説明

表面処理装置

【課題】被処理物に処理流体を噴き付けて表面処理する装置において、処理流体が処理領域から外に漏れたり、外部の雰囲気ガスが処理領域に入ったりするのを効率的に防止する。
【解決手段】処理ヘッド10の被処理物Wと対向すべき側部40に、処理領域80の画成部41と、その両側の処理外領域81,82の画成部42,43とを設ける。第1処理外領域81と処理領域80との境に処理流体の噴き出し口50aを形成し、処理領域80と第2処理外領域82との境に吸い込み口50eを形成する。検出手段70にて第1処理外領域81における処理領域80に近い箇所と遠い箇所との差圧を検出する。吸い込み流量調節手段54にて、上記検出差圧がゼロになるように吸い込み口50eからの吸い込み流量を調節する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板や半導体ウェハ等の被処理物に処理流体を噴き付けることにより、エッチング、洗浄、成膜、表面改質等の表面処理を行なう装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の表面処理装置として、例えば、処理ヘッドを被処理物と対向させ、両者間に処理領域となる空間を画成し、この処理領域に処理ヘッドから処理ガスを供給することにより、処理ガスを被処理物に接触させ、表面処理するものが知られている(例えば特許文献1参照)。処理領域の外側には不活性ガスの吹き出し部を設け、処理領域の周りを不活性カーテンで囲むようにしている。これにより、処理ガスが外に漏れたり、外部の雰囲気ガスが処理領域に入ったりするのを防止できる。
【特許文献1】特開2002−151494号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の不活性ガスカーテンは、処理領域からの処理ガスの漏れや外部からのガス侵入を防止するのに有効であるが、不活性ガスのコストがかさむ。また、排出ガス量が増え、ガス無害化設備や吸引装置等への負担が大きくなる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記問題点を解決するために、本発明は、被処理物に処理流体を接触させて前記被処理物の表面を処理する装置であって、
前記被処理物と対向すべき側部を有し、この対向側部の一部が処理領域を画成し、他の一部が前記処理領域に連なる処理外領域(第1処理外領域)を画成し、さらに前記処理流体を前記処理領域へ噴き出す噴き出し口と、前記処理領域から流体を排出する排出口とが設けられた処理ヘッドと、
前記処理外領域の流体の流れを検出する流れ検出手段(前記流れと相関性を有する物理量を検出する流れ関連量検出手段)と、
前記検出手段の検出値に基づいて、前記噴き出し口からの噴き出し流量又は前記排出口からの排出流量を調節する流量調節手段と、
を備えたことを第1の特徴とする。
これによって、処理外領域の流体の流れ(流向など)を制御できる。したがって、不活性ガスカーテンが不要になり、不活性ガスためのコストを省くことができるとともに、排出する流体量を抑えて無害化設備や吸引装置等の負担を軽減できる。
【0005】
前記処理外領域の流体の流れと相関性を有する物理量としては、前記処理外領域の流向、流速、流量の他、差圧(圧力分布)、温度差(温度分布)、特定の被検物質の濃度差(濃度分布)などが挙げられる。
前記流れ関連量検出手段としては、流向計、流速計、流量計、差圧検出器、媒体添加部付きの媒体検出器(たとえば加熱部付きの温度差式の流れ検出器)などが挙げられる。
流速計としては、例えば音波流速計(超音波流速計を含む)、レーザ流速計を用いるとよい。
音波流速計は、例えば、前記処理外領域部における前記処理領域に近い箇所と遠い箇所とにそれぞれ配置された音波センサを含む。近い箇所の音波センサを発信側とし、遠い箇所の音波センサを受信側としたときの音波の伝播時間と、遠い箇所の音波センサを発振側とし、近い箇所の音波センサを受信側としたときの音波の伝播時間とに基づいて、前記処理外領域における流体の流速を把握することができる。
レーザ流速計は、例えば、2つのレーザ光路で前記(第1)処理外領域内に干渉縞を形成し、この干渉縞を横切る粒子の有無を観測するものである。前記粒子の動きは、前記(第1)処理外領域内の流体の流れに対応する。
差圧検出器は、前記処理外領域における前記処理領域に近い箇所と遠い箇所との差圧を検出するようにするとよい。この差圧は、前記(第1)処理外領域内の流体の流れ状態に相関する物理量である。
【0006】
前記処理外領域の一箇所の流体に前記物理量検出用の媒体を添加し、前記添加箇所を挟んで前記処理領域に近い箇所と遠い箇所で前記媒体を検出することにしてもよい。
前記検出手段が、前記処理外領域の一箇所の流体に前記媒体を添加する添加部と、前記添加箇所を挟んで前記処理領域に近い箇所と遠い箇所で前記媒体を検出する検出部とを含んでいてもよい。
これにより、処理外領域の流体の流れが小さくても確実に検出することができ、前記流量調節の正確度を高めることができる。
【0007】
前記検出部が、前記物理量として前記2つの検出箇所における媒体量の差を検出することが好ましい。
これにより、処理外領域の流体の流れが極めて小さくても確実に検出することができ、前記流量調節の正確度を一層高めることができる。
【0008】
前記媒体は、表面処理に影響を与えないものであることが好ましい。
前記媒体の添加量は、微少であることが好ましく、前記添加箇所は局所的であるのが好ましい。
前記媒体としては、特定の被検物質や熱が挙げられる。これに対応する物理量(媒体量の差)としては、前記被検物質の濃度差や温度差が挙げられる。前記物理量として各検出箇所での被検物質の濃度や温度を用いてもよい。
前記添加部が、前記媒体として被検物質を前記添加箇所に添加する被検物質添加部であり、前記検出部が、前記物理量として前記2つの検出箇所の流体中の前記被検物質の濃度差を検出する濃度差検出部であってもよい。
前記被検物質は、前記処理流体の構成成分とは異なることが好ましく、濃度検出が容易であることが好ましく、前記処理流体及び被処理物との反応性を有しないことが好ましい。
前記添加部が、前記媒体として熱を前記添加箇所に付与する加熱部であり、前記検出部が、前記物理量として前記2つの検出箇所の流体の温度差を検出する温度差検出部であっていてもよい。
前記温度差式の流れ検出器は、前記処理外領域内の一箇所を加熱する加熱器と、この加熱器の加熱箇所の両側の温度差を検出する熱電対等の温度差検出器とを含むのが好ましい。前記処理外領域内に流れが形成されている場合、この流れ方向に沿って加熱箇所より下流側が上流側より高温になり、その温度差が温度差検出器にて検出される。
前記添加箇所が、前記2つの検出箇所のちょうど中間に位置することが好ましい。これにより、検出の正確度を高めることができる。
【0009】
前記被処理物を、前記処理ヘッドに対し前記処理領域と前記処理外領域とを横切る方向へ相対移動させる移動手段を、さらに備えるのが好ましい。
これによって、被処理物を広範囲にわたって処理することができる。
