説明

表面処理装置および表面処理方法

【課題】カップリング剤の変質や、被処理物へのミストの付着を防止しつつ、被処理物に対して均一なカップリング剤の被膜を効率よく成膜可能な表面処理装置および表面処理方法を提供すること。
【解決手段】表面処理装置1は、被処理物9を収納し、密閉構造を備える処理容器2と、処理容器2内を減圧する減圧ポンプ(減圧手段)3と、処理容器2内にカップリング剤を含む液状原料を供給する原料供給機構(液状原料供給手段)4とを有している。そして、処理容器2内に被処理物9を収納し、処理容器2内を減圧した後、減圧状態で封じ切りを行う。次いで、原料供給機構4により、処理容器2内に液状原料8を供給する。これにより、供給された液状原料8は気化し、その気化物が処理容器2内に拡散することで、被処理物9の表面にカップリング剤の被膜が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理装置および表面処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコンウエハー、石英基板等の無機材料の表面に、シランカップリング剤のような有機材料からなる被膜を形成する技術は、無機材料の表面改質の目的から、多くの産業分野で利用されている。例えば、インクジェット記録ヘッドのノズル表面には、インクの付着を防止するため、インクに対して撥液性を有するシランカップリング剤の被膜を形成することが行われる。
【0003】
また、シリコンウエハーと有機絶縁層との密着性を高める目的でも、シランカップリング剤が用いられる。この場合、シリコンウエハー上にシランカップリング剤の被膜を形成した後、その上に有機材料を塗布し、固化させることで、シリコンウエハーに密着した有機絶縁層が形成される。
このようなシランカップリング剤の被膜を形成する場合、例えば、被処理物をシランカップリング剤の蒸気に曝す方法が用いられる(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
特許文献1に記載の方法では、まず、ガラス製のデシケーターの底に液状のシランカップリング剤を溜め、その上方に被処理物を置く。そして、デシケーターを密閉し、デシケーター内を減圧した後、デシケーターを100℃まで加熱し、シランカップリング剤を蒸発させる。これにより、被処理物の表面にシランカップリング剤の被膜が形成される。
しかしながら、この方法では、デシケーター内に液状のシランカップリング剤を溜めた途端に、シランカップリング剤が空気中の水分と反応し、凝集が生じる。その結果、デシケーターの蓋を閉める前にシランカップリング剤が変質してしまう。
【0005】
また、デシケーター内に液状のシランカップリング剤が溜められた状態でデシケーター内の減圧を行うことになるため、減圧開始直後からシランカップリング剤の蒸発が始まり、減圧ポンプの稼働中も蒸発が続く。このため、減圧ポンプの内部に大量のシランカップリング剤が付着してしまう。その結果、減圧ポンプの故障が多発したり、メンテナンスの頻度が極めて多くなるという問題を伴っていた。
【0006】
一方、シランカップリング剤の被膜を形成する別の方法として、例えば、密閉されたチャンバー内にシランカップリング剤のガスを導入する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
特許文献2に記載の方法では、予めシランカップリング剤を気化させて原料ガスとし、これを減圧したチャンバー内に導入する。ところが、原料ガスの導入の際、導入された原料ガスは一気に減圧雰囲気に曝されるため、断熱膨張が起こって原料ガスが凝縮し、ミスト化する。その結果、被処理物にはシランカップリング剤のミストが付着してしまい、均一な被膜の形成が妨げられる。
また、このミストは、原料ガスの導入管の内壁にも付着するため、原料ガス供給装置に故障が発生したり、度々メンテナンスを行う必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−70114号公報
【特許文献2】特開2006−231134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、カップリング剤の変質や、被処理物へのミストの付着を防止しつつ、被処理物に対して均一なカップリング剤の被膜を効率よく成膜可能な表面処理装置および表面処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の表面処理装置は、被処理物の表面にカップリング剤の被膜を形成する表面処理装置であって、
前記被処理物を収納し得る気密性の処理容器と、
