説明

表面処理金属部材

【課題】耐食性、加熱後の耐食性を有する防錆皮膜を備えた表面処理金属部材を提供する。
【解決手段】Li、Na又はKから選ばれる少なくとも1つの金属のケイ酸塩である(S)成分と、Be、B、F、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、As、Se、Mo、Ag、Cd、Sb、Ba、Hg、Pb、In、Te及びTlを除く選択元素Eの化合物で、常温で固体かつ水溶性の酸化性無機化合物である(Ox)成分を構成主成分とし、或いは(S)成分と、選択元素Eの化合物で、常温で固体かつ水溶性の還元性無機化合物である(Red)成分を構成主成分とし、或いは(S)成分と、選択元素Eの化合物で、かつ水溶性の無機リン酸塩である(P)成分を構成主成分とし、(Ox)成分、(Red)成分又は(P)成分の含有量が0.5〜20質量%の範囲で付着量0.02〜5g/mの防錆皮膜により、アルミニウム系金属からなる表面を持つ金属部材を被覆した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム系金属からなる表面を有し、その少なくとも一部が表面処理皮膜で被覆された表面処理金属部材に関する。
【背景技術】
【0002】
各種金属材料の耐食性を改良するため、多くの場合、無機系、有機系、又は、両者を組み合せた防錆皮膜で金属表面を被覆する。これらの中で、オーブントースターやトースター、バーベキューグリル等の金属製加熱調理器の内面部材、ケーキ焼き皿、パン焼き皿や、自動車排気系周辺部材等に用いる金属材料の防錆保護皮膜としては、200〜300℃あるいはそれ以上の高温下で熱履歴を受けても防錆性能が低下しないことが必要で、このようなニーズに応えられる皮膜としては、耐熱性の観点から、無機系皮膜、耐熱有機成分からなる皮膜、又は、両者を組み合せた無機−耐熱有機複合皮膜である。これらのうち、耐熱有機成分(例えば、芳香族系の耐熱樹脂や有機化合物等)を含むものは、これらの成分が高価であったり、高温でないと皮膜形成反応や金属への融着等が困難であったりするものが殆どで、実用上は、金属材料の耐熱性防錆皮膜としては無機系皮膜に限定される。
【0003】
工業的に広く活用されている無機系防錆皮膜としては、クロメート又はリン酸塩からなる皮膜が代表的である。特に、クロメート皮膜は、金属材料表面に形成された6価クロムを含む不働態薄膜が、腐食因子に対する優れた遮蔽性と皮膜損傷に対する自己修復機能とを発揮するため、非常に有効な防錆皮膜である。ところが、近年、地球環境問題に対する国内外の関心の高まりやEU(欧州連合)による規制等に応えるため、6価及び3価クロム(特に、環境負荷性の高い6価クロム)を全く含まない防錆皮膜で被覆された金属材料が求められており、6価及び3価クロムフリー防錆皮膜で被覆された金属材料の開発が進められている。6価及び3価クロムを含まない無機系化合物の中には、これらで金属材料表面を被覆すれば、高温に晒された後でもある程度の金属防錆能を持つものが既に見出されており、金属材料の耐熱防錆皮膜の主成分として利用されている。
【0004】
例えば、古くからクロメート皮膜と並ぶ代表的な無機系皮膜であるリン酸塩皮膜では、6価及び3価クロムを含まないリン酸亜鉛、リン酸マンガン等を主成分とする耐熱防錆皮膜を金属表面に形成する。これらの多くは、自動車外板、家電ハウジング等の金属材料表面の下地処理として広く用いられており、上塗り塗装後の耐食性や上塗り塗膜の密着性を高める。また、リン酸マンガン系の皮膜は、耐摩耗性を有するため、金属加工時の潤滑用途や摺動部材としても用いられている。
【0005】
しかしながら、リン酸亜鉛等のリン酸塩系皮膜は、結晶性でポーラスなため、腐食因子に対するバリア性に劣り、防錆力はクロメート皮膜のそれに全く及ばない。また、リン酸塩結晶を金属表面上に均一にかつ速やかに析出させるため、結晶核形成剤(例えば、チタンコロイド)で予め金属表面調整を実施したり、リン酸塩処理液の成分濃度や温度を結晶析出の最適状態に制御したりしなければならない。
【0006】
このため、リン酸塩処理は、1工程処理で非晶質皮膜を形成できるクロメート処理に比べ、基本的に金属表面調整とリン酸塩皮膜形成との2工程処理が必要で、かつ操業管理が煩雑となる問題点を有している。さらに、皮膜の形成性、摺動性、上塗り塗膜の耐水二次密着性等を高めるため、リン酸塩皮膜には、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(以下、化学物質管理促進法又はPRTR法と称す)の対象となる第一種指定化学物質を含む場合が多い(例えば、耐摩耗性の皮膜形成剤としてリン酸マンガン、皮膜の結晶核形成剤としてニッケルイオンやマンガンイオン、金属表面エッチング剤としてフッ化水素の水溶性塩、等)。この化学物質管理促進法の対象となる第一種指定化学物質は、取扱いに当たり、環境への排出量の届け出や製品安全データシート(MSDS; Material Safety Data Sheet)の交付等が義務付けられており、環境負荷物質として、工業的な製造、管理面から大きな制約を受ける問題点を有している。
【0007】
また、皮膜成分として、化学物質管理促進法の指定化学物質を使わないようにする動きの例として、ニッケルイオンを含まないリン酸塩処理液による金属の化成処理方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この特許文献1に記載の構成では、従来技術と同様、金属表面調整後にリン酸塩化成処理が続く煩雑な2工程処理であり、改良技術としては不十分である。
【0008】
また、リン酸塩皮膜以外の6価及び3価クロムフリー無機系皮膜の例として、酸化力の強い過マンガン酸塩をベースとした皮膜が金属材料の腐食をかなり軽減することが知られている(例えば、非特許文献1及び非特許文献2参照)。
【0009】
しかしながら、これら非特許文献1及び非特許文献2に記載の構成でも、安定性や防錆力においてクロメート皮膜の主成分であるクロム酸塩には及ばない。また、バナジン酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩等は、クロム酸塩と同様のオキソ酸化合物であり、多くの金属表面を不働態化するが、単独使用ではクロム酸塩による皮膜の防錆力には及ばない。また、タングステン酸塩を除くこれらの金属系化合物の多くは、6価クロムほどではないものの、環境負荷性、安全性の面からも問題があり、例えば、バナジン酸塩には毒性がある。さらに、過マンガン酸塩、モリブデン酸塩は、6価及び3価クロム化合物と同様、化学物質管理促進法の対象となる第一種指定化学物質に該当し、環境負荷物質として、工業的な製造や管理面から大きな制約を受ける問題点を有している。
【0010】
一方、有害性が殆どない無機系防錆処理の例として、ポリリン酸塩、ケイ酸塩等で金属表面に安定な保護皮膜を形成する技術が知られている(例えば、非特許文献2及び非特許文献3参照)。しかしながら、これら非特許文献2及び非特許文献3に記載の構成では、得られた被覆皮膜は、防錆力において、クロメート処理皮膜に及ばないのが現状である。そこで、アルミニウム又はアルミニウム合金等の金属を被覆するケイ酸塩皮膜の防錆力を高めるため、ケイ酸塩処理液に、亜鉛化合物や、過酸化水素や硝酸等の酸化剤をさらに含む防錆処理液が開示されている(例えば、特許文献2及び特許文献3参照)。しかしながら、これら特許文献2及び特許文献3に記載の構成では、得られた被覆皮膜は、防錆力において、クロメート処理皮膜になお及ばない。
【0011】
以上、金属表面を被覆し、高温環境下での使用が可能と考えられる皮膜の中で、これまでに実用あるいは提案されている種々の無機系防錆皮膜の特徴を説明したが、化学物質管理促進法の指定化学物質を含まず、かつクロメート処理皮膜の優れた防錆力や製造簡便性(1工程処理で防錆皮膜を形成できる)に匹敵する皮膜は見当たらなかった。
【0012】
【特許文献1】特開2001−49451号公報
【特許文献2】特開昭57−145987号公報
【特許文献3】特開平9−53192号公報
【非特許文献1】前田重義、表面、Vol.37(No.6)、p.21 (1999)
【非特許文献2】腐食防食協会編、金属防蝕技術便覧(新版4版)、551頁、日刊工業新聞社、1977年発行
【非特許文献3】腐食防食協会編、防食技術便覧(初版)、652頁、日刊工業新聞社、1986年発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、従来の無機系防錆皮膜被覆金属には、皮膜が化学物質管理促進法の指定物質を含有する、防錆皮膜の防錆力が不足している、あるいは煩雑な皮膜形成工程を生じる、等の問題点がある。
【0014】
そこで、本発明の目的は、上述したような問題点に鑑み、低環境負荷性で、常温下での使用だけでなく高温に晒された後も安定した防錆性が得られ、かつ皮膜形成が簡便な表面処理金属部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、種々の検討を行った結果、例えば、化学物質管理促進法の指定化学物質を含まない特定の表面処理皮膜を被覆したアルミニウム系金属表面を有する金属部材が前記課題を全て解決するものであり、常温下で使用する際の十分な耐食性や、例えば200℃を超える高温加熱後も十分な耐食性を発現することを見出した。
【0016】
本発明は、このような知見を基にして完成されたものであり、その要旨は、以下の通りである。
【0017】
(1) アルミニウム系金属からなる表面を有し、前記表面の少なくとも一部が表面処理皮膜で被覆された表面処理金属部材であって、前記表面処理皮膜は、下記の(S)成分と、下記の(Ox)成分とを構成主成分とし、前記(Ox)成分の含有量は、前記表面処理皮膜中の固形分全体に対して0.5〜20質量%であることを特徴とする、表面処理金属部材。
(S)成分:リチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属のケイ酸塩。
(Ox)成分:ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、フッ素(F)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、バリウム(Ba)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)、テルル(Te)及びタリウム(Tl)を除く元素から選ばれる少なくとも1つの化合物で、常温で固体かつ水溶性の酸化性無機化合物。
(2) アルミニウム系金属からなる表面を有し、前記表面の少なくとも一部が表面処理皮膜で被覆された表面処理金属部材であって、前記表面処理皮膜は、下記の(S)成分と、下記の(Red)成分とを構成主成分とし、前記(Red)成分の含有量は、前記表面処理皮膜中の固形分全体に対して0.5〜20質量%であることを特徴とする、表面処理金属部材。
(S)成分:リチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属のケイ酸塩。
(Red)成分:ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、フッ素(F)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、バリウム(Ba)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)、テルル(Te)及びタリウム(Tl)を除く元素から選ばれる少なくとも1つの化合物で、常温で固体かつ水溶性の還元性無機化合物。
(3) アルミニウム系金属からなる表面を有し、前記表面の少なくとも一部が表面処理皮膜で被覆された表面処理金属部材であって、前記表面処理皮膜は、下記の(S)成分と、下記の(P)成分とを構成主成分とし、前記(P)成分の含有量は、前記表面処理皮膜中の固形分全体に対して0.5〜20質量%であることを特徴とする、表面処理金属部材。
(S)成分:リチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属のケイ酸塩。
(P)成分:ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、フッ素(F)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、バリウム(Ba)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)、テルル(Te)及びタリウム(Tl)を除く元素から選ばれる少なくとも1つの化合物で、常温で固体かつ水溶性の無機リン酸塩。
(4) アルミニウム系金属からなる表面を有し、前記表面の少なくとも一部が表面処理皮膜で被覆された表面処理金属部材であって、前記表面処理皮膜は、下記の(S)成分と、下記の(Ox)成分と、下記の(P)成分とを構成主成分とし、前記(Ox)成分の含有量は、前記表面処理皮膜中の固形分全体に対して0.5〜20質量%であり、かつ、前記(P)成分の含有量は、前記表面処理皮膜中の固形分全体に対して0.5〜20質量%であることを特徴とする、表面処理金属部材。
(S)成分:リチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属のケイ酸塩。
(Ox)成分:ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、フッ素(F)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、バリウム(Ba)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)、テルル(Te)及びタリウム(Tl)を除く元素から選ばれる少なくとも1つの化合物で、常温で固体かつ水溶性の酸化性無機化合物。
(P)成分:ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、フッ素(F)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、バリウム(Ba)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)、テルル(Te)及びタリウム(Tl)を除く元素から選ばれる少なくとも1つの化合物で、常温で固体かつ水溶性の無機リン酸塩。
(5) アルミニウム系金属からなる表面を有し、前記表面の少なくとも一部が表面処理皮膜で被覆された表面処理金属部材であって、前記表面処理皮膜は、下記の(S)成分と、下記の(Red)成分と、下記の(P)成分とを構成主成分とし、前記(Red)成分の含有量は、前記表面処理皮膜中の固形分全体に対して0.5〜20質量%であり、かつ、前記(P)成分の含有量は、前記表面処理皮膜中の固形分全体に対して0.5〜20質量%であることを特徴とする、表面処理金属部材。
