説明

表面処理剤

【課題】各種基材、特に電子部品に撥水性、撥油性および撥IPA性を付与するとともに、耐熱性の高い表面処理剤の提供。
【解決手段】式(a)で表される(メタ)アクリレートから導かれる構成単位(A)と、N−置換マレイミドから導かれる構成単位(B)とを含有する重合体を溶媒中に含む表面処理剤。
CH2-=C(R1)-COO-(CH2n1-R (a)
:0〜4の整数、R:炭素数1〜6のポリフルオロアルキル基またはポリフルオロエーテル基。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種基材に撥水性、撥油性および撥IPA性を付与するとともに、耐熱性の高い表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フッ素系の表面処理剤として、炭素鎖長が8以上の直鎖状または末端分岐のパーフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルの重合物が使用されてきた。これは、側鎖の(CFF基の持つ結晶性が、高い撥水性能、撥油性能およびフラックス等の溶媒として用いられる2−プロパノール(IPAとも記す。)をはじく性能である撥IPA性能を示すためである。
【0003】
米国環境保護庁(USEPA)が、野生動物や人の血液を含め、種々の環境から検出されるパーフロオロオクタン酸(PFOA)の安全性に関する予備リスク調査報告書を2003年3月に公開した。報告書では、PFOA発生の恐れのあるパーフルオロアルキル基の炭素数が8であるものについて、生体および環境への影響が指摘された。そして、2006年1月には、PFOAおよびその類縁物質ならびにこれらの前駆体物質の環境中への排出削減と製品中の含有量削減計画への参加をフッ素樹脂メーカー等に提唱している。
【0004】
このような状況において、PFOAの発生の恐れを減らすために、パーフルオロアルキル基の炭素数を6以下に短くしたもの、具体的には、前記式中の(CFFを、(CFFまたは(CFFなどに置換した化合物を代替品として用いることが考えられる。しかし、炭素数が8の直鎖状のパーフルオロアルキル基を、そのまま6以下にしただけの場合は、重合体中のパーフルオロアルキル基に起因する撥水性、撥油性などの性能が低下する。
【0005】
近年、表面処理剤には、耐熱性能の向上が求められてきている。特に、電子部品では、共晶はんだから鉛フリーはんだへの移行によりはんだ溶融温度が約30℃上昇したこと、また、フローからリフローへのはんだ付け方式の移行により局所的から部品全体での耐熱性が求められることから、このような電子部品に使用される表面処理剤にもより高い耐熱性が要求されるようになっている。
【0006】
また、電子部品に使用される表面処理剤には、撥水性能も要求されるようにになってきている。例えば、防水加工を施した電気製品の製造を簡便化するため、部品個々に防水性能、つまり高い撥水性を要求するようにもなってきていることが挙げられる。
【0007】
また、機械の摺動部では、摩擦抵抗を低減させるために使用される鉱油を含む潤滑オイルが摺動部から周辺部への滲み出すのを防止する目的で、摺動部品またはその近接部品に表面処理剤が使用される。部品の小型化に伴い、摺動部及び周辺環境からの発生する熱を充分に冷却することができないため、これら摺動部品またはその近接部品に施す表面処理剤にも耐熱性が要求されている。特に自動車部品等の高熱源の周りで使用される表面処理剤に関しては、非常に高い耐熱性が要求されている。
【0008】
フッ素系重合体の耐熱性を向上させるものとして、フッ素系重合体中にイミド化合物単位を導入させる方法が提案されている(特許文献1)。ここでは、該フッ素系重合体を熱可塑性樹脂用の撥水撥油剤として使用するが、成形後にフッ素処理を施す方法では撥水撥油機能の持続性が弱いとして、該フッ素系重合体を溶融成形前の熱可塑性樹脂に添加し、成形材料の一部として熱可塑性樹脂とともに混練している。このようなフッ素系重合体の混練による使用を開示する該文献には、該フッ素系重合体の実施例として、含フッ素化合物単位の1.5倍量(質量単位)という多量のイミド化合物単位を含ませて耐熱性を向上させることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2007/86341号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、電子部品および機械部品に塗布して使用される表面処理剤に求められる撥液性能(撥水性、撥油性および撥IPA性)とともに優れた耐熱性を有する表面処理剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下記式(a)で表される不飽和化合物から導かれる構成単位(A)と、下記式(b)で表される化合物から導かれる構成単位(B)とを含有する重合体を溶媒中に含む表面処理剤である。
CH2=C(R1)-COO-(CH2n1-R (a)
式(a)中の記号は以下の意味を示す。
1:水素原子またはメチル基。
:0〜4の整数。
:炭素数1〜6のポリフルオロアルキル基またはポリフルオロエーテル基。
【化1】


