説明

表面処理方法、表面処理されたヘッドスライダまたは磁気記録媒体、および磁気記録・再生装置

【課題】表面自由エネルギーを低下させる新規な技術を提供する。
【解決手段】含フッ素有機物を含む気体中で表面処理対象面に紫外線照射を行って、表面処理対象面上にコート層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下の実施形態は、表面処理一般に関するものであり、特に、一般的電子デバイス、磁気記録・再生装置用のヘッドスライダや磁気記録媒体、MEMS(Micro Electro Mechanical System)等の、極薄膜の表面処理が必要な分野に関するものである。なお、以下において、磁気記録・再生装置とは、磁気記録とその記録の再生とのいずれか一方または両方を実行できる装置を意味し、ヘッドスライダと磁気記録媒体との少なくともいずれか一方が搭載されている。
【背景技術】
【0002】
磁気記録・再生装置においては、記録変換素子(単にヘッドともいう)を備えたヘッドスライダが、磁気記録媒体であるハードディスク上を浮上しながら情報の読み書きを行う。
【0003】
ヘッドと、ハードディスク上で磁気情報を記録(書き込み)または再生(読み取り)するための磁性層との距離は磁気スペーシングと呼ばれ、磁気スペーシングが狭いほど記録密度が向上する。このため、近年の記録密度向上に対する強いニーズに対応して、現在のヘッド浮上隙間は10nmを切ろうとしている。このような極低浮上隙間にあっては、汚染物質がわずかにヘッドスライダに付着するだけで、ヘッドの浮上安定性が大きく崩れる。
【0004】
汚染物質の一つとして、周囲の環境よりもたらされる揮発性有機物やデブリ等が知られている。ヘッドスライダの動作に伴い、ハードディスク上に付着した揮発性有機物質やデブリ等がヘッドスライダに掻き集められ、最終的にはヘッド浮上隙間が埋められ、ヘッドクラッシュへと繋がることになる。
【0005】
また、ヘッドスライダの浮上量の低減に伴い、記録媒体に塗布されている液体潤滑剤や装置内に浮遊する汚染物質がヘッドスライダの浮上面に付着してヘッドスライダと記録媒体との接触を引き起こし、ヘッドクラッシュ等の深刻な障害を引き起こす問題も発生していた。
【0006】
なお、近年、ヘッドスライダへの熱膨張アクチュエータの搭載等により、ヘッドスライダと記録媒体が接触する機会が増えているため、接触時に過大な摩擦が発生するとヘッドスライダの故障に結びつく危険性が高くなる。
【0007】
上記の問題を解決すべく様々な方法が提案されている。例えば、磁気記録媒体と対向するヘッドスライダ面(単に「ヘッドスライダ面」ともいう)をパターニングし、表面自由エネルギーを低下させることで汚染物質の付着を抑える方法が考案されている(特許文献1参照)。しかし、この方法ではヘッドスライダの製作コストが高くなるという欠点がある。
【0008】
また、ヘッドスライダ面に自己組織化膜を設けて表面自由エネルギーを低下させる方法が提案されている(例えば特許文献2参照)が、自己組織化膜自体の膜厚(分子鎖長)が大きく、磁気スペーシングを大きくすることとなり、高記録密度化には向いていない。そればかりではなく、この方法で採用されている自己組織化膜には、ヘッドクラッシュを引き起こしやすい物質として知られている珪素が含有されているので実用化の障害となる。
【0009】
更に、ヘッドスライダ面やヘッドスライダ保護層(「ヘッド保護層」とも呼称する)面に対して、ハードディスク上に塗布されている潤滑剤と同一または類似の潤滑剤を塗布し、更に紫外線を照射することで表面自由エネルギーを下げ、汚染物質の付着を低減することが提案されている(例えば特許文献3参照)。
【0010】
この方法で優れている点は、ヘッドスライダに塗布した潤滑剤を紫外線処理により固定することで、潤滑層を液体から固体的な膜にし、液架橋を起こりにくくしている点である。しかしながら、この文献で開示されているような極性を有する分子末端を備える潤滑剤を単純に塗布しただけでは凝集力により潤滑剤が凝集してしまい、それを紫外線処理により固化してしまえば塗布むらができてしまうばかりか、凝集した潤滑剤の高さが浮上隙間を埋めてしまい、ヘッドスライダが浮上しなくなったり、ヘッドクラッシュが起こったり、磁気記録媒体に傷が付いたりする等の浮上障害を引き起こすことになってしまう場合がある。また、紫外線処理の程度によってはヘッドスライダ潤滑層(「ヘッド潤滑層」とも呼称する)の一部が液体として存在することになり、その部分では依然液架橋を起こすことになり、期待する効果が得られないことになる。
【0011】
更には、磁気スペーシングを低減させるために、磁気記録媒体上に塗布されている潤滑剤の膜厚も薄くする必要があることが課題としてある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平9−219077号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平11−16313号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平7−85438号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上述べたように、汚染物質のヘッドスライダへの付着低減とヘッドスライダの極低浮上特性とを両立させることは困難であり、更にはヘッド潤滑層を形成する樹脂の凝集の問題もあり、これらの問題解決へのニーズが存在する。本明細書の実施形態は、これらの問題を解決し、汚染物質のヘッドスライダへの付着低減やヘッド潤滑層を形成する樹脂の凝集防止とヘッドスライダの極低浮上特性とを両立させる技術を提供することを目的としている。また、磁気記録媒体上の潤滑膜に代表されるような、一般的に表面自由エネルギーの低い均一な表面を必要とする用途で有用な技術を提供することを目的としている。本明細書の実施形態の更に他の目的および利点は、以下の説明から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するためには、含フッ素有機物を含む気体中で表面処理対象面に紫外線照射を行って、当該表面処理対象面上にコート層を形成する、表面処理方法が有用であることが判明した。
