説明

表面処理方法および金属薄膜を有するポリイミドフィルム

【課題】 ビフェニルテトラカルボン酸系のポリイミドフィルム表面に金属薄膜を形成した金属薄膜積層ポリイミドフィルムを加熱条件下あるいは加湿条件下に置いた後でも剥離強度の低下が少ないポリイミドフィルムの表面処理方法、および金属薄膜を有するポリイミドフィルムを提供する。
【解決手段】 ビフェニルテトラカルボン酸成分を有するポリイミドフィルムの表面を過マンガン酸カリウムおよび/または過マンガン酸ナトリウムと水酸化カリウムおよび/または水酸化ナトリウムとを含む溶液で処理した後、酸処理することによって金属との接着力を改善する表面処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ポリイミドフィルムの表面処理方法の改良および金属薄膜を有するポリイミドフィルムに関するものであり、さらに詳しくはポリイミドフィルム表面に金属薄膜を形成した金属薄膜積層ポリイミドフィルムの剥離強度を改善するとともに加熱条件下あるいは加湿条件下に置いた後でも比較的大きな剥離強度を維持するポリイミドフィルムの表面処理方法および金属薄膜を有するポリイミドフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
カメラ、パソコン、液晶ディスプレイなどの電子機器類への用途として芳香族ポリイミドフィルムは広く使用されている。芳香族ポリイミドフィルムをフレキシブルプリント板(FPC)やテ−プ・オ−トメイティッド・ボンディング(TAB)などの基板材料として使用するためには、エポキシ樹脂などの接着剤を用いて銅箔を張り合わせる方法が採用されている。
【0003】
芳香族ポリイミドフィルムは高耐熱性、機械的強度、電気的特性などが優れているが、接着剤の高耐熱性等が劣るため、本来のポリイミドの特性を損なうことが指摘されている。このような問題を解決するために、接着剤を使用しないでポリイミドフィルムにニッケルやクロムなどの金属を蒸着して銅を電気メッキしたり、銅箔にポリアミック酸溶液を塗布し、乾燥、イミド化したり、熱可塑性ポリイミドで熱圧着させたオ−ルポリイミド基材が開発されている。しかし、これらオ−ルポリイミドの銅張板は、接着強度が小さいとか電気特性が損なわれるという問題点が指摘されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ポリイミドフィルムと銅層との間にポリイミド接着剤をサンドイッチ状に接合したポリイミドラミネ−トが知られている。しかし、このポリイミドラミネ−トでは、低熱線膨張のビフェニルテトラカルボン酸系ポリイミドフィルムについては接着強度が小さく使用できないという問題がある。
【0005】
このため、ロ−ルラミネ−ト法で、熱融着性のポリイミドとして特定の芳香族ジアミンによって得られたものを使用する方法が提案されている。しかし、これらの方法によって得られるポリイミド銅張板でも、加湿条件下に置いた後の剥離強度が小さかったり、金属層の厚みを小さくすることが不可能な場合があり金属層の厚みを自由に変えることが困難であった。
【0006】
また、メッキ法の改良として、特許文献2が知られている。前記公報によれば、ポリイミドフィルムの表面を過マンガン酸ナトリウムや過マンガン酸カリウムなどの過マンガン酸塩あるいは次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸カリウムなどの次亜塩素酸塩の水溶液で処理して親水化するポリイミドフィルムの表面処理方法、及びこの処理面に無電解メッキしてニッケルあるいはコバルトの金属薄層を形成し、場合によりさらに無電解メッキして銅層を形成した後、電気メッキして銅層を形成した銅ポリイミド基板は高温環境下に長時間放置による密着強度の低下が無視できるとされる。
【0007】
しかし、上記の公報に記載されているポリイミドフィルムはピロメリット酸系のカプトン(東レ・デュポン社)であり、この発明者らが前記の表面処理方法をビフェニルテトラカルボン酸系のポリイミドフィルムに適用したところ、効果がないことが明らかになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
特許文献1 米国特許第4543295号公報
