説明

表面改質されたオレフィン樹脂及びその製造方法

【課題】一般的なオレフィン樹脂を基材として用いることができ、しかも、当該基材の特性に悪影響を及ぼさない穏やかで且つ簡易な工程により、染色性、接着性、親水性、及び塗装性に優れるオレフィン樹脂を得ることができる、製造方法を提供する。
【解決手段】オレフィン樹脂を活性化処理し、活性化処理により表面が活性化しているオレフィン樹脂をポリアミン化合物及び/又はポリイミン化合物と接触させて、表面改質されたオレフィン樹脂を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染色性、接着性、親水性、及び塗装性の良好な表面改質ポリオレフィン系樹脂及びその製造方法に関し、より具体的には、高分子のポリアミン化合物及び/又はポリイミン化合物が、そのアミド基若しくはアミノ基、又はそのイミノ基を介して、ポリオレフィン主鎖に結合している染色性、接着性、親水性、及び塗装性の良好な表面改質ポリオレフィン系樹脂及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン樹脂は、加工の容易さ、高い耐薬品性などの利点を有すことから、繊維、シート、成型物などに加工され、様々な用途に用いられている。一方、オレフィン樹脂は、極性が低く、結晶性が高いため、他の材料との親和性が小さく、接着や染色が困難であるという欠点を有する。このため、繊維分野の一部の分野等では、その利用が進んでいない。
特にポリプロピレンは、開発当初、軽い、強い、耐薬品性が高いなどの多くの利点を有することから衣料用途向け材料として大きな期待を寄せられたが、染色性の問題が障壁となって繊維分野ではあまり用いられていない。
【0003】
従来、ポリプロピレンを着色する方法としては、溶融させたポリプロピレンに顔料を添加したのち繊維化する手法(「原着」という)が知られている。
【0004】
この原着による着色は、鮮明な色合いが得られ難く、またポリプロピレン樹脂が硬くなり柔軟性が損なわれ易いといった問題がある。また、予め着色しておくことを要するため、融通性が低く、少量生産や一時的生産に対応し難いといった問題もある。
このため、この手法により製造される繊維は、カーペットなどの限定的な用途でしか使用されていないのが現状である。
【0005】
これに対して、オレフィン樹脂、特にポリプロピレンの樹脂自体を改質して染色性を向上させる手法が提案されている。
【0006】
例えば、特開2003−138421号公報(特許文献1)には、メタロセン触媒によって重合され、(1)MFRが5〜100g/10分特性、(2)Q値が1.5〜4.0特性、(3)Tmが110〜140℃、(4)T80−T20が10℃以下、(5)TREF測定時の0℃可溶分量が3重量%以下、(6)α‐オレフィン含有量が1〜18モル%、(7)C12〜C30のオリゴマー成分量が60wtppm以下の特性を有するプロピレン・α‐オレフィンランダム共重合体に、高分子型帯電防止剤を配合してなる染色性に優れたポリプロピレン系繊維が開示されている。
【0007】
しかし、このポリプロピレン系繊維は、染色性が良好であるものの、特殊なプロピレン・α‐オレフィンランダム共重合体を主材とするものであり、一般的なポリオレフィン系樹脂に応用できるものではない。
【0008】
一方、特開平7−90783号公報(特許文献2)には、オゾン処理でポリオレフィン系樹脂の表面を活性化し、次いで活性化したポリオレフィン系樹脂の表面に紫外線照射しつつアクリルアミド、メタクリルアミド等をグラフト共重合して、ポリオレフィン系樹脂を表面改質し、さらにより染色性を向上させるためにグラフト化したアミド基をホフマン転移させる、ポリオレフィン系樹脂の表面改質方法及び染色方法が開示されている。
【0009】
しかしながら、この方法は、アクリルアミドのビニル基が切れて付加反応するグラフト共重合によりポリオレフィン系樹脂を表面処理する手法であり、当該グラフト共重合を進行させるために、オゾン処理に加えて、比較的長時間の紫外線照射を必須とするものである。このため、依然として、ポリオレフィン主鎖の切断等による表面改質ポリオレフィン系樹脂の強度低下等を生じるおそれがある。
【0010】
また、この方法では、アミド基を有する炭素数3〜20程度のビニル化合物を用いているため、染色性を向上させるためには、グラフト率及び/又は側鎖の長鎖化を亢進させる必要があるが、それを達成するために付随する問題、又はそもそもそれを達成することが困難であるという問題がある。
【0011】
すなわち、この方法では、グラフト率を亢進させるために、アクリルアミド等の濃度を高くする必要がある(低濃度とすると、グラフト率が低減する)が、この高濃度のアクリルアミド等の存在は、反応工程中で多量のそのホモポリマーの副生物を生じ、重合効率を低下させる要因となる。また、このホモポリマーの存在は、織物や不織布等の基材において目詰まりの原因になるため、この方法では、表面改質処理後において厳密な洗浄(例えば、トルエン100mlによる洗浄を2時間、3回)を行ってこの目詰まりを除去する必要があるという問題をも有する。
【0012】
さらにこの方法では、その工程から明らかなように、オゾン処理、紫外線照射、及びホフマン転位の3段階の工程を要するとともにモノマーをグラフト化させるために比較的長時間を要し、工業化レベルでの実施に適するより簡易且つ迅速な方法が求められていた。
【特許文献1】特開2003−138421号公報
【特許文献2】特開平7−90783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、一般的なオレフィン樹脂を基材として用いることができ、しかも、当該基材の特性に悪影響を及ぼさない穏やかで且つ簡易な工程により染色性の良好なオレフィン樹脂を得ることができる、表面改質オレフィン樹脂の製造方法を提供することである。また、本発明の他の目的は、一般的なオレフィン樹脂を基材として用いることができ、しかも、当該基材の特性に悪影響を及ぼさない穏やかで且つ簡易な工程により接着性、親水性、及び塗装性に優れるオレフィン樹脂を得ることができる、表面改質オレフィン樹脂の製造方法を提供することである。
