説明

表面改質NSAIDナノ粒子

【課題】胃刺激性低減を示すことができ、および/または早期作用開始を示すNSAID製剤を提供する。
【解決手段】NSAIDの表面に約400nm未満の平均粒径を維持するのに十分な量の表面改質剤を吸着させた結晶NSAIDから実質的に構成される分散可能な粒子。経口投与後の胃刺激の低減、および/または早期作用開始を示す粒子を含む医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は、最も良く常用されかつ治療的に有効な薬剤群の1つである。しかしながら、胃腸刺激問題は、NSAID の経口投与後の頻繁に認められる重篤な副作用の要因である。そのような副作用が認められることは多く、薬剤の臨床効力に対して重要視されるべきである。
【0002】
これらの作用の原因の根源であるメカニズムを理解しようとする試みから、多数の研究が行われてきた。例えば、Cioli 他,Tox. and Appl. Pharm., 50, 283-289 (1979) (非特許文献1)は、酸性NSAID 類の経口投与によって得られた実験動物の胃腸障害が、胃粘膜との接触による局所作用および経口投与後に起こる全身化/中心媒介(全身性)作用という、2つの異なるメカニズムに依存する可能性があることを示唆している。
【0003】
最近では、Price 他,Druges 40 (Suppl. 5) : 1-11, 1990,(非特許文献2)に、NSAID 誘発胃障害が、NSAID 誘導直接的および間接的酸性障害に続いてほぼ同時に生じるプロスタグランジン阻害という有害な全身性作用の結果として起こることが示唆されている。
【0004】
NSAID 誘発胃障害の治療技術において、種々の戦略が用いられてきた。これらとしては、1)毒性の低いNSAID 類の開発および使用;
2)実際に障害を引き起こす薬剤の低減もしくは排除;ならびに
3)粘膜防御の増強;が挙げられる。しかしながら、これらの試みが完全な成功を治めたと証明されている訳ではない。
【0005】
例えば、過酷な炎症疾患を患う患者は、これらの薬剤の使用を中止することがほとんどできないので、胃障害を防ぐための最も有効な手段、すなわち、主な病因薬剤を排除することが、NSAID 類に関して可能であることは稀である。低毒性NSAID 類の選択が有用であることを証明すべきであるとはいえ、現在の実際的な解決手段はNSAID 誘発胃障害を治療することである。NSAID 胃障害を防ぐ際にミソプロストール(Misoprostol)(メチル化プロスタグランジンE)を使用することがFDA により承認されてきた。しかしながら、ミソプロストールは高価であり、毎日複数回投与しなければならず、そして受け入れられない副作用を引き起こす可能性がある。
【0006】
従って、胃刺激性低減を示すことのできるNSAID 製剤を提供することが強く所望されるだろう。さらに、早期作用開始を示すNSAID製剤を提供することが望まれるだろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Cioli 他,Tox. and Appl. Pharm., 50, 283-289 (1979)
【非特許文献2】Price 他,Druges 40 (Suppl. 5) : 1-11, 1990
【発明の概要】
【0008】
発明の要約
本発明者らは、表面改質NSAID ナノ粒子を含む医薬組成物が、経口投与の後の胃刺激性低減および/またはより迅速な作用開始を示すことを発見した。
より詳細には、本発明に従えば、NSAID の表面に約 400nm未満の平均粒径を維持するのに十分な量の表面改質剤を吸着させたNSAIDから実質的に構成される粒子が提供される。
【0009】
さらに、本発明は、前記粒子および医薬的に許容されるキャリヤーを含んでなる医薬組成物を提供する。
【0010】
本発明の別の態様では、前記医薬組成物を哺乳動物に投与することを含んでなる、哺乳動物の治療方法が提供される。
【0011】
また別の態様では、NSAID を液状分散媒に分散させ、そして硬質粉砕媒体の存在下、その媒体のpHを2〜6の範囲内に維持しながらNSAID を湿式粉砕する工程を含んでなる、前記粒子の製造方法が提供される。
【0012】
本発明の更なる態様では、前記医薬組成物を哺乳動物に投与することを含む、胃刺激を低減する方法および/または作用開始を早める方法が提供される。
【0013】
経口投与後の胃刺激の低減を示すNSAID を含む医薬組成物を提供することが、本発明の有利な特徴である。
