説明

表面処理金属材およびその製造方法

【課題】耐食性、耐熱性、耐指紋性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性に優れたクロメートフリー表面処理金属材を提供する。
【解決手段】 金属材表面に、下記(1)から(4)の成分を所定の割合で含有する水系金属表面処理剤を塗布し、乾燥することにより複合皮膜を形成してなる表面処理金属材。
(1)分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)と、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)とを所定の割合で配合して得られる、特定の官能基(a)2個以上と、親水性官能基(b)1個以上とを有し、平均の分子量が1,000〜10,000である有機ケイ素化合物(W)、(2)チタン化合物およびジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の金属化合物(X)、(3)リン酸(Y)、及び(4)へテロポリ酸化合物(Z)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理金属材に関する。さらに詳しくは、クロメートフリー表面処理を施した金属材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、金属材料表面への密着性に優れ、金属材料表面に耐食性や耐指紋性などを付与する技術として、金属材料表面に、クロム酸、重クロム酸又はそれらの塩を主成分として含有する処理液によりクロメート処理を施す方法が用いられていたが、近年、クロメート処理皮膜は有害な6価クロムを多量に含んでおり、環境に配慮すべく、クロメート皮膜の代替として使用できるノンクロム系の表面処理技術の開発が行われている。このようなノンクロム系の表面処理技術としては、例えば、無機成分を用いた処理を施す方法、リン酸塩処理を施す方法、シランカップリング剤単体による処理を施す方法、有機樹脂皮膜処理を施す方法、などが知られており、実用に供されている。
【0003】
ところで、主として無機成分を用いる技術としては、特許文献1に、バナジウム化合物と、ジルコニウム、チタニウム、モリブデン、タングステン、マンガン及びセリウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属化合物とを含有する金属表面処理剤が開示されている。
【0004】
一方、主としてシランカップリング剤を使用する技術としては、特許文献2に、一時的な防食効果を得るため、低濃度の有機官能シランおよび架橋剤を含有する水溶液による金属板の処理が教示されている。架橋剤が有機官能シランを架橋することによって、緻密なシロキサン・フィルムを形成する方法が開示されている。
また、特許文献3には、特定の樹脂化合物(A)と、第1〜3アミノ基及び第4アンモニウム塩基から選ばれる少なくとも1種のカチオン性官能基を有するカチオン性ウレタン樹脂(B)と、特定の反応性官能基を有する1種以上のシランカップリング剤(C)と、特定の酸化合物(E)とを含有し、且つカチオン性ウレタン樹脂(B)及びシランカップリング剤(C)の含有量が所定の範囲内である表面処理剤を用いて、耐食性に優れ、さらに耐指紋性、耐黒変性および塗装密着性に優れたノンクロム系表面処理鋼板及びその製造方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、これらの技術は耐食性、耐熱性、耐指紋性、導電性および加工時の耐黒カス性の全てを満足するものではなく、実用化に至って依然として問題を抱えている。
【0006】
更に、特許文献4にて開示された技術は、亜鉛表面にタングステン酸化合物等の無機系化合物と珪酸化合物を含むpHが9〜14のコーティグ処理液を接触させる耐食性皮膜の形成方法に関するものであるが、タングステン酸化合物等の酸化型腐食インヒビターを含有した皮膜で確かに耐食性は優れるが、アルカリ性薬剤を使用するため両性金属である亜鉛が過剰にエッチングされ皮膜特性を劣化させるため、薬剤寿命が短い。
【0007】
また、特許文献5にて開示された技術は、金属材表面に、分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)と、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)を固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.5〜1.7の割合で配合して得られる有機ケイ素化合物(W)と、チタン弗化水素酸またはジルコニウム弗化水素酸から選ばれる少なくとも1種のフルオロ化合物(X)と、リン酸(Y)と、バナジウム化合物(Z)からなる水系金属表面処理剤を塗布し乾燥することにより、各成分を含有する複合皮膜を形成しているクロメートフリー表面処理金属材に関するものである。この表面処理金属材は、確かに、耐食性、耐熱性、耐指紋性等に優れた皮膜を提供するが、最近の厳格化した耐食性レベルへの対応は未だ不十分である。
このように、いずれの方法でもクロメート皮膜の代替として使用できるような表面処理剤を得られていないのが現状であり、これらを総合的に満足できる表面処理剤および処理方法の開発が強く要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−30460号公報
【特許文献2】米国特許第5,292,549号明細書
【特許文献3】特開2003−105562号公報
【特許文献4】特開2009−161856号公報
