説明

表面改質銅部材

【課題】銅の表面改質をして活性及び耐久性を向上させた表面改質銅部材を提供する。
【解決手段】銅又は銅合金からなる基体の表面に、炭素ドープされた酸化銅又は炭素ドープ銅合金酸化物層からなる炭素ドープ酸化物層を具備する。該炭素ドープ酸化物層は、前記基体を、少なくとも炭素を含む化合物を含有するガスの燃焼炎を用いて行うか、又は少なくとも炭素を含む化合物を含有するガスの燃焼ガス若しくは燃焼排ガスを用いて形成した雰囲気中で加熱処理するかによって形成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質銅部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、銅は各種触媒として使用されてきている。例えばCu含有触媒を用いて、酸素含有炭化水素と二酸化炭素から合成ガスを製造する方法が提案されている(特許文献1等参照)。また、Cu含有触媒を用いて、酸素含有炭化水素と水蒸気から水素を製造する触媒及びそれを用いた水素の製造方法(特許文献2等)が提案されている。また、銅系の触媒は、燃料電池の燃料を製造するための水素改質の触媒としても使用されている。
【0003】
しかしながら、銅系触媒は、貴金属系触媒と比較すると安価であるが、活性及び耐久性に乏しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−174869号公報
【特許文献2】特開平10−174871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、銅の表面改質をして活性及び耐久性を向上させた表面改質銅部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成する本発明は、銅又は銅合金からなる基体の表面に、炭素ドープされた酸化銅又は炭素ドープ銅合金酸化物層からなる炭素ドープ酸化物層を具備することを特徴とする表面改質銅部材にある。
【0007】
ここで、前記炭素ドープ酸化物層は、CuOを含むのが好ましい。
【0008】
また、前記炭素ドープ酸化物層の表面は、ひだ状の凹凸であるのが好ましい。
【0009】
また、前記炭素ドープ酸化物層の表面は、サブミクロンオーダーのファイバーが林立した状態であるのが好ましい。
【0010】
また、前記炭素ドープ酸化物層にドープされた炭素は、Cu−C結合した状態でドープされているのが好ましい。
【0011】
また、前記炭素ドープ酸化物層は、前記基体を、炭素、酸素を含む化学種が当該表面に供給される雰囲気下で加熱処理することにより形成したものであるのが好ましい。
【0012】
また、前記炭素ドープ酸化物層は、前記基体を、少なくとも炭素を含む化合物を含有するガスの燃焼炎を用いて行うか、又は少なくとも炭素を含む化合物を含有するガスの燃焼ガス若しくは燃焼排ガスを用いて形成した雰囲気中で加熱処理するかによって形成したものであるのが好ましい。
【0013】
また、前記炭素ドープ酸化物層は、前記基体を、炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を用いて加熱処理を行うか、又は少なくとも炭素を含む化合物を含有するガスの燃焼ガス若しくは燃焼排ガスを用いて形成した雰囲気中で加熱処理するかによって形成したものであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の表面改質銅部材は、銅部材の表面を比較的容易に改質でき、活性及び耐久性が向上したものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の表面改質銅部材2の外観を示す写真である。
【図2】本発明の表面改質銅部材2のSEM観察像である。
【図3】本発明の表面改質銅部材3のSEM観察像である。
【図4】本発明の表面改質銅部材3のラマン分光分析を示す図である。
【図5】本発明の有機合成方法1で用いた装置の概略構成を示す図である。
【図6】本発明の有機合成方法1の反応生成物の結果を示す図である。
【図7】本発明の有機合成方法1の炭化水素生成速度とカソード分極電位との関係を示す図である。
【図8】本発明の有機合成方法2の装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0017】
本発明の表面改質銅部材は、銅又は銅合金からなる基体の表面に、炭素ドープされた酸化銅又は炭素ドープ銅合金酸化物層からなる炭素ドープ酸化物層を具備することを特徴とするものである。
【0018】
