説明

表面処理亜鉛系めっき鋼板およびその製造方法ならびに表面処理液

【課題】連続生産しても処理液中にスラッジを発生させず、安定生産が可能で、汎用用途のクロメート処理亜鉛系めっき鋼板に匹敵する、優れた耐食性、導電性および加工性を有するクロムフリーの表面処理亜鉛系めっき鋼板を提供する。
【解決手段】亜鉛系めっき鋼板のめっき層上に、pHが1〜4で遊離酸度が0.1規定水酸化ナトリウム換算で3〜20であり、さらに、溶解亜鉛イオンに対するキレート化剤として、モノカルボン酸、ジカルボン酸、オキシカルボン酸、ケトカルボン酸のうちのいずれかのチオ誘導体、芳香族カルボン酸、オキシカルボン酸、アルデヒド類、アミノポリカルボン酸のうち1種以上を0.1質量%以上10質量%未満で含有する表面処理液を塗布・乾燥させて表面処理皮膜が形成されてなり、該表面処理皮膜は、金属塩とめっき金属との反応物と、該金属塩の1〜50質量%の樹脂とを含有し、厚さ0.02〜3μmの前記反応物が主体の層を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、表面処理亜鉛系めっき鋼板およびその製造方法ならびに表面処理液に関するものである。特には、クロムあるいはクロム化合物を含まない表面処理液を用いて製造され、しかもクロメート処理鋼板に匹敵する、優れた耐食性、導電性および加工性を有する表面処理亜鉛系めっき鋼板およびそのその製造方法、さらに表面処理液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
亜鉛系めっき鋼板は、建材、自動車、家電品などに幅広く利用されている。特に、耐食性が必要な自動車、家電品、複写機およびその内部に使用するモーター製品には、亜鉛めっき鋼板の上に、耐食性向上の目的でクロメート処理を施した表面処理鋼板が広く用いられてきた。クロメートには、その自己修復作用により、亜鉛めっき鋼板の耐食性を向上させる効果がある。しかし、クロメート処理を行うには、水質汚染防止法に規定される特別な排水処理を行う必要があり、製造コストを上げる要因となる。このため、鋼板、特に亜鉛系めっき鋼板の白錆の発生を防止するために、クロムを用いない表面処理技術が求められている。
【0003】
また、近年、パソコンおよび複写機などの事務機器や、エアコンなどの家電製品およびこれらに使用されるモーター等の部品においても、クロムを含有せず、耐食性を有し、さらに表面電気抵抗の小さい表面処理鋼板が求められている。なぜなら、表面電気抵抗が小さい鋼板、すなわち導電性が良好な鋼板は、電磁波によるノイズの漏洩を防止する効果があるためである。従って、かような用途においては、耐食性と導電性とを両立することが重要である。
【0004】
このような観点から、クロムやクロム化合物を用いない表面処理技術が数多く提案されている。
【0005】
すなわち、特許文献1には、(a)少なくとも4個のフッ素原子と、チタンやジルコニウムなどの少なくとも1個の元素とからなる陰イオン成分(例えば、TiF62-で示されるフルオロチタン酸)、(b)コバルトおよびマグネシウムなどの陽イオン成分、(c)pH調節のための遊離酸および(d)有機樹脂を含有する、クロムを含有しない組成物による金属の表面処理技術が提案されている。以下、本願では、クロムやクロム化合物を含有しないことを「クロムフリー」とも呼ぶ。
【0006】
特許文献2には、(a)Alのりん酸化合物、(b)Mn、Mg、Ca、Sr化合物の1種あるいは2種以上、(c)SiO2、水系有機樹脂エマルジョンを含有する、クロムフリーの金属の表面処理組成物が提案されている。
【0007】
特許文献3には、(a)ポリヒドロキシエーテルセグメントと不飽和単量体の共重合体セグメントとを有する樹脂、(b)りん酸および(c)カルシウム、コバルト、鉄、マンガン、亜鉛などの金属のりん酸塩を含有する、クロムフリーの金属の表面処理剤組成物が提案されている。
【0008】
特許文献4には、(a)Al(C5H7O23、V(C5H7O23、VO(C5H7O22、Zn(C5H7O2)2およびZr(C5H702)2から成る群から選ばれた少なくとも1種の金属アセチルアセネート、(b)水溶性無機チタン化合物および水溶性無機ジルコニウム化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物を有することを特徴とする、金属表面処理液が提案されている。
【0009】
これらの提案によれば、いずれも金属板に十分な付着量の表面処理剤(被覆剤、コーティング剤)を被覆した場合、すなわち、十分な厚さの皮膜を施した場合には、まずまずの耐食性が得られる。しかし、金属板の凸部などの一部が露出するような皮膜が施されたり、膜厚が薄過ぎたりした場合には、耐食性が極めて不十分であった。つまり、金属板に対する表面処理剤の被覆率が100%の場合にのみ、耐食性が発揮されるが、被覆率が100%未満の場合には耐食性が不十分であった。一方、これら表面処理剤には、導電性物質が含まれていないため、これを全面的に厚く被覆すると、導電性は低下する不利がある。この導電性を上げようと皮膜の膜厚を薄くすると、耐食性が劣化するという問題が生ずる。
【0010】
特許文献5には、(a)チオカルボニル基含有化合物、(b)りん酸イオンおよび(c)水分散性シリカ、加水分解縮合物を含有する、水性防錆コーティング剤を亜鉛被覆鋼にコーティングする方法が提案されている。この方法で用いられるチオカルボニル基含有化合物のような硫化物は、亜鉛などの金属表面に吸着しやすい性質があり、さらにその互変異性体であるチオール基イオンは、りん酸イオンとの相乗作用により、コーティング時に活性な亜鉛表面のサイトに吸着されて防錆効果を発揮する。この表面処理方法で得られた亜鉛系めっき鋼板は、表面を−NCS、−OCS基を有する層により被覆されると高耐食性を有するが、この層は導電性がないことが問題である。また、導電性を確保するために、皮膜の膜厚を薄くすると、チオカルボニル其含有化合物で被覆されていない部分が出現し、発錆の原因になる。すなわち、この方法でも、耐食性と導電性を両立させることができないのである。
