説明

表面処理装置

【課題】表面処理装置において、電流値を上げたり処理時間を長引かせたりしなくても、表面被膜を一層分厚くさせることができ、また膜厚を一層均一化させることができるようにする。
【解決手段】バスケット5と、バスケット5を正立姿勢のまま回転自在に保持するバスケット保持手段3と、バスケット保持手段3をバスケット5の正立回転姿勢と側方へ横倒した横倒回転姿勢との間で揺動させる揺動手段と、バスケット保持手段3に対してバスケット回転用の駆動を伝える回転駆動部と、バスケット保持手段3を全体として収容した状態で定置設置される処理槽2とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理品の表面被膜について品質向上を図ることに重点をおいた表面処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
めっき等の表面処理に関し、処理時間の短縮化を目指して種々の装置が提案されている。例えば図16に示すように、籠型のバレル500を用い、工程間の移送時にはバレル500を水平に保持させるが、めっき処理などを行う場合には、バレル500を収容した処理槽501ごと、全体を斜めに傾斜させ、もってバレル500を斜めに傾斜させるようにし、この傾斜状態のまま更にバレル500を回転させるようにした装置が提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
このようにバレル500を処理槽501ごと傾斜状態にし、且つバレル500を回転させることで、バレル500内の被処理物502に攪拌作用を促進させるというものである。
【0003】
なお、図16中には陽極505、集電子506、陰極接点507、通電バー508、従動歯車510、駆動歯車511、回転駆動用モータ512が描かれている。
【特許文献1】特開2003−147593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バレル500を処理槽501ごと斜めに傾斜させる方式では、処理槽501を傾けても処理槽501内に貯留された処理液の水面は水平を維持するので、処理槽501において傾きの下側となる槽上縁から処理液が溢れないことが、処理槽501を傾ける限度となる。
このように処理槽501の傾き(傾斜角)に制限があるため、同様にバレル500の傾斜角も制限されたものとなっており、その結果、傾斜したバレル500の底部において最も低位となる周方向の一部に被処理物502が集まり、山高な山積状態を生起させることになる。
【0005】
そのため、バレル500を回転させて被処理物502を攪拌しても、個々の被処理物502に転がりがうまく発生せず、また被処理物502相互間に浸透している処理液が被処理物502の全表面との間で動きにくい(活性化し難い)ということがあった。場合によっては、山積状態の被処理物502がバレル500の回転を受けて山高さを高めるようになり(盛り上がり)、山頂部分が処理液の水面上に露出してしまうということもあった。
これらのことから、処理後に得られた被処理物502として、表面被膜を一層分厚くさせようとする場合や、膜厚を一層均一化させようとする場合には不満の残るものとなっていた。表面被膜を分厚くさせたり、膜厚を均一化させたりするには、電流値を上げ、処理時間を長引かせることで幾らかの対応は図れるものの、これらの対応はいずれもコスト高に繋がり、好適ではなかった。
【0006】
なお、処理槽501内で被処理物502を収容する籠型の入れ物について、上記特許文献1では「バレル」と呼んでいるが以下では「バスケット」と言う。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、電流値を上げたり処理時間を長引かせたりしなくても、表面被膜を一層分厚くさせることができ、また膜厚を一層均一化させることができるようにした表面処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は次の手段を講じた。
即ち、本発明に係る表面処理装置は、透水性を有する周壁とこの周壁の下部内方を閉鎖する底部とで被処理物を収容可能にするバスケットと、このバスケットを正立姿勢のまま着脱自在とし且つバスケット中心を通る回転軸心まわりでバスケットを回転自在に保持するバスケット保持手段と、このバスケット保持手段をバスケットの正立回転姿勢と側方へ横倒した横倒回転姿勢との間で揺動させる揺動手段と、上記バスケット保持手段が少なくとも横倒回転姿勢のときに当該バスケット保持手段に対してバスケット回転用の駆動を伝えることが可能な回転駆動部と、上記バスケット保持手段を全体として収容した状態で定置設置され槽内に処理液を貯留可能にする処理槽とを有している。
【0008】
このような構成であると、処理槽を傾けなくともバスケットを姿勢変更(傾斜)させることができる。そのため、バスケットの傾斜角度は、バスケットを横倒させるほどの角度(例えば90°)とさせることができるものである。バスケットをこれだけ傾斜させたところで、処理槽から処理液が溢れることは決してない。
バスケットを横倒させた状態で回転させると、バスケットの周壁は略水平な状態になるから、バスケット内の被処理物はこの水平な周壁の内面で低い丘状に均され、広げられることになる。そのため、被処理物は高効率で攪拌されることになり、個々の被処理物に対してその全表面に処理液が接触する状態になるから、表面被膜が分厚く且つ均一膜厚で形成されるようになる。
【0009】
なお、上記したようにバスケット内で被処理物は低い丘状に均され、広げられるので、処理液の水面上に露出してしまうということはない。このことも、表面被膜を均一膜厚にさせるうえで有益となる。言うまでもなく、電流値を上げたり処理時間を長引かせたりしなくてもよいので、低コスト化も可能となる。
処理槽には、バスケット保持手段が横倒回転姿勢のときに、当該バスケット保持手段に保持されたバスケットの下方側の周壁より高くなる水位であって、且つバスケットの回転軸心より低くなる水位を保持するように、溢流口を配置したオーバーフロー部を設けておくとよい。
【0010】
このようにすることで、横倒状態に保持されたバスケットに対する処理液の水位が所定範囲内に保たれるようになり、安定した表面処理が保障されるようになる。
バスケットには、周壁の上端に形成される被処理物の出し入れ口と周壁との間に、周壁による内径を出し入れ口へ向けて徐々に径小化することによって形成した傾斜肩部が形成されている。
このようにすることで、横倒状態に保持されたバスケットから被処理物がこぼれ落ちることを防止できる。
【0011】
バスケットの周壁は、バスケット保持手段による横倒回転姿勢に保持されたときに処理槽内の処理液水面と平行する扁平面として形成されたものとするのが好ましい。
