカルに分解し、このラジカルがカーボンナノ材料の二重結合を攻撃してカーボンナノ材料表面に結合する。これにより、カーボンナノ材料の表面にカルボキシル基が導入(修飾)される。
上記反応に用いる溶媒としては、O-ジクロロベンゼンを用いることができる。又、加熱条件としては、80〜90℃の温度で、10〜15日間行うことができる。
【0012】
ここで、カーボンナノ材料とコハク酸アシル過酸化物との配合割合を調整することにより、カルボキシル基がカーボンナノ材料の表面に結合する数を減らし、カルボキシル基をカーボンナノ材料の表面に分散して修飾させることができる。このようなことから、カーボンナノ材料とコハク酸アシル過酸化物との混合比率は、質量割合で、カーボンナノ材料1に対してコハク酸アシル過酸化物100程度とすると好ましい。コハク酸アシル過酸化物の混合割合が多くなると、カーボンナノ材料表面に多数のカルボキシル基が導入され、白金を凝集し易くなる傾向にある。
【0013】
以上のようにして、表面修飾カーボンナノ材料が製造される。
【0014】
<表面修飾カーボンナノ材料表面へのPt及び/またはRuの担持>
上記表面修飾カーボンナノ材料(担体)を用い、以下のようにしてPt系触媒を製造することができる。
【0015】
A)チオール基の修飾
まず、表面修飾カーボンナノ材料のカルボキシル基にチオール基を修飾する。本発明者らの検討によれば、従来の液状還元法(特許文献3参照)で担体にPtやRuを担持させた場合、担持の際にPtやRuが凝集してその粒子径が大きくなったり、粒子径の大きなものが混在することが判明している。
そこで、本発明者らは、担体にチオール基を分散させて修飾させ、チオール基にPtやRuを担持させることとした。これにより、担体上に分散したチオール基に選択的にPtやRuが析出するので、これら粒子の凝集を抑制し、粒子径を微細化することに成功した、チオールは、Ptの前駆体となる塩化白金溶液中の白金イオンと相互作用する官能基であるため、チオールに白金イオンが選択的に結合する。その結果、カーボンナノ材料の表面に白金を凝集させずに分散させることができる。
従って、カルボキシル基は、担体上にチオール基を分散させるための前駆体となる。
【0016】
ここで、チオール化を行う前駆体となるカルボキシル基をカーボンナノ材料表面に導入する方法として、本発明者らは、本発明方法の他に酸処理法を検討した。酸処理法は、カーボンナノ材料を高温(300〜700℃)で酸と共に加熱する方法であるが、この方法を用いるとカーボンナノ材料表面が破壊される不具合がある。一方、本発明による方法の場合、反応温度も低く、反応が緩和であるため、カーボンナノ材料表面が破壊されることが少ない。
【0017】
B)ハロゲン化処理
チオール化処理の前に上記カルボキシル基をハロゲン化処理する。ハロゲン化にはハロゲン化剤を用いることができる。
ハロゲン化剤としては、例えば、塩化チオニル、塩化アルミニウム、塩化水銀等が挙げられるがこれらに限定されない。そして、担体及びハロゲン化剤を適当な温度、時間で攪拌することによってハロゲン化処理を行うことができる。ハロゲン化処理の温度は、通常50〜100℃程度とすることができ、処理時間は特に限定されないが、通常、12時間以内であればよい。
【0018】
C)チオール化
ハロゲン化させたカルボキシル基をチオール化することにより、カーボンナノ材料表面にチオール基を導入する。チオール化の方法は特に限定されないが、有機化学的方法、機械化学的方法を用いることができる。
有機化学的方法としては、担体とチオール化剤とを反応させる方法が挙げられる。この場合、チオール化剤として、アミノメタンチオール、アミノエタンチオール、アミノドデカンチオール等の炭素数1〜12のアミノアルカンチオール;メルカプトメタノール、メルカプトエタノール、メルカプトドデカノール等の炭素数1〜12のメルカプトアルコール;アミノチオフェノール、メルカプトフェノール等のベンゼン誘導体;等が挙げられるがこれらに限定されない。
担体とチオール化剤との反応は、例えば両者を接触させて行うことができ、反応効率の点から反応温度は50〜100℃であることが好ましい。反応時間は特に限定されないが、通常、24時間以内であればよい。
