説明

表面処理カーボンブラック粒子水性分散体の製造方法および表面処理カーボンブラック粒子水性分散体

【解決課題】優れた黒色度および分散性を示すとともに、水性黒色インキとして用いたときに、保存安定性に優れ、フェザリングが少なく、吐出安定性、耐擦性(速乾性)に優れ、金属腐食の抑制効果が高い表面処理カーボンブラック粒子水性分散体の製造方法を提供する。
【解決手段】DBP吸収量が120cm/100g以上であるカーボンブラック粒子の表面に酸性水酸基を付与してなる酸化カーボンブラック粒子の水性分散液において、前記酸性水酸基の5%以上50%未満を多価カチオンで中和した後、前記酸性水酸基の残部を一価のカチオンで中和することを特徴とする表面処理カーボンブラック粒子水性分散体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理カーボンブラック粒子水性分散体の製造方法および表面処理カーボンブラック粒子水性分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラックは疎水性で水に対する濡れ性が低いために水性媒体中に高濃度で安定して分散させることは極めて困難である。これはカーボンブラック表面に存在する水分子等の水性媒体との親和性が高い親水性官能基、例えばカルボキシル基やヒドロキシル基等の酸性水酸基が極めて少ないことに起因する。
【0003】
そこで、カーボンブラックを酸化処理して表面に親水性官能基を付与することによりカーボンブラックの水中への分散性能を改良することが古くから試みられている。
例えば、特許文献1(特開昭48−018186号公報)ではカーボンブラックを次亜ハロゲン酸塩の水溶液で酸化処理する方法が提案され、また、特許文献2(特開昭57−159856号公報)ではカーボンブラックを低温酸素プラズマによって酸化処理する方法が提案されているが、現在においては、インクジェットプリンター用黒色インキ等の水性黒色インキに好適に使用し得る、黒色度(印字濃度)や水分散性に優れたカーボンブラックの水性分散体が求められるようになっている。
【0004】
一方、軽度の酸化処理を施したカーボンブラックと、カップリング剤または界面活性剤等とを併用することによって、水に対する分散性の向上を図った水性インキの製造方法(例えば、特許文献3(特開平4−189877号公報))が提案されているが、温度変化や経時的変化による界面活性剤等の酸化や分解による変質から、分散性能を長期に亘って安定に維持することが困難である。
【0005】
また、分散性を高めながらカーボンブラックを表面処理する方法として、カーボンブラックを水中でガラスビーズにより微粉砕して次亜ハロゲン酸塩で酸化する方法もあるが、水中におけるガラスビーズにかかる浮力により粉砕効果が減殺されるばかりか、活性点も形成され難く、カーボンブラック表面に均一に官能基を形成することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭48−018186号公報
【特許文献2】特開昭57−159856号公報
【特許文献3】特開平4−189877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況下、本発明者等は、DBP(Dibutyl phthalate)吸収量が120cm/100g以上であるカーボンブラック粒子表面に形成した酸性水酸基を、一価のカチオンとともに二価以上の価数を有する多価カチオンで中和することにより、優れた黒色度(印字濃度)を示す表面処理カーボンブラック粒子水性分散体を得ることを着想した。
【0008】
しかしながら、本発明者等がさらに検討したところ、DBP吸収量が120cm/100g以上であるカーボンブラック粒子から得られる酸化カーボンブラック粒子と、多価カチオンとを併用すると、黒色度は向上するものの、多価カチオンが遊離してしまい分散性の低下を招くことが判明した。
【0009】
本発明は、優れた黒色度および分散性を示すとともに、水性黒色インキに用いたときに、保存安定性に優れ、フェザリングが少なく、吐出性、耐擦性(速乾性)、金属腐食の抑制に優れた効果を発揮する表面処理カーボンブラック粒子水性分散体の製造方法および表面処理カーボンブラック粒子水性分散体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記技術課題を解決すべく、鋭意検討を重ねたところ、DBP吸収量が120cm/100g以上であるカーボンブラック粒子の表面に酸性水酸基を付与してなる酸化カーボンブラック粒子の水性分散液において、前記酸性水酸基の5%以上50%未満を多価カチオンで中和した後、前記酸性水酸基の残部を一価のカチオンで中和して表面処理カーボンブラック粒子水性分散体を作製することにより、上記技術課題を解決し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)DBP吸収量が120cm/100g以上であるカーボンブラック粒子の表面に酸性水酸基を付与してなる酸化カーボンブラック粒子の水性分散液において、
前記酸性水酸基の5%以上50%未満を多価カチオンで中和した後、前記酸性水酸基の残部を一価のカチオンで中和する
ことを特徴とする表面処理カーボンブラック粒子水性分散体の製造方法、および
(2)DBP吸収量が120cm/100g以上であるカーボンブラック粒子の表面に酸性水酸基を付与してなる酸化カーボンブラック粒子の水性分散液において、
前記酸性水酸基の5%以上50%未満を多価カチオンで中和した後、前記酸性水酸基の残部を一価のカチオンで中和してなる
ことを特徴とする表面処理カーボンブラック粒子水性分散体
