説明

表面処理皮膜、金属表面処理剤及び金属表面処理方法

【課題】金属材料の表面に樹脂フィルムをラミネートし又は樹脂塗膜を形成し、その後に成形加工を施した場合であっても、ラミネートフィルム又は樹脂塗膜が剥離しない表面処理皮膜及び金属表面処理剤を提供する。
【解決手段】金属材料の表面に塗布形成された表面処理皮膜であって、該表面処理皮膜に含まれる窒素と炭素の質量比(N/C)が0.005〜0.5であり、且つ、Cr(III)、Zr、Ti、V、Nb、Mo、W及びCeから選ばれる金属元素の合計と炭素の質量比(TM/C)が0.01〜1.3であるように構成する。この表面処理皮膜は、ウレタン樹脂等の第1水系樹脂と、ポリオレフィン系樹脂等の第2水系樹脂と、Cr(III)等の金属元素を含む水溶性金属化合物とを含有し、第1水系樹脂及び第2水系樹脂のうち少なくとも1種が特定の含窒素官能基を有する金属表面処理剤で塗布形成されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料の表面とラミネートフィルム又は樹脂塗膜との密着性を向上させることができる表面処理皮膜、及びその表面処理皮膜を形成するための金属表面処理剤及び、その金属表面処理剤を用いた金属表面処理方法に関する。更に詳しくは、金属材料の表面に樹脂フィルムをラミネートし又は樹脂塗膜を形成し、その後に深絞り加工、しごき加工又はストレッチドロー加工等の厳しい成形加工を施した場合であっても、そのラミネートフィルム又は樹脂塗膜が剥離しないような高い密着性を付与することができ、更には酸等に曝されても高い密着性を維持し得る耐薬品性に優れた表面処理皮膜、その表面処理皮膜を形成するための金属表面処理剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
ラミネート加工は、樹脂製のフィルム(以下、樹脂フィルム又はラミネートフィルムという。)を金属材料の表面に加熱圧着する加工手段であり、表面を保護すること又は意匠性を付与することを目的とした金属材料表面の被覆方法の一つであり、様々な分野で使用されている。このラミネート加工は、金属材料の表面に樹脂組成物を塗布乾燥することによって樹脂塗膜を形成する方法に比べ、乾燥時に発生する溶剤や二酸化炭素等の廃棄ガス又は温暖化ガスの発生量が少ない。そのため、環境保全の面において好ましく適用され、その用途は拡大し、例えば、アルミニウム薄板材、スチール薄板材、包装用アルミニウム箔又はステンレス箔等を素材とした食品用缶のボディー若しくは蓋材、食品用容器、又は、乾電池容器等に用いられている。
【0003】
特に最近では、携帯電話、電子手帳、ノート型パソコン又はビデオカメラ等に用いられるモバイル用リチウムイオン2次電池の外装材として、軽量でバリアー性の高いアルミニウム箔又はステンレス箔等の金属箔が好ましく用いられており、こうした金属箔の表面にラミネート加工が適用されている。また、電気自動車又はハイブリッド自動車の駆動エネルギーとしてリチウムイオン2次電池が検討されているが、その外装材としても、ラミネート加工した金属箔が検討されている。
【0004】
こうしたラミネート加工に用いるラミネートフィルムは、直接金属材料に貼り合わせた後に加熱圧着する。そのため、樹脂組成物を塗布乾燥してなる一般的な樹脂塗膜に比べて原材料のムダを抑制できる、ピンホール(欠陥部)が少ない、及び加工性が優れる、等の利点がある。ラミネートフィルムの材料としては、一般に、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、が用いられている。
【0005】
ラミネートフィルムを金属材料の表面(以下、単に「金属表面」ともいう。)にラミネート加工する際、ラミネートフィルムと金属表面との密着性及び金属表面の耐食性を向上させるために、金属表面を脱脂洗浄した後、通常、リン酸クロメート等の化成処理等が施される。しかしながら、こうした化成処理は、処理後に余剰の処理液を除去するための洗浄工程が必要であり、その洗浄工程から排出される洗浄水の廃水処理にコストがかかる。特にリン酸クロメート等の化成処理等は六価クロムを含む処理液が用いられるので、近年の環境的配慮から敬遠される傾向にある。
【0006】
一方、金属表面に化成処理等の処理を施さないでラミネート加工を行うと、金属表面からラミネートフィルムが剥離したり金属材料に腐食が生じたりするという問題がある。例えば、食品用容器又は包材においては、ラミネート加工後の容器又は包材に内容物を加えた後に殺菌を目的とした加熱処理を施すが、その加熱処理時に金属表面からラミネートフィルムが剥離することがある。また、リチウムイオン2次電池の外装材等においては、その製造工程で加工度の高い加工を受ける。こうした外装材が長期使用されると、大気中の水分が容器内に浸入し、これが電解質と反応してフッ化水素酸を生成し、これがラミネートフィルムを透過して金属表面とラミネートフィルムとの剥離を発生させるとともに、金属表面を腐食するという問題がある。
【0007】
こうした問題に対しては、ラミネート加工に先立って、金属表面にラミネートフィルムとの密着性を高めるための皮膜を形成する方法や処理剤等が提案されている。例えば、特許文献1では、特定量の水溶性ジルコニウム化合物と、特定構造の水溶性又は水分散性アクリル樹脂と、水溶性又は水分散性熱硬化型架橋剤とを含有する下地処理剤が提案されている。また、特許文献2では、特定量の水溶性ジルコニウム化合物及び/又は水溶性チタン化合物と、有機ホスホン酸化合物と、タンニンとからなるノンクロム金属表面処理剤が提案されている。また、特許文献3では、アミノ化フェノール重合体と、Ti及びZr等の特定の金属化合物とを含有し、pHが1.5〜6.0の範囲である金属表面処理薬剤が提案されている。また、特許文献4では、アミノ化フェノール重合体と、アクリル系重合体と、金属化合物と、更に必要に応じてリン化合物(C)とを含有する樹脂膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−265821号公報
【特許文献2】特開2003−313680号公報
【特許文献3】特開2003−138382号公報
【特許文献4】特開2004−262143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、金属材料の表面に樹脂フィルムをラミネートし又は樹脂塗膜を形成し、その後に深絞り加工、しごき加工又はストレッチドロー加工等の厳しい成形加工を施した場合であっても、そのラミネートフィルム又は樹脂塗膜が剥離しないような高い密着性を付与することができる表面処理皮膜を提供すること、及びその表面処理皮膜を有する金属材料を提供することにある。
【0010】
また、本発明の他の目的は、その表面処理皮膜を形成するための金属表面処理剤を提供すること、及びその金属表面処理剤を用いた金属表面処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明に係る表面処理皮膜は、金属材料の表面に塗布形成された表面処理皮膜であって、該表面処理皮膜に含まれる窒素と炭素の質量比(N/C)が0.005〜0.5であり、且つ、Cr(III)、Zr、Ti、V、Nb、Mo、W及びCeから選ばれる金属元素の合計と炭素の質量比(TM/C)が0.01〜1.3であることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、表面処理皮膜に含まれる窒素と炭素の質量比(N/C)と、表面処理皮膜に含まれる金属元素の合計と炭素の質量比(TM/C)とを上記範囲内としたので、金属材料の表面と表面処理皮膜との間の密着性及びラミネートフィルムと表面処理皮膜との間の密着性のいずれも高めることができ、耐食性もよく、耐酸性の点で好ましいものとなる。
【0013】