式(b)中のRは、フェニル基、シクロヘキシル基または炭素数1〜10のアルキル基であり、基中の1つ以上の水素原子はハロゲン原子または炭素数1〜10のアルキル基で置換されていてもよい。
【0012】
前記式(b)のRは、フェニル基であることが好ましい。
【0013】
前記重合体中の構成単位(A)の含有量は、50質量%以上であることが好ましい。
【0014】
前記重合体中の構成単位(B)の含有量は、1〜30質量%であることが好ましく、5〜30質量%であることがより好ましい。
【0015】
前記重合体は、さらに、下記式(c)で表される化合物から導かれる構成単位(C)を含有することが好ましい。
CH2=C(R)−Q−Y (c)
式(c)中の記号は以下の意味を示す。
R:水素原子またはメチル基。
Q:単結合または2価の連結基。
Y:1価の官能基。
【0016】
前記式(c)におけるYは、水酸基、リン酸基、スルホ基、カルボキシ基またはアルコキシシリル基であることが好ましい。
【0017】
前記重合体中の構成単位(C)の含有量は、10質量%以下であることが好ましい。
【0018】
前記溶媒は、フッ素系溶媒を含有していることが好ましい。
【0019】
本発明の表面処理剤は、はんだ用フラックス這い上がり防止剤、潤滑オイルの染み出し防止剤、防水・防湿コーティング剤および電子部品用樹脂付着防止剤として使用することが出来る。
【0020】
また、本発明は、本発明の表面処理剤で被覆された基材を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の表面処理剤は、高い撥液性とともに耐熱性を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、まず本発明の表面処理剤に含まれる重合体(以下、「本発明の重合体」ともいう。)を説明する。本発明の重合体が含有する構成単位(A)は、式(a)で表される不飽和化合物(以下、化合物(a)とも記す。)から導かれる。該構成単位(A)は、化合物(a)の一種から導かれるものでも、二種以上から導かれるものであってもよい。
CH2=C(R1)-COO-(CH2n1-R (a)
【0023】
式(a)において、R1は水素原子またはメチル基であり、すなわち、化合物(a)は(メタ)アクリレートである。なお、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルの両方またはどちらか一方を表す。
1は水素原子またはメチル基のどちらでも構わないが、本発明の重合体に、n−ヘキサデカンやIPAに対する高い撥性を持たせたい場合は、水素原子の方が好ましい。
【0024】
式(a)において、Rfは、炭素数1〜6のポリフルオロアルキル基またはポリフルオロエーテル基である。ポリフルオロアルキル基とは、アルキル基の水素原子の2個ないし全部がフッ素原子に置換された部分フルオロ置換またはパーフルオロ置換アルキル基を意味する。ポリフルオロアルキル基は、直鎖構造または分岐構造のいずれであってもよい。また、ポリフルオロエーテル基とは、上記ポリフルオロアルキル基中の1箇所以上の炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された基を意味する。
【0025】
fは直鎖構造または分岐構造のいずれであってもよいが、Rf基のパッキングを上げる観点からRf基は直鎖構造が好ましい。また、Rf基としては、撥液性に優れるという観点から、ポリフルオロアルキル基が好ましい。さらに、R基は、実質的に全フッ素置換されたパーフルオロアルキル基が好ましく、直鎖のパーフルオロアルキル基であることがより好ましい。
【0026】
式(a)において、nは0〜4の整数である。nとしては1または2が好ましい。
【0027】
化合物(a)は下記化合物(a1)であることが好ましい。
CH2=C(R1)−COO−(CH2n1−(CF2n2F (a1)
式(a1)中、n2は1〜6の整数であり、他の記号は前記と同じ意味を示す。
式(a1)において、n1は0〜3であることが好ましく、1または2であることがより好ましい。また、n2は4〜6であることが好ましく、6であることがより好ましい。
このような化合物(a1)としては、具体的に、
CH2=CH−COO−(CH22−(CF26
CH2=C(CH3)−COO−(CH22−(CF26
CH2=CH−COO−(CH22−(CF24
CH2=C(CH3)−COO−(CH22−(CF24
などが挙げられる。
【0028】
本発明の重合体が含有する構成単位(B)は、式(b)で表される不飽和化合物(以下、化合物(b)とも記す。)から導かれる。該構成単位(B)は、化合物(b)の一種から導かれるものでも、二種以上から導かれるものであってもよい。
【化2】


