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表面改質方法、樹脂製部材、シール装置及び車輪支持用転がり軸受装置
説明

表面改質方法、樹脂製部材、シール装置及び車輪支持用転がり軸受装置

【課題】樹脂製部材の表面に優れた低摩擦性及び低摩耗性を付与でき、しかも長期間にわたって維持される表面改質方法、及び表面の低摩擦性及び低摩耗性が優れており、しかも長期間にわたって維持される樹脂製部材を提供する。
【解決手段】深溝玉軸受では、内輪21と外輪22の開口を覆うシール装置25,25が設けられ、弾性部材32は、潤滑性物質の粒子及びゴムを含有する樹脂組成物で構成されているとともに、プラズマへの暴露により低摩擦性及び低摩耗性を有する表面に改質される。カーボンブラックの粒子及びニトリルゴムを含有する樹脂組成物で構成された樹脂製部材の表面を、常圧の空気中でプラズマに暴露すると、樹脂製部材にイオンが注入され、表層部分のニトリルゴムの分子が蒸発又は変質するため、覆われていたカーボンブラックの粒子が、樹脂製部材の表面に露出して、樹脂製部材の表面が改質される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製部材の表面改質方法、及び、表面改質された樹脂製部材に関する。また、本発明は、シール装置、及び、シール装置を備える車輪支持用転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子化合物で構成された樹脂製部材の表面を改質する方法としては、樹脂製部材の表面にダイヤモンドライクカーボン被膜を被覆する方法が知られている。表面にダイヤモンドライクカーボン被膜を被覆することにより、樹脂製部材の表面に低摩擦性及び低摩耗性が付与される。
例えば、特許文献1には、メタンとアルゴンの混合ガスを導入しながらCVDプラズマ処理を行ってダイヤモンドライクカーボン被膜を形成する方法が開示されている。また、特許文献2には、炭素原子ビームを照射することによりダイヤモンドライクカーボン被膜を形成する方法が開示されている。なお、これ以降は、ダイヤモンドライクカーボンをDLCと記す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−2377号公報
【特許文献2】特開2006−307251号公報
【特許文献3】特許第3952695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,2に開示の方法は、炭化水素や炭素原子ビームのような炭素源を必要とするため、改質処理装置が大規模となる、改質処理コストが高い等の問題点を有していた。また、特許文献1,2に開示の方法は、樹脂製部材の表面にDLC被膜を形成するものであるため、形成されたDLC被膜が剥離するおそれがあるという問題点を有していた。そのため、改質された表面の特性が長期間維持されず、耐久性が不十分であった。
【0005】
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、樹脂製部材の表面に優れた低摩擦性及び低摩耗性を付与することができ、しかも低摩擦性及び低摩耗性が長期間にわたって維持される表面改質方法、及び、表面の低摩擦性及び低摩耗性が優れており、しかも低摩擦性及び低摩耗性が長期間にわたって維持される樹脂製部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1の表面改質方法は、潤滑性物質の粒子及び高分子化合物を含有する樹脂組成物で構成された樹脂製部材の表面を、プラズマに暴露することを特徴とする。
また、本発明に係る請求項2の表面改質方法は、請求項1に記載の表面改質方法において、空気,希ガス,水素ガス,及び窒素ガスのうち少なくとも1種からなる雰囲気中で、前記樹脂製部材の表面をプラズマに暴露することを特徴とする。
【0007】
さらに、本発明に係る請求項3の樹脂製部材は、潤滑性物質の粒子及び高分子化合物を含有する樹脂組成物で構成された樹脂製部材において、その表層部分については、前記潤滑性物質の粒子の濃度が表面に向かうに従って高くなっていることを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項4の樹脂製部材は、請求項3に記載の樹脂製部材において、前記高分子化合物がプラスチック又はゴムであることを特徴とする。
【0008】
