説明

表面改質高分子物品及びその製造方法

【課題】 ε−ポリ−L−リジンを抗菌剤として用い、その効果が水との接触等により流失せずに持続する非水溶性の表面改質高分子物品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 非水溶性高分子からなる物品をε−ポリ−L−リジン水溶液に浸漬し、引き上げ、乾燥させて充分にポリリジンを付着させた後、付着面に水を噴霧して再び湿潤させ、しかる後、該付着面に放射線を照射して非水溶性高分子とε−ポリ−L−リジンとをグラフト反応によりグラフト結合させた表面改質高分子物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水溶性高分子からなる物品の表面にε−ポリ−L−リジンを付着させた後、付着面に放射線を照射して非水溶性高分子とε−ポリ−L−リジンとをグラフト反応によりグラフト結合させた表面改質高分子物品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康や食品安全に対する意識が高まり、より安全な食品保存料としてε−ポリ−L−リジンが高い評価を得ている。健康意識の高まりは、更に清潔志向へと広がり、抗菌製品として銀ゼオライト等の抗菌剤を添加したプラスチック製品等も出回っている。しかし、銀ゼオライトは高価であるため、安価で大量に販売されるプラスチック製品用としてより安価な抗菌剤が求められている。通常の食品保存料として用いられるε−ポリ−L−リジンは、微生物を用いて製造され(例えば、特許文献1参照)人体には影響を及ぼさず、優れた抗菌作用を示すが水溶性である。そのため、抗菌剤としてε−ポリ−L−リジンを塗布した製品は、ε−ポリ−L−リジンが水との接触等により流失して、抗菌性を失うという欠点があった。
【0003】
プラスチック製品等の表面から水溶性高分子の流失を防止する方法としては、架橋重合可能な高分子基材の表面に放射線を用いて水溶性高分子をグラフト重合する方法が考えられる。例えば、架橋重合可能で非水溶性の熱可塑性樹脂よりなる固体材料の表面の少なくとも一部に水溶性高分子をグラフト共重合させてなる潤滑特性の優れたグラフト共重合物が開示されている(例えば、特許文献2参照)。また、高分子成型体に電離放射線を作用させ、エポキシ基を含有する重合性単量体をグラフト重合した後、そのグラフト重合体の側鎖にポリアミン化合物を固定化する吸着剤の製造方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、ε−ポリ−L−リジンが放射線を用いて高分子基材の表面にグラフト重合可能か、また、得られるグラフト共重合物が抗菌性を有するのかは不明である。
【0004】
また、水への流出を防ぐために、化学結合剤を用いた非水溶性基材等への固定化方法が開示されている(例えば、特許文献4参照)。しかし、この場合、余分な反応残渣等の除去精製など、煩雑な後処理工程が必要となり、大幅なコストアップ要因となる。また、天然物のみの使用を求められる場合には、この方法は適さない。
従って、ε−ポリ−L−リジンの抗菌性等の性能を損なうことなく、安全な非水溶性基材に安全な方法で固定化する方法が望まれる。
【0005】
【特許文献1】特公昭59−20359号公報
【特許文献2】特開昭58−40323号公報
【特許文献3】特開平5−111637号公報
【特許文献4】特開2001−276611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ε−ポリ−L−リジンを抗菌剤として用い、その効果が水との接触等により流失せずに持続する非水溶性の表面改質高分子物品及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究した。その結果、非水溶性高分子からなる物品をε−ポリ−L−リジン水溶液に浸漬し、引き上げ、乾燥させて充分にポリリジンを付着させた後、付着面に水を噴霧して再び湿潤させ、しかる後、該付着面に放射線を照射して非水溶性高分子とε−ポリ−L−リジンとをグラフト反応によりグラフト結合させた表面改質高分子物品によって前記課題が解決されることを知り、この知見に基づいて本発明を完成した。
