説明

表面処理組成物

【課題】 本発明が解決すべき課題は、加工性、耐食性、耐結露白化性等に優れた表面処理板を提供することである。
【解決手段】本発明は、水分散性のポリウレタン樹脂(A)、及び水分散性のポリウレタン樹脂(A)の固形分合計100質量部に対して、防錆剤(B)5〜50質量部、シランカップリング剤によって処理されたコロイダルシリカ(C)10〜150質量部及び塩基性アルカリ珪酸塩(D)30〜110質量部を含有する表面処理剤であって、防錆剤(B)が、チタン化合物(b1)及び有機リン酸化合物(b2)を含有し、さらにバナジウム化合物(b3)及びジルコニウム化合物(b4)から選ばれる少なくとも1種を含有する、表面処理剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工性、耐食性及び耐結露白化性等に優れた皮膜が得られる表面処理組成物、及び該表面処理組成物を用いて得られる表面処理金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からクロム酸塩を使用する表面処理方法には、処理工程でのクロム酸塩ヒュームの飛散の問題、排水処理設備に多大な費用を要すること、さらには化成処理皮膜からのクロム酸溶出による問題などがある。また6価クロム化合物は、IARC(International Agency for Research on Cancer Review)を始めとして多くの公的機関が人体に対する発癌性物質に指定しており、極めて有害な物質である。そこで有害なクロムを含有せず、加工性と耐食性を兼ね備えた1層の被膜よりなる表面処理鋼板の要求が強くなってきた。
【0003】
クロムを含有せず加工性と耐食性とを兼ね備えた皮膜を形成する組成物として、例えば、特許文献1には、水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂、潤滑機能付与剤、シリカ粒子及びバナジウム化合物を含有してなる皮膜を形成可能な組成物が開示されている。また、特許文献2には、水溶性又は水分散性ポリウレタン樹脂に対して、シリカ粒子、シランカップリング剤、バナジン酸化合物、金属フッ化水素酸及び金属フッ化水素酸塩から選ばれる少なくとも1種のフッ化化合物を含有してなる金属表面処理組成物が開示されている。これらの特許文献1及び2に記載の配合組成では、加工性、耐食性に優れた皮膜は得られるが、耐結露白化性の点で問題があった。
【0004】
耐結露白化性が悪いと、表面処理剤を施した鋼板コイルは、コイルの端から水分が浸透して鋼板の表面が白化する現象が生じ、ユーザーでの鋼板の使用時に問題となることがあった。このようなコイルに発生する白化を防止する為に、表面処理剤中のシリカ粒子やバナジウム化合物の量を減少させると耐食性が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−183587号公報
【特許文献2】特開2005−298837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明が解決しようとする課題は、加工性、耐食性、耐結露白化性等に優れた表面処理金属板を形成できる表面処理剤及び該表面処理剤が塗装された鋼板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者等は、水分散性のポリウレタン樹脂(A)、防錆剤(B)、シランカップリング剤によって処理されたコロイダルシリカ(C)及び塩基性アルカリ珪酸塩(D)を含有する表面処理剤であって、水分散性のポリウレタン樹脂(A)の固形分合計100質量部に対して、防錆剤(B)を5〜50質量部、シランカップリング剤によって処理されたコロイダルシリカ(C)を10〜150質量部及び塩基性アルカリ珪酸塩(D)を30〜110質量部を含有し、かつ
防錆剤(B)が、チタン化合物(b1)及び有機リン酸化合物(b2)を含有し、さらにバナジウム化合物(b3)及びジルコニウム化合物(b4)から選ばれる少なくとも1種を含有する、表面処理剤を用いることにより、上記課題の解決が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の項に関する:
1.水分散性のポリウレタン樹脂(A)、防錆剤(B)、シランカップリング剤によって処理されたコロイダルシリカ(C)及び塩基性アルカリ珪酸塩(D)を含有する表面処理剤であって、水分散性のポリウレタン樹脂(A)の固形分合計100質量部に対して、防錆剤(B)を5〜50質量部、シランカップリング剤によって処理されたコロイダルシリカ(C)を10〜150質量部及び塩基性アルカリ珪酸塩(D)を30〜110質量部を含有し、かつ
防錆剤(B)が、チタン化合物(b1)及び有機リン酸化合物(b2)を含有し、さらにバナジウム化合物(b3)及びジルコニウム化合物(b4)から選ばれる少なくとも1種を含有する、表面処理剤。
