説明

表面処理アルミめっき鋼板とその製造方法

【課題】環境に対する負荷を著しく軽減し、その上で張り出し加工や深絞り加工後の耐食性に極めて優れ、同時に塗装性、耐熱性および耐水性に優れた保護皮膜を有するアルミめっき鋼板を提供する。
【解決手段】保護皮膜を有するめっき層組成がAl:70質量%以上のアルミめっき鋼板において、前記保護皮膜が、Zr、F、P、C、O、NおよびHのみから成り、かつ数平均分子量が200以上の有機物を含有せず、前記保護皮膜の構成元素のうち、ZrとFの質量比Zr/Fが1.0〜10.0であり、ZrとPの質量比Zr/Pが8.5〜18.0であり、前記保護皮膜中に含まれるZr含有量が23.0質量%〜48.0質量%であるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロムを含まない保護皮膜を形成した耐熱用途(特に調理器用)アルミめっき鋼板とその製造方法に関する。さらに詳しくは、クロムを含まないことで環境に対する負荷を著しく軽減し、その上で張り出し加工や深絞り加工後の耐食性に極めて優れ、同時に塗装性、耐熱性および耐水性に優れた保護皮膜を有する耐熱用途(特に調理器用)アルミめっき鋼板とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アルコール燃料と塩害環境に対する耐食性とプレス加工性に優れた自動車用タンク材料として、アルミめっき鋼板表面にクロメート皮膜を形成させ、さらにエポキシ系樹脂を0.1〜3μg付与する技術が開示されている。また、特許文献2には、アルミめっき鋼板に特定の熱処理を加えた後、クロメート処理、有機樹脂塗装する事を特徴とする加工後の耐食性に優れた塗装溶融アルミめっき鋼板の製造方法が開示されている。また、特許文献3には、特定のめっき浴で鋼板にめっきを行い、めっき後クロメート処理と続いて有機樹脂被覆処理をする塗装アルミめっき鋼板の製造法が開示されている。また、特許文献4には特定のめっき浴で鋼板にめっきを行い、めっき後クロメート処理を行うアルミめっき鋼板が開示されている。特許文献5には、重量%でSi:2〜13%を含有し、付着量が片面当り50g/m以下である溶融アルミめっき鋼板の片面または両面に、膜厚が0.1〜2μmであるような樹脂クロメート皮膜を有することを特徴とする溶接性、耐食性に優れた燃料タンク用防錆鋼板が開示されている。
【0003】
特許文献6には、フランジを有する一対の椀型成型体のフランジ部を連続的にシーム溶接して一体とされた燃料容器であって、その構成部材が内面または/および外面の最表面に樹脂皮膜、好ましくは樹脂クロメート皮膜を有する溶融アルミめっき鋼板であることを特徴とする耐食性に優れた自動車燃料容器が開示されている。特許文献7には、少なくとも片面がAlまたはAl−(3〜15%)Si系合金で被覆された鋼板の被覆層表面に、皮膜量がクロム換算で10mg/m以上35mg/m未満であるクロメート皮膜を形成したアルミ系めっき鋼板で、燃料タンク素材として望ましくは皮膜量がクロム換算で20mg/m以上30mg/m以下であるクロメート皮膜を形成したアルミ系めっき鋼板が開示されている。特許文献8には、重量%でSi:2〜13%をめっき層中に含有する両面溶融アルミめっき鋼板の片方の面に、膜厚が0.1〜2μmであるような有機樹脂クロメート皮膜を有し、かつ他方の面には、無機系クロメート皮膜もしくは有機リン酸あるいは/更に微量の有機樹脂を含有したクロメート皮膜を金属クロム換算で200mg/m以下被覆したこと、あるいは、樹脂クロメート皮膜とアルミめっき層の間に無機系クロメート皮膜もしくは有機リン酸あるいは/更に微量の有機樹脂を含有したクロメート皮膜を金属クロム換算で100mg/m以下被覆したことを特徴とする、溶接性および耐食性に優れた燃料タンク用防錆鋼板が開示されている。特許文献9には、重量%でSi2〜13%を含有する溶融アルミめっき鋼板の片面又は両面に、潤滑剤を0.5〜20重量%含有する膜厚が0.1〜2μmであるような有機樹脂クロメート皮膜を有し、そのアルミめっき付着量が、片面当たり60g/m以下であることを特徴とする、燃料タンク用防錆鋼板が開示されている。これらの技術はクロメートもしくはクロムを含有する技術であり、環境負荷が大きく、現代では使用できない、もしくは推奨されない技術である。
【0004】
一方、特許文献10には、プレス油なしに成形加工が可能で、加工後の耐熱性に優れた無塗油型有機被覆金属板として、金属板の片面には、膜厚が5μm以上50μm未満、伸び率が100%以上の有機物塗膜(A)を有し、他方の面には、膜厚が0.2μm以上5μm以下の有機物塗膜(B)を有する金属板が開示されている。また、特許文献11には、片面に導電性を有する金属を含有する塗膜(A)を厚さ0.5μm未満形成させ、他方の面には、膜厚が0.2μm以上5μm以下の有機物塗膜(B)を有することを特徴とするプレス加工性と導電性に優れた無塗油型有機被覆金属板が開示されている。