【0014】
また、本発明の他の目的は、高分子、即ち多量の窒素原子を含むポリアミン化合物及び/又はポリイミン化合物が、そのアミド基若しくはアミノ基、又はそのイミノ基を介して、ポリオレフィン主鎖に結合している染色性、接着性、親水性、及び塗装性の良好な表面改質ポリオレフィン系樹脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討の結果、オレフィン樹脂を活性化処理し、活性化状態にあるオレフィン樹脂に、アミド基若しくはアミノ基を多数含有しているポリアミン化合物及び/又はイミノ基を多数含有しているポリイミン化合物を接触させたところ、紫外線照射などの特段の反応促進手段を要さずに穏やかな条件でポリアミン化合物による表面改質が進み、しかも得られた表面改質オレフィン樹脂が非常に染色性、接着性、親水性、及び塗装性に優れることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明は、その主要な一の態様において、オレフィン樹脂を活性化処理し、この活性化処理により表面が活性化しているオレフィン樹脂を、ポリアミン化合物及び/又はポリイミン化合物、好ましくは1,000〜200,000の分子量を有するポリアミン化合物及び/又はポリイミン化合物と接触させることを特徴とする、表面改質オレフィン樹脂の製造方法を提供するものである。
【0017】
本発明はまた、その他の主な態様において、ポリオレフィンの少なくとも一部に、ポリアミン化合物及び/又はポリイミン化合物、好ましくは分子量1,000〜200,000のポリアミン化合物及び/又はポリイミン化合物が、そのアミノ基若しくはアミド基、又はそのイミノ基を介して結合していることを特徴とする、表面改質オレフィン樹脂を提供するものである。
【0018】
ここで、本明細書における重合体の重量平均分子量(Mw)は、日立L−6000型高速液体クロマトグラフを使用し、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法によって測定した値を意味する。溶離液流路ポンプは日立L−6000を用い、検出器はショーデックスRI SE−61示差屈折率検出器を用い、カラムはアサヒパックの水系ゲル濾過タイプのGS−220HQ(排除限界分子量3,000)とGS−620HQ(排除限界分子量200万)とをダブルに接続したものを用いた。サンプルは溶離液で0.5g/100mlの濃度に調整し、20μlを用いた。溶離液には、0.4mol/リットルの塩化ナトリウム水溶液を使用した。カラム温度は30℃で、流速は1.0ml/分で実施した。標準サンプルとして分子量106、194、440、600、1470、4100、7100、10300、12600、23000などのポリエチレングリコールを用いて較正曲線を求め、その較正曲線を基に重合体のMwを求めた。
【0019】
次に、本発明の製造方法の基本的スキームを概説する。
本発明の製造方法では、上記の通り、最初にオレフィン樹脂を活性化処理する。この「活性化処理」は、オレフィン樹脂に対して、オゾン処理、フレーム(火炎)処理、各種放電処理等を行って、樹脂の表面に酸素、窒素などを含む官能基または不飽和結合等を導入する処理である。活性化処理を、フレーム(火炎)処理又は各種放電処理により行う場合では、オレフィン樹脂にラジカルを生じ、それが酸素や水蒸気などと反応すると、オレフィン樹脂の表面に、過炭酸基、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基などが形成される。また、活性化処理を、オゾン処理により行うと、オレフィン樹脂に過炭酸基が導入され、これがカルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基などに変化する。
【0020】
本発明の製造方法は、これら官能基が酸素、水素、水蒸気とさらに反応して安定化する前に、オレフィン樹脂に、多数のアミノ基若しくはアミド基を有するポリアミン化合物及び/又は多数のイミノ基を有するポリイミン化合物を接触させて、上記過炭酸基、カルボニル基、又はカルボキシル基等と、アミノ基、アミド基及び/又はイミノ基とを反応(主に脱水縮合反応)させ、オレフィン樹脂にアミノ基、アミド基及び/又はイミノ基を介して、ポリアミン化合物及び/又はポリイミン化合物を結合させるものである。
【0021】
ポリアミン化合物及び/又はポリイミン化合物と接触させる方法としては、オレフィン樹脂をポリアミン化合物及び/又はポリイミン化合物の溶液(室温〜80℃)に数秒〜10分間浸漬した後水洗する方法や、同様にポリアミン化合物及び/又はポリイミン化合物の溶液に浸漬後熱乾燥する方法などがある。
また、オレフィン樹脂は、活性化処理した後ポリアミン化合物及び/又はポリイミン化合物の溶液に浸漬するまで、大気中に置くか、好ましくは希ガス(アルゴン、ネオン、ヘリウム)若しくは窒素、又はこれらの混合ガスの雰囲気下に置くのがよい。
【0022】
本発明において特に留意すべき点は、アミノ基を有するビニルモノマーのグラフト共重合反応と異なり、オレフィン樹脂に、アミノ基若しくはアミド基を介してポリアミン化合物を結合させているか、或いは、イミノ基を介してポリイミン化合物を結合させている点である。このため、紫外線照射等のオレフィン樹脂の特性を劣化させ得るような過度な条件を要することなく、表面改質を可能としている。
【0023】
また、本発明においては、多数のアミノ基若しくはアミド基を含有するポリアミン化合物及び/又は多数のイミノ基を含有するポリイミン化合物をオレフィン樹脂と接触させることで、前記活性化処理により生じた官能基との反応機会を多くしている点にも留意すべきである。