【0015】
このような表面処理方法により作製された表面を有する物体は、表面自由エネルギーの低い均一な表面を与える、汚染物質が付着しにくい、極薄層を形成できる等の利点を有し、例えば、磁気記録・再生装置に使用されるヘッドスライダや磁気記録媒体の潤滑層の製造方法や用途に好適に適用することができる。
【0016】
更に、磁気記録媒体に対し、記録および/または再生を行うための記録変換素子を備えたヘッドスライダであって、当該磁気記録媒体に面する側のヘッドスライダ上にヘッドスライダ保護層を有し、当該ヘッドスライダ保護層上に、付着後の構成原子数が3〜4となるような低分子からなる含フッ素有機構造体を含む被膜が形成されたヘッドスライダも有用であることが判明した。
【0017】
このようなヘッドスライダは、表面自由エネルギーが低く、汚染物質が付着しにくい極薄層を表面に有するため、磁気記録・再生装置、特に、ヘッドスライダの一部と記録媒体との接触によりヘッドスライダの記録媒体に対する相対的位置を検出した後、ヘッドスライダと記録媒体とが非接触の状態で記録媒体への情報記録または記録媒体からの情報再生が行われる方式を採用した磁気記録・再生装置や、ヘッドスライダの一部と記録媒体とが接触した状態で記録媒体への情報記録または記録媒体からの情報再生が行われる方式を採用した磁気記録・再生装置に好適に適用することができる。
【発明の効果】
【0018】
以下の実施形態により、表面自由エネルギーを低下させる新規な方法が提供される。このため、磁気記録媒体やヘッドスライダに用いられるような潤滑性を与える膜(潤滑層)として適用し得る、均一な薄膜を得ることができる。また、従来の表面自由エネルギー低下技術の問題点との関連においては、このような表面自由エネルギー低下表面への汚染物質の付着や樹脂の凝集の問題に解決を与え得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】紫外線により表面処理対象面から発生した光電子が、含フッ素有機物のフッ素を遊離させ、そのフッ素を失った炭素が表面処理対象面に化学的に結合する様子を示す模式図である。
【図2】パーフルオロアルカンの分子構造を示す模式図である。
【図3】パーフルオロポリーエーテルの分子構造を示す模式図である。
【図4】表面処理対象面上の表面自由エネルギーの測定位置を示す模式図である。
【図5】表面処理のための装置の模式図である。
【図6】紫外線照射時間と表面自由エネルギーとの関係を示すグラフである。
【図7】紫外線照射時間とコート層厚との関係を示すグラフである。
【図8】紫外線照射時間とコート層厚との関係を示すグラフである。
【図9】紫外線照射時間と表面自由エネルギーとの関係を示すグラフである。
【図10】表面自由エネルギーと膜厚との関係を示すグラフである。
【図11】ヘッドスライダの磁気記録媒体に対向する面を示す写真である。
【図12】ヘッドスライダの膜厚計測領域を示す図である。
【図13】ヘッドスライダの種々の膜厚計測領域における膜厚測定結果を示すグラフである。
【図14】ヘッドスライダAの浮上面の分子状態を示す模式図である。
【図15】ヘッドスライダBの浮上面の分子状態を示す模式図である。
【図16】ヘッドスライダCの浮上面の分子状態を示す模式図である。
【図17】ヘッドスライダDの浮上面の分子状態を示す模式図である。
【図18】ヘッドスライダEの浮上面の分子状態を示す模式図である。
【図19】ヘッドスライダFの浮上面の分子状態を示す模式図である。
【図20】ヘッドスライダGの浮上面の分子状態を示す模式図である。
【図21】ヘッドスライダHの浮上面の分子状態を示す模式図である。
【図22】ヘッドスライダIの浮上面の分子状態を示す模式図である。
【図23】摩擦特性を検証するための数値解析に用いた記録媒体および潤滑膜を示す模式図である。
【図24】摩擦特性を検証するための数値解析方法の説明図である。
【図25】摩擦特性を検証するための数値解析の結果を示すグラフである。
【図26】数値解析によって得られた摩擦係数の比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本明細書の実施形態を図、表、式、実施例等を使用して説明する。なお、これらの図、表、式、実施例等および説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0021】
含フッ素有機物を含む気体中で、表面処理を施す面である表面処理対象面に紫外線照射を行うと、表面処理対象面にコート層が形成され、このコート層が低い表面自由エネルギー(SFE)を示すことが見いだされた。したがって、この技術は、表面に潤滑性を付与しまたは表面の潤滑性を高める場合や、汚染物質の付着を防止する場合に適用することが好ましいと言えよう。また、均一な薄膜を造ることも可能である。
【0022】
このような性質は低SFE表面を必要とする用途に広く適用することができよう。特に、磁気記録媒体やヘッドスライダの潤滑層の代替または、潤滑層の一部として使用することが有用である。このような場合には、後述するように表面の被覆力が強い(すなわち、表面処理対象面に強固に結合している)ことから、汚染物質の表面への付着や潤滑層上における樹脂の凝集の問題に解決を与え、また、ヘッドスライダの極低浮上のニーズに応える技術であると言える。