【特許文献5】特開2007−51365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来技術の有する前記課題を解決して、耐食性、耐熱性、耐指紋性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性を満足するクロメートフリー表面処理を施した金属材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らはこれらの問題を解決すべく鋭意検討を重ねてきた結果、金属材表面に、特定のシランカップリング剤2種類を特定の固形分質量比で配合して得られる、分子内に特定の官能基を2個以上と、特定の親水性官能基を1個以上含有する有機ケイ素化合物(W)、金属化合物(X)、リン酸(Y)、およびヘテロポリ酸化合物(Z)を添加した水系金属表面処理剤を塗布し、これを乾燥することにより各成分を含有する複合皮膜を形成することで、耐食性が飛躍的に向上し、その他、耐熱性、耐指紋性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性の全てを満足するクロメートフリー表面処理金属材が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、次の<1>から<11>の表面処理金属材およびその製造方法にかかる発明に関するものである。
<1> 金属材表面に、下記(1)から(4)の成分、
(1)分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)と、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)とを固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.5〜1.7の割合で配合して得られる、分子内に式−SiR123 (式中、R1、R2及びR3は互いに独立に、アルコキシ基又は水酸基を表し、少なくとも1つはアルコキシ基を表す)で表される官能基(a)2個以上と、水酸基(官能基(a)に含まれ得るものとは別個のもの)およびアミノ基から選ばれる少なくとも1種の親水性官能基(b)1個以上とを有し、平均の分子量が1,000 〜10,000 である有機ケイ素化合物(W)
(2)チタン化合物およびジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の金属化合物(X)
(3)リン酸(Y)
(4)へテロポリ酸化合物(Z)
を含有する水系金属表面処理剤を塗布し、乾燥することにより形成された複合皮膜を有し、
前記複合皮膜中の各成分の割合が、
1)前記有機ケイ素化合物(W)と前記金属化合物(X)との固形分質量比を〔(X)/(W)〕としたとき、0.02≦〔(X)/(W)〕≦0.07
2)前記有機ケイ素化合物(W)と前記リン酸(Y)との固形分質量比を〔(Y)/(W)〕としたとき、0.03≦〔(Y)/(W)〕≦0.12
3)前記有機ケイ素化合物(W)と前記へテロポリ酸化合物(Z)との固形分質量比を〔(Z)/(W)〕としたとき、0.01≦〔(Z)/(W)〕≦1.0
である表面処理金属材。
<2> 前記へテロポリ酸化合物(Z)が、珪タングステン酸化合物又はリンタングステン酸化合物である前記<1>に記載の表面処理金属材。
<3> 前記水系金属表面処理剤が、バナジウム化合物(L)を、前記有機ケイ素化合物(W)とバナジウム化合物(L)との固形分質量比を〔(L)/(W)〕としたとき、0.05≦〔(L)/(W)〕≦0.17の割合で更に含有する前記<1>又は<2>に記載の表面処理金属材。
<4> 前記水系金属表面処理剤が、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂およびアクリル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂(J)を、前記有機ケイ素化合物(W)と樹脂(J)との固形分質量比を〔(J)/(W)〕としたとき、0.1≦〔(J)/(W)〕≦1.0の割合で更に含有する前記<1>から<3>のいずれかに記載の表面処理金属材。
<5> 前記水系金属表面処理剤が、硫酸コバルト、硝酸コバルトおよび炭酸コバルトからなる群から選ばれる少なくとも1種のコバルト化合物(C)を、前記有機ケイ素化合物(W)とコバルト化合物(C)との固形分質量比を〔(C)/(W)〕としたとき、0.01≦〔(C)/(W)〕≦0.1の割合で更に含有する前記<1>から<4>のいずれかに記載の表面処理金属材。
<6> 前記複合皮膜の重量が0.05〜2.0g/m 2である前記<1>から<5>のいずれかに記載の表面処理金属材。
<7> 金属材表面に、下記(1)から(4)の成分、(1)分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)と、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)とを固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.5〜1.7の割合で配合して得られる、分子内に式−SiR123 (式中、R1、R2及びR3は互いに独立に、アルコキシ基又は水酸基を表し、少なくとも1つはアルコキシ基を表す)で表される官能基(a)2個以上と、水酸基(官能基(a)に含まれ得るものとは別個のもの)およびアミノ基から選ばれる少なくとも1種の親水性官能基(b)1個以上とを有し、平均の分子量が1,000 〜10,000 である有機ケイ素化合物(W)
(2)チタン化合物およびジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の金属化合物(X)
(3)リン酸(Y)
(4)へテロポリ酸化合物(Z)
を含有する水系金属表面処理剤をpH4〜6で塗布し、60℃から230℃で乾燥することにより複合皮膜を形成し、
前記複合皮膜中の各成分の割合が、
1)前記有機ケイ素化合物(W)と前記金属化合物(X)との固形分質量比を〔(X)/(W)〕としたとき、0.02≦〔(X)/(W)〕≦0.07
2)前記有機ケイ素化合物(W)と前記リン酸(Y)との固形分質量比を〔(Y)/(W)〕としたとき、0.03≦〔(Y)/(W)〕≦0.12
3)前記有機ケイ素化合物(W)と前記へテロポリ酸化合物(Z)との固形分質量比を〔(Z)/(W)〕としたとき、0.01≦〔(Z)/(W)〕≦1.0
である表面処理金属材の製造方法。
<8> 前記へテロポリ酸化合物(Z)が、珪タングステン酸化合物又はリンタングステン酸化合物である前記<7>記載の表面処理金属材の製造方法。
<9> 前記複合皮膜中の各成分の割合が、
1)前記有機ケイ素化合物(W)と前記金属化合物(X)との固形分質量比を〔(X)/(W)〕としたとき、0.02≦〔(X)/(W)〕≦0.07