【0019】
D)担体表面へのRu及び/又はPtの担持
次に、チオール化した担体と、Ru前駆体及び/又はPt前駆体を共存させた状態で、Ru前駆体及び/又はPt前駆体を還元させ、担体表面にRu金属微粒子及び/又はPt金属微粒子を担持させる。これは、金属前駆体を液状還元法で還元させる方法である。
Ru及び/又はPtの前駆体としては、これらの金属の塩又は錯体を用いることができ、たとえば、塩化ルテニウム水溶液及び/又は塩化白金水溶液が挙げられる。そして、これらの水溶液に担体を浸漬し、超音波を与えたり、攪拌することにより、担体と水溶液とを充分に接触させた後、還元剤を添加して前駆体を還元する。
還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、水素等が挙げられるが、これらに限定されない。還元剤の量は、通常、上記Ru及びPtの前駆体の合計に対して過剰量(例えば、上記前駆体の合計1mol当り1.5〜10mol)となるように調整することが好ましい。
【0020】
以上のようにして、表面がチオール化した担体に、Ru及び/又はPtの金属微粒子が担持される。これらの金属微粒子は凝集せず、担体上に微細に分散することができる。
なお、担体上にRu金属微粒子とPt金属微粒子とを共に担持させる場合、Ru金属微粒子とPt金属微粒子との割合は、Ru前駆体及びPt前駆体の濃度割合を変化させて調整することができる。
Ru及びPtの担持量は、担体表面のチオール基の数、Ru及びPt前駆体の液濃度等によって異なるが、触媒活性を維持する点から、通常、担体の10〜60質量%程度とすることが好ましい。
【0021】
E)熱処理
次に、Ru金属微粒子及び/又はPt金属微粒子とを担持させた担体を、非酸化雰囲気で熱処理することにより、担体表面のチオール基が除去されると共に、担体上に担持された隣接する金属微粒子同士が一体化し、所定の粒径となる。
熱処理はチオール基が分解する温度である200℃以上とする必要がある。熱処理を行うと、チオール基が除去され、Ru及び/又はPtの金属原子が担体上に存在する。
熱処理によりRuやPtの金属微粒子が担体上を移動して凝集し、所定の粒径となるが、これらの金属微粒子はチオール基上に選択的に存在しているため、比較的分散した小粒径の状態で凝集するようになる。そのため、従来のように、極めた大粒径の凝集体となることが少なく、触媒活性が向上する。
【0022】
熱処理温度は、200〜600℃の範囲とすることが好ましく、200℃以上300℃未満とすることがより好ましく、200〜250℃とすることが最も好ましい。熱処理温度が600℃を超えると、Ru及びPt金属微粒子が凝集して粗大化し、触媒活性が低下する場合がある。
熱処理時間は特に制限されないが、通常、1時間程度とすることができる。
非酸化雰囲気としては、例えば水素雰囲気が挙げられる。
【0023】
図1は、本発明の実施形態による表面修飾カーボンナノ材料及びPt触媒の製造工程の1例を示す。Ptは微細なクラスターとして担体表面に担持される。
【0024】
なお、Ru及びPtの金属微粒子を共に担持させた場合は、次のような凝集状態となる。まず融点の低いRuの金属微粒子が担体上を移動して凝集し、所定の粒径となる。Pt金属微粒子は凝集せず、隣接するRuの移動に伴って移動する。Ruの凝集が完了すると、Pt金属微粒子は周囲をRuの凝集体で囲まれているために、他のPt金属微粒子と凝集することが難しく、チオール化した担体に担持された時の粒径をほぼ維持すると考えられる。つまり、Ptを単独で担持させた場合に比べ、Pt金属微粒子をさらに分散させて小径の凝集体とすることができる。
従って、チオール化の時点で担持されるPtの量(原子比)を、Ruの量より少なくすることにより、熱処理によるPt金属微粒子の凝集を防止し、Ru表面にPtを分散させることができる。
【0025】
<Pt系触媒の構成>
以上のようにしてPt系触媒を製造することができる。
1)Pt触媒の構成
本発明の製造方法によって得られるPt触媒の構成は、例えば以下のようになっている。
