説明

表面処理金属,その製造方法および表面処理液

【課題】 本発明は,特徴ある表面皮膜を有することで,耐汚染性に優れる表面処理金属およびこの表面処理金属を好適に製造するための製造方法ならびに上記の被膜を好適に製造するための表面処理液を提供する。
【解決手段】 本発明の表面処理金属は,最表面層として,主骨格の主要結合がシロキサン結合であり,かつ,炭素数1以上12以下のアルキル基,アリール基,カルボキシル基,アミノ基または水酸基から選択される少なくとも1種の有機基を含む,無機−有機複合体皮膜を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,表面に無機−有機複合体からなる皮膜を有し,耐汚染性に優れた表面処理金属およびその製造方法ならびに表面処理液に関する。より詳細には,無機−有機複合体皮膜によって改質された表面を有し,長期間にわたり表面の耐汚染性と耐候性に優れる表面処理金属およびその製造方法に関するものである。また,この表面処理金属を好適に製造するための処理液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄に代表される金属材料は,耐食性などの耐久性を向上させることを目的として,あるいは美しい外観を得ることを目的として,塗装して使用されるのが一般的である。塗装された金属は,家電,自動車,建材,屋外構造物等の分野で広く用いられているが,このうち,特に屋外で使用されるものについては,雨,風,砂塵等にさらされるため,耐食性に加えて耐汚染性や耐候性に優れることが必要とされている。
【0003】
表面処理金属の耐汚染性を向上する技術のひとつに,光触媒を利用して表面の汚染物質を分解および除去する方法が挙げられる。このような方法は,表面皮膜の構成の相違によって2通りの方法に大別することができる。具体的には,表面の塗膜に直接光触媒活性を示す物質を添加する方法,および塗装を行った表面にさらに光触媒効果を有する皮膜を形成する方法の両者が検討されている。
【0004】
ところで,光触媒の効果によって有機物は分解されるため,上記の光触媒を分散した塗膜あるいは最表面の光触媒効果を有する皮膜と接触している塗膜が徐々に分解して劣化する可能性が考えられる。このため,無機系樹脂などを利用して光触媒によって分解されにくい塗膜と光触媒とを組み合わせることで,高い汚染防止効果を得る試みがなされてきた(例えば,特許文献1〜特許文献6を参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平7−113272号公報
【特許文献2】特開平8−164334号公報
【特許文献3】特開平7−171408号公報
【特許文献4】特開平10−225658号公報
【特許文献5】特開2000−317393号公報
【特許文献6】特開2000−63733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らも,光触媒活性の高い粒子と組み合わせた場合であっても,劣化が少なく,かつ長期の耐候性に優れた皮膜について鋭意検討を行ってきた。この過程で,光触媒粒子と組み合わせた場合はもちろんのこと,光触媒を含有しない皮膜のみの状態であっても優れた汚染防止効果が得られることを見出した。
【0007】
すなわち,本発明は,汚染防止効果を有する皮膜を表面に形成した耐汚染性に優れる表面処理金属およびこの表面処理金属を好適に製造するための製造方法ならびに上記の被膜を好適に製造するための表面処理液を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは,上記課題を解決すべく,鋭意検討を行った結果,主骨格の主要結合として特定の結合を有し,ある種の有機成分を導入した無機−有機複合体からなる皮膜を塗膜のマトリックスとして使用することによって,汚染防止効果を有する皮膜を表面に形成した耐汚染性に優れる表面処理金属が得られることを見出し,本発明を完成するに至った。具体的には,以下の通りである。
【0009】
(1) 最表面層として,主骨格の主要結合がシロキサン結合であり,かつ,炭素数1以上12以下のアルキル基,アリール基,カルボキシル基,アミノ基および水酸基からなる群より選択される少なくとも1種の有機基を含む,無機−有機複合体皮膜を有することを特徴とする,表面処理金属。