特許文献12には、アルミめっき鋼板表面を、潤滑剤を0.5〜20重量%含有し残部がエチレン系不飽和カルボン酸成分または/及び水酸基含有単量体成分を含有する有機重合体および不可避的不純物から成る、乾燥膜厚0.5〜4.5μmの樹脂層で被覆したことを特徴とする加工性に優れた樹脂被覆アルミめっき鋼板が開示されている。特許文献13には、2価の金属で中和されたアイオノマー樹脂(A)の水性分散体を含む金属表面用防錆処理剤、ならびにその防錆処理剤を用いる防錆処理方法および防錆処理金属製品が開示されている。特許文献14には、電気めっき或いは溶融めっき法で製造されたアルミめっき鋼板表面に、クロメート処理皮膜を施した後、或いはクロメート処理皮膜を施さないで、重量比で潤滑剤を0.5〜20重量%およびシリカを0.5〜30重量%含有する樹脂Tgが30℃以下であるエチレン系不飽和カルボン酸成分または/および水酸基含有単量体成分を含有し、残部が不可避的不純物から成る有機重合体が水性媒体中に安定に分散した有機重合体エマルジョンである樹脂をアルミめっき鋼板表面に塗布した後、乾燥温度100℃以下で乾燥し、乾燥後の塗膜厚み0.5〜4.5μmの有機皮膜を処理する技術が開示されている。しかしながら、これらの技術は樹脂を含有しているため150℃〜200℃が上限温度となるような耐熱性を有しているに過ぎず、十分な耐熱性を有しているとは言いがたい。
【0005】
特許文献15には、溶融アルミめっき系鋼板を大気開放下での5%NaCl溶液に72時間浸漬したあと、めっき表面において少なくともアルカリ土類金属と酸素を含む皮膜を形成し、その皮膜の厚さが100〜3000Åであることを特徴とする耐食性に優れた溶融アルミめっき系鋼板が開示されている。また、特許文献16には、溶融アルミ系めっき鋼板の最表面に、乾燥後塗膜質量比でワックス成分を0.1〜20%、金属Al粉を0.3〜20%含有し、かつワックス質量/金属Al粉質量=0.1以上の関係を満たし、残部が透明樹脂よりなる有機樹脂皮膜層を0.5〜10μm有することを特徴とする耐候性に優れた溶融アルミめっき鋼板が開示されている。特許文献17には、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体およびグリシジル基を有するエチレン性不飽和単量体を含有し、さらに重合性不飽和基を有する反応性乳化剤を、全単量体に対し0.1〜30質量%含有するアクリル系共重合物の水性分散物に、前記分散物の固形分に対する質量比で潤滑剤を0.5〜20質量%およびクロムを0.5〜3質量%含有させた樹脂組成物を、乾燥膜厚で0.1〜4.5μmの厚みの皮膜を塗布した加工性と耐食性に優れたアルミめっき鋼板が開示されている。これらの技術は、主に樹脂を用いる技術であって、耐食性は優れるケースもあるが、一様に耐熱性は十分でなく、耐熱用途(特に調理器用)には使用できない。
【0006】
クロムを含有しない他の技術としては、以下のものが挙げられる。特許文献18には、めっき層組成がAl:70質量%以上のアルミめっき鋼板上に、ジルコニウム化合物と、バナジウム化合物と、シリカ化合物と、りん酸化合物と、水酸基、カルボニル基、及びカルボキシル基のうちの少なくとも1つの官能基をもつ有機化合物からなる複合皮膜を有し、かつ複合皮膜中に片面当り、ジルコニウムとして2〜1200mg/m、バナジウムとして0.1〜300mg/m、PO換算として0.3〜450mg/m含有し、クロム、クロム化合物が0.1mg/m以下、(クロムとして)フッ素、フッ素化合物が0.1mg/m以下(フッ素として)である耐食性、塗装性、溶接性及び加工性に優れるアルミめっき鋼板が開示されている。特許文献19には、特定の化学式で示されるバナジウム化合物(a)の少なくとも1種を添加することにより得られる、クロムを含有しない水系金属表面処理剤が開示されている。特許文献20には、鋼板と、この鋼板の少なくとも片面に形成された潤滑皮膜とで構成される潤滑鋼板であって、前記鋼板は、ステンレス鋼板、ステンレス−アルミめっき鋼板、又はアルミめっき鋼板であり、前記潤滑皮膜は、水性塗布剤を塗布、乾燥することにより形成され、前記水性塗布剤は、樹脂、ポリオレフィンワックス、及びフルオロジルコニウム酸塩を含有し、且つpHが4.5以上8以下であり、前記樹脂はポリエステル樹脂を含み、前記水性塗布剤の固形分中における前記ポリエステル樹脂の含有量が70質量%以上である潤滑鋼板が開示されている。特許文献21には、金属成形物、特にアルミニウムおよび錫飲料缶の表面の静摩擦係数を低下させ、かつ当該表面をより低い温度で乾燥することを可能にする潤滑表面調整剤であって、この調整剤は(i)アミンオキサイドおよび第4級アンモニウム塩、エトキシル化ひまし油誘導体、イミダゾリン基含有ホスホン酸塩、および好ましくは(ii)フルオジルコニウム酸塩、フルオハフニウム酸塩、フルオチタン酸の1種以上、および(iii)りん酸および/又は硝酸イオンを含み、処理された容器は、過熱されたときに摩擦低下効果が損われること、および、殺菌処理による缶底部の黒変に対して良好な抵抗性を有する技術が開示されている。特許文献22には、(A)炭酸ジルコニウムアンモニウム、(B)4価のバナジウム化合物、(C)式(I)で示される有機ホスホン酸もしくはそのアンモニウム塩、(D)数式(1)で計算されるガラス転移温度Tg(K)を(℃)に換算したものが0〜60℃であるアニオン性水分散性アクリル樹脂、及び水を含有し、(D)の全固形分中の割合が1〜60質量%であり、(B)をVに換算したときの割合が全固形分中の0.5〜8質量%であり、V/(C)の質量比が0.05〜1.0であり、(A)をZrに換算したときのZr/(V+(C))の質量%が0.1〜6.0であり、pHが7〜10である亜鉛系めっき鋼板用水系処理液、及び該処理液に由来する皮膜を表面に有する亜鉛系めっき鋼板が開示されている。