【0023】
このコート層は表面処理対象面に強固に結合している。これは、図1に示すように、紫外線により表面処理対象面から発生した光電子が、含フッ素有機物のフッ素を遊離させ、そのフッ素を失った炭素が表面処理対象面{図1の場合はダイアモンドライク(DLC)面}に化学的に結合するためであると考えられている。
【0024】
この場合、含フッ素有機物として例えば低分子のパーフルオロアルカンを使用すると、図2に示すように円柱構造をとりやすいことから、炭素骨格が表面処理対象面に沿って配置されることになる(この配置は横配向と呼ばれる場合がある)ものと思われる。この配置は極薄膜を構成するのに最適のものである。
【0025】
磁気記録・再生装置用のヘッドスライダや磁気記録媒体の保護層の上に設けられる潤滑層に使用される従来の潤滑剤では、分子が巨大であり、かつ自由度が大きいため(図3のパーフルオロポリーエーテルの例を参照されたい)、極薄膜を構成することが困難である。また、従来の技術では、保護層への密着性を高めるため、極性基(たとえはカルボキシ基)の導入がしばしば行われるが、この極性基自体が炭素骨格を保護層面から遠ざけることになる(この配置は縦配向と呼ばれる場合がある)ため、好ましくない場合がある。これに比し、図2に示すような配置は、分子が小さく、しかも極性基を必要としないので、横配向すれば炭素骨格が表面処理対象面に沿って配置される理想的なものであるといえる。しかも、このようにして得られるコート層はパーフルオロ構造に起因して低表面自由エネルギー面を与える。この結果、極薄膜、均質、かつ低表面自由エネルギー面を作製することができる。
【0026】
なお、図1では、光電子の攻撃によりフッ素アニオンラジカルが遊離し、残った炭素ラジカルがDLC面に結合する様子が記載されているが、これは推測であり、その他の機構であっても差し支えない。
【0027】
上記含フッ素有機物については、コート層が生じる限りどのようなものでもよいが、気体中で処理することから気体状のものであることが好ましい。ただし、ミスト状のものやミストが混ざった状態のものもあり得る。なお、加熱や減圧によって気体にできる場合は、そのような条件を採用することで、「気体状の含フッ素有機物」の要件を満たすこともできる。
【0028】
ただし、一般的には、常圧・室温程度で気体にすることができるものが使用しやすい。このようなものとしては、炭素数が1〜10の含フッ素アルカン、炭素数が1〜10の含フッ素アルケン、それらの炭素間に酸素が介在するエーテル類を挙げることができる。これらの混合物であってもよい。含フッ素アルカンや含フッ素アルケンは分岐構造を有していてもよいが、表面処理対象面からの立ち上がりをできるだけ少なくする意味からは直鎖構造の方が好ましいと言える。なお、含フッ素アルカンや含フッ素アルケン中の水素は少ない方が好ましい場合が多いようである。具体的には、含フッ素アルカンや含フッ素アルケン中のフッ素と水素との総量に対する水素の割合は40モル%以下が好ましく、パーフルオロアルカンやパーフルオロアルケンやそれらの炭素間に酸素が介在するエーテルがより好ましいことが多い。なお、含フッ素アルカンや含フッ素アルケンの炭素間に酸素が介在するエーテルは、全体として含フッ素であることを意味し、実施例3に見られるように、フッ素を含まないアルキルやアルケニルが含まれていてもよい。
【0029】
後述するように、含フッ素有機物が、モノフルオロメタン、ジフルオロメタン、トリフルオロメタンまたはこれらの混合物である場合にも好ましい特性が得られることが判明した。
【0030】
上記におけるコート層は、これらの含フッ素有機物から形成されるものであり、図1に示したように、これらの含フッ素有機物と類似した構造を有していると思われる。この構造体を本明細書では含フッ素有機構造体と呼称している。なお、表面処理対象面との結合の他、反応の結果、含フッ素有機構造体同士の結合も生じているかも知れない。
【0031】
なお、上記に限らず、本明細書に開示された諸実施形態においては、ヘッドスライダの極低浮上特性を実現するときのように、表面処理対象面を最小限の厚さで被覆する目的からは、コート層が分子一層で形成されていることが好ましい。また、場合によっては、横配向した分子一層で形成されていることが好ましい。また、後述する実施例で説明するように、含フッ素有機構造体の一層の厚さは約0.5nmであるので、表面処理対象面に結合した含フッ素有機構造体の厚さとしてはその値以下であることが好ましい。これはすべて平均して把握することができる。本明細書の開示された諸実施形態ではこれを実現することができる。
【0032】
含フッ素有機物を含む気体を構成するその他の気体成分については、上記コート層を形成できる限りどのようなものでもよいが、紫外線を吸収する物質、例えば酸素や水分は、一般的に避けることが好ましい。上記その他の気体成分としては、窒素、アルゴン、ネオン、ヘリウム等を例示することができる。なお、酸素や水分が混在する場合は50重量ppm以下に抑えることが好ましい。
【0033】
上記紫外線照射のために使用する紫外線の種類については特に制限はなく、UV−A(波長315nm〜400nm)、UV−B(波長280nm〜315nm)、UV−C(波長200nm〜280nm)、VUV(真空紫外線,Vacuum Ultra Violet)(波長10nm〜200nm)のいずれでもよいが、取り扱いのし易さから、UV−C、VUVが好ましい。これらの紫外線の光源は、任意のものを使用できる。実用上は、低圧水銀ランプ、キセノンエキシマランプ、アルゴンエキシマランプ、クリプトンエキシマランプおよびこれらの組み合わせからなる群から選択することが好ましい。
