説明

表面分析装置および表面分析方法

【課題】測定物の温度測定と同時に、測定物の所望の面の状態を分析することができる表面分析装置を実現すること。
【解決手段】表面分析装置は、スーパーコンティニューム光を放射する光源10と、SC光を測定光と参照光とに分割する光ファイバカプラ11と、ミラー12と、ミラー12を移動させる駆動装置13と、測定光と参照光との干渉波形を測定する受光手段14と、干渉波形から測定物の温度および表面状態を分析する干渉波形解析手段15と、によって構成されている。干渉波形解析手段15は、干渉波形の干渉ピーク位置の温度変化から温度を測定する手段と、干渉波形から測定物の所望の面に対応する干渉ピークを切り出し、その切り出した波形をフーリエ変換したスペクトル図を求めることで、測定物の膜質、表面状態などを測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定物の表面、裏面や、複数の層からなる測定物における各層の界面を分析する表面分析装置および表面分析方法に関するものであり、特に光の干渉を利用して、測定物の温度計測と同時に、表面分析を行うことができる表面分析装置および表面分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体プロセスなどのように、薄膜成長や微細加工を行うプロセスでは、基板の温度が薄膜の膜質や加工精度に大きく影響するため、基板の温度制御が非常に重要であり、高精度に温度を測定することが求められる。基板の温度測定には従来、熱電対や蛍光温度計などが用いられている。しかし、熱電対や蛍光温度計は、基板の裏面に接触させて計測するため、接触のさせ方などによって測定誤差が生じる場合がある。また、基板表面側で熱流入があるプラズマ加工プロセスでは、基板そのものの温度を測定することができない。
【0003】
そこで、非接触での温度測定方法が望まれており、たとえば特許文献1などのような、光による干渉を利用した方法が提案されている。これは、以下のような方法である。まず、低コヒーレンス光をスプリッタによって参照光と測定光とに分割し、測定光は測定物に照射して反射させ、参照光はミラーによって反射させる。ミラーは駆動装置によって移動させて参照光の光路長を変化させる。測定物により反射された測定光と、ミラーにより反射された参照光とを干渉させ、干渉波形を測定する。そして、屈折率の温度変化や熱膨張による干渉ピーク位置の温度変化から、温度を測定する。また、測定物表面での反射による干渉ピークと、測定物裏面での反射による干渉ピークが得られるため、測定物の厚さの測定も可能である。
【0004】
一方、薄膜の表面状態、たとえば表面に付着した不純物の同定や表面のOH基の量など、をその場でモニタリングする方法として、フーリエ変換全反射赤外分光法(FTIR−ATR)や、分光エリプソメトリ法、キャビティリングダウン分光法(たとえば特許文献2)、などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−194679
【特許文献2】特開2009−236501
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、FTIR−ATRやキャビティリングダウン分光法では、測定用の基板を別途用意する必要があり、分光エリプソメトリ法では、測定用のポートを真空容器に具備する必要がある。そのため、上記の表面解析方法では、簡便に薄膜表面の状態を分析することができなかった。
【0007】
また、測定物の温度の測定と同時に、測定物の表面状態の分析を行う手法は、従来知られていなかった。
【0008】
そこで本発明の目的は、測定物の温度を測定するのと同時に、測定物の表面等の状態を簡便に分析することができる表面分析装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、測定物の所望の面の状態を分析する表面分析装置において、測定物の所望の面の状態を分析する表面分析装置において、スーパーコンティニューム光を放射する光源と、スーパーコンティニューム光を、測定物に照射する測定光と、参照光とに分割する分割手段と、測定光または参照光の光路長を変化させる光路長変化手段と、参照光と測定光との干渉波形を測定する受光手段と、干渉波形の干渉ピークの位置から測定物の温度を測定する温度測定手段と、干渉波形から、測定物の所望の面に対応する所望の干渉ピークを切り出してフーリエ変換し、スペクトルを測定するスペクトル測定手段と、を有することを特徴とする表面分析装置である。
【0010】