前記処理容器内を減圧する減圧手段と、
減圧状態にある前記処理容器内に、カップリング剤を含む液状原料を供給する液状原料供給手段と、を有することを特徴とする。
これにより、カップリング剤の変質や、被処理物へのミストの付着を防止しつつ、被処理物に対して均一なカップリング剤の被膜を効率よく成膜可能な表面処理装置が得られる。
【0010】
本発明の表面処理装置では、前記液状原料供給手段は、
前記処理容器の外側に設けられ、前記液状原料を貯留する原料容器と、
前記原料容器と前記処理容器とを接続する配管と、
前記配管を介して、減圧状態にある前記原料容器内に前記液状原料を押し出す押出機構と、を有するものであることが好ましい。
これにより、前記液状原料供給手段は、必要な量の液状原料を必要なときに速やかに供給することができるので、成膜の均一性を高めることができる。
【0011】
本発明の表面処理装置では、前記原料容器および前記押出手段は、シリンダーおよび前記シリンダー内を摺動するピストンで構成されていることが好ましい。
これにより、液状原料を供給する操作をより簡単に行うことができる。
本発明の表面処理装置では、前記液状原料供給手段は、前記処理容器内に設けられ、前記液状原料を貯留する原料容器を有しており、
前記原料容器は、前記処理容器内の環境が所定の条件を満たしたときに、自発的に容器を開放する開閉弁を備えたものであることが好ましい。
これにより、圧力や温度といった処理容器内の環境を単に変化させるだけで、原料容器の封止状態が解除され、液状原料を処理容器内に気化させることができる。したがって、液状原料を外気に曝すことなく、処理容器内に容易に供給することができる。
【0012】
本発明の表面処理装置では、前記原料容器は、その壁部の少なくとも一部が、前記処理容器の圧力が所定の値を下回ったとき、前記原料容器と前記処理容器との圧力差によって破れるよう構成されており、当該部分が前記開閉弁として機能することが好ましい。
これにより、処理容器内を単に減圧するのみで、原料容器の封止状態が解除され、液状原料を処理容器内に気化させることができる。したがって、液状原料を外気に曝すことなく、処理容器内に容易に供給することができる。
【0013】
本発明の表面処理装置では、前記液状原料供給手段は、前記処理容器内に供給された前記液状原料を加熱する加熱手段を有しており、
前記原料容器は、その壁部の少なくとも一部が熱により破れるよう構成されており、当該部分が前記開閉弁として機能することが好ましい。
これにより、原料容器を単に加熱するのみで、原料容器の壁部の一部が破れて封止状態が解除され、液状原料を処理容器内に気化させることができる。したがって、液状原料を外気に曝すことなく、処理容器内に容易に供給することができる。
【0014】
本発明の表面処理装置では、前記原料容器は、上方に開口部を有する金属製の容器本体と、前記開口部を覆う樹脂フィルムと、で構成されていることが好ましい。
これにより、処理容器内の環境を変化させた際、樹脂フィルムが自発的に破れることを利用して、液状原料を外気に曝すことなく、処理容器内に容易に供給することができる。
本発明の表面処理装置では、前記液状原料供給手段は、前記原料容器の前記開閉弁近傍に設けられたミストトラップを備えていることが好ましい。
これにより、気化した液状原料が被処理物に直接向かうことが防止され、仮に突発的に大量の液状原料が気化したとしても、それが被処理物に付着するのを防止することができる。その結果、形成される被膜の膜厚が不均一になるのを防止することができる。
【0015】
本発明の表面処理方法は、被処理物の表面にカップリング剤の被膜を形成する表面処理方法であって、
減圧下にある前記被処理物の周囲に、カップリング剤を含む液状原料を供給することを特徴とする。
これにより、カップリング剤の変質や、被処理物へのミストの付着を防止しつつ、被処理物に対して均一なカップリング剤の被膜を効率よく成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の表面処理装置の第1実施形態を模式的に示す図(正面図)である。
【図2】防着板(ミストトラップ)の他の構成例を示す図である。
【図3】本発明の表面処理方法の第1実施形態を説明するための図(正面図)である。
【図4】本発明の表面処理方法の第1実施形態を説明するための図(正面図)である。
【図5】本発明の表面処理装置の第2実施形態が備える原料供給機構を模式的に示す図(断面図)である。
【図6】本発明の表面処理方法の第2実施形態を説明するための図(正面図)である。