【0010】
前記流量調節手段が、前記流れと相関性を有する物理量(前記検出手段の検出値)がゼロになるように前記調節を行なうことにしてもよい。
これによって、処理外領域内に流体の流れが形成されるのを防止でき、処理流体が処理領域から処理外領域を経て外に漏れたり、外部の雰囲気ガスが処理外領域を経て処理領域に入って来たりするのを確実に防止することができる。
一方、前記被処理物と処理ヘッドの相対移動の速度が大きい場合、被処理物の表面上では流体摩擦(粘性)によってガスが被処理物に追従し巻き込みが起きる一方、前記処理ヘッド側では上記の巻き込みが起きず、前記検出手段の検出値に反映してこないという現象が起き得る。
そこで、前記流量調節手段は、前記流れと相関性を有する物理量が前記相対移動の速度に応じた値(好ましくは前記相対移動の速度に比例した値)になるように、前記調節を行なうことにしてもよい。
これによって、被処理物の表面での流体摩擦によるガスの巻き込みを相殺するように流量調節することができる。
【0011】
前記処理外領域の厚さはなるべく小さくし、圧力損失がなるべく大きくなるようにするのが、好ましい。前記処理外領域の厚さは、前記処理領域の厚さより十分小さいことが好ましく、例えば前記処理領域の厚さの数分の1〜十数分の1であることが好ましい。
前記処理ヘッドの前記処理外領域画成部が、前記処理領域画成部より前記被処理物との対向側へ突出されていることが好ましい。
これによって、前記処理外領域の圧力損失を大きくでき、処理流体の漏れや外部からの雰囲気ガスの侵入をより確実に防止することができる。
前記処理外領域は、前記処理通路の例えば2倍程度の長さを有しているのが好ましい。
【0012】
前記排出口には該排出口から流体を吸い込む吸引手段が接続されているのが好ましい。
前記流量調節手段が、前記排出口からの吸い込み流量を調節するようになっているのが好ましい。
これによって、処理流体の噴き出し流量を一定に維持しつつ、処理外領域の圧力状態を制御することができる。また、噴き出し口から処理領域に噴き出された処理流体が排出口へ確実に向かって流れるようにすることができる。
【0013】
また、本発明は、被処理物に処理流体を接触させて前記被処理物の表面を処理する装置であって、
前記被処理物と対向すべき側部を有し、この対向側部が、処理領域を画成する処理領域画成部と、前記処理領域の一端に連なる第1処理外領域を画成する第1処理外領域画成部と、前記処理領域の他端に連なる第2処理外領域を画成する第2処理外領域画成部とを含み、さらに前記処理流体を前記処理領域へ噴き出す噴き出し口と、前記処理領域から流体を吸い込む吸い込み口とが設けられた処理ヘッドと、
前記第1処理外領域の流体の流れを検出する流れ検出手段(前記流れと相関性を有する物理量を検出する流れ関連量検出手段)と、
前記検出手段の検出値に基づいて、前記噴き出し口からの噴き出し流量又は前記吸い込み口からの吸い込み流量を調節する流量調節手段と、
を備えたことを第2の特徴とする。
これによって、第1処理外領域内に流体の流れが形成されるのを防止でき、処理流体が処理領域から第1処理外領域を経て外に漏れたり、外部の雰囲気ガスが第1処理外領域を経て処理領域に入って来たりするのを防止することができる。
【0014】
前記第2の特徴において、前記処理ヘッドの前記噴き出し口が、前記処理領域画成部と前記第1処理外領域画成部との境に配置されているのが好ましく、前記吸い込み口が、前記処理領域画成部と前記第2処理外領域画成部との境に配置されていることが好ましい。
これによって、処理領域内において処理流体が第1処理外領域の側から第2処理外領域の側へ流れるようにすることができる。そして、外部ガスが処理領域の上流端に流入したり、処理流体が処理領域の上流端から外へ漏れたりするのを防止することができる。
【0015】
前記第1処理外領域の厚さはなるべく小さくし、圧力損失がなるべく大きくなるようにするのが好ましい。前記第1処理外領域の厚さは、前記処理領域の厚さより十分小さいことが好ましく、例えば前記処理領域の厚さの数分の1〜十数分の1であることが好ましい。
前記第1処理外領域画成部が、前記処理領域画成部より前記被処理物との対向側へ突出されていることが好ましい。
これによって、前記第1処理外領域の圧力損失を大きくでき、処理流体の漏れや外部ガスの侵入をより確実に防止することができる。
前記第1処理外領域は、前記処理通路の例えば2倍程度の長さを有しているのが好ましい。
【0016】
前記第2処理外領域の厚さは、前記処理領域の厚さより十分小さいことが好ましく、例えば前記処理領域の厚さの数分の1〜十数分の1であることが好ましい。
前記第2処理外領域画成部が、前記処理領域画成部より前記被処理物との対向側へ突出されていることが好ましい。
これによって、前記第2処理外領域の流通抵抗を大きくでき、処理流体が第2処理外領域から外部に漏れるのを抑制ないし防止できる。
前記吸い込み流量が前記噴き出し流量より大きくなるように、前記第2処理外領域画成部の大きさ及び前記被処理物との対向側への突出量が設定されていることが好ましい。
これによって、第2処理外領域から吸い込み口へ向かう流体の流れが形成されるようにすることができ、処理流体が第2処理外領域から外へ漏れるのを確実に防止することができる。
前記吸い込み流量が前記噴き出し流量の2倍以下に収まるように、前記第2処理外領域の流通抵抗が設定されているのが好ましい。
前記第2処理外領域は、前記処理通路の例えば2倍程度の長さを有しているのが好ましい。
【0017】
前記処理物を、前記処理ヘッドに対し前記第1処理外領域と前記処理領域と前記第2処理外領域とを横切る方向へ相対移動させる移動手段を、さらに備えるのが好ましい。
これによって、被処理物を広範囲にわたって処理することができる。
第2特徴においても、前記流量調節手段は、前記流れと相関性を有する物理量(前記検出手段の検出値)が前記相対移動の速度に応じた値になるように、前記調節を行なうことにしてもよく、前記物理量がゼロになるように(前記検出手段の検出値がゼロになるように)前記調節を行なうことにしてもよい。
【0018】
第2特徴においても、前記検出手段として、第1特徴と同様に、流向計、流速計、流量計、差圧検出器、被検物質添加部付きの濃度差検出器、加熱部付きの温度差検出器などを用いることができる。
前記第1、第2の特徴において、前記流量調節手段は、前記噴き出し口からの噴き出し流量と前記吸い込み口からの吸い込み流量とのうち、前記吸い込み口からの吸い込み流量を調節するのが好ましい。
【0019】