【0011】
さらに、上述の5つの従来技術は、いずれも金属表面と表面処理剤が形成する皮膜とを界面で強固に付着させる発想に基づく技術である。微視的に捕らえれば、金属表面と表面処理剤とは完全には密着し得ないため、付着性向上には限界があった。したがって、このような従来の技術においては、耐食性向上には、密着性ではなく、表面処理剤による皮膜の緻密性向上が重要であるところ、上記した従来のクロムを用いない技術では、その点は何ら考慮されていない。
【0012】
さらに、クロメート用処理液を含めて、表面処理液がりん酸などを含んで、低いpHの場合、塗布処理を連続してロールコート法や浸漬法により処理した場合に、表面処理液中にスラッジが発生する。スラッジの発生は、鋼板表面への付着による外観不良を引き起こし、さらには微視的に不連続な皮膜になるため、一次防錆性が低下する。特にロールコート法の場合、塗布ロールにスラッジが付着することで鋼板外観不良や、性能不良を引き起こしやすい。スラッジ発生を防止するには、表面処理液に対するZnの溶解限を引上げるため、pHを低下させればよいが、これはむしろZnのエッチング速度を増速せしめ、むしろスラッジ発生量も増加してしまうし、さらに皮膜形成時にZn溶解時に発生する水素気泡の存在により、皮膜の連続性が低下し、一次防錆性をはじめとする諸特性が低下することがあった。
【特許文献1】特開平5-195244号公報
【特許文献2】特開平11-35O157号公報
【特許文献3】特開平11-50010号公報
【特許文献4】特開2000-199077号公報
【特許文献5】特開2001-164182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
この発明の目的は、連続生産しても表面処理液中にスラッジを発生させず、安定生産が可能な上、汎用用途のクロメート処理亜鉛系めっき鋼板に匹敵する、優れた耐食性、導電性および加工性を兼備するクロムフリーの表面処理亜鉛系めっき鋼板とその製造方法、さらにこれらに用いる表面処理液を提供することである。ここで、耐食性については、平板部耐食性と加工後耐食性の両者を満足することを目標にする。また、本発明は、表面処理液の被覆工程において、また表面処理鋼板の使用に際して、特別な排水処理を必要としない表面処理亜鉛系めっき鋼板とその製造方法ならびに表面処理液を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する本発明の手段は次のとおりである。
【0015】
(1)亜鉛系めっき鋼板のめっき層上に、pHが1〜4で遊離酸度が0.1規定水酸化ナトリウム換算で3〜20であり、さらに、溶解亜鉛イオンに対するキレート化剤として、モノカルボン酸、ジカルボン酸、オキシカルボン酸、ケトカルボン酸のうちのいずれかのチオ誘導体、芳香族カルボン酸、オキシカルボン酸、アルデヒド類、アミノポリカルボン酸のうち1種以上を0.1質量%以上10質量%未満で含有する表面処理液を塗布・乾燥させて、表面処理皮膜が形成されてなり、該表面処理皮膜は、金属塩とめっき金属との反応物と、該金属塩の1〜50質量%の樹脂とを含有するとともに、厚さ0.02〜3μmの前記反応物が主体の層を有することを特徴とする表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【0016】
(2)前記樹脂が潤滑剤を含むことを特徴とする(1)に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【0017】
(3)前記金属塩が、Al、Mn、Mg、VおよびZnの群から選ばれる少なくとも1種の金属の、りん酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩または水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【0018】
(4)亜鉛系めっき鋼板のめっき層上に、金属塩および該金属塩の1〜50質量%の樹脂を含有し、pHが1〜4で遊離酸度が0.1規定水酸化ナトリウム換算で3〜20であり、さらに、溶解亜鉛イオンに対するキレート化剤として、モノカルボン酸またはジカルボン酸またはオキシカルボン酸またはケトカルボン酸のうちのいずれかのチオ誘導体、芳香族カルボン酸、オキシカルボン酸、アルデヒド類、アミノポリカルボン酸のうち1種以上を0.1質量%以上10質量%未満で含有する表面処理液を、金属塩換算で0.05〜3.0g/m塗布する工程と、該表面処理液の塗布を行った鋼板の表面を加熱して乾燥する工程とからなることを特徴とする表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【0019】
(5)前記樹脂が潤滑剤を含むことを特徴とする(4)に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【0020】
(6)前記金属塩が、Al、Mn、Mg、VおよびZnの群から選ばれる少なくとも1種の金属の、りん酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩または水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(4)又は(5)に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【0021】
(7)亜鉛系めっき層を有する鋼板の表面に、表面処理皮膜を形成させるための表面処理液であって、金属塩および該金属塩の1〜50質量%の樹脂を含有し、pHが1〜4で遊離酸度が0.1規定水酸化ナトリウム換算で3〜20であり、さらに、溶解亜鉛イオンに対するキレート化剤として、モノカルボン酸、ジカルボン酸、オキシカルボン酸、ケトカルボン酸のうちのいずれかのチオ誘導体、芳香族カルボン酸、オキシカルボン酸、アルデヒド類、アミノポリカルボン酸のうち1種以上を0.1質量%以上10質量%未満で含有することを特徴とする表面処理液。