式(b)において、Rは、フェニル基、シクロヘキシル基または炭素数1〜10のアルキル基であり、基中の1つ以上の水素原子はハロゲン原子または炭素数1〜10のアルキル基で置換されていてもよい。
化合物(b)としては、具体的に、N−フェニルマレイミド、N−クロロフェニルマレイミド、N−オルト−メチルフェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−メチルマレイミドなどが挙げられる。
としては、表面処理剤が形成する被膜の耐熱性がより向上するとともに、表面処理剤中の本発明の重合体の濃度を低くした場合でも撥液性能が良好であることから、フェニル基であることが好ましく、特に置換されていないフェニル基であることが好ましい。
【0029】
本発明の重合体において、構成単位(A)の含有量は、通常、50質量%以上である。中でも、70質量%以上が好ましく、80質量%以上が特に好ましい。構成単位(A)の含有量が前記範囲であると、撥液性能が良好である。
【0030】
構成単位(B)の含有量は、通常、50質量%以下である。中でも、1〜30質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましく、10〜20質量%が特に好ましい。構成単位(B)の含有量が前記範囲であると、撥液性能が良好であり、フッ素系溶媒への溶解性も向上する。また、耐熱性能も良好である。
また、構成単位(A)と(B)の質量比(A)/(B)は、50/50〜99/1の範囲であることが好ましく、70/30〜90/5がより好ましく、80/20〜90/10が特に好ましい。前記範囲であると、フッ素系溶媒への溶解性が向上する。
【0031】
なお、本発明において、重合体における各構成単位の含有量は、重合に使用した原料がすべて構成単位を構成するとみなして求められる。したがって、たとえば構成単位(A)の含有量が質量比率(全構成単位質量に対する、そこに含まれる構成単位(A)の質量の百分率)で示される場合には、実質的に、重合に使用した化合物(a)質量の、重合原料化合物の全質量に対する割合として求められる。重合体における他の構成単位の質量比率も同様に求められる。なお、構成単位(A)の含有量とは、複数種の構成単位(A)が存在する場合は、構成単位(A)としての合計量である。構成単位(B)など他の構成単位についても同様である。
【0032】
本発明の重合体は、さらに下記式(c)で表される化合物(以下、化合物(c)とも記す。)から導かれる構成単位(C)を含有することが好ましい。
CH2=C(R)−Q−Y (c)
式(c)中、R:水素原子またはメチル基である。
Yは、1価の官能基であれば適宜選択可能である。具体的には、水酸基(−OH)、リン酸基(−P(O)(OAk)2)、スルホ基(−SO3H)、カルボキシ基(−COOH)またはアルコキシシリル基(−Si(OAk)3)が挙げられる(ここでのAkは水素原子または炭素数1〜3の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である。)。なお、スルホ基、カルボキシ基およびリン酸基は、塩の形になっていても構わない。中でも、基材への密着性を向上させることから、水酸基、スルホ基、リン酸基、カルボキシ基またはアルコキシシリル基が好ましい。特に、スルホ基、リン酸基、カルボキシ基は、塩ではない方が好ましい。
【0033】
Qは、単結合または2価の連結基である。Qは単結合または2価の連結基であれば適宜選択可能である。
2価の連結基としては、炭素数が1〜10の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基もしくは炭素数が2〜10のアルケニレン基、オキシアルキレン基、6員環芳香族基、4〜6員環の飽和もしくは不飽和の脂肪族基、5〜6員環の複素環基または式−Z−X−、−X−Z−X−、−Z−X−X−、−Z−X−Z−X−で表される2価の連結基が挙げられ、これら2価の連結基は組み合わされていても良く、複数の環基は縮合していても良い。
上記における記号X、X、Z、Zは以下の意味を示す。
、X:それぞれ独立して、炭素数が1〜10の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基、オキシアルキレン基、6員環芳香族基、4〜6員環の飽和もしくは不飽和の脂肪族基、5〜6員環の複素環基またはこれらの縮合した環基。
、Z:それぞれ独立して、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−COS−、−N(R)−、−CON(R)−、−SO−、−PO(OR)−、−N(R)−COO−、−N(R)−CO−、−N(R)−SO−または−N(R)−PO(OR)−。ただし、これら基の向きは逆向きでも構わない。ここでのRは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基である。
【0034】
