説明

表面改質顔料を含む溶媒系インクジェット用インク



表面改質顔料を含むサーマルインクジェットプリントヘッド用の溶媒系インク組成物である。前記インク組成物は(a)10〜80質量%の式(A)[式中、Rは、C1〜6アルキルであり、R、R及びRのそれぞれは、独立に、H、C1〜6アルキル、ハロゲン、OH、及びC1〜6アルコキシから選択される]の化合物と、(b)10〜80質量%のC1〜6アルコールと、(c)0.01〜25質量%の表面改質顔料とを含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、サーマルインクジェットプリンタ用のインクジェット用インクに関する。そのインクは、主として、非多孔質基材を含めての広範囲の基材上にサーマルインクジェット印刷を可能にするために開発された。
【発明の背景】
【0002】
サーマル発泡インクジェットプリントヘッドは、ノズルチャンバ内に収容された印刷流体中に特定量の熱を発生させることによって機能する。この熱は、泡を生成させ、この泡は、流体がノズルから押し出されるときに最終的に崩壊する。泡の崩壊は、次いで、ノズルチャンバへのさらなる流体の流入を引き起こして同じプロセスが再度始まる。
【0003】
水は、高い温度で速やかに泡を生成できるので、かかるサーマルインクジェットプリントヘッドを備えたプリンタは、通常、水系インク配合物を使用する。
【0004】
しかし、特殊処理された非多孔質及び準多孔質基材上に直接に印刷することは可能ではあるが、水系インクジェット用インクは、事務用紙や布地などの多孔質媒体を使用する用途に本質的に限定される。したがって、サーマルインクジェットプリントヘッドを使用する大抵のプリンタは、一般的には、SOHO(小規模事務所自宅事務所)市場用である。
【0005】
対照的に、ピエゾプリントヘッドは、液滴噴出が発泡機構ではなくて圧電力によって引き起こされるため、幅広いインク配合物の自由度を提供する。このために、例えばUV硬化性、溶媒系、ホットメルト及び油系、並びに水系など、多数の異なるインク用化学品が、ピエゾプリントヘッドで使用することができる。ピエゾプリンタからの印刷物も、同様に多様であり、包装、大判ディスプレー、CD及びガラス装飾を含めての多数のグラフィックス市場分野に対応している。一例として大判印刷をとると、市場では非常に多数の溶媒系プリンタが存在しており、そのすべてが、ピエゾプリントヘッドを使用している。こうしたプリンタは、コーティングしていないビニル及びポリエステルなど低価格の非多孔質及び準多孔質基材を含めての広範囲の媒体上に印刷を行う。
【0006】
ピエゾプリントヘッドで使用されるような、顔料を含む溶媒系インクジェット用インクは、適切な粒径の安定分散の形成を助けるために、高濃度のポリマーを含む。
【0007】
例えば、Microlithブランド(Ciba)からのものなど、溶媒系インクジェット用インク用途のための市販顔料は、塩化ビニル/ビニルアセテートコポリマー結合剤中に予め分散された顔料からなる。典型的な溶媒系インクジェット用インクを配合するために、市販の顔料分散液は、溶媒及び追加のポリマー中に「レットダウン」されている。追加のポリマーを組み込むことによって、フィルム特性が改良され、粒子の安定性の保持の助けになる。しかし、サーマルプリントヘッドにおいて、ヒーターエレメント上で堆積し、インクレイテンシーを低減し及び/又は落下速度を減少させる傾向があるため、高濃度のポリマーは望ましくない。
【0008】
出願人は、インクを噴出するために泡の生成に依存せず、ピエゾプリントヘッドのように水性インクでも非水性インクでも使用することができる様々なベンド作動式プリントヘッドを開発した。出願人のベンド作動式インクジェットプリントヘッドの一部は、例えば、米国特許第7416280号、米国特許第6902255号、米国特許出願公開第2008/0129793号及び米国特許出願公開第2008/0225082号に記載されており、その内容は、参照により本明細書に組み込まれている。
【0009】
本出願人はまた、様々なサーマル発泡プリントヘッドも開発し、それは、例えば、米国特許第6755509号、米国特許第7246886号及び米国特許第7401910号に記載されており、その内容は、参照により本明細書に組み込まれている。
【0010】
本出願人のサーマル発泡インクジェット用プリンタは、現在、水系インクの高分解能及び高速印刷(例えば、1600dpiで1分間当り60頁)をSOHO市場に提案している。こうした水系インクは、多孔質及び準多孔質媒体上への印刷に適している。しかし、非多孔質媒体を含めてより多種の基材上にインクを印刷できるサーマル発泡インクジェットプリントヘッドを提供することが望ましい。これによって、サーマルインクジェット用プリントヘッドが、ピエゾプリンタと十分に競争し、多種の印刷媒体用の高分解能及び高速インクジェット印刷を提供することが可能になる。
【発明の概要】
【0011】
第1の態様では、サーマルインクジェットプリントヘッド用の表面改質顔料を含む溶媒系(すなわち、非水系)インク組成物が提供される。
【0012】
任意選択で、インク組成物は、
(a)10〜80質量%の式(A)の化合物
【化1】


