説明

表面処理炭酸カルシウム及び熱可塑性樹脂組成物

【課題】熱可塑性樹脂に配合して耐衝撃性等の特性を向上させることができる表面処理炭酸カルシウム及びそれを含有した熱可塑性樹脂組成物を得る。
【解決手段】平均粒子径が0.1〜0.5μmの範囲内である合成炭酸カルシウムをアルキルアリールスルホン酸またはその塩を主成分とする表面処理剤で表面処理したことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理炭酸カルシウム及びそれを含有する熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウムとしては、天然の石灰石を粉砕、分級することによって得られる重質炭酸カルシウムや、消石灰の水溶液に炭酸ガスを吹き込んで得られる合成炭酸カルシウムが知られている。これらの炭酸カルシウムは、ゴム、樹脂及び塗料等に配合され、増量剤、寸法安定化剤などとして従来より用いられている。
【0003】
比較的粒子径の小さい合成炭酸カルシウムにおいては、樹脂、ゴム、塗料等に配合した際に、良好な分散性を得るため、その表面に脂肪酸や樹脂酸等を表面処理することが従来より行なわれている。
【0004】
比較的粒子径の小さな表面処理炭酸カルシウムにおいては、単なる増量剤や寸法安定化剤としてではなく、樹脂等の機械的特性を高めることができるフィラーであることが望まれている。
【0005】
特許文献1においては、炭酸カルシウムを配合した樹脂組成物の機械的特性を改善するため、炭酸カルシウムにカップリング剤を表面処理することが検討されている。
【0006】
しかしながら、さらに良好な機械的特性を樹脂やゴム等に付与することができる表面処理炭酸カルシウムが求められている。
【0007】
本発明は、後述するように、アルキルアリールスルホン酸またはその塩を表面処理剤として用いるものである。特許文献2においては、アルキルベンゼンスルホン酸またはそのアルカリ金属塩と脂肪酸とを併用して表面処理した炭酸カルシウムが開示されているが、脂肪酸の処理量を、アルキルベンゼンスルホン酸よりも多くすることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−137783号公報
【特許文献2】特開2007−197585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、熱可塑性樹脂に配合して、耐衝撃性等の特性を向上させることができる表面処理炭酸カルシウム及びそれを含有した熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の表面処理炭酸カルシウムは、平均粒子径が0.1〜0.5μmの範囲内である合成炭酸カルシウムをアルキルアリールスルホン酸またはその塩を主成分とする表面処理剤で表面処理したことを特徴としている。
【0011】
本発明の表面処理炭酸カルシウムにおいて、アルキルアリールスルホン酸またはその塩による処理量は、合成炭酸カルシウム100質量部に対し、0.2〜5質量部の範囲内であることが好ましい。
【0012】
本発明において、アルキルアリールスルホン酸またはその塩としては、例えばアルキルベンゼンスルホン酸またはその塩が挙げられる。
【0013】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記本発明の表面処理炭酸カルシウムを熱可塑性樹脂に含有させたことを特徴としている。
【0014】
熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリオレフィン及びポリ塩化ビニルからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、表面処理炭酸カルシウムの含有量は、0.1〜10体積%の範囲内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の表面処理炭酸カルシウムは、熱可塑性樹脂に配合して、耐衝撃性等の特性を向上させることができる。
【0017】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、表面処理炭酸カルシウムを含有し、優れた耐衝撃性等の特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】炭酸カルシウム体積含有率とアイゾット衝撃強度との関係を示す図。
【図2】炭酸カルシウム体積含有率と破断伸びとの関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0020】
<炭酸カルシウム>
本発明において用いる炭酸カルシウムは、平均粒子径が0.1〜0.5μmの範囲内である合成炭酸カルシウムである。平均粒子径のさらに好ましい範囲は、0.1〜0.3μmの範囲内であり、さらに好ましくは0.1〜0.2μmの範囲内である。平均粒子径がこのような範囲から外れると、熱可塑性樹脂に配合して優れた耐衝撃性等の特性が得られない場合がある。
【0021】
平均粒子径は、例えば、電子顕微鏡やレーザー回折式粒度分布測定装置により測定することができる。
【0022】
合成炭酸カルシウムは、例えば水酸化カルシウムを炭酸ガスと反応させることによって製造することができる。水酸化カルシウムは、例えば酸化カルシウムを水と反応させることによって製造することができる。酸化カルシウムは、例えば石灰石原石をコークスなどと混合し焼成することによって製造することができる。この場合、焼成時に炭酸ガスが発生するので、この炭酸ガスを水酸化カルシウムの水懸濁液中に吹き込み、炭酸ガスを水酸化カルシウムと反応させることによって炭酸カルシウムを製造することができる。
