説明

表面修飾ジルコニア粒子と表面修飾ジルコニア粒子分散液及び複合体並びに表面修飾ジルコニア粒子の製造方法

【課題】表面が黄変すること無く、透明性、屈折率および機械的特性を向上させることができる表面修飾ジルコニア粒子と表面修飾ジルコニア粒子分散液及び複合体並びに表面修飾ジルコニア粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の表面修飾ジルコニア粒子は、アルコキシシラン化合物、シロキサン化合物、界面活性剤、チタンカップリング剤の群から選択された1種または2種以上の有機系表面修飾剤により表面が修飾され、かつ、この表面が酸もしくは塩基により中和処理されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面修飾ジルコニア粒子と表面修飾ジルコニア粒子分散液及び複合体並びに表面修飾ジルコニア粒子の製造方法に関し、更に詳しくは、樹脂のフィラー材として好適に用いられ、透明性、屈折率および機械的特性の向上を可能とする表面修飾ジルコニア粒子、この表面修飾ジルコニア粒子を分散媒中に分散した表面修飾ジルコニア粒子分散液、この表面修飾ジルコニア粒子と樹脂とを複合化することにより得られる複合体、この表面修飾ジルコニア粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、シリカ等の無機酸化物をフィラーとして樹脂と複合化することにより、樹脂の機械的特性等を向上させる試みがなされている。このフィラーと樹脂とを複合化する方法としては、無機酸化物を水および/または有機溶媒中に分散させた分散液と樹脂とを混合する方法が一般的であり、分散液と樹脂を種々の方法により混合することにより、無機酸化物粒子が第2相として複合化された無機酸化物粒子複合化プラスチックを作製することができる。
【0003】
プラスチックの屈折率を向上させるための無機酸化物フィラーとしては、ジルコニア、チタニア等の酸化物微粒子が高屈折率フィラーとして利用されている。
特に、ジルコニアは、その粒子表面に弱酸点と弱塩基点の両方を同時に有し、優れた触媒活性と反応選択性を持つ酸塩基両機能触媒としての機能を有する。中でも、硫酸イオン等を結合させたジルコニアは、濃硫酸よりも強い酸である超強酸触媒として利用されている。
【0004】
また、無機酸化物フィラーを樹脂と複合化するために、無機酸化物フィラーを水系溶媒や有機溶媒中に分散させた分散液が開発され、樹脂の屈折率の向上について検討されている。
この複合化の例としては、粒径10〜100nmのジルコニア粒子と樹脂とを複合化したジルコニア粒子複合化プラスチックが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−161111号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来のジルコニア粒子では、その表面をアルコキシシラン化合物やシロキサン化合物等のC−C結合を有する有機系表面修飾剤により修飾した場合、表面に残存する有機化合物がその表面活性により酸化されてしまい、その表面が黄色に変化してしまうという問題点があった。
表面が黄変したジルコニア粒子を透明樹脂中に分散して複合体とすると、この複合体が着色したり、あるいは透明性が低下したり等の不具合が生じ、その結果、透明性や着色を問題とする複合化プラスチックの使用範囲を制限してしまうという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、表面が黄変すること無く、透明性、屈折率および機械的特性を向上させることができる表面修飾ジルコニア粒子、この表面修飾ジルコニア粒子を分散媒中に分散した表面修飾ジルコニア粒子分散液、及び、この表面修飾ジルコニア粒子と樹脂とを複合化することにより得られる複合体、並びに、この表面修飾ジルコニア粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、表面修飾ジルコニア粒子の表面の黄変を防止する方法について鋭意検討を重ねた結果、有機系表面修飾剤により表面が修飾された表面修飾ジルコニア粒子の表面に中和処理を施せば、この表面修飾ジルコニア粒子の表面が長期間に亘って黄変する虞が無くなり、その結果、この表面修飾ジルコニア粒子の透明性、屈折率および機械的特性を向上させることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の表面修飾ジルコニア粒子は、有機系表面修飾剤により表面が修飾されかつ前記表面が中和処理されてなることを特徴とする。
【0009】
前記表面を水を用いて湿潤したときの水素イオン指数(pH)は、4以上かつ10以下であることが好ましい。