[式中、
は、C1〜6アルキルであり、
、R及びRのそれぞれは、独立に、H、C1〜6アルキル、ハロゲン、OH、及びC1〜6アルコキシから選択される]と、
(b)10〜80質量%のC1〜6アルコールと、
(c)0.01〜25質量%の表面改質顔料と、
を含む。
【0013】
任意選択で、Rは、C1〜6アルキルであり、R、R及びRのそれぞれは、Hである。
【0014】
任意選択で、式(A)の化合物が、N−メチル−2−ピロリジノン又はN−エチル−2−ピロリジノンである。
【0015】
任意選択で、本発明の関連態様のすべてで、C1〜6アルコールは、エタノールである。
【0016】
任意選択で、本発明の関連態様のすべてで、インク組成物は、0.001〜10質量%の界面活性剤を含む。
【0017】
任意選択で、本発明の関連態様のすべてで、界面活性剤は、非イオン性界面活性剤である。
【0018】
任意選択で、本発明の関連態様のすべてで、界面活性剤は、非ポリマー性である。
【0019】
任意選択で、本発明の関連態様のすべてで、組成物は、アクリレートポリマー又はコポリマーを含まない。
【0020】
任意選択で、本発明の関連態様のすべてで、組成物は、いかなるポリマーも含まない。
【0021】
任意選択で、インク組成物は、式(A)の化合物、C1〜6アルコール及び表面改質顔料から本質的になる、又はこれらのみからなる。
【0022】
任意選択で、インク組成物は、式(A)の化合物、C1〜6アルコール、表面改質顔料及び0.01〜10質量%の界面活性剤のみからなる。
【0023】
第2の態様では、
(i)プリントヘッドの少なくとも1つのノズルチャンバにインクを供給するステップと、
(ii)ノズルチャンバ中のヒーターエレメントを作動させ、中で泡を生成させるのに十分な温度までインクを加熱し、それによってノズルチャンバに付属したノズル開口部からインクを噴出させるステップと、
を含み、インクが、
(a)10〜80質量%の式(A)の化合物
【化2】



[式中、
は、C1〜6アルキルであり、
、R及びRのそれぞれは、独立に、H、C1〜6アルキル、ハロゲン、OH、及びC1〜6アルコキシから選択される]と、
(b)10〜80質量%のC1〜6アルコールと、
(c)0.01〜25質量%の表面改質顔料と、
を含む溶媒系インク組成物である、サーマルインクジェットプリントヘッドからインクを噴出させる方法が提供される。
【0024】
任意選択で、本発明の関連態様のすべてで、インクは、非多孔質又は準多孔質基材上に噴出される。
【0025】
任意選択で、本発明の関連態様のすべてで、インクは、基材に接着する。
【0026】
任意選択で、本発明の関連態様のすべてで、基材は、プラスチック基材である。
【0027】
任意選択で、本発明の関連態様のすべてで、基材は、未処理ビニル又はポリエステルを含む。
【0028】
任意選択で、本発明の関連態様のすべてで、ヒーターエレメントは、1ナノグラム未満の質量を有する。
【0029】
任意選択で、本発明の関連態様のすべてで、ヒーターエレメントは、インク組成物がヒーターエレメントを包むようにインクチャンバ中で懸垂される。
【0030】
任意選択で、本発明の関連態様のすべてで、ヒーターエレメント用の作動エネルギーは、500nJ未満である。
【0031】
任意選択で、本発明の関連態様のすべてで、プリントヘッドは、固定式ページ幅プリントヘッドである。
【0032】
任意選択で、本発明の関連態様のすべてで、プリントヘッドは、少なくとも50,000個のノズルを備える。
【0033】
第3の態様では、
(a)10〜80質量%の式(B)の化合物
【化3】


[式中、
は、C1〜6アルキル基であり、かつ、Rは、C1〜6アルキル基であり、又は、
及びRは、一緒に結合してC3〜12シクロアルキレン基を形成する]と、
(b)10〜80質量%のC1〜6アルコールと、
(c)0.01〜25質量%の表面改質顔料と、
を含む、サーマルインクジェットプリントヘッド用の溶媒系インク組成物が提供される。
【0034】
任意選択で、式(B)の化合物は、メチルエチルケトンである。
【0035】
任意選択で、式(B)の化合物は、シクロヘキサノンである。
【0036】
第4の態様では、
(i)プリントヘッドの少なくとも1つのノズルチャンバにインクを供給するステップと、
(ii)ノズルチャンバ中のヒーターエレメントを作動させ、中で泡を生成させるのに十分な温度までインクを加熱し、それによってノズルチャンバに付属したノズル開口部からインクを噴出させるステップと、
を含み、インクが、
(a)10〜80質量%の式(B)の化合物
【化4】



[式中、
は、C1〜6アルキル基であり、かつ、Rは、C1〜6アルキル基であり、又は、
及びRは、一緒に結合してC3〜12シクロアルキレン基を形成する]と、
(b)10〜80質量%のC1〜6アルコールと、
(c)0.01〜25質量%の表面改質顔料と、
を含む溶媒系インク組成物である、サーマルインクジェットプリントヘッドからインクを噴出させる方法が提供される。
【0037】
第5の態様では、
(a)10〜80質量%の式(C)の化合物
【化5】


[式中、Rは、0、1、2又は3個の酸素原子で区切られているC2〜12アルキル基である]と、
(b)10〜80質量%のC1〜6アルコールと、
(c)0.01〜25質量%の表面改質顔料と、
を含む、サーマルインクジェットプリントヘッド用の溶媒系インク組成物が提供される。
【0038】
任意選択で、Rは、0、1又は2個の酸素原子で区切られているC4〜8アルキル基である。
【0039】
任意選択で、式(C)の化合物は、ヘキシルアセテート、カルビトールアセテート、ブチルジグリコールアセテート及びメトキシプロピルアセテートからなる群から選択される。
【0040】
第6の態様では、
(i)プリントヘッドの少なくとも1つのノズルチャンバにインクを供給するステップと、
(ii)ノズルチャンバ中のヒーターエレメントを作動させ、中で泡を生成させるのに十分な温度までインクを加熱し、それによってノズルチャンバに付属したノズル開口部からインクを噴出させるステップと、
を含み、インクが、
(a)10〜80質量%の式(C)の化合物
【化6】



[式中、Rは、0、1、2又は3個の酸素原子で区切られているC2〜12アルキル基である]と、
(b)10〜80質量%のC1〜6アルコールと、
(c)0.01〜25質量%の表面改質顔料と、
を含む溶媒系インク組成物である、サーマルインクジェットプリントヘッドからインクを噴出させる方法が提供される。
【0041】
第7の態様では、
(a)10〜80質量%の式(D)の化合物
【化7】



