説明

表面処理剤

【課題】生体蓄積性が低いといわれるC6以下のパーフルオロアルキル基を有する化合物であって、乳化性能にすぐれたペンタデカフルオロオクタン酸アンモニウムに匹敵する乳化性能を有するものを乳化剤を用いた、パーフルオロポリエーテル油またはパーフルオロカーボン化合物のエマルジョンを提供する。
【解決手段】一般式 RfO(C3F6O)p(C2F4O)q(CF2O)rRf′〔I〕(Rf、Rf′:C1〜C5のパーフルオロアルキル基、p+q+r:2〜200)、一般式 F(CF2CF2CF2O)nCF2CF3〔II〕(n:2〜100)で表わされるパーフルオロポリエーテル油またはパーフルオロカーボン化合物100重量部に対し、乳化剤として一般式 CnF2n+1CH2CH2P(O)(OM1)(OM2)(M1:水素原子、アンモニウム塩、有機アミン塩、M2:アンモニウム塩、有機アミン塩、n:1〜6)で表わされるパーフルオロアルキルエチルホスホン酸塩0.01〜30重量部を用いて形成させたエマルジョン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルジョンに関する。さらに詳しくは、パーフルオロポリエーテル油またはパーフルオロカーボン化合物のエマルジョンに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフルオロアルキルホスホン酸エステルは、離型剤の合成原料として広く用いられている。離型剤としたときの離型性能は、パーフルオロアルキル基の炭素数が8〜12である化合物において最も発現し易く、特にC8のテロマー化合物である
CF3(CF2)7CH2CH2P(O)(OC2H5)2
が、この種の用途に好んで使用されている(特許文献1〜4参照)。
【0003】
ところで、炭素数8〜12のパーフルオロアルキル基を有するテロマー化合物は、環境中で生物分解されて、生体蓄積性、環境濃縮性が比較的高い化合物に変化することが報告されており、処理工程での暴露、廃棄物、処理基材等からの環境への放出、拡散などが懸念されている。また、パーフルオロアルキル基の炭素数が14以上の化合物では、それの物理的、化学的性状からそれの取扱いが非常に困難であり、実際には殆ど使用されていない。
【0004】
さらに、炭素数8以上のパーフルオロアルキル基を有するテロマー化合物は、その製造プロセスにおいて、生体蓄積性の高いパーフルオロオクタン酸類の発生や混入が避けられない。そのため、このようなテロマー化合物の製造各社は、それの製造からの撤退や炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を有する化合物への代替などを進めている。
【0005】
しかしながら、パーフルオロアルキル基の炭素数が6以下の化合物では、処理基材表面での配向性が著しく低下し、また融点、ガラス転移点Tgなどが炭素数8の化合物に比べて著しく低いため、温度、湿度、応力、有機溶剤の接触などの使用環境条件に大きな影響を受けることとなる。そのため、求められる十分な性能が得られず、また耐久性などにも影響がみられる。
【0006】
パーフルオロアルキルアルキルホスホン酸のアンモニウム塩またはアミン塩とポリエーテル変性オルガノポリシロキサンとを水に溶解または分散させた水性離型剤組成物も提案されているが(特許文献5参照)、この場合にもパーフルオロオクチルエチルホスホン酸塩が用いられ、透明な離型剤溶液が得られるとされている。
【0007】
また、撥水撥油剤、潤滑剤等として広く用いられているパーフルオロポリエーテル油は、撥水撥油性、潤滑性などにはすぐれているが、他の化合物との相溶性に欠けるため、用途が限定される。
【0008】
パーフルオロポリエーテル油は、これに加脂剤を加えることにより、皮革処理剤としての利用も図られている(特許文献6参照)。加脂剤としては、その一般的な記載において、フルオロアルキル基、フルオロアルケニル基またはフルオロエーテル基を有するホスホン酸誘導体またはそのアンモニウム塩、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩等が用いられるとされているが、加脂剤の使用割合はフッ素系オイルに対して10〜0.5、好ましくは5〜1の重量比とされている。
