説明

表面改質ゴム成形体の製造方法

【課題】加硫時における各種ゴム製品との離型性及び滑り性を向上し、かつそれら性能の持続性を向上するようにした表面改質ゴム成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】ゴム成形体の表面に二官能性以上のラジカル重合性モノマーを塗布して加熱処理した後、その処理表面に(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物及びラジカル開始剤の混合物を塗布し、これを加熱処理するようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質ゴム成形体の製造方法に関し、更に詳しくは、加硫時における各種ゴム製品との離型性及び滑り性を向上すると共に、それら性能の持続性を向上するようにした表面改質ゴム成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に空気入りタイヤの加硫成形は、未加硫タイヤを加硫金型に装入し、その未加硫タイヤの内腔に挿入したゴム袋状のブラダー内に高温高圧のスチーム等を圧入して膨張させることにより、未加硫タイヤの外面を加硫金型の内面に押圧しながら加硫を行なう。このブラダーはブチルゴムにより形成されるため、未加硫タイヤの内周面に配置されたハロゲン化ブチルゴム等からなるインナーライナーとの間に粘着性を有する。このため、加硫開始時にブラダーが膨張するときのインナーライナーに対する滑り性が悪いこと、また加硫後に空気入りタイヤからブラダーを収縮させて取り出すときの離型性が悪いことから、インナーライナーを損傷することなどが問題になっている。
【0003】
この対策として、未加硫タイヤの内周面やブラダーの外表面に、各種シリコーン等の離型剤を塗布することが行われている。しかし、離型剤による離型効果は長続きしないため加硫成形の度に離型剤を頻繁に塗布しなければならず、作業性や作業環境への影響が問題になっていた。このため、特許文献1は、ブラダーの外表面を硬化シリコーン膜により改質することを提案している。しかし、この方法では、ブチルゴムを樹脂架橋したブラダーの外表面に表面処理を施すため、シリコーン組成物の反応性が低く、繰り返し加硫成形を行なうことにより、離型性や滑り性が低下し、十分な持続性が得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−100417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、加硫時における各種ゴム製品との離型性及び滑り性を向上すると共に、それら性能の持続性を向上するようにした表面改質ゴム成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の表面改質ゴム成形体の製造方法は、ゴム成形体の表面に二官能性以上のラジカル重合性モノマーを塗布して加熱処理した後、その処理表面に(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物及びラジカル開始剤の混合物を塗布し、これを加熱処理するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の表面改質ゴム成形体の製造方法は、ゴム成形体の表面に二官能性以上のラジカル重合性モノマーを塗布し加熱処理しゴム成形体の表面にラジカル重合性モノマーをグラフト反応させた後、その処理表面に(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物及びラジカル開始剤の混合物を塗布し加熱処理するようにしたので、(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物がゴム成形体表面にグラフトしたラジカル重合性モノマーと反応する。これにより(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物が、二官能性以上のラジカル重合性モノマーを介して、ゴム成形体の表面に強固に結合し、優れた離型性及び滑り性を付与すると共に、その離型性及び滑り性の持続性を大幅に向上することができる。
【0008】
前記(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物としては、下記式(1),(2)又は(3)で表されるオルガノポリシロキサン化合物から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ラジカル重合性モノマーとの反応性に優れ、かつ離型性、滑り性及びこれら性能の持続性が優れる。
【0009】
【化1】

(式中、Rはポリアルキレングリコール若しくはアルキル基、Rは水素若しくはメチル基であり、m及びnは、数平均分子量が1000〜20000になり、かつm:n=98:2〜90:10を満たすように決められる整数である。)
【0010】
【化2】

(式中、Rは水素若しくはメチル基、Rはアルキル基若しくはアルキレン基であり、pは数平均分子量が100〜20000になるように決められる整数である。)
【0011】
【化3】