このようにすることで、横倒回転姿勢時にはバスケットの周壁内面(処理液水面と平行する扁平面)で被処理物が広がりやすくなる。即ち、山高な山積状態になり難いので、それだけバスケットの回転に伴った攪拌作用が高効率で得られることになる。その結果、表面被膜が一層、分厚く且つ一層、均一膜厚となって形成されるようになる。
バスケットの周壁は、底部下面に対して直交する方向に起立形成されたものとすればよい。
【0012】
またバスケットを横倒回転姿勢にしたときにバスケットの回転軸心が水平となるように保持するものとすればよい。なお、ここにおいて「水平」とは厳密な水平を言うものではなく、プラスマイナス10°程度の誤差であれば許容するものとする。
なお、水平としない場合もあり得る。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る表面処理装置では、電流値を上げたり処理時間を長引かせたりしなくても、表面被膜を一層分厚くさせることができ、また膜厚を一層均一化させることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
[全体構成]
図1乃至図13は、本発明に係る表面処理装置1の一実施形態を示している。この表面処理装置1は、脱脂、酸洗、電解、めっき(亜鉛めっき等)、硝酸、三価(白)などの各種表面処理工程のメイン設備(核となる装置)として採用される。なお、表面処理工程だけでなく、水洗や脱水などの各工程を構築する際のメイン設備(核となる装置)としても採用可能である。
【0015】
図1乃至図4に示すように、本発明に係る表面処理装置1は、処理液を貯留可能な処理槽2と、この処理槽2内に設けられたバスケット保持手段3とを有している。バスケット保持手段3は、被処理物を収容するバスケット5を正立姿勢のまま保持可能にするものであって、必要に応じてバスケット5を着脱自在としている。
バスケット5は、例えば上方軌道(図示略)に沿って移動する昇降型ハンドリング装置等により処理槽2に対する出し入れ(バスケット保持手段3へ向けた昇降)や工程間移動が行われる。なお、被処理物は例えばボルトやナット等、種々様々である。
【0016】
処理槽2は定置設置されるものであり、図例では処理槽2の下部に管理槽6が設けられたものとしている。すなわち、処理槽2は管理槽6を基礎としてその上部に二階建て状に固定されている。この管理槽6は、処理槽2よりも側方へ張り出す大きさに形成されている。
処理槽2は上部が開放されてバスケット5の出し入れが可能になっている。なお、刺激臭を伴った処理ガスの放散を防止したり、塵埃や害虫等が処理液に混入するのを防止したりするために、処理槽2に対して開閉自在な蓋を設けてもよい。
【0017】
バスケット保持手段3は、保持したバスケット5を、バスケット中心Pを通る回転軸心まわりで回転自在に保持するようになっている。これに伴い、本発明に係る表面処理装置1は、バスケット保持手段3に対し、バスケット回転用の駆動を付与させるための回転駆動部7を有している。
また処理槽2の槽内で、バスケット保持手段3により保持されたバスケット5は、図3に示すように正立した姿勢(バスケット5の出し入れ口5aが上方を向いた姿勢)と、図4に示すように側方へ横倒した姿勢(バスケット5の出し入れ口5aが横を向いた姿勢)とに姿勢変更可能とされている。横倒した姿勢とは、例えばバスケット中心Pが水平(横倒角度θ=90°)になる姿勢である。
【0018】
この姿勢変更を可能にするため、本発明に係る表面処理装置1は、バスケット5を保持したバスケット保持手段3を、その全体として揺動させるようにした揺動手段10を有したものとなっている。
バスケット保持手段3は、揺動手段10による姿勢変更とは無関係にバスケット5を回転自在な状態に保持するので、以下ではバスケット5が正立した姿勢を、バスケット保持手段3に関しての「正立回転姿勢」と言い、側方へ横倒した姿勢を、同じく「横倒回転姿勢」と言うことにする。これら「正立回転姿勢」及び「横倒回転姿勢」は、処理槽2内でバスケット5が保持された姿勢を表現する場合にも、一部で流用することにする。
【0019】
なお、上記した回転駆動部7は、バスケット保持手段3が少なくとも横倒回転姿勢とされたときに、バスケット保持手段3に対してバスケット回転用の駆動を付与できるようになっていれば足りる。
すなわち、本発明に係る表面処理装置1は、処理槽2を不動としたまま(従来の表面処理装置とは異なり処理槽を全体として傾斜動作させる必要はない)、バスケット保持手段3と共にバスケット5を横倒回転姿勢にさせ、この横倒回転姿勢にさせたままでバスケット5を回転させることができるものである。更に言えば、バスケット5を横倒させた状態のままで表面処理を実施できるようになっている。
【0020】
なお、本実施形態において回転駆動部7は、バスケット保持手段3が正立回転姿勢とされたときも、バスケット保持手段3に対してバスケット回転用の駆動を付与できるようにしてある。しかも、この正立回転姿勢時には、横倒回転姿勢時よりも高速回転となる駆動を付与できるようにしてある。従って、表面処理が終わった後にバスケット5を正立させ、この状態(正立回転姿勢)でバスケット5を高速回転させて脱水乃至乾燥を実施できるようになっている。
[バスケット]
図5及び図7に示すように、バスケット5は、周壁12とこの周壁12の下部内方を閉鎖する底部13とを有する籠型とされ、周壁12の上端側に被処理物用の出し入れ口5aが設けられたものとなっている。少なくとも周壁12は多孔板や網構造材等により形成されて透水性を有している。
【0021】
後述するように、バスケット保持手段3が陽極機能を有しているため、このバスケット5(周壁12及び底部13)はPVC、PP、PEの樹脂材で形成された非導体とされている。なお、鉄やステンレス等の金属材を芯材としてその内外面全体を上記樹脂材等によりコーティングすることにより、非導体化することもできる。
底部13の下面には、バスケット5の回転軸心(バスケット中心P)から径方向に離れた位置であって、且つ周方向に等配分布となる複数箇所(図例では3等配位置)に凸部脚14が設けられている。この凸部脚14は、バスケット5をバスケット保持手段3に保持させたときに、これら両者を周方向で凹凸係合させるためのものである。この凹凸係合によりバスケット5の位置決めと、バスケット保持手段3からバスケット5への回転駆動力の伝達、即ち、両者の一体回転とを可能にする。
【0022】
出し入れ口5aと周壁12との間には、周壁12による内径を出し入れ口5aへ向けて徐々に径小化することによって形成した傾斜肩部15が形成されている。また出し入れ口5aのまわりには、径方向外方へ向けて全周的に張り出すフランジ16が設けられている。このフランジ16は、バスケット5を処理槽2に対して出し入れするときや、バスケット5を工程間移動させる場合に、昇降型ハンドリング装置等によって係止させる部分となっている。