【0009】
このような重量比で用いられる加脂剤とフッ素オイルとは、通常エマルジョンの形態で含んでなる皮革処理剤によって、加脂工程でなめし革処理されると述べられているが、加脂剤リッチで用いられる処理剤では、用いられる乳化剤量に比例して、エマルジョンの平均粒子径は小さくなり、また経時的な安定性も確保されるが、過剰に配合される親水性の加脂剤によって、被処理物が親水性化して、撥水性が低下したり、これを離型剤として用いたときの離型性能の低下を避けることができない(後記比較例参照)。
【0010】
本出願人は先に、パーフルオロアルキルエチルホスホン酸ジエステルを熱分解や加水分解させることにより、パーフルオロアルキルエチルホスホン酸を製造する方法を提案している(特許文献7参照)。ここで得られるパーフルオロアルキルエチルホスホン酸は、水等の水性媒体には溶解しないため、乳化剤水溶液等として使用することはできない。
【0011】
一方、パーフルオロポリエーテル油やパーフルオロカーボン化合物は、これをエマルジョン化することで表面処理剤としての利用が可能となり、撥水撥油剤、離型剤等への応用が可能となる。また、エマルジョン化することにより、医学的な用途、化粧品用途への適用も可能となる。化粧品への配合は、例えば口紅に配合することにより、口紅が他に転写されるのを防ぐ作用を呈する。
【0012】
しかるに、特許文献6に記載される如きエマルジョンにおいては、フッ素系オイルに対して大過剰量の加脂剤(パーフルオロアルキルアルキルホスホン酸のアンモニウム塩または金属塩)が配合されて用いられるため、皮革処理方法としては好適であっても、パーフルオロポリエーテル油やパーフルオロカーボン化合物のエマルジョンに適用した場合には、これらの化合物自体の特性が十分に発揮されないことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特公平2−45572号公報
【特許文献2】特公平3−78244号公報
【特許文献3】特公平4−4923号公報
【特許文献4】特公平4−11366号公報
【特許文献5】特公平8−5063号公報
【特許文献6】特許第3077231号公報
【特許文献7】特開昭58−210096号公報
【特許文献8】特開2000−72601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、生体蓄積性が低いといわれる炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を有する化合物であって、乳化性能にすぐれたペンタデカフルオロオクタン酸アンモニウムに匹敵する乳化性能を有するものを乳化剤を用いた、パーフルオロポリエーテル油またはパーフルオロカーボン化合物のエマルジョンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる本発明の目的は、 一般式
RfO(C3F6O)p(C2F4O)q(CF2O)rRf′ 〔I〕
(ここで、Rf、Rf′は炭素数1〜5のパーフルオロ低級アルキル基であり、C3F6基、C2F4O基およびCF2O基はランダムに結合しており、p+q+rは2〜200の整数で、p、qまたはrは0であり得る)または一般式
F(CF2CF2CF2O)nCF2CF3 〔II〕
(ここで、nは2〜100の整数である)で表わされるパーフルオロポリエーテル油またはパーフルオロカーボン化合物100重量部に対し、乳化剤として一般式
CnF2n+1CH2CH2P(O)(OM1)(OM2)