【0008】
本発明は以下によって構成される。
(1)非水溶性高分子からなる物品の表面にε−ポリ−L−リジンを付着させた後、付着面に放射線を照射して非水溶性高分子とε−ポリ−L−リジンとをグラフト反応によりグラフト結合させた表面改質高分子物品。
(2)非水溶性高分子からなる物品がセルロース製品、絹繊維製品、または綿繊維製品である(1)項記載の表面改質高分子物品。
(3)セルロース製品が濾紙である(2)項記載の表面改質高分子物品。
(4)セルロース製品がセルロース粒子である(2)項記載の表面改質高分子物品。
(5)非水溶性高分子からなる物品が熱可塑性樹脂製不織布である(1)項記載の表面改質高分子物品。
(6)非水溶性高分子からなる物品が熱可塑性樹脂製多孔フィルムである(1)項記載の表面改質高分子物品。
(7)非水溶性高分子からなる物品が熱可塑性樹脂製多孔粒子である(1)項記載の表面改質高分子物品。
(8)放射線が電子線である(1)〜(7)項のいずれか1項記載の表面改質高分子物品。
(9)非水溶性高分子からなる物品をε−ポリ−L−リジン水溶液に浸漬し、引き上げ、乾燥させて充分にポリリジンを付着させた後、付着面に水を噴霧して再び湿潤させ、しかる後、該付着面に放射線を照射して非水溶性高分子とε−ポリ−L−リジンとをグラフト反応によりグラフト結合させることを特徴とする表面改質高分子物品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明において高分子物品とは高分子からなる物品である。本発明の表面改質高分子物品では、ε−ポリ−L−リジンは、非水溶性高分子に強固にグラフト結合しているため、水との接触等により流失しにくく抗菌持続性に優れている。また、ε−ポリ−L−リジンは酸と塩を形成するので、該表面改質高分子物品は酸の吸着除去効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態を説明する。
本発明のグラフト共重合高分子物品に用いられる高分子は、非水溶性の高分子であれば特に制限はされず、セルロース、フィブロイン(絹)等の天然高分子、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等)、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂である合成高分子が例示される。
【0011】
本発明における高分子物品としては、特に限定はされないが、天然高分子のセルロースからなる濾紙、セルロース粒子、綿繊維製品、フィブロインからなる絹繊維製品、熱可塑性樹脂からなる不織布、多孔フィルム、多孔粒子が例示される。
【0012】
本発明に用いられるε−ポリ−L−リジン(以下、ポリリジンという)については特に制限はなく、微生物を用いる製造法、化学合成法等、いかなる製造法によるものでもよいが、微生物を用いて製造されるもの、例えば、特公昭59−20359号公報に記載されたポリリジンの製造法によって得られるもの、すなわち、ストレプトマイセス属に属するポリリジン生産菌であるストレプトマイセス・リジノポリメラス・サブスピーシーズ・リジノポリメラス(Streptomyces albulus subsp. Lysinopolymerus)を培地に培養し、得られる培養物からポリリジンを分離、採取することによって得られたものが好ましい。ポリリジンは市販品を利用してもよい。
【0013】
本発明において、非水溶性高分子の物品の表面に放射線を用いてポリリジンをグラフト重合する。放射線としては、α線、β線、γ線、電子線、中性子線、X線、荷電粒子線等が挙げられるが、安全性及び利便性の観点からの電子線が好適である。
