説明

表面外観に優れた表面処理金属板の製造方法

【課題】 処理液を付着させて処理する表面処理装置の入側および/または出側でダムロールにより、表面処理装置外への処理液の漏れ出しを防止して、表面処理鋼板を製造する際に、ダムロールに起因して発生する表面品質不良の問題を簡便に防止して、外観が美麗な表面処理鋼板を製造する。
【解決手段】 金属板の表面に処理液を付着させて処理する表面処理装置の入側および/または出側で前記金属板の両面側に対向配置した一対のダムロールにより、前記処理液の前記表面処理装置からの漏れ出しを防止する、表面処理金属板の製造方法において、前記一対のダムロールの間隔を、前記金属板の板厚より大きい値で、かつ液の漏れ出しを防止できる間隔とすることを特徴とする、表面外観に優れた表面処理金属板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理材である金属板の表面に処理液を付着させて処理する表面処理金属板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面処理金属板の製造方法として、例えば被処理材である鋼板を、処理液を貯留した浸漬反応槽内を連続的に浸漬通板させることにより、その表面に該鋼板と処理液との化学反応による皮膜を形成させる方法がある。このような方法で製造される表面処理金属板としては、例えば電気亜鉛めっき後の鋼板にリン酸塩処理液を用いてリン酸塩皮膜を形成させるボンデ鋼板がある。
【0003】
図1は、表面処理装置として浸漬反応槽を備える表面処理鋼板製造装置の要部を説明する断面図である。浸漬反応槽5は処理液8を貯留する。ボンデ鋼板では、処理液8はリン酸塩処理液を使用する。浸漬反応槽5内に貯留される処理液8の液位を通板される鋼板1面よりも上位とするために、浸漬反応槽5の入側と出側に、各々鋼板1を挟んで配置された、上下一対のロールから構成されるダムロール6(入側ダムロール)とダムロール7(出側ダムロール)が配置されている。ダムロール6、7は、上ロール6a、7a及び下ロール6b、7bのうちの一方のロール、例えば上ロール6a、7aをエアシリンダ等で昇降可能に構成されている。
【0004】
略水平方向に走行する被処理材である鋼板1を処理液8に連続的に浸漬通板することで、鋼板1表面に処理液との化学反応による皮膜が形成される。鋼板1を通板する際に、浸漬反応槽5内に貯留される処理液8が鋼板1面に沿って浸漬反応槽5外に流れ出るのを防止するために、例えば、上ロールを下方に押し付けて、ダムロール6、7の上下ロールで鋼板1を挟んで押し付け、浸漬反応槽5内の処理液の液止めまたは水切りを行っている。
【0005】
前記装置において、処理液としてリン酸塩処理液を使用し、電気亜鉛めっき後の鋼板にボンデ処理(リン酸塩皮膜形成処理)を行うと、リン酸塩皮膜形成後の鋼板表面に、ダムロール6、7と鋼板1が接触することによる振動に起因するチャター模様(鋼板長手方向に発生するリン酸皮膜の微小な付着量むらによる帯状の濃淡むら)、スリップに起因するスケ模様(鋼板端部近傍部分、長手方向に発生するリン酸皮膜の微小な付着量むらによる濃淡むら)等の模様が発生したり、ダムロール表面の経時的な劣化による表面品質不良が発生したりする問題がある。
【0006】
チャター模様は、機械的ガタの除去を行うことである程度は低減できるものの、特にライン速度を上げた場合には完全に発生を防止することはできず、チャター模様が生じた場合にはライン速度を下げる必要が生じ、生産性を阻害していた。また、ロール表面劣化等の場合は、ロール取り替えが必要になるため生産性を損なう。
【0007】
ロールと鋼板が接触することによる転写模様等の発生を防止する方法として、ロール表面にロール内部から外部へ処理液を噴射させ、鋼板と非接触の状態を作り出し、ロールの転写模様の発生を防止する方法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2等参照)。
【0008】
浸漬反応槽のダムロールに前記提案の技術を適用すると、ロール回転に追従させて液の噴出方向をコントロールすることが必要であり、また処理液循環のための配管系統が新たに必要になり、設備が大型化してしまうという問題がある。
【特許文献1】実開平7−40773号公報
【特許文献2】特開2004−35949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明の課題は、金属板表面に処理液を付着させて処理する際に、ダムロールに起因して発生する表面品質不良の問題を簡便に防止して、外観が美麗な表面処理金属板を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の手段は、金属板の表面に処理液を付着させて処理する表面処理装置の入側および/または出側で前記金属板の両面側に対向配置した一対のダムロールにより、前記処理液の前記表面処理装置からの漏れ出しを防止する、表面処理金属板の製造方法において、