ここで、銅又は銅合金からなる基体は、用途に応じた形状を備えたものであり、少なくとも表面が銅又は銅合金であれば、下層が他の金属、他の材質であってもよい。
【0019】
例えば、後述する電気化学還元に用いる触媒作用を有する電極として用いる場合には、板状部材であってもよいし、メッシュ状又は網状部材などであってもよい。
【0020】
本発明の表面改質銅部材は、本出願人が先に開発した、チタン、ジルコニウム、ハフニウムなどの部材をカーボンポテンシャルの高い還元雰囲気で表面改質を行うことにより、表面にカーボンドープ酸化物を生成させることができるという技術を応用したものである。
【0021】
すなわち、本発明では、銅又は銅合金からなる基体の表面を炭素、酸素を含む化学種が当該表面に供給される雰囲気下で加熱処理することにより、表面に炭素ドープ酸化物層を形成するものである。かかる酸化物層は、炭素ドープされており、膜質が緻密であることから耐食性が高く、高い密着性があることから耐摩耗性に優れるものである。
【0022】
また、本発明方法で製造された表面改質銅部材の炭素ドープ酸化物層は、一般的な銅酸化物がCuOであるのに対し、炭素、酸素を含む化学種が当該表面に供給される雰囲気下で加熱処理することにより形成されたためか、CuOと共にCuOを含むものであることが確認された。
【0023】
また、かかる表面改質銅部材の炭素ドープ酸化物層の表面は、後述するとおり、ひだ状の凹凸を有するものであり、さらに具体的には、加熱処理条件によっても異なるが、サブミクロンオーダーのファイバーが林立した状態であることも確認された。
【0024】
本発明において、炭素、酸素を含む化学種が表面に供給される雰囲気下で加熱処理する(以下、酸化物層形成処理ともいう)とは、例えば、炭素及び酸素を含む化合物を含むガス(炭素原子と酸素原子がガス雰囲気中に存在していればよく、炭素を含む化合物を含むと共に酸素を含むガス、炭素及び酸素の両者を含む化合物を含むと共に必要に応じて酸素を含むガスなどをいう)の燃焼炎を用いて加熱処理すること、又はこのような燃焼炎の雰囲気ガスを表面に供給しながら必要に応じて加熱処理することである。すなわち、炭素、酸素を含む化学種、すなわち、活性化された炭素原子又は炭素原子を含む原子団、活性化された酸素又は酸素原子を含む原子団、炭素及び酸素を含む原子団などが表面に供給される状態で加熱処理をすればよく、好適には燃焼炎を用いて直接表面を加熱処理するか、燃焼炎の雰囲気ガスを表面に供給しながら加熱処理することにより、表面を酸化しつつ炭化するという複雑な表面改質を実現し、炭素を表面にドープして炭素ドープ酸化物層を形成すると推測される。
【0025】
アセチレン、メタン、プロパンなどの(より好ましくは二重結合か三重結合を含む)炭化水素を燃焼させ、その雰囲気内に基体を設置することにより表面に酸化物層を形成させる。燃焼を伴わない場合にも同様な酸化物層が得られるが、好ましくは燃焼雰囲気がよい。炭化水素の代わりに、炭素と酸素を含む一酸化炭素や二酸化炭素などを用いても良い。
【0026】
具体的には、基体の表面にガスの燃焼炎を直接当てて高温で加熱処理しても、そのような基体の表面を燃焼ガスの雰囲気中で加熱処理してもよく、この加熱処理は例えば炉内で実施することができる。燃焼炎を直接当てて高温で加熱処理する場合には、上記のようなガスを炉内で燃焼させ、その燃焼炎を該基体の表面に当てればよい。燃焼ガス雰囲気中で加熱処理する場合には、上記のようなガスを炉内で燃焼させ、その高温の燃焼ガス雰囲気を利用する。なお、基体が粉末状である場合には、そのような粉末を火炎中に導入し、火炎中に所定時間滞留させて加熱処理するか、或いはそのような粉末を流動状態の高温の燃焼ガス中に流動床状態に所定時間維持することにより粒子全体を炭素ドープ酸化物層とするか、表面が炭素ドープ酸化物層を具備する粉末とすることができる。
【0027】
このように炭素ドープ酸化物層を形成する条件は、表面改質する表面の素材や処理方法によって異なり、一概に設定することはできない。すなわち、例えば、加熱処理の温度や時間は、表面に供給される炭素、酸素を含む化学種の種類や濃度の違い、例えば、燃焼炎を用いる場合には、燃焼ガスの種類や燃焼炎の用い方により異なる。
【0028】
このような炭素ドープ酸化物層は、下層の銅又は銅合金から連続して一体的に形成されている。なお、かかる酸化物層の厚さは加熱処理の温度及び時間により変化するものである。
【0029】
このような表面処理の好ましい方法としては、炭素、酸素を含む化合物を含む燃焼ガス、例えば、アルコール系化合物、炭化水素などを含むガスの燃焼炎を用いて加熱処理するのが望ましい。
【0030】