特許文献1 特開平6−21157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明の目的は、ビフェニルテトラカルボン酸系のポリイミドフィルム表面に金属薄膜を形成した金属薄膜積層ポリイミドフィルムを加熱条件下あるいは加湿条件下に置いた後でも剥離強度の低下が少ないポリイミドフィルムの表面処理方法、および金属薄膜を有するポリイミドフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、この発明は、ビフェニルテトラカルボン酸成分を有するポリイミドフィルムの表面を過マンガン酸カリウムおよび/または過マンガン酸ナトリウムと水酸化カリウムおよび/または水酸化ナトリウムとを含む溶液で浸漬処理した後、酸処理することによって金属との接着力を改善することを特徴とする表面処理方法に関する。
【0011】
また、この発明は、前記の表面処理方法によって金属との接着力を改善したポリイミドフィルムに、蒸着法もしくは蒸着法とメッキ法との組み合わせによって金属膜を形成してなる金属薄膜を有するポリイミドフィルムに関する。
【0012】
この発明においては、ビフェニルテトラカルボン酸成分を有するポリイミドフィルムの表面を過マンガン酸カリウムおよび/または過マンガン酸ナトリウムと水酸化カリウムおよび/または水酸化ナトリウムとを含む溶液で浸析、吹き付けなどによって処理した後、酸処理することを組み合わせることが重要であり、これによってビフェニルテトラカルボン酸成分を有するポリイミドフィルムであっても、フィルム表面に金属薄膜を形成した金属薄膜積層ポリイミドフィルムを加熱条件下あるいは加湿条件下に置いた後の剥離強度の低下を少なくすることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、ポリイミドフィルム表面に金属薄膜を形成した金属薄膜を有するポリイミドフィルムを加熱条件下または加湿条件下に置いた後でも比較的大きな剥離強度を維持するポリイミドフィルムが得られる。また、この発明によれば、加熱条件下または加湿条件下に置いた後でも比較的大きな剥離強度を維持する金属薄膜を有するポリイミドフィルムが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下にこの発明の好ましい態様を列記する。
1)アルカリ過マンガン酸処理が、過マンガン酸カリウムおよび/または過マンガン酸ナトリウムを10〜100g/Lの濃度と水酸化カリウムおよび/または水酸化ナトリウムを10〜100g/Lの濃度で含み20〜85℃の水溶液に10〜600秒間程度浸析して行われる前記の表面処理方法。
2)さらに表面をプラズマ処理する前記の表面処理方法。
【0015】
3)ポリイミドフィルムが、ビフェニルテトラカルボン酸系の高耐熱性ポリイミド層の両面にビフェニルテトラカルボン酸系熱可塑性ポリイミド層が積層された多層ポリイミドフィルムである前記の表面処理方法。
4)蒸着法によって設けられる第一蒸着層金属が、ニッケル、クロム、コバルト、パラジウム、モリブデン、タングステン、チタン、ジルコニウムのいずれかで厚みが1〜30nmであり、第二金属層が蒸着法もしくは蒸着法とメッキ法によって設けられる金属がニッケル、コバルト、またはこれらの合金、Cuのいずれかで、厚みが0.1〜2.0μmであり、さらにメッキ法による最外層が厚みが0〜30μmの銅層である前記の金属薄膜を有するポリイミドフィルム。
【0016】
この発明においてはポリイミドフィルムとして、好適には3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下単にs−BPDAと略記することもある。)と4,4’−ジアミノジフェニルエ−テル(以下単にDADEと略記することもある。)と、場合によりさらにパラ−フェニレンジアミン(以下単にPPDと略記することもある。)、場合によりさらにピロメリット酸二無水物(以下単にPMDAと略記することもある。)と3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)とから製造される厚みが5〜120μmのs−BPDA−DADE系(s−BPDAおよびDADEを含有することを意味する。)ポリイミドフィルムが挙げられる。
【0017】
前記のポリイミドフィルムの物性を損なわない範囲で、他の種類の芳香族テトラカルボン酸二無水物や芳香族ジアミン、例えば4,4’−ジアミノジフェニルメタン等を使用してもよい。また、前記の芳香族テトラカルボン酸二無水物や芳香族ジアミンの芳香環に置換基、たとえば水酸基、メチル基あるいはメトキシ基などを導入してもよい。
【0018】