【0023】
合成炭酸カルシウムは、カルサイト結晶を有することが好ましい。また、合成炭酸カルシウムは、略立方体の形状を有していることが好ましい。
【0024】
本発明において用いる合成炭酸カルシウムのBET比表面積は、4〜18m/gの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、6〜16m/gの範囲であり、さらに好ましくは、8〜14m/gの範囲であり、特に好ましくは、9〜12m/gの範囲である。これらの範囲内とすることにより、より耐衝撃性等の特性に優れた熱可塑性樹脂組成物とすることができる。
【0025】
<表面処理剤>
本発明において用いる表面処理剤は、アルキルアリールスルホン酸またはその塩を主成分とする表面処理剤である。
【0026】
アルキルアリールスルホン酸またはその塩としては、アルキルベンゼンスルホン酸またはその塩、アルキルナフタレンスルホン酸またはその塩などが挙げられる。アルキル基としては、分岐鎖であってもよいし、直鎖であってもよい。アルキル基としては、例えば、炭素数8〜20のアルキル基が好ましく、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基などが挙げられる。スルホン酸の塩としては、アルカリ金属塩が挙げられる。アルカリ金属塩としては、Na、K等の塩が挙げられる。アルキルアリールスルホン酸または塩は、単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0027】
本発明において、「主成分とする」は、アルキルアリールスルホン酸またはその塩が、他の表面処理剤よりも質量比で多く含まれていることを意味しており、好ましくは表面処理剤中50質量%以上がアルキルアリールスルホン酸またはその塩である。
【0028】
他の表面処理剤としては、脂肪酸、樹脂酸、珪酸、燐酸、シランカップリング剤などが挙げられる。脂肪酸としては、炭素数6〜31、好ましくは炭素数12〜28の飽和または不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0029】
<表面処理炭酸カルシウム>
本発明の表面処理炭酸カルシウムは、上記合成炭酸カルシウムを上記表面処理剤で処理したことを特徴としている。
【0030】
アルキルアリールスルホン酸またはその塩による処理量は、合成炭酸カルシウム100質量部に対し、0.2〜5質量部の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜3質量部の範囲内であり、さらに好ましくは1〜2質量部の範囲内である。このような範囲内とすることにより、熱可塑性樹脂に配合した際、耐衝撃性等の特性をさらに向上させることができる。
【0031】
表面処理する方法としては、炭酸カルシウムの水懸濁液(スラリー)に、表面処理剤を添加する湿式処理であってもよいし、炭酸カルシウム粉体と表面処理剤を攪拌混合することによりなされる乾式処理であってもよい。
【0032】
湿式処理の場合、一般には、表面処理剤を、酸の形態またはNa塩、K塩などのアルカリ金属塩の形態で、炭酸カルシウム水懸濁液に添加して処理することが好ましい。従って、アルキルアリールスルホン酸を酸の形態またはNa塩及び/もしくはK塩の形態で添加することが好ましい。
【0033】
乾式処理の場合、一般には、酸の形態で添加することが好ましい。従って、アルキルアリールスルホン酸として添加することが好ましい。添加する際、溶剤等で希釈して添加してもよい。
【0034】
表面処理炭酸カルシウムの平均粒子径及びBET比表面積は、処理する前の原料の合成炭酸カルシウムの平均粒子径及びBET比表面積とほぼ同様である。
【0035】
<熱可塑性樹脂組成物>
熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリオレフィン及びポリ塩化ビニルなどが挙げられる。また、熱可塑性樹脂は、複数のポリマーを混合したポリマーアロイであってもよい。
【0036】
表面処理炭酸カルシウムの含有量は、好ましくは0.1〜10体積%、より好ましくは0.2〜8体積%、より好ましくは0.3〜7体積%、特に好ましくは0.5〜5体積%の範囲内である。このような範囲内とすることにより、耐衝撃性等の特性をさらに向上させることができる。
【0037】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂に、上記本発明の表面処理炭酸カルシウムを含有させることにより製造することができる。通常、熱可塑性樹脂を加熱溶融した状態で表面処理炭酸カルシウムを添加することにより、熱可塑性樹脂に表面処理炭酸カルシウムを含有させることができる。例えば、2軸押出混練機やニーダー等を用いて熱可塑性樹脂中に表面処理炭酸カルシウムを含有させることができる。
【0038】
また、熱可塑性樹脂に表面処理炭酸カルシウムを高濃度に含有させたマスターバッチを作製し、このマスターバッチを熱可塑性樹脂に添加することによって、熱可塑性樹脂組成物を調製してもよい。
【実施例】
【0039】
以下、本発明に従う具体的な実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
〔表面処理炭酸カルシウムの製造〕
合成炭酸カルシウムとして、平均粒子径0.15μm(レーザー回折式粒度分布測定装置による測定)、BET比表面積11m/gの合成炭酸カルシウムを用いた。なお、この合成炭酸カルシウムの形状は、略立方体の形状であり、結晶形態は、カラサイト結晶である。