前記有機系表面修飾剤は、C−C結合を有する有機化合物であることが好ましい。
前記有機化合物は、アルコキシシラン化合物、シロキサン化合物、界面活性剤、チタンカップリング剤の群から選択された1種または2種以上であることが好ましい。
【0010】
本発明の表面修飾ジルコニア粒子分散液は、本発明の表面修飾ジルコニア粒子を分散媒中に分散してなることを特徴とする。
【0011】
本発明の複合体は、本発明の表面修飾ジルコニア粒子を樹脂中に分散してなることを特徴とする。
【0012】
本発明の表面修飾ジルコニア粒子の製造方法は、有機系表面修飾剤により表面が修飾された表面修飾ジルコニア粒子を水と混合し、次いで、この混合溶液の水素イオン指数(pH)を4以上かつ10以下の範囲に調製し、次いで、この混合溶液から表面修飾ジルコニア粒子を分離することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の表面修飾ジルコニア粒子によれば、有機系表面修飾剤により表面を修飾しかつ前記表面に中和処理を施したので、この表面の酸点あるいは塩基点の影響を低減することができ、この表面に有機化合物が残存した場合においても表面の黄変を防止することができ、表面修飾ジルコニア粒子の屈折率および機械的特性の向上と共に透明性の維持を図ることができる。
したがって、この表面修飾ジルコニア粒子を樹脂中に分散させれば、屈折率が高く、透明性に優れ、しかも機械的特性が向上した複合体を容易に得ることができる。
【0014】
本発明の表面修飾ジルコニア粒子の製造方法によれば、有機系表面修飾剤により表面が修飾された表面修飾ジルコニア粒子を水と混合し、次いで、この混合溶液の水素イオン指数(pH)を4以上かつ10以下の範囲に調製し、次いで、この混合溶液から表面修飾ジルコニア粒子を分離するので、透明性、屈折率および機械的特性が向上した表面修飾ジルコニア粒子を容易かつ安価に作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の表面修飾ジルコニア粒子と表面修飾ジルコニア粒子分散液及び複合体並びに表面修飾ジルコニア粒子の製造方法を実施するための最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0016】
「表面修飾ジルコニア粒子」
本発明の表面修飾ジルコニア粒子は、有機系表面修飾剤により表面が修飾されかつ前記表面が中和処理されたジルコニア粒子である。
この表面修飾ジルコニア粒子の表面を、例えば、水を用いて湿潤したときの水素イオン指数(pH)は、4以上かつ10以下であることが好ましく、より好ましくは4以上かつ9以下、さらに好ましくは5以上かつ9以下である。
【0017】
この有機系表面修飾剤としては、C−C結合を有する有機化合物であることが好ましく、この有機化合物としては、アルコキシシラン化合物、シロキサン化合物、界面活性剤、チタンカップリング剤の群から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。
これらの表面修飾剤のうち特に好ましいのは、アルコキシシラン化合物としてはシランカップリング剤であり、シロキサン化合物としては変性シリコーンである。
【0018】
シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0019】
変性シリコーンとしては、メトキシ変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、アルコール変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、メタクリレート変性シリコーン、メチルハイドロジェンシリコーン等が挙げられる。
また、ビニル基および/またはケイ素原子に結合した官能基を有する変性シリコーンを用いると、ビニル基および/またはケイ素原子に結合した官能基が樹脂を硬化させる際の化学反応に寄与するので、特に好ましい。
【0020】
界面活性剤としては、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性イオン界面活性剤等のイオン性界面活性剤、あるいは非イオン系界面活性剤が好適に用いられる。
陰イオン系界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム等の脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、脂肪酸エステルスルフォン酸ナトリウム等の脂肪酸系、アルキルリン酸エステルナトリウム等のリン酸系、アルファオレインスルフォン酸ナトリウム等のオレフィン系、アルキル硫酸ナトリウム等のアルコール系、アルキルベンゼン系等が挙げられる。