特に、窒素と炭素の質量比(N/C)を上記範囲内とすることにより、表面処理皮膜とラミネートフィルムとの間で十分な密着性を得ることができるとともに、表面処理皮膜の耐水性の低下を防いで金属材料表面の耐食性(特に耐酸性。以下同じ。)の低下を防ぎ、ひいては金属材料表面と表面処理皮膜との間の密着性の低下を防ぐことができる。また、金属元素の合計と炭素の質量比(TM/C)を上記範囲内とすることにより、金属材料表面と表面処理皮膜との間の密着性の低下を防いで金属材料表面に腐食媒体が入り込んで耐食性が低下するのを防ぐことができるとともに、特に高湿度環境で金属表面と表面処理皮膜との密着性の低下を防ぐことができ、さらに、表面処理皮膜が脆くなるのを防いで、その後に加工が加わっても表面処理皮膜とラミネートフィルムとの密着性を低下させないという利点がある。
【0014】
上記課題を解決するための本発明に係る金属表面処理剤は、上記本発明に係る表面処理皮膜を得ることができる以下の2つの金属表面処理剤を提供する。
【0015】
第1の金属表面処理剤は、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ホルマリン縮合樹脂、天然多糖類、ポリアミド及びポリアクリルアミドから選ばれる1種又は2種以上の水系樹脂(P)と、Cr(III)、Zr、Ti、V、Nb、Mo、W及びCeから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を含む水溶性金属化合物とを含有し、前記水系樹脂(P)のうち少なくとも1種が、下記構造式(1)〜(8)から選ばれる1種又は2種以上の含窒素官能基を有することを特徴とする。
【0016】
第2の金属表面処理剤は、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂から選ばれる1種又は2種以上の第1水系樹脂(P1)と、ポリオレフィン系樹脂、ホルマリン縮合樹脂、天然多糖類、ポリアミド及びポリアクリルアミドから選ばれる1種又は2種以上の第2水系樹脂(P2)と、Cr(III)、Zr、Ti、V、Nb、Mo、W及びCeから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を含む水溶性金属化合物とを含有し、前記第1水系樹脂(P1)及び第2水系樹脂(P2)のうち少なくとも1種が、下記構造式(1)〜(8)から選ばれる1種又は2種以上の含窒素官能基を有することを特徴とする。
【0017】
【化1】

【0018】
上記した構造式(1)〜(8)において、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素、又は、炭素数1〜10の直鎖、分岐鎖若しくは環状のアルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルケニル基、アリール基、アリールアルキル基、ヒドロキシアリール基又はヒドロキシアリールアルキル基である。Xは、水酸イオン、ハロゲンイオン、硫酸イオン、スルホン酸イオン、リン酸イオン及びホスホン酸イオンから選ばれる1種又は2種以上である。
【0019】
これらの発明によれば、特定種の含窒素官能基を有する特定種の水系樹脂を含有するので、水系樹脂を処理剤中に安定して存在させることができるとともに、金属表面に対して高い密着性をもたらす表面処理皮膜を形成することができる。その結果、これら金属表面処理剤で処理してなる表面処理皮膜を金属表面に形成し、その上に樹脂フィルムをラミネートし又は樹脂塗膜を形成したものは、深絞り加工、しごき加工又はストレッチドロー加工等の厳しい成形加工を施した場合であっても、そのラミネートフィルム又は樹脂塗膜が剥離し難い。特に第2の金属表面処理剤によれば、得られた処理皮膜の表面(金属材料の表面側の反対面)に配向し易い第1水系樹脂(P1)と、第1水系樹脂(P1)よりも極性が高く、金属材料の表面に配向し易い第2水系樹脂(P2)とを併用するので、より良好な成形性と密着性をもたらす表面処理皮膜を形成することができる。
【0020】
本発明に係る第1及び第2の金属表面処理剤において、前記含窒素官能基を含む水系樹脂の、該含窒素官能基1個当たりの数平均分子量が、50〜3000であり、前記金属表面処理剤中の全固形分に対する前記水溶性金属化合物が、金属換算で1〜50質量%含まれる。
【0021】
この発明によれば、含窒素官能基を含む水系樹脂の、該含窒素官能基1個当たりの数平均分子量を上記範囲内とし、金属表面処理剤中の全固形分に対する水溶性金属化合物の含有量を上記範囲内としたので、この金属表面処理剤を用いて得られる表面処理皮膜に含まれる窒素と炭素の質量比(N/C)を0.005〜0.5の範囲内とすることができ、且つ表面処理皮膜に含まれる金属元素の合計と炭素の質量比(TM/C)を0.01〜1.3の範囲内とすることができる。その結果、この金属表面処理剤を用いれば、金属材料の表面と得られた表面処理皮膜との間の密着性及びラミネートフィルムと得られた表面処理皮膜との間の密着性のいずれも高めることができ、耐食性もよく、耐酸性の点で好ましい表面処理皮膜を形成できる。
【0022】
上記課題を解決するための本発明に係る金属表面処理方法は、上記本発明に係る第1又は第2の金属表面処理剤を金属材料の表面に塗布した後、60〜250℃の温度で加熱乾燥することを特徴とする。
【0023】
上記課題を解決するための本発明に係る金属材料は、上記本発明に係る表面処理皮膜を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る表面処理皮膜によれば、皮膜に含まれる「窒素/炭素」比と「金属元素の合計/炭素」比とを特定の範囲内としたので、金属材料の表面と表面処理皮膜との間の密着性及びラミネートフィルムと表面処理皮膜との間の密着性のいずれをも高めることができ、耐食性もよく、耐酸性の点で好ましいものとなる。
【0025】
本発明に係る第1及び第2の金属表面処理剤によれば、水系樹脂を処理剤中に安定して存在させることができ、金属表面に対して高い密着性をもたらす表面処理皮膜を形成することができる。その結果、本発明に係る金属表面処理剤で金属表面に表面処理皮膜を形成し、その上に樹脂フィルムをラミネートし又は樹脂塗膜を形成したものは、深絞り加工、しごき加工又はストレッチドロー加工等の厳しい成形加工を施した場合であっても、そのラミネートフィルム又は樹脂塗膜が剥離し難いという効果がある。
【0026】
本発明に係る金属表面処理方法によれば、本発明に係る金属表面処理剤を金属材料の表面(被処理金属表面のこと。)に塗布した後に加熱乾燥するので、その金属材料の表面には密着性のよい表面処理皮膜を形成することができる。
【0027】
本発明に係る金属材料によれば、その表面に表面処理皮膜を有するので、その表面処理皮膜に対するラミネートフィルムの密着性を高めることができる。その結果、その表面処理皮膜上に樹脂フィルムをラミネートし又は樹脂塗膜を形成したものは、深絞り加工、しごき加工又はストレッチドロー加工等の厳しい成形加工を施した場合であっても、そのラミネートフィルム又は樹脂塗膜が剥離し難いという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る表面処理皮膜の実施形態を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る表面処理皮膜、金属表面処理剤及び金属表面処理方法について説明する。
【0030】
[表面処理皮膜]
本発明に係る表面処理皮膜2は、図1に示すように、金属材料1の表面(以下「金属表面」という。)に塗布形成された表面処理皮膜であって、その表面処理皮膜2に含まれる窒素と炭素の質量比(N/C)が0.005〜0.5であり、且つ、Cr(III)、Zr、Ti、V、Nb、Mo、W及びCeから選ばれる金属元素の合計と炭素の質量比(TM/C)が0.01〜1.3である。この表面処理皮膜2は、図1に示すように、後述する本発明に係る金属表面処理剤を金属表面に塗布した後、所定の温度で加熱乾燥して得られた皮膜であり、金属材料1とラミネートフィルム(又は樹脂塗膜)3との間に設けられる。
【0031】
窒素(N)と炭素(C)との質量比(N/C)を上記範囲内とすることにより、表面処理皮膜2とラミネートフィルム3との間で十分な密着性を得ることができるとともに、表面処理皮膜2の耐水性の低下を防いで金属表面の耐食性(特に耐酸性。以下同じ。)の低下を防ぎ、ひいては金属表面と表面処理皮膜2と間の密着性の低下を防ぐことができる。
