表面処理蛍光体及び表面処理蛍光体の製造方法
【課題】蛍光特性を低下させることなく、耐湿性を大幅に改善することができ、かつ、高い分散性を有する表面処理蛍光体及び該表面処理蛍光体の製造方法を提供する。
【解決手段】周期律表第3〜6族の元素から選択される少なくとも1種の特定元素と、フッ素とを含有する表面処理層を蛍光体の表面に有する表面処理蛍光体であって、表面処理層の断面厚み方向の元素分布を、電子顕微鏡及びそれに付属するエネルギー分散型X線元素分析により測定した場合、特定元素の含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも表面側に位置する表面処理蛍光体。
【解決手段】周期律表第3〜6族の元素から選択される少なくとも1種の特定元素と、フッ素とを含有する表面処理層を蛍光体の表面に有する表面処理蛍光体であって、表面処理層の断面厚み方向の元素分布を、電子顕微鏡及びそれに付属するエネルギー分散型X線元素分析により測定した場合、特定元素の含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも表面側に位置する表面処理蛍光体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐湿性が著しく改善された表面処理蛍光体及び該表面処理蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、白色光を発する半導体発光素子(白色LED)は、低消費電力、高効率、環境にやさしい、長寿命等の長所を兼ね備えているため、次世代光源として注目を浴びている。
白色LEDにおいて、白色光を作り出す方法としては、青色や紫外光のLEDとそれらの光によって励起されうる蛍光体(赤、黄、緑色蛍光体等)とを組み合わせる方法が一般的に用いられている。
【0003】
また、アルカリ土類金属元素を有するシリケート(珪酸塩とも呼ばれる)蛍光体は、組成調節により広範囲な発光波長を容易に得られることと、発光効率が高いこと等の特徴を有するため注目されている。なかでも、特許文献1に記載の(Sr,Ba,Ca)2SiO4:Eu2+や、特許文献2に記載の(Sr,Ba,Ca)3SiO5:Eu2+等の構造を有するシリケート蛍光体が代表例として挙げられる。このシリケート蛍光体では、Srと、Ba又はCaとの相対量を調節することにより発光波長のチューニングが可能である。
【0004】
しかしながら、このようなアルカリ土類金属元素を有するシリケート蛍光体は、空気中の水蒸気や水分によって表面が分解劣化しやすいという問題があった。そのため、大気中での長時間使用の場合に、発光強度の低下や色調の変化が起こりやすく、蛍光体としての特性が低下し、耐久性に大きな問題があった。
これに対して、蛍光体の耐湿性を改善する方法として、気相法(乾式法)、液相法(湿式法)等を用いて、蛍光体粒子の表面を酸化物等で被覆する方法が検討されている。
例えば、気相法による方法としては、化学的気相成長法(CVD)を用いる方法(特許文献3)や、プラズマ法を用いる方法(特許文献4)によって硫化物蛍光体粒子の表面に酸化アルミニウム膜をコーティングする方法が開示されている。
【0005】
また、液相法による方法としては、ゾル−ゲル反応法と中和沈殿法が挙げられ、例えば、特許文献5には、0〜20℃の反応温度でSi、Ti等のアルコキシド及び/又はその誘導体を多量のアンモニア水の存在下で加水分解、脱水重合により蛍光体粒子への表面処理方法を開示されている。また、特許文献6には、表面に粒子状又は層状のSi含有化合物を載置した蛍光体が開示されている。
更に、特許文献7には、ゾル−ゲル法を用いたジルコニア膜の被覆方法が開示されている。特許文献8には、アルミニウム等のイオン含有酸性溶液を、蛍光体を分散させたアルカリ性溶液中に添加し、中和反応によって蛍光体粒子の表面に金属水酸化物を析出する方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献3及び4に開示された気相法では、微粉末である蛍光体粒子を完全に分散することが困難であるため、1個1個の蛍光体粒子の表面に均一かつ全面に被覆することが現実的に難しく、ピンホールや被覆バラツキ等が生じやすいという問題があった。また、気相法は、通常400℃以上の高温で行われるため、蛍光体の種類によっては処理後に蛍光特性が著しく低下してしまうという問題もあった。更に、装置が大掛かりなものとなるため、製造コストが高くなっていた。
【0007】
一方、液相法であるゾル−ゲル法を用いた場合(特許文献5、6及び7)では、被覆物種類の選択自由度が大きいが、出発原料である金属アルコキシドは通常反応性が高く、蛍光体粒子の表面のみで加水分解反応を起させるための反応条件の制御が非常に難しかった。また、ゾル−ゲル法で得られた膜には、不完全な加水分解のため残されたアルコキシル基や加水分解反応で脱離したアルコール等の有機成分が含まれるため、通常緻密な膜が得られにくかった。
更に、特許文献5に開示された被覆方法は、加水分解反応が多量のアンモニア水の存在下で行うため、殆どの原料が蛍光体粒子表面以外の溶液中に反応、消費され、反応効率とコストにも問題点があった。加えて、多量のアンモニア水が含まれるので、処理過程中に蛍光体が加水分解によって劣化する恐れもあった。
特許文献6に開示された方法では、被覆物であるSi含有化合物が粒子状又は層状で蛍光体粒子の表面に載置されるとしているが、実際には、耐湿性の改善は殆ど見られなかった。また、特許文献6の実施例に記載された反応条件では、蛍光体粒子の表面に被覆反応が殆ど起こらず、一部被覆ができたとしても、粒子状被覆の場合には水蒸気を効率的に遮断するのは困難であるという問題点があった。
特許文献7に開示された方法は、長時間の反応と精密な温度及びプロセスの制御が必要であり、効率とコストの点に問題があった。
一方、特許文献8に開示された中和沈殿法では、被覆物を蛍光体粒子の表面に連続膜として析出することは事実上困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2009−515030号公報
【特許文献2】特開1997−104863号公報
【特許文献3】特開2001−139941号公報
【特許文献4】特表2009−524736号公報
【特許文献5】特開2008−111080号公報
【特許文献6】特開2007−224262号公報
【特許文献7】特開2009−132902号公報
【特許文献8】特開平11−256150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、蛍光特性を低下させることなく、耐湿性を大幅に改善することができ、かつ、高い分散性を有する表面処理蛍光体及び該表面処理蛍光体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、周期律表第3〜6族の元素から選択される少なくとも1種の特定元素と、フッ素とを含有する表面処理層を蛍光体の表面に有する表面処理蛍光体であって、表面処理層の断面厚み方向の元素分布を、電子顕微鏡及びそれに付属するエネルギー分散型X線元素分析により測定した場合、特定元素の含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも表面側に位置する表面処理蛍光体である。
以下、本発明を詳述する。
【0011】
本発明者らは、鋭意検討した結果、蛍光体の表面に、特定元素と、フッ素とを含有する表面処理層を形成し、更に、エネルギー分散型X線元素分析により測定したピーク位置が所定の要件を満たした場合に、蛍光特性を低下させることなく、耐湿性を大幅に改善することができ、かつ、高い分散性を有する表面処理蛍光体が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明の表面処理蛍光体は、周期律表第3〜6族の元素から選択される少なくとも1種の特定元素と、フッ素とを含有する表面処理層を蛍光体の表面に有する。
上記表面処理層は、上記特定元素とフッ素とを含有することを特徴とする。
【0013】
まず、上記表面処理層がフッ素を含有することで、被覆処理工程において水による蛍光体の劣化が生じることを防止することができる。一般的に、耐湿性に劣る蛍光体を処理する場合には、水溶液の使用を避ける傾向にあるが、本発明では、上記表面処理層を形成することで、被覆処理を水溶液中で行うことができ、有機溶媒を使用する場合における廃液処理等の問題がなくなる。
また、フッ素を含有する表面処理層が形成されていることで、表面処理蛍光体の使用時の耐湿性についても向上されることができる。上記表面処理層はシリケート蛍光体に比べ、水に対する安定性が高いので、使用時の耐湿性改善にも寄与する。
【0014】
更に、上記表面処理層が特定元素を含有することで、長期耐湿性が向上する。これは、特定元素の酸化物が安定であることによるものと考えられる。
更に、上記表面処理層がフッ素のみを含有する場合は、フッ化物の化学結合は基本的にイオン性結合であり、解離傾向が共有結合の酸化物より大きいため、湿気又は水分が存在する雰囲気に長時間使用すると、フッ化物中のアルカリ土類金属の加水分解反応が徐々に進行する恐れがあり、長期的な安定性の確保に不充分となる。
これに対して、上記フッ素に加えて、上記特定元素を添加することで、水に対してより安定な酸化物層を形成することにより、長期間使用時における優れた耐湿性を付与することができる。
【0015】
上記特定元素は、周期律表第3〜6族の元素から選択される少なくとも1種であるが、なかでも周期律表第4、5族の元素が好ましい。具体的には、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、ニオブ、バナジウム、タンタルが好ましい。また、これらの元素を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
上記表面処理層において、上記特定元素は酸化物の状態で存在していることが好ましい。上記特定元素の酸化物としては、例えば、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化バナジウム、酸化タンタル等が挙げられる。これらのなかでは、酸化ジルコニウムと酸化チタンが特に好ましい。
【0017】
上記表面処理層における特定元素の含有量の好ましい下限は5.0重量%、好ましい上限は85重量%である。上記特定元素の含有量が5.0重量%未満であると、耐湿性の長期安定性が不充分となることがあり、85重量%を超えると、表面処理蛍光体の蛍光体特性が低下することがある。
【0018】
上記表面処理層において、上記フッ素は、アルカリ土類金属とフッ素イオンとから形成されたアルカリ土類金属のフッ化物の状態で存在していることが好ましい。
上記アルカリ土類金属のフッ化物としては、例えば、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウムからなる層が挙げられる。これらのなかでは、フッ化ストロンチウム、フッ化カルシウムが特に好ましい。
【0019】
上記表面処理層におけるフッ素の含有量の好ましい下限は1.0重量%、好ましい上限は60重量%である。上記フッ素の含有量が1.0重量%未満であると、被覆処理過程において水による蛍光体の分解劣化を完全に抑制できなくなることがあり、60重量%を超えると、耐湿性の長期安定性が不充分となることがある。
【0020】
上記表面処理層の厚みは0.5〜5000nmであることが好ましい。より好ましくは1.0〜3000nm、更に好ましくは5.0〜1000nm、特に好ましくは10〜500nmである。表面処理層の厚みが薄すぎると、耐湿性が不足となることがあり、厚すぎると、表面処理蛍光体の蛍光特性が低下することがある。
【0021】
本発明の表面処理蛍光体は、表面処理層の断面厚み方向の元素分布を、電子顕微鏡及びそれに付属するエネルギー分散型X線元素分析により測定した場合、特定元素の含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも表面側に位置することを特徴とする。
ここで、「電子顕微鏡及びそれに付属するエネルギー分散型X線元素分析」とは、例えば、SEM−EDS(Scanning Electron Microscopy/Energy Dispersive Spectroscopy)、又は、TEM−EDS(Transmision Electron Microscopy/Energy Dispersive Spectroscopy)装置を用いた方法等が用いられる。
なお、本発明では、「特定元素の含有量の最大ピーク」又は「フッ素の含有量の最大ピーク」が複数存在する場合でも、「特定元素の含有量の最大ピーク」が、「フッ素の含有量の最大ピーク」よりも表面側に位置するという条件を満たすこととする。
【0022】
本発明では、「特定元素の含有量の最大ピーク」と、「フッ素の含有量の最大ピーク」とが上述した条件を満たすことで、被覆処理過程中における水による蛍光体の分解劣化が抑えられるとともに、被覆処理後の表面処理蛍光体についても、優れた耐湿性を付与することが可能となる。
【0023】
本発明では、上記表面処理層が単層であり、かつ、上記表面処理層の断面厚み方向の元素分布において、特定元素の最大ピーク位置で、フッ素が検出されることが好ましい。これにより、被覆処理後の蛍光体が封止樹脂との親和性が向上され、封止樹脂への分散性が改善されることとなる。
また、特定元素の最大ピーク位置での、フッ素の含有量の好ましい下限は0.01重量%、好ましい上限は30重量%である。
【0024】
上記表面処理層の断面厚み方向の元素分布において、上記特定元素の最大ピーク位置における含有量の好ましい下限は1.0重量%、好ましい上限は75重量%である。上記範囲内とすることで、長時間の使用においても劣化の少ない蛍光体が得られる。
また、上記表面処理層の断面厚み方向の元素分布において、上記フッ素の最大ピーク位置における含有量の好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は50重量%である。上記範囲内とすることで、被覆処理過程中における蛍光体の水より分解劣化が抑えられると同時に、表面処理蛍光体の耐湿性の向上にも寄与する。
【0025】
また、上記表面処理層は、単層であることが好ましい。このことは、例えば、上記エネルギー分散型X線元素分析において、特定元素及びフッ素の含有量の曲線が、ピーク部以外では連続的に漸増又は漸減し、層間界面に起因する急激な含有量の変化がないことによって確認することができる。このような構造であることは、表面処理層の密着性に大きく寄与し、物理的な方法で積層した構造と比較して層間剥離の問題が発生しにくくなる。
【0026】
また、上記表面処理層は、最表面に向かって順に、フッ化物層、及び、特定元素の酸化物を含有する酸化物層が順次形成されたものであってもよい。
一般的に、耐湿性に劣る蛍光体を処理する場合には、水溶液の使用を避ける傾向にあるが、上記フッ化物層を形成することで、被覆処理を水溶液中で行うことができ、有機溶媒を使用する場合における廃液処理等の問題がなくなる。また、使用時の耐湿性についても向上することができる。また、上記酸化物層が形成されていることで、耐湿性の更なる向上と長期安定性が実現される。
従って、上記フッ化物層の上に、水に対してより安定な酸化物層を被覆することにより、長期間使用時における優れた耐湿性を付与することができる。
【0027】
上記フッ化物層としては、アルカリ土類金属とフッ素イオンとから形成されたアルカリ土類金属のフッ化物からなるものであることが好ましい。
具体的には例えば、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウムからなる層が挙げられる。これらのなかでは、フッ化ストロンチウムとフッ化カルシウムが好ましい。
【0028】
上記フッ化物層におけるフッ化物の含有量の好ましい下限は5重量%、好ましい上限は95重量%である。上記フッ化物の含有量が5重量%未満であると、被覆処理過程において水による蛍光体の分解劣化を完全に抑制することができなくなり、95重量%を超えると、蛍光体の蛍光特性に悪影響を与えることがある。
【0029】
上記フッ化物層の厚みは特に限定されず、通常、0.5〜5000nmであることが好ましい。より好ましくは1〜2000nm、更に好ましくは5〜1000nmである。上記フッ化物層の厚みが薄すぎると、前述した水による劣化防止効果が不充分となり、厚すぎると、蛍光体の蛍光特性に悪影響を与えることがある。
【0030】
上記酸化物層は、例えば、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化バナジウム、酸化タンタル、またはそれらの複合物を含有することが好ましい。これらのなかでは、酸化ジルコニウム、酸化チタンが好ましい。
【0031】
上記酸化物層における酸化物の含有量の好ましい下限は10重量%、好ましい上限は95重量%である。上記酸化物の含有量が10重量%未満であったり、95重量%を超えたりすると、耐湿性の長期安定性が不充分となる。