【0022】
(8)前記樹脂が潤滑剤を含むことを特徴とする(7)に記載の表面処理液。
【0023】
(9)前記金属塩が、Al、Mn、Mg、VおよびZnの群から選ばれる少なくとも1種の金属の、りん酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩または水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(7)又は(8)に記載の表面処理液。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、クロムやクロム化合物を用いずに、汎用クロメート鋼板に匹敵する耐食性、導電性およびプレス成形性を有し、さらに加工後耐食性にも優れた表面処理亜鉛系めっき鋼板を高能率かつ低コストで製造し得る。また、本発明によれば、表面処理液の被覆工程において、また得られた該表面処理鋼板の使用に際して、クロムやクロム化合物を用いた場合のような特別な排水処理が不要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
発明者らは、前記目的を達成するための手段について鋭意検討した結果、亜鉛系めっき鋼板の表面に、クロメート被覆することなく、樹脂と金属塩とキレート化剤を含有する表面処理液を塗布することにより、連続生産しても表面処理液中にスラッジを発生させることなく、加えて耐食性および導電性に優れ、しかもプレス成形性および加工後耐食性にも優れた皮膜を形成できることを見出し、この発明を完成するに至った。
【0026】
以下、この発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板について、詳細に説明する。
本発明の表面処理を施す亜鉛系めっき鋼板とは、亜鉛を含有するめっきが施された鋼板のことであり、特には制限されない。例えば、電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛−ニッケルめっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛−アルミ溶融めっき鋼板などである。
なお、この発明では“金属塩”を、酸の金属塩および金属水酸化物と定義する。ちなみに、該金属塩のほとんどが導電性を有している。
【0027】
この発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板は、上記の亜鉛系めっき鋼板のめっき層表面に、金属塩と亜鉛系のめっき金属との反応物、および樹脂とからなる表面処理皮膜を有する。この表面処理皮膜は、鋼板表面に施した亜鉛系めっき層の表層部のめっき金属と金属塩との反応物を主体として含み、この反応物は、強力なイオン結合、すなわち金属塩の解離イオンとめっき層中の金属イオンとの結合により、亜鉛系めっき層との間で強固な密着状態を形成する結果、優れた耐食性を発現する。
【0028】
かかる強固な密着状態を達成するために、この反応物を主体として有する層(以下、中間層とも呼ぶ)は、表面処理皮膜において0.02〜3μmの厚さを有する必要がある。すなわち、この層の厚さが0.02μm未満であると、亜鉛めっき層と表面処理皮膜との結合が不十分になって、耐食性が劣化する。一方、3μmを超えると、曲げ加工などの加工を行った際に、反応物が主体の層において剥離が生じ易くなり、表面処理皮膜の密着性が劣化するためプレス成形性が悪化する。またその結果、特に、加工後の外観が低下する。金属塩と亜鉛系めっき金属との反応物を主体とする層は、0.1〜1.5μmの厚さであることが特に好ましい。
【0029】
ちなみに、金属塩と該めっき金属(以下、単に「めっき金属」と呼ぶことも有る)との反応物を主体とする層は、金属塩の解離イオンがめっき層の表面から内部へと侵入してめっき金属と反応することにより形成されるから、その厚さは、金属塩の解離イオンがめっき層表面(反応物を有する層が形成される前のめっき層表面)からめっき層内部へ侵入した深さと同等である。よって、この反応物を有する層の厚さは、例えばグロー放電分光(以下、GDSとも略す)等を用いた金属塩成分の深さ方向分析により測定することができる。
【0030】
この金属塩としては、Al、Mn、Mg、VおよびZnの群から選ばれる少なくとも1種の金属の、りん酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩または水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。より好ましくは、Mg、MnおよびVの金属の無機酸塩と、Znの無機酸塩とを併用、あるいはMg、MnおよびVの各水酸化物と、Znの水酸化物とを併用することである。
【0031】
この発明では、表面処理皮膜中の樹脂と金属塩との比率:樹脂/金属塩を質量比で0.01〜0.5とする必要がある。すなわち、樹脂の金属塩に対する質量比が1〜50%である必要がある。この質量比が50%を超えると、耐食性は向上する方向にあるものの、プレス成形時に剥離が生じて黒色異物が生成して加工後外観が劣化し易くなり、さらに、導電性の低下の問題も発生する。一方、この質量比が1%未満では、潤滑性が著しく低下し、プレス成形時に黒色異物が発生したり、型かじりが生じ易くなる。このため、表面処理皮膜中の樹脂の金属塩に対する質量比は1〜50%とする。
なお、皮膜中樹脂の金属塩に対する質量比は蛍光X線により測定可能である。
【0032】
この樹脂としては、カルボキシル基含有単量体の重合体、水酸基含有単量体とカルボキシル基含有単量体との共重合体、カルボキシル基含有単量体とその他の重合性単量体との重合体、さらには、水分散性樹脂とを含有するものが好ましい。
