説明

表面形状測定装置および測定方法

【課題】 走査型プローブ顕微鏡を用いた表面形状の測定において、帯電の影響を排除すると同時に、活性な被測定物の表面を変化させることなく安定に測定する装置及び測定手法を提供する。
【解決手段】 走査型プローブ顕微鏡100は被測定試料101の表面を走査する測定用探針104aを有しており、少なくとも被測定試料101の測定範囲にわたり、被測定試料101の表面と測定用探針104aの間に溶液102が設けられている。
溶液102は被測定試料101の表面および測定用探針104aが帯電しないようにし、かつ、被測定試料101の表面に自然酸化膜、有機物などが成長、吸着しないようにするためのもであり、例えばイソプロピルアルコール(IPA)が挙げられるが、溶液の代わりに上記の要件を満足するような物性を有する気体を用いてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面形状を計測する形状測定装置に関し、特に走査型プローブ顕微鏡に関する。また本発明は、走査型プローブ顕微鏡を用いた表面形状測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な物質の表面形状を計測する際に、走査型プローブ顕微鏡を用いて観測するのが一般的に行われてきた手法である。近年、原子レベルの表面形状を観測する要求がますます高くなってきている。
【0003】
しかしながら、従来の走査型プローブ顕微鏡を用いた表面形状の観測では、試料表面・探針の帯電の影響から精度よく測定することは困難であった。帯電の問題を解決するには、除電装置を用いて測定前または測定中に除電を行う、または被測定試料に対して帯電しないような工夫が必要である。従って、通常の装置では原理的に帯電を防ぐことは困難であり、何らかの工夫が必要である。
【0004】
さらに、原子レベルでの表面形状を高精度に測定する場合、帯電の影響をなくす必要があると共に、被測定物の表面が安定である必要がある。それは、帯電の影響で測定精度に問題が生じる。
【0005】
また、非特許文献1によれば、(100)シリコンウェハの表面を大気中に暴露すると酸化膜が成長する(非特許文献1)。従って、シリコンウェハ表面を原子レベルでの表面形状を測定する際に、酸化膜が成長すると正確なシリコン表面の形状を測定することは不可能である。さらに、半導体製造が行われるクリーンルームの大気中においても、大気中の有機物などがシリコン表面に付着することも知られており、走査型プローブ顕微鏡を用いた大気中での測定では原子レベルで表面形状を高精度に観測することは非常に困難である。
【0006】
一方、走査型プローブ顕微鏡の中には真空中において表面形状を測定することができる装置が存在するが、真空中では被測定物の表面に有機物がより付着することが知られており、真空中で測定することが解決策とは成り得ない。
【0007】
同様に、走査型プローブ顕微鏡では液中で表面形状を測定することができる装置が存在するが、通常用いられる純水などの溶液では溶存酸素及びOHなどの影響により、(100)シリコンウェハの表面を酸化させるなど表面荒れを引き起こす問題がある。また、水では帯電の影響を排除することは困難である。
【0008】
このように、(100)シリコンウェハなどの被測定物の表面状態を変化させることなく、帯電の影響を排除した状態で測定することは困難である。走査型プローブ顕微鏡を販売しているメーカをはじめ、様々な研究機関により、より高精度に観測できる装置の実現を目指して研究開発が盛んに行われている。
【0009】
今後も、原子レベルでの観測の要求が大きくなることが予想され、帯電の影響がなく、被測定物の表面状態を変化させない走査型プローブ顕微鏡を用いた測定技術の実現が期待されている。
【0010】
【非特許文献1】M. Morita, T. Ohmi, E. Hasegawa, M. Kawakami, and M. Ohwada, “Growth of native oxide on a silicon surface,” J. Appl. Phys. 68(3), Aug. 1990, pp.1272-1281
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
通常、走査型プローブ顕微鏡を用いた表面形状の測定は、気体中・真空中・液体中のいずれかにおいて行われる。走査型プローブ顕微鏡を用いた表面形状の測定では、試料表面及び探針の帯電の影響が測定精度に悪影響を及ぼすことが広く知られている。この問題を解決するために、除電装置を用いて測定前に除電を行う手法が広く使われている。しかし、原子レベルの表面形状を高精度に測定するためには、走査型プローブ顕微鏡を含めた測定環境を帯電の影響がない状態にすることが必要不可欠である。また、被測定物の表面が非常に活性である場合、大気中では被測定物の表面が酸化されると共に、大気中の有機物が付着することで、被測定物の本来の表面を観測できない問題がある。また、真空中での測定においても、有機物が被測定物の表面に付着することが知られており、本来の表面を観測できない。さらに、液中での測定においても、使用する液種により被測定物の表面状態が変化することがあり、本来の表面を観測することは非常に困難である。