(S)成分:リチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属のケイ酸塩。
(Red)成分:ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、フッ素(F)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、バリウム(Ba)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)、テルル(Te)及びタリウム(Tl)を除く元素から選ばれる少なくとも1つの化合物で、常温で固体かつ水溶性の還元性無機化合物。
(P)成分:ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、フッ素(F)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、バリウム(Ba)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)、テルル(Te)及びタリウム(Tl)を除く元素から選ばれる少なくとも1つの化合物で、常温で固体かつ水溶性の無機リン酸塩。
(6) アルミニウム系金属からなる表面を有し、前記表面の少なくとも一部が表面処理皮膜で被覆された表面処理金属部材であって、前記表面処理皮膜は、下記の(S)成分と、下記の(M)成分と、下記の(Ox)成分とを構成主成分とし、前記(Ox)成分の含有量は、前記表面処理皮膜中の固形分全体に対して0.5〜20質量%であり、かつ、前記(S)成分と(M)成分の含有質量比(M/S)が0.01〜19.0であることを特徴とする、表面処理金属部材。
(S)成分:リチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属のケイ酸塩。
(M)成分:ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)及びテルル(Te)を除く元素から選ばれる少なくとも1つの化合物で、常温及び大気雰囲気下300℃において熱的に安定であり、かつ、水に不溶性又は難溶性の酸化物。
(Ox)成分:ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、フッ素(F)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、バリウム(Ba)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)、テルル(Te)及びタリウム(Tl)を除く元素から選ばれる少なくとも1つの化合物で、常温で固体かつ水溶性の酸化性無機化合物。
(7) アルミニウム系金属からなる表面を有し、前記表面の少なくとも一部が表面処理皮膜で被覆された表面処理金属部材であって、前記表面処理皮膜は、下記の(S)成分と、下記の(M)成分と、下記の(Red)成分とを構成主成分とし、前記(Red)成分の含有量は、前記表面処理皮膜中の固形分全体に対して0.5〜20質量%であり、かつ、前記(S)成分と(M)成分の含有質量比(M/S)が0.01〜19.0であることを特徴とする、表面処理金属部材。
(S)成分:リチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属のケイ酸塩。
(M)成分:ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)及びテルル(Te)を除く元素から選ばれる少なくとも1つの化合物で、常温及び大気雰囲気下300℃において熱的に安定であり、かつ、水に不溶性又は難溶性の酸化物。
(Red)成分:ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、フッ素(F)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、バリウム(Ba)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)、テルル(Te)及びタリウム(Tl)を除く元素から選ばれる少なくとも1つの化合物で、常温で固体かつ水溶性の還元性無機化合物。
(8) アルミニウム系金属からなる表面を有し、前記表面の少なくとも一部が表面処理皮膜で被覆された表面処理金属部材であって、前記表面処理皮膜は、下記の(S)成分と、下記の(M)成分と、下記の(P)成分とを構成主成分とし、前記(P)成分の含有量は、前記表面処理皮膜中の固形分全体に対して0.5〜20質量%であり、かつ、前記(S)成分と(M)成分の含有質量比(M/S)が0.01〜19.0であることを特徴とする、表面処理金属部材。
(S)成分:リチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属のケイ酸塩。
(M)成分:ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)及びテルル(Te)を除く元素から選ばれる少なくとも1つの化合物で、常温及び大気雰囲気下300℃において熱的に安定であり、かつ、水に不溶性又は難溶性の酸化物。
(P)成分:ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、フッ素(F)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、バリウム(Ba)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)、テルル(Te)及びタリウム(Tl)を除く元素から選ばれる少なくとも1つの化合物で、常温で固体かつ水溶性の無機リン酸塩。
(9) 前記(S)成分は、酸化ケイ素(SiO)と酸化リチウム(LiO)の構成モル比率が0.5≦(SiO/LiO)≦8であるケイ酸リチウム、酸化ケイ素(SiO)と酸化ナトリウム(NaO)の構成モル比率が0.5≦(SiO/NaO)≦4であるケイ酸ナトリウム、酸化ケイ素(SiO)と酸化カリウム(KO)の構成モル比率が0.5≦(SiO/KO)≦4であるケイ酸カリウム、及び、これらのケイ酸塩の水和物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、(1)〜(8)のいずれかに記載の表面処理金属部材。
(10) 前記(S)成分は、オルトケイ酸リチウム(LiSiO;2LiO・SiO)、オルト二ケイ酸六リチウム(LiSi;3LiO・2SiO)、メタケイ酸リチウム(LiSiO;LiO・SiO)、二ケイ酸リチウム(LiSi;LiO・2SiO)、七ケイ酸四リチウム(2LiO・7SiO)、四ケイ酸リチウム(LiSi;LiO・4SiO)、九ケイ酸四リチウム(2LiO・9SiO)、十五ケイ酸四リチウム(2LiO・15SiO)、及び、オルトケイ酸ナトリウム(NaSiO;2NaO・SiO)、メタケイ酸ナトリウム(NaSiO;NaO・SiO)、二ケイ酸ナトリウム(NaSi;NaO・2SiO)、四ケイ酸ナトリウム(NaSi;NaO・4SiO)、オルトケイ酸カリウム(KSiO;2KO・SiO)、メタケイ酸カリウム(KSiO;KO・SiO)、二ケイ酸カリウム(KSi;KO・2SiO)、四ケイ酸カリウム(KSi;KO・4SiO)、及び、これらのケイ酸塩の水和物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、(1)〜(9)のいずれかに記載の表面処理金属部材。
(11) 前記(Ox)成分は、融点又は分解温度のうちいずれか低い方の温度が50℃以上であり、かつ、25℃における水への溶解度は10g/水100g以上である硝酸塩、亜硝酸塩、塩素酸塩、亜塩素酸塩、過塩素酸塩、臭素酸塩、ヨウ素酸塩及び過ヨウ素酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、(1)、(4)又は(6)に記載の表面処理金属部材。
(12) 前記(Ox)成分は、硝酸ナトリウム(NaNO)、硝酸カリウム(KNO)、亜硝酸ナトリウム(NaNO)、亜硝酸カリウム(KNO)、塩素酸ナトリウム(NaClO)、過塩素酸ナトリウム(NaClO)、臭素酸ナトリウム(NaBrO)、ヨウ素酸ナトリウム(NaIO)、ヨウ素酸カリウム(KIO)及び過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、(1)、(4)、(6)又は(11)に記載の表面処理金属部材。
(13) 前記(Red)成分は、融点又は分解温度のうちいずれか低い方の温度が50℃以上であり、かつ、25℃における水への溶解度が10g/水100g以上であるチオ硫酸塩、二チオン酸塩、亜二チオン酸塩及び亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、(2)、(5)又は(7)に記載の表面処理金属部材。
(14) 前記(Red)成分は、チオ硫酸ナトリウム(Na)、チオ硫酸マグネシウム(MgS)、チオ硫酸カリウム(K)、チオ硫酸カルシウム(CaS)、チオ硫酸アンモニウム((NH)、二チオン酸ナトリウム(Na)、亜二チオン酸ナトリウム(Na)、亜硫酸ナトリウム(NaSO)、亜硫酸カリウム(KSO)、及び亜硫酸水素カリウム(KHSO)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、(2)、(5)、(7)又は(13)に記載の表面処理金属部材。
(15) 前記(P)成分は、融点又は分解温度のうちいずれか低い方の温度が50℃以上であり、かつ、25℃における水への溶解度が10g/水100g以上であるオルトリン酸、ポリリン酸又はメタリン酸の正アンモニウム塩、正リチウム塩、正ナトリウム塩、正カリウム塩、一水素アンモニウム塩、一水素リチウム塩、一水素ナトリウム塩及び一水素カリウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の塩であることを特徴とする、(3)、(4)、(5)又は(8)のいずれかに記載の表面処理金属部材。
(16) 前記(P)成分は、リン酸三ナトリウム(NaPO)、リン酸三カリウム(KPO)、ピロリン酸ナトリウム(Na)、ピロリン酸カリウム(K)、三リン酸ナトリウム(Na10)、三リン酸カリウム(K10)、環状三メタリン酸ナトリウム((NaPO)及び環状四メタリン酸ナトリウム((NaPO)からなる群より選ばれる少なくとも1種の塩であることを特徴とする、(3)、(4)、(5)、(8)又は(15)のいずれかに記載の表面処理金属部材。
(17) 前記(M)成分を構成する元素は、Al、Si、Ti、Fe、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Sn、La、Ce、Pr、Sm、Gd、Dy、Er、Yb、W又はBiから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、(6)〜(8)のいずれかに記載の表面処理金属部材。
(18) 前記(M)成分は、酸化アルミニウム(Al)、酸化ケイ素(SiO)、酸化チタン(TiO)、酸化鉄(III)(Fe)、酸化銅(I)(CuO)、酸化銅(II)(CuO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化イットリウム(Y)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ニオブ(V)(Nb)、酸化錫(II)(SnO)、酸化錫(IV)(SnO)、酸化ランタン(La)、酸化セリウム(IV)(CeO)、酸化プラセオジム(Pr11)、酸化サマリウム(III)(Sm)、酸化ガドリニウム(Gd)、酸化ジスプロシウム(Dy)、酸化エルビウム(Er)、酸化イッテルビウム(Yb)、酸化タングステン(VI)(WO)、酸化ビスマス(III)(Bi)又はこれらの水和物の少なくとも1種であることを特徴とする、(6)、(7)、(8)、(17)のいずれかに記載の表面処理金属部材。
(19) 前記表面処理皮膜は、前記表面への付着量が0.02g/m以上5g/m以下であることを特徴とする、(1)〜(18)のいずれかに記載の表面処理金属部材。
【発明の効果】
【0018】
本発明の表面処理金属部材は、金属を被覆する表面処理皮膜である防錆皮膜に化学物質管理促進法に指定される環境負荷物質を含まず、かつ、クロメート処理金属部材レベルの優れた耐食性及び加熱後の耐食性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0020】
[防錆皮膜被覆金属部材の構成]
1. 防錆皮膜の構成
本発明における金属部材は、アルミニウム系金属からなるその金属部材表面の少なくとも一部に、環境負荷物質を含まない防錆皮膜が、付着量で例えば0.02g/m以上5g/m以下で被覆形成されている。
【0021】
この防錆皮膜は、以下に示す(S)成分と(Ox)成分とを構成主成分とするものであり、(Ox)成分の含有量は、前記防錆皮膜に対して0.5〜20質量%である。ここで、前記の(S)成分は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属のケイ酸塩から選ばれる少なくとも1種である。また、前記の(Ox)成分は、ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、フッ素(F)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、バリウム(Ba)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)、テルル(Te)及びタリウム(Tl)を除く元素(以下、選択元素Eと称する。)から選ばれる少なくとも1種の化合物で、常温で固体かつ水溶性の酸化性無機化合物である。
【0022】
あるいは、この防錆皮膜は、前記(S)成分と、以下に示す(Red)成分とを構成主成分とするものであり、(Red)成分の含有量は、前記防錆皮膜に対して0.5〜20質量%である。ここで、前記の(Red)成分は、前記選択元素Eから選ばれる少なくとも1種の化合物で、常温で固体かつ水溶性の還元性無機化合物である。
【0023】
あるいは、この防錆皮膜は、前記(S)成分と、以下に示す(P)成分とを構成主成分とするものであり、(P)成分の含有量は、前記防錆皮膜に対して0.5〜20質量%である。ここで、前記の(P)成分は、前記選択元素Eから選ばれる少なくとも1種の化合物で、水溶性の無機リン酸塩である。
【0024】
あるいは、この防錆皮膜は、前記(S)成分と、前記(Ox)成分と、前記(P)成分とを構成主成分とし、前記(Ox)成分と(P)成分の含有量は、それぞれ前記防錆皮膜に対して0.5〜20質量%である。
【0025】
あるいは、この防錆皮膜は、前記(S)成分と、前記(Red)成分と、前記(P)成分とを構成主成分とし、前記(Red)成分と(P)成分の含有量は、それぞれ前記防錆皮膜中の固形分全体に対して0.5〜20質量%である。
