説明

表面処理材、表面処理方法、及び、表面処理ガラス

【課題】遮熱性及び耐候性に優れた表面処理材、表面処理方法、及び、表面処理ガラスを提供する。
【解決手段】表面処理対象物への表面処理に用いる表面処理材であって、前記表面処理対象物に対するバインダーを含まず、熱線反射性金属化合物を成分とする水分散液または水溶液でなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理材、表面処理方法、及び、表面処理ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
表面処理対象物に表面処理を施すための表面処理材としては、例えば、窓ガラスに塗装され、室内への熱線の進入を抑制するために、スズ、シリカなどの酸化物を混入した熱線吸収タイプの表面処理材が知られている。また、このような表面処理材にて表面処理を施す表面処理方法、及び、このような表面処理材が施された表面処理ガラスも知られている。上記のような表面処理材の中には、ガラスとのバインダーとして有機樹脂が含有されているものがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の表面処理材や表面処理ガラスは、表面処理材が熱線を吸収するので、室内へ熱線が進入しないかわりに、表面処理材が施されたガラス自体が熱を持ち、その輻射熱で室内に対する遮熱効果が低くなるという課題がある。また、表面処理材にバインダーとして有機樹脂が含有されている場合には、耐候性が低下するという課題がある。
【0004】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、遮熱性及び耐候性に優れた表面処理材、表面処理方法、及び、表面処理ガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的を達成するために本発明の表面処理材は、表面処理対象物への表面処理に用いる表面処理材であって、前記表面処理対象物に対するバインダーを含まず、熱線反射性金属化合物を成分とする水分散液または水溶液でなることを特徴とする表面処理材である。
【0006】
このような表面処理材によれば、表面処理材の成分として熱線反射性金属化合物が含まれているので、表面処理材にて表面処理された面にて、熱線を反射することが可能である。このため、表面処理対象物を透過する熱線の量を抑えて温度上昇を抑えることが可能である。このとき、熱線反射性金属化合物は熱線を反射するので、表面処理対象物も暖められ難く、効率良く温度上昇を抑えることが可能な遮熱性に優れた表面処理材を提供することが可能である。
【0007】
また、表面処理材はバインダーを含まないので、例えば有機樹脂などのバインダーを含む表面処理材より耐候性に優れている。このため、遮熱性及び耐候性に優れた表面処理材を提供することが可能である。また、バインダーを含まない表面処理材は耐光性に優れているので、従来のように屋内側に施されるだけでなく、屋外側に施すことが可能となる。
【0008】
かかる表面処理材であって、前記熱線反射性金属酸化物は、酸化チタンであることが望ましい。
このような表面処理材によれば、酸化チタンは白色なので、可視光域から近赤外線域の広い範囲にわたって、より確実に熱線を反射することが可能である。また、結晶構造がアナタ−ゼ型、ブルッカイト型の酸化チタンは、光触媒機能も有するので、室外側に使用する場合には、表面処理が施された面の汚染を防止することが可能であり、室内側に使用する場合には、空気清浄機能を得ることが可能である。
【0009】
かかる表面処理材であって、前記酸化チタンは、結晶構造がルチル型であることが望ましい。
このような表面処理材によれば、表面処理材には、結晶構造がルチル型の安価な酸化チタンが含まれているので、安価な表面処理材を提供することが可能である。
【0010】
かかる表面処理材であって、酸化銀及び酸化銅の少なくともいずれか一方が含まれていることが望ましい。
このような表面処理材によれば、表面処理材に酸化銀及び酸化銅の少なくともいずれか一方が含まれているので抗菌性を備えること、あるいは抗菌性をより向上させることが可能である。
【0011】
かかる表面処理材であって、前記酸化チタンの粒径は、0.01〜0.06μmであることが望ましい。
このような表面処理材によれば、表面処理材に含まれている酸化チタンは、粒径が0.01〜0.06μmの微粒子なので、表面処理材の透明性が阻害されない。また、酸化チタンが微粒子なので、一次粒子(粒子同士が凝集しない)で分散したゾル(粒子が水溶液中に分散したもの)ができ、バインダーを含まなくとも、塗装した後に水分が蒸発することにより熱線反射性金属化合物を表面処理対象物に付着させることが可能である。