(式中、Rは水素若しくはメチル基、R及びRはそれぞれ独立にアルキル基若しくはアルキレン基であり、pは数平均分子量が100〜20000になるように決められる整数である。)
【0012】
前記二官能性以上のラジカル重合性モノマーは、ゴム成形体表面に塗布した後、180℃以上で加熱処理することが好ましく、ラジカル重合性モノマーがゴム成形体表面へグラフト反応するのを強固にすることができる。
【0013】
前記ラジカル開始剤としては有機過酸化物が好ましく、その配合量は(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物100重量部に対し0.01〜20重量部にするとよく、ゴム成形体の離型性、滑り性と、これらの持続性を兼備することができる。
【0014】
本発明の製造方法により得られた表面改質ゴム成形体は、空気入りタイヤの加硫成型機におけるブラダーに好ましく使用することができ、未加硫タイヤの内面やブラダーの外表面に各種シリコーン等の離型剤を塗布しないで、優れた離型性と滑り性が得られる。また、この優れた離型性及び滑り性は、ほぼブラダー寿命に至るまで長期間時続することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において、ゴム成形体としては、離型性及び/又は滑り性を必要とするものであれば、その形状や構成するゴムの種類が特に制限されるものではない。ゴム成形体としては例えば空気入りタイヤの加硫成型機におけるブラダー、ゴムコーティング剤等を例示することができる。なかでも空気入りタイヤの加硫成型機におけるブラダーの外周面に適用するのが好ましい。
【0016】
本発明のゴム成形体は、ゴム成分を主成分にした加硫/架橋した成形体である。ゴム成形体を構成するゴム成分としては、例えばブチルゴム(IIR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム(NBR)等のジエン系ゴムや、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)などが例示される。これらのゴム成分は、上述した中から1種若しくは2種以上を含むゴム組成物とすることができる。これらのゴム組成物は、ゴム成形体の用途、要求性能に応じて、各種添加剤、補強充填剤、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができる。これら添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。かかる添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物を調製し、このゴム組成物を成形し加硫又は架橋することによりゴム成形体にするとよい。また、空気入りタイヤの加硫成型機に取り付けられているブラダーとしては、ゴム成分としてブチルゴムを主成分にし、これに架橋性樹脂等を配合したゴム組成物により成形し、これを樹脂架橋するとよく、ブラダーの耐熱性を高くすることができる。
【0017】
本発明の製造方法では、先ずゴム成形体の離型性及び/又は滑り性を付与する表面に二官能性以上のラジカル重合性モノマーを塗布して加熱処理することにより、ゴム成形体の表面にラジカル重合性モノマーをグラフト反応させる。これにより、(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物とのラジカル反応が可能になる。ゴム成形体は、予め加硫処理・架橋処理が施されており、そのままでは(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物との反応性が乏しく、強固な結合を得ることができない。特にブチルゴムは安定であり(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物を接着させることができない。
【0018】
このため例えばゴム成形体を変性したブチルゴムで形成することにより(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物との反応性を高くすることが考えられる。しかし、既存のブラダーは、未変性のブチルゴム(レギュラーブチルゴム)で形成されているため、変性ブチルゴムからなるブラダーに置き換えることは、困難である。また、変性ブチルゴムの製造には、多くの労力を必要とし生産コストが高くなるため、実用に適さない場合がある。
【0019】
本発明において、二官能性以上のラジカル重合性モノマーは、特に制限されるものはないが、好ましくは多官能アクリレート、多官能メタクリレートがよく、(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物との結合を一層強くすることができる。なかでも分子中に電子吸引基(例えばカルボニル基(ケトン、アルデヒド、エステル、カルボン酸、カルボン酸塩、アミド)、ニトロ基、シアノ基などを含むラジカル重合性モノマーが、反応率を高めるという観点から好ましい。二官能性以上のラジカル重合性モノマーとしては、例えばエチレンジ(メタ)アクリレート(ここでエチレンジ(メタ)アクリレートという表記はエチレンジメタアクリレート及びエチレンジアクリレートの両方を意味する。以下、同じ)、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、プロポキシ化グリセリル(メタ)アクリレート、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリシロキサンジ(メタ)アクリレート、各種ウレタン(メタ)アクリレート、各種金属(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、N,N′−フェニレンジマレイミド、ビスマレイミドジフェニルメタン、N,N′−フェニレンジアクリルアミド、ジビニルベンゼン、トリアリルイソシアヌレートなどを例示することができる。
【0020】
ラジカル重合性モノマーの塗布量は、特に制限されるものではないが、例えばゴム成形体の1m当たり、好ましくは2〜30g、より好ましくは5〜15gにするとよい。ラジカル重合性モノマーの塗布量が少な過ぎると、ゴム成形体の表面へのラジカル重合性モノマーのグラフト反応が十分に進行しないおそれがあり、逆に多過ぎると耐久性が低下し、離型性及び滑り性の持続性が悪化するおそれがある。
【0021】
ゴム成形体の表面に塗布したラジカル重合性モノマーの加熱処理は、好ましくは180℃以上、より好ましくは180℃〜230℃で、好ましくは3分以上、より好ましくは5〜15分行うとよい。ラジカル重合性モノマーの加熱処理が180℃より低かったり、3分より短かったりすると、ゴム成形体の表面へのラジカル重合性モノマーのグラフト反応を十分に進めることができない。
【0022】
本発明の製造方法では、上述した二官能性以上のラジカル重合性モノマーを塗布し加熱した処理表面に、(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物及びラジカル開始剤の混合物を塗布し、これを加熱処理する。これにより、ゴム成形体の表面に、ラジカル重合性モノマーを介して、(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物が強固に結合する。この結果、ゴム成形体の表面が優れた離型性及び滑り性を有すると共に、これら性能の持続性を大幅に向上した表面改質ゴムゴム成形体を得ることができる。
【0023】
本発明の製造方法で使用するシロキサン化合物が有する(メタ)アクリロイル基は、アクリロイル基及びメタアクリロイル基の少なくとも1つの基であればよい。(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物としては、好ましくは下記式(1),(2)又は(3)で表されるオルガノポリシロキサン化合物から選ばれる少なくとも1種であるとよい。
【0024】
【化4】

