説明

表面加工方法及び表面加工装置

【課題】エッチャントによりガラス基板等の被加工物の表面を外周部を含めて目的とする形状に加工する表面加工方法の提供。
【解決手段】加工ヘッドによりエッチャントを被加工物3の表面に供給し、吸引することにより、該加工ヘッドと被加工物との隙間に一定面積のエッチング領域をなすエッチャントの流路を形成し、該加工ヘッドを該被加工物に対して走査することで被加工物の表面を加工する際に、前記被加工物3の端に面位置を合わせて板部材51を当接させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工ヘッドによりフッ酸等のエッチャント(エッチング液)をガラス基板、半導体基板等の被加工物の表面に供給し、吸引することにより、該加工ヘッドと被加工物との隙間に一定面積のエッチング領域をなすエッチャントの流路を形成し、例えば加工ヘッドを走査して被加工物の表面を加工する表面加工方法および表面加工装置に係り、特に被加工物の外周部における加工精度を向上させる表面加工方法および表面加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶テレビやパソコンモニターのパネルは、TFTアレイやカラーフィルターから構成されており、これらは露光装置を用いてフォトマスクに描かれたパターンを繰り返し転写することにより作製される。
【0003】
近年、大型液晶テレビの需要拡大に伴い、大型パネルに対応したフォトマスクの大型化、さらに、ディスプレイの高画質化が進んできたことにより、パネルの品質を左右するフォトマスクの高精細化が求められてきている。
【0004】
フォトマスクサイズとして、1220mm×1400mmの露光装置も発表され、さらに大型化が進むとされる。
【0005】
フォトマスクの基材としては、熱膨張係数の小さい合成石英ガラスが用いられるが、露光精度にはこの基材の平坦度が大きく左右する。平坦度の悪い基材を用いると、パターンずれを引き起こし、高精細なものが得られないことが経験上把握され、平坦度として数μmが求められている。
【0006】
この平坦度のような厳しい要求性能を、従来の水、研磨砥粒、研磨布を用いた両面研磨法や片面研磨法等の機械研磨法で行うことは非常に難しいものと考えられる。
【0007】
このような機械的研磨法にあっては、研磨面圧と研磨ヘッドと被加工物との相対的運動速度の均一化等を工夫することにより、基板の平坦化を高めるようにしているが、基板全面を同時に研磨しながら平坦化するため、部分的な形状を平坦化するための制御が極めて難しいのが現状である。
【0008】
そこで、機械加工に代わる加工方法として、プラズマを用いて局所的なエッチングを行い表面を平坦化する方法が提案されている。これは、予め被加工物の形状あるいは厚さ分布を測定後、その分布に応じて被加工物上のプラズマの走査速度を制御することにより、エッチングの除去量を制御し、高平坦化を実現するための修正加工方法である。
【0009】
このプラズマエッチング方法をガラス基板の加工に適応した場合、このプラズマエッチングによる修正加工方法では、ガラス基板の大型化に伴って加工時間が極端に長くなるため、加工速度を速める必要がある。加工速度を速めるためには、加工領域の拡大、すなわちプラズマ領域の大面積化が必要であるが、その材料物性の違いから、具体的には、比誘電率、熱伝導率の違いから、プラズマが不安定となり加工量が変動したり、投入電力が増大し、熱がガラス基板に蓄積されることにより制御が難しくなり、被加工物の表面粗さを悪化させることになる。
【0010】
また、プラズマエッチング方法では、真空チャンバー、ガス排気装置等の高価な装置を必要とし、大型ガラス基板の加工では、加工に係る費用がさらに増大するという問題がある。
【0011】
そこで、本出願人は、上述した機械的な加工方法、プラズマエッチング加工方法に代わる新たな加工方法として、ケミカルエッチング法に着目した(特許文献1、2)。
【0012】
特許文献1に開示のケミカルエッチング法は、活性状態と不活性状態とを温度により取り得るエッチング液(エッチャント)を使用し、タンク内に収容されている不活性のエッチャントに浸漬している半導体基板の主面の一部にエッチャント噴出用ノズルによって活性のエッチャントを当てつつ、該半導体基板の主面に平行する方向に、該エッチャント噴出用ノズルに対して該半導体基板を相対移動させてその主面全体に活性のエッチャントを当てると共に、該半導体基板の主面に当てた反応後のエッチャントをエッチャント排出用パイプによって直ちにタンク外部へ排出する。
