表面弾性波デバイスセンサ
【課題】 圧電型基板上に発生させる表面弾性波(SAW)を多チャンネル化・多機能化することにより、様々な環境情報や生体医療因子に起因した物理化学的パラメータ(温度,湿度,荷重,気圧,ガス成分,磁気,材料損傷,生体成分微量分析等)による環境変化因子をSAW伝播特性変化によって同時に、且つ、高精度で検出することができる表面弾性波デバイスセンサを提供することである。
【解決手段】 圧電型基板2に接合させたIDT3からなる素子に高周波電流または高周波電圧を印加し、前記圧電型基板2の表面近傍に表面弾性波(SAW)5を発生させ、このSAW5の伝播特性によって環境変化因子を検出する表面弾性波(SAW)デバイスセンサ1において、前記圧電型基板2上に複数の機能性薄膜6からなる表面弾性波伝播経路4を形成して多チャネル化することで、環境変化因子を複数同時に検出させるようにした。
【解決手段】 圧電型基板2に接合させたIDT3からなる素子に高周波電流または高周波電圧を印加し、前記圧電型基板2の表面近傍に表面弾性波(SAW)5を発生させ、このSAW5の伝播特性によって環境変化因子を検出する表面弾性波(SAW)デバイスセンサ1において、前記圧電型基板2上に複数の機能性薄膜6からなる表面弾性波伝播経路4を形成して多チャネル化することで、環境変化因子を複数同時に検出させるようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性体の表面付近にエネルギーを集中させて伝搬する表面弾性波(Surface Acoustic Wave,以下SAW)デバイスにおいて、SAW伝播経路上に複数の環境変化因子に反応する特殊な機能材を付加させ多機能化を図り、SAWの伝搬特性の変化に着目し、それを通して、身の周りの環境や生体(健康)問題に関連する様々な物理化学量(温度、応力、ひずみ、湿度、微量ガス、イオン化濃度、生体成分微量分析等)を高感度で計測できる無給電方式かつワイヤレスに特徴を有する多機能化SAWデバイスセンシングシステム開発への基盤技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、工学および医学分野において利用されている超音波は、水中あるいは固体中を伝わる弾性波動(バルク波)が主体である。これに対し、弾性体の表面付近にエネルギーを集中させて伝搬する表面弾性波(SAW)も近年、電子・通信機器用素子として活用され、この方面の進展に重要な役割を受け持つに至っている。
【0003】
このようなSAWデバイスの機能発現の基本となっている関連技術の一つに圧電効果がある。この圧電効果は、ひずみまたは応力を加えると電荷が誘起され(順効果)、逆に電圧を加えると歪または応力が生ずる(逆効果)現象を総称して圧電効果(piezoelectric effect)といい、歴史的には電気石について順効果がキュリー兄弟(J.Curie,P.Curie,1880)により発見され、翌年リップマン(G.Lippmann)によって逆効果が見出されている。結晶が圧電効果を示すか否かは、結晶の点群対称性によって決まり、32晶族のうち圧電効果を示すものは20晶族である。
【0004】
上記圧電効果を利用した電気機械変換素子は、現在の超音波応用部品の主流となっている。圧電素子には単結晶として水晶,ロッシェル塩(酒石酸カリソーダ),LiTaO3,LiNbO3など、また、多結晶体としてチタン酸バリウム(BaTiO3),ジルコチタン酸鉛(PbZrO3,PbTiO3),ニオブ酸塩などが代表的なものである。圧電振動子は、電極を有する圧電体をその全体または一部分に用いて構成された一つの弾性振動体であり、それ自体の弾性振動を圧電変換により電気的に励振、検出する機能をもっている。
【0005】
表1に前述した圧電基本式を示す。圧電は、電気系と機械系の線形相互作用であり、エネルギー変換の一種である。その形式の分類で、物理的変数の変化を通じて行われる変換のうち、変化がゆっくりと(熱平衡に近い形で)行われる準静的変換に入る。その物理的変数は、電気系では電界Eと電束密度D(または分極P)、機械系(力学系)では応力TとひずみSである。この相互作用を扱うにあたっては、示強(内包的)変数と示量(外包的)変数とを区別することが必要である。ここでは、EとTが前者、D(またはP)とSが後者である。
【0006】
【表1】
【0007】
表面弾性波(SAW)は、当方体や圧電性媒質などを伝搬するが、等方体表面を伝搬するレイリー波が基本である。1885年にLord Rayleighによって導かれたレイリー波(Rayleigh wave)は、半無限弾性体の自由表面(十分に厚い板の表面)に沿って伝搬するため、波の波動の様子は水面の波と類似している。すなわち、まず、波のエネルギーは表面近くに集中しており、表面から深さ1波長以内に90%以上が含まれている。また、変位部分は、波の進行方向と深さ方向だけを持ち、両者の成分の位相差は90°であるため、各点は楕円軌道を描く。図13に水の表面波とレイリー波の変位分布の状態を模式的に示す。水の場合と異なるのは、表面においては進行方向に対し後方楕円運動をし、約1/5波長の位置で深さ方向だけの変位になり、それより深いところでは前方楕円回転をしていることである。
【0008】
さらに、水の場合では伝搬速度が周波数の関数であったのに対し、レイリー波においては周波数に無関係にいつも一定である。このように、速度が一定であることを速度分散性がない(nondispersive)というが、これはレイリー波の大きな特徴である。また、等方体の場合と同じように、異方性媒質である圧電媒質の表面にもレイリー波が伝搬するが、一般にはすべての変位成分を持つ。ただし、速度が周波数特性を持たないのは同じである。
【0009】
圧電型基板を伝搬する表面弾性波の伝搬特性には、伝搬速度v,電気機械結合係数K2,遅延時間温度係数TCD,パワーフロー角PFAなどの値がある。表面弾性波を利用したSAWデバイスの特性は、用いる圧電型基板に大きく依存する。そこで、より優れた圧電型基板に要求される特性を列挙すると次のようになる。
(1) 電気機械結合係数(K2)が大きいこと。
(2) 温度特性(TCD)が良いこと。
(3) スプリアス応答が小さいこと。
(4) パワーフロー角(PFA)が零であること。
(5) 伝搬損失が小さいこと。
【0010】
電気機械結合係数は、電気エネルギーから表面波エネルギーへの変換効率を示す値である。TCDは表面波の速度あるいは遅延時間の温度による変動係数を示す。スプリアス応答は、不用振動モードにより、減衰量が劣化してしまう現象のことである。パワーフロー角は櫛型電極にSAWが励振されたときに、伝搬する位相速度の方向と群速度の方向の違いを表す角度である。なお、伝搬速度Vが速ければ高周波用に有利であり、遅ければ遅延線用に有利である。
【0011】
上記圧電効果及び表面弾性波を応用したSAWデバイスは、近年の携帯電話に代表される移動体通信市場の急速な拡大と共に、それら移動体通信端末に用いられるデバイスの技術的革新に寄与している。このようなSAWデバイスは、移動体通信端末の小型化、高機能化を実現するためのキーパーツの1つと目され、主にRF及びIF段の帯域通過フィルタとして用いられ、フォトリソグラフィプロセスによって作製されるために、微細加工が可能であり、現在では数GHz帯で実用化されている。
【0012】
SAWデバイスでは、SAWを励振し、且つ、受信するために圧電体が基板として用いられる。圧電体としては、弾性波の波長であるμmオーダーの平滑性と、数100ppm以下の周波数の再現性を要求されることから、材料定数のばらつきが小さい圧電性単結晶や単結晶上に形成した圧電性薄膜などが使用される。SAWを励振する手段としては、図14に示すようなプラスとマイナスが交差した電極、いわゆるIDT(Interdigital Transducer)と呼ばれる櫛型電極が用いられる。このIDTが周波数特性を持つことから、フィルタや共振子を構成することができる。
【0013】
図15に前記SAWデバイスを利用したSAWフィルタの原理を示す。このSAWフィルタは、一般的に圧電型基板と送受信用IDTによって構成される。フィルタの中心周波数fは、SAWの音速をV,IDTピッチによって決まる波長をλとすると、f=V/λで表せる。したがって、この中心周波数帯が最もよく励振されるため、この値を制御することにより、任意の周波数帯を取り出すことが可能となる。このとき、さらに精度よく任意の周波数を得るためには、フィルタを数段使用する。図16に前記SAWフィルタを用いた携帯電話機の受信ブロックの一例を示す。アンテナから取り込まれた電波は、初段のフィルタを通過した後に、ミキサを通して周波数を落とし、最終的にベースバンド部に送られる。SAWフィルタは、カバーする周波数範囲が数10MHz〜数GHzであるため、例えば、1.5GHzのデジタル携帯電話では、RFの1.5GHz及び130MHzの初段IFフィルタとして利用されている。
【非特許文献1】T.Nomura,A.Saitoh,and S.Furukawa,Proceedings of 1999 IEEE Ultrasonics Symposium,pp477-480(1999)2)
【非特許文献2】藤吉 敏生,新非破壊検査便覧(日本非破壊検査協会),19923
【非特許文献3】柴山乾夫,弾性波素子ハンドブック(日本学術振興協会編),19914
【非特許文献4】T.Nomura,A.Saitoh,Wireless acoustic wave sensor system(JTTAS研究会編),20025
【非特許文献5】柴山乾夫,弾性表面波工学,19836
【非特許文献6】V.K.Varadan et al.,Microsencors,MEMS and Smart Devices(John Willey&Sons,Ltd出版)20017