(式(1)中、Rはポリアルキレングリコール若しくはアルキル基、Rは水素若しくはメチル基であり、m及びnは、数平均分子量が1000〜20000になり、かつm:n=98:2〜90:10を満たすように決められる整数である。)
【0025】
上記式(1)で表される(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物の数平均分子量は1000〜20000、好ましくは5000〜20000である。m及びnは、数平均分子量が上記範囲内になるように決められる整数であると共に、m:n=98:2〜90:10、好ましくは97:3〜94:6を満たす必要がある。また、Rの炭素数は、好ましくは4〜30、より好ましくは8〜18であるとよい。なお、本発明において、ポリシロキサン化合物の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定する標準ポリスチレン換算の数平均分子量とした。
【0026】
このような(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物としては、デグッサ社製有機変性シリコーンアクリレートTEGO RAD2700等が例示される。
【0027】
【化5】

(式(2)中、Rは水素若しくはメチル基、Rはアルキル基若しくはアルキレン基であり、pは数平均分子量が100〜20000になるように決められる整数である。)
【0028】
上記式(2)で表される(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物の数平均分子量は100〜20000、好ましくは1000〜12000である。pは数平均分子量が上記の範囲内になるように決められる整数である。また、Rの炭素数は、好ましくは1〜30、より好ましくは3〜18であるとよい。
【0029】
このような(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物としては、信越化学工業社製変性シリコーンオイルX−22−164A、チッソ社製両末端サイラプレーン等が例示される。
【0030】
【化6】

