説明

表面処理剤

【課題】 自動車の車体表面を被覆している塗膜の表面と、車体に装着されているガラス製やゴム製の部材などの表面を同時に清浄できる表面処理剤を提供する。
【解決手段】 研磨成分、造膜成分および洗浄成分の三成分を水系溶媒に分散して得た分散媒体を含む表面処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、鋼材、石材、合成樹脂などの素材から形成された下地の表面を被覆している塗膜の表面のみならず、ガラス製やゴム製の部材などの表面処理も可能な表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体表面に塗装して形成(塗設)された塗膜に生じた損傷箇所の補修や、塗膜表面の艶や光沢の復元などのための研磨処理は、高度な熟練と経験を必要とする作業工程であり、また、車体表面の耐久性や光沢の良し悪しに直結する重要な工程でもある。
【0003】
このような車体表面に塗設された塗膜に関する従来の研磨処理方法では、少なくとも四種類の研磨剤、すなわち、「中目」、「細目」、「微粒子」または「超微粒子」のいずれかに属する粒子径を有する四種類の研磨剤が利用されている。 そして、実際の研磨処理にあっては、まず、中目の研磨剤を用いてシングル回転ポリッシャーで塗膜表面の研磨を行った後に、細目の研磨剤を用いたウールバフで研磨を行う。 次いで、微粒子の研磨剤を用いたウレタンバフでの研磨、そして最後に、(最終仕上用の)超微粒子の研磨剤を用いたウレタンバフでの研磨が続く。 つまり、少なくとも四種類の研磨剤を用いて、四度もの研磨作業が行われるのが通常であった。
【0004】
この研磨作業に要する労力を軽減する目的で、近年、車体表面に塗設された塗膜表面の研磨と艶出しを同時に実現する種々の研磨剤(研磨艶出剤)が開発されている。 例えば、自動車の車体表面に塗設された塗膜の劣化箇所や損傷箇所の補修と、塗膜の光沢性や耐久性の改善とを同時に実現する補修剤として、(1)アクリル樹脂、アルキッド樹脂、変性アルキッド樹脂、アクリルシリコーン共重合樹脂、エポキシ樹脂などの合成樹脂エマルジョンなどの造膜性合成樹脂分散液、(2)2,2,4-トリメチルペンタンジオール、プロピレングリコールメチルエーテルなどの100℃以上の沸点を有する造膜性樹脂可溶性の水溶性溶剤、および(3)ジメチルシリコーンオイルおよび/または有機変性シリコーンオイルなどのオルガノポリシロキサン油、すなわち、これら成分(1)〜(3)を水に乳化分散してなる自動車用劣化塗膜及び小傷修復兼つや出し剤が発明されている[特許文献1を参照]。
【0005】
同様の目的で、(a)湿気硬化性オルガノポリシロキサン、(b)皮膜形成調製剤として機能する有機スズ化合物、(c)100℃〜250℃の沸点を有し、キャリアとして機能する揮発性ジメチルポリシロキサン油、および(d)オルガノポリシロキサン油、すなわち、これら成分(a)〜(d)を含有する自動車用劣化塗膜及び小傷修復兼つや出し剤も発明されている[特許文献2を参照]。
【0006】
また、光触媒性親水性皮膜が形成される基材表面のアンダーコート層用組成物として好適な研磨成分含有のアンダーコート組成物、例えば、無機酸化粒子からなる研磨剤、シリコーンおよび溶媒を混合して得た組成物や、これら研磨剤を含む洗浄剤なども提案されている[特許文献3を参照]。
【0007】
さらに、研磨剤を含有する液状乳濁液に、ワックス、シリコーン、乳化剤、濃稠剤などを含有せしめてなる自動洗車装置用の保護乳濁液も提案されている[特許文献4を参照]。
【0008】
また、本出願人自らも、従来の研磨作業で要する労力を軽減する目的で、研磨微粒子、シリコーンポリマー系の保護被膜形成剤(架橋シリコーンポリマー)および洗浄分散剤の三成分を含む水および水溶性有機溶媒分散混合物からなる自動車塗装膜用研磨剤を発明した[特許文献5を参照]。
【特許文献1】特開平8−134407号公報
【特許文献2】特開平10−36771号公報
【特許文献3】特開平11−50006号公報
【特許文献4】特表平8−510973号公報