【0033】
ここで、カルボキシル基含有単量体としては、エチレン性不飽和カルボン酸とその誘導体を挙げることができる。エチレン性不飽和カルボン酸は例えばアクリル酸、メタアクリル酸、クロトン酸などのモノカルボン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのジカルボン酸である。誘導体としては、アリカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩などが代表例である。好ましいのはアクリル酸、メタアクリル酸である。
【0034】
水酸基含有単量体としては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−3−ヒドロキシブチル、アクリル酸−2,2−ビス(ヒドロキシメチル)エチル、(メタ)アクリル酸−2,3−ジヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−3−クロル2−ヒドロキシプロピルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシエステル類、アリルアルコール類、N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチロール(メタ)アクリルアミドなどの水酸基含有アクリルアミド類のような、還元性水酸基を有する単量体を挙げることができる。好ましいのは、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタアクリル酸ヒドロキシエチルである。
【0035】
なお、水酸基含有単量体とカルボキシル基含有単量体とを含有する水溶性共重合体は、この発明で期待する表面処理皮膜の特性を維持する範囲内であれば、他の重合性単量体をさらに共重合してもよい。好適な単量体としては、例えばスチレン類あるいはメタアクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸エステル類を挙げることができる。
【0036】
樹脂は、さらに水分散性樹脂を含有することにより、加工性、加工後耐食性をより良好とすることが可能となる。特に、水分散性樹脂は、低pH酸性水溶液(pH:1〜4)中で安定で、均一分散しうるものが好ましい。これは、後述するように、表面処理皮膜を形成させるにあたり、処理液として低pHのものを用いる必要があるためである。そのようなものとして、カルボキシル基または水酸基を含有する単量体以外の不飽和単量体を、カルボキシル基を含有する単量体と共重合してなるものが挙げられる。前者の好適な単量体としては、スチレン、メタアクリル酸ブチル、メタアクリル酸メチルなどのメタアクリル酸のアルキルエステルが挙げられる。pH:1〜4の酸性水溶液中で安定で、均一に分散することができる水分散性樹脂としては、例えば、従来金属材料の表面処理に使用されているポリエステル系、アクリル系、ウレタン系が挙げられる。これらは2種以上併用することもできる。
【0037】
水分散性樹脂は、そのガラス転移温度(Tg)が20〜120℃のものを使用することが好ましい。すなわち、Tgが20℃未満であると、皮膜を乾燥させた後の耐ブロッキンク性に劣り、一方Tgが120℃を超えると、加工時の鋼板変形に皮膜が追随せずに皮膜破壊が発生し、加工後の耐食性が劣化する、おそれがある。
【0038】
水分散性樹脂の量は、前記金属塩に対する質量比で1〜25%とすることが好ましい。この量は皮膜乾燥後のものである。この量が25%超では、耐食性の向上効果があるものの、プレス成形時に黒色異物が生成しやすくなり、さらに導電性の低下や皮膜乾燥性の劣化の問題も発生するため、25%以下とすることが好ましい。好ましくは10%以下である。一方、この量が1%未満では、潤滑性が著しく低下し、プレス成形時に黒色異物や型かじりが発生しやすくなるため、1%以上とすることが好ましい。さらに好ましくは2%以上である。
【0039】
本発明では、以下に記載するように、皮膜形成のための表面処理液中には、該表面処理液に対して0.1質量%以上10質量%未満の溶解亜鉛イオンに対するキレート化剤が含有される。この溶解亜鉛イオンに対するキレート化剤は、モノカルボン酸またはジカルボン酸またはオキシカルボン酸またはケトカルボン酸のチオ誘導体、オキシカルボン酸、芳香族カルボン酸、アルデヒド類、アミノポリカルボン酸のうち1種以上である。本発明の皮膜には、前述溶解亜鉛イオンに対するキレート化剤が含有される。
【0040】
表面処理液を亜鉛系めっき鋼板上に塗布する方法としては、浸漬法やロールコーティング法が知られている。しかし表面処理液が低pHの場合、めっきが溶解してpHが上昇する。その結果、表面処理液中の金属成分の溶解安定pHを超えて析出物が生成する。浸漬法の場合はスラッジが発生するし、ロールコーティング法でもスラッジの発生や、コーターロールへ付着する場合があり、外観不良や性能不良、さらには連続生産が不能となる場合があった。
【0041】
上記を防止するには、表面処理液のpHを上げることでZnの溶解を極力防ぎ、反面、表面処理液に対するZnの溶解限(pH上限)を引上げるため、pHを低下するという相反する事象を達成させる必要があり、従来の技術では達成不可能であった。そこで鋭意検討した結果、モノカルボン酸、ジカルボン酸、オキシカルボン酸、ケトカルボン酸のうちのいずれかのチオ誘導体、オキシカルボン酸、芳香族カルボン酸、アルデヒド類、アミノポリカルボン酸を適量添加することで、これらがめっき表面に先行吸着して、めっきの過剰エッチングを防止することが可能となり、さらに表面処理液中でこれらがキレート化剤として作用し、溶解した亜鉛イオンをキレート化し表面処理液の安定性が向上することを見出した。
【0042】