【0032】
窒素と炭素の質量比(N/C)が0.005を下回ると、表面処理皮膜2とラミネートフィルム3との間で十分な密着性が得られないことがある。一方、窒素と炭素の質量比(N/C)が0.5を超えると、表面処理皮膜2の耐水性が低下し、金属表面の耐食性の低下、ひいては金属表面と表面処理皮膜2と間の密着性の低下を引き起こすことがある。窒素と炭素の質量比(N/C)は、金属表面と表面処理皮膜2との間の密着性及び表面処理皮膜2の耐食性をより高め、さらに極性基である窒素含有官能基の導入により凝集力が高まって皮膜形成性が向上する観点からは、0.008〜0.4の範囲内であることが好ましく、さらに表面処理皮膜2とラミネートフィルム3との間の密着性及び表面処理皮膜2の耐食性を特に高める観点からは、0.05〜0.3の範囲内であることが特に好ましい。なお、前記の好ましい範囲の上限値を0.4とし、特に好ましい範囲の上限値を0.3としたのは、耐水性と密着性の観点に基づく。
【0033】
金属元素の合計と炭素の質量比(TM/C)を上記範囲内とすることにより、金属表面と表面処理皮膜2との間の密着性の低下を防いで金属表面に腐食媒体が入り込んで耐食性が低下するのを防ぐことができるとともに、特に高湿度環境で金属表面と表面処理皮膜2との密着性の低下を防ぐことができ、さらに、表面処理皮膜2が脆くなるのを防いで、その後に加工が加わっても表面処理皮膜2とラミネートフィルム3との密着性を低下させないという利点がある。
【0034】
金属元素の合計と炭素の質量比(TM/C)が0.01を下回ると、金属表面と表面処理皮膜2との間の密着性が低下し、その結果、金属表面に腐食媒体が入り込んで耐食性が不足することがある。特に高湿度環境で金属表面と表面処理皮膜2との密着性が低下することがある。一方、金属元素の合計と炭素の質量比(TM/C)が1.3を超えると、表面処理皮膜2が脆くなり過ぎて、その後に加工が加わると、表面処理皮膜2とラミネートフィルム3との密着性が低下する。また、金属元素の合計と炭素の質量比(TM/C)は、密着性と耐食性をより高め、さらにはクラック等の発生がないように造膜性を良好にする観点からは、0.01〜0.7の範囲内であることが好ましく、特に高湿度環境での金属表面と表面処理皮膜2との密着性を高める観点からは、0.05〜0.3の範囲内であることが特に好ましい。
【0035】
ここで、炭素含有量は、株式会社島津製作所製の全有機体炭素計(TOC:Total Organic Carbon Analyzer)「TOC−5000A」を用い、酸素流量:0.5L/min、温度:580℃(アルミニウム)、700℃(鉄系素材)、測定時間:120秒、試料サイズ:10mm×20mm、の条件で測定した。窒素含有量は、有機体窒素分析法(JIS−K0102)に準拠し、表面処理皮膜を形成した金属材料を濃硫酸に30秒浸漬して皮膜を剥離・溶解させ、その剥離液(硫酸溶液)をJIS−K0102に従って全窒素濃度を測定した。なお、前処理はケルダール法とし、測定はインドフェノール青吸光光度法で行った。金属元素の合計質量は、理学電気工業株式会社の蛍光X線分析装置「3270E」を用い、管球:Rh、電圧−電流:50KV−50mAの条件下で測定した。
【0036】
以上、本発明に係る表面処理皮膜によれば、皮膜の「窒素/炭素」比と「金属元素の合計/炭素」比とを特定の範囲内としたので、金属表面と表面処理皮膜2との間の密着性及びラミネートフィルム3と表面処理皮膜2との間の密着性のいずれをも高めることができ、耐食性もよく、耐酸性の点で好ましいものとなる。
【0037】
こうした表面処理皮膜をその表面に有した金属材料は、その表面処理皮膜に対するラミネートフィルムの密着性を高めることができる。その結果、その上に樹脂フィルムをラミネートし又は樹脂塗膜を形成したものは、深絞り加工、しごき加工又はストレッチドロー加工等の厳しい成形加工を施した場合であっても、そのラミネートフィルム又は樹脂塗膜が剥離し難いという効果がある。
【0038】
[金属表面処理剤]
本発明に係る金属表面処理剤は、上記本発明に係る表面処理皮膜を得るための処理剤であって、以下の2態様の金属表面処理剤を提供する。
【0039】
第1の金属表面処理剤は、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ホルマリン縮合樹脂、天然多糖類、ポリアミド及びポリアクリルアミドから選ばれる1種又は2種以上の水系樹脂(P)と、Cr(III)、Zr、Ti、V、Nb、Mo、W及びCeから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を含む水溶性金属化合物とを含有する。そして、その水系樹脂(P)のうち少なくとも1種が、前記した構造式(1)〜(8)から選ばれる1種又は2種以上の含窒素官能基を有している。ここで、符号(P)は第1の金属表面処理剤を構成する水系樹脂を指す。
【0040】
一方、第2の金属表面処理剤は、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂から選ばれる1種又は2種以上の第1水系樹脂(P1)と、ポリオレフィン系樹脂、ホルマリン縮合樹脂、天然多糖類、ポリアミド及びポリアクリルアミドから選ばれる1種又は2種以上の第2水系樹脂(P2)と、Cr(III)、Zr、Ti、V、Nb、Mo、W及びCeから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を含む水溶性金属化合物とを含有する。そして、その第1水系樹脂(P1)及び第2水系樹脂(P2)のうち少なくとも1種が、前記した構造式(1)〜(8)から選ばれる1種又は2種以上の含窒素官能基を有している。なお、第1水系樹脂(P1)は、得られた表面処理皮膜の表面(金属表面側の反対面)に配向し易い性質をもち、第2水系樹脂(P2)は、第1水系樹脂よりも極性が高く、金属表面に配向し易い性質をもつ。
【0041】
以下、本発明の構成を、水系樹脂、水溶性金属化合物の順で詳しく説明する。
【0042】
(水系樹脂)
第1の金属表面処理剤は、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ホルマリン縮合樹脂、天然多糖類、ポリエステル、ポリアミド及びポリアクリルアミドから選ばれる1種又は2種以上の水系樹脂(P)を用いる。この態様では、通常、1〜3種の水系樹脂を配合して用いるが、それ以上であっても構わない。
【0043】
一方、第2の金属表面処理剤は、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂から選ばれる1種又は2種以上の第1水系樹脂(P1)と、ポリオレフィン系樹脂、ホルマリン縮合樹脂、天然多糖類、ポリエステル、ポリアミド及びポリアクリルアミドから選ばれる1種又は2種以上の第2水系樹脂(P2)とを併用して用いることに特徴がある。この態様では、通常、1種又は2種の第1水系樹脂と、1種又は2種の第2水系樹脂とを配合して用いるが、それ以上であっても構わない。
【0044】
これら第1及び第2の金属表面処理剤は1種又は2種以上の水系樹脂を含有し、その少なくとも1種が、前記した構造式(1)〜(8)から選ばれる1種又は2種以上の含窒素官能基を有している。構造式(1)〜(8)は、1〜3級アミノ基、4級アンモニウム基、及び1〜2級アミド基を示している。構造式(1)と(2)の含窒素官能基は水系樹脂の側鎖に存在し、構造式(3)〜(6)の含窒素官能基はいずれも水系樹脂の主鎖に存在する。これら構造式(1)〜(6)のいずれかの含窒素官能基を有する水系樹脂は、水中でカチオン性を呈する。構造式(7)と(8)の含窒素官能基は、水系樹脂の側鎖又は主鎖にアミド結合を有する構造を示している。
【0045】
金属表面処理剤に含まれる水系樹脂は、その少なくとも1種が前記した含窒素官能基を有していればよく、また、含まれる水系樹脂の全てが前記した含窒素官能基を1種又は2種以上有していてもよい。水系樹脂が含窒素官能基を有することにより、得られた表面処理皮膜と金属表面との密着性が優れるとともに、金属表面処理剤の水分散性(液中での安定性)が良好なものとなる。