【特許文献5】特開2005−480797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述した先行技術に記載の研磨剤は、そこで用いられている構成成分それぞれが奏する作用効果が的確に把握されていない部分もあるため、それら研磨剤が奏する効果自体が極めて限定的であったり、あるいは、具体的な相乗効果にまで注意が行き届いておらず、また、それら相乗効果が十分に理解もされていなかった。
【0010】
実際のところ、自動車の車体表面に着目すると、車体本体(ボデー本体)には、鋼板表面上に合成樹脂の塗膜が形成されており、また、車体の窓部にはガラス板が設置されており、これらガラス板の周囲には、シールゴムが施されており、さらには、合成樹脂性の庇やバンパーなどの種々の部材も外装面から露出している。 したがって、自動車用の研磨剤としては、本来は、鋼板表面上の塗膜のみならず、塗膜とは異なる素材から構成されたその他の部材に接触しても、これら部材の表面を汚染したり、損傷を与えないものが必要とされているにもかかわらず、未だにその実現には至っていない。 従って、今現在でも、自動車の車体表面の研磨処理にあっては、不慮の損傷を未然に防ぐために、マスキングテープを欠かすことができないのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、先行技術で認められていた上掲の問題点に鑑みて発明されたものであって、その要旨とするところは、研磨成分、造膜成分および洗浄成分の三成分、すなわち、(A)研磨剤からなる研磨成分、(B)シリコーン組成物からなる造膜成分、および、(C)分散剤を含む洗浄成分の三成分を水系溶媒に分散して得た分散媒体を含む表面処理剤にある。
【発明の効果】
【0012】
従来の研磨作業にあっては、前述したように、乗用車などの車体表面に塗設された塗膜に対して、粒子径の異なる複数(数種類)の研磨剤を用いた長時間の研磨作業が必要であったが、本願発明の表面処理剤によれば、単一の作業工程によって、短時間の内に作業を終えることが可能となった。 また、塗膜の光沢復元処理においては、従来の研磨処理で行われていた、水洗した塗膜を洗剤で脱脂洗浄する工程と、複数の研磨剤を用いた塗装面の損傷箇所の補修や、塗膜表面の光沢の復元などの作業までをも、本願発明の表面処理剤を用いた単一の作業工程で終えることが可能となったのである。
【0013】
また、前述したように、本願発明の表面処理剤によれば、作業工程数が一工程にまで集約されるため、従来の研磨作業と比較して作業負担が劇的に軽減される上に、その取り扱いが簡単なこともあって、従来の研磨作業で要求されていた作業者の高度な熟練度はさほど必要とされず、素人でも容易に作業を行うことができるようになった。 また、本願発明の表面処理剤で処理して塗膜表面に出現した艶と光沢は長期間にわたって維持され、加えて、従来の研磨仕上面の外縁に経時的に発生していた紫外線に起因する劣化も効果的に抑制される。
【0014】
さらに、本願発明の表面処理剤によれば、作業後に塗膜表面に残存した粉状研磨剤の密度および重量が比較的に大きいため、粉状研磨剤は飛散せずに、直接に地面に落下堆積するので、その回収が容易であり、作業環境の汚染を防ぐことが可能となる。 加えて、前述した通り、本願発明に従えば、一工程で所要の作業が完了することから、表面処理剤自体の使用量も減らすことができ、その結果、この効果は顕著に増長されることになる。
【0015】
最後に、本願発明の表面処理剤によれば、作業工程数が一工程にまで集約されるので、作業に使用する器具の消耗が抑えられるのみならず、その材料費の低減が図れるなど、経済的負担の軽減をも実現する。
【0016】
ここに示した作用効果は、表面処理剤の構成成分と各成分比率とが初めて明らかにされたことによって獲得できたものであって、換言すれば、本願発明の表面処理剤は、このような幾多もの優れた作用効果を相乗的に奏する優れた発明なのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本願発明の表面処理剤の構成を、詳細に説明する。
【0018】
研磨成分