(2) 前記皮膜に含まれる有機基は,フェニル基であることを特徴とする,(1)に記載の表面処理金属。
(3) 前記無機−有機複合体の主骨格または側鎖のいずれか一方または双方の結合中に,エーテル結合またはアミノ結合のいずれか一方または双方を含むことを特徴とする,(1)記載の表面処理金属。
(4) 基材となる基材金属が,金属板であることを特徴とする,(1),(2)または(3)に記載の表面処理金属。
(5) 前記金属板は,鋼板,ステンレス鋼板,チタン板,アルミニウム板,アルミニウム合金板および前記各金属板にめっき処理しためっき金属板からなる群より選択される1種であることを特徴とする,(4)に記載の表面処理金属。
(6) 前記金属板は,有機塗膜を有する塗装金属板であることを特徴とする,(4)または(5)記載の表面処理金属。
(7) テトラアルコキシシランと,炭素数1〜12のアルキル基を有するアルコキシシランおよびその加水分解物と,アリール基を有するアルコキシシランおよびその加水分解物とからなる群より選択される1種以上と,を少なくとも含むことを特徴とする,表面処理液。
(8) エポキシ基を有するアルコキシシランおよびその加水分解物と,アミノ基を有するアルコキシシランおよびその加水分解物とからなる群より選択される1種以上をさらに含むことを特徴とする,(7)記載の表面処理液。
(9) (7)または(8)に記載の表面処理液を,金属表面に塗布後,硬化させることを特徴とする,表面処理金属の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば,耐汚染性に優れた表面処理金属を容易に得ることができる。また,本発明の表面処理液,および製造方法を用いることで,上記の表面処理金属を好適に製造することができる。特に,上記の皮膜は,表面処理金属の基材となる金属としてプレコート鋼板を使用する場合であっても適用可能な加工性および密着性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0012】
本発明の表面処理金属は,その表面の皮膜に特徴がある。この表面処理金属の構造としては,三次元網目構造状に発達した無機骨格を主骨格としており,その主骨格が≡Si−O−Si≡で表記される無機のシロキサン結合を主要結合として成り立っている。このシロキサン結合主体の構造中に,炭素数1以上12以下のアルキル基,アリール基,カルボキシル基,アミノ基,水酸基からなる群より選択される少なくとも1種を含むことで,優れた耐汚染性に加えて,加工性にも優れた皮膜が形成される。この理由については明らかでないが,本発明者らは,無機成分を主体とする皮膜は,本来優れた耐候性と耐汚染性を有しており,それに加えて,皮膜中には−OH基あるいは加水分解性の−OR基(R:アルキル基)を含んでいるため,表面が親水性になっている点も大きいと考えている。さらに,本発明の皮膜は,無機成分を主体とする皮膜に炭素数が1以上12以下のアルキル基をはじめとした有機成分を含んでいることで皮膜に柔軟性が付与され,優れた加工性が確保できたものと考えている。
【0013】
ここで,炭素数1以上12以下のアルキル基としては,メチル基,エチル基,プロピル基,ブチル基,ヘキシル基,2−エチルヘキシル基,ドデシル基など,アリール基としては,フェニル基,トリル基,キシリル基,ナフチル基などが挙げられる。また,カルボキシル基は−COOH,アミノ基は−NH,水酸基は−OHをそれぞれ指している。
【0014】
本発明で用いる有機成分は,2種類以上のものを同時に使用することができるが,このうち,主となる有機基,すなわち最も含有量が多い有機基としては,炭素数5以上12以下のアルキル基またはアリール基を使用するのが好ましく,炭素数6以上12以下のアルキル基またはアリール基を使用するのがより好ましく,炭素数6以上10以下のアルキル基またはアリール基を使用するのがさらに好ましい。このうち,本発明の有機基として最も好適に用いられる有機基はフェニル基であり,フェニル基のみを用いて主骨格を形成するシロキサン結合と組み合わせることで,耐汚染性に優れた皮膜を得ることができる。これらの有機成分は主骨格に存在していても,あるいは側鎖に存在していても差し支えない。これらの有機成分が皮膜中に存在していることによって,本発明で用いる皮膜の優れた特徴が発現しているものと考えられる。