【0046】
上記構造式(1)〜(8)において、アミノ基は、水中でカチオン性を呈して樹脂の水溶性又は水分散性を向上させるという効果がある。また、アミド基は非イオン性であるが、窒素の非共有電子対(ローンペア)とカルボニル基の分極とによって高い極性を示すため、アミノ基と同様、高い水溶性又は水分散性を樹脂に付与する能力を有している。
【0047】
金属表面処理剤を構成する水系樹脂に一定量の含窒素官能基を含有させることで、金属表面と得られた表面処理皮膜との間の密着性及びラミネートフィルムと得られた表面処理皮膜との間の密着性のいずれをも高めることができ、且つ耐食性も良好なものとすることができる。さらに、金属表面処理剤の安定性が向上して、密着性のよい金属処理皮膜を安定して形成できる。
【0048】
含窒素官能基を有する水系樹脂の含窒素官能基1個当たりの数平均分子量が50〜3000の範囲内であることが好ましい。含窒素官能基1個当たりの水系樹脂の数平均分子量をこの範囲内とする金属表面処理剤を調整することにより、その金属表面処理剤で形成された表面処理皮膜に含まれる窒素と炭素の質量比(N/C)を0.005〜0.5とすることができる。
【0049】
金属表面処理剤で形成された表面処理皮膜に含まれる窒素(N)と炭素(C)との質量比(N/C)が上記範囲内となっていることにより、表面処理皮膜とラミネートフィルムとの間で十分な密着性を得ることができるとともに、表面処理皮膜の耐水性の低下を防いで金属表面の耐食性の低下を防ぎ、ひいては金属表面と得られた表面処理皮膜と間の密着性の低下を防ぐことができる。
【0050】
なお、含窒素官能基を有する水系樹脂の含窒素官能基1個当たりの水系樹脂の数平均分子量が上記関係を有する限り、含窒素官能基を構造内に有さない水系樹脂の数平均分子量は特に限定されず、含窒素官能基の含有量に応じて任意であるが、あえて規定するとすれば1000〜100000の範囲であることが好ましい。1000未満の場合には造膜性が乏しくなる傾向があり、100000を超えると粘性が高すぎて安定な処理液が作りにくくなる。
【0051】
第1及び第2の金属表面処理剤のいずれにおいても、含まれる水系樹脂は、含窒素官能基がその水系樹脂の全てに含まれるかその1種又は一部に含まれるかに関わらず、含窒素官能基を含む水系樹脂の含窒素官能基1個当たりの数平均分子量が上記した50〜3000の範囲内であればよい。特に金属表面処理剤に含まれる全ての種類の水系樹脂が含窒素官能基を有し、上記範囲内であることが好ましい。
【0052】
特に第2の金属表面処理剤については、全体としては上記のように、含窒素官能基を含む水系樹脂の含窒素官能基1個当たりの数平均分子量が50〜3000の範囲内であればよいが、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂から選ばれる1種又は2種以上の第1水系樹脂(P1)と、ポリオレフィン系樹脂、ホルマリン縮合樹脂、天然多糖類、ポリアミド及びポリアクリルアミドから選ばれる1種又は2種以上の第2水系樹脂(P2)とでさらに詳しく特定できる。すなわち、第2の金属表面処理剤に含まれる第1水系樹脂(P1)は、含窒素官能基を含む第1水系樹脂(P1)の含窒素官能基1個当たりの数平均分子量が500〜3000の範囲内であることがより好ましい。この範囲の第1水系樹脂(P1)は、表面処理皮膜において、系外からの酸素、水分及び腐食性イオン等の腐食因子の透過を抑制するバリアーのように作用する。
【0053】
一方、第2の金属表面処理剤に含まれる第2水系樹脂(P2)は、含窒素官能基を含む第2水系樹脂(P2)の含窒素官能基1個当たりの数平均分子量が50〜1500の数平均分子量を持つものであることがより好ましい。この範囲の第2水系樹脂(P2)は、表面処理皮膜において、金属表面に強く吸着し、金属との界面への腐食因子の侵入を抑制するように作用する。なお、第2水系樹脂(P2)の全てが含窒素官能基を有している場合が、金属表面との密着性の観点から特に好ましい。
【0054】
上記作用を奏する第1水系樹脂(P1)と第2水系樹脂(P2)とを同時に含む第2の金属表面処理剤では、第1水系樹脂(P1)は得られた表面処理皮膜の表面に配向し易く、その結果、表面処理皮膜の耐水性を高め、良好な成形性を付与するという効果がある。一方、第1水系樹脂(P1)よりも極性が高い第2水系樹脂(P2)は、金属表面に配向し易く、その結果、金属表面上に形成した表面処理皮膜の密着性をより高めることができるという効果がある。この第2の金属表面処理剤において、上記効果を奏する第1水系樹脂(P1)と第2水系樹脂(P2)との配合比(P1/P2)は特に限定されず、広い範囲とすることができ、例えば質量比で1/99〜99/1(すなわち0.01〜99)とすることができる。この配合比(P1/P2)のより好ましくは20/80〜95/5(すなわち0.25〜95)であり、各特性のバランスを考慮した場合の好ましい範囲は40/60〜95/5(すなわち0.66〜95)である。
【0055】
なお、グリシジル基、イソシアネート基など、活性水素との反応性の高い樹脂、若しくは化合物を併用する場合には、3級アミン、2級アミン若しくはアミドを有する樹脂を適用することが処理剤の安定性の点でより好ましい。
【0056】
含窒素官能基を有する水系樹脂の例を以下に示す。
【0057】
ウレタン樹脂としては、先ず、原料モノマーであるポリオール成分として、例えば、アルキレン(炭素数1〜6)グリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール及びヘキサメチレングリコール等)、ポリエーテルポリオール(ジエチレングリコール及びトリエチレングリコール等のポリエチレングリコール、ポリエチレン/プロピレングリコール等)、ポリエステルポリオール(上記のようなアルキレングリコール及びポリエーテルポリオール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、及びグリセリン等のポリオールと、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバチン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、及びトリメリット酸等の多塩基酸との重縮合によって得られる末端に水酸基を有するポリエステルポリオール)、及びポリカーボネートポリオール等のポリオール成分を用いる。
【0058】
そして、そのポリオール成分の一部又は全部が、前述のポリオール構造の側鎖若しくは主鎖の一部にアミノ基若しくはアンモニウム基を有するカチオン性ポリオール(例えば、N−アルキル−N,N−ジヒドロキシアルキルアミンのように主鎖にアミノ基を有するポリオール、又は、N,N−ジアルキルアミノアルキレングリコールのように側鎖にアミノ基を有するカチオン性ポリオール)であり、これらポリオールを芳香族、脂環式若しくは脂肪族ポリイソシアネート(トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネート等)と縮合反応させたプレポリマーを、アルキル硫酸、蟻酸若しくは酢酸のようなカルボン酸又は有機ホスホン酸の水溶液中で乳化分散させ、水、又は/及び、エチレンアミン、メラミン等のアミン化合物を用いて鎖延長反応をさせてなるウレタン樹脂等を用いることができる。
【0059】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノール型、ノボラック型又はアルキレン型のエポキシ樹脂と、多官能アミンとの付加反応からなる変性エポキシ樹脂を用いることができる。例えば、ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、ビスフェノールF−ジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチルカルボキシレート、トリグリシジルイソシアヌレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート、ポリプロピレンジグリシジルエーテル、ポリブタジエン叉はポリサルファイドの両末端ジグリシジルエーテル修飾物、及びポリサルファイド変性エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0060】
