説明

表面改質された無機酸化物粉体及び該無機酸化物粉体の製造方法並びに半導電材料

【課題】半導電材料等の導電性付与剤として用いた際に、十分、かつ安定した導電性を付与し得る無機酸化物粉体を提供する。
【解決手段】無機酸化物粉体に表面処理を施すことにより表面改質された無機酸化物粉体において、表面に窒素を含有するオニウム塩を有し、窒素含有量が0.02%以上3%以下であり、かつオニウム塩の固定化率が50%以上100%以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂・ゴム部材、帯電防止用フィルム、コート材等の各種半導電部材に導電性を持たせ、帯電防止効果を付与するために添加される導電性付与剤として好適な無機酸化物粉体に関する。更に詳しくは、樹脂等に添加した際に、十分に、かつ安定した導電性を付与し得る無機酸化物粉体及び該無機酸化物粉体の製造方法並びに該該無機酸化物粉体を導電性付与剤として用いた半導電材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
テレビ等の電気機器、自動車部品、光学用レンズ等の精密機器、光ディスク、有機板ガラス、看板等の様々な分野において、合成樹脂が利用されている。合成樹脂は、ガラス製品等に比べて軽量で強靱性に優れる反面、帯電しやすく、ホコリ等が付きやすいといった欠点がある。このような欠点を解消するため、組成物に導電性を有する添加剤を添加した半導電材料を用いて部材を製造することによって部材自体に導電性を付与したり、或いは部材表面に上記半導電材料を用いて得られたフィルムやコート材を設置して、帯電防止効果を付与するといった対策がなされている。
【0003】
導電性を付与する方法については、従来から種々の検討がなされている。例えば、帯電防止剤としてアルカリ金属、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩等の塩とイミダゾリン型界面活性剤とを併用した光硬化性樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、別の方法として、有機バインダにATO(五酸化アンチモンでドーピングした酸化錫)等の導電性を有する無機粒子を添加する方法、更にはこの無機粒子をシランカップリング剤で表面処理して添加した帯電防止ハードコート用組成物が開示されている。また、これら以外の方法としては、樹脂組成物に各種イオン性液体を添加してオニウム塩を含有させる方法も検討されている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−339306号公報(請求項 、段落[0018]、段落[0019])
【特許文献2】特開2004−107529号公報(請求項1、段落[0015])
【特許文献3】特開2006−193704号公報(請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のように帯電防止剤としてイオン導電剤を添加する場合、温度や湿度等、周囲の環境変化による体積抵抗率の変動が大きく、耐環境性が低いことや、ゴム又は樹脂等の他の材料との相性によってはイオン導電剤のブリードが生じ、長期的に安定した体積抵抗率が得られないという問題が生じる。また、上記無機粒子を添加する方法では、バインダ等の有機材料と無機粒子との親和性が悪く、分散性が悪化するため、面内抵抗値にバラツキが生じやすい。上記特許文献2のように、無機粒子をシランカップリング剤で表面処理することによって分散性は向上するものの、無機粒子に重金属を使用しているため、環境面における問題点は改善されない。更に、上記特許文献3のように、イオン性液体を樹脂組成物に直接添加した場合でも、上記特許文献1のようにブリードが生じてしまい、上記問題点は解決されていない。
【0006】
そこで本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、イオン性液体で表面処理した無機酸化物粉体であって、粉体表面にイオン性液体によるオニウム塩が高い固定化率で固定された無機酸化物粉体を半導電材料の導電性付与剤として用いると、イオン性液体のブリードを生じさせることなく、しかもイオン性液体によるオニウム塩が、導電性を付与し、安定した体積抵抗率が得られることを知見した。そして、特定の反応基を有するイオン性液体と、特定の反応基を有する有機ケイ素化合物を組み合わせた表面処理が、粉体表面のオニウム塩の固定化率を向上させるという事実に着眼し、本発明に至ったものである。
【0007】
本発明の目的は、半導電材料等の導電性付与剤として用いた際に、十分、かつ安定した導電性を付与し得る無機酸化物粉体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点は、無機酸化物粉体に表面処理を施すことにより表面改質された無機酸化物粉体において、イオン性液体とアルコキシ基を有する有機ケイ素化合物とを用いた表面処理により、窒素を含有するオニウム塩を粉体表面に有し、窒素含有量が0.02%以上3%以下であり、かつオニウム塩の固定化率が50%以上100%以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に9.8×106Paの圧力をかけたときの体積抵抗率が106〜1011Ωcmの範囲にあることを特徴とする。
【0010】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点に基づく発明であって、表面処理がイオン性液体と有機ケイ素化合物と更に表面改質剤を併用した表面処理であることを特徴とする。
【0011】
本発明の第4の観点は、第1ないし第3の観点に基づく発明であって、更にイオン性液体を構成するアニオンがフッ化アルキルスルホニル基を含有することを特徴とする。
【0012】
本発明の第5の観点は、第1ないし第4の観点に基づく発明であって、更に無機酸化物粉体が噴霧火炎法により得られた無機酸化物粉体であることを特徴とする。
【0013】
本発明の第6の観点は、第1ないし第5の観点に基づく発明であって、更にイオン性液体を構成するカチオンが水酸基を含む置換基を有する第4級アンモニウムカチオンであり、有機ケイ素化合物がイソシアネート基又はエポキシ基を含む置換基を有する化合物であることを特徴とする。
【0014】
本発明の第7の観点は、第1ないし第6の観点に基づく発明であって、更に無機酸化物粉体がシリカ、チタニア及びアルミナからなる群より選ばれた1種の無機酸化物粉体又は2種以上の複合無機酸化物粉体であることを特徴とする。
【0015】