本効果を発現する成分としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸などのモノカルボン酸やシュウ酸、マロン酸、コハク酸、ゲルタル酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸などのジカルボン酸やトリカルバリル酸、プロピオン-1,1,2,3-テトラカルボン酸、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸などのポリカルボン酸やグリコール酸、チオグリコール酸、乳酸、β-ヒドロキシプロピオン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、イソクエン酸、アロイソクエン酸、グルコン酸、ピルビン酸、オキサル酢酸、ジグリコール酸、チオジグリコール酸、メルカプトコハク酸、ジメルカプトコハク酸などのオキシまたはケトカルボン酸のうちのいずれかのチオ誘導体、安息香酸、フタル酸、マンデル酸、サリチルアルデヒド、サリチル酸、5-スルホサリチル酸、α-カルボキシ-o-アニス酸、トリポロン、タイロンなどの芳香族カルボン酸やアルデヒド、イミノジ酢酸、イミノジプロピオン酸、フェニルイミノジ酢酸、メルカプトエチルイミノジ酢酸、メトキシエチルイミノジ酢酸、N,N’-エチレンジアミンジ酢酸、エチレンジアミンテトラ酢酸、エチレンジアミン-N,N’-ジ酢酸N,N’-ジ(2-プロピオン酸)1,2-プロピレンジアミンテトラ酢酸、エチルエーテルジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸などのアミノポリカルボン酸があげられる。
【0043】
なお、添加量は表面処理液中の0.1質量%以上10質量%未満であることが好ましい。0.1質量%以上であればめっきへの先行吸着や処理液安定性が向上する。また10質量%以上では皮膜中に大量に残存し、耐食性を低下させることがあるため、10質量%未満が好ましい。さらに好ましくは0.5質量%以上5質量%未満である。
【0044】
さらに、表面処理皮膜中に、プレス成形性の向上を所期して、潤滑剤を含有させてもよい。この潤滑剤の量は、金属塩に対する質量比で0.1〜25%とすることが好ましい。この量は皮膜乾燥後のものである。この量が0.1%以上であれば、潤滑性が良好でプレス成形性が向上するため、0.1%以上とすることが好ましい。一方、この量が25%超では皮膜が軟弱となり、加工後外観が悪化するので、25%以下とすることが好ましい。潤滑剤としては、低pH安定性を有しかつ軟化温度が100℃以上のものが好ましい。潤滑剤として、ポリエチレンワックスや、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素系ワックスが好ましく用いうる。
【0045】
さらに、めっき金属と金属塩との反応物を含む層は、連続性がないと十分な耐久性が得られず、また、プレス成形性および加工後耐食性にも乏しくなるので、連続性をもつものでなければならない。
【0046】
次に、この発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法について、詳しく説明する。
【0047】
この発明に従う表面処理皮膜は、金属塩と樹脂とを含有する表面処理液を鋼板のめっき表面に付着させることで形成させる。
【0048】
ここで用いる表面処理液は、金属塩と該金属塩の1〜50質量%の樹脂とを含み、pHが1〜4で、かつ0.1規定水酸化ナトリウム換算の遊離酸度が3〜20であり、さらに0.1質量%以上10質量%未満の溶解亜鉛イオンに対するキレート化剤が含有される。ことが肝要である。
【0049】
まず、表面処理液中の金属塩に対する樹脂の質量比を1〜50%とするのは、50%を超えると、耐食性の向上効果があるものの、プレス成形時に黒色異物が生成しやすくなり、さらに導電性の低下や皮膜乾燥性の劣化の問題も発生するため、50%以下とする。一方、この量が1%未満では、潤滑性が著しく低下し、プレス成形時に黒色異物や型かじりが発生しやすくなるため、1%以上とする。好ましくは3%以上である。
【0050】
ここで、金属塩は、Al、Mn、Mg、VおよびZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属の、りん酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩および水酸化物からなる群よりばれた少なくとも1種であることが好ましく、樹脂は、水分散性樹脂であることが好ましく、さらに好ましくは潤滑剤を含有する。この処理液は、前記金属塩と、樹脂、好ましくは水分散性樹脂と、さらに好ましく潤滑剤とを水に添加し、水溶液とすることにより得られる。
【0051】
なお、上記りん酸塩は、処理液の調合時および処理液の塗布工程、乾燥工程でりん酸となりうるりん含有酸と上記金属との反応により生成する塩であればいかなるものでもよい。かかるりん含有酸としては、りん酸の他にポリりん酸、次亜りん酸、ピロりん酸、トリポリりん酸、へキサメタりん酸、第一りん酸、第二りん酸、第三りん酸などを挙げることができる。
【0052】
pHを1〜4で、0.1規定水酸化ナトリウム換算の遊離酸度を3〜20の範囲に規定したのは以下の理由による。
【0053】
表面処理液のpHが1未満である場合は亜鉛系めっき層が溶解してしまい、めっき層の薄膜化やめっき金属と金属塩との反応物の再溶解が発生してしまい、耐食性向上が得られない場合があるため、pHは1以上の範囲に規制する。一方、pHが4を超えると、めっき金属と金属塩との反応物が形成されなくなり、耐食性が著しく低下する。よって、処理液のpHは1〜4とする。このために、前記したように処理液中の水分散性樹脂としては、低pH安定性に優れたものが好ましい。
例えば、前記リン酸系酸等を水に溶かして調合した処理液のpHを1〜4に調整するには、NaOHやKOHのような水酸化物、アミン等を用いて中和すればよい。