【0013】
特許文献2には、処理液としてのエッチャントが供給される導入通路と該エッチャントが排出される排出通路を有するパイプを内外に配置した同心管構造のノズルが開示され、被処理物に向けてエッチャントを内側のパイプより供給し、外側のパイプと内側のパイプとの隙間から被処理物に向けて供給されたエッチャントを供給する。
【特許文献1】特開平11−045872号公報
【特許文献2】特開平10−163153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述した特許文献1に開示の技術を大きなサイズの被加工物に適用しようとする場合、この被加工物を収容することができるタンクが必要となり、設備が非常に大きくなり、現実的ではない。
【0015】
これに対し、特許文献2に開示の技術では、基板を不活性なエッチャントが収容されているタンク内に浸漬する必要はないが、本発明者等はこのようなケミカルエッチングによりガラス基板等の表面を平坦化加工することについて実験を行ったところ、目的とする平面形状が得られない場合が生じることを知見した。
【0016】
ここで、ガラス基板等の表面を平坦化加工する手法としては、ガラス基板等の被加工物の表面形状を測定して得られた測定データに基づいて、該被加工物の表面を目的とする形状となるように部分的に加工するという修正加工が用いられている。
【0017】
そこで、この修正加工を上述のケミカルエッチング式の表面加工方法に適用して被加工物の表面を高平坦度に加工するためには、加工ヘッドによりフッ酸等のエッチャント(エッチング液)をガラス基板、半導体基板等の被加工物の表面に供給し、吸引することにより、該加工ヘッドと被加工物との隙間に一定面積のエッチング領域をなすエッチャントの流路を形成し、例えば加工ヘッドを表面形状測定データと目的とする形状とにより決定される除去量に応じた走査速度で走査する。その際、加工ヘッドを静止した状態でエッチング領域によって形成された被加工物の表面に単位となる加工痕形状(以下、単位加工痕と称す)を測定し、測定結果に基づく単位加工痕に基づいて、加工前における被加工物の表面から加工により除去すべき除去量と加工ヘッドの走査速度を求め、この走査速度により加工ヘッドを駆動する。
【0018】
しかしながら、所定の走査速度で加工ヘッドを駆動しても計算値通りに加工できず、目的とする平面形状が得られないことがあった。この目的とする平面形状が得られない状況の一つとして、被加工物の外周部での発生がある。
【0019】
本発明者等は、被加工物の外周部において目的とする平面形状が得られない理由として、加工ヘッドが被加工物の外周部に達した際に、加工ヘッドと被加工物との隙間に形成されるエッチング領域が被加工物の外周縁よりも外方へはみ出てしまい、エッチング領域をなすエッチャントの流路が乱れ、正規のエッチング領域での加工ができないことを見出した。
【0020】
一般にマスク基板において、外周縁から内側にわたり一定(基板サイズにより異なる)幅の部分については平坦度保証部分としていないため、この部分より内側での平坦度を保証すべくエッチング領域を小さくした加工ヘッドを使用することも考えられるが、大型のマスク基板に対して高平坦度を得るように加工することを考えると、加工時間が長くなり、現実的ではない。したがって、エッチング領域を大きくして加工に要する時間の短縮化を図ろうとすると、被加工物の外周部を高平坦度に加工する必要がある。
【0021】
本発明の目的は、このような観点に鑑みなされたもので、被加工物の表面を外周部を含めて目的とする形状に加工して、高平坦度な表面を有するガラス基板等の被加工物を提供できる表面加工方法及び表面加工装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の目的を実現する第1の表面加工方法は、加工ヘッドによりエッチャントを被加工物の表面に供給し、吸引することにより、該加工ヘッドと被加工物との隙間に一定面積のエッチング領域をなすエッチャントの流路を形成し、該加工ヘッドと該被加工物とを、該エッチャント領域が前記被加工物の端を越える位置まで相対的に走査して被加工物の表面を加工する表面加工方法であって、前記被加工物の端に面位置を合わせて板部材を当接させた状態で、前記加工ヘッドと前記被加工物とを相対的に走査させて加工することを特徴とする。