担体表面の個々のPt金属微粒子の平均粒径は、通常0.5〜15nmであり、この金属微粒子が担体上にそれぞれ離間して分散している。Ptは触媒反応を生じさせるものである。Pt金属微粒子の平均粒径が0.5nm未満であるものは製造することが困難であり、又、以下のTEM像で確認することが困難である。一方、平均粒径が15nmを超えると、Pt粒が粗大となって触媒活性が向上せず、触媒反応に有効に寄与するPtの割合が低減する場合がある。
なお、Ru及びPt金属微粒子の平均粒径は、例えばTEM(透過型電子顕微鏡)像から求めることができる。
【0026】
2)Pt−Ru系触媒の構成
Pt−Ru系触媒の構成は、例えば以下のような構成になっている。
2−1)Ru金属微粒子
担体表面にはRu金属微粒子が分散している。Ruは、メタノールの酸化反応中間物であるCOやアルデヒドによって白金が被毒されることを防止し、Ptの触媒活性を維持するものである。Ru金属微粒子の平均粒径は0.5〜15nm程度であることが好ましい。Ru金属微粒子の平均粒径が0.5nm未満であるものは製造することが困難であり、平均粒径が15nmを超えると、Ruによる白金の被毒防止効果が改善されない。
【0027】
2−2)Pt金属微粒子
Ru金属微粒子の表面には、通常、平均粒径0.5〜15nmのPt金属微粒子が分散している。Ptは触媒反応を生じさせるものである。Pt金属微粒子の平均粒径が0.5nm未満であるものは製造することが困難であり、又、以下のTEM像で確認することが困難である。一方、平均粒径が15nmを超えると、Pt粒が粗大となって触媒活性が向上せず、触媒反応に有効に寄与するPtの割合が低減する場合がある。
【0028】
2−3)PtとRuの原子比
PtとRuの原子比は特に制限はないが、Pt/Ru=0.01〜5であることが好ましい。本発明においては、Pt金属微粒子がRu金属微粒子の表面に存在し、かつPt金属微粒子の大きさのばらつきが小さいため、触媒反応に有効に寄与するPtの割合が高くなるため、Pt/Ruの比が小さくても触媒活性を維持することができる。
Pt/Ru=0.01未満であると、Ptの触媒活性が低下する場合があり、Pt/Ru=5を超えると、Ptの使用量が多くなってコスト増となる場合がある。
【0029】
上記Pt系触媒は、燃料電電池の触媒電極、キャパシター、二次電池の複合電極などに好適に使用できる。
【0030】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
<表面修飾カーボンナノ材料の製造>
カーボンナノ材料としては、CVD法で得られた単層カーボンナノチューブ(SWNT、直径2nm以下のものを用いた。
まず、8%過酸化水素水溶液20ml中にコハク酸10gを投入した。これを1時間攪拌した後、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)膜で濾過し、少量の水で洗い、式
【化1】

で表されるコハク酸アシル過酸化物を得た。
得られたコハク酸アシル過酸化物を室温で24時間真空乾燥した後、このコハク酸アシル過酸化物500mgと、SWNT50mgをo-ジクロロベンゼン溶媒50ml中に投入し、80℃で10日間反応させた。反応の間、1日おきにコハク酸アシル過酸化物500mgを加え、合計で5gのコハク酸アシル過酸化物を反応に用い、カルボキシル基で表面修飾されたカーボンナノ材料を得た。カーボンナノ材料の表面修飾基がカルボキシル基であることは、IR(フーリエ変換赤外吸収スペクトル分析法)により確認した。
【0032】
<担体のチオール化>
上記表面修飾カーボンナノ材料(担体)50mgに塩化チオニル100mLを加えて70℃で12時間還流することにより、カーボンナノ材料表面を塩素化させた。還流後に未反応の塩化チオニルを蒸発させて除き、塩素化された表面修飾カーボンナノ材料をトラップして得た。次に、脱水トルエン中に、塩素化された表面修飾カーボンナノ材料とアミノエタンチオールとを加え、70℃で24時間反応させた後、メタノールで洗浄した。洗浄後の液を濾過し、濾過物を採取し、表面にチオール基が導入された担体を得た。
【0033】
<Ptの担持>