スーパーコンティニューム光(SC光)とは、帯域の広いスペクトルを有し、位相が揃った光である。帯域幅は50〜2600nmであることが望ましく、コヒーレンス長は10μm以下であることが望ましい。より望ましいコヒーレンス長は、0.5〜10μmであり、さらに望ましいのは0.5〜2μmである。
【0011】
測定物の所望の面とは、測定物が単層である場合には表面または裏面であり、測定物が複数の層からなる場合には、表面、裏面だけでなく各層の界面も含む。
【0012】
干渉波形からの干渉ピークの切り出しは、単に適当な区間で区切ることで切り出してもよいし、適当な窓関数を乗じて切り出してもよい。また、1つの干渉ピークのみを含むように切り出してもよいし、複数の干渉ピークを含むように切り出してもよい。
【0013】
光源のSC光のスペクトルと比較することで、あるいはスペクトル測定手段によって測測定物の異なる面に対応したスペクトルをそれぞれ測定し、その2つのスペクトルを比較することで、測定物の吸収特性、透過特性等がわかり、測定物表面の状態などを解析することができる。
【0014】
第2の発明は、第1の発明において、スーパーコンティニューム光のコヒーレンス長は、0.5〜10μmであることを特徴とする表面分析装置である。
【0015】
第3の発明は、第1の発明または第2の発明において、測定物は、基板と、基板上に接して位置する薄膜と、により構成されており、スペクトル測定手段は、干渉波形から薄膜表面に対応する干渉ピークと、基板と薄膜との界面に対応する干渉ピークとを切り出して、それぞれをフーリエ変換してスペクトルを測定する、ことを特徴とする表面分析装置である。
【0016】
基板は、Si基板、サファイア基板、SiC基板、GaAsやGaNなどのIII-V族半導体基板、などであり、単層でも複層でもよい。薄膜は、半導体、絶縁体、金属などの膜であり、それらの単膜でもよいし、複合膜でもよい。測定は、それらの薄膜の成膜プロセス中であってもよいし、エッチングプロセス中であってもよい。
【0017】
第4の発明は、測定物の所望の面の状態を分析する表面分析方法において、スーパーコンティニューム光を測定光と参照光に分割し、測定光を測定物に照射し、測定光または参照光の一方の光路長を変化させ、参照光と、測定物によって反射された測定光との干渉波形を測定し、干渉波形の干渉ピークの位置から測定物の温度を測定するとともに、測定物の所望の面に対応する所望の干渉ピークを含む干渉波形を切り出してフーリエ変換してスペクトルを測定する、ことを特徴とする表面分析方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の表面分析装置によれば、干渉波形から測定物の温度測定を行うことができ、それとともに、干渉波形から測定物の所望の面に対応する干渉ピークを切り出してフーリエ変換してスペクトルを求め、SC光のスペクトルと比較することで、あるいは干渉ピークを切り出して求めた複数のスペクトル同士を比較することで、測定物の膜質、測定物表裏面の状態、などの物性を解析することができる。このような物性解析が可能なのは、光源として波長帯域が広い、すなわち多くの波長成分を含むSC光を用いているためである。また、本発明の表面分析装置では、光源としてSC光を用いるため、測定物が薄膜であっても、温度や測定物の膜質、表面状態などを測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1の表面分析装置の構成を示した図。
【図2】SC光のスペクトルを示した図。
【図3】測定した干渉波形を示した図。
【図4】図3の干渉波形を点線Aと点線Bとで区切った波形をフーリエ変換したスペクトル図。
【図5】図3の干渉波形を点線Bと点線Cとで区切った波形をフーリエ変換したスペクトル図。
【図6】SLDのスペクトルを示した図。
【図7】比較例1の表面分析装置により測定した干渉波形を示した図。
【図8】図7の干渉波形を点線で区切った波形をフーリエ変換したスペクトル図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施例について図を用いて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
図1は、実施例1の表面分析装置の構成を示した図である。実施例1の表面分析装置は、光源10と、光カプラ11と、ミラー12と、駆動装置13と、受光手段14と、干渉波形解析手段15と、によって構成されている。測定対象である測定物16は、Si基板160上にSiO2 膜161が形成されたものであり、真空装置18中に置かれている。Si基板160の厚さは800μm、SiO2 膜161の厚さは2μmである。