本発明は、例えば大気圧(常圧)近傍の圧力下で生成したプラズマにて表面処理を行なうのに適用される。ここで、大気圧近傍とは、1.013×104〜50.663×104Paの範囲を言い、圧力調整の容易化や装置構成の簡便化を考慮すると、1.333×104〜10.664×104Paが好ましく、9.331×104〜10.397×104Paがより好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、処理外領域の圧力状態を制御でき、流体の流れを制御できる。処理外領域における処理領域に近い箇所と遠い箇所との差圧がゼロになるように制御することにより、処理流体が処理領域から外に漏れたり、外部の雰囲気ガスが処理領域に入ったりするのを効率的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は第1実施形態を示したものである。この実施形態では、例えば平面視四角形のガラス基板Wを被処理物とし、この基板Wを大気圧近傍下でプラズマ表面処理している。表面処理の内容は、例えば基板Wの上面に被膜されたアモルファスシリコン等の膜をエッチングするものであるが、これに限定されるものではない。基板Wの左右方向の長さは、例えば2.5mであり、前後方向(図1の紙面直交方向)に沿う幅は、例えば2mである。
【0022】
プラズマ表面処理装置Mは、ヘッドアレイ1と、このヘッドアレイ1の下側に配置されたステージ21とを備えている。
ステージ21の上に基板Wが載せられている。基板Wの左右両側には補助板W’がそれぞれ設けられ、基板Wの端縁に突き当てられている。補助板W’は、基板Wと同じ厚さ及び幅を有している。基板Wと補助板W’の上面は、それぞれ水平をなし、互いに面一になっている。
【0023】
ステージ21に移動手段20が接続されている。移動手段20は、ステージ21ひいては基板W及び補助板W’を左右方向に移動させるようになっている。移動手段20は、移動速度を調節可能になっている。
移動手段20をヘッドアレイ1に接続し、ヘッドアレイ1が移動される一方、基板Wが位置固定されるようになっていてもよい。
【0024】
ヘッドアレイ1は、3つ(複数)の処理ヘッド10を備えている。これら処理ヘッド10は、左右に一列に並べられている。隣り合う処理ヘッド10どうしの間に狭い隙間11aが設けられている。
【0025】
3つの処理ヘッド10は、互いに同一構成をなしている。
各処理ヘッド10には、プラズマ生成部30と、ノズル部40が設けられている。
プラズマ生成部30には、一対の電極31,31が設けられている。各電極31は、前後方向(図1の紙面直交方向)に延び、上記基板Wの幅寸法に対応する長さの長尺状をなしている。一対の電極31,31どうしは、平行をなして互いに左右に対向し、両者間に狭い空間32が形成されている。これら電極31,31のうち一方は電源(図示省略)に接続され、他方は電気的に接地されている。電源からの電圧供給により電極31,31間に電界が印加されてプラズマが生成され、電極間空間32が放電空間となるようになっている。少なくとも一方の電極31の対向面には固体誘電体層(図示省略)が設けられている。
【0026】
プラズマ生成部30は、流体供給路51を介して処理流体源5に連なっている。処理流体源5には例えばCF、O、HO等の処理目的に応じたガス成分が蓄えられており、これらガス成分を所定の混合比で混合して処理ガスすなわちガス状の処理流体を生成し、流体供給路51へ送出するようになっている。
【0027】
流体供給路51は、3つ(複数)に分岐され、3つの処理ヘッド10のプラズマ生成部30に向けてそれぞれ延びている。分岐した各流体供給路51に処理流体噴き出し流量調節手段52が設けられている。流量調節手段52は、マスフローコントローラ等にて構成され、処理ガス流量を正確に制御するようになっている。流量調節手段52より下流の流体供給路51が、図示しない均一化デバイスを介してプラズマ生成部30の電極間空間32の上端部に連なっている。これにより、流体供給路51からの処理ガスが、均一化デバイスにて前後方向に均一化されたうえで、電極間空間32に均一に導入されるようになっている。この電極間空間32に大気圧放電が生成されることにより、処理ガスがプラズマ化され、フッ素ラジカルや酸素ラジカル等の反応性成分(反応種)が生成されるようになっている。
【0028】
各処理ヘッド10の底部にノズル部40が設けられている。このノズル部40が、基板Wと対向すべき対向側部を構成している。ノズル部40は、センターノズルプレート41と、このセンターノズルプレート41の左右両側に配置された一対のサイドノズルプレート42,43とを有している。これらノズルプレート41,42,43は、それぞれ四角形の断面をなし、前後方向(図1の紙面直交方向)に延びている。
【0029】
ノズル部40とその下側に配置された基板W又は補助板W’との間にはギャップが形成されている。このギャップは、センターノズルプレート41の下側の処理領域80と、左側のサイドノズルプレート42の下側の第1処理外領域81と、右側のサイドノズルプレート43の下側の第2処理外領域82とから構成されている。
各領域80,81,82は、それぞれ左右に延びている。各領域80,81,82の流路断面積は、それぞれ左右方向に一定になっている。
処理領域80の左端(一端)が第1処理外領域81に連なり、右端(他端)が第2処理外領域82に連なっている。
第1処理外領域81の左端は、直接又は処理ヘッド間隙間11aを介して外部に連なっている。
第2処理外領域82の右端は、処理ヘッド間隙間11aを介して又は直接外部に連なっている。
【0030】
センターノズルプレート41は、処理領域画成部を構成している。センターノズルプレート41の下面は、水平な平面をなし、処理領域画成面を構成している。
センターノズルプレート41の左右方向の寸法(処理領域80の長さ)は、例えば0.15m程度であり、図1の紙面と直交する前後方向の寸法(処理領域80の幅)は、上記基板Wの幅寸法と略同じで例えば2m程度である。
【0031】
センターノズルプレート41には昇降機構60(ギャップ調節機構)が接続されている。この昇降機構60によってセンターノズルプレート41が高さ調節可能になっている。
これによって、センターノズルプレート41の下面と基板W又は補助板W’とのギャップすなわち処理領域80の厚さが調節されるようになっている。
【0032】
左側のサイドノズルプレート42は、第1処理外領域画成部を構成している。サイドノズルプレート42の下面(第1処理外領域画成面)は、水平な平面をなし、センターノズルプレート41より下に突出されている。したがって、第1処理外領域81の厚さが、処理領域80の厚さより十分に小さくなっている。第1処理外領域81の厚さは、処理領域80の数分の1〜十数分の1であり、例えば1mm程度に設定されている。
左サイドノズルプレート42の左右方向の寸法は、センターノズルプレート41の左右寸法より大きく、例えばセンターノズルプレート41の約2倍になっている。したがって、第1処理外領域81の長さは、処理領域80の約2倍になっており、例えば0.3m程度になっている。
これによって、第1処理外領域81では圧力損失が大きくなるようになっている。
左サイドノズルプレート42の図1の紙面と直交する前後方向の寸法(第1処理外領域81の幅)は、センターノズルプレート41と同寸であり、例えば2m程度になっている。
【0033】
