説明

表面処理亜鉛めっき鋼板、プレコート亜鉛めっき鋼板及びこれらの製造方法

【課題】長期の耐食性に優れた表面処理亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】亜鉛めっき層の表面に、R−XまたはY−R−Xの化学式で示される化合物が塗布されてなる自己組織化膜が形成されていることを特徴とする表面処理亜鉛めっき鋼板。
[但し、Rは炭素数3〜20の直鎖アルキル基であり、Rは炭素数3〜20の直鎖アルキレン基であり、XはSH基、PO(OH)基、COOH基、OH基、NH基、Si(OCH基の何れかであり、YはSi(OC基、PO(OH)基、イミダゾリウム基、ピリジニウム基、SOH基、NH基、COOH基の何れかである。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理亜鉛めっき鋼板、プレコート亜鉛めっき鋼板及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家電用、建材用、自動車用等に、従来の加工後塗装されていたポスト塗装製品に代わって、着色した塗膜を被覆したプレコート金属が使用されるようになってきている。この金属板は、金属用前処理を施した金属板に塗料を被覆したもので、塗料を塗装した後に切断しプレス成形されて使用されることが一般的である。そのため、塗膜が被覆されていない金属が露出する切断端面部の耐食性とプレス加工時の塗膜剥離がプレコート金属板の問題点となっていたが、金属用前処理としてクロメート処理を施し、且つ塗膜中に6価クロム系の防錆顔料を含有することでこれらの問題点が解決され、現在では、汎用的に使用されている。
【0003】
しかしながら、クロメート処理及び6価クロム系防錆顔料を含む塗料皮膜から溶出する可能性のある6価のクロムの環境問題から、最近では6価クロムを含まないノンクロメート化成処理、ノンクロメート塗料皮膜に対する要望が高まっている。特許文献1では、クロメート処理の代わりにタンニン及びタンニン酸、シランカップリング剤、及び微粒シリカを同時に含む化成処理を用いることで、加工性部密着性と耐食性に優れるプレコート金属板を提供する技術が開示されている。一方、特許文献2では、6価クロム系防錆顔料の代わりに、リン酸系防錆顔料とイオン交換シリカ系防錆顔料とを併用したポリエステル系並びにエポキシ系の塗料により、切断端面部の耐食性に優れたプレコート鋼板を提供する技術が開示されている。しかし、これらの技術は、従来の6価クロムを含むプレコート金属板と比べると、長期耐食性、特に、塩水噴霧試験のようなウェット率の高い腐食環境における長期耐食性が劣る点が問題となっていた。例えば、特許文献1の技術と特許文献2の技術を用いて、ウェット率の高い腐食環境において耐食性を向上させようとした場合、これら特許文献に記載された塗膜中の防錆顔料添加量を大きく増加させる必要がある。しかし、塗膜中の防錆顔料添加量を大いに増大させると、金属板との塗膜密着性が損なわれるため、プレコート金属板を成形加工したときの加工部で塗膜が剥離し易くなったり、耐湿試験のような高湿度環境下にプレコート金属板が長期間曝されることで、塗膜表面からブリスターが発生したり、塗膜が剥離し易くなったりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−89868号公報
【特許文献2】特開平9−12931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来技術における上記問題点を解決し、長期の耐食性に優れた表面処理亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、長期の耐食性に優れ、且つ、優れた塗膜密着性を有するプレコート亜鉛めっき鋼板及びその製造方法を提供することを目的とする。
更に本発明は、環境負荷物質である6価クロムを含まない表面処理亜鉛めっき鋼板及びプレコート亜鉛めっき鋼板並びにこれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっき層の耐食性の向上について本発明者らが鋭意検討したところ、特定の置換基が亜鉛めっき層と高い親和性を示すことを見出した。そして、このような特定の置換基を備えた化合物によって自己組織化膜を形成することで、長期の耐食性に優れた表面処理亜鉛めっき鋼板が得られることを見出した。
また、この自己組織化膜を形成することによって、ノンクロメート皮膜等の化成処理膜の密着性が向上し、更には耐食性が向上することも見出した。
【0007】
本発明は、かかる知見を基に完成させたものであって、本発明がその要旨とするところは、以下の通りである。
(1) 亜鉛めっき層の表面に、R−XまたはY−R−Xの化学式で示される化合物が塗布されてなる自己組織化膜が形成されていることを特徴とする表面処理亜鉛めっき鋼板。
[但し、Rは炭素数3〜20の直鎖アルキル基であり、Rは炭素数3〜20の直鎖アルキレン基であり、XはSH基、PO(OH)基、COOH基、OH基、NH基、Si(OCH基の何れかであり、YはSi(OC基、PO(OH)基、イミダゾリウム基、ピリジニウム基、SOH基、NH基、COOH基の何れかである。]
(2) 前記亜鉛めっき層の表面に、前記自己組織膜として、前記Y−R−Xからなる2分子膜が積層され、Y−R−X同士の間に、Hf、Ti、Znの何れか1種の金属が配位されていることを特徴とする(1)に記載の表面処理亜鉛めっき鋼板。
(3) 前記亜鉛めっき層の表面に、前記自己組織膜として、置換基YがSi(OC基である前記Y−R−Xからなり、かつ置換基Y同士がSi−O−Si結合によって結合された膜が形成されていることを特徴とする(1)に記載の表面処理亜鉛めっき鋼板。
(4) 前記自己組織化膜上に、交互積層膜が形成されることを特徴とする(1)または(2)に記載の表面処理亜鉛めっき鋼板。
(5) (1)または(2)の何れかに記載の表面処理亜鉛めっき鋼板の前記自己組織化膜上に、化成処理膜及び塗装膜が積層されてなることを特徴とするプレコート亜鉛めっき鋼板。