上記連結基は、置換基を有していてもよく、置換基の例としては、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、水酸基、シアノ基、アルコキシ基(メトキシ、エトキシ、ブトキシ、オクチルオキシ、メトキシエトキシなど)、アリールオキシ基(フェノキシなど)、アルキルチオ基(メチルチオ、エチルチオなど)、アシル基(アセチル、プロピオニル、ベンゾイルなど)、スルホニル基(メタンスルホニル、ベンゼンスルホニルなど)、アシルオキシ基(アセトキシ、ベンゾイルオキシなど)、スルホニルオキシ基(メタンスルホニルオキシ、トルエンスルホニルオキシなど)、ホスホニル基(ジエチルホスホニルなど)、アミド基(アセチルアミノ、ベンゾイルアミノなど)、カルバモイル基(N,N−ジメチルカルバモイル、N−フェニルカルバモイルなど)、アルキル基(メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、ブチルなど)、アリール基(フェニル、トルイルなど)、複素環基(ピリジル、イミダゾリル、フラニルなど)、アルケニル基(ビニル、1−プロペニルなど)、アルコキシアシルオキシ基(アセチルオキシなど)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル、エトキシカルボニルなど)および重合性基(ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、シリル基、桂皮酸残基など)などが挙げられる。
【0035】
化合物(c)は、式(c)中のYが水酸基である場合、下記式(c1)で表される化合物であるのが好ましい。
CH=C(R)−Q−OH (c1)
式(c1)中、Rは前記と同じ意味を示す。Qは、上記式−Z−X−または−Z−X−X−で表される2価の連結基であり、これらの基は置換基を有していてもよい。上記式−Z−X−のうちでも好ましくは、
:−COO−または−CON(R)−(Rは上記と同じ)であり、
:炭素数が1〜10の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基である。
上記式−Z−X−X−のうちでも好ましくは、
:−COO−または−CON(R)−(Rは上記と同じ)であり、
:−(CO)−または−(CO)−(ここで、nは1〜30の整数である)であり、
:炭素数が1〜10の直鎖状または分岐状のアルキレン基である。
【0036】
化合物(c)は、上記Yがカルボキシ基である場合、下記式(c2)で表される化合物であるのが好ましい。
CH=C(R)−Q−COOH (c2)
式(c2)中、Rは前記と同じ意味を示す。Qは単結合、炭素数が1〜10の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基、フェニレン基、シクロヘキシレン基、−(CO)−、−(CO)−または上記式−Z−X−もしくは−Z−X−Z−X−で表される2価の連結基である(ここで、nは1〜30の整数である)。これらの基は置換基を有していてもよい。上記式−Z−X−または−Z−X−Z−X−のうちでも、好ましくは、
、Z:それぞれ独立して、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−N(R)−、−CON(R)−、−N(R)−COO−、−N(R)−CO−であり(Rは上記と同じ)、
、X:それぞれ独立して、炭素数が1〜10の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基、フェニレン基、シクロヘキシレン基、−(CO)−または−(CO)−である。
【0037】
式(c2)において、Qとしては、単結合、炭素数が1〜10の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基、フェニレン基、シクロヘキシレン基、上記式−Z−X−もしくは−Z−X−Z−X−で表される2価の連結基が好ましい。
上記式−Z−X−のうちでも好ましくは、
:−COO−または−CON(R)−(Rは上記と同じ)であり、
:炭素数が1〜10の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基、フェニレン基、シクロヘキシレン基、−(CO)−、−(CO)−である。
上記式−Z−X−Z−X−のうちでも好ましくは、
:−COO−または−CON(R)−(Rは上記と同じ)であり、
:−(CO)−または−(CO)−(ここで、nは1〜30の整数である)であり、
:−CO−であり、
:炭素数が1〜10の直鎖状または分岐状のアルキレン基、フェニレン基、シクロヘキシレン基である。
【0038】
化合物(c)は、上記Yがアルコキシシリル基である場合、下記式(c3)で表される化合物であるのが好ましい。
CH=C(R)−Q−Si(OAk) (c3)
式(c3)中、RおよびQは前記と同じ意味を示す。なお、式(c3)において、Qとしては、単結合または上記式−Z−X−で表される2価の連結基が好ましい。式−Z−X−のうちでも、Zが−COO−であり、Xが炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基である化合物がより好ましい。
【0039】
化合物(c)は、上記Yがスルホ基である場合、下記式(c4)で表される化合物であるのが好ましい。
CH=C(R)−Q−SOH (c4)
式(c4)中、R、Qは前記と同じ意味を示し、好ましい態様は式(c2)と同じである。
【0040】
化合物(c)は、上記Yがリン酸基である場合、下記式(c5)で表される化合物であるのが好ましい。
CH=C(R)−Q−P(O)(OAk) (c5)
式(c5)中、R、Ak及びQは前記と同じ意味を示し、好ましい態様は式(c2)と同じである。
【0041】
化合物(c)の具体例を表1〜6に示すが、これに限定されるものではない。
なお、表1および表2において、mおよびnは、それぞれ独立に、1〜10の整数を表す。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
【表5】