2)前記有機ケイ素化合物(W)と前記リン酸(Y)との固形分質量比を〔(Y)/(W)〕としたとき、0.03≦〔(Y)/(W)〕≦0.12
3)前記有機ケイ素化合物(W)と前記へテロポリ酸化合物(Z)との固形分質量比を〔(Z)/(W)〕としたとき、0.01≦〔(Z)/(W)〕≦1.0
である前記<7>又は<8>に記載の表面処理金属材の製造方法。
<10> 前記水系金属表面処理剤が、バナジウム化合物(L)を、前記有機ケイ素化合物(W)とバナジウム化合物(L)との固形分質量比を〔(L)/(W)〕としたとき、0.05≦〔(L)/(W)〕≦0.17の割合で更に含有する前記<7>から<9>のいずれかに記載の表面処理金属材の製造方法。
<11> 前記水系金属表面処理剤が、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂およびアクリル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂(J)を、前記有機ケイ素化合物(W)と樹脂(J)との固形分質量比を〔(J)/(W)〕としたとき、0.1≦〔(J)/(W)〕≦1.0の割合で更に含有する前記<7>から<10>のいずれかに記載の表面処理金属材の製造方法。
<12> 前記水系金属表面処理剤が、硫酸コバルト、硝酸コバルトおよび炭酸コバルトからなる群から選ばれる少なくとも1種のコバルト化合物(C)を、前記有機ケイ素化合物(W)とコバルト化合物(C)との固形分質量比を〔(C)/(W)〕としたとき、0.01≦〔(C)/(W)〕≦0.1の割合で更に含有する前記<7>から<11>のいずれかに記載の表面処理金属材の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐食性、耐熱性、耐指紋性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性に優れたクロメートフリーの表面処理金属材が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において適用可能な金属材としては特に限定されるものではなく、例えば、鉄、鉄基合金、アルミニウム、アルミニウム基合金、銅、銅基合金等を挙げられ、任意に金属材上にめっきしためっき金属材を使用することもできる。中でも本発明の適応において最も好適なものは亜鉛系めっき鋼板である。
【0014】
亜鉛系めっき鋼板としては、亜鉛めっき鋼板、亜鉛−ニッケルめっき鋼板、亜鉛−鉄めっき鋼板、亜鉛−クロムめっき鋼板、亜鉛−アルミニウムめっき鋼板、亜鉛−チタンめっき鋼板、亜鉛−マグネシウムめっき鋼板、亜鉛−マンガンめっき鋼板、亜鉛−アルミニウム−マグネシウムめっき鋼板、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム−シリコンめっき鋼板等の亜鉛系めっき鋼板、さらにはこれらのめっき層に少量の異種金属元素又は不純物としてコバルト、モリブデン、タングステン、ニッケル、チタン、クロム、アルミニウム、マンガン、鉄、マグネシウム、鉛、ビスマス、アンチモン、錫、銅、カドミウム、ヒ素等を含有したもの、シリカ、アルミナ、チタニア等の無機物を分散させたものが含まれる。更には以上のめっきと他の種類のめっき、例えば鉄めっき、鉄−リンめっき、ニッケルめっき、コバルトめっき等と組み合わせた複層めっきも適用可能である。めっき方法は特に限定されるものではなく、公知の電気めっき法、溶融めっき法、蒸着めっき法、分散めっき法、真空めっき法等のいずれの方法でもよい。
【0015】
本発明のクロメートフリー表面処理金属材の水系金属表面処理剤の必須成分である有機ケイ素化合物(W)は、分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)と、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)を固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.5〜1.7の割合で配合して得られるものである。シランカップリング剤(A)とシランカップリング剤(B)の配合比率としては、固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.5〜1.7 であり、0.9〜1.6であることがより好ましい。
固形分質量比〔(A)/(B)〕が0.5未満であると、耐指紋性および浴安定性、耐黒カス性が低下するため好ましくない。逆に1 .7を超えると、耐水性が低下するため好ましくない。
【0016】
また、本発明中における前記分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)としては、特に限定するものではないが、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランなどを例示することができ、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどを例示することができる。
【0017】
また、本発明の有機ケイ素化合物(W)の製造方法は、特に限定するものではないが、pH4に調整した水に、前記シランカップリング剤(A)と、前記シランカップリング剤(B)を順次添加し、所定時間攪拌する方法が挙げられる。
【0018】
本発明の必須成分である有機ケイ素化合物(W)における官能基(a)の数は2個以上であることが必要である。官能基(a)の数が1個である場合には、金属材料表面に対する密着力および造膜性が低下するため、耐黒カス性が低下する。官能基(a)のR1、R2及びR3の定義におけるアルコキシ基の炭素数は特に制限されないが1から6であるのが好ましく、1から4であるのがより好ましく、1又は2であるのが最も好ましい。官能基(b)の存在割合としては、1分子内一個以上であればよい。有機ケイ素化合物(W)の平均の分子量は1,000〜10,000であることが必要であり、1,300〜6,000であることが好ましい。ここでいう分子量は、特に限定するものではないが、TOF−MS法による直接測定またはクロマトグラフィー法による換算測定のいずれを用いても良い。平均の分子量が1,000未満であると、形成された皮膜の耐水性が著しく低くなる。一方、平均の分子量が10,000より大きいと、前記有機ケイ素化合物を安定に溶解または分散させることが困難になる。
