説明

表面改質ゴムローラの製造方法

【課題】トナー及びトナーに付着している外添剤等のゴムローラ表面の汚れを防ぎ、且つゴムローラからの低分子量化合物の染み出しを抑制し、感光体ドラムの汚染しにくい導電性ローラの製造方法。
【解決手段】(1)芯金4の周面に未加硫ゴムを含むゴム層の材料からなる層を設け、該層を加熱加硫させて芯金の周面に加硫ゴム層を有する加硫ゴムローラ6を形成する工程と、(2)該加硫ゴムローラの表面に電子線を照射して表面改質する工程とを有し、該工程(2)は、該加硫ゴム層に第1の電子線を照射し、次いで該2の電子線を照射する工程を含み、かつ、該第2の電子線の該加硫ゴム層への透過深さを、該第1の電子線の該加硫ゴム層への透過深さよりも浅くすることを特徴とする表面改質ゴムローラの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真プロセスを利用した画像形成装置に用いる表面改質ゴムローラ(帯電ゴムローラ等)の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の画像形成装置は高速化、高耐久化に伴い、画像形成装置に使用される導電性のゴムローラ(帯電ゴムローラ等)には高精度、高耐久化が要求されてきている。画像形成装置に使用される帯電ゴムローラは帯電部材のうち最も一般的なものであり、感光体ドラムに接触して帯電処理を行うものである。帯電ゴムローラに関して、画像形成装置に帯電ゴムローラを用いてハーフトーン画像による画像耐久試験を行った場合、画像耐久をしていくと共にトナー及びトナーに付着している外添剤等により帯電ゴムローラの表面が汚れるという問題がある。その結果、帯電ゴムローラの表面の酷く汚れた部分を起点に白スジといった画像不良が生じる。これは帯電ゴムローラの表面が汚れる事により感光体ドラムに均一な帯電処理ができなくなるからである。帯電ゴムローラの表面が汚れる原因の一つとして、帯電ゴムローラの表面の硬度及び表面近傍の内部の硬度が大きすぎるとトナー及びトナーに付着している外添剤等と帯電ゴムローラの表面との圧力が大きくなり押し潰されることがある。その結果、帯電ゴムローラの表面が汚れてしまう場合がある。また、放置環境によっては、特に苛酷な環境(40℃/90%RH)下での放置において帯電ゴムローラの導電性加硫ゴム層(抵抗層)から低分子量化合物等が染み出し、帯電ゴムローラ表面及び感光体ドラム表面が汚れるという問題がある。この汚れによりハーフトーン画像において画像不良が生じる。これは帯電ゴムローラの表面が汚れる事により感光体ドラムに均一な帯電処理ができなくなるからである。帯電ゴムローラの導電性加硫ゴム層からの低分子量化合物等の染み出し防止のため、保護層、改質層、固化層等でゴム層表面を覆うという提案が多くなされている。保護層は、例えばバインダー高分子に、導電フィラーを適量分散させて電気抵抗を調整した材料から形成される。バインダー高分子としては、例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、シリコーン樹脂等が用いられる。また、導電フィラーとしては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、酸化チタン、酸化錫等の酸化物、Cu、Ag等の金属酸化物や金属を粒子表面に被覆して導電化した導電粒子などが用いられる。しかし、これら保護層を用いた場合でも、導電性加硫ゴム層内の低分子量化合物のブリードアウトを抑制するためには層の厚みを10μm以上にする必要がある。また保護層内に存在するモノマーや触媒等の低分子量化合物がローラ表面に染み出すこともある。更に、抵抗調整のための膜厚調整や導電剤の分散が困難な場合がある。これに対して、特許文献1は、ゴムローラに紫外線照射をしてゴムローラ表面を改質させる技術を開示している。また、特許文献2は、ゴムローラに電子線照射をしてゴムローラ表面に固化層を形成させる技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−292640号公報