(6) 亜鉛めっき層の表面に、R−XまたはY−R−Xの化学式で示される化合物を塗布してから、乾燥または水洗することにより、自己組織化膜を形成することを特徴とする表面処理亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[但し、Rは炭素数3〜20の直鎖アルキル基であり、Rは炭素数3〜20の直鎖アルキレン基であり、XはSH基、PO(OH)基、COOH基、OH基、NH基、Si(OCH基の何れかであり、YはSi(OC基、PO(OH)基、イミダゾリウム基、ピリジニウム基、SOH基、NH基、COOH基の何れかである。]
(7) 前記自己組織化膜上に、交互積層膜を形成することを特徴とする(6)に記載の表面処理亜鉛めっき鋼板の製造方法。
(8) (6)に記載の製造方法によって製造された表面処理亜鉛めっき鋼板の前記自己組織化膜上に、化成処理膜及び塗装膜を積層することを特徴とするプレコート亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、長期の耐食性に優れた表面処理亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供できる。
また、本発明によれば、長期の耐食性に優れ、且つ、優れた塗膜密着性を有するプレコート亜鉛めっき鋼板及びその製造方法を提供できる。
更に本発明によれば、環境負荷物質である6価クロムを含まない表面処理亜鉛めっき鋼板及びプレコート亜鉛めっき鋼板並びにこれらの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の表面処理亜鉛めっき鋼板は、亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっき層の表面に、R−XまたはY−R−Xで示される化合物が塗布されてなる自己組織化膜を具備して構成されている。
また、本発明のプレコート亜鉛めっき鋼板は、亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっき層の表面に前記自己組織化膜が形成され、更にその上に、化成処理膜、防錆塗膜、塗装膜が順次積層されて構成されている。なお、プレコート亜鉛めっき鋼板に要求される耐食性が高くない場合は、防錆塗膜を省略してもよい。
以下、本発明の構成について順次説明する。
【0010】
亜鉛めっき鋼板としては、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板等の亜鉛をめっきした亜鉛めっき鋼板や、亜鉛-ニッケル合金めっき鋼板、溶融合金化亜鉛めっき鋼板、アルミ-亜鉛合金化めっき鋼板等の亜鉛と他の金属との合金めっき鋼板を用いることが出来る。これら亜鉛系めっき鋼板の中でも、溶融亜鉛めっき鋼板や電気亜鉛めっき鋼板のような亜鉛めっき鋼板は、犠牲防食効果が大きく耐食性により優れるため、より好適である。また、これら亜鉛系めっき鋼板のめっき付着量が片面当り10〜120g/m2であると、加工性と耐食性が両立されるため、より好適である。片面当りのめっき付着量が10g/m2未満では耐食性が劣る恐れがあり、120g/m2超では加工時にめっき割れが発生し加工性に劣る恐れがある。
これらの亜鉛めっき鋼板は、オルソケイ酸ソーダ、苛性ソーダ等によるアルカリ脱脂、アルコール類、ケトン類等による有機溶剤脱脂、超音波洗浄処理、あるいはこれらの組み合わせなど、一般的な表面清浄化処理を行ったうえで使用すればよい。
【0011】
次に、亜鉛めっき層上に形成する自己組織化膜は、R−XまたはY−R−Xの化学式で示される化合物が塗布されて構成されている。ここで、Rは炭素数3〜20の直鎖アルキル基であり、Rは炭素数3〜20の直鎖アルキレン基であり、XはSH基、PO(OH)基、COOH基、OH基、NH基、Si(OCH基の何れかであり、YはSi(OC基、PO(OH)基、イミダゾリウム基、ピリジニウム基、SOH基、NH基、COOH基の何れかである。
【0012】
−XまたはY−R−Xで形成される自己組織化膜は、所謂単分子膜である。この単分子膜は、R−XまたはY−R−Xの置換基Xが亜鉛めっき層に吸着した形となって単分子膜を形成する。これにより自己組織化膜の最表面には、置換基Rまたは置換基R及びYが存在する。
【0013】
置換基Rは疎水性を示すので、R−Xで自己組織化膜を構成した場合には、亜鉛めっき層に疎水性が付与される。亜鉛めっき層に疎水性が付与されることで、亜鉛めっき層の耐食性が高められる。また、置換基Rは置換基Rと同様に疎水性を有するので、Y−R−Xで自己組織化膜を構成した場合にも、亜鉛めっき層に疎水性が付与され、亜鉛めっき層の耐食性が高められる。
【0014】
は炭素数3〜20の直鎖アルキル基が好ましく、また、Rは炭素数3〜20の直鎖アルキレン基が好ましい。RまたはRの炭素数が3未満になると、自己組織化膜の疎水性が低下して亜鉛めっき層の耐食性が低下するので好ましくない。また、RまたはRの炭素数が20を超えると、R−XまたはY−R−Xからなる化合物の溶媒に対する溶解性が低下するので、これら化合物を含む処理液を用いた塗布法による自己組織化膜の形成が困難になるので好ましくない。
【0015】
また、置換基Xは、SH基、PO(OH)基、COOH基、OH基、NH基、Si(OCH基の何れかが好ましく、SH基、PO(OH)基、COOH基が特に好ましい。これらの置換基はいずれも、亜鉛めっき層に対する吸着性が高く、また、塗布してから短時間のうちに緻密な単分子膜となって疎水性を発揮する。従って、亜鉛めっき鋼板の製造工程において、自己組織化膜の形成工程の後に直ちに別の工程を実施することができる。なお、亜鉛めっき層に対する吸着性は、自己組織化膜の形成直後からの経過時間と、自己組織化膜に対する水滴の接触角との関係から求めることが出来る。
【0016】
更に、置換基Yは様々な化学的性質を有するので、Y−R−Xで自己組織化膜を構成した場合は、自己組織化膜の強度を向上させたり、自己組織化膜の表面のイオン性を自由に設計可能となり、例えば自己組織化膜上に積層する化成処理膜等との密着性を高めることが可能になる。