【非特許文献7】田中喜久昭,宮崎修一,形状記憶合金の機械的性質(養賢堂出版),pp31-33,44-45
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
圧電材料と櫛型電極(IDT)から構成される高周波表面弾性波(SAW)デバイスにおいて、従来は、テレビや携帯電話等電波受信機器内に組み込まれた共振現象を利用した電波フィルタとして多くの開発実績があった。しかし、逆に、外的環境変化に伴うSAW基板材料自体の音弾性特性(伝播する弾性波の変性(位相、振幅、減衰等))を抽出し、それを無給電・ワイヤレスセンシングデバイスとしての先端計測分析技術・手法として発展させ、IT技術社会への基盤要素技術として発展活用する研究例はほとんどないのが現状である。
【0015】
上記の圧電(PZT例、水晶素子、LiNbO3など)基板材料のみのSAWデバイスからでは、圧電材料自体の温度係数、応力音弾性効果による温度、応力(ひずみ)が主に計測可能パラメータとなるのみで、環境因子を計測するためのセンサ用デバイスとしては応用範囲や拡張性が狭い欠点がある。このようなことから、同時に多パラメータの環境変化因子を計測できるシステムも必要となってきている。
【0016】
さらに、圧電型基板に接合させたIDTからなる従来のSAWデバイスでは、IDTとPZT基盤との不完全接合部分や伝播経路上のPZT不均質性や表面仕上げの悪さ(不連続性)が影響して、その入出力時に電気的ノイズ(外乱)が入り込み、環境変化因子(温度、応力(ひずみ)など)からのセンシング信号の分離抽出が困難な場合もあり、定量的センシングシステム構築上の技術的問題となることもあった。
【0017】
以上のSAWデバイスを環境変化因子検出用のセンサとして発展・応用させる上での技術課題から、本発明では、SAW伝播経路上に複数の環境変化因子に反応する特殊な機能膜状材を付加させ、環境変化因子との相互作用を通して、伝搬特性の変化に着目し、さらには、IDT多チャンネル化も行い、それらを通して、身の周りの環境や生体(健康)問題に関連する様々な物理化学量(温度、応力、ひずみ、湿度、微量ガス、イオン化濃度、生体成分微量分析等)を感度良く計測できる多機能化SAWデバイスによるセンシングシステム開発への基盤技術を得ることが発明の課題である。
【0018】
そして、圧電型基板材料の選択、IDT高密度化を一層進めて、GHz以上の極短波長域でのSAW伝播高周波化、多チャンネル化、小型マイクロデバイス化、無線送受信システム改善、信号送受信解析ソフトウェア開発などを行い、国際的に独自で優位なIT、ユビキタス社会への先端計測分析技術、手法として発展・確立させることを目的とする。
【0019】
本発明では、弾性体の表面付近にエネルギーを集中させて伝搬する表面弾性波(Surface Acoustic Wave,以下SAW)デバイスにおいて、SAW伝播経路上に環境変化因子に反応する特殊な機能材を付加させて多機能化を図り、SAWの伝搬特性の変化に着目し、それを通して、身の周りの環境や生体(健康)問題に関連する様々な物理化学量(温度、応力、ひずみ、湿度、微量ガス、イオン化濃度、生体成分微量分析等)を高感度で計測できるSAWデバイスセンサを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、本発明の表面弾性波デバイスセンサは、圧電型基板に接合させた櫛型電極からなる素子に高周波電流または高周波電圧を印加し、前記圧電型基板の表面近傍に表面弾性波を発生させ、この表面弾性波の伝播特性によって、環境変化因子を検出することを特徴とする。
【0021】
また、本発明の表面弾性波デバイスセンサは、圧電型基板に接合させた櫛型電極からなる素子の伝搬面を導電性金属により電気的に短絡してアースすることにより、電気的なノイズを低減化させる自由表面型の表面弾性波伝播経路と、アースされていない表面弾性波伝播経路とを備え、前記両表面弾性波伝播経路における信号受信を同時に抽出することによって、検出感度を向上させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
そのために、SAWデバイス上に複数のIDTを設置したパラメータセンシングを可能するように設計する。また、その各チャンネルでの伝播経路上に機能性薄膜を成膜させることにより、環境変化因子と成膜間での物理化学反応を起こさせて、その際に変性する成膜特性を間接的にSAWの変化として捉えられれば、同時に様々な物理化学的な環境変化因子を計測できることが可能となる。
【0023】
さらに、無給電方式かつワイヤレスに特徴を有する多機能化した小型SAWチップをネット配置させた無給電方式のワイヤレス多機能化SAWセンシングシステムへの基盤技術に発展させることができる。国際的に独自で優位なIT、ユビキタス社会への先端計測分析技術、手法として発展できるといった技術優位性がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
圧電材料とIDTから構成される高周波SAWの伝播特性変化に着目したSAWデバイスは、わが国では携帯電話等電波受信機器内に組み込まれたフィルタとして多くの実績があるが、逆に、それを無給電・ワイヤレスセンシングデバイスとしての先端計測分析技術・手法として発展させ、IT技術社会への基盤要素技術として発展活用する研究例はほとんどないのが現状である。
【0025】
本発明では、このSAWの伝搬特性の変化に着目し、表面弾性波伝播経路(以下、SAW伝播経路という)上に機能性薄膜を成膜させて、様々な物理化学的な環境変化因子を同時にリモート計測できる小型SAWチップをネット配置させた無給電方式のワイヤレス多機能化SAWセンシングシステムへの基盤技術に発展させることができる。図1は、本発明のSAWデバイスセンサの概略構成図を示したものである。
【0026】
このSAWデバイスセンサ1は、圧電型基板2上に櫛型電極(IDT)3を形成し、このIDT3に外部から高周波電流または高周波電圧を印加させることによって、圧電型基板2上に表面弾性波(SAW)を生じさせる。また、前記圧電型基板2には、複数の機能性薄膜6が成膜され、この機能性薄膜6に対応してSAW伝播経路4が設定される。前記機能性薄膜6は、環境変化因子(微量ガス、湿度、光、温度、応力(ひずみ)、電磁気、放射能、イオン濃度、液体粘性、生体反応、病原菌など)と反応して、電気抵抗の変化、分極化、重量変化、残留応力等を起こし、それを通して、一度に複数の外部環境情報の検知(センシング)を行うことが可能となる。本実施形態のSAWデバイスセンサ1は、前記機能性薄膜6からなるSAW伝播経路4を3チャネル(Ch.1〜Ch.3)備えているが、これには限定されず、さらにチャネル数を増やすことによって、1チップで多機能センシングを実現することが可能である。
【0027】
図2は、前記SAWデバイスセンサ1を無給電・ワイヤレス化した場合の回路構成例を示したものである。ここで示した無線機能を用いることにより、そのセンサとしての使用環境は大きな広がりを持たせることができる。また、前記SAWデバイスセンサ1は、フォトリソグラフィ工程によって作製されるため、小型化が容易で安価であり、その周波数特性はIDT3の線状電極の間隔によって決定される。このため、微細加工技術の発達とともに高周波化され、バイオ因子分析用センサといったより高度なセンシング機能を持たせることが可能となる。
【0028】
前記SAWデバイスセンサ1の設計・試作には、寸法20mm×35mmの水晶(STカット)、LiNbO3(128°Y−Xカット)の2種類の圧電型基板2を用いた。以下に示す表2に、使用した圧電型基板(水晶,LiNbO3)の基本特性を示す。IDT3にはAuを用い、P(ピッチ)20μm、交差幅3mm、伝搬長L=16mmとなるように設計を行った。また、それぞれの中心周波数をオシロスコープで測定したところ、水晶基板では39.8MHz、LiNbO3基板では66.82MHzであった。図3に実際に設計を行ったSAWデバイスセンサの形状及び各部の寸法を示す。
【0029】
【表2】
【0030】
次に、圧電型基板2のSAW伝搬経路4上に機能性薄膜6の形成を行った。図4にその際用いたマグネトロンスパッタ装置の基本構成を示す。マグネトロンスパッタ法は、ターゲット(薄膜材料)を貼り付けた陰極裏面に、中心を外周が互いに逆極性に励磁された同心的な磁石を設置し、ターゲット表面に中心と外周を結ぶ漏れ磁界を発生させる。チャンバ及び基板ホルダを陽極とし、例えば、0.01Torr程度となるようにArガスなどの不活性ガスを入れ、数百ボルトの電圧を加えてグロー放電を発生させる。正にイオン化したArガスは陰極降下電圧によって加速され、運動エネルギーを得て陰極に衝突する。そこで正イオンと運動量を交換したターゲット材の一部が陰極を飛び出し、陽極上の基板に達し膜が堆積する。
【0031】
ターゲット材には、磁性形状記憶材料(Ferromagnetic shape memory alloy,FSMA)であるFe-Pdを用い、スパッタ装置のチャンバ内をロータリポンプとターボポンプを用いて真空状態(4×10-4Pa)にし、アルゴン圧3.0Pa,成膜時間3h,基板温度100℃にてマグネトロンスパッタ法を用いてSAW伝搬経路4の中間部に成膜を行った。また、薄膜寸法は、3mm×6mm,厚さ3μmとなるようにマスクを用いて成膜を行った。
【0032】
形成した機能性薄膜の変態点の有無をするために、アルミ基板上に同スパッタ条件で作製した同じ組成のFe-Pd薄膜を示差走査型熱量計(DSC)にて測定を行い比較の対象とした。DSCは、物質及び基準物質(今回はアルミナ)の温度を調節されたプログラムに従って等しい熱量を与えつつ同時に昇温させるとき、融解や相転移が起こると試料は融解熱や転移熱を吸収するため、その温度上昇が遅れて参照物質との間に温度差が生じようとする。その温度差をゼロに保つに必要な電気エネルギーの記録が示差熱量曲線である。融解や相転移はその曲線上のピークとして現れ、ピーク面積がその熱量に相当する。また、ピークの形の解析から試料純度が決定される。基線の位置から参照物質との相対的な値として熱容量が決定される。
