説明

表面弾性波装置

【課題】LBO基板の水に対する潮解性を防止しつつ温度特性を限りなく小さくでき、周波数帯2〜3GHzでの良好な特性を持つ表面弾性波装置を提供する。
【解決手段】本発明の表面弾性波装置1は、オイラー角(0°,35〜50°,90°)のLBO基板10と、LBO基板10の表面に設けられ、KH0.05〜0.10の酸化膜あるいは窒化膜からなる保護膜11と、保護膜11上に設けられ、KH0.04〜0.15の電極20と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面弾性波装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、LTE(Long Term Evolution)などの2GHz以上の周波数を使った無線システムにおいて、送信もしくは受信モジュールにて高精度なRFフィルターが必要とされている。
従来の表面弾性波装置(SAWフィルター)は、音速度Vが4000m/s程度しかなく、i線ステッパ(水銀ランプのi線を光源として用いるステッパ)による電極形成などが困難であった。また、形成できたとしても信頼性が乏しいという問題があった。
そこで、温度特性が良く、音速度Vが6000m/s以上、電気機械結合係数Kが1%以上と大きいLBO基板を用いることが提案されている。
【0003】
しかしながら、LBO基板は水に対して潮解性の性質を持つことから、LBO基板を用いて安定な素子を得ようとする場合にはSiOやTaOなどの保護膜が必要になる。これにより、櫛歯電極を形成する際に用いられるエッチング液や洗浄液などから基板を保護することができる。
【0004】
特許文献1では、オイラー角(45°,90°,90°)のカット角のLBO基板を用いることで、音速度V:3000m/s、電気機械結合係数K:1%、周波数温度係数TCF:0ppm/℃のSAWフィルターを実現している。この構成によれば、TCFが0ppm/℃と小さく良好な温度特性が得られるが、音速度Vが3000m/s程度しか得られず、GHz帯の高周波SAWとしては不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開H8−268759号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“Propagation Properties of Longitudinal Leaky Surface Waves on Lithium Tetraborate”、ieee transactions on ultrasonics, ferroelectrics, and frequency control, vol. 45, no. 1, january 1998、T. Sato and H. Abe, pp.36
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記非特許文献1では、オイラー角(0°,47.3°,90°)のカット角基板と、電極膜厚(h/λ=2%)を持つ構造により、音速度V6500m/s、K:1%、TCF:10ppmを達成している。しかしながら本構造では、音速度は速いものの、水による潮解性やTCFが10ppmと大きいことによる温度特性の課題が残る。
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、LBO基板の水に対する潮解性を防止しつつ温度特性を限りなく小さくでき、周波数帯2〜3GHzでの良好な特性を持つ表面弾性波装置を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の表面弾性波装置は、上記課題を解決するために、表面の方位が、オイラー表示(φ、θ、ψ)で(0°,35°〜50°,90°)の範囲である四ホウ酸リチウム単結晶(Li)からなるLBO基板と、前記LBO基板の表面に設けられ、KHが0.05以上0.10以下の酸化物あるいは窒化物からなる保護膜と、前記保護膜上に設けられ、KHが0.04以上0.15以下の櫛歯電極と、を備えたことを特徴とする。但し、KHは、[(2π/λ)×膜厚]の式で表わされる値であり、λは表面弾性波の波長である。
【0010】
本発明によれば、LBO基板の水に対する潮解性を防止しつつ温度特性を限りなく小さくすることが可能である。また、保護膜や櫛歯電極の膜厚を上記範囲内の厚さとすることで、伝播損失を大きくすることなく品質係数(Q値)を保つことができる。これにより、周波数特性の良好な表面弾性波装置を得ることができる。
【0011】
また、前記保護膜が、シリコン酸化膜あるいはシリコン窒化膜であることが好ましい。