【0017】
置換基YはSi(OC基、PO(OH)基、イミダゾリウム基、ピリジニウム基、SOH基、NH基の何れかが好ましい。このうち、Si(OC基は、隣接するY−R−X化合物のY基同士が加水分解してSi−O−Si結合を形成し、単分子膜で構成される自己組織化膜の強度を一層高める。また、Y基として、炭素三重結合を有する官能基を用いても良い。この場合は、自己組織化膜の形成後に膜表面に例えば紫外光を照射することで、炭素−炭素三重結合をもつジアセチレン誘導体による光重合反応が起こり、Y基同士が化学結合して自己組織化膜の強度を一層高める。
【0018】
また、イミダゾリウム基、ピリジニウム基は、置換基内に正の電荷を有するN原子が存在するので、静電相互作用を発現させることができ、これにより、化成処理膜や、PSS/PDDAからなる相互積層膜などとの密着性を高めることができる。なお、PSSは、ポリ(4−スルホネートナトリウム)(poly(sodium 4-styrenesulfonate))であり、PDDAは、ポリ(ジアニルジメチルアンモニウム)クロライド(Poly(diallyldimethylammonium)chloride)である。
同様に、SOH基は置換基内に負の電荷を有するO原子が存在し、またNH基はNH基となって置換基内に正の電荷を有するので、静電相互作用を発現させることができ、化成処理膜や、PSS/PDDAからなる相互積層膜との密着性を高めることができる。更に、イミダゾリウム基、ピリジニウム基、SOH基、NH基はY−R−X化合物に水溶性を付与するので、自己組織化膜の形成時に水系の溶媒を用いることが出来、膜の形成が容易になる。
【0019】
また、Y−R−Xは、二分子膜からなる自己組織化膜を形成することも出来る。すなわち、Y−R−Xからなる単分子膜のY基に金属イオンを配位させ、更にこの金属イオンに別のY−R−XのY基を配位させることで、金属イオンを中心とする二分子膜を構成できる。この場合の二分子膜の最表面はX基となる。金属イオンとしては、Hf、Ti、Znの何れか1種の金属を例示できる。二分子膜を構成する場合の置換基X及びYに特に制限はないが、PO(OH)基が特に好ましい。
【0020】
次に、化成処理膜としては、各種のノンクロメート系皮膜を用いることができる。
一例として、シリカ、シランカップリング剤、タンニンまたはタンニン酸、ジルコニウム化合物、チタニウム化合物のいずれか2種以上と樹脂を含有する皮膜(皮膜(1))を用いることが出来る。
また、別の例として、水性樹脂とシランカップリング剤を含有する皮膜(皮膜(2))を用いることも出来る。
更に他の例として、水性樹脂及びタンニンまたはタンニン酸を含有する皮膜(皮膜(3))を用いることもできる。
化成処理膜を形成することで、塗膜密着性を高めると共に、耐食性を向上できる。また、これらの化成処理膜はいずれもノンクロメート膜なので、6価クロムの毒性の問題を回避できる。なお、化成処理膜は上記の例に限られるものではない。
【0021】
皮膜(1)について、樹脂を含まないと成形加工時の塗膜密着性に劣る恐れがある。また、シリカ、シランカップリング剤、タンニンまたはタンニン酸、ジルコニウム化合物、チタニウム化合物のいずれか1種と樹脂のみでも塗膜密着性に劣る恐れがある。
皮膜(1)に用いる樹脂は、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の一般に公知のものを使用することができる。これらの樹脂は、水溶性もしくは水に分散したタイプであると、処理液の取り扱いが容易なため、より好適である。
【0022】
皮膜(1)に用いるシリカとして特に微細な粒径を持ったものは、化成処理液中に分散させた場合に安定を維持できるため、より好適である。例えば、「スノーテックスN」、「スノーテックスC」、「スノーテックスUP」、「スノーテックスPS」(何れも日産化学工業製)、「アデライトAT-20Q」(旭電化工業製)等のシリカゲル、又はアエロジル#300(日本アエロジル製)等の粉末シリカ等を用いることができる。
【0023】
皮膜(1)に用いられるタンニン又はタンニン酸は、加水分解できるタンニンでも縮合タンニンでも良く、これらの一部が分解されたものでも良い。タンニン又はタンニン酸は、ハマメタタンニン、五倍子タンニン、没食子タンニン、ミロバランのタンニン、ジビジビのタンニン、アルガロビラのタンニン、バロニアのタンニン、カテキン等、特に限定するものではないが、「タンニン酸:AL」(富士化学工業製)を使用すると、塗膜の加工密着性は特に向上する。
【0024】
皮膜(1)に用いられるシランカップリング剤は、例えばγ-(2 -アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2 -アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2 -アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-(2 -アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリエトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリエトキシシラン、γ-アニリノプロピルメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、オクタデシルジメチル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル[3-(メチルジメトキシシリル)プロピル]アンモニ
ウムクロライド、オクタデシルジメチル[3-(トリエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル[3-(メチルジエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン等を挙げることができる。
【0025】