蒸留水40mlに、チオール化した担体50mgを加え、超音波ホモジナイザー(Sonics & Material社製、出力130W、周波数20kHz)で5分間超音波攪拌し、担体を分散させた。これに、Pt前駆体である10mmolのH2PtCl6を6.25ml加え、超音波スターラー(日本精機製作所製、出力35W、周波数40kHz)で1時間攪拌した。H2PtCl6の量は、担体0.2gに対する質量比が20%になるように調整した。
次に、純水20mlに水素化ホウ素ナトリウム0.25gを溶かした水溶液を、上記攪拌液に加えてPtを還元させ、担体表面にPt金属微粒子を担持させた。水素化ホウ素ナトリウムの量は、Ptの合計量に対し過剰量となるように調整した。還元後の単体を蒸留水で洗浄後、濾過して採取した。
【0034】
<熱処理>
Ptを担持した担体を、水素雰囲気下(100sccm)で200℃〜500℃の範囲の所定温度で1時間熱処理し、触媒を得た。熱処理は、赤外線加熱炉(アルバック理工社製、MIRA3000)を用いた。
【0035】
<評価>
1.TEM像
得られた触媒のTEM像を図2〜図6に示す。各図において、担体10の表面にPt粒2が析出しているのがわかる。なお、TEM観察用の試料は、電子顕微鏡用カーボン支持膜上に、エタノールを浸した上記触媒をスポイトで滴下し、自然乾燥したものを用いた。TEMは日立製作所製のH−9000NAR 100kVを用いた。
図2は、熱処理前の試料であり、Ptがクラスターに凝集していない単一原子分散の状態であるため、Pt粒はTEMで確認できないほど微細であった。
図3〜図6に移行するに伴い、熱処理温度が200℃〜500℃に100℃ずつ高くなっている。そのため、図3の試料ではPt粒の平均粒径が1nm程度であったが、熱処理温度が高い図6の試料ではPt粒の平均粒径が5nm程度に増加した。但し、粒径15nmを超える粗大粒は見られなかった。
【0036】
2.X線回折像
得られた触媒の粉末X線回折像を図7に示す。図において、担体10の表面にPt粒2が析出しているのがわかる。なお、TEM観察用の試料は、電子顕微鏡用カーボン支持膜上に、エタノールを浸した上記触媒をスポイトで滴下し、自然乾燥したものを用いた。TEMは日立製作所製のH−9000NAR 100kVを用いた。
図7において、熱処理前の試料はPt(111)を示すピーク(2θ=40近傍)が見られなかったが、熱処理温度を高くするに伴い、このピークが増大した。つまり、熱処理によって、Pt(111)が成長することがわかった。
なお、X線回折試料は以下のように作製した。まず、少量の触媒を細かくすりつぶし、X線回折用ソーダガラス製キャピラリ(W.Muller社製、長さ80mm、ガラス厚0.01mm、内径0.5mm)に深さ10mm程度詰めた。キャピラリの開口を封じた後、測定に供した。
粉末X線装置は、MACサイエンス社製(線源:CuKα線(λ=1.5418×10-10m(1.5418Å)、出力40kV、60mA、2θ=5〜90°)のものを用いた。
【0037】
3.X線光電子分光スペクトル測定(XPS)
得られた触媒のX線光電子分光スペクトル測定(XPS:X-ray photoelectron spectroscopy)したスペクトルを図8,9に示す。
図8において、金属状態(金属原子集合体;バルク)の結合エネルギーを横軸のM(71.2ev)で示す。熱処理前の触媒であるPt-S-SWNT(図の符号A、以下の図で同じ)は白金が単一原子に近い大きさで担持されており、バルクと比較して高エネルギー側(72.7eV)へシフトした。したがって、Pt-S-SWNTは普通の金属(バルク)とは明らかに違う電子構造を持っている。触媒にそれぞれ200、300、400、500℃で熱処理を行ったものを図の符号B、C,D,Eで表す(以下の図で同じ)。熱処理温度が大きくなるにつれて、大きな微粒子へ成長するため、電子構造がバルク(金属の状態)に近づくことが判明した。すなわち、Pt微粒子の大きさによって電子構造が変化する。
図9は、Ptに配位している硫黄のXPSスペクトルである。Aの試料では硫黄のピークが見られるが、熱処理温度473K(図のB)で硫黄が脱離し始め、573Kより高温(図のC〜E)では完全に硫黄が脱離した。燃料電池の触媒では白金に配位している硫黄が触媒反応の妨げになるので、熱を加える事で硫黄が除去できることがわかる。