さらに、本発明に係る請求項5のシール装置は、互いに相対運動する2つの部材のうち一方の部材に取り付けられ他方の部材に滑り接触して、前記両部材の間に形成された空隙部の開口を密封するシール装置において、前記他方の部材に滑り接触する摺動部分を、請求項1又は請求項2に記載の表面改質方法により表面改質された樹脂製部材で構成したことを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項6のシール装置は、互いに相対運動する2つの部材のうち一方の部材に取り付けられ他方の部材に滑り接触して、前記両部材の間に形成された空隙部の開口を密封するシール装置において、前記他方の部材に滑り接触する摺動部分を、請求項3又は請求項4に記載の樹脂製部材で構成したことを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明に係る請求項7の車輪支持用転がり軸受装置は、外周面に軌道面を有する内方部材と、前記内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内方部材及び前記外方部材のうち一方の部材に取り付けられ他方の部材に滑り接触して、前記両部材の間に形成された空隙部の開口を密封するシール装置と、を備える車輪支持用転がり軸受装置において、前記シール装置を、請求項5又は請求項6に記載のシール装置としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の表面改質方法は、樹脂製部材の表面に優れた低摩擦性及び低摩耗性を付与することができ、しかも低摩擦性及び低摩耗性が長期間にわたって維持される。
また、本発明の樹脂製部材は、表面の低摩擦性及び低摩耗性が優れており、しかも低摩擦性及び低摩耗性が長期間にわたって維持される。
さらに、本発明のシール装置は、摺動部分の低摩擦性及び低摩耗性が優れており、しかも低摩擦性及び低摩耗性が長期間にわたって維持される。
さらに、本発明の車輪支持用転がり軸受装置は、シール装置の摺動部分の低摩擦性及び低摩耗性が優れており、しかも低摩擦性及び低摩耗性が長期間にわたって維持されるため、長寿命である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のシール装置の一実施形態であるゴムシールを説明する転がり軸受の断面図である。
【図2】本発明の車輪支持用転がり軸受装置の一実施形態である車輪支持用ハブユニットの構造を示す断面図である。
【図3】図2の車輪支持用ハブユニットの内端側に配されたシール装置の構造を示す部分縦断面図である。
【図4】図2の車輪支持用ハブユニットの外端側に配されたシール装置の構造を示す部分縦断面図である。
【図5】XPS分析の結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る表面改質方法、樹脂製部材、シール装置、及び車輪支持用転がり軸受装置の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
潤滑性物質の粒子及び高分子化合物を含有する樹脂組成物で構成された樹脂製部材の表面を、プラズマに暴露すると、樹脂製部材にイオンが注入される。すると、樹脂製部材の表層部分(表面近傍部分)に位置する高分子化合物の分子が蒸発又は変質するため、樹脂製部材の表層部分において高分子化合物に覆われていた潤滑性物質の粒子の少なくとも一部が、樹脂製部材の表面に露出することとなる。
【0013】
高分子化合物は摩擦や摩耗が比較的生じやすいが、潤滑性物質の粒子は低摩擦性及び低摩耗性であるので、樹脂製部材の表面が、低摩擦性及び低摩耗性を有する表面に改質される。すなわち、樹脂製部材の表面に低摩擦性及び低摩耗性を有する被膜が被覆されるのではなく、樹脂製部材の表面そのものが低摩擦性及び低摩耗性に改質される。なお、以降においては、改質された表層部分を改質層と記すこともある。
【0014】
この改質層については、潤滑性物質の粒子の濃度が樹脂製部材の表面に向かうに従って高くなっている。よって、樹脂製部材の表面の低摩擦性及び低摩耗性が非常に優れている。しかも、この改質層は、従来の被覆された被膜とは異なり、剥離するおそれがほとんどないので、低摩擦性及び低摩耗性が長期間にわたって維持される(すなわち、改質層の耐久性が優れている)。被覆された被膜の場合は、内部応力を原因とする剥離や、被膜と母材との硬さ,組成の相違を原因とする剥離が発生しやすいが、本実施形態の場合は、生成する改質層は樹脂製部材と一体であるので、剥離が発生するおそれはほとんどない。