本発明の第8の観点は、ゴム又は樹脂100質量部と、第1ないし第7の観点の表面改質された無機酸化物粉体1〜80質量部とを配合してなり、体積抵抗率が105〜1011Ωcmの範囲にある半導電材料である。
【0016】
本発明の第9の観点は、無機酸化物粉体に表面処理を施すことにより表面改質された無機酸化物粉体を製造する方法において、表面処理がイオン性液体とアルコキシ基を有する有機ケイ素化合物を用いた表面処理又はイオン性液体とアルコキシ基を有する有機ケイ素化合物と更に表面改質剤を併用した表面処理であることを特徴とする。
【0017】
本発明の第10の観点は、第9の観点に基づく発明であって、更に表面処理は不活性ガス雰囲気下、無機酸化物粉体を攪拌しながら、粉体100質量部に対して0.2〜25質量部の有機ケイ素化合物を添加する工程と、有機ケイ素化合物を添加した後、粉体100質量部に対して0.4〜50質量部のイオン性液体又はイオン性液体に更に表面改質剤を添加したイオン性液体を添加する工程と、80℃〜300℃の温度で30〜120分間混合する工程とを含むことを特徴とする。
【0018】
本発明の第11の観点は、第9又は第10の観点に基づく発明であって、更にイオン性液体を構成するカチオンが水酸基を含む置換基を有する第4級アンモニウムカチオンであり、有機ケイ素化合物がイソシアネート基又はエポキシ基を含む置換基を有する有機ケイ素化合物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1の観点の無機酸化物粉体は、イオン性液体とアルコキシ基を有する有機ケイ素化合物とを用いた表面処理により、窒素を含有するオニウム塩を粉体表面に有し、窒素含有量が0.02%以上3%以下であり、かつオニウム塩の固定化率が50%以上100%以下である。このように、表面に窒素を含有するオニウム塩を有するため、この無機酸化物粉体を半導電材料等の導電性付与剤として使用した場合、優れた帯電防止効果を発現させ得る。また、粉体表面のオニウム塩はイオン性液体とアルコキシ基を有する有機ケイ素化合物とを用いた表面処理により、非常に高い固定化率で存在している。このため、耐水性、耐溶剤性及び耐久性に優れ、長期的に安定した体積抵抗率が得られる。更に窒素含有量が上記範囲であるため、帯電防止効果に有用であるとされる106〜1011Ωcmという低い体積抵抗率を有する。
【0020】
本発明の第8の観点の半導電材料は、ゴム又は樹脂と、上記本発明の表面改質された無機酸化物粉体とを所定の割合で配合してなり、105〜1011Ωcmの範囲の体積抵抗率を有する。この半導電材料は、導電性付与剤としてオニウム塩が高い固定化率で固定された本発明の無機酸化物粉体を配合してなるため、これを用いて製造される半導電部材において、イオン性液体によるブリードの発生を極めて少なく抑えることができる。また、耐水性、耐溶剤性及び耐久性に優れるため、長期的に安定した体積抵抗率を有する半導電部材を製造することができる。
【0021】
本発明の第9の観点の製造方法では、イオン性液体とアルコキシ基を有する有機ケイ素化合物を用いた表面処理又はイオン性液体とアルコキシ基を有する有機ケイ素化合物と更に表面改質剤を併用した表面処理を施す。表面処理にイオン性液体と、アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物を用いることによって、従来の、例えばイオン性液体のみを用いた表面処理等に比べて、オニウム塩の固定化率がより高い無機酸化物粉体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】無機酸化物粉体の表面とイオン性液体及び有機ケイ素化合物との反応機構を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
本発明の無機酸化物粉体は、表面処理を施すことにより表面改質された無機酸化物粉体であり、図1に示すように、表面に窒素を含有するオニウム塩を有する。表面に窒素を含有するオニウム塩を有する無機酸化物粉体は、これをゴム部材、合成樹脂部材、帯電防止用フィルム、コート剤等の導電性付与剤として用いた場合、良好な導電性を付与できることから、優れた帯電防止効果を発現させる。
【0025】
無機酸化物粉体表面に有するオニウム塩は、後述の表面処理に用いるイオン性液体に起因するものである。表面処理は、イオン性液体とアルコキシ基を有する有機ケイ素化合物とを用いた表面処理である。この表面処理によって表面改質された本発明の無機酸化物粉体において、イオン性液体と有機ケイ素化合物はイオン性液体のカチオンが有する反応基と、有機ケイ素化合物が有する反応基との相互作用によってこれらが結合している。そして、有機ケイ素化合物は、該化合物が有するアルコキシ基と表面処理を施す前の粉体表面に有する水酸基との加水分解反応により、強固な共有結合によって固定される。即ち、図1に示すように、無機酸化物粉体がその表面に有するオニウム塩は、イオン性液体と有機ケイ素化合物が有する反応基同士の相互作用による結合と、有機ケイ素化合物と粉体表面の共有結合の2つの結合が関与することにより、粉体表面に高い固定化率で固定されている。
【0026】
イオン性液体は、カチオンとして、有機ケイ素化合物が有する反応基との相互作用により、これらを結合させ得る反応基を有するものであり、有機ケイ素化合物が有する反応基の種類によって決定される。好ましくはケイ素原子を含有しない反応基、特に好ましくは水酸基を有するものである。アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物は、イオン性液体が有する反応基との相互作用が得られる反応基を有するものであり、イオン性液体のカチオンが有する反応基の種類によって決定される。イオン性液体として上記水酸基を有するものを選択した場合は、イソシアネート基又はエポキシ基を反応基として有するものが好ましい。
【0027】
従来の、イオン性液体を用いた表面処理により表面改質された無機酸化物粉体では、無機酸化物粉体の表面に、単にイオン性液体によるオニウム塩が、物理的に被覆された状態で存在しているため、溶剤等に添加した際に容易に粉体表面からオニウム塩が分離してしまう。このため、この無機酸化物粉体を、例えば半導電材料等の導電性付与剤としての用途に用いた場合、粉体表面からオニウム塩が分離することにより、ブリードが生じる。そのため、長期的に安定した体積抵抗率が得られないという不具合が生じる。
【0028】