右側のサイドノズルプレート43は、第2処理外領域画成部を構成している。サイドノズルプレート43の下面(第2処理外領域画成面)は、水平な平面をなし、左側のサイドノズルプレート42と同様に、センターノズルプレート41より下に突出している。したがって、第2処理外領域82の厚さは、処理領域80の厚さより十分に小さく、処理領域80の数分の1〜十数分の1であり、更には第1処理外領域81の厚さより小さく、例えば0.3mm程度に設定されている。
右サイドノズルプレート43の左右方向の寸法(第2処理外領域82の長さ)は、センターノズルプレート41の左右寸法より大きく、左側のサイドノズルプレート42と略同寸であり、例えば0.3m程度に設定されている。
右サイドノズルプレート43の図1の紙面と直交する前後方向の寸法(第2処理外領域82の幅)は、他のプレート41,42と同寸であり、例えば2m程度に設定されている。
【0034】
左サイドノズルプレート42とセンターノズルプレート41との間に、処理流体噴き出し口50aが形成されている。噴き出し口50aの上端部にプラズマ生成部30の電極間空間32が連なっている。噴き出し口50aは、処理領域80と第1処理外領域81との境に配置され、処理領域80の左端に連なっている。
電極間空間32でプラズマ化された処理ガスが、噴き出し口50aから処理領域80へ噴き出されるようになっている。
【0035】
なお、図示は省略するが、ノズル部40中央の前後両端部(図1の紙面手前側と紙面奥側の端部)には、センターノズルプレート41より下に突出する凸縁部が設けられている。この凸縁部によって処理領域80の前後両側の縁が略閉じられ、処理領域80内からガスが前後両方向へ漏出しないようになっている。これにより、噴き出し口50aから処理領域80の左端部に噴き出された処理ガスの略全量が、処理領域80内を右方向に案内されるようになっている。
【0036】
センターノズルプレート41と右サイドノズルプレート43との間には、吸い込み口(排出口)50eが形成されている。吸い込み口50eは、処理領域80と第2処理領域82との境に配置され、処理領域80の右端に連なり、そこから上に延びている。
【0037】
吸い込み口50eの上端部から吸引路53が延びている。吸引路53には、吸い込み流量調節手段54が設けられている。吸い込み流量調節手段54は、マスフローコントローラ等にて構成され、吸引路53ひいては吸い込み口50eからの吸い込み流量を正確に制御するようになっている。
図示は省略するが、吸い込み口50e又は吸引路53には、吸い込み流を図1の紙面と直交する前後方向に均一化するための均一化デバイスが設けられている。
【0038】
3つの処理ヘッド10に対応する3つの吸引路53が、各吸い込み流量調節手段54より下流側で互いに合流し、真空ポンプ等の吸引手段55や無害化設備56を含む排出手段に接続されている。
処理領域80内のガスが、吸い込み口50e及び吸引路53を順次経て、吸引手段55に吸込まれ、無害化設備56による無害化処理を経て排出されるようになっている。
【0039】
さらに、プラズマ処理装置Mの各処理ヘッド10には、第1処理外領域81のガスの流れと相関性を有する物理量を検出する流れ関連量検出手段70が設けられている。検出手段70は、差圧検出器で構成されている。差圧検出器70は、検出器本体71と、この本体71から延びる2つの圧力検出路72,73とを有している。一方の圧力検出路72は、左側のサイドノズルプレート42の下面の右端部(処理領域80に近い検出箇所、噴き出し口50aに近い部位)に達している。もう1つの圧力検出路73は、サイドノズルプレート42の下面の左端部(処理領域80から遠い検出箇所、噴き出し口50aから遠い部位)に達している。
これにより、第1処理外領域81における処理領域80に近い箇所の圧力と処理領域80から遠い箇所の圧力とが検出器本体71に入力され、両者の差圧が検出されるようになっている。この差圧は、処理外領域81内のガス流れの状態に対応し、処理外領域81の流体の流れと相関性を有する物理量である。すなわち、差圧の正負は、処理外領域81内の流れの向きを示している。差圧が大きければ処理外領域81内のガス流速が大きく、差圧が小さければ処理外領域81内のガス流速が小さく、差圧がゼロであれば処理外領域81内のガス流速はゼロであることを示している。
【0040】
差圧検出器70の検出差圧は、増幅回路74を経て、対応する吸い込み流量調節手段54にフィードバックされるようになっている。吸い込み流量調節手段54は、このフィードバック信号に基づき、吸い込み口50eからの吸い込み流量を制御するようになっている。
【0041】
上記構成の常圧プラズマ表面処理装置Mを用いて基板Wを処理する方法を説明する。
噴き出し工程
処理流体源5の処理ガスを各処理ヘッド10のプラズマ生成部30でプラズマ化して反応性成分を生成し、噴き出し口50aから処理領域80の左端部に噴き出す。
噴き出し流量qは、噴き出し流量調節手段51にて所定に維持する。例えば、各処理ヘッド10についてq=60L/minとする。
噴き出し口50aから噴き出された処理ガスは、処理領域80内を右方向(吸い込み口50eの側)へ流れる。処理外領域81は、十分に長く、かつ厚さが極めて小さいため、圧力損失が大きい。これにより、処理ガスが処理外領域81の側へ逆流するのを抑えることができる。
【0042】
反応工程及び吸い込み工程
また、吸引手段55を駆動して、吸い込み口50eから吸引を行なう。これによって、処理領域80内の処理ガスの流れ方向を、確実に吸い込み口50eの側へ向けることができる。
処理ガスが処理領域80内を流れる過程で、該処理ガス中の反応性成分が基板Wと接触して反応を起こす。これにより、基板Wが表面処理される。
処理領域80の右端部に達した処理ガスは、吸い込み口50eから吸い込まれ、吸引路53を経て、無害化設備56にて無害化されたうえで排気される。
【0043】
移動工程
さらに、移動手段20によってステージ21を右方向(白抜き矢印方向)へ移動させる。これによって、基板Wがヘッドアレイ1に対し右方向へスキャンされ、基板Wの全体を表面処理することができる。基板Wの移動速度vは、主に生産ライン上の時間的な要求から決定される。例えば、本実施形態において、長さ2.5mの基板Wを1枚あたり1分間で処理しなければならないとした場合、基板Wのセッティングやピックアップの時間を考慮して、移動速度vは、v=3m/min程度が相当である。
基板Wは、3つの処理ヘッド10の処理領域80を通過する度に三段階にわたって表面処理される。
【0044】
ここで、処理領域80内の処理ガスの反応能力は、下流(吸い込み口50eの側)に向かうにしたがって反応性成分の消費により低下する。一方、処理領域80が補助板W’と基板Wの端部に跨る場合、処理ガスが補助板W’上にある期間は反応性成分が消費されず、高濃度のまま基板Wの端部に達する。そのため、基板Wの端部は過剰に処理される傾向がある。これをローディング効果という。
【0045】
速度あわせ工程
上記のローディング効果対策として、処理ヘッド10に対する処理領域80内の処理ガスの流速φと基板Wの移動速度vとが略一致するように、すなわち次式(1)が満たされるように関係諸量を設定しておく。
φ=v …式(1)