【0015】
また、従来の被覆された被膜の場合は、母材の変形に対する被膜の追従性が不十分であるため、被膜にひび割れが発生する場合があるが、本実施形態の場合は、樹脂製部材の一部分を変性させているので、樹脂製部材の変形に対する改質層の追従性は良好であり、改質層にひび割れが発生するおそれはほとんどない。
さらに、本実施形態の表面改質処理は、炭化水素等の炭素源を必要としないので、従来の被膜を被覆する処理と比べて処理が容易であるとともに、表面改質処理装置が大規模となることはなく、表面改質処理コストを低く抑えることができる。さらに、本実施形態の表面改質処理は、樹脂製部材の製造ラインに組み込むことが可能であるため、樹脂製部材の大量生産にも適している。
【0016】
このような表面改質された樹脂製部材は、低摩擦性及び低摩耗性が要求される用途に好適である。例えば、転がり軸受,ボールねじ,リニアガイド装置等に組み込まれるシール装置や、軸受用保持器として好適である。また、改質層は優れた耐候性,耐食性を有しているので、本実施形態の表面改質された樹脂製部材は、優れた耐候性,耐食性が要求される用途にも好適である。
【0017】
樹脂製部材を構成する樹脂組成物は、潤滑性物質の粒子と高分子化合物とを含有するが、高分子化合物としてはプラスチック又はゴムが好ましい。プラスチックとしては、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレン,ポリフェニレンスルファイド,ポリアミド,ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリエーテルエーテルケトン等があげられ、ゴムとしては、ニトリルゴム,水素化ニトリルゴム,フッ素ゴム,シリコンゴム,ブチルゴム,アクリルゴム等があげられる。
【0018】
また、潤滑性物質の種類は特に限定されるものではないが、カーボンブラック,シリカ,二硫化モリブデン,ポリテトラフルオロエチレン,グラファイト,炭酸カルシウム,クレー,タルク,水酸化アルミニウム等が好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
さらに、樹脂組成物中の潤滑性物質の粒子の含有量は特に限定されるものではないが、高分子化合物と潤滑性物質の粒子の合計量のうち0.01質量%以上60質量%以下とすることが好ましい。そうすれば、樹脂製部材がプラズマに暴露された際に高分子化合物の蒸発又は変質が生じやすく、潤滑性物質の粒子が樹脂製部材の表面に露出しやすい。0.01質量%未満であると、樹脂製部材の表面に付与される低摩擦性及び低摩耗性が不十分となるおそれがある。一方、60質量%超過であると、樹脂製部材の弾性が不十分となるおそれがある。
【0019】
さらに、潤滑性物質の粒子の直径は特に限定されるものではないが、0.001μm以上10μm以下とすることが好ましい。0.001μm未満であると、潤滑性物質の粒子が樹脂製部材の表面に露出しても、樹脂製部材の表面の微細な凹部(表面粗さ)に潤滑性物質の粒子が埋没して相手材に接触せず、潤滑性を十分に発揮できないという不都合が生じるおそれがある。一方、10μm超過であると、ゴムの架橋を阻害するという不都合が生じるおそれがある。
さらに、樹脂製部材を構成する樹脂組成物には、一般的に樹脂に添加される添加剤を所望により配合してもよい。例えば、補強材,酸化防止剤,潤滑油等があげられる。
【0020】
さらに、表面改質処理を行う際の圧力は特に限定されるものではないが、真空であってもよいし、常圧であってもよい。また、表面改質処理を行う雰囲気の種類は特に限定されるものではないが、空気,希ガス,水素ガス,及び窒素ガスのうち少なくとも1種からなるガス中で行うことが好ましい。この中でも希ガスを用いると、プラズマが発生しやすいので好ましい。希ガスの種類は特に限定されるものではなく、ヘリウム,ネオン,アルゴン,クリプトン,キセノン,ラドンを用いることができる。また、空気又は窒素ガスを用いると、表面改質処理が低コストとなるため好ましい。さらに、水素ガスを用いると、その還元作用によって樹脂製部材の表面が酸化しにくいため好ましい。
【0021】
以下に、本実施形態の樹脂製部材を適用したシール装置の実施形態と車輪支持用転がり軸受装置の実施形態について説明する。
〔シール装置の実施形態〕
図1は、本発明のシール装置の一実施形態であるゴムシールを説明する深溝玉軸受の部分縦断面図である。