(式(3)中、Rは水素若しくはメチル基、R及びRはそれぞれ独立にアルキル基若しくはアルキレン基であり、pは数平均分子量が100〜20000になるように決められる整数である。)
【0031】
上記式(3)で表される(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物の数平均分子量は100〜20000、好ましくは1000〜12000である。pは数平均分子量が上記範囲内になるように決められる整数である。また、R及びRの炭素数は、それぞれ独立に好ましくは1〜30、より好ましくは3〜18であるとよい。
【0032】
このような(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物としては、信越化学工業社製変性シリコーンオイルX−22−2426、チッソ社製片末端サイラプレーン等が例示される。
【0033】
本発明において、(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物と混合して塗布するラジカル開始剤としては、任意のラジカル開始剤を用いることができ、とりわけ有機過酸化物が好ましい。ラジカル開始剤としては、例えばベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシ−3−ヘキシン、2,4−ジクロロ−ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキシ−ジ−イソプロピルベンゼン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、ジイソブチルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカネート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカネート、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、ジ(2−エトキシヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ヘキシルパーオキシネオデカネート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカネート、t−ヘキシルパーオキシピパレート、t−ブチルパーオキシピパレート、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ジ−n−オクタノイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジステアロイルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジサクシン酸パーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ(3−メチルベンゾイル)パーオキサイドとベンゾイル(3−メチルベンゾイル)パーオキサイドとジベンゾイルパーオキサイドの混合物、ジベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレートなどを例示することができる。また好ましい有機過酸化物としては、例えばベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシ−3−ヘキシン、2,4−ジクロロ−ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキシ−ジ−イソプロピルベンゼン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、などを例示することができる。
【0034】
また、ラジカル開始剤として、レドックス触媒の作用により低温で分解が可能なものを使用してもよい。代表的なものとしては、例えばジベンゾイルパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイドなどを例示することができる。
【0035】
更にアゾジカーボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス−(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロライド、ジメチル2,2′−アゾビス(イソブチレート)、アゾビス−シアン吉草酸、1,1′−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、アゾビスメチルブチロニトリル、2,2′−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルパレロニトリル)などのアゾ系ラジカル開始剤を例示することができる。
【0036】
本発明において、ラジカル開始剤の配合量は、特に制限されるものではないが、(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物100重量部に対し、好ましくは0.01〜20重量部、より好ましくは0.3〜10重量部にするとよい。ラジカル開始剤の配合量が少な過ぎると(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物とラジカル重合性モノマーとの反応が進まないため、十分な離型性及び滑り性を確保することができない。逆に、ラジカル開始剤の配合量が多過ぎるとゴム成形体を構成するゴム分子の切断が起こり、ゴム成形体の耐久性が悪化する。
【0037】
(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物とラジカル開始剤との混合物の塗布量は、特に制限されるものではないが、例えばゴム成形体の1m当たり、好ましくは2〜30g、より好ましくは5〜15gにするとよい。シロキサン化合物とラジカル開始剤との混合物の塗布量が少な過ぎると、ゴム成形体の表面に結合するシロキサン化合物が不十分になり、逆に多過ぎると離型剤が固化し、タイヤの内側内部に異物として付着する可能性がある。
【0038】
この表面改質ゴム成形体は、空気入りタイヤの加硫成型機に用いるブラダーとして好適である。このようなブラダーを使用することにより、未加硫タイヤの内面やブラダーの外表面に各種シリコーン等の離型剤を塗布しないで、優れた離型性と滑り性が得られる。また、この優れた離型性及び滑り性は、ほぼブラダー寿命に至るまで長期間時続することができる。
【0039】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
表1に示す配合からなる2種類のゴム組成物1,2を、それぞれ架橋性樹脂、硫黄及び加硫促進剤を除く配合物を1.5Lの密閉式バンバリーで5分間混練して放出し、室温で冷却した。その後、これをオープンロールに供し、それぞれ表1に示す架橋性樹脂、硫黄及び加硫促進剤を配合して混合し、2種類のゴム組成物1,2を調製した。
【0041】
【表1】

【0042】
表1において使用した原材料を下記に示す。
IIR:ブチルゴム、ランクセス社製BUTYL301
ハロゲン化IIR:臭素化ブチルゴム、ランクセス社製BROMOBUTYL X2
NR:天然ゴム、RSS#3
CR:クロロプレンゴム、デュポン社製ネオプレンW
カーボンブラック1:東海カーボン社製HAF級カーボンブラック
カーボンブラック2:東海カーボン社製GPF級カーボンブラック
オイル1:ひまし油、伊藤製油社製キャスターオイル
オイル2:昭和シェル石油社製エキストラクト4号S
ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸YR
亜鉛華:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
架橋性樹脂:アルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂、日立化成工業社製ヒタノール2501Y
硫黄:細井化学工業社製油処理硫黄
加硫促進剤:三新化学工業社製サンセラーDM−PO
【0043】
上記で得られたゴム組成物1を、表2に示す加熱温度、時間の条件で熱プレスして樹脂架橋を行い厚さ2mmのゴム成形体(実施例1〜3、比較例1〜3)をそれぞれ作成した。また、ゴム組成物2から、厚さ2mmの未加硫ゴムシートを作成した。
【0044】
表2に示す組み合わせのように、得られたゴム成形体の表面にラジカル重合性モノマーの塗布の有無及び塗布するときは塗布後の加熱条件(温度、時間)、シロキサン化合物とラジカル開始剤の混合物の塗布の有無、塗布するときは混合物の種類及び塗布後の加熱条件(温度、時間)を異ならせることにより、6種類の表面改質ゴム成形体(実施例1〜3、比較例1〜3)を作成した。ただし、比較例1はゴム成形体の表面を改質したものではない。
【0045】
得られた6種類の表面改質ゴム成形体の処理表面を、キシレンを用いて十分に洗浄し、未反応のシロキサン化合物を取り除いた。これは加硫成形を繰り返しブラダー表面から離型剤が擦り取られた状態に相当するものである。それぞれの処理表面に、上述した未加硫ゴムシート(厚さ2mm)を積層し、180℃、10分の条件でプレス加硫を行った。この加硫ゴムシートを、表面改質ゴム成形体から手で引き剥がすときの離型性を下記の基準により評価し、得られた結果を表2に示した。
【0046】
◎: 容易にかつ完全に引き剥がすことができる。
○: 容易に引き剥がすことができるが、シート端部で若干抵抗力があった。
×: 接着のため手で引き剥がすことができない。
【0047】
【表2】