【0026】
あるいは、この防錆皮膜は、前記(S)成分と、以下に示す(M)成分と、前記(Ox)成分を構成主成分とするものであり、前記(Ox)成分の含有量は、前記防錆皮膜中の固形分全体に対して0.5〜20質量%であり、かつ、前記(S)成分と(M)成分の含有質量比(M/S)が0.01〜19.0である。ここで、前記の(M)成分は、ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)及びテルル(Te)を除く元素(以下、選択元素Eと称する。)から選ばれる少なくとも1種の化合物で、常温で安定な固体で、大気雰囲気下で300℃に晒されても溶融も熱分解もせず安定で、かつ、水に不溶性又は難溶性の酸化物である。
【0027】
あるいは、この防錆皮膜は、前記(S)成分と、前記(M)成分と、前記(Red)成分を構成主成分とするものであり、前記(Red)成分の含有量は、前記防錆皮膜中の固形分全体に対して0.5〜20質量%であり、かつ、前記(S)成分と(M)成分の含有質量比(M/S)が0.01〜19.0である。ここで、前記の(M)成分は、前記選択元素Eから選ばれる少なくとも1種の化合物で、常温で安定な固体で、大気雰囲気下で300℃に晒されても溶融も熱分解もせず安定で、かつ、水に不溶性又は難溶性の酸化物である。
【0028】
あるいは、この防錆皮膜は、前記(S)成分と、前記(M)成分と、前記(P)成分を構成主成分とするものであり、前記(P)成分の含有量は、前記防錆皮膜中の固形分全体に対して0.5〜20質量%であり、かつ、前記(S)成分と(M)成分の含有質量比(M/S)が0.01〜19.0である。ここで、前記の(M)成分は、前記選択元素Eから選ばれる少なくとも1種の化合物で、常温で安定な固体で、大気雰囲気下で300℃に晒されても溶融も熱分解もせず安定で、かつ、水に不溶性又は難溶性の酸化物である。
本発明において、金属部材を被覆する皮膜の構成主成分とは、皮膜に含まれる前記(S)成分、(Ox)成分、(Red)成分、(P)成分、(M)成分の合計量が皮膜質量の50質量%以上の場合において、皮膜に含まれるこれらの(S)成分、(Ox)成分、(Red)成分、(P)成分、(M)成分に属する個々の化合物のことを指す。これらの成分の合計量が50質量%未満の場合、これらの成分は皮膜の構成成分であるが、いずれも皮膜の構成主成分とはならない。例えば、前記(S)成分から選ばれる少なくとも1種の化合物と、前記(Ox)成分から選ばれる少なくとも1種の化合物を皮膜の構成主成分とする場合は、選ばれた(S)成分と(Ox)成分の化合物の合計量が50質量%以上でなければならない。これらの成分の合計量が50質量%未満の場合、これらは皮膜の構成成分であるが、構成主成分とはならない。
【0029】
本発明において、大気雰囲気下にて十分な耐食性を発現し、かつ、200〜300℃あるいはそれ以上の高温に晒されても耐食性が低下せず、良好な加熱後耐食性を発現する耐熱防錆処理金属部材を得るための大きな技術上のポイントは、アルミニウム系金属からなる金属表面を被覆する防錆皮膜成分として、特定の無機ケイ酸塩((S)成分)と特定の水溶性無機酸化剤((Ox)成分)、又は、(S)成分と特定の水溶性無機還元剤((Red)成分)、又は、(S)成分と特定の無機リン酸塩((P)成分)を皮膜中で共存させることである。あるいは、更に強力な防錆効果を得るため、(S)成分と(Ox)成分と(P)成分、又は、(S)成分と(Red)成分と(P)成分、又は、(S)成分と特定の酸化物((M)成分)と(Ox)成分、又は、(S)成分と(M)成分と(Red)成分、又は、(S)成分と(M)成分と(P)成分、を皮膜中で共存させることである。
【0030】
本発明におけるケイ酸塩とは、二酸化ケイ素(SiO)と金属酸化物とからなる塩のことを言う。
【0031】
本発明において、防錆皮膜の構成成分の1つである(S)成分のケイ酸塩は、本発明の防錆皮膜の一部を構成して金属部材表面を覆い、アルミニウム系金属からなる表面の腐食を抑制する。(S)成分のうち、水に溶けない部分(不溶性ケイ酸塩)は、酸素や塩化物イオン(Cl)等の腐食因子を含む水溶液と金属の間を遮断し、アノード反応(金属の水への溶解反応)とカソード反応(水中の溶存酸素の還元等)をある程度抑制するが、その効果は強くない。前記金属表面の腐食の効果的な抑制には、防錆皮膜中の(S)成分の全てが水に不溶な状態でなく、少なくとも一部が水に可溶な状態で、可溶性ケイ酸塩として存在する必要がある。その理由を、以下に述べる。
【0032】
本発明において、防錆皮膜で被覆される金属は、アルミニウム系金属からなる表面を有し、水分を含む大気雰囲気下や湿潤環境下では、表面のアルミニウム系金属がアノード反応により徐々に溶出する。この時、(S)成分の一部である可溶性ケイ酸塩が、皮膜中の水分に溶解し、溶出したアルミニウムイオン等の金属イオンと反応し、不溶性のケイ酸アルミニウムや水和ケイ酸アルミニウムの沈殿皮膜となってアノード反応部位を封鎖し、更なるアノード反応を抑止する。
【0033】
また、特に、本発明の金属部材を成形加工したり機構部材として使用する間に、防錆皮膜が損傷しアルミニウム系金属からなる表面が露出した場合、露出部位のアルミニウム系金属は、アノード反応により溶出し易くなる。その時、皮膜損傷部位近傍の(S)成分の一部が、皮膜中の水分に溶解して損傷部位に移動し、溶出したアルミニウムイオン等の金属イオンと反応し、不溶性のケイ酸アルミニウムや水和ケイ酸アルミニウムの沈殿皮膜となって損傷部位を覆う(自己修復作用)。
【0034】
さらに、金属表面に移動した可溶性ケイ酸塩は、金属表面や皮膜損傷部位を中性から弱塩基性のpHに保つため、アノード反応により溶出するアルミニウムイオン等の金属イオンと、カソード反応(溶存酸素の還元)で生成するヒドロキシルイオン(OH)との反応を促進し、水酸化アルミニウムや酸化アルミニウムの不動態皮膜を生成し易くする。
【0035】
前述した可溶性ケイ酸塩とアルミニウム系金属の溶出イオンにより生成するケイ酸アルミニウムや水和ケイ酸アルミニウムの沈殿皮膜は、不完全なことが多く、また、水酸化アルミニウムや酸化アルミニウムの不動態皮膜の形成促進作用は比較的緩やかなため、水中溶存酸素が接触する金属表面全てを覆いカソード反応(水中の溶存酸素の還元等)を抑制する効果は不十分である。このように、本発明の(S)成分のみでは高い防錆効果が得られないことが多いが、本発明の防錆皮膜のように、水溶性の酸化性無機化合物((Ox)成分)、水溶性の還元性無機化合物((Red)成分)、又は、水溶性の無機リン酸塩((P)成分)がケイ酸塩と共存することにより、これらの効果との相乗作用で、緻密で高い防錆効果を持つ皮膜となる。
【0036】
アルカリ金属(リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr))以外の金属のケイ酸塩は、水に不溶性又は難溶性のため、本発明の(S)成分に含まない。さらに、これらのアルカリ金属のうち、ルビジウム(Rb)とセシウム(Cs)のケイ酸塩は非常に高価又は需要が僅少で入手困難であり、フランシウム(Fr)は放射性核種のため、いずれも本発明目的での実用が困難であり、本発明の(S)成分に含まない。
【0037】
結局、本発明の(S)成分は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属のケイ酸塩である必要がある。リチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)のケイ酸塩は、化学物質管理促進法の対象となる指定化学物質でない。
【0038】
前記(S)成分であるリチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)のケイ酸塩は、酸化ケイ素(SiO)と酸化リチウム(LiO)の構成モル比率が0.5≦(SiO/LiO)≦8であるケイ酸リチウム、酸化ケイ素(SiO)と酸化ナトリウム(NaO)の構成モル比率が0.5≦(SiO/NaO)≦4であるケイ酸ナトリウム、酸化ケイ素(SiO)と酸化カリウム(KO)の構成モル比率が0.5≦(SiO/KO)≦4であるケイ酸カリウム、及び、これらのケイ酸アルカリ(アルカリ金属の酸化物と二酸化ケイ素とからなるケイ酸塩)の水和物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0039】
酸化ケイ素(SiO)と酸化リチウム(LiO)の構成モル比率が0.5>(SiO/LiO)のケイ酸リチウム、酸化ケイ素(SiO)と酸化ナトリウム(NaO)の構成モル比率が0.5>(SiO/NaO)のケイ酸ナトリウム、酸化ケイ素(SiO)と酸化カリウム(KO)の構成モル比率が0.5>(SiO/KO)のケイ酸カリウムの場合、それぞれ、酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウムの構成モル比率が高く、水分を含む大気雰囲気下や湿潤環境下で水と非常に反応し易い酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウムの性質を強く帯びるため、安定な皮膜を形成し難い。一方、酸化ケイ素(SiO)と酸化リチウム(LiO)の構成モル比率が(SiO/LiO)>8のケイ酸リチウム、酸化ケイ素(SiO)と酸化ナトリウム(NaO)の構成モル比率が(SiO/NaO)>4のケイ酸ナトリウム、酸化ケイ素(SiO)と酸化カリウム(KO)の構成モル比率が(SiO/KO)>4のケイ酸カリウムの場合、いずれもアルカリ金属イオンの構成モル比率が低く、水和可能なイオン結合部位が少ないため、本発明の防錆皮膜の必須成分である可溶性のケイ酸アルカリが僅少となり、十分な防錆効果が得られない恐れがある。
【0040】
また、これらの好ましい(S)成分のうち、オルトケイ酸リチウム(LiSiO;2LiO・SiO)、オルト二ケイ酸六リチウム(LiSi;3LiO・2SiO)、メタケイ酸リチウム(LiSiO;LiO・SiO)、二ケイ酸リチウム(LiSi;LiO・2SiO)、七ケイ酸四リチウム(2LiO・7SiO)、四ケイ酸リチウム(LiSi;LiO・4SiO)、九ケイ酸四リチウム(2LiO・9SiO)、十五ケイ酸四リチウム(2LiO・15SiO)、オルトケイ酸ナトリウム(NaSiO;2NaO・SiO)、メタケイ酸ナトリウム(NaSiO;NaO・SiO)、二ケイ酸ナトリウム(NaSi;NaO・2SiO)、四ケイ酸ナトリウム(NaSi;NaO・4SiO)、オルトケイ酸カリウム(KSiO;2KO・SiO)、メタケイ酸カリウム(KSiO;KO・SiO)、二ケイ酸カリウム(KSi;KO・2SiO)、四ケイ酸カリウム(KSi;KO・4SiO)、及び、これらのケイ酸アルカリの水和物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0041】
これらのケイ酸塩の水溶液を乾燥して成膜する過程では、乾燥温度が60〜100℃程度の低温であっても、水和状態のまま容易にゲル化し、一部が高分子化して水に不溶性のケイ酸塩やポリケイ酸塩になる。その結果、皮膜中に不溶性ケイ酸塩と可溶性ケイ酸塩が共存し、前述の防錆機能を発揮し易い。
【0042】
本発明の金属部材が加熱調理器や自動車排気系周辺部材等の部品として組み込まれ、加熱により、該金属部材を被覆する皮膜が200〜400℃程度の高温に晒されても、非晶質ゲル状構造の隙間の水や、吸着水、水和水が段階的に揮発し、かつ、ケイ酸塩の一部が結晶化する(微結晶が生成する)。しかし、この程度の温度では、脱水反応や水に不溶な構造への変化は完結せず、可溶性ケイ酸塩はなお残るため、不溶性ケイ酸塩と可溶性ケイ酸塩の共存による効果的な防錆機能は失われない。
【0043】
(S)成分は、水に不溶性のケイ酸アルカリと可溶性のケイ酸アルカリとがそれぞれ含まれ、いずれも、本発明の防錆皮膜の必須成分である。可溶性のケイ酸アルカリは、水分を含む大気雰囲気下や湿潤環境下において、皮膜中の水分にその一部が溶けてアルカリ性を呈し、前述した防錆効果を発現する。しかし、水分を含む大気雰囲気下や湿潤環境下において皮膜内が酸性に傾くと、可溶性ケイ酸アルカリの少なくとも一部が中和又は分解されて、種々のケイ酸やそれらの水和物となり、防錆能力が低下する。また、酸性環境では不溶性のケイ酸アルカリも分解されることがあり、前述した、酸素や塩化物イオン(Cl)等の腐食因子のバリア効果が低下する恐れがある。したがって、本発明の防錆皮膜中で(S)成分と共存する(Ox)成分、(Red)成分、(P)成分は、これらを水溶液とした場合のpHが5.0以上であることが好ましく、中性又はアルカリ性の範囲にあることがより好ましい。
【0044】
本発明において、防錆皮膜の構成成分の1つである水溶性の酸化性無機化合物((Ox)成分)とは、水に溶け易く強い酸化作用があり、アルミニウム等の多くの金属を酸化できる無機化合物のことを言う。
【0045】
本発明において、耐熱防錆処理金属部材の防錆皮膜は、化学物質管理促進法の対象となる指定化学物質を含んでいないため、本発明の防錆皮膜構成成分の1つである(Ox)成分も、化学物質管理促進法の指定化学物質を含んでいない。そのため、化学物質管理促進法にて指定されている水溶性の第一種指定化学物質の中で、Be、B、F、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、As、Se、Mo、Ag、Cd、Sb、Ba、Hg又はPbを含む酸化性無機化合物、及び、水溶性の第二種指定化学物質の中で、In、Te又はTlを含む酸化性無機化合物は、(Ox)成分から除外される。
【0046】
例えば、水溶性の酸化性無機化合物である過ホウ酸ナトリウム(NaBO・4HO)、重クロム酸カリウム(KCr)、無水クロム酸(CrO)、過マンガン酸カリウム(KMnO)、過マンガン酸ナトリウム(NaMnO・3HO)、塩素酸バリウム(Ba(ClO・HO)、亜硝酸バリウム(Ba(NO)等は除外される。
【0047】
本発明において、防錆皮膜の構成成分の1つである(Ox)成分は強い酸化剤であり、本発明の皮膜中では無機防錆剤として機能する。即ち、本発明の金属部材が、水分を含む大気雰囲気下や湿潤環境に置かれた場合、(Ox)成分が皮膜から溶出して金属表面を覆い、表面のアルミニウム系金属を酸化し、水酸化アルミニウムや酸化アルミニウムの不動態皮膜を生成する。
【0048】
また、特に、これらの金属部材を成形加工したり機構部材として使用する間に防錆皮膜が損傷し、前記金属部材のアルミニウム系金属からなる表面が露出した場合、損傷部位近傍の(Ox)成分は自己修復機能を発揮する。即ち、(Ox)成分の一部が、皮膜中の水分に溶解して損傷部位に移動し、アルミニウム系金属を速やかに酸化し、水酸化アルミニウムや酸化アルミニウムの不動態皮膜となって損傷部位を覆う。
【0049】