(ここで、M1は水素原子、アンモニウム塩または有機アミン塩であり、M2はアンモニウム塩または有機アミン塩であり、nは1〜6の整数である)で表わされるパーフルオロアルキルエチルホスホン酸塩0.01〜30重量部を用いて形成させたエマルジョンによって達成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明で用いられるパーフルオロアルキルエチルホスホン酸アンモニウム塩またはアミン塩乳化剤、特にアンモニウム塩乳化剤は、生体蓄積性が低いといわれる炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を有する化合物であって、乳化性能にすぐれたペンタデカフルオロオクタン酸アンモニウムに匹敵する乳化性能を有しており、この乳化剤の水性溶液または有機溶媒溶液とパーフルオロポリエーテル油またはパーフルオロカーボン化合物とからなるエマルジョンは、安定なエマルジョンを形成させることができる。その乳化安定性は、室温条件下または40℃で1ヶ月間放置した後においても良好に維持されている。
【0017】
パーフルオロポリエーテル油とのエマルジョンは、その良好な乳化安定性を保持したまま、表面処理剤、離型剤、化粧品等の用途に好適に用いられる。また、パーフルオロカーボン化合物は、大量に酸素を溶解して運搬できることから、パーフルオロカーボン化合物のエマルジョンは、酸素運搬媒体や臓器保存液としての有効な利用が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1(1)および参考例1で得られた乳化剤濃度と表面張力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
乳化剤として用いられるパーフルオロアルキルエチルホスホン酸塩
CnF2n+1CH2CH2P(O)(OM1)(OM2)
は、特許文献7に記載されるパーフルオロアルキルエチルホスホン酸
CnF2n+1CH2CH2P(O)(OH)2
に、アンモニア水溶液または有機アミンを反応させることにより得られる。
【0020】
有機アミンとしては、例えばジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、モルホリンまたはこれらの誘導体等が好んで用いられる。アンモニアまたは有機アミンは、パーフルオロアルキルエチルホスホン酸に対して等モル量用いられた場合にはモノ塩を形成させ、また2倍モル量用いられた場合にはジ塩を形成させる。一般には、必要理論モル数以上で用いられ、等モル量以上2倍モル量未満用いられた場合には、モノ塩とジ塩との混合物を形成させる。
【0021】
パーフルオロアルキルエチルホスホン酸塩は、水または水溶性有機溶媒水溶液である水性媒体に溶解させた水性溶液または有機溶媒に溶解させた有機溶媒溶液として用いられる。有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等の非プロトン性極性溶媒が用いられる。
【0022】
パーフルオロアルキルエチルホスホン酸塩の乳化能力は、例えば2-(パーフルオロヘキシル)エチルホスホン酸アンモニウム水溶液の場合、その臨界ミセル濃度〔CMC〕は乳化剤濃度が0.8重量%付近にみられ、乳化剤濃度が2.0重量%程度迄一定の低い表面張力が示される。
【0023】
乳化剤の水性溶液または有機溶媒溶液は、パーフルオロポリエーテル油100重量部当り、その有効成分量が約0.01〜30重量部、好ましくは約0.1〜15重量部の割合でパーフルオロポリエーテル油に添加され、乳化処理されて、パーフルオロポリエーテル油エマルジョンを形成させる。乳化剤をこれ以上の割合で用いると、パーフルオロポリエーテル油自体の特性が十分に発揮されないようになる。乳化処理は、ホモジナイザ等を用い、約500〜10,000rpmの回転数で予備乳化を行った後、さらに高圧ホモジナイザを用い、圧力約100〜800kgf/cm2(約10〜80MPa)で乳化処理されて行われる。
【0024】
エマルジョン化されるパーフルオロポリエーテル油としては、一般式
RfO(C3F6O)p(C2F4O)q(CF2O)rRf′ 〔I〕
で表わされるものが使用される。ここで、Rf、Rf′はパーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基など、炭素数1〜5のパーフルオロ低級アルキル基であり、C3F6O基、C2F4O基およびCF2O基はランダムに結合しており、p+q+r=2〜200で、p,qまたはrは0であり得る。このような一般式で表わされるパーフルオロポリエーテル油の具体例としては、以下のようなものがある。