[式中、
及びRのそれぞれは、独立に、0、1、2又は3個の酸素原子で区切られているC1〜12アルキル基から選択され、又は、
及びRは、一緒に結合してC3〜12シクロアルキレン基を形成する]と、
(b)10〜80質量%のC1〜6アルコールと、
(c)0.01〜25質量%の表面改質顔料と、
を含む、サーマルインクジェットプリントヘッド用の溶媒系インク組成物が提供される。
【0042】
任意選択で、R及びRのうちの少なくとも1つは、1つ又は複数の酸素原子で区切られている。
【0043】
任意選択で、式(D)の化合物は、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、メチルブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、テトラヒドロフラン、及びテトラヒドロピランからなる群から選択される。
【0044】
第8の態様では、
(i)プリントヘッドの少なくとも1つのノズルチャンバにインクを供給するステップと、
(ii)ノズルチャンバ中のヒーターエレメントを作動させ、中で泡を生成させるのに十分な温度までインクを加熱し、それによってノズルチャンバに付属したノズル開口部からインクを噴出させるステップと、
を含み、インクが、
(a)10〜80質量%の式(D)の化合物
【化8】



[式中、
及びRのそれぞれは、独立に、0、1、2又は3個の酸素原子で区切られているC1〜12アルキル基から選択され、又は、
及びRは、一緒に結合してC3〜12シクロアルキレン基を形成する]と、
(b)10〜80質量%のC1〜6アルコールと、
(c)0.01〜25質量%の表面改質顔料と、
を含む溶媒系インク組成物である、サーマルインクジェットプリントヘッドからインクを噴出させる方法が提供される。
【0045】
さらなる態様では、
個別のインクを含むインク溜と、
インク溜と流体連結するサーマルインクジェットプリントヘッドと、
を備え、インクが、上記の溶媒系インク組成物のいずれか1つである、
プリンタが提供される。
【0046】
任意選択で、サーマルインクジェットプリントは、複数のノズルを備え、複数のノズルのそれぞれが、
インクを収容するノズルチャンバであって、インクを噴出するためのノズル開口部を備えるノズルチャンバと、
インクに接触するヒーターエレメントであって、中で泡を生成させ、それによってノズル開口部からインクを噴出させるのに十分な温度までインクを加熱するように設定されているヒーターエレメントと、
を備える。
【0047】
さらなる態様では、上記の溶媒系インク組成物のいずれか1つを収容する、サーマルインクジェットプリントヘッド用のインクカートリッジが提供される。
【0048】
任意選択で、インクカートリッジは、その中に一体化されたサーマルインクジェットプリントヘッドを備える。
【0049】
さらなる態様では、上記のインク組成物のいずれか1つをその上に配した基材が提供される。
【0050】
任意選択で、基材は、準多孔質又は非多孔質基材である。
【0051】
任意選択で、基材は、ビニル基材である。
【0052】
ここで本発明の任意選択の実施形態を以下の添付図面を参照して説明することにするが、それは単なる実施例として行うものである。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】サーマルインクジェットプリントヘッドの斜視図である。
【図2】図1に示したノズルアセンブリの1つの側面図である。
【図3】図2に示したノズルアセンブリの斜視図である。
【図4】サーマルインクジェットプリントエンジンの斜視図である。
【発明の詳細な説明】
【0054】
本発明は、インクを噴出するために各ノズルチャンバで泡を速やかに生成させる型のサーマルインクジェットプリントヘッドから噴出させることができる、溶媒系インク組成物を提供するものである。従来技術の圧倒的に好ましい点は、サーマルインクジェットプリントヘッドから水性インク組成物を噴出させることである。しかし、上述の予告のように、水性インク組成物は、サーマルインクジェットプリントヘッドが使用可能な応用の範囲を制限する。非水性インク組成物を利用する本発明は、サーマルインクジェットプリントヘッドによって非多孔質及び準多孔質媒体に接着するインクを印刷することを可能にすることによって、サーマルインクジェットプリントヘッドの可能な応用の範囲を拡大させる。したがって、本発明を使用することによって、大判及びその他の市場でサーマルインクジェットプリントヘッドを使用することの可能性が現実のものとなる。
【0055】
本発明に記載のインク組成物は、特に、ピエゾプリントヘッドで典型的に使用される溶媒系対応品と比較する場合、相対的に簡単であることを特徴とする。ピエゾプリントヘッドで使用される典型的な溶媒系インク組成物は、約5種類以上の異なる溶媒からなる溶媒系を含む。さらには、こうした溶媒系インク組成物は、通常、インク中の着色剤(複数可)を安定化させるために高濃度のポリマー(例えば、アクリレートポリマー)を含む。本発明の利点は、その溶媒系が、2つの溶媒を含むだけでよく、かつ低いポリマー濃度で又はポリマーなしでも配合できることである。
【0056】
ポリマー数を最小化することは、コストを低減するのみでなく、不揮発性残留物がプリントヘッド内でサーマルヒーターエレメント上に堆積する(別の表現では、「堆積」として知られている)傾向も最小化する。比較的簡単な溶媒系インク組成物が、低濃度のポリマーで、特に、アクリレートポリマーの低濃度又は不在で、効果的に噴出し、非多孔質基材に接着できることは驚くべきことである。
【0057】
本発明のインク組成物は、一般に、3つの主成分を含み、それぞれについてより詳細に議論される。第1の成分は、インクの非多孔質面(例えば、ビニル面)への接着性を促進する溶媒である。第2の成分は、サーマルプリントヘッド中での発泡を促進する。第3の成分は、表面改質顔料である。
【0058】
インクは、こうした3つの成分のみを使用して配合できるが、非多孔質媒体上のインクのフィルム外観を改良する、及び/又は表面改質顔料の初期分散の補助のために、第4の成分が追加で存在することができる。
【0059】
第1及び第2の成分は合わせて、典型的に、インク組成物の少なくとも70質量%、少なくとも80質量%、又は少なくとも90質量%を占める。
【0060】
第1の成分(「接着促進溶媒」)の量は、インク組成物の全質量に対して10〜80質量%の範囲である。任意選択で、第1の成分の量は、30〜60質量%、又は任意選択で、40〜50質量%の範囲である。
【0061】
第2の成分(「発泡促進溶媒」)の量は、インク組成物の全質量に対して10〜80質量%の範囲である。任意選択で、第2の成分の量は、30〜60質量%、又は任意選択で、40〜50質量%の範囲である。
【0062】
第1の成分と第2の成分の比は、3:1〜1:3、任意選択で、2:1〜1:2、又は任意選択で、1.5:1〜1:1.5の範囲であってよい。好ましいインク組成物では、第1の成分と第2の成分は、おおよそ等しい量、すなわち、約1:1の比で存在する。
【0063】
第3の成分(「表面改質顔料」)の量は、インク組成物の全質量に対して0.01〜25質量%の範囲である。第3の成分の正確な量は、通常、特定の顔料の特性(例えば、光学密度)及び他の印刷パラメーター(例えば、液滴直径、ドット密度など)に依存する。
【0064】
任意選択で、第3の成分の量は、0.1〜10質量%、又は任意選択で、1〜5質量%の範囲である。
【0065】
第4の成分(「界面活性剤」)の量は、インク組成物中に存在する場合、0.01〜10質量%の範囲である。任意選択で、第4の成分の量は、0.05〜5質量%、又は任意選択で、0.1〜1質量%の範囲である。
【0066】
インク組成物は、第1、第2及び第3の成分から本質的になることができる。換言すれば、第1、第2及び第3の成分は合わせて、インク組成物の少なくとも90質量%、少なくとも95質量%又は少なくとも98質量%を占めることができる。
【0067】
一部の実施形態では、インク組成物は、第1、第2及び第3の成分のみからなることができる。他の実施形態では、第1、第2、第3及び第4の成分のみからなることができる。
【0068】
典型的に、インク組成物は、従来技術に記載された溶媒系インク組成物中で通常使用される、アクリレートポリマーを全く含まない。或いは、インク組成物は、いかなるポリマーも含まなくてもよい。
【0069】
接着促進溶媒
本出願人は、特定種類の溶媒が、サーマルインクジェットプリントヘッドから噴出されることが可能であるとともに、非多孔質基材と強く相互作用することを見出した。特に、一部の溶媒は、ビニル製印刷媒体に強く接着し、容易には除去できないフィルム跡を残す。対照的に、水及びエタノールは、ビニル面上にどんな跡も残さない。
【0070】
第1種類の接着促進溶媒は、式(A)
【化9】