【0047】
本発明の重合体に含まれる構成単位(C)は、上記化合物(c)の一種から導かれるものでも、二種以上から導かれるものであってもよい。
本発明の重合体において、構成単位(C)の含有量は、10質量%以下であることが好ましい。中でも、0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜5質量%がより好ましく、1〜2質量%が特に好ましい。構成単位(C)を含有すると基材への密着性が向上する。また含有量が前記範囲であると、撥液性能の低下を防ぐことができるとともに、フッ素系溶媒への溶解性も維持できる。
【0048】
本発明に係る重合体は、上記のような構成単位(A)、構成単位(B)および構成単位(C)以外に、他の構成単位(D)を含んでいてもよい。
他の構成単位(D)は、上記化合物(a)、(b)および(c)と共重合しうる化合物(d)から導かれる構成単位であれば特に限定されない。この化合物(d)としては、具体的に、スチレン系化合物(d1)、上記化合物(a)、(b)および(c)以外の(メタ)アクリル酸系化合物(d2)などの不飽和基を有する化合物(d)およびさらに他の重合性化合物である化合物(d3)が挙げられる。このような化合物(d)の具体例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0049】
上記(d1)としては、下記式で表わされるスチレン系化合物が挙げられる。
【化3】


式中、R:−H、CH、−Cl、−CHO、−CHCl、−CHNH、−CHN(CH、−CH(CHCl、−CHCl、−CHCN、−CHN(CHCOOH)、−CHSHまたは−CHOCOCHである。
【0050】
上記化合物(d2)としては、α−クロロアクリル酸および下記式で表わされる(メタ)アクリレートが挙げられる。
CH=C(R)−COO−R
式中、R:HまたはCH、R:−CH、−CHCHN(CH、−(CHH(m=2〜20の整数)、−CHCH(CH、−CH−C(CH−OCO−Ph(「Ph」はフェニル基を意味する。以下同様である。)、−CHPh、−CHCHOPh、−CH(CHCl、−(CHCHO)CH(m=2〜20の整数)、−(CH−NCOまたは以下の基である。
【0051】
【化4】

【0052】
化合物(d2)としては、下記式で表わされる(メタ)アクリルアミドも挙げられる。
CH=C(R)−CONH−R
式中、R:HまたはCH、R:−C2m+1(m=2〜20の整数)または−Hである。
【0053】
化合物(d2)としては、さらに、(メタ)アクリル酸ジエステル、さらに下記各式で示される化合物等の(メタ)アクリル酸ポリエステルなどが挙げられる。
【化5】


およびRCHCHR。
上記式中のRは、(メタ)アクリロイルオキシ基である。
【0054】
また、化合物(d3)としては、上記(d1)および(d2)以外のビニル化合物、例えば塩化ビニル(CH=CHCl)、アクリロニトリル(CH=CHCN)または以下のようなエポキシ基を有する化合物が挙げられる。
【0055】
【化6】

【0056】
化合物(d)としては、上記以外にも、重合性の官能基を複数有する化合物であっても構わない。以下には、ビニル基またはエポキシ基を3以上有する具体例を示すが、これらに限定されるものではない。
【化7】