【0012】
かかる表面処理材であって、前記酸化チタンの含有量は1%以下であることが望ましい。
このような表面処理材によれば、酸化チタンの含有量が1%以下なので、一次粒子が適切に分散してゾルを形成し、バインダーを含まなくとも、塗装した後に水分が蒸発することにより熱線反射性金属化合物を表面処理対象物に確実に付着させることが可能である。
【0013】
また、上記表面処理材を用いた表面処理方法であって、前記表面処理対象物はガラスであり、前記表面処理材にて前記ガラスの表面に表面処理を施すことを特徴とする表面処理材の塗装方法である。
このような表面処理方法によれば、熱線反射性金属化合物を成分とする水分散液または水溶液でなる表面処理材にて前記ガラスの表面に表面処理を施すだけで、水分が蒸発することにより熱線反射性金属化合物をガラスに付着させることが可能である。
【0014】
かかる表面処理方法であって、前記表面処理材は、乾燥後の塗膜厚が0.1〜5μmになるように吹き付け塗装することが望ましい。
このような表面処理方法によれば、熱線反射性金属化合物を成分とする表面処理材が、乾燥後の塗膜厚が0.1〜5μmになるように塗装されるので、塗装された表面処理材の透明性を確保することが可能である。また、表面処理材は吹き付け塗装されるので、厚塗りすることなく、乾燥後の塗膜厚が0.1〜5μmになるように容易に表面処理することが可能である。
【0015】
また、表面処理材の成分として熱線反射性金属化合物が含まれているので、表面処理材を塗装するだけで、塗装された面にて熱線を反射することが可能である。
【0016】
また、塗装される表面処理材はバインダーを含まないので、例えば有機樹脂などのバインダーを含む表面処理材より耐候性に優れている。このため、遮熱性及び耐候性に優れた表面処理材にて表面処理対象物を表面処理することが可能である。
【0017】
また、上記表面処理材にて、前記表面処理対象物であるガラスが表面処理されていることを特徴とする表面処理ガラスである。
このような表面処理ガラスによれば、熱線反射性金属化合物を成分とする水分散液または水溶液でなる表面処理材にて表面処理されているので、熱線反射性金属化合物がガラスに付着されている。このため、表面処理材にて表面処理された面にて、熱線が反射されるので、ガラスも暖められず、効率良く温度上昇を抑えることが可能な遮熱性に優れた表面処理ガラスを提供することが可能である。
【0018】
また、表面処理材にバインダーが含まれないので、例えば有機樹脂などのバインダーが含まれた表面処理材が塗装された表面処理ガラスより耐候性に優れている。このため、遮熱性及び耐候性に優れた表面処理ガラスを提供することが可能である。
【0019】
かかる表面処理ガラスであって、前記ガラスは内部に金属製の網材が設けられていても良い。
ガラス内部に金属製の網材が設けられていると、温度が上昇した際にガラスと金属との熱膨張率の違いからガラスが割れる虞があるが、上記表面処理ガラスは、熱線反射性金属化合物を成分とする表面処理材にて表面処理が施されているので、表面処理ガラスの温度が上昇しにくい。このため、金属製の網材がガラス内に設けられたガラスであっても遮熱性を備えることが可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、遮熱性及び耐候性に優れた表面処理材、表面処理方法、及び、表面処理ガラスを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
本実施形態の表面処理材は、熱線反射性金属化合物として酸化チタンを成分とする水溶液でなる表面処理材であり、表面処理対象物としての板ガラスに表面処理材にて表面処理が施された、熱線反射機能を有する表面処理ガラスを例に挙げて説明する。ここで、表面処理対象物となる板ガラスは、内部に金属製の網材が設けられた強化ガラスを用いる。
【0022】
本実施形態の表面処理材は、溶質である酸化チタン及び酸化銅が、溶媒である精製水の中に溶解した水溶液である。表面処理材に溶解される酸化チタン及び酸化銅の粒径は0.001〜10μm、より好ましくは0.01〜0.06μmであり、酸化チタン及び酸化銅が微粒子であるため表面処理材の透明性は阻害されない。この表面処理材には、強化ガラスに対するバインダーが含まれておらず、表面処理材にて表面処理を施した場合には、乾燥による水分の蒸発により酸化チタン及び酸化銅が強化ガラスの表面に付着する。ここで、本実施形態では、表面処理材にて施す表面処理とは、表面処理材を強化ガラスの表面に塗装することを示している。