陽イオン系界面活性剤としては、例えば、塩化アルキルメチルアンモニウム、塩化アルキルジメチルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム等が挙げられる。
【0021】
両性イオン界面活性剤としては、例えば、アルキルアミノカルボン酸塩等のカルボン酸系、フォスフォベタイン等のリン酸エステル系が挙げられる。
非イオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラノリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の脂肪酸系、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられる。
【0022】
チタンカップリング剤としては、例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(ドデシル)ベンゼンスルホニルチタネート、ネオペンチル(ジアリル)オキシートリ(ジオクチル)ホスフェイトチタネート、ネオペンチル(ジアリル)オキシートリネオドデカノイルチタネート等が挙げられる。
【0023】
上記の有機系表面修飾剤を用いてジルコニア粒子の表面を修飾する方法としては、湿式法、乾式法等が挙げられる。
湿式法とは、有機系表面修飾剤とジルコニア粒子を溶媒に投入し混合することにより、ジルコニア粒子の表面を修飾する方法である。
乾式法とは、有機系表面修飾剤と乾燥したジルコニア粒子をミキサー等の乾式混合機に投入し混合することにより、ジルコニア粒子の表面を修飾する方法である。
【0024】
この表面が修飾されたジルコニア粒子の修飾部分の重量比は、粒子全体量の5重量%以上かつ200重量%以下であることが好ましく、より好ましくは10重量%以上かつ100重量%以下、さらに好ましくは20重量%以上かつ100重量%以下である。
ここで、修飾部分の重量比を5重量%以上かつ200重量%以下と限定した理由は、修飾部分の重量比が5重量%未満であると、ジルコニア粒子の樹脂への相溶が困難となるからであり、一方、修飾部分の重量比が200重量%を超えると、表面処理剤が樹脂特性へ及ぼす影響が大きくなり、屈折率等の複合体特性が低下するからである。
【0025】
この表面修飾ジルコニア粒子の表面の中和処理方法としては、乾式法でも湿式法でも良いが、好ましくは湿式法である。
湿式法は、有機系表面修飾剤により表面が修飾された表面修飾ジルコニア粒子を水と混合し、次いで、この混合溶液に酸もしくは塩基を添加することにより水素イオン指数(pH)を4以上かつ10以下の範囲、好ましくは5以上かつ9以下の範囲に調製し、次いで、この混合溶液から表面修飾ジルコニア粒子を分離する方法である。
【0026】
中和反応を効果的に生じさせるためには、混合溶液における表面修飾ジルコニア粒子の濃度は、1〜50重量%が好ましく、より好ましくは5〜20重量%である。
ここで、表面修飾ジルコニア粒子の濃度が1重量%未満であると、表面修飾ジルコニア粒子に比して多量の水系溶媒を使用するため、生産性が低下するからであり、一方、50重量%を超えると、混合溶液の粘性が増大し、中和処理の効率が悪くなるからである。
溶媒としては、酸もしくは塩基を添加して水素イオン指数(pH)を調製する必要があることから、水が好ましい。
【0027】
この混合溶液から表面修飾ジルコニア粒子を分離する方法としては、濾過、遠心分離等の分離法が好適に用いられる。
【0028】
「表面修飾ジルコニア粒子分散液」
本発明の表面修飾ジルコニア粒子分散液は、本発明の表面修飾ジルコニア粒子、すなわち、有機系表面修飾剤により表面が修飾されかつ前記表面が中和処理された表面修飾ジルコニア粒子を、分散媒中に分散した分散液である。
この表面修飾ジルコニア粒子の分散粒径は、1nm以上かつ20nm以下が好ましい。分散粒径が1nm未満であると、結晶性が乏しくなり、屈折率、機械的特性等を発現することが難しくなるからであり、分散粒径が20nmを超えると、分散液や複合体とした場合に透明性が低下するからである。
【0029】
この表面修飾ジルコニア粒子の含有率は、1重量%以上かつ70重量%以下が好ましく、より好ましくは1重量%以上かつ50重量%以下、さらに好ましくは5重量%以上かつ30重量%以下である。
ここで、表面修飾ジルコニア粒子の含有率を1重量%以上かつ70重量%以下と限定した理由は、この範囲が表面修飾ジルコニア粒子が良好な分散状態を取りうる範囲であり、含有率が1重量%未満であると、表面修飾ジルコニア粒子としての効果が低下し、また、70重量%を超えると、ゲル化や凝集沈澱が生じ、分散液としての特徴を消失するからである。
【0030】