本発明によれば、基板上にスパッタ法などにより形成することが可能である。
【0012】
また、保護膜が圧電体であることが好ましい。
本発明によれば、位相速度が格段に向上され、動作周波数を格段に高めることが可能である。
【0013】
また、前記保護膜が、AlNまたはZnOからなることが好ましい。
本発明において、保護膜がZnOからなる場合には他の圧電体よりも電気機械変換効率が高いという利点を有する。一方、AlNからなる場合は他の圧電体よりも内部を伝播する超音波の音速が速く、共振周波数を高くしやすいという利点を有する。
【0014】
また、前記櫛歯電極上に絶縁膜が設けられていることが好ましい。
本発明によれば、基板上に導電性の異物が付着した場合における電極ショートを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る表面弾性波装置を示す斜視図。
【図2】本発明に係る表面弾性波装置を示す側断面図。
【図3】表面弾性波の波長に対する伝播損失(dB/λ)と基板のオイラー角(°)
【図4】周波数インピーダンス特性を示すグラフ。
【図5】周波数温度特性を示すグラフ。
【図6】(a)Al電極膜厚とQ値との関係を示す特性図、(b)SiO保護膜の膜厚(KH)とQ値との関係を示す特性図。
【図7】AlN保護膜の膜厚(KH)とQ値との関係を示す特性図。との関係を示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0017】
本発明の一実施形態である表面弾性波装置について説明する。図1は、本発明に係る表面弾性波装置を示す断面図、図2は表面弾性波装置の斜視図である。
図1及び図2に示すように、本実施形態における表面弾性波装置1は、1ポート型共振装置であって、四ホウ酸リチウム単結晶からなるLBO基板10を有するものである。このLBO基板10上に、酸化物又は窒化物からなる保護膜11が積層され、この保護膜11上に電極20および反射電極31,32が形成されている。
【0018】
LBO基板10は、四ホウ酸リチウム単結晶母体結晶からの切り出し角および表面弾性波伝播方向を示すオイラー角が(0°,35°〜50°,90°)で表わされる基板である。すなわち、表面の方位が、オイラー表示(φ、θ、ψ)で(0°,35°〜50°,90°)の範囲で表わされる基板である。
表面弾性波装置に用いられる基板としては、周波数温度係数(TCF)および電気機械結合係数(K)が重要とされ、周波数温度係数は0に近く、電気機械結合係数Kは0.1%以上であることが好ましい。
【0019】
保護膜11は、酸化物あるいは窒化物からなる誘電体膜であって、ここではシリコン酸化膜あるいはシリコン窒化膜からなる。保護膜11は、LBO基板10上にスパッタ法などにより形成することができ、基板上にIDT電極を形成する際に用いられるエッチング液や洗浄液などからLBO基板を保護する役割を果たすものである。
保護膜11のKHは0.04〜0.15となっている。ここで、KHは表面弾性波の波長をλとし、その波数をK(=2π/λ)とし、保護膜の厚みをHとしたときに、KとHとの積で表わされる値である。
【0020】
電極20は、インターディジタル型電極(Inter−Digital Transducer:以下、「IDT電極」と表記する)であり、例えば図1に示すように一対の櫛歯電極21,22を有する。櫛歯電極21,22は、幹部20aと、幹部20aによって連結された複数の枝部20bとをそれぞれ有している。なお、図1,2には3本の枝部20bを図示しているが実際には多数設けられている。
そして、IDT電極20を構成する一方の櫛歯電極21には、高周波信号源50が接続されており、他方の櫛歯電極22には、信号線が接続されている。
【0021】
なお、IDT電極20は、電気信号印加用電極に相当し、反射電極31,32は、特定の周波数成分を共振させる共振用電極に相当する。これら反射電極31,32は、IDT電極20によって励振されたSAWをIDT電極20内に閉じ込めるためにSAWの伝播路上に配置されている。
【0022】
IDT電極20および反射電極31,32は、Al又はAl合金からなり、KHが0.04〜0.15の範囲内とされている。ここで、KHは、表面弾性波の波長をλ、その波数をK(=2π/λ)、電極の厚みをHとしたときに、KとHとの積で表わされる値である。KHが0.1以下であれば、表面弾性波の伝播速度および電気機械結合係数Kの低下への影響が小さい。
【0023】
また、これらIDT電極20および反射電極31,32上には、絶縁膜23が形成されている。絶縁膜23は、Alからなり、KHが0.01〜0.03の範囲内となるように陽極酸化によって形成される。上述したように、本実施形態ではLBO基板10を用いていることから、絶縁膜23は、櫛歯電極21,22間あるいはIDT電極20および反射電極31,32間に導電性の異物が付着した場合における電極ショートを防止するための保護膜としての機能を果たす。