【0024】
さらに、本発明においては、多数のアミノ基若しくはアミド基を含有するポリアミン化合物及び/又は多数のイミノ基を含有するポリイミン化合物をオレフィン樹脂に結合させることで、染色に寄与するアミノ基、アミド基及び/又はイミノ基を効率的に導入している点に留意すべきである。本発明では、このようにポリアミン化合物及び/又はポリイミン化合物によってアミノ基、アミド基及び/又はイミノ基を多数導入することにより、後述する実施例で実証されるような高い染色性や接着性を達成している。また、上記過炭酸基、カルボニル基又はカルボキシル基と、アミノ基、アミド基又はイミノ基との間で形成される結合は、比較的強固であり、後述する実施例で実証されるように、高い堅牢度を有する染色を可能としている。さらに、接着性、親水性、塗装性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
1.本発明の改質ポリオレフィン系樹脂の製造方法
(1)活性化処理
本発明の製造方法においては、前記の通り、最初にオレフィン樹脂に対して活性化処理を施す。
【0026】
本明細書において、活性化処理するオレフィン樹脂について特に制限は無く、一般的なオレフィン樹脂を用いることができる。具体例を挙げると、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−2、ヘキセン−1、4−メチル−ペンテン−1、オクテン−1等の任意のα‐オレフィンの単独重合体若しくはこれらの2種以上の共重合体、又はこれらの単独重合体及び/又は共重合体の混合物があるが、これらに限られるものではない。染色が困難な一般的な樹脂の代表とも言える、ポリプロピレン若しくはポリエチレンの単独重合体、又はプロピレン若しくはエチレンと他のα‐オレフィンとの共重合体若しくはランダム共重合体が本発明の好適な例である。
【0027】
なお、表面改質処理されるオレフィン樹脂は、通常成形物であり、例えば、長繊維状、短繊維状、ヤーン状、糸状、織物状、編物状、不織布状、フィルム状、シート状、筒状、棒状、中空容器状、箱状、発泡体、積層体などの形態を有するが、これらに限定されるものではない。
【0028】
また、本発明においては、後述する改質を著しく損なわない範囲で、安定剤、造核剤、難燃剤、充填剤、及び発泡剤などの添加剤を添加されたオレフィン樹脂を用いても良い。
【0029】
本発明におけるオレフィン樹脂の活性化処理は、オレフィン樹脂に酸素、窒素などを含む官能基または不飽和結合等を導入できる処理であればよく、例えば、プラズマ処理、コロナ放電処理、フレーム(火炎)処理、オゾン処理等の公知の各種方法を用いて行うことができる。
【0030】
プラズマ処理を行う場合には、例えば、オレフィン樹脂を、希ガス(アルゴン、ネオン、ヘリウム)、窒素ガス、窒素、炭酸ガス、酸素又はこれらを2種以上含む混合ガスの雰囲気下で、グロー放電により生ずるプラズマにさらし、オレフィン樹脂の表面にラジカルを発生させればよい。本発明におけるプラズマ発生条件は、周波数13.56MHz、照射出力10〜2000W、照射時間0.01秒〜10分が好ましい。また、雰囲気のガスは、大気、或いは希ガス(アルゴン、ネオン、ヘリウム)、窒素、酸素及び炭酸ガスを一種単独で又はこれらを組み合わせて用いることができる。好ましくは希ガス(アルゴン、ネオン、ヘリウム)及び窒素の少なくとも1種と、酸素又は炭酸ガスとの混合ガスを用いる。
【0031】
コロナ放電処理を行う場合には、大気中、若しくは希ガス(アルゴン、ネオン、ヘリウム)、窒素、酸素又は炭酸ガスを単独で用いる雰囲気下、或いは希ガス(アルゴン、ネオン、ヘリウム)及び窒素の少なくとも1種と、酸素又は炭酸ガスとの混合ガスの雰囲気下で、電極間に数千ボルトから数万ボルトの高電圧をかけてコロナ放電を発生させ、この放電中の電極間にオレフィン樹脂を通過させることにより、オレフィン樹脂の表面を活性化させることができる。本発明で用いられるコロナ放電では、その放電量を0.1〜5000W・分/mとすることが好ましく、10〜1500W・分/mとすることがより好ましい。
【0032】
(2)ポリアミン化合物及び/又はポリイミン化合物との接触
本発明の製造方法においては、次に、上記活性化処理により表面が活性化しているオレフィン樹脂をポリアミン化合物及び/又はポリイミン化合物と接触させる。
【0033】
本発明において、「表面が活性化している」とは、オレフィン樹脂が、その表面の少なくとも一部に、ポリアミン化合物のアミド基若しくはアミノ基、又はポリイミン化合物のイミノ基と反応可能な、酸素などを含む官能基(例えば、過炭酸基、カルボニル基、カルボキシル基)又は不飽和結合を保持している状態を意味するものであり、本発明においては、これら官能基が、酸素、水素、水蒸気等とさらに反応して安定化する前に、オレフィン樹脂をポリアミン化合物及び/又はポリイミン化合物と接触させる必要がある。
【0034】
活性化処理後のオレフィン樹脂を、ポリアミン化合物と接触させるタイミングは、各種処理手段、その条件、並びに用いるオレフィン樹脂、ポリアミン化合物及びポリイミン化合物等に応じて変動するが、活性化処理後、活性処理されたオレフィン樹脂の表面張力が活性処理前のオレフィン樹脂の表面張力に対して1.1倍以上である時点で、活性処理されたオレフィン樹脂をポリアミン化合物及び/又はポリイミン化合物と接触させることが好ましく、1.3倍以上の時点で接触させることがより好ましくは1.5倍以上の時点で接触させることが特に好ましい。
【0035】
また、上記表面張力比が1.5倍以上ならば直接ポリアミン化合物及びポリイミン化合物(通常溶液)と接触させればよいが、上記表面張力比が1.1倍以上1.5倍未満の場合には、活性化後のオレフィン樹脂とポリアミン溶液とが馴染み難いことがあるので、表面表力の低い溶液(例えば、水とアルコールとの混合液等)に接触後、ポリアミン化合物及び/又はポリイミン化合物(通常溶液)に接触させることが好ましい。