本願発明の表面処理剤での研磨成分において、希土類金属の微粒子状の酸化物や弗化物を利用した研磨剤(いわゆる、硬質研磨剤)が利用できる。 これらの内でも、酸化セリウムや弗化セリウム、特に、粒子径が約1μm〜約5μmの酸化セリウム、好ましくは、粒子径が約2μm〜約4μmの酸化セリウム、特に、光学レンズ研磨用の酸化セリウムが、本願発明の表面処理剤において好適に利用できる。 また、イットリウム属金属の酸化物も、高い硬度の微細粒子を形成するので、同様に利用することができる。
【0019】
あるいは、アルミニウム酸化物やケイ素酸化物を利用した研磨剤も、本願発明の表面処理剤での研磨成分において、好適に利用することができる。 これらの内でも、アルミナ、シリカ、シリカアルミナなどから構成された微粒子研磨剤、特に、粒子径が約1μm以下で、いわゆる、コロイダルアルミナや単にアルミナとも称されている超微粒子状のシリカアルミナが、本願発明において好適に利用できる。
【0020】
本願発明の表面処理剤での研磨成分に適した研磨剤として、粒径分布が約2μm〜約4μmの酸化セリウムを主材とし、かつ理想的な光沢発現にも寄与する研磨剤であるセポール(セポール302(商品名):トランセルコ社製、米国)が挙げられる。
【0021】
歴史的にみて、かつては、粒子径が1μm程度のアルミナであっても、表面処理剤に含まれるその含有率(10重量%)を、許容量(20重量%)を大きく超える30重量%以上にまで大幅に増量することで、良好な塗膜の研磨処理が実施できていた。 しかしながら、本願発明者は、自動車用塗料の主流がアクリル系塗料から、より硬質の塗膜を形成するウレタン系塗料へ変換された昭和60年(1985年)頃を境に、アルミナに依存した研磨処理では、好適な研磨効果を得ることができず、その限界を目の当たりにしてきた。 この難題を解決すべく、本願発明者は、まず、アクリル系塗料が形成した塗膜に対してアルミナ研磨剤が奏した従前の研磨効果を、ウレタン系塗料が形成した塗膜において発現する研磨剤を鋭意探索した結果、ガラス研磨用の酸化セリウム質研磨剤であるセロックス(商品名:ローディア社製、フランス国)に行き当たり、当面する難題を克服したのである。
【0022】
そして、本願発明者が、その後も鋭意研究を続けた結果、酸化セリウムを主材としたセロックス(前出)が、実のところ、研磨効果のみならず、優れた光沢をも付与する研磨剤であることを見出すに至ったのである。
【0023】
なお、本願発明の表面処理剤での研磨成分の量は、本願発明の表面処理剤に所望の研磨効果を付与する観点からすれば、約10重量%〜約50重量%(表面処理剤の総重量に対する重量割合)、好ましくは、約20重量%〜約40重量%、最も好ましくは、約15重量%〜約30重量%の範囲で調整する。 従来の研磨剤での研磨成分の量は、通常で約5重量%程度(研磨剤の総重量に対する重量割合)であり、多くとも約10重量%程度であったことを考慮すれば、本願発明の表面処理剤での研磨成分の量は、従来の成分量から想像すらできない、あまりにもかけ離れた数値であると言える。 このことは、従来の研磨方法が、専ら、研磨剤に含まれる研磨粒子の粒子径を大きくすることで研磨効果の改善を図っていたのに対して、本願発明の表面処理剤では、研磨剤に含まれる研磨粒子の密度を増大する、つまり、研磨剤の含有量を顕著に増大させることで所望の研磨効果を獲得しようとするものであり、両者の技術思想が根本的に相違していることを指し示すものに他ならない。
【0024】
仮に研磨剤の全量にセロックスを用いても、本願発明での所期の研磨効果を得ることは可能である。 あるいは、二種類以上の研磨剤を、硬質度の大きな研磨剤の方を多めに混合して利用することもできる。 例えば、研磨剤として、セポールとセロックの混合系を用いる場合であれば、セポール:セロック=約70:約30〜約10:約90の重量比率に調整して用いる。
【0025】