上記した多官能アミンは、活性水素を1分子中に2個以上有するアミンである。具体的には、イソプロパノールアミン、モノプロパノールアミン、モノブタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエチレントリアミン、エチレンジアミン、ブチルアミン、プロピルアミン、イソホロンジアミン、テトラヒドロフルフリルアミン、キシレンジアミン、ジアミンジフェニルメタン、ジアミノスルホン、オクチルアミン、メタフェニレンジアミン、アミルアミン、ヘキシルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、トリエチレンテトラミン、テトラメチレンペンタミン、ジメチルアミノプロピルアミン、N−アミノエチルピペラジン、メタセンジアミン、及びジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。特に水への溶解性がよいことから、アルカノールアミン類が好ましい。
【0061】
アクリル樹脂としては、その樹脂の構成モノマーの少なくとも一種が、1〜3級のアミノ基、4級アンモニウム基、及び1〜2級アミド基から選ばれる含窒素官能基を有するモノマーを用いることができる。また、モノマー成分の一部としてアクリルアミドを使用し、さらにマンニッヒ反応又はホフマン反応等によってアミノ化したものも用いられる。
【0062】
上記した含窒素官能基を有するアクリルモノマーとしては、アミノメチルアクリレート、アミノメチルメタクリレート、アミノエチルアクリレート、アミノエチルメタクリレート、アミノプロピルアクリレート、アミノブチルアクリレート等の(メタ)アクリル酸アミノアルキル(炭素数1〜8)エステル等、(メタ)アクリルアミド、及びメチロール(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0063】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリビニルフェノールのマンニッヒアミン変性物、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルピリジン、及びポリエチレンイミン等のカチオン性ポリオレフィンを挙げることができる。
【0064】
ホルマリン縮合樹脂としては、メラミン樹脂、マンニッヒ変性のアミノ化フェノール樹脂、及び、アニリンとホルマリン縮合樹脂のマンニッヒ変性アミノ化樹脂等のカチオン性のホルマリン縮合樹脂を挙げることができる。
【0065】
天然多糖類としては、キチン及びキトサン等のカチオン性の天然多糖類を挙げることができる。
【0066】
ポリアミドとしては、アミノピペラジンとアジピン酸を縮合重合したカチオン性ナイロン等のカチオン変性ポリアミドを挙げることができる。
【0067】
ポリアクリルアミドとしては、アクリルアミドホモポリマー、及び、アクリルアミドと共重合可能な他のモノマー(アクリル酸、アクリル酸エステル等)との共重合物等を挙げることができる。
【0068】
こうした各水系樹脂はいずれも前記した構造式(1)〜(8)のいずれかの含窒素官能基を有するので、これらの水系樹脂を1種又は2種以上組み合わせて金属表面処理剤を構成することが好ましい。
【0069】
金属表面処理剤を構成する水系樹脂は、含窒素官能基を含むか含まないかに関わらず、水溶性樹脂、自己乳化若しくは乳化剤によって強制乳化した水系エマルジョン、水系ディスパージョン等の水系の架橋性樹脂、又は、水系の高分子樹脂を挙げることができる。これら高分子樹脂は、本発明の効果を阻害しなければ、架橋反応性の官能基を有するものであってもよい。
【0070】
以上説明したように、第1及び第2の金属表面処理剤を構成する水系樹脂は、その全て又は少なくとも1種若しくは一部が前記した含窒素官能基を特定量有し、結果的に、得られた表面処理皮膜に含まれる窒素と炭素の質量比(N/C)が0.005〜0.5であるように調整されていればよい。その結果、本発明に係る金属表面処理剤で形成された表面処理皮膜は、(ア)形成された表面処理皮膜とラミネートフィルムとの密着性が向上して成形性が向上する、(イ)形成された表面処理皮膜の耐水性が向上して金属表面の耐食性の低下を防ぎ、金属表面処理皮膜と金属表面との密着性が向上し、成形性が向上する、という格別の効果を奏する。
【0071】
(水溶性金属化合物)
第1及び第2の金属表面処理剤において、含まれる水溶性金属化合物としては、Cr(III)、Zr、Ti、V、Nb、Mo、W及びCeから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を含む水溶性金属化合物を挙げることができる。なお、Cr(III)としたのは、六価クロムを含まないという意味である。
【0072】
水溶性金属化合物は、上記した金属元素の塩、錯化合物又は配位化合物である。具体的には、例えば、フッ化クロム、硝酸クロム、硫酸クロム、蓚酸クロム、酢酸クロム、及び重燐酸クロム等の3価クロム化合物;ジルコニウムフッ化水素酸、ジルコニウムフッ化水素酸カリウム、ジルコニウムフッ化水素酸ナトリウム、硝酸ジルコニル、硫酸ジルコニル、及び酢酸ジルコニル等のジルコニウム化合物;チタンフッ化水素酸、チタンフッ化水素酸カリウム、チタンフッ化水素酸ナトリウム、硫酸チタニル、ジイソプロポキシチタニウムビスアセチルアセトン、乳酸とチタニウムアルコキシドとの反応物、及びチタンラクテート等のチタン化合物;五酸化バナジウム、メタバナジン酸、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、及びオキシ三塩化バナジウム等の酸化数5価のバナジウム化合物;三酸化バナジウム、二酸化バナジウム、オキシ硫酸バナジウム、バナジウムオキシアセチルアセテート、バナジウムアセチルアセテート、三塩化バナジウム、及びリンバナドモリブデン酸等のバナジウムの酸化数が5価、4価又は3価のバナジウム化合物;モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、及びモリブドリン酸化合物(例えば、モリブドリン酸アンモニウム、モリブドリン酸ナトリウム等)等のモリブデン化合物;メタタングステン、メタタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸ナトリウム、パラタングステン酸、パラタングステン酸アンモニウム、及びパラタングステン酸ナトリウム等のタングステン化合物;酢酸セリウム、硝酸セリウム(III)若しくは(IV)、及び塩化セリウム等のセリウム化合物;フッ化ニオブ、及びリン酸ニオブ等のニオブ化合物;等が挙げられる。
【0073】
中でも、金属表面処理剤で形成された表面処理皮膜の耐食性と、金属表面及びラミネートフィルムに対する密着性との観点からは、Cr(III)、Zr、Ti及びVから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を含む水溶性金属化合物が好ましい。これら特定の金属元素を有する金属化合物は、金属表面と反応しうる化合物であるため、金属表面と表面処理皮膜との密着性を向上させる作用を有している。
【0074】
金属表面処理剤に所定量の水溶性金属化合物を含有させることで、金属表面と得られた表面処理皮膜との間の密着性、及び、ラミネートフィルムと得られた表面処理皮膜との間の密着性のいずれをも高めることができ、所定量を含有させることで十分な柔軟性を保った皮膜を形成させることができる。その結果、その後の加工によっても表面処理皮膜とラミネートフィルムとの密着性を維持することができる。
【0075】
