説明

表面処理層が形成されたスライドグラス

【課題】 DNAあるいは蛋白質等の生体物質サンプルを基板に共有結合により強固に固定化することにより、従来遺伝子解析のための処理を進める際(例えばハイブリダイスの際)にスポットが抜け落ちるといった問題点を解決すること。
【解決手段】 オリゴヌクレオチドまたはDNA断片を表面に担持可能なスライドグラスにおいて、炭化ハフニウム、炭化ニオブ、炭化珪素、炭化タンタル、炭化トリウム、炭化チタン、炭化ウラン、炭化タングステンまたは炭化ジルコニウム等の表面処理層が形成されていることを特徴とするスライドグラス。また、表面処理層の被膜上に、オリゴヌクレオチドまたはDNA断片を担持させたスライドグラス及びスライドグラスの表面に遺伝子を担持させて遺伝子を解析する方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、遺伝子解析、診断、治療等に使用される遺伝子あるいは蛋白質等の生体物質解析用等に用いられるスライドグラス及び該スライドグラスを用いて遺伝子あるいは蛋白質等の生体物質等を解析する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、遺伝子解析用等に用いられるスライドグラスとして、ガラスチップのスライドグラスであって、表面に1万以上のDNA断片(DNAプローブ)等の遺伝子を載せうるように加工がされているものが広く用いられれている。
【0003】前記のようなチップを用いて例えば、あるDNAサンプルの塩基配列を知りたい場合には、該スライドグラス上に、予め塩基配列が解明されており、互いに異なる塩基配列を有する数万本のDNA断片を、位置がわかるように結合させておいたものを用意し、これに蛍光標識したDNAサンプルを流すと、DNA断片は、該スライドグラス上につけたDNA断片(プローブ)のうちの相補的な配列を有するプローブとハイブリダイズする。ハイブリダイズ部分は、スライドグラスを蛍光測定することによりスポットとして識別でき、DNAサンプル中のDNA断片の配列を解明することができる。このように、遺伝子解析用スライドグラスは、あるDNAの塩基配列を簡単に特定することができることから、生体ゲノムの解析、遺伝子発現のモニタリング、ゲノムミスマッチング等の遺伝子解析等に利用されるほか、さらにガン遺伝子の突然変異の検出等遺伝子診断や医薬品の開発等に応用されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記遺伝子解析用スライドグラスを利用してDNAサンプルを増幅して、スライドグラスに蛍光照射することによるスポットの解析により判断される。しかし、従来の遺伝子解析用スライドグラスは、前記スポットの解析をするにあたり、ガラスの洗浄等の前処理を行うため、スポットしたDNA断片が洗い流されてしまい、スポットが明瞭に検出できない場合が多かった。本発明は、このような従来の遺伝子解析用スライドグラスの有する蛍光検出の不明瞭さという問題点を解決することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】そこで、本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討の結果、スライドグラスのDNAプローブあるいは蛋白質等の生体物質等を載せる表面に特定の表面処理層を形成することにより、スライドグラスを洗浄してもスポットしたDNA断片が洗い流されずに強固に固定化されており、蛍光照射した際に、蛍光スポットが明瞭となることに気が付いた。本発明は係る知見に基づくものである。
【0006】本発明のスライドグラスは、ガラス基体上の表面に、炭化ハフニウム、炭化ニオブ、炭化珪素、炭化タンタル、炭化トリウム、炭化チタン、炭化ウラン、炭化タングステンまたは炭化ジルコニウムからなる表面処理層が形成されてなることを特徴とする。前記表面処理層の被膜の厚みは、1nm〜1000nmであることが好ましい。さらに、前記表面処理層の被膜上に、オリゴヌクレオチドまたはDNA断片を担持させたものであることが好ましい。また、このような本発明のスライドグラスは、請求項5記載のように、スライドグラスの表面に遺伝子を担持させて遺伝子あるいは蛋白質等の生体物質を解析する方法に利用することができる。
【0007】
【発明の実施の態様】本発明のスライドグラスは、スライドガラスの最表面上に適当な表面処理層が形成されたものを用いると、スライドグラスの上にDNAサンプルを載せて様々な解析に用いる場合は、遺伝子あるいは蛋白質等の生体物質との親和性等が強固になるので好ましい。