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、DBP吸収量が120cm/100g以上であるカーボンブラック粒子の表面に酸性水酸基を付与してなる酸化カーボンブラック粒子の水性分散液において、上記酸性水酸基の5%以上50%未満を多価カチオンで中和した後、上記酸性水酸基の残部を一価のカチオンで中和することによって、酸性水酸基に対して多価カチオンおよび一価のカチオンを強固に結合させて多価カチオンの遊離を抑制することができ、このために、優れた黒色度および分散性を示すとともに、水性黒色インキに用いたときに、保存安定性に優れ、フェザリングが少なく、吐出性、耐擦性(速乾性)、金属腐食の抑制に優れた効果を発揮する表面処理カーボンブラック粒子水性分散体を製造する方法および表面処理カーボンブラック粒子水性分散体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
先ず、本発明の表面処理カーボンブラック粒子水性分散体の製造方法について説明する。
本発明の表面処理カーボンブラック粒子水性分散体の製造方法は、DBP吸収量が120cm/100g以上であるカーボンブラック粒子の表面に酸性水酸基を付与してなる酸化カーボンブラック粒子の水性分散液において、前記酸性水酸基の5%以上50%未満を多価カチオンで中和した後、前記酸性水酸基の残部を一価のカチオンで中和することを特徴とするものである。
【0014】
本発明の製造方法において、酸化カーボンブラック粒子を構成するカーボンブラック粒子としては、特に制限はなく、ファーネスブラック粒子、チャンネルブラック粒子、アセチレンブラック粒子、サーマルブラック粒子等いずれも適用することができる。
【0015】
本発明の製造方法において、上記カーボンブラックのDBP吸収量は、120cm/100g以上であり、120〜300cm/100gであることが好ましく、120〜180cm/100gであることがより好ましい。
本発明の製造方法において、カーボンブラックのDBP吸収量が120cm/100g以上であることにより、優れた黒色度(印字濃度)を発揮することができる。
【0016】
DBP吸収量が120cm/100g以上であるカーボンブラックとしては、特に制限されず、例えば、東海カーボン(株)製シースト5H、3H、NH、116HM、116、トーカブラック#5500、#4500、#4400や、旭カーボン社製F−200、SUNBLACK 270や、三菱化学社製ダイヤブラックSA、N234、II(IISAF)、N(N339)、SH(HAF)、MA600、#20、#3050、#3230や、キャボット社製ショウブラック N234、N339、MAF、VULCAN XC 72、BLACK PEARLS 480や、新日化カーボン社製ニテロン#200IS、#10や、電気化学工業社製デンカブラックFX−35、HS−100や、エボニックデグサ社製Colour Black FW200、FW2、FW285、FW1、FW18、S170、S160、Special Black 6、5、4、4A、Printex U、V、140U、140V、L6、3、HIBLACK 40B1、40B2、420B、150B、Corax HP1107、HP130、N234、N339、N351、MAF、N550、Purex HS55、HS45や、コロンビアン社製Raven 820、Conductex 7055ULTRA等を挙げることができる。
【0017】
なお、本出願書類において、DBP吸収量は、JIS K6217−4に規定される「ゴム用カーボンブラック−基本特性−第4部、オイル吸収量の求め方」に従って測定した値を意味する。
【0018】
本発明の製造方法において、上記カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、25〜300m/gであることが好ましく、100 〜300m/gであることがより好ましく、100〜180m/gであることがさらに好ましい。
なお、本出願書類において、NSAは、JIS K 6217−2に規定される「ゴム用カーボンブラック−基本特性−第2部、比表面積の求め方−窒素吸着法、単点法」に従って測定した値を意味する。
【0019】
本発明の製造方法において、上記カーボンブラックのよう素吸着量(IA)は、25〜300mg/gであることが好ましく、100〜300mg/gであることがより好ましく、100〜180mg/gであることがさらに好ましい。
なお、本出願書類において、IAは、JIS K6217−1に規定される「ゴム用カーボンブラック−基本特性−第1部、よう素吸着量の求め方−滴定法」に従って測定した値を意味する。
【0020】
本発明の製造方法において、上記カーボンブラックの比着色力(Tint)は、30〜180%であることが好ましく、90〜180%であることがより好ましく、100〜150%であることがさらに好ましい。
なお、本出願書類において、Tintは、ASTM D 3265の規定に従って測定した値を意味する。
【0021】
本発明の製造方法において、上記カーボンブラックの体積平均粒径は30nm〜250nmであることが好ましく、50nm〜150nmであることがより好ましく、60nm〜100nmであることがさらに好ましい。
上記カーボンブラックの体積平均粒径が上記範囲内にあることにより、得られる表面処理カーボンブラック粒子水性分散体をインクジェットプリンター用インキ等の水性黒色インキに用いたときに、優れた吐出性および黒色度(印字濃度)を発揮し易くなる。
