説明

表面改質処理装置

【課題】処理条件を効率的に設定することができる表面改質処理装置を提供する。
【解決手段】被処理物10を真空に保持する第1処理室4と、前記被処理物10の表面に紫外光を照射する第1紫外光照射部6とを有する表面改質処理装置1において、酸素を励起して処理ガスを生成するガス生成部3を備え、前記処理ガスを前記第1処理室4に供給する。前記ガス生成部3は、第2処理室25と、前記第2処理室25内に酸素を供給する第2酸素供給路27と、前記酸素に紫外光を照射する第2紫外光照射部26とを有し、前記第2処理室25と前記第1処理室4とは連通路30を介して連通されており、前記第2処理室25内で生成された前記処理ガスを前記第1処理室4内に供給するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面改質処理装置に関し、特に表面を親水化する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表面改質処理装置としては、紫外線ランプを用いてオゾンと紫外線の作用により被処理物表面の親水化を行うものが開示されている(例えば、特許文献1〜4)。上記特許文献1には、被処理物の表面の光透過方向の中間点における波長185nmの紫外線の放射強度が所定値以上になるようにランプの出力およびランプと被処理物との位置関係などを選定することにより、効率よく高速で洗浄することができる、と記載されている。
【0003】
上記特許文献2には、照射室とステージ室との間に位置する被処理物の出入口に第1のシャッタを設け、ステージ室と装置外部との間に位置する被処理物の出入口に第2のシャッタを設け、第1のシャッタが開のときは第2のシャッタが閉で、第1のシャッタが閉のときは第2のシャッタが開となるように制御されることにより、オゾンが漏れるのを防ぐことができる、と記載されている。
【0004】
上記特許文献3には、処理室内に酸素ガスを導入して処理を行うことにより、発生するオゾン量を増加させて生産性の向上を図ることができる、と記載されている。
【0005】
上記特許文献4には、紫外線ランプの劣化による紫外線量の低下に応じて処理室内に酸素ガスを供給するガス供給手段を備えていることにより、紫外線量が低下しても、処理室内のオゾン濃度を上昇させて処理能力を維持することができる、と記載されている。
【0006】
上記特許文献5には、光学フィルムにオゾン乾式前処理を施して光学フィルムの表面親水性の増加及び接触角度の低減を図ることにより、湿式で行っていた従来に比べ工程ステップを簡単化することができる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭59−94824号公報
【特許文献2】特開平4−59042号公報
【特許文献3】特開2000−225337号公報
【特許文献4】特開2000−233129号公報
【特許文献5】特開2006−124631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1〜4では、単体の処理室内において大気中の酸素または導入された酸素を紫外線により励起し、当該励起された酸素と紫外線の作用により被処理物表面の親水化を行うので、表面改質処理条件を設定することが困難であるという問題があった。すなわち、波長172nm以下の紫外線は酸素に吸収されやすいので、紫外線により酸素を効率的に励起する条件と、前記紫外線により効率的に被処理物表面の分子結合を切断する条件とを、同時に最適化して設定することが困難である。
【0009】
そこで、本発明は、表面改質処理条件を効率的に設定することができる表面改質処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に係る発明は、被処理物を真空に保持する第1処理室と、前記被処理物の表面に紫外線を照射する第1紫外線照射部とを有する表面改質処理装置において、酸素を励起して処理ガスを生成するガス生成部を備え、前記処理ガスを前記第1処理室に供給することを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項2に係る発明は、前記ガス生成部が、第2処理室と、前記第2処理室内に酸素を供給する酸素供給路と、前記酸素に紫外線を照射する第2紫外線照射部とを有し、前記第2処理室と前記第1処理室とは連通路を介して連通されており、前記第2処理室内で生成された前記処理ガスを前記第1処理室内に供給するように構成されたことを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項3に係る発明は、前記第2紫外線照射部が、中心波長150nm〜172nmの紫外線を照射することを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項4に係る発明は、前記第2処理室が、円筒状の密閉容器で構成され、当該密閉容器の中心軸上に前記第2紫外線照射部が保持されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