【特許文献2】特開平8−283578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らの検討によれば、上記特許文献1に開示の技術によれば、ゴムローラ表面の硬度を上げて摩擦係数を下げ、感光体に対する粘着力を低減する事ができた。その結果、感光体への汚染をより効果的に抑制できた。しかし、ゴムローラへの紫外線の照射によってはゴムローラ表面の硬度を十分に上げることが困難であった。そのため、導電性加硫ゴム層からの低分子量化合物等のブリードアウトが認められた。一方、特許文献2に開示の技術によれば、ゴムローラ表面の硬度を大きく上げることができた。その結果、導電性加硫ゴム層からの低分子量化合物等のブリードアウトを有効に抑えられた。しかし、ゴムローラに電子線を照射する場合ではゴムローラ表面の硬度が大きくなり、ゴムローラの表面とトナー及びトナーに付着している外添剤等との圧力が大きくなり押し潰され、ゴムローラが汚れてしまうことがあった。このように、上記、導電性加硫ゴム層からの低分子量化合物等のブリードアウトの抑制と、トナー及びトナーに付着している外添剤等によるゴムローラ表面の汚れの抑制との双方を高いレベルで満足させることが従来は困難であった。
【0005】
そこで、本発明はトナー及びトナーに付着している外添剤等のゴムローラ表面の汚れを防ぎ、且つゴムローラからの低分子量化合物の染み出しを抑制し、感光体ドラムの汚染しにくい導電性ローラの製造方法に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、芯金と、該芯金の周面に設けられたゴム層とを有する表面改質ゴムローラの製造方法であって、
(1)芯金の周面に未加硫ゴムを含むゴム層の材料からなる層を設け、該層を加熱加硫させて芯金の周面に加硫ゴム層を有する加硫ゴムローラを形成する工程と、
(2)該加硫ゴムローラの表面に電子線を照射して表面改質する工程とを有し、
該工程(2)は、該加硫ゴム層に第1の電子線を照射し、次いで該2の電子線を照射する工程を含み、かつ、該第2の電子線の該加硫ゴム層への透過深さを、該第1の電子線の該加硫ゴム層への透過深さよりも浅くすることを特徴とする表面改質ゴムローラの製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ゴムローラの表面近傍の硬度を制御し、トナー及びトナーに付着している外添剤等のゴムローラ表面の汚れを有効に抑制でき、また低分子量化合物等のブリードアウトを有効に抑制できる導電性ローラを低コストで製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】押出機の模式図
【図2】電子線照射装置の概略を示す構成図
【図3】電子線透過部材及び電子線照射装置の概略を示す構成図
【図4】画像形成装置の概略を示す構成図
【図5】本発明で得られた帯電ゴムローラ断面の一例を示す模式図
【図6】本発明で得られた帯電ゴムローラ表面から深さ方向の硬さ分布の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を、芯金と、該芯金の周面に加硫ゴム層を有し、加硫ゴム層の表面が改質されてなる表面改質ゴムローラ(帯電ローラ)の例で詳細に説明する。
【0010】
まず、芯金の周面に未加硫ゴムを含む加硫ゴム層の材料からなる層を設ける。この方法としては以下の方法が挙げられる。射出成形法;加硫ゴム層の材料からなるチューブを芯金に被せる、或いは芯金と加硫ゴム層の材料とを一体に押出して円筒状のゴムローラを成形する押出成形法;トランスファー成形法;プレス成形等。製造時間の短縮を考えると加硫ゴム層の材料を芯金と一体に押出す押出成形法が好ましい。加硫ゴム層の材料からなる層を加熱加硫して加硫ゴム層とする方法に関しては、熱風炉、加硫缶、熱盤、遠・近赤外線、誘導加熱等のいずれの方法でも良く、更に加熱状態の円筒状または平面状の部材に回転させながら押し当てる方法を用いても良い。また、加熱後に所望のローラ形状、ローラ表面粗さにするために回転砥石を用いた乾式研磨をする場合もある。図1には押出機の模式図を示す。押出機1はクロスヘッド2を備える。クロスヘッドは芯金送りローラ3によって送られた芯金4を後ろから挿入でき、芯金と同時に円筒状のゴム材料を一体に押出す事ができる。ゴム材料を芯金の周囲に円筒状に成形した後に、端部を切断・除去処理5を行い、ゴムローラ6とした。