このような燃焼炎を用いて加熱処理して本発明の炭素ドープ酸化物層を得る場合、特に、炭化水素、好ましくは不飽和結合を含む炭化水素、特にアセチレンを、主成分とするガスの燃焼炎、特に還元炎を利用することが望ましい。炭化水素含有量が少ない燃料を用いる場合には、炭素のドープ量が不十分であったり、皆無であったりし、その結果として硬度が不十分となる。
【0031】
ここで、炭化水素、特にアセチレンを主成分とするガスとは、炭化水素を少なくとも50容量%含有するガスを意味し、例えば、アセチレンを少なくとも50容量%含有し、適宜、空気、水素、酸素等を混合したガスを意味する。このような多機能材の製造においては、炭化水素を主成分とするガスがアセチレンを50容量%以上含有することが好ましく、炭化水素がアセチレン100%であることが最も好ましい。不飽和炭化水素、特に三重結合を有するアセチレンを用いた場合には、その燃焼の過程で、特に還元炎部分で、不飽和結合部分が分解して中間的なラジカル物質が形成され、このラジカル物質は活性が強いので炭素ドープが生じ易いと考えられる。勿論、後述する実施例に示すように、プロパンなどの炭化水素を用いても、炭素ドープすることができる。
【0032】
本発明の表面改質銅部材を製造する方法においては、基体の表面を、炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を用いて高温で加熱処理するが、この場合に、基体の表面に炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を直接当てて高温で加熱処理しても、そのような基体の表面を炭化水素を主成分とするガスの燃焼ガス雰囲気中で加熱処理してもよく、この加熱処理は例えば炉内で実施することができる。燃焼炎を直接当てて高温で加熱処理する場合には、上記のような燃料ガスを炉内で燃焼させ、その燃焼炎を該基体の表面に当てればよい。燃焼ガス雰囲気中で加熱処理する場合には、上記のような燃料ガスを炉内で燃焼させ、その高温の燃焼ガス雰囲気を利用する。
【0033】
アセチレンを主成分とするガスの燃焼炎を用いた加熱処理の場合には、基体の表面温度が200〜1030℃、好ましくは400〜900℃となり、基体の表面層が炭素ドープ酸化物層となるように加熱処理する必要がある。加熱処理が不十分の場合には、炭素ドープ酸化物層とはならず、基体の耐久性は不十分となり、且つ光触媒活性も不十分となる。一方、基体の表面温度が1030℃を超える加熱処理の場合には、活性、耐久性の上昇が見られなくなる。
【0034】
本発明の表面改質銅部材の炭素ドープ酸化物層は、炭素を、例えば、0.01〜5at%含有するものである。かかる炭素含有量は、加熱処理の条件、表面層の材質などによって異なり、特に限定されないが、炭素含有量が上昇するほど耐久性等の特性の向上が見られる傾向となる。
【0035】
また、本発明の表面改質銅部材の炭素ドープ酸化物層の厚さは、10nm以上であることが好ましく、高硬度、耐スクラッチ性、耐摩耗性を達成するためには50nm以上であることが一層好ましい。炭素ドープ酸化物層の厚さが10nm未満である場合には、得られる表面改質銅部材の耐久性の向上は不十分となる傾向がある。炭素ドープ酸化物層の厚さの上限については、コストと達成される効果とを考慮する必要があるが、特に制限されるものではない。
【0036】
このように製造された表面改質銅部材は、表面積が著しく大きく、活性が高く、耐久性にも優れるので、種々の用途に使用できるが、特に、触媒部材として使用するのが好適である。
【0037】
また、触媒部材としては、電気化学還元のカソード側の触媒として作用するものであること、特に、二酸化炭素を原料の一部として用いた電気化学還元反応でカソード側の触媒として作用し、炭素数1の有機化合物と比較して炭素数2以上の有機化合物を選択的に合成する触媒作用を有することが確認された。
【0038】
しかしながら、表面積の増大及び活性及び耐久性が向上した表面改質銅部材であることを考えると、他の触媒としても使用できると推測される。
【0039】
また、かかる本発明の表面改質銅部材からなる触媒部材は電気化学還元反応を用いた有機合成に応用することができ、かかる有機合成方法は、本発明の表面改質銅部材を触媒部材として用い、電解液中にアノード及びカソードを浸漬し、二酸化炭素を電気化学還元して有機化合物を合成する際に、触媒部材をカソードとして用い、炭素数2以上の有機化合物を選択的に合成するものである。
【0040】
ここで、前記電解液の前記アノードが浸漬される領域と前記カソードが浸漬される領域とは、カチオンのみを透過するカチオン交換膜を介して隔離して電気化学還元を行うのが好ましい。生成物が電解液中に生成した場合にアノード側に移動しないようにするためである。