項5に係る発明は、前記被処理物が、ベンゼン環構造を有するポリマーからなる有機膜が表面に形成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項6に係る発明は、前記有機膜が、ポリ尿素膜であることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項7に係る発明は、前記第1処理室に、前記被処理物を加熱するヒータが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の表面改質処理装置によれば、ガス生成部で生成した処理ガスを、第1処理室に供給する構成としたことにより、第1紫外線照射部の紫外線が酸素に吸収される分を考慮する必要がないので、表面改質処理条件を効率的に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る表面改質処理装置の全体構成を模式的に示す概念図である。
【図2】表面改質処理前後の被処理物の表面に対するXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy; X線光電子分光)測定の結果を示すグラフであり、(A)C1sスペクトル,(B)O1sスペクトルである。
【図3】表面改質処理前後の被処理物のFT−IR(Fourier Transform Infrared Spectrometer;フーリエ変換型赤外分光)測定結果を示すグラフであり、(A)表面改質処理前、(B)表面改質処理後の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
(全体構成)
図1に示す表面改質処理装置1は、表面処理部2と、ガス生成部3とを備え、ガス生成部3で酸素を励起して処理ガスを生成し、当該処理ガスを表面処理部2に供給し得るように構成されている。ここで、処理ガスとは、OやO(D)が含まれる。
【0020】
表面処理部2は、第1処理室4と、ステージ5と、第1紫外線照射部6とを有し、真空紫外線(vacuum ultra violet;VUV)を用いて、被処理物10の表面を親水性に改質し得るように構成されている。
【0021】
第1処理室4は、被処理物10を出し入れする図示しない開閉窓を有する密閉容器で構成され、真空計11、窒素供給路12、第1酸素供給路13、第1排気通路14が設けられている。窒素供給路12は、一端が第1バルブV1を介して第1処理室4に連通されていると共に、他端が図示しない窒素供給部に連通されている。第1酸素供給路13は、一端が第2バルブV2を介して第1処理室4に連通されていると共に、他端が図示しない酸素供給手段に連通されている。また、第1排気通路14は、一端が第3バルブV3を介して第1処理室4に連通されていると共に、他端が図示しない真空装置に連通されている。
【0022】
ステージ5は、被処理物10を保持するように構成されている。本実施形態の場合、ステージ5は、第1処理室4の底部に固定されている。被処理物10は、表面に有機膜17が形成されている。有機膜17は、種々のものが考えられるが、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリ尿素、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、シクロオレフィンポリマーなどで形成することができる。また、ステージ5は、ヒータ18を設けることにより、有機膜17がオリゴマーでも固相重合反応を進め、表面改質処理をすることができる。
【0023】
第1紫外線照射部6は、ステージ5に設置された被処理物10の表面に紫外線を照射し得るように構成されており、第1紫外線ランプ20と、当該第1紫外線ランプ20を収容するランプハウス21と、第1紫外線ランプ20から照射された紫外線を放射する石英窓22とを有する。本実施形態の場合、第1紫外線照射部6は、第1処理室4の上部に設置されている。また、第1紫外線ランプ20は、低圧水銀ランプや、Xeエキシマランプ(キセノンエキシマランプ)を用いることができる。
【0024】
ガス生成部3は、第2処理室25と、第2紫外線照射部26とを有する。第2処理室25は、円筒状の密閉容器で構成され、酸素供給路としての第2酸素供給路27と、第2排気通路28、真空計11とが設けられている。
【0025】
第2酸素供給路27は、一端が第4バルブV4を介して第2処理室25に連通されていると共に、他端が図示しない酸素供給手段に連通されている。第2排気通路28は、一端が第5バルブV5を介して第2処理室25に連通されていると共に、他端が図示しない真空装置に連通されている。
【0026】
また、第2紫外線照射部26は、第2処理室25の内部の中心軸上に保持された第2紫外線ランプ29で構成されている。第2紫外線ランプ29は、中心波長が150nm〜172nmである。
【0027】
