説明

表面処理樹脂組成物の製造方法

【課題】極安定パーフルオロアルキルラジカルを用いて表面処理することによって、撥水性を高めると共に寸法安定性、耐加水分解性、耐摩耗性などを向上する樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】構造中に窒素原子を含む樹脂組成物、またはガラス繊維等の強化材料を含有する樹脂組成物を、表面が乾燥した状態で、極安定パーフルオロアルキルラジカル表面処理剤と共に密閉加熱容器に仕込み、加熱下で上記樹脂組成物を表面処理することによって撥水性を高めることを特徴とする表面処理樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極安定パーフルオロアルキルラジカルによる表面処理樹脂組成物の製造方法に関し、より詳しくは、極安定パーフルオロアルキルラジカルを用いて表面処理することによって、撥水性を高めると共に寸法安定性、耐加水分解性、耐摩耗性などを向上する樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属に替わる装置部品等の材料として、耐熱性や機械的強度を高めた各種の樹脂が用いられているが、吸湿による寸法の変化、加水分解等による劣化などが問題になっている。例えば、耐熱性、強度を併せ持つ樹脂材料としてポリベンゾイミダゾール、ポリイミド、ポリフタルアミドなど分子構造に窒素原子を含む樹脂組成物や、ガラス繊維、カーボン繊維、カーボン粉等で補強した複合樹脂組成物が知られている。
【0003】
しかし、ポリイミド樹脂などのように分子構造中に窒素原子を有するものは一般に吸水率が高く、一方、ガラス繊維等の補強材料を含有する複合樹脂は表面に異なった材質が露出するため樹脂表面が均一ではない。
【0004】
また、撥水処理としてフッ素ガスによる表面処理が従来知られている。しかし、フッ素ガスは急激な反応性を有し、毒性が強いため、取扱いが難しく、設備的な制約が大きい。また余剰ガスの後処理に手間がかかる。さらに、処理の程度によって撥水性に限らず親水性の表面になる場合があり、再現性が不安定であり、その制御が一般に困難である(特許文献1〜3)。
【0005】
フッ素ガスを用いた表面処理に代えて、極安定パーフルオロアルキルラジカルを用いた表面処理が提案されている(特許文献4〜5)。この方法は種々の固体表面を簡単に再現性良くフッ素化処理できる利点を有している。例えば、特開2005−146309公報(特許文献4)には、固体材料表面を極安定パーフルオロアルキルラジカルで表面処理することが記載されており、固体材料として各種の金属、金属合金、無機化合物と共に、有機系高分子材料、無機有機複合樹脂などが例示されている。しかし、樹脂は有機系高分子材料であるが、一般に樹脂表面を極安定パーフルオロアルキルラジカルで表面処理しても効果は低い。また、ガラス繊維などを含有する樹脂についても、極安定パーフルオロアルキルラジカルによる表面処理効果は十分ではない。
【特許文献1】特開昭63−275035公報
【特許文献2】特開平08−129747公報
【特許文献3】特開平08−212545公報
【特許文献4】特開2005−146309公報
【特許文献5】特開2005−146060公報
【非特許文献1】T. Ono等、J.Am. Chem. Soc.、 107、 718-719(1985)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、極安定パーフルオロアルキルラジカルで安定に表面処理できる樹脂について検討し、ポリイミド樹脂などのように分子構造中に窒素原子を有する樹脂、ガラス繊維等の補強材料を含有する複合樹脂であれば極安定パーフルオロアルキルラジカルによる十分な表面処理効果を得られることを見出したものであり、この表面処理によって、撥水性と共に、寸法安定性、耐加水分解性、耐摩耗性、防汚性等を高めた樹脂組成物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下に示す手段によって上記課題を解決した樹脂組成物の製造方法に関する。
〔1〕構造中に窒素原子を含む樹脂組成物の乾燥状態の表面を極安定ペルフルオロアルキルラジカルで表面処理することを特徴とする表面処理樹脂組成物の製造方法。
〔2〕ガラス繊維、カーボン繊維、またはカーボン粉等の強化材料を含有する樹脂組成物の表面を極安定ペルフルオロアルキルラジカルで表面処理することを特徴とする表面処理樹脂組成物の製造方法。
〔3〕構造中に窒素原子を含み、さらにガラス繊維、カーボン繊維、またはカーボン粉等の強化材料を含有する樹脂組成物の表面を極安定ペルフルオロアルキルラジカルで表面処理する表面処理樹脂組成物の製造方法。