【0023】
本発明の目的を実現する第2の表面加工方法は、上記した第1の表面加工方法において、前記被加工物と前記板材とが当接する箇所の表面を液密的にシールした状態で前記被加工物と前記加工ヘッドとを相対的に走査することを特徴とする。
【0024】
本発明の目的を実現する第3の表面加工方法は、上記いずれかの加工方法において、予め測定した前記被加工物の表面形状の測定データを基にして、前記被加工物と前記加工ヘッドとの相対走査速度を決定することを特徴とする。
【0025】
本発明の目的を実現する第4の表面加工方法は、上記した第3の加工方法において、目的とする表面形状と一致するように前記測定データに基づいて前記相対走査速度を決定して平坦化加工を行うことを特徴とする。
【0026】
本発明の目的を実現する第5の表面加工方法は、上記したいずれかの加工方法において、前記被加工物は、矩形平板形状の合成石英ガラスであることを特徴とする。
【0027】
本発明の目的を実現する第6の表面加工方法は、上記した第5の表面加工方法において、前記合成石英ガラスは、フォトマスク用のガラス基板であることを特徴とする。
【0028】
本発明の目的を実現する第7の表面加工方法は、上記した第6の表面加工方法において、前記フォトマスク用のガラス基板は、1辺が300mm角以上であることを特徴とする。
【0029】
本発明の目的を実現する第8の表面加工方法は、上記したいずれかの表面加工方法において、前記被加工物は垂直姿勢に保持されて加工されることを特徴とする。
【0030】
本発明の目的を実現する表面加工装置の第1の構成は、加工ヘッドによりエッチャントを被加工物の表面に供給し、吸引することにより、該加工ヘッドと被加工物との隙間に一定面積のエッチング領域をなすエッチャントの流路を形成し、該加工ヘッドと該被加工物とを相対的に走査して被加工物の表面を加工する表面加工装置であって、前記被加工物を保持する保持部材に、該被加工物の表面と面位置を合わせて板材を該被加工物の周囲に配置したことを特徴とする。
【0031】
本発明の目的を実現する表面加工装置の第2の構成は、上記した第1の構成において、前記被加工物の端と前記板材との当接面は、該被加工物の表面側の隅部を凸の曲面形状とし、該板材の上面隅部はこの凸の曲面形状部に合致する凹面形状に形成したことを特徴とする。
【0032】
本発明の目的を実現する表面加工装置の第3の構成は、上記した第1の構成において、前記被加工物の端と前記板材との当接面の上面には、液密的に当該当接部をシールするシール部材を設けたことを特徴とする。
【0033】
本発明の目的を実現する表面加工装置の第4の構成は、上記した第1の構成において、前記シール部材は、テープ部材あるいは充填部材であることを特徴とする。
【0034】
本発明の目的を実現する表面加工装置の第5の構成は、上記したいずれかの表面加工装置の構成において、前記被加工物を垂直姿勢で保持することを特徴とする。
【0035】
なお、被加工物を垂直姿勢に保持した状態において、前記被加工物の端部表面が板部材に対して飛び出ている場合に生じる段差をマイナスとして表すと、該段差をシール部材でシールした状態で−0.2mm以内の範囲とすることで、被加工物の端部における加工量の変動を小さくすることができ、これにより目的とする平坦度で被加工物の表面を処理することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、加工ヘッドがガラス基板等の被加工物の端部を加工する場合に、板材の存在によりエッチング領域をなすエッチャントの流路が乱されないため、被加工物の端部まで目的とする加工量で加工したフォトマスク用の合成石英ガラス等のガラス基板を提供することができ、ガラス基板の大型に伴い大型の加工ヘッドを使用しても、エッチャントの流路が乱されることがなく、表面を高平坦度とした大型のフォトマスク用のガラス基板を提供することができる。
【0037】
さらに、被加工物を垂直姿勢で保持して加工を行うため、被加工物が自身の重量により歪が発生するといったことが防げ、より高精度に被加工物を目的とする形状に修正加工等により加工することができる。