この深溝玉軸受は、外周面に軌道面21aを有する内輪21と、軌道面21aに対向する軌道面22aを内周面に有する外輪22と、両軌道面21a,22a間に転動自在に配された複数の転動体(玉)23と、内輪21及び外輪22の間に複数の転動体23を保持する保持器24と、内輪21及び外輪22の間に形成された空隙部の開口を覆う接触形のシール装置であるゴムシール25,25と、を備えている。また、内輪21と外輪22とゴムシール25,25とにより囲まれた空間には、油,グリース等の潤滑剤(図示せず)が封入され、ゴムシール25,25により深溝玉軸受の内部に密封されている。ただし、保持器24や潤滑剤は備えていなくてもよい。
【0022】
ゴムシール25は、環状の板状部材である芯金31とゴム組成物で構成された弾性部材32とからなり、弾性部材32の外周縁部に断面が略V字形の係止部32aが形成されていて、この係止部32aを、外輪22の内周面の軸方向両端部に外輪22の全周にわたって設けられている断面略V字形のシール溝27,27に嵌め込むことにより、ゴムシール25,25が深溝玉軸受に装着されている。
【0023】
そして、弾性部材32の内周縁部に形成されているシールリップ部32bは、内輪21の外周面に滑り接触していて、ゴムシール25,25が外輪22の内周面と内輪21の外周面との間の開口を覆っている。弾性部材32の形状(特にシールリップ部32bの形状)は、図示のものに限定されるものではなく、一般的なゴムシールにおけるシールリップ部の形状を適用することが可能である。
【0024】
なお、内輪21及び外輪22が、本発明の構成要件である「互いに相対運動する2つの部材」に相当する。詳述すると、外輪22が、本発明の構成要件である「一方の部材」に相当し、内輪21が、本発明の構成要件である「他方の部材」に相当する。また、弾性部材32が、本発明の構成要件である摺動部分に相当する。
このゴムシール25の弾性部材32は、前述した樹脂製部材で構成されている。すなわち、弾性部材32は、潤滑性物質の粒子及びゴムを含有する樹脂組成物で構成されているとともに、プラズマへの暴露により低摩擦性及び低摩耗性を有する表面に改質されている。ゴムシール25の低摩擦性及び低摩耗性は長期間にわたって維持されるため、この深溝玉軸受は長期間にわたって優れた密封性を有しており、長寿命となる。
【0025】
なお、このシール装置の実施形態においては、転がり軸受の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、本発明は、他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
【0026】
〔車輪支持用転がり軸受装置の実施形態〕
図2は、本発明の車輪支持用転がり軸受装置の一実施形態である車輪支持用ハブユニットの構造を示す断面図(軸方向に沿う平面で切断した断面図)である。なお、この車輪支持用転がり軸受装置の実施形態においては、車輪支持用ハブユニット1を自動車等の車両に取り付けた状態において、車両の幅方向外側を向いた部分を外端側部分と称し、幅方向中央側を向いた部分を内端側部分と称する。すなわち、図2においては、左側が外端側となり、右側が内端側となる。
【0027】
図2の車輪支持用ハブユニット1は、略円筒形状のハブ輪2と、略リング状の内輪3と、略円筒形状の外輪4と、二列の転動体5,5と、転動体5を保持する保持器6,6と、を備えている。ハブ輪2の内端側部分には外径の小さい円筒部11が形成されており、該円筒部11に内輪3が圧入されている。そして、内輪3よりも内端側に突出している円筒部11の先端部分が径方向外方に加締め広げられて、内輪3とハブ輪2とが一体的に固定されている。ただし、内輪3とハブ輪2とを、ナットにより一体的に固定してもよい。この場合には、ナットによって内輪3に必要な予圧を付与することができる。そして、ハブ輪2及び内輪3の外方には、略円筒形状の外輪4が同心に配されている。なお、内輪3とハブ輪2とが一体的に固定されたものが、本発明の構成要件である内方部材に相当し、外輪4が、本発明の構成要件である外方部材に相当する。
【0028】
ハブ輪2の外周面の軸方向中間部及び内輪3の外周面には、それぞれ転動体5の軌道面が形成されており、ハブ輪2の軌道面は第一内側軌道面15a、内輪3の軌道面は第二内側軌道面15bとされている。また、外輪4の内周面には、前記両内側軌道面15a,15bに対向する軌道面が形成されており、第一内側軌道面15aに対向する軌道面は第一外側軌道面16a、第二内側軌道面15bに対向する軌道面は第二外側軌道面16bとされている。さらに、第一内側軌道面15aと第一外側軌道面16aとの間、及び、第二内側軌道面15bと第二外側軌道面16bとの間には、それぞれ複数の転動体5が転動自在に配置されている。なお、図示の例では、転動体として玉を使用しているが、車輪支持用ハブユニット1の用途等に応じて、ころを使用してもよい。