【0012】
従って、本発明の目的は、走査型プローブ顕微鏡を用いた表面形状の測定において、帯電の影響を排除すると同時に、活性な被測定物の表面を変化させることなく安定に測定する装置及び測定手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した課題を解決するために、第1の発明は、被測定物の表面形状を測定する表面形状測定装置であって、被測定物の表面を走査する測定用探針を有し、前記被測定物の表面と前記探針の間が、少なくとも測定範囲にわたり、前記被測定物の表面の形状が時間と共に変化しないような雰囲気または液体で満たされていることを特徴とする表面形状測定装置である。
【0014】
第2の発明は、被測定物の表面と走査型プローブ顕微鏡の探針とを前記被測定物の表面の形状が時間と共に変化しないような雰囲気または液体の中に収容して、前記探針を前記被測定物の表面に走査させることによって前記被測定物の表面の形状を測定することを特徴とする表面形状測定方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、被測定物の表面状態を変化させることなく測定可能な表面形状測定装置が得られる。また本発明によれば、帯電の影響を排除した状態で測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、実施形態の全図において、同一または対応する部分には同一の符号を付す。
【0017】
まず、第1の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡100の構造について図1を参照して説明する。
【0018】
図1に示すように、走査型プローブ顕微鏡100は、装置の土台となる試料台105、試料台105上に設けられ、液体としての溶液102を貯蔵可能で、かつ被測定試料101を配置可能なセル103、セル103の上方に配置され、先端に被測定試料101の表面を走査する測定用探針104aを有するカンチレバー104、カンチレバー104を保持するカンチレバーホルダ106、カンチレバーホルダ106に設けられ、カンチレバー104を操作する圧電素子107を有している。
【0019】
以下、各構成要素のうち、溶液102、セル103、圧電素子107についてさらに説明する。
【0020】
溶液102は走査型プローブ顕微鏡100が被測定試料101の表面形状を測定する際に、少なくとも測定範囲の被測定試料101の表面および測定用探針104aが帯電しないようにするためのものであり、かつ、被測定試料101の表面に自然酸化膜、有機物などが成長、吸着しないようにするためのものであり、例えばイソプロピルアルコール(IPA)が挙げられる。
【0021】
イソプロピルアルコールは、帯電しない材料であるため、走査型プローブ顕微鏡100を用いた測定において特に有効であることを本発明者等が見出したものである。
【0022】
なお、イソプロピルアルコールは、その溶液中に1リットルあたり24.6mg程度の酸素が通常溶けている(条件:1気圧/酸素濃度23%(体積%)の大気)。
【0023】
そのため、溶液102にイソプロピルアルコールを使用する場合は、これを窒素雰囲気中に長時間暴露することで、イソプロピルアルコール中の溶存酸素濃度を低減させ、被測定試料101の表面の酸化を防止するのが望ましい。
【0024】
なお、イソプロピルアルコールの濃度は、表面粗さが変化しない濃度であるのが望ましい。
【0025】
このような濃度としては5重量%以上の濃度であればよいが、好ましくは30重量%以上の濃度であればよく、特に限定はされない。また、ここでは溶液102としてイソプロピルアルコールを挙げたが、同等の効果を得ることができる溶液であれば、本発明の効果に影響を与えるものではなく、イソプロピルアルコールに限定はされない。
【0026】
なお、溶液102は少なくとも測定範囲(全面)にわたって前記被測定物の表面と測定用探針104aの間を満たすように設けられていればよく、測定用探針104a全体を満たしていてもよい。
【0027】
一方、セル103を構成する材料は使用する溶液102に対して耐性がある材料であり、溶液102がイソプロピルアルコールの場合は例えばフッ素樹脂である。
【0028】
セル103を構成する材料としては、使用する溶液102に対して耐性がある材料であればよく、例えば金属、石英、表面をフロロカーボン膜で構成されている基材などでもよい。
【0029】
圧電素子107は電位の付加により変形してカンチレバー104を上下動させる部材であり、構成材料としては、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)が挙げられる。
【0030】
ここで、走査型プローブ顕微鏡100を用いてが被測定試料101の表面形状を測定する際の手順について簡単に説明する。