(Ox)成分は水に溶け易いため、水分を含む大気雰囲気下や湿潤環境下では、(Ox)成分単独で本発明の防錆皮膜を形成することはできない。しかし、(S)成分との共存下では、(S)成分に含まれる不溶性ケイ酸塩に(Ox)成分の多くが保持され、(Ox)成分は、(S)成分と共に防錆皮膜の一部を構成することができる。それ以外の(Ox)成分は、金属表面に担持されたり、皮膜中でフリーな状態で存在している。(S)成分との共存下では、前述した(S)成分の一部である不溶性ケイ酸塩と可溶性ケイ酸塩がもたらす防錆効果との相乗作用で、緻密で高い防錆効果を持つ皮膜を形成する。
【0050】
本発明において、防錆皮膜の構成成分の1つである(Ox)成分は、常温で固体であり、かつ水溶性でなければならない。(Ox)成分は、融点又は分解温度のうち、いずれか低い方の温度が50℃以上であり、かつ、25℃における水への溶解度が10g/水100g以上であることが好ましい。防錆皮膜を構成する(Ox)成分が常温で固体でない場合、常温にて液体の(Ox)成分が皮膜から滲み出し皮膜表面がべとついたり、(Ox)成分が皮膜の可塑剤として働き、皮膜が容易に塑性変形したり破れる等の不都合が生じる。また、水溶性でない場合、適度な湿式環境で溶出して皮膜下の金属表面を覆い、水酸化アルミニウムや酸化アルミニウムの不動態皮膜を形成したり、皮膜の損傷部位に移動して自己修復機能を発揮することができない。
【0051】
そして、防錆皮膜の構成成分の1つである(Ox)成分は、上述した2条件、即ち、
(i) 化学物質管理促進法の指定化学物質ではない、
(ii) 常温で固体であり、かつ水溶性である、
と言う条件を満たした上で、硝酸塩、亜硝酸塩、塩素酸塩、亜塩素酸塩、過塩素酸塩、臭素酸塩、ヨウ素酸塩及び過ヨウ素酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの塩は、水分を含む大気雰囲気下や湿潤環境下では比較的安定で、強力な酸化力を有し、かつ、水溶液のpHが概ね5.0以上(中性に近い弱酸性、中性又はアルカリ性)のため、既に述べたように、皮膜中で共存する(S)成分を殆ど分解しないからである。
【0052】
これらの好ましい(Ox)成分の例としては、例えば、硝酸ナトリウム(NaNO;水への溶解度が約88g/水100g(25℃)、融点308℃、分解点380℃)、硝酸カリウム(KNO;水への溶解度が約32g/水100g(25℃)、融点なし、分解点339℃)、硝酸アンモニウム(NHNO;水への溶解度が約190g/水100g(25℃)、融点169℃、分解点210℃)、亜硝酸リチウム(LiNO;水への溶解度が約70g/水100g(25℃)、融点なし、分解点185℃)、亜硝酸ナトリウム(NaNO;水への溶解度が約75g/水100g(25℃)、融点271℃、分解点320℃)、亜硝酸カリウム(KNO;水への溶解度が約332g/水100g(25℃)、融点297℃、分解点350℃)、塩素酸ナトリウム(NaClO;水への溶解度が約80g/水100g(25℃)、融点248℃、分解点300℃)、亜塩素酸ナトリウム(NaClO;水への溶解度が約44g/水100g(25℃)、融点なし、分解点130〜140℃)、過塩素酸ナトリウム(NaClO;水への溶解度が約170g/水100g(25℃)、融点なし、分解点482℃)、過塩素酸アンモニウム(NHClO;水への溶解度が約15g/水100g(25℃)、融点なし、分解点130℃)、臭素酸ナトリウム(NaBrO;水への溶解度が約30g/水100g(25℃)、融点なし、分解点381℃)、ヨウ素酸ナトリウム(NaIO;水への溶解度が約10g/水100g(25℃)、融点なし、分解点560℃)、ヨウ素酸カリウム(KIO;水への溶解度が約13g/水100g(25℃)、融点なし、分解点560℃)、過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO;水への溶解度が約10g/水100g(25℃)、融点なし、分解点300℃)、等が挙げられる。
【0053】
一方、強力な酸化剤であるが水溶液が比較的強い酸性を呈するもの、例えば、オルト過ヨウ素酸(HIO;水への溶解度が約112g/水100g(25℃)、融点なし、分解点130℃)、五酸化ヨウ素(I;水への溶解度が約190g/水100g(25℃)、融点なし、分解点275℃)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム((NH;水への溶解度が約59g/水100g(25℃)、融点なし、分解点120℃)等は、皮膜中で共存する(S)成分の一部を分解することがあるため、用いない方がよい。
【0054】
前記(Ox)成分は、上記の好ましいもののうち、硝酸ナトリウム(NaNO;融点308℃、分解点380℃)、硝酸カリウム(KNO;融点なし、分解点339℃)、亜硝酸ナトリウム(NaNO;融点271℃、分解点320℃)、亜硝酸カリウム(KNO;融点297℃、分解点350℃)、塩素酸ナトリウム(NaClO;融点248℃、分解点300℃)、過塩素酸ナトリウム(NaClO;融点なし、分解点482℃)、臭素酸ナトリウム(NaBrO;融点なし、分解点381℃)、ヨウ素酸ナトリウム(NaIO;融点なし、分解点560℃)、ヨウ素酸カリウム(KIO;融点なし、分解点560℃)、過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO;融点なし、分解点300℃)から選ばれる少なくとも1種であることが更に好ましい。これらの酸化剤は、いずれも分解温度(酸素放出温度)が300℃以上で、加熱に対し比較的安定なため、加熱調理器の内面部材や自動車排気系周辺部材等として熱履歴を受けても酸化能力を殆ど失わず、加熱後も、前述した優れた防錆機能を発揮するからである。
【0055】
本発明において、防錆皮膜の構成成分の1つである水溶性の還元性無機化合物((Red)成分)とは、水に溶け易く強い還元作用があり、水に溶解したアルミニウムイオン等の多くの金属イオンを還元できる無機化合物のことを言う。
【0056】
本発明の防錆皮膜構成成分の1つである(Red)成分も、化学物質管理促進法の指定化学物質を含んでいない。そのため、化学物質管理促進法にて指定されている水溶性の第一種指定化学物質の中で、Be、B、F、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、As、Se、Mo、Ag、Cd、Sb、Ba、Hg又はPbを含む還元性無機化合物、及び、水溶性の第二種指定化学物質の中で、In、Te又はTlを含む還元性無機化合物は、(Red)成分から除外される。
【0057】
また、化学物質管理促進法の指定化学物質を含む化合物以外のものでも、無機亜リン酸塩、無機次亜リン酸塩は、本発明には用いない方がよい。アルカリ金属の亜リン酸塩(例えば、亜リン酸ナトリウム(NaPHO)等)や殆どの次亜リン酸塩(例えば、次亜リン酸ナトリウム(NaPH・HO)、次亜リン酸カルシウム(Ca(PH)、次亜リン酸アンモニウム(NHPH)等)は水溶性であり、強力な還元性無機化合物であるが、200〜250℃以上に加熱すると、多くの場合、分解して毒性の強いホスフィンガス(PH)を発生する。そのため、本発明の金属部材のように、200〜300℃あるいはそれ以上の高温下で熱履歴を受ける可能性がある用途には用いない方がよい。
【0058】
(Red)成分は強い還元剤であり、本発明の皮膜中では無機防錆剤として機能する。即ち、本発明の金属部材が水分を含む大気雰囲気下や湿潤環境に置かれた場合、溶出して金属表面を覆い、アノード反応(アルミニウム系金属の酸化、溶出)を抑制する。また、特に、これらの金属部材を成形加工したり機構部材として使用する間に防錆皮膜が損傷し、前記金属部材のアルミニウム系金属からなる表面が露出した場合、損傷部位近傍の(Red)成分の一部が、皮膜中の水分に溶解して損傷部位に移動し、アノード反応(アルミニウム系金属の酸化、溶出)を抑制する。
【0059】
(Red)成分は水に溶け易いため、水分を含む大気雰囲気下や湿潤環境下では、単独で本発明の防錆皮膜を形成することはできない。しかし、(S)成分との共存下では、(S)成分に含まれる不溶性ケイ酸塩に(Red)成分の多くが保持され、(Red)成分は、(S)成分と共に防錆皮膜の一部を構成することができる。それ以外の(Red)成分は、金属表面に担持されたり、皮膜中でフリーな状態で存在している。
【0060】
(S)成分との共存下では、前述した(S)成分の一部である不溶性ケイ酸塩がもたらす防錆効果との相乗作用で、緻密で高い防錆効果を持つ皮膜を形成する。即ち、(Red)成分が(S)成分と共存する時、(S)成分に含まれる可溶性ケイ酸塩によるアノード反応(アルミニウム系金属の酸化、溶出)は、(Red)成分の強い還元作用により抑止される場合が多いが、金属表面を覆う(S)成分中の不溶性ケイ酸塩は、前述のように腐食因子を含む水溶液と金属の間を遮断し、アノード反応(金属の溶出)とカソード反応(水中の溶存酸素の還元等)を抑制するため、(Red)成分によるアノード反応抑制との相乗効果により、高い防錆効果を持つ皮膜となる。
【0061】
本発明において、防錆皮膜の構成成分の1つである(Red)成分は、(Ox)成分の場合と同様に、常温で固体であり、かつ水溶性でなければならない。(Red)成分は、融点又は分解温度のうち、いずれか低い方の温度が50℃以上であり、かつ、25℃における水への溶解度が10g/水100g以上であることが好ましい。防錆皮膜を構成する(Red)成分が常温で固体でない場合、常温にて液体の(Red)成分が皮膜から滲み出し皮膜表面がべとついたり、(Red)成分が皮膜の可塑剤として働き、皮膜が容易に塑性変形したり破れる等の不都合が生じる。また、(Red)成分が水溶性でない場合、適度な湿式環境で溶出して皮膜下の金属表面を覆ったり、皮膜の損傷部位に移動することができないため、アノード反応(アルミニウム系金属の酸化、溶出)を効果的に抑制できない。
【0062】
そして、防錆皮膜の構成成分の1つである(Red)成分は、上述した2条件、即ち、
(i) 化学物質管理促進法の指定化学物質ではない、
(ii) 常温で固体であり、かつ水溶性である、
と言う条件を満たした上で、チオ硫酸塩、二チオン酸塩、亜二チオン酸塩及び亜硫酸塩から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらは、既に述べたように、防錆皮膜中から金属面や皮膜損傷部位に移動し還元剤としてアノード反応(アルミニウム系金属の酸化、溶出)を抑制するだけでなく、これらの化合物に含まれるチオ硫酸イオン(S2−)、亜二チオン酸イオン(S2−)や亜硫酸イオン(SO2−)等は、硫黄原子の周りの広範な価電子分布(孤立電子対の電子雲)が容易に変形して金属側に引き寄せられ、裸の金属表面に化学吸着し易く、金属との結合により金属表面を安定化し、金属腐食に関わるアノード反応、カソード反応の両方を抑制するからである。また、これらの水溶液のpHが概ね6.0以上(中性又はアルカリ性)のため、既に述べたように、皮膜中で共存する(S)成分を殆ど分解しない。
【0063】
これらの好ましい(Red)成分の例としては、例えば、チオ硫酸ナトリウム(Na;水への溶解度が約72g/水100g(25℃)、融点なし、分解点220℃)、チオ硫酸マグネシウム(MgS;水への溶解度が約65g/水100g(25℃)、融点なし、分解点130℃)、チオ硫酸カリウム(K;水への溶解度が約106g/水100g(25℃)、融点なし、分解点400℃)、チオ硫酸カルシウム(CaS;水への溶解度が約250g/水100g(25℃)、融点なし、分解点60℃)、チオ硫酸アンモニウム((NH;水への溶解度が約175g/水100g(25℃)、融点なし、分解点150℃)、二チオン酸ナトリウム(Na;水への溶解度が約48g/水100g(25℃)、融点なし、分解点200℃)、亜二チオン酸ナトリウム(Na;水への溶解度が約225g/水100g(25℃)、融点なし、分解点100℃)、亜硫酸ナトリウム(NaSO;水への溶解度が約36g/水100g(25℃)、融点なし、分解点180℃)、亜硫酸カリウム(KSO;水への溶解度が約52g/水100g(25℃)、融点なし、分解点190℃)、亜硫酸水素カリウム(KHSO;水への溶解度が約48g/水100g(25℃)、融点なし、分解点190℃)、等が挙げられる。
【0064】
前記(Red)成分は、上記の好ましいもののうち、チオ硫酸カリウム(K;融点なし、分解点400℃)が特に好ましい。分解温度が高く、加熱に対し比較的安定なため、加熱調理器の内面部材や自動車排気系周辺部材等として熱履歴を受けても還元能力を殆ど失わず、加熱後も、前述した優れた防錆機能を発揮するからである。
【0065】
本発明において、防錆皮膜の構成成分である(Ox)成分、(Red)成分は、それぞれ強い酸化剤、還元剤のため、皮膜中で共存させてはならない。互いに接触すると、激しい酸化還元反応を生じて分解し、無機防錆剤として機能しなくなる。
【0066】
本発明において、防錆皮膜の構成成分の1つである水溶性の無機リン酸塩((P)成分)とは、酸化数5のリン(P)を中心原子とするリン酸イオン(PO3−)の無機水溶性塩の総称で、中和が完全で解離性水素を含まない正リン酸塩(例えば、NaPO、(NHPO等)、水素が1個残る一水素塩(例えば、NaHPO、(NHHPO等)、水素が2個残る二水素塩(例えば、NaHPO、NHPO等)を指す。
【0067】
ただし、既に述べたように、本発明の皮膜中で(P)成分と共存する(S)成分の一部は、酸性環境下にて分解することがあるため、本発明で用いる(P)成分は、水溶液が中性又はアルカリ性となる正リン酸塩、又は一水素塩の適用が好ましく、水溶液が酸性(水溶液のpHが凡そ3〜5.5の範囲)を呈する二水素塩は用いない方がよい。
【0068】
また、本発明における水溶性の無機リン酸塩には、水溶性の無機縮合リン酸塩も含まれる。無機縮合リン酸塩とは、オルトリン酸(HPO)の脱水縮合により生じる縮合リン酸の正塩(中和が完全で解離性水素を含まない塩)、水素塩(未中和の解離性水素が残る塩)の総称で、2個以上のリン酸根(PO3−)が酸素原子を共有した直鎖状、環状あるいは両者が混在する構造を取るものを指す。
【0069】
本発明の防錆皮膜構成成分の1つである(P)成分も、本発明に関わる他の全ての防錆皮膜構成成分と同様に、化学物質管理促進法の指定化学物質を含んでいない。そのため、化学物質管理促進法にて指定されている水溶性の第一種指定化学物質の中で、Be、B、F、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、As、Se、Mo、Ag、Cd、Sb、Ba、Hg又はPbを含む無機リン酸塩、及び、水溶性の第二種指定化学物質の中で、In、Te又はTlを含む無機リン酸塩は、(P)成分から除外される。例えば、水溶性のリン酸フッ化ナトリウム(NaPO・NaF)、リン酸二水素マンガン(II)(Mn(HPO)、リン酸二水素バリウム(Ba(HPO)、リン酸二水素タリウム(TlHPO)等は除外される。
【0070】