【0032】
上記酸化物層の厚みは特に限定されず、通常、0.5〜5000nmであることが好ましい。より好ましくは1.0〜3000nm、更に好ましくは5.0〜1000nmである。上記酸化物層の厚みが薄すぎると、劣化防止効果が不充分となり、厚すぎると、蛍光体の蛍光特性に悪影響を与えることがある。
【0033】
上記本発明の表面処理蛍光体に用いられる蛍光体としては、アルカリ土類金属元素を含有する蛍光体が好ましい。このようなアルカリ土類金属を有する蛍光体は、例えば、硫化物系蛍光体、アルミン酸塩系蛍光体、窒化物系蛍光体、酸窒化物系蛍光体、リン酸塩系蛍光体、ハロンリン酸塩系蛍光体、シリケート系蛍光体等が挙げられる。
上記蛍光体としては、なかでも、アルカリ土類金属元素を有するシリケート蛍光体が好ましい。
【0034】
上記アルカリ土類金属元素を有するシリケート蛍光体としては、例えば、母体結晶構造として、M3SiO5またはM2SiO4の結晶構造と実質的に同じ構造(ただし、MはMg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種を表す)を有し、かつ、付活剤としてFe、Mn、Cr、Bi、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbからなる群から選択される少なくとも1種を含有する蛍光体が挙げられる。上記「M3SiO5またはM2SiO4の結晶構造と実質的に同じ構造」とは、X線回折法で測定する場合に、M3SiO5またはM2SiO4と同様なX線回折パターンを有することを意味する。
上記アルカリ土類金属元素を有する蛍光体は、アルカリ土類金属以外の金属元素(例えば、Zn、Ga、Al、Y、Gd、Tb)を適量含有してもよい。
また、上記アルカリ土類金属元素を有する蛍光体は、少量のハロゲン元素(例えば、F,Cl,Br)、硫黄(S)またはリン(P)を適量含有してもよい。
【0035】
上記蛍光体の例としては、例えば、下記一般式(1)のような組成を有する橙色蛍光体、下記一般式(2)のような組成を有する橙色蛍光体等が挙げられる。
【0036】
(Sr1−xMx)ySiO5:Eu2+ (1)
式中、MはBa、Ca、Mg及びZnからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、0≦x<1.0であり、2.6≦y≦3.3である。
【0037】
(Sr1−xMx)ySiO5:Eu2+D (2)
式中、MはBa、Ca、Mg及びZnからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、DはF、Cl及びBrからなる群より選択されるハロゲンアニオンであり、0≦x<1.0であり、2.6≦y≦3.3である。
【0038】
上記蛍光体の具体例としては、例えば、Sr3SiO5:Eu2+、(Sr0.9Mg0.025Ba0.075)3SiO5:Eu2+、(Sr0.9Mg0.05Ba0.05)2.7SiO5:Eu2+、(Sr0.9Mg0.025Ba0.075)3SiO5:Eu2+、(Sr0.9Ba0.1)3SiO5:Eu2+、Sr0.97SiO5:Eu2+F、(Sr0.9Mg0.1)2.9SiO5:Eu2+F、(Sr0.9Ca0.1)3.0SiO5:Eu2+Fの等組成を有する橙色蛍光体、(Sr0.4Ba0.6)2SiO4:Eu2+、(Sr0.3Ba0.7)2SiO4:Eu2+、(Sr0.2Ba0.8)2SiO4:Eu2+、(Sr0.57Ba0.4Mg0.03)2SiO4:Eu2+F、(Sr0.6Ba0.4)2SiO4:Eu2+Cl、(Ba,Sr,Ca)2(Mg,Zn)Si2O7:Eu2+等の組成を有する緑色蛍光体、(Sr0.7Ba0.3)2SiO4:Eu2+F、(Sr0.9Ba0.1)2SiO4:Eu2+、0.72[(Sr1.025Ba0.925Mg0.05)Si1.03O4Eu0.05F0.12]・0.28[Sr3Si1.02O5Eu0.6F0.13]等の組成を有する黄色蛍光体、及び、Ba2MgSi2O7:Eu2+、Ba2ZnSi2O7:Eu2+等の組成を有する青色蛍光体が挙げられる。
なかでも、上記蛍光体は、M3SiO5の結晶構造を有する橙色(オレンジ)蛍光体が特に好適である。
【0039】
上記蛍光体の粒子径としては特に限定されないが、中央粒径(D50)で通常0.1〜100μm範囲内であることが好ましく、より好ましくは1.0〜50μm、さらに好ましくは5.0〜30μmである。上記D50が小さすぎると、輝度が低下するだけではなく、基体蛍光体自体が凝集しやくなり、均一な被覆処理が困難になる。また、D50が大きすぎると、樹脂における分散性が悪くなり、発光素子の特性に悪影響を与える恐れがある。
【0040】
本発明の表面処理蛍光体は、純水100重量部中に、蛍光体0.1重量部を10分間浸漬した場合における、水の導電率が100mS/m以下であることが好ましい。
上記水の導電率が100mS/m以下であることで、蛍光体が水による分解劣化が少なく、優れた耐湿性を示すこととなる。
なお、上記水の導電率は、例えば、導電率計等によって測定することができる。
【0041】
本発明の表面処理蛍光体は、純水100重量部中に、蛍光体0.1重量部を10分間浸漬した場合における、ケイ素の溶出量が50ppm以下であることが好ましい。
上記ケイ素の溶出量が50ppm以下であることで、蛍光体が水による分解劣化が少なく、優れた耐湿性を示すこととなる。
【0042】
本発明の表面処理蛍光体は、純水100重量部中に、蛍光体0.1重量部を10分間浸漬した場合における、ストロンチウムの溶出量が200ppm以下であることが好ましい。
上記ストロンチウムの溶出量が200ppm以下であることで、蛍光体が水による分解劣化が少なく、優れた耐湿性を示すこととなる。
なお、上記ケイ素及びストロンチウムの溶出量は、例えば、誘導結合プラズマ発光分析(ICP、装置:ICPS−8000、島津製作所社製)によって測定することができる。
【0043】
本発明の表面処理蛍光体は、例えば、蛍光体を特定元素とフッ素イオンとを含有する錯体イオンを含む溶液に分散し、接触させることにより表面処理層を形成する工程を有する方法を用いることにより、製造することができる。このような表面処理蛍光体の製造方法もまた本発明の1つである。
上記特定元素とフッ素イオンとを含有する錯体イオンとしては、例えば、AF62−の構造を有する錯体イオン(A:周期律表第3〜6族の元素から選択される少なくとも1種の特定元素)等が挙げられる。
他に、AO2F42−の構造を有する錯体イオンや、特定元素の酸化物を溶解したフッ素含有溶液を用いてもよい。
【0044】
本発明の表面処理蛍光体を構成する表面処理層は、例えば、蛍光体をAF62−錯体イオン(A:周期律表第3〜6族の元素から選択される少なくとも1種の特定元素)含有溶液に分散し、接触させることにより表面処理層を形成する工程を行うことで形成することができる。
【0045】
上記AF62−錯体イオンは、水溶液中において、下記加水分解反応式(3)が進行することで、遊離のフッ素イオンが生成する。
AF62−+nH2O → [AF6−n(OH)n]2− + nH+ + nF− (3)
【0046】
上記AF62−錯体イオン濃度は、0.0005〜2.0Mであることが好ましく、より好ましくは0.001〜1.5Mで、更に好ましくは0.005〜1.0Mである。上記AF62−錯体イオン濃度が低すぎると、遊離のフッ素イオン濃度が低いため、フッ化物形成反応の速度が遅くなる。フッ化物形成反応の速度が遅すぎると、処理工程中に蛍光体の加水分解による劣化を生じる恐れがある。一方、上記AF62−錯体イオン濃度が高すぎると、溶液自身が不安定になるか、反応が速すぎて、良質な膜が得られにくいことがある。
【0047】
上述のように、MF62−錯体イオンは水溶液中において上記式(3)のように加水分解反応が徐々に進行し、下記式(4)に示すように、最終的にAO2が形成される。下記式(4)の反応は、溶液中に蛍光体が存在しなくてもゆっくりと進行し、酸化物粒子が形成される。ところが、蛍光体が存在すると、AO2酸化物が蛍光体の表面に優先的に析出することが本発明者らの実験から分かった。
上記加水分解反応は、下記式(5)に示すように、フッ素イオンとより安定な錯体を作りうる化合物(加水分解促進剤)の存在によって促進される。本発明に使用する加水分解促進剤は、ホウ素(B)又はアルミニウム(Al)を含有する化合物から選ぶことができる。ホウ素を含有する化合物及びアルミニウムを含有する化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
AF62− + 2H2O → AO2 + 4H+ + 6F− (4)
BO33− + 6H+ + 4F− → BF4− + 3H2O (5)
【0048】
上記ホウ素を含有する化合物としては、例えば、酸化ホウ素、四ホウ酸ナトリウム、ホウ酸(H3BO3)等が挙げられる。これらの中では、ホウ酸が好ましい。
上記アルミニウムを含有する化合物としては、例えば、AlCl3、AlBr3、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)等が挙げられる。
【0049】
上記AF62−錯体イオンに対する加水分解促進剤の量は特に限定されないが、通常、1モルのAF62−錯体イオンに対して加水分解促進剤の量が5倍以下、より好ましくは4倍以下である。
【0050】
反応時間は、目的とする酸化物層の厚み、反応液の濃度、温度等の反応条件に応じて適宜調整すればよく、通常、5分〜20時間程度、好ましくは10分〜10時間程度である。
一般には、仕込みの蛍光体の量が一定であれば、反応時間が長くなるほど膜厚が厚くなる。反応時間が短すぎると表面処理層の形成が不完全となる。一方、反応時間が長すぎると非経済的である。
反応温度は、目的とする酸化物層の厚みに応じて適宜調整すればよく、通常、0〜90℃程度、好ましくは5〜70℃程度、より好ましくは、10〜50℃程度とすればよい。
反応時の分散条件は特に限定されず、蛍光体を分散させることができる条件であればよい。例えば、磁気スターラー攪拌、モーター付きの機械的な攪拌、ガスバーブリング、液循環、超音波分散、ボールミルやロータリーミキサーのような回転分散、又は上記方法を併用することによって行うことができる。
【0051】
所定時間反応後に、蛍光体をろ過、洗浄、乾燥工程を経て回収する。乾燥は常圧乾燥でもよく、減圧乾燥でもよい。乾燥時の温度は室温〜150℃が適宜である。
また、本発明の表面処理蛍光体の製造方法では、上記乾燥した蛍光体を200〜600℃の温度で更に熱処理してもよい。
上述の条件では、フッ化物の形成と特定元素の酸化物の形成が実質的に同じ溶液中に進行するが、蛍光体をAF62−錯体イオン含有水溶液に分散、接触させた時に、フッ化物が優先的に形成すると推測される。フッ化物の形成に伴い、溶液中のフッ素イオン濃度が低下し、上記一般式(3)又は(4)の反応が右方向へ進む。その結果、酸化物(AO2)が析出し始める。
【0052】
本発明の表面処理蛍光体は、エポキシ樹脂及び/又はシリコーン樹脂に添加することで、蛍光体含有樹脂組成物として使用することができる。
なお、上記蛍光体含有樹脂組成物は公知の形態で使用され、例えば、ペーストとしてディスペンサーで充填されたり、テープ、シート状に加工され積層されたりしても良い。
【0053】
上記エポキシ樹脂としては、公知の物を使用しても良いが、例えば、ヒドロキシル、カルボキシル又はアミン含有化合物を、金属水酸化物のような塩基性触媒(水酸化ナトリウム等)の存在下で、エピクロロヒドリンと反応させて製造できるもの等が挙げられる。
また、1以上、好ましくは2以上の炭素−炭素二重結合を有する化合物と過酸化物(過酸等)との反応で製造されるエポキシ樹脂等も挙げられる。
【0054】
上記エポキシ樹脂としては、例えば、脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ビスフェノール−Aエポキシ樹脂、ビスフェノール−Fエポキシ樹脂、フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾール−ノボラックエポキシ樹脂、ビフェニルエポキシ樹脂、4,4’−ビフェニルエポキシ樹脂、多官能性エポキシ樹脂、ジビニルベンゼンジオキシド及び2−グリシジルフェニルグリシジルエーテルが挙げられる。なかでも、脂環式エポキシ樹脂及び脂肪族エポキシ樹脂が好ましい。これらのエポキシ樹脂は単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
上記脂肪族エポキシ樹脂としては、1以上の脂肪族基と1以上のエポキシ基を有する化合物が挙げられ、具体例としては、ブタジエンジオキシド、ジメチルペンタンジオキシド、ジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル及びジペンテンジオキシド等が挙げられる。
【0055】
上記脂環式エポキシ樹脂としては、1以上の脂環式基と1以上のオキシラン基を有する化合物が挙げられ、具体例としては、2−(3,4−エポキシ)シクロヘキシル−5,5−スピロ−(3,4−エポキシ)シクロヘキサン−m−ジオキサン、3,4−エポキシシクロヘキシルアルキル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ビニルシクロヘキサンジオキシド、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、exo−exoビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル、endo−exoビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル、2,2−ビス(4−(2,3−エポキシプロポキシ)シクロヘキシル)プロパン、2,6−ビス(2,3−エポキシプロポキシシクロヘキシル−p−ジオキサン)、2,6−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ノルボルネン、リノール酸ダイマーのジグリシジルエーテル、リモネンジオキシド、2,2−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロパン、ジシクロペンタジエンジオキシド、1,2−エポキシ−6−(2,3−エポキシプロポキシ)ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダン、p−(2,3−エポキシ)シクロペンチルフェニル−2,3−エポキシプロピルエーテル、1−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル−5,6−エポキシヘキサヒドロ−4,7−メタノインダン、o−(2,3−エポキシ)シクロペンチルフェニル−2,3−エポキシプロピルエーテル)、1,2−ビス[5−(1,2−エポキシ)−4,7−ヘキサヒドロメタノインダノキシル]エタン、シクロペンチルフェニルグリシジルエーテル、シクロヘキサンジオールジグリシジルエーテル及びジグリシジルヘキサヒドロフタレート等が挙げられる。
【0056】
上記シリコーン樹脂としては、公知の物を使用しても良いが、例えば、(−SiR1R2−O−)nポリシロキサン骨格を持つ物が挙げられる。上記R1R2としては、炭素数2〜10、特に2〜6のものが好ましく、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基等が挙げられる。上記R2としては、炭素数1〜10、特に1〜6のものが好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、シクロヘキシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基などが代表的なものとして挙げられる。
【0057】
本発明の表面処理蛍光体は、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート及びポリカーボネート及び環状オレフィン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂に分散されることで、波長変換複合体として使用することができる。
上記波長変換複合体は、照明システム、太陽電池用の波長変換部材等として使用される。
上記波長変換複合体の製造方法は特に限定されないが、本発明の表面処理蛍光体は、対応する樹脂に合わせた公知の表面処理がなされていてもよい。また、公知の混練分散方法により樹脂中に分散されていてもよい。
【0058】
上記波長変換複合体は、シート状に成形することで波長変換シートとして使用することができる。上記シート状に成形する方法は既知の方法を用いることができる。具体的には例えば、本発明の表面処理蛍光体と樹脂からなるマスターバッチを作製し、押出機による製膜する方法、樹脂を溶解する溶媒に樹脂と本発明の表面処理蛍光体を分散させてキャストする方法等が挙げられる。
【0059】