【0031】
ここでは走査型プローブ顕微鏡100をDFM(Dynamic Force Mode)として用いる場合について説明する。
【0032】
まず、被測定試料101を洗浄する。
【0033】
例えば原子オーダ平坦化(100)面シリコンウェハの測定を行う場合は図6のような手順で洗浄を行う。
【0034】
具体的には、まず第1の雰囲気としての大気中でO水洗浄(ステップ1001)、HSO/H洗浄(ステップ1002)、O水リンス(ステップ1003)を行い、さらに第2の雰囲気としてのN雰囲気中でHCl/HF(50:1)溶液での洗浄(ステップ1004)、H水リンス(ステップ1005)を行う。
【0035】
このような洗浄を行うことにより、ウェハ表面に付着しているパーティクル・有機物などが除去され、その際に成長したケミカル酸化膜及び自然酸化膜が剥離され、シリコン表面が水素終端される。
【0036】
なお、水素終端までは行わなくても、パーティクル・有機物などの除去と酸化膜の剥離を行い、シリコン表面を出すことが必要である。また、酸化膜剥離及び水素終端の工程については酸素濃度が50ppm以下のN雰囲気中にて行うのが望ましい。これは、洗浄後に自然酸化膜が成長することを防ぐためである。
【0037】
なお、酸素濃度はここでは50ppm以下の窒素雰囲気中が望ましいとしたが、自然酸化膜が成長しない雰囲気であれば特に限定はされない。
【0038】
被測定試料101の洗浄が終わると、次に、被測定試料101をセル103に配置して溶液102を満たし、圧電素子107を用いてカンチレバー104を所定の位置に移動させ、被測定試料101の表面を測定用探針104aで走査する。
【0039】
なお、本実施形態では測定モードは必ずしも限定されないため、測定時に測定用探針104aを被測定試料101の表面に接触させない測定モードはもちろんのこと、被測定試料101の表面形状を変化させないのであれば、測定用探針104aを被測定試料101の表面に接触させる測定モードでもよい。
【0040】
測定用探針104aは被測定試料101の表面形状に応じて上下動し、カンチレバー104が変形する。
【0041】
カンチレバー104が変形すると、例えば図示しないフォトダイオード等でカンチレバー104の変形量を検知する。
【0042】
検知した変形量は図示しない解析部において解析され、表面形状が測定される。
【0043】
このように、第1の実施形態によれば、走査型プローブ顕微鏡100は、溶液102を貯蔵可能で、かつ被測定試料101を配置可能なセル103、測定用探針104aを有するカンチレバー104を有し、溶液102は、イソプロピルアルコールを含んでおり、かつ、少なくとも測定範囲(全面)にわたって前記被測定物の表面と測定用探針104aの間を満たすようにセル103内に設けられている。
【0044】
そのため、被測定試料101は被測定試料101の表面状態を変化させることなく、かつ帯電の影響を排除した状態で被測定試料101の表面形状を測定することができる。
【0045】
次に、第2の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡200について図9を参照して説明する。
【0046】
また、第2の実施形態では、第1の実施形態と異なる箇所について図面を参照しながら説明する。
【0047】
図9は本発明の第2の実施形態において、走査型プローブ顕微鏡200の深針を用いて溶液中に配置した試料を測定する際の基本構成図を示したものである。
【0048】
図9に示すように、走査型プローブ顕微鏡200は、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)を材料とした圧電素子207の上に、試料台206が配置され、さらにその上部に溶液202を満たすことが可能で、かつ被測定試料201を配置できるセル203が配置されている。カンチレバーホルダ205に取り付けられたカンチレバー204は、測定用探針104aを有し、上部から被測定試料201にアプローチできるような構成となっている。
【0049】
このように、圧電素子207を試料台206側に設置し、試料を移動させる構造としてもよい。
【0050】
なお、溶液202としては、第1の実施形態と同様にイソプロピルアルコール(IPA)を含むものが挙げられる。ただし、同等の効果を得ることができる溶液であれば、本発明の効果に影響を与えるものではなく、特に限定されない。
【0051】
また、セル203は例えばフッ素樹脂で構成されている。
【0052】
ここでは、セル203を構成する材料として、フッ素樹脂を挙げているが、これが金属、石英、表面をフロロカーボン膜で構成されている基材など、使用する溶液に対して耐性がある材料であればよく、必ずしもフッ素樹脂に限定はされない。
【0053】
このように、第2の実施形態によれば、走査型プローブ顕微鏡200は、溶液202を貯蔵可能で、かつ被測定試料201を配置可能なセル203、測定用探針104aを有するカンチレバー204を有し、溶液202は、イソプロピルアルコールを含んでおり、かつ、少なくとも測定範囲(全面)にわたって前記被測定物の表面と測定用探針104aの間を満たすようにセル103内に設けられている。