周壁12は、バスケット5が横倒回転姿勢とされたときに(図4参照)処理槽2内の処理液水面と平行する(即ち、水平となる)扁平面として形成されている。
【0023】
本実施形態では、バスケット5の横倒回転姿勢を、バスケット中心Pが90°横向きになる状態(横倒角度θ=90°)としている。また本実施形態においてバスケット5の底部13は、正立回転姿勢で底部下面が水平となるようにしてある。そのため、周壁12は、バスケット5が正立回転姿勢とされているときには(図3参照)、底部13の下面に対して直交する方向、即ち、垂直の起立姿勢で起立形成されていることになる。
これらのことから、バスケット5が正立回転姿勢から横倒回転姿勢へと姿勢変更されると、被処理物は周壁12の内面で低い丘状(扁平状態)に広がりやすく、山高な山積状態とはなり難くなる。
【0024】
従って、バスケット5の回転に伴い、それだけ被処理物の攪拌作用が高効率で得られ、結果として、被処理物に対する表面被膜が分厚く且つ均一膜厚となって形成されるようになる。また被処理物は傾斜肩部15で跳ね返されて出し入れ口5aからこぼれ落ちることはない。
但しこれらのことは一例であって、バスケット5の横倒回転姿勢を、バスケット中心Pが90°以外となるように設定する(例えば、図14に示すように横倒角度θ=60°にする)ことも可能である。このような場合では、バスケット5が横倒回転姿勢とされたとき、周壁12と処理液とは平行するが、バスケット5が正立回転姿勢とされたとき、必ずしも周壁12と底部13の下面とは直交関係とはならない。また周壁12は垂直の起立姿勢とならない。
【0025】
周壁12と底部13の下面とを直交関係にすることや、周壁12を垂直の起立姿勢とさせることは、バスケット5を他の工程で取り扱う際の載置安定性や、バスケット5の構造上の簡潔化を図る点、更には、バスケット5を正立回転姿勢とさせて高速回転させるとき(脱水乃至乾燥を行うとき)の被処理物の状態を考慮してのことである。
底部13は正多角形に形成するのが好適であり、周壁12は、この底部13の形状に合わせた正多角形筒として形成すればよい。このようにすることで、バスケット5を横倒回転姿勢にして回転させたとき、内部の被処理物を効率よく攪拌させることができる。また、バスケット5としての製作も容易で低コスト化できる。
【0026】
図例は底部13を正八角形とした場合であるが(図7参照)、この他、正方形、正五角形、正六角形などとしてもよい。なお、長方形はじめ、円形や楕円形などとしてもよい。
一方、バスケット5には、周壁12や底部13の内面で露出する陰極部20と、この陰極部20に導通した状態で底部下面へ配される導電部21とが設けられている。
陰極部20は、バスケット中心Pで底部上面から上方(バスケット5内)へ突出する円筒状の中央缶部22と、この中央缶部22の下端外周から径方向外方へ向けて全周的に張り出して設けられたフランジ板部23とを有している。
【0027】
このフランジ板部23は、底部13の上面(バスケット5内を向く面)で回転軸心(バスケット中心P)まわりの同心円形を呈しており、このフランジ板部23の上面が陰極部20としての露出部分を形成していることになる。即ち、このフランジ板部23の上面に、バスケット5内へ収容される被処理物が接触することで、被処理物が陰極部20と導通するものである。
中央缶部22は、その上端部が上蓋22aによって閉塞されており、この上蓋22aの中央部から下方へ向けて突出する状態で、上記した導電部21が設けられている。この中央缶部22には半球ドーム形のキャップ部を有するカバー25が外嵌されており、このカバー25により、上蓋22aと導電部21との結合部が処理液や被処理物との接触から隔離(保護)されるようになっている。
【0028】
また中央缶部22の内部には、その内周面及び内部天井面を内張状に覆うように非導電性の内部隔壁26が設けられている。この内部隔壁26は、底部13の中央部、即ち、バスケット5の回転軸心(バスケット中心P)を中心として上部突出状に設けられた状態になっている。すなわち、この内部隔壁26によってその内側に、下向きに開放した円柱状の凹部が形成されるようになる。
この凹部は、後述するバスケット保持手段3(回転台36)との間で相対的な位置決めをしつつ、当該バスケット5を支持するための軸受部27となる。要するに、この軸受部27内の中心部に、導電部21が収容状態で設けられていることになる。この導電部21は外径が一定の丸棒部として形成されており、下端部には、下方へゆくほど尖るテーパ部21aが形成されている。
【0029】
陰極部20や導電部21は、導電性を有する素材であれば特にその材質が限定されるものではなく、例えば銅や鉄、ステンレスなどとすればよい。
なお、上記したようにバスケット5は全体として非導体化されているので、陽極を兼ねるバスケット保持手段3と陰極部20(フランジ板部23の上面)との間での短絡は可及的に防止され、被処理物に対する表面処理が十分に優先される。
[バスケット保持手段]
図1乃至図4に示すように、バスケット保持手段3はブランコ枠35を有しており、このブランコ枠35の上部でバスケット5を保持するようになっている。このブランコ枠35は、バスケット5を着脱自在な状態で受載可能にする回転台36と、この回転台36を回転自在に支持する支持床37と、この支持床37の両端部に起立状態に設けられた一対の立枠38とで形成されている。
【0030】
なお、本実施形態では、一度に二つのバスケット5を保持できるようにしたものを示してあり、そのために支持床37上には2台の回転台36が並んで設けられている。
図6及び図8に示すように、回転台36は平面視して円形に形成されており、回転台36の下部中心位置には、回転軸40が突設されている。この回転軸40は回転台36と一体回転可能とされ、支持床37に対しては軸受け具41等を介して回転自在に保持されている。言うまでもなく、回転軸40の軸心はこの回転台36上に保持されるバスケット5の回転軸心(バスケット中心P)と同軸の関係にある。
【0031】
回転台36の上面にはバスケット5を保持するための構造として、回転台36の上部中心位置(回転軸40と同軸位置)で突出した支持軸43と、この支持軸43のまわりを取り囲むように配置された複数の脚受け凹部44とが設けられている。すなわち、脚受け凹部44は、回転軸40の軸心(バスケット5の回転軸心)から径方向に離れた位置であって、且つ周方向に等配分布となる配置で設けられている。