本願発明の表面処理剤での研磨成分には、前述した研磨剤に加えて、当該技術分野で周知の研磨要素を利用することができる。 このような研磨要素として、例えば、滑石、パーライト、シリカ、硅藻土、炭酸カルシウム、ゼオライト、水酸化アルミニウム、カオリン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、弗化カルシウム、ベントナイト、モンモリロナイト、シラスバルーン、雲母、硅酸カルシウム、硅酸ジルコニウム、ダイヤモンド、ガラス、セラミック、ポリオレフィン粉末、セルロース粉末、四弗化エチレン樹脂粉末、四弗化エチレン六弗化プロピレン共重合樹脂粉末、弗化ビニリデン樹脂粉末、高級脂肪酸ビスアマイド、高級脂肪酸金属石鹸、アミノ酸粉末、不溶性シリコン樹脂粉末、アクリル樹脂粉末、エポキシ樹脂粉末、合成樹脂粉末(例えば、ナイロン粉末)など、艶消剤として周知の粉末状の無機物や有機物があり、これらは、本願発明の表面処理剤での研磨成分に組み込むことができる。
【0026】
造膜成分
本願発明の表面処理剤での造膜成分を構成するシリコーン組成物は、アルコキシシラン、シクロペンタシロキサン、および、ジメチコンを必須的に含む。
【0027】
本願発明の表面処理剤での造膜成分を構成するシリコーン組成物に必須的に含まれているアルコキシシランとは、各種シランカップリング剤や、絶縁薄膜、耐熱材料などの原材料として広く利用されている化合物であり、本願発明の表面処理剤において所望の造膜性を実現する。 これらアルコキシシランの好適な供給源として、アルコキシシラン(45重量%)、アルミニウムキレート化合物(10重量%)およびイソプロパノール(45重量%)の化学組成を有しているKR-400(商品名:信越化学工業株式会社製)が挙げられる。
【0028】
なお、アルコキシシランの使用量は、本願発明の表面処理剤に所望の造膜性を付与する観点からすれば、KR-400として、約2.0重量%〜約10重量%(表面処理剤の総重量に対する重量割合)相当量、つまり、表面処理剤の総重量の約0.9重量%〜約4.5重量%相当量が好適である。
【0029】
同様に、本願発明の表面処理剤での造膜成分を構成するシリコーン組成物に必須的に含まれるシクロペンタシロキサンやジメチコンは、研磨成分の本質的な研磨能力を損わずに、生成した膜の透過度や潤滑性を改善する性能を具備している化合物であり、本願発明の表面処理剤での造膜成分において、アルコキシシランと共に利用される。 これらシクロペンタシロキサンの好適な供給源として、シクロペンタシロキサン[デカメチルシクロペンタシロキサン:90重量%〜96重量%]および(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマー[架橋型メチルポリシロキサン:4重量%〜10重量%]の化学組成を有している揮発性シリコーンゲルKSG-15(商品名:信越化学工業株式会社製)が挙げられる。
【0030】
一方で、ジメチコンの好適な供給源としては、ジメチコン[メチルポリシロキサン:70重量%〜80重量%]および(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマー[架橋型メチルポリシロキサン:20重量%〜30重量%]の化学組成を有している低粘度シリコーンゲルKSG-16(商品名:信越化学工業株式会社製)が挙げられる。
【0031】
シクロペンタシロキサンの使用量は、本願発明の表面処理剤に所望の造膜性を付与する観点からすれば、KSG-15として、約2.0重量%〜約10重量%(表面処理剤の総重量に対する重量割合)相当量、つまり、表面処理剤の総重量の約1.8重量%〜約9.6重量%相当量が好適である。 そして、ジメチコンの使用量は、KSG-16として、約1.0重量%〜約5.0重量%(表面処理剤の総重量に対する重量割合)相当量、つまり、表面処理剤の総重量の約0.7重量%〜約4.0重量%相当量が好適である。
【0032】