【0022】
光源10は、帯域幅が広く位相が揃った連続スペクトルを有した光であるスーパーコンティニューム光(SC光)を放射する光源である。また、このSC光は、発信周波数50MHzのパルス光である。図2は、SC光のスペクトルを示したグラフである。中心波長は約1.6μmであり、波長1.3〜1.9μmまでの広帯域で平坦なスペクトルであることがわかる。コヒーレンス長は約2μmである。
【0023】
なお、SC光のコヒーレンス長は、0.5〜10μmが望ましい。この範囲であると、干渉ピークの幅が広がってしまったり、干渉ピーク同士が重なってしまうなどの問題を防止することができ、また干渉ピークも良好に測定することができるため、測定精度を向上させることができる。より望ましいSC光のコヒーレンス長は、0.5〜2μmである。また、波長帯域の幅は、50〜2600μmであることが望ましい。50μm以下では、含まれる波長成分が少なく、スペクトルによる測定物16の物性解析が困難となるからである。また、2600μm以上では、光源、受光素子の帯域で制限があり望ましくない。
【0024】
光ファイバカプラ11は、2×2ポートの構造であり、入力ポートの一方には光源10からのSC光が入力され、測定光と参照光に分波されて2つの出力ポートから放射される。2つの出力ポートには、それぞれコリメータ17が接続されている。また、他方の入力ポートには受光手段14が接続されている。測定光は測定物16の裏面(Si基板160側の露出面)に垂直に照射され、測定物16裏面、Si基板160とSiO2 膜161との界面、測定物16表面(SiO2 膜161側の露出面)により反射され、参照光はミラー12によって反射される。反射された測定光、参照光は元の出力ポートにそれぞれ入射され、測定光と参照光とが合波されて受光手段14に入力される。
【0025】
ミラー12は、参照光を反射させる面が参照光の光軸に対して垂直となるよう駆動装置13に取り付けられており、参照光の光軸方向へミラー12を所定幅で直進移動させることが可能となっている。これにより参照光の光路長を変更することができる。また、ミラー12は、厚さ780μmのSi基板である。このように、ミラー12として測定物16のSi基板160と同一の材料で、Si基板160よりも薄いものを用いることで、測定物16による波長分散を補償し、干渉ピークが広がってピーク位置の取得精度が劣化するのを防止している。駆動装置13は、たとえば、ボイスコイルモータ型ディレイライン、ピエゾチューブ型ディレイライン、直動ステージ型ディレイライン、積層ピエゾ型ディレイライン、などである。参照光は、ミラー12により反射されて光ファイバカプラ11に入力され、受光手段14に入力される。
【0026】
受光手段14は、フォトダイオードであり、測定光と参照光との干渉波形を測定する。干渉波形は、駆動装置13によってミラー12を所定幅で光軸方向に直進移動させて走査したときの光強度の変化であり、多数のパルス光の光強度の足し合わせである。つまり、干渉波形は、参照光の光強度の時間関数と、測定光の光強度の時間関数との相互相関関数である。受光手段14として、フォトダイオード以外にもフォトトランジスタ、光電子増倍管などを用いることができる。
【0027】
干渉波形解析手段15は、次の2つの手段を備える。1つは、受光手段14により測定した干渉波形から、測定物16の温度を測定する温度測定手段である。もう1つは、干渉波形から干渉ピークを含む波形を切り出して、これをフーリエ変換することにより、周波数スペクトルを算出するスペクトル測定手段である。
【0028】
図3は、実施例1の表面分析装置を用い、駆動装置13によってミラー12を光軸方向に直進移動させて走査して、測定物16の反射による干渉波形を測定した結果を示した図である。図3において、横軸はミラー12の移動距離を光路長に換算し、測定物16の表面(SiO2 膜161側の露出面)を原点とした値、縦軸は光強度を示している。測定光は、測定物16裏面、Si基板160とSiO2 膜161との界面、測定物16表面、でそれぞれ反射されて受光手段14に達し、参照光は、ミラー12で反射されて受光手段14に達する。図3のように、干渉のピークは主に3つ見られ、図3中左から順にそれぞれ、測定物16表面とミラー12表面(ミラー12の2つの露出面のうち、参照光照射側)の反射による干渉、測定物16内部の面(Si基板160とSiO2 膜161との界面)とミラー12表面の反射による干渉、測定物16裏面とミラー12裏面(ミラー12の2つの露出面のうち、参照光照射側とは反対側の面)の反射による干渉、である。なお、図3中において、干渉波形を示すグラフの上部に、測定物16の模式図を示し、干渉ピーク位置との対応を示してある。