【0025】
(1)RfO〔CF(CF3)CF2O〕mRf′
ここで、mは2〜200で、これはヘキサフルオロプロペンの光酸化重合で生成した先駆体を完全にふっ素化することにより、あるいはふっ化セシウム触媒の存在下にヘキサフルオロプロペンオキシドをアニオン重合させ、得られた末端−CF(CF3)COF基を有する酸フロリド化合物をふっ素ガス処理することにより得られる。
【0026】
(2)RfO〔CF(CF3)CF2O〕m(CF2O)nRf′
ここで、CF(CF3)CF2O基およびCF2O基はランダムに結合しており、m+n=3〜200、m:n=(10:90)〜(90:10)であり、これはヘキサフルオロプロペンの光酸化重合で生成した先駆体を完全にふっ素化することにより得られる。
【0027】
(3)RfO(CF2CF2O)m(CF2O)nRf′
ここで、m+n=3〜200であり、m:n=(10:90)〜(90:10)であり、これはテトラフルオロエチレンの光酸化重合で生成した先駆体を完全にふっ素化することにより得られる。
【0028】
前記一般式で表わされる以外のパーフルオロポリエーテル油も用いることができ、例えば次のようなパーフルオロポリエーテル油が用いられる。
(4)F(CF2CF2CF2O)nCF2CF3 〔II〕
ここでn=2〜100であり、これはふっ化セシウム触媒の存在下に2,2,3,3−テトラフルオロオキセタンをアニオン重合させ、得られた含ふっ素ポリエーテル(CH2CF2CF2O)nを160〜300℃の紫外線照射下でふっ素ガス処理することにより得られる。
【0029】
具体例として挙げた以上のパーフルオロポリエーテル油は、単独もしくは混合して用いることができるが、コストパーフォーマンスの点からは、上記(1)または(2)、特に(1)のパーフルオロポリエーテル油が好んで用いられる。パーフルオロポリエーテル(1)としては、mが2〜100の整数で、数平均分子量Mnが約300〜50000、好ましくは約500〜20000のものが用いられる。
【0030】
これらのパーフルオロポリエーテル油は、どのような値の動粘度のものでも使用できるが、潤滑剤としては5〜2000mm2/秒(40℃)、高温条件下での使用を考慮すると好ましくは100〜1500mm2/秒(40℃)のものが用いられる。すなわち、約5mm2/秒以下のものは蒸発量が多く、耐熱用グリースの規格であるJIS転がり軸受用グリース3種で規定されている蒸発量1.5%以下という条件を満たさなくなる。また、2000mm2/秒以上の動粘度のものは、流動点(JIS K-2283)が10℃以上となり、通常の方法では低温起動時に軸受が回転せず、それを使用可能とするには加熱する必要がある。
【0031】
また、パーフルオロポリエーテル油エマルジョンは、さらにその固形分濃度が約0.01〜30重量%、好ましくは約0.05〜10重量%を占める量となるように水性溶液または有機溶媒で希釈した水性溶液または有機溶媒溶液として用いることにより、良好な乳化安定性を保持したまま、撥水撥油剤、離型剤等の表面処理剤としても用いられる。離型剤として用いられる場合には、成形金型面にこれが適用され、成形品等の基質上に適用される場合には、粘着防止剤として用いられる。また、摘出臓器保存液としての利用も図られる(特許文献8参照)。
【0032】
パーフルオロアルキルエチルホスホン酸塩はまた、大量に酸素を溶解して運搬できるパーフルオロカーボン化合物は、パーフルオロアルキルエチルホスホン酸塩を含有するエマルジョンとして、酸素運搬媒体や摘出臓器保存液(特許文献8参照)としての有効な利用が図られる。
【0033】
パーフルオロカーボン化合物としては、例えばパーフルオロシクロヘキサン等のパーフルオロシクロアルカン、パーフルオロトリメチルシクロヘキサン、パーフルオロイソプロピルシクロヘキサン等のパーフルオロアルキルシクロアルカン、パーフルオロデカリン等のパーフルオロアルカン、パーフルオロメチルデカリン等のパーフルオロアルキルアルカン等が挙げられる。それのエマルジョンの形成は、パーフルオロポリエーテル油の場合と同様に行われる。