早期作用開始を示す医薬組成物を提供することが、本発明の別の有利な特徴である。
別の有利な特徴が、以下の好ましい態様の説明に基づいて容易に明らかになるであろう。
【0014】
好ましい態様の説明
本発明は、NSAID 、例えば、ナプロキセン(naproxen) を含む表面改質ナノ粒子が、経口投与後の胃刺激の低減および/またはより迅速な作用開始を具体的に示すという発見に部分的に基づいている。本発明が、その好ましい薬剤クラス、すなわち、NSAID 類に関して主に本明細書中に記載されているとはいえ、また別のクラスの薬物、例えば、抗生物質類、キノロン類、抗脂血薬類および造影剤類(roentgenographics)に関しても有用である。
【0015】
本発明の粒子は、NSAID を含んでなる。NSAID は離散結晶相として存在する。結晶相は、従来の溶剤沈殿技法、例えば、米国特許第 4,826,689号明細書に記載の技法により得られる非晶相もしくは非結晶相とは異なる。NSAID は、1つ以上の適する結晶相で存在できる。
【0016】
本発明は、多種多様なNSAID を用いて実施できる。しかしながら、NSAID は、不良溶解性(poorly soluble) であり、そして少なくとも1つの液状媒体に分散性でなければならない。「不良溶解性」とは、NSAID が有する液状分散媒、例えば、水への溶解度が、処理温度、例えば、室温で約10mg/mL 未満であり、そして好ましくは約1mg/mL 未満であることを意味する。好ましい液状分散媒は水である。しかしながら、本発明は、例えば、水性塩溶液類、サフラワー油(紅花油)ならびに溶剤類、例えば、エタノール、t−ブタノール、ヘキサンおよびグリコールを包含する、NSAID が不良溶解性でありかつ分散性である別の液状媒を用いて実施できる。水性分散媒のpHは、当該技術分野で既知の方法により調整できる。
【0017】
本発明の実施に際して有用なNSAID 類は、適当な酸性および非酸性化合物から選択できる。適当な酸性化合物としては、カルボン酸およびエノール酸が挙げられる。適当な非酸性化合物としては、例えば、ナブメトン(nabumetone)、チアラミド(tiaramide )、プロカゾン(proquazone)、ブフェキサマック(bufexamac )、フルミゾール(flumizole )、エピラゾール(epirazole )、チノリジン(tinoridine)、チメガジン(timegadine)およびダプソン(dapsone )が挙げられる。
【0018】
適当なカルボン酸NSAID 類としては、例えば、サリチル酸類およびそのエステル類、例えば、アスピリン(aspirin )、ジフルニサール(diflunisal)、ベノリレート(benorylate)およびホスホサール(fosfosal);フェニル酢酸類、例えば、ジクロフェナック(diclofenac)、アルクロフェナック(alclofenac)およびフェンクロフェナック(fenclofenac )ならびに炭素環式および複素環式酢酸類、例えば、エトドラック(etodolac)、インドメタシン(indomethacin)、スリンダック(sulindac)、トルメチン(tolmetin)、フェンチアザック(fentiazac )およびチロミソール(tilomisole)を包含する酢酸類;プロピオン酸類、例えば、カルプロフェン(carprofen )、フェンブフェン(fenbufen)、フルラビプロフェン(flurbiprofen)、ケトプロフェン(ketoprofen)、オキサプロジン(oxaprozin )、スプロフェン(suprofen)、チアプロフェン酸(tiaprofenic acid)、イブプロフェン(ibuprofen)、ナプロキセン(naproxen)、フェノプロフェン(fenoprofen)、インドプロフェン(indoprofen)、ピラプロフェン(pirprofen );ならびにフェナム酸類、例えば、フルフェナム酸(flufenamic)、メフェナム酸(mefenamic )、メクロフェナム酸(meclofenamic)およびニフラム酸(niflumic)が挙げられる。
【0019】
適当なエノール酸NSAID 類としては、例えば、ピラゾロン類、例えば、オキシフェンブタゾン(oxyphenbutazone )、フェニルブタゾン(phenylbutazone)、アパゾン(apazone )およびフェプラゾン(feprazone )、ならびにオキシカム類、例えば、ピロキシカム(piroxicam )、スドキシカム(sudoxicam )、イソキシカム(isoxicam)およびテノキシカム(tenoxicam )が挙げられる。