【0038】
また、被加工物の端面が凸の曲面に形成されていること等を利用することで、被加工物と板材との繋ぎ目を段差がなく、しかも高いシール性を有して繋ぎ合わせることができる。勿論、シールテープ、充填材によっても被加工物と板材との繋ぎ目を高いシール性を有して封止することができ、エッチング領域のエッチャントが被加工物と板材との繋ぎ目に入り込むことを防ぎ、エッチング領域をなすエッチャントの流路が乱れることがなく、入り込んだエッチャントによるガラスの端面、裏面の表面粗さの悪化も防ぐことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下本発明を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0040】
図1は本発明によるケミカルエッチング式の表面加工装置(湿式エッチング加工装置と略す)を示す図、図2は図1の加工ヘッドと被加工物としてのガラス基板を垂直姿勢に保持する基板ホルダーとの関係を示す図である。
【0041】
図1に示す湿式エッチング加工装置1は、破線で囲ったエッチャント循環装置1Aと、エッチャント循環装置1Aと接続した加工ヘッド2を備え、被加工物としてのガラス基板3の表面に対して加工ヘッド2を直交する2方向に移動させる加工ヘッド走査装置1Bと、により構成している。被加工物としてのガラス基板3は、例えば合成石英ガラス板,フォトマスク基板,大型フォトマスク基板等が例示でき、大型基板としては一辺が300mm角以上のものを指す。また、加工物はガラス基板に限らず、シリコンウエハー等であっても良い。
【0042】
エッチャント循環装置1Aは、密閉構造のエッチャントタンク4内にフッ酸等のエッチャント5が収容され、このエッチャントタンク4内のエッチャント5をエッチャント供給系6により加工ヘッド2に供給する。また、加工ヘッド2とエッチャントタンク4とはエッチャント回収管7により接続され、加工ヘッド2からガラス基板3の表面に供給されたエッチャント5を吸引してエッチャント回収管7からエッチャントタンク4に戻す。
【0043】
また、エッチャントタンク4にはガス排気管8が接続され、吸引ポンプを兼ねるガス排気ポンプ9によりエッチャントタンク4内のガスを排気する。エッチャントタンク4のエッチャント5の濃度が低下あるいは増加した場合、またエッチャントの収容量が減少した場合に、濃度コントローラ10から、水11、エッチャント5を個々にあるいは混合してエッチャントタンク4内に補給管12を介して供給するようになっている。エッチャントとしては、フッ化水素酸(フッ酸)あるいはフッ化水素酸とフッ化アンモニウムの混合液等を使用することができる。
【0044】
エッチャント供給系6は、エッチャントタンク4側から順に、送液ポンプ13、熱交換器14、送液されるエッチャント5の温度を計測するための測温体15、送液されるエッチャント5の流量を調節する流量調節バルブ16、送液されるエッチャント5の流量を計測する流量計17、フッ酸濃度センサー18が配置され、フッ酸濃度センサー18から下流側に設けられたフレキシブル管からなる供給管19が加工ヘッド2に接続されている。
【0045】
熱交換器14は、測温体15の測温情報に基づいて送液されるエッチャント5の温度が所定の温度となるように、温調ユニット20によりエッチャント5を加熱或いは冷却する。また、流量調節バルブ16は、流量計17の流量情報に基づいて送液されるエッチャント5の流量が所定の流量となるように、流量を調節する。フッ酸濃度センサー18は、測定した濃度値を濃度コントローラ10へフィードバックし、エッチャントタンク4内を設定した濃度にコントロールする。
【0046】
吸引ポンプを兼ねるガス排気ポンプ9は、エッチャントタンク4内の気体を吸引して排気することによりエッチャントタンク4内を負圧状態とし、加工ヘッド2とガラス基板3との間に供給されたエッチャント5及びエッチャント5の一部から気化したガスを加工ヘッド2より吸引し、回収管7を通してエッチャントタンク4内に回収する。ガラス基板3の表面に供給されたエッチャント5の一部から気化したガスが拡散するとガラス基板3の表面を腐食して表面粗さを悪化させる原因の一つとなるが、この気化ガスを加工ヘッド2により吸引して排気することにより、ガラス基板3の表面における表面粗さを高めることができる。