【0015】
シロキサン結合以外の結合としては,−CH−CH(CH)−O−CH−のようなエーテル結合あるいは第2級または第3級アミンとなるようなアミノ結合などが挙げられる。このうち,エーテル結合やアミノ結合の一方または双方を,皮膜構造中の主骨格または側鎖あるいはこれらの双方に有している場合,特に耐汚染性に優れた皮膜を得ることができる。さらには,本発明者らは,上記の成分を含むことで,高分子の架橋密度が高くなり,皮膜が緻密になることも耐汚染性の向上に寄与していると考えている。
【0016】
本発明で用いる皮膜の厚さは,必要とされる特性あるいは用途によっても異なるが,0.05μm以上25μm以下であることが好ましく,より好ましくは0.1μm以上20μm以下であり,さらに好ましくは0.1μm以上10μm以下である。皮膜厚さがこれらの範囲を超えて薄い場合,均一な皮膜を形成して所定の特性を発現することが困難であり,一方で,皮膜が上記範囲を超えて厚すぎる場合には,成型加工性が不十分な皮膜となる場合,あるいは加工時の密着性が不十分な皮膜となる場合が多い。また,マトリックスとなる皮膜の性質上,一回の操作で厚い塗膜を形成することは,ひび割れ,剥離などの原因となるため好ましくない。所定以上の厚さの皮膜を形成する場合には,後述する塗布および乾燥(固化)の作業を繰り返し行うことが好ましい。
【0017】
本発明で用いる無機−有機複合体皮膜は,優れた耐汚染性を有するため,金属の最表面に形成することが必要である。この場合において,基材となる金属の表面に直接形成する場合はもちろんであるが,本皮膜の下層に他の皮膜が形成され,複層化されている状態であっても一向に差し支えない。代表的な例としては,塗装鋼板で使用される有機塗膜,無機−有機複合体皮膜,あるいは無機系の皮膜が形成されている場合などが挙げられる。下層の皮膜の組成,成分等は問わない。これ以外の例としては,クロメート処理を施し,クロメート皮膜が形成された金属やクロメート以外の公知の表面処理(例えばリン酸塩処理等)がなされている金属の表面に本発明で用いる皮膜が形成されている場合などが挙げられる。最表面の皮膜は,塗装または表面処理を行った金属の表面に,最終的に本発明で用いる無機−有機複合体皮膜を形成することによって得られる。
【0018】
本発明の皮膜中には,金属成分としてSiが含まれているが,これ以外の元素として,B,Al,Ge,Ti,Y,Zr,Nb,Ta等から選択される一種以上の金属元素を添加することができる。このうち,Al,Ti,Nb,Taについては,酸を触媒としてこれらの金属アルコキシドを系に添加しているときに,皮膜の固化を低温あるいは短時間で完了させるための触媒的な働きを示すものである。酸を触媒としてこれらの金属アルコキシドを添加した場合には,エポキシの開環速度が速くなるため,低温あるいは短時間での皮膜硬化が可能となる。特にしばしば用いられる金属はTiであり,Ti−エトキシド,Ti−イソプロポキシド等のTiのアルコキシドが原料として用いられる。また,Zrを添加した系では,皮膜の耐アルカリ性が顕著に改善されるため,特に耐アルカリ性が必要とされる用途で好適に用いられる。これらの金属元素は,Siと置換して−O−M−O−の結合を形成する場合もあり,また,ある程度の大きさをもって,例えば粒子のような状態で存在する場合もあり得るが,皮膜中の存在形態については特に問題となることはない。
【0019】
本発明の表面処理金属の基材となる金属としては,材質,形状,加工の有無,最終製品(形状)であるか否かを含めて何ら限定を受けるものではなく,いかなるものも好適に使用することができる。例えば,鋼材,ステンレス鋼,チタン,アルミニウム,アルミニウム合金あるいはこれらにめっき処理を行ったものなどを材質にかかわらず好適に用いることができる。また,厚板,薄板,管(パイプ),形鋼などの成形品,棒,線材などを形状や加工の有無などにかかわらず好適に用いることができる。中でも特に好ましい金属としては,ステンレス鋼板,チタン板,アルミニウム板,アルミニウム合金板,またはこれらにめっき処理を行っためっき金属板もしくはこれらに有機塗膜を形成した塗装鋼板が挙げられる。