【0007】
特許文献23には、(A)加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン及び水酸化チタンの低縮合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液の固形分100重量部に基いて、(B)有機リン酸化合物1〜400重量部、(C)水溶性又は水分散性有機樹脂を固形分で10〜2,000重量部、(D)バナジン酸化合物1〜400重量部、(E)弗化ジルコニウム化合物1〜400重量部及び(F)炭酸ジルコニウム化合物1〜400重量部を含有してなることを特徴とする金属表面処理組成物が開示されている。特許文献24には、アルミニウム基材と、その表面に形成した非クロム塗布型下地皮膜と、その上に形成した樹脂被覆膜とを備え、基材表面と下地皮膜との界面に存在するアルミニウム水和酸化物の量が50mg/m以下で、下地皮膜がフッ化ジルコニウム酸及び炭酸ジルコニウムアンモニウムの少なくともいすれかと、ジルコニウム架橋されたポリアクリル酸とを含み、ジルコニウム化合物濃度が、基材側の面から下地皮膜表面に向けて連続的に減少し、かつ、ポリアクリル酸濃度が、基材側の面から下地皮膜表面に向けて連続的に増加しており、ジルコニウム化合物濃度及びポリアクリル酸濃度が1〜20mg/mである樹脂被覆アルミニウム板が開示されている。特許文献25には、亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に、加水分解性チタン化合物やその低縮合物などのチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液(A)の固形分100質量部に対して、ニッケル化合物(B)を0.01〜10質量部、アルミニウム化合物(C)を1〜100質量部、弗素含有化合物(D)を1〜800質量部含有し、必要に応じて、有機リン酸化合物、バナジン酸化合物、炭酸ジルコニウム化合物、水溶性又は水分散性有機樹脂の1種以上を適量含有する表面処理組成物(I)を塗布し、乾燥させることにより形成された皮膜付着量が0.1〜2.0g/mの表面処理皮膜を有する技術が開示されている。特許文献26には、(A)有機亜リン酸 1〜10重量%、(B)オキシカルボン酸 1〜10重量%、(C)ジルコニウム化合物 1〜10重量%、及び(D)バナジウム化合物 0.1〜5重量%を含有することを特徴とする無機系クロムフリー金属表面処理剤が開示されている。
【0008】
特許文献27には、亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に、加水分解性チタン化合物やその低縮合物などのチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液(A)の固形分100質量部に対して、ニッケル化合物(B)を0.01〜10質量部、アルミニウム化合物(C)を1〜100質量部、弗素含有化合物(D)を1〜800質量部含有し、さらに、酸化ケイ素(E)及び金属リン酸塩(F)を表面処理組成物の全固形分中での合計の割合で20〜90mass%含有する表面処理組成物(K)を塗布し、乾燥させることにより形成された皮膜付着量が0.1〜2.0g/mの表面処理皮膜を有する技術が開示されている。特許文献28には、亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に、加水分解性チタン化合物やその低縮合物などのチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液(A)の固形分100質量部に対して、ニッケル化合物(B)を0.01〜10質量部、アルミニウム化合物(C)を1〜100質量部、弗素含有化合物(D)を1〜800質量部含有し、さらに、酸化ケイ素(E)を表面処理組成物の全固形分中での割合で20〜90mass%含有する表面処理組成物(J)を塗布し、乾燥させることにより形成された皮膜付着量が0.1〜2.0g/mの表面処理皮膜を有する技術が開示されている。特許文献29には、亜鉛系めっき鋼板などの表面に、特定のチタン含有水性液と、有機リン酸化合物と、バナジン酸化合物と、フッ化ジルコニウム化合物と、炭酸ジルコニウム化合物を含有する表面処理組成物による表面処理皮膜を有し、その上層に、樹脂中に一級水酸基を有するエポキシ樹脂に、水酸基と架橋する基を有する硬化剤および固形潤滑剤が配合された塗料組成物による上層皮膜を有する技術が開示されている。特許文献30には亜鉛系めっき鋼板またはアルミニウム系めっき鋼板の表面に、特定のチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン系水性液に対して、有機リン酸化合物、ノニオン系水性ビスフェノールA型エポキシ樹脂、バナジン酸化合物、フッ化ジルコニウム化合物および炭酸ジルコニウム化合物を所定の割合で複合添加した表面処理組成物による表面処理皮膜を形成し、好ましくは、その上層に有機系皮膜を形成する技術が開示されている。