脚受け凹部44は、バスケット5をバスケット保持手段3に保持させたときに、バスケット5の凸部脚14を受け入れ、周方向の凹凸係合をさせる部分である。これら脚受け凹部44と凸部脚14とが凹凸係合状態になることで、バスケット保持手段3の回転時におけるバスケット5の一体回転(回転駆動力の伝達)が可能になる。
【0032】
本実施形態では、バスケット5の凸部脚14が周方向の3等配位置に設けられている(図7参照)ことに対応して、脚受け凹部44も周方向の3等配位置に設けられている。個々の脚受け凹部44は扇形状(正確には円錐台の斜面部分を展開した形状)に形成されたものとしてある。また互いに隣接する脚受け凹部44同士は、回転軸40の軸心から放射状に延びる区画条45によって区画されている。
なお図9に示すように、区画条45は、その断面形状が山形に形成されている。そのため、バスケット保持手段3(回転台36)にバスケット5を載せたとき、バスケット5の凸部脚14が区画条45の上に乗り上げるようになったとしても、この区画条45の斜面に導かれて凸部脚14が脚受け凹部44に落ち込み、脚受け凹部44と凸部脚14とが確実に凹凸係合するようにしてある。
【0033】
本実施形態では、脚受け凹部44の開口形状に対して凸部脚14の突出形状(平面視形状)が小さく、両者は周方向での遊嵌状態となるが、回転台36が一方向へ回転を始めることで脚受け凹部44内の回転方向後方側に凸部脚14が係合し、この状態で回転駆動力が伝達されるから、何ら問題はない。むしろ、このような遊嵌状態は、回転台36に対するバスケット5の着脱が容易となる点で好適とされる。
支持軸43は、バスケット5をバスケット保持手段3に保持させたときに、バスケット5の軸受部27(内部隔壁26の内側)が被さり、ガタツキなく嵌合する部分である。この嵌合により、バスケット保持手段3が横倒回転姿勢とされたときのバスケット5の荷重(バスケット5内の被処理物の荷重を含む)や、バスケット5を回転させたときの遠心力を、支持軸43で支持できるようになっている。
【0034】
なお、軸受部27との嵌合を容易且つ円滑化するため、支持軸43の上端部外周面には先細りのテーパ43aが付されている。
一方、回転台36には、処理槽2に貯留される処理液に対して陽極電流を印加できるようにした通電部50(以下、説明の便宜上、「第1通電部50」と言う)と、バスケット5の陰極部20と導通させるようにした通電部51(以下、説明の便宜上、「第2通電部51」と言う)とが設けられている。
第1通電部50は、回転台36の外周部に沿うようにして包囲壁52を設けることによって実現されている。この包囲壁52は、回転台36上にバスケット5が保持されたときに、その周壁12を取り囲むようになっており、SS材などの導体により形成されている。また回転台36自体もSS材やSUS等の導体で形成されており、この回転台36を通じて包囲壁52に陽極電流が印加される。
【0035】
包囲壁52は、多数本の柱材54が互いに所定間隔をおいて立設されることによって形成されている。柱材54は、丸棒、角棒又はパイプ等で形成してある。その他、回転台36の回転中心から径方向外方へ延びる方向で板面を沿わすように細帯状の板片を並べるものとしてもよい。
このように多数本の柱材54の集合体として包囲壁52が形成されているため、各柱材54の相互間によって透水性も十分に確保され、そのうえで処理液との接触面積も十分に確保されている。すなわち、包囲壁52としての表面積(陽極面積)を可及的に拡大できるので、陰極対陽極のデシ比を1対1、又は陰極より陽極を大きくできるといった利点に繋がる。従って表面処理時間の短縮や、良質の表面処理を施す点で極めて有益なものとなっている。
【0036】
第2通電部51は支持軸43によって実現されている。すなわち、支持軸43は軸心部に筒孔53が形成された筒軸とされており、この筒孔53に対し、バスケット5の軸受部27内に設けられた導電部21(丸棒部とされた部分)がガタツキなく挿入可能になっている。
支持軸43は、少なくとも筒孔53の内周面が導電性を有したものとされており、ここに導電部21が挿入されることによって、バスケット5の導電部21とバスケット保持手段3の第2通電部51とが通電接触するものである。
【0037】
本実施形態において、支持軸43は、樹脂などの非導体によって形成された外装筒55と、銅や鉄、ステンレス等の導体によって形成された核軸56との内外二重軸構造となっており、この核軸56の中心部に筒孔53が形成されたものとなっている。
外装筒55は回転台36から上方へ突出する範囲(バスケット5の軸受部27が被さる範囲)で核軸56の外側を被覆する状態となっており、核軸56は回転台36を貫通して下方へ突出するようになっている。
核軸56は、回転台36の下方へ突出することによって回転軸40の内部をも貫通し、更に回転軸40の下端からも突き出す長さを有している。すなわち、この回転軸40も内外二重軸構造になっている。核軸56において回転軸40の下端から突き出した部分には、回転シュー57が取り付けられており、この回転シュー57に対して陰極ブラシ58が摺接されている。
【0038】
核軸56が回転台36を貫通する部分には、外装筒55の下端部を支持した状態でこの外装筒55とボルト結合されたボス部60が外嵌されている。このボス部60は、樹脂などの非導体によって形成されており、これによって回転台36(陽極側)と核軸56(陰極側)との間が電気的に絶縁されている。
また回転軸40も樹脂などの非導体によって形成されており、この回転軸40を回転自在に保持している軸受け具41と核軸56との間も、電気的に絶縁された状態となっている。
【0039】
このような構造の第2通電部51であるため、バスケット5の回転時に作用する遠心力が導電部21と第2通電部51との通電接触を強めるように作用し、導電性が一層、確実で安定する利点を有している。そのため、この導電部21と第2通電部51との間の通電接触がバスケット5の回転を理由として脅かされることはなく(導電性が安定しなかったり接触不良が起こったりすることはない)、導電性に確実性が得られる。
なお、バスケット5の荷重や回転時の遠心力などの負荷は、上記したようにバスケットの軸受部27とバスケット保持手段3の支持軸43との間で支持される。また、バスケット5の凸部脚14とバスケット保持手段3の脚受け凹部44との周方向凹凸係合により、導電部21と第2通電部51との接触部分に回転駆動力が負荷として作用することもない。これらのことから、導電部21と第2通電部51との接触部分が、変形、摩耗、破損などすることはない。
【0040】
ところで、第2通電部51には、バスケット5の導電部21との接触部分へ向けて水を供給する給水手段65が設けられている。この給水手段65は、例えば核軸56の下端部にロータリーバルブ66を連結し、このロータリーバルブ66へ給水チューブ67を通じて給水することにより、核軸56内の通水路68から筒孔53内へと水を供給できるようにしてある。