なお、本出願書類において、カーボンブラック粒子の体積平均粒径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定された、体積積算粒度分布における積算粒度で50%の粒径(平均粒径D50)を意味する。
【0022】
本発明の製造方法において、酸化カーボンブラック粒子は、上記カーボンブラック粒子の表面に酸性官能基を付与してなるものである。
カーボンブラック粒子は、その製造履歴に応じて表面に種々の官能基を有しており、例えばチャンネルブラック粒子の表面にはファーネスブラック粒子の表面に比べて多量の官能基が存在している。
本発明の製造方法においては、カーボンブラック粒子の製造過程でその表面に酸性水酸基が所望量付与されている場合には、該カーボンブラック粒子を酸化カーボンブラック粒子とみなすものとし、カーボンブラック粒子表面に所望量の酸性水酸基が存在しない場合は、別途酸化処理してカーボンブラック粒子表面に所望量の酸性水酸基を付与したものを酸化カーボンブラック粒子とするものとする。
【0023】
カーボンブラック粒子を酸化処理して酸化カーボンブラック粒子を得る方法としては、公知の方法を採用することができ、例えば、カーボンブラック粒子を酸化剤水性溶液中に撹拌混合して液相酸化する方法を挙げることができる。
液相酸化に用いる酸化剤としては、特に制限されないが、例えば、硝酸、硫酸、塩素酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソ硼酸、ペルオキソ炭酸、ペルオキソリン酸などのペルオキシ二酸や、これ等の酸の塩類などを挙げることができ、塩類としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属の塩あるいはアンモニア塩などが挙げられる。
また、上記酸化剤を分散する溶媒としては、水性媒体が好ましく、水性媒体としては水や水溶性の有機溶媒を挙げることができるが、経済性や安全性の面から水、特に脱イオン水を使用することが好ましい。
【0024】
液相酸化の程度は、酸化剤水性溶液中の酸化剤濃度、酸化剤水性溶液に混合するカーボンブラック粒子の添加量の比、酸化処理温度、処理時間、攪拌速度等を調整することにより制御することができる。
【0025】
上記液相酸化は、例えば、濃度調整した酸化剤水性溶液中にカーボンブラック粒子を適宜な量比で添加、混合して、室温〜90℃程度、好ましくは60〜90℃の温度条件下で1〜20時間攪拌してスラリー化することにより行うことができる。
【0026】
上記液相酸化処理に際して、カーボンブラック粒子を予め湿式酸化あるいは乾式酸化してもよく、予め湿式酸化或いは乾式酸化することにより、カーボンブラック粒子を効率よく酸化剤水性溶液中に分散することができ、均一かつ効率的に液相酸化することができる。
上記湿式酸化は、カーボンブラック粒子とオゾン水、過酸化水素水、過硫酸あるいはその塩類等と接触させることによって行うことができ、上記乾式酸化は、カーボンブラック粒子とオゾン、酸素、NOx、SOx等のガス雰囲気にカーボンブラック粒子を曝すことによって行うことができる。
【0027】
また、カーボンブラック粒子を均一に分散させるため、上記酸化剤水性溶液には、界面活性剤を添加してもよく、界面活性剤としては、アニオン系、ノニオン系、カチオン系いずれも使用することができる。
【0028】
液相酸化して酸化カーボンブラックを生成した後、液相酸化により生成したスラリー中の還元塩を除去しておくと、後工程である中和反応工程を円滑かつ効率よく進行させることができる。還元塩の除去は限外濾過膜(UF)、逆浸透膜(RO)、電気透析膜などの分離膜を用いて行うことができる。
【0029】
本発明の製造方法において、酸化カーボンブラック粒子の酸性水酸基量は、350〜1500μmol/gであることが好ましく、470〜1150μmol/gであることが好ましく、600〜900μmol/gであることがさらに好ましい。
本発明の製造方法において、酸化カーボンブラック粒子の酸性水酸基量が上記範囲内にあることにより、水性媒体中で良好な分散性を容易に発揮することができる。
本発明の製造方法において、酸化カーボンブラック粒子の酸性水酸基量は、酸化カーボンブラック粒子のカルボキシル基量およびヒドロキシル基量の和を意味する。酸化カーボンブラックの水性媒体への分散性等を考慮した場合、カーボンブラック粒子表面の官能基としては、酸性水酸基が重要であり、特にカルボキシル基およびヒドロキシル基が大きな役割を果たすことから、酸化カーボンブラック粒子の酸性水酸基量は、実質的にカルボキシル基量とヒドロキシル基量との和とみなすことができる。
【0030】
本発明の製造方法において、酸化カーボンブラック粒子のカルボキシル基量は、300〜1200μmol/gであることが好ましく、400〜900μmol/gであることが好ましく、500〜700μmol/gであることがさらに好ましい。
【0031】
また、本発明の製造方法において、酸化カーボンブラック粒子のヒドロキシル基量は、50〜300μmol/gであることが好ましく、70〜250μmol/gであることが好ましく、100〜200μmol/gであることがさらに好ましい。
【0032】
本出願書類において、酸化カーボンブラック粒子のカルボキシル基量およびヒドロキシル基量は、以下の(1)および(2)の方法によって測定した値を意味する。
(1)カルボキシル基量の測定方法
濃度0.976Nの炭酸水素ナトリウム水溶液に酸化カーボンブラックを約2〜5g添加して6時間程振とうした後、濾別し、濾液の滴定試験を行って測定する。
(2)ヒドロキシル基量の測定方法
2、2′−ジフェニル−1−ピクリルヒドラジル(DPPH)を四塩化炭素中にて溶解し、5×10−4mol/l溶液を作製する。該溶液に酸化カーボンブラック粒子を0.1〜0.6g添加し、60℃の恒温槽中にて6時間攪拌した後、濾別し、濾液を紫外線吸光光度計で測定して吸光度から算出する。
