説明

表面処理非膨潤性合成雲母粉体、その製造方法ならびに該粉体を配合した化粧料

【課題】 きしみ感やがさつき感がなく、滑りがよくて、使用感が非常に良好な非膨潤性雲母粉体を提供する。
【解決手段】 非膨潤性合成雲母粉体がアンモニウムカチオン界面活性剤で表面処理され、動摩擦係数が0.25以下、水に対する接触角が120°以上であることを特徴とする表面処理非膨潤性合成雲母粉体。本発明の非膨潤性合成雲母粉体を600〜1,350℃で熱処理した後、アンモニウムカチオン界面活性剤と水性溶媒中で接触させて表面処理することにより得られる。表面処理の前に熱処理することにより、撥水性、使用感が非常に高い非膨潤性合成雲母粉体が得られる。アンモニウムカチオン界面活性剤とともにさらに高級脂肪酸を用いるとさらに撥水性、使用感が向上する。非膨潤性合成雲母粉体に対し、アンモニウムカチオン界面活性剤は0.1〜5質量%、高級脂肪酸は0.1〜5質量%用いることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理非膨潤性合成雲母粉体、特に撥水性や使用感の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料において、雲母、セリサイト、タルク、カオリン等の層状粘土鉱物が配合されている。これらの中でも天然雲母は伸びがよく、ぬめり感があり、肌への付着性や伸展性も良いので使用頻度が高い。しかしながら、天然雲母は、鉄などの着色元素を含有するため、白色度が低く、汗や皮脂の影響によりくすみを生じてしまう。
このような天然雲母の問題点を解決するものとして、合成金雲母(カリウム金雲母)やカリ四ケイ素雲母等の合成雲母が使用されている。これらの合成雲母は天然雲母と同様に非膨潤性で、無色透明であり、天然雲母と比べて鉄元素が少ないことから汗や皮脂の影響によるくすみ度も小さい。
【0003】
しかしながら、これらの層状ケイ酸塩粉体では、肌上にのばした時に、きしみ感(エッジ感)が感じられ、がさついた感触がある。このため、使用感の点で十分とは言えなかった。
従来より、層状ケイ酸塩粉体の性質を改良するために、表面処理することが知られている。例えば、シリコン処理やフッ素処理などが撥水性などを高めるために行われている。しかしながら、これらの表面処理によっても、がさつき感を改善することはできていない。
【0004】
窒化ホウ素は、天然雲母などに比べても滑りがよく、化粧料粉体の中でも滑らかさなどの使用感において最も優れる粉体の一つである。しかしながら、窒化ホウ素は非常に高価である。
従って、簡単な方法で、層状ケイ酸塩粉体のきしみ感(エッジ感)、がさつき感を解消し、滑らかさを向上させて使用感を改善させることができれば、非常に有用であると考えられる。
【0005】
化粧料に用いる顔料のきしみ感を解消し、肌へのなじみや密着性を改善する方法として、酸化チタンや酸化亜鉛、炭酸カルシウム、マイカ、タルクなどの原粉体を、アルコールなどの有機溶媒中に溶解したカチオン性界面活性剤と混合後、該有機溶媒を揮発させて処理する方法が知られている(特許文献1)。
しかし、この処理方法では、処理剤と体質顔料は物理的に吸着している状態であり、例えば、アルコールなどの処理剤溶解剤で洗浄すると容易に粉と処理剤が分離する。従って、一時的にきしみ感を解消し、密着性等を改善することができても、肌面において処理剤が汗や皮脂、あるいは化粧料中に配合されるアルコール成分等によって、徐々に原粉体から遊離しやすいために、その効果は十分ではなかった。
また、このような処理粉体を化粧料に用いた場合には、遊離したカチオン界面活性剤が皮膚の角質層に浸透し、皮膚に強い刺激を与えたり、肌荒れの原因となることがあるため、実際に使用するには問題があった。
また、タルク、マイカ、カオリン、二酸化チタン等の顔料を水等の溶媒に分散し、カチオン性界面活性剤を添加して表面処理する方法も知られている(特許文献2)。
しかし、この方法によってもその効果は十分ではなかった。
【0006】
一方、モンモリロナイト等の膨潤性層状ケイ酸塩においては、第4級アンモニウムカチオン界面活性剤で変性処理した有機変性粘土鉱物が、有機溶剤などに対する増粘ゲル化の他、油中水型エマルジョンの乳化安定化に有効であることが知られている(特許文献3)。
膨潤性層状ケイ酸塩では、NaやLi等の層間カチオンが他のカチオンと容易に交換する。上記のような膨潤性層状ケイ酸塩のアンモニウムカチオンによる変性は、このような膨潤性層状ケイ酸塩の性質を利用したものであり、アンモニウムカチオンが層間に入り込むことで層間が疎水性となる。その結果、有機溶剤に対する増粘ゲル化能や、油中水型エマルジョンでの乳化安定化能を発揮するものと考えられている。
【0007】
しかしながら、膨潤性層状ケイ酸塩をアンモニウムカチオンで変性した有機変性粘土鉱物では、その粉体としての使用感は原粉体と同等あるいは低下する傾向があり、肌上での伸びがなく、がさつき感がある。