【0054】
従って、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
【0055】
次に、第3の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡300について図10を参照して説明する。
【0056】
なお、第3の実施形態では、第1の実施形態及び第2の実施形態と異なる個所について図面を参照しながら説明する。
【0057】
図10は本発明の第3の実施形態において、走査型プローブ顕微鏡300の設置環境を示したものである。図10に示すように、除振台302の上部に箱型のBOX303が設置されており、その中に装置本体301が設置されている。
【0058】
装置本体301は走査型プローブ顕微鏡100または走査型プローブ顕微鏡200と同様の構成要素を有する構造である。
【0059】
BOX303は、内部の気体雰囲気を制御できるようにするために、気体導入口304と気体排気口305を備えている。
【0060】
即ち、走査型プローブ顕微鏡300は、試料の表面と探針の間が、少なくとも測定範囲にわたり、試料の表面の形状が時間と共に変化しないような雰囲気で満たされるように構成されている。
【0061】
第3の本実施形態では、BOX303を構成する材質としては例えばSUS(ステンレス鋼)が挙げられるが、気密性及び操作性を確保できる材質であればよく、特にSUSに限定されるものではない。また、外部の温度変動の影響を受けないようにし、内部の温度を一定に保つため、2枚のSUSを用い、2枚のSUSの間に断熱材を挟んだ構成にするのが好ましい。
【0062】
第3の実施形態では、BOX303内部(装置本体301内)の雰囲気を窒素にするために、気体導入口304から窒素を導入し、気体排気口305からBOX303内部の気体を排気する構成となっているが、BOX303内部の雰囲気は窒素だけに限定されるものではなく、露点温度が−80℃以下の水分濃度が非常に少ないクリーンドライエアなどを導入しても、本発明の効果になんら影響を与えるものではない。また、図10で示すように気体導入口304及び気体排気口305の位置は、BOX303の上部及び下部にそれぞれ設置されているが、BOX303の内部の雰囲気を制御できる位置であれば、特に位置は限定されない。さらに、BOX303は除振台302の上部に配置されているが、これはBOX303内部の容量を小さくするためのものであり、BOX303を大きく作製し除振台302ごとBOX303の内部に設置したとしても、本発明の効果に何ら影響を与えるものではない。
【0063】
BOX303の中に設置された走査型プローブ顕微鏡(装置本体301)を用いた表面形状の測定方法は、第1及び第2の実施形態で述べた手法を用いるため、詳細な説明については省略する。
【0064】
このように、第3の実施形態によれば、走査型プローブ顕微鏡300は、装置本体301、BOX303を有し、BOX303内は雰囲気制御がされている。
【0065】
従って、第1の実施形態と同様の効果を奏する
【実施例】
【0066】
次に、具体的な実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。
【0067】
(実施例1)
(100)面シリコンウェハを種々の濃度のイソプロピルアルコールに浸漬した際、および浸漬前の表面粗さを図1に示す走査型プローブ顕微鏡100を用いて測定した。結果を図2に示す。
【0068】
また図1に示す走査型プローブ顕微鏡100を用いて、加熱処理により原子オーダで平坦化した(100)面シリコンウェハを種々の濃度のイソプロピルアルコールに浸漬した際、および浸漬前の表面形状及び表面粗さを測定した。結果を図3、図4に示す。
【0069】
図2によると、イソプロピルアルコール濃度が5%以上であれば、表面粗さが変化しないことが分かった。
【0070】
一方、図3、図4によると、原子オーダで平坦化した(100)面シリコンウェハでは、イソプロピルアルコール濃度が30%以上であれば、表面形状が変化しないことが分かった。
【0071】
(実施例2)
図1に示す走査型プローブ顕微鏡100を用い、原子オーダで平坦化された(100)面シリコンウェハの表面形状を測定した。
【0072】
溶液102としては濃度99.99%のイソプロピルアルコールを使用し、被測定試料101としては、(100)面シリコンウェハを1200℃・アルゴン雰囲気中にて30分間加熱処理し、加熱処理によりシリコンの原子ステップ(段差部分)とテラス(平面部分)が出現したものを用いた。
【0073】
図5はその原子ステップの形状を示している。以下、上記の加熱処理をした(100)面シリコンウェハを、原子オーダ平坦化(100)面シリコンウェハと記す。
【0074】
(実施例3)