そのため、導電部21と第2通電部51との接触部分では、給水された水(水膜)によって抵抗値が下がり、それだけ導電性が良好となる。従って、処理用の印加電圧を低く抑えることができ(例えば30%減にできる)、低コスト化に繋がる利点がある。
【0041】
また、このように抵抗値が下がることで発熱を抑えることが可能になる(冷却効果と同等の効果がある)。このことは、導電部21の熱膨張を防止できることに繋がる。
そのため、処理後においてバスケット保持手段3(回転台36)からバスケット5を取り出す際に、導電部21と第2通電部51との接触部分が離脱し難くなる、といった障害を防止できることになる。
なお、導電部21と第2通電部51との間に水膜ができることで、これら両者間の潤滑効果としても作用し、導電部21と通電部との離脱は一層容易になるという効果もある。
[揺動手段]
図1及び図2(図2のD部を拡大した図10をも参照)に示すように、揺動手段10は、バスケット保持手段3が有するブランコ枠35の各立枠38に対し、互いに一軸配置の位置関係を保持して揺動自在に支持する両側の枢軸70を有している。
【0042】
すなわち、図1及び図2中の左側に示した立枠38にはその左方へ延びるように左側の枢軸70が設けられ、同右側に示した立枠38には右方へ延びるように右側の枢軸70が設けられている。各枢軸70は、処理槽2に対し、側壁などを介して固定された軸支持部71によって保持されている。
またこの揺動手段10は、両側の枢軸70を支点としつつ、ブランコ枠35に対して揺動駆動を伝える揺動駆動部72を有している。この揺動駆動部72は、一方の枢軸70(図例では図1、図2の各右側のものとした)に対して同心軸配置で設けられた揺動ギヤ73と、この揺動ギヤ73を駆動させる揺動モータ75とを有している。
【0043】
揺動ギヤ73は、バスケット保持手段3(立枠38)に対して固定関係に設けられている。すなわち、立枠38に対して回転不能な状態(一体回転する状態)となっている。また、揺動モータ75は処理槽2の外部に設けられており、そのモータ軸75aが枢軸70より高位となる高さで処理槽2の側壁を貫通している。
本実施形態では、処理槽2の内部へ突出している揺動モータ75のモータ軸75aに駆動ギヤ74を設け、この駆動ギヤ74を揺動ギヤ73に噛合させた状態にすることにより、揺動ギヤ73を揺動モータ75で駆動させる構造とした。
【0044】
なお、例えばモータ軸75aに減速機や伝動手段などを連結させ、これら減速機や伝動手段の出力軸に駆動ギヤ74を設けてもよい。また、この減速機や伝動手段などは、処理槽2の外部に配置することも可能である。このようなことから、駆動ギヤ74の回転中心となる軸(駆動軸)は、揺動モータ75のモータ軸75a自体であってもよいし、それ以外でもよい。
このような構成の揺動手段10では、揺動モータ75によって駆動ギヤ74を回転駆動させることで、この駆動ギヤ74と揺動ギヤ73との間に相対回転を生じさせ、結果、この揺動ギヤ73と一緒にバスケット保持手段3の立枠38を枢軸70まわりに揺動させるものとなる。
【0045】
揺動モータ75は、モータ軸75aが枢軸70より高位とされていることで、処理槽2内に貯留される処理液よりも高位となるように考慮され、結果、揺動モータ75は腐食などを原因とした故障や破損から防御することができる。
[回転駆動部]
図1及び図2(図2のE部を拡大した図11をも参照)に示すように、回転駆動部7は、枢軸70と同心軸上であって、且つバスケット保持手段3に対して回転自在な状態として設けられた従動ギヤ77と、この従動ギヤ77の回転をバスケット保持手段3に保持されたバスケット5に伝える槽内伝動手段78と、従動ギヤ77に回転力を伝える回転用モータ79とを有している。
【0046】
従動ギヤ77は、揺動駆動部72の揺動ギヤ73が設けられたのとは反対側の枢軸70(図例では図1、図2の各左側のものとした)に対して設けられている。またこの従動ギヤ77にはベベルギヤを採用してある。
槽内伝動手段78は、バスケット保持手段3が有するブランコ枠35の支持床37に対し、その床上面と平行しつつ噛合並設された横歯車列80を有している。この横歯車列80は、入力位置(従動ギヤ77に近い位置)に設けられた第1ギヤ81から第2ギヤ82、第3ギヤ83、第4ギヤ84がこの順番で互いに噛合しつつ並んで設けられて成る。第1ギヤ81に対してベベルギヤ85が一体回転可能な状態で連結されており、このベベルギヤ85が従動ギヤ77と噛合されている。
【0047】
第2ギヤ82は、バスケット保持手段3の一つめの回転台36に対してその下面に一体回転可能に結合され(図6参照)、回転軸40と同軸で回転するようになっている。同様に、第4ギヤ84は、二つめの回転台36に対してその下面に一体回転可能に結合され、回転軸40と同軸で回転するようになっている(図示略)。第2ギヤ82と第4ギヤ84との間に第3ギヤ83が設けられていることで、第2ギヤ82と第4ギヤ84(即ち、二つの回転台36)の回転方向が同じになっている。
なお、第2ギヤ82の下面とブランコ枠35における支持床37の上面とに対し、回転軸40の軸心を中心とする同径の周溝が形成されており、この周溝に対して転動ボール86が嵌め入れられている。この連動ボール86により、第2ギヤ82の回転が安定され、ひいては回転台36、すなわちバスケット保持手段3の全体としての回転安定性が確保されている。これらのことは、第4ギヤ84についても同様である。
【0048】
回転用モータ79は処理槽2の外部に設けられており、そのモータ軸79aが枢軸70より高位となる高さで処理槽2の側壁を貫通している。
本実施形態では、処理槽2の内部へ突出している回転用モータ79のモータ軸79aに減速用歯車列90を連結し、この減速用歯車列90の出力軸91を枢軸70の軸心部へ二重軸構造にして回転自在に貫通させ、そのうえで、この出力軸91に対して従動ギヤ77を一体回転可能な状態で設けることにより、従動ギヤ77を回転用モータ79で駆動させる構造とした。
【0049】
なお、減速用歯車列90は処理槽2の外部に配置することが可能である。また、減速用歯車列90を省略し、モータ軸79aに対して直接に従動ギヤ77を設けるようにしてもよい。すなわち、従動ギヤ77の回転中心となる軸(駆動軸)は、回転用モータ79のモータ軸79a自体であってもよいし、それ以外でもよい。
このような構成の回転駆動部7では、回転用モータ79によって減速用歯車列90を介して従動ギヤ77を回転駆動させることで、この従動ギヤ77から横歯車列80を駆動させ、結果、この横歯車列80の第2ギヤ82及び第4ギヤ84を介してバスケット保持手段3の回転台36を回転させるものとなる。
【0050】