皮膜(1)に用いられるジルコニウム化合物としては、炭酸ジルコニルアンモニウム、ジルコンフッ化水素酸、ジルコンフッ化アンモニウム、ジルコンフッ化カリウム、ジルコンフッ化ナトリウム、ジルコニウムアセチルアセトナート、ジルコニウムブトキシド1-ブタノール溶液、ジルコニウムn-プロポキシド等を使用できる。
【0026】
皮膜(1)に用いられるチタニウム化合物としては、チタンフッ化水素酸、チタンフッ化アンモニウム、シュウ酸チタンカリウム、チタンイソプロポキシド、チタン酸イソプロピル、チタンエトキシド、チタン2-エチル1-ヘキサノラート、チタン酸テトライソプロピル、チタン酸テトラn-ブチルチタンフッ化カリウム、チタンフッ化ナトリウム等を使用できる。
【0027】
皮膜(1)中に含まれるシリカ、シランカップリング剤、タンニン又はタンニン酸、ジルコニウム化合物、チタニウム化合物のいずれか2種以上の含有物と樹脂とのの配合比率は、特に規定するものではなく、必要に応じて適宜選定することができる。化成処理液が水溶性の場合、樹脂添加量が1.0〜100g/Lで、シリカ、シランカップリング剤、タンニン又はタンニン酸、ジルコニウム化合物、チタニウム化合物のいずれか2種以上がそれぞれ0.01〜100g/L含まれる化成処理液を金属板に塗布して乾燥したものが優れる。樹脂添加量が1.0g/L未満では耐食性や塗膜密着性に効果を発揮しない恐れがあり、100g/L超では化成処理液としての安定性が悪くなりゲル化し易くなる。シリカ、シランカップリング剤、タンニン又はタンニン酸、ジルコニウム化合物、チタニウム化合物の添加量も同様に、0.01g/L未満では耐食性や塗膜密着性に効果を発揮しない恐れがあり、100g/L超では化成処理液としての安定性が悪くなりゲル化し易くなる。
皮膜(1)の付着量も、特に規定するものではないが、全固形分重量が10〜500mg/m2の範囲であるとより好適である。10mg/m2未満であると耐食性が劣ったり、塗膜密着性が低下する恐れがあり、500mg/m2超では塗膜密着性が低下する恐れがある。
【0028】
次に、皮膜(2)は、水性樹脂をベースとしてシランカップリング剤を含むものである。水性樹脂としては、水溶性樹脂のほか、本来水不溶性でありながらエマルジョンやサスペンジョンのように不溶性樹脂が水中に微分散された状態になりうるもの(水分散性樹脂)を含めて言う。水性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、アクリルオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、アルキド系樹脂、フェノール系樹脂、その他の加熱硬化型の樹脂などを例示でき、架橋可能な樹脂であることが望ましい。特に好ましい樹脂は、アクリルオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、及び両者の混合樹脂である。これらの水性樹脂の2種類以上を混合、あるいは重合して使用してもよい。
【0029】
シランカップリング剤は、水性樹脂の存在下で塗膜密着性を飛躍的に向上させ、ひいては耐食性を向上させる。シランカップリング剤としては、皮膜(1)と同様のものを用いることが出来る。
【0030】
シランカップリング剤の含有量は固形分換算で、水性樹脂100重量部に対して、0.1〜3000重量部であることが好ましい。0.1重量部未満では、加工時に十分な塗膜密着性が得られず、耐食性も十分ではない。3000重量部を越えると塗膜密着性が低下する。
【0031】
皮膜(2)に更に微粒シリカを添加すると、防錆作用(耐食性)が促進される。微粒シリカとしては、皮膜(1)の場合と同様のシリカを用いればよい。微粒シリカの含有量は固形分換算で、水性樹脂100重量部に対して、1〜2000重量部、さらに好ましくは10〜400重量部であることが好ましい。1重量部未満では添加の効果が少なく、2000重量部を超えると耐食性向上の効果が飽和して不経済である。
【0032】
また、皮膜(2)にエッチング性フッ化物を添加すると、塗膜密着性が向上される。ここでエッチング性フッ化物としては、フッ化亜鉛四水和物、ヘキサフルオロけい酸亜鉛六水和物等を使用することができる。エッチング性フッ化物の含有量は固形分換算で、水性樹脂100重量部に対して、1〜1000重量部であることが好ましい。1重量部未満では添加の効果が少なく、1000重量部を超えると塗膜密着性向上の効果が飽和して不経済である。
【0033】
皮膜(2)の乾燥時の付着量は、10mg/m2 以上が好適である。10mg/m2 未満では、防錆力が不足する。一方付着量が多すぎると、化成処理膜としては不経済であるばかりでなく、塗膜密着性も低下する。膜厚の上限としては3000mg/m2 以下がよい。
【0034】
次に、皮膜(3)は、水性樹脂をベースとしてタンニンまたはタンニン酸を含む皮膜である。水性樹脂、タンニン及びタンニン酸は、皮膜(1)または皮膜(2)において説明したものと同様のものを用いればよい。更に、皮膜(2)と同様に微粒シリカを添加しても良い。
【0035】
更に、化成処理膜として、特開平9−828291号公報、特開平10−251509号公報、特開平10−337530号公報、特開2000−17466号公報、特開2000−248385号公報、特開2000−273659号公報、特開2000−282252号公報等に記載された化成処理膜を用いても良い。
【0036】
化成処理膜の形成方法は、化成処理液を浸漬塗布、ロールコーター塗装、リンガーロール塗装、刷毛塗り、スプレー塗装等の塗布方法によって、自己組織化膜を形成後の亜鉛めっき鋼板に塗布すればよい。塗布した後は、必要に応じて、強制乾燥や焼付を行っても良い。
【0037】
次に、防錆塗膜は、(A)カルシウムイオン交換シリカ、(B)トリポリリン酸2水素アルミニウム、及び(C)リン酸マグネシウムもしくはマグネシウム処理を施したトリポリリン酸2水素アルミニウムのいずれか1種以上を必須成分として含み、(A),(B),(C)の総量が、防錆塗膜中の樹脂固形分100質量部に対して60質量部以上160質量部以下のものが好ましい。
【0038】