【図7】本発明の表面処理方法の第3実施形態を説明するための図(正面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の表面処理装置および表面処理方法を、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
<第1実施形態>
まず、本発明の表面処理装置および表面処理方法の第1実施形態について説明する。
(表面処理装置)
本発明の表面処理装置は、被処理物の表面にカップリング剤の被膜を形成するという表面処理を行う装置である。
【0018】
図1は、本発明の表面処理装置の第1実施形態を模式的に示す図(正面図)である。
図1に示す表面処理装置1は、被処理物9を収納し、密閉構造を備える処理容器2と、処理容器2内を減圧する減圧ポンプ(減圧手段)3と、処理容器2内にカップリング剤を含む液状原料を供給する原料供給機構(液状原料供給手段)4とを有している。以下、各部について詳細に説明する。
【0019】
処理容器2は、密閉構造を備え、被処理物9を収納可能な容器であれば、いかなるものでもよい。また、処理容器2は、減圧ポンプ3による内部の減圧に耐え得る剛性を有し、かつ、減圧状態を維持する高い気密性を有している。
処理容器2の構成材料としては、例えば、各種金属材料、各種ガラス材料、各種樹脂材料等が挙げられる。
【0020】
また、処理容器2には、開閉可能な開閉扉(図示せず)が設けられている。この開閉扉を介して被処理物9を容易に出し入れすることができる。
また、処理容器2内には、複数個の被処理物9を収納するラック21が設けられている。ラック21は、処理容器2の底面に載置された支持台211と、その上に一定の間隔で水平に載置された複数枚の棚板212とで構成されており、各棚板212上には被処理物9が載置し得るようになっている。
【0021】
被処理物9は、このラック21に収納された状態で、前記被膜の成膜に供される。
減圧ポンプ3は、処理容器2の内部を排気して圧力を低下させる手段であり、例えば、ロータリーポンプ、油拡散ポンプ、ターボ分子ポンプ等が用いられる。
減圧ポンプ3と処理容器2との間は、配管31で接続されており、配管31の途中には配管31を開閉するバルブ32が設けられている。
原料供給機構4は、処理容器2内にカップリング剤を含む液状原料を供給する手段である。この原料供給機構4は、処理容器2内が減圧状態にあるとき、処理容器2内に直接、液状原料を供給するよう構成されている。
【0022】
本発明の表面処理装置1がこのような原料供給機構4を備えていることにより、外気に曝すことなく、液状原料を減圧状態にある処理容器2内に供給することができる。これにより、液状原料の吸湿や加水分解等を抑制し、カップリング剤が変質するのを防止することができる。
また、処理容器2内に供給するのは、気化した原料ではなく液状の原料であるため、断熱膨張に伴う原料のミスト化も発生しない。このため、ミストが被処理物9や原料の導入管等の設備に付着することに伴う問題の発生を防止することができる。
【0023】
図1に示す原料供給機構4は、液状原料8を押し出す押出機構41と、押出機構41と処理容器2との接続する配管42と、を有している。押出機構41は、液状原料8を貯留するシリンダー(原料容器)411と、シリンダー41内を摺動するピストン412とで構成されており、ピストン412を押すことでシリンダー411内に貯留された液状原料8を、配管42を介して処理容器2内に押し出すことができる。このような押出機構41を用いることで、必要な量の液状原料8を必要なときに速やかに供給することができる。これにより、成膜の均一性を高めることができる。また、シリンダー411とピストン412とを用いることで、液状原料8の供給操作がより簡単に行える。
【0024】
なお、配管42の端部のうち、押出機構41の反対側にある端部は、処理容器2内に突出しており、その先端部の下方には、受け皿43が設けられている。この受け皿43には、配管42を介して供給された液状原料8が一時的に溜まる。溜まった液状原料8は、供給されるとともに気化し、処理容器2内に拡散する。拡散した液状原料8の気化物は、被処理物9の表面に付着、堆積し、被膜が形成される。
【0025】
また、受け皿43には、図示しないヒーター(加熱手段)が内蔵されており、ヒーターによって受け皿43が加熱されている。これにより、液状原料8の気化が促進されるとともに、その気化量が液状原料8の組成や気温等に左右されないよう、制御することができる。なお、加熱手段は、ヒーターに限定されず、赤外線照射手段、超音波振動熱発生手段等を用いることもできる。
【0026】