ところで、KSG-15およびKSG-16には、(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマーが、溶質成分として含まれている。 つまり、これらKSG-15やKSG-16を本願発明の表面処理剤に利用することで、(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマーも自ずと供給されることとなるのである。 従って、(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマーの使用量は、シクロペンタシロキサンやジメチコンの供給のために用いたKSG-15やKSG-16の使用量によって自ずと規定される。 また、シクロペンタシロキサンやジメチコンの使用量が前述した範囲に止まる限りは、(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマーに起因して、本願発明の表面処理剤が奏する造膜作用が阻害されることもない。
【0033】
そして、本願発明の表面処理剤の造膜成分の使用量は、本願発明の表面処理剤に所望の造膜性を付与する観点からすれば、例えば、後述する本願実施例に従って、KR-400、KSG-15およびKSG-16などのシリコーン組成物を用いた場合では、約5重量%〜約25重量%(表面処理剤の総重量に対する重量割合)、好ましくは、約5重量%〜約15重量%、最も好ましくは、約10重量%〜約15重量%の範囲で調整する。 これはすなわち、一般的に、造膜成分の量が、表面処理剤の総重量の約5重量%にも満たない場合には、所要の造膜性が獲得できず、逆に、造膜成分の量が、表面処理剤の総重量の約25重量%を超えてしまい過剰となると、粘度が過大になって、均一な塗膜が得られのみならず、塗膜が車体表面から剥離するとの不都合を回避するための措置に他ならない。
【0034】
洗浄成分
本願発明の表面処理剤での洗浄成分に含有される分散剤は、シクロヘキサンとパラフィンの双方を必須的に含む。 これはすなわち、シクロヘキサンが本質的に保有している、光化学反応性の低さや、酸やアルカリに対する安定性のみならず、シクロヘキサンが奏する乾燥速度調整機能や、油分の滲み抑制作用が、本願発明の表面処理剤において研磨効果を好適に補助することによる。 一方で、パラフィン、特に、無臭パラフィンは、酸やアルカリに対して安定であるのみならず、優れた浄化作用を呈するので、本願発明の表面処理剤において洗浄効果を補助するので好ましい。
【0035】
また、本願発明の表面処理剤での洗浄成分に含有される分散剤は、本願発明の表面処理剤での構成要素である水系溶媒をも含有している。 このような水系溶媒として、まず、精製水、脱イオン水、蒸留水、水道水などの水が挙げられる。 これ以外にも、アルコール類(エタノール、プロピレン、エチルセロソルブ(2-エトキシエタノール))、グリコール類(エチレングリコールやプロピレングリコールなど)や、ケトン類(メチルエチルケトン、メチルエチルブチルケトンなど)などの有機溶媒も、水系溶媒に組み入れることができる。 あるいは、前述した水と有機溶媒の双方を含む混液を、水系溶媒として用いることもできる。
【0036】
なお、本願発明の表面処理剤の洗浄成分での分散剤の使用量は、所望の分散効果を得る観点からすれば、約45重量%〜約85重量%(表面処理剤の総重量に対する重量割合)、好ましくは、約55重量%〜約75重量%の範囲で調整する。 また、水系溶媒の使用量は、通常は、約10重量%〜約30重量%(洗浄成分の総重量に対する重量割合)の範囲で調整する。 特に、シクロヘキサンに関して言えば、後出の実施例からも明らかなように、表面処理剤の伸展性を考慮すると、本願発明の表面処理剤でのシクロヘキサンの使用量は、多くとも約25重量%に止めておくことが賢明である。
【0037】
本願発明の表面処理剤での洗浄成分には、分散剤以外に、所望の分散性を獲得する目的で、乳化剤や増粘剤をさらに組み込むことができる。
【0038】
乳化剤としては、所定の乳化効果を呈する当該技術分野で周知の乳化剤であれば、いずれでも使用可能である。 例えば、陰イオン性界面活性剤や非イオン性界面活性剤などが利用可能である。 このような界面活性剤として、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリソルベート、モノステアリン酸グリセリン、ラウリル流酸ナトリウム、ラウロマクロゴール、非イオン性ヤシ油脂肪酸、トリエタノールアミンなどが本願発明において利用可能であるが、これらに限定されるものではなく、これらのいずれか1種類のみを用いることも、あるいは2種類以上を併用することもできる。 なお、乳化剤の使用量は、所望の乳化効果を獲得する観点からすれば、約5重量%〜約15重量%(表面処理剤の総重量に対する重量割合)の範囲で調整する。