【0019】
また、本発明の必須成分の一つである金属化合物(X)としては、チタン化合物またはジルコニウム化合物から選ばれる。金属化合物(X)の形態は、特に限定されるものではないが、炭酸塩、酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、フッ化物、フルオロ酸(塩)、有機酸塩、有機錯化合物 等を用いることができる。中でも、後述するフッ化物、フルオロ酸(塩)であることが好ましい。
具体的には、塩基性炭酸ジルコニウム、乳酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、オキシ炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニルアンモニウム、酸化ジルコニウム(IV)(ジルコニア)、酸化チタン(IV)(チタニア)、硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニル、硝酸チタン、硫酸ジルコニウム(IV)、硫酸ジルコニル、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド、ジルコニウムテトラノルマルブトキシド、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトナート、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトナートビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムトリブトキシステアレート、酢酸ジルコニル硫酸チタン(III)、硫酸チタン(IV)、硫酸チタニル、オキシリン酸ジルコニウム、ピロリン酸ジルコニウム、リン酸二水素ジルコニル、フッ化ジルコニウム、ヘキサフルオロジルコニウム酸、ヘキサフルオロジルコニウム酸アンモニウム、硫酸チタン、フッ化チタン(III)、フッ化チタン(IV)、ヘキサフルオロチタン酸(H2TiF6)、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム、テトライソプロピルチタネート、テトラn−ブチルチタネート、テトラオクチルチタネート、チタンアセチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテート、チタンラクテートエチルエステル、チタントリエタノールアミネート、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンテトラ−2−エチルヘキソキシド、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトナート)、チタンテトラアセチルアセトナート、チタンジオクチロキシビス(オクチレングリコレート)、チタンジイソプロポキシ(エチルアセトアセテート)、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)、チタンラウレート、チタンラクテートアンモニウム塩、ジイソプロポキシチタニウムビスアセトン、チタニウムアセチルアセトネート、等が挙げられる。これらは無水物であってもよいし水和物であってもよい。これらの化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
金属化合物(X)の配合量に関しては、前記有機ケイ素化合物(W)と金属化合物(X)の固形分質量比〔(X)/(W)〕が0.02〜0.07であることが好ましく、0.04〜0.05である必要がある。前記有機ケイ素化合物(W)と金属化合物(X)の固形分質量比〔(X)/(W)〕が0.02未満であると、添加効果が発現しない恐れがあり、逆に0.07より大きいと導電性が低下する。
【0021】
また、本発明の他の必須成分であるリン酸(Y)の配合量に関しては、前記有機ケイ素化合物(W)とリン酸(Y)の固形分質量比〔(Y)/(W)〕が0.03〜0.12であである必要があり、0.06〜0.1であることが好ましい。前記有機ケイ素化合物(W)とリン酸(Y)の固形分質量比〔(Y)/(W)〕が0.03未満であると添加効果が発現しないおそれがあり、逆に0.12を超えると、皮膜の水溶化が著しくなるため好ましくない。
【0022】
また、本発明の他の必須成分であるヘテロポリ酸化合物(Z)の例としては、ケイモリブデン酸、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、リンタングストモリブデン酸、リンバナドモリブデン酸等が挙げられる。
これらのヘテロポリ酸化合物の中でも、珪タングステン酸化合物又はリンタングステン酸化合物が好適に使用される。ヘテロポリ酸化合物(Z)の配合量に関しては、前記有機ケイ素化合物(W)とタングステン酸化合物の固形分質量比〔(Z)/(W)〕が0.01〜1.0である必要があり、0.07〜0.15であることが好ましい。前記有機ケイ素化合物(W)とヘテロポリ酸化合物の固形分質量比〔(Z)/(W)〕が0.01未満であると耐食性添加効果が発現しないおそれがあり、逆に1.0を超えると、薬剤安定性が極めて低下するため好ましくない。
【0023】
本発明の表面処理金属材は、原材である金属材表面に、前記水系金属表面処理剤をpH4〜6で塗布し、60℃以上、230℃以下の到達温度で乾燥を行うことにより皮膜を形成させることにより得られる。表面処理剤(薬剤)のpHについては、pH4〜6以外の領域では、シランカップリング剤が自己縮合反応し、液安定性が保てない。
【0024】
乾燥温度については、到達温度で60℃以上、230℃以下、より好ましくは70℃〜150℃、更に好ましくは100℃〜140℃である。到達温度が60℃より低いと、該水系金属表面処理剤の溶媒が完全に揮発しないため十分な耐食性が得られない。逆に230℃を超えると、該水系金属表面処理剤にて形成された皮膜の有機鎖の一部が分解するため耐食性が劣化する。
【0025】