本発明の波長変換複合体、又は、波長変換シートを用いることで、効率のよい光電変換装置を得ることができる。このような光電変換装置もまた本発明の1つである。
太陽電池に代表される光電変換装置では、受光する光の波長が必ずしも素子自体の効率の良い波長ではないことがある。その際に、受光する光の波長を素子にとって効率のよい波長に変換することにより、光電変換装置の変換効率が向上する。
一方で、従来の蛍光体は、耐湿性が低く好適に使用できなかったが、封止材樹脂に本発明の表面処理蛍光体を分散させ、太陽電池の表面に使用することで効率の良い太陽電池が得られる。
【0060】
本発明の表面処理蛍光体を用いて蛍光体層を形成することで半導体発光素子を製造することができる。このような半導体発光素子もまた本発明の1つである。
また、LEDチップと、前記LEDチップを囲繞する樹脂フレームと、樹脂フレームが形成する凹部に充填される蛍光体層を備えるLED発光装置において、前記蛍光体層を本発明の表面処理蛍光体と封止樹脂とを含有する構成とすることで、耐湿性に優れたLED発光装置とすることができる。このようなLED発光装置もまた本発明の1つである。
【0061】
本発明のLED発光装置は、温度60℃、相対湿度90%、電流20mAの条件で1000時間通電した後の光度保持率が80%以上である。上記光度保持率が80%未満であると、実際使用時に発光強度が経時により低下しやすく、耐久性が足りないことがある。上記光度保持率は、好ましくは90%以上である。
なお、上記光度保持率とは、上述した条件で通電前後の光度の比率[(通電後の光度/通電前の光度)×100]を表し、上記光度は、例えば、オプトロニックラボラトリーズ社製のOL770測定システム等を用いて測定することができる。
【0062】
また、本発明のLED発光装置は、温度121℃、相対湿度100%環境下で72時間保持した後の光度保持率が50%以上であることが好ましい。
【0063】
本発明のLED発光装置の用途は特に制限されず、通常のLED発光装置が用いられる各種の分野に使用することが可能である。また、単独で、又は複数個を組み合わせて用いても良い。具体的には、例えば、液晶表示素子バックライト、画像表示装置、照明装置等に使用することができる。
【0064】
上記液晶表示素子バックライトとしての構成は既知のものを使用できる。例えば、表示素子額縁部分に配置されて導光板に向かって発光しても良いし、液晶セル背面に拡散板を挟みそのさらに背面に配置されても良い。
また、上記画像表示装置としては、例えば、少なくとも液晶セルと上記液晶表示素子バックライトと有する液晶表示素子がその1例である。他の例としては、複数のLEDを2次元的に規則的に配列して選択的に発光させることにより画像を形成するLEDディスプレイ等が挙げられる。
更に、上記照明装置としては、特に限定されず、既知のLED発光装置への適用が可能である。上記照明装置は、耐湿性が高いことから、例えば、車両等の交通、運輸に用いられる表示灯、照明灯や、住居、建築物等に用いられる屋内外の照明や、携帯電話、移動体通信端末等に用いられる照明等に使用することができる。
【発明の効果】
【0065】
本発明によれば、空気中の水蒸気や水による表面の分解劣化を防止でき、長時間または高温高湿環境での使用においても光度の低下や色調の変化が起こることのない、耐湿性に優れた表面処理蛍光体を得ることができる。また、本発明の表面処理蛍光体の製造方法によれば、高価な反応装置を必要とせず、被覆処理を水溶液中で短時間で行うことができるので、目的の表面処理蛍光体を効率的、経済的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例1で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【図2】実施例1で得られた表面処理蛍光体の断面方向の元素分布データである。
【図3】実施例2で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【図4】実施例2で得られた表面処理蛍光体の断面方向の元素分布データである。
【図5】実施例3で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【図6】実施例3で得られた表面処理蛍光体の断面方向の元素分布データである。
【図7】実施例4で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【図8】実施例4で得られた表面処理蛍光体の断面方向の元素分布データである。
【図9】実施例5で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【図10】実施例5で得られた表面処理蛍光体の断面方向の元素分布データである。
【図11】実施例6で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【図12】実施例7で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【図13】実施例7で得られた表面処理蛍光体の断面方向の元素分布データである。
【図14】比較例1で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【図15】比較例1で得られた表面処理蛍光体の断面方向の元素分布データである。
【図16】比較例2で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【図17】比較例2で得られた表面処理蛍光体の断面方向の元素分布データである。
【図18】比較例3で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【図19】比較例3で得られた表面処理蛍光体の断面方向の元素分布データである。
【図20】比較例4で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【図21】比較例4で得られた表面処理蛍光体の断面方向の元素分布データである。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0068】
[実施例1]
0.1mol/Lフッ化チタン酸アンモニウム((NH4)2TiF6)と0.1mol/Lほう酸含有混合水溶液250mlに、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(Sr3SiO5:Eu2+)7.5gを添加した。上記蛍光体を添加した混合液を攪拌によって分散しながら、35℃で2時間を反応させた。反応後に、ろ過、洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
得られた表面処理蛍光体について、以下の方法で「被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析」を行ったところ、蛍光体の表面に厚み約180nmの表面処理層が形成されていることが分かった。
また、断面方向の元素組成分析によって得られた元素組成曲線では、チタンの含有量を示す曲線と、フッ素の含有量を示す曲線が得られ、チタンの含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも表面側に位置することが確認できた。なお、チタン以外の特定元素の含有量については検出限界以下であった。
また、チタンの含有量の最大ピーク位置におけるフッ素の含有量は1.0重量%であった。なお、得られた表面処理蛍光体のFE−TEM断面写真を図1に、その断面方向の元素分析結果を図2に示す。
【0069】
<被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析>
得られた表面処理蛍光体について、Focused ion Beam(FIB)を用いて、断面方向に切断し、その切断面を透過電子顕微鏡(FE−TEM、JEM−2010FEF)で観察することによって表面処理層の厚みを測定した。なお、厚みは5点を測定し、その平均値を用いた。
また、表面処理層の元素組成は、上記FE−TEMに付属されているエネルギー分散型X線(EDX)を用いて分析し、同定することにより、厚み方向における特定元素(周期律表第3〜6族の元素)及びフッ素の含有量の曲線を得た。
【0070】
[実施例2]
0.1mol/Lフッ化チタン酸アンモニウム((NH4)2TiF6)と0.1mol/Lほう酸含有混合水溶液250mlに、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:Sr3SiO5:Eu2+)7.5gを添加した。上記蛍光体を添加した混合液を攪拌によって分散しながら、35℃で4時間を反応させた。反応後に、ろ過、洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
得られた表面処理蛍光体について、実施例1と同様の方法で「被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析」を行ったところ、蛍光体の表面に厚み約210nmの表面処理層が形成されていることが分かった。
また、断面方向の元素組成分析によって得られた元素組成曲線では、チタンの含有量を示す曲線と、フッ素の含有量を示す曲線が得られ、チタンの含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも表面側に位置することが確認できた。なお、チタン以外の特定元素の含有量については検出限界以下であった。
また、チタンの含有量の最大ピーク位置におけるフッ素の含有量は1.8重量%であった。
なお、得られた表面処理蛍光体のFE−TEM断面写真を図3に、その断面方向の元素分析結果を図4に示す。
【0071】
[実施例3]
0.75mol/Lフッ化チタン酸アンモニウム((NH4)2TiF6)含有水溶液250mlに、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:Sr3SiO5:Eu2+)7.5gを添加した。上記蛍光体を添加した混合液を攪拌によって分散しながら、35℃で30分を反応させた。反応後に、ろ過、洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
得られた表面処理蛍光体について、実施例1と同様の方法で「被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析」を行ったところ、蛍光体の表面に厚み約250nmの被覆層が形成されていることが分かった。
また、断面方向の元素組成分析によって得られた元素組成曲線では、チタンの含有量を示す曲線と、フッ素の含有量を示す曲線が得られ、チタンの含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも表面側に位置することが確認できた。なお、チタン以外の特定元素の含有量については検出限界以下であった。
また、チタンの含有量の最大ピーク位置におけるフッ素の含有量は4.8重量%であった。
なお、得られた表面処理蛍光体のFE−TEM断面写真を図5に、その断面方向の元素分析結果を図6に示す。
【0072】
[実施例4]
1.0mol/Lフッ化チタン酸アンモニウム((NH4)2TiF6)含有水溶液250mlに、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:Sr3SiO5:Eu2+Cl)7.5gを添加した。上記蛍光体を添加した混合液を攪拌によって分散しながら、35℃で30分を反応させた。反応後に、ろ過、洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
得られた表面処理蛍光体について、実施例1と同様の方法で「被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析」を行ったところ、蛍光体の表面に厚み約300nmの被覆層が形成されていることが分かった。
また、断面方向の元素組成分析によって得られた元素組成曲線では、チタンの含有量を示す曲線と、フッ素の含有量を示す曲線が得られ、チタンの含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも表面側に位置することが確認できた。なお、チタン以外の特定元素の含有量については検出限界以下であった。
また、チタンの含有量の最大ピーク位置におけるフッ素の含有量は6.0重量%であった。
なお、得られた表面処理蛍光体のFE−TEM断面写真を図7に、その断面方向の元素分析結果を図8に示す。
【0073】
[実施例5]
0.02mol/Lフッ化チタン酸アンモニウム((NH4)2TiF6)と0.02mol/Lほう酸含有混合水溶液250mlに、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:Sr3SiO5:Eu2+)7.5gを添加した。上記蛍光体を添加した混合液を攪拌によって分散しながら、35℃で2時間を反応させた。反応後に、ろ過、洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
得られた表面処理蛍光体について、実施例1と同様の方法で「被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析」を行ったところ、蛍光体の表面に厚み約110nmの被覆層が形成されていることが分かった。
また、断面方向の元素組成分析によって得られた元素組成曲線では、チタンの含有量を示す曲線と、フッ素の含有量を示す曲線が得られ、チタンの含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも表面側に位置することが確認できた。なお、チタン以外の特定元素の含有量については検出限界以下であった。
また、チタンの含有量の最大ピーク位置におけるフッ素の含有量は0.15重量%であった。なお、得られた表面処理蛍光体のFE−TEM断面写真を図9に、その断面方向の元素分析結果を図10に示す。
【0074】
[実施例6]
0.1mol/Lフッ化チタン酸アンモニウム((NH4)2TiF6)と0.2mol/Lほう酸含有混合水溶液250mlに、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:Sr3SiO5:Eu2+)1.5gを添加した。上記蛍光体を添加した混合液を攪拌によって分散しながら、35℃で2時間を反応させた。反応後に、ろ過、洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
得られた表面処理蛍光体について、実施例1と同様の方法で「被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析」を行ったところ、蛍光体の表面に厚み約200nmの被覆層が形成されていることが分かった。
また、断面方向の元素組成分析によって得られた元素組成曲線では、チタンの含有量を示す曲線と、フッ素の含有量を示す曲線が得られ、チタンの含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも表面側に位置することが確認できた。なお、チタン以外の特定元素の含有量については検出限界以下であった。
また、チタンの含有量の最大ピーク位置におけるフッ素の含有量は2.5重量%であった。
なお、得られた表面処理蛍光体のFE−TEM断面写真を図11に示す。
【0075】
[実施例7]
0.1mol/Lフッ化ジルコン酸アンモニウム((NH4)2ZrF6)と0.1mol/Lほう酸含有混合水溶液250mlに、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:Sr3SiO5:Eu2+)7.5gを添加した。上記蛍光体を添加した混合液を攪拌によって分散しながら、35℃で2時間を反応させた。反応後に、ろ過、洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
得られた表面処理蛍光体について、実施例1と同様の方法で「被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析」を行ったところ、蛍光体の表面に厚み約170nmの被覆層が形成されていることが分かった。
また、断面方向の元素組成分析によって得られた元素組成曲線では、ジルコニウムの含有量を示す曲線と、フッ素の含有量を示す曲線が得られ、ジルコニウムの含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも表面側に位置することが確認できた。なお、ジルコニウム以外の特定元素の含有量については検出限界以下であった。
また、ジルコニウムの含有量の最大ピーク位置におけるフッ素の含有量は0.6重量%であった。
なお、得られた表面処理蛍光体のFE−TEM断面写真を図12に、その断面方向の元素分析結果を図13に示す。
【0076】