一方、本発明の無機酸化物粉体は、上述のように、イオン性液体と有機ケイ素化合物が有する反応基同士の相互作用による結合と、有機ケイ素化合物と粉体表面の共有結合によって無機酸化物粉体表面にイオン性液体によるオニウム塩が強固に結合しているため、非常に高い耐水性、耐溶剤性及び耐久性を示す。このため、溶剤等に添加した場合でもオニウム塩は容易に分離せずに粉体表面に存在し、半導電材料等の導電性付与剤としての用途に用いた際に、半導電材料等は安定した体積抵抗率を維持することができる。例えば、合成樹脂やゴム等に添加した場合に、安定した導電性を付与し、ホコリ等の付着を防止することができる。
【0029】
本発明の無機酸化物粉体の耐水性、耐溶剤性及び耐久性については、オニウム塩の固定化率によって示される。固定化率は無機酸化物粉体とオニウム塩の結合の度合いをいい、例えば表面処理した無機酸化物粉体を所定の条件で抽出溶剤で処理したとき、抽出処理前の粉体表面に存在するオニウム塩に対する処理後の粉体表面に存在するオニウム塩の割合によって表すことができる。即ち、固定化率が高いほど、無機酸化物粉体表面にオニウム塩がより強固に結合していることを意味する。オニウム塩は、上述のように、無機酸化物粉体の表面処理に用いた窒素を含有するイオン性液体に起因するものであるため、粉体表面における窒素量でもってオニウム塩の固定化率を判断することができる。本明細書において、オニウム塩の固定化率とは、ソックスレー抽出装置(BUCHI社製)により、所定の条件で抽出処理した後、この粉体に残存する窒素量の、抽出前の窒素量に対する割合をいう。なお、表面処理に用いる有機ケイ素化合物が、例えばイソシアネート基のような窒素を含有する反応基を有する場合には、これらの窒素も含めた粉体表面における抽出前後の窒素量から算出したものをいう。
【0030】
本発明の無機酸化物粉体は、オニウム塩の固定化率が50%以上100%以下、好ましくは60%以上100%以下、より好ましくは70%以上100%以下と非常に高い値を示すものである。固定化率が50%未満では、これを半導電材料等の導電性付与剤として用いた場合、安定した電気抵抗率が得られない。一方、上限値を越えるものを実際に得るのは困難である。また、本発明の無機酸化物粉体は、窒素含有量が0.02%以上3.0%以下である。窒素含有量とは、この無機酸化物粉体に残存する窒素量の、無機酸化物粉体に対する割合をいう。窒素含有量が高い無機酸化物粉体ほど、導電性を付与する効果が高いことを意味する。窒素含有量が0.02%未満では、電気抵抗率が高くなり、十分に導電性を付与することができず、優れた帯電防止効果を発現させることができない。一方、上限値を越えると、固定化率が低下する。即ち、過剰なオニウム塩がブリードしてしまうことにより電気抵抗率が変動したり、また、部材等を汚染するといった不具合が生じる。このうち、窒素含有量は、0.05%以上2.0%以下であることが好ましい。
【0031】
本発明の表面改質された無機酸化物粉体の母体となる無機酸化物粉体は、シリカ、チタニア及びアルミナからなる群より選ばれた1種の無機酸化物粉体又は2種以上の複合無機酸化物粉体であることが好ましい。シリカ粉は、珪酸ソーダ水溶液の酸又はアルカリ金属塩による中和により得られた、いわゆる湿式シリカでも良いが、ハロゲン化ケイ素化合物等の揮発性ケイ素化合物の火炎加水分解を行う噴霧火炎法によって得られた、いわゆる乾式法シリカが好ましい。また、チタニア粉は、揮発性のチタン化合物を揮発させてガス状態とし、これを可燃性又は不燃性ガスの存在下で高温分解して得られたものが好ましい。また、アルミナ粉は、熱分解法によって得られたものが好ましい。一方、複合無機酸化物粉体は、例えば、次のような方法で得られたシリカとチタニアの複合無機酸化物粉体を好適に用いることができる。先ず、四塩化ケイ素ガスと四塩化チタンガスとを不活性ガスと共に燃焼バーナの混合室に導入して水素及び空気と混合し、所定の比率の混合ガスとする。そして、この混合ガスを反応室で1000〜3000℃の温度で焼成して、シリカとチタニアの複合無機酸化物微粒子を生成させる。最後に、生成した微粒子を冷却してフィルタにて捕集することにより、シリカとチタニアの複合無機酸化物粉体が得られる。また、これらの無機酸化物粉体又は複合無機酸化物粉体に、リチウム、ナトリウム又はカリウム等のアルカリ金属酸化物や、マグネシウム又はカルシウム等のアルカリ土類金属を5質量%の割合で添加混合させた混合粉末を用いてもよい。
【0032】
これら母体となる無機酸化物粉体の1次平均粒径は、7〜100nmであることが好ましく、BET比表面積が30〜400m2/gであるものが好ましい。BET比表面積が下限値未満のものでは、平均粒径が大きくなりすぎるため、乾式法による製造が困難である。一方、上限値を越えるものは、平均粒径が小さく、現状では工業製品として存在しない。なお、本明細書において1次平均粒径とは、TEM(透過型電子顕微鏡)によって撮影された写真から、任意に選択した微粒子100個についてその粒径を測定し、これらを平均した値である。また、BET比表面積とは、BET法により測定された値である。
【0033】
上記無機酸化物粉体又は複合無機酸化物粉体の表面処理は、イオン性液体とアルコキシ基を有する有機ケイ素化合物を用いて行われる。一般にイオン性液体は、次の式(1)で示されるカチオン(Q+)及びアニオン(A-)からなる常温で液体の溶融塩である。
【0034】
+- (1)
カチオンとしては、次の式(2)〜(4)に示す第4級アンモニウムカチオンが挙げられる。
【0035】
【化1】

但し、式(2)中、R1〜R4はそれぞれ互いに同じであっても異なっていてもよく、置換されていてもよいアルキル基又は該置換されていてもよいアルキル基を有するグリコール基を示す。
【0036】
【化2】

但し、式(3)中、Q1は置換されていてもよい含窒素脂肪族環基を示す。R1及びR2は上記に同じ。
【0037】
上記式(3)において、置換されていてもよい含窒素脂肪族環基としては、例えばピロリジル基、2−メチルピロリジル基、3−メチルピロリジル基、2−エチルピロリジル基、3−エチルピロリジル基、2,2−ジメチルピロリジル基、2,3−ジメチルピロリジル基、ピペリジル基、2−メチルピペリジル基、3−メチルピペリジル基、4−メチルピペリジル基、2,6−ジメチルピペリジル基、2,2,6,6−テトラメチルピペリジル基、モルホリノ基、2−メチルモルホリノ基、3−メチルモルホリノ基等が挙げられる。
【0038】
【化3】

但し、式(4)中、Q2は置換されていてもよい含窒素ヘテロ芳香族環基を示す。R1は上記に同じ。
【0039】
上記式(4)において、置換されていてもよい含窒素ヘテロ芳香族基としては、例えばピリジル基、2−メチルピリジル基、3−メチルピリジル基、4−メチルピリジル基、2,6−ジメチルピリジル基、2−メチル−6−エチルピリジル基、1−メチルイミダゾリル基、1,2−ジメチルイミダゾリル基、1−エチルイミダゾリル基、1−プロピルイミダゾリル基、1−ブチルイミダゾリル基、1−ペンチルイミダゾリル基、1−へキシルイミダゾリル基等が挙げられる。