また、このような構成の回転駆動部7は、バスケット保持手段3が横倒回転姿勢のときだけでなく、バスケット保持手段3が正立回転姿勢となったときも、回転台36に対してバスケット回転用の駆動を伝えることができる。
回転用モータ79は、モータ軸79aが枢軸70より高位とされていることで、処理槽2内に貯留される処理液よりも高位となるように考慮され、結果、揺動モータ75は腐食などを原因とした故障や破損から防御することができる。
この回転駆動部7は、バスケット保持手段3の回転速度を「表面処理に適した処理速度」と「脱水に適した脱水速度」とに切り替え可能になっている。処理速度は2rpm以上12rpm以下の範囲(好ましくは3rpm以上10rpm以下)とすればよく、脱水速度は180rpm以上600rpm以下の範囲(好ましくは200rpm以上500rpm以下)とすればよい。
【0051】
具体的には、回転用モータ79をインバータ制御する。そのため、回転用モータ79の加速や減速は、緩やかな増減傾向で制御されるものとなる。これによりバスケット保持手段3に対するバスケット5の保持状態やバスケット5内に収容された被処理物に対し、慣性的な衝撃(瞬発的な始動や急停止等)が起こることはない。
[処理槽]
図1乃至図4に示すように、処理槽2には、槽内に貯留される処理液を予め設定した水位に保持させるためのオーバーフロー部95が設けられている。このオーバーフロー部95は、管理槽6に連通した状態として処理槽2内で立ち上がる排水樋部96を有したものであって、この排水樋部96に対して設定水位に合わせて溢流口97が設けられている。
【0052】
溢流口97が設けられる位置(高さ)は、バスケット保持手段3が横倒回転姿勢とされたときに(図4参照)、このバスケット保持手段3に保持されたバスケット5の下方側の周壁12よりも処理液の水面が高くなる(処理液が流れ込まない)高さであって、且つ、バスケット5の回転軸心(バスケット中心P)よりも処理液の水面が低くなる(処理液が流れ込む)高さに、決められている。
本実施形態では、バスケット保持手段3が横倒回転姿勢とされたとき、処理液の水面が支持軸43に接触しない程度(支持軸43が沈まない状態)となるように、溢流口97の位置(高さ)を決めてある。
【0053】
このようなオーバーフロー部95を有していることにより、処理槽2内では横倒状態に保持されたバスケット5に対する処理液の水位が所定範囲内に保たれるようになり、安定した表面処理が保障される。
本実施形態では、バスケット保持手段3の二つの回転台36に対して等距離となるように、それらの中間位置となる処理槽2の槽内壁面に沿わせて排水樋部96が立ち上がるようにしてある。また管理槽6の槽内へ突出させるように垂下管98を連結させてある。
[管理槽]
管理槽6は、処理槽2を空にしたい場合などに処理槽2から排水した処理液を暫時的に貯留したり、また貯留した処理液を必要に応じて濃度調整したりする部分である。従ってこの管理槽6には、図2に示すように、処理槽2との間に処理液送給手段100や、処理液の濃度調整部(例えば亜鉛等の溶解材を投入する部分など)が設けられている。
【0054】
本実施形態では、管理槽6の槽内が第一室101と第二室102の二室に区画されたものとしてある。これに伴い、処理液送給手段100は、第一室101から処理槽2へ処理液を送る第1供給管103と、第二室102から処理槽2へ処理液を送る第2供給管104とが設けられている。これら第1供給管103及び第2供給管104にはそれぞれポンプ105が設けられている。
また処理槽2から第一室101へ処理液を戻す第1回収管106と、処理槽2から第二室102へ処理液を戻す第2回収管107とが設けられている。
【0055】
このような処理液送給手段100を有しているため、第一室101に貯留させる処理液と第二室102に貯留させる処理液とを別種のものとして使い分けるような処理を行うことができる。
例えば、第一室101から第1供給管103を介して処理槽2へ処理液(X)を供給し、処理槽2内に保持されるバスケット5を処理液への浸漬状態にし、処理液(X)による表面処理を行う。その後、この処理液(X)を第1回収管106から第一室101へ回収する。次に、第二室102から第2供給管104を介して処理槽2へ処理液(Y)を供給して処理槽2内に保持されるバスケット5を処理液への浸漬状態にし、処理液(Y)による表面処理を行った後、この処理液(Y)を第2回収管107から第二室102へ回収する。
【0056】
第一室101に貯留する処理液(X)をめっき液とし、第二室102に貯留する処理液(Y)を水とする場合であれば、処理液(X)を第1回収管106から第一室101へ回収後、第二室102から処理槽2へ処理液(Y)を供給するまでの間に、バスケット保持手段3を正立回転姿勢に姿勢変更させるようにすればよい。
[給電]
回転駆動部7(図1及び図2参照)が具備する槽内伝動手段78の横歯車列80や、減速用歯車列90、従動ギヤ77などは金属製とされており、いずれも導体である。そこで、陽極用の配線110から導電ブラシ111により、減速用歯車列90の出力軸91(従動ギヤ77用の駆動軸)を軸支する部分などに陽極電流を印加する構造を採用してある。
【0057】
すなわち、陽極用の配線110から導電ブラシ111、減速用歯車列90、従動ギヤ77、横歯車列80が導通状態となり、この横歯車列80の第2ギヤ82(図6参照)や第4ギヤ84を介して、バスケット保持手段3の回転台36及び包囲壁52へと陽極電流が印加可能な状態が作られる。
一方、陰極用の配線112は処理槽2の側壁内面に設けたスライド接点部113に接続してある。バスケット保持手段3の正立回転姿勢時を示す図12及びバスケット保持手段3の横倒回転姿勢を示す図13に示すように、ブランコ枠35の立枠38には、このスライド接点部113に接触する状態で扇形のブラシ台115が設けられている。
【0058】
このブラシ台115には、バスケット保持手段3が姿勢変更する際の枢軸70を中心とする円弧帯形を呈した2本のブラシ116が貼り付けられており、このブラシ116がブラシ台115ごと、バスケット保持手段3と一体となって枢軸70まわりを揺動するようになっている。
そのため、スライド接点部113とブラシ116との間は、ブラケット保持手段3の姿勢の如何に関わらず、常に導通状態に保持されている。
そして、図1及び図2に示すように、このブラシ台115からは、二つの回転台36の横を通過するようにして配線用ステー117が設けられている。またこの配線用ステー117には、各回転台36の下方へ向けて分電用ステー118が分岐接続されている。
【0059】
図6に関して既に説明したように、回転台36の下方へ突出する核軸56に対して回転シュー57が取り付けられ、この回転シュー57に陰極ブラシ58が摺接するようになっているが、この陰極ブラシ58に対して、上記配線用ステー117及び分電用ステー118によって導かれる陰極用配線が接続されている。