【0039】
そして、増粘剤としては、セルロース系増粘剤または水溶性合成高分子系増粘剤のいずれでも利用可能である。 例えば、デンプン類、メチルセルロース、結晶セルロース、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロースナトリウムなど)、アルギン酸、アルギン酸塩、炭酸塩、有機酸、ポリビニルピロリドン、架橋ポリビニルピロリドンなどが本願発明において利用可能であるが、これらに限定されるものではなく、これらのいずれか1種類のみを用いることも、あるいは2種類以上を併用することもできる。 なお、増粘剤の量は、所望の粘度を得る観点からすれば、約2重量%〜約5重量%(表面処理剤の総重量に対する重量割合)の範囲、好ましくは、約3重量%〜約4重量%に調整するが、それらの取り扱いを容易ならしめる目的で、これら所要量の増粘剤を、任意の割合、例えば、通常は水で約2培〜約5倍に希釈したものを利用することも可能である。
【0040】
特に、本願発明の表面処理剤での所望の洗浄性を十分に引き出す観点からすれば、好ましくは、分散剤、乳化剤および増粘剤の三者を組み合わせて使用する。 この場合の洗浄成分の使用量としては、約60重量%〜約80重量%(表面処理剤の総重量に対する重量割合)の範囲で調整する。
【0041】
本願発明の表面処理剤での構成要素の組成は、前述した一連の添加量の範囲内でその比率を変更することができる。 例えば、研磨能力に重点を置く場合には、研磨剤の含有量を多くし、また、表面光沢を高める場合には、その粒径が均一かつ微細な球状粒子から構成される硬質研磨剤を利用する。 また、塗膜の厚み(膜厚)を大きくする場合には、シリコーン組成物の量を増やすなどの加減を行う。 なお、このような加減を行う場合において、各成分の使用量が、前述した一連の添加量の範囲から逸脱しないように配慮することが肝要である。
【0042】
本願発明の表面処理剤の製造に際しては、まず、本願発明の表面処理剤の研磨成分、造膜成分および洗浄成分を個別に混合攪拌する。 この攪拌は、高粘度の材料の攪拌に適した高速攪拌機などで、均質になるまで続ける。 得られた混合物を、一昼夜(約24時間)放置して、冷却する。 その後、得られた三つの混合物のすべてを、ミキサー、例えば、回転速度調節機能付きホモミキサーの攪拌槽に一緒に投入して、攪拌物の温度上昇に注意しながら、低速回転で、約6時間程度かけて混合撹拌する。 なお、均質な混合物を取得する観点からすれば、この混合に際しては、溶液の粘性状態を注意深く確認しながら、所要の原材料を緩慢に加えていくことが肝要である。 こうすることで、本願発明の表面処理剤が、均一かつ粘稠な混合物として得られる。
【実施例】
【0043】
本願発明を、その好適な実施例に基づいて、以下に具体的に説明するが、本願発明は、これら実施例の開示に基づいて限定的に解釈されるべきでない。
【0044】
A.アクリル系塗膜用表面処理剤
以下の表1の実施例1〜4に記載の組成に従って、アクリル系塗膜に適用する表面処理剤を調製した。 すなわち、本願発明の表面処理剤での研磨成分、造膜成分および洗浄成分の三成分に関して、各成分ごとに個別に、以下の表1に記載の分量の各材料を、高速攪拌機の攪拌槽に投入して、そこで混合撹拌を行った。 そして、約24時間放置して、自然冷却した後に、得られた三つの混合物のすべてを、ホモミキサーの攪拌槽に一緒に投入して、温度の上昇を招かないように、低速回転で、約6時間かけて混合撹拌した。 これにより、アクリル系塗膜用表面処理剤が、均一かつ粘稠な混合物として得られた。 その一方で、実施例1〜4の表面処理剤の構成要素の一部を欠失または変更してなる比較例1〜7の表面処理剤も、実施例1〜4の表面処理剤の調製方法と同様の手順に従って調製した。
【0045】
なお、表1に記載の各材料の使用量は、表面処理剤の総重量に占める割合(重量%)で表示してある。
【0046】