【0040】
本発明において、表面処理に用いるイオン性液体は、上記式(2)で示されるイオン性液体において、イオン性液体を構成するカチオンが、上記式(2)〜式(4)に示す第4級アンモニウムカチオンであって、表面処理に用いる有機ケイ素化合物の反応基と相互作用を生じさせ、これらを結合させ得る反応基を有するものである。
【0041】
有機ケイ素化合物の反応基と相互作用を生じさせるイオン性液体が有する反応基は、有機ケイ素化合物の反応基の種類によって決定されるが、有機ケイ素化合物の反応基がイソシアネート基又はエポキシ基である場合には、水酸基が挙げられる。
【0042】
表面処理に用いる有機ケイ素化合物の反応基と相互作用を生じさせる水酸基等の反応基は、上記式(2)〜式(4)で示される第4級アンモニウムカチオンにおけるR1〜R4で示される、水素が他の置換基によって置換されていてもよいアルキル基のいずれかに、該アルキル基の置換基として少なくとも1つ含まれていればよい。即ち、上記式(2)〜式(4)で示される第4級アンモニウムカチオンにおいて、R1〜R4で示される置換されていてもよいアルキル基であって、少なくとも1つの水素が上記水酸基等の反応基によって置換されているものの具体例としては、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、5−ヒドロキシヘプチル基又は6−ヒドロキシヘキシル基等が挙げられる。
【0043】
上記式(2),式(3)において、水酸基等の反応基を含まない他のR1〜R4で示される置換さていてもよいアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数1〜18の直鎖状、分岐鎖状又は環状の飽和或いは不飽和の無置換アルキル基、或いはかかる無置換アルキル基を構成する一つ又は二つ以上水素原子が、例えばフェニル基等のアリール基、例えばジメチルアミノ基等の二置換アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、例えばホルミル基、アセチル基等のアシル基、例えばメトキシ基、エトキシ基、2−メトキシエトキシ基等のアルコキシ基、例えばビニル基等のアルケニル基、水酸基等の置換基で置換された、例えば1−メトキシエチル基、2−(ジメチルアミノ)メチル基、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、2−メトキシエチル基、2−(2−メトキシエトキシ)エチル基、アリル基等が挙げられる。
【0044】
本発明において、表面処理に用いられるイオン性液体を構成する上記第4級アンモニウムカチオンの具体例としては、例えば、1−(3−ヒドロキシプロピル)ピリジニウム、1−(6−ヒドロキシヘキシル)トリメチルアンモニウム、N−メチル−N−(3−ヒドロキシプロピル)ピペリジニウム又は1−メチル−3−(3−ヒドロキシプロピル)イミダゾリウム、オレイルジメチル−(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、ジ−(2−ヒドロキシエチル)オレイルエチルアンモニウム、ジ−(2−ヒドロキシエチル)オクチルアンモニウム、トリメチル−(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム等が挙げられる。イオン性液体を構成するアニオンとしては、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミデートイオン[N(SO2CF32-]、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミデートイオン[N(SO2252-]、トリフルオロメタンスルホン酸イオン又はトリス(トリフルオロメチルスルホニル)炭酸イオン等が挙げられる。
【0045】
本発明において、上記カチオン及びアニオンから選択されるイオン性液体のうち、1−(ヒドロキシプロピル)ピリジニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−(ヒドロキシヘキシル)トリメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N−メチル−N−(ヒドロキシトリメトキシシリルプロピル)ピペリジニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド又は1−メチル−3−(ヒドロキシプロピル)イミダゾリウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドが特に好ましい。
【0046】
本発明において、表面処理に用いる有機ケイ素化合物は、表面処理を施す前の粉体表面に有する水酸基との加水分解反応によって、強固な共有結合を形成するための1〜3のアルコキシ基を有する、次の式(5)で示されるアルコキシシランである。
【0047】
【化4】

但し、式(5)中、Xは1〜3の整数であり、R5は炭素数1〜3のアルキル基であり、R6は炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基又はトリフルオロプロピル基である。表面処理に用いる有機ケイ素化合物がアルコキシ基を有することにより、図1に示すように、無機酸化物粉体表面の水酸基とアルコキシ基との加水分解反応によって強固な共有結合で結合される。
【0048】
また、式(5)中、R7は、表面処理に用いる上記イオン性液体のカチオンが有する反応基と相互作用を生じさせ、これらを結合させ得る反応基を含む置換基を示す。
【0049】
イオン性液体が有する反応基が水酸基の場合、これと相互作用を生じさせる反応基はイソシアネート基又はエポキシ基であり、R7はイソシアネート基を有する炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数2〜12のエポキシ基を含む置換基であることが好ましい。R7がイソシアネート基を有する炭素数1〜6のアルキル基である有機ケイ素化合物としては、3−イソシアネートプロピル)トリエトキシシラン又は(3−イソシアネートプロピル)トリメトキシシラン等が挙げられる。また、R7がエポキシ基を含む置換基である有機ケイ素化合物としては、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、[3−(グリシジルオキシ)プロピル]ジメチルエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等がある。