【0009】
これらの技術は、総じて亜鉛めっき鋼板やアルミめっき鋼板に、炭酸ジルコニウム化合物とNiやV、Siなどの化合物を配合し、ノンクロメートタイプの表面処理として開示されている技術だが、これらの技術は溶出しうる成分として、VやNi、Coなどの重金属を含有しており、これらの人体や健康に及ぼす影響について十分には考慮されておらず、食品に直接接触する調理器には用いることは出来ないことが多い。
【0010】
特許文献31には、(A)チタン化合物およびジルコニウム化合物の中から少なくとも1種以上、(B)myo−イノシト−ルの2〜6個の結合リン酸エステル、およびそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、およびアンモニウム塩の中から少なくとも1種以上と(C)シリカを含有し、(A)の金属換算量(Zr+Ti):(B):(C)の質量比が1:0.2〜1.7:0.2〜5である皮膜を(A)の金属換算量で30〜1000mg/m付与した加熱時の耐変色性、加熱後耐食性に優れたアルミめっき鋼材およびその水系処理薬剤が開示されている。特許文献32には、ジルコニウム化合物及びチタン化合物の少なくとも1種(A)、ヒドロキシカルボン酸、有機ホスホン酸、多価アルコールリン酸エステル及びリン酸並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種(B)、並びに金属がV、Zn、Mg、Al、Ca、Zr、Ti、Ni、In、Co、Cu、Fe、Mn、Y、Ce、Sr、Ba、Mo、La又はSnであるβ−ジケトン金属錯体の少なくとも1種(C)を配合してなる水系金属表面処理剤、表面処理方法及び表面処理金属材料が開示されている。しかし、耐熱用途(特に、調理器用)アルミめっき鋼板として、十分な性能が得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6−306638号公報
【特許文献2】特開平8−319549号公報
【特許文献3】特開平8−319550号公報
【特許文献4】特開平9−195021号公報
【特許文献5】特開平10−46358号公報
【特許文献6】特開平10−67235号公報
【特許文献7】特開平10−168581号公報
【特許文献8】特開平10−183368号公報
【特許文献9】特開平10−265967号公報
【特許文献10】特開平8−192102号公報
【特許文献11】特開平8−267656号公報
【特許文献12】特開平10−86273号公報
【特許文献13】特開平11−71536号公報
【特許文献14】特開2000−79371号公報
【特許文献15】特開2000−282257号公報
【特許文献16】特開2001−157874号公報
【特許文献17】特開2002−194563号公報
【特許文献18】特開2004−232040号公報
【特許文献19】特開2007−204847号公報
【特許文献20】特開2008−69413号公報
【特許文献21】特表平9−500408号公報
【特許文献22】国際公開第2009/004684号
【特許文献23】特開2006−9121号公報
【特許文献24】特開2007−176072号公報
【特許文献25】特開2008−63621号公報
【特許文献26】特開2008−195977号公報
【特許文献27】特開2008−208408号公報
【特許文献28】特開2008−208410号公報
【特許文献29】特開2008−248356号公報
【特許文献30】特開2008−274419号公報
【特許文献31】特開2008−115442号公報
【特許文献32】特開2007−162098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来技術の上記問題点を解決して、クロムを含まないことで環境に対する負荷を著しく軽減し、かつVやCoなどの重金属群を含有しないにもかかわらず、張り出し加工や深絞り加工後の耐食性に極めて優れ、同時に塗装性、耐熱性および耐水性に優れた保護皮膜を有する調理器用アルミめっき鋼板とその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らはこれらの問題を解決すべく鋭意検討を重ねてきた結果、表面処理剤を塗布し、水洗することなく焼付けることによって形成された保護皮膜を有する特定の組成のアルミめっき鋼板であって、前記保護皮膜が特定の元素のみから成り、かつ特定の有機物を含有せず、特定の構成元素の割合