【特許文献1】特開2001−335410号公報
【特許文献2】特公平4−45483号公報
【特許文献3】特開平2−32015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記従来技術の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、きしみ感やがさつき感がなく、滑りがよくて、肌へフィットし、使用感や化粧持ちが非常に良好な非膨潤性合成雲母粉体ならびにその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するべく本発明者らが鋭意検討を行った結果、非膨潤性合成雲母粉体を高温で熱処理した後、水性溶媒中においてアンモニウムカチオン界面活性剤で表面処理すると、熱処理しない場合に比べて撥水性が顕著に向上し、使用感も良好になることが明らかとなった。そして、該粉体に結合したアンモニウムカチオンは、熱水またはアルコールによる洗浄でも脱離せず、きわめて強固な結合様態を持つこと、アンモニウムカチオン界面活性剤とともに高級脂肪酸を用いて表面処理を行った場合には、さらに効果が向上することも判明し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明にかかる表面処理非膨潤性合成雲母粉体は、非膨潤性合成雲母粉体がアンモニウムカチオン界面活性剤で表面処理され、動摩擦係数が0.25以下、水に対する接触角が120°以上であることを特徴とする。
本発明の粉体において、遊離のアンモニウムカチオン界面活性剤を実質的に含まないことが好適である。
また、非膨潤性合成雲母粉体がアンモニウムカチオン界面活性剤とともにさらに高級脂肪酸で表面処理されていることが好適であり、さらには水に対する接触角が130°以上であることが好適である。
【0011】
本発明にかかる表面処理非膨潤性合成雲母粉体の製造方法は、非膨潤性合成雲母粉体を600〜1,350℃で熱処理した後、アンモニウムカチオン界面活性剤と水性溶媒中で接触させて表面処理することを特徴とする。
本発明の製造方法において、前記アンモニウムカチオンと水性溶媒中で接触させた後、固液分離し、得られた粉体を熱水及び/又はアルコールで洗浄することが好適である。
また、非膨潤性合成雲母粉体に対し、アンモニウムカチオン界面活性剤を0.1〜5質量%用いることが好適である。
また、非膨潤性合成雲母粉体を600〜1,350℃で熱処理した後、前記アンモニウムカチオンとともにさらに高級脂肪酸を水性溶媒中で接触させて表面処理することが好適であり、さらには、非膨潤性合成雲母粉体に対し、高級脂肪酸を0.1〜5質量%用いることが好適である。
本発明にかかる化粧料は、前記何れかに記載の表面処理非膨潤性合成雲母粉体を配合したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる表面処理非膨潤性合成雲母粉体は、非膨潤性の合成雲母粉体を高温で熱処理し、その後、水性溶媒中でアンモニウムカチオン界面活性剤で処理することにより得ることができ、高い撥水性と、滑りがよくてクリーミー感のあるビロード様の特有の感触とを有する。アンモニウムカチオンは非膨潤性合成雲母粉体に強固に結合し、熱水やアルコールによっても容易に脱離しないので、実質的に遊離のアンモニウムカチオンを含まない処理粉体とすることができる。よって、本発明の粉体は、安定性や安全性の点にも優れている。また、アンモニウムカチオンとともに高級脂肪酸を用いて処理すれば、さらに撥水性、使用感を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の原料粉体である非膨潤性合成雲母粉体は、水に対して膨潤性を示さない合成雲母であり、合成金雲母、カリ四ケイ素雲母、合成金雲母鉄等が挙げられる。本発明においては、これらを2種以上併用してもよい。
本発明においては、このような非膨潤性合成雲母粉体を表面処理する前に、高温で熱処理することが必要である。熱処理なしで表面処理した場合には、撥水性は原料粉体に比べて向上するものの限度がある。これに対して、高温で熱処理した後に表面処理した場合には、熱処理なしで表面処理した場合に比べて撥水性がより高くなり、例えば、水に対する接触角が120°以上とすることができる。また、その使用感も熱処理なしの場合に比べて非常に良好で、肌上できしみ感やがさつき感がなく、滑りがよくてクリーミーな使用感である。
【0014】
同じ非膨潤性雲母であっても、天然雲母の場合には熱処理による効果は発揮されない。天然雲母を熱処理なしで表面処理した場合には、効果の向上にやはり限度があり、高温で熱処理した後に表面処理すると、熱処理なしで表面処理した場合に比べて撥水性は高くなるものの、動摩擦係数が高くなってしまい、使用感が非常に悪くなるので実用的でない。