【0050】
表面処理に際し、上記イオン性液体及び有機ケイ素化合物は、これをヘキサン、トルエン、アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1〜8の脂肪族アルコール)又はアセトン等の有機溶媒、場合によっては水等で希釈し、有機溶媒又は水中のイオン性液体の濃度を所定の濃度に調整してから表面処理に用いれば、均一な表面処理ができるため好ましい。
【0051】
また、表面処理は、上記イオン性液体及び有機ケイ素化合物と、更に表面改質剤を併用した表面処理であってもよい。イオン性液体及び有機ケイ素化合物との併用が可能な表面改質剤としては、例えば、ヘキサメチルジシラザンのようなアルキルシラザン系化合物、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシランのようなアルキルアルコキシシラン系化合物、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシランのようなクロロシラン系化合物又はシリコーンオイル系化合物等が挙げられ、これらを単独で用いてもよいし、或いは目的に応じて2種以上を混合して用いてもよい。上記シリコーンオイル系化合物としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルといったストレートシリコーンオイルや、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、片末端反応性変性シリコーンオイル、両末端反応性変性シリコーンオイル、異種官能基変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、メチルスチリル変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、親水性特殊変性シリコーンオイル、高級アルコキシ変性シリコーンオイル、高級脂肪酸含有変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル等の変性シリコーンオイルが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。イオン性液体による表面処理を、上記表面改質剤と併用することにより、疎水性を付与した無機酸化物粉体を得ることができる。また、バインダ等の有機材料との親和性、分散性を向上させる。
【0052】
上記イオン性液体及び有機ケイ素化合物又はイオン性液体及び有機ケイ素化合物と上記表面改質剤とを併用する表面処理により、本発明の表面改質された無機酸化物粉体を製造する具体的な方法は、次の通りである。先ず、原料となる無機酸化物粉体100質量部に対して、0.5〜50質量部、好ましくは1〜20質量部となる量のイオン性液体と、0.2〜50質量部、好ましくは0.25〜25質量部の有機ケイ素化合物を用意する。イオン性液体の使用量が下限値未満では、十分な導電性付与効果を有する粉体が得られず、帯電防止効果に有用であるとされる106〜1011Ωcmという低い体積抵抗率が得られない。一方、上限値を越えると固定化率が低下する。即ち、過剰なオニウム塩がブリードしてしまうため好ましくない。また、有機ケイ素化合物が下限未満であると、この有機ケイ素化合物が不足することによって、イオン性液体が無機酸化物粉体表面へのイオン性液体の固定が不十分となり、イオン性液体の固定化率が低下する。一方、上限値を越えると無機酸化物粉体表面の水酸基と加水分解反応を起こさない、過剰な有機ケイ素化合物がブリードしてしまうため好ましくない。
【0053】
また、イオン性液体及び有機ケイ素化合物は、希釈せずにそのまま使用することもできるが、上述のように有機溶媒又は水で希釈してから使用すれば、無機酸化物粉体における表面改質をより均一に行うことができるため好ましい。この場合の有機溶媒又は水の添加量は、使用するイオン性液体又は有機ケイ素化合物100質量部に対して、好ましくは100〜2000質量部、更に好ましくは100〜1000質量部である。イオン性液体又は有機ケイ素化合物100質量部に対する有機溶媒又は水の添加量が100質量部未満では希釈による上記効果が得られにくく、一方、2000質量部を越えると、有機溶媒又は水の添加量が多くなりすぎて無機酸化物粉体が凝集しやすくなるため好ましくない。
【0054】
表面改質剤を併用する表面処理を行う場合は、上記希釈した又は希釈していないイオン性液体に、無機酸化物粉体100質量部に対して5〜50質量部となる量の表面改質剤を更に添加する。表面改質剤の添加量が下限値未満では、無機酸化物粉体における表面改質が不均一になりやすい。一方、上限値を越えると無機酸化物粉体の凝集が起こるため好ましくない。また、このイオン性液体には、反応を促進するために、触媒等を更に添加してもよい。
【0055】
次に、無機酸化物粉体を反応容器に入れ、窒素等の不活性ガス雰囲気下、粉末を回転羽根等で攪拌しながら上記イオン性液体と有機ケイ素化合物、又は表面改質剤が添加されたイオン性液体と有機ケイ素化合物を粉末に添加する。窒素等の不活性ガス雰囲気とする理由は、酸化を防止するためである。そして、これを80℃〜300℃の温度で30〜120分間反応容器内で混合する。温度を80℃〜300℃の範囲とする理由は、下限値未満では、無機酸化物粉体における表面改質が不十分になるため、無機酸化物粉体にオニウム塩が固定化されにくく、一方、上限値を越えると表面改質剤が劣化するおそれがあるため好ましくない。このうち、温度は100〜300℃の範囲であることが特に好ましい。また、混合する時間が下限値未満では、無機酸化物粉体における表面改質が不十分になるため、無機酸化物粉体にオニウム塩が固定化されにくく、一方、上限値を越えると表面改質剤が劣化するおそれがあるため好ましくない。このうち、30〜90分間混合するのが特に好ましい。その後、室温に放置又は冷却水等によって粉末を冷却する。
【0056】
以上の工程により、本発明の表面改質された無機酸化物粉体が得られる。このようにして得られた本発明の表面改質された無機酸化物粉体は、合成樹脂・ゴム部材、帯電防止用フィルム、コート材等の各種半導電部材を製造するための半導電材料に、帯電防止効果を付与するために添加される導電性付与剤として好適に用いることができる。
【0057】