原子オーダ平坦化(100)面シリコンウェハを図6に示す洗浄方法で洗浄し、N雰囲気の中でIPAを含む溶液202中(溶存酸素0ppm)に浸漬し、IPA溶液中にて図1に示す走査型プローブ顕微鏡100を用いて表面形状を測定した。
【0075】
測定結果(顕微鏡写真)を図7Aに示す。また測定したデータを公知の方法で変換したものを図7Bに示し、図7Bで丸付き数字の1〜6で示す各テラスの表面の粗さを求めた結果を図7Cに示す。
【0076】
図7Cに示すように、粗さはRaで表すことができ、各テラス表面の粗さは約0.04nmとなっていた。
【0077】
(比較例1)
原子オーダ平坦化(100)面シリコンウェハを図6に示す洗浄方法で洗浄し(ただし、洗浄は全て大気中)、その後クリーンルーム大気中で図1に示す走査型プローブ顕微鏡100を用いて溶液102を用いずに表面形状を測定した。実施例3と異なるのは、洗浄は全て大気中で行い、測定も大気中で測定している2点のみである。
【0078】
結果を図8Aに示す。
【0079】
また、測定したデータを公知の方法で変換したものを図8Bに示し、図8Bで丸付き数字の1〜6で示す各テラス表面の粗さなどを求めた結果を図8Cに示す。
【0080】
図8Cに示すように、各テラスの粗さ(Ra)は、0.053nm〜0.062nmとなっており、イソプロピルアルコール中で測定した結果に比べて、各テラスの表面粗さが増大していた。
【0081】
これは、大気中で洗浄を行いかつ測定も大気中で行ったことで、原子オーダ平坦化(100)面シリコン表面に自然酸化膜、有機物などが成長、吸着した影響であると考えられる。
【0082】
従って、イソプロピルアルコール中での測定が非常に効果的であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0083】
上述した実施形態では走査型プローブ顕微鏡100、200、300をDFMとして使用した場合について説明したが、本発明は何らこれに限定されるものではなく、走査型プローブ顕微鏡であれば、AFM等のものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】走査型プローブ顕微鏡100の構造を示す模式図である。
【図2】(100)面シリコンウェハをイソプロピルアルコール溶液に浸漬した際の、溶液の濃度とシリコンウェハの表面粗さの関係を示す図である。
【図3A】(100)面シリコンウェハをイソプロピルアルコール溶液に浸漬した際の、シリコンウェハの表面形状を示す図である。
【図3B】(100)面シリコンウェハをイソプロピルアルコール溶液に浸漬した際の、シリコンウェハの表面形状を示す図である。
【図3C】(100)面シリコンウェハをイソプロピルアルコール溶液に浸漬した際の、シリコンウェハの表面形状を示す図である。
【図3D】(100)面シリコンウェハをイソプロピルアルコール溶液に浸漬した際の、シリコンウェハの表面形状を示す図である。
【図3E】(100)面シリコンウェハをイソプロピルアルコール溶液に浸漬した際の、シリコンウェハの表面形状を示す図である。
【図4】(100)面シリコンウェハをイソプロピルアルコール溶液に浸漬した際の、溶液の濃度とシリコンウェハの表面粗さの関係を示す図である。
【図5】(100)面シリコンウェハをイソプロピルアルコール溶液に浸漬した際の、シリコンウェハの表面形状を示す図である。
【図6】走査型プローブ顕微鏡100を用いて原子オーダ平坦化(100)面シリコンウェハの測定を行う際の洗浄工程を示すフローチャートである。
【図7A】原子オーダ平坦化(100)面シリコンウェハを図6に示す洗浄方法で洗浄し、N雰囲気の中でIPA溶液中(溶存酸素0ppm)に浸漬し、IPA溶液中にて走査型プローブ顕微鏡100を用いて表面形状を測定した結果を示す図である。
【図7B】図7Aを変換処理した図である。
【図7C】図7Bに丸付き数字の1〜6で示す各テラス表面の粗さを求めた結果を示す図である。
【図8A】原子オーダ平坦化(100)面シリコンウェハを図6に示す洗浄方法で洗浄し、その後クリーンルーム大気中で走査型プローブ顕微鏡100を用いて表面形状を測定した結果を示す図である。
【図8B】図8Aを変換処理した図である。
【図8C】図8Bに丸付き数字の1〜6で示す各テラス表面の粗さを求めた結果を示す図である。
【図9】走査型プローブ顕微鏡200の構造を示す模式図である。
【図10】走査型プローブ顕微鏡300の構造を示す模式図である。
【符号の説明】
【0085】
100……走査型プローブ顕微鏡
101……被測定試料
102……溶液
103……セル
104……カンチレバー
104a…測定用探針
105……試料台
106……カンチレバーホルダ
107……圧電素子
200……走査型プローブ顕微鏡
201……被測定試料
202……溶液
203……セル
204……カンチレバー
205……カンチレバーホルダ
206……試料台
207……圧電素子
300……走査型プローブ顕微鏡
301……装置本体
302……除振台
303……BOX
304……気体導入口