【0015】
本発明の表面処理非膨潤性合成雲母粉体では、撥水性が非常に高く、また、動摩擦係数が低い。撥水性と動摩擦係数の両方が高かったり、逆に両方が低かったりすると、良好な使用感は得られないことから、これらが相まって優れた使用感に寄与しているものと考えられる。撥水性は水に対する接触角で120°以上、さらには130°以上であることが好適であり、動摩擦係数は0.25以下、さらには0.22以下であることが好適である。
このように、非膨潤性合成雲母粉体に対して、表面処理の前に熱処理を行うことで撥水性や使用感を著しく向上できることはこれまで報告されておらず、本発明者らにより始めて見出されたものである。
【0016】
表面処理前の熱処理の温度は、低すぎると十分な効果が得られず、高すぎる場合には非膨潤性合成雲母粉体が分解してしまう可能性がある。よって、熱処理温度は600〜1,350℃、好ましくは700〜1,200℃である。
熱処理時間は処理温度等により適宜決定でき、通常10分〜10時間程度であるが、1,000℃で熱処理する場合には、20〜2時間程度で十分効果がある。
熱処理方式は、外熱式加熱炉、内熱式加熱炉、ロータリーキルン等など公知の方法により行うことができる。
熱処理雰囲気は大気中で十分であるが、酸化性雰囲気、還元雰囲気、不活性ガス雰囲気、アンモニアガス雰囲気、真空中なども選択可能である。
【0017】
原粉体である非膨潤性合成雲母粉体の粒径は特に制限されないが、アスペクト比が大きい方が動摩擦係数が低くなり、滑りがよく、クリーミー感も顕著に認められる。アスペクト比としては通常25以上、好ましくは40以上、特に好ましくは60以上である。
【0018】
本発明で表面処理剤として用いるアンモニウムカチオン界面活性剤は、公知のものを用いることができるが、炭素数8以上の長鎖炭化水素基を少なくとも一つ有していることが必要である。炭素数が7以下の炭化水素基では、本発明の効果が十分に得られない。また、アンモニウムカチオン界面活性剤の総炭素数が8以上であっても、炭素数8以上の長鎖を持たないアンモニウムカチオン界面活性剤では、やはり本発明の効果は十分に得られない。
【0019】
長鎖炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基が好適である。例えば炭素数8〜28のアルキル基、炭素数8〜28のアルケニル基が挙げられる。本発明においては、炭素数10以上の長鎖炭化水素基を有することがより好適である。炭化水素基は直鎖状の他、分岐あるいは環状構造を有していてもよいが、何れの場合にも直鎖部分の炭素数が8以上であることが好適である。なお、本発明においてアルケニル基は、任意の位置に少なくとも一つ以上の炭素二重結合を有することができる。
アンモニウムカチオンは、上記長鎖炭化水素基の他に、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、ベンジル基、メチルベンジル基、あるいはエチルベンジル基を有していてもよい。
【0020】
アンモニウムカチオンの例として、下記一般式(I)で表される4級アンモニウムカチオン、下記一般式(II)で表される3級アンモニウムカチオン、下記一般式(III)で表される2級アンモニウムカチオンが挙げられる。
【化1】


(式(I)中、R〜Rはそれぞれ次の基(A)又は基(B)であり、R〜Rのうち1〜3個は基(A)である。
基(A):炭素数8〜28のアルキル基及びアルケニル基から選ばれる基。
基(B):炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、ベンジル基、メチルベンジル基、及びエチルベンジル基から選ばれる基。)
【0021】
【化2】


(式(II)中、R〜Rはそれぞれ次の基(A)又は基(B)であり、R〜Rのうち1〜3個は基(A)である。
基(A):炭素数8〜28のアルキル基及びアルケニル基から選ばれる基。
基(B):炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、ベンジル基、メチルベンジル基、及びエチルベンジル基から選ばれる基。
は水素原子である。)
【0022】
【化3】


(式(III)中、R及びRはそれぞれ次の基(A)又は基(B)であり、R〜Rのうち1〜2個は基(A)である。
基(A):炭素数8〜28のアルキル基及びアルケニル基から選ばれる基。
基(B):炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、ベンジル基、メチルベンジル基、及びエチルベンジル基から選ばれる基。
及びRは水素原子である。)
【0023】