【0034】
上記の表面処理対象面を構成する材料は、本処理を適用できる限りどのようなものでもよい。磁気記録・再生装置における磁気記録媒体やヘッドスライダの表面の場合には、後述するようにDLC(ダイアモンドライクなアモルファスカーボン)、AlTiC(アルミナとチタンカーバイトの焼結体)、シリコンの他、ジルコニア、アルミナ、チタンカーバイト、サファイア、シリカ、タングステンカーバイト等を挙げることができる。この表面処理対象面は、表面処理対象(例えば磁気記録媒体やヘッドスライダ)全面であっても、その一部であってもよいことは言うまでもない。なお、これらの表面処理対象には、窒素等が添加されている場合もある。
【0035】
紫外線の種類と表面処理対象面を構成する材料とは、両者の関係が、「紫外線が表面処理対象面から光電子を発生させる」ものであることが重要であることから、適切な組み合わせがあり得る。例えば、表面処理対象面が、磁気記録・再生装置における磁気記録媒体やヘッドスライダの表面の場合には、後述するようにDLCに代表されるアモルファスカーボン、AlTiCがしばしば使用されるが、そのような場合には、紫外線としてはキセノンエキシマ光が好ましい。
【0036】
また、紫外線のエネルギーと表面処理対象面を構成する材料の仕事関数と関係からは前者が後者より高いことが好ましい。このような条件では、含フッ素有機物を結合させる光電子が発生しやすいからである。例えば、アモルファスカーボンに関しては、CVD(化学的気相成長法)法よりもFCA法(フィルタードカソーディックアーク法)の方が仕事関数がより大きくなるため、例えば、低圧水銀ランプが発する波長185nmの光では十分な処理を行うことができないことが多い。このような場合には、よりエネルギー値が大きい光を用いることが必要となる。例えば、上記水銀ランプよりも短波長のキセノンエキシマランプ(波長172nm、真空紫外線)を用いることが有用である。
【0037】
このようにして行われる表面処理法は、磁気記録・再生装置用の磁気記録媒体の製造方法に好ましく利用できる。具体的には、磁気記録媒体の磁性層上に磁気記録媒体保護層を設け、含フッ素有機物を含む気体中で磁気記録媒体保護層の表面に紫外線照射を行って、表面上にコート層を形成することを磁気記録媒体を製造する方法に組み入れることにより、上記コート層を磁気記録媒体潤滑層の代替あるいは潤滑層の一部として利用し得る。そしてこれにより、磁気記録媒体表面への汚染物質の付着や樹脂の凝集の問題に解決を与え得る。
【0038】
また、このようにして行われる表面処理法は、磁気記録・再生装置用のヘッドスライダの製造方法に好ましく利用できる。具体的には、ヘッドスライダの磁性層上にヘッドスライダ保護層を設け、含フッ素有機物を含む気体中でヘッドスライダ保護層の表面に紫外線照射を行って、表面上にコート層を形成することをヘッドスライダを製造する方法に組み入れることにより、上記コート層をヘッドスライダ潤滑層の代替あるいは潤滑層の一部として利用し得る。そしてこれにより、ヘッドスライダ表面への汚染物質の付着や樹脂の凝集の問題に解決を与え得る。
【0039】
なお、どのような方法を経由するにせよ、上記含フッ素有機構造体が得られるならば、上記コート層と同じ効果を与え得ることは論理の示すところである。このような方法には特に制限はないが、含フッ素有機構造体のラジカルやイオンを発生させる方法(例えば紫外線以外の高エネルギー線の照射)を例示することができよう。
【0040】
このことは磁気記録媒体とヘッドスライダといずれに関しても成立するが、特に、磁気記録媒体に対し、記録および/または再生を行うための記録変換素子を備えたヘッドスライダであって、磁気記録媒体に面する側のヘッドスライダ上にヘッドスライダ保護層を有し、更に、ヘッドスライダ保護層上に、付着後の構成原子数が3〜4となるような低分子からなる含フッ素有機構造体を含む被膜が形成された、ヘッドスライダは、以下の点で非常に好ましい用途である。すなわち、この皮膜をヘッドスライダ用潤滑層の代替あるいは潤滑層の一部として適用し得る、ヘッドスライダ表面への汚染物質の付着や樹脂の凝集の問題に解決を与え得るといった点に加え、ごく薄い薄膜を得ることができる点で非常に好ましい。これは、この被覆が分子一層で形成され得ることに起因しているものと思われる。
【0041】
なお、ここで、「構成原子数が3〜4となるような低分子からなる含フッ素有機構造体を含む被膜」としたのは、先述の含フッ素有機構造体同士の結合の説明のごとく、構成原子数が3〜4となるような低分子からなる含フッ素有機構造体同士が結合したものも共存し得るからである。
【0042】
後述するように、ヘッドスライダ保護層と含フッ素有機構造体との間に、1価または2価の共有結合が存在することが好ましい。
【0043】
また、ヘッドスライダ保護層上に形成された被覆を構成する含フッ素有機構造体は、・CH(ここで、nおよびmは0または正の整数であり、0≦n≦2、1≦m≦3、2≦(n+m)≦3を満たす。左側の「・」はヘッドスライダ保護層との結合を示す。)であることが好ましい。すなわち、−CH、=CH、−CH、=CF、および−CFであることが好ましい。
【0044】
上記のヘッドスライダや記録媒体、特に前者は、含フッ素有機構造体が表面処理対象面にしっかりと固着しているので、ヘッドスライダの一部と記録媒体とが接触した状態が必ず発生する形態の磁気記録・再生装置に特に有用である。具体的には、これらを備えた磁気記録・再生装置であって、ヘッドスライダの一部と記録媒体との接触によりヘッドスライダの記録媒体に対する相対的位置を検出した後、ヘッドスライダと記録媒体とが非接触の状態で記録媒体への情報記録または記録媒体からの情報再生が行われる方式を採用した磁気記録・再生装置や、ヘッドスライダの一部と記録媒体とが接触した状態で記録媒体への情報記録または記録媒体からの情報再生が行われる方式を採用した磁気記録・再生装置に特に有用である。