【0047】
なお、エッチャント循環装置1Aにおける上述の各種制御は不図示の制御装置により実行される。
【0048】
図2に示すように、加工ヘッド走査装置1Bは、被加工物であるガラス基板3を垂直姿勢に保持する不図示の基板保持台を装置基台31に固定し、該基板保持台に保持されたガラス基板3の表面に沿って垂直方向と水平方向の直交する2方向に移動可能な2方向移動ステージ32に加工ヘッド2を取付け、加工ヘッド2を水平方向に移動させる主走査速度と、垂直方向に所定ピッチで送る副走査方向の送り量を制御する加工ヘッド走査速度制御部33とにより構成しており、この加工ヘッド走査速度制御部33を除く前記基板保持台と2方向移動ステージ32を装置カバー34により覆い、室内にエッチャント5が飛散し、気化ガスが放散されるのを防いでいる。
【0049】
2方向移動ステージ32は、門型に形成されたアルミ製の垂直フレーム35を構成する一対の垂直フレーム部材36にそれぞれ直線移動案内機構37を取り付け、この一対の直線移動案内機構37に水平フレーム部材38を取り付け、水平フレーム部材38を超高精度に垂直方向に移動可能としている。また、水平フレーム部材38には主走査方向駆動用のボールねじ39を走査方向に沿って取り付け、このボールねじ39のナット部に加工ヘッド2を取り付けている。さらに、一対の垂直フレーム部材36の間に、垂直方向に沿って副走査方向用のボールねじ40を取り付け、このボールねじ40のナット部に水平フレーム部材38を取り付けている。
【0050】
主走査方向駆動用のボールねじ39と副走査方向用のボールねじ40はそれぞれのねじ部材を回転駆動する不図示のモータを有し、これらのモータを加工ヘッド走査速度制御部33により駆動制御している。
【0051】
加工ヘッド2は、円盤形状に形成されたノズルブロック体41と、ノズルブロック体41の背面側に接合される円盤形状の背面ブロック体42とを固定ねじ43とにより一体化して全体的に円盤形状とした構成としている。
【0052】
図1(b)に示すように、ノズルブロック体41は、中心位置にエッチャントを供給する供給ノズル部44を形成し、この供給ノズル部44を中心とする同一円周上にエッチャントを吸引して排出する複数の排出孔45が等ピッチで形成されている。ノズルブロック体41の背面側には、これら複数の排出孔45に対応して背面側に開口する第1周溝46が形成され、これら複数の排出孔45がこの周溝46に連通している。
【0053】
背面ブロック体42は、中心部に開口47を有するドーナツ状に形成され、前面には、第1周溝46と同一内外周径を有する第2周溝48が形成され、背面ブロック体42をノズルブロック体41に接合した際に、第1周溝46と第2周溝48とによって複数の排出孔45からのエッチャントを1箇所に集める環状の回収部を形成している。なお、排出孔45の直径を1mm以下、排出孔45の間隔を0.5mm以下とした。
【0054】
また、ノズルブロック体41と背面ブロック体42の材料としては、耐エッチャント特性に優れ、曲げ強度、硬度等の機械特性の優れたものを選定することが望ましい。特に、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂,硬質塩ビ,ABS,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリカーボネイト,メチルペンテン,PEEK等が用いられる。
【0055】
背面ブロック体42の胴部には、第2周溝48に連通する排出路49が複数形成され、これら排出路49の排出端部にエッチャント循環装置1Aの回収管7が接続される。そして、エッチャント循環装置1Aの供給管19が背面ブロック体42の開口47を通してノズルブロック体41のエッチャント供給ノズル部44に接続される。
【0056】
加工ヘッド2のエッチャント供給ノズル部44からガラス基板3の表面に連続的に供給されたエッチャント5は、該エッチャント供給ノズル部44を中心として半径Rの円周上に複数設けられた排出孔45に連続的に吸引排出されるので、ヘッドと被加工物の表面との間におけるエッチャントの流路が形成される一定の領域であるエッチング領域が半径Rで形成されることになる。
【0057】