また、受け皿43の上方には、受け皿43の開口部を覆うように、ほぼ水平に設けられた平板状の防着板(ミストトラップ)44が載置されている。この防着板44は、受け皿43の開口部を覆うように配置されていることから、受け皿43から気化した液状原料8が直接、被処理物9に向かうことが防止される。その結果、仮に突発的に多量の液状原料8が気化したとしても、それが被処理物9に付着して、形成される被膜の膜厚が不均一になるのを防止することができる。
なお、防着板44の構成は、図1に示す構成に限定されない。
【0027】
図2は、防着板44の他の構成例を示す図である。
図2(a)に示す防着板44aは、受け皿43の上方のみでなく側方も覆うように、平板状の防着板の左右の端部が下方に折り曲げられた構造になっている。なお、防着板44aの折り曲げ部と受け皿43の縁部との間には、わずかな隙間ができるよう構成されている。その結果、受け皿43に溜まった液状原料8の気化物は、この隙間45を通過することで、被処理物9に向かうことができる。このとき、隙間45を気化物が通過する際、図1に比べて、気化物と防着板44aとの接触機会が格段に増えるため、図2(a)に示す防着板44aでは、多量に発生した液状原料8の気化物が再液化したものを捕らえることができる。すなわち、防着板44aを用いることで、被処理物9の表面に形成される被膜の膜厚を均一化することができる。
なお、図示しないが、防着板44aの紙面手前側の端部および紙面奥側の端部は、それぞれ処理容器2の内壁面に当接している。よって、液状原料8の気化物は、隙間45しか通過することができず、このため、前述した効果が確実に発揮されることとなる。
【0028】
図2(b)に示す防着板44bは、防着板44aの構造を多重化したものであり、防着板44aとほぼ同様の構造を有する防着板が、受け皿43およびその上に配置された防着板44aの左右に2つずつ配置されている。
これらの防着板のうち、左方の2つは、平板状の防着板の左右の端部が下方に折り曲げられてなる第1の防着板441と、上方に折り曲げられてなる第2の防着板442である。このうち、第1の防着板441は、防着板44aの左側に配置されており、一方、第2の防着板442は、受け皿43の左側に配置されている。そして、第2の防着板442の右側の折り曲げ部は、防着板44aの内側に挿入され、左側の折り曲げ部は、第1の防着板441の内側の挿入されるよう配置されている。すなわち、第2の防着板442は、防着板44aの左側の折り曲げ部と、第1の防着板441の右側の折り曲げ部とを跨ぐよう配置されている。
【0029】
一方、受け皿43および防着板44aの右方に設けられた防着板についても、上記と同様になっている。すなわち、受け皿43および防着板44aの右方には、平板状の防着板の左右の端部が下方に折り曲げられてなる第1の防着板441と、上方に折り曲げられてなる第2の防着板442の2つの防着板が配置されており、第2の防着板442は、防着板44aの右側の折り曲げ部と、第1の防着板441の左側の折り曲げ部とを跨ぐように配置されている。
このような構造の防着板44bでは、つづら折れになった複雑な隙間45を通過しないと、液状原料8の気化物は防着板44bの外側に出ることができない。このため、気化物と防着板44bとの接触機会は、図2(a)の場合に比べてさらに増えることとなり、防着板が奏する効果がより顕著になる。
【0030】
図2(c)に示す防着板44cは、防着板44をスチールウールで構成した以外は、図1に示す防着板44と同様である。スチールウールを用いることにより、防着板44cの表面積が飛躍的に増加するため、前述した液状原料8の気化物と防着板44cとの接触機会が特に増加する。その結果、防着板が奏する効果がより顕著になる。
防着板44cには、スチールウール以外に、ガラスウール、ガラス織布、ガラス不織布、カーボン織布、カーボン不織布、セラミックス布等を用いることもできる。なお、これらについては、防着板44cを厚さ方向に透かして見たとき、反対側が透けて見えない程度の密度を有しているものが好ましい。そのような防着板44cであれば、液状原料8の気化物と防着板44cとの接触機会を確実に確保することができる。
【0031】
また、原料供給機構4の構成も、図1に示すものに限定されない。例えば、図1に示す押出機構41に代えて、樹脂製のバッグ、機械的または電気的なポンプ、ディスペンサー等を用いることもできる。
なお、電気的に駆動可能な押出機構41を用いる場合には、処理容器2内の圧力や温度等に応じて液状原料8を供給し得るよう、押出機構41を協調制御することができるようにしてもよい。この場合、表面処理装置1は、処理容器2内の圧力や温度を測定するセンサーと、センサーの測定値に応じて押出機構41の駆動を制御する制御部とを有している。これにより、被膜を形成するのに最適なタイミングで、処理容器2内に液状原料8を自動的に供給することができる。その結果、被膜の製造バラツキを抑え、歩留まりを高めることができる。例えば、処理容器2内の圧力を圧力センサーによってモニターし、処理容器2内に暴露しても液状原料8が変質しない程度まで圧力が低下したら、制御部の指示により押出機構41を駆動させるようにしてもよい。