本発明の半導電材料は、樹脂又はゴム100質量部に、上記本発明の表面改質された無機酸化物粉体を1〜80質量部配合してなり、105〜1011Ωcmの範囲の体積抵抗率を有する。この半導電材料は、導電性付与剤として本発明の表面改質された無機酸化物粉体を配合してなるため、これを用いて製造される半導電部材において、イオン性液体によるブリードの発生を極めて少なく抑えることができる。また、耐水性、耐溶剤性及び耐久性に優れるため、長期的に安定した体積抵抗率を有する半導電部材を製造することができる。このため、本発明の半導電材料は、帯電性の精密な制御が求められる半導電部材、例えば画像形成装置における帯電ロール、転写ロール、現像ロール等の形成に好適に用いることができる。
【0058】
この他、本発明の表面改質された無機酸化物粉体は、電子写真の現像剤であるトナー等に直接添加され、トナーの流動性の改善や帯電性を調整するため、或いはトナーの転写性や耐久性を向上させる目的で添加される外添材としても好適に用いることができる。
【実施例】
【0059】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0060】
<実施例1>
先ず、イソシアネート基を有する有機ケイ素化合物として、(3−イソシアネートプロピル)トリエトキシシラン(信越化学社製 KBE−9007)を用意した。この有機ケイ素化合物10gに有機溶媒としてエタノール40gを添加して希釈させ、有機ケイ素化合物溶液を調製した。また、イオン性液体として、1−(ヒドロキシnヘキシル)トリメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(広栄化学社製 IL−OH1)を用意し、このイオン性液体20gに有機溶媒としてエタノール80gを添加して希釈させた。
【0061】
次に、BET比表面積が200m2/gの乾式法で得られたシリカ粉(日本アエロジル社製 商品名:アエロジル200)100gを反応容器に入れ、この反応容器に窒素雰囲気の下、粉末を回転羽根で撹拌しながら上記有機ケイ素化合物溶液及び希釈させたイオン性液体を添加した。
【0062】
次いで、これを窒素雰囲気の下、100℃の温度で60分間攪拌しながら混合した後、冷却水で冷却し、無機酸化物粉体を得た。この表面処理を施して表面改質された無機酸化物粉体を実施例1とした。なお、表1中、有機ケイ素化合物の種類を表す記号「I」は、上記(3−イソシアネートプロピル)トリエトキシシランを、また、イオン性液体の種類を表す記号「A」は、上記1−(ヒドロキシnヘキシル)トリメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを示す。
【0063】
<実施例2>
以下の表1に示すように、実施例1で使用したものと同じ有機ケイ素化合物5gに有機溶媒としてエタノール40gを添加して希釈させ、調製した有機ケイ素化合物溶液を用いたこと、実施例1で使用したものと同じイオン性液体10gに有機溶媒としてエタノール40gを添加して希釈させたイオン性液体を用いたこと以外は、実施例1と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を実施例2とした。
【0064】
<実施例3>
以下の表1に示すように、実施例1で使用したものと同じ有機ケイ素化合物1.5gに有機溶媒としてエタノール6gを添加して希釈させ、調製した有機ケイ素化合物溶液を用いたこと、実施例1で使用したものと同じイオン性液体3gに有機溶媒としてエタノール12gを添加して希釈させたイオン性液体を用いたこと以外は、実施例1と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を実施例3とした。
【0065】
<実施例4>
以下の表1に示すように、実施例1で使用したものと同じ有機ケイ素化合物0.5gに有機溶媒としてエタノール2gを添加して希釈させ、調製した有機ケイ素化合物溶液を用いたこと、実施例1で使用したものと同じイオン性液体1gに有機溶媒としてエタノール4gを添加して希釈させたイオン性液体を用いたこと以外は、実施例1と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を実施例4とした。
【0066】
<実施例5>
以下の表1に示すように、実施例3で使用したイオン性液体の代わりに、1−(ヒドロキシプロピル)ピリジニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(広栄化学社製 IL−OH2)を用意し、このイオン性液体3gに有機溶媒としてエタノール12gを添加して希釈させたイオン性液体を用いたこと以外は、実施例3と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を実施例5とした。なお、表1中、イオン性液体の種類を表す記号「B」は、上記1−(ヒドロキシプロピル)ピリジニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを示す。
【0067】
<実施例6>
以下の表1に示すように、実施例3で使用したイオン性液体の代わりに、ジ(ヒドロキシエチル)アルキルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(広栄化学社製 IL−OH7)を用意し、このイオン性液体3gに有機溶媒としてエタノール12gを添加して希釈させたイオン性液体を用いたこと以外は、実施例3と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を実施例6とした。なお、表1中、イオン性液体の種類を表す記号「C」は、上記ジ(ヒドロキシエチル)アルキルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを示す。
【0068】
<実施例7>
以下の表1に示すように、実施例3で使用したイオン性液体の代わりに、ジ(エチレングリコール1−オキシエチル)アルキルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(広栄化学社製 IL−OH8)を用意し、このイオン性液体3gに有機溶媒としてエタノール12gを添加して希釈させたイオン性液体を用いたこと以外は、実施例3と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を実施例7とした。なお、表1中、イオン性液体の種類を表す記号「D」は、上記ジ(エチレングリコール1−オキシエチル)アルキルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを示す。
【0069】
<実施例8>