一般式(I)において、R〜Rはそれぞれ、基(A)[C8−28のアルキル基、C8−28のアルケニル基から選ばれる基]、又は、基(B)[C1−3のアルキル基、C1−3のヒドロキシアルキル基、ベンジル基、メチルベンジル基、エチルベンジル基から選ばれる基]であり、R〜Rのうち1〜3個は基(A)である。
【0024】
のみが基(A)である場合、例えば、ドデシルトリメチルアンモニウム、ミリスチルトリメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウム、ベヘニルトリメチルアンモニウム、オクタコシルトリメチルアンモニウム、セチルジメチルエチルアンモニウム、ステアリルジメチルエチルアンモニウム、ミリスチルジエチルメチルアンモニウム、セチルベンジルジメチルアンモニウム、ステアリルベンジルジメチルアンモニウム、ステアリルベンジルエチルメチルアンモニウム、ステアリルジメチルヒドロキシプロピルアンモニウム、ベヘニルベンジルジヒドロキシエチルアンモニウム、ジセチルベンジルメチルアンモニウム、ステアリルジヒドロキシプロピルメチルアンモニウム、ラウリル(エチルベンジル)ジメチルアンモニウムなどのアンモニウムカチオンが挙げられる。
【0025】
また、R及びRが基(A)である場合、例えば、ジステアリルジメチルアンモニウム、ジデシルジメチルアンモニウム、イソステアリルラウリルジメチルアンモニウムなどが挙げられる。
また、R〜Rが基(A)である場合、例えば、トリラウリルメチルアンモニウム、トリオクチルメチルアンモニウムなどが挙げられる。
【0026】
一般式(II)で示される3級アンモニウムカチオンにおいて、R〜Rはそれぞれ前記基(A)又は前記基(B)であり、R〜Rのうち1〜3個は基(A)である。また、Rは水素原子である。
のみが基(A)である場合には、例えば、ステアリルジメチルアンモニウム、ミリスチルジメチルアンモニウム、ラウリルジメチルアンモニウム、ココイルビス(2−ヒドロキシエチル)アンモニウムなどの3級アンモニウムカチオンが挙げられる。
【0027】
また、R及びRが基(A)である場合には、例えば、ジステアリルメチルアンモニウム、ジミリスチルメチルアンモニウム、ジラウリルメチルアンモニウム、ジステアリルベンジルアンモニウム等が挙げられる。
また、R〜Rが全て基(A)である場合には、例えば、トリミリスチルアンモニウム、トリラウリルアンモニウムなどが挙げられる。
【0028】
一般式(III)で示される2級アンモニウムカチオンにおいて、R〜Rはそれぞれ前記基(A)又は前記基(B)であり、R〜Rのうち1〜2個は基(A)である。また、R及びRは水素原子である。
のみが基(A)である場合には、例えば、ココイル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、ステアリルメチルアンモニウム、ステアリルベンジルアンモニウムなどの2級アンモニウムカチオンが挙げられる。
及びRが基(A)である場合には、例えばジステアリルアンモニウムなどが挙げられる。
【0029】
これらのアンモニウムカチオンの塩は、表面処理剤として好適に用いることができる。塩の対イオンXとしては、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲンやメチルサルフェート残基が挙げられる。本発明において、好ましくは4級アンモニウムカチオン又は3級アンモニウムカチオンである。
なお、3級アンモニウムカチオンあるいは2級アンモニウムカチオンの酸付加塩を変性剤として用いる場合には、対応するアミンと、酸HXとを予め反応させて塩にしてから用いてもよいし、別々に添加してもよい。また、特に酸を用いずとも、アミンが水中でプロトン化してアンモニウムカチオンとなる場合には、アミンのみを使用することができる。
【0030】
本発明の表面処理では、熱処理した非膨潤性合成雲母粉体を、水性溶媒中で、上記のようなアンモニウムカチオン界面活性剤と接触させる。
具体的には、例えば、非膨潤性合成雲母粉体を水中に分散させ、これにアンモニウムカチオン界面活性剤を添加し、混合して十分に結合させる。その後、濾過、遠心分離等により固液分離し、洗浄、乾燥、粉砕等を適宜組み合わせて行い、本発明の表面処理非膨潤性合成雲母粉体を得ることができる。
固液分離後には洗浄することが好ましい。洗浄により、結合せずに単に付着している遊離の処理剤やその他の不純物を除去できる。このような洗浄液としては、水(特に50℃以上の熱水)、あるいは炭素数1〜3の低級アルコール(特にエタノール)が好適に使用できる。
【0031】
アンモニウムカチオンによる変性処理は室温でも可能であるが、処理を速やかに行うために、アンモニウムカチオン変性剤の少なくとも一部、好ましくは全部が溶解する程度に加温するのがよい。処理時間は用いる原料の種類や反応条件等に応じて適宜決定すればよいが、通常10分〜24時間である。