【0041】
(ABS処理炭酸カルシウム)
この合成炭酸カルシウムの10質量%の水懸濁液(スラリー)を調製し、この炭酸カルシウム水懸濁液に、アルキルベンゼンスルホン酸(ライオン社製、商品名「ライポンLH−200」)を合成炭酸カルシウム100質量部に対し、2質量部の処理量となるように添加した。
【0042】
添加後、15分間攪拌し、その後濾過・乾燥して表面処理(ABS処理)炭酸カルシウムを得た。
【0043】
(脂肪酸処理炭酸カルシウム)
上記と同様の合成炭酸カルシウムの水懸濁液(スラリー)に、脂肪酸Na塩を合成炭酸カルシウム100質量部に対し、2質量部となるように添加した。なお、脂肪酸としては、ステアリン酸を用いた。
【0044】
上記と同様にして添加後、攪拌、濾過及び乾燥して、表面処理(脂肪酸処理)炭酸カルシウムを得た。
【0045】
〔熱可塑性樹脂組成物の調製〕
上記で得られた本発明に従うABS処理炭酸カルシウム、比較の脂肪酸処理炭酸カルシウム、及び表面処理をしていない無処理炭酸カルシウムをポリアミド樹脂に以下のようにして添加することにより、熱可塑性樹脂組成物としてのポリアミド樹脂組成物を調製した。
【0046】
表面処理または無処理炭酸カルシウムを、ポリアミド樹脂(ポリアミド6、ユニチカ社製、グレード:A1030JR)に、炭酸カルシウムの含有量が、1体積%、5体積%、及び10体積%となるように配合した3種類の樹脂組成物を調製した。具体的には、ポリアミド樹脂と炭酸カルシウムを所定の比率で混合し、80℃で12時乾燥した後、二軸押出混練機を用いて、240℃、スクリュー速度85rpmで加熱混練して、表面処理または無処理炭酸カルシウムを含有したポリアミド樹脂組成物を調製した。
【0047】
〔熱可塑性樹脂組成物のアイゾット衝撃強度及び引張り破断伸びの測定〕
得られたポリアミド樹脂組成物を、射出成形機で射出成形し、アイゾット衝撃強度測定用試験片及び引張り伸び測定用試験片をそれぞれ作製した。
【0048】
これらの試験片を用いて、アイゾット衝撃強度及び引張り破断伸びを測定した。アイゾット衝撃強度は、JIS K7110に準拠して測定した。また、引張り破断伸びはJIS K7161およびJIS K7162に準拠して測定した。
【0049】
図1は、炭酸カルシウムの含有量とアイゾット衝撃強度との関係を示す図である。図2は、炭酸カルシウムの含有量と引張り破断伸びとの関係を示す図である。
【0050】
図1から明らかなように、本発明に従うABS処理炭酸カルシウムを用いた場合、炭酸カルシウムの含有量が0.1〜10体積%の範囲内において、アイゾット衝撃強度が、脂肪酸処理炭酸カルシウムまたは無処理炭酸カルシウムを含有したポリアミド樹脂よりも高くなっていることがわかる。また、図2から明らかなように、炭酸カルシウムの含有量が0.1〜8体積%の範囲内において、引張り破断伸びが、脂肪酸処理炭酸カルシウムまたは無処理炭酸カルシウムを含有したポリアミド樹脂よりも高くなっていることがわかる。
【0051】
図1及び図2から明らかなように、本発明に従う表面処理炭酸カルシウムの含有量を、0.1〜10体積%の範囲内、より好ましくは0.2〜8体積%の範囲内、より好ましくは0.3〜7体積%の範囲内、特に好ましくは0.5〜5体積%の範囲内とすることにより、耐衝撃性等の特性を向上できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.1〜0.5μmの範囲内である合成炭酸カルシウムをアルキルアリールスルホン酸またはその塩を主成分とする表面処理剤で表面処理したことを特徴とする表面処理炭酸カルシウム。
【請求項2】
アルキルアリールスルホン酸またはその塩による処理量が、合成炭酸カルシウム100質量部に対し、0.2〜5質量部の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の表面処理炭酸カルシウム。
【請求項3】
アルキルアリールスルホン酸またはその塩が、アルキルベンゼンスルホン酸またはその塩であることを特徴とする請求項1または2に記載の表面処理炭酸カルシウム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面処理炭酸カルシウムを熱可塑性樹脂に含有させたことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
熱可塑性樹脂が、ポリアミド、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリオレフィン及びポリ塩化ビニルからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項4に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
表面処理炭酸カルシウムの含有量が、0.1〜10体積%の範囲内であることを特徴とする請求項4または5に記載の熱可塑性樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−79346(P2013−79346A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220739(P2011−220739)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(391009187)株式会社白石中央研究所 (9)
【Fターム(参考)】