【0033】
本発明の製造方法において、酸化カーボンブラック粒子の水性分散液は、所望量の酸性水酸基が付与された酸化カーボンブラックを精製したのち水性媒体中に分散することにより調製してもよいし、上記カーボンブラック粒子を酸化して得られる分散液をそのまま使用してもよい。
水性媒体としては、上述したものと同様のものを挙げることができる。
【0034】
本発明の製造方法において、酸化カーボンブラック粒子の水性分散液中における酸化カーボンブラック粒子の濃度は、0.1〜20質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましく、1〜5質量%がさらに好ましい。
【0035】
本発明の製造方法においては、上記酸化カーボンブラック粒子の水性分散液において、カーボンブラック粒子表面の酸性水酸基の5%以上50%未満を多価カチオンで中和した後、上記酸性水酸基の残部を一価のカチオンで中和する。
本発明の製造方法においては、カーボンブラック粒子表面の酸性水酸基の5〜45%を多価カチオンで中和することが好ましく、10〜25%を多価カチオンで中和することがより好ましい。
上記多価カチオンによる中和の程度は、上記方法により測定されたカーボンブラック粒子表面の酸性水酸基量に対して、反応系に添加する多価カチオンの量を調整することにより制御することができる。
本発明の製造方法においては、酸化カーボンブラック粒子表面に存在する酸性水酸基の5%以上50%未満を多価カチオンで中和することにより、多価カチオンを酸化カーボンブラックの表面に効果的にかつ強固に結合させて遊離カチオンの発生を抑制し、優れた分散性と黒色度(印字濃度)を発揮する表面処理カーボンブラック粒子水性分散体を得ることができる。
【0036】
多価カチオンとしては、二価以上の価数を採り得る種々のカチオンを挙げることができ、二価のカチオンであることが好ましい。
多価カチオンとして、具体的には、ベリリウムイオン(Be2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、カルシウムイオン(Ca2+)、ストロンチウムイオン(Sr2+)、バリウムイオン(Ba2+)、ラジウムイオン(Ra2+)、スカンジウムイオン(Sc2+)、チタンイオン(Ti2+)、バナジウムイオン(V2+)、クロムイオン(Cr2+)、マンガンイオン(Mn2+)、鉄イオン(Fe2+)、コバルトイオン(Co2+)、ニッケルイオン(Ni2+)、銅イオン(Cu2+)、亜鉛イオン(Zn2+)、金イオン(Au2+)、カドミウムイオン(Cd2+)、水銀イオン(Hg2+)、鉛イオン(Pb2+)、白金イオン(Pt2+)、ホウ素イオン(B2+)、アルミニウムイオン(Al3+)、ガリウムイオン(Ga2+)、ジルコニウム(Zr4+)等を挙げることができる。
これらの多価カチオンは、例えば水酸化物や、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、塩酸塩、燐酸塩、硼酸塩等の塩の形態で供することができる。
本発明の製造方法においては、一価のカチオンとともに多価カチオンを用いることにより、得られる表面処理カーボンブラック粒子水性分散体において上記多価カチオンがサイズ剤として機能して、黒色度(印字濃度)を向上することができる。
【0037】
また、一価のカチオンとしては、ナトリウムイオン(Na)、リチウムイオン(Li)、カリウムイオン(K)、ルビジウムイオン(Rb)、セシウムイオン(Cs)、アンモニウムイオン(NH4+)等を挙げることができる。
これ等の一価のカチオンは水酸化物の形態で供することが好ましい。また、水酸化テトラアルキルアンモニウム等として供してもよい。
【0038】
本発明の製造方法においては、酸化カーボンブラック粒子の水性分散液に対して、先ず多価カチオンを加え、次いで、一価のカチオンを加えてカーボンブラック粒子表面の酸性水酸基を中和するが、この場合、酸性水酸基の5%以上50%未満が二価以上のカチオンで中和され、残りの酸性水酸基が一価のカチオンで中和されるように、多価カチオンおよび一価のカチオンの添加量を調整する。
【0039】
上記中和反応は、常温〜100℃の温度条件下、pHを4.0〜12.0に調整して、3〜20時間撹拌しながら行うことが好ましい。
【0040】
このように、本発明の製造方法は、酸性カーボンブラック粒子表面に付与されたカルボキシル基やヒドロキシル基等の酸性水酸基を多価カチオンおよび一価のカチオンで中和するものであるが、酸性カーボンブラック粒子表面に付与されたカルボキシル基やヒドロキシル基等の酸性水素基を多価カチオンや一価のカチオンで置換すると表現することもできる。
【0041】
本発明の製造方法において、酸化カーボンブラック粒子に対して多価カチオンとして先ず2価のカチオン(M2+)を加えた場合に、酸化カーボンブラック粒子の表面に付与されたカルボキシル基(−COOH)や水酸基(−OH)は、例えば以下の模式図のとおり中和される。
【0042】
【化1】

【0043】
次いで、酸化カーボンブラック粒子に対して一価のカチオン(M)を加えた場合に、酸化カーボンブラック粒子の表面に付与されたカルボキシル基(−COOH)や水酸基(−OH)は、例えば以下の図のとおり中和される。
【0044】
【化2】

【0045】