【0036】
ここで、「表面張力」とは以下の測定手順に従って測定された表面張力の値を意味する。なお、測定は、温度23℃、相対湿度50%の標準試験室雰囲気(JIS K 7100)で行う。
表面張力を測定する織布、編地又は不織布等の試料を測定の直前に約10cm角に切り出し試験片とする。試験用混合液はJIS K 6768の「表 プラスチックフィルム・シートの濡れ測定のための試験用混合液」に従ってエチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、ホルムアミド(JIS K 8873の特級以上)、メタノール(JIS K 8891)及び水を段階的に混合して調整したものを使用する。
表面張力の判定は、試験片に試験用混合液をスポイトにより数滴滴下して、30秒後の液滴の状態を評価して行う。液滴が試験片に30秒未満で浸み込んだ場合には、更に、次に表面張力の高い試験用混合液に進み、また逆に、30秒以上かかる場合は、次の表面張力の低い試験用混合液に進む。この操作を繰返し、試験片に30秒間で浸み込む混合液を選ぶ。この操作を少なくとも3回行い、このようにして選ばれた混合液の表面張力を基材の表面張力とする。
また、試料がフィルムやシート状である場合には、JIS K 6768「プラスチック−フィルム及びシート−ぬれ張力試験方法」に従って行う。
【0037】
本発明で用いられる「ポリアミン化合物」は、その分子内に、第一アミン(R−NH、第二アミン(R−NH)、第三アミン(R−N)、又はそれらの誘導体(例えば、アミド(R−CONH)を有する、重合体又は共重合体である(各式中Rは、炭化水素基、好ましくはアルキル、アリール、アラルキル、アルケニル及びアルキニルからなる群から選択される炭化水素基、より好ましくはメチル、エチル、プロピル、ブチル、ベンチル、イソピロピル、イソブチル等の炭素数1〜10、好ましくは1〜8、より好ましくは1〜5、特に好ましくは1〜3のアルキル;ビニル、アリル等の炭素数2〜10、好ましくは2〜8、より好ましくは2〜5、特に好ましくは2〜4のアルケニル;及びフェニル、トリル、ナフチル等の炭素数6〜10のアリールからなる群から選択される炭化水素基を意味する)。
また、本発明で用いられる「ポリイミン化合物」は、下式に表されるような化合物である:
【化1】


[式中のR、R、Rは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、非反応性の原子又は有機基を表し、RとRは互いに結合して環を形成していても良く、nは、20〜2000の整数を表す。]
式中のR、R、Rとしては、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、複素環基及びアルコキシ基等を例示できる。この場合、アルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ベンチル、イソピロピル、イソブチル等を含む炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜5アルキル基がさらに好ましく、炭素数1〜3のアルキル基が特に好ましい。
また、アルケニル基としては、ビニル、アリル等を含む、炭素数2〜10のアルケニル基が好ましく、炭素数2〜8のアルケニル基がより好ましく、炭素数2〜5のアルケニル基がさらに好ましく、炭素数2〜4のアルケニル基が特に好ましい。
また、アルキニル基としては、エチニル基、1-プロピニル基、1−ヘプチニル基などの、炭素数2〜18のアルキニル基が好ましく、炭素数2〜10のアルキニル基がより好ましく、炭素数2〜6のアルキニル基がさらに好ましく、炭素数2〜4のアルキニル基が特に好ましい。
また、シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などの、炭素数3〜10のシクロアルキル基が好ましく、炭素数3〜6のシクロアルキル基がより好ましく、炭素数5〜6のシクロアルキル基が特に好ましい。
また、アリール基としては、フェニル、トリル、ナフチル等の炭素数6〜10のアリールが好ましい。
また、複素環基としては、例えば、フラン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、テトラヒドロフラン環などの5員環、ピラン環などの6員環、ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、キサントン環、キサンテン環、クロマン環、イソクロマン環、クロメン環などの縮合環に代表されるヘテロ原子として酸素原子を含む複素環、あるいは、例えば、チオフェン環、チアゾール環、イソチアゾール環、チアジアゾール環、ベンゾチオフェン環などに代表されるヘテロ原子として硫黄原子を含む複素環、さらに、例えば、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、ピロリジン環などの5員環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペリジン環、モルホリン環などの6員環、インドール環、インドレン環、イソインドール環、インダゾール環、インドリン環、イソインドリン環、キノリン環、イソキノリン環、キノリンキノリン環、キノキサリン環、キナゾリン環、フタラジン環、プリン環、カルバゾール環、アクリジン環、ナフトキノリン環、フェナントロジン環、フェナントロリン環、ナフチリジン環、ベンゾキノリン環、フェノキサジン環、フタロシアニン環、アントラシアニン環などの縮合環に代表されるヘテロ原子として窒素原子を含む複素環などが挙げられる。
また、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基などの炭素数1〜10、好ましくは1〜6のアルコキシ基が挙げられる。