処理領域80内の処理ガス流速φは、処理ガスの噴き出し流量qと、処理領域80の流路断面積Aで決まり、次式(2)で表される。
φ=q/A …式(2)
一方、処理ガスの噴き出し流量qは、処理レシピに関わるものであり、あまり自由度がなく、本実施形態では上述したようにq=60L/minと設定されている。処理領域80の流路断面積Aは、次式(3)に示すように、処理領域80の幅w(図1の紙面直交方向の寸法)と厚さd(図1の上下方向の寸法)との積で表されるところ、処理領域80の幅は基板Wの幅に合わせる必要があり、本実施形態ではw=2mとなっている。
A=w×d …式(3)
また、基板Wの移動速度vは、上述の通り、生産ライン上の要求からv=3m/minと設定されている。
【0046】
したがって、式(1)に関係する諸量のうち、ある程度の自由度が許されるのは、処理領域80の厚さdであり、このdの大きさを他の既定の諸量q、w、vに合わせて調節することにより、式(1)が満たされるようにすることができる。本実施形態においては、q=60L/min、w=2m、v=3m/minを式(1)〜(3)に代入することにより、
d=1cm
と求まる。
【0047】
そこで、処理領域80の厚さdがd=1cmになるように、昇降機構60によってセンターノズルプレート41の高さを調節する。これによって、処理領域80内の処理ガスの流速φと基板Wの移動速度vとを略一致させることができ、両者の相対速度がほぼゼロになるようにすることができる。したがって、処理ガスは、基板Wに対してほぼ静止した状態になり、基板Wの略固定された位置上で反応性成分を消費し減衰していく。これによって、基板Wの端部であるか中央部であるかに関わりなく、基板W上のどの位置でも均等に処理を行なうことができ、ローディング効果が起きるのを防止でき、基板Wの全体を均一に処理することができる。また、基板Wに比較的大きなマスクが設けられている場合、該マスク端部近傍でローディング効果が起きるのを防止することができる。
【0048】
吸い込み流量制御工程
上記の各工程と併行して、差圧検出器70にて第1処理外領域81の左右両端部間の差圧を検出する。この検出差圧を、吸い込み流量調節手段54にフィードバックする。吸い込み流量調節手段54は、内蔵する制御装置にて上記検出差圧がゼロになるように吸い込み口50eからの吸い込み流量を制御する。詳述すると、処理領域80から遠い圧力検出路73に対する処理領域80に近い圧力検出路72の差圧(=路72の圧−路73の圧)が正である場合、吸い込み口50eからの吸い込み流量を増大させる。反対に上記差圧(=路72の圧−路73の圧)が負である場合、吸い込み口50eからの吸い込み流量を低下させる。これにより、処理外領域81内における処理領域80に近い側と遠い側の圧力差をゼロにすることができ、ひいてはガス流れが形成されるのを防止でき、外部のガスが第1処理外領域81を経て処理領域80に流入したり、処理ガスが第1処理外領域81を経て処理ガスが流出したりするのを確実に防止することができる。
この結果、不活性ガスカーテンを用いなくても済み、ランニングコストを抑えることができるとともに、吸引手段55や無害化設備56の負担を軽減することができる。また、処理領域80内の処理ガスの流量を、処理領域80の全域にわたって確実に一定に維持することができる。
【0049】
さらに、第2処理外領域82の厚さ(本実施形態では0.3mm)や長さ(0.3m)の設定により、上記のフィードバック制御された吸い込み流量が、噴き出し口50aからの処理ガスの噴き出し流量より若干大きくなるように調節されている。したがって、外部のガスが、ヘッド間隙間11aを介して又は直接的に第2処理外領域82内に流入する。そして、第2処理外領域82内に、処理領域80の側へ向かうガス流れが形成される。これによって、処理領域60の処理ガスが第2処理領域82を経て外部に漏れるのを防止することができる。
ここで、外部から第2処理外領域82に流入するガス量は、処理ガス噴き出し流量以下になるようにするのが好ましい。これによって、吸い込み口50eからの吸い込み流量を処理ガス噴き出し流量の2倍以下に抑えることができ、無害化設備56や吸引手段55への負担を抑制することができる。
右サイドノズルプレート43にも昇降機構(ギャップ調節機構)を設けて高さ調節可能にし、第2処理外領域82の厚さを可変調節するようにしてもよい。
【0050】
次に本発明の他の実施形態を説明する。
以下の実施形態において、既述の形態と重複する構成に関しては、図面に同一符号を付して説明を省略する。
図2は、流れ関連量検出手段として、図1の差圧検出器70に代えて、音波流速計90を用いた実施形態を示したものである。音波流速計90は、流速計本体91と、この本体91に連なる一対の音波センサ92,93とを備えている。一方の音波センサ92は、左サイドノズルプレート42の下面における右端部近傍(処理領域80に近い部位)に配置されている。もう1つの音波センサ93は、サイドノズルプレート42の下面における左端部近傍(処理領域80から遠い部位)に配置されている。
【0051】
これら音波センサ92,93は、それぞれ超音波の発振及び受信の機能を有し、一方のセンサが超音波を発振し、これを他方のセンサが受信するようになっている。流速計本体91は、音波センサ92から発振された超音波が音波センサ93に受信されるまでの伝播時間T1と、音波センサ93から発振された超音波が音波センサ92に受信されるまでの伝播時間T2を計測する。下式(4)に示すように、これら伝播時間T1,T2の逆数差が、処理外領域81におけるガス流速φ81に比例する。
φ81=2L×((1/T1)−(1/T2))/C …式(4)
ここで、Lは音波センサ92,93間の距離、Cは音速である。
これによって、処理外領域81の流れと相関性を有する物理量として処理外領域81内におけるガス流速φ81を計測することができる。
【0052】
上記計測流速φ81は、増幅回路94を経て、吸い込み流量調節手段54にフィードバックされる。吸い込み流量調節手段54は、このフィードバック信号に基づき、処理外領域81内のガス流速がφ81=0になるように、吸い込み口50eからの吸い込み流量を制御する。
【0053】
図3は、流れ関連量検出手段の他の実施形態として加熱部付き温度差検出器100を示したものである。温度差検出器100は、熱電対からなる検出部(検出器本体)101と、加熱器(加熱部)102とを有している。加熱器102は、左サイドノズルプレート42の下面の中間位置に配置されている。
この加熱器102によって、処理外領域81の中間位置のガスがスポット的に加熱されるようになっている。この熱は、流れ関連物理量検出用の媒体を構成する。加熱器102は、媒体の添加部を構成する。加熱器102による加熱スポットは、媒体の添加箇所を構成する。加熱器102の出力は、その近傍のガスを1℃程度上昇させる程度で十分である。
【0054】
熱電対式検出部101は、一対の温度センサ部103,104を含んでいる。これらセンサ部102,104は、左サイドノズルプレート42の下面における加熱器102を挟んで左右両側に離れた検出箇所にそれぞれ配置されている。左右のセンサ部103,104のちょうど中間に加熱器102が配置されている。