本発明者等が、酸化カーボンブラック粒子の分散性を向上するために鋭意検討したところ、驚くべきことに、酸化カーボンブラック粒子に対して多価カチオンと一価のカチオンを同時に添加した場合、塩基性あるいは溶解度の違いによって、一価のカチオンが酸化カーボンブラック粒子表面の主な酸性官能基(酸性水酸基)を占有してしまい、多価カチオンが遊離カチオンとなる結果、複数の酸化カーボンブラック粒子の酸性水酸基と結合して粒子同士を凝集させ、酸化カーボンブラック粒子の分散性を低下してしまうことが判明した。また、酸化カーボンブラック粒子に対して先ず一価の水酸化物を添加し、次いで多価カチオンを添加した場合には、酸化カーボンブラック粒子の表面に形成された主な酸性官能基(酸性水酸基)を先に添加した一価カチオンが占有してしまい、多価カチオンが入り込む余地が少なくなる結果、多価カチオンが遊離カチオンとなり、上記と同様に凝集剤的に作用するために、酸化カーボンブラックの分散性を向上し得ないことが判明した。
【0046】
また、本発明者等の検討によれば、上記凝集作用は、特に、酸化カーボンブラックとして、DBP吸収量が120cm/100g以上のカーボンブラックにより形成されてなるものを用いた場合に顕著に生じることが判明した。
これは、酸化カーボンブラックとして、DBP吸収量が120cm/100g以上のカーボンブラックにより形成されてなるものを用いた場合、黒色度(印字濃度)は向上するものの、酸化カーボンブラック粒子同士の距離が短くなり、上記遊離カチオンが複数の酸化カーボンブラック粒子の酸性水酸基と結合し易くなる結果、凝集を生じ易くなるためと考えられる。
【0047】
上記知見を基に、本件発明者等がさらに検討したところ、DBP吸収量が120cm/100g以上のカーボンブラックから形成されてなる酸化カーボンブラック粒子の水性分散液に対して、先ず所定量の多価カチオンを加え、次いで一価のカチオンを加えてカーボンブラック粒子表面の酸性水酸基を中和した場合には、最初に加えた多価カチオンが酸化カーボンブラック粒子表面の酸性水酸基に対して強固に結合するために遊離カチオンを生じ難く、残った酸性水酸基を一価のカチオンで中和することにより、黒色度(印字濃度)および分散性に優れる表面処理カーボンブラック粒子水性分散体を製造し得ることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0048】
本発明の製造方法で得られる水性分散体を構成する表面処理カーボンブラック粒子は、酸化カーボンブラック粒子の表面に多価カチオンが強固に結合したものであることから、上記水性分散体を水性インキ等に用いた場合に、印字時に多価カチオンが紙表面上でサイズ剤の役割を果たし、印字濃度を向上させることができる。
【0049】
本発明の製造方法において、上記中和処理により生じた塩類は、中和により得られた表面処理カーボンブラック粒子の分散性を阻害する可能性があることから、除去することが好ましい。上記塩類の除去は、水性分散体中における表面処理カーボンブラック粒子の再凝集を抑制する上でも有効である。
塩類の除去(精製)は、例えば限外濾過膜(UF)、逆浸透膜(RO)、電気透析膜などの分離膜を用いて行うことが好ましく、塩類の除去の程度(精製の程度)は、例えば、表面処理カーボンブラック粒子の含有濃度が20質量%である場合には、水性分散体の電導度が5mS/cm以下になるまで行うことが好ましい。
【0050】
また、上記中和処理後において、水性分散体中に大きな未分散塊や粗粒が存在する場合には、遠心分離や濾過などの方法により分級除去することが好ましい。上記未分散塊や粗粒を除去しない場合、例えばインクジェットプリンター用水性黒色インキに用いた場合に、ノズルの目詰まりを生じる場合がある。
【0051】
上記塩類の除去(精製)および必要に応じて分級処理した水性分散体は、更に、水性分散体中に含まれるカーボンブラック粒子の二次的凝集体を解砕処理することが好ましい。
上記解砕処理は、例えば、得られた水性分散体を加圧してノズルから噴射し、噴射流を相互に衝突させるか壁面へ高速噴射して衝突力あるいはせん断力を生じさせることにより行うことができる。
【0052】
上記解砕処理を行う場合、解砕処理装置としては、例えば、マイクロフルイディスク社製マイクロフルイダイザー、スギノマシン(株)製アルティマイザー、(株)東海製ナノマイザーや、高圧ホモジナイザー等の公知の各種解砕機を用いることができる。
また、解砕処理は、例えば、水性分散体を50〜250MPaの圧力下で噴射ノズルから噴射して、粒子凝集体の最大粒径が1μm以下になるように行うことが好ましい。
【0053】
なお、上記粗粒の分級処理や二次的凝集体の解砕処理は、酸化カーボンブラック粒子の分散体に多価カチオンおよび一価のカチオンを加えて中和処理した後、塩類の除去(精製)を行う前に行ってもよい。
【0054】
本発明の製造方法においては、このようにして、表面処理カーボンブラック粒子水性分散体を作製することができる。
本発明の製造方法において、上記水性分散体中の表面処理カーボンブラック粒子の濃度は0.1〜60質量%であることが好ましく、0.1〜25質量%であることがより好ましく、10〜25質量%であることがさらに好ましい。
【0055】
本発明の製造方法で得られる表面処理カーボンブラック粒子水性分散体は、遊離(多価)カチオンの存在量を大幅に抑制してなるものであり、例えば、10質量%の表面処理カーボンブラック粒子を含む水性分散体において、遊離(多価)カチオンの存在量が10質量ppm以下に抑制することができ、好適には8質量ppm以下に抑制することができ、より好適には5質量ppm以下に抑制することができる。
また、本発明の製造方法で得られる表面処理カーボンブラック粒子水性分散体は、印字濃度を光学濃度(Optical Density(OD))で1.40以上に向上することができ、好適には1.45以上に向上することができ、より好適には1.50以上に向上することができる。