【0038】
本発明で用いられるポリアミン化合物及びポリイミン化合物の好適な具体例としては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン及び芳香族アミン等を挙げることができる。
【0039】
本発明においては、好ましくは、分子量1,000以上のポリアミン化合物及びポリイミン化合物を用いることができるが、活性化処理後のオレフィンとの反応性や、最終的に得られる改質オレフィンの染色性をより高めるためには、より高分子のものがより好ましい。具体的には、分子量が1,000〜200,000のものが好ましく、分子量が3,000〜200,000のものがより好ましく、分子量が15,000〜200,000のものが特に好ましい。
【0040】
本発明においては、ポリアミン化合物及び/又はポリイミン化合物をオレフィン樹脂に接触させる形態については特に制限はないが、その取り扱いの容易さから、各種溶媒にポリアミン化合物及び/又はポリイミン化合物を溶解して、この溶解液にオレフィン樹脂を浸漬することで両者を接触させることが好ましい。
【0041】
また、この際に用いる溶媒としては、溶解可能であれば特に限定されないが、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルブチルアルコール、イソブチルアルコール、セカンダリーブチルアルコール、ターシャリーブチルアルコール等のアルコール系溶剤;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、イソプロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、乳酸エチル、安息香酸メチル等のエステル系溶剤;ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタン、ノルマルオクタン等の脂肪族炭化水素系溶剤;シクロへキサン、エチルシクロへキサン等の脂環族炭化水素系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;及び石油系溶剤等があるが、ポリアミン化合物及びポリイミン化合物の溶解性が良好でその取り扱いが最も簡単な水が好ましい。
【0042】
また、浸漬時間や、温度などは、用いるオレフィン樹脂、ポリアミン化合物、ポリイミン化合物及び溶媒に応じて適宜選択すればよいが、典型的には、常温〜80℃程度で数秒〜10分程度浸漬する。
また、オレフィン樹脂は、活性化処理した後ポリアミン化合物及び/又はポリイミン化合物の溶液に浸漬するまで、大気中に置くか、好ましくは希ガス(アルゴン、ネオン、ヘリウム)若しくは窒素、又はこれらの混合ガスの雰囲気下に置くのがよい。
【0043】
ポリアミン化合物及び/又はポリイミン化合物による処理後においては、通常、反応液等を除去することが好ましい。必ずしも必要ではないが、例えば、処理後のオレフィン樹脂を湯洗い等して未反応のポリアミン化合物を除去することが好ましい。もっとも、一の実施の形態では、そのまま熱乾燥に供することもできる。
【0044】
但し、本発明の反応工程においては、高濃度の反応液を用いる必要はなく、グラフト重合法による副生物(ホモポリマー)の生成もないため、オレフィン樹脂製の織布や不織布等を表面改質しても、表面改質した織布、編地又は不織布等に目詰まりを生じることは殆んど無いか、あっても簡単に除去可能である。
また、反応工程で未反応のまま残ったポリアミン化合物及び/又はポリイミン化合物は、例えば、20〜80℃の温水で1〜10分程度の時間洗浄すれば、オレフィン樹脂製の織布、編地又は不織布等を表面改質した場合であっても、表面改質した織布、編地又は不織布等からほぼ完全に除去することができる。
【0045】
さらに、反応液として使用されるポリアミン溶液又はポリイミン溶液は、グラフト重合法と違い、ホモポリマーの生成が無いため再利用も可能であり、非常に効率が高いので工業化に適している。
【0046】
2.表面改質オレフィン
上記本発明の製造方法で得られる表面改質オレフィン樹脂は、ポリオレフィンの少なくとも一部に、ポリアミン化合物及び/又はポリイミン化合物、好ましくは分子量1,000〜200,000のポリアミン化合物及び/又はポリイミン化合物が、それぞれ、そのアミノ基若しくはアミド基、又はそのイミノ基を介して結合することによって、オレフィン樹脂の表面が改質されているものである。
【0047】
本発明の表面改質オレフィン樹脂は、高分子のポリアミン化合物で側鎖を構成させることで多量のアミド基若しくはアミノ基が導入されており、これにより、高い染色性、接着性、親水性、及び塗装性を達成できるものである。また、本発明の表面改質オレフィン樹脂は、特にアニオン系染料に対して優れた反応性を有し染料と強固に結合するという理由から高い染色堅牢度も達成できるものである。
【0048】
また、接着性に関しては、シアノアクリレート系、エポキシ系の接着剤に対する優れた接着力を付与することができる。
【0049】
また、本発明の表面改質オレフィン樹脂は、上記のように、非常に穏やかな条件で製造されることから、ポリオレフィンの主鎖の切断が少なく、その本来の特性の劣化が殆どないことも特徴である。
【0050】
具体的には、本発明の表面改質オレフィン樹脂は、好ましくは10,000〜500,000の数平均分子量を有し、より好ましくは30,000〜200,000の数平均分子量を有する。また、耐薬品性、機械的強度、耐熱性、再資源化、剛軟性等のポリオレフィンに起因する特性は、表面改質後であっても殆ど保持されている。
【0051】
一方、本発明の表面改質オレフィン樹脂において、樹脂全体に占めるポリアミン化合物及びポリイミン化合物の比率は、通常0.001〜5重量%である。但し、ポリアミン化合物及びポリイミン化合物は上記の如く通常分子量1,000以上のポリマーであり、表面改質オレフィン樹脂中には、非常に多くのアミド基若しくはアミノ基が存在する。