特に、この発明におけるビフェニルテトラカルボン酸系ポリイミドフィルムとして、高耐熱性ポリイミド層の両面にTg(ガラス転移温度)が200〜300℃のビフェニルテトラカルボン酸系熱可塑性ポリイミド層が積層された多層ポリイミドフィルムが好適である。前記のビフェニルテトラカルボン酸系ポリイミドフィルムとしては、ビフェニルテトラカルボン酸系熱可塑性ポリイミド層の厚みが1〜10μmで、高耐熱性ポリイミド層の厚みが5〜120μmであり全体の厚みが7〜125μm程度であるビフェニルテトラカルボン酸系多層ポリイミドフィルムが高いレベルの寸法精度および剛性を有しており好適である。
【0019】
上記の高耐熱性ポリイミドとしては、単層のポリイミドフィルムの場合にガラス転移温度が約350℃未満程度の温度では確認不可能であるものが好ましく、特に線膨張係数(50〜200℃)(MD、TDおよびこれらの平均のいずれも)が5×10−6〜25×10−6cm/cm/℃であるものが好ましい。この高耐熱性ポリイミドは、最終的に得られるポリイミドフィルムの線膨張係数およびガラス転移温度が前記の範囲であれば任意のテトラカルボン酸成分および芳香族ジアミンを略1:1となるようにランダム重合、ブロック重合、ブレンド、あるいはあらかじめ2種類以上のポリアミック酸溶液を合成しておき各ポリアミック酸溶液を混合してポリアミック酸の再結合によって共重合体を得る、いずれの方法によっても得られる。
【0020】
その中でも特に、高耐熱性ポリイミドとして、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラ−フェニレンジアミンと場合によりさらに4,4’−ジアミノジフェニルエ−テルと、場合によりさらにピロメリット酸二無水物(以下単にPMDAと略記することもある。)および/または3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)とから得られるs−BPDA−PPD系(s−BPDAおよびPPDを含有することを意味する。)ポリイミドフィルムが好適である。
【0021】
前記の熱可塑性ポリイミドを与える芳香テトラカルボン酸成分としては、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、a−BPDAと略記することもある。)および3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が挙げられ、その一部をピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物などで置き換えてもよい。
【0022】
また、熱可塑性ポリイミドを与える芳香族ジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルエ−テル、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシベンゼン)、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)ジフェニルエ−テル、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)ジフェニルメタン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルエ−テル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルメタン、2,2−ビス〔4−(アミノフェノキシ)フェニル〕プロパンなどの複数のベンゼン環を有する柔軟な芳香族ジアミンを挙げることができる。
【0023】
前記芳香族ジアミンの一部を、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカンなどの脂肪族ジアミン、ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサンなどのジアミノジシロキサンによって置き換えてもよい。また、前記の熱可塑性ポリイミドのアミン末端を封止するためにジカルボン酸類、例えば、無水フタル酸およびその置換体、ヘキサヒドロ無水フタル酸およびその置換体、無水コハク酸およびその置換体やそれらの誘導体など、特に、無水フタル酸を使用してもよい。
【0024】