[式中、
は、C1〜6アルキルであり、
、R及びRのそれぞれは、独立に、H、C1〜6アルキル、ハロゲン、OH、及びC1〜6アルコキシから選択される]の化合物である。
【0071】
式(A)の溶媒の典型的な例は、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)及びN−エチル−2−ピロリジノン(NEP)である。
【0072】
第2種類の接着促進溶媒は、式(B)
【化10】



[式中、
は、C1〜6アルキル基であり、Rは、C1〜6アルキル基であり、又は、
及びRは、一緒に結合してC3〜12シクロアルキレン基を形成する]の化合物である。
【0073】
式(B)の溶媒の典型的な例は、メチルエチルケトン(MEK)、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン及びイソホロンである。
【0074】
第3種類の接着促進溶媒は、式(C)
【化11】



[式中、Rは、0、1、2又は3個の酸素原子で区切られているC2〜12アルキル基である]の化合物である。
【0075】
式(C)の溶媒の典型的な例は、ヘキシルアセテート、エチルアセテート、ブチルアセテート、カルビトールアセテート[2−(2−エトキシエトキシ)エチルアセテート]、イソオクチルアセテート、ブチルカルビトールアセテート[2−(2−ブトキシエトキシ)エチルアセテート]、ブチルジグリコールアセテート[2−(2−ブトキシエトキシ)エチルアセテート]、及びメトキシプロピルアセテートである。
【0076】
第4種類の接着促進溶媒は、式(D)
【化12】