【0014】
本発明において、非水溶性高分子の物品の表面に電子線を用いてポリリジンをグラフト重合する手順について述べる。
先ず、ポリリジンをグラフト重合する該物品の表面(全表面でも一部でもよい)をポリリジン水溶液中に浸漬した後、引き上げ、乾燥させて充分にポリリジンを付着させた後、付着面を水を噴霧して再び湿潤させ、しかる後、該付着面に電子線を照射して、該物品の表面(全表面または一部)にポリリジンをグラフト結合させて、表面改質高分子物品を得る。
【0015】
また、非水溶性高分子の種類によっては、先ず、ポリリジンで表面改質する物品の表面(全表面でも一部でもよい)に、前処理となる予備照射を行っても良い。
【0016】
本発明において、照射する放射線量は、放射線の種類にもよるが、好ましくは50〜1200kGy、より好ましくは150〜800kGyである。
【実施例】
【0017】
以下、実施例及び比較例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるべきものではない。尚、実施例、比較例で用いられた表面改質高分子物品の性能評価法は次の通りである。
【0018】
抗菌性試験
実施例及び比較例で得られた濾紙または不織布サンプルから作成した試験片(50×50mm)を用い、下記の抗菌性試験方法にて抗菌効果試験を実施した。微生物検出培地として「サニ太くん」(登録商標、チッソ(株)製)を用いて抗菌性評価を行なった。
不織布検出培地に10 cfu/mlとなるBacillus natto(市販納豆菌)を添加し、その上にポリリジンをグラフトした5mm角の試料布片を載せるか、またはその上にポリリジンをグラフトした試料微粒子10mgを5mm角に散布して、それらの上にカバーをかぶせ35℃で48時間培養後、発色状態を観察した。
観察結果を次の基準で判定した。
++:試料片の下は発色せず,周囲にも発色しない領域(ハロー効果)が認められ、抗菌効果が顕著である。
+ :試料片の下は発色しない状態であり、抗菌効果が十分である。
± :試料片の下に一部発色領域が認められ、抗菌効果は僅かである。
− :試料片の下も周囲と同様に発色し,周囲と区別がつかない状態であり、抗菌効果はない。
【0019】
実施例1
非水溶性高分子の物品として直径18.5cm、面積268.7cmの円形の濾紙(商品名:No.5C、アドバンテック製)を使用した。重量は3.18gであった。この濾紙を、25%ポリリジン水溶液(ポリリジンの重量平均分子量:約4,000、チッソ(株)製)に20秒浸漬した後、取り出して20℃で2時間風乾し、更に60℃で4時間送風乾燥機中で乾燥した。乾燥後の濾紙の重量を測定した。3.41gであった。ポリリジン水溶液浸漬前後の重量差から、ポリリジン付着量0.23gを算出した。
このポリリジン付着濾紙に約2gの精製水を噴霧した後、電子線照射装置(イワサキ電気(株)製)内を搬送速度1.0m/minで通過させ、電子線量200kGy の照射を行った。照射後のポリリジン付着濾紙を精製水1000mLの入った容器中で8時間攪拌洗浄した。その際、30分毎に水を入れ替えた。その後、取り出して20℃で2時間風乾し、更に60℃で4時間送風乾燥機中で乾燥し乾燥後の濾紙の重量を測定した。3.37gであった。この重量と当初の濾紙重量との重量差から、ポリリジンのグラフト量0.19gを算出した。これは7.1g/mに相当する。また、元の濾紙重量に対するグラフトされたポリリジンの重量の割合であるポリリジングラフト率は、6.0重量%であり、付着ポリリジン重量に対するグラフトされたポリリジンの重量の割合であるポリリジングラフト効率は、82.6%であった。得られた表面改質濾紙の性能を前述の方法で評価した。性能評価結果等を表1に示した。
【0020】
実施例2