【0033】
なお、各種の測定の際には、SAWデバイスセンサをポリマー基板上に貼り付け、結線を行ったものを使用した。図5に結線後のSAWデバイスセンサ1の外観を示す。図中左はLiNbO3基板によるもので、図中右は水晶基板によるものである。結線方法は、まず、ポリマー基板上に銅箔を貼り付けたものにエッチングを行い、銅箔を任意の形にした。次に、試作したSAWデバイスセンサをポリマー基板中央に固定し、銅テープにてポリマー基板上の銅箔とSAWデバイスの配線を行い、それぞれの結合部は、電気の流れを良くするために導電性接着剤(ドウタイト等)で接着する。
【実施例1】
【0034】
(温度変化試験条件)
上記SAWデバイスを温度センサ、相変態のセンシングとして利用できるかを検証するため、温度を変化させた場合のSAW抽出信号の振幅、位相の変化を計測した。図6にその実験システムの構成図を示す。実験では試作した2種類のSAWデバイスを用い、それぞれの中心周波数は、水晶基板:39.8MHz,LiNbO3基板:66.82MHzとして測定を行った。また、測定機器には入出力の電位差から振幅や位相の変化を計測できるベクトルボルトメータを用いて行った。まず、試作したSAWデバイスセンサを温度コントロールチャンバ内に設置し、ファンクションジェネレータを用いてそれぞれの中心周波数のパルス電圧を印加し、SAWを発生させる。このときの室温での振幅や位相をリファレンスとし、温度を室温から90℃まで変化させた場合の位相差、振幅比をベクトルボルトメータによって測定した。なお、温度の測定にはSAWデバイスセンサに近づけたデジタル温度計を用いて行った。
【0035】
SAWデバイスを応力(ひずみ)、内部損傷センサとして利用可能であるかの検証のために荷重を負荷した場合のSAWの振幅、位相の変化を計測した。計測は試作した2種類の基板を用いて行い、それぞれの中心周波数は水晶基板:39.8MHz,LiNbO3基板:66.82MHzとして測定を行った。また、振幅、位相の測定には先の実験同様にベクトルボルトメータを用いて行った。
【0036】
図7に負荷荷重による実験システムの構成図を示す。片持ち梁の方式でSAWデバイスを載置したポリマー基板の一端を固定し、ファンクションジェネレータにて中心周波数のパルス電圧を印加し、SAWを発生させる。このとき(荷重なし)の振幅、位相をリファレンスとし、おもりを600gまで負荷させていった場合の位相及び振幅の変化をベクトルボルトメータで計測した。また、ひずみの計測には、Fe-Pd薄膜付近に取り付けたひずみゲージを用いて行った。なお、前記ポリマー基板の寸法は、45mm×70mm,厚み1mmで、SAWデバイスを構成する圧電型基板の寸法は、20mm×35mm,厚み0.5mmに設定した。
【0037】
ここでは、試作したSAWデバイスでの温度変化、荷重負荷によるSAWの伝搬特性の変化を計測し、温度センサ、応力(ひずみ)センサとしての計測を試みる。さらに、デバイス上に機能膜(磁性形状記憶合金,Ferromagnetic SMA)を形成させ、FSMA材料の大きな特徴である温度変化に伴う熱誘起相変態現象を利用した結晶相変態・物性変化のセンシング、応力誘起相変態を通した力学的内部損傷度合いの評価センサとしての可能性の検証を行う。
【0038】
水晶(STカット)基板では、ノイズの影響が大きく、各種の測定が不可能であった。これはエネルギー変換効率を実質意味する電気機械結合係数が小さく、感度が弱いため、SAW自体の励起信号が弱く、外乱(ノイズ)レベルの中に埋まってしまい、ばらつきも大きく現れて計測結果の定量的評価ができないためである。したがって、SAWデバイスをセンサとして使用するには、電気機械結合係数の大きい材料・カット方向を使用することにより、主信号を大きくしてノイズの影響を受けにくくすることが必要である。
【実施例2】
【0039】
(温度センサについて)
図8にLiNbO3基板での温度変化に対する位相の変化のグラフを示す。このグラフから温度変化に対して位相は、略線形的な変化を示し、また、温度によるヒステリシスは殆どないことがわかる。位相はθ=2πfL/v(f:周波数,L:伝播距離,v:SAW伝搬速度)で表されるため、この場合、熱膨張による伝搬距離Lの変化が非常に小さいため、位相が変化している主たる原因は伝搬速度vの変化であると考えられる。
【0040】
弾性波の速度は材料の硬さの差から想像するほど、物質の種類には強く依存しない。これは密度Pと圧縮率Ksの状態依存性が、結果としてほとんど打ち消しあうためである。物質の差は、音速度の温度依存性等に現れる。ここで、音波の基本式を次項に示す。
【0041】
【数1】
【0042】
例えば、大抵の固体は温めれば軟らかくなる。つまり、温度が上昇すると圧縮率が増加し、音速度は小さくなる。気体と対照的なこの傾向は、実際に多くの固体が示す性質である。したがって、温度センサとして用いるには、温度による位相、伝搬速度の変化、または、波の伝わる時間の変化を計測することにより可能である。
【実施例3】
【0043】
(相変態センシングについて)
図9に温度変化に対する振幅及び位相の変化のグラフを示す。また、表3にDSC測定の結果を示す。振幅、位相ともに加熱時では、50〜60℃、冷却時では40〜50℃に大きな変化がみられる。ここでは、DSC測定を行った試料がアルミ基板に成膜したものであるが、内部応力の違いによる変態点のずれを考慮に入れても、現れた変化に関係する温度は、DSC測定の結果と略一致していることがわかる。圧電型基板に成膜したFe-Pd薄膜が温度変化とともに熱誘起相変態を起こし、薄膜の弾性率が大きく変化したため振幅、位相に変化が起こったと考えられる。
【0044】
【表3】
【0045】
しかし、振幅の変化においては冷却時、マルテンサイト変態を起こしているにもかかわらず元の振幅値レベルに戻っていない。これは冷却過程では、十分に低温側マルテンサイト相変態が終了しておらず、高温側残留オーステナイトの影響が出てきているものと思われる。したがって、これを改善するには冷却の際、もっと低い温度まで冷却する必要があるといえる。以上より、変態によるSAWの位相の変化に注目することにより、さらに明白に相変態のセンシングの可能性がみられる。
【実施例4】
【0046】
(応力(ひずみ)センサ,内部損傷センサについて)
図10に応力による振幅及び位相の変化のグラフを示す。このグラフから位相はひずみに対してほぼ線形的に変化し、振幅には変化がみられないことがわかる。このひずみによる位相の変化は音弾性効果によるものと考えられる。この音弾性効果は、応力によって異方性となった弾性体が、音波に対して複屈折性を示し、2つの成分波の音速差が主応力に比例することである。つまり、音速は弾性率と関係があり、SAW速度Vは、V≒Vs(0.87+1.12σ)/1+σ(Vsは横波の速度,σはポアソン比)で与えられる。したがって、ひずみによる位相の変化は、SAWの伝搬経路における深さ約一波長にかかる平均した応力によって、音弾性効果によりSAWが複屈折性を示し、さらに基板の弾性率がわずかに変化したためにSAW速度が変化したと考えられる。
【0047】
この音弾性によるSAW速度の変化を利用することにより、応力(ひずみ)センサとしての利用が可能である。さらに、内部残留応力についても原理的には音弾性効果が適用できるわけで、SAW速度が変化することから内部損傷センサへの利用も可能であると考えられる。
【実施例5】
【0048】
(疲労寿命非破壊推定・評価について)
一般に機械・構造物は、繰り返し負荷荷重範囲(△P)の回数(N)と内部発生・蓄積する力学的損傷(Df:破壊損傷、疲労荷重一回ごとの損傷蓄積度=1/N線形加算則(1/Nf=1で最終破壊が成立)の相互関係、いわゆる、疲労におけるマイナー線形損傷蓄積破壊則で寿命予測(Nf)できる。
【0049】
そこで、疲労寿命予測ができるSAW多機能化応用の実証を試みた。まず、多チャンネル構成のSAW伝播経路上に、そのSAWを設置した母材側部材が受けた最大応力(ひずみ)を記憶する、図11に示すような、負荷応力に対して非線形特性を有する形状記憶合金(低温側マルテンサイトM相、例えば、Ti50Ni40Cu10原子%組成形状記憶合金)と、線形型の超弾性材料からなる合金(高温側オーステナイトA相、例えば、Ti50Ni47Co3原子%組成合金)とを蒸着させた多機能化SAWデバイスセンサを設計・試作した。
【0050】
ここで、前記多機能化SAWデバイスセンサにおける相変態のセンシング機能、力学的損傷のメモリ機能を図12に基づいて説明する。この図12は、SAWデバイス上に成膜した機能膜(FSMA)の温度や応力変化に伴う相変態挙動の概念を示したものである。形状記憶合金は、形状記憶効果によって形状を元の形に回復させる形状回復挙動を備えている。形状記憶効果は、ある形状の試料を臨界温度より高温から急冷して低温相(マルテンサイト相)を形成させ、これを変形した後再び加熱するとき、その臨界温度を超えると逆変態が起こり同時に形状も回復する現象をいう。形状記憶効果は、マルテンサイト変態によって発生する。形状記憶合金がマルテンサイト変態する前の相、つまり高温時の相は、オーステナイト相と呼ばれる。オーステナイト相の形状記憶合金を高温から冷却するとある温度を越えた時点でマルテンサイト変態がはじまる。この温度をMs(マルテンサイト開始温度)という。
【0051】