【0055】
熱電対式検出部101によってセンサ部103,104の配置箇所の近傍の温度差が検出されるようになっている。ここでは、右側のセンサ部103に対する左側のセンサ部104の温度差(=センサ部104での温度−センサ部103での温度)が検出されるようになっている。
【0056】
この温度差は、処理外領域81の流体の流れと相関性を有する物理量となる。すなわち、処理外領域81内にガス流れが形成されている場合、このガス流は、加熱スポットを通過することにより加熱されるため、加熱器102より下流側の温度が上流側の温度より高くなる。この温度差が熱電対式検出部101にて検出される。この温度差信号が増幅器105を経て、吸い込み流量調節手段54に入力される。吸い込み流量調節手段54は、この温度差信号に基づき、熱電対101による検出温度差がゼロになるように、吸い込み口50eからの吸い込み流量をフィードバック制御する。
【0057】
具体的には、処理外領域81内において噴き出し口50aの側からヘッド間隙間11aの側へ左向きのガス流れが形成されている場合、左側のセンサ部104での温度が右側のセンサ部103での温度より高くなる。したがって、熱電対式検出部101の検出温度差(=センサ部104での温度−センサ部103での温度)はプラスになる。このプラスの温度差信号を受けた吸い込み流量調節手段54は、吸い込み口50eからの吸い込み流量を増大させる。これにより、上記左向きの流れを弱め、ないしは流れを無くすことができる。
【0058】
反対に、処理外領域81内においてヘッド間隙間11aの側から噴き出し口50aの側へ右向きのガス流れが形成されている場合、左側のセンサ部104での温度が右側のセンサ部103での温度がより低くなる。したがって、熱電対式検出部101の検出温度差(=センサ部104での温度−センサ部103での温度)はマイナスになる。このマイナスの温度差信号を受けた吸い込み流量調節手段54は、吸い込み口50eからの吸い込み流量を低下させる。これにより、上記右向きの流れを弱め、ないしは流れを無くすことができる。
【0059】
この結果、系外のガスが処理外領域81を経て処理領域80に流入したり、処理ガスが処理外領域81を経て系外へ流出したりするのを確実に防止することができる。
加熱器102から右側の温度センサ103までの距離と、加熱器102から左側の温度センサ104までの距離とが互いに等しいため、制御の正確性を確保することができる。
しかも、検出手段100は、流れ検知用媒体として熱を添加し、それによる温度差を検知するものであるので、処理外領域81内の流れが極めて小さくても確実に検知でき、差圧検出器90より感度が良好である。したがって、制御の正確度を一層高めることができ、処理外領域81内にガス流が形成されるのを確実に防止することができる。
【0060】
図4は、流れ関連量検出手段の他の実施形態を示したものである。この実施形態の流れ関連量検出手段110は、特定の被検物質を流れ関連物理量検出用の媒体とするものであり、被検物質の添加部111と、被検物質の濃度差検出部112とを有している。添加部111は、ノズルにて構成され、その開口は、左サイドノズルプレート42の底部のほぼ中間に配置され、処理外領域81に臨んでいる。添加部111には、被検物質を蓄えた被検物質源113が接続されている。被検物質は、センサで検知容易な物質であることが好ましく、処理ガスの成分とは異なる物質であることが好ましく、処理流体及び基板Wとの反応性を有しない物質であることが好ましく、さらには、装置Mの構成部材に対する腐食性を有しない物質であることが好ましい。ここでは、被検物質として例えば硫化水素(HS)が用いられている。添加部111は、被検物質源113からの被検物質を処理外領域81内の該添加部111の近傍にスポット的に添加するようになっている。添加量は、処理ガスの流量より十分に小さく、例えば1sccm程度の微量で十分である。
【0061】
濃度差検出部112は、2つの濃度センサ114,115と、差動増幅器116とを有している。
左サイドノズルプレート42には、添加部111のノズル口(媒体の添加箇所)を挟んで処理領域80に近い側(1の検出箇所)に1つの濃度センサ114が配置され、処理領域80から遠い側(他の検出箇所)にもう1つの濃度センサ115が配置されている。2つの濃度センサ114,115のちょうど中間に添加部111のノズル口が位置されている。
これら濃度センサ114,115は、処理外領域81における当該センサ114,115の近傍の流体中の被検物質の濃度をそれぞれ検出する。すなわち、硫化水素に感応し、その濃度に応じた電圧を出力するようになっている。
【0062】
2つの濃度センサ114,115からの出力信号(検出濃度)は、差動増幅器116に入力され、その差分が得られるようになっている。この差分は、2つのセンサ114,115の検出箇所どうし間の硫化水素の濃度差(媒体量の差)に対応する。この濃度差は、処理外領域81の流体の流れと相関性を持つ物理量である。
【0063】
ここでは、左側(処理領域80から遠い側)のセンサ115からの信号が差動増幅器116にプラス入力され、右側(処理領域80に近い側)のセンサ114からの信号が差動増幅器116にマイナス入力されるようになっている。したがって、処理外領域81内において噴き出し口50aの側からヘッド間隙間11aの側へ左向きのガス流れが形成されている場合、左側のセンサ115の近傍の硫化水素濃度が、右側のセンサ114の近傍の硫化水素濃度より高くなるため、左側のセンサ115の出力が右側のセンサ114の出力より大きくなり、差動増幅器116にてプラスの差分出力が得られる。反対に、処理外領域81内においてヘッド間隙間11aの側から噴き出し口50aの側へ右向きのガス流れが形成されている場合、左側のセンサ115の出力が右側のセンサ114の出力より小さくなり、差動増幅器116にてマイナスの差分出力が得られる。
【0064】
差動増幅器116で得られた差分信号は、吸い込み流量調節手段120に入力される。流量調節手段120は、制御回路や駆動回路を有し、差動増幅器116からの入力に基づいて、吸引手段55の出力を操作し、吸い込み口50eからの吸い込み流量をフィードバック制御するようになっている。
【0065】
例えば、差動増幅器116の出力がプラス(処理外領域81内のガス流れが左向き)の場合、吸引手段55の出力を増大させ、吸い込み口50eからの吸い込み流量を大きくする。逆に、差動増幅器116の出力がマイナス(処理外領域81内のガス流れが右向き)の場合、吸引手段55の出力を低下させ、吸い込み口50eからの吸い込み流量を小さくする。
これにより、処理外領域81内のガス流れを抑え、更には流れを無くすことができ、或いは、流れが形成されるのを防止することができる。この結果、系外のガスが処理外領域81を経て処理領域80に流入したり、処理ガスが処理外領域81を経て系外へ流出したりするのを防止することができる。
添加部111のノズル口から右側の濃度センサ114までの距離と左側の濃度センサ115までの距離とが互いに等しいため、制御の正確性を確保することができる。