カルシウムイオン交換シリカは、耐食性向上に大いに効果を発揮するが、水への溶解性が高く、高湿潤環境においては塗膜中から過溶出し易いため、単独では不適である。また、トリポリリン酸アルミニウムを単独で用いた場合は、マグネシウム処理の有無に拘らず、ウェット率の高い腐食環境においては、亜鉛めっき鋼板の端面等からスポット的に大きな塗膜膨れが発生し易くなる。
【0039】
一方、トリポリリン酸2水素アルミニウムは、これを併用した防錆顔料の過溶出を抑制させる効果を有しているため、これらを組み合わせることで、耐食性と高湿潤環境での平面ブリスター抑制とをある程度両立できるが、塗膜中の添加量に限界があり、添加し過ぎると高湿潤環境での耐平面ブリスターが低下する。従って、マグネシウムを含む化合物とトリポリリン酸2水素アルミニウムとカルシウムイオン交換シリカとの併用は必須である。マグネシウムを含む化合物としては、リン酸マグネシウム及びマグネシウム処理を施したトリポリリン酸2水素アルミニウムが防錆顔料の過溶出抑制に効果的である。
【0040】
さらに、これらの防錆剤の総量が、防錆塗膜中の樹脂固形分100質量部に対して60質量部未満であると、高ウェット環境下での耐食性が低下するため不適であり、160質量部超では塗膜中の有機樹脂分が少なくなるため、塗膜と鋼板との密着性、特に加工部での密着性が低下するため不適である。
【0041】
カルシウムイオン交換シリカ、トリポリリン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム及びマグネシウム処理を施したトリポリリン酸2水素アルミニウムの比率は、特に規定するものではなく、必要に応じて適宜選定することができる。耐食性の低下を防ぐには、防錆塗膜中にカルシウムイオン交換シリカが10質量%以上添加されていると好適であり、30質量%以上がより好適である。また、高湿潤環境下で平面ブリスターの発生を防止するには、防錆塗膜中にマグネシウム処理を施したトリポリリン酸アルミニウムが1質量%以上添加されていると好適であり、5質量%以上がより好適である。
【0042】
本発明の防錆塗膜には、カルシウムイオン交換シリカとマグネシウム処理を施したトリポリリン酸2水素アルミニウムに加えて、これら以外の防錆顔料を添加しても良い。ただし、6価クロムを含む防錆顔料は環境負荷物質であるため、不適である。さらに、これら防錆顔料の全添加量が、防錆塗膜中の樹脂固形分100質量部に対して60質量部未満であると、高ウェット環境下での耐食性が低下するため不適であり、160質量部超では塗膜中の有機樹脂分が少なくなるため、塗膜と金属板との密着性、特に加工部での密着性が低下するため不適である。
【0043】
防錆塗膜には、カルシウムイオン交換シリカ、トリポリリン酸2水素アルミニウム、リン酸マグネシウム、マグネシウム処理を施したトリポリリン酸2水素アルミニウム以外の非6価クロム系防錆剤、例えば、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、モリブデン酸塩、リン酸カルシウム、バナジン酸/リン酸併用顔料(一般にVP顔料と呼ばれる)等を使用することができる。
【0044】
防錆塗膜の樹脂バインダーは、例えば、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フッ素系樹脂等の塗料用樹脂を用いることができる。特に、ポリエステル系の樹脂であると、加工性が優れるため、より好適である。また、数平均分子量が3000〜30000、ガラス転移温度が0〜60℃のポリエステル樹脂は、加工性がより優れるため、より好適である。ポリエステル樹脂としては、オイルフリーポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、線状高分子ポリエステル樹脂、分岐型高分子ポリエステル樹脂を例示できる。
【0045】
ポリエステル樹脂にエポキシ樹脂を添加すると、塗膜密着性が大きく向上するためより好適である。エポキシ樹脂には、大日本インキ化学工業社製のエポキシ樹脂「エピクロンTM」等を用いることができる。ポリエステル樹脂固形分100質量部に対してエポキシ樹脂固形分の添加量を0.1〜20質量部とすることが好適である。0.1質量部未満では密着性に効果のない恐れがあり、20質量部超では加工性が劣る恐れがある。
【0046】
また、防錆塗膜の樹脂バインダーは、メラミン樹脂やイソシアネートを架橋剤として用いることができる。メラミン樹脂の場合は、固形分比率でポリエステル樹脂等のメイン樹脂100質量部に対して5〜70質量部が好適である。5質量部未満であると、塗膜が未硬化となり、密着性が低下する恐れがあり、70質量部超では、塗膜が硬くなり過ぎて、加工性が低下する恐れがある。また、イソシアネートの場合の添加量は、[イソシアネートのNCO基当量]/[ポリエステル樹脂のOH基当量]=0.8〜1.2であると、より好ましい。[イソシアネートのNCO基当量]/[ポリエステル樹脂のOH基当量]の値が0.8未満もしくは1.2超では、皮膜生成時に皮膜が未硬化となる恐れがある。これら架橋剤を用いるときは、必要に応じて触媒を添加することができる。
【0047】
次に、塗装膜は、塗料用樹脂に着色顔料等を添加したものを使用することができ、前述の防錆塗膜用樹脂等を使用することができる。特に、ポリエステル樹脂をメラミン樹脂やイソシアネートで架橋させたタイプのものは、加工性に優れるため、より好適である。塗装膜の膜厚も、特に規定するものではないが、1〜30μmが好適である。1μm未満では上塗り塗膜としての機能(例えば、着色性等)が得られない恐れがあり、30μm超では塗装焼付時にワキと呼ばれる塗装欠陥が発生する恐れがある。これら上塗り塗膜には、必要に応じて一般に公知の着色顔料、レベリング剤、顔料分散剤、ワックス、艶消し剤等を添加することができる。これら添加剤の種類や添加量は、特に規定するものではなく、必要に応じて適宜選定することができる。
【0048】