【0009】
2.さらに、水分散性のポリウレタン樹脂(A)の固形分合計100質量部に対して、シランカップリング剤による処理を行ってないコロイダルシリカ(E)を0.1〜160質量部含有する1項に記載の表面処理剤。
【0010】
3.鋼板上に、1項又は2項に記載の表面処理剤を塗装し、乾燥皮膜重量で0.1〜3.0g/mの皮膜を形成する皮膜形成方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の表面処理剤は、表面処理板の加工性、耐食性、耐結露白化性等に優れる表面処理鋼板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の表面処理剤は、水分散性のポリウレタン樹脂(A)、及び水分散性のポリウレタン樹脂(A)の固形分合計100質量部に対して、特定の防錆剤(B)を5〜50質量部、シランカップリング剤によって処理されたコロイダルシリカ(C)10〜150質量部及び塩基性アルカリ珪酸塩(D)30〜110質量部を含有することを特徴とする。以下、詳細に述べる。
【0013】
水分散性のポリウレタン樹脂(A):
本発明の表面処理剤は、得られた皮膜上における上塗り塗膜との付着性及び加工性の点からポリウレタン樹脂を使用する。水分散性のポリウレタン樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等のポリオールとジイソシアネートとからなるポリウレタンを必要に応じて、ジオール、ジアミン等のような2個以上の活性水素をもつ低分子量化合物である鎖伸長剤の存在下で、鎖伸長し、水中に安定に分散もしくは溶解させたものであり、公知のものを広く使用することができる。
【0014】
ポリウレタン樹脂を水中に安定に分散もしくは溶解させる方法としては、例えば以下の方法が利用できる。(1)ポリウレタンポリマーの側鎖又は末端に、水酸基、アミノ基、カルボキル基等のイオン性基を導入することにより親水性を付与し自己乳化により水中に分散又は溶解する方法;(2)反応の完結したポリマー又は末端イソシアネート基を、オキシム、アルコール、フェノール、メルカプタン、アミン、重亜硫酸ソーダ等のブロック剤でブロックしたポリマーを、乳化剤及び機械的せん断力を用いて強制的に水中に分散する方法;(3)末端イソシアネート基を持つウレタンプレポリマーを、水、乳化剤及び伸長剤と混合し、機械的せん断力を用いて分散化及び高分子化を同時に行う方法;(4)ポリウレタン主原料のポリオールとしてポリエチレングリコールのような水溶性ポリオールを使用し、水に可溶なポリウレタンとして水中に分散又は溶解する方法等が挙げられる。なおポリウレタン樹脂の分子量は特に限定するものではないが、重量平均分子量で10,000〜1,000,000、好ましくは50,000〜500,000が好ましい。
【0015】
上記ポリウレタン樹脂の市販品としては、例えばハイドランHW−330、ハイドランHW−340、ハイドランHW−350(いずれも大日本インキ化学工業社製)、スーパーフレックス100、スーパーフレックス130、スーパーフレックス150、スーパーフレックス170、(いずれも第一工業製薬社製)、アデカポンタイダーHUX−206、アデカボンタイダーHUX−232、アデカボンタイダーHUX−360、アデカポンタイダーHUX−540(いずれもアデカ社製)等を挙げることができる。
【0016】
防錆剤(B):
本発明の表面処理剤は、防錆剤(B)を含有することによって、耐食性に優れる皮膜を得ることができる。上記の防錆剤(B)は、チタン化合物(b1)及び有機リン酸化合物(b2)を含有し、さらにバナジウム化合物(b3)及びジルコニウム化合物(b4)から選ばれる少なくとも1種の金属の塩を含有する。以下、防錆剤(B)に含まれる各成分について述べる。
【0017】
チタン化合物(b1)
上記チタン化合物(b1)には、例えば、チタンフッ化アンモニウム、リン酸チタニル、塩化チタン、硫酸チタン、硫酸チタニル、硝酸チタン、硝酸チタニル、チタンフッ化水素酸、フッ化チタン酸の塩、酸化チタン、フッ化チタン等が挙げられる。好ましくは、チタンフッ化アンモニウム、チタンフッ化水素酸、リン酸チタニル等が挙げられる。
【0018】
チタン化合物(b1)は、防錆剤(B)の固形分合計100質量部を基準にして、10〜50質量部、特に20〜40質量部であることが、防錆性、安定性等の点から好ましい。これらのチタン化合物(b1)は、1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0019】
有機リン酸化合物(b2)