305……気体排気口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物の表面形状を測定する表面形状測定装置であって、
被測定物の表面を走査する測定用探針を有し、
前記被測定物の表面と前記探針の間が、少なくとも測定範囲にわたり、前記被測定物の表面の形状が時間と共に変化しないような雰囲気または液体で満たされるように構成されていることを特徴とする表面形状測定装置。
【請求項2】
前記被測定物の表面と前記測定装置の測定用探針とが、前記雰囲気または前記液体の中に収容されていることを特徴とする請求項1記載の表面形状測定装置。
【請求項3】
前記液体は、
イソプロピルアルコールを含む溶液であることを特徴とする、請求項第2に記載の表面形状測定装置。
【請求項4】
前記溶液を貯蔵可能なセルを有することを特徴とする、請求項3に記載の表面形状測定装置。
【請求項5】
前記被測定物が前記セル内部に溶液と共に配置されるように構成したことを特徴とする、請求項4に記載の表面形状測定装置。
【請求項6】
前記セルを構成する材料は、
金属または石英またはフッ素樹脂のいずれか一つを含むことを特徴とする、請求項4または請求項5に記載の表面形状測定装置。
【請求項7】
前記セルは、
表面にフロロカーボン膜が形成されていることを特徴とする、請求項第5項に記載の表面形状測定装置。
【請求項8】
前記被測定物の表面と前記探針の間が、少なくとも測定範囲にわたり、気体で満たされていることを特徴とする、請求項1に記載の表面形状測定装置。
【請求項9】
前記気体が、酸素濃度が100ppm以下の気体雰囲気であることを特徴とする、請求項8に記載の表面形状測定装置。
【請求項10】
前記気体が、露点温度が−80℃以下の気体雰囲気であることを特徴とする、請求項8に記載の表面形状測定装置。
【請求項11】
前記被測定物の表面と前記探針の間が、酸素濃度が100ppm以下の気体雰囲気中に設置されていることを特徴とする、請求項8〜10のいずれかに記載の表面形状測定装置。
【請求項12】
前記測定装置が、露点温度が−80℃以下の気体雰囲気中に設置されていることを特徴とする、請求項8〜10のいずれかに記載の表面形状測定装置。
【請求項13】
前記雰囲気または前記液体は、
前記被測定物の表面と前記探針が帯電しないような液体または気体雰囲気であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載の表面形状測定装置。
【請求項14】
前記被測定物が、シリコンウェハであることを特徴する、請求項1〜13のいずれかに記載の表面形状測定装置。
【請求項15】
前記表面形状測定装置が走査型プローブ顕微鏡を含み、前記探針が前記走査型プローブ顕微鏡の探針であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれかに記載の表面形状測定装置。
【請求項16】
被測定物の表面と走査型プローブ顕微鏡の探針とを前記被測定物の表面の形状が時間と共に変化しないような雰囲気または液体の中に収容して、前記探針を前記被測定物の表面に走査させることによって前記被測定物の表面の形状を測定することを特徴とする表面形状測定方法。
【請求項17】
前記被測定物を、前記被測定物の表面に付着しているパーティクル、有機物、自然酸化膜などを所望の第1の雰囲気中で洗浄除去した後に、所望の第2の雰囲気中で加熱した後に、前記走査型プローブ顕微鏡を用いて前記被測定物の表面形状を測定することを特徴とする、請求項16に記載の表面形状測定方法。
【請求項18】
前記第1及び第2の雰囲気が、酸素濃度が100ppm以下の気体雰囲気中であることを特徴とする、請求項17に記載の表面形状測定方法。
【請求項19】
前記被測定物が、シリコンウェハであることを特徴する、請求項16〜18のいずれかに記載の表面形状測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図7C】
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【図8C】
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【図9】
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【図10】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図5】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【公開番号】特開2010−91447(P2010−91447A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262469(P2008−262469)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000173658)財団法人国際科学振興財団 (31)
【Fターム(参考)】