前記一対のダムロールの間隔を、前記金属板の板厚より大きい値で、かつ液の漏れ出しを防止できる間隔とすることを特徴とする、表面外観に優れた表面処理金属板の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ダムロールと金属板との間に処理液の漏れだしを防止できる僅かな隙間を設けることにより、表面処理装置、すなわち処理液を付着させる装置の外への持ち出しを防止でき、またダムロール転写模様等の外観不良の発生を防止して、外観の美麗な表面処理金属板を製造することができる。ダムロールの取り替え頻度を低減できるので、ロールコスト、生産性の面からも有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
従来の方法では、図1の装置において、表面処理装置である浸漬反応槽5内の処理液8が鋼板面に沿って外部に流出しないように、ダムロール6、7では、上ロール6a、7aを、鋼板1を介して各々下ロール6b、7bに押し付けるように圧下させて鋼板1を通板させていた。本発明者らは、ダムロール6、7によるチャター模様等の外観品質低下の問題の発生を防止すべく、ダムロールの押し付け条件とチャター模様発生の関係を詳しく調査した。その結果、上ロール6a、7aを開放して鋼板1と上ロール6a、7aの間に間隔を開け、上ロール6a、7aによる鋼板押し付けを行わないことがチャター模様発生を防止する観点から有効であることが明らかになった。また、鋼板1と上ロール6a、7a間に間隔を設けてもその間隔を小さくすると、浸漬反応槽5内の処理液8の漏れだしがないことが明らかになった。
【0013】
鋼板1と上ロール6a、7a間に間隔を設けてもその間隔を小さくすると、浸漬反応槽5内の処理液8の漏れださないのは、液体はぬれ性という特性を有しており、処理液の表面張力と粘度の作用によって、鋼板と上ロールとの間、および鋼板と下ロールとの間に僅かな隙間を有していても、鋼板が連続的に移動しているときには液が持ち出されないためと考えられる。
【0014】
本発明はこの知見に基づきなされたものである。
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、鋼板にリン酸塩処理皮膜を形成するボンデ鋼板を製造する場合を例に挙げて説明する。
【0016】
図2は本発明の実施に使用する浸漬反応槽を備える表面処理鋼板製造装置の要部を示す図である。図2の各構成要素の作用と符号は既に説明した図1と同様である。また、図2において、2は表面調整セクション、3は表面調整用スプレー、4はリンガーロールである。浸漬反応槽5には、皮膜形成用処理液としてリン酸塩溶液が貯留される。
【0017】
図3は、図2の装置のダムロール高さ方向位置調整機構を説明する側面図である。11はロール架台、12、13はロールチョック、14はエアシリンダ、15は上ロールと下ロールの間隔を調整する間隔調整装置である。ダムロール6、ダムロール7における上ロールと下ロールの間隔調整機構は同じであるので、以下の説明はダムロール6の場合について説明する。なお、本明細書において、上ロールと下ロールの間隔とは、上ロール外周下端と下ロール外周上端の間隔のことであり、上ロールと鋼板の間隔とは、上ロール外周下端と鋼板上面の間隔のことである。
【0018】
下ロールチョック12は、下ロール6bの軸両端部近傍部分を支持し、該ロール外周頂部の高さ方向位置がパスライン面となるようにロール架台11に取り付けられている。上ロールチョック13は、上ロール6aの軸両端部近傍部分を支持し、エアシリンダ14によって、ロール架台11のガイド面11aに沿って昇降自在にロール架台11に取り付けられている。
【0019】
下ロールチョック12と上ロールチョック13の間に上ロール6aと下ロール6bの間隔を調整する間隔調整装置15が設置されている。図4は、間隔調整装置15の構造を説明する断面拡大図である。間隔調整装置15は、上部が平坦で下部に雄ねじ形状部分を有する雄ねじ部材16と、下部が平坦で上面に雌ねじ形状の孔部を有する雌ねじ部材17とから構成され、雄ねじ部材16のねじ部は雌ねじ部材17の孔部に装入される。雌ねじ部材17を固定し、雄ねじ部材16を回転させることで、高さ調整装置15の高さ(雄ねじ部材16上面と雌ねじ部材17下面間の寸法)を適宜の寸法に調整することができる。
【0020】
従来の装置は、下ロールチョック12と上ロールチョック13の間に高さ調整装置15が設置されていない。そのため、エアシリンダ14で上ロールチョック13を下降させると、上ロール6aは下ロール6bに接する迄下降する。鋼板1がある場合は鋼板1を介して下ロール6bに接する迄下降し、エアシリンダ14による所定圧力で鋼板1を挟圧する。
【0021】