防錆塗膜や塗装膜の塗布方法は、例えば、ロールコート、カーテンフローコート、ローラーカーテンコート、ダイコート、エアースプレー、エアーレススプレー、電着塗装、粉体塗装、浸漬、バーコート、刷毛塗り等で行うことができる。ただし、ロールコートやカーテンフローコート、ローラーカーテンコートを完備した一般的コイルコーティングライン、シートコーティングラインと呼ばれる連続塗装ラインで塗装すると、塗装作業効率が良く大量生産が可能であるため、より好適である。塗料の乾燥焼付方法は、熱風オーブン、直火型オーブン、塩赤外線オーブン、誘導加熱型オーブン等の一般に公知の乾燥焼付方法を用いることができる。
なお、プレコート亜鉛めっき鋼板に要求される耐食性が高くない場合は、防錆塗膜を省略してもよい。
【0049】
次に、本実施形態の表面処理亜鉛めっき鋼板の製造方法について説明する。
先ず、亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっき層上に自己組織化膜を形成するには、R−XまたはY−R−Xの化学式で示される化合物を、溶媒に添加して処理液を調製する。溶媒としては、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール等のアルコール類を例示できる。調整した処理液を鋼板の亜鉛めっき層に塗布する。塗布方法としては、スプレー法、ロールコート法などの手段を用いることが出来る。処理液の塗布後は乾燥して溶媒を除去しても良いし、塗布後に水洗して余分な処理液を洗い流してから乾燥しても良い。処理液を塗布してから数分の間に、R−XまたはY−R−Xからなる自己組織化膜が形成される。以上により、本実施形態の表面処理亜鉛めっき鋼板が製造される。
【0050】
更に、必要に応じて、化成処理膜、防錆塗膜、塗装膜を順次形成することで、本実施形態のプレコート亜鉛めっき鋼板が製造される。
【0051】
本実施形態の表面処理亜鉛めっき鋼板によれば、亜鉛めっき層上に自己組織化膜が形成されている。この自己組織化膜の表面は疎水性を示すので、亜鉛めっき鋼板の耐食性を向上できる。また、自己組織化膜を構成するR−XまたはY−R−XにはX基が備えられており、このX基が鋼板の亜鉛めっき層に強く吸着するので、自己組織化膜の密着性を高めることができる。
更に、本実施形態のプレコート亜鉛めっき鋼板によれば、自己組織化膜の上に化成処理膜を形成することで、鋼板に対する化成処理膜の密着性を高めることができる。特に、Y−R−Xからなる自己組織化膜を形成し、Y基として化成処理膜に対して親和性を有する官能基を選択することで、化成処理膜の密着性を一層高めることが出来る。
【0052】
また、Y−R−Xからなる自己組織化膜を形成し、Y基として化成処理膜に対して親和性を有する官能基を選択することで、化成処理膜の密着性を一層高めることが出来る。
例えば、置換基YとしてSi(OC基や炭素三重結合を有する官能基を用いた場合は、隣接するY基同士が化学結合を形成し、単分子膜で構成される自己組織化膜の強度を一層高めることができる。
また、置換基Yとして、イミダゾリウム基、ピリジニウム基、SOH基、NH基を用いた場合は、自己組織化膜に積層する他の膜との間で静電相互作用を発現させることができ、化成処理膜や、PSS/PDDAからなる相互積層膜との密着性を高めることができる。
【0053】
また、本実施形態の表面処理亜鉛めっき鋼板及びプレコート亜鉛めっき鋼板の製造方法によれば、R−XまたはY−R−Xを含む処理液を亜鉛めっき層に塗布するだけで自己組織化膜が形成され、処理液の濃度にもよるが、その形成速度は数十秒から数分間程度と非常に早いので、処理時間が短くなり、生産性を高めることができる。また、処理時間が短いために、自己組織化膜の形成後に直ちに別の工程を行うことが出来、プレコート亜鉛めっき鋼板の生産性をより高めることができる。
【実施例】
【0054】
1.亜鉛めっき鋼板
実験の供試材には以下の亜鉛めっき鋼板を用いた。
溶融亜鉛めっき鋼板の低目付品(GI低):
板厚0.6mm、亜鉛付着量片面当り60g/m2(両面めっき)
【0055】
2. 自己組織化膜用の処理液
実験の供試材に用いる自己組織化膜用の処理液として、以下のものを作製した。
自己組織化膜用の処理液(A):
1−オクタノール(C17OH)のメタノール溶液(濃度0.5mモル/L)
自己組織化膜用の処理液(B):
n−オクタン酸(C715COOH)のメタノール溶液(濃度0.5mモル/L)
自己組織化膜用の処理液(C):
1−オクチルアミン(C17NH)のメタノール溶液(濃度0.5mモル/L)
自己組織化膜用の処理液(D):
オクチルトリメトキシシラン(C17Si(OCH)のメタノール溶液(濃度0.5mモル/L)
自己組織化膜用の処理液(E):
n−オクチルホスホン酸(C17PO(OH))のメタノール溶液(濃度0.5mモル/L)
自己組織化膜用の処理液(F):
1−オクタンチオール(C17SH)のメタノール溶液(濃度0.5mモル/L)
【0056】
3. 化成処理液
実験の供試材に用いる化成処理液として、以下のものを作製した。
化成処理液(A):
市販の塗布クロメート処理である日本パーカライジング社製「CTE300N」を用いた。
化成処理液(B):
市販のリン酸亜鉛処理である日本パーカライジング社製「パルボンド」を用いた。
【0057】
4. 防錆塗料
東洋紡績社製の非晶性ポリエステル樹脂である「バイロンTM 270」を、有機溶剤(質量比でシクロヘキサノン:ソルベッソ150=1:1に混合したものを使用)に、樹脂固形分濃度が30質量%となるように溶解した。次に、硬化剤として三井サイテック社製のメラミン樹脂「サイメルTM 303」を添加した。メラミン樹脂の添加量は、樹脂固形分の質量比で、ポリエステル樹脂固形分:メラミン樹脂固形分=80:20となるように添加した。また、このポリエステル樹脂とメラミン樹脂の混合溶液には、大日本インキ社製のエポキシ樹脂「エピクロンTM 1000」をポリエステル樹脂固形分100質量部に対して5質量部添加した。なお、「エピクロンTM 1000」は事前に有機溶剤(質量比でシクロヘキサノン:ソルベッソ150=1:1に混合したものを使用)に混合した後に添加した。さらに、このポリエステル樹脂とメラミン樹脂の混合溶液に、三井サイテック社製の酸性触媒「キャタリストTM 600」を0.5質量%添加し、これらを攪拌することで、クリヤー塗料を得た。