【0056】
本発明の方法で得られた表面処理カーボンブラック粒子水性分散体をインクジェットプリンター等の水性黒色インキに使用する場合は、さらに必要に応じて、精製、濃縮することができる。
例えば、水性黒色インキとして適当なカーボンブラック粒子の分散濃度になるように、例えば、0.1〜20質量%の濃度になるように水性媒体を添加するか、あるいは水性媒体を除去することにより濃度調整し、さらに必要に応じて、防腐剤、粘度調整剤、樹脂等のインキ調製剤を添加することにより水性黒色インキを調製することができる。
【0057】
本発明によれば、優れた黒色度および分散性を示すとともに、水性黒色インキとして用いたときに、保存安定性に優れ、フェザリングが少なく、吐出性、耐擦性(速乾性)、金属腐食の抑制に優れた効果を発揮する表面処理カーボンブラック粒子水性分散体の製造方法を提供することができる。
【0058】
次に、本発明の表面処理カーボンブラック粒子水性分散体について説明する。
本発明の表面処理カーボンブラック粒子水性分散体は、DBP吸収量が120cm/100g以上であるカーボンブラック粒子の表面に酸性水酸基を付与してなる酸化カーボンブラック粒子の水性分散液において、前記酸性水酸基の5%以上50%未満を多価カチオンで中和した後、前記酸性水酸基の残部を一価のカチオンで中和してなることを特徴とするものである。
【0059】
本発明の表面処理カーボンブラック粒子水性分散体において、酸化カーボンブラック粒子やその水性分散液としては、上述したものと同様のものを挙げることができる。
また、本発明の表面処理カーボンブラック粒子水性分散体において、多価カチオンや一価のカチオンとしても上述したものと同様のものを挙げることができ、中和の程度等についても上記した内容と同様である。
本発明の表面処理カーボンブラック粒子水性分散体は、上記本発明の製造方法により製造することが好ましく、得られた表面処理カーボンブラック粒子水性分散体の濃度や物性等の好適な態様についても上記した内容と同様である。
【0060】
本発明によれば、優れた黒色度および分散性を示すとともに、水性黒色インキとして用いたときに、保存安定性に優れ、フェザリングが少なく、吐出性、耐擦性(速乾性)、金属腐食の抑制に優れた効果を発揮する表面処理カーボンブラック粒子水性分散体を提供することができる。
【0061】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこの実施例により何ら制約されるものではない。
【0063】
(実施例1)
(1)カーボンブラックA(DBP吸収量が124cm/100g、窒素吸着比表面積(NSA)が145m/g、ヨウ素吸着量(IA)が135mg/g、比着色力(Tint)が135%、平均粒子径64μmであるもの)150gを、過硫酸アンモニウム水溶液(濃度2.0N)3000ml中に添加して、60℃の温度条件下、回転速度300rpmで攪拌しながら10時間液相酸化処理を施した。次いで、得られたスラリー中の還元塩を限外濾過膜(旭化成(株)製、AHP−1010、分画分子量50,000)で除去した後、濾別することにより酸化カーボンブラック粒子水分散液を得た。
この酸化カーボンブラック粒子の酸性水素基量を測定するために、カルボキシル基量およびヒドロキシル基量を測定した結果、カルボキシル基量は400μmol/g、ヒドロキシル基量は200μmol/gであった。
【0064】
(2)次に、上記酸化カーボンブラック粒子のスラリー中に、最初に水酸化カルシウムを添加し、100℃で2時間加温して中和処理を行った。
上記水酸化カルシウムの添加量は、カルシウム換算で7μmol/mlであり、上記カーボンブラック表面の酸性水酸基の40%を中和する量に相当する。
【0065】
(3)その後、さらに水酸化カリウムを添加し、同様に100℃で2時間加温して中和処理を行った。
上記水酸化カリウムの添加量は、カリウム換算で20μmol/mlであり、上記カーボンブラック表面の酸性水酸基の60%を中和する量に相当する。
【0066】
上記水酸化カリウムによる中和終了後、得られたスラリーを限外濾過膜(旭化成(株)製、AHP−1010、分画分子量50,000)で残存する塩を分離精製するとともに濃縮調整して、濃度20質量%の表面処理カーボンブラックの水分散体を作製した。
この水性分散体の電導度は0.6mS/cmであった。
【0067】
次に、上記濃度20質量%の表面処理カーボンブラックの水分散体を評価するために、以下の方法により、粘度、粒径(平均粒径Dupa50%および最大粒径Dupa99%)、印字濃度(Optical Density(OD))、遊離二価カチオンの濃度(遊離カルシウムイオン濃度)を測定した。結果を表1に示す。
【0068】
(粘度測定)
上記濃度20質量%の表面処理カーボンブラックの水分散体の一部を密閉容器に入れ、70℃の温度下に保持して初期粘度および4週間経過後の粘度を回転振動式粘度計(東機産業(株)製TV−20)により測定した。
【0069】
(粒径測定)
上記表面処理カーボンブラックの水分散体の一部を濃度0.1〜0.5kg/cmに調整して、ヘテロダインレーザドップラー方式粒度分布測定装置(マイクロトラック社製、UPAモデル9340型)を用いて表面処理カーボンブラック粒子の粒径を測定して累積度数分布曲線を作成した。この累積度数分布曲線における、50%累積度数の値を表面処理カーボンブラック粒子の平均粒径(Dupa50%)とし、99%累積度数の値を表面処理カーボンブラック粒子の最大粒径(Dupa99%)とした。
上記平均粒径および最大粒径の測定は、70℃の温度下に4週間保持して上記粘度測定を行った表面処理カーボンブラックの水分散体についても行った。