【0023】
本実施形態の表面処理材には、結晶構造がルチル型の酸化チタンを用い、表面処理材は、水溶液中に約1%の酸化チタン及び1%未満の酸化銅と精製水とで構成されている。ここで、表面処理材の具体例を示す成分表を表1〜表4に示す。
【0024】

【0025】
上記表1〜4において、エタノールは表面処理材の乾燥時に蒸発するため本願でいう表面処理対象物に対するバインダーではない。また、添加物にも本願でいう表面処理対象物に対するバインダーは含まれていない。
【0026】
この表面処理材を用いた表面処理方法は、まず、例えば、板ガラス内に金属製の網材が設けられた強化ガラスの表面であって、表面処理対象となる面に対しトルエン等を用いて脱脂処理を施す。ここで、脱脂処理は、必ずしも施さなくとも良いが、脱脂処理を施すことにより、酸化チタン及び酸化銅をより確実に付着させることが可能である。
【0027】
次に、脱脂処理が施された強化ガラスの表面に、前記表面処理材を吹き付け塗装することにより表面処理を施す。このとき、表面処理材は、乾燥後の塗膜厚さが0.01〜20μm、より好ましくは0.1〜5μmになるように塗装する。これは、乾燥後の塗膜厚が厚くなり透明度が低下することを防止するためである。
【0028】
その後、表面処理材にて表面処理した強化ガラスを放置して、強化ガラス表面の表面処理材の水分及びエタノール等が蒸発することにより酸化チタン及び酸化銅の微粒子が、0.1〜5μmの膜となって強化ガラスの表面に付着して表面処理ガラスが完成する。
【0029】
本実施形態の表面処理材によれば、表面処理材の成分として熱線反射性金属化合物である酸化チタンが含まれているので、強化ガラスの、表面処理材にて表面処理された面にて、熱線を反射することが可能である。特に、酸化チタンは白色なので、可視光域から近赤外線域の広い範囲にわたって、より確実に熱線を反射することが可能である。このため、表面処理材にて表面処理が施された表面処理ガラスは熱線が照射されても、表面処理ガラス自体も暖まり難いので、効率良く温度上昇を抑えることが可能な、遮熱性に優れた表面処理材及び表面処理ガラスを提供することが可能である。
【0030】
また、本実施形態の表面処理ガラスは、表面処理対象物として、内部に金属製の網材が設けられた強化ガラスを用いているが、表面処理材が熱線を反射することにより表面処理ガラス自体が温度上昇しないので、熱膨張率の違いによる強化ガラスの割れを防止することが可能である。
【0031】
また、本表面処理材はバインダーを含まないので、例えば有機樹脂などのバインダーを含む表面処理材より耐候性に優れている。このため、遮熱性及び耐候性に優れた表面処理材及び表面処理ガラスを提供することが可能である。
【0032】
本実施形態の表面処理材には、結晶構造がルチル型の安価な酸化チタンを用いたので、安価な表面処理材及び表面処理ガラスを提供することが可能である。
【0033】
また、表面処理材には、抗菌性を有する酸化銅が含まれているので、表面処理材及び表面処理ガラスに抗菌性を備えること、あるいは抗菌性をより向上させることが可能である。
【0034】
また、表面処理材に含まれている酸化チタン及び酸化銅は、粒径が0.01〜0.06μmの微粒子であり、含有率は1%以下なので、一次粒子(粒子同士がくっつかない)で分散したゾル(粒子が水溶液中に分散したもの)ができ、バインダーを含まなくとも、表面処理した後に水分等が蒸発することにより酸化チタン及び酸化銅を強化ガラスの表面に付着させることが可能である。また、酸化チタン及び酸化銅は、粒径が0.01〜0.06μmの微粒子なので、強化ガラスに表面処理しても、表面処理材及び強化ガラスの透明性が阻害されない。特に、酸化チタンは白色であり、微粒子とすることにより、より高い透明度を確保することが可能である。ここで、透明とは、光が透過される程度の透明性を有していれば半透明や色を有していても構わず、必ずしも無色透明に限るものではない。
【0035】
上記実施形態においては、結晶構造がルチル型の酸化チタンを用いた例について説明したが、酸化チタンはルチル型に限らず、例えば、アナターゼ型、ブルッカイト型、紫外光反応型、可視光反応型、ペルオキソ型のうち、いずれか一つあるいはその組み合わせでも構わない。このとき、アナターゼ型、ブルッカイト型等の光触媒機能を有する酸化チタンを用いた表面処理材にてガラスを表面処理すると、室外側に使用した場合には、酸化チタンの超親水化によるセルフクリーニング効果が発揮されて表面処理が施された面の汚染を防止することが可能であり、室内側に使用した場合には、空気清浄機能を備えることが可能である。
【0036】