[式中、
及びRのそれぞれは、独立に、0、1、2又は3個の酸素原子で区切られているC1〜12アルキル基から選択、又は、
及びRは、一緒に結合してC3〜12シクロアルキレン基を形成する]の化合物である。
【0077】
式(D)の溶媒の典型的な例は、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、メチルブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、テトラヒドロフラン及びテトラヒドロピランである。
【0078】
「アルキル」という用語は、本明細書では、直鎖及び分枝形態双方のアルキル基を指すのに使用される。別段に規定されていない限り、アルキル基は、O、NH又はSから選択される1、2又は3個のヘテロ原子で区切られてもよい。例えば、C−C結合中の1つのO原子による区切りはエーテルを提供する。或いは、C−H結合中の1つのO原子による区切りはアルコールを提供する。したがって、エーテル及びアルコールは、本明細書での定義では「アルキル」の範囲内である。
【0079】
別段に規定されていないがない限り、アルキル基はまた、1、2又は3個の二重及び/又は三重結合で区切られてもよい。しかし、「アルキル」という用語は、通常、二重又は三重結合による区切りのないアルキル基を指す。アルケニル、エーテル、アルコキシなどの具体的な基として記載される場合、上記の「アルキル」の定義に対する制約として解釈されることを目的としていない。
【0080】
例として、C1〜6アルキルに関して述べると、そのアルキル基は、1と6の間の任意の数の炭素原子を含み得ることを意味する。例として、C1〜6アルキルは、メチル、エチル、プロピル(n−プロピル、イソプロピルなどを含む)、ブチル(n−ブチル、t−ブチルなどを含む)、ペンチル、ヘキシル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、イソ−プロペニル、メトキシプロピル、エトキシエチル、メトキシメチル、エトキシブチルなどの基を包含することができる。
【0081】
「アルキル」という用語は、通常、非環式アルキル基を指すが、シクロアルキル基を含むこともできる。
【0082】
本明細書では、「シクロアルキル」という用語には、シクロアルキル、ポリシクロアルキル及びシクロアルケニル基、並びにこれらと直鎖アルキル基との組合せ(例えば、環に結合したアルキル置換基(複数可)を有するシクロアルキル基)が含まれる。シクロアルキル基は、O、N又はSから選択される1、2又は3個のヘテロ原子で区切られていてもよい。かかるシクロアルキル基は、例えば、アルコキシ基(複数可)で置換されたシクロアルキル環の形態であってもよく、または、ヘテロシクロアルキル基の形態であってもよい。ヘテロシクロアルキル基の例は、ピロリジノ、モルホリノ、ピペリジノなどである。しかし、「シクロアルキル」という用語は、通常、ヘテロ原子による区切りのないシクロアルキル基を指す。シクロアルキル基の例として、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘキセニル、シクロヘキシルメチル及びアダマンチル基が挙げられる。
【0083】
本明細書では、「ハロゲン」又は「ハロ」という用語は、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素のいずれかを指すために使用される。しかし、通常、ハロゲンは、塩素又はフッ素置換基を指す。
【0084】
発泡溶媒
上記の接着促進溶媒は、固有の発泡特性(及びビニル基材の良好な接着性)を有するが、これらの溶媒のサーマルインクジェットデバイスで発泡するための能力は、C1〜6アルコールの添加によって著しく改良される。疑問を回避するため、本明細書で使用される「C1〜6アルコール」という用語は、1〜6個の炭素原子及び1つのみのヒドロキシル基を有するアルコール化合物を指す。「C1〜6アルコール」という用語には、メトキシプロパノール、エトキシエタノールなどのアルコキシアルコールも含まれる。1つ又は複数のC1〜6アルコールが、インク組成物中に存在することができる。
【0085】
適切なC1〜6アルコールの例として、メタノール、エタノール、プロパノール(例えば、イソプロパノール)、メトキシプロパノール、ブタノール、ペンタノール及びヘキサノールが挙げられる。本発明で発泡溶媒として使用するのに好ましいC1〜6アルコールは、エタノールである。
【0086】
表面改質顔料
表面改質顔料は、水性インクジェット用インク中で大量の安定化用ポリマーの必要性を低減するために開発された。堆積は、顔料系水性インクで大きな問題点であり、プリントヘッド性能に影響を及ぼす。ポリマー堆積を補うためにヒーターエレメントを「過出力」にすることは可能であるが、特に、プリントヘッド(例えば、Memjet(登録商標)プリントヘッド)は、液滴噴出エネルギーがより小さい方向(例えば、ノズル当り、50〜200nJ)に向かっているため、これは、一般には、十分ではない。したがって、水性インクジェット用インクの配合用に、新世代の表面改質顔料が出現する。例えば、CAB−O−JET(登録商標)ブランドの水性顔料分散液は、カルボキシレート基やスルホネート基などのアニオン性表面基で修飾された黒色又は着色顔料を含む。式(i)は、カルボキシレート修飾黒色顔料を示し、式(ii)は、スルホネート修飾着色顔料を示す。しかし、アニオン性ホスフェート基やカチオン性アンモニウム基など他の表面改質基も使用することができる。
【0087】
【化13】