表1の実施例1〜4および比較例1〜7に記載の組成に従って調製した表面処理剤を、車体表面に塗設されたアクリル系塗膜に適用して、各表面処理剤の性能を評価した。
【0047】
その評価結果も、表1に併記した。
【0048】
【表1】

B.ウレタン系塗膜用表面処理剤
アクリル系塗膜用表面処理剤の調製方法と同様の手順に従って、以下の表2の実施例5〜8に記載の組成に従って、ウレタン系塗膜に適用する表面処理剤を調製した。 その一方で、実施例5〜8の表面処理剤の構成要素の一部を欠失または変更してなる比較例8〜14の表面処理剤も、実施例5〜8の表面処理剤の調製方法と同様の手順に従って調製した。
【0049】
なお、表2に記載の各材料の使用量は、表面処理剤の総重量に占める割合(重量%)で表示してある。
【0050】
表2の実施例5〜8および比較例8〜14に記載の組成に従って調製した表面処理剤を、車体表面に塗設されたウレタン系塗膜に適用して、各表面処理剤の性能を評価した。
【0051】
その評価結果も、表2に併記した。
【0052】
【表2】

表1および表2に記載の結果から明らかな通り、本願実施例のいずれの表面処理剤も、一液型の表面処理剤であるにもかかわらず、表面処理剤、特に、車体の表面処理剤に要求されていた所望の性能を明確に発揮しており、本願発明の所期の目的を果たしていたことが確認された。
【0053】
まとめ
本願実施例での表面処理剤の構成成分とそれらが奏する性能との関係に着目して、本願実施例で得られた試験結果を、次のように総括する。
【0054】
まず、本願発明の表面処理剤で用いられている研磨成分は、適用対象である塗膜を構成する主成分の実体に応じて、その組成を変更することが重要である。 これはすなわち、例えば、ウレタン系塗膜を適用対象とする場合には、実施例5〜8に記載の酸化セリウムだけから構成された研磨成分で以てして、所望の表面処理性能が確保できるのにに対して、アクリル系塗膜を適用対象とする場合には、比較例6に記載の酸化セリウムを唯一の構成成分とする研磨成分では、相応の研磨能力は獲得できるものの、表面光沢や作業適性などの性状が低下してしまい、また、実施例1〜4での評価結果をも参照すると、アルミナの補充が必須であることがうかがえる。
【0055】
また、研磨成分に用いられる酸化セリウムの粒径も、表面処理性能に関与する重要な要素である。 例えば、比較例13に示したウレタン系塗膜用表面処理剤では、粒径が約2μmの酸化セリウムを除外して、粒径が約4μmの酸化セリウムだけを利用したことで、研磨能力と表面光沢の評価が「良好」評価に止まっている。 逆に、粒径が約4μmの酸化セリウムが除外されて、粒径が約2μmの酸化セリウムだけを利用した実施例7に記載の表面処理剤では、研磨能力と表面光沢の双方が「優良」評価にまで改善されており、このことは、酸化セリウムの内でも、粒径が約2μmの酸化セリウムの方が研磨能力に優れて、表面光沢の改善に寄与すること、つまり、本願発明において好適に利用できることを指し示すものに他ならない。 このことは、粒径が約2μmの酸化セリウムの使用量を5重量%にまで低減した実施例5に記載の表面処理剤での研磨能力と表面光沢の評価が「良好」評価に止まっている評価結果とも符合するものである。 また、ウレタン系塗膜用表面処理剤の作業適性を改善させる観点からすれば、実施例8を参照した場合に、研磨成分の組成を、粒径が約2μmと約4μmの酸化セリウムからなる混在系の組成とすることが好ましい。
【0056】
そして、本願発明の表面処理剤で用いられている造膜成分とは、本願発明の表面処理剤が形成する塗膜の造膜性、強度および光沢に寄与する成分であると思料される。 従って、研磨成分の組成および使用量に鑑みて、良好な研磨能力と表面光沢が期待される場合であっても、造膜性に関与するアルコキシシランを欠いた表面処理剤(比較例3および10)、被膜強度に関与する揮発性シリコーンゲルを欠いた表面処理剤(比較例4および11)、それに、光沢の発現に関与する低粘度シリコーンゲルを欠いた表面処理剤(比較例5および12)では、理想的な造膜性、表面光沢および耐久性の獲得に至っていない。 換言すれば、これら造膜成分は、それらが本質的に有する前述した作用のみならず、研磨成分が奏する研磨能力と表面光沢とを相乗的に改善する作用をも呈するのである。