【0058】
次に、このクリヤー塗料中に、テイカ社製のMg処理を施したトリポリリン酸2水素アルミニウム「K-WHITE K-G105」(以下Mg-P-Alと称す)、グレイス社製のカルシウムイオン交換シリカ「シールデックスC303」(以下、Ca-Siと称す)、Zn処理を施したトリポリリン酸2水素アルミニウム「K-WHITE K-#105」(以下Zn-P-Alと称す)、試薬のリン酸2水素マグネシウム(以下P-Mgと称す)を必要量添加し、攪拌することで、防錆塗料を得た。また、比較として、市販のクロム酸ストロンチウム(以下、Crと称す)を添加した防錆塗料も作製した。なお、作製したプライマー塗料と添加した顔料種及び添加量の詳細を表1に記載する。
【0059】
【表1】

【0060】
5. 上塗り塗料
市販のポリエステル系上塗り塗料である日本ペイント社製「FL100HQ」を使用した。色は白色系のものを使用した。
6. 裏面塗料
市販のポリエステル系上塗り塗料である日本ペイント社製「FL100HQ」を使用した。色はグレー色系のものを使用した。
【0061】
7. 表面処理亜鉛めっき鋼板の作製
亜鉛めっき鋼板をイソプロパノール中で5分間超音波洗浄することで脱脂を行い、メタノールで洗浄した。
そして、洗浄後の亜鉛めっき鋼板を自己組織化膜用の処理液(A)〜(F)中に浸漬後、超純水で洗浄し、窒素中で乾燥させた。このようにして表面処理亜鉛めっき鋼板を調製した。
【0062】
得られた表面処理亜鉛めっき鋼板について、水に対する接触角、交流インピーダンス測定による膜抵抗値評価、XPSによる表面元素分析を行った。
水に対する接触角は、協和界面科学株式会社製FACE CA−X型を用いて超純水により評価した。
交流インピーダンス測定は、表面処理亜鉛めっき鋼板を作用極、対極に白金線、参照極にAg/AgCl、溶媒は0.1MNa2SO4溶液を用いて行い、開回路電位にて±10mVの振幅電位、周波数は0.01〜1.0×10Hzにて行った。
XPS分析は、X線源にAlモノクロX線を用い、C1s(285eV)にて補正を行った。測定チャンバは1×10−9torrにて行った。
水に対する接触角の評価結果を表2に示す。
【0063】
また、得られた表面処理亜鉛めっき鋼板について、耐食性の評価を行った。
評価は、以下の手順で行った。各サンプルを50mm×100mmの大きさに切断して端面をシールしたものを用意した(平面板)。また、各サンプルを50mm×100mmの大きさに切り出し、中央部に裏面から7mmエリクセン押し出し加工を施したものを用意した(エリクセン板)。これらをテストピースとした。
これらテストピースについて、JIS K 5400の9.1記載の方法で塩水噴霧試験を実施した。試験時間は、24時間とした。評価は、平面部エリクセン部ともに、それぞれの部分で錆の発生している面積の割合にて行った。平面部については、錆発生面積が1%未満の場合に◎、1%以上10%未満の場合に○、10%以上50%未満の場合に△、50%以上の場合に×と評価した。エリクセン部については、錆発生面積が10%未満の場合に◎、10%以上30%未満の場合に○、30%以上70%未満の場合に△、70% 以上の場合に×と評価した。結果を表3に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
表2に示すように、X基がCOOH、PO(OH)、SHの場合に特に高い接触角が得られた。
また、交流インピーダンス測定において、膜抵抗値を高い順に並べると、PO(OH)、SH、OH、COOH、Si(OMe)、NHの順となり、特にPO(OH)、SHが高い抵抗を示した。PO(OH)、SHについては良好な膜が形成されたと考えられる。
更に、XPS測定から、PO(OH)ではP2p軌道、O1s軌道のP=O結合の存在が確認され、SHではS2p軌道のS−H、S−Zn結合の存在が確認された。
【0067】
また、表3に示すように、自己組織化膜を形成したサンプルは、耐食性が良好であった。更に、自己組織化膜に更に化成処理膜を形成すると、耐食性が更に向上した。一方、自己組織化膜を形成しなかったサンプルは、耐食性が改善されなかった。
【0068】
8. プレコート亜鉛めっき鋼板の作製
上記7.と同様にして、各種の表面処理亜鉛めっき鋼板を製造した。
次に、これらの表面処理亜鉛めっき鋼板上に、化成処理液(A)または(B)を塗装用バーで塗布し、熱風乾燥炉にて乾燥して化成処理皮膜を得た。化成処理(A)の乾燥付着量は、
100mg/m2とした。また、化成処理乾燥時の到達板温は60℃とした。化成処理(B)の付着量は、リン酸亜鉛の付着量が2g/m2となるように被覆した。化成処理乾燥時の到達板温は60℃とした。
【0069】
次に、防錆塗料をロールコーターにて乾燥後の膜厚が10μmとなるように塗装し、更に他方の面には、裏面塗料をロールコーターにて塗装乾燥後の膜厚で5μmとなるように塗装し、熱風を吹き込んだ誘導加熱炉にて金属板の到達板温が210℃となる条件で乾燥硬化することで、塗膜層を得た。乾燥焼付後に塗装された金属板へ水をスプレーにて拭きかけ、水冷した。更に、防錆塗膜上に、上塗り塗料をロールコーターにて乾燥後の膜厚が15μmとなるように塗装し、熱風を吹き込んだ誘導加熱炉にて金属板の到達板温が230℃となる条件で乾燥焼付した。乾燥焼付後に塗装された金属板へ水をスプレーにて拭きかけ、水冷することで、供試材であるプレコート亜鉛めっき鋼板を得た。
【0070】
この様にして作製したプレコート亜鉛めっき鋼板について、以下の評価試験を実施した。なお、いずれの試験についても、防錆塗膜有する面を評価面として試験を実施した。
【0071】
I.塗膜加工性試験
作製したプレコート亜鉛めっき鋼板を、180°折り曲げ加工を実施し、加工部の塗膜を20倍ルーペで観察し、塗膜の割れの有無を調べた。折り曲げ加工は20℃雰囲気中で、0T加工した。