金属表面処理剤に含まれる水溶性金属化合物は、金属表面処理剤の全固形分中に金属換算で1〜50質量%含有することが好ましい。水溶性金属化合物の含有量を金属換算で上記範囲内とする金属表面処理剤を調整することにより、その金属表面処理剤で形成された表面処理皮膜に含まれる金属元素(Cr(III)、Zr、Ti、V、Nb、Mo、W及びCeから選ばれる金属元素)の合計と炭素の質量比(TM/C)を0.01〜1.3とすることができる。
【0076】
金属表面処理剤で形成された表面処理皮膜に含まれる金属元素の合計(TM)と炭素(C)との質量比(TM/C)が上記範囲内となっていることにより、金属表面と得られた表面処理皮膜との間の密着性の低下を防いで金属表面に腐食媒体が入り込んで耐食性が低下するのを防ぐことができるとともに、特に高湿度環境で金属表面と得られた表面処理皮膜との密着性の低下を防ぐことができ、さらに、得られた表面処理皮膜が脆くなるのを防いで表面処理皮膜自体の柔軟性を向上させ、その後に加工が加わっても得られた表面処理皮膜とラミネートフィルムとの密着性を低下させないという利点がある。
【0077】
金属表面処理剤に含まれる水溶性金属化合物の含有量が金属換算で1質量%未満では、形成された表面処理皮膜に含まれる金属元素の合計(TM)と炭素(C)との質量比(TM/C)が上記範囲からはずれることがあり、その結果、金属表面と得られた表面処理皮膜との間の密着性が低下して金属表面に腐食媒体が入り込んで耐食性が低下することがある。特に高湿度環境で金属表面と得られた表面処理皮膜との密着性が低下し易い。
【0078】
一方、金属表面処理剤に含まれる水溶性金属化合物の含有量が金属換算で50質量%を超える場合も、形成された表面処理皮膜に含まれる金属元素の合計(TM)と炭素(C)との質量比(TM/C)が上記範囲からはずれることがあり、その結果、皮膜が脆くなり、ラミネートフィルムの下地皮膜としての機能が低下するので好ましくない。
【0079】
なお、本願において「全固形分」とは、金属表面処理剤を構成する成分のうち、後述する溶媒等の揮発成分等を除いた固形分のことであり、具体的には、水系樹脂と水溶性金属化合物との合計量を指している。したがって、金属表面処理剤に含まれる水溶性金属化合物は、金属表面処理剤を構成する水系樹脂と水溶性金属化合物との合計量(全固形分)に対して、金属換算で1〜50質量%含まれている。より好ましくは、金属換算で1〜20質量%である。
【0080】
(溶媒)
金属表面処理剤を構成する溶媒は、水を主体とするが、皮膜の乾燥性改善等、必要に応じてアルコール系、ケトン系、又はセロソルブ系の水溶性有機溶剤の併用を妨げるものではない。
【0081】
(その他の成分)
この他に、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、防菌防ばい剤、着色剤、及び硬化剤等、本発明の趣旨及び皮膜性能を損なわない範囲で添加し得る。また、皮膜の耐食性を向上させるため、メチロール化メラミン、カルボジイミド、及びイソシアネート等の有機架橋剤、及び、密着性向上のため、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、及びN−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤を、本発明の趣旨及び皮膜性能を損なわない範囲で添加し得る。
【0082】
(金属材料)
本発明に係る金属表面処理剤は、図1に示すように、被処理物である金属材料1の表面に塗布され、本発明に係る表面処理皮膜2を形成する。ここで、被処理物である金属材料1は特に限定されず、各種のものを適用できる。特に本発明では、金属材料1の表面に表面処理皮膜2を形成した後に樹脂フィルム(3)をラミネートし又は樹脂塗膜(3)を形成し、その後に深絞り加工、しごき加工又はストレッチドロー加工等の厳しい成形加工を施すことができる金属材料が好ましく用いられる。なお、図1では、金属材料1の一方の表面に表面処理皮膜2と樹脂フィルム又は樹脂塗膜(3)を形成した例を示しているが、金属材料1の両面に、すなわち他方の表面にも表面処理皮膜を形成し、さらに樹脂フィルム又は樹脂塗膜を設けてもよい。
【0083】
そうした金属材料としては、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる薄板材、スチール薄板材、ステンレススチール薄板材、包装用アルミニウム箔若しくはアルミニウム合金箔又はステンレス箔等を好ましく挙げることができる。なお、本願において、表面処理皮膜2が設けられていない金属材料1を「金属基材1」と呼び、その金属基材1上に表面処理皮膜2が設けられた金属材料10を「金属材料10」と呼んでもよい。
【0084】
金属材料の用途としては、食品用缶のボディー若しくは蓋材、食品用容器、乾電池容器、二次電池の外装材、等に適用可能な金属材料を挙げることができるが、これらに限定されず、広い用途に応用可能な金属材料を挙げることができる。特に最近では、携帯電話、電子手帳、ノート型パソコン又はビデオカメラ等に用いられるモバイル用リチウムイオン二次次電池の外装材、電気自動車又はハイブリッド自動車の駆動エネルギーとして用いるリチウムイオン二次電池の外装材として利用可能な金属材料を挙げることができる。
【0085】
以上説明したように、本発明に係る第1及び第2の金属表面処理剤によれば、特定種の含窒素官能基を有する特定種の水系樹脂を含有し、さらに特定種の水溶性金属化合物を含有するので、水系樹脂を金属表面処理剤中に安定して存在させることができるとともに、金属表面に対して高い密着性をもたらす上記組成(N/C比及びTM/C比)の表面処理皮膜を形成することができる。その結果、こうした金属表面処理剤で処理してなる表面処理皮膜を金属表面に形成し、その上に樹脂フィルムをラミネートし又は樹脂塗膜を形成したものは、深絞り加工、しごき加工又はストレッチドロー加工等の厳しい成形加工を施した場合であっても、そのラミネートフィルム又は樹脂塗膜が剥離し難いという効果がある。
【0086】
[金属表面処理方法]
本発明に係る金属表面処理方法は、上述した金属表面処理剤を金属表面に塗布した後、60〜250℃の温度で加熱乾燥する方法である。ここで、「金属表面」とは、表面処理皮膜を形成する対象となる金属材料の表面のことである。金属材料の表面は、必要に応じて脱脂され、洗浄される。脱脂剤は、金属基材に適した各種のものから選択できる。また、洗浄液は、通常、水が用いられるが、水溶性溶剤又は界面活性剤水溶液等であってもよい。また、脱脂手段や洗浄手段は特に制限はなく、スプレー法、又は浸漬法等が好適に用いられる。
【0087】
金属表面処理剤は、上述した本発明に係る金属表面処理剤のことであり、第1及び第2の金属表面処理剤のいずれであってもよい。金属表面処理剤の液温は、通常、10〜50℃の範囲内である。金属表面処理剤の塗布手段は特に制限はなく、スプレー法、浸漬法等が好適に用いられる。金属表面への金属表面処理剤の接触時間は、通常、0.5〜180秒程度である。本発明に係る金属表面処理剤は塗布型の処理剤であり、そのため、金属表面処理剤に接触させた後は、洗浄することなく後述の乾燥を行って金属表面処理皮膜を形成する。
【0088】
形成された表面処理皮膜は、60〜250℃の温度で加熱乾燥される。この温度範囲は、その範囲内で樹脂成分の種類によって任意に変化させることができるが、80〜200℃がより好ましい。
【0089】
加熱乾燥の方法については特定せず、バッチ式若しくは連続式熱風循環式乾燥炉、コンベアー式熱風乾燥炉、又は、IHヒーターを用いた電磁誘導加熱炉等が適応でき、その風量と風速等は任意に設定される。
【実施例】
【0090】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳しく説明する。本発明は以下の実施例により限定されるものではない。なお、以下の「部」は「質量部」のことである。
【0091】
[水系樹脂]
(ウレタン樹脂:記号a)