有機リン酸化合物(b2)としては、例えば、1−ヒドロキシメタン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸等、2−ヒドロキシホスホノ酢酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、及びこれらの塩等が好適なものとして挙げられる。本発明において、リン酸チタニルは、有機リン酸化合物としてではなく、チタン化合物として用いられる。
【0020】
上記有機リン酸化合物(b2)は、防錆剤(B)の貯蔵安定性を向上させる効果があり、中でも特に1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸が好ましい。有機リン酸化合物(b2)の配合量は、防錆剤(B)の固形分合計100質量部を基準にして、20〜70質量部、特に40〜60質量部であることが、防錆性、安定性等の点から好ましい。これらの有機リン酸化合物(b2)は、1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0021】
バナジウム化合物(b3)
バナジウム化合物(b3)は、例えば、メタバナジン酸リチウム、メタバナジン酸カリウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸アンモニウム等が挙げられるが、中でも特にメタバナジン酸アンモニウムが、安定性、耐食性の点から好ましい。
【0022】
バナジウム化合物(b3)の配合量は、防錆剤(B)の固形分合計100質量部を基準にして、0〜30質量部、特に5〜25質量部であることが、耐食性等の点から好ましい。これらのバナジウム化合物(b3)は、1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0023】
ジルコニウム化合物(b4)
ジルコニウム化合物(b4)は、例えば、ジルコニウムフッ化水素酸のナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、硝酸ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモン等の塩を挙げることができるが、中でもジルコニウムフッ化アンモニウムが耐食性等の点から好ましく、炭酸ジルコニウムアンモニウムは貯蔵性等の点で好ましい。
【0024】
ジルコニウム化合物(b4)の配合量は、防錆剤(B)の固形分合計100質量部を基準にして、0〜30質量部、特に5〜25質量部であることが、耐食性等の点から好ましい。
【0025】
また、バナジウム化合物(b3)及びジルコニウム化合物(b4)の合計量は、防錆剤(B)の固形分合計100質量部を基準にして、5〜60質量部、特に10〜50であることが、表面処理剤の安定性や耐食性の点から好ましい。これらのジルコニウム化合物(b4)は、1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0026】
防錆剤(B)の調製において各成分を混合する温度と時間は、10〜100℃、好ましくは30〜90℃で1分間〜180分間、好ましくは10〜60分間である。水に、各成分を溶解させる面からも加熱することが好ましい。
【0027】
なお本発明の表面処理剤における防錆剤(B)の配合割合は、水分散性のポリウレタン樹脂(A)の固形分合計100質量部に対して、5〜50質量部、好ましくは6〜35質量部、さらに好ましくは7〜25質量部が、表面処理剤の安定性と、加工性、耐食性及び耐結露白化性向上のために好ましい。
【0028】
シランカップリング剤によって処理されたコロイダルシリカ(C):
本発明の表面処理剤は、シランカップリング剤によって処理されたコロイダルシリカ(C)(以下、「(C)成分」と略称することがある)を含有する。シランカップリング剤によって処理されたコロイダルシリカ(C)は、出発原料のコロイダルシリカの固形分量100質量部に対して、シランカップリング剤1〜50質量部、好ましくは3〜30質量部、さらに好ましくは5〜20質量部を加え、反応させて得ることができる。
【0029】
反応に際してシランカップリング剤が、お互いに縮合したり、コロイダルシリカと急激に反応して、粘度の上昇やゲル化の発生が起こらないように反応させる。反応時の温度と時間は、10〜100℃、好ましくは40〜90℃で1分間〜180分間、好ましくは10〜60分間である。コロイダルシリカの水酸基とシランカップリング剤とを効率良く反応させる為にも加熱することが好ましい。
【0030】
また、シランカップリング剤とコロイダルシリカとの反応時には、必要に応じて、金属化合物、水溶性樹脂、界面活性剤等も混合することができる。
【0031】