【0057】
次に、本願発明の表面処理剤の作業適性に影響を与える成分として、シクロヘキサンと流動パラフィンが挙げられる。 例えば、シクロヘキサンを欠いた比較例9に記載の表面処理剤では、研磨能力、造膜性および耐久性において「優良」の評価を得ながらも、表面処理剤の塗布時に「油引き現象」が認められて、作業性の低下に至った。 同様に、流動パラフィンを欠いた比較例2に記載の表面処理剤では、流動性・伸展性が極端に落ちてしまい、塗布することすらできなかった。 同様に、シクロヘキサンを過剰量(30重量%)にした比較例7および14に記載の表面処理剤でも、流動性・伸展性が極端に落ちてしまって、塗布そのものができなかった。 このことから、シクロヘキサンの使用量としては、多くとも25重量%程度、特に、20重量%以下に調整することが好ましいと思料される。
【0058】
このように、本願実施例は、表面処理剤の構成成分や研磨成分に用いる研磨剤の粒径などを特定して、研磨剤粒子の密度を通常の2〜3倍程度にまで増大するとの斬新な発想に基づくことで、表面処理剤の研磨能力、造膜性、表面光沢および耐久性の顕著な改善を図りつつ、塗膜表面を美麗に仕上げることが可能である、ことを実証するものに他ならない。
【0059】
見方を変えれば、本願実施例は、高度な熟練を要さずとも、器具/用具の選択さえ適切であれば、素人でも塗膜表面の清浄処理が簡便に実施でき、また、その一連の作業に要する手間と経費の削減という経済的効果にも寄与するとの、本願発明の作用効果を実証するものである。
【産業上の利用可能性】
【0060】
上述したように、本願発明の表面処理剤は、自動車の車体表面に塗設された塗膜の表面のみならず、車体に装着されているガラス製やゴムの部材などの表面を清浄する上で有用である。 また、本願発明の表面処理剤が奏する表面清浄能力に鑑みれば、自動車や鉄道車両などの車両のみならず、冷蔵庫、洗濯機、エアコン、テレビなどの家電製品や、家屋、ビル、橋脚などの建造物での塗装面に用いる研磨剤(研磨艶出剤)としても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の三成分、すなわち;
(A) 研磨剤からなる研磨成分、
(B) シリコーン組成物からなる造膜成分、および、
(C) 分散剤を含む洗浄成分、
の三成分を水系溶媒に分散して得た分散媒体を含む、ことを特徴とする表面処理剤。
【請求項2】
前記研磨剤が、1μm〜5μmの粒子径を有する酸化セリウムを含む請求項1に記載の表面処理剤。
【請求項3】
前記研磨剤が、1μm以下の粒子径を有するアルミナをさらに含む請求項2に記載の表面処理剤。
【請求項4】
前記シリコーン組成物が、アルコキシシラン、シクロペンタシロキサン、および、ジメチコンを含む請求項1乃至3のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項5】
前記分散剤が、シクロヘキサンおよびパラフィンを含む請求項1乃至4のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項6】
前記洗浄成分が、乳化剤および/または増粘剤をさらに含む請求項1乃至5のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項7】
前記水系溶媒が、水、有機溶媒、または、これらの混合液である請求項1乃至6のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の表面処理剤からなる、ことを特徴とする自動車塗膜用表面処理剤。

【公開番号】特開2007−277379(P2007−277379A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−104675(P2006−104675)
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【出願人】(303040356)カーファインインターナショナル株式会社 (1)
【Fターム(参考)】