【0088】
上記のようなものなどの表面改質顔料が、水性インクジェット用インクの配合のために開発された。これらは、本来的には溶媒系インクを配合するのに適していない水性顔料分散液として販売されている。
【0089】
本発明では、表面改質顔料粒子は、120°Cのオーブンで恒量まで水性顔料分散液を乾燥することによって調製される。本発明で使用される適切な水性表面改質顔料分散液の具体的な例は、Cabot Corporationから供給されるCAB−O−JET(登録商標)200、300、250C、260M及び270Yである。
【0090】
表面改質顔料は、単独で使用されても、2つ以上の顔料の組合せで使用されてもよい。
【0091】
表面改質顔料粒子の平均粒径は、任意選択で、50〜500nm又は、任意選択で、50〜250nmの範囲内である。
【0092】
界面活性剤
表面改質顔料粒子の分散を補助する及び/又は非多孔質基材、例えば、ビニル又はポリエステル基材上に付着された場合にインクのフィルム外観を改良するために、第4の成分を本発明のインク組成物中に含ませることができる。
【0093】
任意選択で、界面活性剤は、0.001〜10質量%、0.01〜5質量%、0.05〜2質量%、又は0.1〜1質量%の量で含まれる。界面活性剤は、存在する場合、典型的には、非イオン性界面活性剤である。
【0094】
本発明で使用するのに適切な界面活性剤には、フッ素系界面活性剤(例えば、エトキシ化フッ素系界面活性剤)が含まれる。本発明によれば、インク組成物のフィルム外観を改良するために適切なフッ素系界面活性剤の具体例の一部は、Zonyl(登録商標)FSO及びZonyl(登録商標)FSO−100である。
【0095】
本発明によれば、インク組成物フィルム外観を改良するために適切な界面活性剤の他の具体例には、Tego Wet(登録商標)450、Tegoglide(登録商標)410、Twin(登録商標)400、Tego Wet(登録商標)270及びTegoglide(登録商標)482が含まれる。
【0096】
溶媒用媒体中で表面改質顔料の初期分散を補助するのに適切な界面活性剤の例は、Solsperse(登録商標)32500である。
【0097】
本発明によるインク組成物は、有利には、ポリマー添加剤(特に、アクリレートポリマー)なしで優れた印刷品質及び噴出性を提供するが、配合中で初期分散を改良することによって印刷された際のインクのフィルム外観を改良するため、特定のポリマーが低濃度で使用され得る。例えば、ビニルポリマーは、ビニル基材上に印刷された際、インクのフィルム外観を改良することができる。ビニルポリマー添加剤の例は、塩化ビニルとビニルアセテートの高分子量コポリマー(例えば、UCAR(商標)VYHH)である。かかるポリマー添加剤は、0.01〜5質量%又は0.05〜2質量%又は0.1〜1質量%の量で含ませることができる。しかし、本発明によるインク組成物は、同様に、いずれのポリマー添加剤を全く含まなくてもよい。
【0098】
サーマルインクジェットプリントヘッド
本発明による溶媒系インク組成物は、サーマルインクジェットプリントヘッドで使用されるように設計されている。その内容が参照により本明細書に組み込まれている米国特許第7303930号に記載の本出願人のサーマルインクジェットプリントヘッドの1つに関する簡単な説明がこれから続く。
【0099】
図1を参照すると、複数のノズルアセンブリを備えるプリントヘッドの一部が示されている。図2及び3は、側断面図及び切欠斜視図によって、こうしたノズルアセンブリの1つを示す。
【0100】
各ノズルアセンブリは、シリコンウエファ基材2上にMEMS製作技法によって形成されたノズルチャンバ24を備える。ノズルチャンバ24は、ルーフ21と、ルーフ21からシリコン基材2に延伸する側壁面22とによって画定されている。図1に示すように、各ルーフは、プリントヘッドの噴出面全体に広がるノズルプレート56の一部によって画定されている。ノズルプレート56及び側壁面22は、同じ材料から形成され、その材料は、MEMSによる作製中にフォトレジストの犠牲作業台全体に付着される。典型的には、ノズルプレート56及び側壁面21は、二酸化ケイ素や窒化ケイ素などのセラミック材料から形成される。こうした硬質材料は、プリントヘッドのロバスト性に優れており、その固有の親水性は、毛細管作用によってノズルチャンバ24にインクを供給するのに有利である。
【0101】
ノズルチャンバ24の詳細に戻ると、ノズル開口部26が各ノズルチャンバ24のルーフ内で画定されていることが理解されよう。各ノズル開口部26は、一般に、楕円形であり、随伴ノズルリム25を備える。ノズルリム25は、印刷中の液滴の方向性の保持を補助するとともに、ノズル開口部26からのインクの溢流を少なくともある程度まで低減するのを補助する。ノズルチャンバ24からインクを噴出させるための作動装置は、ノズル開口部26の下方に位置され、ピット8に渡って懸垂されているヒーターエレメント29である。電流は、基材2の下部にあるCMOS層中の回路を動かすように接続された電極9を介してヒーターエレメント29に供給される。電流が、ヒーターエレメント29を通過する際に、周囲のインクを速やかに過熱して気泡を生成させ、それによりインクがノズル開口部26から押し出される。ヒーターエレメント29を懸垂することによって、ノズルチャンバ24が始動する際に、ヒーターエレメント29は、インク内に完全に浸漬されている。これにより、下部にある基材2内に放散する熱がより少なくなり、より多くの入力エネルギーが泡を生成させるのに使用されるため、プリントヘッドの効率が改良される。
【0102】
図1で最も明確に理解されるように、ノズルは、列状に配置され、その列に沿って縦方向に伸びているインク供給チャネル27は、列内の各ノズルにインクを供給する。インク供給チャネル27は、ノズルチャンバ24内のインク導管23を介してノズル開口部26の側面からインクを供給する、各ノズルのためのインク入口通路15にインクを送達する。
【0103】
かかるプリントヘッドを製造するためのMEMS製作方法は、米国特許第7303930号に詳細に記載されたが、その内容は、参照により本明細書に組み込まれている。
【0104】
懸垂型ヒーターエレメントを備えるプリントヘッドの操作は、本出願人の米国特許第7278717号に詳細記載されており、その内容は、参照により本明細書に組み込まれている。
【0105】
また本出願人によって、埋め込み型ヒーターエレメントを備えるサーマル発泡インクジェットプリントヘッドも記載されている。かかるプリントヘッドは、例えば、米国特許第7246876号及び米国特許出願公開第2006/0250453号に記載されており、その内容は、参照により本明細書に組み込まれている。
【0106】
本出願人のサーマルインクジェットプリントヘッドは、一般に、1つ又は複数の以下の特性:すなわち、(i)懸垂型ヒーターエレメント、(ii)1ナノグラム未満、任意選択で、500ピコグラム未満の質量を有するヒーターエレメント、(iii)500nJ未満、任意選択で、200nJ未満の作動エネルギー、及び(iv)窒化チタン又は窒化チタンアルミニウムヒーターエレメントを有することを特徴とする。
【0107】
本発明の溶媒系インク組成物は、上記の本出願人のサーマルインクジェットプリントヘッドとの組み合わせで最適に動作する。しかし、その用途は、本出願人のサーマルプリントヘッドに限定されない。本明細書に記載の溶媒系インク組成物はまた、例えば、Hewlett−Packard及びCanonによって市販されている従来のサーマル発泡インクジェットプリントヘッドで使用することもできる。
【0108】
従来の走査型サーマルインクジェットプリントヘッド(又は、実際、本出願人のページ幅プリントヘッド)の場合、本発明は、上記の溶媒系インク組成物のいずれかを含むインクジェットプリンタ用のインクカートリッジと関連させることができる。インクカートリッジは、任意選択で、それと一体化されたサーマルインクジェットプリントヘッドを含むことができる。
【0109】
完全を期するために、本出願人のサーマルインクジェットプリントヘッドを備えるプリンタは、例えば、米国特許第7201468号、米国特許第7360861号、米国特許第7380910号、及び米国特許第7357496号に記載されており、各内容は、参照により本明細書に組み込まれている。
【0110】
図4は、その内容が参照により本明細書に組み込まれている、本出願人の米国特許出願第12/062514号に記載されているようなサーマルインクジェットプリンタ用のプリントエンジン103を示す。プリントエンジン103は、ページ幅プリントヘッドを備える取り外し可能なプリントカートリッジ102、及び使用者可換型インクカートリッジバンク128を備える。各色チャネルは、典型的には、それ自身のインク溜128、及びプリントヘッドに供給されるインクの静水圧を調整するための対応圧力調整チャンバ106を備える。したがって、プリントエンジン103は、5つのインク溜128及び5つの対応圧力調整チャンバ106を備える。この5チャネル型プリントエンジン103用の典型的な色チャネル配位は、CMYKK又はCMYK(IR)である。各インクカートリッジ128は、本明細書に記載の溶媒系インク組成物を含むことができる。したがって、プリンタは、非多孔質(例えば、ビニル)基材上に印刷するのに適している。
【0111】
多様な要素間の流体のつながりが図4に示されていないが、こうしたつながりは、例えば、米国特許出願第12/062514号に記載の流体系に対応する適切なホースを用いて作製されることが理解されよう。
【0112】
本発明によるインク組成物は、サーマルインクジェットプリントヘッドで使用されるように設計されたが、その内容が参照により本明細書に組み込まれている米国特許第7416280号、米国特許第6902255号、米国特許出願公開第2008/0129793号、及び米国特許出願公開第2008/0225082号に記載されている本出願人のベンド作動型インクジェットプリントヘッドなど、他の種類のインクジェットプリントヘッドでも使用できることがさらに理解されよう。
【0113】
実験
【0114】
発泡溶媒の評価
「開放型プールボイラー」試験装置を使用し、広範囲の溶媒を評価した後に、表Aに記載の溶媒は、サーマルインクジェットデバイス中で泡を生成させることがわかった(「開放型プールボイラー」試験装置は、ルーフ構造体21のない、図2に示す1つ又は複数のインクジェットノズルを本質的に備える)。
【0115】
各溶媒の一部の物理的特性もまた、表Aに示されている。
【0116】
【表1】