また、図2において、原料供給機構4の配管42が防着板44a、44b、44cに干渉してしまう場合には、原料供給機構4の位置を紙面手前側または奥側に変更してもよい。
【0032】
(表面処理方法)
次に、本発明の表面処理装置の第1実施形態の動作(本発明の表面処理方法の第1実施形態)について説明する。
図3、4は、それぞれ本発明の表面処理方法の第1実施形態を説明するための図(正面図)である。
本実施形態では、[1]表面処理装置1の処理容器2内に被処理物9を収納し、処理容器2内を減圧した後、減圧状態で封じ切る工程と、[2]処理容器2内に液状原料8を供給する工程と、を経て被処理物9の表面にカップリング剤の被膜を形成する。以下、各工程について順次説明する。
【0033】
[1]まず、処理容器2の開閉扉を開け、ラック21に被処理物9を収納する。
次いで、開閉扉を閉じ、減圧ポンプ3を駆動して処理容器2内を減圧する(図3(a)参照)。このときの到達圧力は、10Pa以下であるのが好ましく、1Pa以下であるのがより好ましい。
また、処理容器2内を減圧するとともに、受け皿43に内蔵されたヒーターに通電し、受け皿43を加熱する。この際、受け皿43の加熱温度は、特に限定されないが、50〜200℃程度であるのが好ましく、70〜150℃程度であるのがより好ましい。
【0034】
次に、処理容器2内の圧力が十分に下がったところで、減圧ポンプ3と処理容器2との間に設けられたバルブ32を閉じる。これにより、処理容器2内が減圧状態で封じ切られる(図3(b)参照)。
本発明ではこのように、液状原料8の供給前に処理容器2と減圧ポンプ3とを切り離すため、減圧ポンプ3側に液状原料8の気化物が流れるおそれがない。このため、気化物を排気することによる減圧ポンプ3の故障が発生したり、頻繁なメンテナンスを強いられることがなく、被膜の形成が容易である。
【0035】
なお、液状原料8としては、カップリング剤を溶媒に溶解(分散)した溶液(分散液)が用いられる。
カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、ジルコニウムカップリング剤、アルミニウムカップリング剤等が挙げられるが、特にシランカップリング剤が好ましく用いられる。シランカップリング剤によれば、被処理物9の表面を確実に改質するとともに、その上にさらに被膜を形成する場合、その被膜との密着性を確実に高めることができる。
【0036】
シランカップリング剤としては、特に限定されないものの、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニル−トリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物が用いられる。
【0037】
また、溶媒(分散媒)としては、例えば、トルエン、キシレン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アセトン、クロロホルム、塩化メチレン、ベンゼン、各種アルコール類等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物が用いられる。
なお、溶液(分散液)中のカップリング剤の濃度は、特に限定されないが、0.05質量%以上5質量%以下程度であるのが好ましく、0.1質量%以上3質量%以下程度であるのがより好ましい。
【0038】
[2]次に、原料供給機構4により、処理容器2内に液状原料8を供給する(図4(c)参照)。具体的には、押出機構41のピストン412を押し、シリンダー411内に貯留された液状原料8を処理容器2内に押し出す。供給された液状原料8は、加熱された受け皿43に溜まり、そこから気化する。気化物は、受け皿43と防着板44との間の隙間45を通過して処理容器2内に拡散し、被処理物9の表面にも付着、堆積する。このようにして被処理物9の表面にカップリング剤の被膜が形成される。
【0039】
液状原料8の供給量は、受け皿43の大きさ(面積)や処理容器2の容積に応じて適宜設定されるが、例えば、0.1mL/min以上30mL/min以下程度とするのが好ましく、0.3mL/min以上20mL/min以下程度とするのがより好ましい。
その後、処理容器2内の開閉扉を開け、被処理物9を取り出す。これにより、表面処理を施した被処理物9を回収することができる。
【0040】
<第2実施形態>