〔4〕極安定パーフルオロアルキルラジカルとして、パーフルオロ−2、4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチル、またはパーフルオロ−2、4−ジメチル−3−エチル−3−ペンチル、またはパーフルオロ−3−エチル−3、4−ジメチル−4−ヘキシルを使用する上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する表面処理樹脂組成物の製造方法。
〔5〕極安定パーフルオロアルキルラジカルの濃度が10%〜80%である上記[1]〜上記[4]の何れかに記載する表面処理樹脂組成物の製造方法。
〔6〕構造中に窒素原子を含む樹脂組成物、またはガラス繊維等の強化材料を含有する樹脂組成物を、極安定パーフルオロアルキルラジカル表面処理剤と共に密閉加熱容器に仕込み、加熱下で上記樹脂組成物を表面処理する上記[1]〜上記[5]の何れかに記載する表面処理樹脂組成物の製造方法。
〔7〕上記[1]〜上記[6]の何れかに記載する方法によって製造した表面処理樹脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、構造中に窒素原子を含む樹脂組成物、あるいはガラス繊維等の強化材料を含有する樹脂組成物について、その表面を極安定ペルフルオロアルキルラジカルで表面処理することによって、これらの樹脂組成物について撥水性が格段に向上する。この結果、吸水性が大幅に抑制され、寸法安定性、耐加水分解性等が向上する。また、親油性が増すことによって装置部品等に使用したときに潤滑剤との馴染みが向上する。その他に、耐摩耗性、耐薬品性、低摩擦、非粘着性等も向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。なお、本発明において、%は単位固有の場合を除き質量%である。
本発明の方法は、構造中に窒素原子を含む樹脂組成物、あるいは、ガラス繊維、カーボン繊維、またはカーボン粉等の強化材料を含有する樹脂組成物について、その乾燥状態の表面を極安定ペルフルオロアルキルラジカルで表面処理することを特徴とする表面処理樹脂組成物の製造方法である。
【0010】
構造中に窒素原子を含む樹脂組成物としては、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PAまたはナイロン)などが挙げられる。これらの樹脂は一般に吸水性が高いが、本発明の表面処理を施すことによって、撥水性を大幅に高めることができる。
【0011】
また、本発明の方法によれば、ガラス繊維、カーボン繊維、またはカーボン粉等の強化材料を含有する複合樹脂組成物について、撥水性を高めると共に、その表面を均一にすることができる。さらに、本発明の製造方法は、構造中に窒素原子を含み、さらにガラス繊維、カーボン繊維、またはカーボン粉等の強化材料を含有する樹脂組成物について適用することができる。
【0012】
本発明の表面処理に用いる極安定パーフルオロアルキルラジカルとしては、例えば、以下の化合物を用いることができる。
(イ) パーフルオロ−2、4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチル
(ロ) パーフルオロ−2、4−ジメチル−3−エチル−5−ペンチル
(ハ) パーフルオロ−3−エチル−3、4−ジメチル−4−ヘキシル
【0013】
上記極安定パーフルオロアルキルラジカルは、濃度10%〜80%の溶液が好ましい。この濃度より希釈された溶液では十分な撥水性を得るのが難しい。一方、これより濃度が高いとコスト高になるので適当ではない。
【0014】
なお、例えば、パーフルオロ−2、4−ジメチル−3−エチル−5−ペンチルは、市販品であるヘキサフルオロプロペンの三量体(異性体混合物)をフッ素ガスでフッ素化して調製することができる。
【0015】
構造中に窒素原子を含む樹脂組成物、またはガラス繊維などの強化材料を含有する樹脂組成物を、極安定パーフルオロアルキルラジカルによって表面処理する。なお、樹脂組成物の処理表面は洗浄等により汚れを落としておくのが良い。洗浄後はこの樹脂表面を乾燥し、乾燥状態の表面を極安定パーフルオロアルキルラジカルによって処理する。すでに清浄な樹脂表面は洗浄せず、そのまま乾燥状態で表面処理すれば良い。
【0016】
樹脂表面を極安定パーフルオロアルキルラジカルによって表面処理するには、樹脂組成物を極安定パーフルオロアルキルラジカルと共に反応容器に仕込んで反応させるのが好ましい。処理温度は20℃〜200℃が良く、好ましくは40℃〜120℃が良い。処理時間は温度や圧力にもよるが、通常、0.1時間〜50時間、好ましくは1時間〜30時間である。圧力は常圧でも良く、加圧下に行っても良い。処理をより促進するためには加圧下で行うのがより好ましい。加熱、加圧下で処理を行う場合、容器内の圧力が一定になった時点で加熱終了すれば良い。