また、上記した構成の加工ヘッド2は、2方向移動ステージ32により、図3中矢印で示すように、垂直姿勢に保持されたガラス基板3の上端の水平方向一端側から他端側に向けて水平に移動する主走査を行い、該他端側の所定位置に到達すると、所定量だけ下方に送られる副走査を行った後、一端側に向けて主走査を行うというラスタースキャン方式により加工を行う。なお、スキャンの順序は、逆に下から上に向かって行うようにしても良い。
【0058】
上述した主走査速度の制御は、修正加工を前提とした場合、ガラス基板3の表面の形状を予め測定し、測定結果に基づいて目的の形状に最も近づくように、加工前形状と加工ヘッド2で加工してできる静止加工痕形状から加工除去量と加工ヘッドの主走査速度を演算する。例えば、凸形状の大きい部分はエッチング量を多く、凸形状の小さい部分や凹形状の部分はエッチング量を少なくするように加工ヘッド2の主走査速度を制御する。なお、加工ヘッド2がガラス基板3を通過した後の走査速度は、特に規定されないが加工処理時間を考えると増速するのが好ましい。
【0059】
ガラス基板3の表面の形状測定は、レーザー等を用いた非接触方式、触針等の接触方式の測定手段を用いて行うことができる。なお、測定はガラス基板3を垂直姿勢に保持して行うため、ガラス基板3の自重たわみの影響を排除することができる。
【0060】
本実施形態において、図4に示すように、ガラス基板3を垂直姿勢に保持する基板保持台50は、ガラス基板3の外径サイズよりも大きな外径サイズに形成されて、ガラス基板3を中央部分に配置するようにして保持している。そして、矩形平面形状のガラス基板3の4辺に当接し、ガラス基板3の全周を取り囲むようにダミー部材51を配置している。
【0061】
このダミー部材51は、図5(a)に示すように、基板保持台50に配置された状態において、ガラス基板3と当接する端面に対して厚み方向に段差のないようにしている。また、ガラス基板3の端面とダミー部材51との当接箇所には隙間がないようにしており、ガラス基板3と、ガラス基板3をその全周に渡って取り囲むダミー部材51とは、あたかも一枚の基板をなすように基板保持台50に垂直姿勢で保持される。
【0062】
ここで、ダミー部材51が配置されていない状態で加工ヘッド2を走査し、加工ヘッド2がガラス基板3の外周部に達した際に、加工ヘッド2とガラス基板3との隙間に形成されるエッチング領域がガラス基板3の外周縁よりも外方へはみでてしまい、エッチング領域をなすエッチャントの流路が乱れ、正規のエッチング領域での加工ができなくなる。
【0063】
これに対し、本実施形態のように、ガラス基板3の周囲をダミー部材51で隙間なくしかも段差を生じさせることなく取り囲むことにより、加工ヘッド2により形成されるエッチャント領域がガラス基板3の端に近づき、またガラス基板3の端を越えても、ダミー部材51がガラス基板3の端より延長されて存在しているので、エッチング領域を形成するエッチャントの流路に乱れが生じない。
【0064】
このため、ガラス基板3の端部について目的の形状通りに加工することが可能となる。
【0065】
本実施形態では、図4に示すように、4枚のダミー部材51をガラス基板3の一辺にそれぞれ当接するように組み合わせて配置しているが、ダミー部材51の配置構成は、図4の構成に限定されるものではなく、例えば矩形平板の中央にガラス基板3が配置される矩形形状の開口を形成した構成、平面L字形状のダミー部材を2組用いた構成等を例示することができる。
【0066】
また、ダミー部材51とガラス基板3の端面とを隙間なく当接させるために、図5(a)に示すように、予めガラス基板3の端面が凸の曲面であるC面に形成されている場合等では、ダミー部材51の端面上面側に、該C面に合致する形状の凹面部51aを形成することにより、ダミー部材51とガラス基板3とを隙間なく当接させることができる。
【0067】
また、図5(c)に示すように、ガラス基板3の端面が直角に形成されているような場合には、ダミー部材51の端面もこれに合わせて直角に形成し、ガラス基板3の端面とダミー部材51の端面との当接部位における上面に樹脂テープ52を貼って確実に当接面を塞ぐように該当接部位表面を液密的にシールし、エッチャントが該当接部位にしみこむのを防ぐことで、該当接部位の表面侵食を防止する点で効果的である。
【0068】