【0054】
本発明で言う「0.1規定水酸化ナトリウム換算の遊離酸度」とは、表面処理液10mlにブロムフェノールブルー3滴を滴下し、呈色が黄色から青色へ変化するのに要する0.1規定水酸化ナトリウム水溶液の量(ml)のことであり、無名数として表した。
上記のように、表面処理液のpHを1〜4の範囲に調整しても、遊離酸度が0.1規定水酸化ナトリウム換算で3〜20の範囲を外れると、耐食性が低下する。すなわち、遊離酸度が3未満では中間層の厚さが薄くなり過ぎ、また、中間層中に皮膜中の樹脂の20vol%以上を含有させることができなくなる。一方20を超えると、中間層の連続性が阻害されるためである。よって、処理液の遊離酸度は0.1規定水酸化ナトリウム換算で3〜20とする。好ましくは5〜15である。なお、同一pHの場合、遊離酸度を低下させるにはピロリン酸の使用が有効である。
【0055】
表面処理液中の金属塩は、表面処理液とめっき層との接触時に、めっき金属と反応し、生成した皮膜のめっき金属との界面近傍部分にめっき金属と強固に結合し、耐食性に富む薄層(中間層)を形成する。かかる強固な結合が生成する理由は、金属塩が処理液中の他成分(樹脂等)に優先して解離し、該解離イオンがめっき層中の金属イオンとイオン結合することにあると推定される。処理液中の金属塩の濃度は、金属塩が溶解する範囲内で適宜調整することができる。
【0056】
ここで、好ましいのは、Mg、MnおよびVからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属の無機酸塩を併用した場合である。さらにZnの無機酸塩を併用すると、より一層好ましい。
【0057】
表面処理液中の水分散性樹脂および潤滑剤は、表面処理液中に分散し、処理液とめっき層との接触により形成される中間層中にも同様に分散して含有される。水分散性樹脂の含有により、中間層の深さ方向でいかなる部位においても、均一の潤滑性が確保できる。また、潤滑剤の含有により潤滑性が十分なレベルに到達する。これらの作用によって、プレス成形性および加工後耐食性が確保される。したがって、樹脂には水分散性樹脂及び潤滑剤を混入させることが好ましい。
【0058】
かかる作用効果を十分に発現させるためには、表面処理液中の樹脂(さらに好ましくは潤滑剤)の含有量を前記金属塩に対する質量比で1〜50%とする必要がある。これら表面処理液中での要件は、前記した表面処理皮膜中での要件と同じものであり、したがって、これら表面処理液中での要件が満たされないと、前記したことから、本発明の目的が達成されないからである。
【0059】
なお、表面処理液に混入させる樹脂は、前述のカルボキシル基含有単量体の重合体、水酸基含有単量体とカルボキシル基含有単量体との共重合体、カルボキシル基含有単量体とその他の重合性単量体との共重合体、水酸基含有単量体及びカルボキシル基含有単量体との共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有するものであることが好ましい。さらには、水分散性樹脂および/または潤滑剤を含有させることが好ましい。
これらの樹脂の濃度は、それぞれの安定性が確保される固形分濃度が達成される範囲内で適宜設定することができる。
【0060】
水分散性樹脂を含有させる場合には水分散性樹脂のガラス転移温度が、20℃以上である方が乾燥後の皮膜が耐ブロッキング性にも優れたものとなる。一方、120℃以下である方が、加工時の鋼板変形に皮膜が追従し易く皮膜破壊が発生し難いので、加工後耐食性向上する。よって、前記水分散性樹脂は、ガラス転移温度が20〜120℃のものが好ましい。
【0061】
また、水分散性樹脂の粒子径が、0.1μm以上である方が、プレス成形性向上する。一方、2.0μm以下である方が、中間層の連続性が維持され易く、耐食性、プレス成形性、加工後耐食性のいずれも向上する。よって、樹脂は、粒子径が0.1μm以上2.0μm以下のものとすることが好ましい。
【0062】
さらに表面処理液中には溶解亜鉛イオンに対するキレート化剤を0.1質量%以上10質量%未満で含有させるが、この理由は前述の通りである。
【0063】
この発明で用いる表面処理液には、被処理面(亜鉛系めっき鋼板表面)への適用時の発泡防止や処理液安定性の観点から、界面活性剤を含有させてもよい。界面活性剤としては、pH1〜4の環境下で安定なものであればよく、ノニオン型界面活性剤が挙げられる。また、その他性能を付与するために処理液にワックスやその他通常の表面処理で使用される各種添加剤を含有させてもよい。
【0064】
表面処理液の被処理面への適用方法としては、被処理面に処理液を接触させる塗装工程と、次いで前記接触させた部分を50〜100℃に加熱して乾燥させる乾燥工程とを有するものが好ましい。塗装工程では、ロールコート、スプレー塗装、刷毛塗り、カーテンフローなどの塗装方式が好ましく用いうる。塗布量および付着量は、前記中間層の厚さが達成されるように設定する。付着量が金属塩換算で0.05〜3.0g/m2とすることにより、上述のように中間層の厚さを0.02〜3μmとすることができる。乾燥工程での加熱温度(鋼板温度)は、50℃以上の方が、皮膜中の水分が残存し難くなるので、耐食性が向上する。一方100℃以下の方が、りん酸のオルソ化が抑制されるため、表面処理液の遊離酸度が維持され易く、やはり耐食性が向上するため、50〜100℃の範囲とするのが好ましい。加熱手段としては、熱風炉、ドライヤー、高周波加熱炉および赤外線加熱炉などを用いることができる。
【0065】
上記処理液適用方法によれば、クロムを用いずに、汎用クロメート鋼板に匹敵する耐食性、導電性およびプレス成形性を有し、さらに加工後耐食性にも優れた表面処理亜鉛系めっき鋼板を高能率かつ低コストで製造し得る。
【実施例1】
【0066】