前記の各ポリイミドは、前記各成分と、さらに場合により他のテトラカルボン酸二無水物および他のジアミンとを、有機溶媒中、約100℃以下、特に20〜60℃の温度で反応させてポリアミック酸の溶液とし、このポリアミック酸の溶液をド−プ液として使用できる。この発明におけるポリイミドフィルムを得るためには、前記の有機溶媒中、酸の全モル数(テトラ酸二無水物とジカルボン酸の総モルとして)の使用量がジアミン(モル数として)に対する比として、好ましくは0.92〜1.1、特に0.98〜1.1、そのなかでも特に0.99〜1.1であるような割合が好ましい。
【0025】
また、ポリアミック酸のゲル化を制限する目的でリン系安定剤、例えば亜リン酸トリフェニル、リン酸トリフェニル等をポリアミック酸重合時に固形分(ポリマ−)濃度に対して0.01〜1%の範囲で添加することができる。また、イミド化促進の目的で、ド−プ液中に塩基性有機化合物系触媒を添加することができる。例えば、イミダゾ−ル、2−イミダゾ−ル、1,2−ジメチルイミダゾ−ル、2−フェニルイミダゾ−ルなどをポリアミック酸(固形分)に対して0.01〜20重量%、特に0.5〜10重量%の割合で使用することができる。これらは比較的低温でポリイミドフィルムを形成するため、イミド化が不十分となることを避けるために使用する。
【0026】
また、熱可塑性ポリイミド原料ド−プに有機アルミニウム化合物、無機アルミニウム化合物または有機錫化合物を添加してもよい。例えば水酸化アルミニウム、アルミニウムトリアセチルアセトナ−トなどをポリアミック酸(固形分)に対してアルミニウム金属として1ppm以上、特に1〜1000ppmの割合で添加することができる。
【0027】
前記のポリアミック酸を得るために使用する有機溶媒は、高耐熱性ポリイミドおよび熱可塑性ポリイミドのいずれに対しても、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチルカプロラクタム、クレゾ−ル類などが挙げられる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
前記の多層ポリイミドフィルムの製造においては、好適には共押出し−流延製膜法、例えば上記の高耐熱性ポリイミドのポリアミック酸溶液の片面あるいは両面に熱可塑性ポリイミドまたはその前駆体の溶液を共押出して、これをステンレス鏡面、ベルト面等の支持体面上に流延塗布し、100〜200℃で半硬化状態またはそれ以前の乾燥状態とする方法が好適である。この半硬化状態またはそれ以前の状態とは、加熱および/または化学イミド化によって自己支持性の状態にあることを意味する。
【0029】
前記高耐熱性ポリイミドを与えるポリアミック酸の溶液と熱可塑性ポリイミドを与えるポリアミック酸の溶液との共押出しは、例えば特開平3−180343号公報(特公平7−102661号公報)に記載の共押出法によって三層の押出し成形用ダイスに供給し、支持体上にキャストしておこなうことができる。
【0030】
前記の高耐熱性ポリイミドを与える押出し物層の片面または両面に、熱可塑性ポリイミドを与えるポリアミック酸溶液を積層して多層フィルム状物を形成して乾燥後、熱可塑性ポリイミドのガラス転移温度以上で劣化が生じる温度以下の温度、好適には300〜500℃の温度(表面温度計で測定した表面温度)まで加熱して(好適にはこの温度で1〜60分間加熱して)乾燥およびイミド化して、高耐熱性ポリイミド層(基体層)の片面または両面、好適には両面に熱可塑性ポリイミドを有する多層ポリイミドフィルムを製造することができる。
【0031】
また、前記高耐熱性ポリイミド層の厚さは5〜120μm、特に5〜70μm、その中でも5〜40μmであることが好ましい。5μm未満では作成した多層ポリイミドフィルムの機械的強度、寸法安定性に問題が生じる。また120μmより厚くなると溶媒の除去、イミド化に難点が生じる。また、前記熱可塑性ポリイミド層の厚みは各々1〜10μm、特に2〜5μm程度が好ましい。1μm未満では接着性能が低下し、10μmを超えても使用可能であるがとくに効果はなく、むしろポリイミドフィルムの耐熱性が低下する。
【0032】
また、多層ポリイミドフィルムは厚みが7〜125μm、その中でも7〜50μmであることが好ましい。7μm未満では作成したフィルムの取り扱いが難しく、125μmより厚くなると溶媒の除去、イミド化に難点が生じる。前記の共押出し−流延製膜法によれば、高耐熱性ポリイミド層とその片面または両面の熱可塑性ポリイミドとを強固に積層させることができ、良好な電気特性および機械特性を有する多層ポリイミドフィルムを得ることができる。
【0033】