(表面処理装置)
次に、本発明の表面処理装置および表面処理方法の第2実施形態について説明する。
図5は、本発明の表面処理装置の第2実施形態が備える原料供給機構を模式的に示す図(断面図)である。
【0041】
以下、第2実施形態について説明するが、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
図5に示す表面処理装置は、原料供給機構の構成が異なり、処理容器2の外側に配置した押出機構に代えて、処理容器2内に設けた原料容器81を用いるようにした以外は、第1実施形態と同様である。
【0042】
図5に示す原料供給機構4aは、処理容器2内に配置され、液状原料8を貯留する原料容器81と、原料容器81の上部に設けられた樹脂フィルム82とで構成されている。より具体的には、原料容器81は、上部に開口部811を有する有底容器であり、樹脂フィルム82は開口部811を塞ぐように、原料容器81に貼り付けられている。その結果、液状原料8は原料供給機構4a(原料容器81)の内部に封入された状態になっている。このため、液状原料8を外気(空気)に触れさせることなく、処理容器2内に運び込むことができる。
【0043】
原料供給機構4aに用いる樹脂フィルム82には、荷重を加えることで比較的容易に破れる程度の引張強度を有するものが好ましく用いられる。具体的には、荷重の大きさによって適宜選択されるものの、JIS K 7127で測定される引張強度が1MPa以上200MPa以下程度のものが好ましく、5MPa以上100MPa以下程度のものがより好ましい。引張強度が前記範囲内の樹脂フィルム82を用いることにより、原料容器81内の液状原料8が外気に触れるのを確実に防止しつつ、適度な荷重で容易に樹脂フィルム82を破ることができ、原料容器81内の液状原料8を気化させることができる。
【0044】
ところで、樹脂フィルム82に加える荷重は、いかなる方法で発生させたものでもよい。この荷重は、例えば、機械的に発生させた荷重であってもよいが、原料容器81の内外で生じる圧力差に伴う荷重であってもよい。このうち、前者の場合、例えば樹脂フィルム82の上方に針状体を配置しておき、処理容器2外からの操作で針状体が樹脂フィルム82上に落下し、樹脂フィルム82に荷重を加えることができる。一方、後者の場合、単に原料容器81の外部圧力を下げるだけで、前記圧力差が生じるため、別途荷重発生器等を用いることなく、樹脂フィルム82を容易に破ることができるという点で有用である。すなわち、樹脂フィルム82は、前記圧力差に伴って能動的(自発的)に開く開閉弁として機能する。
【0045】
なお、かかる観点から、処理容器2内に原料容器81を運び込む場合、その内部圧力を、樹脂フィルム82が破れない程度に大気圧より高めておけば、処理容器2内を減圧した際に前記圧力差をより拡張することができ、より速やかに樹脂フィルム82を破ることができる。
樹脂フィルム82の構成材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート等の包装用フィルムの素材に用いられる各種樹脂材料が挙げられる。
【0046】
処理容器2内に運び込まれた原料容器81は、受け皿43上に配置される。このとき、加熱された受け皿43の熱は、原料容器81に伝わり、原料容器81も加熱することができるので、その内部に収納された液状原料8の気化を容易に促進することができる。なお、かかる観点から、原料容器81は、耐熱性が高くかつ熱伝導性の高い材料で構成されているのが好ましく、かかる材料としては、例えば、ステンレス鋼、銅、チタン、アルミニウムのような各種金属材料、グラファイトのような各種炭素材料等が挙げられる。
なお、樹脂フィルム82は、圧力差で開閉する開閉弁、例えばダックビル弁等で代替することもできる。
【0047】
(表面処理方法)
次に、本発明の表面処理装置の第2実施形態の動作(本発明の表面処理方法の第2実施形態)について説明する。なお、ここでは、原料容器81の内外で生じる圧力差に伴う荷重によって樹脂フィルム82が破れるよう構成された原料供給機構4aを用いた場合を例に説明する。
【0048】
図6は、本発明の表面処理方法の第2実施形態を説明するための図(正面図)である。
本実施形態では、[1]表面処理装置1の処理容器2内に被処理物9を収納するとともに、原料供給機構4aを受け皿43上に配置する工程と、[2]処理容器2内を減圧した後、減圧状態で封じ切り、その後樹脂フィルム82が破れるまで減圧状態を維持する工程と、を経て被処理物9の表面にカップリング剤の被膜を形成する。以下、各工程について順次説明する。
【0049】