【0052】
また、本発明の表面改質オレフィン樹脂を構成するポリオレフィンについては、オレフィン樹脂について述べたところと同様であり、その典型的な例は、ポリエチレン若しくはポリプロピレン、又はエチレン若しくはプロピレンと他のα‐オレフィンとの共重合体若しくはランダム共重合体である。
【0053】
本発明の表面改質オレフィン樹脂は、ポリアミン化合物による表面改質で付与された特性を生かし、帯電防止材、ガス吸着材、各種金属キレート材、塗装・染料の廃液回収材、インクジェット捺染布;バンパー、インスツルメントパネル、トリム等の自動車部品;および化粧シート、巾木等の内装に用いる建材など各種工業材料の用途に用いることができる。
【0054】
本発明の表面改質オレフィン樹脂に適用可能な染料としては、直接染料、酸性染料、反応染料、バット染料、植物染料、硫化染料、及びナフトール染料等がある。
【0055】
酸性染料は、絹や羊毛などのタンパク質繊維とナイロン繊維の染色に主として用いられる染料であり、スルホン酸ナトリウム基のような陰イオン性の基を介して、繊維とイオン結合する染料である。この染料には、例えば、アゾ系、アントラキノン系、トリフェニルメタン系、キサンテン系等がある。
【0056】
反応染料は、水に可溶で水中でアニオン性を示す。セルロール繊維の水酸基と反応し、共有結合を生成する。染料の反応基にはビニルスルホン型やモノクロロトリアジン型があり、これらがセルロースの水酸基と求核的付加反応、求核的置換反応し強固に結合され、優れた堅牢度が得られる。反応染料は酸性染料と類似の色素母体を有し、例えば、ピラゾロンアゾ系(黄色系)、γ酸アゾ系(橙色系)、H酸アゾ系(赤色系)、アントラキノン系(青色系)等がある。
【0057】
直接染料は、水溶性アニオン染料の中で、比較的分子量が大きくセルロース繊維に対して親和性を有する。染色操作が容易で比較的安価であるという特徴があるが、色相の鮮明さに欠け、概して耐光、洗濯堅牢度が低いという欠点がある。また、染料分子の殆んどがアゾ基をもち、かつ水溶性のスルホン酸を含んだ色素酸のナトリウム塩である。
【0058】
バット染料は、水に不溶であるが、アルカリ性下で還元剤により還元すると、水溶性のロイコ体になって、繊維に染着し、空気などで酸化される染料である。この染料には、インジゴ系とアントラキノン系がある。
【0059】
植物染料は、種々の植物の根、幹、樹皮、葉、花、実などから抽出された色素を主成分とする染料である。あかね、かりやす、くちなし、すおう、むらさき、たまねぎ、やしゃ、くりなど多くの材料が有用である。染色に際しては、媒染剤として、2価以上の金属化合物(鉄、銅、アルミニウム、クロム等の塩)を用いることがある。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例によってなんら限定解釈されるものではない。
【0061】
(実施例1)
ポリプロピレン織布(MRCパイレン株式会社製、PPタフタ(75デニール))を基材として用いた。プラズマ処理前のポリプロピレン織布の表面張力を、[0036]記載の方法に従って、ぬれ張力試験用混合液(和光純薬工業株式会社製)を滴下して確認したところ、32mN/mであった。このポリプロピレン織布の両面に、プラズマ処理を、(株)サムコインターナショナル研究所製プラズマ処理機(型番BP−1)を用い、酸素とアルゴン(Ar)の混合ガス(酸素濃度50体積%、流量毎分40ml)雰囲気、真空度0.1Torr、周波数13.56MHz、出力50W、照射時間30秒の条件で行った。
【0062】
プラズマ処理を終了してから数分後、処理したポリプロピレン織布を取り出し、プラズマ処理によって活性化されたポリプロピレン織布の表面張力を、[0036]記載の方法に従って、ぬれ張力試験用混合液(和光純薬工業株式会社製)を滴下して確認したところ、50mN/mであった。取り出したポリプロピレン不織布は、予め調製しておいた20℃のポリエチレンイミン(和光純薬工業株式会社製、平均分子量70,000)の0.1重量%水溶液中に、数分間浸漬して反応させた。
【0063】
反応後、ポリエチレンイミンで処理したポリプロピレン織布を取り出し、60℃の流水(HO)で、約10分間濯ぎ(流量5リットル/分)、未反応のポリエチレンイミンを除去した。
【0064】
次に、染料を、Remazol染料Brill.Blue G(Dystar製)210mgと、染料分散剤(マルチファイン、センカ(株)製)210mg、芒硝(和光純薬(株)製)8.4g、及びソーダ灰(和光純薬工業(株)4.2gとを210mlの水(温度50℃)に溶解して調製し、織布の一部(7g)を、調整した染料で、高圧試染機(LHD−308−2E、辻井染機工業(株))を用いて、50℃、90分間、1気圧の雰囲気で染色した。
【0065】
染色後、90℃、10分間、ビスノールAD(一方社油脂工業(株))2gを水1リットルに溶かしたソーピング剤で織布にソーピングを行った。
【0066】
(比較例1)
プラズマ処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、ポリプロピレン織布を処理、染色して、最終生成物を得た。但し、得られた生成物は、全く染色されていなかった。
【0067】
(評価)
上記実施例1で得られた染色布について、洗濯堅牢度試験(JIS L 0844 A−1法)、光及び汗に対する堅牢度試験(JIS L 0888 B法)及び摩擦堅牢度試験(JIS L 0849 II形)を行って染色の堅牢度を評価した。結果を以下の表にまとめて示す。
【0068】
【表1】

【0069】
(実施例2)
ポリエチレンイミンをポリアリルアミン(日東紡績株式会社製、PAA−HCl−3L、重量平均分子量15,000)0.1重量%の水溶液に変更した以外は実施例1と同様に処理して、染色に供するための織布を得た。
【0070】