冷却を続けると変態は進行し、温度低下を止めると変態は停止する。つまり、マルテンサイトの生成は時間に寄らず、温度だけで決まる。温度を下げていったとき、最初にマルテンサイトが生成する温度がMs点で、更に温度を下げるとマルテンサイト変態が活発になりマルテンサイト量は急激に増加する。その後、変態の進行は緩やかになり、最後は合金全体がマルテンサイト相になる。全体がマルテンサイト相になった合金を加熱すると、今度はマルテンサイト相から体心立方のオーステナイト相への逆変態が起こる。加熱を続けると、冷却時と同じような曲線に従ってマルテンサイト相が減少し、その分だけオーステナイト相が増加する。逆変態の終了温度をAf(オーステナイト終了温度)という。
【0052】
相変態のセンシング機能は、前記FSMAの変態に伴う物性の変化(弾性率等)によるSAWの伝搬特性の変化を計測することにより可能となる。力学的損傷のメモリ機能は、 低温側マルテンサイト相(Ms)の温度において応力を負荷し、FSMA内に応力誘起相変態を起こすことにより、双晶の増加や相互にずれを発生させる。このとき、応力を除荷しても機能膜内部には不連続的な双晶が残り、残留ひずみとして蓄積される。音弾性法を用いてこの残留ひずみ(損傷)の蓄積によるSAWの伝搬特性の変化を計測していくことにより可能となる。また、高温側オーステナイト終了(Af)点以上に加熱することにより内部残留ひずみは消失し、A相に回復されることから、表面皮膜相を初期状態に戻す(リセット)ことも可能である。
【0053】
上記より、今回の実験では、室温レベルで、
1)負荷荷重に対して非線形型履歴が特徴の低温側マルテンサイトM相(Mf以下温度状態)を有するTi50Ni40Cu10原子%組成形状記憶合金の薄膜付着経路から、機械構造物が受けた最大応力履歴(σmax=記憶された最大ひずみレベル)度合いを推定し、
2)負荷荷重に対して線形型履歴が特徴の高温側オーステナイトA相(Af以上温度状態)を有するTi50Ni47Co3原子%組成超弾性合金の薄膜付着経路から、機械構造物が受ける荷重レベル(応力)の回数(Δσ=負荷応力レベルの回数-頻度)を常時監視するシステムを組むことで、疲労破壊寿命(繰り替え負荷回数Nf)を推定・評価する。実際、Al板試料を用いた、ゼロ荷重以上での引張り・圧縮繰り返しの片振り疲労負荷条件(R=Pmin/Pmax=0)で、上記の多機能化SAWデバイスセンサ信号とマイナー線形疲労損傷則から推測した試料破断回数(Npf、Nf=1200回)は、実寿命(Nf,Nf=1450回)となり、30%以下の寿命予測が可能なことが明らかになり、多機能化SAWデバイスセンサの有効性が確認された。
【0054】
本発明の多機能化SAWデバイスセンサシステムを一層発展させ、センサデバイスとしての信頼性、汎用性を高めるには、基板となる高感度で低温度係数の圧電材料の選択、IDT高密度化を一層進めて、GHz以上の極短波長域でのSAW伝播高周波化、多チャンネル化、小型マイクロデバイス化、無線送受信システム改善、信号送受信解析ソフトウェア開発などを行うことが必要である。具体的には、1)高密度多チャンネル化SAWセンサの開発、2)遠距離用無給電式ワイヤレスセンサシステムへの技術革新、3)SAW多機能・複合機能化材料プロセス安定生産化技術の発達、4)超マイクロ加工基礎技術・製品化などが挙げられる。
【0055】
それらの技術課題を改善できれば、我々日常での身の周りの環境や生体(健康)問題に関連する物理化学量(温度、応力、ひずみ、湿度、微量ガス、生体成分微量分析等)を高感度でリモート計測させて、無給電方式かつワイヤレスに特徴を有するSAWデバイスセンサによるセンシングシステムの基盤技術を調査・研究開発し、小型・モバイル性を高めたSAWデバイスシステムを将来の先端分析・計測機器に組み込むシステムに発展させることで技術的寄与度が実現できる。
【0056】
本発明の技術的及び社会的意義、活用分野は以下の通りである。
(1)無給電式ワイヤレスセンシング技術の発展
(2)多チャンネルSAWデバイス提案
(3)多機能・複合機能化SAW作成用薄膜作製プロセス技術
(4)小型埋め込みアンテナ技術
(5)製造ライン常時監視(プロセスモニター)技術発展
(6)自動車・航空機等のワイヤレスモニター技術(ITS関連)
(7)構造物健全性評価(ヘルスモニターリング)
(8)その場(In-situ)非破壊検査、メンテナンスコスト軽減
(9)安心・安全社会(Security)への寄与
そして、国際的に独自で優位なIT、ユビキタス社会への先端計測分析技術・手法として発展・確立させることができる。
【0057】
本発明のSAWデバイスセンサの具体的適用分野としては、以下に示すようなものが考えられる。
(1)動力機械部品の負荷応力・ひずみのワイヤレス(無線)計測・タービン動翼(飛行機、発電所)や回転機械部品(自動車トルクセンサ)
(2)・工場生産プロセスでの化学反応、溶液、ガス反応状態の計測
・石油プラントや化学的合成装置内部のガス発生・成分分析
・合成プロセス・加工ライン状の温度・ガス圧などのモニター管理
(3)ドア開閉センサ(磁歪膜複合化による磁場に反応するSAWセンサ)
(4)ビル・病院・住居内での環境(温度、照明度、湿度・状態、火災)センシング・省エネ管理
(5)建設・橋梁などの残留応力(ひずみ)モニター、内部損傷・残存寿命等のその場評価
(6)トンネル・岩盤(地すべり区域)などのゆがみ・クリープ伸びの連続計測
(7)ガスパイプライン状でのガス漏れ検出
(8)セキュリテイセンサ(赤外線(焦電)感応膜との複合機能化で不審進入者管理)
(9)バイオセンサ(SAW伝播経路上での各種生化学反応膜との複合機能化、そのイオン分極化、粘性変化、減衰性変化を利用して、生体酵素反応、細菌・各種ウイルス相互反応を検知可能)
(10)多機能化・多チャンネル化SAWデバイスセンサネットワーク配置による地域安全・省エネ等の一括管理システム
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の多機能化SAWデバイスセンサの構成図である。
【図2】前記SAWデバイスセンサをワイヤレス化した回路構成図である。
【図3】試作した2チャンネルSAW(LiNbO3基盤,Pt蒸着)を示す図である。
【図4】マグネトロンスパッタの基本構成図である。
【図5】結線後のSAWデバイスを示す図(左:LiNbO3基板、右:水晶基板)である。
【図6】温度に対するSAW伝播特性の変化を計測するための実験システムの構成図である。
【図7】負荷荷重によるSAW伝播特性の変化を計測するための実験システムの構成図である。
【図8】温度によるSAWの位相変化を示した図である。
【図9】SAW伝播経路上に蒸着したFePd磁性形状記憶合金薄膜の相変態に伴う振幅及び位相の変化を示した図である。
【図10】ひずみに対するSAWの振幅及び位相の変化を示した図である。
【図11】形状記憶合金系引張り試験における形状記憶効果及び超弾性現象を示す模式図である。
【図12】形状記憶合金系における形状記憶効果及び超弾性出現条件とその原子相変態を示す模型図である。
【図13】水とレイリー波の変位分布を示す図である。
【図14】櫛型電極(IDT)によるSAWの励振状態を示す図である。
【図15】SAWフィルタの原理図である。
【図16】SAWフィルタを使用した携帯電話の受信機能のブロック図である。
【符号の説明】
【0059】
1 SAWデバイスセンサ(表面弾性波デバイスセンサ)
2 圧電型基板
3 IDT(櫛型電極)
4 SAW伝播経路(表面弾性波伝播経路)
5 SAW(表面弾性波)
6 機能性薄膜
7 チャネル
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性体の表面付近にエネルギーを集中させて伝搬する表面弾性波(Surface Acoustic Wave,以下SAW)デバイスにおいて、SAW伝播経路上に複数の環境変化因子に反応する特殊な機能材を付加させ多機能化を図り、SAWの伝搬特性の変化に着目し、それを通して、身の周りの環境や生体(健康)問題に関連する様々な物理化学量(温度、応力、ひずみ、湿度、微量ガス、イオン化濃度、生体成分微量分析等)を高感度で計測できる無給電方式かつワイヤレスに特徴を有する多機能化SAWデバイスセンシングシステム開発への基盤技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、工学および医学分野において利用されている超音波は、水中あるいは固体中を伝わる弾性波動(バルク波)が主体である。これに対し、弾性体の表面付近にエネルギーを集中させて伝搬する表面弾性波(SAW)も近年、電子・通信機器用素子として活用され、この方面の進展に重要な役割を受け持つに至っている。
【0003】
このようなSAWデバイスの機能発現の基本となっている関連技術の一つに圧電効果がある。この圧電効果は、ひずみまたは応力を加えると電荷が誘起され(順効果)、逆に電圧を加えると歪または応力が生ずる(逆効果)現象を総称して圧電効果(piezoelectric effect)といい、歴史的には電気石について順効果がキュリー兄弟(J.Curie,P.Curie,1880)により発見され、翌年リップマン(G.Lippmann)によって逆効果が見出されている。結晶が圧電効果を示すか否かは、結晶の点群対称性によって決まり、32晶族のうち圧電効果を示すものは20晶族である。
【0004】
上記圧電効果を利用した電気機械変換素子は、現在の超音波応用部品の主流となっている。圧電素子には単結晶として水晶,ロッシェル塩(酒石酸カリソーダ),LiTaO3,LiNbO3など、また、多結晶体としてチタン酸バリウム(BaTiO3),ジルコチタン酸鉛(PbZrO3,PbTiO3),ニオブ酸塩などが代表的なものである。圧電振動子は、電極を有する圧電体をその全体または一部分に用いて構成された一つの弾性振動体であり、それ自体の弾性振動を圧電変換により電気的に励振、検出する機能をもっている。
【0005】