【0029】
このように、コヒーレンス長の短いSC光を用いたため、SiO2 膜161が2μmと非常に薄いにもかかわらず、測定物16表面(SiO2 膜161の表面)での測定光の反射と、Si基板160とSiO2 膜161との界面での測定光の反射との干渉ピークをそれぞれ分離して測定することができた。また、このことから逆に、干渉ピーク位置の差を測定することでSiO2 膜161の厚さを測定可能であることがわかる。また、同様にしてSi基板160の厚さ、測定物16全体の厚さを測定することもできる。
【0030】
次に、ヒータによって測定物16のSi基板160を加熱して、実施例1の表面測定装置を用いてSi基板160の温度を測定した。温度は、Si基板160の厚さ、線膨張係数、屈折率の温度変化を既知として、測定物16裏面(Si基板160の露出面)での反射による干渉ピーク位置と、Si基板160とSiO2 膜161との界面での反射による干渉ピーク位置の差(図3におけるW)の温度変化から求めた。
【0031】
具体的には、干渉波形解析手段15における温度測定手段によって、以下のようにして測定した。温度がT1からΔT変化したときの測定光の光路長の温度変化ΔLは、温度T1におけるSi基板160の屈折率をn、厚さをd、線膨張係数をα、屈折率の温度変化の係数をβとして、ΔL=n・d・(α+β)・ΔT、の式で表わされる。一方、ピーク位置の差は、Si基板160の厚さ方向における光路長に対応する。したがって、屈折率n、厚さd、線膨張係数α、屈折率の温度変化の係数βがそれぞれ既知であれば、ピーク位置の差を測定することで、上記式より温度を測定することができる。
【0032】
Si基板160の温度の測定結果、0〜600℃の範囲で測定値は理論値にほぼ一致しており、高精度にSi基板160の温度を測定できることがわかった。
【0033】
なお、同様の方法によって、SiO2 膜161の温度を測定することも可能である。
【0034】
また、干渉波形解析手段におけるスペクトル測定手段によって、図3の干渉波形から、点線Aと点線Bで区切られた、SiO2 膜161の表面での反射による干渉ピークを含む波形と、点線Bと点線Cで区切られた、Si基板160とSiO2 膜161との界面での反射による干渉ピークを含む波形と、をそれぞれ抽出し、それぞれの波形をフーリエ変換し、周波数スペクトルを測定した。図4は、点線Aと点線Bで区切られた波形をフーリエ変換したスペクトル図であり、図5は、点線Bと点線Cで区切られた波形をフーリエ変換したスペクトル図である。図2と図4、図5とを比較すると、SC光のスペクトルとは異なっていることがわかり、図4、図5のスペクトルには測定物16の情報が含まれていることがわかる。また、図4と図5とを比較すると、SiO2 膜161の表面での反射によるスペクトルと、Si基板160とSiO2 膜161との界面での反射によるスペクトルが異なっていることがわかる。したがって、SC光のスペクトルと、図4または図5のスペクトルとを比較することで、あるいは図4のスペクトルと図5のスペクトルとを比較することで、透過・吸収特性や発光特性がわかり、その特性からSiO2 膜161の膜質(たとえば結合状態や構成分子の同定など)や、SiO2 膜161表面の状態、Si基板160とSiO2 膜161との界面の状態などを解析することができる。
【0035】
上記解析例を、より具体的に説明する。まず、光源10の放射するパルス光であるSC光の時間関数をf(t)として、そのフーリエ変換であるSC光の周波数スペクトルの関数をF(ω)とする。測定物16により反射される前の測定光、および参照光の時間関数もf(t)である。図3に示す測定光と参照光との干渉波形は、測定物16により反射された後の測定光の時間関数をg(t)として、f(t)とg(t)との相互相関関数である。
【0036】