【0011】
上記のゴムローラの芯金として使用する材質は、ニッケルメッキしたSUM材等の鋼材を含むステンレススチール棒、リン青銅棒、アルミニウム棒、耐熱樹脂棒が好ましい。
【0012】
芯金上に設けられたゴム層は導電性の弾性層である。ポリマーとしては、天然ゴム、ブタジエンゴム、ヒドリンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッソゴム、塩素ゴム、熱可塑エラストマー等のいずれでも良い。ポリマー中に分散させる導電粉としてはカーボンブラック、導電性カーボン等のカーボン類、及び金属粉、導電性の繊維、或いは酸化スズ等の半導電性金属酸化物粉体、更にこれらの混合物等のいずれでも良い。
【0013】
次に、本発明に用いた電子線照射装置の概略構成図を図2に示して詳細に説明する。
【0014】
本発明に用いた電子線照射装置はローラを回転させながらローラ表面に電子線を照射するものであり、図2に示すように、電子線発生部7と照射室8と照射口9とを備えるものである。電子線発生部は、電子線を発生するターミナル10と、ターミナルで発生した電子線を真空空間(加速空間)で加速する加速管11とを有するものである。また電子線発生部の内部は、電子が気体分子と衝突してエネルギーを失うことを防ぐため、真空ポンプ等により10-6〜10-7Torrの真空に保たれている。電源によりフィラメント12に電流を通じて加熱するとフィラメントは熱電子を放出し、この熱電子のうち、ターミナルを通過したものだけが電子線として有効に取り出される。そして、電子線の加速電圧により加速管内の加速空間で加速された後、照射口箔13を突き抜け、照射口の下方の照射室内を搬送されるローラに照射される。ローラに電子線を照射する場合、照射室の内部雰囲気は特に限定しないが、一般的には窒素雰囲気又は空気雰囲気である。また、ローラはローラ回転用部材14で回転させて照射室内を搬送手段により、図2において左側から右側に移動する。ローラの搬送方法としては、順送りでもピッチ送りでもよいが、連続的に電子線を照射させることを考慮すると順送りの方が好ましい。ローラの回転数としては、電子線の照射時間にもよるが、照射時間が短いことを考慮すると100〜3000rpmが好ましい。尚、電子線発生部及び照射室の周囲は電子線照射時に二次的に発生するX線が外部へ漏出しないような材料で遮蔽されている。一般的には鉛で遮蔽されている。照射口箔は金属箔からなり、電子線発生部内の真空雰囲気と照射室内の空気雰囲気とを仕切るものであり、また照射口箔を介して照射室内に電子線を取り出すものである。ローラの照射に電子線を用いる場合には、ローラが電子線を照射される照射室の内部は窒素雰囲気又は空気雰囲気である。そのため、電子線発生部と照射室との境界に設ける照射口箔には、ピンホールがなく、電子線発生部内の真空雰囲気を十分維持できる機械的強度があり、しかも、電子線が透過しやすいように比重が小さく肉厚の薄い金属が望ましい。例えば、照射口箔に使用される金属として厚さ約5〜15μm程度のチタンがよく使用される。
【0015】
本実施例では、最大加速電圧150kV・最大電子電流40mAの電子線照射装置(岩崎電気株式会社製)を用いて行った。又、照射時には窒素雰囲気又は空気雰囲気で行う。
【0016】
ここで、電子線の透過深さについて説明する。電子線の透過深さは、加速電圧と照射される物質の密度から算出され、下記で定義される。
【0017】
透過深さ(μm)=0.0667×{加速電圧(kV)}5/3/物質の密度(g/cm)
電子線の透過深さは、電子線による改質の指標の一つになる。算出された透過深さまで電子線が到達して改質が行われる。
【0018】
また、電子線の線量は下記で定義される。
【0019】
線量(kGy)=[装置定数K×電子電流(mA)]/処理スピード(m/min)