表1に前述した圧電基本式を示す。圧電は、電気系と機械系の線形相互作用であり、エネルギー変換の一種である。その形式の分類で、物理的変数の変化を通じて行われる変換のうち、変化がゆっくりと(熱平衡に近い形で)行われる準静的変換に入る。その物理的変数は、電気系では電界Eと電束密度D(または分極P)、機械系(力学系)では応力TとひずみSである。この相互作用を扱うにあたっては、示強(内包的)変数と示量(外包的)変数とを区別することが必要である。ここでは、EとTが前者、D(またはP)とSが後者である。
【0006】
【表1】
【0007】
表面弾性波(SAW)は、当方体や圧電性媒質などを伝搬するが、等方体表面を伝搬するレイリー波が基本である。1885年にLord Rayleighによって導かれたレイリー波(Rayleigh wave)は、半無限弾性体の自由表面(十分に厚い板の表面)に沿って伝搬するため、波の波動の様子は水面の波と類似している。すなわち、まず、波のエネルギーは表面近くに集中しており、表面から深さ1波長以内に90%以上が含まれている。また、変位部分は、波の進行方向と深さ方向だけを持ち、両者の成分の位相差は90°であるため、各点は楕円軌道を描く。図13に水の表面波とレイリー波の変位分布の状態を模式的に示す。水の場合と異なるのは、表面においては進行方向に対し後方楕円運動をし、約1/5波長の位置で深さ方向だけの変位になり、それより深いところでは前方楕円回転をしていることである。
【0008】
さらに、水の場合では伝搬速度が周波数の関数であったのに対し、レイリー波においては周波数に無関係にいつも一定である。このように、速度が一定であることを速度分散性がない(nondispersive)というが、これはレイリー波の大きな特徴である。また、等方体の場合と同じように、異方性媒質である圧電媒質の表面にもレイリー波が伝搬するが、一般にはすべての変位成分を持つ。ただし、速度が周波数特性を持たないのは同じである。
【0009】
圧電型基板を伝搬する表面弾性波の伝搬特性には、伝搬速度v,電気機械結合係数K2,遅延時間温度係数TCD,パワーフロー角PFAなどの値がある。表面弾性波を利用したSAWデバイスの特性は、用いる圧電型基板に大きく依存する。そこで、より優れた圧電型基板に要求される特性を列挙すると次のようになる。
(1) 電気機械結合係数(K2)が大きいこと。
(2) 温度特性(TCD)が良いこと。
(3) スプリアス応答が小さいこと。
(4) パワーフロー角(PFA)が零であること。
(5) 伝搬損失が小さいこと。
【0010】
電気機械結合係数は、電気エネルギーから表面波エネルギーへの変換効率を示す値である。TCDは表面波の速度あるいは遅延時間の温度による変動係数を示す。スプリアス応答は、不用振動モードにより、減衰量が劣化してしまう現象のことである。パワーフロー角は櫛型電極にSAWが励振されたときに、伝搬する位相速度の方向と群速度の方向の違いを表す角度である。なお、伝搬速度Vが速ければ高周波用に有利であり、遅ければ遅延線用に有利である。
【0011】
上記圧電効果及び表面弾性波を応用したSAWデバイスは、近年の携帯電話に代表される移動体通信市場の急速な拡大と共に、それら移動体通信端末に用いられるデバイスの技術的革新に寄与している。このようなSAWデバイスは、移動体通信端末の小型化、高機能化を実現するためのキーパーツの1つと目され、主にRF及びIF段の帯域通過フィルタとして用いられ、フォトリソグラフィプロセスによって作製されるために、微細加工が可能であり、現在では数GHz帯で実用化されている。
【0012】
SAWデバイスでは、SAWを励振し、且つ、受信するために圧電体が基板として用いられる。圧電体としては、弾性波の波長であるμmオーダーの平滑性と、数100ppm以下の周波数の再現性を要求されることから、材料定数のばらつきが小さい圧電性単結晶や単結晶上に形成した圧電性薄膜などが使用される。SAWを励振する手段としては、図14に示すようなプラスとマイナスが交差した電極、いわゆるIDT(Interdigital Transducer)と呼ばれる櫛型電極が用いられる。このIDTが周波数特性を持つことから、フィルタや共振子を構成することができる。
【0013】
図15に前記SAWデバイスを利用したSAWフィルタの原理を示す。このSAWフィルタは、一般的に圧電型基板と送受信用IDTによって構成される。フィルタの中心周波数fは、SAWの音速をV,IDTピッチによって決まる波長をλとすると、f=V/λで表せる。したがって、この中心周波数帯が最もよく励振されるため、この値を制御することにより、任意の周波数帯を取り出すことが可能となる。このとき、さらに精度よく任意の周波数を得るためには、フィルタを数段使用する。図16に前記SAWフィルタを用いた携帯電話機の受信ブロックの一例を示す。アンテナから取り込まれた電波は、初段のフィルタを通過した後に、ミキサを通して周波数を落とし、最終的にベースバンド部に送られる。SAWフィルタは、カバーする周波数範囲が数10MHz〜数GHzであるため、例えば、1.5GHzのデジタル携帯電話では、RFの1.5GHz及び130MHzの初段IFフィルタとして利用されている。
【非特許文献1】T.Nomura,A.Saitoh,and S.Furukawa,Proceedings of 1999 IEEE Ultrasonics Symposium,pp477-480(1999)2)
【非特許文献2】藤吉 敏生,新非破壊検査便覧(日本非破壊検査協会),19923
【非特許文献3】柴山乾夫,弾性波素子ハンドブック(日本学術振興協会編),19914
【非特許文献4】T.Nomura,A.Saitoh,Wireless acoustic wave sensor system(JTTAS研究会編),20025
【非特許文献5】柴山乾夫,弾性表面波工学,19836
【非特許文献6】V.K.Varadan et al.,Microsencors,MEMS and Smart Devices(John Willey&Sons,Ltd出版)20017
【非特許文献7】田中喜久昭,宮崎修一,形状記憶合金の機械的性質(養賢堂出版),pp31-33,44-45
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
圧電材料と櫛型電極(IDT)から構成される高周波表面弾性波(SAW)デバイスにおいて、従来は、テレビや携帯電話等電波受信機器内に組み込まれた共振現象を利用した電波フィルタとして多くの開発実績があった。しかし、逆に、外的環境変化に伴うSAW基板材料自体の音弾性特性(伝播する弾性波の変性(位相、振幅、減衰等))を抽出し、それを無給電・ワイヤレスセンシングデバイスとしての先端計測分析技術・手法として発展させ、IT技術社会への基盤要素技術として発展活用する研究例はほとんどないのが現状である。
【0015】
上記の圧電(PZT例、水晶素子、LiNbO3など)基板材料のみのSAWデバイスからでは、圧電材料自体の温度係数、応力音弾性効果による温度、応力(ひずみ)が主に計測可能パラメータとなるのみで、環境因子を計測するためのセンサ用デバイスとしては応用範囲や拡張性が狭い欠点がある。このようなことから、同時に多パラメータの環境変化因子を計測できるシステムも必要となってきている。
【0016】
さらに、圧電型基板に接合させたIDTからなる従来のSAWデバイスでは、IDTとPZT基盤との不完全接合部分や伝播経路上のPZT不均質性や表面仕上げの悪さ(不連続性)が影響して、その入出力時に電気的ノイズ(外乱)が入り込み、環境変化因子(温度、応力(ひずみ)など)からのセンシング信号の分離抽出が困難な場合もあり、定量的センシングシステム構築上の技術的問題となることもあった。
【0017】
以上のSAWデバイスを環境変化因子検出用のセンサとして発展・応用させる上での技術課題から、本発明では、SAW伝播経路上に複数の環境変化因子に反応する特殊な機能膜状材を付加させ、環境変化因子との相互作用を通して、伝搬特性の変化に着目し、さらには、IDT多チャンネル化も行い、それらを通して、身の周りの環境や生体(健康)問題に関連する様々な物理化学量(温度、応力、ひずみ、湿度、微量ガス、イオン化濃度、生体成分微量分析等)を感度良く計測できる多機能化SAWデバイスによるセンシングシステム開発への基盤技術を得ることが発明の課題である。
【0018】
そして、圧電型基板材料の選択、IDT高密度化を一層進めて、GHz以上の極短波長域でのSAW伝播高周波化、多チャンネル化、小型マイクロデバイス化、無線送受信システム改善、信号送受信解析ソフトウェア開発などを行い、国際的に独自で優位なIT、ユビキタス社会への先端計測分析技術、手法として発展・確立させることを目的とする。
【0019】
本発明では、弾性体の表面付近にエネルギーを集中させて伝搬する表面弾性波(Surface Acoustic Wave,以下SAW)デバイスにおいて、SAW伝播経路上に環境変化因子に反応する特殊な機能材を付加させて多機能化を図り、SAWの伝搬特性の変化に着目し、それを通して、身の周りの環境や生体(健康)問題に関連する様々な物理化学量(温度、応力、ひずみ、湿度、微量ガス、イオン化濃度、生体成分微量分析等)を高感度で計測できるSAWデバイスセンサを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、本発明の表面弾性波デバイスセンサは、圧電型基板に接合させた櫛型電極からなる素子に高周波電流または高周波電圧を印加し、前記圧電型基板の表面近傍に表面弾性波を発生させ、この表面弾性波の伝播特性によって、環境変化因子を検出することを特徴とする。
【0021】
また、本発明の表面弾性波デバイスセンサは、圧電型基板に接合させた櫛型電極からなる素子の伝搬面を導電性金属により電気的に短絡してアースすることにより、電気的なノイズを低減化させる自由表面型の表面弾性波伝播経路と、アースされていない表面弾性波伝播経路とを備え、前記両表面弾性波伝播経路における信号受信を同時に抽出することによって、検出感度を向上させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