このようにして、バスケット保持手段3の核軸56と陰極用の配線112との間が導通状態とされ、バスケット保持手段3にバスケット5が保持されれば、必然的に、このバスケット5の陰極部20も陰極用の配線112と導通状態となる。
[動作]
本実施形態の表面処理装置1についてその動作状況の一例を説明する。まず被処理物が収容されたバスケット5を処理槽2内へ搬入し、バスケット保持手段3の各回転台36上に載せる。その後、揺動手段10の作動によりバスケット保持手段3を横倒回転姿勢とさせる。
【0060】
次に、管理槽6の第一室101で濃度調整済みの処理液を第1供給管103から処理槽2へ供給し、処理槽2内を所定水位にする。この状態で、回転駆動部7により回転台36を回転駆動させる。このとき、回転駆動部7の回転用モータ79はインバータ制御によって鈍速回転(処理モード)とさせる。なお、処理槽2へ処理液を供給させた後に、バスケット保持手段3を横倒回転姿勢とさせるようにしてもよい。
かくしてバスケット5内の被処理物は、横倒回転姿勢とされたバスケット5の下位側の周壁12内面で低い丘状に均されて、処理液内に浸漬された状態になる。また被処理物は、バスケット5内で露出状態とされた陰極部20と接触した状態になる。
【0061】
この状態でバスケット保持手段3の包囲壁52(陽極)と陰極部20との間へ処理電流を印加することにより、バスケット5内の被処理物に対する表面処理が開始される。表面処理に必要な所定時間の経過後(12分以内で十分である)、処理電流を遮断し、回転駆動部7を停止させる。
次に、処理槽2内の処理液を第1回収管106から管理槽6の第一室101へ回収し、揺動手段10によってバスケット保持手段3を正立回転姿勢に戻す。これら処理液の回収とバスケット保持手段3の姿勢変更とはどちらが先行してもよいし、同時に行ってもよい。
【0062】
この後、管理槽6の第二室102から第2供給管104を介して処理槽2へ処理液(例えば水)を供給し、バスケット5が処理液に浸漬する状態にさせたまま、回転駆動部7の回転用モータ79により回転台36を回転駆動させる。このときも鈍速回転とすればよい。必要に応じて、正逆に交互切替しつつ回転台36を回転駆動させてもよい。これにより、バスケット5内の被処理物は処理液(めっき液など)のすすぎがされる。
処理槽2内の処理液を第2回収管107から管理槽6の第二室102へ回収し、回転駆動部7の回転用モータ79をインバータ制御で高速回転に切り替える。これにより、バスケット5内の被処理物は脱水乃至乾燥されるようになる。
【0063】
なお、この高速回転時において、バスケット5内の被処理物は底部13上の外周寄り乃至周壁12の内周面へ全周的に均一に散らばるようになり、安定的でバランスのよい高速回転(遠心力)を受けることになる。そのため、確実で迅速な脱水乃至乾燥が実施されることになる。
脱水乃至乾燥の終了後、回転駆動部7を停止させて処理槽2からバスケット5を搬出することで表面処理工程の1サイクルが完了する。
[まとめ]
以上詳説したところから明かなように、本発明に係る表面処理装置1では、処理槽2を傾けなくともバスケット5を正立回転姿勢と横倒回転姿勢との間で姿勢変更(傾斜)させることができるので、バスケット5の傾斜角度は、バスケット5を横倒させるほどの角度(例えば、横倒角度θ=90°)とさせることができるものである。バスケット5をこれだけ傾斜させたところで、処理槽2から処理液が溢れることは決してない。
【0064】
バスケット5を横倒させた状態で回転させると、バスケット5の周壁12は略水平な状態になるから、バスケット5内の被処理物はこの水平な周壁12の内面で低い丘状に均され、広げられることになる。そのため、被処理物は高効率で攪拌されることになり、個々の被処理物に対してその全表面に処理液が接触する状態になるから、表面被膜が分厚く且つ均一膜厚で形成されるようになる。
またバスケット5内の被処理物が処理液の水面上に露出してしまうこともないので、この点でも表面被膜を分厚く且つ均一膜厚にさせるうえで有益となる。電流値を上げたり処理時間を長引かせたりしなくてもよいので、低コスト化にも有益となる。
【0065】
バスケット5内の被処理物に対する陰極の印加を、バスケット5の底部下面に設けた導電部21で行うようにすることで、この部分を空気中に露出させず、アルカリなどの腐食雰囲気から防御することが可能になる。従って、この接点部分を腐食し難くし、導電性の悪化を防止することができる(抵抗値が高くなるのを防止できる)。
また、バスケット5において、その底部下面(バスケット5を正立させたときに底部13において下向きとなる面)に導電部21が設けられているので、バスケット5の取り扱い時(被処理物の出し入れ時等)に導電部21が変形や破損することも殆どない。従って、このような導電部21の変形や破損を原因とする導電性の低下も防止できる。
【0066】
一方、本発明に係る表面処理装置1において、処理を行う都度、揺動を繰り返し行わせるのはバスケット保持手段3であり、処理槽2ではないので、バスケット回転用モータ79を処理槽2又は処理槽2の外部へ設置固定したとしても、このバスケット回転用モータ79の荷重がバスケット保持手段3の揺動時に負担となることはない。
従って、揺動手段10に装備させる揺動モータ75は、コンパクトなものを選択できる。また、揺動手段10自体も、構造的に簡潔化できることになる。
また、バスケット保持手段3を揺動させるときに、処理槽2は揺動させる必要がないため、処理槽2内の処理液に無用な慣性(波立ちの発生原因となる)が生じることはない。その結果、バスケット保持手段3の揺動を迅速に行うことが可能となり、動作効率を上げる(サイクルタイムを短縮する)ことが可能になる。
[その他]
ところで、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施の形態に応じて適宜変更可能である。
【0067】
バスケット保持手段3によるバスケット5の保持構造としては、支持軸43と軸受部27との嵌合によるものに限定されず、バスケット5の底部13に支持軸43が設けられ、回転台36にこの支持軸43と嵌合離脱自在な軸受部が設けられたものとしてもよい。
また、バスケット5の導電部21とバスケット保持手段3の第2通電部51とを接触させる構造で、「支持軸43と軸受部27との嵌合状態」を兼用させるようにしてもよい。
すなわち、図15に示すように、バスケット保持手段3の第2通電部51は、バスケット5の回転軸心(バスケット中心P)を中心として突出形成された凸部200を有して形成されたものとし、これに対してバスケット5の導電部21は、上記凸部200に嵌合離脱自在となる凹部201を有して形成されたものとする。そして、これら凸部200と凹部201との嵌合で、導電部21と第2通電部51との通電接触が可能となる構成を採用することも可能である。