本発明において、防錆皮膜の構成成分の1つである(P)成分は、皮膜中の(S)成分に含まれる可溶性ケイ酸塩の場合と同様の機構で、金属表面を防錆する。即ち、本発明において、防錆皮膜で被覆される金属はアルミニウム系金属からなる表面を有し、水分を含む大気雰囲気下や湿潤環境下では、金属部材表面のアルミニウム系金属がアノード反応により徐々に溶出する。その時、(P)成分が皮膜中の水分に溶解し、溶出したアルミニウムイオン等の金属イオンと反応し、不溶性のリン酸アルミニウム、ポリリン酸アルミニウム、水和リン酸アルミニウム等の沈殿皮膜となってアノード反応部位を封鎖し、更なるアノード反応を抑止する。
【0071】
また、特に、本発明の金属部材を成形加工したり機構部材として使用する間に防錆皮膜が損傷し、アルミニウム系金属からなる表面が露出した場合、露出部位のアルミニウム系金属は、アノード反応により溶出し易くなる。その時、皮膜損傷部位近傍の(P)成分の一部が、皮膜中の水分に溶解して損傷部位に移動し、溶出したアルミニウムイオン等の金属イオンと反応し、不溶性のリン酸アルミニウム、ポリリン酸アルミニウム、水和リン酸アルミニウム等の沈殿皮膜となって損傷部位を覆う(自己修復作用)。
【0072】
さらに、皮膜中の(P)成分が正塩又は一水素塩の場合、金属表面に移動した(P)成分は、金属表面や皮膜損傷部位を中性から弱塩基性のpHに保つため、アノード反応により溶出するアルミニウムイオン等の金属イオンと、カソード反応(溶存酸素の還元)で生成するヒドロキシルイオン(OH)との反応を促進し、水酸化アルミニウムや酸化アルミニウムの不動態皮膜を生成し易くする。
【0073】
ただし、前述した(P)成分とアルミニウム系金属の溶出イオンにより生成するリン酸アルミニウム、ポリリン酸アルミニウムや水和ケイ酸アルミニウム等の沈殿皮膜は不完全なことが多く、また、水酸化アルミニウムや酸化アルミニウムの不動態皮膜の形成促進作用は比較的緩やかなため、水中溶存酸素が接触する金属表面全てを覆いカソード反応(水中の溶存酸素の還元等)を抑制する効果は不十分である。したがって、本発明の(P)成分のみでは高い防錆効果が得られないことが多いが、本発明の防錆皮膜のように、(S)成分と共存することにより、これらの効果との相乗作用で、緻密で高い防錆効果を持つ皮膜となる。
【0074】
本発明において、防錆皮膜の構成成分の1つである(P)成分は、常温で固体かつ水溶性でなければならない。(P)成分は、融点又は分解温度のうち、いずれか低い方の温度が50℃以上であり、かつ、25℃における水への溶解度が10g/水100g以上であることが好ましい。防錆皮膜を構成する(P)成分が常温で固体でない場合、常温にて液体の(P)成分が皮膜から滲み出して皮膜表面がべとついたり、(P)成分が皮膜の可塑剤として働き、皮膜が容易に塑性変形したり破れる等の不都合が生じる。また、(P)成分が水溶性でない場合、適度な湿式環境で溶出して皮膜下の金属表面を覆うことができないため、アノード反応(アルミニウム系金属の酸化、溶出)を効果的に抑制できない。
【0075】
(P)成分は水に溶け易いため、大気湿度を持つ空気中や湿式環境下では、単独で乾燥した皮膜を形成することは困難である。しかし、(S)成分との共存下では、(S)成分に含まれる不溶性ケイ酸塩に(P)成分の多くが保持され、(P)成分は、(S)成分と共に防錆皮膜の一部を構成することができる。それ以外の(P)成分は、金属表面に担持されたり、皮膜中でフリーな状態で存在している。
【0076】
そして、防錆皮膜の構成成分の1つである(P)成分は、上述した2条件、即ち、
(i) 化学物質管理促進法の指定化学物質ではない、
(ii) 水溶性である、
と言う条件を満たした上で、オルトリン酸、ポリリン酸及びメタリン酸の正アンモニウム塩、正リチウム塩、正ナトリウム塩、正カリウム塩、一水素アンモニウム塩、一水素リチウム塩、一水素ナトリウム塩又は一水素カリウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。皮膜中に含まれるこれらの塩は、適度な湿式環境で容易に溶出し、中性〜アルカリ性を呈するため、共存する(S)成分を分解せず、皮膜下の金属表面を覆い腐食因子のバリア効果をもたらす。
【0077】
ただし、リチウム塩のうち、正塩であるリン酸リチウム(LiPO)や一水素塩であるリン酸水素二リチウム(LiHPO)は水に難溶性のため、(P)成分に含まれない。二水素塩であるリン酸二水素リチウム(LiHPO)は水溶性で、(P)成分に含まれるが、前述のように二水素塩の水溶液が酸性側に傾くため、共存する(S)成分を分解する恐れがあり、本発明では用いない方がよい。
【0078】
また、アルカリ金属(リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr))のうち、ルビジウム(Rb)とセシウム(Cs)の塩は非常に高価又は需要が僅少で入手困難であり、フランシウム(Fr)は放射性核種のため、いずれも本発明目的での実用が困難であり、本発明の(P)成分に含まない。
【0079】
上記の好ましい(P)成分の例として、例えば、リン酸水素二アンモニウム((NHHPO;水への溶解度が約70g/水100g(25℃)、融点なし、分解点155℃)、リン酸三アンモニウム((NHPO;水への溶解度が約58g/水100g(25℃)、融点なし、分解点155℃)、リン酸水素二ナトリウム(NaHPO;水への溶解度が約21g/水100g(25℃)、融点なし、分解点240℃)、リン酸三ナトリウム(NaPO;水への溶解度が約26g/水100g(25℃)、融点1340℃)、リン酸水素二カリウム(KHPO;水への溶解度が約160g/水100g(25℃)、融点なし、分解点282℃)、リン酸三カリウム(KPO;水への溶解度が約106g/水100g(25℃)、融点1340℃)、リン酸水素アンモニウムナトリウム(NaNHHPO;水への溶解度が約20g/水100g(25℃)、融点なし、分解点280℃)、ピロリン酸アンモニウム((NH;水への溶解度が約10g/水100g(25℃)、融点なし、分解点95℃)、ピロリン酸ナトリウム(Na;水への溶解度が約12g/水100g(25℃)、融点988℃)、ピロリン酸カリウム(K;水への溶解度が約187g/水100g(25℃)、融点1109℃)、三リン酸アンモニウム((NH10;水への溶解度が約10g/水100g(25℃)、融点なし、分解点95℃)、三リン酸ナトリウム(Na10;水への溶解度が約16g/水100g(25℃)、融点なし、分解点622℃)、三リン酸カリウム(K10;水への溶解度が約90g/水100g(25℃)、融点なし、分解点787℃)、環状三メタリン酸ナトリウム((NaPO;水への溶解度が約10g/水100g(25℃)、融点なし、分解点300℃)、環状四メタリン酸ナトリウム((NaPO;水への溶解度が約10g/水100g(25℃)、融点なし、分解点300℃)、等が挙げられる。
【0080】
前記(P)成分は、上記の好ましいもののうち、リン酸三ナトリウム(NaPO;融点1340℃)、リン酸三カリウム(KPO;融点1340℃)、ピロリン酸ナトリウム(Na;融点988℃)、ピロリン酸カリウム(K;融点1109℃)、三リン酸ナトリウム(Na10;分解点622℃)、三リン酸カリウム(K10;分解点787℃)、環状三メタリン酸ナトリウム((NaPO;分解点300℃)、環状四メタリン酸ナトリウム((NaPO;分解点300℃)から選ばれる少なくとも1種であることが更に好ましい。これらのリン酸塩は、分解温度が300℃以上で、加熱に対し比較的安定なため、加熱調理器の内面部材や自動車排気系周辺部材等として熱履歴を受けても防錆剤としての能力を殆ど失わず、加熱後も、前述した防錆機能を発揮するからである。
【0081】
本発明において、防錆皮膜の構成成分の1つである(M)成分とは、常温で安定な固体で、大気雰囲気下で300℃に晒されても溶融も熱分解もせず安定で、かつ、水に不溶性又は難溶性の酸化物のことを言う。また、(M)成分は、常温及び大気雰囲気下300℃において熱的に安定なだけでなく、通常の使用条件下で接する水蒸気、酸素等の雰囲気気体、紫外線等の光等に対しても安定である。(M)成分の皮膜への導入目的は、防錆皮膜の主成分が前記(S)成分と前記(Ox)成分の時、また、防錆皮膜の主成分が前記(S)成分と前記(Red)成分の時、また、防錆皮膜の主成分が前記(S)成分と前記(P)成分の時、これらにさらに(M)成分を加えることによって、皮膜バルクの耐熱性と耐湿性をさらに高めることである。(M)成分が、大気雰囲気下で300℃に晒されても溶融も熱分解もせず安定と言うことは、常温、常圧の空気雰囲気下での(M)成分の融点又は分解温度のうち、いずれか低い方の温度が300℃を超えていることを意味する。本発明の表面処理皮膜中にて(M)成分が(S)成分と共存する場合、(M)成分と(S)成分の合計量は皮膜中の固形分全体に対して80質量%以上であり皮膜バルクの大部分を占めるため、(M)成分の融点又は分解温度のうち少なくとも一方が300℃以下であれば、皮膜自体が高温下で劣化又は崩壊する恐れがある。また、(M)成分は水に不溶性又は難溶性であるが、高湿度環境に晒されても溶解や膨潤しないよう、25℃における水への溶解度が0.5g/水100g以下であることが好ましい。本発明の表面処理皮膜中にて(M)成分が(S)成分と共存する場合、(M)成分と(S)成分の合計量は皮膜中の固形分全体に対して80質量%以上であり皮膜バルクの大部分を占めるため、(M)成分の25℃における水への溶解度が0.5g/水100gを越えると、皮膜が潮解性を示したり、湿潤環境下で膨潤して崩れたり、溶失したり、可塑化して容易に変形する、等の欠陥が生じる恐れがある。
【0082】
本発明において、耐熱防錆処理金属部材の防錆皮膜は、化学物質管理促進法の対象となる指定化学物質を含んでいないため、本発明の防錆皮膜構成成分の1つである(M)成分も、化学物質管理促進法の指定化学物質を含んでいない。そのため、化学物質管理促進法にて指定されている水に不溶性又は難溶性の第一種指定化学物質の中で、Be、B、Cr、Mn、Co、Ni、As、Se、Mo、Cd、Sb、Hg又はPbを含む酸化物、及び、水に不溶性又は難溶性の第二種指定化学物質の中で、In又はTeを含む酸化物は、(M)成分から除外される。
【0083】
例えば、空気中で300℃に加熱しても溶融も熱分解もせず安定で、かつ、水に不溶性又は難溶性であっても、ベリリウムの酸化物BeO(約1900℃で昇華、熱分解しない)、ホウ素の酸化物BO(融点1920℃、熱分解しない)、B(融点450℃、沸点1250℃、熱分解しない)、クロムの酸化物Cr(融点2300℃、沸点約3000℃、熱分解しない)、マンガンの酸化物MnO(融点1785℃、沸点約4000℃、熱分解しない)、Mn(融点1590℃、沸点2627℃、熱分解しない)、Mn(940℃まで溶融せず、940℃を超えると熱分解)、MnO(540℃まで溶融せず、540℃を超えると熱分解)、Coの酸化物CoO(融点1805℃、沸点2627℃、熱分解しない)、Co(約900℃まで溶融せず、約900℃以上で熱分解)、Co(約370℃まで溶融せず、約370℃以上で熱分解)、ニッケルの酸化物NiO(1957℃まで溶融せず、1957℃を超えると熱分解)、ヒ素の酸化物As(465℃まで溶融せず、465℃以上で蒸発、熱分解しない)、AsO(927℃まで溶融せず、927℃を超えると熱分解)、As(827℃まで溶融せず、827℃を超えると熱分解)、セレンの酸化物SeO(融点1102℃、沸点1802℃、熱分解しない)、SeO(融点377℃、熱分解しない)、モリブデンの酸化物MoO(融点1927℃、沸点1977℃、熱分解しない)、MoO(融点795℃、沸点1257℃、熱分解しない)、カドミウムの酸化物CdO(約700℃まで溶融せず、約700℃で昇華)、アンチモンの酸化物Sb(融点655℃、沸点1425℃、熱分解しない)、水銀の酸化物HgO(約400℃まで溶融せず、約400℃を超えると熱分解)、鉛の酸化物PbO(融点886℃、沸点1472℃、熱分解しない)、Pb(約500℃まで溶融せず、約500℃を超えると熱分解)、インジウムの酸化物InO(融点327℃、沸点527℃、熱分解しない)、InO(融点1052℃、沸点1727℃、熱分解しない)、In(融点約2000℃、沸点3327℃、熱分解しない)、テルルの酸化物TeO(融点747℃、沸点1502℃、熱分解しない)、TeO(融点733℃、733℃を超えると熱分解)、TeO(融点約400℃、約400℃を超えると熱分解)等は除外される。
【0084】
防錆皮膜の構成成分の1つである(M)成分は、上述した2条件、即ち、
(i) 化学物質管理促進法の指定化学物質ではない、
(ii) 常温で安定な固体で、大気雰囲気下で300℃に晒されても溶融も熱分解もせず安定で、かつ、水に不溶性又は難溶性である、
と言う条件を満たした上で、その構成元素が、Al、Si、Ti、Fe、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Sn、La、Ce、Pr、Sm、Gd、Dy、Er、Yb、W又はBiから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの元素の酸化物は、大気雰囲気下や、本発明の表面処理金属部材を得るための処理剤中や、本発明の防錆皮膜中で、その他の元素の酸化物に比べ比較的安定に存在するからである。前記(M)成分は、上記の好ましいもののうち、酸化アルミニウム(Al)、酸化ケイ素(SiO)、酸化チタン(TiO)、酸化鉄(III)(Fe)、酸化銅(I)(CuO)、酸化銅(II)(CuO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化イットリウム(Y)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ニオブ(V)(Nb)、酸化錫(II)(SnO)、酸化錫(IV)(SnO)、酸化ランタン(La)、酸化セリウム(IV)(CeO)、酸化プラセオジム(Pr11)、酸化サマリウム(III)(Sm)、酸化ガドリニウム(Gd)、酸化ジスプロシウム(Dy)、酸化エルビウム(Er)、酸化イッテルビウム(Yb)、酸化タングステン(VI)(WO)、酸化ビスマス(III)(Bi)又はこれらの水和物の少なくとも1種から選ばれることが更に好ましい。これらの元素の酸化物やその水和物は、その他の元素の酸化物やその水和物に比べ安価であり、また、大気雰囲気下や、本発明の表面処理金属部材を得るための処理剤中や、本発明の防錆皮膜中で非常に安定に存在する。
【0085】
本発明の耐熱防錆処理金属部材において、防錆皮膜の主成分が、前記(S)成分から選ばれる少なくとも1種と前記(Ox)成分から選ばれる少なくとも1種のとき、前記(Ox)成分の含有量は、前記防錆皮膜の0.5〜20質量%でなければならず、好ましくは2〜15質量%である。また、防錆皮膜の主成分が、前記(S)成分から選ばれる少なくとも1種と前記(Red)成分から選ばれる少なくとも1種のとき、前記(Red)成分の含有量は、前記防錆皮膜の0.5〜20質量%でなければならず、好ましくは2〜15質量%である。また、防錆皮膜の主成分が、前記(S)成分から選ばれる少なくとも1種と前記(P)成分から選ばれる少なくとも1種のとき、前記(P)成分の含有量は、前記防錆皮膜の0.5〜20質量%でなければならず、好ましくは2〜15質量%である。
【0086】