そのために、SAWデバイス上に複数のIDTを設置したパラメータセンシングを可能するように設計する。また、その各チャンネルでの伝播経路上に機能性薄膜を成膜させることにより、環境変化因子と成膜間での物理化学反応を起こさせて、その際に変性する成膜特性を間接的にSAWの変化として捉えられれば、同時に様々な物理化学的な環境変化因子を計測できることが可能となる。
【0023】
さらに、無給電方式かつワイヤレスに特徴を有する多機能化した小型SAWチップをネット配置させた無給電方式のワイヤレス多機能化SAWセンシングシステムへの基盤技術に発展させることができる。国際的に独自で優位なIT、ユビキタス社会への先端計測分析技術、手法として発展できるといった技術優位性がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
圧電材料とIDTから構成される高周波SAWの伝播特性変化に着目したSAWデバイスは、わが国では携帯電話等電波受信機器内に組み込まれたフィルタとして多くの実績があるが、逆に、それを無給電・ワイヤレスセンシングデバイスとしての先端計測分析技術・手法として発展させ、IT技術社会への基盤要素技術として発展活用する研究例はほとんどないのが現状である。
【0025】
本発明では、このSAWの伝搬特性の変化に着目し、表面弾性波伝播経路(以下、SAW伝播経路という)上に機能性薄膜を成膜させて、様々な物理化学的な環境変化因子を同時にリモート計測できる小型SAWチップをネット配置させた無給電方式のワイヤレス多機能化SAWセンシングシステムへの基盤技術に発展させることができる。図1は、本発明のSAWデバイスセンサの概略構成図を示したものである。
【0026】
このSAWデバイスセンサ1は、圧電型基板2上に櫛型電極(IDT)3を形成し、このIDT3に外部から高周波電流または高周波電圧を印加させることによって、圧電型基板2上に表面弾性波(SAW)を生じさせる。また、前記圧電型基板2には、複数の機能性薄膜6が成膜され、この機能性薄膜6に対応してSAW伝播経路4が設定される。前記機能性薄膜6は、環境変化因子(微量ガス、湿度、光、温度、応力(ひずみ)、電磁気、放射能、イオン濃度、液体粘性、生体反応、病原菌など)と反応して、電気抵抗の変化、分極化、重量変化、残留応力等を起こし、それを通して、一度に複数の外部環境情報の検知(センシング)を行うことが可能となる。本実施形態のSAWデバイスセンサ1は、前記機能性薄膜6からなるSAW伝播経路4を3チャネル(Ch.1〜Ch.3)備えているが、これには限定されず、さらにチャネル数を増やすことによって、1チップで多機能センシングを実現することが可能である。
【0027】
図2は、前記SAWデバイスセンサ1を無給電・ワイヤレス化した場合の回路構成例を示したものである。ここで示した無線機能を用いることにより、そのセンサとしての使用環境は大きな広がりを持たせることができる。また、前記SAWデバイスセンサ1は、フォトリソグラフィ工程によって作製されるため、小型化が容易で安価であり、その周波数特性はIDT3の線状電極の間隔によって決定される。このため、微細加工技術の発達とともに高周波化され、バイオ因子分析用センサといったより高度なセンシング機能を持たせることが可能となる。
【0028】
前記SAWデバイスセンサ1の設計・試作には、寸法20mm×35mmの水晶(STカット)、LiNbO3(128°Y−Xカット)の2種類の圧電型基板2を用いた。以下に示す表2に、使用した圧電型基板(水晶,LiNbO3)の基本特性を示す。IDT3にはAuを用い、P(ピッチ)20μm、交差幅3mm、伝搬長L=16mmとなるように設計を行った。また、それぞれの中心周波数をオシロスコープで測定したところ、水晶基板では39.8MHz、LiNbO3基板では66.82MHzであった。図3に実際に設計を行ったSAWデバイスセンサの形状及び各部の寸法を示す。
【0029】
【表2】
【0030】
次に、圧電型基板2のSAW伝搬経路4上に機能性薄膜6の形成を行った。図4にその際用いたマグネトロンスパッタ装置の基本構成を示す。マグネトロンスパッタ法は、ターゲット(薄膜材料)を貼り付けた陰極裏面に、中心を外周が互いに逆極性に励磁された同心的な磁石を設置し、ターゲット表面に中心と外周を結ぶ漏れ磁界を発生させる。チャンバ及び基板ホルダを陽極とし、例えば、0.01Torr程度となるようにArガスなどの不活性ガスを入れ、数百ボルトの電圧を加えてグロー放電を発生させる。正にイオン化したArガスは陰極降下電圧によって加速され、運動エネルギーを得て陰極に衝突する。そこで正イオンと運動量を交換したターゲット材の一部が陰極を飛び出し、陽極上の基板に達し膜が堆積する。
【0031】
ターゲット材には、磁性形状記憶材料(Ferromagnetic shape memory alloy,FSMA)であるFe-Pdを用い、スパッタ装置のチャンバ内をロータリポンプとターボポンプを用いて真空状態(4×10-4Pa)にし、アルゴン圧3.0Pa,成膜時間3h,基板温度100℃にてマグネトロンスパッタ法を用いてSAW伝搬経路4の中間部に成膜を行った。また、薄膜寸法は、3mm×6mm,厚さ3μmとなるようにマスクを用いて成膜を行った。
【0032】
形成した機能性薄膜の変態点の有無をするために、アルミ基板上に同スパッタ条件で作製した同じ組成のFe-Pd薄膜を示差走査型熱量計(DSC)にて測定を行い比較の対象とした。DSCは、物質及び基準物質(今回はアルミナ)の温度を調節されたプログラムに従って等しい熱量を与えつつ同時に昇温させるとき、融解や相転移が起こると試料は融解熱や転移熱を吸収するため、その温度上昇が遅れて参照物質との間に温度差が生じようとする。その温度差をゼロに保つに必要な電気エネルギーの記録が示差熱量曲線である。融解や相転移はその曲線上のピークとして現れ、ピーク面積がその熱量に相当する。また、ピークの形の解析から試料純度が決定される。基線の位置から参照物質との相対的な値として熱容量が決定される。
【0033】
なお、各種の測定の際には、SAWデバイスセンサをポリマー基板上に貼り付け、結線を行ったものを使用した。図5に結線後のSAWデバイスセンサ1の外観を示す。図中左はLiNbO3基板によるもので、図中右は水晶基板によるものである。結線方法は、まず、ポリマー基板上に銅箔を貼り付けたものにエッチングを行い、銅箔を任意の形にした。次に、試作したSAWデバイスセンサをポリマー基板中央に固定し、銅テープにてポリマー基板上の銅箔とSAWデバイスの配線を行い、それぞれの結合部は、電気の流れを良くするために導電性接着剤(ドウタイト等)で接着する。
【実施例1】
【0034】
(温度変化試験条件)
上記SAWデバイスを温度センサ、相変態のセンシングとして利用できるかを検証するため、温度を変化させた場合のSAW抽出信号の振幅、位相の変化を計測した。図6にその実験システムの構成図を示す。実験では試作した2種類のSAWデバイスを用い、それぞれの中心周波数は、水晶基板:39.8MHz,LiNbO3基板:66.82MHzとして測定を行った。また、測定機器には入出力の電位差から振幅や位相の変化を計測できるベクトルボルトメータを用いて行った。まず、試作したSAWデバイスセンサを温度コントロールチャンバ内に設置し、ファンクションジェネレータを用いてそれぞれの中心周波数のパルス電圧を印加し、SAWを発生させる。このときの室温での振幅や位相をリファレンスとし、温度を室温から90℃まで変化させた場合の位相差、振幅比をベクトルボルトメータによって測定した。なお、温度の測定にはSAWデバイスセンサに近づけたデジタル温度計を用いて行った。
【0035】
SAWデバイスを応力(ひずみ)、内部損傷センサとして利用可能であるかの検証のために荷重を負荷した場合のSAWの振幅、位相の変化を計測した。計測は試作した2種類の基板を用いて行い、それぞれの中心周波数は水晶基板:39.8MHz,LiNbO3基板:66.82MHzとして測定を行った。また、振幅、位相の測定には先の実験同様にベクトルボルトメータを用いて行った。
【0036】
図7に負荷荷重による実験システムの構成図を示す。片持ち梁の方式でSAWデバイスを載置したポリマー基板の一端を固定し、ファンクションジェネレータにて中心周波数のパルス電圧を印加し、SAWを発生させる。このとき(荷重なし)の振幅、位相をリファレンスとし、おもりを600gまで負荷させていった場合の位相及び振幅の変化をベクトルボルトメータで計測した。また、ひずみの計測には、Fe-Pd薄膜付近に取り付けたひずみゲージを用いて行った。なお、前記ポリマー基板の寸法は、45mm×70mm,厚み1mmで、SAWデバイスを構成する圧電型基板の寸法は、20mm×35mm,厚み0.5mmに設定した。
【0037】
ここでは、試作したSAWデバイスでの温度変化、荷重負荷によるSAWの伝搬特性の変化を計測し、温度センサ、応力(ひずみ)センサとしての計測を試みる。さらに、デバイス上に機能膜(磁性形状記憶合金,Ferromagnetic SMA)を形成させ、FSMA材料の大きな特徴である温度変化に伴う熱誘起相変態現象を利用した結晶相変態・物性変化のセンシング、応力誘起相変態を通した力学的内部損傷度合いの評価センサとしての可能性の検証を行う。
【0038】
水晶(STカット)基板では、ノイズの影響が大きく、各種の測定が不可能であった。これはエネルギー変換効率を実質意味する電気機械結合係数が小さく、感度が弱いため、SAW自体の励起信号が弱く、外乱(ノイズ)レベルの中に埋まってしまい、ばらつきも大きく現れて計測結果の定量的評価ができないためである。したがって、SAWデバイスをセンサとして使用するには、電気機械結合係数の大きい材料・カット方向を使用することにより、主信号を大きくしてノイズの影響を受けにくくすることが必要である。