非水溶性高分子の物品として実施例1と同じメーカーの同一商品名の濾紙を使用した。但し、濾紙の重量は3.15gであった。この濾紙を用い、実施例1記載のポリリジン水溶液への浸漬時間を60秒に延長し、続いて乾燥させる工程を3回繰り返した。ポリリジンの付着量は2.60gと算出された。
このポリリジン付着濾紙に対して実施例1と同様に電子線照射を行なった。実施例1と同様に洗浄、乾燥後の重量は4.38gであり、濾紙へのポリリジングラフト量は1.23gと算出された。これは45.8g/mに相当する。また、元の濾紙重量に対するグラフトされたポリリジンの重量の割合であるポリリジングラフト率は、39.0重量%であり、付着ポリリジン重量に対するグラフトされたポリリジンの重量の割合であるポリリジングラフト効率は、47.3%であった。得られた表面改質濾紙の性能を前述の方法で評価した。性能評価結果等を表1に示した。
【0021】
実施例3
非水溶性高分子の物品として実施例1と同じメーカーの同一商品名の濾紙を使用した。但し、濾紙の重量は3.03gであった。この濾紙を用い、実施例2と同様にポリリジン水溶液への浸漬及び乾燥の工程を3回繰り返した。ポリリジンの付着量は2.76gと算出された。
このポリリジン付着濾紙に対して実施例1と同様に電子線照射を行なった。但し、電子線照射量は、2回繰り返し、400kGy とした。実施例1と同様に洗浄、乾燥後の重量は4.72gであり、濾紙へのポリリジングラフト量は1.69gと算出された。これは62.9g/mに相当する。また、元の濾紙重量に対するグラフトされたポリリジンの重量の割合であるポリリジングラフト率は、55.8重量%であり、付着ポリリジン重量に対するグラフトされたポリリジンの重量の割合であるポリリジングラフト効率は、61.2%であった。得られた表面改質濾紙の性能を前述の方法で評価した。性能評価結果等を表1に示した。
【0022】
実施例4
非水溶性高分子の物品として実施例1と同じメーカーの同一商品名の濾紙を使用した。但し、濾紙の重量は3.14gであった。この濾紙を用い、実施例3記載のポリリジン水溶液への浸漬及び乾燥の工程を3回繰り返した。ポリリジンの付着量は2.51gと算出された。
このポリリジン付着濾紙に対して実施例1と同様に電子線照射を行なった。但し、電子線照射量は、4回繰り返し、800kGy とした。実施例1と同様に洗浄、乾燥後の重量は5.15gであり、濾紙へのグラフト量は2.01gと算出された。これは74.8g/mに相当する。また、元の濾紙重量に対するグラフトされたポリリジンの重量の割合であるグラフト率は、64.0重量%であり、付着ポリリジン重量に対するグラフトされたポリリジンの重量の割合であるグラフト効率は、80.0%であった。得られた表面改質濾紙の性能を前述の方法で評価した。性能評価結果等を表1に示した。
【0023】
実施例5
非水溶性高分子の物品として24×40cmで面積960cmの長方形の不織布(商品名:インタック、ポリオレフィン樹脂製不織布、チッソポリプロ繊維(株)製)を使用した。重量は3.10gであった。この不織布を、実施例1と同様にポリリジン水溶液に浸漬し乾燥した。但し、浸漬時間は60秒とした。ポリリジンの付着量は0.34gと算出された。
このポリリジン付着不織布に対して実施例1と同様に電子線照射を行なった。実施例1と同様に洗浄、乾燥後の重量は3.33gであり、不織布へのポリリジングラフト量は0.23gと算出された。これは2.4g/mに相当する。また、元の不織布重量に対するグラフトされたポリリジンの重量の割合であるポリリジングラフト率は、7.4重量%であり、付着ポリリジン重量に対するグラフトされたポリリジンの重量の割合であるポリリジングラフト効率は、67.6%であった。得られた表面改質不織布の性能を前述の方法で評価した。性能評価結果等を表1に示した。
【0024】
実施例6
非水溶性高分子の物品として実施例5と同一寸法で同一商品名の長方形の不織布を使用した。不織布の重量は3.13gであった。この不織布を用い、実施例5記載のポリリジン水溶液への浸漬及び乾燥の工程を2回繰り返した。ポリリジンの付着量は0.49gと算出された。