である保護皮膜を形成するための表面処理剤において、特定のZrの供給源、Fの供給源、Pの供給源からなり、特定のpHであることを特徴とするアルミめっき鋼板が、環境に対する負荷を著しく軽減し、その上で張り出し加工や深絞り加工後の耐食性に極めて優れ、同時に塗装性、耐熱性および耐水性に優れた保護皮膜を有する調理器用アルミめっき鋼板であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は、保護皮膜を有するめっき層組成がAl:70質量%以上のアルミめっき鋼板であって、前記保護皮膜が、Zr、F、P、C、O、NおよびHのみから成り、かつ数平均分子量が200以上の有機物を含有せず、前記保護皮膜の構成元素のうち、ZrとFの質量比Zr/Fが1.0〜10.0であり、ZrとPの質量比Zr/Pが8.5〜18.0であり、前記保護皮膜中に含まれるZr含有量が23.0質量%〜48.0質量%であることを特徴とする、表面処理アルミめっき鋼板に関する。
【0015】
また、本発明の表面処理アルミめっき鋼板では、前記保護皮膜の皮膜量が、0.2〜2.0g/mであることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、めっき組成がAl:70質量%以上のアルミめっき鋼板に、表面処理剤を塗布し、水洗することなく焼付けることによって、前記アルミめっき鋼板の表面に保護皮膜を形成する表面処理アルミめっき鋼板の製造方法であって、前記表面処理剤は、前記保護皮膜がZr、F、P、C、O、NおよびHのみから成り、かつ数平均分子量が200以上の有機物を含有せず、前記保護皮膜の構成元素のうち、ZrとFの質量比Zr/Fが1.0〜10.0となり、ZrとPの質量比Zr/Pが8.5〜18.0となり、前記保護皮膜中に含まれるZr含有量が23.0質量%〜48.0質量%となるように成分が調整され、前記表面処理剤の各成分の供給源が、炭酸、りん酸、フッ化水素酸からなる群から選ばれる1種以上の無機酸および/又はそのアンモニウム塩と、ジルコニウムフッ化水素酸を除くジルコニウム含有錯化合物からなり、前記表面処理剤のpHが8.0〜11.0であることを特徴とする、表面処理アルミめっき鋼板の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の耐熱用途用アルミめっき鋼板とその製造方法は、環境に対する負荷を著しく軽減し、その上で張り出し加工や深絞り加工後の耐食性に極めて優れ、同時に塗装性、耐熱性および耐水性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
本発明において、アルミめっき鋼板のめっき層はAl含有量が70質量%以上で、好ましくは、Al含有量が70〜97質量%かつSi含有量が3〜15質量%の2成分系または多成分系のめっきである。本発明の表面処理液は、めっき層のAlとAlOFの化合物を形成することで皮膜の密着性を確保し平面部耐食性を発揮し、保護皮膜中にて生成するめっき層との反応化合物である(NH)AlFが溶解性であるため腐食環境下において溶解して加工部等の新規露出面上で沈殿皮膜を形成して加工部耐食性にも効果を発揮する。そのため、Al含有量が70質量%未満のAl分の少ないめっきでは、めっきからのAl供給量が不足するために十分な耐食性を発現できない。当初より表面処理剤にAlイオンを添加すると液安定性が悪くなるために添加することはできない。また、Si添加の目的は、アルミニウム系めっき層と母材鋼との界面に生成するFe−Al合金層をFe−Al−Si合金層に改質、薄層化して過大な成長を抑制するためであるが、めっきのSi含有量が3質量%未満ではFe−Al合金層が成長しすぎて加工後の耐食性が低下し、一方、Si含有量が15質量%を超えると、粗大なSi初晶が晶出して加工後の耐食性が低下するおそれがある。
【0020】
めっき中の不純物元素として、微量のFe、Ni、Co等が介在することがある。また、必要に応じ、Mg、Sn、ミッシュメタル、Sb、Zn、Cr、W、V、Mo、等を添加してもよい。アルミめっき鋼板の製造法について特に制限はないが、溶融フラックスめっきや、ゼンジマー法、オールラジアント法等による溶融めっき、電気めっき、蒸着めっきが好ましい。
【0021】
本発明において、アルミめっき鋼板に使用する母材鋼の成分については限定しないが、鋼種としては、例えば、Ti、Nb、B等を添加したIF鋼、Al−k鋼、Cr添加鋼、ステンレス鋼、ハイテン等が挙げられる。これらのうち、耐熱用途にはAl−k鋼の適用が好ましい。
【0022】