【0029】
さらに、外輪4の内端側部分の内周面と内輪3の内端側部分の外周面との間、並びに、外輪4の外端側部分の内周面とハブ輪2の中間部の外周面との間には、それぞれシール装置7a,7bが設けられている。
さらに、ハブ輪2の外周面の外端側部分には、図示しない車輪を固定するための車輪取り付け用フランジ10が、径方向外方に突出するように設けられている。そして、外輪4の外周面には、車輪取り付け用フランジ10から離間する側の端部に、図示しない懸架装置を固定するための懸架装置取り付け用フランジ13が、径方向外方に突出するように設けられている。
【0030】
このような車輪支持用ハブユニット1を自動車等の車両に組み付けるには、懸架装置取り付け用フランジ13を懸架装置に固定し、車輪を車輪取り付け用フランジ10に固定する。その結果、車輪支持用ハブユニット1によって車輪が懸架装置に対し回転自在に支持される。すなわち、内輪3とハブ輪2とが一体的に固定されたものが回転輪となり、外輪4が固定輪(非回転輪)となる。
【0031】
ここで、シール装置7a,7bの構成を、図3,4を参照しながらさらに詳細に説明する。なお、図3,4のシール装置7a,7bにおいては、内輪3及びハブ輪2が一体的に固定されたものと外輪4との間に形成された空隙部に近い側を内側、遠い側を外側と呼ぶ。まず、図2の車輪支持用ハブユニット1において内端側に配された図3のシール装置7aは、補強部材に相当する芯金105と、スリンガ106と、シール本体に相当する弾性部材107と、で構成されている。このうち芯金105は、低炭素鋼板等の金属板にプレス加工等の打ち抜き加工及び塑性加工を施すことにより、一体的に成形されている。このような芯金105は、外輪4の内端側部分の内周面に内嵌固定可能な外径側円筒部109と、この外径側円筒部109の内側縁(図3における左側縁)から径方向内方に折れ曲がった内側円輪部110と、を備えており、断面略L字形の円環状部材である。
【0032】
また、スリンガ106は、ステンレス鋼板等の優れた耐食性を有する金属板に、プレス加工等の打ち抜き加工及び塑性加工を施すことにより、一体的に成形されている。このようなスリンガ106は、内輪3の内端側部分の外周面に外嵌固定可能な内径側円筒部112と、この内径側円筒部112の外側縁(図3における右側縁)から径方向外方に折れ曲がった外側円輪部113とを備えており、断面略L宇形の円環状部材である。
【0033】
さらに、弾性部材107はゴム組成物で構成され、外側,中間,内側の3本のシールリップ114,115,116を備え、芯金105にその基端部が固定されている。そして、最も外側に位置する外側シールリップ114の先端縁を、スリンガ106を構成する外側円輪部113の内側面に摺接させ、残り2本のシールリップである中間シールリップ115及び内側シールリップ116の先端縁を、スリンガ106を構成する内径側円筒部112の外周面に摺接させている。これにより、内部(前記空隙部)からのグリースの漏洩を防止するとともに、外部から車輪支持用ハブユニット1内部への塵挨,水,泥水等の侵入を防止している。
【0034】
図2の車輪支持用ハブユニット1において外端側に配された図4のシール装置7bは、それぞれが円輪状に形成された芯金216と弾性部材217とで構成される。このうちの芯金216は金属板から製造され、外輪4の外端側部分に内嵌固定されている。また、弾性部材217はゴム組成物で構成され、芯金216に接着等により接合されている。また、この弾性部材217は、外径側,内径側の2本のサイドシールリップ218,219と、1本のラジアルシールリップ220とを備える。そして、上記2本のサイドシールリップ218,219を、先端縁(図4における左側縁)に向かうに従って径方向外方(図4における上方)に湾曲する形状とし、車輪取り付け用フランジ10の基部の内端側面に摺接させることにより、前記空隙部内への異物侵入防止機能を確保している。また、ラジアルシールリップ220を、先端縁(図4における右下側縁)に向かうに従って前記空隙部13の内側(図4における右側)に湾曲する形状とし、ハブ輪2の外周面に摺接させることにより、グリースの漏洩防止機能を確保している。
【0035】