モノマー組成を、ポリオール成分「イソフタル酸と1,6ヘキサンジオールのポリエステルポリオール(数平均分子量:2000)200部、トリメチロールプロパン(分子量:134)5部、N−メチル−ジエタノールアミン(分子量:119)32部」、イソシアネート成分「イソホロンジイソシアネート(分子量:222)118部」、鎖伸長剤「エチレンジアミン(分子量:60)5部」とした。
【0092】
ウレタン樹脂aの合成は、上記ポリオール成分と上記イソシアネート成分とをメチルエチルケトン溶媒中に80℃で反応させ、ウレタンプレポリマーを得た。そのウレタンプレポリマーをジメチル硫酸(30部)水溶液中で乳化した後、鎖伸長剤の10%水溶液中で反応させ、その後、溶媒を除去して、ウレタン樹脂aを得た。
【0093】
(エポキシ樹脂:記号b1)
成分1「ビスフェノールA系エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ株式会社製、エピコート828)(エポキシ当量:187g)235.7部」、成分2「ビスフェノールA 59.4部」、成分3「反応触媒(塩化リチウム)0.1部」、成分4「ジエタノールアミン14部」とした。
【0094】
エポキシ樹脂b1の合成は、上記成分1〜3と、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート125部とを入れた4つ口フラスコ中で、窒素ガスを導入しながら、攪拌下140℃で反応させ、反応生成物溶液を得た。次いで、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート343.3部と、ヘキサメチレンジイソシアネート8.2部とを加え、攪拌下65℃で反応させ、変性高分子エポキシ樹脂溶液を得た。次いで、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート92.7部と、上記成分4とを加え、攪拌下65℃で反応させ、反応終了後、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート154.7部を加え、アミン変性エポキシ樹脂b1の水溶液を得た。
【0095】
(エポキシ樹脂:記号b2)
成分1「ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル系エポキシ樹脂(三井化学株式会社製、エポミックR302)(エポキシ当量:475g)1000部」、成分2「3−アミノプロパノール118.4部」とした。
【0096】
エポキシ樹脂b2の合成は、上記成分1と、エチレングリコールジメチルエーテル(479.3g)とを3口フラスコ内に収め、60℃に昇温して溶解した。次に、成分2を加え、85℃に昇温し、4時間後と5時間後にそれぞれサンプリングして粘度を測定した。粘度が一定になったことを確認した後、70℃に冷却し、乳酸284.0部を加え30分混合し、更に、イオン交換水2591.9部を攪拌しながら投入し、固形分25%及び粘度520cpsのアミンエポキシ樹脂b2のコロイダルディスパージョン溶液を得た。
【0097】
(アクリル樹脂:記号c)
モノマー組成として、「メタクリル酸メチル(分子量:100)20部、ブチルアクリレート(分子量:128)40部、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート(分子量:144)10部、スチレン(分子量:104)10部、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリレート(分子量:175)20部」を用いた。
【0098】
アクリル樹脂cの合成は、反応性乳化剤「アデカリアソーブNE−20」(株式会社ADEKA製)とノニオン性乳化剤「エマルゲン840S」(花王株式会社製)とを6:4で混合した10質量%乳化剤水溶液(S−1)100部に、上記のモノマーを混合し、ホモジナイザーを用いて、5000rpmで10分間乳化し、モノマー乳化液(ER)を得た。次に、攪拌機、還流冷却器、温度計及びモノマー供給ポンプを備えた四つ口フラスコに、前記の乳化剤水溶液(S−1)を150部加え、40〜50℃に保ち、過硫酸アンモニウムの5質量%水溶液(50部)、及び上記モノマー乳化液(ER)をそれぞれ滴下ロートに収め、フラスコの別の口に装着させて、約2時間かけて滴下し、温度を60℃まで昇温して約1時間攪拌した。攪拌しながら室温まで冷却し、アクリル樹脂cのエマルジョン溶液を得た。
【0099】
(フェノール樹脂:記号d)
下記構造式のビスフェノール型カチオン変性フェノール樹脂を用いた。下記構造式中、重合度(m+n)は10〜15であり、n/mは40/60である。
【0100】
【化2】

【0101】
(ポリアクリルアミド:記号e)
アクリルアミド(80質量%)とメタクリル酸(20質量%)との共重合体(平均分子量:20000)を用いた。
【0102】
(天然多糖類:記号f)
下記構造式のグリセリル化キトサン(数平均分子量:1〜10万、グリセリル化1.1)を用いた。
【0103】
【化3】

【0104】
(ポリアクリル酸:記号g)
ポリアクリル酸(数平均分子量:30000)を用いた。
【0105】
(ポリエチレンイミン:記号h)
ポリエチレンイミン(数平均分子量:1600)を用いた。
【0106】
(アクリル樹脂:記号i)
モノマー組成として、「メタクリル酸メチル(分子量:100)20部、ブチルアクリレート(分子量:128)55部、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート(分子量:144)10部、スチレン(分子量:104)10部、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリレート(分子量:175)5部」を用いた。アクリル樹脂iの合成は、アクリル樹脂cと同様に行った。
【0107】
(ポリエチレンイミン:記号j)
ポリエチレンイミン(数平均分子量:10000)を用いた。
【0108】
(エポキシ樹脂:記号k)
成分1「ビスフェノールA系エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ株式会社製、エピコート828)(エポキシ当量:187g)235.7部」、成分2「ビスフェノールA 59.4部」、成分3「反応触媒(塩化リチウム)0.1部」、成分4「ジエタノールアミン7部」とした。エポキシ樹脂kの合成は、エポキシ樹脂bと同様に行った。
【0109】
準備した水系樹脂を表1にまとめた。表1に示すように、水系樹脂a、b1、b2、cは水系樹脂(P1)に分類され、水系樹脂d、e、fは水系樹脂(P2)に分類される。また、水系樹脂g,i,kは水系樹脂(P1)に分類され、水系樹脂h,jは水系樹脂(P2)に分類される。
【0110】
【表1】

【0111】
[水溶性金属化合物]
用いた水溶性金属化合物(M)を以下に示す。
M1:重リン酸クロム Cr(HPO
M2:フッ化クロム CrF・3H
M3:ジルコニウムフッ化水素酸 HZrF
M4:チタンフッ化水素酸 HTiF
M5:バナジウムアセチルアセトネート VO(C
【0112】
[金属表面処理剤]
上記した水系樹脂と水溶性金属化合物とを組み合わせ、表2〜表4に示す実施例1〜39の金属表面処理剤と、比較例1〜11の金属表面処理剤を準備した。
【0113】
【表2】

【0114】
【表3】

【0115】
【表4】

【0116】
[供試材の作製]
アルミニウム合金板(JIS A3004、板厚0.26mm)をファインクリーナー4377K(日本パーカライジング株式会社製のアルカリ脱脂剤)の2%水溶液で50℃・10秒間スプレー脱脂した後、水洗して表面を清浄した。続いて、アルミニウム合金板の表面の水分を蒸発させるために、80℃で1分間、加熱乾燥した。脱脂洗浄したアルミニウム合金板の表面に、表2に示した実施例1〜39及び比較例1〜11の金属表面処理剤の5質量%水溶液をバーコート(#3バー)によって塗布し、熱風循環式乾燥炉内で200℃、1分間乾燥し、アルミニウム合金板の表面に表面処理皮膜を形成した。表面処理皮膜を形成したアルミニウム合金板に、ポリエステル系フィルム(膜厚16μm)を250℃で5秒間(到達板温で180℃)、面圧が50kg/cmになるようにヒートラミネートして「被覆金属板」を作製した。