本発明のアルミめっき鋼板に形成された保護皮膜は、Zr、F、P、C、O、NおよびHのみから成る必要がある。また、各成分の供給源は、炭酸、りん酸、フッ化水素酸からなる群から選ばれる1種以上の無機酸および/又はそのアンモニウム塩と、ジルコニウムフッ化水素酸を除くジルコニウム含有錯化合物である必要がある。特に、Zrの供給源は、炭酸ジルコニウムアンモニウムおよび/又は酢酸ジルコニウムが好ましく、Fの供給源はフッ化水素酸および/又はフッ化水素酸アンモニウムが好ましく、Pの供給源はりん酸および/又はりん酸のアンモニウム中和物であることが好ましい。Zr供給源については炭酸ジルコニウムアンモニウムがより好ましい。F供給源およびP供給源については、明示した化合物の双方が好適である。本発明のアルミめっき鋼板は調理器用であるため、Zr、PおよびFの供給源については人体に影響を及ぼす物質ではないことが必要であり、そのため人体への影響が十分に検討されている前記化合物を用いる必要がある。Zr、FおよびPの供給源が前記化合物で無い場合、人体へ深刻な影響を及ぼす可能性があるため好ましくない。
【0023】
また、本発明のアルミめっき鋼板に形成された保護皮膜は、数平均分子量が200以上の有機物を含有しないことが必要である。数平均分子量が200未満であっても、人体への有害性が証明もしくは懸念されている物質は含有してはならない。数平均分子量が200以上の有機物、特に一般に樹脂と呼ばれる高分子体やオリゴマーを含有すると、耐熱性が低下するだけでなく、使用環境により毒性や蓄積性を有する化合物に分解・縮重合および変態する可能性があるため好ましくない。本発明の保護皮膜に使用できる有機物としては、特に限定するものではないが、酒石酸、酢酸、クエン酸および乳酸などが挙げられる。
【0024】
また、前記保護皮膜の構成元素の含有量に関して、ZrとFの質量比Zr/Fは1.0〜10.0である必要があり、2〜4であることが好ましく、2.5〜3.0であることがより好ましい。ZrとFの質量比Zr/Fが1.0未満であると、耐水性が得られず、環境負荷物質の溶出を助長するだけでなく、エッチング性が増加し、処理液安定性が得られないため好ましくなく、10.0を超えると、張り出し加工や深絞り加工後の耐食性が得られないため好ましくない。逆に2.5〜3.0であると、極めて優れた張り出し加工や深絞り加工後の耐食性が得られ、かつ、耐水性も十分となり、環境負荷物質の溶出を抑制できるため、本発明のアルミめっき鋼板に形成された保護皮膜として最も好適である。
【0025】
また、前記構成元素の含有量に関して、ZrとPの質量比Zr/Pは8.5〜18.0である必要があり、10〜15であることが好ましく、12.0〜13.5であることがより好ましい。ZrとPの質量比Zr/Pが8.5未満であると、塗装性、耐熱性が得られず実用上の問題が生じ、加えて、耐水性が得られないため環境負荷物質の溶出が生じ、処理液安定性も得られないため好ましくなく、18.0を超えると耐熱性と処理液安定性が得られないため好ましくない。逆に12.0〜13.5であると、極めて優れた張り出し加工や深絞り加工後の耐食性が得られ、本発明のアルミめっき鋼板に形成された保護皮膜として最も好適である。
【0026】
さらに、保護皮膜中に含まれるZr含有量が23質量%〜48質量%である必要があり、28質量%〜41質量%であることが好ましく、31質量%〜37質量%であることがより好ましい。造膜成分であるZrの含有量が低下した場合、他の成分を添加しないとすると、前記Zr/FやZr/Pが本発明の好適範囲を満たさず、然るに前記の不具合が生じるため好ましくない。
【0027】
前記質量比算出に用いる各成分の質量に関しては、蛍光X線分析装置にて測定することができ、他の方法としては、保護皮膜を水に溶解させ、ICP(発光分光分析)やTOC(全有機炭素分析)などの機器分析にて求めることもできる。
【0028】
本発明のアルミめっき鋼板の保護皮膜を形成する前記表面処理剤のpHは8.0〜11.0である必要があり、8.5〜10.5であることが好ましく、9〜10であることがより好ましい。前記表面処理剤のpHが8.0未満であると処理液安定性が得られないため好ましくなく、11.0を超えると、素材であるアルミめっき鋼板のエッチングが過多となり、耐水性も低下するため環境負荷物質の溶出が助長されるため好ましくない。
【0029】
本発明のアルミめっき鋼板の保護皮膜は、前記表面処理剤を塗布し、水洗することなく乾燥させる必要がある。本発明の保護皮膜を形成する表面処理剤は塗布型であり、反応型の表面処理剤のように水洗をする必要がなく、乾燥前に水洗をすると、皮膜の大部分が溶け落ちるため好ましくない。塗布方法に関しては、ロールコート、流しかけ、スプレーおよび浸漬など公知の方法であれば、限定されるものではないが、中でもロールコートが好ましい。乾燥方法に関しては、熱風乾燥、誘導加熱乾燥および近赤外線乾燥など公知の方法であれば限定されるものではない。乾燥温度については、到達温度で70℃〜150℃であることが好ましく、90℃〜120℃であることがより好ましい。到達温度が70〜150℃であると、皮膜の含水率や皮膜成分の造膜状態が好ましい状態になるため、本発明の効果である張り出し加工や深絞り加工後の耐食性が極めて優れる。
【0030】
皮膜質量に関しては、0.2〜2.0g/mであることが好ましく、0.3〜0..8g/mであることがより好ましく、0.3〜0.6g/mであることが最も好ましい。皮膜質量が0.2〜2.0g/mの範囲であると全ての性能が満足する理想的な保護皮膜が形成される。
【0031】