次に、染料として Indanthren染料Blue BC coll(Dystar製)300mgを均染剤(一方社油脂工業株式会社製、KYA−800B)100mg、苛性ソーダ38°Be(和光純薬工業株式会社製)2g、ハイドロサルファイト(和光純薬工業株式会社製)0.6g、水200ml(60℃)に溶解させ染料とした。
【0071】
この調製した染料で、処理後の織布10gを、60℃、60分間、高圧試染機(辻井染機工業株式会社、LHD−308−2E)にて染色した。染色後、水1lに過酸化水素H(35%)を3ml溶解させた溶液(50℃)に染色した織布を10分間浸漬し、酸化処理した。
【0072】
染色後、90℃、10分間、均染剤(一方社油脂工業株式会社製、KYA−800B)2gを水1リットルに溶かしたソーピング剤で織布にソーピングを行った。
【0073】
(比較例2)
プラズマ処理を行わなかったこと以外は、実施例2と同様にして、ポリプロピレン織布を処理、染色して、最終生成物を得た。但し、得られた生成物は、全く染色されていなかった。
【0074】
(評価)
上記実施例2で得られた染色布について、洗濯堅牢度試験(JIS L 0844 A−1法)、光及び汗に対する堅牢度試験(JIS L 0888 B法)及び摩擦堅牢度試験(JIS L 0849 II形)を行って染色の堅牢度を評価した。結果を以下の表にまとめて示す。
【0075】
【表2】

【0076】
(実施例3)
ポリエチレンイミンをポリビニルアミン(ダイヤニトリックス株式会社製、分子量60,000)0.1重量%の水溶液に変更した以外は実施例1と同様に処理して、染色に供するための織布を得た。
【0077】
次に、染料として Telon染料Blue AFN(Dystar製)200mgを均染剤(センカ株式会社製、ミグレガールN−11E、)200mg、芒硝0.4g、酢酸4g、水200mlに溶解させ染料とした。
【0078】
この調製した染料で、処理後の織布7gを、100℃、90分間、1気圧の雰囲気で高圧試染機(辻井染機工業株式会社、LHD−308−2E)にて染色した。
【0079】
染色後、90℃、10分間、ビスノールAD(一方社油脂工業(株))2gを水1リットルに溶かしたソーピング剤で織布にソーピングを行った。
【0080】
(比較例3)
プラズマ処理を行わなかったこと以外は、実施例3と同様にして、ポリプロピレン織布を処理、染色して、最終生成物を得た。但し、得られた生成物は、全く染色されていなかった。
【0081】
(評価)
上記実施例3で得られた染色布について、洗濯堅牢度試験(JIS L 0844 A−1法)、光及び汗に対する堅牢度試験(JIS L 0888 B法)及び摩擦堅牢度試験(JIS L 0849 II形)を行って染色の堅牢度を評価した。結果を以下の表にまとめて示す。
【0082】
【表3】

【0083】
(実施例4)
厚み0.5mmのポリプロピレン製フィルムを準備し、その表面をメタノールにより脱脂してから25mm×100mmの大きさの試験片を作成した。
この作成したポリプロピレン製フィルムの両面に、プラズマ処理を(株)サムコインターナショナル研究所製プラズマ処理機(型番BP−1)を用い、酸素とアルゴンの混合ガス(酸素濃度50体積%、流量40ml/分)雰囲気、真空度0.1Torr、周波数13.56MHz、出力30W、照射時間30秒の条件で行った。
【0084】
プラズマ処理を終了してから、処理したポリプロピレン製フィルムを予め調整しておいた20℃のポリビニルアミン(ダイヤニトリックス(株)、分子量60,000)の0.1重量%水溶液中に、数分間浸漬して反応させた。
【0085】
反応後、ポリビニルアミンで処理したポリプロピレン製フィルムを取り出し、60℃のお湯で、約5分間流水で濯ぎ(流量5リットル/分)、未反応のポリビニルアミンを除去して最終生成物を得た。
【0086】
上記の方法で得られた最終生成物であるポリプロピレン製フィルム2枚を準備し、それぞれの片面に接着剤を適量塗布した後、ポリプロピレン製フィルムの接着面どうしを貼り合わせ、荷重1kg/10cm(接着面積幅25mm×長さ12.5mm)、25℃、65%のRHの条件下で3日間養生して、引張剪断接着強さをJIS K 6850に準拠して測定した。
接着剤はシアノアクリルレート系接着剤(東亜合成株式会社製、商品名:アロンアルファ)を使用した。
【0087】
(実施例5)
実施例4と同様にして得られた最終生成物について、接着剤としてエポキシ樹脂系接着剤(コニシ株式会社製、商品名:ボンドクイック5)を塗布した以外は実施例4に記載する方法で引張剪断接着強さを測定した。
【0088】
(比較例4)
脱脂したポリプロピレン製フィルムを実施例4の条件でプラズマ処理だけ行って最終生成物を得、得られた最終生成物について実施例4に記載する方法で引張剪断接着強さを測定した。
【0089】
(比較例5)
脱脂したポリプロピレン製フィルムを実施例4の条件でプラズマ処理だけ行って最終生成物を得、得られた最終生成物に、接着剤として実施例5で用いたエポキシ樹脂系接着剤を塗布した以外は実施例4と同様にして引張剪断接着強さを測定した。
【0090】
【表4】

【0091】
(実施例6)
25mm×200mmのポリプロピレン製フィルムを用いたこと以外は実施例4と同様にして最終生成物を得、得られた最終生成物2枚を、シアノアクリルレート系接着剤(東亜合成株式会社製、商品名:アロンアルファ)を適量塗布して貼り合わせ、荷重1kg/10cm(接着面積:幅25mm×長さ15mm)、25℃、65%のRHの条件下で3日間養生して、180°剥離接着強さをJIS K 6854−2に準拠して測定した。
【0092】
(実施例7)
25mm×200mmのポリプロピレン製フィルムを用いたこと以外は実施例4と同様にして最終生成物を得、接着剤をエポキシ樹脂系接着剤(コニシ株式会社製、商品名:ボンドクイック5)に変えた以外は、実施例6に記載する方法で得られた最終生成物について180°剥離接着強さを測定した。