乾燥後の皮膜重量に関しては、0.05〜2.0g/m2であることが好ましく、0.2〜1.0g/m2であることが更に好ましく、0.3 〜0.6g/m2であることが最も好ましい。皮膜重量が0.05g/m2未満であると、該金属材の表面を被覆できないため耐食性が著しく低下するため好ましくない。逆に2.0g/m2より大きいと、加工時の耐黒カス性や導電性が低下する。
【0026】
また、本発明中における耐食性向上のための添加成分であるバナジウム化合物(L)としては、特に限定するものではないが、五酸化バナジウム、メタバナジン酸、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、オキシ三塩化バナジウム、三酸化バナジウム 、二酸化バナジウム、オキシ硫酸バナジウム、バナジウムオキシアセチルアセトネート、バナジウムアセチルアセトネート、三塩化バナジウム、リンバナドモリブデン酸などを例示することができる。また、5価のバナジウム化合物を水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、1〜3級アミノ基、アミド基、リン酸基及びホスホン酸基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する有機化合物により、4価〜2価に還元したものも使用可能である。
【0027】
また、その配合比率は、前記有機ケイ素化合物(W)とバナジウム化合物(L)の固形分質量比〔(L)/(W)〕が0.05〜0.17であることが好ましく、0.07〜0.15であることがより好ましく、0.11〜0.13であることが最も好ましい。前記有機ケイ素化合物(W)とバナジウム化合物(L)の固形分質量比〔(L)/(W)〕が0.05未満であると、バナジウム化合物(L)の添加効果が発現しないおそれがあり、逆に0.17より大きいと浴安定性が低下するため好ましくない。
【0028】
また、本発明の耐食性向上のための添加成分である樹脂(J)としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂から適宜選択される。
前記エポキシ樹脂としては、特に限定するものではないが、例えば、フェノール、ビスフェノールA、o−、m−、p−クレゾール、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるグリシジルエーテルまたはエステル類、ノボラックフェノール、ポリp−ビニルフェノール等ヒドロキシル芳香族化合物とエピクロロヒドリンとの反応によって得られるグリシジルエーテル類、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセロール、ソルビトール等の脂肪族ポリオール類とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるグリシジルエーテル類等を、更にアミン類を作用させることにより水溶性官能基を導入したものを用いることができる。これらエポキシ樹脂にシラノール基、アルコキシシリル基、リン酸基、リン酸エステル基を導入することもできる。これらのうち1成分のみ、または複数を組み合わせて使用することができる。
【0029】
また、前記ウレタン樹脂は、構成されるモノマー成分であるポリオールおよびポリイソシアナート成分の種類やこれらの重合方法は特に限定されるものではない。ウレタン樹脂は、一分子内に2個以上のイソシアネート基を有するジイソシアネート又はポリイソシアネートと、一分子内に2個以上の水酸基を有するジオール又はポリオールとの縮合重合物である。ここで、界面活性剤や水溶性高分子等の分散剤を用いて水分散化した強制乳化タイプ及び構造中に親水基を含む自己乳化タイプの何れも使用可能であるが、強制乳化タイプは、皮膜化した後に遊離した分散剤が溶出し耐水性、塗装密着性を低下させる場合があるので、ソープフリーの自己乳化タイプを使用することがより好適である。ここで、使用可能なイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ナフチレン1,5−ジイソシアネート(NDI)、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)等の芳香族イソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添MDI、水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI) 等の支環化合物、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、ヘキサメレチンジイソシアネート(HDI)、ダイマー酸ジイソシアネート(DDI)、ノルボルネン・ジイソシアネート(NBDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)等の脂肪族イソシアネートを挙げることができ、支環イソシアネート、脂肪族イソシアネート等の無黄変タイプを使用したものがより好適である。また、使用可能なポリオール成分としては、1,3−プロパンジオール(1,3−PDO)、1,4−ブタンジオール(1,4−BD)、1,5−ペンタジオール(1,5−PD)、1,6−ヘキサンジオール(1,6−HD)、トリメチロールプロパン( T M P) 等の直鎖脂肪族ポリオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)、ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテルポリオール、ポリオキシプロピレンビスフェノールAエーテルポリオール、ポリオキシエチレントリメチロールプロパンエーテルポリオール、ポリオキシプロピレントリメチロールプロパンエーテルポリオール、ポリオキシエチレンペンタエリスリトールエーテルポリオール等のポリエーテルポリオール、アジピン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フマル酸、セバシン酸、ダイマー酸等の2 塩基酸と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、1,4−CHDM、1,6−ヘキサンジオール等のポリオールとを縮合させたポリエステルポリオール、ポリマーポリオール(POP)、ポリカプロラクトンボリオール(PCL)、ポリカーボネートジオール(PCD)、ポリブタジエンポリオール(PBP)、ネオペンチルグリコール(NPG)、メチルペンタジオール(MPD)等を挙げることができる。