【実施例】
【0034】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0035】
実施例1
(1) 攪拌装置および滴下装置を備えた容量200mlに反応装置内に、40℃に加熱された水50gを保温しながら仕込み、そこに2-(パーフルオロヘキシル)エチルホスホン酸(ユニマテック製品CHEMINOX FHP-2-OH)5g(11.7ミリモル)を加えた後、濃度1.4重量%のアンモニア水溶液20.5g(16.9ミリモル)を加え、1時間攪拌を続けて中和反応を行った。これにより、pH8の2-(パーフルオロヘキシル)エチルホスホン酸アンモニウム塩の水溶液(有効成分濃度6.9重量%)が得られた〔乳化剤水溶液I〕。
【0036】
この乳化剤水溶液Iを水中に少量ずつ添加し、その水溶液の表面張力を測定した。図1のグラフに○印で示される如く、それの臨界ミセル濃度〔CMC〕は0.8重量%で、最低表面張力は17mN/mであった。表面張力の測定は、SITA製動的表面張力計を用い、20℃で、最大気泡法で測定した。
【0037】
なお、2-(パーフルオロヘキシル)エチルホスホン酸に、アンモニア水溶液を加えることなく1時間攪拌した場合には、添加した2-(パーフルオロヘキシル)エチルホスホン酸は水に溶解せずに分離し、水溶液は得られなかった。
【0038】
(2) 攪拌装置および滴下装置を備えた容量1,000mlの反応装置内に、40℃に加熱された水182gを保温しながら仕込み、そこに乳化剤水溶液I 218gおよび一般式
C3F7O〔CF(CF3)CF2O〕mC2F5 (m:2〜100)
で表わされるパーフルオロポリエーテル油(NOKクリューバー製品BARRIERTA J 25 FLUID;動粘度(40℃)25mm2/秒)100g(以上合計量500g)を加えた後、ホモジナイザを用いて回転数3000rpmで2分間の予備乳化を行い、さらに高圧ホモジナイザ(日本精機製)を用いて圧力600kgf/cm2(58.8MPa)で乳化処理し、パーフルオロポリエーテル油エマルジョンA(パーフルオロポリエーテル油100重量部に対して、パーフルオロアルキルエチルホスホン酸アンモニウム塩は15.0重量部)を485g(回収率97%)得た。
【0039】
得られたパーフルオロポリエーテル油エマルジョンAの平均粒子径は、151nmであった。このエマルジョンAを、室温条件下および40℃でそれぞれ1ヶ月間静置した後の平均粒子径を測定すると、それぞれ153nm、155nmという値が得られ、いずれも安定なエマルジョンが形成されていることが確認された。なお、平均粒子径の測定は、日機装製マイクロドラック粒度分布計UPA150を用い、動的光散乱法によって行われた。
【0040】
なお、水量を385gに変更し、また乳化剤水溶液Iの代りに2-(パーフルオロヘキシル)エチルホスホン酸15gを用いると、混合液は直ちに液-液分離を起こしてしまい、エマルジョンは形成されなかった。
【0041】
参考例1
実施例1(1)において、2-(パーフルオロヘキシル)エチルホスホン酸およびアンモニア水溶液の代りに、ペンタデカフルオロオクタン酸アンモニウム塩(ジエムコ製品エフトップEF204)5gを用い、それの水溶液(有効成分濃度9.1重量%)を得た〔乳化剤水溶液II〕。
【0042】
この乳化剤水溶液IIについて、同様に表面張力を測定すると、図1のグラフに■印で示される如く、それのCMCは0.8重量%で、最低表面張力は18mN/mであった。
【0043】
実施例2
実施例1(2)において、同じ一般式で表わされるパーフルオロポリエーテル油(NOKクリューバー製品BARRIERTA J 100 FLUID;動粘度(40℃)95mm2/秒)が同量(100g)用いられ(合計量500g)、パーフルオロポリエーテル油エマルジョンBを486g(回収率97%)得た。このエマルジョンBの平均粒子径は131nm、室温1ヶ月経過後の平均粒子径は136nm、40℃1ヶ月経過後の平均粒子径は140nmであり、安定なエマルジョンが形成されていることが確認された。