【0048】
表2において使用した原材料の種類を下記に示す。
ラジカル重合性モノマー:ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、サートマー社製SR−355
混合物1,2:シロキサン化合物とラジカル開始剤を含む混合物、それぞれの組成を表3に示した。
【0049】
【表3】

【0050】
表3において使用した原材料の種類を下記に示す。
シロキサン化合物:化学式(1)で表される(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物、数平均分子量20000、デグッサ社製有機変性シリコーンアクリレートTEGO RAD2700
ラジカル開始剤:有機過酸化物、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキサン、化薬アクゾ社製カヤヘキサAD
ラジカル重合性モノマー:ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、サートマー社製SR−355
【0051】
表2の結果から明らかなように、本発明の製造方法により得られた表面改質ゴム成形体は(実施例1〜3)、その処理表面をキシレンで洗浄した後、ゴム成形体に未加硫ゴムを積層しプレス加硫しても、加硫ゴムシートを容易に引き剥がすことができ、優れた離型性能を有することが確認された。これに対し、比較例1〜3のゴム成形体は、プレス加硫したゴムシートがゴム成形体に接着し手で引き剥がすことができなかった。これは、比較例1は表面改質を行わず、かつシロキサン化合物を塗布しなかったため、比較例2,3は二官能性以上のラジカル重合性モノマーを塗布し加熱処理しなかったのでシロキサン化合物による表面改質ができなかったためである。なお、比較例3はラジカル重合性モノマーをシロキサン化合物とラジカル開始剤に添加した混合物を塗布し加熱処理したが、キシレン洗浄によりシロキサン化合物が除去され、離型性を改良する効果が得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成形体の表面に二官能性以上のラジカル重合性モノマーを塗布して加熱処理した後、その処理表面に(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物及びラジカル開始剤の混合物を塗布し、これを加熱処理するようにしたことを特徴とする表面改質ゴム成形体の製造方法。
【請求項2】
前記(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物が、下記式(1),(2)又は(3)で表されるオルガノポリシロキサン化合物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の表面改質ゴム成形体の製造方法。
【化1】

(式中、Rはポリアルキレングリコール若しくはアルキル基、Rは水素若しくはメチル基であり、m及びnは数平均分子量が1000〜20000になり、かつm:n=98:2〜90:10を満たすように決められる整数である。)
【化2】

(式中、Rは水素若しくはメチル基、Rはアルキル基若しくはアルキレン基であり、pは数平均分子量が100〜20000になるように決められる整数である。)
【化3】

(式中、Rは水素若しくはメチル基、R及びRはそれぞれ独立にアルキル基若しくはアルキレン基であり、pは数平均分子量が100〜20000になるように決められる整数である。)
【請求項3】
前記二官能性以上のラジカル重合性モノマーを塗布し、180℃以上で加熱処理するようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の表面改質ゴム成形体の製造方法。
【請求項4】
前記(メタ)アクリロイル基を有するシロキサン化合物100重量部に対し、有機過酸化物からなるラジカル開始剤を0.01〜20重量部配合したことを特徴とする請求項1,2又は3に記載の表面改質ゴム成形体の製造方法。
【請求項5】
前記ゴム成形体が空気入りタイヤの加硫成型機に用いられるブラダーである請求項1〜4のいずれかに記載の表面改質ゴム成形体の製造方法。

【公開番号】特開2011−219520(P2011−219520A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86784(P2010−86784)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】