【0117】
表Aに列挙された溶媒はすべて、試験デバイスで泡を生成させたが、各溶媒へのエタノールの添加が発泡を大きく改良することが観察された。
【0118】
優れた発泡を示す好ましい溶媒の組合せは、比が1:1のN−メチル−2−ピロリジン(NMP)とエタノールであった。
【0119】
溶媒のビニルへの接着
表Aに列挙された溶媒それぞれのビニル面への接着を試験した。4つの大きな溶媒滴を未コートビニル上に置き、周囲条件下に60秒間放置した。溶媒をティッシュで静かに拭取り、ビニル面のいかなるマークに注目した。
【0120】
水及びエタノールを除いて、表Aに列挙された溶媒すべてが、ビニル上にフィルム跡を形成した。ビニル面上に残されたフィルム跡の程度の順に以下に溶媒を列挙する。
MEK>NMP>シクロヘキサノン>>ヘキシルアセテート=カルビトールアセテート=ブチルジグリコールアセテート=メトキシプロピルアセテート>ジプロピレングリコールメチルエーテル
【0121】
単一溶媒インク組成物のフィルム特性
さらなる接着試験では、単一溶媒(表Aから)及び染料からなるインク組成物を配合した。各インク組成物は、97質量%の溶媒及び3質量%のBricosol赤K10B(Solvent Red 8)からなっていた。
【0122】
インクを6ミクロン湿フィルムとしてビニル面に施用した。水摩擦、接着及び外観に注目した。一般に、多少の小さな不規則性を示したカルビトールアセテート及びヘキシルアセテート組成物以外、インク組成物はすべて、試験する前にビニル面上で良好なフィルム外観を有した。
【0123】
水摩擦は、水中に浸漬され、次いで、フィルム全体に渡って摩擦された綿棒を使用して行なわれた。フィルムを損傷するのに必要な摩擦回数に注目し、又は、損傷がまったく観察されなければ、100回の摩擦で中止した。インク組成物はすべて、水摩擦試験に対して優れた耐性を示し、>100水摩擦後も大きな変化がなかった(通常、摩擦数が>50で、優秀と見なされる)。
【0124】
接着試験は格子内に6つの水平線が6つの垂直線に交差する(クロスハッチ)印をつけるためにカミソリ刃を使用して実施された。次いで、スコッチ(登録商標)テープを格子上に置き、速やかに除去した。フィルムに対する損傷(もしあれば)に注目し、接着レート、0(劣)−5(優)、を与えた。インク組成物はすべて、5という接着レートであった。
【0125】
室温における各フィルムの乾燥時間にやはり着目し、結果を表(B)に示す。
【0126】
【表2】



【0127】
比較として、同じ試験条件下で標準溶媒系ピエゾシアンインクは、乾燥時間>120秒を有することが測定された。
【0128】
調製したすべてのインク組成物において、耐水性及びビニルに対する接着は優れており、少なくともピエゾ溶媒系標準と同様な性能であった。
【0129】
発泡及びフィルム特性を基準にすると、NMP及びエタノールを比1:1で含むインク組成物は、サーマルインクジェット用の優れた組成物と見なされた。しかし、接着促進溶媒及びエタノールを含むすべてのインク組成物は、サーマルインクジェットプリントヘッドを使用して噴出に適していると見なされ、実際、かかるデバイスから良好な液滴噴出特性を示した。
【0130】
フィルム外観改良剤の添加
NMPとエタノールの好ましい溶媒系を使用し、さらに非イオン性界面活性剤(Zonyl(登録商標)FSO)を含ませて数種のインク組成物を調製した。こうしたインク組成物を表Cに記載する。
【0131】
【表3】