【0044】
実施例3
実施例1(2)において、同じ一般式で表わされるパーフルオロポリエーテル油(NOKクリューバー製品BARRIERTA J 400 FLUID;動粘度(40℃)390mm2/秒)が同量(100g)用いられ(合計量500g)、パーフルオロポリエーテル油エマルジョンCを485g(回収率97%)得た。このエマルジョンCの平均粒子径は145nm、室温1ヶ月経過後の平均粒子径は146nm、40℃1ヶ月経過後の平均粒子径は150nmであり、比較的安定なエマルジョンが形成されていることが確認された。
【0045】
実施例4
実施例1(2)において、パーフルオロポリエーテル油の代りに、パーフルオロデカリンが同量(100g)用いられ、パーフルオロデカリンエマルジョンDを484g(回収率97%)得た。このエマルジョンDの平均粒子径は189nm、室温1ヶ月経過後の平均粒子径は190nm、40℃1ヶ月経過後の平均粒子径は200nmであり、安定なエマルジョンが形成されていることが確認された。
【0046】
参考例2
実施例2において、乳化剤水溶液Iの代りに乳化剤水溶液IIが165g用いられ、また水量を235gに変更して用いられ(合計量500g)、パーフルオロポリエーテル油エマルジョンEを482g(回収率96%)得た。このエマルジョンEの平均粒子径は140nm、室温1ヶ月経過後の平均粒子径は143nm、40℃1ヶ月経過後の平均粒子径は145nmであり、安定なエマルジョンが形成された。
【0047】
参考例3
実施例4において、乳化剤水溶液Iの代りに乳化剤水溶液IIが165g用いられ、また水量を235gに変更して用いられ(合計量500g)、パーフルオロデカリンエマルジョンFを483g(回収率96%)得た。このエマルジョンFの平均粒子径は185nm、室温1ヶ月経過後の平均粒子径は182nm、40℃1ヶ月経過後の平均粒子径は196nmであり、比較的安定なエマルジョンが形成された。
【0048】
実施例5
(1) 実施例1(1)において、濃度1.4重量%のアンモニア水溶液20.5g(16.9ミリモル)の代りに、トリエチルアミン1.71g(16.9ミリモル)を用い、2-(パーフルオロヘキシル)エチルホスホン酸トリエチルアミン塩の水溶液(有効成分濃度8.9重量%)を得た〔乳化剤水溶液III〕。
【0049】
この乳化剤水溶液IIIの臨界ミセル濃度〔CMC〕および最低表面張力を同様にして測定すると、それぞれ1.2重量%および27.7mN/mという値が得られた。
【0050】
(2) 実施例1(2)において、40℃に加熱された水量を231gに、乳化剤水溶液III量を169gに、パーフルオロポリエーテル油(BARRIERTA J 100 FLUID)量を100gに、それぞれ種類および量を変更し(合計量500g)、パーフルオロポリエーテル油エマルジョンGを483g(回収率97%)得た。
【0051】
得られたパーフルオロポリエーテル油エマルジョンGの平均粒子径は405nmであった。また、このエマルジョンGを、室温条件下および40℃でそれぞれ1ヶ月間静置すると、いずれも沈殿が生成し、分離していることが確認された。
【0052】
実施例6
イオン交換水97.5重量部に、攪拌しながらパーフルオロポリエーテル油エマルジョンA 2.5重量部を添加して希釈し、離型剤乳液を調製した。
【0053】
この離型剤乳液を用いてのウレタンゴム成形時の離型試験を、次のように実施した。直径45mm、深さ50mmのアルミニウム製カップを成形型とし、この型を80℃に加熱した後離型剤を塗布して、80℃で乾燥させた。この離型剤塗布型内に、80℃に加熱したウレタンプレポリマー(日本ポリウレタン製品コロネート4090)100重量部と120℃に加熱させたメチレンビス(o-クロロアニリン)硬化剤(イハラケミカル製品イハラキュアミンMT)12.8重量部との混合物10gを注入し、120℃で1時間加熱硬化させた。
【0054】
硬化前に、注入部中央に硬化成形品取出し用のフックが設置させており、硬化後にそのフックを引っ張って成形品を型から取出す際の荷重を上方に位置するバネ秤で求めると、8Nという値(離型性能)が得られた。また離型剤を最初1回塗布した後、50N以下の離型荷重で何回迄離型できるかの回数を測定すると、9回という値(離型寿命)が得られた。