以下の表1に示すように、実施例3で使用したイオン性液体の代わりに、ジ(ヒドロキシエチル)オレイルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(広栄化学社製 IL−OH9)を用意し、このイオン性液体3gに有機溶媒としてエタノール12gを添加して希釈させたイオン性液体を用いたこと以外は、実施例3と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を実施例8とした。なお、表1中、イオン性液体の種類を表す記号「E」は、上記ジ(ヒドロキシエチル)オレイルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを示す。
【0070】
<実施例9>
以下の表1に示すように、実施例3で使用した有機ケイ素化合物の代わりに、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製 KBM−403)を用意し、この有機ケイ素化合物1.5gに有機溶媒としてエタノールを6g添加して希釈させ、調製した有機ケイ素化合物溶液を用いたこと以外は、実施例3と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を実施例9とした。なお、表1中、有機ケイ素化合物の種類を表す記号「II」は、上記3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを示す。
【0071】
<実施例10>
以下の表1に示すように、上記有機ケイ素化合物溶液及び希釈させたイオン性液体以外に、表面改質剤としてジメチルシリコーンオイル(信越化学社製 商品名:KF−96 100cs)を用意し、このジメチルシリコーンオイル20gをヘキサン60gで希釈させたものを更に用いたこと、及び300℃の温度で撹拌しながら混合したこと以外は、実施例3と同様に表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面を改質させた無機酸化物粉体を実施例10とした。
【0072】
<実施例11>
以下の表1に示すように、表面改質剤として、ジメチルシリコーンオイルの代わりにヘキサメチルジシラザンを用意し、このヘキサメチルジシラザン20gをヘキサン60gで希釈させたものを用いたこと、及び150℃の温度で撹拌しながら混合したこと以外は、実施例10と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を実施例11とした。
【0073】
<実施例12>
以下の表1に示すように、シリカ粉末としてアエロジル200の代わりに、BET比表面積が200m2/gの湿式法で得られたシリカ粉(DSL.ジャパン社製 商品名:CARPLEX#80)を用いたこと以外は、実施例3と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を実施例12とした。
【0074】
<実施例13>
以下の表1に示すように、無機酸化物粉体としてチタニア粉(日本アエロジル社製、商品名:アエロジルP25)を用いたこと、表面改質剤として、ヘキサメチルジシラザンの代わりにオクチルトリメトキシシランを用意し、このオクチルトリメトキシシラン20gをヘキサン60gで希釈させたものを用いたこと以外は、実施例11と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を実施例13とした。
【0075】
<実施例14>
以下の表1に示すように、無機酸化物粉体としてアルミナ粉(日本アエロジル社製、商品名:アエロジルAluC)を用いたこと以外は、実施例13と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を実施例14とした。
【0076】
<比較例1>
以下の表1に示すように、表面処理を施さない実施例1で用いたシリカ粉を比較例1とした。
【0077】
<比較例2>
以下の表1に示すように、上記希釈させたイオン性液体は使用せず、上記有機ケイ素化合物溶液のみを用いたこと以外は、実施例3と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を比較例2とした。
【0078】
<比較例3>
以下の表1に示すように、実施例1で使用したものと同じ有機ケイ素化合物0.1gに有機溶媒としてエタノール0.4gを添加して希釈させ、調製した有機ケイ素化合物溶液を用いたこと、実施例1で使用したものと同じイオン性液体0.2gに有機溶媒としてエタノール0.8gを添加して希釈させたイオン性液体を用いたこと以外は、実施例1と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を比較例3とした。
【0079】
<比較例4>
以下の表1に示すように、実施例1で使用したものと同じ有機ケイ素化合物30gに有機溶媒としてエタノール60gを添加して希釈させ、調製した有機ケイ素化合物溶液を用いたこと、実施例1で使用したものと同じイオン性液体60gに有機溶媒としてエタノール120gを添加して希釈させたイオン性液体を用いたこと、及び100℃の温度で120分間攪拌しながら混合したこと以外は、実施例1と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を比較例4とした。
【0080】
<比較例5>
以下の表1に示すように、上記有機ケイ素化合物溶液は使用せず、実施例3で使用したイオン性液体の代わりに、脂肪族アミン系のイオン性液体(広栄化学社製 IL−A2)を用意し、このイオン性液体3gに有機溶媒としてエタノール12gを添加して希釈させたイオン性液体のみを用いたこと以外は、実施例3と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を比較例5とした。なお、表1中、イオン性液体の種類を表す記号「F」は、上記脂肪族アミン系のイオン性液体(広栄化学社製 IL−A2)を示す。
【0081】
<比較例6>
以下の表1に示すように、実施例3で用いたイオン性液体の代わりに、脂肪族アミン系のイオン性液体(広栄化学社製 IL−A2)を用意し、このイオン性液体3gに有機溶媒としてエタノール12gを添加して希釈させたイオン性液体を用いたこと以外は、実施例3と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を比較例6とした。
【0082】
【表1】

<比較試験及び評価>
実施例1〜14及び比較例1〜6の無機酸化物粉体について、窒素含有量、固定化率及び体積抵抗率を評価した。これらの結果を以下の表2に示す。