上記のシランカップリング剤としては、例えば、ビニルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、β‐(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメエキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−(ビニルベンジルアミン)−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができ、これらの1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0032】
市販品として、信越シリコーン社製の、KBM−403、KBM−502、KBM−503、KBM−603、KBE−903、KBM−603、KBE−602、KBE−603(いずれも商品名)等を用いることができる。
【0033】
一方、コロイダルシリカは、二酸化ケイ素(SiO)の超微粒子をナトリウム、アンモニウムで安定化させたコロイダルシリカを使用することが好ましい。二酸化ケイ素(SiO)の超微粒子は、シロキサン結合により高分子量化しており且つその表面に水酸基を有してもよい球状のシリカが好ましい。また、該微粒子の大きさは1〜50nm、特に5〜20nmの範囲が好ましい。
【0034】
該(C)成分に使用し得るコロイダルシリカは、市販品として入手することができ、例えば、スノーテックスS、スノーテックスNXS、スノーテックスC(いずれも日産化学工業(株)製、商品名)、アデライトAT−20A、アデライトAT−2045(株式会社アデカ製、商品名)等が挙げられる。
【0035】
また、反応時に配合してもよい前記金属化合物としては、例えばジルコニウム、チタニウム、亜鉛、アルミニウム等の金属化合物が挙げられる。具体的には、ジルコニウム化合物は、塩化ジルコニウム、塩化ジルコニル、硫酸ジルコニウム、硫酸ジルコニル、硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニル、ジルコニウムフッ化水素酸、フッ化ジルコン酸の塩、酸化ジルコニウム、臭化ジルコニル、酢酸ジルコニル、炭酸ジルコニル、フッ化ジルコニウム等が挙げられる。
【0036】
チタニウム化合物としては、塩化チタン、硫酸チタン、硫酸チタニル、硝酸チタン、硝酸チタニル、チタンフッ化水素酸、フッ化チタン酸の塩、酸化チタン、フッ化チタン等が挙げられる。
【0037】
亜鉛化合物としては、例えば、酢酸亜鉛、乳酸亜鉛、酸化亜鉛、硝酸亜鉛等が挙げられる。アルミニウム化合物は、硝酸アルミニウムが挙げられる。
【0038】
前記の水溶性樹脂としては、前記ウレタン樹脂以外の樹脂であり、例えばアクリル樹脂の水分散体、ポリ(N−ビニルアセトアミド)、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、水溶性ナイロン、酸化デンプン、等を挙げることができる。
【0039】
前記の界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、及び両性イオン系界面活性剤のいずれでもよい。ノニオン系界面活性剤は、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン化合物、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド等が挙げられる。アニオン系界面活性剤は、例えば、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルリン酸塩等が挙げられる。カチオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩等が挙げられる。両性イオン界面活性剤は、例えば、アルキルベダインが挙げられる。
【0040】
なお本発明の表面処理剤における、シランカップリング剤によって処理されたコロイダルシリカ(C)の含有量は、水分散性のポリウレタン樹脂(A)の固形分合計100質量部に対して、シランカップリング剤によって処理されたコロイダルシリカ(C)10〜150質量部、好ましくは12〜100質量部、さらに好ましくは15〜80質量部含有することが、耐食性と耐結露白化性の為によい。
【0041】
塩基性アルカリ珪酸塩(D):
本発明の表面処理剤には、塩基性アルカリ珪酸塩(D)を配合する。塩基性アルカリ珪酸塩(D)としては、例えば珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム、珪酸アンモニウム等を挙げることができる。この中でも珪酸ナトリウムが、耐結露白化性の向上から好ましい。
【0042】
また、塩基性アルカリ珪酸塩(D)の含有量は、水分散性のポリウレタン樹脂(A)の固形分合計100質量部に対して、30〜110質量部、好ましくは35〜105質量部、さらに好ましくは40〜100質量部含有が、表面処理剤の安定性と耐食性の面からよい。
