説明

表面張力低下剤

【課題】
表面張力低下剤を化粧品材料、医薬品材料、医薬部外品材料、日用品材料、農薬材料、および工業材料に応用した場合に、より優れた表面張力低下能を発揮するポリグリセリン脂肪酸エステルを提供することを目的とする。
【解決手段】
トリグリセリン濃度とテトラグリセリン濃度の合計が50重量%以上であり、且つトリグリセリン、及びテトラグリセリンの各々の濃度が10重量%〜70重量%の範囲であるポリグリセリンと、炭素数が8〜18の飽和、または不飽和脂肪酸とから構成されるポリグリセリン脂肪酸エステルを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面張力低下能に優れたポリグリセリン脂肪酸エステルに関する。また、本発明は、ポリグリセリン脂肪酸エステルを表面張力低下剤として用いた化粧品材料、医薬品材料、医薬部外品材料、日用品材料、農薬材料、および工業材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリグリセリンは安全性が高く、特徴のある多価アルコールとして様々な用途への応用研究が行われている。特に、表面張力低下剤としての機能を有するポリグリセリン誘導体としては、ポリグリセリンアルキレンオキサイド誘導体や、ポリグリセリン脂肪酸エステルが挙げられるが、中でも、ポリグリセリンアルキレンオキサイド付加物の末端水酸基に含フッ素アルキル基を導入したポリグリセリン誘導体は、表面張力低下能及び、水への溶解性に優れることが報告されている(特許文献1)。しかし、本化合物は、特殊な反応設備を必要とすること、及び製造コストが高い点から、工業用途における洗浄剤、浸透剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、可溶化剤等に用いる上において、汎用性に欠けるものであった。
【0003】
一方、ポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンの重合度、脂肪酸の種類、エステル化度を変化させることにより親水性から親油性まで広範囲の物性を有するエステルを造ることができる。さらに、目的の構造に制御することによって、食品用途、化粧品用途、および工業用途において、洗浄剤、浸透剤、乳化剤、可溶化剤など幅広い方面で使用されている。
【0004】
特に、ポリグリセリンの水酸基価から算出される平均の重合度が、2から10であるポリグリセリン脂肪酸モノエステルは低い表面張力、高い浸透性、低発泡性を有することが知られている(特許文献2)。従来このようなポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンと脂肪酸のエステル化反応で製造されている。しかし、水酸基価から算出される平均の重合度が2から10であるポリグリセリンは、平均重合度が2であるジグリセリンを除いて、一般には、分子量分布を有する組成物が使用される。そのため、モノ置換の脂肪酸エステルを製造しようとしても、使用する脂肪酸の当量に対し、水酸基の割合が多く、生成したポリグリセリン脂肪酸エステル中には、目的とするモノ脂肪酸エステル体のみならず、未置換のポリグリセリン、ジエステル、トリエステル、テトラエステル等の多置換エステル化物が残存していることが指摘されている(特許文献3)。従来使用されているポリグリセリン脂肪酸エステルには、未置換のポリグリセリンおよび2置換以上のポリグリセリンエステル化物が多く残存し、それらを表面張力低下剤として化粧品材料、医薬品材料、医薬部外品材料、日用品材料、農薬材料、および工業材料に応用した場合に、満足のいく性能が発揮されないことが危惧されていた(特許文献3)。
【0005】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの高純度化としては、エステル化反応生成物の溶液をアルキルシリル化シリカゲルと接触、吸着させ未置換のポリグリセリンを除去する方法(特許文献4)、水溶性有機溶剤及び水または塩析剤を含む水溶液を併用して未反応ポリグリセリンを抽出除去する方法(特許文献5)が提案されている。
【0006】
しかしながら、前者のアルキルシリル化シリカゲルによって分割する方法は、運転コストが高く、また操作も煩雑であるという欠点がある。また、後者の方法においても未置換のポリグリセリンは除去できるが、その他のエステル化物は除去できないという欠点を有している。そこで、精製を必要とせず、安価で簡便に合成できる表面張力低下能に優れたポリグリセリン脂肪酸エステルの開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2007/032480号公報
【特許文献2】特開2000−327507号公報