このように構成された第2処理室25は、連通路30を介して第1処理室4に連通されている。当該連通路30は、一端が第1処理室4に連通され、他端が第2処理室25に連通されており、通路を開閉する第6バルブV6が設けられている。
【0028】
(動作および効果)
上記のように構成された表面改質処理装置1の各部の動作および効果について説明する。まず、ステージ5上に被処理物10を設置する。この場合、被処理物10は、有機膜17が形成された表面を上方、すなわち第1紫外線照射部6に対向させて設置されている。
続いて、第5バルブV5を開き、第2処理室25内を真空引きする。なお、このとき第6バルブV6は閉じられている。次いで、第4バルブV4を開く。そうすると、第2酸素供給路27を通って酸素が第2処理室25内に供給される。第2処理室25内の圧力が所定値に達するように、第4バルブV4に連通する真空装置によって制御する。なお、この場合の圧力は、100〜800 mbar程度であることが好ましい。
【0029】
次いで、第2紫外線照射部26の第2紫外線ランプ29を点灯し、第2処理室25内に供給された前記酸素を励起して処理ガスを生成する。なお、このとき処理ガスは第5バルブV5を介して真空装置側へ排気されている。次いで、第3バルブV3を開き、第1処理室4内を真空引きする。次いで、第6バルブV6を開くと共に第5バルブV5を閉める。そうすると、第2処理室25内の処理ガスが、連通路30を通って第1処理室4内に供給される。第1処理室4内の圧力が所定値に達するように、第6バルブV6に連通する真空装置によって圧力を制御する。なお、この場合の圧力は、50〜400 mbar程度であることが好ましい。
【0030】
次いで、第1紫外線照射部6の第1紫外線ランプ20を点灯する。そうすると、第1紫外線ランプ20から照射された紫外線が被処理物10の表面に形成された有機膜17の分子結合を切断すると共に、処理ガス中に含まれる活性酸素と結合反応して、ヒドロキシル基(OH)、カルボキシル基(COOH)などの親水基が表面に形成される。このようにして、表面改質処理装置1は、処理ガスと紫外線の作用によって、被処理物10の表面を親水性に改質する。
【0031】
本実施形態の場合、表面改質処理装置1は、ガス生成部3を表面処理部2とは別体として設け、ガス生成部3で生成した処理ガスを、連通路30を通じて第1処理室4に供給する構成とした。これにより、表面処理部2は、第1紫外線照射部6の紫外線が酸素に吸収される分を減らすことが可能なため、表面改質処理条件をより効率的に設定することができる。
【0032】
また、第2処理室25は、円筒状の密閉容器で構成され、当該密閉容器の中心軸上に前記第2紫外線ランプ29が保持されていることにより、より効率的に酸素を励起して処理ガスを生成することができる。
【0033】
さらに、本実施形態では、第1処理室4に第1酸素供給路13を設け、第1処理室4に酸素を供給し得る構成とした。これにより、表面改質処理装置1は、従来の紫外線処理装置としての使用も可能である。
【0034】
図2は、表面改質処理前後の被処理物10の表面に対するXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy; X線光電子分光)測定の結果である。なお、被処理物10は、Si基板(サイズ:10mm□)の表面に有機膜17としてポリ尿素膜を厚さ100nm形成したものを用いた。また、表面処理は、第1酸素供給路13から酸素を導入することにより第1処理室4のみを用い、当該第1処理室4内に導入する酸素の圧力を300 mbarとし、第1紫外線ランプ20にXeエキシマランプを用い、当該第1紫外線ランプ20の照射時間を20分とすることにより行った。
【0035】
本図より、表面改質処理後、C−C/C−H成分が減少し、−O−C=O、C=O成分が大きく増加していることが確認できた。また、ベンゼン環由来のπ電子のπ−π*遷移に基づく弱いサテライトピークが消失している。これらの結果から、ベンゼン環が開環し、その部位にO原子が付加することで−O−C=O基やC=O基が新たに生成したと考えられる。また、有機膜17表面の接触角は、表面改質処理前において78°であるのに対し、表面改質処理後において15°に減少した。このことから、表面改質処理によって、有機膜17表面が親水性に改質されたことが確認できた。
【0036】
また、図3は、表面改質処理前後のFT−IR(Fourier Transform Infrared Spectrometer;フーリエ変換型赤外分光)測定結果である。本図より、表面改質処理前後で変化は見られない。これは処理物表面のポリ尿素が最表面から数十nmの深さでのみ表面改質されており、FT−IR波形ではそれより深い領域の構造が主に吸収ピークとして表れているためであると推測される。本実験データは表面改質処理装置1のみを用いて取得したものであるが、ガス生成部3を活用することで、照射時間の短縮などの表面改質処理の効率化が見込める。
(変形例)
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【0037】