【0055】
一方、この離型剤乳液を塗布しないで、離型性能および離型寿命の測定を行ったが、成形品が金型から剥がれず、測定不能であり、したがって離型寿命は0回という結果であった。
【0056】
比較例
(1) 実施例1(1)において、2-(パーフルオロヘキシル)エチルホスホン酸量を10g(23.4ミリモル)に、また濃度1.4重量%のアンモニア水溶液量を40g(32.9ミリモル)にそれぞれ変更し、それの水溶液(有効成分濃度10.0重量%)を得た〔乳化剤水溶液IV〕。
【0057】
(2) 実施例1(2)において、乳化剤水溶液IV 250g、パーフルオロポリエーテル油(BARRIERTA J 100 FLUID)5gおよび水245g(以上合計500g)が用いられ、パーフルオロポリエーテル油エマルジョンHを486g(回収率97%)得た。このエマルジョンHの平均粒子径は61nm、室温1ヶ月経過後の平均粒子径は65nm、40℃1ヶ月経過後の平均粒子径は66nmであり、比較的安定なエマルジョンが形成されていることが確認された。
【0058】
(3) 実施例6において、パーフルオロポリエーテル油エマルジョンAの代りに、同量(2.5重量部)のパーフルオロポリエーテル油エマルジョンHを用いて離型剤乳液を調製し、それを用いてウレタンゴム成形時の離型試験を行うと、離型性能20N、離型寿命2回という測定結果であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
RfO(C3F6O)p(C2F4O)q(CF2O)rRf′ 〔I〕
(ここで、Rf、Rf′は炭素数1〜5のパーフルオロ低級アルキル基であり、C3F6基、C2F4O基およびCF2O基はランダムに結合しており、p+q+rは2〜200の整数で、p、qまたはrは0であり得る)または一般式
F(CF2CF2CF2O)nCF2CF3 〔II〕
(ここで、nは2〜100の整数である)で表わされるパーフルオロポリエーテル油またはパーフルオロカーボン化合物100重量部に対し、乳化剤として一般式
CnF2n+1CH2CH2P(O)(OM1)(OM2)
(ここで、M1は水素原子、アンモニウム塩または有機アミン塩であり、M2はアンモニウム塩または有機アミン塩であり、nは1〜6の整数である)で表わされるパーフルオロアルキルエチルホスホン酸塩0.01〜30重量部を用いて形成させたエマルジョン。
【請求項2】
一般式
RfO〔CF(CF3)CF2O〕mRf′
(ここで、mは2〜200の整数である)で表わされるパーフルオロポリエーテル油〔I〕が用いられた請求項1記載のエマルジョン。
【請求項3】
乳化剤としてパーフルオロアルキルエチルホスホン酸のアンモニウム塩が用いられた請求項1記載のエマルジョン。
【請求項4】
乳化剤が水性溶液または有機溶媒溶液として用いられた請求項1または3記載のエマルジョン。
【請求項5】
請求項1、2、3または4記載のパーフルオロポリエーテル油エマルジョンを水性媒体または有機溶媒でさらに希釈した水性溶液または有機溶媒溶液よりなる表面処理剤。
【請求項6】
撥水撥油剤または離型剤として用いられる請求項5記載の表面処理剤。
【請求項7】
請求項1、3または4記載のパーフルオロカーボン化合物エマルジョンを水性媒体または有機溶媒でさらに希釈した水性溶液または有機溶媒溶液よりなる酸素運搬媒体または摘出臓器保存液。

【図1】
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【公開番号】特開2011−63708(P2011−63708A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215238(P2009−215238)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(502145313)ユニマテック株式会社 (169)
【Fターム(参考)】