【特許文献3】特開平8−109153号公報
【特許文献4】特開平3−81252号公報
【特許文献5】特開平6−41007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、表面張力低下剤を化粧品材料、医薬品材料、医薬部外品材料、医療材料、衣料材料、農薬材料、および工業材料に応用した場合に、より優れた表面張力低下能を発揮するポリグリセリン脂肪酸エステルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するために、本発明者が鋭意研究を重ねた結果、トリグリセリン濃度とテトラグリセリン濃度の合計が50重量%以上であるポリグリセリンから構成されるポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることによって、上記の課題を解決することができるという知見を見出した。さらに、上記ポリグリセリンは、トリグリセリン、及びテトラグリセリンの各々の濃度が10重量%〜70重量%の範囲であることによって、より優れた機能の表面張力低下剤を提供できることを見出した。
【発明の効果】
【0010】
本発明の表面張力低下剤を使用することにより、より優れた性能を発揮する化粧品材料、医薬品材料、医薬部外品材料、日用品材料、農薬材料、および工業材料の製造が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明で使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸は、炭素数8〜18の飽和、または不飽和脂肪酸であり、好ましくは炭素数が8〜14の飽和脂肪酸である。構成脂肪酸の具体例としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸が挙げられ、これらを単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0013】
本発明で使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンは、グリセリンの脱水縮合反応、グリシドール、エピクロルヒドリン、グリセリンハロヒドリン等のグリセリン類縁物質を用いての合成、あるいは合成グリセリンのグリセリン蒸留残分からの回収等によって得られるが、一般的には、グリセリンに少量のアルカリ触媒を加えて200℃以上の高温に加熱し、精製する水を除去しながら重縮合させる方法によって得られる。反応は逐次的な分子間脱水反応により、順次高重合体が生成するが、反応組成物は均質なものではなく、未反応グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等の複雑な混合組成物となり、反応温度が高いほど、あるいは反応時間が長いほど反応は高重合度側にシフトする。また、未反応のグリセリンは減圧蒸留による蒸留が可能であり、ジグリセリンは分子蒸留による蒸留が可能であるため、一般的にはジグリセリンは高純度品が使用され、それ以上の重合度のポリグリセリンは、複雑な多成分の混合物や、グリセリン、ジグリセリンを蒸留した残分が使用される。
【0014】
ポリグリセリンの組成分析は、一例として、ポリグリセリン試料を約0.5g、及び内部標準物質としてパルミチン酸メチル(1級試薬;キシダ化学)を約0.05g精秤し、ピリジン(特級試薬;キシダ化学)約1.8mlにこれらを溶解させ、次いで、この溶液20μLに対してTMS−HT(試薬;東京化成工業)を0.2ml注入し、温浴にて反応後に上澄み液1μLを下記の分析に供することで判定される。
【0015】
ガスクロマトグラフ:GC−14B(島津製作所製)
カラム:OV−1(GLサイエンス製、内径3mm、長さ1.5m)
カラム温度:100℃〜350℃(昇温速度10℃/min)
キャリアーガス:窒素(50ml/min)
注入部温度:350℃
検出器温度:350℃
検出器:FID
【0016】
本発明で使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンは、トリグリセリン濃度とテトラグリセリン濃度の合計が50重量%以上であり、好ましくは65重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。本発明を構成するポリグリセリンを用いた場合では、より分子量分布が狭いエステル成分のポリグリセリン脂肪酸エステルとなる。分子量分布が広いポリグリセリン脂肪酸エステルは、エステル化度が高いポリグリセリンエステル化物を多く含有する場合があり、これらが単分子膜の形成を阻害し、表面張力の低下効果が劣る場合がある。
【0017】