[実施例8]
0.05mol/Lの酸化バナジウムを溶解したフッ化水素酸水溶液250mlに、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:Sr3SiO5:Eu2+)7.5gを添加した。上記蛍光体を添加した混合液を攪拌によって分散しながら、35℃で30時間を反応させた。反応後に、ろ過、洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
得られた表面処理蛍光体について、実施例1と同様の方法で「被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析」を行ったところ、蛍光体の表面に厚み約100nmの被覆層が形成されていることが分かった。
また、断面方向の元素組成分析によって得られた元素組成曲線では、バナジウムの含有量を示す曲線と、フッ素の含有量を示す曲線が得られ、バナジウムの含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも表面側に位置することが確認できた。なお、バナジウム以外の特定元素の含有量については検出限界以下であった。
また、バナジウムの含有量の最大ピーク位置におけるフッ素の含有量は3.6重量%であった。
【0077】
[実施例9]
0.1mol/Lのフッ化モリブデン酸アンモニウム((NH4)2MoO2F4)水溶液250mlに、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:Sr3SiO5:Eu2+)7.5gを添加した。上記蛍光体を添加した混合液を攪拌によって分散しながら、35℃で30時間を反応させた。反応後に、ろ過、洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
得られた表面処理蛍光体について以下の方法で「被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析」を行ったところ、蛍光体の表面に厚み約50nmの被覆層が形成されていることが分かった。
また、断面方向の元素組成分析によって得られた元素組成曲線では、モリブデンの含有量を示す曲線と、フッ素の含有量を示す曲線が得られ、モリブデンの含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも表面側に位置することが確認できた。なお、モリブデン以外の特定元素の含有量については検出限界以下であった。
また、モリブデンの含有量の最大ピーク位置におけるフッ素の含有量は1.5重量%であった。
【0078】
[比較例1]
表面未処理の中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:Sr3SiO5:Eu2+)を用い、この蛍光体について、実施例1と同様の方法で「被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析」を行ったところ、蛍光体の表面に表面被覆層は形成されておらず、特定元素の含有量を示す曲線も、フッ素の含有量を示す曲線も得られなかった。
なお、得られた蛍光体のFE−TEM断面写真と断面方向の元素分析結果をそれぞれ図14と図15に示す。
【0079】
[比較例2]
主成分Sr3SiO5:Eu2+の橙色シリケート蛍光体粒子1.0gを、濃度2.0%のトリフルオロプロピルトリメトキシシランを溶かしたエタノールと0.01%の酢酸水の混合水溶液(エタノール:水=5:1)に添加し、1時間反応させた。その後、エタノールを除去し、更に110℃で1時間真空乾燥することによって蛍光体粒子を回収した。
上記処理した蛍光体粒子について、実施例1と同様の方法で「被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析」を行ったところ、表面に厚み約47nmの被覆層が形成されていたことが分かった。
また、断面方向の元素組成分析によって得られた元素組成曲線では、フッ素の含有量を示す曲線のみが得られた。なお、特定元素の含有量については検出限界以下であった。
更に、表面処理層における、フッ素最大値ピークの含有量は9.5重量%であった。
なお、得られた表面処理蛍光体のFE−TEM断面写真を図16に、その断面方向の元素分析結果を図17に示す。
【0080】
[比較例3]
主成分Sr3SiO5:Eu2+の橙色シリケート蛍光体粒子12.0gを分散した無水エタノール溶液(400ml)にチタンイソプロポキシド(関東化学社製)8.4gを添加し溶解した。次に、4.2gの水(アンモニア水でpH9.0まで調製)を含有する120mlエタノール液を0.5ml/分の速度で上記分散液に滴下した。滴下終了後にも更に1時間攪拌した。その後、ろ過、洗浄工程を経て、回収した蛍光体粒子を120℃で1時間真空乾燥した。
上記被覆処理した蛍光体粒子について、実施例1と同様の方法で「被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析」を行ったところ、表面に厚み約34nmの被覆層が形成されていたことが分かった。
また、断面方向の元素組成分析によって得られた元素組成曲線では、チタンの含有量を示す曲線のみが得られた。なお、フッ素の含有量については検出限界以下であった。
更に、表面処理層におけるチタン最大ピークの含有量は20重量%であった。
なお、得られた表面処理蛍光体のFE−TEM断面写真を図18に、その断面方向の元素分析結果を図19に示す。
【0081】
[比較例4]
主成分Sr3SiO5:Eu2+の橙色シリケート蛍光体粒子12.0gを分散した無水エタノール溶液(400ml)にチタンイソプロポキシド(関東化学社製)8.4gを添加し溶解した。次に、4.2gの水(アンモニア水でpH9.0まで調製)を含有する120mlエタノール液を0.5ml/分の速度で上記分散液に滴下した。滴下終了後にも更に1時間攪拌した。その後、ろ過、洗浄工程を経て、回収した蛍光体粒子を120℃で1時間真空乾燥した。
上記乾燥した蛍光体粒子を、濃度2.0%のトリフルオロプロピルトリメトキシシランを溶かしたエタノールと0.01%の酢酸水の混合水溶液(エタノール:水=5:1)に添加し、1時間反応させた。その後、エタノールを除去し、更に110℃で1時間真空乾燥することによって蛍光体粒子を回収した
上記被覆処理した蛍光体粒子について、実施例1と同様の方法で「被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析」を行ったところ、表面に厚み約55nmの被覆層が形成されていたことが分かった。
また、断面方向の元素組成分析によって得られた元素組成曲線では、チタンの含有量を示す曲線と、フッ素の含有量を示す曲線が得られ、チタンの含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも蛍光体側に位置することが確認できた。なお、チタン以外の特定元素の含有量については検出限界以下であった。
なお、得られた表面処理蛍光体のFE−TEM断面写真を図20に、その断面方向の元素分析結果を図21に示す。
【0082】
(評価方法)
<蛍光体の耐湿性評価1(PCT試験)>
実施例及び比較例で得られた表面処理蛍光体又は蛍光体をシリコーン樹脂(ダウー・コーニング社製、OE6630)100重量部に対して8重量部混合分散し、更に脱泡することにより蛍光体含有樹脂組成物を調製した。次に、調製した蛍光体含有樹脂組成物を、基板に実装したLEDパッケージ(発光ピーク波長460nm)の上に注入、充填し、更に150℃で2時間加熱することにより、樹脂組成物を硬化させた。上記工程により、LED発光装置を作製した。
得られたLED発光装置を温度121℃、相対湿度100%の密閉耐圧装置において耐湿性試験を行った(Pressure Cooker Test(PCT試験))。
蛍光体の耐湿性は、PCT試験前後のLEDチップの発光特性を測定し、光度の変化量から評価した。具体的には、PCT試験前の光度に対し、PCT試験72時間後の光度の保持率(PCT72h光度保持率)でサンプル間の相対耐湿性を評価した。
PCT72h光度保持率(%)=(PCT72時間処理後の光度/処理前の光度)×100
なお、測定装置には、オプトロニックラボラトリーズ社製のOL770測定システムを用いた。結果を表1に示した。
【0083】
<蛍光体の耐湿性評価2(通電試験)>
「蛍光体の耐湿性評価1(PCT試験)」と同様の方法でLED発光装置をまず作製した。
次に、得られたLED発光装置を温度60℃、相対湿度90%の恒温恒湿器において、20mAの定電流条件で1000時間を通電した。通電試験前後のLEDチップの発光特性を測定し、光度の変化量から耐湿性を評価した。具体的には、通電試験前の光度(初期光度)に対し、1000時間通電後の光度の保持率でサンプル間の相対耐湿性を評価した。
1000時間通電後の光度保持率(%)=(1000時間通電後の光度/通電前の光度)×100
なお、測定装置には、オプトロニックラボラトリーズ社製のOL770測定システムを用いた。結果を表1に示した。
【0084】
<蛍光体の耐湿性評価3(水中浸漬後の導電率測定)>
実施例及び比較例で得られた表面処理蛍光体又は蛍光体1gを、攪拌しながら純水(温度:35℃)1000gに添加し、添加後10分経過した時点における分散液の導電率を導電率計(ES−51、堀場製作所社製)を用いて測定した。
【0085】
<蛍光体の耐湿性評価4(水中浸漬時の溶出Si及びSr濃度測定)>
実施例及び比較例で得られた表面処理蛍光体又は蛍光体1gを、攪拌しながら純水(温度:35℃)1000gに添加し、添加後10分経過した時点で分散液をろ過し、ろ液中のSi及びSrの濃度を誘導結合プラズマ発光分析(ICP、装置:ICPS−8000、島津製作所社製)を用いて測定した。
【0086】
<蛍光体の分散性評価>
蛍光体の樹脂における分散性は遠心沈降・光透過方式の分散安定性分析装置(LUMiSizer612、L.U.M社製)を用いて評価した。具体的には、シリコーン樹脂に対して、実施例及び比較例で得られた表面処理蛍光体又は蛍光体を8重量%の割合で分散した蛍光体−シリコーン樹脂組成物約1mlをガラス製分析セルに入れ、その上澄み液に光を照射し、1時間あたりの透過する光量の変化量の積分値を求め、分散性を評価した。
なお、表1には、比較例1の蛍光体を用いた蛍光体−樹脂組成物の透過光量の変化量を1.00とし、比較例1の蛍光体を用いた蛍光体−樹脂組成物に対する比率を記載した。
【0087】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、蛍光特性を低下させることなく、耐湿性を大幅に改善することができ、かつ、高い分散性を有する表面処理蛍光体及び該表面処理蛍光体の製造方法を提供することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐湿性が著しく改善された表面処理蛍光体及び該表面処理蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、白色光を発する半導体発光素子(白色LED)は、低消費電力、高効率、環境にやさしい、長寿命等の長所を兼ね備えているため、次世代光源として注目を浴びている。
白色LEDにおいて、白色光を作り出す方法としては、青色や紫外光のLEDとそれらの光によって励起されうる蛍光体(赤、黄、緑色蛍光体等)とを組み合わせる方法が一般的に用いられている。
【0003】
また、アルカリ土類金属元素を有するシリケート(珪酸塩とも呼ばれる)蛍光体は、組成調節により広範囲な発光波長を容易に得られることと、発光効率が高いこと等の特徴を有するため注目されている。なかでも、特許文献1に記載の(Sr,Ba,Ca)2SiO4:Eu2+や、特許文献2に記載の(Sr,Ba,Ca)3SiO5:Eu2+等の構造を有するシリケート蛍光体が代表例として挙げられる。このシリケート蛍光体では、Srと、Ba又はCaとの相対量を調節することにより発光波長のチューニングが可能である。
【0004】
しかしながら、このようなアルカリ土類金属元素を有するシリケート蛍光体は、空気中の水蒸気や水分によって表面が分解劣化しやすいという問題があった。そのため、大気中での長時間使用の場合に、発光強度の低下や色調の変化が起こりやすく、蛍光体としての特性が低下し、耐久性に大きな問題があった。
これに対して、蛍光体の耐湿性を改善する方法として、気相法(乾式法)、液相法(湿式法)等を用いて、蛍光体粒子の表面を酸化物等で被覆する方法が検討されている。
例えば、気相法による方法としては、化学的気相成長法(CVD)を用いる方法(特許文献3)や、プラズマ法を用いる方法(特許文献4)によって硫化物蛍光体粒子の表面に酸化アルミニウム膜をコーティングする方法が開示されている。
【0005】
また、液相法による方法としては、ゾル−ゲル反応法と中和沈殿法が挙げられ、例えば、特許文献5には、0〜20℃の反応温度でSi、Ti等のアルコキシド及び/又はその誘導体を多量のアンモニア水の存在下で加水分解、脱水重合により蛍光体粒子への表面処理方法を開示されている。また、特許文献6には、表面に粒子状又は層状のSi含有化合物を載置した蛍光体が開示されている。
更に、特許文献7には、ゾル−ゲル法を用いたジルコニア膜の被覆方法が開示されている。特許文献8には、アルミニウム等のイオン含有酸性溶液を、蛍光体を分散させたアルカリ性溶液中に添加し、中和反応によって蛍光体粒子の表面に金属水酸化物を析出する方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献3及び4に開示された気相法では、微粉末である蛍光体粒子を完全に分散することが困難であるため、1個1個の蛍光体粒子の表面に均一かつ全面に被覆することが現実的に難しく、ピンホールや被覆バラツキ等が生じやすいという問題があった。また、気相法は、通常400℃以上の高温で行われるため、蛍光体の種類によっては処理後に蛍光特性が著しく低下してしまうという問題もあった。更に、装置が大掛かりなものとなるため、製造コストが高くなっていた。
【0007】
一方、液相法であるゾル−ゲル法を用いた場合(特許文献5、6及び7)では、被覆物種類の選択自由度が大きいが、出発原料である金属アルコキシドは通常反応性が高く、蛍光体粒子の表面のみで加水分解反応を起させるための反応条件の制御が非常に難しかった。また、ゾル−ゲル法で得られた膜には、不完全な加水分解のため残されたアルコキシル基や加水分解反応で脱離したアルコール等の有機成分が含まれるため、通常緻密な膜が得られにくかった。
更に、特許文献5に開示された被覆方法は、加水分解反応が多量のアンモニア水の存在下で行うため、殆どの原料が蛍光体粒子表面以外の溶液中に反応、消費され、反応効率とコストにも問題点があった。加えて、多量のアンモニア水が含まれるので、処理過程中に蛍光体が加水分解によって劣化する恐れもあった。
特許文献6に開示された方法では、被覆物であるSi含有化合物が粒子状又は層状で蛍光体粒子の表面に載置されるとしているが、実際には、耐湿性の改善は殆ど見られなかった。また、特許文献6の実施例に記載された反応条件では、蛍光体粒子の表面に被覆反応が殆ど起こらず、一部被覆ができたとしても、粒子状被覆の場合には水蒸気を効率的に遮断するのは困難であるという問題点があった。
特許文献7に開示された方法は、長時間の反応と精密な温度及びプロセスの制御が必要であり、効率とコストの点に問題があった。
一方、特許文献8に開示された中和沈殿法では、被覆物を蛍光体粒子の表面に連続膜として析出することは事実上困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2009−515030号公報
【特許文献2】特開1997−104863号公報
【特許文献3】特開2001−139941号公報
【特許文献4】特表2009−524736号公報
【特許文献5】特開2008−111080号公報
【特許文献6】特開2007−224262号公報
【特許文献7】特開2009−132902号公報
【特許文献8】特開平11−256150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、蛍光特性を低下させることなく、耐湿性を大幅に改善することができ、かつ、高い分散性を有する表面処理蛍光体及び該表面処理蛍光体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、周期律表第3〜6族の元素から選択される少なくとも1種の特定元素と、フッ素とを含有する表面処理層を蛍光体の表面に有する表面処理蛍光体であって、表面処理層の断面厚み方向の元素分布を、電子顕微鏡及びそれに付属するエネルギー分散型X線元素分析により測定した場合、特定元素の含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも表面側に位置する表面処理蛍光体である。
以下、本発明を詳述する。
【0011】