このポリリジン付着不織布に対して実施例3と同様に400kGy の電子線照射を行なった。実施例1と同様に洗浄、乾燥後の重量は3.54gであり、不織布へのグラフト量は0.41gと算出された。これは4.3g/mに相当する。また、元の不織布重量に対するグラフトされたポリリジンの重量の割合であるグラフト率は、13.1重量%であり、付着ポリリジン重量に対するグラフトされたポリリジンの重量の割合であるグラフト効率は、83.7%であった。得られた表面改質不織布の性能を前述の方法で評価した。性能評価結果等を表1に示した。
【0025】
実施例7
非水溶性高分子の物品として5×7cmで面積35cmの長方形の絹布帛(羽二重6匁、(株)色染社製)を使用した。重量は0.071gであった。この絹布帛を、実施例1と同様にポリリジン水溶液に浸漬し乾燥した。但し、浸漬時間は60秒とした。ポリリジンの付着量は0.010gと算出された。
このポリリジン付着絹布帛に対して実施例6と同様に400kGy の電子線照射を行なった。実施例1と同様に洗浄、乾燥後の重量は0.076gであり、絹布帛へのポリリジングラフト量は0.005gと算出された。これは1.4g/mに相当する。また、元の絹布帛重量に対するグラフトされたポリリジンの重量の割合であるポリリジングラフト率は、7.0重量%であり、付着ポリリジン重量に対するグラフトされたポリリジンの重量の割合であるポリリジングラフト効率は、50.0%であった。得られた表面改質絹布帛の性能を前述の方法で評価した。性能評価結果等を表1に示した。
【0026】
実施例8
非水溶性高分子の物品として実施例7と同一寸法で同一商品名の長方形の絹布帛を使用した。但し、重量は0.073gであった。この絹布帛を用い、実施例7記載のポリリジン水溶液への浸漬及び乾燥の工程を2回繰り返した。ポリリジンの付着量は0.028gと算出された。
このポリリジン付着絹布帛に対して実施例4と同様に800kGy の電子線照射を行なった。実施例1と同様に洗浄、乾燥後の重量は0.097gであり、絹布帛へのグラフト量は0.024gと算出された。これは6.9g/mに相当する。また、元の絹布帛重量に対するグラフトされたポリリジンの重量の割合であるグラフト率は、32.9重量%であり、付着ポリリジン重量に対するグラフトされたポリリジンの重量の割合であるグラフト効率は、85.7%であった。得られた表面改質絹布帛の性能を前述の方法で評価した。性能評価結果等を表1に示した。
【0027】
実施例9
非水溶性高分子の物品として5×7cmで面積35cmの長方形の綿布帛(ブロードシ
ル付、(株)色染社製)を使用した。重量は0.385gであった。この綿布帛を、実施例
7と同様にポリリジン水溶液に浸漬し乾燥した。ポリリジンの付着量は0.060gと算出
された。
このポリリジン付着綿布帛に対して実施例7と同様に400kGy の電子線照射を行なった。実施例1と同様に洗浄、乾燥後の重量は0.414gであり、綿布帛へのポリリジングラフト量は0.029gと算出された。これは8.3g/mに相当する。また、元の綿布帛重量に対するグラフトされたポリリジンの重量の割合であるポリリジングラフト率は、7.5重量%であり、付着ポリリジン重量に対するグラフトされたポリリジンの重量の割合であるポリリジングラフト効率は、48.3%であった。得られた表面改質綿布帛の性能を前述の方法で評価した。性能評価結果等を表1に示した。
【0028】
実施例10
非水溶性高分子の物品として実施例9と同一寸法で同一商品名の長方形の綿布帛を使用し
た。但し、重量は0.386gであった。この綿布帛を、実施例7と同様にポリリジン水溶
液に浸漬し乾燥した。ポリリジンの付着量は0.051gと算出された。