また、本実施形態の表面処理材を用いた表面処理方法によれば、酸化チタン及び酸化銅を成分とする水溶液でなる表面処理材を強化ガラスに吹き付け塗装するだけで、水分が蒸発することにより酸化チタンを強化ガラスに付着させることが可能である。
【0037】
また、酸化チタン及び酸化銅を成分とする表面処理材が、乾燥後の塗膜厚が0.1〜5μmになるように表面処理されるので、表面処理された表面処理材の透明性を確保することが可能である。また、表面処理材は吹き付け塗装されるので、厚塗りすることなく、乾燥後の塗膜厚が0.1〜5μmになるように容易に塗装することが可能である。
【0038】
上記実施形態においては、表面処理材を、酸化チタン及び酸化銅を成分とする水溶液としたが、これに限らず、例えば、酸化チタン及び酸化銅を成分とする水分散液であっても構わない。このとき、酸化銅は必ずしも含まれていなくても良い。また、抗菌性を有する熱線反射性金属化合物として酸化銅を用いた例について説明したが、これに限らず酸化銀等であっても構わない。
【0039】
また、上記実施形態においては、表面処理対象物として金属製の網材を有する強化ガラスを用いた例について説明したが、これに限るものではなく、金属製材、コンクリート等セメント組成物製材、木製材等、あるいはこれらを塗装した塗装面に適用してもよい。
【0040】
また、上記実施形態においては、強化ガラスにおいて表面処理材にて表面処理される面を特定していないが、強化ガラスのいずれか一方の面であっても、表裏両面であっても構わない。このとき、表面処理材にて表面処理される面が、建物等に取り付けられたときに室外側となる面である場合には、熱線をガラスの室外側の面にて反射するので、ガラスの内部に到達する熱線の量を低減することが可能であり、より効率良く温度上昇を抑えることが可能である。
【0041】
また、上記実施形態では、表面処理材にて表面処理する方法として、表面処理材を吹き付け塗装する例について説明したが、表面処理材にて表面処理する方法は、吹き付け塗装に限るものではなく、塗布を含む塗装など、表面処理材を用いて表面処理対象物の表面に熱線反射性金属化合物を付着させることができれば構わない。
【0042】
また、上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面処理対象物への表面処理に用いる表面処理材であって、
前記表面処理対象物に対するバインダーを含まず、熱線反射性金属化合物を成分とする水分散液または水溶液でなることを特徴とする表面処理材。
【請求項2】
請求項1に記載の表面処理材であって、
前記熱線反射性金属酸化物は、酸化チタンであることを特徴とする表面処理材。
【請求項3】
請求項2に記載の表面処理材であって、
前記酸化チタンは、結晶構造がルチル型であることを特徴とする表面処理材。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の表面処理材であって、
酸化銀及び酸化銅の少なくともいずれか一方が含まれていることを特徴とする表面処理材。
【請求項5】
請求項2乃至請求項4のいずれかに記載の表面処理材であって、
前記酸化チタンの粒径は、0.01〜0.06μmであることを特徴とする表面処理材。
【請求項6】
請求項2乃至請求項5のいずれかに記載の表面処理材であって、
前記酸化チタンの含有量は1%以下であることを特徴とする表面処理材。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の表面処理材を用いた表面処理方法であって、
前記表面処理対象物はガラスであり、
前記表面処理材にて前記ガラスの表面に表面処理を施すことを特徴とする表面処理方法。
【請求項8】
請求項7に記載の表面処理方法であって、
前記表面処理材は、乾燥後の塗膜厚が0.1〜5μmになるように吹き付け塗装することを特徴とする表面処理方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の表面処理材にて、前記表面処理対象物であるガラスが表面処理されていることを特徴とする表面処理ガラス。
【請求項10】
請求項9に記載の表面処理ガラスであって、
前記ガラスは内部に金属製の網材が設けられていることを特徴とする表面処理ガラス。

【公開番号】特開2011−246293(P2011−246293A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118637(P2010−118637)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】