【0132】
懸垂型ビームヒーターエレメントを備える上記の型のサーマルインクジェットプリントヘッドを使用して、各インク組成物を適切なインク溜中に入れ、ビニル上に印刷した。印刷物はすべて、優れたフィルム外観、耐水性、及びビニル面への接着性を有していた。
【0133】
界面活性剤を添加すると、界面活性剤のないインク組成物に比較してビニル上のインクのフィルム外観が改良された。
【0134】
ビニル上への印刷物のフィルム外観の改良において有利な効果を示した他の界面活性剤は、Tego Wet(登録商標)450、Tegoglide(登録商標)410、Twin(登録商標)400、Tego Wet(登録商標)270及びTegoglide(登録商標)482であった。
【0135】
同様に、ビニルポリマーのインク組成物中への組み込みは、印刷物のフィルム外観がいくらか改善されたのを示した。例えば、UCAR商標VYHH(塩化ビニルとビニルアセテートの高分子量コポリマー)のインク組成物への添加は、ビニル基材上への印刷物のフィルム外観を改善した。しかし、ポリマー添加剤は、ビニル印刷媒体上の許容できるフィルム外観に対して必須であると見なされなかった。
【0136】
表面改質顔料配合物
表面改質顔料分散液を使用してインクのCMYKセットを調製した。120℃のオーブンでCaboJet(登録商標)水性顔料分散液を恒量になるまで終夜乾燥した。Silversonミキサー(或いは、超音波プローブ又はビーズミルなどの任意の適切なミキサーを使用することができる)を使用して乾燥顔料粉末をNMPとSolsperse(登録商標)32500分散剤の溶液に高速で撹拌した。生成顔料分散液を表Dに示す。これらの実施例では初期の分散を補助するために標準分散剤を使用したが、本発明によるインク組成物は、かかる分散剤なしで配合することができる。
【0137】
【表4】



【0138】
次いで、顔料分散液を溶媒中にレットダウンした。黄色の場合、メトキシプロパノールを使用した。他に対しては、NMP/EtOHを使用した(表E)。
【0139】
【表5】


【0140】
各インクを0.8ミクロンナイロンフィルタでろ過し、図1〜3に示すサーマルインクジェットノズルを使用してビニル基材上に印刷した。
【0141】
各インクはノズルから噴出され、いかなる乾燥ステップもなしでビニルに十分に接着した。良好な耐水性も観察された。さらには、インクは、デバイス中にキャップなしで終夜放置することができ、一回の洗浄及び拭取りで良好なノズルの回復が確認された。
【0142】
表面改質顔料を含む溶媒系インク組成物は、サーマル発泡インクジェットプリントヘッドを使用して非多孔質基材上に印刷するための優れた候補であることが結論された。
【0143】
当然ながら、本発明は実施例のみで説明されたが、詳細部の改変は、添付の特許請求の範囲で規定された本発明の範囲内で実施できることは理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面改質顔料を含むサーマルインクジェットプリントヘッド用の溶媒系インク組成物。
【請求項2】
(a)10〜80質量%の式(A)の化合物
【化1】


[式中、Rは、C1〜6アルキルであり、
、R及びRのそれぞれは、独立に、H、C1〜6アルキル、ハロゲン、OH、及びC1〜6アルコキシから選択される]と、
(b)10〜80質量%のC1〜6アルコールと、
(c)0.01〜25質量%の表面改質顔料と、
を含む、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
が、C1〜6アルキルであり、
、R及びRのそれぞれが、Hである、請求項2に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記式(A)の化合物が、N−メチル−2−ピロリジノン又はN−エチル−2−ピロリジノンである、請求項2に記載のインク組成物。
【請求項5】
前記C1〜6アルコールが、エタノールである、請求項2に記載のインク組成物。
【請求項6】
前記顔料が、アニオン又はカチオン基で修飾された表面を有する、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項7】
前記表面が、カルボキシレート基又はスルホネート基で修飾されている、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項8】
0〜10質量%の界面活性剤又は分散剤を含む、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項9】
前記界面活性剤又は分散剤が、非イオン性である、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項10】
アクリレートポリマー又はコポリマーを含まない、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項11】
いかなるポリマーも含まない、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項12】
前記式(A)の化合物、前記C1〜6アルコール及び前記着色剤から本質的になる、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項13】
前記式(A)の化合物、前記C1〜6アルコール及び前記表面改質顔料のみからなる、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項14】
前記式(A)の化合物、前記C1〜6アルコール、前記表面改質顔料及び0.01〜10質量%の界面活性剤のみからなる、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項15】
サーマルインクジェットプリントヘッド用インクカートリッジであり、前記インクカートリッジは、請求項1に記載の溶媒系インク組成物を含む、インクカートリッジ。
【請求項16】
プリントヘッドカートリッジと一体化されたサーマルインクジェットプリントヘッドと、請求項1に記載のインク組成物を含むインク溜とを備えるプリントヘッドカートリッジ。
【請求項17】
請求項1に記載のインク組成物を配した基材。
【請求項18】
前記基材が準多孔質又は非多孔質基材である、請求項16に記載の基材。
【請求項19】
前記基材がビニル基材である、請求項16に記載の基材。
【請求項20】
(i)プリントヘッドの少なくとも1つのノズルチャンバにインクを供給するステップと、
(ii)中で泡を生成させるのに十分な温度までインクの一部を加熱するようにノズルチャンバ中のヒーターエレメントを作動させ、それによってノズルチャンバに付属したノズル開口部からインク滴を噴出させるステップと、
を含み、インクが、請求項1に記載の溶媒系インク組成物である、サーマルインクジェットプリントヘッドからインクを噴出させる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−503252(P2013−503252A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−527155(P2012−527155)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【国際出願番号】PCT/AU2009/001449
【国際公開番号】WO2011/029122
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(303024600)シルバーブルック リサーチ ピーティワイ リミテッド (150)
【Fターム(参考)】