【0083】
(1) 窒素含有量:SUMIGRAPH NC−22を用い、所定量の無機酸化物粉体を試料として、上記SUMIGRAPHが備える、秤量を完了した標準試料及び測定試料の入ったボートを装置にセットし、測定した。測定データ処理プログラムにて最終結果まで自動計算される。計算された値は、所定量の無機酸化物粉体中の窒素量の含有量として表される。
【0084】
(2) オニウム塩の固定化率:先ず、無機酸化物粉体0.7gを試料とし、抽出溶媒としてエタノールを用いてソックスレー抽出装置(BUCHI社製)により、抽出時間60分、リンス時間30分とする条件で粉体上の遊離オイルを抽出した。抽出後、粉体における窒素含有量を上記のように測定し、抽出前の粉体における窒素含有量で割ったものの百分率を算出し、これをオニウム塩の固定化率とした。
【0085】
(3) 体積抵抗率: 高抵抗率計(三菱化学社製 Hiresta−UP)を用い、所定量の無機酸化物粉体を試料として、上記高抵抗率計が備えるシリンダー上部から投入しプローブユニットを取り付けた。そして、圧力を9.8×106Paに、電圧を所定値に設定して測定を開始し、設定時間経過後、測定が終了して表示された抵抗値を読み取った。また、デジタルスケールの表示値をサンプルの厚みとして読み取り、下記式にて体積抵抗率を演算した。
【0086】
ρv=49.08×ρ/t (5) 上記式(5)中、ρvは体積抵抗率(Ωcm)であり、ρは上記読み取った抵抗値(Ω)であり、tはサンプルの厚み(mm)である。
【0087】
(4) ブリード:無機酸化物粉体を導電性付与剤として添加して得られたゴム試験片について、25%圧縮した状態で、70℃の温度で72時間放置した後、その表面のブリードの有無を目視により確認した。表2中、記号「A」は、ブリードが認められなかったことを意味し、記号「B」は、ブリードが少々認められたことを意味し、記号「C」は、ブリードが顕著に認められたことを意味する。
【0088】
【表2】

表1,表2から明らかなように、本発明の表面改質された無機酸化物粉体は、帯電防止効果に有用であるとされる106〜109Ωcmという体積抵抗率を示すことが判る。更に、粉体表面にイオン性液体によるオニウム塩が高い固定化率で固定されているため、半導電材料の導電性付与剤として添加した場合、イオン性液体のブリードを生じさせること無く、高い評価が得られた。しかもイオン性液体によるオニウム塩が、導電性を付与し、安定した体積抵抗率が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の表面改質された無機酸化物粉体は、合成樹脂・ゴム部材、帯電防止用フィルム、コート材等の各種半導電部材を製造するための半導電材料に添加する導電性付与剤の他、電子写真の現像剤であるトナー等において、流動性改善や帯電性を調整するため、或いはトナーの転写性や耐久性を向上させる目的で添加される外添材としても利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸化物粉体に表面処理を施すことにより表面改質された無機酸化物粉体において、
イオン性液体とアルコキシ基を有する有機ケイ素化合物とを用いた表面処理により、窒素を含有するオニウム塩を前記粉体表面に有し、
窒素含有量が0.02%以上3%以下であり、かつ前記オニウム塩の固定化率が50%以上100%以下である
ことを特徴とする表面改質された無機酸化物粉体。
【請求項2】
9.8×106Paの圧力をかけたときの体積抵抗率が106〜1011Ωcmの範囲にある請求項1記載の表面改質された無機酸化物粉体。
【請求項3】
前記表面処理が前記イオン性液体と前記有機ケイ素化合物と更に表面改質剤を併用した表面処理である請求項1又は2記載の表面改質された無機酸化物粉体。
【請求項4】
前記イオン性液体を構成するアニオンがフッ化アルキルスルホニル基を含有する請求項1ないし3いずれか1項に記載の表面改質された無機酸化物粉体。
【請求項5】
前記無機酸化物粉体が噴霧火炎法により得られた無機酸化物粉体である請求項1ないし4いずれか1項に記載の表面改質された無機酸化物粉体。
【請求項6】
前記イオン性液体を構成するカチオンが水酸基を含む置換基を有する第4級アンモニウムカチオンであり、前記有機ケイ素化合物がイソシアネート基又はエポキシ基を含む置換基を有する化合物である請求項1ないし5いずれか1項に記載の表面改質された無機酸化物粉体。
【請求項7】
前記無機酸化物粉体がシリカ、チタニア及びアルミナからなる群より選ばれた1種の無機酸化物粉体又は2種以上の複合無機酸化物粉体である請求項1ないし6いずれか1項に記載の表面改質された無機酸化物粉体。
【請求項8】
ゴム又は樹脂100質量部と、請求項1ないし7いずれか1項に記載の表面改質された無機酸化物粉体1〜80質量部とを配合してなり、体積抵抗率が105〜1011Ωcmを示す半導電材料。
【請求項9】
無機酸化物粉体に表面処理を施すことにより表面改質された無機酸化物粉体を製造する方法において、
前記表面処理がイオン性液体とアルコキシ基を有する有機ケイ素化合物を用いた表面処理又はイオン性液体とアルコキシ基を有する有機ケイ素化合物と更に表面改質剤を併用した表面処理である
ことを特徴とする表面改質された無機酸化物粉体の製造方法。
【請求項10】
前記表面処理は不活性ガス雰囲気下、前記無機酸化物粉体を攪拌しながら、前記粉体100質量部に対して0.2〜25質量部の前記有機ケイ素化合物を添加する工程と、
前記有機ケイ素化合物を添加した後、前記粉体100質量部に対して0.4〜50質量部の前記イオン性液体又は前記イオン性液体に更に表面改質剤を添加したイオン性液体を添加する工程と、
80℃〜300℃の温度で30〜120分間混合する工程と
を含む請求項9記載の表面改質された無機酸化物粉体の製造方法。
【請求項11】
前記イオン性液体を構成するカチオンが水酸基を含む置換基を有する第4級アンモニウムカチオンであり、前記有機ケイ素化合物がイソシアネート基又はエポキシ基を含む置換基を有する有機ケイ素化合物である請求項9又は10記載の表面改質された無機酸化物粉体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−246291(P2011−246291A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118069(P2010−118069)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(390018740)日本アエロジル株式会社 (14)
【Fターム(参考)】