さらに、詳しく説明すると、図4のシール装置7bは、それぞれが円輪状に形成された芯金216と弾性部材217とで構成される。このシール装置7bの芯金216は、低炭素鋼板等の金属板にプレス加工等の打ち抜き加工及び塑性加工を施すことにより、一体的に成形されている。この芯金216は、外輪4の外端側部分の内周面に内嵌固定可能な外径側円筒部222と、この外径側円筒部222の外側縁(図4における左端縁)から径方向内方に折れ曲がった支持板部223とを備える。
【0036】
そして、芯金216を構成する支持板部223の外側面(図4における左側面)は、弾性部材217で全体が覆われ、この弾性部材217の外周縁部は、外径側円筒部222から連続する傾斜部227の外周面と外輪4の内周面との間に挟持されている。このような構成により、芯金216と外輪4との嵌合部が密封されている。
外径側円筒部222の内側寄り(図4における右寄り)の大径部224の自由状態における外径は、外輪4の外端側開口部の内径よりも僅かに大きくしてある。したがって、この大径部224は、外輪4の外端側開口部に、締まり嵌めで内嵌固定自在とされている。また、支持板部223は、略S字形の断面形状を有し、径方向内方(図4における下方)に向かうに従って、前記空隙部内に配された転動体5に近づく方向(図4における右方向)に傾斜している。一方、芯金216とともにシール装置7bを構成する弾性部材217はゴム組成物で構成され、芯金216をインサート成形して接着剤等により接合されている。このような弾性部材217の外周縁部は、傾斜部227の外周面を覆っている。
【0037】
このような弾性部材217の一部で傾斜部227の外周面を覆っている部分の自由状態での外径は、外輪4の外端側開口部の内径よりも少し大きくしてある。したがって、大径部224をこの外径側開口部に内嵌固定した状態では、弾性部材217の一部で傾斜部227の外周面を覆っている部分が、この傾斜部227の外周面と外端側開口部の内周面との間で弾性的に押圧され、当該部分の密封性が確保される。さらに、弾性部材217の基部226は、支持板部223の外側面(図4における左側面)を、全周にわたって完全に覆っている。そして、この基部226の外側面及び内周縁に、外径側,内径側の2本のサイドシールリップ218,219と、1本のラジアルシールリップ220とが形成されている。
【0038】
このような車輪支持用ハブユニット1のシール装置7a,7bの弾性部材107,217は、前述した樹脂製部材で構成されている。すなわち、弾性部材107,217は、潤滑性物質の粒子及びゴムを含有する樹脂組成物で構成されているとともに、プラズマへの暴露により低摩擦性及び低摩耗性を有する表面に改質されている。シール装置7a,7bの低摩擦性及び低摩耗性は長期間にわたって維持されるため、この車輪支持用ハブユニット1は長期間にわたって優れた密封性を有しており、長寿命となる。
【0039】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
〔実施例1〕
ニトリルゴム80質量%とカーボンブラックの粒子20質量%とを混合した樹脂組成物からなる板状試料の表面を、大気圧下でプラズマに暴露して表面改質処理した例について説明する。常圧の空気に高周波電力(周波数30kH、電圧400V)を印加して電離させ、発生したプラズマを板状試料の表面に5分間吹き付けた。プラズマの発生口と板状試料との距離は2cmである。
【0040】
このようにして表面改質処理が施された板状試料について摩擦試験を行って、表面の摩擦係数を測定した。摩擦試験の方法は以下の通りである。直径3/8インチのSUJ2製の鋼球を、前記板状試料の表面上で無潤滑下で転動させ、その際の摩擦係数を測定した。転動のストローク長さは30mm、速度は50mm/s、荷重は2kgである。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
比較例として、表面改質処理が施されていないニトリルゴム製板状試料(カーボンブラックの粒子は含んでいない)と、ニトリルゴム製板状試料(カーボンブラックの粒子は含んでいない)の表面にDLC被膜を被覆したものについても、上記と同様にして摩擦係数を測定した。これらの結果についても、表1に併せて示す。なお、表1においては、前者を比較例1、後者を比較例2と記載してある。
表1から分かるように、実施例1の摩擦係数は、表面改質処理が施されていない比較例1の摩擦係数の半分程度であり、DLC被膜が被覆された比較例2の摩擦係数とほぼ同等であった。
【0043】
〔実施例2〕