【0008】このような表面処理としては、炭化ハフニウム、炭化ニオブ、炭化珪素、炭化タンタル、炭化トリウム、炭化チタン、炭化ウラン、炭化タングステンまたは炭化ジルコニウム等の炭化物を被覆したものが好ましい。さらに、上記炭化物と他の物質との混合体、例えば金属やセラミックス等との混合体、積層体も好ましい。
【0009】すなわち、炭素は化学的安定性に優れており、DNAプローブ等を載せる際の反応等に耐えることができる。その理由は、炭化物上にプローブを固定化したときに、炭化物の炭素に対してプローブが図1に示すような結合形態を示し、DNAプローブをスライドグラスに強固に固定化させることができるためであると考えられる。また、固定化されたプローブは、図1に示すようにスライドグラス上に垂直に林立させることができるので、単位面積あたりの固定化密度を上げることができる。
【0010】本発明の炭化物の表面処理層の厚みは、特に限定するものではないが、1nm〜1000nmの厚みがあればよい。1nm未満では、あまりに薄すぎて表面処理層の厚みが均一にはならずに、下地のガラスが露出してしま部分が存在するので好ましくない。一方、1000nmを超える被覆は形成中に表面処理層の中に応力が生じ、剥離が生じやすくなるので好ましくない。工業上の生産性からすると、表面処理層の厚みは、10nm〜500nmである。さらに好ましくは、30〜200nmである。
【0011】ガラス基体への炭化物の表面処理層の形成方法は公知の方法で行うことができる。例えば、高周波スパッタ法、直流スパッタ法、アークイオンプレーティング法、熱CVD法などが挙げられる。
【0012】本発明のスライドグラスの基体となるガラスは、DNAプローブ等の遺伝子あるいは蛋白質等の生体物質を多数載せることができるものである。従って、スライドグラスの表面上に複数の微小区分が設けられ、1つの区分に多数のオリゴヌクレオチド断片を担持可能となっているものも好ましく採用される。微小区分のそれぞれにおいて、DNAプローブ等の種類を変えることについては特に制限はなく、用途に応じて適宜変化させることができる。
【0013】スライドグラスの形状は特に限定されず、例えば、フィルムまたはシートのような平板状のものであってもよく、また円盤状等のものであってもよい。また、スライドグラスの厚さ、大きさ等にも特に制限はなく、通常用いられるのと同様の範囲とすることができる。スライドグラスの基体となるガラスの特性についても特に限定されるものではないが、基体表面につける反応性物質との親和性等の種々の特性を考慮して適宜選択できる。なお、下地のガラスの表面は意図的に粗面化されていることも望ましい。このような粗面化表面は基体の表面積が増えて多量のDNAプローブ等を密度を上げて固定させることに好都合であるからである。
【0014】本発明のスライドグラスに載せることができるオリゴヌクレオチドまたはDNA断片(プロ―ブ)については、1本鎖又は2本鎖のDNA、RNA断片等、塩基数にも特に制限はない。オリゴヌクレオチドまたはDNA断片の固定は、スライドグラスの表面への化学結合等により行うことができる。例えば、炭化物の表面処理層を形成させたスライドガラスを用いる場合、表面を活性化、すなわちDNAと化学結合しやすくした後に、DNAの末端塩基のアミノ基を結合することができる。
【0015】この場合のスライドグラス表面活性化の一例を挙げると、該スライドグラスを塩素ガス中で固体支持体に紫外線照射して炭化物の炭素を塩素化し、次いでアンモニアガス中で紫外線照射してアミノ化した後、適当な酸クロリドを用いてカルボキシル化し、末端のカルボキシル基をカルボジイミド或いはジシクロヘキシルカルボジイミドおよびN−ヒドロキシスクシンイミドと脱水縮合することにより、アミド結合を介して炭化水素基の末端にN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基等の活性エステル基が結合した基を固定化することができ、活性化される。
【0016】こうして本発明のスライドグラス表面を活性化させておけば、例えば、塩基配列が既に解明されている数万本のDNA断片(プローブ)を担持させることができる。また、該スライドグラス上にオリゴdTプライマーを結合させておき、逆転写反応等で目的のcDNAを伸張させると同時にスライドグラスに結合することもできる。さらに、PCR等を用いてスライドグラス上で多数のDNA鎖を伸張させ、かつ結合させることもできる。
【0017】このようにして、DNA断片を結合させた後、これに蛍光標識したDNAサンプルを流すと、DNAサンプルは、該スライドグラス上に結合させたDNA断片(プローブ)のうちの相補的な配列を有するプローブとハイブリダイズするので、蛍光スポットとしてDNAサンプルの配列を解明することができる。特に本発明の遺伝子解析用スライドグラスは、裏面に金属膜が施されていることから、蛍光スポットを明瞭に観察することができる。