ここで、装置定数Kは、装置個々の効率を表す定数であって、装置の性能の指標となる。例えば本来、電子線照射装置では、K=18以上とする必要がある。したがって、一定の電子電流と処理スピードに対して、加速電圧を変えて線量を測定し、これから得られる装置定数Kが所定の値以上になるような加速電圧を求めることより、加速電圧についての制限が得られる。電子線の線量については、表面処理の効果に応じて適宜選択すれば良い。その調節は、電子電流、処理スピードのいずれでも行う事が可能であり、所望の線量が得られるように決めればよい。今回、あらかじめ線量フィルムを用いてある電子電流・処理スピードでの線量を測定し装置定数Kを算出して、それを基に電子線の線量を算出した。また、ゴムローラの表面に直接、電子線を照射する場合には線量としては、100〜3000kGyが好ましい。電子線照射方法について更に詳細に説明する。導電性加硫ゴム層の材料としては、上記に示しているが電子線の照射によるゴムローラ表面の改質・硬化を考慮すると、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、ヒドリンゴムが好ましい。電子線の加速電圧は50〜300kVが好ましい。加速電圧をこの範囲内とすることで、導電性加硫ゴムを適度に硬化させることができる。そのためゴムローラ表面の硬度が大きくなりすぎること、及びゴム弾性が小さくなることが抑制できる。そのため、ゴムローラの表面とトナー及びトナーに付着している外添剤等との圧力が大きくなり押し潰され、ゴムローラが汚れることを抑えられる。また、導電性加硫ゴム層の導電性加硫ゴム層からの低分子量化合物等の染み出しによる帯電ゴムローラ表面及び感光体ドラム表面の汚染を抑制できる。
【0020】
本発明に係る表面改質工程は、該加硫ゴム層に第1の電子線を照射し、次いで該2の電子線を照射する工程を含み、該第2の電子線の該加硫ゴム層への透過深さを、該第1の電子線の該加硫ゴム層への透過深さよりも浅くする。本発明者らが鋭意検討した結果、加硫ゴム層のより深い領域にまで電子線を透過させた後に、それよりも浅い領域に電子線を透過させることが、加硫ゴム層の表面改質の際の硬さ分布の制御性がよいことがわかった。逆に、透過深さの小さい電子線を照射した後にそれよりも透過深さの大きい電子線を照射した場合には、後に照射した透過深さの大きい電子線による透過深さと硬さ分布の制御性が落ちる。透過深さの大きい電子線は、ゴムローラ表面からの透過深さは約100〜1000μm程度が好ましく、加速電圧としては100〜300kVが好ましい。それよりも透過深さの小さい電子線は、ゴムローラ表面からの透過深さは約20〜500μm程度が好ましく、加速電圧としては50〜200kVが好ましい。これにより、ゴムローラの表面近傍の硬度を制御して、トナー及びトナーに付着している外添剤等のゴムローラ表面の汚れ防止及びゴムローラからの低分子量化合物等の染み出し防止の両立が可能になる。
【0021】
また、第2の電子線として、電子線が放出させる照射口とゴムローラの間の一部に配置した電子線透過部材に第1の電子線を通過させて、該加硫ゴム層への透過深さを浅くしたものを用いることもできる。電子線透過部材の配置位置は、電子線の拡散等を考慮すると電子線が照射される照射口に近い方が好ましい。ここで、本発明に用いた電子線透過部材及び電子線照射装置の概略構成図を図3に示す。電子線透過部材15の材質としては、電子線に対して耐久強度があり、電子線透過方向の厚みの加工精度が出しやすいもので、チタン、ステンレス、アルミニウム、銀、セラミック、ガラス、ポリスチレン等が好ましく、特に耐久強度を考慮するとチタンが好ましい。電子線透過部材の形状としてはクサビ状や階段状などでもよく、電子線透過方向の厚みを調整して透過深さの大きい電子線を照射した後に、それよりも透過深さの小さい電子線を照射する。電子線透過部材の厚さとしては、10〜200μmの範囲内で表面処理の効果に応じて適宜選択すれば良い。本発明の実施の形態である導電性ローラの製造方法により得られたゴムローラは、Laser Beam Printer、複写機及びファクシミリ等の画像形成装置の電子写真用部材として用いられる。ここでは、帯電ゴムローラとして用いた場合の使用形態を図4に示した。画像形成装置は、回転ドラム型・転写方式の電子写真装置であって、16は像担持体としての電子写真感光体(感光ドラム)であり、時計方向に所定の周速度(プロセススピード)をもって回転駆動される。感光ドラムは、その回転過程で帯電手段としての電源E1から帯電バイアスを印加した帯電ゴムローラ17により周面が所定の極性・電位(本実施例では−500V)に一様帯電処理される。