【0024】
上記構成において、高周波信号源50から高周波信号が出力されると、この高周波信号は、IDT電極20の一方の櫛歯電極21に印加され、これによってLBO基板10の上面に反射電極31側に伝播する表面弾性波および反射電極32側へ伝播する表面弾性波が発生する。
【0025】
これら表面弾性波のうち特定の周波数成分の表面弾性波は、反射電極31及び反射電極32で反射され、反射電極31と反射電極32との間に定在波が発生する。この特定の周波数成分の表面弾性波が反射電極31,32で反射を繰り返すことにより、特定の周波数成分又は特定の帯域の周波数成分が共振して、振幅が増大する。
【0026】
この特定の周波数成分又は特定の帯域の周波数成分の表面弾性波の一部は、IDT電極20の他方の櫛歯電極22から取り出され、反射電極31と反射電極32との共振周波数に応じた周波数(又はある程度の帯域を有する周波数)の電気信号が端子55aと端子55bに取り出される。
【0027】
本実施形態の表面弾性波装置1は、オイラー角(0°,35°〜50°,90°)のLBO基板と、KH=0.05〜0.10の酸化物あるいは窒化物からなる保護膜11と、KH=0.04〜0.15の櫛歯電極21,22を主として構成されており、このような構成とすることで、LBO基板10の水に対する潮解性を防止しつつ温度特性を限りなく小さくすることが可能である。また、保護膜11や櫛歯電極21,22の膜厚を上記範囲内の厚さとすることで、伝播損失を大きくすることなく品質係数(Q値)を保つことができるため、周波数特性の良好な表面弾性波装置1となる。
また、櫛歯電極21,22上に設けられた絶縁膜23により、LBO基板10上に導電性の異物が付着した場合における櫛歯電極21,22間のショートを防止することができるため、信頼性が高まる。
【0028】
なお、本実施形態では、酸化物あるいは窒化物からなる誘電体膜を保護膜11として採用したが、AlNあるいはZnOなどの圧電体膜を用いてもよい。但し、KHが0.04以下の場合には圧電体として機能しなくなることから、圧電体としての機能を確保するためにKHの下限を0.04とする。
【0029】
このように、保護膜11として圧電体膜を採用することにより、位相速度が格段に向上して、動作周波数を格段に高めることが可能である。例えば、保護膜11がZnOからなる場合には他の圧電体よりも電気機械変換効率が高いという利点を有する。一方、保護膜11がAlNからなる場合は、他の圧電体よりも内部を伝播する超音波の音速が速く、共振周波数を高くしやすいという利点を有する。
【0030】
以上のような構成とすることで、周波数3GHz帯の素子形成では、電極線幅が0.4〜0.5μmの線幅で達成することができ、従来のフォトリソグラフィー技術を用いて形成することができる。このため、LTE(Long Term Evolution)などの次世代無線システムのフィルターとして使用することが可能である。
【実施例1】
【0031】
次に、実施例1の構成及びその特性について説明する。
本実施例1の表面弾性波装置は、オイラー角(0°,46°,90°)のLBO基板上に、厚さ300ÅのSiO保護膜と、厚さ600Åのアルミニウム膜からなるIDT電極を有して構成されている。IDT電極は、電極対数が300対、交差幅が20λとなっている。このような構成とすることで、発生するSAWの0次振動モードの波長λが2.8μmになる。
【0032】
図3は、LBO基板のオイラー角(45°、θ°、90°)と伝播損失(dB/λ)との関係について示すグラフである。
図3に示すように、LBO基板のオイラー角と伝播損失との関係については、上記θが35°未満、あるいはθが50°を超える場合に伝播損失が急激に上昇している。伝播損失が0.05dB/λを超えてしまうと、共振子としての十分な特性が得られない。したがって、θが35°〜50°の範囲内であることが好ましい。また、伝播損失をより抑えるためには、θが35°〜43.5°、47.5°〜50°の範囲内であることがより好ましい。
【0033】
上記構成の周波数特性を示す。
図4は、周波数インピーダンス特性を示すグラフ、図5は、周波数温度特性を示すグラフである。ここでは、25℃時の周波数を基準とした。
表面弾性波装置の特性を調査するために、まず、入力端子にネットワークアナライザにより高周波信号を印加し、出力端子から取り出される高周波信号を測定した。これにより、入力端子から出力端子への通過特性が得られ、図4に示すようにスプリアスの影響の少ない共振波形を観察することができた。また、図5に示すように、25℃付近で周波数温度係数として放物線(2次係数)を得て、直線近似(1次係数)は、0[ppm/℃]とすることが出来た。