例えば、表面改質処理装置1の動作手順を以下のようにすることもできる。まず、第5バルブV5を開き、第2処理室25内を真空引きする。なお、このとき第6バルブV6は閉じられている。次いで、第5バルブV5を閉め、第4バルブV4を開く。そうすると、第2酸素供給路27を通って酸素が第2処理室25内に供給される。第2処理室25内の圧力が所定値に達したら、第4バルブV4を閉める。次いで、第2紫外線照射部26の第2紫外線ランプ29を点灯し、第2処理室25内に供給された前記酸素を励起して処理ガスを生成する。一定時間経過後、第2紫外線ランプ29を消灯する。次いで、第3バルブV3を開き、第1処理室4内を真空引きする。次いで、第3バルブV3を閉め、第6バルブV6を開く。そうすると、第2処理室25内の処理ガスが、連通路30を通って第1処理室4内に供給される。第1処理室4内の圧力が所定値に達したら、第6バルブV6を閉める。次いで、第1紫外線照射部6の第1紫外線ランプ20を点灯する。そして、第1処理室4内において、処理ガスと紫外線の作用によって、被処理物10の表面を親水性に改質する。
【0038】
また、表面改質処理装置1の動作手順を以下のようにすることもできる。まず、第5バルブV5を開き、第2処理室25内を真空引きする。なお、このとき第6バルブV6は閉じられている。次いで、第4バルブV4を開く。そうすると、第2酸素供給路27を通って酸素が第2処理室25内に供給される。第2処理室25内の圧力が所定値に達するように、第4バルブV4に連通する真空装置によって制御する。次いで、第3バルブV3を開き、第1処理室4内を真空引きする。次いで、第6バルブV6を開くと共に第5バルブV5を閉める。そうすると、第2処理室25内の酸素が、連通路30を通って第1処理室4内に供給される。第1処理室4内の圧力が所定値に達するように、第6バルブV6に連通する真空装置によって圧力を制御する。次いで、第2紫外線照射部26の第2紫外線ランプ29を点灯すると共に、第1紫外線照射部6の第1紫外線ランプ20を点灯する。これにより、第2処理室25内に供給された前記酸素を励起して処理ガスが生成され、当該処理ガスが連通路30を通って第1処理室4内に供給される。そして、第1処理室4内において、処理ガスと紫外線の作用によって、被処理物10の表面を親水性に改質する。この場合も上記と同様に第1処理室4内の圧力を容易に安定させることができるので、より容易に表面改質処理条件を設定することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 表面改質処理装置
3 ガス生成部
4 第1処理室
6 第1紫外線照射部
10 被処理物
17 有機膜
18 ヒータ
25 第2処理室
26 第2紫外線照射部
27 第2酸素供給路(酸素供給路)
30 連通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を真空に保持する第1処理室と、
前記被処理物の表面に紫外線を照射する第1紫外線照射部と
を有する表面改質処理装置において、
酸素を励起して処理ガスを生成するガス生成部を備え、
前記処理ガスを前記第1処理室に供給することを特徴とする表面改質処理装置。
【請求項2】
前記ガス生成部は、
第2処理室と、
前記第2処理室内に酸素を供給する酸素供給路と、
前記酸素に紫外線を照射する第2紫外線照射部と
を有し、
前記第2処理室と前記第1処理室とは連通路を介して連通されており、前記第2処理室内で生成された前記処理ガスを前記第1処理室内に供給するように構成されたことを特徴とする請求項1記載の表面改質処理装置。
【請求項3】
前記第2紫外線照射部は、中心波長が150nm〜172nmの紫外線を照射することを特徴とする請求項2記載の表面改質処理装置。
【請求項4】
前記第2処理室は、円筒状の密閉容器で構成され、当該密閉容器の中心軸上に前記第2紫外光照射部が保持されていることを特徴とする請求項2記載の表面改質処理装置。
【請求項5】
前記被処理物は、ベンゼン環構造を有するポリマーからなる有機膜が表面に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の表面改質処理装置。
【請求項6】
前記有機膜は、ポリ尿素膜であることを特徴とする請求項5記載の表面改質処理装置。
【請求項7】
前記第1処理室には、前記被処理物を加熱するヒータが設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の表面改質処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−251228(P2011−251228A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125521(P2010−125521)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(596175810)財団法人かずさディー・エヌ・エー研究所 (40)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】