【実施例2】
【0039】
(温度センサについて)
図8にLiNbO3基板での温度変化に対する位相の変化のグラフを示す。このグラフから温度変化に対して位相は、略線形的な変化を示し、また、温度によるヒステリシスは殆どないことがわかる。位相はθ=2πfL/v(f:周波数,L:伝播距離,v:SAW伝搬速度)で表されるため、この場合、熱膨張による伝搬距離Lの変化が非常に小さいため、位相が変化している主たる原因は伝搬速度vの変化であると考えられる。
【0040】
弾性波の速度は材料の硬さの差から想像するほど、物質の種類には強く依存しない。これは密度Pと圧縮率Ksの状態依存性が、結果としてほとんど打ち消しあうためである。物質の差は、音速度の温度依存性等に現れる。ここで、音波の基本式を次項に示す。
【0041】
【数1】
【0042】
例えば、大抵の固体は温めれば軟らかくなる。つまり、温度が上昇すると圧縮率が増加し、音速度は小さくなる。気体と対照的なこの傾向は、実際に多くの固体が示す性質である。したがって、温度センサとして用いるには、温度による位相、伝搬速度の変化、または、波の伝わる時間の変化を計測することにより可能である。
【実施例3】
【0043】
(相変態センシングについて)
図9に温度変化に対する振幅及び位相の変化のグラフを示す。また、表3にDSC測定の結果を示す。振幅、位相ともに加熱時では、50〜60℃、冷却時では40〜50℃に大きな変化がみられる。ここでは、DSC測定を行った試料がアルミ基板に成膜したものであるが、内部応力の違いによる変態点のずれを考慮に入れても、現れた変化に関係する温度は、DSC測定の結果と略一致していることがわかる。圧電型基板に成膜したFe-Pd薄膜が温度変化とともに熱誘起相変態を起こし、薄膜の弾性率が大きく変化したため振幅、位相に変化が起こったと考えられる。
【0044】
【表3】
【0045】
しかし、振幅の変化においては冷却時、マルテンサイト変態を起こしているにもかかわらず元の振幅値レベルに戻っていない。これは冷却過程では、十分に低温側マルテンサイト相変態が終了しておらず、高温側残留オーステナイトの影響が出てきているものと思われる。したがって、これを改善するには冷却の際、もっと低い温度まで冷却する必要があるといえる。以上より、変態によるSAWの位相の変化に注目することにより、さらに明白に相変態のセンシングの可能性がみられる。
【実施例4】
【0046】
(応力(ひずみ)センサ,内部損傷センサについて)
図10に応力による振幅及び位相の変化のグラフを示す。このグラフから位相はひずみに対してほぼ線形的に変化し、振幅には変化がみられないことがわかる。このひずみによる位相の変化は音弾性効果によるものと考えられる。この音弾性効果は、応力によって異方性となった弾性体が、音波に対して複屈折性を示し、2つの成分波の音速差が主応力に比例することである。つまり、音速は弾性率と関係があり、SAW速度Vは、V≒Vs(0.87+1.12σ)/1+σ(Vsは横波の速度,σはポアソン比)で与えられる。したがって、ひずみによる位相の変化は、SAWの伝搬経路における深さ約一波長にかかる平均した応力によって、音弾性効果によりSAWが複屈折性を示し、さらに基板の弾性率がわずかに変化したためにSAW速度が変化したと考えられる。
【0047】
この音弾性によるSAW速度の変化を利用することにより、応力(ひずみ)センサとしての利用が可能である。さらに、内部残留応力についても原理的には音弾性効果が適用できるわけで、SAW速度が変化することから内部損傷センサへの利用も可能であると考えられる。
【実施例5】
【0048】
(疲労寿命非破壊推定・評価について)
一般に機械・構造物は、繰り返し負荷荷重範囲(△P)の回数(N)と内部発生・蓄積する力学的損傷(Df:破壊損傷、疲労荷重一回ごとの損傷蓄積度=1/N線形加算則(1/Nf=1で最終破壊が成立)の相互関係、いわゆる、疲労におけるマイナー線形損傷蓄積破壊則で寿命予測(Nf)できる。
【0049】
そこで、疲労寿命予測ができるSAW多機能化応用の実証を試みた。まず、多チャンネル構成のSAW伝播経路上に、そのSAWを設置した母材側部材が受けた最大応力(ひずみ)を記憶する、図11に示すような、負荷応力に対して非線形特性を有する形状記憶合金(低温側マルテンサイトM相、例えば、Ti50Ni40Cu10原子%組成形状記憶合金)と、線形型の超弾性材料からなる合金(高温側オーステナイトA相、例えば、Ti50Ni47Co3原子%組成合金)とを蒸着させた多機能化SAWデバイスセンサを設計・試作した。
【0050】
ここで、前記多機能化SAWデバイスセンサにおける相変態のセンシング機能、力学的損傷のメモリ機能を図12に基づいて説明する。この図12は、SAWデバイス上に成膜した機能膜(FSMA)の温度や応力変化に伴う相変態挙動の概念を示したものである。形状記憶合金は、形状記憶効果によって形状を元の形に回復させる形状回復挙動を備えている。形状記憶効果は、ある形状の試料を臨界温度より高温から急冷して低温相(マルテンサイト相)を形成させ、これを変形した後再び加熱するとき、その臨界温度を超えると逆変態が起こり同時に形状も回復する現象をいう。形状記憶効果は、マルテンサイト変態によって発生する。形状記憶合金がマルテンサイト変態する前の相、つまり高温時の相は、オーステナイト相と呼ばれる。オーステナイト相の形状記憶合金を高温から冷却するとある温度を越えた時点でマルテンサイト変態がはじまる。この温度をMs(マルテンサイト開始温度)という。
【0051】
冷却を続けると変態は進行し、温度低下を止めると変態は停止する。つまり、マルテンサイトの生成は時間に寄らず、温度だけで決まる。温度を下げていったとき、最初にマルテンサイトが生成する温度がMs点で、更に温度を下げるとマルテンサイト変態が活発になりマルテンサイト量は急激に増加する。その後、変態の進行は緩やかになり、最後は合金全体がマルテンサイト相になる。全体がマルテンサイト相になった合金を加熱すると、今度はマルテンサイト相から体心立方のオーステナイト相への逆変態が起こる。加熱を続けると、冷却時と同じような曲線に従ってマルテンサイト相が減少し、その分だけオーステナイト相が増加する。逆変態の終了温度をAf(オーステナイト終了温度)という。
【0052】
相変態のセンシング機能は、前記FSMAの変態に伴う物性の変化(弾性率等)によるSAWの伝搬特性の変化を計測することにより可能となる。力学的損傷のメモリ機能は、 低温側マルテンサイト相(Ms)の温度において応力を負荷し、FSMA内に応力誘起相変態を起こすことにより、双晶の増加や相互にずれを発生させる。このとき、応力を除荷しても機能膜内部には不連続的な双晶が残り、残留ひずみとして蓄積される。音弾性法を用いてこの残留ひずみ(損傷)の蓄積によるSAWの伝搬特性の変化を計測していくことにより可能となる。また、高温側オーステナイト終了(Af)点以上に加熱することにより内部残留ひずみは消失し、A相に回復されることから、表面皮膜相を初期状態に戻す(リセット)ことも可能である。
【0053】
上記より、今回の実験では、室温レベルで、
1)負荷荷重に対して非線形型履歴が特徴の低温側マルテンサイトM相(Mf以下温度状態)を有するTi50Ni40Cu10原子%組成形状記憶合金の薄膜付着経路から、機械構造物が受けた最大応力履歴(σmax=記憶された最大ひずみレベル)度合いを推定し、
2)負荷荷重に対して線形型履歴が特徴の高温側オーステナイトA相(Af以上温度状態)を有するTi50Ni47Co3原子%組成超弾性合金の薄膜付着経路から、機械構造物が受ける荷重レベル(応力)の回数(Δσ=負荷応力レベルの回数-頻度)を常時監視するシステムを組むことで、疲労破壊寿命(繰り替え負荷回数Nf)を推定・評価する。実際、Al板試料を用いた、ゼロ荷重以上での引張り・圧縮繰り返しの片振り疲労負荷条件(R=Pmin/Pmax=0)で、上記の多機能化SAWデバイスセンサ信号とマイナー線形疲労損傷則から推測した試料破断回数(Npf、Nf=1200回)は、実寿命(Nf,Nf=1450回)となり、30%以下の寿命予測が可能なことが明らかになり、多機能化SAWデバイスセンサの有効性が確認された。
【0054】
本発明の多機能化SAWデバイスセンサシステムを一層発展させ、センサデバイスとしての信頼性、汎用性を高めるには、基板となる高感度で低温度係数の圧電材料の選択、IDT高密度化を一層進めて、GHz以上の極短波長域でのSAW伝播高周波化、多チャンネル化、小型マイクロデバイス化、無線送受信システム改善、信号送受信解析ソフトウェア開発などを行うことが必要である。具体的には、1)高密度多チャンネル化SAWセンサの開発、2)遠距離用無給電式ワイヤレスセンサシステムへの技術革新、3)SAW多機能・複合機能化材料プロセス安定生産化技術の発達、4)超マイクロ加工基礎技術・製品化などが挙げられる。
【0055】
それらの技術課題を改善できれば、我々日常での身の周りの環境や生体(健康)問題に関連する物理化学量(温度、応力、ひずみ、湿度、微量ガス、生体成分微量分析等)を高感度でリモート計測させて、無給電方式かつワイヤレスに特徴を有するSAWデバイスセンサによるセンシングシステムの基盤技術を調査・研究開発し、小型・モバイル性を高めたSAWデバイスシステムを将来の先端分析・計測機器に組み込むシステムに発展させることで技術的寄与度が実現できる。
【0056】
本発明の技術的及び社会的意義、活用分野は以下の通りである。
(1)無給電式ワイヤレスセンシング技術の発展
(2)多チャンネルSAWデバイス提案
(3)多機能・複合機能化SAW作成用薄膜作製プロセス技術
(4)小型埋め込みアンテナ技術
(5)製造ライン常時監視(プロセスモニター)技術発展