【0041】
また、この場合、二酸化炭素は、電解液のカソード近傍に導入して電気化学還元を行うことができる。二酸化炭素は、電解液中に溶解させておくこともできるが、これだけでは不十分であるので、ガスとして補充するのが好ましい。
【0042】
また、本発明の触媒部材を具備するカソードをメッシュ状とすると共に、電解液は透過しないがガスを透過するガス拡散部材の一方面に密着させ、ガス拡散層を介してカソードの電解液側とは反対側から二酸化炭素を補充することもできる。
【0043】
かかる本発明の表面改質銅部材を触媒として用いた有機合成方法では、炭素数1の有機化合物と比較して、炭素数2以上の有機化合物を選択的に合成することができる。
【0044】
すなわち、従来の銅系触媒では、炭素数1の有機化合物であるメタンが主成分として合成されたが、本発明の触媒部材を用いると、炭素数2以上の有機化合物、すなわち、エチレン、エタン、プロパン、プロピレンなど、特に、エチレン、エタンなどの炭素数2の有機化合物を選択的に主成分として合成することができる。
【0045】
ここで、特に、エチレンは、化学工業で最も重要な有機物の一つであり、水素の数十倍の価格で取引され、また、エチレンの枯渇により産業活動が衰退する恐れがあるとも言われるほど広範に使用されている。一方、環境保護の観点から、二酸化炭素を排出の低減が叫ばれている。
【0046】
よって、例えば、火力発電所やバイオマス発電所から燃焼生成物として生成される二酸化炭素と水蒸気からエチレンを有機合成できる本発明の有機合成方法は、地球環境への実質的な解決策を与えるほど画期的なものであり、我が国の国際貢献が質的および量的に高まるものである。
【0047】
本発明の表面改質銅部材を触媒として用いた有機合成方法を採用して二酸化炭素を電気化学還元してエチレンを得る場合、水溶液系で競争的に発生している水素の生成を抑制することが重要となる。水の存在しない有機溶媒を水の代わりに使用することで水素発生は抑制されるで、有機溶媒に支持電解質(導通を得るために溶解させる塩)を溶解させたものを電解液として用いるのが好ましい。しかしながら、水が存在しないと炭化水素は生成されないので、水を反応試薬として考えて濃度コントロールして導入する必要がある。
【0048】
このような電解液として用いることができる有機溶媒としては、アルコール、ニトロベンゼン、プロピレンカーボネート、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルなどを挙げることができるが、非プロトン性極性溶媒が好ましく、その中でも、特に、扱いやすさと安全性を兼ね備えているアセトニトリルが好ましい。アセトニトリル(CHCN)は、非プロトン性極性溶媒であり、水と任意の割合で混合する。一方、支持電解質としては、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート(EtNBF)などを用いることができる。利点は高い耐電圧を有していることである。それ以外の支持電解質として、カチオンではテトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、ナトリウム、カリウムが、アニオンでは塩素酸イオン、トシラートイオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオンを挙げることができる。
【0049】
本発明の表面改質銅部材を触媒として用いた有機合成方法によると、二酸化炭素を原料として、炭素数2以上の化合物、特に、炭素数2のC2化合物、特に、エチレンを選択的に合成することができ、各種分野の排出ガスの処理に応用することができる。
【0050】
例えば、ボイラー等の排ガスを原料ガスとして使用する場合、ボイラーの排ガスの一部を後述するような電解セル内に導入して、二酸化炭素の還元試験を行うことにより、二酸化炭素から有用な炭化水素、特にエチレンを得ることができる。なお、この有機合成反応は電力供給が必要であるが、太陽光からのエネルギーを電力として供給すれば、人工光合成となる。
【実施例】
【0051】
(表面改質銅部材1)
試験片として、ニラコ社の純銅(99.96+%)板および純銅(99.9+%)メッシュを用いた。銅板の寸法は32mm×32mm×0.30mmである。銅メッシュの大きさは50mm×50mmで線径は0.42mm、16mesh/inchである。脱脂洗浄のため、アセトン、エタノール、超純水中で各10分間の超音波洗浄を行った。
【0052】