【0020】
前記NSAID 類は、既知化合物であり、当該技術分野で既知の方法により調製できる。
【0021】
本発明の特に好ましい態様では、NSAID はナプロキセン、インドメタシンもしくはイブプロフェンである。
【0022】
本発明の粒子は、NSAID の表面上に表面改質剤を吸着させた前記NSAID を含む。有用な表面改質剤としては、NSAID に化学結合しないがNSAID の表面に物理的に付着するものを包含すると考えられている。
【0023】
好ましくは、適当な表面改質剤が既知有機および無機薬用賦形剤から選択できる。そのような賦形剤としては、種々のポリマー類、低分子量オリゴマー類、天然物および界面活性剤類が挙げられる。好ましい表面改質剤としては、非イオンおよびアニオン界面活性剤が挙げられる。賦形剤の代表例としては、ゼラチン、カゼイン、レシチン(ホスファチド類)、アラビアゴム、コレステロール、トラガント、ステアリン酸、塩化ベンザルコニウム、ステアリン酸カルシウム、モノステアリン酸グリセリル、セトステアリルアルコール、セトマクロゴール乳化性ろう、ソルビタンエステル類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、例えば、マクロゴールエーテル類、例えば、セトマクロゴール1000、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、例えば、市販のトゥイーン(Tween,商標)類、ポリエチレングリコール類、ステアリン酸ポリオキシエチレン類、コロイド二酸化珪素、ホスフェート類、ドデシル硫酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、非晶質セルロース、珪酸マグネシウムアルミニウム、トリエタノールアミン、ポリビニルアルコール(PVA)、ならびにポリビニルピロリドン(PVP)が挙げられる。これらの賦形剤の大部分は、米国医薬品協会(Americam Pharmaceutical Association)および英国の医薬品協会(The Pharmaceutical Society of Great Britain)が共同出版したHand book of Pharmaceutical Excipients(Pharmaceutical Press,1986)に詳しく記載されている。表面改質剤は、市販のものであるか、および/または当該技術分野で周知の技法により調製できる。2つ以上の表面改質剤を組み合わせて使用できる。
【0024】
特に好ましい表面改質剤としては、ポリビニルピロリドン、チロキサポール、Pluronic(商標)F68 及びF108のようなBASFから市販されている酸化エチレンと酸化プロピレンとのブロックコポリマーであるポロクサマー類、Tetronic(商標)908 のようなBASFから市販されている酸化エチレンと酸化プロピレンとをエチレンジアミンへ逐次付加して誘導される四官能性ブロックコポリマーであるポロクサミン類、デキストラン、レシチン、American Cyanamid から市販されているスルホコハク酸ナトリウムのジオクチルエステルであるAerosol OT(商標)、DuPontから市販されているラウリル硫酸ナトリウムであるDuponol (商標)P 、Rohm and Haas から市販されているアルキルアリールポリエーテルスルホネートであるTriton(商標)X-200 、ICI Speciality Chemicalsから市販されているポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルであるTween 20およびTween 80、Union Carbide から市販されているポリエチレングリコールであるCarbowax(商標)3350および934 、Corda Inc.から市販されているステアリン酸スクロースおよびジステアリン酸スクロースの混合物であるCrodesta(商標)F-110 、Corda Inc.から市販されているCrodesta SL-40、ならびにC18H37CH2(CON(CH3)CH2(CHOH)4CH2OH)2 であるSA90HCO が挙げられる。特に有用であることがわかっている表面改質剤には、ポリビニルピロリドン、Pluronic F-68 およびレシチンが挙げられる。
【0025】