これらの原料を用いて重合する際、ポリオール成分の一部として、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロール化アルキルスルホン酸等のジオール酸を用いて親水基を導入した自己乳化型のアニオンタイプ、N,N−ジエタノールアルキルアミン等のジオールアミンを用いて親水基を導入した自己乳化型のカチオンタイプを用いることができる。イソシアネートとポリオールの重合プレポリマーを水中に分散した後、ジオール、ジアミン等2個以上の活性水素をもつ低分子量化合物を鎖伸長剤として用いて、鎖伸長してより高分子化したものを用いることが可能である。また、アクリル変性、エポキシ変性、シリル変性等の変性ウレタンを使用することも可能である。ウレタン樹脂は1種単独もしくは2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
また、前記アクリル樹脂としては、アクリル酸、アクリル酸エステル類のラジカル重合またはカチオン重合、アニオン重合によって得られる。これら重合反応に用いられるモノマーとして、特に限定するものではないが、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、s−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、デシルアクリレート、2−ヒドロキシルエチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、s−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、イソオクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、デシルメタクリレート、2−ヒドロキシルエチルメタクリレート等が挙げられる。更にビニルトリメトキシシラン等を適宜組み込むことによって構造中にアルコキシシリル基を導入することも可能である。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
なお、前記有機ケイ素化合物(W)とこれらの樹脂(J)との固形分質量比〔(J)/(W)〕は、通常、0.1〜1.0の割合であることが好ましい。前記有機ケイ素化合物(W)と樹脂(J)との固形分質量比〔(J)/(W)〕が0.1未満では効果が発現しないおそれがあり、逆に1.0より大きいと導電性が劣化するため好ましくない。
【0032】
本発明の耐食性向上のための添加成分であるコバルト化合物(C)は、硫酸コバルト、硝酸コバルトおよび炭酸コバルトからなる群から選ばれる少なくとも1種のコバルト化合物から選ぶことができる。また、その配合比率は、前記有機ケイ素化合物(W)とコバルト化合物(C)の固形分質量比〔(C)/(W)〕が0.01〜0.1であることが好ましく、0.02〜0.07であることがより好ましく、0.03〜0.05であることが最も好ましい。前記有機ケイ素化合物(W)とコバルト化合物(C)の固形分質量比〔(C)/(W)〕が0.01未満であると、コバルト化合物(C)の添加効果が発現しないおそれがあり、逆に0.1より大きいと皮膜自身の溶解性が高まり耐食性が低下するため好ましくない。
【0033】
本発明に用いる水系金属表面処理剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、塗工性を向上させるためのレベリング剤や水溶性溶剤、金属安定化剤、エッチング抑制剤および調整剤などを使用することが可能である。
【0034】
レベリング剤としては、ノニオンまたはカチオンの界面活性剤として、ポリエチレンオキサイドもしくはポリプロピレンオキサイド付加物やアセチレングリコール化合物などが挙げられ、水溶性溶剤としてはエタノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコールおよびプロピレングリコールなどのアルコール類、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのセロソルブ類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、アセトン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトンなどのケトン類が挙げられる。
【0035】
金属安定化剤としては、EDTA、DTPAなどのキレート化合物が挙げられ、エッチング抑制剤としては、エチレンジアミン、トリエチレンペンタミン、グアニジンおよびピリミジンなどのアミン化合物類が挙げられる。特に一分子内に2個以上のアミノ基を有するものが金属安定化剤としても効果があり、より好ましい。
【0036】
pH調整剤としては、酢酸および乳酸などの有機酸類、フッ酸などの無機酸類、アンモニウム塩やアミン類などが挙げられる。
【0037】
本発明の表面処理金属材は、耐食性、耐熱性、耐指紋性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性の全てを満足する。この理由は以下のように推測されるが、本発明はかかる推測に縛られるものではない。本発明に用いる水系金属表面処理剤を用いて形成される皮膜は主に有機ケイ素化合物によるものである。まず、耐食性は、前記有機ケイ素化合物の1部が乾燥などにより濃縮されたときに前記有機ケイ素化合物が互いに反応して連続皮膜を成膜すること、前記有機ケイ素化合物の1部が加水分解して生成した−Si−OH基が金属表面とSi−O−M結合(被塗物表面の金属元素)を形成することにより、著しいバリアー効果を発揮することによると推定される。また、緻密な皮膜形成が可能なため皮膜の薄膜化が可能となり、導電性も良好になる。
【0038】