本発明者らは、鋭意検討した結果、蛍光体の表面に、特定元素と、フッ素とを含有する表面処理層を形成し、更に、エネルギー分散型X線元素分析により測定したピーク位置が所定の要件を満たした場合に、蛍光特性を低下させることなく、耐湿性を大幅に改善することができ、かつ、高い分散性を有する表面処理蛍光体が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明の表面処理蛍光体は、周期律表第3〜6族の元素から選択される少なくとも1種の特定元素と、フッ素とを含有する表面処理層を蛍光体の表面に有する。
上記表面処理層は、上記特定元素とフッ素とを含有することを特徴とする。
【0013】
まず、上記表面処理層がフッ素を含有することで、被覆処理工程において水による蛍光体の劣化が生じることを防止することができる。一般的に、耐湿性に劣る蛍光体を処理する場合には、水溶液の使用を避ける傾向にあるが、本発明では、上記表面処理層を形成することで、被覆処理を水溶液中で行うことができ、有機溶媒を使用する場合における廃液処理等の問題がなくなる。
また、フッ素を含有する表面処理層が形成されていることで、表面処理蛍光体の使用時の耐湿性についても向上されることができる。上記表面処理層はシリケート蛍光体に比べ、水に対する安定性が高いので、使用時の耐湿性改善にも寄与する。
【0014】
更に、上記表面処理層が特定元素を含有することで、長期耐湿性が向上する。これは、特定元素の酸化物が安定であることによるものと考えられる。
更に、上記表面処理層がフッ素のみを含有する場合は、フッ化物の化学結合は基本的にイオン性結合であり、解離傾向が共有結合の酸化物より大きいため、湿気又は水分が存在する雰囲気に長時間使用すると、フッ化物中のアルカリ土類金属の加水分解反応が徐々に進行する恐れがあり、長期的な安定性の確保に不充分となる。
これに対して、上記フッ素に加えて、上記特定元素を添加することで、水に対してより安定な酸化物層を形成することにより、長期間使用時における優れた耐湿性を付与することができる。
【0015】
上記特定元素は、周期律表第3〜6族の元素から選択される少なくとも1種であるが、なかでも周期律表第4、5族の元素が好ましい。具体的には、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、ニオブ、バナジウム、タンタルが好ましい。また、これらの元素を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
上記表面処理層において、上記特定元素は酸化物の状態で存在していることが好ましい。上記特定元素の酸化物としては、例えば、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化バナジウム、酸化タンタル等が挙げられる。これらのなかでは、酸化ジルコニウムと酸化チタンが特に好ましい。
【0017】
上記表面処理層における特定元素の含有量の好ましい下限は5.0重量%、好ましい上限は85重量%である。上記特定元素の含有量が5.0重量%未満であると、耐湿性の長期安定性が不充分となることがあり、85重量%を超えると、表面処理蛍光体の蛍光体特性が低下することがある。
【0018】
上記表面処理層において、上記フッ素は、アルカリ土類金属とフッ素イオンとから形成されたアルカリ土類金属のフッ化物の状態で存在していることが好ましい。
上記アルカリ土類金属のフッ化物としては、例えば、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウムからなる層が挙げられる。これらのなかでは、フッ化ストロンチウム、フッ化カルシウムが特に好ましい。
【0019】
上記表面処理層におけるフッ素の含有量の好ましい下限は1.0重量%、好ましい上限は60重量%である。上記フッ素の含有量が1.0重量%未満であると、被覆処理過程において水による蛍光体の分解劣化を完全に抑制できなくなることがあり、60重量%を超えると、耐湿性の長期安定性が不充分となることがある。
【0020】
上記表面処理層の厚みは0.5〜5000nmであることが好ましい。より好ましくは1.0〜3000nm、更に好ましくは5.0〜1000nm、特に好ましくは10〜500nmである。表面処理層の厚みが薄すぎると、耐湿性が不足となることがあり、厚すぎると、表面処理蛍光体の蛍光特性が低下することがある。
【0021】
本発明の表面処理蛍光体は、表面処理層の断面厚み方向の元素分布を、電子顕微鏡及びそれに付属するエネルギー分散型X線元素分析により測定した場合、特定元素の含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも表面側に位置することを特徴とする。
ここで、「電子顕微鏡及びそれに付属するエネルギー分散型X線元素分析」とは、例えば、SEM−EDS(Scanning Electron Microscopy/Energy Dispersive Spectroscopy)、又は、TEM−EDS(Transmision Electron Microscopy/Energy Dispersive Spectroscopy)装置を用いた方法等が用いられる。
なお、本発明では、「特定元素の含有量の最大ピーク」又は「フッ素の含有量の最大ピーク」が複数存在する場合でも、「特定元素の含有量の最大ピーク」が、「フッ素の含有量の最大ピーク」よりも表面側に位置するという条件を満たすこととする。
【0022】
本発明では、「特定元素の含有量の最大ピーク」と、「フッ素の含有量の最大ピーク」とが上述した条件を満たすことで、被覆処理過程中における水による蛍光体の分解劣化が抑えられるとともに、被覆処理後の表面処理蛍光体についても、優れた耐湿性を付与することが可能となる。
【0023】
本発明では、上記表面処理層が単層であり、かつ、上記表面処理層の断面厚み方向の元素分布において、特定元素の最大ピーク位置で、フッ素が検出されることが好ましい。これにより、被覆処理後の蛍光体が封止樹脂との親和性が向上され、封止樹脂への分散性が改善されることとなる。
また、特定元素の最大ピーク位置での、フッ素の含有量の好ましい下限は0.01重量%、好ましい上限は30重量%である。
【0024】
上記表面処理層の断面厚み方向の元素分布において、上記特定元素の最大ピーク位置における含有量の好ましい下限は1.0重量%、好ましい上限は75重量%である。上記範囲内とすることで、長時間の使用においても劣化の少ない蛍光体が得られる。
また、上記表面処理層の断面厚み方向の元素分布において、上記フッ素の最大ピーク位置における含有量の好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は50重量%である。上記範囲内とすることで、被覆処理過程中における蛍光体の水より分解劣化が抑えられると同時に、表面処理蛍光体の耐湿性の向上にも寄与する。
【0025】
また、上記表面処理層は、単層であることが好ましい。このことは、例えば、上記エネルギー分散型X線元素分析において、特定元素及びフッ素の含有量の曲線が、ピーク部以外では連続的に漸増又は漸減し、層間界面に起因する急激な含有量の変化がないことによって確認することができる。このような構造であることは、表面処理層の密着性に大きく寄与し、物理的な方法で積層した構造と比較して層間剥離の問題が発生しにくくなる。
【0026】
また、上記表面処理層は、最表面に向かって順に、フッ化物層、及び、特定元素の酸化物を含有する酸化物層が順次形成されたものであってもよい。
一般的に、耐湿性に劣る蛍光体を処理する場合には、水溶液の使用を避ける傾向にあるが、上記フッ化物層を形成することで、被覆処理を水溶液中で行うことができ、有機溶媒を使用する場合における廃液処理等の問題がなくなる。また、使用時の耐湿性についても向上することができる。また、上記酸化物層が形成されていることで、耐湿性の更なる向上と長期安定性が実現される。
従って、上記フッ化物層の上に、水に対してより安定な酸化物層を被覆することにより、長期間使用時における優れた耐湿性を付与することができる。
【0027】
上記フッ化物層としては、アルカリ土類金属とフッ素イオンとから形成されたアルカリ土類金属のフッ化物からなるものであることが好ましい。
具体的には例えば、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウムからなる層が挙げられる。これらのなかでは、フッ化ストロンチウムとフッ化カルシウムが好ましい。
【0028】
上記フッ化物層におけるフッ化物の含有量の好ましい下限は5重量%、好ましい上限は95重量%である。上記フッ化物の含有量が5重量%未満であると、被覆処理過程において水による蛍光体の分解劣化を完全に抑制することができなくなり、95重量%を超えると、蛍光体の蛍光特性に悪影響を与えることがある。
【0029】
上記フッ化物層の厚みは特に限定されず、通常、0.5〜5000nmであることが好ましい。より好ましくは1〜2000nm、更に好ましくは5〜1000nmである。上記フッ化物層の厚みが薄すぎると、前述した水による劣化防止効果が不充分となり、厚すぎると、蛍光体の蛍光特性に悪影響を与えることがある。
【0030】
上記酸化物層は、例えば、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化バナジウム、酸化タンタル、またはそれらの複合物を含有することが好ましい。これらのなかでは、酸化ジルコニウム、酸化チタンが好ましい。
【0031】
上記酸化物層における酸化物の含有量の好ましい下限は10重量%、好ましい上限は95重量%である。上記酸化物の含有量が10重量%未満であったり、95重量%を超えたりすると、耐湿性の長期安定性が不充分となる。
【0032】
上記酸化物層の厚みは特に限定されず、通常、0.5〜5000nmであることが好ましい。より好ましくは1.0〜3000nm、更に好ましくは5.0〜1000nmである。上記酸化物層の厚みが薄すぎると、劣化防止効果が不充分となり、厚すぎると、蛍光体の蛍光特性に悪影響を与えることがある。
【0033】
上記本発明の表面処理蛍光体に用いられる蛍光体としては、アルカリ土類金属元素を含有する蛍光体が好ましい。このようなアルカリ土類金属を有する蛍光体は、例えば、硫化物系蛍光体、アルミン酸塩系蛍光体、窒化物系蛍光体、酸窒化物系蛍光体、リン酸塩系蛍光体、ハロンリン酸塩系蛍光体、シリケート系蛍光体等が挙げられる。
上記蛍光体としては、なかでも、アルカリ土類金属元素を有するシリケート蛍光体が好ましい。
【0034】
上記アルカリ土類金属元素を有するシリケート蛍光体としては、例えば、母体結晶構造として、M3SiO5またはM2SiO4の結晶構造と実質的に同じ構造(ただし、MはMg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種を表す)を有し、かつ、付活剤としてFe、Mn、Cr、Bi、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbからなる群から選択される少なくとも1種を含有する蛍光体が挙げられる。上記「M3SiO5またはM2SiO4の結晶構造と実質的に同じ構造」とは、X線回折法で測定する場合に、M3SiO5またはM2SiO4と同様なX線回折パターンを有することを意味する。
上記アルカリ土類金属元素を有する蛍光体は、アルカリ土類金属以外の金属元素(例えば、Zn、Ga、Al、Y、Gd、Tb)を適量含有してもよい。
また、上記アルカリ土類金属元素を有する蛍光体は、少量のハロゲン元素(例えば、F,Cl,Br)、硫黄(S)またはリン(P)を適量含有してもよい。
【0035】
上記蛍光体の例としては、例えば、下記一般式(1)のような組成を有する橙色蛍光体、下記一般式(2)のような組成を有する橙色蛍光体等が挙げられる。
【0036】
(Sr1−xMx)ySiO5:Eu2+ (1)
式中、MはBa、Ca、Mg及びZnからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、0≦x<1.0であり、2.6≦y≦3.3である。
【0037】
(Sr1−xMx)ySiO5:Eu2+D (2)
式中、MはBa、Ca、Mg及びZnからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、DはF、Cl及びBrからなる群より選択されるハロゲンアニオンであり、0≦x<1.0であり、2.6≦y≦3.3である。
【0038】
上記蛍光体の具体例としては、例えば、Sr3SiO5:Eu2+、(Sr0.9Mg0.025Ba0.075)3SiO5:Eu2+、(Sr0.9Mg0.05Ba0.05)2.7SiO5:Eu2+、(Sr0.9Mg0.025Ba0.075)3SiO5:Eu2+、(Sr0.9Ba0.1)3SiO5:Eu2+、Sr0.97SiO5:Eu2+F、(Sr0.9Mg0.1)2.9SiO5:Eu2+F、(Sr0.9Ca0.1)3.0SiO5:Eu2+Fの等組成を有する橙色蛍光体、(Sr0.4Ba0.6)2SiO4:Eu2+、(Sr0.3Ba0.7)2SiO4:Eu2+、(Sr0.2Ba0.8)2SiO4:Eu2+、(Sr0.57Ba0.4Mg0.03)2SiO4:Eu2+F、(Sr0.6Ba0.4)2SiO4:Eu2+Cl、(Ba,Sr,Ca)2(Mg,Zn)Si2O7:Eu2+等の組成を有する緑色蛍光体、(Sr0.7Ba0.3)2SiO4:Eu2+F、(Sr0.9Ba0.1)2SiO4:Eu2+、0.72[(Sr1.025Ba0.925Mg0.05)Si1.03O4Eu0.05F0.12]・0.28[Sr3Si1.02O5Eu0.6F0.13]等の組成を有する黄色蛍光体、及び、Ba2MgSi2O7:Eu2+、Ba2ZnSi2O7:Eu2+等の組成を有する青色蛍光体が挙げられる。
なかでも、上記蛍光体は、M3SiO5の結晶構造を有する橙色(オレンジ)蛍光体が特に好適である。
【0039】
上記蛍光体の粒子径としては特に限定されないが、中央粒径(D50)で通常0.1〜100μm範囲内であることが好ましく、より好ましくは1.0〜50μm、さらに好ましくは5.0〜30μmである。上記D50が小さすぎると、輝度が低下するだけではなく、基体蛍光体自体が凝集しやくなり、均一な被覆処理が困難になる。また、D50が大きすぎると、樹脂における分散性が悪くなり、発光素子の特性に悪影響を与える恐れがある。
【0040】
本発明の表面処理蛍光体は、純水100重量部中に、蛍光体0.1重量部を10分間浸漬した場合における、水の導電率が100mS/m以下であることが好ましい。
上記水の導電率が100mS/m以下であることで、蛍光体が水による分解劣化が少なく、優れた耐湿性を示すこととなる。
なお、上記水の導電率は、例えば、導電率計等によって測定することができる。
【0041】
本発明の表面処理蛍光体は、純水100重量部中に、蛍光体0.1重量部を10分間浸漬した場合における、ケイ素の溶出量が50ppm以下であることが好ましい。
上記ケイ素の溶出量が50ppm以下であることで、蛍光体が水による分解劣化が少なく、優れた耐湿性を示すこととなる。
【0042】
本発明の表面処理蛍光体は、純水100重量部中に、蛍光体0.1重量部を10分間浸漬した場合における、ストロンチウムの溶出量が200ppm以下であることが好ましい。
上記ストロンチウムの溶出量が200ppm以下であることで、蛍光体が水による分解劣化が少なく、優れた耐湿性を示すこととなる。
なお、上記ケイ素及びストロンチウムの溶出量は、例えば、誘導結合プラズマ発光分析(ICP、装置:ICPS−8000、島津製作所社製)によって測定することができる。
【0043】
本発明の表面処理蛍光体は、例えば、蛍光体を特定元素とフッ素イオンとを含有する錯体イオンを含む溶液に分散し、接触させることにより表面処理層を形成する工程を有する方法を用いることにより、製造することができる。このような表面処理蛍光体の製造方法もまた本発明の1つである。
上記特定元素とフッ素イオンとを含有する錯体イオンとしては、例えば、AF62−の構造を有する錯体イオン(A:周期律表第3〜6族の元素から選択される少なくとも1種の特定元素)等が挙げられる。
他に、AO2F42−の構造を有する錯体イオンや、特定元素の酸化物を溶解したフッ素含有溶液を用いてもよい。
【0044】
本発明の表面処理蛍光体を構成する表面処理層は、例えば、蛍光体をAF62−錯体イオン(A:周期律表第3〜6族の元素から選択される少なくとも1種の特定元素)含有溶液に分散し、接触させることにより表面処理層を形成する工程を行うことで形成することができる。
【0045】
上記AF62−錯体イオンは、水溶液中において、下記加水分解反応式(3)が進行することで、遊離のフッ素イオンが生成する。
AF62−+nH2O → [AF6−n(OH)n]2− + nH+ + nF− (3)
【0046】
上記AF62−錯体イオン濃度は、0.0005〜2.0Mであることが好ましく、より好ましくは0.001〜1.5Mで、更に好ましくは0.005〜1.0Mである。上記AF62−錯体イオン濃度が低すぎると、遊離のフッ素イオン濃度が低いため、フッ化物形成反応の速度が遅くなる。フッ化物形成反応の速度が遅すぎると、処理工程中に蛍光体の加水分解による劣化を生じる恐れがある。一方、上記AF62−錯体イオン濃度が高すぎると、溶液自身が不安定になるか、反応が速すぎて、良質な膜が得られにくいことがある。