下記に示す亜鉛系めっき鋼板a〜fに、表1に示す金属種からなる金属塩および樹脂A〜Gのいずれか1種以上(樹脂A〜Dは水分散性樹脂、樹脂E、Fは潤滑剤)を固形分として15〜20mass%含有する水系表面処理液をスプレー塗布し、リンガーロール絞りにて塗装した。その後5秒で鋼板温度が60℃となるように加熱して、表面処理皮膜を形成した。処理液の条件及び得られた皮膜の性状を表1に合わせて示した。
【0067】
(亜鉛系めっき鋼板a〜f)
鋼板a:電気亜鉛めっき鋼板(板厚;1mm、Zn20g/m2
鋼板b;電気亜鉛−ニッケルめっき鋼板(板厚;1mm、Zn-Ni20g/m2、Ni;12mass%)
鋼板c;溶融亜鉛めっき鋼板(板厚;1mm、Zn60g/m2
鋼板d;合金化溶融亜鉛めっき鋼板(板厚;1mm、Zn60g/m2、Fe;10mass%)
鋼板e;亜鉛-5%アルミニウムめっき鋼板(板厚;1mm、60g/m2、Al;5mass%)
鋼板f;亜鉛-55%アルミニウムめっき鋼板(板厚;1mm、60g/m2、Al;55mass%)
【0068】
(樹脂A〜F)
ここで、樹脂A〜Dは水分散性樹脂で、Tgはガラス転移温度である。
樹脂A:ウレタン樹脂エマルジョン(Tg80℃、分散粒子径0.2〜0.4μm)
樹脂B:アクリル樹脂エマルジョン(Tg100℃、分散粒子径0.3〜0.4μm)
樹脂C:ポリエチレン樹脂エマルジョン(Tg80℃、分散粒子径0.1〜0.2μm)
樹脂D:アクリル樹脂エマルジョン(Tg30℃、分散粒子径0.1〜0.2μm)
樹脂E:潤滑剤(ポリエチレンワックス(軟化温度110℃))
樹脂F:潤滑剤(フッ素系ワックス(PTFE)(軟化温度160℃))
【0069】
(キレート化剤)
キレート化剤I:グリコール酸
キレート化剤II:チオグリコール酸
キレート化剤III:コハク酸
キレート化剤IV:クエン酸
キレート化剤V:5-スルホサリチル酸
キレート化剤VI:ホスホノメチルイミノジ酢酸
【0070】
前記表面処理液の亜鉛溶解抑制特性、処理液安定性を以下の方法で調査した。
【0071】
〔亜鉛溶解抑制〕
各表面処理液(固形分15%〜20%、温度20℃)を用いて、50×100mmの純亜鉛電気めっき鋼板を5秒間浸漬し、鋼板の浸漬前後の重量変化を測定した。重量変化をg/m2に換算し、次の評価基準に従って評価した。その結果を表2に示す。
○:0.1g/m2未満
△:0.1g/m2以上0.2g/m2未満
×:0.2g/m2以上
【0072】
〔高pH化時の処理液安定性〕
各表面処理液(固形分15%〜20%、温度20℃)をビーカーに25g秤量し、表面処理液を攪拌しながら、1規定のNaOHを用いて滴定し、析出物が発生した段階でのpHを測定した。次の評価基準に従って評価した。その結果を表2に示す。
○:pH4以上
△:pH3以上pH4未満
×:PH3未満
【0073】
また、得られた各試験片について、表面処理皮膜中の樹脂の金属塩に対する質量比率(mass%)を蛍光X線にて分析して求めた。また、金属塩とめっき金属との反応物が主体である層の厚さ(中間層厚さ)をGDSを用いて測定した。また各試験片について、平板導電性、平面部耐食性、加工性(プレス成形性)、加工後耐食性を、以下の試験方法に従って評価した。
【0074】
〔平板導電性〕
試験片を175×lOOmmの大きさにせん断後、4端子4深針式表面抵抗計(“ロレスタAP“、三菱化学株式会社製)を用いて、10点測定した表面抵抗値の平均値を、次の評価基準に従って評価した。その結果を表2に示す。
◎:0.1mΩ未満
○:0.1mΩ以上、0.5mΩ未満
△:0.5mΩ以上、1.0mΩ未満
×:0.1mΩ以上
【0075】
〔平面部耐食性〕
試験片を70×150mmの大きさにせん断後、端面部をシールし、塩水噴霧試験(JIS Z-2371)を行った。各試験片表面の面積の5%に白錆が発生するまでに要する時間を、次の評価基準に従って評価した。その結果を表2に示す。
◎:72時間以上
○:48時間以上72時間未満
△:24時間以上48時間未満
×:24時間以下
【0076】
〔加工性〕
エリクセンカップ試験機を用いて、次の条件でプレス成形を行った際の成形可否(○:可、×:不可)と成形荷重を評価した。その結果を表2に示す。
<加工条件>
ポンチ径:33mm
ブランク径:66mm
絞りダイス肩曲率:3mmR
絞り速度:60mm/s
しわ押さえ荷重:1ton
速乾油塗油(1.5g/m2
【0077】
さらに、加工後の外観の評価として、加工後に皮膜の剥離し易さを評価した。すなわち、上記のエリクセンカップ試験機を用いたプレス成形を行った成形品の側壁部にセロハンテープを密着させた後、これを剥がして、Cu板に貼付し、これを蛍光X線によりZnカウントを測定した。そして、そのカウント値により、以下の基準で判定を行った。その結果を表2に示す。
○:10kcps以下
△:10kcps超〜15kcps
×:15kcps超
【0078】
〔加工後耐食性〕
上記条件で円筒成形を行った後、端面部をシールし、塩水噴霧試験(JIS Z−2371)を行った。各試験片表面の面積の5%に白錆が発生するまでに要する時間を、次の評価基準に従って評価した。その結果を表2に示す。
◎:12時間以上
○:6時間以上12時間未満
△:3時間以上6時間未満
×:3時間以下
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
表1及び表2に示されるように、例1〜20は、使用した表面処理液は、亜鉛溶解抑制能と処理液安定性に優れ、皮膜が形成されためっき鋼板は、導電性、耐食性(平坦部耐食性及び加工後耐食性)及び加工性に優れる。
【0082】
キレート化剤としてコハク酸を使用した例21は、処理液安定性が劣るが、形成された皮膜は本発明範囲内にあるため、皮膜が形成されためっき鋼板は、導電性、耐食性(平坦部耐食性及び加工後耐食性)及び加工性に優れる。
【0083】
キレート化剤の添加量が本発明範囲を下回る例22は、亜鉛溶解抑制能、処理液安定性が劣るが、形成された皮膜が本発明範囲内にあるため、皮膜が形成されためっき鋼板は、導電性、耐食性(平坦部耐食性及び加工後耐食性)及び加工性に優れる。