ここで、前記(Ox)成分、(Red)成分又は(P)成分が皮膜の0.5質量%未満の場合、(Ox)成分又は(Red)成分の量が少な過ぎて、皮膜下の金属の防錆効果が不十分になる。一方、前記(Ox)成分、(Red)成分又は(P)成分が皮膜の20質量%を超える場合、水への易溶性成分である(Ox)成分、(Red)成分又は(P)成分が皮膜中に過多となるため、共存する(S)成分がこれらの易溶性成分を強く保持できず防錆効果が著しく低下したり、皮膜が潮解性を示したり、湿潤環境下で皮膜が溶失したり、可塑化して容易に変形する、等の欠陥が生じる。
【0087】
また、本発明の耐熱防錆処理金属部材において、防錆皮膜の主成分が、前記(S)成分から選ばれる少なくとも1種、前記(Ox)成分から選ばれる少なくとも1種、及び、前記(P)成分から選ばれる少なくとも1種のとき、(Ox)成分と(P)成分の両方の効果を有効かつ相乗的に発揮させるためには、(Ox)成分の含有量が、前記防錆皮膜の0.5〜20質量%であり、かつ、(P)成分の含有量が、前記防錆皮膜の0.5〜20質量%であることが必要であり、好ましくは、(Ox)成分、(P)成分の含有量が、いずれも前記防錆皮膜の2〜15質量%である。また、防錆皮膜の主成分が、前記(S)成分から選ばれる少なくとも1種、前記(Red)成分から選ばれる少なくとも1種、及び、前記(P)成分から選ばれる少なくとも1種のとき、(Red)成分と(P)成分の両方の効果を有効かつ相乗的に発揮させるためには、(Red)成分の含有量が、前記防錆皮膜の0.5〜20質量%であり、かつ、(P)成分の含有量が、前記防錆皮膜の0.5〜20質量%であることが必要であり、好ましくは、(Red)成分、(P)成分の含有量が、いずれも前記防錆皮膜の2〜15質量%である。
【0088】
ここで、前記(Ox)成分、(Red)成分又は(P)成分のうち、少なくとも1成分の含有量が皮膜の0.5質量%未満の場合、皮膜の0.5質量%未満の成分は、皮膜中の存在量が少な過ぎてその防錆効果を十分に発揮できない。一方、前記(Ox)成分、(Red)成分又は(P)成分のうち、少なくとも1成分の含有量が皮膜の20質量%を超える場合、皮膜の20質量%を超えた成分が水に溶出し易くなるため、皮膜が潮解性を示したり、湿潤環境下で溶失したり、可塑化して容易に変形する、等の欠陥が生じる。
【0089】
本発明の耐熱防錆処理金属部材において、防錆皮膜の主成分が、前記(S)成分から選ばれる少なくとも1種と前記(M)成分から選ばれる少なくとも1種と前記(Ox)成分から選ばれる少なくとも1種のとき、前記(Ox)成分の含有量は、前記表面処理皮膜中の固形分全体に対して0.5〜20質量%、好ましくは2〜15質量%であり、かつ、前記(S)成分と(M)成分の含有質量比(M/S)は0.01〜19.0、好ましくは、0.5〜15.0である。また、防錆皮膜の主成分が、前記(S)成分から選ばれる少なくとも1種、前記(M)成分から選ばれる少なくとも1種、前記(Red)成分から選ばれる少なくとも1種のとき、前記(Red)成分の含有量は、前記表面処理皮膜中の固形分全体に対して0.5〜20質量%、好ましくは2〜15質量%であり、かつ、前記(S)成分と(M)成分の含有質量比(M/S)は0.01〜19.0、好ましくは、0.5〜15.0である。また、防錆皮膜の主成分が、前記(S)成分から選ばれる少なくとも1種、前記(M)成分から選ばれる少なくとも1種、前記(P)成分から選ばれる少なくとも1種のとき、前記(P)成分の含有量は、前記表面処理皮膜中の固形分全体に対して0.5〜20質量%、好ましくは2〜15質量%であり、かつ、前記(S)成分と(M)成分の含有質量比(M/S)は0.01〜19.0、好ましくは、0.5〜15.0である。
【0090】
ここで、前記(Ox)成分、(Red)成分又は(P)成分のうち、少なくとも1成分の含有量が皮膜の0.5質量%未満の場合、皮膜の0.5質量%未満の成分は、皮膜中の存在量が少な過ぎてその防錆効果を十分に発揮できない。一方、前記(Ox)成分、(Red)成分又は(P)成分のうち、少なくとも1成分の含有量が皮膜の20質量%を超える場合、皮膜の20質量%を超えた成分が水に溶出し易くなるため、皮膜が潮解性を示したり、湿潤環境下で溶失したり、可塑化して容易に変形する、等の欠陥が生じる。また、前記(S)成分と(M)成分の含有質量比(M/S)が0.01未満の場合、(M)成分により皮膜の耐熱性や耐湿性を高めるのは困難である。一方、前記(S)成分と(M)成分の含有質量比(M/S)が19.0を超える場合、皮膜中の(S)成分の存在量が少な過ぎて、(S)成分による防錆効果が不十分となる。
【0091】
本発明の耐熱防錆処理金属部材では、金属表面上への防錆皮膜の付着量が、0.02g/m以上5g/m以下であり、好ましくは0.05g/m以上5g/m以下あるいは0.02g/m以上2g/m以下、より好ましくは0.05g/m以上2g/m以下の範囲である。ここで、0.02g/m未満の超薄膜では、腐食因子の透過抑止効果が小さく十分な防錆性が得られない。一方、5g/mを超える厚膜では、腐食因子の透過抑止効果は優れるが、皮膜コストが大幅に上昇し、かつ成形加工時に皮膜に亀裂が入り易く実用的でない。
【0092】
2. 添加剤
なお、本発明において、耐熱防錆処理金属部材の防錆皮膜には、(S)成分、(Ox)成分、(Red)成分、(P)成分、(M)成分以外に、無機防錆添加剤をさらに含有していてもよい。本発明に用いることができる無機防錆添加剤の例としては、例えば、タングステン酸塩、チタン酸塩、ジルコン酸塩、ニオブ酸塩、タンタル酸塩、防錆顔料、シロキサン結合を有する化合物、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等が挙げられる。
【0093】
また、防錆皮膜には、上述した無機防錆添加剤以外にも、発明の目的を損なわない範囲で、化学物質管理促進法の指定化学物質以外の各種の無機系あるいは有機系の化合物を含んでいても差し支えない。このような化合物の例としては、化学物質管理促進法の指定化学物質以外の無機系又は有機系微粒子、無機系又は有機系防錆添加剤、各種の無機酸や有機酸、無機系又は有機系潤滑剤、無機系又は有機系顔料、有機樹脂等が挙げられる。しかしながら、皮膜が有機系化合物を含む場合は、これらが加熱により容易に劣化する場合が多いため、必要最小限の含有量に抑え、防錆皮膜が長時間加熱後も劣化せずに緻密性、防錆性を保持するよう留意する必要がある。
【0094】
3. 防錆処理される金属
本発明の耐熱防錆処理金属部材の形状は、特に限定せず、板状、棒状、線状、管状、環状、塊状、種々の金型加工、曲げ加工、切削加工、鋳鍛造等で得られた形状等、どのような形状であってもよい。また、本発明の金属部材において、防錆皮膜で被覆される最表面層以外の金属の成分は、融点が300℃を超え、かつ、大気雰囲気下で300℃に晒された後でも劣化しない金属であれば特に限定せず、例えば、アルミニウム、チタン、銅、ニッケル、そして鋼等が適用可能である。鋼を使用する場合には、普通鋼であっても、クロム等の添加元素含有鋼であってもよい。
【0095】
本発明にて、アルミニウム系金属とは、アルミニウムを50質量%以上含むアルミニウム系合金のことである。
【0096】
防錆皮膜で被覆され耐熱防錆性を有する、本実施形態に係る表面処理金属部材の最表面層は、アルミニウム系金属である。このアルミニウム系金属のアルミニウム以外の合金成分として、例えば、亜鉛、コバルト、スズ、ニッケルのうちの少なくとも1種、他の金属元素、又は非金属元素等が挙げられる。
【0097】
防錆皮膜で被覆される最表面層以外の金属として鋼を使用する場合、鋼の表面に、アルミニウム系金属からなる被覆めっき層を設けるのが好ましい。めっき層の形成方法は特に限定せず、例えば、電気めっき、無電解めっき、溶融めっき、気相めっき等を用いることができる。めっき処理方法は、連続式、バッチ式のいずれでもよく、例えば、溶融めっきでは、連続式は主に薄板材、線材類に用いられ、バッチ式のめっきは、管類、圧延材、加工品、ボルト・ナット類、鋳鍛造品類等の最終製品に成形した後に溶融めっき浴に浸漬することによる(所謂後めっき)。また、鋼板を使用する場合、めっき後の処理として、めっき層の改質処理である焼鈍処理、表面状態や材質調整のための調質圧延等があり得るが、本発明においては特にこれらを限定せず、いずれを適用することも可能である。
【0098】
本発明において、防錆皮膜と該皮膜で被覆される金属との界面に、化学物質管理促進法の指定化学物質を含有しない下地処理皮膜を設けてもよい。この下地処理皮膜の組成は特に限定しないが、300℃の高熱に晒されても劣化せず、金属面と上層の防錆皮膜とのそれぞれに対し密着性に優れ、かつ防錆能を有する化合物により形成されることが好ましい。例えば、タングステン、チタン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル又は希土類元素から選ばれる少なくとも1種を含む金属系化合物、これら金属系化合物以外のリン酸塩、シロキサン結合を有する化合物、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等から選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。
【0099】
[防錆処理]
アルミニウム系金属からなる最表面、又は、該金属表面に設けた下地処理皮膜上への防錆皮膜の被覆形成方法は、(S)成分と(Ox)成分、又は(S)成分と(Ox)成分と(P)成分、又は、(S)成分と(Red)成分、又は(S)成分と(Red)成分と(P)成分、又は、(S)成分と(P)成分、又は(S)成分と(M)成分と(Ox)成分、又は(S)成分と(M)成分と(Red)成分、又は(S)成分と(M)成分と(P)成分を構成主成分とし、又は、更にこれらに種々の塩、架橋体や複合体を含む、防錆性、加熱後防錆性に優れた防錆皮膜を形成する方法であれば、特に限定しない。このような方法としては、例えば、水や水性溶媒等に溶解又は微細分散させた(S)成分又はさらに(M)成分と、同様に水や水性溶媒等に溶解又は微細分散させた(S)成分と(M)成分以外の皮膜構成成分とを混合して、水性防錆処理剤を調製し、これを金属に塗布し加熱乾燥する方法、又は、(S)成分又はさらに(M)成分を主体とし、(S)成分又はさらに(M)成分の分子間に(S)成分と(M)成分以外の皮膜構成成分を介在させたフィルムを金属面に貼付する方法等があるが、他の方法で皮膜形成させてもよく、ここで掲げた方法に限定されない。
【0100】
なお、これらの方法の中で、防錆処理剤を塗布する方法が、防錆皮膜を被覆する金属の表面形状や粗度等に関わらず、金属面に一様に密着した防錆皮膜を形成でき、また、容易にかつ安価に防錆皮膜を形成できるため、好ましい。この防錆処理剤に用いる溶媒は、耐熱防錆処理金属部材を製造する際の現場環境や大気汚染への配慮から、有機溶媒でなく、水や水性溶媒を用い、水性防錆処理剤とするのが好ましい。
【0101】
このような防錆処理剤は、皮膜を構成する(S)成分、及び、場合により(Ox)成分、(Red)成分、(P)成分、(M)成分を含むが、(Ox)成分、(Red)成分は、それぞれ強い酸化剤、還元剤のため、処理剤中で共存させてはならない。互いに接触すると、激しい酸化還元反応を生じて分解し、防錆処理剤として機能しなくなる。
【0102】
防錆処理剤の塗布方法としては、例えば、防錆処理浴への金属のディップ、防錆処理剤のロールコート、バーコート、刷毛塗り、あるいはスプレー等の後、熱風等で加熱乾燥すれば良いが、他の方法で塗布、皮膜形成させてもよく、ここで掲げた方法に限定されない。塗布後の加熱乾燥は、安定した防錆皮膜形成や、余分な水和水を皮膜形成と同時に除くと言う観点から、塗布後30秒以内で金属表面到達温度が60℃〜200℃になるようにすることが好ましい。
【0103】
上述した防錆処理剤を塗布する方法では、防錆処理剤を金属に塗布し、加熱乾燥するいずれかの過程で、防錆処理剤の(S)成分に含まれる可溶性ケイ酸アルカリの少なくとも一部が、2量化、3量化又は更に高分子化する場合がある。また、防錆処理剤が更に(P)成分を含む場合は、水溶性の無機リン酸塩の少なくとも一部が、2量化、3量化又は更に高分子化する場合がある。また、防錆処理剤に含まれる可溶性ケイ酸アルカリの少なくとも一部、又は更に水溶性の無機リン酸塩の少なくとも一部が、イオン結合や配位結合等により、金属表面の少なくとも一部と種々の塩、架橋体、錯体又は複合体を形成する場合が多い。したがって、加熱乾燥後の防錆皮膜中の(S)成分や(P)成分は、未反応のケイ酸アルカリや無機リン酸塩の他に、前記の種々の塩、架橋体、錯体又は複合体を含む場合が多く、又は更にケイ酸アルカリや無機リン酸塩の2量体、3量体又はポリマーを含む場合もある。
【0104】
加熱乾燥した防錆皮膜中の他の成分は、(Ox)成分の固化物、(Red)成分の固化物、金属表面からの溶出金属イオンを含む化合物等である。ただし、前述のように、(Ox)成分、(Red)成分はそれぞれ強い酸化剤、還元剤のため、本発明の防錆皮膜中では共存させないようにする。
【0105】
[防錆皮膜の確認方法]
本発明の金属部材の表面に設けられている皮膜の構成成分とそれらの含有量とが、本発明の範囲に含まれるかどうか確認する方法としては、例えば、以下のように確認すればよい。
【0106】
1. 可溶性ケイ酸アルカリ、(Ox)成分、(Red)成分、(P)成分の有無確認と定量
調査対象の皮膜で被覆された金属から当該皮膜を削り取り、微細化して、皮膜に含まれる水可溶分を純水で抽出し、抽出化合物の同定を行う。抽出物には、本発明に示す(Ox)成分、(Red)成分、(P)成分や、水可溶性ケイ酸アルカリが含まれる可能性がある。殆どのケイ酸アルカリ、(Ox)成分、(Red)成分、(P)成分の固体は結晶するため、乾固物の広角X線回折スペクトルから、リチウム、ナトリウム又はカリウムのケイ酸塩、及び、選択元素Eからなる(Ox)成分、(Red)成分、(P)成分が存在するかどうか調べることができる。これらが存在すれば、被験皮膜に(S)成分、(Ox)成分、(Red)成分又は(P)成分が含まれると結論付けられ、更に、(S)成分についてはアルカリ金属の種類と化合物名が分かり、(Ox)成分、(Red)成分、(P)成分については、これらに含まれる選択元素Eと化合物名が分かる。
【0107】
(Ox)成分の場合、化合物名が分かれば、適当な還元剤を選んで還元滴定することにより、かなりの高精度で定量できる。同様に、(Red)成分の場合、化合物名が分かれば、適当な酸化剤を選んで酸化滴定することにより、かなりの高精度で定量できる。例えば、(Ox)成分である亜硝酸塩は、スルファミン酸又はスルファニルアミドで滴定することによる。また、ヨウ素酸塩は、還元剤であるチオ硫酸塩やチオシアン酸塩等で滴定することによる。一方、(Red)成分であるチオ硫酸塩や亜二チオン酸塩等は、ヨウ素の標準液による酸化滴定により定量できる。
【0108】