【0047】
上述のように、MF62−錯体イオンは水溶液中において上記式(3)のように加水分解反応が徐々に進行し、下記式(4)に示すように、最終的にAO2が形成される。下記式(4)の反応は、溶液中に蛍光体が存在しなくてもゆっくりと進行し、酸化物粒子が形成される。ところが、蛍光体が存在すると、AO2酸化物が蛍光体の表面に優先的に析出することが本発明者らの実験から分かった。
上記加水分解反応は、下記式(5)に示すように、フッ素イオンとより安定な錯体を作りうる化合物(加水分解促進剤)の存在によって促進される。本発明に使用する加水分解促進剤は、ホウ素(B)又はアルミニウム(Al)を含有する化合物から選ぶことができる。ホウ素を含有する化合物及びアルミニウムを含有する化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
AF62− + 2H2O → AO2 + 4H+ + 6F− (4)
BO33− + 6H+ + 4F− → BF4− + 3H2O (5)
【0048】
上記ホウ素を含有する化合物としては、例えば、酸化ホウ素、四ホウ酸ナトリウム、ホウ酸(H3BO3)等が挙げられる。これらの中では、ホウ酸が好ましい。
上記アルミニウムを含有する化合物としては、例えば、AlCl3、AlBr3、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)等が挙げられる。
【0049】
上記AF62−錯体イオンに対する加水分解促進剤の量は特に限定されないが、通常、1モルのAF62−錯体イオンに対して加水分解促進剤の量が5倍以下、より好ましくは4倍以下である。
【0050】
反応時間は、目的とする酸化物層の厚み、反応液の濃度、温度等の反応条件に応じて適宜調整すればよく、通常、5分〜20時間程度、好ましくは10分〜10時間程度である。
一般には、仕込みの蛍光体の量が一定であれば、反応時間が長くなるほど膜厚が厚くなる。反応時間が短すぎると表面処理層の形成が不完全となる。一方、反応時間が長すぎると非経済的である。
反応温度は、目的とする酸化物層の厚みに応じて適宜調整すればよく、通常、0〜90℃程度、好ましくは5〜70℃程度、より好ましくは、10〜50℃程度とすればよい。
反応時の分散条件は特に限定されず、蛍光体を分散させることができる条件であればよい。例えば、磁気スターラー攪拌、モーター付きの機械的な攪拌、ガスバーブリング、液循環、超音波分散、ボールミルやロータリーミキサーのような回転分散、又は上記方法を併用することによって行うことができる。
【0051】
所定時間反応後に、蛍光体をろ過、洗浄、乾燥工程を経て回収する。乾燥は常圧乾燥でもよく、減圧乾燥でもよい。乾燥時の温度は室温〜150℃が適宜である。
また、本発明の表面処理蛍光体の製造方法では、上記乾燥した蛍光体を200〜600℃の温度で更に熱処理してもよい。
上述の条件では、フッ化物の形成と特定元素の酸化物の形成が実質的に同じ溶液中に進行するが、蛍光体をAF62−錯体イオン含有水溶液に分散、接触させた時に、フッ化物が優先的に形成すると推測される。フッ化物の形成に伴い、溶液中のフッ素イオン濃度が低下し、上記一般式(3)又は(4)の反応が右方向へ進む。その結果、酸化物(AO2)が析出し始める。
【0052】
本発明の表面処理蛍光体は、エポキシ樹脂及び/又はシリコーン樹脂に添加することで、蛍光体含有樹脂組成物として使用することができる。
なお、上記蛍光体含有樹脂組成物は公知の形態で使用され、例えば、ペーストとしてディスペンサーで充填されたり、テープ、シート状に加工され積層されたりしても良い。
【0053】
上記エポキシ樹脂としては、公知の物を使用しても良いが、例えば、ヒドロキシル、カルボキシル又はアミン含有化合物を、金属水酸化物のような塩基性触媒(水酸化ナトリウム等)の存在下で、エピクロロヒドリンと反応させて製造できるもの等が挙げられる。
また、1以上、好ましくは2以上の炭素−炭素二重結合を有する化合物と過酸化物(過酸等)との反応で製造されるエポキシ樹脂等も挙げられる。
【0054】
上記エポキシ樹脂としては、例えば、脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ビスフェノール−Aエポキシ樹脂、ビスフェノール−Fエポキシ樹脂、フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾール−ノボラックエポキシ樹脂、ビフェニルエポキシ樹脂、4,4’−ビフェニルエポキシ樹脂、多官能性エポキシ樹脂、ジビニルベンゼンジオキシド及び2−グリシジルフェニルグリシジルエーテルが挙げられる。なかでも、脂環式エポキシ樹脂及び脂肪族エポキシ樹脂が好ましい。これらのエポキシ樹脂は単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
上記脂肪族エポキシ樹脂としては、1以上の脂肪族基と1以上のエポキシ基を有する化合物が挙げられ、具体例としては、ブタジエンジオキシド、ジメチルペンタンジオキシド、ジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル及びジペンテンジオキシド等が挙げられる。
【0055】
上記脂環式エポキシ樹脂としては、1以上の脂環式基と1以上のオキシラン基を有する化合物が挙げられ、具体例としては、2−(3,4−エポキシ)シクロヘキシル−5,5−スピロ−(3,4−エポキシ)シクロヘキサン−m−ジオキサン、3,4−エポキシシクロヘキシルアルキル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ビニルシクロヘキサンジオキシド、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、exo−exoビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル、endo−exoビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル、2,2−ビス(4−(2,3−エポキシプロポキシ)シクロヘキシル)プロパン、2,6−ビス(2,3−エポキシプロポキシシクロヘキシル−p−ジオキサン)、2,6−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ノルボルネン、リノール酸ダイマーのジグリシジルエーテル、リモネンジオキシド、2,2−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロパン、ジシクロペンタジエンジオキシド、1,2−エポキシ−6−(2,3−エポキシプロポキシ)ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダン、p−(2,3−エポキシ)シクロペンチルフェニル−2,3−エポキシプロピルエーテル、1−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル−5,6−エポキシヘキサヒドロ−4,7−メタノインダン、o−(2,3−エポキシ)シクロペンチルフェニル−2,3−エポキシプロピルエーテル)、1,2−ビス[5−(1,2−エポキシ)−4,7−ヘキサヒドロメタノインダノキシル]エタン、シクロペンチルフェニルグリシジルエーテル、シクロヘキサンジオールジグリシジルエーテル及びジグリシジルヘキサヒドロフタレート等が挙げられる。
【0056】
上記シリコーン樹脂としては、公知の物を使用しても良いが、例えば、(−SiR1R2−O−)nポリシロキサン骨格を持つ物が挙げられる。上記R1R2としては、炭素数2〜10、特に2〜6のものが好ましく、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基等が挙げられる。上記R2としては、炭素数1〜10、特に1〜6のものが好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、シクロヘキシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基などが代表的なものとして挙げられる。
【0057】
本発明の表面処理蛍光体は、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート及びポリカーボネート及び環状オレフィン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂に分散されることで、波長変換複合体として使用することができる。
上記波長変換複合体は、照明システム、太陽電池用の波長変換部材等として使用される。
上記波長変換複合体の製造方法は特に限定されないが、本発明の表面処理蛍光体は、対応する樹脂に合わせた公知の表面処理がなされていてもよい。また、公知の混練分散方法により樹脂中に分散されていてもよい。
【0058】
上記波長変換複合体は、シート状に成形することで波長変換シートとして使用することができる。上記シート状に成形する方法は既知の方法を用いることができる。具体的には例えば、本発明の表面処理蛍光体と樹脂からなるマスターバッチを作製し、押出機による製膜する方法、樹脂を溶解する溶媒に樹脂と本発明の表面処理蛍光体を分散させてキャストする方法等が挙げられる。
【0059】
本発明の波長変換複合体、又は、波長変換シートを用いることで、効率のよい光電変換装置を得ることができる。このような光電変換装置もまた本発明の1つである。
太陽電池に代表される光電変換装置では、受光する光の波長が必ずしも素子自体の効率の良い波長ではないことがある。その際に、受光する光の波長を素子にとって効率のよい波長に変換することにより、光電変換装置の変換効率が向上する。
一方で、従来の蛍光体は、耐湿性が低く好適に使用できなかったが、封止材樹脂に本発明の表面処理蛍光体を分散させ、太陽電池の表面に使用することで効率の良い太陽電池が得られる。
【0060】
本発明の表面処理蛍光体を用いて蛍光体層を形成することで半導体発光素子を製造することができる。このような半導体発光素子もまた本発明の1つである。
また、LEDチップと、前記LEDチップを囲繞する樹脂フレームと、樹脂フレームが形成する凹部に充填される蛍光体層を備えるLED発光装置において、前記蛍光体層を本発明の表面処理蛍光体と封止樹脂とを含有する構成とすることで、耐湿性に優れたLED発光装置とすることができる。このようなLED発光装置もまた本発明の1つである。
【0061】
本発明のLED発光装置は、温度60℃、相対湿度90%、電流20mAの条件で1000時間通電した後の光度保持率が80%以上である。上記光度保持率が80%未満であると、実際使用時に発光強度が経時により低下しやすく、耐久性が足りないことがある。上記光度保持率は、好ましくは90%以上である。
なお、上記光度保持率とは、上述した条件で通電前後の光度の比率[(通電後の光度/通電前の光度)×100]を表し、上記光度は、例えば、オプトロニックラボラトリーズ社製のOL770測定システム等を用いて測定することができる。
【0062】
また、本発明のLED発光装置は、温度121℃、相対湿度100%環境下で72時間保持した後の光度保持率が50%以上であることが好ましい。
【0063】
本発明のLED発光装置の用途は特に制限されず、通常のLED発光装置が用いられる各種の分野に使用することが可能である。また、単独で、又は複数個を組み合わせて用いても良い。具体的には、例えば、液晶表示素子バックライト、画像表示装置、照明装置等に使用することができる。
【0064】
上記液晶表示素子バックライトとしての構成は既知のものを使用できる。例えば、表示素子額縁部分に配置されて導光板に向かって発光しても良いし、液晶セル背面に拡散板を挟みそのさらに背面に配置されても良い。
また、上記画像表示装置としては、例えば、少なくとも液晶セルと上記液晶表示素子バックライトと有する液晶表示素子がその1例である。他の例としては、複数のLEDを2次元的に規則的に配列して選択的に発光させることにより画像を形成するLEDディスプレイ等が挙げられる。
更に、上記照明装置としては、特に限定されず、既知のLED発光装置への適用が可能である。上記照明装置は、耐湿性が高いことから、例えば、車両等の交通、運輸に用いられる表示灯、照明灯や、住居、建築物等に用いられる屋内外の照明や、携帯電話、移動体通信端末等に用いられる照明等に使用することができる。
【発明の効果】
【0065】
本発明によれば、空気中の水蒸気や水による表面の分解劣化を防止でき、長時間または高温高湿環境での使用においても光度の低下や色調の変化が起こることのない、耐湿性に優れた表面処理蛍光体を得ることができる。また、本発明の表面処理蛍光体の製造方法によれば、高価な反応装置を必要とせず、被覆処理を水溶液中で短時間で行うことができるので、目的の表面処理蛍光体を効率的、経済的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例1で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【図2】実施例1で得られた表面処理蛍光体の断面方向の元素分布データである。
【図3】実施例2で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【図4】実施例2で得られた表面処理蛍光体の断面方向の元素分布データである。
【図5】実施例3で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【図6】実施例3で得られた表面処理蛍光体の断面方向の元素分布データである。
【図7】実施例4で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【図8】実施例4で得られた表面処理蛍光体の断面方向の元素分布データである。
【図9】実施例5で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【図10】実施例5で得られた表面処理蛍光体の断面方向の元素分布データである。
【図11】実施例6で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【図12】実施例7で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【図13】実施例7で得られた表面処理蛍光体の断面方向の元素分布データである。
【図14】比較例1で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【図15】比較例1で得られた表面処理蛍光体の断面方向の元素分布データである。
【図16】比較例2で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【図17】比較例2で得られた表面処理蛍光体の断面方向の元素分布データである。
【図18】比較例3で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【図19】比較例3で得られた表面処理蛍光体の断面方向の元素分布データである。
【図20】比較例4で得られた表面処理蛍光体の断面を撮影した断面写真である。
【図21】比較例4で得られた表面処理蛍光体の断面方向の元素分布データである。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0068】
[実施例1]
0.1mol/Lフッ化チタン酸アンモニウム((NH4)2TiF6)と0.1mol/Lほう酸含有混合水溶液250mlに、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(Sr3SiO5:Eu2+)7.5gを添加した。上記蛍光体を添加した混合液を攪拌によって分散しながら、35℃で2時間を反応させた。反応後に、ろ過、洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
得られた表面処理蛍光体について、以下の方法で「被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析」を行ったところ、蛍光体の表面に厚み約180nmの表面処理層が形成されていることが分かった。
また、断面方向の元素組成分析によって得られた元素組成曲線では、チタンの含有量を示す曲線と、フッ素の含有量を示す曲線が得られ、チタンの含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも表面側に位置することが確認できた。なお、チタン以外の特定元素の含有量については検出限界以下であった。