しかも、検出手段110は、流れ検知用媒体として硫化水素などの被検物質を添加し、これを検知するものであるので、処理外領域81内の流れが極めて小さくても確実に検知でき、差圧検出器90より感度が良好である。したがって、制御の正確度を一層高めることができ、処理外領域81内にガス流が形成されるのを確実に防止することができる。
【0066】
なお、図4の二点鎖線の信号線に示すように、流量調節手段120は、吸引手段55に代えて、吸引路53に設けた流量制御弁57の開度を調節することにより、吸い込み口50eからの吸い込み流量を制御するようになっていてもよい。或いは、流量調節手段120として、図1〜3の実施形態と同様にマスフローコントローラ54を用いてもよい。
【0067】
図5に示すように、差動増幅器116からの出力信号線を、噴き出し流量調節手段52に接続し、流量調節手段52が、流れ関連量検出手段110の検出結果に基づいて、処理ガスの噴き出し流量をフィードバック制御するようにしてもよい。この場合、差動増幅器116の極性を図4とは逆にし、左側(処理領域80から遠い側)のセンサ115からの信号を差動増幅器116にマイナス入力し、右側(処理領域80に近い側)のセンサ114からの信号を差動増幅器116にプラス入力する。
【0068】
ここまでの実施形態では、流れ関連量検出手段70,90,100,110による流れ関連物理量の検出値(フィードバック制御の目標値)がゼロになるように、流量調節手段54,52,120にて吸引流量ないしは処理ガス噴出流量のフィードバック制御を行なっていたが、図6に示すように、移動手段20による基板Wと処理ヘッド10との相対移動速度や雰囲気ガスの粘性等によっては、処理外領域81内において厚さ方向に流速分布fが生じることがある。
例えば、同図の白抜き矢印に示すように、基板Wが処理ヘッド10に対し右方向へ移動するとき、基板Wの表面上では、流体摩擦(粘性)によってガスが基板Wとほぼ同じ速度で右方向へ移動し、外部のガスが処理外領域81内に巻き込まれる一方、基板Wの表面から上側に離れるにしたがって流速が小さくなり、処理ヘッド10のサイドノズルプレート42の下面の近くでは、流速がほとんどゼロになるという現象が起きることがある。この場合、サイドノズルプレート42の下面に設けたセンサ114,115によっては基板Wの表面上でのガスの移動(巻き込み)を検知できず、処理外領域81内の流速はゼロと判断されてしまう。
【0069】
そこで、流量調節手段120によるフィードバック制御の目標値をゼロに固定するのに代えて、移動手段20による移動速度に応じて可変させることにしてもよい。
たとえば、上述した基板Wの右方向移動時には、目標値(センサ114に対するセンサ115の検出値)がプラスになるように設定し、しかも、移動速度に応じて目標値の絶対値が比例的に大きくなるように設定する。これにより、基板Wの右方向移動の速度が大きくなればなるほど、吸引手段55の出力が小さくなるようにフィードバック制御される。したがって、供給路51からの処理ガスが、処理外領域81内において左方向へ流れようとする。この処理ガスの左方向への流れによって、上記の基板Wの表面上での右方向への巻き込み流を相殺することができる。この結果、処理外領域81内の流れを実質ゼロにすることができる。
【0070】
本発明は、上記実施形態に限定されず、種々の改変をなすことができる。
例えば、排出口の吸引を行なうことなく、噴き出し口からの噴き出し圧力で処理ガスが排出口から押し出されるようにしてもよい。
吸い込み口が、噴き出し口より第1処理外領域(圧力状態が検出される処理外領域)の近くに配置されていてもよい。
処理領域の中央部に噴き出し口を配置し、処理領域の両端部にそれぞれ吸い込み口を配置してもよい。そして、処理領域の両側の処理外領域にそれぞれ検圧手段等の流れ関連量検出手段を設け、それらの検出量に基づいて、各吸い込み口からの吸い込み流量を制御することにしてもよい。
流れ関連量検出手段は、上記実施形態のものに限定されず、例えば、レーザ式の流速計を用いてもよい。
ヘッドアレイ1に含まれる処理ヘッド10の数は、3つに限られず、2つでもよく、4つ以上であってもよい。
処理ヘッド10ごとに処理ガスの流量や成分が異なっていてもよく、処理ヘッド10ごとに処理内容が異なっていてもよい。
処理ヘッド10の数を1つだけにしてもよい。
基板Wや装置Mの寸法や処理ガス流量等の数値はあくまでも例示であり、本発明がこれに限定されるものではない。
第2処理外領域82の厚さが、第1処理外領域81の厚さ同程度であってもよい。
処理流体は、流動体であればよく、気体に限られず、例えば霧状(ミスト)にした液体や粒状の固体であってもよく、これらの混合流体であってもよい。
【0071】
図1〜図6の実施形態及び変形例を互いに組み合わせてもよい。たとえば、図1〜図3の形態においても、図5と同様に、流れ関連量検出手段70,90,100のフィードバック信号を、噴き出し流量調節手段52に入力し、吸い込み流量に代えて、処理ガスの噴き出し流量をフィードバック制御の対象にすることにしてもよい。図6の相対速度を考慮したフィードバック制御機構は、濃度差式流れ関連量検出手段110を用いた場合に限られず、他の流れ関連量検出手段70,90,100を用いた場合にも適用可能である。
【0072】
本発明は、エッチング、アッシング、成膜、洗浄、表面改質等の種々のプラズマ表面処理に適用可能である。
本発明は、常圧下に限らず、減圧下でのプラズマ表面処理にも適用できる。
プラズマ処理に限られず、オゾンや弗酸ベーパー(弗酸の蒸気またはミスト)によるエッチングやアッシング、シリコン含有原料の蒸気またはミストによる熱CVD等にも適用できる。プラズマ処理以外の処理を行う場合、プラズマ生成部30に代えて、その処理用の流体供給装置を、ノズル部40に接続する。例えば、オゾンにて処理する場合、プラズマ生成部30に代えてオゾナイザーをノズル部40に接続する。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、例えば半導体基板の製造やフラットパネルディスプレイ(FPD)の製造に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の第1実施形態に係る表面処理装置の概略構成図である。
【図2】上記表面処理装置の流れ検出手段の変形例を示す概略構成図である。
【図3】上記表面処理装置の流れ検出手段の変形例を示す概略構成図である。
【図4】流れ検出手段の変形例を示す概略構成図である。
【図5】流れ検出手段の変形例を示す概略構成図である。
【図6】処理ヘッドと基板の相対速度を考慮したフィードバック制御機構を有する変形例を、上記相対移動による流体摩擦によって処理外領域の厚さ方向に生じる流速分布曲線(符号f)を付記して示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0075】
W 基板(被処理物)
M 大気圧プラズマ表面処理装置
1 ヘッドアレイ
10 処理ヘッド
11a ヘッド間隙間