さらに、図5(b)に示すように、ガラス基板3の端面がC面に形成されている場合に、ダミー部材51の端面を直角に形成し、その突合せ面に生じた凹部に樹脂シーラント53を充填してエッチャントに対するシール性を高めるようにしても良い。
【0069】
本実施形態において、ダミー部材51は、エッチャントに対して耐食性等を有している樹脂の板材、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂,ABS,ポリエチレン,ポリ塩化ビニル、ポリカーボネイト,メチルペンテン,PEEK(商標)により形成され、樹脂テープ52も同様に接着剤及びテープがエッチャントに耐えるものであれば良く、テープ素材としては、ポリエステル,フッ素樹脂,ポリイミド等を例示できる。また、樹脂シーラント53の材料はエッチャントに耐えるものであれば特に限定されることはないが、フッ素系ゴムが好ましい。
【0070】
上述の説明はダミー部材51とガラス基板3との間に段差がないことを前提としているが、図5(d)に示すように、例えばダミー部材51の端面が直角である場合にはガラス基板3との間に段差(マイナス段差)が生じ、また樹脂テープ52を貼った場合にはこの樹脂テープ52が段差を作り、また樹脂シーラント53を充填した場合には、この樹脂シーラント53が段差を作り出す。
【0071】
この様な段差は、ガラス基板3を垂直姿勢で保持し、段差をシール部材でシールした状態において、−0.2mm以内の範囲であれば、エッチャント領域をなすエッチャント流路を殆んど乱すことがなく、ガラス基板3の端部を目的とする形状に加工することができる。
【0072】
図6(b)は、横軸をガラス基板の端から内部側への距離とし、縦軸を75mm位置での加工量との比とした加工ライン断面積の比較を示す。なお、75mm位置での加工量との比とは、ガラス基板3の端から75mmにおけるライン加工断面積に対するガラス基板3の端近くまでのライン加工断面積の比で、これを縦軸としている。また段差を変えると共に、シールの有無を加えた条件を加えている。そして、図6(a)に示すように、ガラス基板3の周囲を矩形平板上のダミー部材51により取り囲み、加工ヘッド2を往復走査することによりガラス基板上に加工した1ラインの断面積を求めた。なお、以下の加工条件により加工を行なった。
加工条件
加工ヘッドのエッチング領域:直径15mm
フッ酸濃度:25wt%
加工ヘッドと基板間の距離:250μm
フッ酸循環流量:28L/h
吸引流量:31.4L/min
フッ酸温度:25℃
基板保持姿勢:垂直保持
加工ヘッドの走査速度:200mm/min
図6(b)は、ダミー部材51とガラス基板との間にシールを施して段差を+0.12mm、段差を−0.15mmとした場合と、シールを施したが段差を−0.3mmとし、ガラス基板3の端から75mmでのライン加工断面積をそれぞれ求めた。なお、ガラス基板3の端を越えて加工しており、最外端の測定位置は端から5mmである。そして、75mmでのライン断面積に対する各位置でのライン断面積の比を縦軸とした。
【0073】
シールを施して段差を+0.12mm、段差を−0.15mmとした場合には、断面積比が略1となる。これは加工量としては殆ど変動がないことを示し、ガラス基板3の端まで同じ加工形状が得られていることが確認された。
【0074】
しかし、シールがあっても段差が−0.3mmの場合には液ダレが生じる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】(a)は本発明の第1実施形態を示す湿式エッチング加工装置の概略図、(b)は(a)に示す加工ヘッドの正面図。
【図2】図1のA−A矢視図。
【図3】図2の加工ヘッド走査装置における走査順序を示す図。
【図4】(a)はダミー部材の配置状態を示す平面図、(b)は(a)の側面図。
【図5】(a)〜(d)は図4に示すガラス基板とダミー部材との当接部をそれぞれ示す図。
【図6】(a)ダミー部材で囲まれたガラス基板に対するライン断面形状を求めるための加工ヘッドの走査方向を示す図、(b)はライン加工断面積の比をガラス基板端から距離との関係で示す図。
【符号の説明】
【0076】
1 湿式エッチング加工装置
1A エッチャント循環装置
1B 加工ヘッド走査装置
2 加工ヘッド
3 ガラス基板(加工物)
4 エッチャントタンク
5 エッチャント
6 エッチャント供給系
7 エッチャント回収管
8 ガス排気管