また、チタンの含有量の最大ピーク位置におけるフッ素の含有量は1.0重量%であった。なお、得られた表面処理蛍光体のFE−TEM断面写真を図1に、その断面方向の元素分析結果を図2に示す。
【0069】
<被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析>
得られた表面処理蛍光体について、Focused ion Beam(FIB)を用いて、断面方向に切断し、その切断面を透過電子顕微鏡(FE−TEM、JEM−2010FEF)で観察することによって表面処理層の厚みを測定した。なお、厚みは5点を測定し、その平均値を用いた。
また、表面処理層の元素組成は、上記FE−TEMに付属されているエネルギー分散型X線(EDX)を用いて分析し、同定することにより、厚み方向における特定元素(周期律表第3〜6族の元素)及びフッ素の含有量の曲線を得た。
【0070】
[実施例2]
0.1mol/Lフッ化チタン酸アンモニウム((NH4)2TiF6)と0.1mol/Lほう酸含有混合水溶液250mlに、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:Sr3SiO5:Eu2+)7.5gを添加した。上記蛍光体を添加した混合液を攪拌によって分散しながら、35℃で4時間を反応させた。反応後に、ろ過、洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
得られた表面処理蛍光体について、実施例1と同様の方法で「被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析」を行ったところ、蛍光体の表面に厚み約210nmの表面処理層が形成されていることが分かった。
また、断面方向の元素組成分析によって得られた元素組成曲線では、チタンの含有量を示す曲線と、フッ素の含有量を示す曲線が得られ、チタンの含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも表面側に位置することが確認できた。なお、チタン以外の特定元素の含有量については検出限界以下であった。
また、チタンの含有量の最大ピーク位置におけるフッ素の含有量は1.8重量%であった。
なお、得られた表面処理蛍光体のFE−TEM断面写真を図3に、その断面方向の元素分析結果を図4に示す。
【0071】
[実施例3]
0.75mol/Lフッ化チタン酸アンモニウム((NH4)2TiF6)含有水溶液250mlに、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:Sr3SiO5:Eu2+)7.5gを添加した。上記蛍光体を添加した混合液を攪拌によって分散しながら、35℃で30分を反応させた。反応後に、ろ過、洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
得られた表面処理蛍光体について、実施例1と同様の方法で「被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析」を行ったところ、蛍光体の表面に厚み約250nmの被覆層が形成されていることが分かった。
また、断面方向の元素組成分析によって得られた元素組成曲線では、チタンの含有量を示す曲線と、フッ素の含有量を示す曲線が得られ、チタンの含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも表面側に位置することが確認できた。なお、チタン以外の特定元素の含有量については検出限界以下であった。
また、チタンの含有量の最大ピーク位置におけるフッ素の含有量は4.8重量%であった。
なお、得られた表面処理蛍光体のFE−TEM断面写真を図5に、その断面方向の元素分析結果を図6に示す。
【0072】
[実施例4]
1.0mol/Lフッ化チタン酸アンモニウム((NH4)2TiF6)含有水溶液250mlに、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:Sr3SiO5:Eu2+Cl)7.5gを添加した。上記蛍光体を添加した混合液を攪拌によって分散しながら、35℃で30分を反応させた。反応後に、ろ過、洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
得られた表面処理蛍光体について、実施例1と同様の方法で「被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析」を行ったところ、蛍光体の表面に厚み約300nmの被覆層が形成されていることが分かった。
また、断面方向の元素組成分析によって得られた元素組成曲線では、チタンの含有量を示す曲線と、フッ素の含有量を示す曲線が得られ、チタンの含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも表面側に位置することが確認できた。なお、チタン以外の特定元素の含有量については検出限界以下であった。
また、チタンの含有量の最大ピーク位置におけるフッ素の含有量は6.0重量%であった。
なお、得られた表面処理蛍光体のFE−TEM断面写真を図7に、その断面方向の元素分析結果を図8に示す。
【0073】
[実施例5]
0.02mol/Lフッ化チタン酸アンモニウム((NH4)2TiF6)と0.02mol/Lほう酸含有混合水溶液250mlに、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:Sr3SiO5:Eu2+)7.5gを添加した。上記蛍光体を添加した混合液を攪拌によって分散しながら、35℃で2時間を反応させた。反応後に、ろ過、洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
得られた表面処理蛍光体について、実施例1と同様の方法で「被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析」を行ったところ、蛍光体の表面に厚み約110nmの被覆層が形成されていることが分かった。
また、断面方向の元素組成分析によって得られた元素組成曲線では、チタンの含有量を示す曲線と、フッ素の含有量を示す曲線が得られ、チタンの含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも表面側に位置することが確認できた。なお、チタン以外の特定元素の含有量については検出限界以下であった。
また、チタンの含有量の最大ピーク位置におけるフッ素の含有量は0.15重量%であった。なお、得られた表面処理蛍光体のFE−TEM断面写真を図9に、その断面方向の元素分析結果を図10に示す。
【0074】
[実施例6]
0.1mol/Lフッ化チタン酸アンモニウム((NH4)2TiF6)と0.2mol/Lほう酸含有混合水溶液250mlに、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:Sr3SiO5:Eu2+)1.5gを添加した。上記蛍光体を添加した混合液を攪拌によって分散しながら、35℃で2時間を反応させた。反応後に、ろ過、洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
得られた表面処理蛍光体について、実施例1と同様の方法で「被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析」を行ったところ、蛍光体の表面に厚み約200nmの被覆層が形成されていることが分かった。
また、断面方向の元素組成分析によって得られた元素組成曲線では、チタンの含有量を示す曲線と、フッ素の含有量を示す曲線が得られ、チタンの含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも表面側に位置することが確認できた。なお、チタン以外の特定元素の含有量については検出限界以下であった。
また、チタンの含有量の最大ピーク位置におけるフッ素の含有量は2.5重量%であった。
なお、得られた表面処理蛍光体のFE−TEM断面写真を図11に示す。
【0075】
[実施例7]
0.1mol/Lフッ化ジルコン酸アンモニウム((NH4)2ZrF6)と0.1mol/Lほう酸含有混合水溶液250mlに、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:Sr3SiO5:Eu2+)7.5gを添加した。上記蛍光体を添加した混合液を攪拌によって分散しながら、35℃で2時間を反応させた。反応後に、ろ過、洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
得られた表面処理蛍光体について、実施例1と同様の方法で「被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析」を行ったところ、蛍光体の表面に厚み約170nmの被覆層が形成されていることが分かった。
また、断面方向の元素組成分析によって得られた元素組成曲線では、ジルコニウムの含有量を示す曲線と、フッ素の含有量を示す曲線が得られ、ジルコニウムの含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも表面側に位置することが確認できた。なお、ジルコニウム以外の特定元素の含有量については検出限界以下であった。
また、ジルコニウムの含有量の最大ピーク位置におけるフッ素の含有量は0.6重量%であった。
なお、得られた表面処理蛍光体のFE−TEM断面写真を図12に、その断面方向の元素分析結果を図13に示す。
【0076】
[実施例8]
0.05mol/Lの酸化バナジウムを溶解したフッ化水素酸水溶液250mlに、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:Sr3SiO5:Eu2+)7.5gを添加した。上記蛍光体を添加した混合液を攪拌によって分散しながら、35℃で30時間を反応させた。反応後に、ろ過、洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
得られた表面処理蛍光体について、実施例1と同様の方法で「被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析」を行ったところ、蛍光体の表面に厚み約100nmの被覆層が形成されていることが分かった。
また、断面方向の元素組成分析によって得られた元素組成曲線では、バナジウムの含有量を示す曲線と、フッ素の含有量を示す曲線が得られ、バナジウムの含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも表面側に位置することが確認できた。なお、バナジウム以外の特定元素の含有量については検出限界以下であった。
また、バナジウムの含有量の最大ピーク位置におけるフッ素の含有量は3.6重量%であった。
【0077】
[実施例9]
0.1mol/Lのフッ化モリブデン酸アンモニウム((NH4)2MoO2F4)水溶液250mlに、中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:Sr3SiO5:Eu2+)7.5gを添加した。上記蛍光体を添加した混合液を攪拌によって分散しながら、35℃で30時間を反応させた。反応後に、ろ過、洗浄工程を経て回収した蛍光体を120℃で1時間真空乾燥した。
得られた表面処理蛍光体について以下の方法で「被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析」を行ったところ、蛍光体の表面に厚み約50nmの被覆層が形成されていることが分かった。
また、断面方向の元素組成分析によって得られた元素組成曲線では、モリブデンの含有量を示す曲線と、フッ素の含有量を示す曲線が得られ、モリブデンの含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも表面側に位置することが確認できた。なお、モリブデン以外の特定元素の含有量については検出限界以下であった。
また、モリブデンの含有量の最大ピーク位置におけるフッ素の含有量は1.5重量%であった。
【0078】
[比較例1]
表面未処理の中央粒径(D50)約17μmの橙色シリケート蛍光体(主成分:Sr3SiO5:Eu2+)を用い、この蛍光体について、実施例1と同様の方法で「被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析」を行ったところ、蛍光体の表面に表面被覆層は形成されておらず、特定元素の含有量を示す曲線も、フッ素の含有量を示す曲線も得られなかった。
なお、得られた蛍光体のFE−TEM断面写真と断面方向の元素分析結果をそれぞれ図14と図15に示す。
【0079】
[比較例2]
主成分Sr3SiO5:Eu2+の橙色シリケート蛍光体粒子1.0gを、濃度2.0%のトリフルオロプロピルトリメトキシシランを溶かしたエタノールと0.01%の酢酸水の混合水溶液(エタノール:水=5:1)に添加し、1時間反応させた。その後、エタノールを除去し、更に110℃で1時間真空乾燥することによって蛍光体粒子を回収した。
上記処理した蛍光体粒子について、実施例1と同様の方法で「被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析」を行ったところ、表面に厚み約47nmの被覆層が形成されていたことが分かった。
また、断面方向の元素組成分析によって得られた元素組成曲線では、フッ素の含有量を示す曲線のみが得られた。なお、特定元素の含有量については検出限界以下であった。
更に、表面処理層における、フッ素最大値ピークの含有量は9.5重量%であった。
なお、得られた表面処理蛍光体のFE−TEM断面写真を図16に、その断面方向の元素分析結果を図17に示す。
【0080】
[比較例3]
主成分Sr3SiO5:Eu2+の橙色シリケート蛍光体粒子12.0gを分散した無水エタノール溶液(400ml)にチタンイソプロポキシド(関東化学社製)8.4gを添加し溶解した。次に、4.2gの水(アンモニア水でpH9.0まで調製)を含有する120mlエタノール液を0.5ml/分の速度で上記分散液に滴下した。滴下終了後にも更に1時間攪拌した。その後、ろ過、洗浄工程を経て、回収した蛍光体粒子を120℃で1時間真空乾燥した。
上記被覆処理した蛍光体粒子について、実施例1と同様の方法で「被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析」を行ったところ、表面に厚み約34nmの被覆層が形成されていたことが分かった。
また、断面方向の元素組成分析によって得られた元素組成曲線では、チタンの含有量を示す曲線のみが得られた。なお、フッ素の含有量については検出限界以下であった。
更に、表面処理層におけるチタン最大ピークの含有量は20重量%であった。
なお、得られた表面処理蛍光体のFE−TEM断面写真を図18に、その断面方向の元素分析結果を図19に示す。
【0081】
[比較例4]
主成分Sr3SiO5:Eu2+の橙色シリケート蛍光体粒子12.0gを分散した無水エタノール溶液(400ml)にチタンイソプロポキシド(関東化学社製)8.4gを添加し溶解した。次に、4.2gの水(アンモニア水でpH9.0まで調製)を含有する120mlエタノール液を0.5ml/分の速度で上記分散液に滴下した。滴下終了後にも更に1時間攪拌した。その後、ろ過、洗浄工程を経て、回収した蛍光体粒子を120℃で1時間真空乾燥した。
上記乾燥した蛍光体粒子を、濃度2.0%のトリフルオロプロピルトリメトキシシランを溶かしたエタノールと0.01%の酢酸水の混合水溶液(エタノール:水=5:1)に添加し、1時間反応させた。その後、エタノールを除去し、更に110℃で1時間真空乾燥することによって蛍光体粒子を回収した
上記被覆処理した蛍光体粒子について、実施例1と同様の方法で「被覆層の厚み測定、断面方向の元素組成分析」を行ったところ、表面に厚み約55nmの被覆層が形成されていたことが分かった。
また、断面方向の元素組成分析によって得られた元素組成曲線では、チタンの含有量を示す曲線と、フッ素の含有量を示す曲線が得られ、チタンの含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも蛍光体側に位置することが確認できた。なお、チタン以外の特定元素の含有量については検出限界以下であった。
なお、得られた表面処理蛍光体のFE−TEM断面写真を図20に、その断面方向の元素分析結果を図21に示す。
【0082】
(評価方法)
<蛍光体の耐湿性評価1(PCT試験)>
実施例及び比較例で得られた表面処理蛍光体又は蛍光体をシリコーン樹脂(ダウー・コーニング社製、OE6630)100重量部に対して8重量部混合分散し、更に脱泡することにより蛍光体含有樹脂組成物を調製した。次に、調製した蛍光体含有樹脂組成物を、基板に実装したLEDパッケージ(発光ピーク波長460nm)の上に注入、充填し、更に150℃で2時間加熱することにより、樹脂組成物を硬化させた。上記工程により、LED発光装置を作製した。