分散媒は、基本的には、水、有機溶媒、液状の樹脂モノマー、液状の樹脂オリゴマーのうち少なくとも1種以上を含有したものである。
上記の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類が好適に用いられ、これらの溶媒のうち1種または2種以上を用いることができる。
【0031】
上記の液状の樹脂モノマーとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等のアクリル系またはメタクリル系のモノマー、エポキシ系モノマー等が好適に用いられる。
また、上記の液状の樹脂オリゴマーとしては、ウレタンアクリレート系オリゴマー、エポキシアクリレート系オリゴマー、アクリレート系オリゴマー等が好適に用いられる。
【0032】
この表面修飾ジルコニア粒子分散液は、上記以外に、その特性を損なわない範囲において、他の無機酸化物粒子、樹脂モノマー等を含有していてもよい。
この表面修飾ジルコニア粒子以外の無機酸化物粒子としては、酸化スズ、酸化チタン、酸化ハフニウム、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化セリウム、酸化亜鉛等の金属酸化物粒子、酸化ケイ素等の非金属酸化物粒子等が挙げられる。
これらの無機酸化物粒子は、硫酸、タングステン酸等を担持することにより超強酸性を示し、その結果、ジルコニア粒子と類似の挙動を示すので、好ましい。
【0033】
「複合体」
本発明の複合体は、本発明の表面修飾ジルコニア粒子、すなわち、有機系表面修飾剤により表面が修飾されかつ前記表面が中和処理された表面修飾ジルコニア粒子を、樹脂中に分散した複合体である。
樹脂としては、可視光線あるいは近赤外線等の所定の波長帯域の光に対して透明性を有する樹脂であればよく、熱可塑性、熱硬化性、可視光線や紫外線や赤外線等による光(電磁波)硬化性、電子線照射による電子線硬化性等の硬化性樹脂が好適に用いられる。
【0034】
このような樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリシクロヘキシルメタクリレート等のアクリレート、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアクリル酸エステル、ポリアミド、フェノール−ホルムアルデヒド(フェノール樹脂)、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、メチルメタクレート・スチレン共重合体(MS樹脂)、ポリ−4−メチルペンテン、ノルボルネン系ポリマー、ポリウレタン、エポキシ、シリコーン等が挙げられ、特に好ましくは、シリコーン、エポキシである。
【0035】
シリコーン樹脂は、少なくとも下記の(a)〜(c)の成分から構成されることが好ましい。
(a)1分子中のケイ素原子に結合した官能基のうち少なくとも2つがアルケニル基であるオルガノポリシロキサン
(b)1分子中のケイ素原子に結合した官能基のうち少なくとも2つが水素原子であるか、または分子鎖の両端が水素原子で封鎖された直鎖状のオルガノポリシロキサン
(c)ヒドロシリル化反応用触媒
【0036】
(a)成分中のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等が挙げられ、特に、ビニル基が好ましい。
また、このアルケニル基以外のケイ素原子に結合した官能基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基等が挙げられ、特に、メチル基が好ましい。
【0037】
(b)成分中の水素原子以外のケイ素原子に結合した官能基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基等が挙げられ、特に、メチル基が好ましい。
また、(b)成分の含有量は、(a)成分に含まれている合計アルケニル基1モルに対して水素原子が0.1〜10モルの範囲内となる量であることが好ましく、より好ましくは0.1〜5モルの範囲内となる量であり、さらに好ましくは0.5〜2モルの範囲内となる量である。
【0038】
(c)成分のヒドロシリル化反応用触媒は、(a)成分中のアルケニル基と、(b)成分中のケイ素原子に結合した水素原子とのヒドロシリル化反応を促進するための触媒である。この様な触媒としては、例えば、白金系触媒、ロジウム系触媒、パラジウム系触媒等が挙げられ、特に、白金系触媒が好ましい。
この白金系触媒としては、白金微粉末、塩化白金酸、白金−オレフィン錯体、白金カルボニル錯体等が挙げられ、特に、塩化白金酸が好ましい。
【0039】