塗膜割れの評価は、塗膜割れの全くない時を○、塗膜に極小さな割れがある時を△、塗膜に目視でも明確な大きな割れが加工部全面にある時を×として評価した。更に、加工部の塗膜上にテープを貼り付けた後に塗膜を剥離して、剥離後の塗膜残存状態を観察した。剥離後の評価は、加工部全面において塗膜が全く剥離していない場合を○、加工部の一部で塗膜が剥離している場合を△、塗膜の全面が剥離している場合を×と評価した。
【0072】
II. 耐食性試験
作製したプレコート亜鉛めっき鋼板を横70mm×縦150mmのサイズに切断し、長辺の端面部については、切断時の返り(バリ)が裏面塗料を塗装した面に来るように(下バリとなるように)切断し、また、横の端面部はテープにてシールすることで、耐食性試験用サンプルを作製した。そして、JIS K 5400の9.1記載の方法で塩水噴霧試験を実施した。塩水は、防錆塗膜を有する面に拭きかかかるように噴霧した。試験時間は500時間とした。なお、本実験では、塗膜の上から試験片の素地に達するようなカット傷は設けなかった。
【0073】
試験終了後、端面にテープシールを施していない縦辺の端面の平均膨れ幅を測定し、平均膨れ幅が2mm以下の場合に◎、2mm超3mm以下の場合に○、3mm超5mm以下の場合に△、5mm超の場合に×と評価した。
【0074】
なお、端面の平均膨れ幅は、150mmある縦の辺を10mm毎の区画(全部で15区画)に分け、それぞれの区画での最大膨れ幅を測定し、各区画の最大膨れ幅を全区画数で割った値を平均膨れ幅とした。
【0075】
III . 耐湿性試験
作製したプレコート亜鉛めっき鋼板を70mm×150mmのサイズに切断し、全ての切断端面をテープにシールすることで、耐食性試験用サンプルを作製した。そして、JIS K 5400の9.2記載の方法で耐湿性試験を実施した。耐湿性試験は1000時間実施した。なお、本実験では、塗膜の上から試験片の素地に達するようなカット傷は設けなかった。
【0076】
試験後に、塗膜表面のブリスターの発生度合いを観察し、ブリスター発生がまったく認められなかった場合には○、極小さなブリスターが数個認められた場合には△、試験片の前面にブリスター発生が認められた場合には×と評価した。
【0077】
次に、JIS K 5400の8.5.2に記載の付着性碁盤目テープ法を実施し、JIS同項の評価基準が6点以上の場合を○、4点の場合を△、0点乃至2点の場合を×と評価した。
【0078】
以下、評価結果について詳細を記載する。
【0079】
表4にプレコート亜鉛めっき鋼板の評価結果を示す。実施例のプレコート亜鉛めっき鋼板は、比較例に比べて、加工性、耐食性、耐湿性の何れにも優れることが分かる。
【0080】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛めっき層の表面に、R−XまたはY−R−Xの化学式で示される化合物が塗布されてなる自己組織化膜が形成されていることを特徴とする表面処理亜鉛めっき鋼板。
[但し、Rは炭素数3〜20の直鎖アルキル基であり、Rは炭素数3〜20の直鎖アルキレン基であり、XはSH基、PO(OH)基、COOH基、OH基、NH基、Si(OCH基の何れかであり、YはSi(OC基、PO(OH)基、イミダゾリウム基、ピリジニウム基、SOH基、NH基、COOH基の何れかである。]
【請求項2】
前記亜鉛めっき層の表面に、前記自己組織膜として、前記Y−R−Xからなる2分子膜が積層され、Y−R−X同士の間に、Hf、Ti、Znの何れか1種の金属が配位されていることを特徴とする請求項1に記載の表面処理亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
前記亜鉛めっき層の表面に、前記自己組織膜として、置換基YがSi(OC基である前記Y−R−Xからなり、かつ置換基Y同士がSi−O−Si結合によって結合された膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の表面処理亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
前記自己組織化膜上に、交互積層膜が形成されてなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の表面処理亜鉛めっき鋼板。
【請求項5】
請求項1または請求項2の何れかに記載の表面処理亜鉛めっき鋼板の前記自己組織化膜上に、化成処理膜及び塗装膜が積層されてなることを特徴とするプレコート亜鉛めっき鋼板。
【請求項6】
亜鉛めっき層の表面に、R−XまたはY−R−Xの化学式で示される化合物を塗布してから、乾燥または水洗することにより、自己組織化膜を形成することを特徴とする表面処理亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[但し、Rは炭素数3〜20の直鎖アルキル基であり、Rは炭素数3〜20の直鎖アルキレン基であり、XはSH基、PO(OH)基、COOH基、OH基、NH基、Si(OCH基の何れかであり、YはSi(OC基、PO(OH)基、イミダゾリウム基、ピリジニウム基、SOH基、NH基、COOH基の何れかである。]
【請求項7】
前記自己組織化膜上に、交互積層膜を形成することを特徴とする請求項6に記載の表面処理亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載の製造方法によって製造された表面処理亜鉛めっき鋼板の前記自己組織化膜上に、化成処理膜及び塗装膜を積層することを特徴とするプレコート亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2011−42827(P2011−42827A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191254(P2009−191254)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(599011687)学校法人 中央大学 (110)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】