図3の干渉波形において点線Aと点線Bで区切られた干渉ピークは、測定物16においてSi基板160、SiO2 膜161を透過し、SiO2 膜161表面(SiO2 膜161と空気層との界面)で反射され、再びSiO2 膜161、Si基板160を透過した測定光と、参照光との干渉によるものである。測定光はSi基板160、SiO2 膜161によって変調を受けているので、周波数スペクトルがF(ω)からF(ω)・Y(ω)・Z(ω)に変化したものと仮定することができる。ここで、Y(ω)はSiO2 膜161の反射・吸収特性等によるスペクトルの変化を示す関数、Z(ω)はSi基板160の反射・吸収特性等によるスペクトルの変化を示す関数である。このように周波数スペクトルの変化した測定光(F(ω)・Y(ω)・Z(ω)を逆フーリエ変換した時間関数)と、参照光(f(t))との相互相関関数である干渉波形は、図3の干渉波形において点線Aと点線Bで区切られた波形に近似される。よって、点線Aと点線Bで区切られた波形をフーリエ変換して図4のスペクトルを求めれば、{F(ω)}2 ・Y(ω)・Z(ω)で表わされるスペクトルを近似的に得ることができる。
【0037】
一方、図3の干渉波形において点線Bと点線Cで区切られた干渉ピークは、測定物16においてSi基板160を透過し、Si基板160とSiO2 膜161との界面で反射され、再びSi基板160を透過した測定光と、参照光との干渉によるものである。測定光はSi基板160によって変調を受けるので、周波数スペクトルがF(ω)・Z(ω)に変化したものと仮定することができる。このように周波数スペクトルの変化した測定光(F(ω)・Z(ω)を逆フーリエ変換した時間関数)と、参照光(f(t))との相互相関関数である干渉波形は、図3の干渉波形において点線Bと点線Cで区切られた波形に近似される。よって、点線Bと点線Cで区切られた波形をフーリエ変換して図5のスペクトルを求めれば、{F(ω)}2 ・Z(ω)で表わされるスペクトルを近似的に得ることができる。
【0038】
したがって、図4のスペクトルと図5のスペクトルとの比を取れば、Y(ω)、すなわちSiO2 膜161の反射・吸収特性等によるスペクトルの変化を求めることができ、SiO2 膜161の膜質などの解析を行うことができる。また、光源10のSC光のスペクトルF(ω)と図4または図5のスペクトルを比較すれば、Y(ω)・Z(ω)や、Z(ω)を求めることができ、より詳細な測定物16の物性解析を行うことができる。
【0039】
このような測定物16の物性解析が可能となるのは、光源10として、波長帯域が広い、すなわち多くの波長成分を含むSC光を用いているためである。
【0040】
以上のように、実施例1の表面分析装置によれば、測定物16の温度を測定しつつ、測定物16の所望の面の状態などを分析することができる。
【0041】
[比較例]
SC光を放射する光源10に替えて、中心波長約1325nm、半値幅約30nmのSLD(スーパールミネッセントダイオード)を光源とし、それ以外の構成は実施例1の表面分析装置と同様とした表面分析装置(以下、比較例1の表面分析装置)を用いて、測定物16の反射による干渉波形を測定した。図6は、SLDのスペクトルを示した図、図7は測定した干渉波形を示した図である。
【0042】
図3と図7を比較するとわかるように、比較例1の表面分析装置により測定した干渉波形では、測定物16表面(SiO2 膜161の表面)での測定光の反射による干渉ピークと、Si基板160とSiO2 膜161との界面での測定光の反射による干渉ピークとが重なってしまい、分離されていない。したがって、SiO2 膜161の温度を測定することができず、またSi基板160の温度を正確に測定することができない。
【0043】
また、図8は、図7の干渉波形を、測定物16表面での測定光の反射による干渉ピークと、Si基板160とSiO2 膜161との界面での測定光の反射による干渉ピークとが重なったピークのみを含む区間(図7中点線で示した区間)で区切り、その区切った波形をフーリエ変換したスペクトル図である。図8のスペクトルは、図6のスペクトルと比較してほとんど変わっておらず、測定物16の情報を含んでいないことがわかる。これは、光源としてスペクトルの幅が狭いSLDを光源として用いているためと思われる。
【0044】
なお、実施例1では、測定物16としてSi基板160上にSiO2 膜161を形成したものを用いたが、本発明の表面分析装置は、SC光を反射可能な任意の材料からなる測定物からの反射による測定物の温度、厚さ、表面分析に利用することができる。また、実施例1の表面分析装置では、Si基板などの基板上にSiO2 などの絶縁膜や、半導体膜、金属膜などの薄膜を成膜するプロセスの最中においても、薄膜の温度測定とともに、薄膜の表面状態、薄膜の膜質、などを解析することができ、また同時に薄膜の厚さを測定することで、薄膜の成長速度を測定することも可能である。また、同様に、薄膜をエッチングするプロセスの最中においても、薄膜の温度測定とともに、薄膜の表面状態、薄膜の膜質、などを解析することができ、また同時に薄膜の厚さを測定することで、エッチング速度を測定することも可能である。