【実施例】
【0045】
次に実施例および比較例を詳述する。なお、次の測定法を採用した。
【0046】
(SFE)
ジョードメタン、水を用い、その接触角を測定することにより、SFEを解析した。解析法はD. K. Owens & R. C. Wendt の幾何平均則にしたがって求めた。
【0047】
γdは分散成分のSFE,γpは極性成分のSFE,γtotはγdとγpとの合計を意味する。表面自由エネルギーの測定位置は、図4に示すように、円板状の表面処理対象面上で任意的に0°を決め、図4の90°と180°の場所について測定を実施し、その平均値を採用した。なお、単にSFEと記した場合は、γtotに該当する。
【0048】
(コート層の平均膜厚)
エリプソメータ(ヘッド上でのビーム径100umX30um、He−Neレーザー、入射角70°)でΨ、Δを測定し、それを元に、コート層の屈折率1.3、消衰係数を0として、解析した。
【0049】
[実施例1] (極薄膜、均質、かつ低表面自由エネルギー面の作成方法)
図5に示す装置を用いることで、所望の表面が作成できることが判明した。本例は、表面処理対象面を有する物体上に、処理面を形成するための装置の概略断面図である。図5では、表面処理対象面を有する物体として、磁気層上に保護層を有し、その上には潤滑層のない磁気記録媒体を用い、保護層の自由表面を表面処理対象面として用いた。CVD法によって形成したアモルファスカーボン(膜厚3.5nm)よりなる保護層を用いた。
【0050】
磁気記録媒体1は、表面処理対象面2を下に向けて、チャンバー3中に置かれており、チャンバー3内の表面処理対象面2の下側には、紫外線ランプ4が、表面処理対象面を照射できるように配置されている。含フッ素有機物含有気体は、適切な気体(図1ではHe,Ar,Nを例示)と混合して、表面処理対象面2と紫外線ランプ4との間の空間5に流し込む。図5では、液体状の含フッ素有機物6中に気体7を流し込んでいるが、それ以外の方法であってもよい。また、場合によっては、含フッ素有機物、含フッ素有機物含有気体等を加熱することにより、または、系を減圧にすることにより、含フッ素有機物の揮発または蒸発を促進してもよい。なお、酸素等の紫外線の作用を阻害する物質が系にある場合には、それらを減少させまたは除去することが好ましい。酸素の場合は、50重量ppm以下に抑え得ることが好ましい。
【0051】
このような状況下で紫外線照射を行い、表面処理対象面を処理する。
【0052】
なお、図1は単なる例示であり、当業者ならば、この装置に改良を加え、例えば連続処理装置にすることも容易であろう。
【0053】
[実施例2] (磁気記録媒体上への応用)
実施例1記載の装置を使用して磁気記録媒体の表面を処理した。使用した磁気記録媒体は、磁性層の上に、FCA法により作製したDLCからなる磁気記録媒体保護層を設けたもので、この磁気記録媒体保護層の自由表面を表面処理対象面として使用した。
【0054】
含フッ素有機物としてはn−パーフルオロへプタンを用い、窒素ガスで置換したチャンバー3内に、n−パーフルオロへプタンを10重量%含む窒素ガスを100mL/分の流速で導通した。紫外線照射源としてはキセノンエキシマランプを用いた。この場合の紫外線のエネルギーは7.2eVであり、DLCの仕事関数である約6eVよりも大きかった。この6eVは、E=hv=h/λ(h:プランクの定数、λ:波長)の式によれば、紫外線の波長に換算すると約210nmである。
【0055】
得られた結果を図6,7に示す。図6に示すように、表面自由エネルギーは紫外線照射時間と共に低下し、コート層が形成されたことが分かった。
【0056】
図7はその際のコート層厚(コートされた物質の層厚)を示すものである。n−パーフルオロへプタンの炭素のファンデアワールス半径が0.14nm、−CF−結合の繰り返しにおける同一炭素上のフッ素原子の(ファンデアワールス直径を含まない)距離が0.18nmであるので、そこから計算されたコート層1層分の層厚は0.18+0.14×2=0.46nm(約0.5nm)である。したがって、得られた結果は、磁気記録媒体の処理表面の半分ほどがコートされたことを意味しているものと思われる。
【0057】
[実施例3] (磁気記録媒体上への応用)
含フッ素有機物としてはn−パーフルオロへプタンの代わりにエチルn−パーフルオロブチルエーテル(COC)を使用した以外は、実施例1と同様の検討を行った。
【0058】
結果を図8〜10に示す。図8〜10において、菱形は図4の90°の場所における測定値であり、四角形は図4の180°の場所における測定値であることを意味する。
【0059】
図8から紫外線照射時間により膜厚が制御可能であることがわかる。実施例1で説明した、コート層1層分の層厚である約0.5nmと比べるとそれより大きな値も得られている。これは、恐らく、コート層1層分の上に更にコート層が結合して積層状態になっていることを意味するものと考えられる。
【0060】
また、図9からSFEが一定値に収束することが理解される。コート層が1層から多層になったとしてもSFEには大きな変化は考えられないことから、この収束時点でコート層の第1層が完成したと見ることができよう。この収束時点では紫外線照射が約100秒程度であり、これを図7に当て嵌めてみると、コート層1層分の層厚である約0.5nmに近い値(0.7nm程度)を示しており、この点からも、この収束時点でコート層1層分の層厚になったことが裏付けられると言えよう。
【0061】