このポリリジン付着綿布帛に対して実施例8と同様に800kGy の電子線照射を行なった。実施例1と同様に洗浄、乾燥後の重量は0.425gであり、綿布帛へのポリリジングラフト量は0.039gと算出された。これは11.1g/mに相当する。また、元の綿布帛重量に対するグラフトされたポリリジンの重量の割合であるポリリジングラフト率は、10.1重量%であり、付着ポリリジン重量に対するグラフトされたポリリジンの重量の割合であるポリリジングラフト効率は、76.5%であった。得られた表面改質綿布帛の性能を前述の方法で評価した。性能評価結果等を表1に示した。
【0029】
実施例11
非水溶性高分子の物品としてセルロース多孔質微粒子(平均粒径8−10μm、商品名:セルフローC−25、チッソ(株)製)を使用した。約2gとなるように分取したところ、重量は2.022gであった。この微粒子を、25%ポリリジン水溶液に60秒浸漬した後、濾過して実施例1と同様に乾燥した。ポリリジンの付着量は1.032gと算出された。
このポリリジン付着微粒子を90mm径のシャーレに広げ、精製水を約2g噴霧して湿らせた後、実施例1と同様に電子線照射を行なった。照射後のポリリジン付着微粒子を精製水1000mLの入った容器中で8時間攪拌洗浄した。その際、30分毎に攪拌を止め粒子を沈降させて上澄みを入れ替えた。その後、取り出して20℃で2時間風乾し、更に60℃で4時間送風乾燥機中で乾燥し乾燥後の微粒子の重量を測定した。洗浄、乾燥後の重量は2.246gであり、微粒子へのポリリジングラフト量は0.224gと算出された。元の微粒子重量に対するグラフトされたポリリジンの重量の割合であるポリリジングラフト率は、11.1重量%であり、付着ポリリジン重量に対するグラフトされたポリリジンの重量の割合であるポリリジングラフト効率は、21.7%であった。得られた表面改質微粒子の性能を前述の方法で評価した。性能評価結果等を表1に示した。
【0030】
実施例12
非水溶性高分子の物品として実施例11と同一商品名のセルロース多孔質微粒子を使用し
た。但し、重量は2.044gであった。この微粒子を、実施例11と同様にポリリジン水
溶液に浸漬、乾燥した。ポリリジンの付着量は0.979gと算出された。
このポリリジン付着微粒子を、電子線照射量を400kGy にした以外は実施例11と同様に電子線照射を行なった。照射後のポリリジン付着微粒子を実施例11と同様に洗浄、乾燥した。洗浄、乾燥後の重量は2.445gであり、微粒子へのポリリジングラフト量は0.401gと算出された。元の微粒子重量に対するグラフトされたポリリジンの重量の割合であるポリリジングラフト率は、19.6重量%であり、付着ポリリジン重量に対するグラフトされたポリリジンの重量の割合であるポリリジングラフト効率は、41.0%であった。得られた表面改質微粒子の性能を前述の方法で評価した。性能評価結果等を表1に示した。
【0031】
比較例1
非水溶性高分子の物品として実施例1と同じメーカーの同一商品名の濾紙を使用した。但し、濾紙の重量は3.16gであった。この濾紙を用い、実施例2と同様にポリリジン水溶液に浸漬し乾燥した。ポリリジンの付着量は2.05gと算出された。このポリリジン付着濾紙を電子線照射せずに、精製水1000mLの入った容器中で8時間攪拌洗浄した。その際、30分毎に水を入れ替えた。その後、取り出して20℃で2時間風乾し、更に60℃で4時間送風乾燥機中で乾燥し乾燥後の濾紙の重量を測定した。3.18gであった。この濾紙の性能を前述の方法で評価した。性能評価結果等を表2に示した。
【0032】
比較例2
非水溶性高分子の物品として実施例5と同じ寸法で、同一メーカーの同一商品名の不織布を使用した。但し、不織布の重量は3.12gであった。この不織布を用い、実施例5と同様にポリリジン水溶液に浸漬し乾燥した。ポリリジンの付着量は0.32gと算出された。
このポリリジン付着不織布を電子線照射せずに、比較例1と同様に精製水で洗浄、その後乾燥した。しかし、不織布の繊維間にポリリジンが微量残存していた。乾燥後の重量は3.13gであった。この不織布の性能を前述の方法で評価した。性能評価結果等を表2に示した。