[1]まず、処理容器2内に被処理物9を収納する。それとともに、原料供給機構4aを受け皿43上に配置する。この際、受け皿43に内蔵されたヒーターには通電していてもよいが、通電していない方が好ましい。
[2]次に、減圧ポンプ3を駆動して処理容器2内を減圧する(図6(a)参照)。そして所定の圧力に達したら、減圧状態で処理容器2を封じ切る。このときの到達圧力は、前述した樹脂フィルム82の引張強度に応じて適宜設定される。具体的には、樹脂フィルム82が破れる圧力の直前まで減圧し、その圧力に到達したら、速やかに処理容器2を封じ切る。樹脂フィルム82が破れる圧力は、事前の実験等で把握しておくことができ、また、樹脂フィルム82の引張強度と面積から見積もることもできる。
【0050】
その後、処理容器2内を減圧状態で維持しておくと、経時的に樹脂フィルム82が塑性変形し、破れる(図6(b)参照)。これにより、原料供給機構4a内に収納された液状原料8が処理容器2内に暴露され、液状原料8の気化が開始される。気化物は、樹脂フィルム82の破れた箇所を通過して処理容器2内に拡散し、被処理物9の表面にも付着、堆積する。このようにして被処理物9の表面にカップリング剤の被膜が形成される。
【0051】
なお、受け皿43に内蔵されたヒーターに通電し、加熱する場合、処理容器2内を封じ切った後に行うのが好ましい。これにより、原料供給機構4a内の液状原料8の気化が促進され、内部圧力が上昇する。その結果、原料供給機構4aの内外の圧力差が拡張され、樹脂フィルム82がより速やかに破れることになる。また、液状原料8が加熱される時間も短くすることができるので、熱による液状原料8の変質・劣化を抑制することもできる。
以上のような第2実施形態によれば、液状原料8を外気に触れさせることなく、かつ、単に処理容器2内を減圧するのみで押出機構等を用いることなく、処理容器2内に液状原料8の気化物を拡散させることができる。このため、均一でかつ品質の高いカップリング剤の被膜を、容易に形成することができる。
【0052】
<第3実施形態>
(表面処理装置)
次に、本発明の表面処理装置および表面処理方法の第3実施形態について説明する。
以下、第3実施形態について説明するが、第2実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
【0053】
本実施形態に係る表面処理装置は、原料供給機構の構成(樹脂フィルム)が一部異なる以外は、第2実施形態に係る表面処理装置1と同様である。
本実施形態における樹脂フィルムには、熱の影響で溶解または収縮等の形状変化を伴うものが用いられる。すなわち、本実施形態における原料供給機構は、樹脂フィルムが熱の影響で変形することにより、原料容器を覆う機能を失い、その結果、原料容器内に収納された液状原料が処理容器内に暴露されるよう構成されている。
【0054】
したがって、本実施形態における樹脂フィルムとしては、耐熱性の低い樹脂フィルムが特に好ましく用いられる。具体的には、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、酢酸セルロース等が用いられる。
なお、気密性を有し、かつ熱の影響で形状変化を伴う材質であれば、樹脂フィルムに限定されない。例えば、加工を施した紙、布等であってもよい。
【0055】
(表面処理方法)
次に、本発明の表面処理装置の第3実施形態の動作(本発明の表面処理方法の第3実施形態)について説明する。
図7は、本発明の表面処理方法の第3実施形態を説明するための図(正面図)である。
本実施形態では、[1]表面処理装置1の処理容器2内に被処理物9を収納するとともに、原料供給機構4aを受け皿43上に配置する工程と、[2]処理容器2内を減圧した後、減圧状態で封じ切る工程と、[3]受け皿43を加熱する工程と、を経て被処理物9の表面にカップリング剤の被膜を形成する。以下、各工程について順次説明する。
【0056】
[1]まず、処理容器2内に被処理物9を収納する。それとともに、原料供給機構4aを受け皿43上に配置する。この際、受け皿43に内蔵されたヒーターには通電しない。
[2]次に、減圧ポンプ3を駆動して処理容器2内を減圧する(図7(a)参照)。そして所定の圧力に達したら、減圧状態で処理容器2を封じ切る。このときの到達圧力は、樹脂フィルム82が破れる直前の圧力とする。
【0057】
[3]次いで、受け皿43に内蔵されたヒーターに通電し、樹脂フィルム82を熱変形させる(図7(b)参照)。これにより、原料供給機構4a内に収納された液状原料8が処理容器2内に暴露され、液状原料8の気化が開始される。気化物は、樹脂フィルム82の破れた箇所を通過して処理容器2内に拡散し、被処理物9の表面にも付着、堆積する。このようにして被処理物9の表面にカップリング剤の被膜が形成される。