(P)成分の場合、同定された選択元素Eの含有量を蛍光X線分析や原子吸光分析等で調べ、被験皮膜中での存在量を求める。可溶性ケイ酸アルカリについては、含まれるアルカリ金属の種類(リチウム、ナトリウム又はカリウム)が、(Ox)成分、(Red)成分、(P)成分に含まれる金属の種類と同じ場合があるため、(Ox)成分、(Red)成分、(P)成分に含まれないケイ素(Si)の含有量を蛍光X線分析や原子吸光分析等で調べ、定量を行う。
【0109】
2. 水に不溶なケイ酸アルカリと(M)成分の有無確認と定量
前記1.にて被験皮膜に含まれる水可溶分を純水で抽出した後の残渣(水不溶分)には、水に対し難溶性又は不溶性の(S)成分又はさらに(M)成分が含まれる可能性がある。水不溶分の広角X線回折スペクトルから、リチウム、ナトリウム又はカリウムのケイ酸塩が存在するかどうか調べる。これらが存在すれば、含まれる元素を蛍光X線分析や原子吸光分析等で定量し、被験皮膜中での不溶性ケイ酸アルカリの存在量を求める。また、広角X線回折スペクトルから(M)成分の有無を判断し、存在するなら、含まれる元素を蛍光X線分析や原子吸光分析等で定量し、被験皮膜中での(M)成分の存在量を求める。
【0110】
以上説明したように、本発明の表面処理金属部材は、金属を被覆する防錆皮膜に化学物質管理促進法に指定される環境負荷物質を含まず、かつ、クロメート処理金属部材レベルの優れた耐食性及び加熱後の耐食性を有するため、耐熱加熱調理器の内面金属部材、ケーキ焼き皿、パン焼き皿や、自動車排気系周辺の耐熱金属部材等として好適に用いることができる。
【0111】
なお、本発明は前述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【実施例】
【0112】
以下、本発明を実施例及び比較例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0113】
[アルミニウム系金属表面を有する金属板の種類]
AL:新日本製鐵(株)製アルシート(Al−10%Siの溶融アルミニウムめっき鋼板;板厚0.6mm)
GL:日鉄住金鋼板(株)製ガルバリウム鋼板(55%Al−Zn合金めっき鋼板;板厚0.8mm)
TG:古河スカイ(株)製アルミニウム合金板(5000系、Al−4.5%Mg−0.5%Mn合金;板厚0.8mm)
【0114】
[皮膜被覆金属の作製]
1. 本発明の防錆皮膜被覆金属の作成
リチウム、ナトリウム又はカリウムのケイ酸塩((S)成分)を必須成分とし、更に、常温で固体かつ水溶性の酸化性無機化合物((Ox)成分)、常温で固体かつ水溶性の還元性無機化合物((Red)成分)、常温で固体かつ水溶性の無機リン酸塩((P)成分)、又は、常温で安定な固体で、大気雰囲気下で300℃に晒されても溶融も熱分解もせず安定で、かつ、水に不溶性又は難溶性の酸化物((M)成分)を必要に応じて含有する水性防錆処理剤を作製した(各成分の含有量の合計は、処理剤の10質量%)。これらを上述した金属板にバーコータにより塗布し、直ちに、金属表面到達温度が70℃になるように250℃の熱風炉内に約5秒間静置し、乾燥、成膜後、放冷して被験材とした。
【0115】
2. 比較材として用いる皮膜被覆金属の作成
(S)成分以外のケイ酸塩として、二ケイ酸カルシウム(CaSi;2SiO・CaO)、又は、含水四ケイ酸マグネシウム(MgSi11・HO;3MgO・4SiO・HO;タルク)を用いた。これらは水に不溶のため、それぞれボールミルで湿式破砕し、孔径約0.8μmのフィルターで濾過後、濾過液の上部を採取し、それぞれ平均径0.45μm、0.39μmの微粉末を回収した。これを、微量の非イオン界面活性剤と共に、(Ox)成分である亜硝酸ナトリウムの水溶液に分散させて水性処理剤を作製し、激しく攪拌して微粉末を均一に分散させながら、前記と同様に金属面に塗布、加熱乾燥し、比較用の被験材とした。
【0116】
(S)成分である二ケイ酸ナトリウム(NaO・2SiO)の水溶液に、(Ox)成分以外の酸化性無機化合物として、常温で難溶性の酸化性無機化合物である過酸化バリウム(BaO)又は過ヨウ素酸カリウム(KIO)を過剰に添加して飽和させ、これらの未溶解分を濾別して水性処理剤を作製し、前記と同様に金属面に塗布、加熱乾燥し、比較用の被験材とした。
【0117】
(S)成分である七ケイ酸四リチウム(LiO・7SiO)の水溶液に、(Red)成分以外の還元性無機化合物として、常温で難溶性の還元性無機化合物であるチオ硫酸バリウム(BaS)を過剰に添加して飽和させ、これらの未溶解分を濾別して水性処理剤を作製し、前記と同様に比較用の被験材を作成した。また、(Red)成分以外の還元性無機化合物として、常温で難溶性の還元性無機化合物である亜硫酸カルシウム(CaSO)をボールミルで湿式破砕し、孔径約0.8μmのフィルターで濾過後、濾過液の上部を採取し、平均径0.32μmの微粉末を回収した。これを、微量の非イオン界面活性剤と共に、(S)成分である七ケイ酸四リチウム(LiO・7SiO)の水溶液に分散させて水性処理剤を作製し、激しく攪拌して微粉末を均一に分散させながら、前記と同様に金属面に塗布、加熱乾燥し、比較用の被験材とした。
【0118】
また、(P)成分以外の無機リン酸塩として、常温で難溶性の無機リン酸塩であるリン酸一水素カルシウム(CaHPO)又はリン酸リチウム(LiPO)をボールミルで湿式破砕し、孔径約0.8μmのフィルターで濾過後、濾過液の上部を採取し、それぞれ平均径0.38μm、0.56μmの微粉末を回収した。これを、微量の非イオン界面活性剤と共に、(S)成分である七ケイ酸四リチウム(LiO・7SiO)の水溶液に分散させて水性処理剤を作製し、激しく攪拌して微粉末を均一に分散させながら、前記と同様に金属面に塗布、加熱乾燥し、比較用の被験材とした。
【0119】
また、(M)成分以外の金属酸化物として、200℃で熱分解する酸化銀(I)の粉末をボールミルで湿式破砕し、孔径約0.8μmのフィルターで濾過後、濾過液の上部を採取して得た平均径0.50μmの微粉末を用い、これを、微量の非イオン界面活性剤と共に、(S)成分と(Ox)成分、(S)成分と(Red)成分、あるいは(S)成分と(P)成分からなる水溶液に分散させて水性処理剤を作製し、激しく攪拌して微粉末を均一に分散させながら、前記と同様に金属面に塗布、加熱乾燥し、比較用の被験材とした。
【0120】
これら各処理剤の作製に用いた薬品類の名称、化学構造、融点、分解温度、溶解度などを表1に示す。また、各処理剤の構成成分とケイ酸塩以外の成分の含有量、及び、被覆皮膜の付着量、前述の分析方法により求めた皮膜中の(Ox)成分、(Red)成分、(P)成分、(M)成分の含有量を表2〜表6に示す。
【0121】
【表1】

【0122】
3. クロメート比較材の作製
比較材として、酸化クロム(VI)(CrO)の水溶液で前記金属を処理し、Cr付着量約12mg/mの塗布型クロメート処理皮膜を形成したものを用い、前記の皮膜被覆金属と耐食性を相対比較する実験を実施した。
【0123】
以下に、その実験方法を説明する。
【0124】
[耐食性の評価(加熱処理なし)]
1. 平板耐食性
前記の皮膜被覆金属及び比較クロメート材について、JIS−Z−2371に準拠した塩水噴霧試験を行い、72時間後の白錆発生面積を測定し、皮膜被覆金属と対応する比較クロメート材の白錆発生面積を相対比較することにより、耐食性の合否を判定した。
【0125】
皮膜被覆金属、比較クロメート材の白錆発生面積率をそれぞれX%、Y%とすると、判定基準は、
評点4:X<Y
3:X≒Y
2:Y<X<2Y
1:2Y≦X
とし、評点3以上を合格とした。
【0126】
2. 加工部耐食性
前記の皮膜被覆金属及び比較クロメート材に7mmのエリクセン加工を施し、JIS−Z−2371に準拠した塩水噴霧試験を行い、72時間後の加工部における白錆発生面積を測定し、皮膜被覆金属と対応する比較クロメート材の白錆発生面積を相対比較することにより、加工部耐食性の合否を判定した。
【0127】
判定基準は上記1.の平板耐食性の場合と同様に、
評点4:X<Y
3:X≒Y
2:Y<X<2Y
1:2Y≦X
とし、評点3以上を合格とした。
【0128】
[耐食性の評価(加熱処理後)]
1. 加熱処理後の平板耐食性
前記の皮膜被覆金属及び比較クロメート材を、大気雰囲気下、熱風炉で300℃、200時間加熱処理し、放冷した。これらを被験材として、JIS−Z−2371に準拠した塩水噴霧試験を行い、72時間後の白錆発生面積を測定し、皮膜被覆金属と対応する比較クロメート材の白錆発生面積を相対比較することにより、耐食性の合否を判定した。判定基準は、加熱処理なしの耐食性評価の場合と同じである。
【0129】
2. 加熱処理後の加工部耐食性
前記の皮膜被覆金属及び比較クロメート材に7mmのエリクセン加工を施し、上記と同じ条件で加熱処理後、JIS−Z−2371に準拠した塩水噴霧試験を行い、72時間後の白錆発生面積を測定し、皮膜被覆金属と対応する比較クロメート材の白錆発生面積を相対比較することにより、耐食性の合否を判定した。判定基準は、加熱処理なしの耐食性評価の場合と同じである。
【0130】
以上の各評価結果をまとめて、表2〜表6に示す。
【0131】
【表2】

【0132】
【表3】

【0133】
【表4】

【0134】
【表5】

【0135】
【表6】

【0136】
これら表2〜表6に示す実験結果から、本発明の要件を満たす防錆皮膜で被覆された金属を評価した実施例では、クロメート処理材のレベルに匹敵する十分な耐食性、及び加熱処理後の耐食性を発現する耐熱防錆処理金属部材が得られることが分かる。これらの防錆皮膜は、化学物質管理促進法の指定化学物質を含まず、低環境負荷性であり、かつ、金属表面の1工程処理で簡単に皮膜形成できる。
【0137】
一方、本発明の(S)成分の代わりに、マグネシウムやカルシウムのケイ酸塩を用いた場合は、皮膜を形成した金属部材の耐食性が、加熱の有無に関わらず、クロメート処理材のレベルに全く及ばなかった(比較例No.156、157)。
【0138】
また、本発明の(Ox)成分の代わりに、常温で難溶性の酸化性無機化合物を用いた場合は、皮膜を形成した金属部材の耐食性が、加熱の有無に関わらず、クロメート処理材のレベルに及ばなかった(比較例No.45、46、123、124、182、183、199、200)。同様に、本発明の(Red)成分の代わりに、常温で難溶性の還元性無機化合物を用いた場合も、皮膜を形成した金属部材の耐食性が、加熱の有無に関わらず、クロメート処理材のレベルに及ばなかった(比較例No.82、83)。また、本発明の(P)成分の代わりに、常温で難溶性の無機リン酸塩を用いた場合も、皮膜を形成した金属部材の耐食性が、加熱の有無に関わらず、クロメート処理材のレベルに及ばなかった(比較例No.113、114、145、146、190、191、206、207)。また、本発明の(M)成分の代わりに、200℃で熱分解する金属酸化物である酸化銀(I)を用いた場合、皮膜を形成した金属部材の耐食性(加熱処理なし)がクロメート処理材のレベルに及ばず、300℃、200時間加熱処理では皮膜が熱分解し崩壊したため、耐食性を評価できなかった(比較例No.23、24、68、69、107、108、143、144、180、181)。
【0139】
本発明の(S)成分のみの場合、皮膜を形成した金属部材の耐食性は、クロメート処理材のレベルに及ばなかった(比較例No.6、120、152、163、197)。また、本発明の(S)成分、(Ox)成分、(Red)成分、(P)成分、(M)成分を用いていても、(Ox)成分、(Red)成分、(P)成分、(M)成分の皮膜中含有量が本発明で許容する範囲を逸脱している場合、皮膜を形成した金属部材の耐食性は、クロメート処理材のレベルに及ばなかった(比較例No.7、8、18、20、22、29、30、36、41、43、53、63、65、67、75、78、80、91、102、104、106、112、121、122、127、129、134、135、142、153、164、165、175、188、189、198、205)。
【0140】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム系金属からなる表面を有し、前記表面の少なくとも一部が表面処理皮膜で被覆された表面処理金属部材であって、
前記表面処理皮膜は、下記の(S)成分と、下記の(Ox)成分とを構成主成分とし、
前記(Ox)成分の含有量は、前記表面処理皮膜中の固形分全体に対して0.5〜20質量%であることを特徴とする、表面処理金属部材。
(S)成分:リチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属のケイ酸塩。
(Ox)成分:ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、フッ素(F)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、バリウム(Ba)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)、テルル(Te)及びタリウム(Tl)を除く元素から選ばれる少なくとも1つの化合物で、常温で固体かつ水溶性の酸化性無機化合物。
【請求項2】
アルミニウム系金属からなる表面を有し、前記表面の少なくとも一部が表面処理皮膜で被覆された表面処理金属部材であって、
前記表面処理皮膜は、下記の(S)成分と、下記の(Red)成分とを構成主成分とし、
前記(Red)成分の含有量は、前記表面処理皮膜中の固形分全体に対して0.5〜20質量%であることを特徴とする、表面処理金属部材。
(S)成分:リチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属のケイ酸塩。
(Red)成分:ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、フッ素(F)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、バリウム(Ba)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)、テルル(Te)及びタリウム(Tl)を除く元素から選ばれる少なくとも1つの化合物で、常温で固体かつ水溶性の還元性無機化合物。
【請求項3】
アルミニウム系金属からなる表面を有し、前記表面の少なくとも一部が表面処理皮膜で被覆された表面処理金属部材であって、
前記表面処理皮膜は、下記の(S)成分と、下記の(P)成分とを構成主成分とし、
前記(P)成分の含有量は、前記表面処理皮膜中の固形分全体に対して0.5〜20質量%であることを特徴とする、表面処理金属部材。
(S)成分:リチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属のケイ酸塩。
(P)成分:ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、フッ素(F)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、バリウム(Ba)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)、テルル(Te)及びタリウム(Tl)を除く元素から選ばれる少なくとも1つの化合物で、常温で固体かつ水溶性の無機リン酸塩。