一方、本発明の水系金属表面処理剤を用いた皮膜はケイ素を基盤として形成され、その構造については、ケイ素−有機鎖の配列が規則的であり、また有機鎖が比較的短いことから、皮膜中の極めて微小な区域に、規則的かつ緻密にケイ素含有部と有機物部、すなわち無機物と有機物が配列しており、そのため、無機系皮膜が通常有する耐熱性、導電性および加工性時の耐黒カス性、有機系皮膜が通常有する耐指紋性や塗装性などを併せ持つ新規な皮膜の形成が可能になると推定される。なお、皮膜中のケイ素含有部においては、ケイ素の約80%がシロキサン結合を形成していることが分析で確認されている。
【0039】
このようなベース皮膜に、耐食性付与の目的から、エッチング反応により生じる被処理金属表面極近傍におけるpH上昇によって緻密な皮膜を形成する金属化合物、溶出性インヒビターとしてのリン酸、酸化還元反応によって耐食性を付与するタングステン酸化合物等のヘテロポリ酸化合物を添加することで、耐熱性、耐指紋性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性に加え優れた耐食性を発現するものと推定される。
【実施例】
【0040】
以下に本発明の実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。試験板の調製、実施例および比較例、および金属材料用表面処理剤の塗布の方法について下記に説明する。
【0041】
試験板の調製
(1)試験素材
下記に示した市販の素材を用いた。
電気亜鉛めっき鋼板(EG ):板厚=0.8mm 、目付量=表裏とも20g/m2
(2)脱脂処理
素材を、シリケート系アルカリ脱脂剤のファインクリーナー4336(登録商標:日本パーカライジング(株)製)を用いて、濃度20g/L 、温度60℃の条件で2分間スプレー処理し、純水で30秒間水洗したのちに乾燥したものを試験板とした。
実施例および比較例に使用したシランカップリング剤を表1に、タングステン酸化合物を表2に示し、配合例、皮膜量および乾燥温度を表3〜5に示す。
【0042】
〔評価試験〕
1 .SST 平面部試験
JIS Z 2371による塩水噴霧試験(SST)を160時間行い、白錆発生状況を観察した。
<評価基準>
◎=錆発生が全面積の1%未満
○=錆発生が全面積の1%以上5%未満
△=錆発生が全面積の5%以上15%未満
×=錆発生が全面積の15%以上
【0043】
2 .SST 加工部試験
エリクセン試験(7mm 押し出し)を行った後、JIS Z 2371による塩水噴霧試験を120時間行い、白錆発生状況を観察した。
<評価基準>
◎=錆発生が全面積の5%未満
○=錆発生が全面積の5%以上10%未満
△=錆発生が全面積の10%以上20%未満
×=錆発生が全面積の20%以上
【0044】
3 .耐熱性試験
オーブンにて200℃で2時間加熱後、平面部耐食性JIS Z 2371による塩水噴霧試験を120時間行い、白錆発生状況を観察した。
<評価基準>
◎=錆発生が全面積の3%未満
○=錆発生が全面積の3%以上10%未満
△=錆発生が全面積の10%以上30%未満
×=錆発生が全面積の30%以上
【0045】
4 .耐指絞性試験
色差計にて、ワセリン塗布前後のL値増減(△L)を測定した。
<評価基準>
◎=△Lが1未満
○=△Lが1以上3未満
△=△Lが3以上5未満
×=△Lが5以上
【0046】
5 .導電性試験
層間抵抗測定機により、層間抵抗を測定した。
<評価基準>
◎=層間抵抗が1Ω・cm未満
○=層間抵抗が1Ω・cm以上3Ω・cm未満
△=層間抵抗が3Ω・cm以上10Ω・cm未満
×=層間抵抗が10Ω・cm未満
【0047】
6 .塗装性試験
メラミンアルキッド系塗料を焼付け乾燥後の膜厚が25μmとなるようにバーコートで塗布し、120℃で20分焼付けた後、1mm碁盤目にカットし、密着性の評価を残個数割合(残個数/カット数:100個)にて行った。
<評価基準>
◎=100%
○=95%以上
△=90%以上95%未満
×=90%未満
【0048】
7 .黒カス性試験
高速深絞り試験にて、絞り比2.0で加工した場合の黒カス発生度合いを、試験前後のL値増減にて評価した。
◎=△Lが1未満
○=△Lが1以上3未満
△=△Lが3以上5未満
×=△Lが5以上
【0049】
8.液安定性
密封系の容器に各薬剤を入れ、40℃の恒温槽中に放置した。薬剤中に沈殿物や固形物が形成されるまでの日数を評価した。
◎=30日以上
○=15日以上30日未満
△=7日以上15日未満
×=7日未満
【0050】
試験結果を表6〜8に示す。実施例1〜68は、クロメートと同等の耐食性を示し、良好な耐食性、耐熱性、耐指紋性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性の全てを満足することがわかる。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
【表5】

【0056】
【表6】

【0057】
【表7】

【0058】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明にかかる表面処理金属材は、耐食性、耐熱性、耐指紋性、導電性、塗装性および加工時の耐黒カス性に優れた金属材料を提供する。また、本発明にかかる表面処理金属材の製造法は、前記金属材料をクロメートフリーに製造する方法を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材表面に、下記(1)から(4)の成分、
(1)分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)と、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)とを固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.5〜1.7の割合で配合して得られる、分子内に式−SiR123 (式中、R1、R2及びR3は互いに独立に、アルコキシ基又は水酸基を表し、少なくとも1つはアルコキシ基を表す。)で表される官能基(a)2個以上と、水酸基(官能基(a)に含まれ得るものとは別個のもの)およびアミノ基から選ばれる少なくとも1種の親水性官能基(b)1個以上とを有し、平均の分子量が1,000 〜10,000である有機ケイ素化合物(W)
(2)チタン化合物およびジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の金属化合物(X)