ニトリルゴム80質量%とカーボンブラックの粒子20質量%とを混合した樹脂組成物からなる円筒状試料(直径10mm、長さ15mm)の表面を、大気圧下でプラズマに暴露して表面改質処理した例について説明する。常圧の空気に高周波電力(周波数30kH、電圧400V)を印加して電離させ、発生したプラズマを円筒状試料の表面に5分間吹き付けた。プラズマの発生口と円筒状試料との距離は2cmである。
【0044】
このようにして表面改質処理が施された円筒状試料について摩擦試験を行って、表面の摩擦係数及び潤滑寿命を測定した。摩擦試験の方法は以下の通りである。算術平均粗さRaが0.1μmのSUJ2製板材を相手材とし、これに円筒状試料の円柱面を線接触させ、その接触線と摺動方向が垂直をなすように、グリース潤滑下で両者を摺動させた。摺動のストローク長さは30mm、速度は50mm/s、荷重は2kgである。結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
比較例として、表面改質処理が施されていないニトリルゴム製円筒状試料(カーボンブラックの粒子は含んでいない)と、ニトリルゴム製円筒状試料(カーボンブラックの粒子は含んでいない)の表面にDLC被膜を被覆したものについても、上記と同様にして摩擦係数を測定した。これらの結果についても、表2に併せて示す。なお、表2においては、前者を比較例3、後者を比較例4と記載してある。
【0047】
また、上記摺動を長期間繰り返すと摩擦係数が徐々に上昇していくが、実施例2及び比較例4については、比較例3の初期の摩擦係数0.4を超えるまで摺動を繰り返し、その摺動回数を潤滑寿命として評価した。その結果を表2に併せて示す。なお、表2における潤滑寿命の数値は、比較例4の潤滑寿命を1とした場合の相対値で示してある。
表2から分かるように、実施例2の摩擦係数は、表面改質処理が施されていない比較例3の摩擦係数の半分であり、DLC被膜が被覆された比較例4の摩擦係数と同等であった。また、実施例2の潤滑寿命は、比較例4の潤滑寿命の100倍以上であった。
【0048】
〔実施例3〜8〕
ゴム80質量%とカーボンブラックの粒子20質量%とを混合した樹脂組成物からなる板状試料の表面を、真空下又は大気圧下でプラズマに暴露して表面改質処理した例について説明する。
ゴムの種類を変化させた4種の樹脂組成物を用意して、板状試料を作製した。そして、真空(真空度1.3Pa)又は大気圧のアルゴン−水素混合ガスに高周波電力(周波数30kH、電圧400V)を印加して電離させ、発生したプラズマを板状試料の表面に所定時間吹き付けた。すなわち、真空下の場合は1時間、大気圧下の場合は5分間吹き付けた。なお、アルゴン−水素混合ガスのガス混合比(体積比)は、アルゴン:水素=5.5:1である。また、プラズマの発生口と板状試料との距離は2cmである。
このようにして表面改質処理が施された各板状試料について摩擦試験を行って、表面の摩擦係数を測定した。なお、摩擦試験の方法は前述の実施例1の場合と同様である。結果を表3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
比較例として、表面改質処理が施されていないゴム製板状試料(カーボンブラックの粒子は含んでいない)と、ゴム製板状試料(カーボンブラックの粒子は含んでいない)の表面にDLC被膜を被覆したものについても、上記と同様にして摩擦係数を測定した。これらの結果についても、表3に併せて示す。なお、表3においては、前者を比較例11〜13、後者を比較例21〜23と記載してある。
表3から分かるように、樹脂組成物に用いたゴムの種類がいずれであっても、実施例3〜8の摩擦係数は、表面改質処理が施されていない比較例11〜13の摩擦係数の概ね40〜60%であり、DLC被膜が被覆された比較例21〜23の摩擦係数よりも小さかった。
【0051】
〔実施例9〜12〕
カーボンブラックの粒子及びシリカの粒子の少なくとも一方をニトリルゴムに混合した樹脂組成物からなる板状試料の表面を、大気圧下でプラズマに暴露して表面改質処理した例について説明する。カーボンブラックの粒子とシリカの粒子の含有量を変化させた4種の樹脂組成物を用意して、板状試料を作製した。なお、カーボンブラックの粒子とシリカの粒子の含有量は、樹脂組成物の硬度が70になるように調整した。そして、常圧の空気に高周波電力(周波数30kH、電圧400V)を印加して電離させ、発生したプラズマを板状試料の表面に5分間吹き付けて、表面改質処理を行った。プラズマの発生口と板状試料との距離は2cmである。