表面改質剤は、NSAID の表面に約 400nm未満の有効平均粒径を維持するのに十分な量を吸着させる。表面改質剤は、NSAID もしくはそれ自身と化学的に反応しない。さらに、表面改質剤を個々に吸着させた分子は、実質的に分子間架橋結合を含まない。
【0026】
本明細書で用いられているように、粒径とは、当業者らによく知られている従来の粒径測定技法、例えば、沈降フィールドフローフラクショネーション、光子相関分光光度法もしくはディスク遠心分離法によって測定した数平均粒子径を称する。「約 400nm未満の平均有効粒径」とは、上記の技法によって測定した場合に粒子の少なくとも90%が約 400nm未満の数平均粒径を示すことを意味する。本発明の好ましい態様では、有効平均粒径が約 300nm未満である。有効平均粒径に関しては、好ましくは少なくとも95%、そしてより好ましくは少なくとも99%の粒子が、有効平均粒径、例えば、 400nm未満の粒径を示す。特に好ましい態様では、本質的にすべての粒子が 400nm未満の粒径を示す。
【0027】
本発明の粒子は、NSAID を液状分散媒に分散させる工程、そして粉砕媒体の存在下において機械的手段により、NSAID の粒径を平均有効粒径約 400nm未満へ低減させる工程を含んでなる方法で製造できる。粒子は、表面改質剤の存在下で粒径を低減できる。あるいは、磨砕の後に、粒子を表面改質剤と接触させることができる。
【0028】
本発明の粒子の一般的な製造方法は、下記のとおりである。選定されたNSAID は市販されているか、および/または従来の粗大形態において当該技術分野で既知の技法により製造することができる。必須ではないが、選定された粗NSAID の粒径が、篩分け(sieve)分析で測定したものとして約 100μm未満であることが好ましい。
NSAID の粗粒径が約 100μmを越える場合には、次いでNSAID の粒径を従来のミル方法、例えば、エアージェットもしくは破砕ミルを用いて 100μm未満に低減することが好ましい。
【0029】
次いで選定された粗NSAID を、それが本質的に不溶性である液状媒体に添加してプレミックスを形成できる。液状分散媒中のNSAIDの濃度は、約 0.1〜60%に変化できるが、好ましくは5〜30(w/w)%である。必須ではないが、表面改質剤がプレミックス中に存在することが好ましい。表面改質剤の濃度は、薬物および表面改質剤を合わせた総重量に基づいて、約 0.1〜約90重量%に変化できるが、好ましくは1〜75重量%、より好ましくは20〜60重量%である。プレミックス懸濁液の見掛粘度は、好ましくは約1000センチポアズである。
【0030】
プレミックスを直接使用して、機械的手段により分散体の平均粒径を 400nm未満に低減することができる。磨砕にボールミルを使用する場合には、プレミックスを直接使用することが好ましい。あるいは、適当な攪拌手段、例えば、ロールミルもしくはCowles型ミキサーを用いて、肉眼で見える大きな凝集体が存在しない均質な分散体が得られるまで、NSAID および任意の表面改質剤を、液状媒体に分散することができる。磨砕に再循環媒体ミルを使用する場合には、プレミックスをそのような予備微粉砕分散工程にかけることが好ましい。
【0031】
NSAID の粒径を低減するのに適用される機械的手段は、分散ミルの形態であってもよい。適当な分散ミルとしては、ボールミル、アトリッターミル、振動ミル、遊星形ミル、媒体ミル、例えば、サンドミルおよびビーズミルが挙げられる。媒体ミルは、意図した結果、すなわち、所望する粒径の低減を提供するのに必要とされる微粉砕時間が比較的短いので好ましい。媒体ミルについては、好ましくはプレミックスの見掛粘度が約 100〜約1000センチポアズである。ボールミルについては、好ましくはプレミックスの見掛粘度が約1〜約 100センチポアズである。そのような範囲は、効率的な粒子破砕と媒体浸食との間に最適なバランスを提供しやすい。
【0032】
粒径低減工程用の粉砕媒体は、好ましくは平均粒径が約3mm未満の、より好ましくは約1mm未満の球状もしくは粒状の硬質媒体から選択できる。そのような媒体が、より短い処理時間で本発明の粒子を提供でき、そしてその媒体が微粉砕装置に与える磨耗が少ないことが望ましい。粉砕媒体用の材料の選択が重要であるとは考えられていない。しかしながら、酸化ジルコニウム、例えば、マグネシアで安定化した95%ZrO 、珪酸ジルコニウムおよびガラス粉砕媒体は、医薬組成物の製造の際に許容できると考えられる汚染レベルの粒子を提供する。さらに別の媒体、例えば、ステンレススチール、チタニア、アルミナおよびイットリウムで安定化した95%ZrO が有用であると考えられる。好ましい媒体は、約 2.5g/cm3 を越える密度を有する。