20 移動手段
21 ステージ
30 プラズマ生成部
40 ノズル部(対向側部)
41 センターノズルプレート(処理領域画成部)
42 左サイドノズルプレート(第1処理外領域画成部)
43 右サイドノズルプレート(第2処理外領域画成部)
50a 噴き出し口
50e 吸い込み口(排出口)
52 処理流体噴き出し流量調節手段
54 吸い込み流量(排出量)調節手段
60 昇降機構(ギャップ調節機構)
70 差圧検出器(流れ関連量検出手段)
72 圧力検出路
73 圧力検出路
80 処理領域
81 第1処理外領域
82 第2処理外領域
90 音波流速計(流れ関連量検出手段)
92,93 音波センサ
100 温度差検出器(加熱部付き温度差式流れ関連量検出手段)
101 熱電対式検出部(媒体量ないしは媒体量差の検出部)
102 加熱器(物理量検出用媒体の添加部)
103,104 熱電対のセンサ部
110 被検物質(媒体)の添加部付き濃度差式流れ関連量検出手段
111 添加部
112 検出部
113 硫化水素源(被検物質源)
114,115 濃度センサ
116 差動増幅器
120 吸い込み流量(排出量)調節手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物に処理流体を接触させて前記被処理物の表面を処理する装置であって、
前記被処理物と対向すべき側部を有し、この対向側部の一部が処理領域を画成し、他の一部が前記処理領域に連なる処理外領域を画成し、さらに前記処理流体を前記処理領域へ噴き出す噴き出し口と、前記処理領域から流体を排出する排出口とが設けられた処理ヘッドと、
前記処理外領域の流体の流れと相関性を有する物理量を検出する流れ関連量検出手段と、
前記検出手段の検出値に基づいて、前記噴き出し口からの噴き出し流量又は前記排出口からの排出流量を調節する流量調節手段と、
を備えたことを特徴とする表面処理装置。
【請求項2】
前記検出手段が、前記物理量として前記処理外領域の流体の流速を計測することを特徴とする請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項3】
前記検出手段が、前記物理量として前記処理外領域における前記処理領域に近い検出箇所と遠い検出箇所との差圧を検出することを特徴とする請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項4】
前記検出手段が、前記処理外領域の一箇所の流体に前記物理量検出用の媒体を添加する添加部と、前記添加箇所を挟んで前記処理領域に近い箇所と遠い箇所で前記媒体を検出する検出部とを含むことを特徴とする請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項5】
前記検出部が、前記物理量として前記2つの検出箇所における媒体量の差を検出することを特徴とすることを特徴とする請求項4に記載の表面処理装置。
【請求項6】
前記添加部が、前記媒体として特定の被検物質を前記添加箇所に添加し、前記検出部が、前記物理量として前記2つの検出箇所の流体中の前記被検物質の濃度差を検出することを特徴とする請求項5に記載の表面処理装置。
【請求項7】
前記被検物質が、前記処理流体及び被処理物との反応性を有しないことを特徴とする請求項6に記載の表面処理装置。
【請求項8】
前記添加部が、前記媒体として熱を前記添加箇所に付与し、前記検出部が、前記物理量として前記2つの検出箇所の流体の温度差を検出することを特徴とする請求項5に記載の表面処理装置。
【請求項9】
前記添加箇所が、前記2つの検出箇所のちょうど中間に位置することを特徴とする請求項4〜8の何れかに記載の表面処理装置。
【請求項10】
前記被処理物を、前記処理ヘッドに対し前記処理領域と前記処理外領域とを横切る方向へ相対移動させる移動手段を、さらに備えたことを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載の表面処理装置。
【請求項11】
前記流量調節手段が、前記流れと相関性を有する物理量が前記相対移動の速度に応じた値になるように、前記調節を行なうことを特徴とする請求項10に記載の表面処理装置。
【請求項12】
前記流量調節手段が、前記流れと相関性を有する物理量がゼロになるように前記調節を行なうことを特徴とする請求項1〜10の何れかに記載の表面処理装置。
【請求項13】
前記処理ヘッドの前記処理外領域画成部が、前記処理領域画成部より前記被処理物との対向側へ突出されていることを特徴とする請求項1〜12の何れかに記載の表面処理装置。
【請求項14】
前記排出口には該排出口から流体を吸い込む吸引手段が接続され、
前記流量調節手段が、前記排出口からの吸い込み流量を調節することを特徴とする請求項1〜13の何れかに記載の表面処理装置。
【請求項15】
被処理物に処理流体を接触させて前記被処理物の表面を処理する装置であって、
前記被処理物と対向すべき側部を有し、この対向側部が、処理領域を画成する処理領域画成部と、前記処理領域の一端に連なる第1処理外領域を画成する第1処理外領域画成部と、前記処理領域の他端に連なる第2処理外領域を画成する第2処理外領域画成部とを含み、さらに前記処理流体を前記処理領域へ噴き出す噴き出し口と、前記処理領域から流体を吸い込む吸い込み口とが設けられた処理ヘッドと、
前記第1処理外領域の流体の流れと相関性を有する物理量を検出する流れ関連量検出手段と、
前記検出手段の検出値に基づいて、前記噴き出し口からの噴き出し流量又は前記吸い込み口からの吸い込み流量を調節する流量調節手段と、
を備えたことを特徴とする表面処理装置。
【請求項16】
前記処理ヘッドにおいて、前記噴き出し口が、前記処理領域画成部と前記第1処理外領域画成部との境に配置され、前記吸い込み口が、前記処理領域画成部と前記第2処理外領域画成部との境に配置されていることを特徴とする請求項15に記載の表面処理装置。
【請求項17】
前記第1処理外領域画成部及び前記第2処理外領域画成部が、それぞれ前記処理領域画成部より前記被処理物との対向側へ突出されていることを特徴とする請求項15又は16に記載の表面処理装置。
【請求項18】
前記吸い込み流量が前記噴き出し流量より大きくなるように、前記第2処理外領域画成部の大きさ及び前記被処理物との対向側への突出量が設定されていることを特徴とする請求項17に記載の表面処理装置。
【請求項19】
前記処理物を、前記処理ヘッドに対し前記第1処理外領域と前記処理領域と前記第2処理外領域とを横切る方向へ相対移動させる移動手段を、さらに備えたことを特徴とする請求項15〜18の何れかに記載の表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−135681(P2008−135681A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−129378(P2007−129378)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】