【0043】
シランカップリング剤による処理を行ってないコロイダルシリカ(E)
本発明の表面処理剤には、要求される性能に応じて、シランカップリング剤による処理を行ってないコロイダルシリカ(E)(以下、「未処理コロイダルシリカ(E)」と称する)を配合できる。具体的には、前記(C)成分の項で説明した出発原料のコロイダルシリカを好適に使用でき、スノーテックスNXS、スノーテックスXS(いずれも日産化学工業(株)製、商品名)アデライトAT−20A(アデカ社製)等が挙げられる。
【0044】
未処理コロイダルシリカ(E)の含有量は、水分散性のポリウレタン樹脂(A)の固形分合計100質量部に対して、0.1〜160質量部、好ましくは50〜150質量部、さらに好ましくは90〜145質量部が、耐食性の為によい。
【0045】
また本発明の表面処理剤には、上記した成分以外に、例えば、潤滑機能付与剤、増粘剤、ハジキ防止剤、消泡剤、界面活性剤、酸化剤、防菌剤、防錆剤(タンニン酸、フィチン酸、ベンゾトリアゾール等)、着色顔料、体質顔料、防錆顔料、導電性顔料等を含有できる。また、必要に応じて、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール系溶剤、プロピレングリコール系溶剤等の親水性溶剤を添加してもよい。
【0046】
表面処理金属板の製造
本発明の表面処理剤においては、従来のクロメート処理工程を省くことができ、無処理の冷延鋼板、アルミニウム板等;無処理の亜鉛系めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板等のめっき鋼板に、直接塗布、乾燥させることで、加工性、耐食性及び耐結露白化性に優れた金属板を得ることができる。
【0047】
上記亜鉛系めっき鋼板としては、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、ニッケル−亜鉛合金めっき鋼板、亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板等が挙げられる。亜鉛−アルミニウムめっき鋼板としては、亜鉛をめっきの主成分とする金属板の場合、5%Al−Zn系鋼板、8%Al−Zn系鋼板、15%Al−Zn系鋼板等が、またアルミニウムをめっきの主成分とする金属板は、55%Al−Zn系鋼板、75%Al−Zn系鋼板等が挙げられる。またAl−Zn合金中に、Mg、Mn、Si、Ti、Ni、Co、Pb、Sn、Cr及びレアメタル(La、Ce、Y、Nb等)等を添加したアルミと亜鉛を主成分とする複合めっき鋼板にも適用可能である。
【0048】
本発明の表面処理剤は前記金属板に塗布して使用されるが、その塗布量は乾燥皮膜重量で0.1〜3.0g/m、より好ましくは0.5〜3.0g/mが望ましい。
【0049】
本発明の表面処理剤を鋼板に塗布して皮膜形成させるにあたり、表面処理剤の粘度を水等の希釈剤により塗布量に応じて5〜30mPa・sに適宜調整後、ロールコーター塗装、スプレー塗装、デッピング塗装等の一般に公知の方法により所定の皮膜重量となるよう塗装する。その後、雰囲気温度が150〜250℃で10〜40秒間乾燥させる。この時の金属板の最高到達温度(PMT)は90〜160℃の範囲内であることが好ましい。このようにして表面処理剤を塗装、乾燥することにより、加工性、耐食性及び耐結露白化性等に優れた金属板が製造される。
【実施例】
【0050】
以下、製造例、実施例及び比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。各例中の「部」は質量部、「%」は質量%を示す。
【0051】
製造例1 防錆剤No.1の製造例
ガラス製ビーカーに、脱イオン水400部、チタンフッ化アンモニウム24部、1−ヒドロキシメタン−1,1−ジホスホン酸46部、メタバナジン酸アンモニウム12部、ジルコニウムフッ化アンモニウム8部、炭酸ジルコニウムアンモニウム10部を攪拌しながら混合して80℃で2時間加熱し、その後放冷することによって防錆剤No.1を得た。
【0052】
製造例2〜8
表1の配合内容とする以外は、製造例1と同様の方法で、固形分20%の防錆剤No.2〜No.8を得た。
【0053】
【表1】

【0054】
シランカップリング剤によって処理されたコロイダルシリカ(C)の製造
製造例9 変性シリカNo.1の製造例
スノーテックスNXS(粒子径約5nm、SiO 2濃度15質量%、日産化学工業(株)製)667部(固形分100部)を、内容積1Lの撹拌機を備えたガラス製反応器に仕込んだ。これに、KBM−403(信越シリコーン社製、商品名、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)20部(固形分)をエタノール30部と混合したものを添加し、均一に攪拌後、混合物を95℃に加熱して2時間攪拌して、シランカップリング剤処理されたコロイダルシリカである変性シリカNo.1を得た。