【0033】
磨砕時間は広範に変化することができ、主に選定される特定の機械的手段および処理条件に依存する。ボールミルについては、5日もしくはそれ以上の処理時間が必要とされるかもしれない。一方、高剪断媒体ミルを用いると、1日未満の処理時間で(滞留時間は1分〜数時間)所望の結果が提供される。
【0034】
NSAID を著しく崩壊しない温度で、粒径を低減させる必要がある。約30〜40℃未満の処理温度が通常好ましい。所望であれば、処理装置を従来の冷却装置で冷却してもよい。微粉砕処理に有効でかつ安全な周囲温度および処理圧力の条件下で、この方法は都合良く実施される。例えば、ボールミル、アトリッターミルおよび振動ミルの場合には、周囲処理圧力が典型的である。媒体ミルの場合には、約20psi (1.4kg/cm2)までの処理圧力が典型的である。
【0035】
微粉砕は、pH2〜6、好ましくはpH3〜5の酸性条件下で実施しなければならない。好ましいpHは、例えば、選定された特定のNSAIDの酸性度および溶解性に依存する。耐酸微粉砕装置、例えば、高級ステンレススチール、例えば、グレード316 SSで二次加工した装置もしくは耐酸塗料で被覆された装置が特に好ましい。
【0036】
表面改質剤は、プレミックスに存在させない場合には、磨砕後に、先にプレミックスについて記載した量を分散体へ添加しなければならない。その後、例えば、激しく振盪することによって、分散体を混合することができる。任意ではあるが、例えば、超音波電源を用いて分散体に超音波処理を施すことができる。例えば、分散体に、周波数20〜80kHz の超音波エネルギーを約1〜120 秒間施すことができる。
【0037】
NSAID および表面改質剤の相対量は広範に変化でき、そして表面改質剤の最適量は、例えば、選定された特定のNSAID および表面改質剤、表面改質剤がミセルを形成する場合にはその臨界ミセル濃度、およびNSAID の表面積などに依存しうる。好ましくは、表面改質剤が、NSAID の表面積1平方メートル当たり約 0.1〜10mgの量で存在する。表面改質剤は、乾燥粒子の総重量に基づいて、 0.1〜90重量%、好ましくは 0.5〜80重量%そしてより好ましくは1〜60重量%の量で存在できる。
【0038】
簡単なスクリーニング処理が開発されているので、それによって所望の粒子の安定な分散体を提供する相溶性表面改質剤およびNSAIDを選択することができる。最初に、NSAID が実質的に不溶性である液体、すなわち、水にNSAID の粗粒子を5(w/v)%となるように分散させ、そして以下の微粉砕条件下で 120時間ロールミルで微粉砕した。
【0039】
粉砕容器:8oz. (250mL) ガラスジャー
粉砕容器の有効容量: 250mL
媒体容量: 120mL
媒体の型:1.0mm の予備洗浄した酸化ジルコニウム・ビーズ
(Zircoa, Inc.より配付)
微粉砕時間: 120時間
スラリー容量:60mL
RPM :92
室温におけるpH: 4.0(必要に応じてHCl もしくはNaOHで調整)
【0040】
従来の手段、例えば、スラリーを容器から注ぎだすか、またはピペットを用いることにより、微粉砕媒体からスラリーを分離した。次いで分離したスラリーをアリコートに分割し、そしてNSAID と表面改質剤を合わせた総重量に基づいて、2〜50重量%の濃度となるように表面改質剤を添加した。次いで分散体を超音波処理(1分間,20kHz )するか、または1分間、複数の試験管を設置できるボルテックス(multitubed vortexer)を用いてそれを渦巻攪拌して、凝集体を分散させ、そして、例えば、光子相関分光光度法により、および/または光学顕微鏡(倍率1000×)の下での試験により粒径分析を行った。安定な分散が認められたら、次いで特定のNSAID と表面改質剤の組み合わせの製造方法を上記技法に従って最適化することができる。安定とは、好ましくは少なくとも15分間1000×の光学顕微鏡を用いて見た場合に、そして好ましくは製造してから少なくとも2日後もしくはそれ以降に、分散体が、肉眼で見えるフロキュレーションもしくは粒子アグロメレーション(凝集)を全く示さないことを意味する。さらに、好ましい粒子は、 0.1N HClもしくは疑似GI液(USP)へ分散した場合に、フロキュレーションもしくはアグロメレーション(凝集)を全く示さない。