なお、図10は図8,9から得られる、SFEとコート層厚との関係を示した図である。この図から、0.5〜0.7nm程度の膜厚で25mN/m以下のSFEが得られることがわかる。現状の保護層に設けられる潤滑層では、25mN/mのSFEを実現するためには1nm程度の膜厚が必要であり、これより小さい膜厚では、SFE値が上昇するとともに、潤滑層表面への汚染物質の付着や潤滑層上における樹脂の凝集の問題が生じるのが一般的であることを考慮すると、上記は、これらの問題に解決を与える結果であると言える。
【0062】
SFEが25mN/m、膜厚が0.5nmのサンプルについて、長時間のヘッド浮上試験を行ったところ、未処理のサンプルではヘッド表面に汚染物質が観察されたが、本条件のサンプルには観測されなかった。また、本サンプルをフッ素系有機溶媒、例えば三井フルオロデュポン社製Vertrel XFに浸漬しても、コート膜が強固に付着していることが確認された。
【0063】
[実施例4] ヘッドスライダ上への応用
本実施例はヘッドスライダ上へ含フッ素有機物を化学結合させた例である。含フッ素有機物は実施例3と同じものを用い、実施例3と同様の処理を施した。
【0064】
図11は、用いたヘッドスライダの磁気記録媒体に対向する面を示す写真である。左側の写真の黒点は表面自由エネルギーの計測位置である。右側の写真には、計測領域の名称が示されている。DLCはダイアモンドライクなアモルファスカーボンよりなる保護層を設けた部分、AlTiCは、アルミナとチタンカーバイトの焼結体よりなる保護層を設けた部分、Trailも、DLCと同様ダイアモンドライクなアモルファスカーボンよりなる保護層を設けた部分を意味する。なお、保護層上には潤滑層は設けられていなかった。図12は膜厚計測領域を示している。
【0065】
表1にSFEの測定結果を、図13に膜厚の測定結果を示した。未処理のSFEは約45mN/mであるので、表1および図13より、本表面処理により、極薄膜で低表面自由エネルギーの表面が形成されたことが理解される。
【0066】
【表1】

【0067】
[実施例5] 低分子含フッ素有機構造体の表面処理対象面に対する結合状態
図14は、ヘッドスライダ保護層上(表面処理対象面)における低分子含フッ素有機構造体の様子を示す模式図である。図14左はヘッドスライダ保護層面(ヘッドスライダ浮上面といってもよい)を正面から見た図、図14右は鳥瞰した図、図14下は原子の結合状態を示した図である。
【0068】
図14下に示すように、ヘッドスライダ保護層面には炭素からなる保護層が形成されており、保護層の表面はCF基によって被覆されている。CF基の炭素と保護層の炭素とは共有結合により結合していると考えられている。このようなヘッドスライダ保護層の表面を作成する方法としては、例えばフルオロメタンを含む気体中でヘッドスライダの浮上面に紫外線照射を行なえばよい。なお、この被覆は、ヘッドスライダを撹拌下の三井・デュポンフロロケミカル株式会社製Vertrel XF−UP中に30秒間浸漬処理した後も強固に付着していた。
【0069】
同様に、CH基によって被覆された表面を図15に、CH基によって被覆された表面を図16に、CF基によって被覆された表面を図17に、CH基によって被覆された表面を図18に、それぞれ示す。
【0070】
本明細書の実施形態の効果を検証するため、分子動力学法による数値解析を用いて記録媒体とヘッドスライダが接触した際の摩擦特性を計算した。図19〜22は、本明細書の実施形態(図14〜18)との比較に用いたヘッドスライダ保護層上(表面処理対象面)における含フッ素有機構造体の様子を示す模式図である。図19は表面をCF基で被覆したヘッドスライダ保護層、図20は表面をC基で被覆したヘッドスライダ保護層、図21はC11基で被覆したヘッドスライダ保護層、図22はパーフルオロポリエーテル(PFPE)で被覆したヘッドスライダ保護層である。図22の被覆に用いたPFPEの分子式は以下である。
【0071】
CFO−[CO]20[CFO]20−CF
ただし、図22下に示すように、PFPE分子中の炭素の一部がヘッドスライダの保護層と化学結合しており、摩擦によって移動しないようになっている。
【0072】
炭素保護層の分子モデルには、3456個の炭素原子からなる6層のダイヤモンド結晶を用いた。ただし、一般的な保護層はダイヤモンドよりも密度の低いダイヤモンドライクカーボン(DLC)であるため、密度をDLCと一致させる目的で、炭素原子間の結合長を通常の1.54Åより長い1.92Åとした。保護層の分子モデルのサイズは、いずれも7.52nm×6.51nmである。
【0073】
図14〜22の表面修飾を施したヘッドスライダを、それぞれヘッドスライダA〜Iとする場合の摩擦応力を評価した。表2に使用した含フッ素有機構造体を一覧表として示してある。
【0074】
またヘッドスライダとは別に、記録媒体の保護層と潤滑膜の分子モデル(図23)を作成した。記録媒体の炭素保護層はヘッドスライダと同様の構造だが、最表面にある炭素原子の1/4、計144箇所に±0.3eの電荷を付与し、潤滑剤分子を静電力により吸着させている。潤滑剤には水酸基を持つPFPEを用いた。原子量は2510であり、分子式は以下である。
【0075】
X−CFO−[CO]12[CFO]12−CF−X
ここで、X=CH−OCH−CH(OH)CHOHである。
【0076】
記録媒体保護層上の潤滑剤分子の数は20本であり、平均膜厚は1.0nmである。また潤滑剤分子のうち65%にあたる13本については、分子の一部を媒体保護層と化学結合させ、摩擦によって移動しないようにしている。
【0077】
分子動力学法による摩擦特性の計算方法を図24に示す。まず、図14〜22で示したヘッドスライダの分子モデルを横方向に移動させながら、10m/sの接近速度で、図23で示した記録媒体に接近させる。