めっき鋼板としては,例えば,亜鉛めっき鋼板,亜鉛−鉄合金めっき鋼板,亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板,亜鉛−クロム合金めっき鋼板,亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板,アルミめっき鋼板,亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板,亜鉛−アルミニウム−マグネシウム−シリコン合金めっき鋼板,アルミニウム−シリコン合金めっき鋼板,亜鉛めっきステンレス鋼板,アルミニウムめっきステンレス鋼板等が挙げられる。ステンレス鋼板としては,例えば,フェライト系ステンレス鋼板,マルテンサイト系ステンレス鋼板,オーステナイト系ステンレス鋼板等が挙げられる。ステンレス鋼板の厚さとしては,数十mm程度の厚いものから,圧延により10μm程度まで薄くした,いわゆるステンレス箔までが挙げられる。ステンレス鋼板およびステンレス箔の表面は,ブライトアニール,バフ研磨などの表面処理を施してあってもよい。アルミニウム合金板としてはJIS1000番系(純Al系),JIS2000番系(Al−Cu系),JIS3000番系(Al−Mn系),JIS4000番系(Al−Si系),JIS5000番系(Al−Mg系),JIS6000番系(Al−Mg−Si系),JIS7000番系(Al−Zn系)等が挙げられる。
【0020】
本発明の表面処理金属は,材料として用いることも可能であるが,部品に加工した状態でも好適に用いることができる。部品としては特に限定されるものではなく,例えば家屋の外壁,サイジングなどの建材用途や,例えばエアコンの室外機,給湯器のハウジング(外板)などの屋外用途の家電製品などに好適に用いることができる。
【0021】
本発明の表面処理金属を好適に製造するための表面処理液は,テトラアルコキシシランと,炭素数1〜12のアルキル基を有するアルコキシシランおよびその加水分解物と,アリール基を有するアルコキシシランおよびその加水分解物とからなる群より選択される1種以上を主成分とする液である。
【0022】
テトラアルコキシシランとしては,テトラメトキシシラン,テトラエトキシシラン,テトラプロポキシシラン,テトラブトキシシラン等が挙げられる。また,炭素数1〜12のアルキル基を有するアルコキシシランとしては,メチルトリメトキシシラン,ジメチルジメトキシシラン,メチルトリエトキシシラン,ジメチルジエトキシシラン,ヘキシルトリメトキシシラン,ヘキシルトリエトキシシラン,デシルトリメトキシシラン,デシルトリエトキシシランなどが挙げられる。アリール基を有するアルコキシシランとしては,フェニルトリメトキシシラン,ジフェニルジメトキシシラン,フェニルトリエトキシシラン,ジフェニルジエトキシシランなどが挙げられる。表面処理液は,上記のシラン化合物,あるいはその加水分解物またはそれらが重合もしくは縮合反応をして高分子化したものを主成分として含有している。
【0023】
これらの成分を使用することで,本発明で用いる主骨格の主要結合がシロキサン結合であり,かつ炭素数1以上12以下のアルキル基,アリール基,カルボキシル基,アミノ基または水酸基から選択される少なくとも1種の有機基を含む無機−有機複合体皮膜を容易に得ることができる。また,上記の成分を用いることで,複合体皮膜中における無機成分と有機成分の比率を容易に変えることができ,また,皮膜中に導入する有機成分の種類と量を容易に制御することができる。すなわち,皮膜に要求される性質に応じて無機成分を多くしたり,あるいは逆に有機成分を多くしたりすることができ,さらには添加する有機成分の種類も必要とする性質に応じて適宜選択することができる。
【0024】
本発明で用いる表面処理液は,さらにエポキシ基を有するアルコキシシランや,アミノ基を有するアルコキシシランを含有することができる。エポキシ基を有するアルコキシシランとしては,例えば,γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン,γ−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン,γ−グリシドキシプロピルトリブトキシシラン,3,4−エポキシシクロヘキシルメチルトリメトキシシラン,3,4−エポキシシクロヘキシルメチルトリエトキシシラン,β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン,β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランなどが好適に用いられ,取扱いの容易さや反応性等の点から,γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランが特に好適に用いられる。