【0084】
例23は、キレート化剤の添加量が本発明範囲を上回るため、耐食性(平坦部耐食性及び加工後耐食性)が劣る。
【0085】
例24及び例25は、樹脂/金属塩比が添加量が本発明範囲を外れるため、加工後の外観が劣る。
【0086】
例26は、表面処理液付着量が本発明範囲を下回るため、所要の中間層厚を形成できず、導電性、耐食性(平坦部耐食性及び加工後耐食性)及び加工性が劣る。
【0087】
例27は、遊離酸度が高すぎるため、耐食性(平坦部耐食性及び加工後耐食性)が劣る。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板は、汎用のクロメート処理亜鉛系めっき鋼板に匹敵する、優れた平板部耐食性、加工後耐食性、導電性および加工性を兼備する。また、クロムやクロム化合物を用いないので、表面処理液の被覆工程や該鋼板の使用に際しても特別な排水処理なども不要である。したがって、環境汚染への特別な配慮もなく、従来の自動車、建材、家電品、事務機器分野で使用されているクロメート処理鋼板に代えて広い分野で利用できる。
【0089】
本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法は、前記表面処理亜鉛系めっき鋼板を製造するための方法として利用することができる。さらに本発明の表面処理液は、前記表面処理亜鉛系めっき鋼板を製造するための表面処理液として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛系めっき鋼板のめっき層上に、pHが1〜4で遊離酸度が0.1規定水酸化ナトリウム換算で3〜20であり、さらに、溶解亜鉛イオンに対するキレート化剤として、モノカルボン酸、ジカルボン酸、オキシカルボン酸、ケトカルボン酸のうちのいずれかのチオ誘導体、芳香族カルボン酸、オキシカルボン酸、アルデヒド類、アミノポリカルボン酸のうち1種以上を0.1質量%以上10質量%未満で含有する表面処理液を塗布・乾燥させて、表面処理皮膜が形成されてなり、該表面処理皮膜は、金属塩とめっき金属との反応物と、該金属塩の1〜50質量%の樹脂とを含有するとともに、厚さ0.02〜3μmの前記反応物が主体の層を有することを特徴とする表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【請求項2】
前記樹脂が潤滑剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【請求項3】
前記金属塩が、Al、Mn、Mg、VおよびZnの群から選ばれる少なくとも1種の金属の、りん酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩または水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【請求項4】
亜鉛系めっき鋼板のめっき層上に、金属塩および該金属塩の1〜50質量%の樹脂を含有し、pHが1〜4で遊離酸度が0.1規定水酸化ナトリウム換算で3〜20であり、さらに、溶解亜鉛イオンに対するキレート化剤として、モノカルボン酸またはジカルボン酸またはオキシカルボン酸またはケトカルボン酸のうちのいずれかのチオ誘導体、芳香族カルボン酸、オキシカルボン酸、アルデヒド類、アミノポリカルボン酸のうち1種以上を0.1質量%以上10質量%未満で含有する表面処理液を、金属塩換算で0.05〜3.0g/m塗布する工程と、該表面処理液の塗布を行った鋼板の表面を加熱して乾燥する工程とからなることを特徴とする表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂が潤滑剤を含むことを特徴とする請求項4に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記金属塩が、Al、Mn、Mg、VおよびZnの群から選ばれる少なくとも1種の金属の、りん酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩または水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項4又は5に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項7】
亜鉛系めっき層を有する鋼板の表面に、表面処理皮膜を形成させるための表面処理液であって、金属塩および該金属塩の1〜50質量%の樹脂を含有し、pHが1〜4で遊離酸度が0.1規定水酸化ナトリウム換算で3〜20であり、さらに、溶解亜鉛イオンに対するキレート化剤として、モノカルボン酸、ジカルボン酸、オキシカルボン酸、ケトカルボン酸のうちのいずれかのチオ誘導体、芳香族カルボン酸、オキシカルボン酸、アルデヒド類、アミノポリカルボン酸のうち1種以上を0.1質量%以上10質量%未満で含有することを特徴とする表面処理液。
【請求項8】
前記樹脂が潤滑剤を含むことを特徴とする請求項7に記載の表面処理液。
【請求項9】
前記金属塩が、Al、Mn、Mg、VおよびZnの群から選ばれる少なくとも1種の金属の、りん酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩または水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項7又は8に記載の表面処理液。

【公開番号】特開2006−283082(P2006−283082A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−102650(P2005−102650)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】