【0055】
製造例10 変性シリカNo.2の製造例
スノーテックスNXS(粒子径約5nm、SiO 2濃度15質量%、日産化学工業(株)製)667部(固形分100部)を内容積1Lの撹拌機を備えたガラス製反応器に仕込んだ。これに、KBM−503(信越シリコーン社製、商品名、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)10部(固形分)をエタノール30部と混合したものを添加し、均一に攪拌後、混合物を95℃に加熱して2時間攪拌し、シランカップリング剤処理されたコロイダルシリカである変性シリカNo.2を得た。
【0056】
製造例11 変性シリカNo.3の製造例
スノーテックスNXS(粒子径約5nm、SiO 2濃度15質量%、日産化学工業(株)製)667部(固形分100部)を内容積1Lの撹拌機を備えたガラス製反応器に仕込んだ。これに、KBE−903(信越シリコーン社製、商品名、3−アミノプロピルトリエトキシシラン)5部(固形分)をエタノール7.5部と混合したものを添加し、均一に攪拌後、混合物を95℃に加熱して2時間攪拌し、シランカップリング剤処理されたコロイダルシリカである変性シリカNo.3を得た。
【0057】
製造例12 変性シリカNo.4の製造例
スノーテックスNXS(粒子径約5nm、SiO 2濃度15質量%、日産化学工業(株)製)667部(固形分100部)を内容積1Lの撹拌機を備えたガラス製反応器に仕込んだ。これに、KBM−403(信越シリコーン社製、商品名、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)5部(固形分)をエタノール30部と混合したものを添加し、均一に攪拌後、これにメタバナジン酸アンモニウム5部(固形分)を添加し、攪拌し、混合物を95℃に加熱してさらに2時間攪拌し、シランカップリング剤処理されたコロイダルシリカである変性シリカNo.4を得た。
【0058】
製造例13 変性シリカNo.5の製造例
スノーテックスNXS(粒子径約5nm、SiO 2濃度15質量%、日産化学工業(株)製)667部(固形分100部)を内容積1Lの撹拌機を備えたガラス製反応器に仕込んだ。これに、KBM−403(信越シリコーン社製、商品名、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)10部(固形分)をエタノール70部と混合したものを添加して均一に攪拌後、メタバナジン酸アンモニウム5部(固形分)、炭酸ジルコニウムアンモン5部(固形分)を添加攪拌し、95℃に加熱して2時間攪拌し、シランカップリング剤処理されたコロイダルシリカである変性シリカNo.5を得た。
下記表2に、変性シリカNo.1〜No.5の配合内容を示す。
【0059】
【表2】

【0060】
表面処理剤の製造
実施例1〜18
下記表3及び表4に示す配合にて各成分を攪拌機で十分に混合し、脱イオン水を加えて固形分を調整して固形分20%の表面処理剤No.1〜No.18を作成した。
【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【0063】
(注1)アデカポンタイダーHUX−206:アデカ社製、商品名、水分散性のポリウレタン樹脂
(注2)アデカポンタイダーHUX−540:アデカ社製、商品名、水分散性のポリウレタン樹脂
(注3)スーパーフレックス150:第一工業製薬社製、商品名、水分散性のポリウレタン樹脂
(注4)スーパーフレックス500:第一工業製薬社製、商品名、水分散性のポリウレタン樹脂
(注5)スノーテックスNXS:日産化学工業社製、商品名、コロイダルシリカ、粒径5mm
(注6)アデライトAT−2045:アデカ社製、商品名、コロイダルシリカ、
平均粒子径5nm。
【0064】
比較例1〜8
下記表5に示す各成分を攪拌機で十分に混合し、脱イオン水を加えて固形分を調整して固形分20%の下地処理剤No.19〜No.26を作成した。
【0065】
【表5】

【0066】
表面処理板の作成及び性能評価
実施例19
溶融亜鉛メッキ鋼板(板厚0.6mm、メッキ目付量100g/m)に、表面処理剤No.1をロールコーターにて乾燥皮膜が0.5g/mとなるように塗装し、雰囲気温度230℃で10秒間乾燥させて表面処理板No.1を作成した。
【0067】
実施例20〜36
表面処理剤No.2〜No.18を用いる以外は、実施例1と同様にして表面処理板No.2〜No.18を得た。得られた表面処理板を後記試験方法に従って試験に供した。その結果を表6〜7に示す。
【0068】
【表6】

【0069】
【表7】

【0070】
比較例9〜16