次いで露光系18により目的の画像情報に対応したネガ画像露光(原稿像のアナログ露光、デジタル走査露光)を受けて周面に目的画像情報の静電潜像が形成される。次いで、その静電潜像がマイナストナーによる反転現像方式のトナー現像ローラ19によりトナー画像として現像される。そしてそのトナー画像が感光ドラムと転写手段としての転写ローラ20との間の転写部に不図示の給紙手段から所定のタイミングで転写材が給送される。そして転写ローラに対して電源E2から約+2〜3KVの転写バイアスが印加され感光ドラム面の反転現像されたトナー像が転写材に対して順次転写されていく。トナー画像の転写を受けた転写材は、感光ドラム面から分離されて不図示の定着手段へ導入されて像定着処理を受ける。トナー画像転写後の感光ドラム面は、クリーニング手段21で転写残りトナー等の付着汚染物の除去処理を受けて清浄面化されて繰り返して作像に供される。本発明の実施の形態で述べた帯電ゴムローラは、芯金と、芯金上に形成した導電性加硫ゴム層を有する導電性ローラである。芯金上の導電性加硫ゴム層の表面に電子線を、加速電圧50〜300kVの範囲内で加速電圧を変化させて透過深さの大きい電子線を照射した後に、それよりも透過深さの小さい電子線を2段階以上で照射する。その結果、帯電ゴムローラの表面近傍の硬度を制御して、トナー及びトナーに付着している外添剤等のローラ表面の汚れを防ぎ、且つローラからの低分子量化合物等の染み出しを防止して感光体ドラムに対しても汚染しない帯電ゴムローラを提供する事ができる。また、本発明は芯金上の導電性加硫ゴム層の表面に電子線を照射するだけで帯電ゴムローラを提供できるので量産性にも優れ、高品質な導電性ローラを安定して低コストで製造することが可能である。
【0022】
ここで、図5に本発明で得られた帯電ゴムローラ断面の一例を示す。4は芯金、22は導電性加硫ゴム層、23は1段電子線照射による硬化層、24は2段電子線照射による硬化層である。また、図6に本発明で得られた帯電ゴムローラ表面からの深さ方向の硬さ分布の一例を示す。ここで、ゴムローラ表面からの深さ方向の硬さ分布については、フィッシャー・インストルメンツ社製の微小硬さ試験機WIN−HCU、フィッシャースコープH100Cを用いて測定した。圧子は四角錘型ダイヤモンドであり、250mN/minの速度で荷重を増加させて、ゴムローラ表面からの押し込み深さ(μm)と深さ方向の硬さ(N/mm)分布の測定を行った。また、測定は23.5℃/60%の環境において行った。
【0023】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例1】
【0024】
〈ゴムローラの作製〉
以下の原料を加圧式ニーダーで15分間混練した。
【0025】
・NBR 100質量部
(商品名「Nipol DN219」:日本ゼオン社製)(「NIPOL」は登録商標)
・カーボンブラック1 14質量部
(商品名「旭HS−500」:旭カーボン社製)
・カーボンブラック2 4質量部
(商品名「ケッチェンブラックEC600JD」:ライオン社製)
(KETJENBLACK\ケッチェンブラック)は登録商標)
・ステアリン酸亜鉛 1質量部
・酸化亜鉛 5質量部
・炭酸カルシウム 30質量部
(商品名「ナノックス#30」:丸尾カルシウム社製)
更に、加硫促進剤(DM:ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド)1質量部、加硫促進剤(TBzTD:テトラベンジルチウラムジスルフィド)3質量部及び加硫剤としてイオウ1.2質量部を加えた。次いで、15分間オープンロールで混練して未加硫ゴム組成物を作製した。次いで、外径φ6mm、長さ252mmのステンレス棒の芯金を用意した。ここで、クロスヘッド押出機を用いて上記芯金と未加硫ゴム組成物とを一体に押出してゴムローラを成形した。その後160℃、1時間の加熱加硫を行い、更に回転砥石を用いた乾式研磨、端部の切断・除去処理により、厚み1.25mm、長さ232mmのゴムローラを得た(ゴムローラ外径φ8.5mm)。
〈電子線照射方法〉