本発明のアルミめっき鋼板は、クロムを含まないことで環境に対する負荷を著しく軽減し、その上で張り出し加工や深絞り加工後の耐食性に極めて優れ、同時に塗装性、耐熱性および耐水性に優れる。この理由は以下のように推測されるが、本発明はかかる推測に縛られるものではない。
【0032】
本発明のアルミめっき鋼板は、保護皮膜の主成分としてZr化合物を有する。Zr化合物としては、皮膜形成源としてジルコニウムフッ化水素酸を除くジルコニウム含有錯化合物を用いることができ、炭酸ジルコニウムアンモニウムが最も好ましい。これらは、その構造からもわかるように、皮膜形成時に炭酸やアンモニアが揮発し、Zrと酸素を主成分とする皮膜が形成される。この皮膜が所謂ガラスのような皮膜を形成するため、環境遮断能に優れた耐食性の良好な皮膜を形成するものと推察される。しかしながら、前記したようにガラスのような皮膜であるため、皮膜に加工負荷がかかると容易に割れが生じ、特徴であった環境遮断能が発揮されなくなる。また、表面が平滑であるため、塗装などの上塗りが密着しにくい。このようなZr−O皮膜にFを添加することで、Zr−Oのネットワークの一部にFを導入でき、強固なネットワークを部分的に柔軟にすることができる。また、素材表面をエッチングし、密着性の乏しい酸化膜を除去し、加えて表面を反応性の高い状態にすることで、Zrの密着性を改善することができる。これらの効果によりFを添加することで、張り出し加工や深絞り加工後の耐食性に極めて優れる皮膜とすることができるのである。
【0033】
また、Pは、リン酸ジルコニウムの形で、三次元のジルコニウム酸化構造中の一部骨格として取り込まれ、ジルコニウム錯体とリン酸が架橋された構造となる。
【実施例】
【0034】
以下に本発明の実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。試験板の調製、実施例および比較例、および表面処理剤の塗布の方法について下記に説明する。
【0035】
(試験板の調製)
(1)試験素材
厚さ0.8mmの冷延鋼板を溶融めっきラインに通板し、Al−10mass%Si(90mass%Al)組成のAl−Siめっきを実施した。めっき付着量を約40g/mに調整したAl−Siめっきを使用した。
(2)脱脂処理
素材を、60℃のアルカリ脱脂剤(サーフクリーナー155、日本ペイント社製)2%水溶液を用いて30秒間スプレー処理して脱脂し、純水で30秒間水洗したのちに乾燥したものを試験板とした。
【0036】
実施例および比較例に使用した保護皮膜形成用表面処理剤の配合例を表1に示す。試験に供した表面処理剤は、イオン交換水に表1の成分を順次攪拌しながら加え、固形分が10質量%となるように調整した。
【0037】
表1に示す実施例用表面処理剤および比較例用表面処理剤を表1に示す処理条件にて保護皮膜を形成させ、試験に供した。保護皮膜中に含まれる元素の比を蛍光X線分析装置にて確認し、蛍光X線装置測定で得られた強度と実付着量の検量線により算出した。また、比較例13〜17については、表2に記載の特許文献を参考として作製した。
【0038】
<張り出し加工部耐食性>
試験片の中央をエリクセン試験機にて7mm押し出し、JIS−Z−2371による塩水噴霧試験を120時間行い、白錆発生状況を観察した。
(評価基準)
◎=錆発生が全面積の3%未満
○=錆発生が全面積の3%以上10%未満
△=錆発生が全面積の10%以上30%未満
×=錆発生が全面積の30%以上
【0039】
<深絞り加工後の耐食性>
高速深絞り試験機にて、絞り比:2.0、しわ押さえ荷重:2.0ton、ポンチ速度:60m/mimにて深絞り加工を行い、JIS−Z−2371による塩水噴霧試験を72時間行い、側面の白錆発生状況を観察した。
(評価基準)
◎=錆発生が全面積の3%未満
○=錆発生が全面積の3%以上10%未満
△=錆発生が全面積の10%以上30%未満
×=錆発生が全面積の30%以上
【0040】
<塗装性>
メラミンアルキッド系塗料をバーコートで塗布し、120℃で20分焼付けた後、1mm碁盤目にカットし、密着性の評価を残個数割合(残個数/カット数:100個)にて行った。
(評価基準)
◎=100%
○=95%以上
△=90%以上、95%未満
×=90%未満
【0041】
<耐熱性>
炉内温度が300℃のオーブンに10分間投入し、試験前および後の色調をカラーコンピューターにて測定し、色差を求めた。
(評価基準)
◎=△Eが1.0未満
○=△Eが1.0以上2.0未満
△=△Eが2.0以上3.0未満
×=△Eが3.0以上
【0042】
<耐水性>
超純水を入れた1L密閉容器(ステンレス製)に試験片を入れ、オートクレーブにて、溶出成分を測定した。なお使用した試験液(超純水)は900mLで、使用した試験片は寸法:90mm×100mmを5枚(総面積:0.09m(139.5inch))とし、温度121℃にて120分保持した。試験後の試験液をICPにて含有成分量を測定した。
(評価基準)
◎=0.02mg/inch未満
○=0.02mg/inch以上、0.05mg/inch未満
×=0.05mg/inch以上