【0078】
ヘッドスライダが潤滑膜と接触し、ヘッドスライダと記録媒体の保護層間の間隔が一定値に達したところで接近速度を0m/sとし、そのまま0.5nsの時間せん断を加え、保護層に加わる垂直応力と摩擦応力の時間変化を計算した。
【0079】
このとき、解析領域の端から流出した分子が反対側の端から流入する、いわゆる周期境界条件を用いているため、実質的には無限の広さをもつ平面を解析していることになる。ヘッドスライダの横方向への移動速度は50m/sとした。保護層の全ての炭素原子をこの速度に拘束した。また、記録媒体の保護層の全炭素原子は速度が0m/sとなるように拘束した。解析中の系の温度は、Loose coupling法を用いて300Kの一定温度となるように調整した。
【0080】
以上の条件で数値解析を行い、各ヘッドスライダの摩擦応力および垂直応力の変化を計算した。結果を図25に示す。図25左は垂直応力の時間変化、図25右は摩擦応力の時間変化である。図25の結果から、各応力が収束したと判断される後の0.4〜0.5nsの平均値を計算し、その垂直応力と摩擦応力とから摩擦係数を算出した。
【0081】
結果を表3および図26にまとめた。摩擦係数は、ヘッドスライダF〜Iが0.285〜0.334と0.3前後だったのに対し、ヘッドスライダA〜Eでは0.160〜0.222と顕著に低い結果となった。これは、低分子で被覆されたヘッドスライダA〜Eでは、図14〜18に見られるように、ヘッドスライダ保護膜上の含フッ素有機構造体が小さく、したがってその表面の平坦性が高いのに対し、ヘッドスライダG〜Iでは、図20〜22に見られるように、被覆分子の原子数が増加したことで含フッ素有機構造体の表面の凹凸が増大し、その結果、記録媒体上の潤滑剤分子を引き摺ってしまう場合が多くなったため、摩擦係数が増加したものと考えられる。
【0082】
なお、図19に見られるように、ヘッドスライダFは、低分子ではあるが、摩擦係数が増加した。これは、CF基が壁面に対して垂直に伸びていることと、曲げ剛性が比較的強いことから摩擦係数が増加したものと考えられる。
【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
以上に示したように、上記のごとく、磁気記録媒体に対し、記録および/または再生を行うための記録変換素子を備えたヘッドスライダであって、磁気記録媒体に面する側のヘッドスライダ上にヘッドスライダ保護層を有し、更に、ヘッドスライダ保護層上に、付着後の構成原子数が3〜4となるような低分子からなる含フッ素有機構造体を含む被膜を形成することにより、ヘッドスライダ浮上面の表面自由エネルギの低減と同時に、摩擦係数の上昇を抑えることが可能となることが判明した。したがって、ヘッドスライダと記録媒体が接触した場合もヘッドスライダに過大な摩擦が発生せず、故障の発生を抑制できる効果が得られるものと考えられる。
【0086】
なお、上記に開示した内容から、下記の付記に示した発明が導き出せる。
【0087】
(付記1) 含フッ素有機物を含む気体中で表面処理対象面に紫外線照射を行って、当該表面処理対象面上にコート層を形成する、表面処理方法。
【0088】
(付記2) 前記含フッ素有機物が、炭素数が1〜10の含フッ素アルカン、炭素数が1〜10の含フッ素アルケン、それらの炭素間に酸素が介在するエーテルおよびこれらの混合物からなる群から選ばれたものである、付記1に記載の表面処理方法。
【0089】
(付記3) 前記含フッ素有機物が、モノフルオロメタン、ジフルオロメタン、トリフルオロメタンまたはこれらの混合物である、付記2に記載の表面処理方法。
【0090】
(付記4) 前記紫外線のエネルギーが前記表面処理対象面を構成する材料の仕事関数よりも高い、付記1〜3のいずれかに記載の表面処理方法。
【0091】
(付記5) 前記コート層の平均厚さが0.5nm以下である、付記1〜4のいずれかに記載の表面処理方法。
【0092】
(付記6) 磁気記録・再生装置用の磁気記録媒体の製造方法において、
当該磁気記録媒体の磁性層上に磁気記録媒体保護層を設け、
含フッ素有機物を含む気体中で当該磁気記録媒体保護層の表面に紫外線照射を行って、当該表面上にコート層を形成する
ことを含む、磁気記録媒体の製造方法。
【0093】
(付記7) 前記含フッ素有機物が、炭素数が1〜10の含フッ素アルカン、炭素数が1〜10の含フッ素アルケン、それらの炭素間に酸素が介在するエーテルおよびこれらの混合物からなる群から選ばれたものである、付記6に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0094】
(付記8) 前記紫外線のエネルギーが前記表面処理対象面を構成する材料の仕事関数よりも高い、付記6または7に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0095】
(付記9) 前記コート層の平均厚さが0.5nm以下である、付記6〜8のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0096】
(付記10) 磁気記録・再生装置用のヘッドスライダの製造方法において、
当該ヘッドスライダの磁性層上にヘッドスライダ保護層を設け、
含フッ素有機物を含む気体中で当該ヘッドスライダ保護層の表面に紫外線照射を行って、当該表面上にコート層を形成する
ことを含む、ヘッドスライダの製造方法。
【0097】
(付記11) 前記含フッ素有機物が、モノフルオロメタン、ジフルオロメタン、トリフルオロメタンまたはこれらの混合物である、付記10に記載のヘッドスライダの製造方法。
【0098】