得られた加硫ゴムローラの表面に電子線を照射して帯電ゴムローラを得た。電子線の照射には、最大加速電圧150kV・最大電子電流40mAの電子線照射装置(岩崎電気株式会社製)を用い、照射時には窒素ガスパージを行った。電子線照射条件は、1段電子線照射条件:加速電圧150kV、電子電流20mA、照射時間1sec、2段電子線照射条件:加速電圧80kV、電子電流20mA、照射時間1secであり、連続的に電子線の照射を行った。この時の酸素濃度は約200ppmであった。また、ゴムローラを500rpmで回転させながら上記照射時間になるように搬送して電子線を照射した。
〈耐久画像汚れ評価〉
得られた帯電ゴムローラを図4に示す電子写真方式の電子写真用カートリッジに組み込んだ。そして、感光体ドラムの両端に500gづつの荷重を負荷した状態で圧接し、23.5℃/60%の環境でハーフトーン画像による連続6000枚(6Kと表すことがある)の通紙をして耐久画像汚れ評価を行った。この耐久画像汚れ評価において、下記事項を評価した。得られた結果を表1に示した。連続通紙6000枚間を耐久画像とした。帯電ゴムローラに固着したトナーや外添剤による、点状もしくは線状の画像不良、或いは帯電ムラによる黒または白の横スジ状の画像不良の有無を目視で観察して検査した。得られた検査結果に基づき、下記基準で画像評価を行った。
【0026】
A:帯電ゴムローラにトナーや外添剤の付着が起因の画像不良が全く出ていないもの
B:上記の画像不良が極わずかに発生したもの
C:上記の画像不良がわずかに発生したもの
D:上記の画像不良がはっきりと発生したもの
画像評価の結果は、ランクAであった。
〈Cset画像評価〉
また、上記とは別の帯電ゴムローラを図4に示す電子写真方式の電子写真用カートリッジに組込み、感光体ドラムの両端に500gづつの荷重を負荷した状態で圧接し、40℃/95%の環境で30日間放置した。放置後、23.5℃/60%の環境でハーフトーン画像による通紙1〜10枚間を初期画像としてCset画像評価を行った。このCset画像評価において、下記事項を評価した。得られた結果を表1に示した。帯電ゴムローラの導電性加硫ゴム層からの低分子量化合物等の染み出しによる、帯電ゴムローラピッチ及び感光体ドラムピッチの帯電ムラによる黒または白のピッチスジ画像不良の有無を目視で観察して検査した。得られた検査結果に基づき、下記基準で画像評価を行った。
【0027】
A:帯電ゴムローラからの染み出しが起因の画像不良が全く出ていないもの
B:上記の画像不良が極わずかに発生したもの
C:上記の画像不良がわずかに発生したもの
D:上記の画像不良がはっきりと発生したもの
画像評価の結果は、ランクAであった。
【実施例2】
【0028】
〈ゴムローラの作製〉
以下の原料を加圧式ニーダーで15分間混練した。
【0029】
・NBR 100質量部
(商品名「JSR N230SV」:JSR社製)
・カーボンブラック 48質量部
(商品名「トーカブラック#7360SB」:東海カーボン社製)
(「ト−カブラック\TOKABLACK」は登録商標)
・ステアリン酸亜鉛 1質量部
・酸化亜鉛 5質量部
・炭酸カルシウム 20質量部
(商品名「ナノックス#30」:丸尾カルシウム社製)
更に、加硫促進剤(TBzTD:テトラベンジルチウラムジスルフィド)4.5質量部及び加硫剤としてイオウ1.2質量部を加えて、15分間オープンロールで混練して未加硫ゴム組成物を作製した。次いで、外径φ6mm、長さ252mmのステンレス棒の芯金を用意した。ここで、クロスヘッド押出機を用いて上記芯金と未加硫ゴム組成物とを一体に押出してゴムローラを成形した。その後160℃、1時間の加熱加硫を行い、更に回転砥石を用いた乾式研磨、端部の切断・除去処理により、厚み1.25mm、長さ232mmのゴムローラを得た(ゴムローラ外径φ8.5mm)。
〈電子線照射方法〉〈耐久画像汚れ評価〉〈Cset画像評価〉
電子線照射条件を、1段電子線照射条件:加速電圧150kV、電子電流35mA、照射時間1sec、2段電子線照射条件:加速電圧100kV、電子電流20mA、照射時間1secにした以外は、実施例1と同様に電子線を照射して帯電ゴムローラを得た。また、上記の帯電ゴムローラを使用して実施例1と同様に耐久画像汚れ評価とCset画像評価を行った。その結果を表1に示す。
【実施例3】
【0030】
〈ゴムローラの作製〉〈電子線照射方法〉〈耐久画像汚れ評価〉〈Cset画像評価〉