なお、X線光電子分光装置はアルバックファイ社製のPHI5600(X線源:AlKα線(1486.6eV)、15kV、300w)を用いた。又、結合エネルギーは担体(カーボン)のC1S(284.5eV)を基準とした。
【0038】
4.電気化学的測定
得られた触媒の触媒活性として、メタノール酸化反応(MOR)における電気触媒活性をサイクリックボルタンメトリ(CV、608、ALS)で評価した。動作電極には上記触媒を用いた電気触媒層をコーティングした直径3mmのグラッシーカーボン電極を用いた。まず、上記した方法で20%のPtを担持させた上記カーボンナノ材料3mgと、5w%のナフィオンを含むエタノール6μlとを150μlのイソプロピルアルコールに投入し、1時間超音波分散した。このスラリーを6μlとり、上記グラッシーカーボン電極上に塗布し、60℃で1時間で乾燥させた。カウンター電極とリファレンス電極として、それぞれPt線と飽和カロメル電極(SCE)を用いた。
触媒を含む動作電極をサイクリックボルタンメトリ装置に取り付け、溶液として0.5mol/l硫酸溶液を用いた。測定系を窒素ガスで1分間パージした後、走査速度を高速にして電極を電気化学的にクリーニングした。その後、電解液(0.5mol/l硫酸+2mol/lメタノール)中、走査速度50mV/sで、0〜0.96V(飽和カロメロ電極(SCE)基準)の範囲でサイクリックボルタモグラムを得た。
得られたサイクリックボルタモグラムを図10に示す。この図から、熱処理なし(A)、及び熱処理温度200℃(B)の試料では酸化活性がほとんど見られなかった。この理由としては、上記したようにPtに配位した硫黄が反応を妨げていると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態に係るPt触媒の製造方法の1例を示す図である。
【図2】チオール化後の熱処理を行わなかった場合の本発明の実施形態に係るPt触媒のTEM像を示す図である。
【図3】チオール化後の熱処理を473Kとした場合の本発明の実施形態に係るPt触媒のTEM像を示す図である。
【図4】チオール化後の熱処理を573Kとした場合の本発明の実施形態に係るPt触媒のTEM像を示す図である。
【図5】チオール化後の熱処理を673Kとした場合の本発明の実施形態に係るPt触媒のTEM像を示す図である。
【図6】チオール化後の熱処理を773Kとした場合の本発明の実施形態に係るPt触媒のTEM像を示す図である。
【図7】本発明の実施形態に係るPt触媒のX線回折スペクトルを示す図である。
【図8】本発明の実施形態に係るPt触媒のXPSスペクトルを示す図である。
【図9】本発明の実施形態に係るPt触媒のXPSスペクトルを示す別の図である。
【図10】本発明の実施形態に係るPt触媒を電極に用いた場合のサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【符号の説明】
【0040】
2 Pt金属微粒子
10 担体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノ材料とコハク酸アシル過酸化物とを溶媒中で加熱し、該カーボンナノ材料の表面にカルボキシル基を導入することを特徴とする表面修飾カーボンナノ材料の製造方法。
【請求項2】
前記表面修飾カーボンナノ材料と、Ru前駆体及び/又はPt前駆体とを共存させた状態で、前記Ru前駆体及び/又はPt前駆体を還元させ、前記表面修飾カーボンナノ材料表面にRu金属微粒子及び/又はPt金属微粒子とを担持させる工程と、
前記Ru金属微粒子及び/又はPt金属微粒子を担持させた前記表面修飾カーボンナノ材料を、非酸化雰囲気で熱処理する工程とを有するPt系触媒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−217194(P2007−217194A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−36040(P2006−36040)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)
【Fターム(参考)】