【0117】
樹脂フィルムをラミネートしてなる被覆金属板を、絞りしごき加工試験で深絞り加工した。直径160mmに打ち抜いた被覆金属板を絞り加工(1回目)し、直径100mmのカップを作製した。続いて、そのカップを直径75mmに再度絞り加工(2回目)し、更に直径65mmに絞り加工(3回目)し、供試材である缶を作製した。なお、1回目の絞り加工、2回目の絞り加工、3回目の絞り加工におけるしごき(薄肉化分)率は、それぞれ、5%、15%、15%であった。
【0118】
[性能評価]
被覆金属板を深絞り加工した後の初期密着性、耐久密着性及び耐酸密着性を以下のようにして評価した。さらに、薬剤安定性についても以下のようにして評価した。その結果を表5に示した。
【0119】
(初期密着性)
深絞り加工した後の供試材について、初期密着性を評価した。缶が作製でき、フィルムの剥離がないものを「○」とし、缶は作製できるがフィルムが一部剥離したものを「△」とし、破断して缶が作製できないものを「×」とした。また、「○」の中で、全く剥離が見られず特に外観に優れるものを「◎」とした。
【0120】
(耐久密着性)
深絞り加工した後の供試材について、加熱加圧蒸気の雰囲気下でレトルト試験を実施した。レトルト試験は、市販の滅菌装置(オートクレーブ)を用い、125℃・1時間で行った。試験後の供試材について、フィルムの剥離がないものを「○」とし、フィルムの一部が剥離したものを「△」とし、フィルムが全面剥離したものを「×」とした。また、「○」の中で、全く剥離が見られず特に外観に優れるものを「◎」とした。
【0121】
(耐酸密着性)
深絞り加工した後の供試材について、50℃の0.5%HF水溶液中に16時間浸漬した後の密着性を評価した。フィルムの剥離がないものを「○」とし、フィルムの一部が剥離したものを「△」とし、フィルムが全面剥離したものを「×」とした。また、「○」の中で、全く剥離が見られず特に外観に優れるものを「◎」とした。
【0122】
(薬剤安定性)
表2〜表4に示す実施例1〜39及び比較例1〜11の金属表面処理剤(薬剤)それぞれ200ccを300ccのポリ容器にそれぞれ封入し、20℃の雰囲気中で2週間静置した後の薬剤の状態を評価した。固化、分離及び沈殿のないものを「○」とし、固化と分離はないが沈殿のあるものを「△」とし、固化と分離のあるものを「×」とした。また、「○」の中で、全く固化、分離及び沈殿が見られず特に安定性に優れるものを「◎」とした。
【0123】
【表5】

【0124】
表5に示すように、実施例1〜39の金属表面処理剤は、金属材料の表面にラミネートフィルムとの密着性に優れた表面処理皮膜を形成することができる。
【0125】
一方、水溶性金属化合物を含まない比較例1と比較例2の金属表面処理剤、及び含窒素官能基を含まない水系樹脂を有する比較例3の金属表面処理剤は、いずれも密着性に劣る表面処理皮膜が形成された。特に耐久密着性と耐酸密着性は著しく劣っていた。この原因は、耐食性が不十分なことによるものと考えられる。
【0126】
また、N/Cが0.005〜0.5の範囲を外れた比較例3、8、9、及び、TM/Cが0.01〜1.3を外れた比較例1、2、6、9〜11は、初期密着性、耐久密着性、耐酸密着性に劣っていた。また、含窒素官能基1個あたりの数平均分子量が50〜3000を外れた水系樹脂h、i、j、kのみを使用した比較例4,5,6,7,8,9,10,11は、初期密着性、耐久密着性、耐酸密着性に加えて薬剤安定性が著しく劣っていた。
【符号の説明】
【0127】
1 金属材料
2 表面処理皮膜
3 ラミネートフィルム又は樹脂塗膜
10 表面処理皮膜を有する金属材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料の表面に塗布形成された表面処理皮膜であって、該表面処理皮膜に含まれる窒素と炭素の質量比(N/C)が0.005〜0.5であり、且つ、Cr(III)、Zr、Ti、V、Nb、Mo、W及びCeから選ばれる金属元素の合計と炭素の質量比(TM/C)が0.01〜1.3であることを特徴とする表面処理皮膜。
【請求項2】
請求項1に記載の表面処理皮膜を得るための金属表面処理剤であって、
ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ホルマリン縮合樹脂、天然多糖類、ポリアミド及びポリアクリルアミドから選ばれる1種又は2種以上の水系樹脂と、Cr(III)、Zr、Ti、V、Nb、Mo、W及びCeから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を含む水溶性金属化合物とを含有し、
前記水系樹脂のうち少なくとも1種が、下記構造式(1)〜(8)から選ばれる1種又は2種以上の含窒素官能基を有することを特徴とする金属表面処理剤。
(構造式(1)〜(8)において、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素、又は、炭素数1〜10の直鎖、分岐鎖若しくは環状のアルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルケニル基、アリール基、アリールアルキル基、ヒドロキシアリール基又はヒドロキシアリールアルキル基である。Xは、水酸イオン、ハロゲンイオン、硫酸イオン、スルホン酸イオン、リン酸イオン及びホスホン酸イオンから選ばれる1種又は2種以上である。)
【化4】

【請求項3】
請求項1に記載の表面処理皮膜を得るための金属表面処理剤であって、
ウレタン樹脂、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂から選ばれる1種又は2種以上の第1水系樹脂と、ポリオレフィン系樹脂、ホルマリン縮合樹脂、天然多糖類、ポリアミド及びポリアクリルアミドから選ばれる1種又は2種以上の第2水系樹脂と、Cr(III)、Zr、Ti、V、Nb、Mo、W及びCeから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を含む水溶性金属化合物とを含有し、
前記第1水系樹脂及び第2水系樹脂のうち少なくとも1種が、下記構造式(1)〜(8)から選ばれる1種又は2種以上の含窒素官能基を有することを特徴とする金属表面処理剤。
(構造式(1)〜(8)において、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素、又は、炭素数1〜10の直鎖、分岐鎖若しくは環状のアルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルケニル基、アリール基、アリールアルキル基、ヒドロキシアリール基又はヒドロキシアリールアルキル基である。Xは、水酸イオン、ハロゲンイオン、硫酸イオン、スルホン酸イオン、リン酸イオン及びホスホン酸イオンから選ばれる少なくとも1種である。)
【化5】

【請求項4】
前記含窒素官能基を含む水系樹脂の該含窒素官能基1個当たりの数平均分子量が、50〜3000であり、前記金属表面処理剤中の全固形分に対する前記水溶性金属化合物が、金属換算で1〜50質量%含まれる、請求項2又は3に記載の金属表面処理剤。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項に記載の金属表面処理剤を金属材料の表面に塗布した後、60〜250℃の温度で加熱乾燥することを特徴とする金属表面処理方法。
【請求項6】
請求項1に記載の表面処理皮膜を有する金属材料。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−157586(P2011−157586A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19606(P2010−19606)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】