【0052】
このようにして表面改質処理が施された各板状試料について摩擦試験を行って、表面の摩擦係数を測定した。摩擦試験の方法は以下の通りである。直径3/8インチのSUJ2製の鋼球を、前記板状試料の表面上でグリース潤滑下で転動させ、その際の摩擦係数を測定した。転動のストローク長さは30mm、速度は50mm/s、荷重は2kgである。結果を表4に示す。
【0053】
【表4】

【0054】
比較例31〜34として、表面改質処理が施されていない板状試料(カーボンブラックの粒子やシリカの粒子は含んでいる)についても、上記と同様にして摩擦係数を測定した。これらの結果についても、表4に併せて示す。
表4から分かるように、樹脂組成物におけるカーボンブラックの粒子とシリカの粒子の含有量がいずれであっても、実施例9〜12の摩擦係数は、表面改質処理が施されていない比較例31〜34の摩擦係数の概ね40〜60%であった。
【0055】
このように表面改質処理により摩擦係数が良好となった原因を調べるため、カーボンブラックの粒子の含有量が0質量%でシリカの粒子の含有量が20質量%である板状試料(実施例12及び比較例34)の表面を、X線電子分光法(XPS)により分析した。分析チャートを図5に示す。
シリカに起因する532.5eV付近のピークに着目すると、実施例12は比較例34に比べて約2倍の高さであった。元素の定量分析を行ったところ、比較例34の板状試料の表面は、炭素が80%でシリカが20%であったのに対して、実施例12の板状試料の表面は、炭素が60%でシリカが40%であった。この結果から、上記のような表面改質処理により、ニトリルゴムに含まれるシリカの粒子の一部が表面に露出することが確認された。
【符号の説明】
【0056】
1 車輪支持用転がり軸受装置
2 ハブ輪
3 内輪
4 外輪
5 転動体
7a,7b シール装置
15a 第一内側軌道面
15b 第二内側軌道面
16a 第一外側軌道面
16b 第二外側軌道面
21 内輪
22 外輪
25 ゴムシール
32 弾性部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑性物質の粒子及び高分子化合物を含有する樹脂組成物で構成された樹脂製部材の表面を、プラズマに暴露することを特徴とする表面改質方法。
【請求項2】
空気,希ガス,水素ガス,及び窒素ガスのうち少なくとも1種からなる雰囲気中で、前記樹脂製部材の表面をプラズマに暴露することを特徴とする請求項1に記載の表面改質方法。
【請求項3】
潤滑性物質の粒子及び高分子化合物を含有する樹脂組成物で構成された樹脂製部材において、その表層部分については、前記潤滑性物質の粒子の濃度が表面に向かうに従って高くなっていることを特徴とする樹脂製部材。
【請求項4】
前記高分子化合物がプラスチック又はゴムであることを特徴とする請求項3に記載の樹脂製部材。
【請求項5】
互いに相対運動する2つの部材のうち一方の部材に取り付けられ他方の部材に滑り接触して、前記両部材の間に形成された空隙部の開口を密封するシール装置において、前記他方の部材に滑り接触する摺動部分を、請求項1又は請求項2に記載の表面改質方法により表面改質された樹脂製部材で構成したことを特徴とするシール装置。
【請求項6】
互いに相対運動する2つの部材のうち一方の部材に取り付けられ他方の部材に滑り接触して、前記両部材の間に形成された空隙部の開口を密封するシール装置において、前記他方の部材に滑り接触する摺動部分を、請求項3又は請求項4に記載の樹脂製部材で構成したことを特徴とするシール装置。
【請求項7】
外周面に軌道面を有する内方部材と、前記内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内方部材及び前記外方部材のうち一方の部材に取り付けられ他方の部材に滑り接触して、前記両部材の間に形成された空隙部の開口を密封するシール装置と、を備える車輪支持用転がり軸受装置において、
前記シール装置を、請求項5又は請求項6に記載のシール装置としたことを特徴とする車輪支持用転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−77253(P2012−77253A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226033(P2010−226033)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】