さらに、トリグリセリン濃度とテトラグリセリン濃度の合計が50重量%以上のポリグリセリンについて、トリグリセリン、及びテトラグリセリンの各々の濃度が10重量%〜70重量%の範囲であり、さらに好ましくは20重量%〜70重量%である。これらの下限範囲を外れる組成の場合では、前記同様にポリグリセリン脂肪酸エステルの分子量分布が広くなることにより、表面張力低下能が劣る傾向となる。一方、上限範囲を外れる組成のポリグリセリンを製造するには、複数の蒸留工程が必要となるため、非常に不経済なものとなる。
【0018】
さらに、これに加えて、ジグリセリン濃度が10重量%以下、ヘキサグリセリン以上のポリグリセリン濃度が15重量%未満であることが好ましい。ジグリセリンのように水酸基数が少ないポリグリセリンを多く含有する場合では、エステル化度が高いポリグリセリンエステル化物を多く含有したポリグリセリン脂肪酸エステルとなる。また、逆にヘキサグリセリン以上の水酸基数の多いポリグリセリンを多く含有する場合においても、2置換以上のポリグリセリンエステル化物を多く含有したポリグリセリン脂肪酸エステルとなるため、表面張力の低下効果が劣る場合がある。
【0019】
本発明で使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルは、水酸基価から算出される脂肪酸のエステル化率が30%以下であり、さらに好ましくは20%以下である。
【0020】
エステル化率とは、末端基分析法による水酸基価から算出されるポリグリセリンの平均重合度(n)、このポリグリセリンが有する水酸基数(n+2)、ポリグリセリンに付加している脂肪酸のモル数(M)としたとき、(M/(n+2))×100=エステル化率(%)で算出される値である。また、水酸基価とは、ポリグリセリンに含まれる水酸基数の大小の指標となる数値であり、1gのポリグリセリンに含まれる遊離ヒドロキシル基をアセチル化するために必要な酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数をいう。水酸化カリウムのミリグラム数は、社団法人日本油化学会編纂、「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法(I)、2003年度版」に準じて算出される。また、平均重合度は、末端基分析法による水酸基価から算出されるポリグリセリンの平均重合度(n)である。詳しくは、次式(式1)および(式2)から平均重合度が算出される。
(式1)分子量=74n+18
(式2)水酸基価=56110(n+2)/分子量
【0021】
本発明で使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルは、例えば、次の方法により合成することができる。ポリグリセリンと脂肪酸に水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒を加えた後、エステル化反応を常圧もしくは減圧下において、常法に従って行い、仕込んだ脂肪酸のほとんど全てがエステル化するまで反応させる。すなわち、遊離の脂肪酸がほとんどなくなるまで十分に反応させる。
【0022】
本発明で使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルの酸価は特に限定はされないが、1mgKOH/g以下であることが好ましい。酸価が1mgKOH/g以下であると、不純物である疎水性の遊離脂肪酸が少ないため、表面張力低下効果に悪影響を及ぼさない。ここで、酸価とは、試料1g中に含まれている遊離脂肪酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数をいい、社団法人日本油化学会編纂、「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法(I)、2003年度版」に準じて算出される。
【0023】
本発明の表面張力低下剤を使用することにより、より優れた性能を発揮する化粧品材料、医薬品材料、医薬部外品材料、日用品材料、農薬材料、および工業材料の製造が可能となる。例えば、化粧品材料の具体例としては、化粧用クリーム、ローション、シャンプー、クレンジング、歯磨き粉、ボディーシャンプーなどが挙げられ、医薬品材料としては、難水溶性薬物製剤、ソフトカプセル等、また、医薬部外品材料としては、皮膚外用剤、消臭剤など、日用品材料としては、柔軟剤、洗濯用洗剤、おむつ、生理用品など、さらに、農薬材料としては、殺菌剤、殺虫剤、除草剤、展着剤、乳化剤などが挙げられ、薬液としては乳剤、液剤、フロアブル剤、水和剤の何れを問わない。また、工業材料としては、接着剤、プラスチック成型品、プラスチックフィルム、塗料、印刷インク、トナー、セメント、切削油、工業用洗浄剤、不織布、繊維、紙、セラミック材料などが挙げられるが、これらの使用に限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。尚、今回使用したポリグリセリンは、下記の合成例に示すポリグリセリンA〜Hを用いた。以下、本発明の実施例及び比較例を示す。ただし、%は重量基準であり、エステル化率は上述の計算式により算出される値ある。