(3)リン酸(Y)
(4)へテロポリ酸化合物(Z)
を含有する水系金属表面処理剤を塗布し、乾燥することにより形成された複合皮膜を有し、
前記複合皮膜中の各成分の割合が、
1)前記有機ケイ素化合物(W)と前記金属化合物(X)との固形分質量比を〔(X)/(W)〕としたとき、0.02≦〔(X)/(W)〕≦0.07
2)前記有機ケイ素化合物(W)と前記リン酸(Y)との固形分質量比を〔(Y)/(W)〕としたとき、0.03≦〔(Y)/(W)〕≦0.12
3)前記有機ケイ素化合物(W)と前記へテロポリ酸化合物(Z)との固形分質量比を〔(Z)/(W)〕としたとき、0.01≦〔(Z)/(W)〕≦1.0
であることを特徴とする表面処理金属材。
【請求項2】
前記へテロポリ酸化合物(Z)が、珪タングステン酸化合物又はリンタングステン酸化合物であることを特徴とする請求項1記載の表面処理金属材。
【請求項3】
前記水系金属表面処理剤が、バナジウム化合物(L)を、前記有機ケイ素化合物(W)とバナジウム化合物(L)との固形分質量比を〔(L)/(W)〕としたとき、0.05≦〔(L)/(W)〕≦0.17の割合で更に含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理金属材。
【請求項4】
前記水系金属表面処理剤が、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂およびアクリル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂(J)を、前記有機ケイ素化合物(W)と樹脂(J)との固形分質量比を〔(J)/(W)〕としたとき、0.1≦〔(J)/(W)〕≦1.0の割合で更に含有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の表面処理金属材。
【請求項5】
前記水系金属表面処理剤が、硫酸コバルト、硝酸コバルトおよび炭酸コバルトからなる群から選ばれる少なくとも1種のコバルト化合物(C)を、前記有機ケイ素化合物(W)とコバルト化合物(C)との固形分質量比を〔(C)/(W)〕としたとき、0.01≦〔(C)/(W)〕≦0.1の割合で更に含有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の表面処理金属材。
【請求項6】
前記複合皮膜の重量が0.05〜2.0g/m 2であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の表面処理金属材。
【請求項7】
金属材表面に、下記(1)から(4)の成分、
(1)分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)と、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)とを固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.5〜1.7の割合で配合して得られる、分子内に式−SiR123 (式中、R1、R2及びR3は互いに独立に、アルコキシ基又は水酸基を表し、少なくとも1つはアルコキシ基を表す)で表される官能基(a)2個以上と、水酸基(官能基(a)に含まれ得るものとは別個のもの)およびアミノ基から選ばれる少なくとも1種の親水性官能基(b)1個以上とを有し、平均の分子量が1,000 〜10,000 である有機ケイ素化合物(W)
(2)チタン化合物およびジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の金属化合物(X)
(3)リン酸(Y)
(4)へテロポリ酸化合物(Z)
を含有する水系金属表面処理剤をpH4〜6で塗布し、60℃から230℃で乾燥することにより複合皮膜を形成し、
前記複合皮膜中の各成分の割合が、
1)前記有機ケイ素化合物(W)と前記金属化合物(X)との固形分質量比を〔(X)/(W)〕としたとき、0.02≦〔(X)/(W)〕≦0.07
2)前記有機ケイ素化合物(W)と前記リン酸(Y)との固形分質量比を〔(Y)/(W)〕としたとき、0.03≦〔(Y)/(W)〕≦0.12
3)前記有機ケイ素化合物(W)と前記へテロポリ酸化合物(Z)との固形分質量比を〔(Z)/(W)〕としたとき、0.01≦〔(Z)/(W)〕≦1.0
であることを特徴とする表面処理金属材の製造方法。
【請求項8】
前記へテロポリ酸化合物(Z)が、珪タングステン酸化合物又はリンタングステン酸化合物であることを特徴とする請求項7記載の表面処理金属材の製造方法。
【請求項9】
前記水系金属表面処理剤が、バナジウム化合物(L)を、前記有機ケイ素化合物(W)とバナジウム化合物(L)との固形分質量比を〔(L)/(W)〕としたとき、0.05≦〔(L)/(W)〕≦0.17の割合で更に含有することを特徴とする請求項7又は8に記載の表面処理金属材の製造方法。
【請求項10】
前記水系金属表面処理剤が、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂およびアクリル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂(J)を、前記有機ケイ素化合物(W)と樹脂(J)との固形分質量比を〔(J)/(W)〕としたとき、0.1≦〔(J)/(W)〕≦1.0の割合で更に含有することを特徴とする請求項7から9のいずれかに記載の表面処理金属材の製造方法。
【請求項11】
前記水系金属表面処理剤が、硫酸コバルト、硝酸コバルトおよび炭酸コバルトからなる群から選ばれる少なくとも1種のコバルト化合物(C)を、前記有機ケイ素化合物(W)とコバルト化合物(C)との固形分質量比を〔(C)/(W)〕としたとき、0.01≦〔(C)/(W)〕≦0.1の割合で更に含有することを特徴とする請求項7から10のいずれかに記載の表面処理金属材の製造方法。

【公開番号】特開2011−252184(P2011−252184A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124783(P2010−124783)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】