【0018】このように、本発明のスライドグラスは、あるDNAの塩基配列を従来と同様の方法をそのまま使いながら従来よりも格段に明瞭に解析、特定することができることから、生体ゲノムの解析、遺伝子発現のモニタリング、ゲノムミスマッチング等の遺伝子解析等に利用されるほか、さらにガン遺伝子の突然変異の検出等遺伝子診断や医薬品の開発等に有用である。
【0019】
【実施例】以下、本発明を実施例によりさらに説明する。
実施例(1)以下のようにして、遺伝子解析用に用いるためのスライドグラスを用意した。まず、ガラス基体として、25mm(幅)×75mm(長さ)×1mm(厚み)のものを用いた。次いでガラス基体の表面に、ターゲットとして、炭化ハフニウム、炭化ニオブ、炭化珪素、炭化タンタル、炭化トリウム、炭化チタン、炭化ウラン、炭化タングステン、炭化ジルコニウムを用い、アルゴンガスを作動ガスとして高周波スパッタ法により、それぞれのターゲットの炭化物からなる被膜をそれぞれ約10nmの厚みに形成したスライドグラスを作成した。
【0020】(2)次に、これらのスライドグラス表面を化学修飾し、活性化させた。すなわち、ガラス基体表面を1分間塩素化した後、10分間アミノ化し、さらに酸クロリドへ10分間直接浸漬した。次に、超純水で洗浄後、活性化液へ浸漬して直接活性化を行った。活性化液の組成は、1,4−ジオキサン1mL、ハイドロゲンシアナミド25mgおよびN−ヒドロキシスクシンイミド150mgであり、これらを溶解したものである。さらに超純水で洗浄後、65℃で乾燥して活性化した。
【0021】前記のようにして作成したスライドグラス表面に、500pomol/mL濃度のFAMdA17溶液2μLを滴下した(スポット)。この際、バッファーとして超純水或いは1%ホルムアルデヒドを用いた。次に、インキュベーションを行った。条件は、水/ホルムアミド=1/1雰囲気中65℃で1時間とした(乾燥)。
【0022】こうして得られた遺伝子解析用として用いるスライドグラスにつき、蛍光強度を測定した。測定時間は1分とし、装置はLAS−1000Plusを用いて、スポット後および乾燥(65℃)後の蛍光強度を測定したが、いずれも従来用いられているスライドグラスよりも優れた値であった。本発明のスライドグラスは、いずれもスポット後および乾燥後の蛍光強度についても、従来のスライドグラス上のスポット後および乾燥後の蛍光強度よりも優れていた。すなわち、本発明のスライドグラスは、いずれにおいてもスポットしたDNAあるいは蛋白質等の生体物質断片が洗い流されずにスライドグラス上に残留しており、スポットが明瞭に検出できた。一方、従来のスライドグラスは、スポットしたDNAあるいは蛋白質等の生体物質の断片が洗い流されてしまい、スライドグラス上に残留していず、スポットが明瞭に検出できなかった。
【0023】
【発明の効果】本発明のスライドグラスは、あるDNAの塩基配列を従来と同様の方法をそのまま使いながら従来よりも格段に明瞭に解析、特定することができることから、生体ゲノムの解析、遺伝子発現のモニタリング、ゲノムミスマッチング等の遺伝子あるいは蛋白質等の生体物質の解析等に利用されるほか、さらにガン遺伝子の突然変異の検出等遺伝子診断や医薬品の開発等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のスライドグラス上にプローブを固定化する場合の概略説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ガラス基体上の表面に、炭化ハフニウム、炭化ニオブ、炭化珪素、炭化タンタル、炭化トリウム、炭化チタン、炭化ウラン、炭化タングステンまたは炭化ジルコニウムからなる表面処理層が形成されたスライドグラス。
【請求項2】 前記表面処理層の厚みが、1nm〜1000nmである請求項1に記載のスライドグラス。
【請求項3】 前記表面処理層の被膜上に、オリゴヌクレオチドまたはDNA断片を担持させた請求項1または2に記載のスライドグラス。
【請求項4】 請求項1〜3のいずれかに記載のスライドグラスの表面に遺伝子を担持させて遺伝子あるいは蛋白質等の生体物質を解析する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2002−82116(P2002−82116A)
【公開日】平成14年3月22日(2002.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−270775(P2000−270775)
【出願日】平成12年9月6日(2000.9.6)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】