また,アミノ基を有するアルコキシシランとしては,例えば,アミノプロピルトリメトキシシラン,アミノプロピルトリエトキシシラン,(β−アミノエチル)−β−アミノプロピルトリメトキシシラン,(β−アミノエチル)−β−アミノプロピルメチルジメトキシシラン,(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどが好適に用いられ,なかでもアミノプロピルトリエトキシシランが扱いやすさなどの点から特に好適に用いられる。これらのアルコキシシランは,上述のアルコキシシランと同様に,表面処理液中において,アルコキシ基の全部もしくは一部が加水分解され,またはそれらが重合もしくは縮合反応を起こして高分子化していても差し支えない。
【0025】
これらのエポキシ基を有するアルコキシシラン,アミノ基を有するアルコキシシランを配合する利点は,基材となる金属との密着性および耐汚染性が向上することにある。この理由について,詳しいことは明らかにできていないが,本発明者らは,エポキシ基やアミノ基を添加することで,基材金属との間に密着に寄与する強固な結合が形成されることや高分子の架橋密度が高くなることによると推定している。また,エポキシ基を有するアルコキシシランやアミノ基を有するアルコキシシランの成分の配合を目的として上記の化合物を使用する別の利点としては,すでに述べた必須成分と同様,分子中に加水分解性の官能基を有しているため,必須成分とともに加水分解および縮重合をさせることにより,上記の成分を容易に主骨格の構造中に取り込むことができるためである。上記の成分は主骨格の構造中に取り込まれていることが望ましいが,必ずしもその構造の中に取り込まれている必要はなく,単独で存在していても一向に差し支えない。例えば,上記の成分は,主骨格とは異なる高分子物質を形成している場合もあり得る。
【0026】
また,本発明の表面処理液には,必要に応じて,テトラアルコキシシラン以外の金属成分のアルコキシドを添加物として用いることもできる。特に,Ti,Al,Ta,またはNbから選択される少なくとも1種以上の金属アルコキシドを添加し,酢酸を酸触媒として用いた場合には,エポキシ基の開環速度が速くなるため,低温短時間硬化の効果が特に大きくなる。アルコキシシラン以外の金属アルコキシドは,アルコキシ基の全部または一部が加水分解されていてもよい。また,本発明の表面処理液には,必要に応じて,ジルコニウムの化合物,例えばジルコニウムアルコキシド,その加水分解物,または酸化ジルコニウム(ジルコニア)ゾルのうちの少なくとも1種を含有させることができる。この成分は,本発明の塗布液として用いるシリカを主成分とする表面処理液の耐アルカリ薬品性を改善する作用を有する成分である。本成分を添加することによって耐アルカリ薬品性がどのようなメカニズムで改善されるのかは必ずしも明らかにされていないが,本発明者らは,シロキサン結合を構成するSiがZrに置換されて,シリカとジルコニウムを中心としたネットワークが形成されることにより,アルカリに対して安定化されるためである,と考えている。
【0027】
本発明で用いる表面処理液には,塗膜の意匠性,耐食性,耐摩耗性,触媒機能等を向上させることを目的として,さらに,着色顔料,耐湿顔料,触媒(例えば,酸性触媒,塩基性触媒等),防錆顔料,金属粉末,高周波損失剤,骨材等を添加することも可能である。顔料としては,前述した化合物のほかに,Ti,Al等の酸化物や複合酸化物,Zn粉末,Al粉末等の金属粉末などが挙げられる。防錆顔料としては,環境汚染物質を含まないモリブデン酸カルシウム,リンモリブデン酸カルシウム,リンモリブデン酸アルミニウム等の非クロム酸顔料を用いることが好ましい。また,高周波損失剤としてはZn−Niフェライトが挙げられ,骨材としてはチタン酸カリウム繊維などが挙げられる。
【0028】