【0057】
本発明の重合体に含まれる構成単位(D)は、上記化合物(d)の一種から導かれるものでも、二種以上から導かれるものであってもよい。
本発明の重合体が、上記のような他の構成単位(D)を含有する場合、その種類によっても異なるが、重合体において、これら他の構成単位全量での質量が20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。構成単位(D)の含有量が前記範囲であると、撥液性能の低下を防ぐことができる。
【0058】
本発明の重合体の分子量は特に限定されないが、重量平均分子量(Mw)で1×10〜1×10であることが好ましく、5×10〜1×10であることがより好ましく、1×10〜5×10であることがさらに好ましい。分子量がこのような範囲であると、低濃度においても高い撥液性能を示すことが出来る。分子量が前記範囲であると、溶媒への溶解性の低下を防ぐことができる。
【0059】
本発明の重合体は、重合形態など特に制限されない。共重合体である場合の重合形態は特に制限されず、ランダム、ブロック、グラフトなどのいずれでもよいがランダム重合体であることが好ましい。
【0060】
重合体の製造方法も特に限定されず、各種の公知の方法を採用し得る。例えば、各化合物中の不飽和基に基づき付加重合させることができる。重合に際しては、公知の不飽和化合物の付加重合条件を適宜に採択して行うことができる。例えば重合開始源として有機過酸化物、アゾ化合物、過硫酸塩等の通常の開始剤が利用できる。
【0061】
本発明の表面処理剤は、被膜成分として上記のような特定の重合体を含み、該重合体を溶媒中に含む液状形態である。
本発明の表面処理剤の製造方法も限定されない。例えば本発明の重合体を公知の溶媒に溶解させて得ることができる。また、例えば化合物(a)、化合物(b)および必要に応じて化合物(c)、(d)を溶媒に添加し、この溶媒を重合媒体とする溶液重合によって本発明の重合体を製造し、本発明の重合体を含む前記溶媒を得て、これを本発明の表面処理剤とすることもできる。乳化重合させることで本発明の重合体を含む溶液を得て、これを本発明の表面処理剤とすることもできる。ここで得られた本発明の重合体を分離し、他の溶媒に溶解させてもよい。また、重合原料の化合物が、塩化ビニルなどのガスである場合には、圧力容器を用いて、加圧下に連続供給してもよい。
【0062】
本発明の表面処理剤を形成する溶媒は、本発明の重合体を溶解または分散できるものであればよく、特に限定されず、各種有機溶媒、水またはこれらの混合媒体などが挙げられる。有機溶媒としては、フッ素系溶媒が好ましい。フッ素系溶媒としては、ハイドロフルオロカーボン(HFC)類またはハイドロフルオロエーテル(HFE)類が挙げられる。使用可能なフッ素系溶媒の具体例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0063】
m−キシレンヘキサフルオリド(以下、m−XHFと記す。)
p−キシレンヘキサフルオリド
CFCHCFCH
CFCHCF
13OCH
13OC
13CHCH
OCH
OC
13
CFHCFCHOCFCF
CFCFHCFHCFCH
CF(OCFCF(OCFOCF
17OCH
15OCH
OCH
OC
CHCH
CFCHOCFCFCF
(上記例示中、添字mおよびnは、それぞれ独立に、1〜20の整数を表す。)
およびこれらの混合物。
たとえばCF(CFOCと(CFCFCFOCとのハイドロフルオロエーテル混合物がノベックHFE7200(3M社製)、CFCHOCFCFCFHがアサヒクリンAE-3000(旭硝子社製)の商品名で入手可能である。
【0064】
本発明の表面処理剤の濃度は、用途により使い分けることが好ましい。防水・防湿コート剤では、本発明の重合体の濃度が0.5〜20質量%であるのが好ましく、1〜5質量%であるのがより好ましい。
潤滑オイルの染み出し防止剤や電子部品用樹脂付着防止剤では、本発明の重合体の濃度が0.5〜5質量%であるのが好ましい。
はんだ用フラックス這い上がり防止剤では、本発明の重合体の濃度が0.01〜1質量%であるのが好ましい。
本発明の表面処理剤における本発明の重合体の濃度は最終的濃度であればよく、例えば本発明のはんだ用フラックス這い上がり防止剤を直接調製する場合には、重合直後の重合体を含む溶液中の重合体濃度(固形分濃度)が1質量%を超えていてもなんら差し支えない。高濃度の重合体を含む溶液は、最終的に上記好ましい濃度となるように適宜に希釈することができる。希釈した溶液は、そのまま表面処理剤とすることができる。