この発明においては、前記のビフェニルテトラカルボン酸成分を有するポリイミドフィルムの表面を過マンガン酸カリウムおよび/または過マンガン酸ナトリウムと水酸化カリウムおよび/または水酸化ナトリウムとを含む溶液に浸析などで処理した後、酸処理することによって表面処理する。
【0034】
前記の浸析処理において、過マンガン酸カリウムおよび/または過マンガン酸ナトリウムを10〜100g/Lの濃度と水酸化カリウムおよび/または水酸化ナトリウムを10〜100g/Lの濃度で含み20〜85℃の水溶液に10〜600秒間程度前記ポリイミドフィルムを浸析して行うことが好ましい。浸析処理の前にジエチレングリコ−ルモノブチルエ−テル(25%)とエチレングリコ−ル(10%)と水酸化ナトリウム(1〜10g/L)との混合水溶液などで表面を膨潤化する処理を入れてもかまわない。また、前記の浸析処理はバッチ法でも行うことができるが、連続的に行うことが好ましい。
【0035】
前記の方法によって浸析処理し、次いで酸処理してポリイミドフィルム表面を中和する。前記の酸処理の条件については特に制限はないが、硫酸、塩酸、硝酸などの無機酸や酢酸、蟻酸などの有機酸、好適には硫酸で処理し、好適には水洗浄して処理を完了する。前記の表面処理に続いて、第一層金属薄膜を形成する直前に、さらに表面をプラズマ処理することにより、フィルム表面を清浄化して金属との接着力をさらに改善することが好ましい。
【0036】
この発明においては、前記の表面処理方法によって金属との接着力を改善したポリイミドフィルムの表面処理面に、蒸着法または蒸着法と無電解メッキおよび/または電気メッキのメッキ法との組み合わせによって金属膜を形成して、金属薄膜を有するポリイミドフィルムを得ることができる。
【0037】
この発明において、前記ポリイミドフィルムの表面処理面への金属蒸着は、第一蒸着金属層と順次積層される金属膜からなる第二金属層との2層から形成してもよい。前記ポリイミドフィルムの表面処理面に蒸着する第一蒸着金属層を構成する金属としては、ポリイミドと他に順次積層される第二蒸着層との密着性を強固にするもの、熱による拡散がなく、強固であること、薬品性や耐熱性が良いこと等が重要である。このため、ニッケル、クロム、コバルト、パラジウム、モリブデン、タングステン、チタン、ジルコニウムの群から選択した1種以上を用いることが好適である。
【0038】
前記の場合、第一蒸着金属層の蒸着膜厚は、1〜30nmの範囲が好適である。これらの範囲において接着力の増強および熱負荷後の耐久性を保持することが必要である。前記蒸着膜厚が1nm未満では、ポリイミドフィルムとの密着性が不足し、耐薬品性、耐熱性も不十分となるため好ましくない。一方、蒸着膜厚が30nmを越えると、第一蒸着金属層の内部で凝集破壊を起こし、接着力の低下を引き起こす。またエッチングの効率の面でも好ましくない。
【0039】
この発明の表面処理法によれば、フィルム表面に図1のSEM観察図で示すように多数の凹凸が形成される。このため、第一蒸着金属層はポリイミドフィルム表面処理面(片面または両面)に、フィルムの表面より内にむけた厚み方向に、蒸着金属がフィルムに混在するように形成されることが接着力の増強および熱負荷後の耐久性を保持するのに必要である。ポリイミドフィルムの表面から好適には1nm以上、より好ましくは、2nm以上の深部より蒸着金属がフィルムに混在するように形成される。この蒸着金属がポリイミドフィルム中より形成されることによる投錨効果により、形成する蒸着層が強固なものとなると考えられる。
【0040】
第一蒸着金属層は、ポリイミドフィルムの表面処理面(片面または両面)に好適には加熱蒸着法、スパッタリング法、イオンプレ−ティング法、イオンアシスト法で蒸着させて形成する。前記の第一蒸着層金属の蒸着条件として、蒸着膜を形成する時の真空度は、予め5×10−4Pa以下の高真空とすることが好ましい。スパッタリング法の場合、ガス圧は5Pa以下とすることが加工安定性と膜の緻密化の観点から好ましい、さらに5×10−1Pa以下に保持することが好ましい。用いられるガス種はアルゴン、ネオン、クリプトン、ヘリウム等の稀ガスの他に窒素、水素も採用できるが、アルゴン、窒素が安価でより好ましい。
【0041】
蒸着直前にフィルム温度を予め30〜280℃の範囲に温めることがフィルムに吸着した水分による金属膜の酸化防止、膜の緻密化と均一化を高めるために好ましい。さらに30〜120℃とするのがより好ましい。280℃を越えると加工後に未冷却からくるブロッキング、加工中のしわの発生などで好ましくない。この加熱は加熱ロ−ルや蒸着直前での加熱用ヒ−タ−を用いてもかまわない。また、加熱後第一層金属薄膜を形成する直前に、さらに表面をプラズマ処理することにより、フィルム表面の清浄化を行い金属との接着力をさらに改善することが好ましい。