表面改質処理は、電気炉中にアセチレンを5L/min、空気を25L/min流通させ、燃焼火炎を用いることで還元状態を得た。電気炉中の雰囲気温度は最高1030℃で時間は5分、10分、20分と振って行った。これらの表面改質により高い触媒選択性が得られた。
【0053】
(表面改質銅部材2)
同様な純銅(99.9+%)メッシュを、同様に前処理した後、アセチレンを5L/min、空気を25L/min流通させ、燃焼火炎を用いて還元状態とした電気炉中で、700℃および850℃でそれぞれ10分処理した。
【0054】
この結果、このように製造した表面処理銅部材は、酸化物層は大きく湾曲させても剥離しないほど密着性も高く、靱性も良好であった。
【0055】
図1に処理前後の外観を示す。未処理材が銅色であったのに対し(図1(a))、700℃処理では赤褐色で(図1(b))、850℃処理では灰色であった(図1(c))。図2にメッシュ表面のSEM観察像を示す。未処理材は平滑であるが(図2(a))、表面改質処理により表面に形成された酸化銅層の表面にはヒダ状の凹凸が観察され(図2(b)、(c))、反応に関与する表面の面積が増大していると考えられる。
【0056】
(表面改質銅部材3)
同様な純銅(99.9+%)メッシュを、同様に前処理した後、アセチレンを5L/min、空気を25L/min流通させ、燃焼火炎を用いて還元状態とした電気炉中で850℃でそれぞれ10分処理した。
【0057】
図3にメッシュ表面のSEM観察像を示し、(a)及び(b)は観察倍率が異なるものである。この結果、表面処理の雰囲気の還元度を高めることにより表面に酸化銅ナノファイバーが林立した表面状態が形成できることがわかった。これらサブミクロン径の酸化銅ファイバーが林立することにより、選択性が向上することが予想される。
【0058】
図4に試験片表面のラマン分光分析を示す。一般的には、銅の腐食生成物はCuOとなるが、この場合、CuOが多く生成されていることが分かる。
【0059】
また、本発明の表面改質処理による酸化物層では、GバンドとDバンドに特徴的な共鳴ピークが現れる。Gバンドはsp軌道を有するグラファイトに共通して1590cm−1に現れるピークであり、LO(縦光学モード)とTO(横光学モード)の縮退に対応していると考えられる。Gバンドピークの半値幅が広いことから、グラファイトは非晶質であると想定される。
【0060】
一方、Dバンドはグラファイトに点欠陥や結晶端の欠陥に起因して1350cm−1付近に現れる。以上より表面処理によりドープされる炭素の一部はsp軌道を有する非晶質炭素の形態であると推定される。また1100cm−1付近に現れるピークはCu−C結合を示しており、表面の酸化銅にはカーボンがドープされていると考えられる。
【0061】
(有機合成方法1)
図5に固気液三相界線による有機合成方法を実施する装置概略を示す。二酸化炭素の溶媒への飽和溶解度が低い場合にも、電極上に電解質溶液と二酸化炭素の三相界線を形成させることにより電流密度を増大させ、反応を促進させることができる。
【0062】
図5に示す有機合成装置は、電解液11が充填されている電解室12がカチオン交換膜であるナフィオン(商品名)からなる隔膜13で二室に分離され、一方側にアノード14、他方側に、メッシュ状銅部材を表面改質処理したカソード15が配置されている。カソード15の電解液11との接触側と反対側には、電解液11は透過しないがガスを透過するガス拡散層16及びガスを透過する集電極17が設けられている。ガス拡散層16は、厚さ185μm、気孔径0.09μmのポーラスシリカからなり、集電極17はポーラスなニッケルからなる。電解室12は、アクリル樹脂で構成され、集電極17側には、ガス導入部材18が設けられている。
【0063】
電解液11を0.1M KHCOとし、ガス導入部材18の入口18aから二酸化炭素を体積流束0.5cm/cmsで導入し、アノード14、カソード15間に電圧を印加して電気化学還元を行った。なお、図5(b)には、有機合成反応プロセスを模式的に示す。
【0064】
図6は、カソード15として、未処理の銅メッシュを用いた場合と、表面改質銅部材の製造方法2の700℃処理のメッシュ部材と、850℃処理のメッシュ部材をそれぞれ用いた場合の反応生成物を示す。
【0065】
図6に実験で得られた反応生成物の選択性を示す。メタン(CH)、エチレン(C)、エタン(C)の生成割合として示す。なお、未処理の銅メッシュと表面改質処理700℃では、カソード分極電位を−1.6V vs.SSE(飽和銀/塩化銀参照電極)とし、表面改質処理850℃では、カソード処理分極電位を−1.5V vs.SSEとした。
【0066】