【0065】
本発明の表面処理剤は、電子部品等への表面処理を行う場合は、温暖化係数が低く、不引火性であり安全性が高く、乾燥性が良好であることから、HFE類を溶媒として用いることが特に好ましい。また、HFE類を溶媒として用いた場合の本発明の重合体の濃度は、次のように使い分けることが好ましい。防水・防湿コート剤では0.5〜20質量%であるのが好ましい。潤滑オイルの染み出し防止剤や電子部品用樹脂付着防止剤では0.5〜2質量%であるのが好ましい。はんだ用フラックス這い上がり防止剤では0.05〜0.5質量%であるのが好ましい。
【0066】
本発明の表面処理剤は、安定性、性能および外観等に悪影響を与えない範囲であれば、前記した以外の他の成分を含んでいてもよい。このような他の成分としては、例えば被膜表面の腐食を防止するためのpH調整剤、防錆剤、表面処理剤を希釈して使用する場合に液中の重合体の濃度管理をする目的や未処理部品との区別をするための染料、染料の安定剤、難燃剤、消泡剤および帯電防止剤等が挙げられる。
【0067】
本発明の表面処理剤は、撥液性能を付与したい部分に塗布して被膜を形成して利用することができる。該被膜は、本発明の表面処理剤から溶媒が除去されて形成されるものであり、主として、本発明の重合体からなるものである。ここで、主としてとは、該被膜が、本発明の重合体のみから形成されていてもよく、前記のように悪影響を与えない範囲で他の成分を含んでいてもよいことを意味する。被覆方法としては一般的な被覆加工方法が採用できる。例えば浸漬塗布、スプレー塗布、ローラー塗布等による塗布等の方法がある。
【0068】
本発明の表面処理剤の塗布後は、溶媒の沸点以上の温度で乾燥を行うことが好ましい。無論、被処理部品の材質などにより加熱乾燥が困難な場合には、加熱を回避して乾燥すべきである。なお、熱処理の条件は、塗布する表面処理剤の組成や、塗布面積等に応じて選択すればよい。
【0069】
本発明の表面処理剤は、各種材料の処理に適用可能であるが、中でも精密機器部品や摺動部品(モーター、時計、HDD)、電気部品(電子回路や基板、電子部品等)の処理に用いるのが好ましい。中でも、本発明の表面処理剤を、はんだ用フラックス這い上がり防止剤、潤滑オイルのにじみ出し防止剤、防水コート剤、防湿コート剤および電子部品用樹脂付着防止剤として用いることが好ましい。特に、低濃度でも高い撥油性及び撥IPA性を有することから、はんだ用フラックス這い上がり防止剤、潤滑オイルの染み出し防止剤として用いることが好ましい。
【実施例】
【0070】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断わりのない限り、以下の実施例の記載において「%」で表示されるものは「質量%」を表すものとする。
【0071】
(重合体1〜19および比較重合体1〜3の製造)
以下で使用した表6に示す化合物は、市場から試薬として入手することができるものまたは、既知の合成法によって容易に合成できるものである。
密閉容器に、表7に記載の仕込み比(質量部)で表6に示す各化合物、モノマー濃度:20質量%となる重合溶媒(m−XHF)および開始剤V−601(ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート,和光純薬工業(株)製)(開始剤濃度:0.20質量%)をそれぞれ仕込み、70℃で18時間以上反応を行い、重合体1〜19および比較重合体1〜3を得た。
重合体1〜19および比較重合体1〜3について測定した質量平均分子量(Mw)を表7に示す。
【0072】
[質量平均分子量の測定]
重合後、各重合体を含む溶液中の重合体の濃度が約1%になるように、アサヒクリンAK−225SEC1(旭硝子(株)製)を用いて希釈し、0.5μmフィルターにより濾過を行い測定サンプルとした。昭和電工株式会社製Shodex GPC−104を用いて、以下の条件でGPCを測定した。
<GPC測定条件>
分析カラム:LF−604(充填剤:スチレンジビニルベンゼン共重合体,昭和電工株式会社製)×2
リファレンスカラム:KF600RH(充填剤:なし,昭和電工株式会社製)×2
移動層:AK−225SEC1
流量:0.3ml/min
カラム温度:40℃
標準物質:ポリメチルメタクリレート
【0073】
【表6】