【0042】
前記第一蒸着金属層上に銅の第二蒸着層を形成する場合、銅の第二蒸着層はスパッタリング法、イオンプレ−ティング法、電子ビ−ム蒸着法等で銅を蒸着して形成する。銅の第二蒸着層厚は10nm〜5μmの範囲が好ましく、100〜500nmの範囲がより好ましい。蒸着膜厚は10nm未満では、メッキ用の金属下地層として充分に果たせないので好ましくない。また、5μmを越えるとコストが上昇するので好ましくない。
【0043】
第一蒸着金属層と第二蒸着層の蒸着加工はフィルム走行中に、順次連続しても非連続で実施してもかまわない。たとえば、一旦第一蒸着金属層を施した該蒸着ポリイミドフィルムを逆方向に搬送して次の第二蒸着層の蒸着を行ってもかまわない。ただし、第一金属層を蒸着後に一度真空系を解放してしまうのは、第一金属層が酸化してしまうため、接着力の点から好ましくない。
【0044】
前記第二蒸着層を形成する時の真空度は、予め5×10−5Pa以下の高真空とすることが好ましい。スパッタリング法の場合、ガス圧は5Pa以下とすることが加工安定性と膜の緻密化の観点から好ましい。さらに5×10−1Pa以下に保持することが好ましい。蒸着時に使用するガス種はアルゴン、ネオン、クリプトン、ヘリウム等の稀ガスの他に窒素、水素も採用できるが、アルゴン、窒素が安価で好ましい。
【0045】
前記第二蒸着層上には、無電解メッキおよび/または電気メッキからなるメッキ法により、銅メッキ層を形成して導体層を厚くしてもかまわない。前記銅メッキ層のメッキ膜厚は0〜20μmの範囲が好ましい。20μmを越えると高密度配線においての線幅の精度が低下することや、部品実装での軽量、小型化の面で不利となる。またコストも上昇するので好ましくない。
【0046】
この発明の金属薄膜を有するポリイミドフィルムは、そのままあるいはロ−ル巻き、エッチング、および場合によりカ−ル戻し等の各処理を行った後、必要ならば所定の大きさに切断して、電子部品用基板として使用できる。例えば、FPC、TAB、多層FPC、フレックスリジッド基板の基板として好適に使用することができる。
【実施例】
【0047】
以下、この発明を実施例によりさらに詳細に説明する。以下の各例において、金属薄膜を有するポリイミドフィルムの剥離強度は、銅メッキ後24時間経過後の未処理、150℃で24時間放置、200℃で24時間放置、および121℃で2気圧の湿度100%の雰囲気で24時間放置(PCT24H)、の各々について、10mm幅に切り出したサンプルの90°剥離強度(50mm/分の速度で剥離)を測定した。ポリイミドフィルムの機械的物性は、ASTM D882によって測定した。
【0048】
参考例1
多層ポリイミドフィルムの作成
N−メチル−2−ピロリドン中でPPDとs−BPDAとを1:1のモル比で重合させて得たモノマ−濃度が18重量%の高耐熱性ポリイミド用ド−プと、N−メチル−2−ピロリドン中でDADEとs−BPDAとを1:1モル比で重合させて得たモノマ−濃度が18重量%の熱可塑性ポリイミド製造用ド−プとを三層押出し成形用ダイス(マルチマニホ−ルド型ダイス)を設けた製膜装置を使用し、金属製支持体上に流延し、150℃の熱風で連続的に乾燥し、固化フィルムを形成した。この固化フィルムを支持体から剥離した後、加熱炉で200℃から525℃まで徐々に昇温して溶媒の除去、イミド化を行って、三層押出しポリイミドフィルムを巻き取りロ−ルに巻き取って、三層押出しポリイミドフィルムを得た。
【0049】
得られた三層押出しポリイミドフィルムは、次のような物性を示した。
厚み構成:3μm/44μm/3μm(合計50μm)
熱可塑性ポリイミドは、Tgが275℃であった。
体積抵抗>1×1015Ω・cm
この多層ポリイミドフィルムは、熱線膨張係数(50〜200℃:MD、TDとも)が10×10−6〜20×10−6×cm/cm/℃の範囲内であった。
【0050】
実施例1
前記の多層ポリイミドフィルムを次の各工程によって、順次表面処理した。
1.処理1
過マンガン酸カリ:60g/Lと水酸化ナトリウム:45g/Lの水溶液に1分間浸漬後、水洗し、硫酸:50mL/Lで中和後、再度水洗を行い、浸漬処理を完了した。
2.処理2
スパッタリング装置に処理1で処理したフィルムを基板フォルダ−に設置後、2×10−4Pa以下の真空に排気後、アルゴンを導入し、0.67Paとした後、電極に13.56MHzの高周波電力500wで1分間プラズマ処理により表面のクリ−ニングを行った。