得られたLED発光装置を温度121℃、相対湿度100%の密閉耐圧装置において耐湿性試験を行った(Pressure Cooker Test(PCT試験))。
蛍光体の耐湿性は、PCT試験前後のLEDチップの発光特性を測定し、光度の変化量から評価した。具体的には、PCT試験前の光度に対し、PCT試験72時間後の光度の保持率(PCT72h光度保持率)でサンプル間の相対耐湿性を評価した。
PCT72h光度保持率(%)=(PCT72時間処理後の光度/処理前の光度)×100
なお、測定装置には、オプトロニックラボラトリーズ社製のOL770測定システムを用いた。結果を表1に示した。
【0083】
<蛍光体の耐湿性評価2(通電試験)>
「蛍光体の耐湿性評価1(PCT試験)」と同様の方法でLED発光装置をまず作製した。
次に、得られたLED発光装置を温度60℃、相対湿度90%の恒温恒湿器において、20mAの定電流条件で1000時間を通電した。通電試験前後のLEDチップの発光特性を測定し、光度の変化量から耐湿性を評価した。具体的には、通電試験前の光度(初期光度)に対し、1000時間通電後の光度の保持率でサンプル間の相対耐湿性を評価した。
1000時間通電後の光度保持率(%)=(1000時間通電後の光度/通電前の光度)×100
なお、測定装置には、オプトロニックラボラトリーズ社製のOL770測定システムを用いた。結果を表1に示した。
【0084】
<蛍光体の耐湿性評価3(水中浸漬後の導電率測定)>
実施例及び比較例で得られた表面処理蛍光体又は蛍光体1gを、攪拌しながら純水(温度:35℃)1000gに添加し、添加後10分経過した時点における分散液の導電率を導電率計(ES−51、堀場製作所社製)を用いて測定した。
【0085】
<蛍光体の耐湿性評価4(水中浸漬時の溶出Si及びSr濃度測定)>
実施例及び比較例で得られた表面処理蛍光体又は蛍光体1gを、攪拌しながら純水(温度:35℃)1000gに添加し、添加後10分経過した時点で分散液をろ過し、ろ液中のSi及びSrの濃度を誘導結合プラズマ発光分析(ICP、装置:ICPS−8000、島津製作所社製)を用いて測定した。
【0086】
<蛍光体の分散性評価>
蛍光体の樹脂における分散性は遠心沈降・光透過方式の分散安定性分析装置(LUMiSizer612、L.U.M社製)を用いて評価した。具体的には、シリコーン樹脂に対して、実施例及び比較例で得られた表面処理蛍光体又は蛍光体を8重量%の割合で分散した蛍光体−シリコーン樹脂組成物約1mlをガラス製分析セルに入れ、その上澄み液に光を照射し、1時間あたりの透過する光量の変化量の積分値を求め、分散性を評価した。
なお、表1には、比較例1の蛍光体を用いた蛍光体−樹脂組成物の透過光量の変化量を1.00とし、比較例1の蛍光体を用いた蛍光体−樹脂組成物に対する比率を記載した。
【0087】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、蛍光特性を低下させることなく、耐湿性を大幅に改善することができ、かつ、高い分散性を有する表面処理蛍光体及び該表面処理蛍光体の製造方法を提供することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期律表第3〜6族の元素から選択される少なくとも1種の特定元素と、フッ素とを含有する表面処理層を蛍光体の表面に有する表面処理蛍光体であって、
表面処理層の断面厚み方向の元素分布を、電子顕微鏡及びそれに付属するエネルギー分散型X線元素分析により測定した場合、特定元素の含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも表面側に位置する
ことを特徴とする表面処理蛍光体。
【請求項2】
表面処理層が単層であり、かつ、表面処理層の断面厚み方向の元素分布において、特定元素の最大ピーク位置で、フッ素が検出されることを特徴とする請求項1記載の表面処理蛍光体。
【請求項3】
表面処理層は、最表面に向かって順に、フッ化物層、及び、特定元素の酸化物を含有する酸化物層が存在することを特徴とする請求項1記載の表面処理蛍光体。
【請求項4】
蛍光体は、アルカリ土類金属を含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の表面処理蛍光体。
【請求項5】
蛍光体は、アルカリ土類金属を含有するシリケート系蛍光体からなることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の表面処理蛍光体。
【請求項6】
蛍光体は、下記一般式(1)で示されるシリケート系蛍光体からなることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の表面処理蛍光体。
(Sr1−xMx)ySiO5:Eu2+ (1)
式中、MはBa、Ca、Mg及びZnからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、0≦x<1.0であり、2.6≦y≦3.3である。
【請求項7】
蛍光体は、下記一般式(2)で示されるシリケート系蛍光体からなることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の表面処理蛍光体。
(Sr1−xMx)ySiO5:Eu2+D (2)
式中、MはBa、Ca、Mg及びZnからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、DはF、Cl及びBrからなる群より選択されるハロゲンアニオンであり、0≦x<1.0であり、2.6≦y≦3.3である。
【請求項8】
純水100重量部中に、蛍光体0.1重量部を10分間浸漬した場合における、水の導電率が100mS/m以下であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の表面処理蛍光体。
【請求項9】
純水100重量部中に、蛍光体0.1重量部を10分間浸漬した場合における、ケイ素の溶出量が50ppm以下であることを特徴とする請求項5、6又は7記載の表面処理蛍光体。
【請求項10】
純水100重量部中に、蛍光体0.1重量部を10分間浸漬した場合における、ストロンチウムの溶出量が200ppm以下であることを特徴とする請求項6又は7記載の表面処理蛍光体。
【請求項11】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載の表面処理蛍光体と、エポキシ樹脂及び/又はシリコーン樹脂を含有することを特徴とする蛍光体含有樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載の表面処理蛍光体が、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート及びポリカーボネート及び環状オレフィン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂に分散されてなることを特徴とする波長変換樹脂樹脂複合体。
【請求項13】
請求項12記載の波長変換複合体をシート状にしてなることを特徴とする波長変換シート。
【請求項14】
請求項12記載の波長変換複合体、又は、請求項13記載の波長変換シートを構成部材として用いることを特徴とする光電変換装置。
【請求項15】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載の表面処理蛍光体を用いてなることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項16】
LEDチップと、前記LEDチップを囲繞する樹脂フレームと、樹脂フレームが形成する凹部に充填される蛍光体層を備えるLED発光装置であって、前記蛍光体層が請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載の表面処理蛍光体と封止樹脂とを含有することを特徴とするLED発光装置。
【請求項17】
温度60℃、相対湿度90%、電流20mAの条件で1000時間通電した後の光度保持率が80%以上であることを特徴とする請求項16記載のLED発光装置。
【請求項18】
温度121℃、相対湿度100%環境下で72時間保持した後の光度保持率が50%以上であることを特徴とする請求項16記載のLED発光装置。
【請求項19】
請求項16、17又は18記載のLED発光装置を構成部材として用いることを特徴とする液晶表示素子バックライト。
【請求項20】
請求項16、17又は18記載のLED発光装置を構成部材として用いることを特徴とする画像表示装置。
【請求項21】
請求項16、17又は18記載のLED発光装置を構成部材として用いることを特徴とする照明装置。
【請求項22】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載の表面処理蛍光体を製造する方法であって、
蛍光体を特定元素とフッ素とを含有する錯体イオンを含む溶液に分散し、接触させることにより表面処理層を形成する工程を有することを特徴とする表面処理蛍光体の製造方法。
【請求項23】
特定元素とフッ素とを含有する錯体イオンが、AF62−(A:周期律表第3〜6族の元素から選択される少なくとも1種の特定元素)であることを特徴とする請求項22記載の表面処理蛍光体の製造方法。
【請求項24】
表面処理層を形成する工程において、更にホウ酸を添加することを特徴とする請求項22又は23記載の表面処理蛍光体の製造方法。
【請求項1】
周期律表第3〜6族の元素から選択される少なくとも1種の特定元素と、フッ素とを含有する表面処理層を蛍光体の表面に有する表面処理蛍光体であって、
表面処理層の断面厚み方向の元素分布を、電子顕微鏡及びそれに付属するエネルギー分散型X線元素分析により測定した場合、特定元素の含有量の最大ピークが、フッ素の含有量の最大ピークよりも表面側に位置する
ことを特徴とする表面処理蛍光体。
【請求項2】
表面処理層が単層であり、かつ、表面処理層の断面厚み方向の元素分布において、特定元素の最大ピーク位置で、フッ素が検出されることを特徴とする請求項1記載の表面処理蛍光体。
【請求項3】
表面処理層は、最表面に向かって順に、フッ化物層、及び、特定元素の酸化物を含有する酸化物層が存在することを特徴とする請求項1記載の表面処理蛍光体。
【請求項4】
蛍光体は、アルカリ土類金属を含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の表面処理蛍光体。
【請求項5】
蛍光体は、アルカリ土類金属を含有するシリケート系蛍光体からなることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の表面処理蛍光体。
【請求項6】
蛍光体は、下記一般式(1)で示されるシリケート系蛍光体からなることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の表面処理蛍光体。
(Sr1−xMx)ySiO5:Eu2+ (1)
式中、MはBa、Ca、Mg及びZnからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、0≦x<1.0であり、2.6≦y≦3.3である。
【請求項7】
蛍光体は、下記一般式(2)で示されるシリケート系蛍光体からなることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の表面処理蛍光体。
(Sr1−xMx)ySiO5:Eu2+D (2)
式中、MはBa、Ca、Mg及びZnからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、DはF、Cl及びBrからなる群より選択されるハロゲンアニオンであり、0≦x<1.0であり、2.6≦y≦3.3である。
【請求項8】
純水100重量部中に、蛍光体0.1重量部を10分間浸漬した場合における、水の導電率が100mS/m以下であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の表面処理蛍光体。
【請求項9】
純水100重量部中に、蛍光体0.1重量部を10分間浸漬した場合における、ケイ素の溶出量が50ppm以下であることを特徴とする請求項5、6又は7記載の表面処理蛍光体。
【請求項10】
純水100重量部中に、蛍光体0.1重量部を10分間浸漬した場合における、ストロンチウムの溶出量が200ppm以下であることを特徴とする請求項6又は7記載の表面処理蛍光体。
【請求項11】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載の表面処理蛍光体と、エポキシ樹脂及び/又はシリコーン樹脂を含有することを特徴とする蛍光体含有樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載の表面処理蛍光体が、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート及びポリカーボネート及び環状オレフィン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂に分散されてなることを特徴とする波長変換樹脂樹脂複合体。
【請求項13】
請求項12記載の波長変換複合体をシート状にしてなることを特徴とする波長変換シート。
【請求項14】
請求項12記載の波長変換複合体、又は、請求項13記載の波長変換シートを構成部材として用いることを特徴とする光電変換装置。
【請求項15】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載の表面処理蛍光体を用いてなることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項16】
LEDチップと、前記LEDチップを囲繞する樹脂フレームと、樹脂フレームが形成する凹部に充填される蛍光体層を備えるLED発光装置であって、前記蛍光体層が請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載の表面処理蛍光体と封止樹脂とを含有することを特徴とするLED発光装置。
【請求項17】
温度60℃、相対湿度90%、電流20mAの条件で1000時間通電した後の光度保持率が80%以上であることを特徴とする請求項16記載のLED発光装置。
【請求項18】
温度121℃、相対湿度100%環境下で72時間保持した後の光度保持率が50%以上であることを特徴とする請求項16記載のLED発光装置。
【請求項19】
請求項16、17又は18記載のLED発光装置を構成部材として用いることを特徴とする液晶表示素子バックライト。
【請求項20】
請求項16、17又は18記載のLED発光装置を構成部材として用いることを特徴とする画像表示装置。
【請求項21】
請求項16、17又は18記載のLED発光装置を構成部材として用いることを特徴とする照明装置。
【請求項22】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載の表面処理蛍光体を製造する方法であって、
蛍光体を特定元素とフッ素とを含有する錯体イオンを含む溶液に分散し、接触させることにより表面処理層を形成する工程を有することを特徴とする表面処理蛍光体の製造方法。
【請求項23】
特定元素とフッ素とを含有する錯体イオンが、AF62−(A:周期律表第3〜6族の元素から選択される少なくとも1種の特定元素)であることを特徴とする請求項22記載の表面処理蛍光体の製造方法。
【請求項24】
表面処理層を形成する工程において、更にホウ酸を添加することを特徴とする請求項22又は23記載の表面処理蛍光体の製造方法。
【図2】
【図4】
【図6】
【図8】
【図10】
【図13】
【図15】
【図17】
【図19】
【図21】
【図1】
【図3】
【図5】
【図7】
【図9】
【図11】
【図12】
【図14】
【図16】
【図18】
【図20】
【図4】
【図6】
【図8】
【図10】
【図13】
【図15】
【図17】
【図19】
【図21】
【図1】
【図3】
【図5】
【図7】
【図9】
【図11】
【図12】
【図14】
【図16】
【図18】
【図20】
【公開番号】特開2012−31425(P2012−31425A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225212(P2011−225212)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【分割の表示】特願2011−513560(P2011−513560)の分割
【原出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【分割の表示】特願2011−513560(P2011−513560)の分割
【原出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]