これに対して、図2の装置は、下ロールチョック12と上ロールチョック13の間に高さ調整装置15が設置されている。高さ調整装置15の高さ(雄ねじ部材16下面と雌ねじ部材17上面間の寸法)を適宜の寸法に調整することで、上ロールが下ロールに接する前に、上ロールチョック13が高さ調整装置15上面に当接し、それ以上、上ロールは下降しないので、高さ調整装置15の高さを調整することで、上ロールの下降位置を調整できる。上ロールチョック13が高さ調整装置15上面に当接したときの上ロールと下ロールの間隔は、ロール架台、ロールチョック、ロール寸法、高さ調整装置の寸法関係、パスラインに対する位置関係等から容易に求めることができる。入側ダムロール6、出側ダムロール7の各々について、間隔調整装置15の高さ寸法と上ロールチョック13が間隔調整装置15上面に当接したときの上ロールと下ロールの間隔の対応関係を求めておき、この対応関係を用いて、間隔調整装置15の高さを調整することで、ダムロール6、7の各々について、上ロールと下ロールの間隔を所望の間隔に調整できる。
【0022】
鋼板1と上ロールの間に間隔を設けることで鋼板とダムロールの接触に起因する表面品質不良の問題を解消できる。処理液の漏れだしを防止するには、鋼板とダムロールとの間隔を小さくすることが必要である。図2の装置では、ダムロールの下ロール上面が6b、7bはパスライン面になるように設置されているので、ダムロールと鋼板の間に間隔を設けた場合、鋼板1は下ロール6b、7bに接した状態で浸漬反応槽1を通板され、鋼板1と上ロール6a、7a間に間隔が設けられるので、上ロール6a、7aと鋼板1との間隔を、処理液の漏れだしを防止できる間隔にすればよい。
【0023】
処理液の漏れだしを防止できる上ロール6a、7aと鋼板1との間隔は、処理液種、ロール径及び浸漬処理槽の構造によって変わるので、対象とする処理液種、ロール径及び浸漬処理槽に応じて処理液の漏れだしを防止できる間隔を調べて、処理液の漏れだしを防止できる適宜の間隔に調整すればよい。
【0024】
図2の装置でリン酸処理液等の粘度が水とほぼ同等な処理の場合は、上下ロール間隔は鋼板板厚+0mm超〜鋼板板厚+2mmが好適範囲である。チャター模様、スケ模様の発生防止の観点からは、鋼板板厚+1mm超とすることがさらに好ましい。ただし、この好適範囲の上限は処理液の粘性(粘度)が大きくなるにつれて、大きくなる。また、高さ調整装置15による上ロールの高さ方向位置の調整範囲は、前述の好適範囲及び鋼板厚を考慮して、下ロールに当接可能な位置から上下ロールの間隔が10mm程度にできる範囲でよい。
【0025】
通常の方法で電気亜鉛めっきを施した鋼板に、図2〜図4の装置で表面調整を行った後、上ロール6aと下ロール6b、上ロール7aと下ロール7bとの間隔は2.0mmに調整したリン酸塩処理液を貯留した浸漬反応槽1に浸漬通板させてボンデ鋼板を製造したところ、上下ロール6aと6b、及び7aと7bで鋼板1を押し付けながら通板した従来法で発生していたリンガーロールに起因する表面品質不良発生が皆無となった。また、ロール取り替え頻度も従来法に比べて減少し、ロール加工コストの低減、生産性向上の効果もあった。
【0026】
なお、上述の実施形態は。表面処理装置が浸漬反応層である場合であるが、本発明はこれに限らず、表面処理装置がスプレー方式である場合であっても適用可能である。
【0027】
さらに、上述の実施形態では、表面処理がリン酸塩皮膜形成処理であるが、本発明はこれに限らず、酸洗処理、脱脂処理等、皮膜形成以外の表面処理にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、浸漬反応槽を備える表面処理鋼板製造装置において美麗な外観の表面処理鋼板を製造する方法として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】浸漬反応槽を備える表面処理鋼板製造装置の要部構成を説明する断面図である。
【図2】本発明の実施に使用する浸漬反応槽を備える表面処理鋼板製造装置の要部を示す図である。
【図3】ダムロール高さ方向位置の調整機構を説明する側面図である。
【図4】間隔調整装置の構造を説明する断面拡大図である。
【符号の説明】
【0030】
1 鋼板
2 表面調整セクション
5 浸漬反応槽(表面処理装置)
6、7 ダムロール
6a、7a 上ロール
6b、7b 下ロール
8 処理液(皮膜形成用処理液)
11 ロール架台
12、13 ロールチョック
14 エアシリンダ
15 間隔調整装置
16 雄ねじ部材
17 雌ねじ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の表面に処理液を付着させて処理する表面処理装置の入側および/または出側で前記金属板の両面側に対向配置した一対のダムロールにより、前記処理液の前記表面処理装置からの漏れ出しを防止する、表面処理金属板の製造方法において、
前記一対のダムロールの間隔を、前記金属板の板厚より大きい値で、かつ液の漏れ出しを防止できる間隔とすることを特徴とする、表面外観に優れた表面処理金属板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−265636(P2006−265636A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85822(P2005−85822)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】