【0033】
比較例3
非水溶性高分子の物品として実施例7と同じ寸法で、同一メーカーの同一商品名の絹布帛を使用した。但し、重量は0.071gであった。この絹布帛を用い、実施例5と同様にポリリジン水溶液に浸漬し乾燥した。ポリリジンの付着量は0.014gと算出された。
このポリリジン付着絹布帛を電子線照射せずに、比較例1と同様に精製水で洗浄、その後乾燥した。乾燥後の重量は0.072gであった。この数値は重量測定誤差範囲内と考えられる。この絹布帛の性能を前述の方法で評価した。性能評価結果等を表2に示した。
【0034】
比較例4
非水溶性高分子の物品として実施例9と同じ寸法で、同一メーカーの同一商品名の綿布帛を使用した。但し、重量は0.385gであった。この綿布帛を用い、実施例5と同様にポリリジン水溶液に浸漬し乾燥した。ポリリジンの付着量は0.046gと算出された。
このポリリジン付着綿布帛を電子線照射せずに、比較例1と同様に精製水で洗浄、その後乾燥した。乾燥後の重量は0.386gであった。この数値は重量測定誤差範囲内と考えられる。この綿布帛の性能を前述の方法で評価した。性能評価結果等を表2に示した。
【0035】
比較例5
非水溶性高分子の物品として実施例11と同一商品名のセルロース多孔質微粒子を使用した。但し、重量は2.004gであった。この微粒子を用い、実施例11と同様にポリリジン水溶液に浸漬し乾燥した。ポリリジンの付着量は1.024gと算出された。
このポリリジン付着微粒子を電子線照射せずに、実施例11と同様に精製水で洗浄、その後乾燥した。しかし、微粒子の多孔部分にポリリジンが微量残存していた。乾燥後の重量は2.054gであった。この微粒子の性能を前述の方法で評価した。性能評価結果等を表2に示した。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0038】
抗菌性保存容器、抗菌性包装材料、抗菌性衣料等の用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶性高分子からなる物品の表面にε−ポリ−L−リジンを付着させた後、付着面に放射線を照射して非水溶性高分子とε−ポリ−L−リジンとをグラフト反応によりグラフト結合させた表面改質高分子物品。
【請求項2】
非水溶性高分子からなる物品がセルロース製品、絹繊維製品、または綿繊維製品である請求項1記載の表面改質高分子物品。
【請求項3】
セルロース製品が濾紙である請求項2記載の表面改質高分子物品。
【請求項4】
セルロース製品がセルロース粒子である請求項2記載の表面改質高分子物品。
【請求項5】
非水溶性高分子からなる物品が熱可塑性樹脂製不織布である請求項1記載の表面改質高分子物品。
【請求項6】
非水溶性高分子からなる物品が熱可塑性樹脂製多孔フィルムである請求項1記載の表面改質高分子物品。
【請求項7】
非水溶性高分子からなる物品が熱可塑性樹脂製多孔粒子である請求項1記載の表面改質高分子物品。
【請求項8】
放射線が電子線である請求項1〜6のいずれか1項記載の表面改質高分子物品。
【請求項9】
非水溶性高分子からなる物品をε−ポリ−L−リジン水溶液に浸漬し、引き上げ、乾燥させて充分にポリリジンを付着させた後、付着面に水を噴霧して再び湿潤させ、しかる後、該付着面に放射線を照射して非水溶性高分子とε−ポリ−L−リジンとをグラフト反応によりグラフト結合させることを特徴とする表面改質高分子物品の製造方法。

【公開番号】特開2008−303287(P2008−303287A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−151355(P2007−151355)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】