また,本発明で用いる表面処理液には,必要に応じて酸触媒を添加することができる。酸触媒としては,酢酸,ギ酸,マレイン酸,安息香酸などの有機酸,塩酸,硝酸などの無機酸が挙げられるが,特に酢酸が好適に用いられる。触媒として酸を用いることにより,原料として用いているアルコキシシランが製膜に適した重合状態をとることに加えて,酢酸を触媒として用いた場合には,エポキシ基の開環が促進され,低温短時間硬化の効果が大きくなるためである。
【0029】
また,添加剤として,レベリング効果剤,抗酸化剤,紫外線吸収剤,安定剤,可塑剤,ワックス,添加型紫外線安定剤などを混合させて用いることができる。また必要に応じて,皮膜の耐熱性等を損なわない範囲で,フッ素樹脂,ポリエステル樹脂,ウレタン樹脂等の樹脂系塗料を含んでいてもよい。これら添加剤は1種のみを用いてもよく,2種類以上を適宜混合して用いることもできる。また,必要に応じて,ジルコニアゾル以外の無機または金属粒子,着色顔料や染料を添加することができる。
【0030】
本発明の表面処理液は,溶質を均一に分散および溶解できる有機溶媒中で,テトラアルコキシシラン,および炭素数1〜12のアルキル基を有するアルコキシシランとアリール基を有するアルコキシシランとからなる群より選択される少なくとも1種のアルコキシシランを,また必要に応じて,さらにエポキシ基を有するアルコキシシランおよび酸触媒を混合してエポキシ基を開環させた後に加水分解を行い,最後に,アミノ基を含むアルコキシシランを添加することにより,調製することができる。使用する有機溶媒としては,例えば,メタノール,エタノール,プロパノール,ブタノール等の各種アルコール類,アセトン,ベンゼン,トルエン,キシレン,エチルベンゼン等の芳香族系有機溶剤等を,単独で,または混合して使用するのが好ましい。
【0031】
調製した表面処理液は,必要な膜厚に適合するように有機溶媒または水で希釈して用いることができる。希釈は,通常1回のコーティングで得られる膜厚が0.2〜5μmの範囲となるように行う。また,複数回の塗装によってそれ以上の厚さの塗膜を形成してもよい。この皮膜厚さの範囲(0.2〜5μm)が健全な皮膜が得られるおよその目安である。一方,溶媒として用いたアルコールまたは加水分解で生成したアルコール等を,常圧または減圧下で留去した後に塗布することも可能である。
【0032】
基材である金属への塗装は,ディップコート法,スプレーコート法,バーコート法,ロールコート法,スピンコート法などによって行われる。本発明で用いられる表面皮膜は,上述の各種基材に対して特に前処理を行わなくても良好な密着性を示すが,必要に応じて塗布前に前処理を行うこともできる。代表的な前処理としては,酸洗,アルカリ脱脂,クロメート処理,非クロメート処理等の化成処理,研削,研磨,ブラスト処理等があり,必要に応じてこれらを単独であるいは組み合わせて行うことができる。
【0033】
本発明で用いられる皮膜は,室温で放置することによっても硬化させることも可能である。ただし,室温で放置する場合には,皮膜が実用的な硬度となるまでには長時間を要するため,加熱硬化させることが望ましい。加熱によって皮膜を硬化させる場合には,150℃以上400℃程度までの温度域で,1時間から数秒程度の熱処理を行うことが好ましい。一般に,熱処理温度が高い場合には短い熱処理時間で膜の硬化が可能であり,熱処理温度が低い場合には長時間の処理が必要である。また,乾燥または熱処理に十分な温度や時間をかけられないような場合には,一旦乾燥,固化または焼き付け固化を行った後に,必要に応じて室温で1〜5日エージングすることが好ましい。この操作により,塗膜形成直後より塗膜の硬度を高めることができる。
【実施例】
【0034】
以下に,本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0035】
表1−1に示した割合で配合したγ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(GPTES),チタニウムテトラエトキシド(TE),フェニルトリエトキシシラン(PhTES),テトラエトキシシラン(TEOS)を十分に撹拌した後,エタノールで希釈した蒸留水を用いて酸性条件下で加水分解を行った。次いで,ここにアミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)を加えた後に,さらに蒸留水/エタノール混合溶液を用いて加水分解を行い,無機―有機複合体を主成分とする表面処理液を調整した。加水分解には十分な量の水を使用し,表面処理液は,150℃で乾燥させたときの固形分濃度が10質量%になるように調製した。