変性処理に用いる水性溶媒としては、好ましくは水である。アセトン、エタノール等の水溶性溶媒を特に支障のない限り水と混合して用いることも可能であるが、従来報告されている方法のように、粉体とアンモニウムカチオン変性剤とを有機溶媒中で混合したのち溶媒を揮発除去して処理を行った場合には、得られた処理粉体をアルコール洗浄すると、アンモニウムカチオン剤が該処理粉体からほぼ全量脱離してしまうので、このような脱離を生じないよう注意する。
【0032】
本発明の表面処理粉体では、例えばアルコールで洗浄しても該粉体に結合したアンモニウムカチオン剤はほとんど除去されず、粉体に結合したままであり、アルコール洗浄により、撥水性や使用感が低下することがない。このことは、有機溶媒中で処理して得られた処理粉体とは、アンモニウムカチオンの結合様態が異なることを示している。そして、本発明のように水性媒体中で処理した場合においてのみ、アンモニウムカチオンが非膨潤系層状ケイ酸塩粉体の表面に強固、かつ安定に結合し、その効果を長時間にわたり持続できることを示すものである。
よって、本発明品の特徴の一つとして、粉体に結合したアンモニウムカチオンがアルコール洗浄により除去されないことが挙げられ、これにより上記のような従来法による処理粉体とは明確に区別される。
【0033】
表面処理で用いるアンモニウムカチオン変性剤の使用量は、上記結合量となるように適宜決定すればよいが、通常は原料粉体に対して、0.1〜5質量%、好ましくは0.5〜2質量%用いればよい。
表面処理の際に、アンモニウムカチオンとともに高級脂肪酸を用いると、さらに撥水性、使用感を向上させることができる。高級脂肪酸としては、通常化粧料等に用いられる炭素数12〜22の飽和あるいは不飽和脂肪酸が挙げられる。例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸などが挙げられる。
高級脂肪酸の使用量は、通常原料粉体に対して、0.1〜5質量%、好ましくは0.5〜2質量%である。
高級脂肪酸は、アンモニウムカチオンと同時に処理しても、別々に処理してもよく、その順序も特に問わないが、同時に処理するのが簡便である。
本発明の表面処理非膨潤性合成雲母粉体は、本発明の効果が損なわれない限りにおいて、さらに公知の表面処理を行うこともできる。
【0034】
本発明の表面処理非膨潤性合成雲母粉体は、肌上にのばした際にはきしみ感(エッジ感)がなくて伸びが良く、非常に滑りがよくてクリーミー感があり、肌に吸い付くように良くなじむ。それは、さながらビロードのような独特の使用感である。本発明の有機変性非膨潤性層状ケイ酸塩粉体の動摩擦係数は、原粉体に比べて非常に低く、特に撥水性の向上が著しい。本発明粉体の独特な使用感は、これら動摩擦係数の低下や撥水性が関与しているものと推察される。本発明の粉体においては、動摩擦係数は好ましくは0.25以下、さらに好ましくは0.22以下である。また、本発明の粉体においては、水に対する接触角は120°以上、さらには130°以上であることが好適である。
【0035】
本発明の有機変性非膨潤性層状ケイ酸塩粉体は、従来非膨潤性層状ケイ酸塩粉体が使用されている各種用途に使用可能であるが、その使用感から化粧料や医薬品における皮膚外用剤に好適に使用できる。特に、ファンデーション、白粉、日焼け止め料、コンシーラー、ボディパウダー、制汗剤、フェースパウダー、ほお紅、アイシャドー、アイブロー等のメークアップ化粧料が好適である。その剤型としては制限されないが、粉体化粧料や固型化粧料は特に好適である。
【0036】
なお、本発明の皮膚外用剤には、通常化粧料や医薬品で配合可能な成分を、本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。
以下、本発明を具体例を用いて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。配合量は、特に指定のない限り質量%で示す。また、本発明で用いた試験方法は次の通りである。
【0037】
(1)使用感官能評価
サンプルを指で肌上にのばした時の感触(きしみのなさ、滑り、クリーミー感)を次のように評価した。
◎ 非常に良い
○ 良い
△ やや良い
× 悪い
【0038】
(2)動摩擦係数
スライドグラスに両面テープを貼付し、これに試料を塗布した。この試料面上を、摩擦感センサー(摩擦感テスター
KES−SE:カトーテック社製)を5回滑らせ、5回目に動摩擦係数(MIU)を測定した。
【0039】
(3)接触角(撥水性)
スライドグラスに両面テープを貼付し、これに試料を塗布した。この試料面に水を滴下して水滴の接触角を測定し、撥水性を評価とした。
【実施例1】
【0040】
熱処理の効果
まず、各種非膨潤性合成雲母粉体に対し、アンモニウムカチオン界面活性剤で処理を行った。また、同じ非膨潤性合成雲母粉体を1000℃で1時間熱処理したものについても同様に処理を行った。