この結果、未処理材の純銅メッシュでは、反応生成物としてメタンが多い。これは一般的な金属を電極としてCOを還元した場合に炭素数1(C1)化合物が多いことを示している。銅は比較的炭素数2(C2)化合物を生成しやすいと言われているが、エチレンもエタンも、十数%程度であった。
【0067】
700℃表面改質処理したものを用いると、メタンは殆ど生成せず、一方でエチレンの収率が60%以上と高く、エタンも30%以上生成した。
【0068】
850℃表面改質処理においても、メタンは殆ど発生せず、エチレンとエタンが約50%ずつ生成した。
【0069】
表面改質処理の処理温度の違いにより、選択性を変化させることができることもわかった。
【0070】
図7に炭化水素生成速度をカソード分極電位に対して示す。分極電位は飽和銀/塩化銀に対する値である。未処理の銅メッシュと比較して、表面改質処理をしたものは、何れの処理条件でも数十倍の炭化水素生成速度が得られ、特に−1.5V〜−1.6V vs.SSEにおいて最大の炭化水素生成速度が得られると考えられる。
【0071】
(有機合成方法2)
図8には、有機合成反応の装置構成の他の例を模式的に示す。
【0072】
電解液21を蓄える電解室22は、カチオン交換膜からなる隔膜23で分離され、一方には、アノード24、他方にはカソード25が浸漬されている。また、カソード25の近傍に二酸化炭素を導入するためのガス導入管26が設けられている。
【0073】
このような装置においても、同様に電気化学還元による有機合成を実施することができる。
【符号の説明】
【0074】
11,21 電解液
12,22 電解室
13,23 隔膜
14,24 アノード
15,25 カソード
16 ガス拡散層
17 集電極
18 ガス導入部材
18a 入口
18b 出口
26 ガス導入管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金からなる基体の表面に、炭素ドープされた酸化銅又は炭素ドープ銅合金酸化物層からなる炭素ドープ酸化物層を具備することを特徴とする表面改質銅部材。
【請求項2】
請求項1に記載の表面改質銅部材において、前記炭素ドープ酸化物層は、CuOを含むことを特徴とする表面改質銅部材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の表面改質銅部材において、前記炭素ドープ酸化物層の表面は、ひだ状の凹凸であることを特徴とする表面改質銅部材。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の表面改質銅部材において、前記炭素ドープ酸化物層の表面は、サブミクロンオーダーのファイバーが林立した状態であることを特徴とする表面改質銅部材。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の表面改質銅部材において、前記炭素ドープ酸化物層にドープされた炭素は、Cu−C結合した状態でドープされていることを特徴とする表面改質銅部材。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の表面改質銅部材において、前記炭素ドープ酸化物層は、前記基体を、炭素、酸素を含む化学種が当該表面に供給される雰囲気下で加熱処理することにより形成したものであることを特徴とする表面改質銅部材。
【請求項7】
請求項6に記載の表面改質銅部材において、前記炭素ドープ酸化物層は、前記基体を、少なくとも炭素を含む化合物を含有するガスの燃焼炎を用いて行うか、又は少なくとも炭素を含む化合物を含有するガスの燃焼ガス若しくは燃焼排ガスを用いて形成した雰囲気中で加熱処理するかによって形成したものであることを特徴とする表面改質銅部材。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の表面改質銅部材において、前記炭素ドープ酸化物層は、前記基体を、炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を用いて加熱処理を行うか、又は少なくとも炭素を含む化合物を含有するガスの燃焼ガス若しくは燃焼排ガスを用いて形成した雰囲気中で加熱処理するかによって形成したものであることを特徴とする表面改質銅部材。

【図5】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−122126(P2012−122126A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276285(P2010−276285)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】