【0036】
コーティングを行う鋼板としては,非クロメート処理を行った亜鉛めっき鋼板の表面に,下塗り塗装及び上塗り塗装としてメラミン架橋のポリエステル皮膜を約15μmの厚さで塗装したプレコート鋼板を使用した。上記で調製した表面処理液を鋼板にバーコータで塗布後,50秒後に板温が230℃となるような昇温条件を用いて最高温度230℃で熱処理を行い,耐汚染性皮膜を有する表面処理鋼板を得た。形成した皮膜の厚さは約5μmであった。また,比較例として,上記のプレコート鋼板(最表面はメラミン架橋のポリエステル皮膜)を用いた。
【0037】
耐汚染性の試験は以下の方法によって行った。まず,(1) 屋外で鋼板の暴露試験を行い,雨だれ汚染および砂塵等に対する汚染を評価した。(2) (1)の暴露試験では効果が発現するまでに長い時間を要する場合があるため,簡易的な評価方法として,塗装した鋼板の表面に汚染物質(黒マジック,赤マジック,カレーペースト)を塗布し,24時間経過後に汚染物質をふき取り,除去できずに残った汚染物質の量(痕残り)を評価した。得られた耐汚染性の試験結果を表1−2に示した。なお,試験結果の評価は,◎→○→△→×の4段階とした。それぞれの評価の基準は表2に示した。この結果から,本実施例の表面処理金属は,優れた耐汚染性を有していることがわかった。また,表には記載していないが,2T曲げ試験を行って曲げ加工性を試験したところ,比較例も含めたすべての表面処理鋼板において,皮膜のわれ,剥離とも認められず,優れた曲げ加工性を有していた。これらの結果から総合的に判断して,本発明の表面処理鋼板は,耐汚染性に優れ,また曲げ加工性や加工時の密着性にも優れていることがわかった。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
以上,本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最表面層として,主骨格の主要結合がシロキサン結合であり,かつ,炭素数1以上12以下のアルキル基,アリール基,カルボキシル基,アミノ基および水酸基からなる群より選択される少なくとも1種の有機基を含む,無機−有機複合体皮膜を有することを特徴とする,表面処理金属。
【請求項2】
前記皮膜に含まれる有機基は,フェニル基であることを特徴とする,請求項1に記載の表面処理金属。
【請求項3】
前記無機−有機複合体の主骨格または側鎖のいずれか一方または双方の結合中に,エーテル結合またはアミノ結合のいずれか一方または双方を含むことを特徴とする,請求項1または2に記載の表面処理金属。
【請求項4】
基材となる基材金属が,金属板であることを特徴とする,請求項1,2または3のいずれかに記載の表面処理金属。
【請求項5】
前記金属板は,鋼板,ステンレス鋼板,チタン板,アルミニウム板,アルミニウム合金板および前記各金属板にめっき処理しためっき金属板からなる群より選択される1種であることを特徴とする,請求項4に記載の表面処理金属。
【請求項6】
前記金属板は,有機塗膜を有する塗装金属板であることを特徴とする,請求項4または5に記載の表面処理金属。
【請求項7】
テトラアルコキシシランと;
炭素数1〜12のアルキル基を有するアルコキシシランおよびその加水分解物と,アリール基を有するアルコキシシランおよびその加水分解物とからなる群より選択される1種以上と;
を少なくとも含むことを特徴とする,表面処理液。
【請求項8】
エポキシ基を有するアルコキシシランおよびその加水分解物と,アミノ基を有するアルコキシシランおよびその加水分解物とからなる群より選択される1種以上をさらに含むことを特徴とする,請求項7に記載の表面処理液。
【請求項9】
請求項7または8に記載の表面処理液を,金属表面に塗布後,硬化させることを特徴とする,表面処理金属の製造方法。


【公開番号】特開2006−192717(P2006−192717A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−6801(P2005−6801)
【出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】