【0068】
ここにおいて、凸部200は支持軸43としての作用を兼ねていることになり、また凹部201は軸受部27としての作用を兼ねていることになる。
なお、バスケット5の導電部21として凸部200を有したものとし、バスケット保持手段3の第2通電部51が、この凸部200に嵌合離脱自在な凹部201を有したものとしてもよい。
図15に示したバスケット5では、陰極部20が有するフランジ板部23に対し、周壁12の内周面に沿うように筒体部202を設けてあり、この筒体部202でも被処理物との接触(導通)をさせるようにしている。すなわち、陰極部20は、周壁12の内周面で露出させるような構成である。このような陰極部20としてもよい。
【0069】
カバー25についても、半球ドーム形のキャップ部に変えて円錐形のキャップ部としたり、コップ底のようなキャップ部にしたりすることが可能である。このカバー25を多角形の筒形に形成することも可能である。
バスケット保持手段3において、二つの回転台36を有した例を説明したが、この場合、各回転台36ごとに回転用モータ79付きの回転駆動部7を設けるようにしてもよい。このようにすると、各回転台36ごとにバスケット5の回転タイミングや回転数などを独自制御できるので、それぞれに被処理品の種類、大きさ、収容量、処理程度(処理時間)、脱水や乾燥の程度(処理時間)を変えるといったことができる。
【0070】
表面処理の種類は何ら限定されるものではない。例えば、亜鉛めっき、ニッケルめっき、クロムめっき等のめっきはもとより、着色処理、化成処理、アルカリ洗浄なども含まれる。また、被処理物についても何ら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明に係る表面処理装置の一実施形態を示した平面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図1のB−B線断面図である。
【図4】図3からの動作説明図(正立回転姿勢から横倒回転姿勢へ姿勢変更させた様子を示した図)である。
【図5】バスケットの側断面図である。
【図6】図1のC−C線断面図である。
【図7】バスケットの底面図である。
【図8】バスケット保持手段の一部破砕平面図である。
【図9】バスケット保持手段の脚受け凹部に対してバスケットの凸部脚が乗る状況を説明した側断面図(図8のG−G線断面図に相当)である。
【図10】図2のD部拡大図である。
【図11】図2のE部拡大図である。
【図12】図1のF−F線断面図である。
【図13】図12からの動作説明図(正立回転姿勢から横倒回転姿勢へ姿勢変更させた様子を示した図)である。
【図14】バスケットの別例を示した側断面図である。
【図15】バスケットに設ける陰極部の別例を示した側断面図である。
【図16】従来の表面処理装置を示した側断面図である。
【符号の説明】
【0072】
P バスケット中心
1 表面処理装置
2 処理槽
3 バスケット保持手段
5 バスケット
5a 出し入れ口
7 回転駆動部
10 揺動手段
12 周壁
13 底部
15 傾斜肩部
20 陰極部
21 導電部
27 軸受部
35 ブランコ枠
36 回転台
37 支持床
38 立枠
43 支持軸
51 通電部
53 筒孔
65 給水手段
70 枢軸
72 揺動駆動部
73 揺動ギヤ
75 揺動モータ
75a モータ軸
77 従動ギヤ
78 槽内伝動手段
79 回転用モータ
79a モータ軸
80 横歯車列
95 オーバーフロー部
97 溢流口
200 凸部
201 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透水性を有する周壁(12)とこの周壁(12)の下部内方を閉鎖する底部(13)とで被処理物を収容可能にするバスケット(5)と、
このバスケット(5)を正立姿勢のまま着脱自在とし且つバスケット中心(P)を通る回転軸心まわりでバスケット(5)を回転自在に保持するバスケット保持手段(3)と、
このバスケット保持手段(3)をバスケット(5)の正立回転姿勢と側方へ横倒した横倒回転姿勢との間で揺動させる揺動手段(10)と、
上記バスケット保持手段(3)が少なくとも横倒回転姿勢のときに当該バスケット保持手段(3)に対してバスケット回転用の駆動を伝えることが可能な回転駆動部(7)と、
上記バスケット保持手段(3)を全体として収容した状態で定置設置され槽内に処理液を貯留可能にする処理槽(2)と
を有していることを特徴とする表面処理装置。
【請求項2】
前記処理槽(2)には、バスケット保持手段(3)が横倒回転姿勢のときに当該バスケット保持手段(3)に保持されたバスケット(5)の下方側の周壁(12)より高くなる水位であって且つバスケット(5)の回転軸心より低くなる水位を保持するように溢流口(97)を配置したオーバーフロー部(95)が設けられていることを特徴とする請求項1記載の表面処理装置。
【請求項3】
前記バスケット(5)には、周壁(12)の上端に形成される被処理物の出し入れ口(5a)と周壁(12)との間に、周壁(12)による内径を出し入れ口(5a)へ向けて徐々に径小化することによって形成した傾斜肩部(15)が形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の表面処理装置。
【請求項4】
前記バスケット(5)の周壁(12)は、バスケット保持手段(3)による横倒回転姿勢に保持されたときに処理槽(2)内の処理液水面と平行する扁平面として形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の表面処理装置。
【請求項5】
前記バスケット(5)の周壁(12)は、底部(13)下面に対して直交する方向に起立形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の表面処理装置。
【請求項6】
前記バスケット保持手段(3)は、バスケット(5)を横倒回転姿勢にしたときにバスケット(5)の回転軸心が水平となるように保持することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の表面処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−31335(P2010−31335A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196862(P2008−196862)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(592190486)木田精工株式会社 (26)