具体的には、合成金雲母粉体100gを水に分散して固形分濃度10質量%の雲母スラリーを調製した。この雲母スラリーに、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライドを添加し、70℃で1時間攪拌した。ろ過後、水(70℃)で洗浄し、粉体を回収して110℃で一晩乾燥し、表面処理粉体を得た。
結果を表1に示す。
【0041】
(表1)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
原料粉体 熱処理 処理剤 処理粉体の評価
種類 粒径 アスペ の有無 添加量 動摩擦係数 撥水性 使用感
(μm)クト比 (質量%*)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
合成金雲母1 3 25 有 2 0.23 130 ○
無 2 0.23 109 △
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
合成金雲母2 6 40 有 1 0.22 128 ○
無 1 0.20 109 △
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
合成金雲母3 12 58 有 1 0.21 125 ○
無 1 0.16 108 △
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
合成金雲母4 20 80 有 1 0.18 123 ○
無 1 0.18 105 △
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
合成金雲母5 40 100 有 0.5 0.16 124 ○
無 0.5 0.17 105 △
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
合成金雲母2 6 40 有 − 0.39 9 ×
(表面処理なし)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
*原料粉体に対する添加量
【0042】
表1のように、熱処理なしで表面処理した場合でも、撥水性や使用感を向上することができるが、熱処理後に表面処理した場合には、熱処理なしで表面処理した場合に比べてさらに撥水性が向上し、使用感も良くなることがわかる。
【0043】
表2は、合成金雲母2(粒径6μm、アスペクト比40)に対して、アンモニウムカチオン処理剤の添加量を1質量%から5質量%まで増量した場合の結果を示している。
表2からわかるように、熱処理なしでは、アンモニウムカチオン処理剤を増量しても、撥水性や使用感の向上効果に限界がある。
これに対して、表面処理前に熱処理を行えば、少量でも撥水性や使用感を向上することができる。添加量に見合った効果を得るためには、アンモニウムカチオン添加量が原料粉体に対して0.1〜5質量%、さらには0.5〜2質量%が好適である。
【0044】
(表2)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
アンモニウムカチオン処理剤 熱処理 処理粉体の評価
(質量%、対原料粉体) の有無 動摩擦係数 撥水性 使用感
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
1% 無 0.20 109 △
3% 無 0.20 115 △
5% 無 0.20 112 △
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
0% 有 0.39 9 ×
0.1% 有 0.25 120 ○
1% 有 0.22 128 ○
3% 有 0.21 127 ○
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0045】
表3は、天然の非膨潤性合成雲母粉体について熱処理の効果を同様に調べた結果である。原料粉体として、天然白雲母、天然セリサイトを用いた以外は、表1と同様に処理した。アンモニウムカチオン界面活性剤添加量は、原料粉体に対して1質量%であった。
表3から、天然雲母の場合でも、熱処理後に表面処理した場合には、熱処理なしで表面処理した場合に比べて撥水性は高くなるものの、熱処理なしで表面処理した場合よりも使用感に劣る傾向があった。これは、熱処理により動摩擦係数が高くなってしまったためと考えられる。
【0046】
(表3)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
原料粉体 熱処理 処理粉体の評価
種類 粒径 アスペ の有無 動摩擦係数 撥水性 使用感
(μm) クト比