【請求項4】
アルミニウム系金属からなる表面を有し、前記表面の少なくとも一部が表面処理皮膜で被覆された表面処理金属部材であって、
前記表面処理皮膜は、下記の(S)成分と、下記の(Ox)成分と、下記の(P)成分とを構成主成分とし、
前記(Ox)成分の含有量は、前記表面処理皮膜中の固形分全体に対して0.5〜20質量%であり、かつ、前記(P)成分の含有量は、前記表面処理皮膜中の固形分全体に対して0.5〜20質量%であることを特徴とする、表面処理金属部材。
(S)成分:リチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属のケイ酸塩。
(Ox)成分:ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、フッ素(F)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、バリウム(Ba)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)、テルル(Te)及びタリウム(Tl)を除く元素から選ばれる少なくとも1つの化合物で、常温で固体かつ水溶性の酸化性無機化合物。
(P)成分:ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、フッ素(F)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、バリウム(Ba)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)、テルル(Te)及びタリウム(Tl)を除く元素から選ばれる少なくとも1つの化合物で、常温で固体かつ水溶性の無機リン酸塩。
【請求項5】
アルミニウム系金属からなる表面を有し、前記表面の少なくとも一部が表面処理皮膜で被覆された表面処理金属部材であって、
前記表面処理皮膜は、下記の(S)成分と、下記の(Red)成分と、下記の(P)成分とを構成主成分とし、
前記(Red)成分の含有量は、前記表面処理皮膜中の固形分全体に対して0.5〜20質量%であり、かつ、前記(P)成分の含有量は、前記表面処理皮膜中の固形分全体に対して0.5〜20質量%であることを特徴とする、表面処理金属部材。
(S)成分:リチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属のケイ酸塩。
(Red)成分:ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、フッ素(F)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、バリウム(Ba)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)、テルル(Te)及びタリウム(Tl)を除く元素から選ばれる少なくとも1つの化合物で、常温で固体かつ水溶性の還元性無機化合物。
(P)成分:ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、フッ素(F)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、バリウム(Ba)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)、テルル(Te)及びタリウム(Tl)を除く元素から選ばれる少なくとも1つの化合物で、常温で固体かつ水溶性の無機リン酸塩。
【請求項6】
アルミニウム系金属からなる表面を有し、前記表面の少なくとも一部が表面処理皮膜で被覆された表面処理金属部材であって、
前記表面処理皮膜は、下記の(S)成分と、下記の(M)成分と、下記の(Ox)成分とを構成主成分とし、
前記(Ox)成分の含有量は、前記表面処理皮膜中の固形分全体に対して0.5〜20質量%であり、かつ、前記(S)成分と(M)成分の含有質量比(M/S)が0.01〜19.0であることを特徴とする、表面処理金属部材。
(S)成分:リチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属のケイ酸塩。
(M)成分:ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)及びテルル(Te)を除く元素から選ばれる少なくとも1つの化合物で、常温及び大気雰囲気下300℃において熱的に安定であり、かつ、水に不溶性又は難溶性の酸化物。
(Ox)成分:ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、フッ素(F)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、バリウム(Ba)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)、テルル(Te)及びタリウム(Tl)を除く元素から選ばれる少なくとも1つの化合物で、常温で固体かつ水溶性の酸化性無機化合物。
【請求項7】
アルミニウム系金属からなる表面を有し、前記表面の少なくとも一部が表面処理皮膜で被覆された表面処理金属部材であって、
前記表面処理皮膜は、下記の(S)成分と、下記の(M)成分と、下記の(Red)成分とを構成主成分とし、
前記(Red)成分の含有量は、前記表面処理皮膜中の固形分全体に対して0.5〜20質量%であり、かつ、前記(S)成分と(M)成分の含有質量比(M/S)が0.01〜19.0であることを特徴とする、表面処理金属部材。
(S)成分:リチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属のケイ酸塩。
(M)成分:ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)及びテルル(Te)を除く元素から選ばれる少なくとも1つの化合物で、常温及び大気雰囲気下300℃において熱的に安定であり、かつ、水に不溶性又は難溶性の酸化物。
(Red)成分:ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、フッ素(F)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、バリウム(Ba)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)、テルル(Te)及びタリウム(Tl)を除く元素から選ばれる少なくとも1つの化合物で、常温で固体かつ水溶性の還元性無機化合物。
【請求項8】
アルミニウム系金属からなる表面を有し、前記表面の少なくとも一部が表面処理皮膜で被覆された表面処理金属部材であって、
前記表面処理皮膜は、下記の(S)成分と、下記の(M)成分と、下記の(P)成分とを構成主成分とし、
前記(P)成分の含有量は、前記表面処理皮膜中の固形分全体に対して0.5〜20質量%であり、かつ、前記(S)成分と(M)成分の含有質量比(M/S)が0.01〜19.0であることを特徴とする、表面処理金属部材。
(S)成分:リチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属のケイ酸塩。
(M)成分:ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)及びテルル(Te)を除く元素から選ばれる少なくとも1つの化合物で、常温及び大気雰囲気下300℃において熱的に安定であり、かつ、水に不溶性又は難溶性の酸化物。
(P)成分:ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、フッ素(F)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、バリウム(Ba)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、インジウム(In)、テルル(Te)及びタリウム(Tl)を除く元素から選ばれる少なくとも1つの化合物で、常温で固体かつ水溶性の無機リン酸塩。
【請求項9】
前記(S)成分は、酸化ケイ素(SiO)と酸化リチウム(LiO)の構成モル比率が0.5≦(SiO/LiO)≦8であるケイ酸リチウム、酸化ケイ素(SiO)と酸化ナトリウム(NaO)の構成モル比率が0.5≦(SiO/NaO)≦4であるケイ酸ナトリウム、酸化ケイ素(SiO)と酸化カリウム(KO)の構成モル比率が0.5≦(SiO/KO)≦4であるケイ酸カリウム、及び、これらのケイ酸塩の水和物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の表面処理金属部材。
【請求項10】
前記(S)成分は、オルトケイ酸リチウム(LiSiO;2LiO・SiO)、オルト二ケイ酸六リチウム(LiSi;3LiO・2SiO)、メタケイ酸リチウム(LiSiO;LiO・SiO)、二ケイ酸リチウム(LiSi;LiO・2SiO)、七ケイ酸四リチウム(2LiO・7SiO)、四ケイ酸リチウム(LiSi;LiO・4SiO)、九ケイ酸四リチウム(2LiO・9SiO)、十五ケイ酸四リチウム(2LiO・15SiO)、および、オルトケイ酸ナトリウム(NaSiO;2NaO・SiO)、メタケイ酸ナトリウム(NaSiO;NaO・SiO)、二ケイ酸ナトリウム(NaSi;NaO・2SiO)、四ケイ酸ナトリウム(NaSi;NaO・4SiO)、オルトケイ酸カリウム(KSiO;2KO・SiO)、メタケイ酸カリウム(KSiO;KO・SiO)、二ケイ酸カリウム(KSi;KO・2SiO)、四ケイ酸カリウム(KSi;KO・4SiO)、及び、これらのケイ酸塩の水和物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の表面処理金属部材。
【請求項11】
前記(Ox)成分は、融点又は分解温度のうちいずれか低い方の温度が50℃以上であり、かつ、25℃における水への溶解度は10g/水100g以上である硝酸塩、亜硝酸塩、塩素酸塩、亜塩素酸塩、過塩素酸塩、臭素酸塩、ヨウ素酸塩及び過ヨウ素酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1、4又は6に記載の表面処理金属部材。
【請求項12】
前記(Ox)成分は、硝酸ナトリウム(NaNO)、硝酸カリウム(KNO)、亜硝酸ナトリウム(NaNO)、亜硝酸カリウム(KNO)、塩素酸ナトリウム(NaClO)、過塩素酸ナトリウム(NaClO)、臭素酸ナトリウム(NaBrO)、ヨウ素酸ナトリウム(NaIO)、ヨウ素酸カリウム(KIO)及び過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1、4、6又は11に記載の表面処理金属部材。
【請求項13】
前記(Red)成分は、融点又は分解温度のうちいずれか低い方の温度が50℃以上であり、かつ、25℃における水への溶解度が10g/水100g以上であるチオ硫酸塩、二チオン酸塩、亜二チオン酸塩及び亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項2、5又は7に記載の表面処理金属部材。
【請求項14】
前記(Red)成分は、チオ硫酸ナトリウム(Na)、チオ硫酸マグネシウム(MgS)、チオ硫酸カリウム(K)、チオ硫酸カルシウム(CaS)、チオ硫酸アンモニウム((NH)、二チオン酸ナトリウム(Na)、亜二チオン酸ナトリウム(Na)、亜硫酸ナトリウム(NaSO)、亜硫酸カリウム(KSO)、及び、硫酸水素カリウム(KHSO)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項2、5、7又は13に記載の表面処理金属部材。
【請求項15】
前記(P)成分は、融点又は分解温度のうちいずれか低い方の温度が50℃以上であり、かつ、25℃における水への溶解度が10g/水100g以上であるオルトリン酸、ポリリン酸又はメタリン酸の正アンモニウム塩、正リチウム塩、正ナトリウム塩、正カリウム塩、一水素アンモニウム塩、一水素リチウム塩、一水素ナトリウム塩及び一水素カリウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の塩であることを特徴とする、請求項3、4、5又は8のいずれかに記載の表面処理金属部材。
【請求項16】
前記(P)成分は、リン酸三ナトリウム(NaPO)、リン酸三カリウム(KPO)、ピロリン酸ナトリウム(Na)、ピロリン酸カリウム(K)、三リン酸ナトリウム(Na10)、三リン酸カリウム(K10)、環状三メタリン酸ナトリウム((NaPO)及び環状四メタリン酸ナトリウム((NaPO)からなる群より選ばれる少なくとも1種の塩であることを特徴とする、請求項3、4、5、8又は15のいずれかに記載の表面処理金属部材。
【請求項17】
前記(M)成分を構成する元素は、Al、Si、Ti、Fe、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Sn、La、Ce、Pr、Sm、Gd、Dy、Er、Yb、W又はBiから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項6〜8のいずれかに記載の表面処理金属部材。
【請求項18】
前記(M)成分は、酸化アルミニウム(Al)、酸化ケイ素(SiO)、酸化チタン(TiO)、酸化鉄(III)(Fe)、酸化銅(I)(CuO)、酸化銅(II)(CuO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化イットリウム(Y)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ニオブ(V)(Nb)、酸化錫(II)(SnO)、酸化錫(IV)(SnO)、酸化ランタン(La)、酸化セリウム(IV)(CeO)、酸化プラセオジム(Pr11)、酸化サマリウム(III)(Sm)、酸化ガドリニウム(Gd)、酸化ジスプロシウム(Dy)、酸化エルビウム(Er)、酸化イッテルビウム(Yb)、酸化タングステン(VI)(WO)、酸化ビスマス(III)(Bi)又はこれらの水和物の少なくとも1種であることを特徴とする、請求項6、7、8、17のいずれかに記載の表面処理金属部材。
【請求項19】
前記表面処理皮膜は、前記表面への付着量が0.02g/m以上5g/m以下であることを特徴とする、請求項1〜18のいずれかに記載の表面処理金属部材。

【公開番号】特開2007−297705(P2007−297705A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−62262(P2007−62262)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】