【0041】
得られた分散体は、安定であり、そして液状分散媒および前記粒子からなるものである。表面改質NSAID ナノ粒子の分散体を、当該技術分野で周知の技法により流動層スプレーコーティング装置内で糖球もしくは医薬用賦形剤の上にスプレーコーティングすることができる。
【0042】
本発明に従う医薬組成物は、前記粒子および医薬的に許容されるキャリヤーを含む。適当な医薬的に許容されるキャリヤー類は当業者らに周知である。これらには、注射用(非経口投与)、固体もしくは液体状の経口投与用および直腸投与用の非毒性の生理学的に許容されるキャリヤー(担体)、アジュバント(添加剤)もしくはビヒクル(賦形剤)が挙げられる。本発明に従う哺乳動物の治療方法は、治療を要する哺乳動物に有効量の前記医薬組成物を投与する段階を含む。治療のために選定させるNSAID の用量レベルは、特定の組成物および投与方法に関して所望の治療応答を得るのに有効なレベルである。従って、選定される用量レベルは、特定のNSAID 、所望の治療効果、投与経路、所望の治療期間および別の因子に依存する。
【0043】
本発明の医薬組成物が、以下の実施例に具体的に示されるように胃刺激の低減および/またはより迅速な作用開始を示すことは、特に有利な特徴である。
【0044】
以下の実施例は、本発明を更に具体的に説明するものである。
実施例1
ナノ粒子状ナプロキセン分散体(製剤1)を、以下のようにロールミルで調製した。 250mLガラスジャーに、 1.0mmの予備洗浄した酸化ジルコニウム・ビーズ(Zirbeads XR, Zircoa Inc.市販,公称直径 1.0mm) 120mL、ナプロキセン(Sigma, St. Louis, MOより購入, 粒径20〜30μm)3gを含有する水性スラリー60g(5重量%)ならびに表面改質剤としてPluronic F-68 (BASF Fine Chemicals,Inc. より購入) 1.8g(3重量%)を入れた。ビーズを1N H2SO4中で一晩すすぎ、続いてイオン交換水で数回すすいで予備洗浄した。そのバッチを、92 RPMで総計 120時間回転させた。 0.1N HClに一部分を添加したとき、分散体は安定であった。光学相関分光光度法により測定した平均粒径は 240〜300 nmであった。
【0045】
3%Pluronic F-68 に5%(w/v)の微粉砕していないナプロキセンを添加して、ナプロキセンの対照製剤を調製した。懸濁液をボルテックスで攪拌し、そして粒径を測定した。粒径の範囲は20〜30μmであった。
【0046】
両製剤のナプロキセンの濃度は50mg/mL (w/v)であった。両製剤を3%Pluronic F-68 で希釈して、経口投与用の服用濃度10mg/mLにした。
【0047】
雄のスプレーグ.ドーリーネズミ(Sprague-Dawley rat) を、「Guide for the Care and Use of Laboratory Animals」,NIHPublication 86-23,に記載の条件に従って飼育した。温度を22±1℃に維持し、そして相対湿度を50±10%に維持し、12時間の明/暗サイクルを保った。ラットには実験食物および水を与えた。ネムブタール(Nembutal, ペントバルビタールナトリウム)55mg/kg を腹腔内注射して、ラット( 250-350g)を麻酔した。血液試料を容易に採取するために、長期にわたり外頸静脈にカニューレを挿入した。ナプロキセンの投与前に、24時間かけてラットを任意量の水で回復させた。
【0048】
前記製剤と共にメトファン(Metofane) を経口的ガバージュしてラットを麻酔し、そして拘束装置に置いた。ナプロキセンの投与後、0(投与前)、5、10、15、30、45、60、75、90、 120、 180および 240分後に、血液試料( 100μL)を頸静脈から採取し、そしてヘパリン化した試験管に入れた(ヘパリンで凝血防止した)。即座に血漿(50μL)が得られ、それを氷上に置いた。血漿試料(50μL)をアセトニトリル 130μLおよび標準溶液(インドメタシン20μg/mL)20μLと混合し、そしてボルテックスで攪拌してタンパク質を沈殿させた。試料を遠心分離し、そして上清を取り出してバイアルに入れ、そしてHPLCで分析した。分析カラム(Waters Novapak C18;15cm×4mm, 5μ)で、ナプロキセンの分離を行った。
【0049】