【0058】
以上のような第3実施形態によれば、液状原料8を外気に触れさせることなく、かつ、単に原料供給機構4aを加熱するのみで押出機構等を用いることなく、処理容器2内に液状原料8の気化物を拡散させることができる。このため、均一でかつ品質の高いカップリング剤の被膜を、容易に形成することができる。
以上、本発明の表面処理装置および表面処理方法を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
例えば、本発明の表面処理装置では、各部の構成は、同様の機能を発揮する任意の構成のものに置換することができ、また、任意の構成を付加することもできる。
また、本発明の表面処理方法では、前記実施形態の構成に限定されず、任意の目的の工程が1または2以上追加されていてもよい。
また、カップリング剤の被膜を成膜した後、さらにその上に別の被膜を成膜する場合、双方の被膜の成膜を表面処理装置内で行うようにすれば、成膜工程の簡略化が図られるとともに、成膜中、各被膜が外気に触れないので、被膜の変質・劣化を確実に防止することができる。
【符号の説明】
【0060】
1……表面処理装置 2……処理容器 21……ラック 211……支持台 212……棚板 3……減圧ポンプ(減圧手段) 31……配管 32……バルブ 4、4a……原料供給機構 41……押出機構 411……シリンダー(原料容器) 412……ピストン 42……配管 43……受け皿 44、44a、44b、44c……防着板(ミストトラップ) 441……第1の防着板 442……第2の防着板 45……隙間 8……液状原料 81……原料容器 811……開口部 82……樹脂フィルム 9……被処理物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物の表面にカップリング剤の被膜を形成する表面処理装置であって、
前記被処理物を収納し得る気密性の処理容器と、
前記処理容器内を減圧する減圧手段と、
減圧状態にある前記処理容器内に、カップリング剤を含む液状原料を供給する液状原料供給手段と、を有することを特徴とする表面処理装置。
【請求項2】
前記液状原料供給手段は、
前記処理容器の外側に設けられ、前記液状原料を貯留する原料容器と、
前記原料容器と前記処理容器とを接続する配管と、
前記配管を介して、減圧状態にある前記原料容器内に前記液状原料を押し出す押出機構と、を有するものである請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項3】
前記原料容器および前記押出手段は、シリンダーおよび前記シリンダー内を摺動するピストンで構成されている請求項2に記載の表面処理装置。
【請求項4】
前記液状原料供給手段は、前記処理容器内に設けられ、前記液状原料を貯留する原料容器を有しており、
前記原料容器は、前記処理容器内の環境が所定の条件を満たしたときに、自発的に容器を開放する開閉弁を備えたものである請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項5】
前記原料容器は、その壁部の少なくとも一部が、前記処理容器の圧力が所定の値を下回ったとき、前記原料容器と前記処理容器との圧力差によって破れるよう構成されており、当該部分が前記開閉弁として機能する請求項4に記載の表面処理装置。
【請求項6】
前記液状原料供給手段は、前記処理容器内に供給された前記液状原料を加熱する加熱手段を有しており、
前記原料容器は、その壁部の少なくとも一部が熱により破れるよう構成されており、当該部分が前記開閉弁として機能する請求項4に記載の表面処理装置。
【請求項7】
前記原料容器は、上方に開口部を有する金属製の容器本体と、前記開口部を覆う樹脂フィルムと、で構成されている請求項5または6に記載の表面処理装置。
【請求項8】
前記液状原料供給手段は、前記原料容器の前記開閉弁近傍に設けられたミストトラップを備えている請求項4ないし7のいずれかに記載の表面処理装置。
【請求項9】
被処理物の表面にカップリング剤の被膜を形成する表面処理方法であって、
減圧下にある前記被処理物の周囲に、カップリング剤を含む液状原料を供給することを特徴とする表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−256451(P2011−256451A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133679(P2010−133679)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】