【0025】
(ポリグリセリンA〜Hの合成)
温度計、撹拌装置を付した四ツ口フラスコに精製グリセリン(阪本薬品工業株式会社製)、及び触媒として水酸化ナトリウムを添加し、窒素気流下にて250℃で反応させ、ポリグリセリン組成物を得た。次いで、この組成物を減圧蒸留して表1に示すポリグリセリンA〜Gを得た。なお、減圧蒸留工程を実施しないものとしてポリグリセリンHを得た。
【0026】
【表1】

【0027】
(ポリグリセリン脂肪酸エステル(PGFE)1〜9の合成)
ポリグリセリンAを523.0gとカプリル酸70.8gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムを添加し、窒素気流下にて180℃から220℃に昇温して反応させ、酸価が0.1mgKOH/gであるポリグリセリンモノカプリレート(PGFE1)を得た。以下同様に、ポリグリセリンと脂肪酸の種類及び、ポリグリセリンと脂肪酸の仕込み比率を変化させてPGFE2〜9を製造した。結果を表2に示す。
【0028】
(実施例1〜6、比較例1〜3)
PGFE1〜6を実施例、PGFE7〜9を比較例として各エステルをイオン交換水でエステル濃度0.1%の水溶液に調製した。各々の水溶液を25℃のインキュベータで一晩放置したサンプルを測定した。測定は、界面張力計DM−300(協和界面科学(株)製)を用いて懸滴法にて行い、Young−Laplace法による解析を行った。各濃度5回ずつ測定し、その平均値に水/大気の密度差0.997(g/cm)を掛け合わせたものを表面張力の値とした。また、PGFE1〜9の10%水溶液を調製し、これらの浸透性、及び水溶性を評価した。浸透性は、200mLのビーカーに硬度3の水を用いて試料の純分濃度が30ppmになるように調製した。試験液を入れ、正方形の形状(1cm×1cm)で厚さ2mmのフェルト片をその水面上に置き、沈降するまでの時間を測定した。結果を表2に示す。
(評価方法)
水溶性 透明均一な状態・・・◎
わずかにくすみ生じる・・・○
白濁した状態・・・△
不溶状態・・・×
【表2】

【0029】
本発明において、トリグリセリン濃度とテトラグリセリン濃度の合計が50重量%以上であり、且つトリグリセリン、及びテトラグリセリンの各々の濃度が10重量%〜70重量%の範囲であるポリグリセリンから構成されるポリグリセリン脂肪酸エステルでは比較例より良好な表面張力低下能を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の表面張力低下剤は、より優れた性能をもつ化粧品材料、医薬品材料、医薬部外品材料、日用品材料、農薬材料、および工業材料の製造を可能にするために有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリグリセリン濃度とテトラグリセリン濃度の合計が50重量%以上であるポリグリセリンから構成されるポリグリセリン脂肪酸エステルであることを特徴とする表面張力低下剤。
【請求項2】
トリグリセリン濃度とテトラグリセリン濃度の合計が50重量%以上であり、且つトリグリセリン、及びテトラグリセリンの各々の濃度が10重量%〜70重量%の範囲であるポリグリセリンから構成されることを特徴とする請求項1記載の表面張力低下剤。
【請求項3】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸が、炭素数8から18の飽和、または不飽和脂肪酸で構成されることを特徴とする請求項1、又は2記載の表面張力低下剤。
【請求項4】
ポリグリセリン脂肪酸エステルのエステル化率が30%以下であることを特徴とする請求項1〜3何れかに記載の表面張力低下剤。
【請求項5】
請求項1〜4何れかに記載の表面張力低下剤を含有する化粧品材料、医薬品材料、医薬部外品材料、日用品材料、農薬材料、および工業材料。

【公開番号】特開2013−87234(P2013−87234A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230418(P2011−230418)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(390028897)阪本薬品工業株式会社 (140)
【Fターム(参考)】