実験の最終時( 240分)に、頸静脈からネムブトールを静脈内ボーラス注射して、ラットを安楽死させた。胃を切除し、十二指腸から幽門括約筋まで大弯の線に沿って切開した。次いで胃を平面状に広げて解剖皿の上にピンでとめ、そして 0.9%NaClで洗浄した。
【0050】
胃刺激(糜爛/病変/潰瘍)の評価およびカウントを、下記のように種々の過酷度について補正している、自由裁量の得点システム(Cioli 他,Tox. and appl. Pharm., 1979, 50: 283-289およびBeck他,Arch. Toxicol., 1990; 64: 210-217 )を修正したものによって行った。過酷さの指標の差異は、NSAID の経口投与後の胃に存在する胃病理学に関連している(Balaa, Am, Journ. Med. Sci., 1991, 301: 272-276 およびLanza 他;Dig. Dis. and Sci., 1990;35:12 )。
【0051】
各胃刺激の長さ(もしくは直径)を、10mmの外科用定規を用いて測定した。刺激の長は0.25mm〜10.0mmの範囲であった。0.25mm未満の刺激を極微の点として分類した。過酷さの評価として色により刺激を類別した。外観の赤い刺激を軽いと見なし、過酷値1とした。褐色の刺激をやや過酷とみなし過酷値2とした。黒く見える刺激を最も過酷と見なし、過酷値3とした。長さの値およびその部分の過酷レベルを足すことにより、各刺激の得点を決定した。所定の胃における全ての刺激の総計を、総刺激得点として示した。
【0052】
第1表は、対照製剤および本発明の製剤1についての、ナプロキセンにより誘導される胃刺激の平均値を示すものである。データから分かるように、本発明の製剤は、対照(p=0.099)と比較すると胃刺激の得点低減を示した。本発明の製剤が、対照と比較して、経口投与後の胃刺激の低減を示すという結論がでた。
【0053】

【0054】
驚くべきことには、本発明の製剤は、経口投与した場合に、同じ製剤を非経口投与(すなわち、腹腔内投与)した場合と比較して、誘発された胃刺激のレベルが小さかった。従って、本発明の製剤が、ラットの胃における直接刺激作用を事実上全く有しないことは明らかである。
【0055】
台形公式により計算された本発明の製剤1および対照についての薬物速度論の血漿パラメータ、Cmax (ピーク血漿濃度)、Tmax (ピーク血漿濃度の時間)および相対バイオアベイラビリティー(AUC(0−240min)− 0〜240 分間の血漿中濃度−時間曲線下面積)の統計的な比較を以下に示す。
【0056】

【0057】
データは、対照(p=0.15)と比較して、本発明の製剤のピーク血漿濃度の時間は短く、またそれぞれ対照(p=0.03)および(p=0.02)と比較して、本発明の製剤の相対バイオアベイラビリティーおよびピーク血漿濃度は両方とも十分高かったことを示している。見掛けの吸収速度の増大は、明らかに作用開始が早まったことを示唆するものである。
【0058】
実施例2
Pluronic F-68 の代わりに5重量%のポリビニルピロリドンを用いたことを除いて、実施例1の調製方法を繰り返した。平均粒径は 250nmであった。
実施例3〜8は、ナノ粒子状イブプロフェンの調製を具体的に示すものである。
【0059】
実施例3
ナノ粒子状イブプロフェンを、25mLのボウルを2つ備えた遊星形ミル(Pulverisette-7, Fritsch 製造,Gmbh)で調製した。初期原料(ボール当たり)は、1mmの予備洗浄した酸化ジルコニウム・ビーズ12.5mLならびに、 100mM HCl、3%(w/v)イブプロフェンおよび2%(w/v)Pluronic F-68 (表面改質剤として)を含有する水性スラリー6.25mLを含むものであった。イブプロフェン製剤を 325RPMで24時間微粉砕した。得られた分散体の一部分を疑似胃液、すなわち、NaCl 2g、ペプシン 3.2g、 HCl 7mLおよび H2O 1Lまで、pH=1.2 、に添加すると、その得られた分散体は安定であった。光子相関分光光学法で測定した平均粒径は 253nmであった。
【0060】
実施例4
初期原料が1%Tween 20を含み、そして微粉砕時間が17時間であったことを除いて、実施例3を繰り返した。平均粒径は 263nmであった。
【0061】
実施例5
微粉砕時間が4時間であったことを除いて、実施例3を繰り返した。平均粒径は 314nmであった。
【0062】
実施例6