また、(c)成分の含有量は、本組成物の硬化を促進させることのできる量、すなわち(a)成分中のアルケニル基と(b)成分中のケイ素原子に結合した水素原子とのヒドロシリル化反応を促進させることのできる量であればよく、特に限定されることはないが、具体的には、本組成物に対して本成分中の金属原子が重量単位で0.01〜500ppmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.01〜50ppmの範囲内である。
【0040】
本成分中の金属原子の含有量を上記のように限定した理由は、含有量が0.01ppm未満であると、本組成物が十分に硬化しない虞があるからであり、一方、含有量が500ppmを超えると、得られた硬化物に着色等の問題が生じる虞があるからである。
このシリコーン樹脂については、本発明の目的を損なわないかぎり、その他任意の成分として、耐熱剤、染料、顔料、難燃性付与剤等を含有してもよい。
【0041】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂等の2官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリス・ヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂等の多官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミニジフェニルメタン型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、アニリン型エポキシ樹脂、トルイジン型エポキシ樹脂等のグリシジルアミン型エポキシ樹脂等が好適に用いられる。
【0042】
エポキシ樹脂の硬化剤としては、重付加型、触媒型、縮合型のいずれのタイプのものでも使用可能であり、例えば、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ポリアミド、ジシアンジアミド、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
【0043】
また、上記のシリコーン樹脂、エポキシ樹脂に対しては、その特性を損なわない範囲において、酸化防止剤、離型剤、カップリング剤、無機充填剤等を添加してもよい。
【0044】
この複合体では、表面修飾ジルコニア粒子の含有率は、1重量%以上かつ80重量%以下が好ましく、より好ましくは10重量%以上かつ80重量%以下、さらに好ましくは10重量%以上かつ50重量%以下である。
ここで、表面修飾ジルコニア粒子の含有率を1重量%以上かつ80重量%以下と限定した理由は、下限値の1重量%は屈折率、機械的特性等の複合体の特性を向上させることが可能となる添加率の最小値であるからであり、一方、上限値の80重量%は樹脂自体の特性(柔軟性、比重)を維持することができる添加率の最大値であるからである。
【0045】
この複合体は、次に挙げる方法により作製することができる。
まず、上述した本発明の表面修飾ジルコニア粒子分散液と、樹脂のモノマーやオリゴマーを、ミキサー等を用いて混合し、流動し易い状態の樹脂組成物とする。
次いで、この樹脂組成物を金型を用いて成形、または金型あるいは容器内に充填し、次いで、この成形体もしくは充填物に加熱、あるいは紫外線や赤外線等の照射を施し、この成形体もしくは充填物を硬化させる。
【0046】
ここで、樹脂のモノマーやオリゴマーが、反応性を有する炭素二重結合(C=C)を有する場合、単に混合するだけでも、重合・樹脂化させることができる。
特に、アクリル樹脂等の紫外線(UV)硬化性樹脂を含む樹脂組成物を硬化させる方法としては、様々な方法があるが、代表的には、加熱または光照射により開始されるラジカル重合反応を用いたモールド成形法、トランスファー成形法等が挙げられる。このラジカル重合反応としては、熱による重合反応(熱重合)、紫外線等の光による重合反応(光重合)、ガンマ(γ)線による重合反応、あるいは、これらの複数を組み合わせた方法等が挙げられる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0048】
「実施例1」
オキシ塩化ジルコニウム8水塩2615gを純水40Lに溶解させたジルコニウム塩溶液に、28%アンモニア水344gを純水20Lに溶解させた希アンモニア水を攪拌しながら加え、ジルコニア前駆体スラリーを調整した。
次いで、このスラリーに、硫酸ナトリウム300gを5Lの純水に溶解させた硫酸ナトリウム水溶液を攪拌しながら加えた。このときの硫酸ナトリウムの添加量は、ジルコニウム塩溶液中のジルコニウムイオンのジルコニア換算値に対して30重量%であった。
【0049】
次いで、この混合物を、乾燥器を用いて、大気中、130℃にて24時間、乾燥させ、固形物を得た。