表面処理剤No.19〜No.26を用いる以外は、実施例1と同様にして表面処理板No.19〜No.26を得た。得られた表面処理板を後記試験方法に従って試験に供した。その結果を表8に示す。
【0071】
【表8】

【0072】
試験方法
(注7)皮膜外観:各表面処理板について、皮膜外観を目視で下記の基準で評価した:
Bは、皮膜は平滑な連続膜で透明である;
Cは、皮膜は平滑な連続膜であるが、かなり白濁するか、又はかなり着色している;
Dは、平滑な連続した膜にならない。
【0073】
(注8)加工性:各表面処理板について、エリクセン社製の金属薄板深絞り試験器142型を使用し、深絞り加工試験を下記の条件で行った:
・試験温度20℃及び80℃
・シートホルダー圧1500Kg
・ポンチ径50mm
・ブランク径110mm
・絞り比2.2
・加工速度10mm/sec
加工された試験板について、目視で下記の基準により評価した:
A:ダイスに付着物がなく、被加工物の表面にすり傷が認められない;
B:ダイスに微量の付着物があり、被加工物の表面に微少のすり傷が認められる;
C:ダイスにやや多くの付着物があり、被加工物の表面に多くのすり傷が認められる;
D:ダイスに多量の付着物があり、被加工物の表面全面に著しいすり傷が認められる。
【0074】
(注9)耐食性:塩水噴霧試験をJIS Z−2371に従い実施した。試験時間は加工前の「平板」については360時間、上記「加工性」試験で得られた試料については240時間で行い、錆の発生程度より下記の基準で評価した:
Aは、全く錆の発生が認められない;
Bは、5%未満の面積に錆の発生が認められる;
Cは、5%以上、20%未満の面積に錆の発生が認められる;
Dは、20%以上の面積に錆の発生が認められる。
【0075】
(注10)耐結露白化性:各々の表面処理板に、スポイトにて脱イオン水を1ml垂らし、室温に放置乾燥後、下記の評価基準に従って評価した:
Aは、痕跡なし;
Bは、僅かに痕跡が認められる;
Cは、僅かに変色が認められる;
Dは、かなりの変色が認められる。
【0076】
(注11)処理剤安定性:
内容量1Lのガラス容器に各表面処理剤を500g入れて密封し、40℃の恒温室中で14日間貯蔵した。その後、室温に戻し、容器の中の状態を目視にて観察し、次の基準で評価した:
A:ソフトケーキングや分離が認められず良好
B:ソフトケーキングや分離が認められるが、10分間以下の攪拌により均一となる、
C:ソフトケーキングや分離が認められ、10分間を超えて、60分間未満の攪拌で均一になる、
D:ハードケーキングや分離が認められ、60分間を超える攪拌でも均一にならない。
【0077】
(注12)総合評価:
本発明が属する表面処理の分野においては、表面処理板の皮膜外観、加工性、耐食性及び耐結露白化性、ならびに処理剤安定性の全てが優れていることが望ましい。従って、下記の基準にて総合評価を行った:
A:皮膜外観、加工性、耐食性、耐結露白化性及び処理剤安定性が全てA又はB評価であり、かつA評価が少なくとも1つある;
B:上記5項目が全てB評価である;
C:上記5項目が全てA、B又はC評価であり、かつC評価が少なくとも1つある;
D:D評価の項目が少なくとも1つある。
【産業上の利用可能性】
【0078】
加工性、耐食性、耐結露白化性等に優れた家電、自動車用鋼板が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分散性のポリウレタン樹脂(A)、防錆剤(B)、シランカップリング剤によって処理されたコロイダルシリカ(C)及び塩基性アルカリ珪酸塩(D)を含有する表面処理剤であって、水分散性のポリウレタン樹脂(A)の固形分合計100質量部に対して、防錆剤(B)を5〜50質量部、シランカップリング剤によって処理されたコロイダルシリカ(C)を10〜150質量部及び塩基性アルカリ珪酸塩(D)を30〜110質量部を含有し、かつ
防錆剤(B)が、チタン化合物(b1)及び有機リン酸化合物(b2)を含有し、さらにバナジウム化合物(b3)及びジルコニウム化合物(b4)から選ばれる少なくとも1種を含有する、表面処理剤。
【請求項2】
さらに、水分散性のポリウレタン樹脂(A)の固形分合計100質量部に対して、シランカップリング剤による処理を行ってないコロイダルシリカ(E)を0.1〜160質量部含有する請求項1に記載の表面処理剤。
【請求項3】
鋼板上に、請求項1又は2に記載の表面処理剤を塗装し、乾燥皮膜重量で0.1〜3.0g/mの皮膜を形成する皮膜形成方法。


【公開番号】特開2011−225967(P2011−225967A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24777(P2011−24777)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】