【0017】
上記表面処理によって、樹脂組成物の撥水性が各段に向上する。具体的には、例えば、窒素原子含有樹脂について、樹脂表面における水の接触角が処理前では60度〜70度のときに表面処理後は110度前後、処理前の接触角80度のとき処理後は120度前後になり、ガラス繊維含有樹脂では、例えば、表面処理前の水の接触角65度〜80度前後のとき、表面処理後は110度前後になる。さらに、本発明の方法による撥水性は耐久性に優れており、耐久試験5日後の撥水性は試験前とあまり変わらない。
【実施例】
【0018】
本発明を実施例および比較例によって具体的に示す。使用した極安定パーフルオロアルキルラジカル、樹脂組成物、反応装置は以下のように整えた。
【0019】
〔極安定パーフルオロアルキルラジカル〕
極安定パーフルオロアルキルラジカルとしてペルフルオロ-2、4-ジメチル-3-エチル-5-ペンチルを用いた。これは市販品であるヘキサフルオロプロペンの三量体(異性体混合物)をフッ素ガスでフッ素化して調製した。ペルフルオロ-2、4-ジメチル-3-エチル-5-ペンチルの調製液中の含量はガスクロマトグラフでの分析で55%〜70%であった。
【0020】
〔樹脂組成物〕
樹脂試料は小片(10〜20×20〜25mm)に切り、片面は成形面そのままとし、一方の面は
ガラス板上で耐水紙(♯1000→♯1200→♯1500)を用いて研磨し、高純度洗剤を溶解した蒸留水で超音波洗浄/蒸留水でリンスし、メチルアルコールで置換した後、室温で24時間減圧乾燥したものを用いた。
【0021】
〔反応装置〕
装置はガラス製、100ml容量のオートクレーブを用い、フッ素樹脂被覆撹拌子によって撹拌し、外部から油浴で加熱した。
【0022】
〔窒素原子含有樹脂〕
ポリベンゾイミダゾール樹脂(PBI)、ポリイミド樹脂(PI)、ポリアミド樹脂(PA又はナイロン[登録商標])を用いた。PBI樹脂はAZエレクトロニックマテリアル社製〔Celazole U-60〕、PI樹脂はサンゴバン社製〔MELDIN 7001〕、ポリアミド樹脂は三菱エンジニアリング社製〔ノバミット1010C2(PA6)及びデュポン社製ザイデル151L、NC10(PA612)〕を用いた。
【0023】
〔ガラス繊維強化樹脂〕
ガラス繊維で強化された、ポリアミド(PA又はナイロン[登録商標])、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリフニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、液晶ポリマー(LCP)を用いた。ポリアミド(PA又はナイロン)は旭化成社製レオナ1300G(PA66-G33%)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)はポリプラスチック社製ジュラネックス3003(G30%)、ポリフタルアミド(PPA)はアモコエンジニアリングポリマーズ社製アモデルA-4122NL WH905(G22%)、ポリフニレンサルファイド(PPS)は東ソー社製サスティールPPS(G40%)、ポリエチレンテレフタレート(PET)はデュポンジャパンリミテット社製ライナイト530(G30%)、液晶ポリマー(LCP)は住友化学工業社製スミカスーパーLCP E5008(G40%)をおのおの用いた。
【0024】
〔処理方法〕
樹脂試料1枚あたりペルフルオロ-2、4-ジメチル-3-エチル-5-ペンチルを反応容器に10mmol仕込み、窒素置換し、−78℃に冷却し、真空脱気と窒素置換を3回行った。室温に戻し、オートクレーブ内をゲージ圧で0MPaに調節した。加熱を開始し、圧力が一定になった時点で加熱を終了した。処理した樹脂試料はペルフルオロヘキサンで洗浄し、室温で24時間減圧乾燥した。
【0025】
〔処理温度・処理時間〕
処理液のガスクロマトグラフでの分析では100℃で、4〜6時間で、ペルフルオロ−2、4-ジメチル-3-エチル-5-ペンチルが全て消費され、80℃で24時間では95%が消費されていた。
【0026】
〔水の接触角の測定〕
表面処理した樹脂試料について、樹脂試料表面の水の接触角を測定した。水の接触角の測定は協和界面科学社製CA−A型を用い、液滴法(径約1.5mm)にて滴下1分後に行い、同一サンプルについて5回測定して上下の値を除き、中心3回の平均値によって定めた。この結果を表1および表2に示した。
【0027】