次いで、この固形物を自動乳鉢により粉砕した後、電気炉を用いて、大気中、500℃にて1時間焼成した。
次いで、この焼成物を純水中に投入し、攪拌してスラリー状とした後、遠心分離器を用いて洗浄を行い、添加した硫酸ナトリウムを十分に除去した後、乾燥器にて乾燥させ、ジルコニア粒子を作製した。
【0050】
次いで、このジルコニア粒子10gに、表面修飾剤としてシランカップリング剤AY43−048(東レダウシリコーン(株)社製)を5g加えて乾式混合し、ジルコニア粒子の表面を表面修飾剤により修飾した。
次いで、この表面修飾ジルコニア粒子を、粒子濃度が5重量%となるように純水に混合し、さらにアンモニア水を添加し、pHを7に調整した懸濁液を得た。
【0051】
次いで、この懸濁液から固液分離により表面修飾ジルコニア粒子を回収し、120℃にて2時間、乾燥することにより、実施例1の表面修飾かつ中和処理されたジルコニア粒子(Z1)を作製した。
次いで、このジルコニア粒子(Z1)15gに、分散媒としてトルエンを85g加えて混合し、その後分散処理を行い、実施例1の表面修飾ジルコニア粒子分散液(Z1)を作製した。
【0052】
次いで、この表面修飾ジルコニア粒子分散液(Z1)100gに、シリコーンオイル(メチルハイドロジェンポリシロキサンと両末端に各々ビニル基を有するオルガノポリシロキサンとの混合物)10gを加え、さらに、塩化白金酸をシリコーンオイル100重量部に対して20ppmとなるように加え、真空乾燥により脱溶媒化し、樹脂組成物を作製した。
【0053】
次いで、この樹脂組成物を、ガラス板で組み上げた型の中に厚みが1mmになるように流し込み、次いで、150℃にて2時間加熱して硬化させ、実施例1の複合体を作製した。この複合体のジルコニアの含有率は50重量%であった。
次いで、この複合体の透明性を目視にて観察し、この複合体を日本工業規格JIS−Z 8722「色の測定方法−反射及び透過物体色」に基づいて測定し、この測定値からYI値を算出した。加えて、この複合体を150℃にて24時間加熱したものについても同様の評価を行った。
【0054】
「実施例2」
実施例1に準じて粒子合成を行い、表面修飾かつ中和処理されたジルコニア粒子(Z1)を作製した。
次いで、このジルコニア粒子(Z1)15gに、分散媒としてトルエンを85g加えて混合し、その後分散処理を行い、表面修飾ジルコニア粒子分散液(Z1)を作製した。
【0055】
次いで、この表面修飾ジルコニア粒子分散液(Z1)100gに、エポキシレジン:エピコート828を7gおよび硬化剤としてエピキュア3080を3g(いずれもジャパンエポキシレジン(株)社製)加え、真空乾燥により脱溶媒化し、樹脂組成物を作製した。
【0056】
次いで、この樹脂組成物を、ガラス板で組み上げた型の中に厚みが1mmになるように流し込み、次いで、80℃にて30分間加熱して硬化させ、実施例2の複合体を作製した。この複合体のジルコニアの含有率は50重量%であった。
次いで、この複合体の透明性を目視にて観察し、この複合体を日本工業規格JIS−Z 8722「色の測定方法−反射及び透過物体色」に基づいて測定し、この測定値からYI値を算出した。加えて、この複合体を110℃にて24時間加熱したものについても同様の評価を行った。
【0057】
「比較例1」
実施例1に準じて粒子合成を行い、ジルコニア粒子を作製した。
次いで、このジルコニア粒子10gに、表面修飾剤としてシランカップリング剤AY43−048(東レダウシリコーン(株)社製)を5g加えて乾式混合し、ジルコニア粒子の表面を修飾した表面修飾ジルコニア粒子(Z2)を作製した。
【0058】
次いで、この表面修飾ジルコニア粒子(Z2)15gに、分散媒としてトルエンを85g加えて混合し、その後分散処理を行い、表面修飾ジルコニア粒子分散液(Z2)を作製した。
次いで、この表面修飾ジルコニア粒子分散液(Z2)100gに、シリコーンオイル(メチルハイドロジェンポリシロキサンと両末端に各々ビニル基を有するオルガノポリシロキサンとの混合物)10gを加え、さらに、塩化白金酸をシリコーンオイル100重量部に対して20ppmとなるように加え、真空乾燥により脱溶媒化し、樹脂組成物を作製した。
【0059】
次いで、この樹脂組成物を、ガラス板で組み上げた型の中に厚みが1mmになるように流し込み、次いで、150℃にて2時間加熱して硬化させ、比較例1の複合体を作製した。この複合体のジルコニアの含有率は50重量%であった。
次いで、この複合体の透明性を目視にて観察し、この複合体を日本工業規格JIS−Z 8722「色の測定方法−反射及び透過物体色」に基づいて測定し、この測定値からYI値を算出した。加えて、この複合体を150℃にて24時間加熱したものについても同様の評価を行った。
【0060】
「比較例2」