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
白雲母 20 60 有 0.31 125 △〜×
無 0.18 113 △
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
セリサイト 14 30 有 0.40 125 △〜×
無 0.24 113 △
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0047】
表4は、熱処理条件による影響を調べたものである。原料粉体は合成金雲母3(粒径12μm、アスペクト比58)であり、処理温度、時間を変えた以外は前記表1と同様に表面処理した。
表4に示すように、熱処理温度が低すぎると長時間処理しても撥水性や使用感の向上効果は発揮されない。また、熱処理温度が高すぎる場合には、短時間の処理でも粉体の分解(溶融)が起こってしまう。従って、熱処理温度としては600〜1,350℃、さらには700〜1,200℃が好適である。
また、1000℃1時間処理後表面処理して得られた粉体をエタノールで洗浄しても、動摩擦係数、撥水性、使用感が低下することはなかった。
【0048】
(表4)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
熱処理 処理粉体の評価
温度(℃) 時間 動摩擦係数 撥水性 使用感
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
熱処理なし 0.16 108 △
500 1h 0.18 109 △
500 10h 0.18 109 △
700 1h 0.21 125 ○
1000 1h 0.21 125 ○
1200 1h 0.22 128 ○
1400 1h 0.30 120 △〜×
1400 10min 0.30 120 △〜×
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【実施例2】
【0049】
高級脂肪酸の効果
処理剤として、ジステアリルジメチルアンモニウムクロリド、高級脂肪酸、あるいはその両者を用い、上記表1の場合と同様にして、表面処理粉体を調製した。ジステアリルジメチルアンモニウムクロリド、高級脂肪酸の添加量はそれぞれ原料粉体に対して1質量%、原料粉体は合成金雲母3(粒径12μm、アスペクト比58)である。結果を表5に示す。
表5に示すように、アンモニウムカチオン界面活性剤と高級脂肪酸とを併用した場合には、アンモニウムカチオン界面活性剤のみ、高級脂肪酸のみの何れの場合に比しても撥水性、使用感が高くなり、両者の併用で相乗的な向上効果が発揮されることがわかる。
【0050】
(表5)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
表面処理剤 熱処理 処理粉体の評価
高級脂肪酸 アンモニウム の有無 動摩擦係数 撥水性 使用感
カチオン
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
無 有 有 0.21 125 ○
有(ステアリン酸) 有 有 0.21 138 ◎
有(ラウリン酸) 有 有 0.21 137 ◎
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
有(ステアリン酸) 無 有 0.22 25 △
有(ラウリン酸) 無 有 0.26 18 △
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0051】
表6は、高級脂肪酸の添加量による影響を調べた結果である。高級脂肪酸添加量を原料粉体に対して0.1〜5質量%に変化させた以外は、上記表5と同様に表面処理粉体を調製した。高級脂肪酸はステアリン酸、アンモニウムカチオン界面活性剤添加量は原料粉体に対して1%である。
表6からわかるように、高級脂肪酸の添加量に見合った効果を得るためには、0.1〜5質量%、さらには0.5〜2質量%が好適である。
【0052】
(表6)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ステアリン酸 熱処理 処理粉体の評価
(質量%、対原料粉体) の有無 動摩擦係数 撥水性 使用感
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
0 有 0.21 125 ○
0.1 有 0.21 130 ○〜◎
1 有 0.21 138 ◎
3 有 0.20 139 ◎
5 有 0.20 138 ◎
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【実施例3】
【0053】
化粧料
処方例1 パウダーファンデーション