9 ガス排気ポンプ
10 濃度コントローラ
11 水
12 補給管
13 送液ポンプ
14 熱交換器
15 測温体
16 流量調節バルブ
17 流量計
18 フッ酸濃度センサー
19 供給管
20 温調ユニット
31 装置基台
32 2方向移動ステージ
33 加工ヘッド走査速度制御部
34 装置カバー
35 垂直フレーム
36 垂直フレーム部材
37 直線移動案内機構
38 水平フレーム部材
39 主走査方向駆動用のボールねじ
40 副走査方向用のボールねじ
41 ノズルブロック体
42 背面ブロック体
43 固定ねじ
44 供給ノズル部
45 排出孔
46 第1周溝
47 開口
48 第2周溝
49 排出路
50 基板保持台
51 ダミー部材
52 樹脂テープ
53 樹脂シーラント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工ヘッドによりエッチャントを被加工物の表面に供給し、吸引することにより、該加工ヘッドと被加工物との隙間に一定面積のエッチング領域をなすエッチャントの流路を形成し、該加工ヘッドと該被加工物とを、該エッチャント領域が前記被加工物の端を越える位置まで相対的に走査して被加工物の表面を加工する表面加工方法であって、
前記被加工物の端に面位置を合わせて板部材を当接させた状態で、前記加工ヘッドと前記被加工物とを相対的に走査させて加工することを特徴とする表面加工方法。
【請求項2】
前記被加工物と前記板材とが当接する箇所の表面を液密的にシールした状態で前記被加工物と前記加工ヘッドとを相対的に走査することを特徴とする請求項1に記載の表面加工方法。
【請求項3】
予め測定した前記被加工物の表面形状の測定データを基にして、前記被加工物と前記加工ヘッドとの相対走査速度を決定することを特徴とする請求項1または2に記載の表面加工方法。
【請求項4】
目的とする表面形状と一致するように前記測定データに基づいて前記相対走査速度を決定して平坦化加工を行うことを特徴とする請求項3に記載の表面加工方法。
【請求項5】
前記被加工物は、矩形平板形状の合成石英ガラスであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の表面加工方法。
【請求項6】
前記合成石英ガラスは、フォトマスク用のガラス基板であることを特徴とする請求項5に記載の表面加工方法。
【請求項7】
前記フォトマスク用のガラス基板は、1辺が300mm角以上であることを特徴とする請求項6に記載の表面加工方法。
【請求項8】
前記被加工物は垂直姿勢に保持されて加工されることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の表面加工方法。
【請求項9】
加工ヘッドによりエッチャントを被加工物の表面に供給し、吸引することにより、該加工ヘッドと被加工物との隙間に一定面積のエッチング領域をなすエッチャントの流路を形成し、該加工ヘッドと該被加工物とを相対的に走査して被加工物の表面を加工する表面加工装置であって、
前記被加工物を保持する保持部材に、該被加工物の表面と面位置を合わせて板材を該被加工物の周囲に配置したことを特徴とする表面加工装置。
【請求項10】
前記被加工物の端と前記板材との当接面は、該被加工物の表面側の隅部を凸の曲面形状とし、該板材の上面隅部はこの凸の曲面形状部に合致する凹面形状に形成したことを特徴とする請求項9に記載の表面加工装置。
【請求項11】
前記被加工物の端と前記板材との当接面の上面には、液密的に当該当接部をシールするシール部材を設けたことを特徴とする請求項9に記載の表面加工装置。
【請求項12】
前記シール部材は、テープ部材あるいは充填部材であることを特徴とする請求項9に記載の表面加工装置。
【請求項13】
前記被加工物を垂直姿勢で保持することを特徴とする請求項9から12のいずれかに記載の表面加工装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−308365(P2008−308365A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157999(P2007−157999)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】