実施例1に準じて粒子合成を行い、ジルコニア粒子を作製した。
次いで、このジルコニア粒子10gに、表面修飾剤としてシランカップリング剤AY43−048(東レダウシリコーン(株)社製)を5g加えて乾式混合し、ジルコニア粒子の表面を修飾した表面修飾ジルコニア粒子(Z2)を作製した。
【0061】
次いで、この表面修飾ジルコニア粒子(Z2)15gに、分散媒としてトルエンを85g加えて混合し、その後分散処理を行い、表面修飾ジルコニア粒子分散液(Z2)を作製した。
次いで、この表面修飾ジルコニア粒子分散液(Z2)100gに、エポキシレジン:エピコート828を7gおよび硬化剤としてエピキュア3080を3g(いずれもジャパンエポキシレジン(株)社製)加え、真空乾燥により脱溶媒化し、樹脂組成物を作製した。
【0062】
次いで、この樹脂組成物を、ガラス板で組み上げた型の中に厚みが1mmになるように流し込み、次いで、80℃にて30分間加熱して硬化させ、比較例2の複合体を作製した。この複合体のジルコニアの含有率は50重量%であった。
次いで、この複合体の透明性を目視にて観察し、この複合体を日本工業規格JIS−Z 8722「色の測定方法−反射及び透過物体色」に基づいて測定し、この測定値からYI値を算出した。加えて、この複合体を110℃にて24時間加熱したものについても同様の評価を行った。
以上の評価結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
これらの評価結果によれば、実施例1、2では、加熱前の目視観察が透明であり、YI値も0.5と低く、また、加熱後の目視観察が微黄色であり、加熱後のYI値も2〜3と低く、表面修飾ジルコニア粒子に中和処理を施すことにより、黄色変化を低減することができることが分かった。
一方、比較例1、2では、加熱前の目視観察が透明であり、YI値も0.5と低いものの、加熱後の目視観察が黄色で透明性を失っており、また、加熱後のYI値も12〜18と高いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の表面修飾ジルコニア粒子は、有機系表面修飾剤により表面を修飾しかつ前記表面に中和処理を施したことにより、この表面修飾ジルコニア粒子の表面が黄変することなく、この表面修飾ジルコニア粒子を樹脂中に分散させた複合体の屈折率および機械的特性の向上と共に透明性の維持を図ることができるものであるから、長期的に透明性を維持することが必要な分野、例えば、半導体レーザ(LED)の封止材、液晶表示装置用基板、有機EL表示装置用基板、カラーフィルター用基板、タッチパネル用基板、太陽電池用基板等の光学シート、透明板、光学レンズ、光学素子、光導波路等はもちろんのこと、これ以外の様々な工業分野においても、その効果は大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機系表面修飾剤により表面が修飾されかつ前記表面が中和処理されてなることを特徴とする表面修飾ジルコニア粒子。
【請求項2】
前記表面を水を用いて湿潤したときの水素イオン指数(pH)は、4以上かつ10以下であることを特徴とする請求項1記載の表面修飾ジルコニア粒子。
【請求項3】
前記有機系表面修飾剤は、C−C結合を有する有機化合物であることを特徴とする請求項1または2記載の表面修飾ジルコニア粒子。
【請求項4】
前記有機化合物は、アルコキシシラン化合物、シロキサン化合物、界面活性剤、チタンカップリング剤の群から選択された1種または2種以上であることを特徴とする請求項3記載の表面修飾ジルコニア粒子。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項記載の表面修飾ジルコニア粒子を分散媒中に分散してなることを特徴とする表面修飾ジルコニア粒子分散液。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項記載の表面修飾ジルコニア粒子を樹脂中に分散してなることを特徴とする複合体。
【請求項7】
有機系表面修飾剤により表面が修飾された表面修飾ジルコニア粒子を水と混合し、次いで、この混合溶液の水素イオン指数(pH)を4以上かつ10以下の範囲に調製し、次いで、この混合溶液から表面修飾ジルコニア粒子を分離することを特徴とする表面修飾ジルコニア粒子の製造方法。

【公開番号】特開2008−273801(P2008−273801A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−122254(P2007−122254)
【出願日】平成19年5月7日(2007.5.7)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】