【0074】
【表7】


*測定不可:0.5μm濾過できず。
【0075】
(実施例1〜19および比較例1〜3)
重合体1の反応液の乾燥残分を測定し、得られた値を溶液中の重合体1の濃度とした。この濃度を基に、アサヒクリンAE-3000(旭硝子社製)で希釈して、表8に記載の各重合体濃度(1%、0.1%)の表面処理剤1を得た。同様にして、重合体2〜19から表面処理剤2〜19を、比較重合体1〜3から比較表面処理剤1〜3を、それぞれ得た。
【0076】
上記で得られた表面処理剤1〜19および比較表面処理剤1〜3について、以下の性能を評価した。評価結果を表8に示す。
【0077】
[接触角の測定]
重合体濃度を1質量%または0.1質量%に調整した表面処理剤1〜19および比較表面処理剤1〜3の各々に、室温下で、ガラス板を浸漬した。そして1分後に取り出し120℃で5分間乾燥させ、各処理剤の被膜を有する各ガラス板を得た。
次に各々の種類の被膜を形成した各ガラス板の被膜上に、水、n−ヘキサデカン(HD)またはIPAを滴下し、接触角を測定した。
接触角の測定には、自動接触角計OCA−20[Data Physics社製]を用いた。
【0078】
[熱分解温度]
重合体1を、多量のメタノールに添加し、重合体1を析出させた。析出した重合体1を数回メタノールで洗浄後、60℃で減圧乾燥させて、重合体1を溶媒から単離した。同様にして、重合体2〜19、比較重合体1〜3から各重合体を、それぞれ溶媒から単離した。
単離した重合体は、示差熱熱重量同時測定装置TG/DTA6300(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)で重量減少温度および熱分解温度(Td)を測定した。結果を表8に示す。
<TG-DTA測定条件>
キャリアガス:Air(400ml/min)
昇温条件:室温⇒(2℃/min)⇒450℃
セル:Pt
標準物質:アルミナ
【0079】
【表8】

【0080】
以上の結果から、本発明の表面処理剤は、構成単位(A)単独の比較表面処理剤と比べて、耐熱性能が向上することがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(a)で表される不飽和化合物から導かれる構成単位(A)と、下記式(b)で表される化合物から導かれる構成単位(B)とを含有する重合体を溶媒中に含む表面処理剤。
CH2-=C(R1)-COO-(CH2n1-R (a)
式(a)中の記号は以下の意味を示す。
1:水素原子またはメチル基。
:0〜4の整数。
:炭素数1〜6のポリフルオロアルキル基またはポリフルオロエーテル基。
【化1】


式(b)中、Rは、フェニル基、シクロヘキシル基または炭素数1〜10のアルキル基であり、これら基中の1つ以上の水素原子はハロゲン原子または炭素数1〜10のアルキル基で置換されていてもよい。
【請求項2】
前記式(b)のRがフェニル基である、請求項1に記載の表面処理剤。
【請求項3】
前記重合体中の前記構成単位(A)の含有量が50質量%以上である、請求項1または2に記載の表面処理剤。
【請求項4】
前記重合体中の前記構成単位(B)の含有量が1〜30質量%である、請求項1〜3のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項5】
前記重合体中の前記構成単位(B)の含有量が5〜30質量%である、請求項1〜4のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項6】
前記重合体が、さらに下記式(c)で表される化合物から導かれる構成単位(C)を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の表面処理剤。
CH2=C(R)−Q−Y (c)
式(c)中の記号は以下の意味を示す。
R:水素原子またはメチル基。
Q:単結合または2価の連結基。
Y:1価の官能基。
【請求項7】
前記式(c)におけるYが、水酸基、リン酸基、スルホ基、カルボキシ基またはアルコキシシリル基である、請求項6に記載の表面処理剤。
【請求項8】
前記重合体中の前記構成単位(C)の含有量が10質量%以下である請求項6または7のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項9】
前記溶媒がフッ素系溶媒を含有する請求項1〜8のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の表面処理剤を使用した、はんだ用フラックス這い上がり防止剤。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の表面処理剤を使用した潤滑オイルの染み出し防止剤。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれかに記載の表面処理剤を使用した防水・防湿コーティング剤。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれかに記載の表面処理剤を使用した電子部品用樹脂付着防止剤。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれかに記載の表面処理剤で被覆された基材。

【公開番号】特開2012−214664(P2012−214664A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129345(P2011−129345)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000108030)AGCセイミケミカル株式会社 (130)
【Fターム(参考)】