(付記12) 前記紫外線のエネルギーが前記表面処理対象面を構成する材料の仕事関数よりも高い、付記10または11に記載のヘッドスライダの製造方法。
【0099】
(付記13) 前記コート層の平均厚さが0.5nm以下である、付記10〜12のいずれかに記載のヘッドスライダの製造方法。
【0100】
(付記14) 磁性層と、当該磁性層上にある磁気記録媒体保護層とを含む磁気記録媒体であって、処理対象面である当該磁気記録媒体保護層面の上に付記1〜5のいずれかに記載の方法で紫外線照射を行って作製されたコート層を有する、磁気記録媒体。
【0101】
(付記15) 磁気記録媒体に対し、記録および/または再生を行うための記録変換素子を備えたヘッドスライダであって、当該磁気記録媒体に面する側のヘッドスライダ面に、ヘッドスライダ保護層を有し、処理対象面である当該ヘッドスライダ保護層面の上に付記1〜5のいずれかに記載の方法で紫外線照射を行って作製されたコート層を有する、ヘッドスライダ。
【0102】
(付記16) 磁気記録媒体に対し、記録および/または再生を行うための記録変換素子を備えたヘッドスライダであって、当該磁気記録媒体に面する側のヘッドスライダ上にヘッドスライダ保護層を有し、当該ヘッドスライダ保護層上に、付着後の構成原子数が3〜4となるような低分子からなる含フッ素有機構造体を含む被膜が形成された、ヘッドスライダ。
【0103】
(付記17) 前記ヘッドスライダ保護層と前記含フッ素有機構造体との間に1価または2価の共有結合が存在する、付記16に記載のヘッドスライダ。
【0104】
(付記18) 前記ヘッドスライダ保護層上に形成された被覆を構成する含フッ素有機構造体が、・CH(ここで、nおよびmは0または正の整数であり、0≦n≦2、1≦m≦3、2≦(n+m)≦3を満たす。左側の「・」はヘッドスライダ保護層との結合を示す)である、付記16または17に記載のヘッドスライダ。
【0105】
(付記19) 付記15〜18のいずれかに記載のヘッドスライダを備えた磁気記録・再生装置であって、ヘッドスライダの一部と記録媒体との接触によりヘッドスライダの記録媒体に対する相対的位置を検出した後、ヘッドスライダと記録媒体とが非接触の状態で記録媒体への情報記録または記録媒体からの情報再生が行われる方式を採用した磁気記録・再生装置。
【0106】
(付記20) 付記15〜18のいずれかに記載のヘッドスライダを備えた磁気記録・再生装置であって、ヘッドスライダの一部と記録媒体とが接触した状態で記録媒体への情報記録または記録媒体からの情報再生が行われる方式を採用した磁気記録・再生装置。
【符号の説明】
【0107】
1 磁気記録媒体
2 表面処理対象面
3 チャンバー
4 紫外線ランプ
5 空間
6 含フッ素有機物
7 気体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素有機物を含む気体中で表面処理対象面に紫外線照射を行って、当該表面処理対象面上にコート層を形成する、表面処理方法。
【請求項2】
前記含フッ素有機物が、炭素数が1〜10の含フッ素アルカン、炭素数が1〜10の含フッ素アルケン、それらの炭素間に酸素が介在するエーテルおよびこれらの混合物からなる群から選ばれたものである、請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項3】
磁性層と、当該磁性層上にある磁気記録媒体保護層とを含む磁気記録媒体であって、処理対象面である当該磁気記録媒体保護層面の上に請求項1または2に記載の方法で紫外線照射を行って作製されたコート層を有する、磁気記録媒体。
【請求項4】
磁気記録媒体に対し、記録および/または再生を行うための記録変換素子を備えたヘッドスライダであって、当該磁気記録媒体に面する側のヘッドスライダ面に、ヘッドスライダ保護層を有し、処理対象面である当該ヘッドスライダ保護層面の上に請求項1または2に記載の方法で紫外線照射を行って作製されたコート層を有する、ヘッドスライダ。
【請求項5】
磁気記録媒体に対し、記録および/または再生を行うための記録変換素子を備えたヘッドスライダであって、当該磁気記録媒体に面する側のヘッドスライダ上にヘッドスライダ保護層を有し、当該ヘッドスライダ保護層上に、付着後の構成原子数が3〜4となるような低分子からなる含フッ素有機構造体を含む被膜が形成された、ヘッドスライダ。
【請求項6】
前記ヘッドスライダ保護層と前記含フッ素有機構造体との間に1価または2価の共有結合が存在する、請求項5に記載のヘッドスライダ。
【請求項7】
前記ヘッドスライダ保護層上に形成された被覆を構成する含フッ素有機構造体が、・CH(ここで、nおよびmは0または正の整数であり、0≦n≦2、1≦m≦3、2≦(n+m)≦3を満たす。左側の「・」はヘッドスライダ保護層との結合を示す)である、請求項5または6に記載のヘッドスライダ。

【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図12】
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【図25】
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【図26】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2010−102812(P2010−102812A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96078(P2009−96078)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】