〔耐久性試験〕
樹脂試料について疎水性の耐久性試験を行った。還流器と温度計を備えた容量300mlのセパラブルフラスコに純水200mlを入れ、試験片を投入し、オイルバスで加熱して90℃に保ち、5日間保持した後に試験片を回収して乾燥後、接触角を測定した。この結果を表3に示した。
【0028】
〔耐久性試験〕
樹脂試料について疎水性の耐久性試験を行った。還留器と温度計を備えた容量300mlのセパラブルフラスコに純水200mlを入れ、試験片を投入し、オイルバスで加熱して90℃に保ち、5日間保持した後に試験片を回収して乾燥後、接触角を測定した。この結果を表3に示した。
【0029】
表1に示すように、窒素原子含有樹脂について、樹脂表面の水の接触角は処理前では60度〜70度のときに表面処理後は110度前後、処理前の接触角80度のとき処理後は120度前後に格段に大きくなる。また、表2に示すように、ガラス繊維含有樹脂では、表面処理前の水の接触角65度〜80度前後のとき、表面処理後は110度前後になる。さらに、表3に示すように、本発明の方法による撥水性は耐久性に優れており、耐久試験5日後の撥水性は試験前とあまり変わらない。
【0030】
〔比較例1〕
樹脂表面を洗浄後、乾燥せずに表面処理を行った。表面処理は平均湿度60%の場所に一昼夜放置放置した試料についてそれぞれペルフルオロ-2、4-ジメチル-3-エチル-5-ペンチルでの処理を行い、水の接触角を測定した。この結果を表4に示した。何れも樹脂表面を乾燥した後に表面処理した場合と比較して、処理効果が低い結果となった。
【0031】
〔比較例2〕
実施例と同様に以下の樹脂組成物(窒素原子を含まない樹脂)について、ペルフルオロ-2、4-ジメチル-3-エチル-5-ペンチルを用いて表面処理を行い、水の接触角を測定した(成形面のみ)。この結果を表5に示した。何れの樹脂についても、未処理と処理後の水の接触角は大差なく、表面処理の効果は低かった。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造中に窒素原子を含む樹脂組成物の乾燥状態の表面を極安定ペルフルオロアルキルラジカルで表面処理することを特徴とする表面処理樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
ガラス繊維、カーボン繊維、またはカーボン粉等の強化材料を含有する樹脂組成物の表面を極安定ペルフルオロアルキルラジカルで表面処理することを特徴とする表面処理樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
構造中に窒素原子を含み、さらにガラス繊維、カーボン繊維、またはカーボン粉等の強化材料を含有する樹脂組成物の表面を極安定ペルフルオロアルキルラジカルで表面処理する表面処理樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
極安定パーフルオロアルキルラジカルとして、パーフルオロ−2、4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチル、またはパーフルオロ−2、4−ジメチル−3−エチル−3−ペンチル、またはパーフルオロ−3−エチル−3、4−ジメチル−4−ヘキシルを使用する請求項1〜請求項3の何れかに記載する表面処理樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
極安定パーフルオロアルキルラジカルの濃度が10%〜80%である請求項1〜請求項4の何れかに記載する表面処理樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
構造中に窒素原子を含む樹脂組成物、またはガラス繊維等の強化材料を含有する樹脂組成物を、極安定パーフルオロアルキルラジカル表面処理剤と共に密閉加熱容器に仕込み、加熱下で上記樹脂組成物を表面処理する請求項1〜請求項5の何れかに記載する表面処理樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項6の何れかに記載する方法によって製造した表面処理樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−31181(P2010−31181A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196450(P2008−196450)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)三菱マテリアル電子化成株式会社 (151)
【Fターム(参考)】