(6)自動車・航空機等のワイヤレスモニター技術(ITS関連)
(7)構造物健全性評価(ヘルスモニターリング)
(8)その場(In-situ)非破壊検査、メンテナンスコスト軽減
(9)安心・安全社会(Security)への寄与
そして、国際的に独自で優位なIT、ユビキタス社会への先端計測分析技術・手法として発展・確立させることができる。
【0057】
本発明のSAWデバイスセンサの具体的適用分野としては、以下に示すようなものが考えられる。
(1)動力機械部品の負荷応力・ひずみのワイヤレス(無線)計測・タービン動翼(飛行機、発電所)や回転機械部品(自動車トルクセンサ)
(2)・工場生産プロセスでの化学反応、溶液、ガス反応状態の計測
・石油プラントや化学的合成装置内部のガス発生・成分分析
・合成プロセス・加工ライン状の温度・ガス圧などのモニター管理
(3)ドア開閉センサ(磁歪膜複合化による磁場に反応するSAWセンサ)
(4)ビル・病院・住居内での環境(温度、照明度、湿度・状態、火災)センシング・省エネ管理
(5)建設・橋梁などの残留応力(ひずみ)モニター、内部損傷・残存寿命等のその場評価
(6)トンネル・岩盤(地すべり区域)などのゆがみ・クリープ伸びの連続計測
(7)ガスパイプライン状でのガス漏れ検出
(8)セキュリテイセンサ(赤外線(焦電)感応膜との複合機能化で不審進入者管理)
(9)バイオセンサ(SAW伝播経路上での各種生化学反応膜との複合機能化、そのイオン分極化、粘性変化、減衰性変化を利用して、生体酵素反応、細菌・各種ウイルス相互反応を検知可能)
(10)多機能化・多チャンネル化SAWデバイスセンサネットワーク配置による地域安全・省エネ等の一括管理システム
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の多機能化SAWデバイスセンサの構成図である。
【図2】前記SAWデバイスセンサをワイヤレス化した回路構成図である。
【図3】試作した2チャンネルSAW(LiNbO3基盤,Pt蒸着)を示す図である。
【図4】マグネトロンスパッタの基本構成図である。
【図5】結線後のSAWデバイスを示す図(左:LiNbO3基板、右:水晶基板)である。
【図6】温度に対するSAW伝播特性の変化を計測するための実験システムの構成図である。
【図7】負荷荷重によるSAW伝播特性の変化を計測するための実験システムの構成図である。
【図8】温度によるSAWの位相変化を示した図である。
【図9】SAW伝播経路上に蒸着したFePd磁性形状記憶合金薄膜の相変態に伴う振幅及び位相の変化を示した図である。
【図10】ひずみに対するSAWの振幅及び位相の変化を示した図である。
【図11】形状記憶合金系引張り試験における形状記憶効果及び超弾性現象を示す模式図である。
【図12】形状記憶合金系における形状記憶効果及び超弾性出現条件とその原子相変態を示す模型図である。
【図13】水とレイリー波の変位分布を示す図である。
【図14】櫛型電極(IDT)によるSAWの励振状態を示す図である。
【図15】SAWフィルタの原理図である。
【図16】SAWフィルタを使用した携帯電話の受信機能のブロック図である。
【符号の説明】
【0059】
1 SAWデバイスセンサ(表面弾性波デバイスセンサ)
2 圧電型基板
3 IDT(櫛型電極)
4 SAW伝播経路(表面弾性波伝播経路)
5 SAW(表面弾性波)
6 機能性薄膜
7 チャネル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電型基板に接合させた櫛型電極からなる素子に高周波電流または高周波電圧を印加し、前記圧電型基板の表面近傍に表面弾性波を発生させ、この表面弾性波の伝播特性によって、環境変化因子を検出することを特徴とする表面弾性波デバイスセンサ。
【請求項2】
圧電型基板に接合させた櫛型電極からなる素子の伝搬面を導電性金属により電気的に短絡してアースすることにより、電気的なノイズを低減化させる自由表面型の表面弾性波伝播経路と、アースされていない表面弾性波伝播経路とを備え、前記両表面弾性波伝播経路における信号受信を同時に抽出することによって、検出感度を向上させた表面弾性波デバイスセンサ。
【請求項3】
前記表面弾性波伝播経路上に形状記憶効果、超弾性効果、磁歪機構からなる高機能材料を用いた機能性薄膜を成膜させ、この機能性薄膜が環境変化因子と反応して、電気抵抗の変化、分極化、重量変化、残留応力を引き起こし、それを通して、前記環境変化因子を複数検出できるように構成された請求項2記載の表面弾性波デバイスセンサ。
【請求項4】
前記表面弾性波伝播経路上に磁気に応答する磁歪材料や磁性形状記憶材料を成膜させ、外部磁場変化に伴う磁歪現象を介して、位相、電圧、減衰度のいずれかに基づいた表面弾性波伝播特性を変化させることによって、外部磁場を検出する請求項2記載の表面弾性波デバイスセンサ。
【請求項5】
前記表面弾性波伝播経路上に形状記憶材料を成膜させて、外部応力や温度変化による形状記憶効果に伴う結晶相変態の発生や、それに伴う非線形的な形状回復挙動を介して、外部温度変化、材料損傷度合いを間接的に非破壊検査する請求項2記載の表面弾性波デバイスセンサ。
【請求項6】
前記表面弾性波伝播経路上にTiNiCu、または、TiNiCoからなる超弾性材料を成膜させ、外部応力負荷・除荷に伴う線形的な結晶相変態の発生・消滅を介して、外的な負荷荷重を間接的に非破壊検査する請求項2記載の表面弾性波デバイスセンサ。
【請求項7】
複数の櫛型電極を有する表面弾性波伝播経路上に、形状記憶材料及び前記超弾性材料を成膜させて、外的な負荷荷重と圧電型基板側の残留損傷を間接的に非破壊検査する請求項5または6記載の表面弾性波デバイスセンサ。
【請求項8】
前記環境変化因子が、微量ガス、湿度、光、温度、ひずみ、電磁気、放射能、イオン濃度、液体粘性、生体反応因子、病原菌のいずれかである請求項1または3記載の表面弾性波デバイスセンサ。
【請求項9】
前記表面弾性波伝播経路を複数備えることによって、多チャンネル構成にした請求項2乃至7のいずれかに記載の表面弾性波デバイスセンサ。
【請求項1】
圧電型基板に接合させた櫛型電極からなる素子に高周波電流または高周波電圧を印加し、前記圧電型基板の表面近傍に表面弾性波を発生させ、この表面弾性波の伝播特性によって、環境変化因子を検出することを特徴とする表面弾性波デバイスセンサ。
【請求項2】
圧電型基板に接合させた櫛型電極からなる素子の伝搬面を導電性金属により電気的に短絡してアースすることにより、電気的なノイズを低減化させる自由表面型の表面弾性波伝播経路と、アースされていない表面弾性波伝播経路とを備え、前記両表面弾性波伝播経路における信号受信を同時に抽出することによって、検出感度を向上させた表面弾性波デバイスセンサ。
【請求項3】
前記表面弾性波伝播経路上に形状記憶効果、超弾性効果、磁歪機構からなる高機能材料を用いた機能性薄膜を成膜させ、この機能性薄膜が環境変化因子と反応して、電気抵抗の変化、分極化、重量変化、残留応力を引き起こし、それを通して、前記環境変化因子を複数検出できるように構成された請求項2記載の表面弾性波デバイスセンサ。
【請求項4】
前記表面弾性波伝播経路上に磁気に応答する磁歪材料や磁性形状記憶材料を成膜させ、外部磁場変化に伴う磁歪現象を介して、位相、電圧、減衰度のいずれかに基づいた表面弾性波伝播特性を変化させることによって、外部磁場を検出する請求項2記載の表面弾性波デバイスセンサ。
【請求項5】
前記表面弾性波伝播経路上に形状記憶材料を成膜させて、外部応力や温度変化による形状記憶効果に伴う結晶相変態の発生や、それに伴う非線形的な形状回復挙動を介して、外部温度変化、材料損傷度合いを間接的に非破壊検査する請求項2記載の表面弾性波デバイスセンサ。
【請求項6】
前記表面弾性波伝播経路上にTiNiCu、または、TiNiCoからなる超弾性材料を成膜させ、外部応力負荷・除荷に伴う線形的な結晶相変態の発生・消滅を介して、外的な負荷荷重を間接的に非破壊検査する請求項2記載の表面弾性波デバイスセンサ。
【請求項7】
複数の櫛型電極を有する表面弾性波伝播経路上に、形状記憶材料及び前記超弾性材料を成膜させて、外的な負荷荷重と圧電型基板側の残留損傷を間接的に非破壊検査する請求項5または6記載の表面弾性波デバイスセンサ。
【請求項8】
前記環境変化因子が、微量ガス、湿度、光、温度、ひずみ、電磁気、放射能、イオン濃度、液体粘性、生体反応因子、病原菌のいずれかである請求項1または3記載の表面弾性波デバイスセンサ。
【請求項9】
前記表面弾性波伝播経路を複数備えることによって、多チャンネル構成にした請求項2乃至7のいずれかに記載の表面弾性波デバイスセンサ。
【図1】
【図2】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図3】
【図5】
【図2】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図3】
【図5】
【公開番号】特開2006−47229(P2006−47229A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−231655(P2004−231655)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000237444)リバーエレテック株式会社 (24)
【出願人】(599059379)
【出願人】(504301340)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000237444)リバーエレテック株式会社 (24)
【出願人】(599059379)
【出願人】(504301340)
【Fターム(参考)】
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