【0070】
(印字濃度(OD)測定)
上記濃度20質量%の表面処理カーボンブラックの水分散体の一部を孔径0.8μ m のメンブランフィルターで濾過し、インクジェットプリンター「EM−930C」(セイコーエプソン(株)製)のインクカートリッジに充填し、普通紙(Xerox4024紙)に英数文字を印字した。
印字してから1時間以上放置した後、光学濃度計(X−Rite 504型)により反射光学濃度を測定して、印字濃度とした。
【0071】
(遊離二価カチオン濃度測定)
上記濃度20質量%の表面処理カーボンブラックの水分散体の一部を純水で希釈して濃度10質量%の表面処理カーボンブラックの水分散体を得た後、遠心力により分離可能な限外濾過装置(ザルトリウス社製 ビバスピン20(型式VS2032)分画分子量50,000)を用いて固形分を分離した。次いで、得られた固形分は、ICP発光分光度計(セイコー・インスツルメント社製SPS7800)によってその成分が分析されることにより、遊離二価カチオンの濃度が測定された。
【0072】
(実施例2)
実施例1(1)と同様の方法により酸化カーボンブラック粒子水分散液を得た後、実施例1(2)において、上記カーボンブラック表面の酸性水酸基の20%を中和する量に相当する、カルシウム換算で3μmol/gの水酸化カルシウムを添加し、100℃で2時間加温して中和処理を行った後、実施例1(3)において、上記カーボンブラック表面の酸性水酸基の80%を中和する量に相当する、カリウム換算で40μmol/gの水酸化カリウムを添加し、100℃で2時間加温して中和処理を行った以外は、実施例1と同様に処理することにより、濃度20質量%の表面処理カーボンブラックの水分散体を得た。
この濃度20質量%の表面処理カーボンブラックの水分散体を評価するために、実施例1と同様の方法により、粘度、粒径(平均粒径Dupa50%および最大粒径Dupa99%)、印字濃度(OD)、遊離二価カチオンの濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0073】
(比較例1)
実施例1(1)において、カーボンブラックAに代えてカーボンブラックB(東海カーボン(株)製 商品名シースト9、DBP吸収量が115cm/100g、窒素吸着比表面積(NSA)が142m/g、よう素吸着量(IA)が139mg/g、比着色力(Tint) が129%、平均粒子径が67μmであるもの)を用い、実施例1(2)および(3)において、水酸化カルシウムと水酸化カリウムとを同時に添加した以外は、実施例1と同様に処理することにより、濃度20質量%の表面処理カーボンブラックの水分散体を得た。
この濃度20質量%の表面処理カーボンブラックの水分散体を評価するために、実施例1と同様の方法により、粘度、粒径(平均粒径Dupa50%および最大粒径Dupa99%)、印字濃度(OD)、遊離二価カチオンの濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0074】
(比較例2)
実施例1(1)において、カーボンブラックAに代えてカーボンブラックB(東海カーボン(株)製 商品名シースト9、DBP吸収量が115cm/100g、窒素吸着比表面積(NSA)が142m/g、よう素吸着量(IA)が139mg/g、比着色力(Tint)が129%、平均粒子径が67μmであるもの)を用い、実施例1(2)および(3)において、上記カーボンブラック表面の酸性水酸基の20%を中和する量に相当する、カルシウム換算で3μmol/gの水酸化カルシウムと、上記カーボンブラック表面の酸性水酸基の80%を中和する量に相当する、カリウム換算で40μmol/gの水酸化カリウムとを同時に添加し、100℃で2時間加温して中和処理を行った以外は、実施例1と同様に処理することにより、濃度20質量%の表面処理カーボンブラックの水分散体を得た。
この濃度20質量%の表面処理カーボンブラックの水分散体を評価するために、実施例1と同様の方法により、粘度、粒径(平均粒径Dupa50%および最大粒径Dupa99%)、印字濃度(OD)、遊離二価カチオンの濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
表1の結果から、実施例1および実施例2で得られた表面処理カーボンブラック水分散体は、70℃で4週間加温した前後における粘度および粒径(Dupa50%およびDupa99%)が殆ど変化しないことから分散安定性に優れるものであり、また、印字濃度(OD)が1.51〜1.52と高く黒色度に優れるものであることが分かるが、これは、表1に示すように、カルシウムカチオンの遊離濃度が3.8〜4.9質量ppmと低いためと考えられる。
これに対して、比較例1および比較例2で得られた表面処理カーボンブラック水分散体は、水酸化カルシウムと水酸化カリウムとを同時に添加していることから、カルシウムカチオンの遊離濃度が18.9〜37.2質量ppmと高く、また、DBP吸収量が115cm/100gと低いカーボンブラックを用いていることから、印字濃度(OD)が1.47〜1.49と低く、光学濃度に劣るものであることが分かる。
【0077】
(インクジェット記録用インキの作製)
上記実施例1で作製した濃度20質量%の表面処理カーボンブラックの水分散体に対し、精製水を加えて濃度10質量%の表面処理カーボンブラックの水分散体を作製した後、表2に示す含有割合になるように、さらに、グリセリン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、アセチルグリコール、ベンゾトリアゾール、防腐剤(アビシア(株)製プロキセルXL−2)、トリエタノールアミンを加えることにより、インクジェットプリンター用水性インキ1を得た。