[特性]
共振周波数:2.30GHz
Q値:200
インダクタンスL:80nH
並列容量C:0.06pF
インダクタの直列抵抗R:5.4Ω
電気機械結合係数K:1.10%
温度特性(周波数の最大変動幅):500ppm(−20℃〜80℃)
本実施例の構成によれば、2GHz帯において優れた特性を示した。
【0034】
[周波数特性の性能評価]
次に、表面弾性波装置1の伝播損失を評価するためにQ値に対する評価を行った。
ここでは、表面弾性波装置1のAl電極膜の厚みとSiO保護膜の厚みとを変化させながら特性評価を行った。Q値が大きいほど急峻な周波数特性が得られることを示すことから、特に共振器においてはよりQ値が高いものが望まれる。
【0035】
図6(a)は、SiO保護膜をKH0.045とした場合におけるAl電極のKHとQ値との関係を示すグラフである。
図6(a)に示すように、Al電極のKHが0.15以下であればQ値150以上が得られ、Al電極のKHが0.10以下であればQ値250以上が得られる。KHの下限はAlの抵抗値の上昇で決まり、約0.025が限界と思われる。したがって、Al電極は、KH0.025〜0.15の範囲内であって、特にKH0.025〜0.1の範囲内とされていることが好ましい。
【0036】
図6(b)は、Al電極膜をKH0.045とした場合におけるSiO保護膜のKHとQ値との関係を示すグラフである。図6(b)に示すように、SiO保護膜のKHが0.3以下の場合にQ値150以上が得られる。このため、Al電極膜はKH0.3以下で形成されることが好ましく、下限値は膜になるかどうかで決まる。あまり薄いとピンホールが多くなるため、KH0.010以上が好ましい。
したがって、SiO保護膜は、KH0.010〜0.30の範囲内で形成されていることが好ましい。
【0037】
図7は、Al電極をKH0.045とした場合におけるAlN膜のKHとQ値との関係を示すグラフである。
図7に示すように、AlN保護膜はKH0.3以下、より好ましくはQ値150以上となる膜厚が好ましく、KHの下限値は膜になるかどうかで決まる。このAlN保護膜についても上記したSiO保護膜と同様、あまり薄いとピンホールが多くなるためKH0.010以上が好ましい。
したがって、AlN保護膜は、KH0.010〜0.30の範囲内であることが好ましい。
【0038】
以上述べたように、表面方位の範囲が(φ、θ、ψ)=(45°、35°〜50°,90°)で表わされるLBO基板10を用い、保護膜11および電極20の厚みを上記条件内で設定することによって、SAWの音速度Vを6500m/s以上、電気機械結合係数K2を1%、周波数温度係数TCFを0[ppm/℃]とすることが可能となる。
【0039】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0040】
1…表面弾性波装置、10…LBO基板、11…保護膜、20…電極、21,22…櫛歯電極、23…絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の方位が、オイラー表示(φ、θ、ψ)で(0°,35°〜50°,90°)の範囲である四ホウ酸リチウム単結晶(Li)からなるLBO基板と、
前記LBO基板の表面に設けられ、KHが0.05以上0.10以下の酸化物あるいは窒化物からなる保護膜と、
前記保護膜上に設けられ、KHが0.04以上0.15以下の櫛歯電極と、を備えたことを特徴とする表面弾性波装置。
但し、KHは、[(2π/λ)×膜厚]の式で表わされる値であり、λは表面弾性波の波長である。
【請求項2】
前記保護膜が、シリコン酸化膜あるいはシリコン窒化膜であることを特徴とする請求項1記載の表面弾性波装置。
【請求項3】
前記保護膜が、前記保護膜が圧電体であることを特徴とする請求項1記載の表面弾性波装置。
【請求項4】
前記保護膜が、AlNまたはZnOからなることを特徴とする請求項3記載の表面弾性波装置。
【請求項5】
前記櫛歯電極上に絶縁膜が設けられていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の表面弾性波装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−35872(P2011−35872A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183133(P2009−183133)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】