電子線照射条件を、1段電子線照射条件:加速電圧150kV、電子電流30mA、照射時間1sec、2段電子線照射条件:加速電圧120kV、電子電流30mA、照射時間1secにした以外は、実施例2と同様に電子線を照射して帯電ゴムローラを得た。また、上記の帯電ゴムローラを使用して実施例1と同様に耐久画像汚れ評価とCset画像評価を行った。その結果を表1に示す。
【実施例4】
【0031】
〈ゴムローラの作製〉〈電子線照射方法〉〈耐久画像汚れ評価〉〈Cset画像評価〉
電子線照射条件を、1段電子線照射条件:加速電圧150kV、電子電流20mA、照射時間1sec、2段電子線照射条件:加速電圧50kV、電子電流30mA、照射時間1secにした以外は、実施例2と同様に電子線を照射して帯電ゴムローラを得た。また、上記の帯電ゴムローラを使用して実施例1と同様に耐久画像汚れ評価とCset画像評価を行った。その結果を表1に示す。
【実施例5】
【0032】
〈ゴムローラの作製〉〈電子線照射方法〉〈耐久画像汚れ評価〉〈Cset画像評価〉
電子線照射条件を、1段電子線照射条件:加速電圧100kV、電子電流40mA、照射時間1sec、2段電子線照射条件:加速電圧80kV、電子電流20mA、照射時間1secにした以外は、実施例2と同様に電子線を照射して帯電ゴムローラを得た。また、上記の帯電ゴムローラを使用して実施例1と同様に耐久画像汚れ評価とCset画像評価を行った。その結果を表1に示す。
【実施例6】
【0033】
〈ゴムローラの作製〉〈電子線照射方法〉〈耐久画像汚れ評価〉〈Cset画像評価〉
電子線照射条件を、1段電子線照射条件:加速電圧100kV、電子電流30mA、照射時間1sec、2段電子線照射条件:加速電圧50kV、電子電流30mA、照射時間1secにした以外は、実施例2と同様に電子線を照射して帯電ゴムローラを得た。また、上記の帯電ゴムローラを使用して実施例1と同様に耐久画像汚れ評価とCset画像評価を行った。その結果、耐久画像汚れ評価はAランク、Cset画像評価もBランクであった。結果を表1に示す。
【実施例7】
【0034】
〈ゴムローラの作製〉〈電子線照射方法〉〈耐久画像汚れ評価〉〈Cset画像評価〉
電子線照射条件を、1段電子線照射条件:加速電圧300kV、電子電流5mA、照射時間1sec、2段電子線照射条件:加速電圧200kV、電子電流10mA、照射時間1secにした以外は、実施例2と同様に電子線を照射して帯電ゴムローラを得た。また、上記の帯電ゴムローラを使用して実施例1と同様に耐久画像汚れ評価とCset画像評価を行った。その結果を表1に示す。
【実施例8】
【0035】
〈ゴムローラの作製〉〈電子線照射方法〉〈耐久画像汚れ評価〉〈Cset画像評価〉
電子線照射条件を、1段電子線照射条件:加速電圧300kV、電子電流5mA、照射時間1sec、2段電子線照射条件:加速電圧100kV、電子電流20mA、照射時間1secにした以外は、実施例2と同様に電子線を照射して帯電ゴムローラを得た。また、上記の帯電ゴムローラを使用して実施例1と同様に耐久画像汚れ評価とCset画像評価を行った。その結果を表1に示す。
【実施例9】
【0036】
〈ゴムローラの作製〉〈電子線照射方法〉〈耐久画像汚れ評価〉〈Cset画像評価〉
電子線照射条件を、1段電子線照射条件:加速電圧300kV、電子電流10mA、照射時間1sec、2段電子線照射条件:加速電圧50kV、電子電流20mA、照射時間1secにした以外は、実施例2と同様に電子線を照射して帯電ゴムローラを得た。また、上記の帯電ゴムローラを使用して実施例1と同様に耐久画像汚れ評価とCset画像評価を行った。その結果、耐久画像汚れ評価はBランク、Cset画像評価もAランクであった。結果を表1に示す。
【0037】
[比較例1]
〈ゴムローラの作製〉〈電子線照射方法〉〈耐久画像汚れ評価〉〈Cset画像評価〉
電子線照射条件が、1段電子線照射条件:加速電圧150kV、電子電流20mA、照射時間2secのみで電子線を照射した以外は、実施例2と同様にして帯電ゴムローラを得た。また、上記の帯電ゴムローラを使用して実施例1と同様に耐久画像汚れ評価とCset画像評価を行った。その結果を表1に示す。
【0038】
[比較例2]