【0045】
また、実施例1では、干渉波形のピークを特定の区間で区切ることで切り出して抽出していたが、適当な窓関数を乗じることで、特定の干渉ピークを含む波形を切り出すようにしてもよい。
【0046】
また、実施例1では、ミラー12を駆動装置13によって移動させて参照光の光路長を変化させているが、逆にミラー12を固定し、測定物16を移動させて測定光の光路長を変化させることで、干渉を生じさせてもよい。また、ミラー12や測定物16を移動させる方法以外の方法によって光路長を変化させてもよい。たとえば、強誘電体結晶中を参照光または測定光が透過するようにし、強誘電体結晶に印加する電圧を変化させることで誘電率を変化させて、強誘電体結晶中を透過する参照光または測定光の光路長を変化させるようにしてもよい。
【0047】
また、測定光あるいは参照光をさらに複数に分割し、複数の測定光間、または複数の参照光間に光路長差を設けるようにしてもよい。これにより、複数の測定光のうち1つと参照光との干渉、または、測定光と複数の参照光のうち1つとの干渉を測定するまでのミラー12または測定物16の移動距離を短くすることができ、計測に要する時間を短縮することができる。また、測定光を複数に分割し、それぞれ測定物の異なる位置に照射することで、測定物の面内の温度分布や膜厚分布、表面状態の違いを測定することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の表面分析装置は、半導体プロセスにおけるなどに用いることができ、絶縁膜や半導体膜などの薄膜の成膜プロセス中において、薄膜の状態を温度測定と同時に分析することができる。
【符号の説明】
【0049】
10:光源
11:光ファイバカプラ
12:ミラー
13:駆動装置
14:受光手段
15:干渉波形解析手段
16:測定物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定物の所望の面の状態を分析する表面分析装置において、
スーパーコンティニューム光を放射する光源と、
前記スーパーコンティニューム光を、前記測定物に照射する測定光と、参照光とに分割する分割手段と、
前記測定光または前記参照光の光路長を変化させる光路長変化手段と、
前記参照光と前記測定光との干渉波形を測定する受光手段と、
前記干渉波形の干渉ピークの位置から前記測定物の温度を測定する温度測定手段と、
前記干渉波形から、前記測定物の所望の面に対応する干渉ピークを切り出してフーリエ変換し、スペクトルを測定するスペクトル測定手段と、
を有することを特徴とする表面分析装置。
【請求項2】
前記スーパーコンティニューム光のコヒーレンス長は、0.5〜10μmであることを特徴とする請求項1に記載の表面分析装置。
【請求項3】
前記測定物は、基板と、前記基板上に接して位置する薄膜と、により構成されており、
前記スペクトル測定手段は、前記干渉波形から前記薄膜表面に対応する干渉ピークと、前記基板と前記薄膜との界面に対応する干渉ピークとを切り出して、それぞれをフーリエ変換してスペクトルを測定する、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の表面分析装置。
【請求項4】
測定物の所望の面の状態を分析する表面分析方法において、
スーパーコンティニューム光を測定光と参照光に分割し、
前記測定光を前記測定物に照射し、
前記測定光または前記参照光の一方の光路長を変化させ、
前記参照光と、前記測定物によって反射された測定光との干渉波形を測定し、
前記干渉波形の干渉ピークの位置から前記測定物の温度を測定するとともに、
前記測定物の所望の面に対応する所望の干渉ピークを含む干渉波形を切り出してフーリエ変換してスペクトルを測定する、
ことを特徴とする表面分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−163825(P2011−163825A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24492(P2010−24492)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度採択課題、文部科学省、知的クラスター創成事業「東海広域ナノテクものづくりクラスター構想」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(599002043)学校法人 名城大学 (142)
【出願人】(508016295)NUシステム株式会社 (4)
【Fターム(参考)】