(1)セリサイト 30.0
(2)表面処理合成金雲母(本発明品) 43.0
(3)酸化チタン 10.0
(4)ベンガラ 2.0
(5)黄酸化鉄 2.5
(6)黒酸化鉄 0.1
(7)パーフルオロポリエーテル 10.0
(8)ジメチルポリシロキサン 2.0
(9)防腐剤 0.2
(10)香料 0.2
【0054】
処方例2 両用パウダーファンデーション
(1)表面処理合成金雲母(本発明品) 40.0
(2)酸化チタン 12.0
(3)合成雲母チタン 4.0
(4)酸化鉄(赤、黄、黒) 4.0
(5)酸化亜鉛 4.5
(6)酸化アルミニウム 10.0
(7)硫酸バリウム 5.0
(8)ポリエチレン粉体 1.0
(9)ジメチルポリシロキサン 4.0
(10)ラノリン 6.0
(11)ワセリン 1.0
(12)流動パラフィン 1.0
(13)イソプロピルミリステート 1.0
(14)防腐剤 1.4
(15)香料 0.1
【0055】
処方例3 ルースタイプフェイスパウダー
(1)表面処理合成金雲母(本発明品) 98.8
(2)ベンガラ 0.1
(3)流動パラフィン 1.0
(4)香料 0.1
【0056】
処方例4 二層分離型液状ファンデーション
油相を室温にて溶解した後、顔料を添加しディスパーで分散させた。水相を攪拌しながら添加して乳化し、下記組成の液状ファンデーションを製造した。
(組成)
(1)酸化チタン 6.0
(2)表面処理合成金雲母(本発明品) 9.0
(3)酸化鉄(赤、黄、黒) 1.2
(4)オクタメチルシクロテトラシロキサン 20.0
(5)ジメチルポリシロキサン(6cs) 2.0
(6)ジメチルポリシロキサン・ポリオキシアルキレン共重合体 1.0
(7)パーフルオロポリエーテル 10.0
(8)グリセリン 2.0
(9)エタノール 15.0
(10)精製水 残 量
(11)香料 適 量
【0057】
上記処方例1〜4の化粧料は、表面処理合成金雲母として熱処理せずに表面処理した合成金雲母を配合した場合に比べて、密着性と滑らかさが顕著に向上し、また、化粧崩れを防ぐ効果も高いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非膨潤性合成雲母粉体がアンモニウムカチオン界面活性剤で表面処理され、動摩擦係数が0.25以下、水に対する接触角が120°以上であることを特徴とする表面処理非膨潤性合成雲母粉体。
【請求項2】
請求項1記載の粉体において、遊離のアンモニウムカチオン界面活性剤を実質的に含まないことを特徴とする表面処理非膨潤性合成雲母粉体。
【請求項3】
請求項1又は2記載の粉体において、非膨潤性合成雲母粉体がアンモニウムカチオン界面活性剤とともにさらに高級脂肪酸で表面処理されていることを特徴とする表面処理非膨潤性合成雲母粉体。
【請求項4】
請求項3記載の粉体において、水に対する接触角が130°以上であることを特徴とする表面処理非膨潤性合成雲母粉体。
【請求項5】
非膨潤性合成雲母粉体を600〜1,350℃で熱処理した後、アンモニウムカチオン界面活性剤と水性溶媒中で接触させて表面処理することを特徴とする、表面処理非膨潤性合成雲母粉体の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の製造方法において、前記アンモニウムカチオンと水性溶媒中で接触させた後、固液分離し、得られた粉体を熱水及び/又はアルコールで洗浄することを特徴とする、表面処理非膨潤性合成雲母粉体の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6記載の製造方法において、非膨潤性合成雲母粉体に対し、アンモニウムカチオン界面活性剤を0.1〜5質量%用いることを特徴とする、表面処理非膨潤性合成雲母粉体の製造方法。
【請求項8】
請求項5〜7の何れかに記載の製造方法において、非膨潤性合成雲母粉体を600〜1,350℃で熱処理した後、前記アンモニウムカチオンとともにさらに高級脂肪酸を水性溶媒中で接触させて表面処理することを特徴とする、表面処理非膨潤性合成雲母粉体の製造方法。
【請求項9】
請求項8記載の製造方法において、非膨潤性合成雲母粉体に対し、高級脂肪酸を0.1〜5質量%用いることを特徴とする、表面処理非膨潤性合成雲母粉体の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜4の何れかに記載の表面処理非膨潤性合成雲母粉体を配合したことを特徴とする化粧料。

【公開番号】特開2006−36981(P2006−36981A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−220590(P2004−220590)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)
【Fターム(参考)】