【0051】
得られた表面処理フィルムを、次の工程によって金属膜形成した。
3.金属膜形成
前記の工程に連続して、アルゴン0.67Pa雰囲気下、10nmのクロム薄膜を形成後、0.4μmの銅薄膜を形成し、大気中に取り出した。さらに、酸性硫酸銅水溶液の電解メッキ液を用いて、金属膜が20μmとなるように銅メッキを施して、金属薄膜を有するポリイミドフィルムを得た。評価結果をまとめて表1に示す。
【0052】
実施例2、3
処理1で、過マンガン酸カリ:60g/Lと水酸化ナトリウム:45g/Lの水溶液に浸漬する時間を3分間(実施例2)、あるいは5分間(実施例3)に変えた他は実施例1と同様に実施して、ポリイミドフィルムを表面処理し、金属薄膜を有するポリイミドフィルムを得た。結果をまとめて表1に示す。
【0053】
比較例1
処理1を行わなかった他は実施例1と同様にして、金属薄膜を有するポリイミドフィルムを得た。初期剥離強度は0.86kg/cmであったが、150℃、200℃の各処理および121℃で2気圧の湿度100%の雰囲気で24時間放置した後の各サンプルは剥離強度が著しく低下した。結果を表1に示す(処理時間0min)。
【0054】
【表1】

【0055】
比較例2
ポリイミドフィルムとして、カプトンH(東レ・デュポン社)を使用した他は実施例1と同様にして、ポリイミドフィルムを表面処理した。処理1を行った後、フィルム表面の溶解が著しく、次の工程に進めなかった。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は、実施例1において処理1により表面処理したポリイミドフィルムのSEM観察図である。
【図2】図2は、比較例1の未処理のポリイミドフィルムのSEM観察図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビフェニルテトラカルボン酸成分を有するポリイミドフィルムの表面を過マンガン酸カリウムおよび/または過マンガン酸ナトリウムと水酸化カリウムおよび/または水酸化ナトリウムとを含む溶液で浸漬処理した後、酸処理することによって金属との接着力を改善することを特徴とする表面処理方法。
【請求項2】
浸漬処理が、過マンガン酸カリウムおよび/または過マンガン酸ナトリウムを10〜100g/Lの濃度で含みかつ水酸化カリウムおよび/または水酸化ナトリウムを10〜100g/Lの濃度で含み20〜85℃の水溶液に10〜600秒間程度浸析して行われる請求項1または2に記載の表面処理方法。
【請求項3】
酸処理した後、さらに表面をプラズマ処理する請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項4】
ポリイミドフィルムが、ビフェニルテトラカルボン酸系の高耐熱性ポリイミド層の片面または両面にビフェニルテトラカルボン酸系熱可塑性ポリイミド層が積層された多層ポリイミドフィルムである請求項1〜3のいずれかに記載の表面処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の表面処理方法によって金属との接着力を改善したポリイミドフィルムに、蒸着法もしくは蒸着法とメッキ法との組み合わせによって金属膜を形成してなる金属薄膜を有するポリイミドフィルム。
【請求項6】
蒸着法によって設けられる第一蒸着層金属が、ニッケル、クロム、コバルト、パラジウム、モリブデン、タングステン、チタン、ジルコニウムのいずれかで厚みが1〜30nmであり、第二金属層が蒸着法もしくは蒸着法とメッキ法によって設けられる金属がニッケル、コバルト、またはこれらの合金、銅のいずれかで、厚みが0.1〜2.0μmであり、さらにメッキ法による最外層が厚みが0〜30μmの銅層である請求項4に記載の金属薄膜を有するポリイミドフィルム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−144179(P2010−144179A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60(P2010−60)
【出願日】平成22年1月4日(2010.1.4)
【分割の表示】特願2001−96253(P2001−96253)の分割
【原出願日】平成13年3月29日(2001.3.29)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】