〈ゴムローラの作製〉〈電子線照射方法〉〈耐久画像汚れ評価〉〈Cset画像評価〉
電子線照射条件が、1段電子線照射条件:加速電圧300kV、電子電流5mA、照射時間2secのみで電子線を照射した以外は、実施例2と同様にして帯電ゴムローラを得た。また、上記の帯電ゴムローラを使用して実施例1と同様に耐久画像汚れ評価とCset画像評価を行った。その結果を表1に示す。
【0039】
[比較例3]
〈ゴムローラの作製〉〈電子線照射方法〉〈耐久画像汚れ評価〉〈Cset画像評価〉
電子線照射条件が、1段電子線照射条件:加速電圧80kV、電子電流25mA、照射時間2secのみで電子線を照射した以外は、実施例2と同様にして帯電ゴムローラを得た。また、上記の帯電ゴムローラを使用して実施例1と同様に耐久画像汚れ評価とCset画像評価を行った。その結果を表1に示す。
【実施例10】
【0040】
〈ゴムローラの作製〉〈電子線照射方法〉〈耐久画像汚れ評価〉〈Cset画像評価〉
電子線照射条件が、1段電子線照射条件:加速電圧150kV、電子電流20mA、照射時間2secのみで電子線を照射して、図3に示すように、厚さ20μmのシート形状のチタン製電子線透過部材を照射口とゴムローラの間の一部に長手一直線に配置した。また照射口から5mmの位置に電子線透過部材を配置した。ゴムローラを500rpmで回転させながら電子線透過部材の配置されていない部分の照射時間を1sec、電子線透過部材の配置されている部分の照射時間を1secとなるように搬送して電子線を照射した。それ以外は、実施例2と同様にして帯電ゴムローラを得た。また、上記の帯電ゴムローラを使用して実施例1と同様に耐久画像汚れ評価とCset画像評価を行った。その結果、耐久画像汚れ評価はAランク、Cset画像評価もAランクであった。結果を表1に示す。
【実施例11】
【0041】
〈ゴムローラの作製〉〈電子線照射方法〉〈耐久画像汚れ評価〉〈Cset画像評価〉
厚さが10μmから徐々に100μmに傾斜するクサビ形状で、材質がアルミニウムである電子線透過部材を照射口とゴムローラの間の一部に長手一直線に配置した以外は、実施例10と同様にして帯電ゴムローラを得た。また、上記の帯電ゴムローラを使用して実施例1と同様に耐久画像汚れ評価とCset画像評価を行った。その結果、耐久画像汚れ評価はAランク、Cset画像評価もAランクであった。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【符号の説明】
【0043】
1 押出機
2 押出機のクロスヘッド
3 芯金送りローラ
4 芯金
5 切断・除去処理
6 ゴムローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯金と、該芯金の周面に設けられたゴム層とを有する表面改質ゴムローラの製造方法であって、
(1)芯金の周面に未加硫ゴムを含むゴム層の材料からなる層を設け、該層を加熱加硫させて芯金の周面に加硫ゴム層を有する加硫ゴムローラを形成する工程と、
(2)該加硫ゴムローラの表面に電子線を照射して表面改質する工程とを有し、
該工程(2)は、該加硫ゴム層に第1の電子線を照射し、次いで該2の電子線を照射する工程を含み、かつ、該第2の電子線の該加硫ゴム層への透過深さを、該第1の電子線の該加硫ゴム層への透過深さよりも浅くすることを特徴とする表面改質ゴムローラの製造方法。
【請求項2】
前記第2の電子線の加速電圧が、前記第1の電子線の加速電圧よりも小さい請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第2の電子線が、前記第1の電子線を電子線透過部材を通過させることによって該加硫ゴム層への透過深さを前記第1の電子線の透過深さよりも浅くしたものである請求項1または2に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−256617(P2010−256617A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106446(P2009−106446)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】