【0093】
(比較例6)
脱脂した25mm×200mmのポリプロピレン製フィルムを実施例4の条件でプラズマ処理だけ行って最終生成物を得、得られた最終生成物について実施例6に記載する方法で180°引張剪断接着強さを測定した。
【0094】
(比較例7)
脱脂した25mm×200mmのポリプロピレン製フィルムを実施例4の条件でプラズマ処理だけ行って最終生成物を得、得られた最終生成物について、接着剤として実施例5で用いたエポキシ樹脂系接着剤を用いた以外は実施例6に記載する方法で180°引張剪断接着強さを測定した。
【0095】
【表5】

【0096】
(考察)
引張剪断接着強さは、実施例5と比較例5の比較においては、基材であるポリプロピレン製フィルムそのものが破壊したため、その値に差が認められないが、実施例4は比較例4より優位に高い値である。また、180°剥離接着強さでは、実施例6、7の値が比較例6、7の値より高い。したがって、総体的に見れば、プラズマ処理後ポリアミン化合物やポリイミン化合物による2次処理をすることにより、プラズマ処理のみよりもポリプロピレン製フィルムと接着剤との接着性が向上したと言える。
この理由としては次のようなことが考えられる。
プラズマ処理後ポリアミン化合物やポリイミン化合物による2次処理を併用することにより、ポリアミン化合物やポリイミン化合物の反応部位がポリプロピレン製フィルム表面上に数多く生じる。これらの反応部位と接着剤との間に水素結合や重合反応などが生じる。その結果、プラズマ処理のみの処理よりもポリプロピレン製フィルムと接着剤との接着性が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0097】
以上の通り、本発明によれば、一般的なオレフィン樹脂を基材として用いることができ、しかも、当該基材の特性に悪影響を及ぼさない穏やかで且つ簡易な工程により染色性、接着性、親水性、及び塗装性に優れるオレフィン樹脂を得ることができる、表面改質オレフィン樹脂の製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン樹脂を活性化処理し、該活性化処理により表面が活性化している該オレフィン樹脂を、ポリアミン化合物及び/又はポリイミン化合物と接触させることを特徴とする、表面改質オレフィン樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記活性化処理後、活性処理されたオレフィン樹脂の表面張力が活性処理前のオレフィン樹脂の表面張力に対して1.1倍以上である時点で、該活性処理されたオレフィン樹脂を前記ポリアミン化合物及び/又は前記ポリイミン化合物と接触させる、請求項1に記載の表面改質オレフィン樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記ポリアミン化合物及び前記ポリイミン化合物が、1,000〜200,000(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー法)の重量平均分子量を有する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ポリアミン化合物は、その分子内に、第一アミン(R−NH)、第二アミン(R−NH)、第三アミン(R−N)、又はアミド(R−CONH)を有する重合体又は共重合体である(各式中Rは、アルキル、アリール、アラルキル、アルケニル及びアルキニルからなる群から選択される炭化水素基を意味する)、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記オレフィン樹脂が、ポリエチレン若しくはその共重合体、又はポリプロピレン若しくはその共重合体である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
ポリオレフィンの少なくとも一部に、ポリアミン化合物が、そのアミノ基若しくはアミド基を介して結合していることを特徴とする、表面改質オレフィン樹脂。
【請求項7】
ポリオレフィンの少なくとも一部に、ポリイミン化合物が、そのイミノ基を介して結合していることを特徴とする、表面改質オレフィン樹脂。
【請求項8】
前記ポリアミン化合物又は前記ポリイミン化合物が、1,000〜200,000(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー法)の重量平均分子量を有する、請求項6又は7に記載の表面改質オレフィン樹脂。
【請求項9】
前記ポリオレフィンが、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−2、ヘキセン−1、4−メチル−ペンテン−1、及びオクテン−1からなる群から選択されるα‐オレフィンの単独重合体若しくはこれらの2種以上の共重合体、またはこれらの単独重合体及び/又は共重合体の混合物である、請求項6〜8のいずれか1項に記載の表面改質オレフィン樹脂。
【請求項10】
前記ポリオレフィンが、ポリエチレン若しくはポリプロピレン、又はエチレン若しくはプロピレンと他のα‐オレフィンとの共重合体若しくはランダム共重合体である、請求項6〜9のいずれか1項に記載の表面改質オレフィン樹脂。
【請求項11】
数平均分子量が10,000〜500,000である、請求項6〜10のいずれか1項に記載の表面改質オレフィン樹脂。

【公開番号】特開2008−255207(P2008−255207A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−98143(P2007−98143)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【出願人】(505089614)国立大学法人福島大学 (34)
【Fターム(参考)】