また、同様にして、実施例2で作製した濃度20質量%の表面処理カーボンブラックの水分散体を用いて表2に示す組成を有するインクジェットプリンター用水性インキ2を作製するとともに、比較例1で作製した濃度20質量%の表面処理カーボンブラックの水分散体を用いて表2に示す組成を有するインクジェットプリンター比較水性インキ1を作製し、比較例2で作製した濃度20質量%の表面処理カーボンブラックの水分散体を用いて表2に示す組成を有するインクジェットプリンター比較水性インキ2を作製した。
【0078】
【表2】

【0079】
上記インクジェットプリンター用の水性インキ1、水性インキ2、比較水性インキ1、比較水性インキ2を用いて、以下の方法によりフェザリング、吐出性、耐擦性(速乾性)および金属腐食性を評価した。その結果を表3に示す。
【0080】
(フェザリング性評価)
各水性インキをインクジェットプリンター(セイコーエプソン(株)製EM−930C)のインクカートリッジに充填して、普通紙(Xerox4024紙)に英数文字を印字してから1時間以上放置した後、文字のシャープさ、および文字から発生しているフェザリングについて顕微鏡および目視により観察し、画像に与える影響を以下の基準で評価した。
◎ ; 文字がシャープで、フェザリングがほとんどない。
△ ; 文字がシャープでフェザリングは若干あるが、目立たない。
× ; 文字がシャープでなく、フェザリングが明らかに目立ち、実用に向かない。
【0081】
(吐出性)
各水性インキをインクジェットプリンター(セイコーエプソン(株)製EM−930C)のインクカートリッジに充填して、普通紙(Xer ox4024紙)に英数文字を印字することにより、吐出安定性および吐出応答性の確認を行った。
吐出安定性は、5℃、20℃、40℃の各温度雰囲気において24時間の連続吐出した後、吐出(噴射)が行われるかどうかにより評価し、吐出応答性は1分間の間欠吐出を100回行い、上記100回の間欠吐出のうち任意の吐出後2ヶ月放置し、再度吐出を行った際に吐出(噴射)が行われるかどうかにより評価した。
上記吐出安定性および吐出応答性がともに良好であり(噴射が良好に行われており)、インクジェットヘッドの先端部で目詰まりすることなく印刷できた場合を○ 、それ以外を×として評価した。
【0082】
(耐擦性(速乾性))
各水性インキをインクジェットプリンター(セイコーエプソン(株)製EM−930C)のインクカートリッジに充填して、普通紙(Xerox4024紙)に英数文字を印字してから一定時間放置した後、印字物の上に白色の同じ普通紙を重ね、さらに100gの平滑な錘を置いた状態で素早く印字物を抜き取った。
抜き取った後の印字物の印字部の汚れがなくなるまでに要する上記放置時間を測定し、以下の基準で評価した。
○ ; 15秒以内
△ ; 16秒以上
【0083】
(金属腐食性)
インク供給経路内の金属部材の原料に用いられる鉄・ニッケル合金片を、各水性インキに浸漬して、60℃で2時間放置し、放置前後における合金片の表面を目視観察して、腐食進行度を以下の基準で評価した。
○ ; 合金片表面に腐食の発生なし、または、若干の変色のみ発生あり。
× ; 合金片表面に腐食の発生あり。
【0084】
【表3】

【0085】
表3より、実施例1および実施例2で得られた表面処理カーボンブラック粒子水分散体からそれぞれ作製された水性インキ1および水性インキ2は、フェザリングをほとんど生じず、吐出性、耐擦過性に優れ、金属腐食性が低いものであることから、インクジェットプリンター用水性インキ等の水性黒色インキとして好適に使用し得ることが分かる。
これに対して、比較例1および比較例2で得られた表面処理カーボンブラック粒子水分散体からそれぞれ作製された比較水性インキ1および比較水性インキ2は、フェザリングを生じ、吐出性に劣るものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、優れた黒色度および分散性を示すとともに、水性黒色インキとして用いたときに、保存安定性に優れ、フェザリングが少なく、吐出性、耐擦性(速乾性)、金属腐食の抑制に優れた効果を発揮する表面処理カーボンブラック粒子水性分散体の製造方法および表面処理カーボンブラック粒子水性分散体を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DBP吸収量が120cm/100g以上であるカーボンブラック粒子の表面に酸性水酸基を付与してなる酸化カーボンブラック粒子の水性分散液において、
前記酸性水酸基の5%以上50%未満を多価カチオンで中和した後、前記酸性水酸基の残部を一価のカチオンで中和する
ことを特徴とする表面処理カーボンブラック粒子水性分散体の製造方法。
【請求項2】
DBP吸収量が120cm/100g以上であるカーボンブラック粒子の表面に酸性水酸基を付与してなる酸化カーボンブラック粒子の水性分散液において、
前記酸性水酸基の5%以上50%未満を多価カチオンで中和した後、前記酸性水酸基の残部を一価のカチオンで中和してなる
ことを特徴とする表面処理カーボンブラック粒子水性分散体。

【公開番号】特開2012−188542(P2012−188542A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53018(P2011−53018)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000219576)東海カーボン株式会社 (155)
【Fターム(参考)】