【0043】
<エッチング性>
温度25℃の処理液が300mL入った容器に試験片(寸法:75mm×50mm 20枚 面積:0.15m)を10分浸漬させ、ICPにて溶出したアルミニウムの量を測定した。
(評価基準)
◎=0.1mg/m・sec未満
○=0.1mg/m・sec以上、0.3mg/m・sec未満
×=0.03mg/m・sec以上
【0044】
<環境負荷性>
表面処理に係わる工程における環境負荷を、直接的および間接的に評価した。
(評価基準)
○=環境負荷が無い
△=処理工程における排水に環境負荷物質が含有される
×=皮膜から環境負荷物質が溶出する
【0045】
<処理液安定性>
処理液を40℃の恒温保管庫に静置し、保管安定性を評価した。
(評価基準)
○=3ヶ月経時にて変化なし
△=1ヶ月経時にて変化は無いものの、3ヶ月経時までの間で沈殿が生じる
×=1ヶ月経時にて沈殿が生じる
【0046】
評価結果を表3および表4に示す。実施例1〜2は比較例1〜3と比較して、皮膜性能に優れるだけでなく、比較例1〜3のように、本発明のZr、FおよびP源を別の物質に置き換えたることで、環境負荷物質が排出されやすくなる。また、Zrを使用しない場合、皮膜の全性能が著しく低下するだけでなく、皮膜成分が溶出する。実施例1および3〜12を比較例4〜6と比較すると、Zr/Fが本発明の好適範囲にあることで耐食性などの皮膜性能に優れることがわかる。実施例3〜7よりZr/Fが小さくなると、耐水性やエッチング性が低下する傾向にあり、逆に、実施例8〜12より、Zr/Fが大きくなると、加工部耐食性が低下する傾向があるが、好適範囲であれば十分に実使用可能な状態である。実施例1および13〜25を比較例7〜9と比較すると、Zr/Pが本発明の好適範囲にあることで耐食性などの皮膜性能に優れることがわかる。実施例13〜19より、Zr/Pが小さくなると、塗装性、耐水性およびエッチング性が低下する傾向にあり、逆に、実施例20〜25より、Zr/Pが大きくなると、加工性がやや低下する他、耐熱性および処理液安定性が低下するが、好適範囲であれば十分に実使用可能な状態である。実施例1および26〜31は比較例10〜11と比較すると、pHが本発明の好適範囲にあることで耐食性などの皮膜性能に優れることがわかる。また、実施例1および32〜36より、本発明の好適範囲を満たすことで、皮膜量0.2g/m〜0.8g/mで実用に十分である性能が得られることがわかる。一方、比較例13〜17より、類似した開示技術のいずれにおいても、本発明の優れた効果を十分に得ることは出来ず、本発明の保護皮膜を形成したアルミめっき鋼板がこれまでに無い技術的に優れたものであることがわかる。以上より、本発明の好適成分を好適な範囲にて保護皮膜を形成すると、クロムを含まないことで環境に対する負荷を著しく軽減し、その上で張り出し加工や深絞り加工後の耐食性に極めて優れ、同時に塗装性、耐熱性および耐水性に優れた保護皮膜を有する調理器用アルミめっき鋼板を得ることができる。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護皮膜を有するめっき層組成がAl:70質量%以上のアルミめっき鋼板であって、
前記保護皮膜が、Zr、F、P、C、O、NおよびHのみから成り、かつ数平均分子量が200以上の有機物を含有せず、
前記保護皮膜の構成元素のうち、ZrとFの質量比Zr/Fが1.0〜10.0であり、ZrとPの質量比Zr/Pが8.5〜18.0であり、
前記保護皮膜中に含まれるZr含有量が23.0質量%〜48.0質量%であることを特徴とする、表面処理アルミめっき鋼板。
【請求項2】
前記保護皮膜の皮膜量が、0.2g/m〜2.0g/mである、請求項1に記載の表面処理アルミめっき鋼板。
【請求項3】
めっき組成がAl:70質量%以上のアルミめっき鋼板に、表面処理剤を塗布し、水洗することなく焼付けることによって、前記アルミめっき鋼板の表面に保護皮膜を形成する表面処理アルミめっき鋼板の製造方法であって、
前記表面処理剤は、前記保護皮膜がZr、F、P、C、O、NおよびHのみから成り、かつ数平均分子量が200以上の有機物を含有せず、前記保護皮膜の構成元素のうち、ZrとFの質量比Zr/Fが1.0〜10.0となり、ZrとPの質量比Zr/Pが8.5〜18.0となり、前記保護皮膜中に含まれるZr含有量が23.0質量%〜48.0質量%となるように成分が調整され、
前記表面処理剤の各成分の供給源が、炭酸、りん酸、フッ化水素酸からなる群から選ばれる1種以上の無機酸および/又はそのアンモニウム塩と、ジルコニウムフッ化水素酸を除くジルコニウム含有錯化合物からなり、
前記表面処理剤のpHが8.0〜11.0であることを特徴とする、表面処理アルミめっき鋼板の製造方法。



【公開番号】特開2013−7108(P2013−7108A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141645(P2011−141645)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】