初期原料中の表面改質剤が1%(w/v)の重量比1:2 のTween 20とSpan 20 の混合物を含み、そして微粉砕時間が 175RPM で20時間であったことを除いて、実施例3を繰り返した。平均粒径は 294nmであった。
【0063】
実施例7
初期原料が表面改質剤として0.25%(w/v)チロキサポールおよび10mM HClを含んだことを除いて、実施例3を繰り返した。冷蔵(5℃)領域で原料を 175RPM で20時間微粉砕した。平均粒径は344nmであった。
【0064】
実施例8
チロキサポールの代わりにTween 20を用いたことを除いて、実施例7を繰り返した。平均粒径は 351nmであった。
実施例9〜12は、ナノ粒子状インドメタシンの調製を具体的に示すものである。
【0065】
実施例9
ナノ粒子状インドメタシンを以下のようにロールミルで調製した。 250mLのボトルに、 1.0mmの予備洗浄したZrO2 250mLならびに、100mM HCl、10gms のインドメタシン(5重量%)および2gmsのVinol 205 を含有する水性スラリー 200gm、ポリビニルアルコール(1重量%)を含むものであった。バッチサイズ 200gms を用いてボトル中の空隙を低減し、発泡を最低限に抑えた。バッチを88.5RPMで総計 240時間回転させた。先の実施例3で記載したように、分散体は 0.1N HClおよび疑似胃液中で安定であった。光子相関分光光学法で測定した平均粒径は 331nmであった。
【0066】
実施例10
ポリビニルアルコールの代わりにポリビニルピロリドンを用いたことを除いて、実施例9を繰り返した。平均粒径は 216nmであった。
【0067】
実施例11
ポリビニルアルコールの代わりにPluronic F-68 を用いたことを除いて、実施例9を繰り返した。平均粒径は 228nmであった。
【0068】
実施例12
ポリビニルアルコールの代わりにPluronic F-108を用いたことを除いて、実施例9を繰り返した。平均粒径は 235nmであった。
本発明をその特定の好ましい態様を特に参照して詳細に記載したが、変更および修正が本発明の精神および範囲内で可能であることは理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NSAID の表面に約 400nm未満の平均粒径を維持するのに十分な量の表面改質剤を吸着させたNSAID から実質的に構成される粒子。
【請求項2】
約 300nm未満の有効平均粒径を有する、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
前記表面改質剤が、乾燥粒子の総重量に基づいて 0.1〜90重量%の量で存在する、請求項1に記載の粒子。
【請求項4】
前記NSAID が、ナブメトン、チアラミド、プロカゾン、ブフェキサマック、フルミゾール、エピラゾール、チノリジン、チメガジン、ダプソン、アスピリン、ジフルニサール、ベノリレート、ホスホサール、ジクロフェナック、アルクロフェナック、フェンクロフェナック、エトドラック、インドメタシン、スリンダック、トルメチン、フェンチアザック、チロミソール、カルプロフェン、フェンブフェン、フルラビプロフェン、ケトプロフェン、オキサプロジン、スプロフェン、チアプロフェン酸、イブプロフェン、ナプロキセン、フェノプロフェン、インドプロフェン、ピラプロフェン、フルフェナム酸、メフェナム酸、メクロフェナム酸、ニフラム酸、オキシフェンブタゾン、フェニルブタゾン、アパゾン、フェプラゾン、ピロキシカム、スドキシカム、イソキシカムおよびテノキシカムより選択される、請求項1に記載の粒子。
【請求項5】
前記NSAID が、ナプロキセン、インドメタシンおよびイブプロフェンより選ばれる、請求項1に記載の粒子。
【請求項6】
前記表面改質剤が、ポリビニルピロリドン、ならびに酸化エチレンおよび酸化プロピレンのブロックコポリマーより選択される、請求項1に記載の粒子。
【請求項7】
ナプロキセンの表面に約 400nm未満の平均粒径を維持するのに十分な量の酸化エチレンおよび酸化プロピレンのブロックコポリマーを吸着させたナプロキセンから構成される粒子。
【請求項8】
ナプロキセンの表面に約 400nm未満の平均粒径を維持するのに十分な量のポリビニルピロリドンを吸着させたナプロキセンから実質的に構成される粒子。
【請求項9】
請求項1に記載の粒子および医薬的に許容されるキャリヤーを含んでなる医薬組成物。
【請求項10】
有効量の請求項9に記載の医薬組成物を哺乳動物に投与することを含んでなる、哺乳動物の治療方法。
【請求項11】
NSAID を含む医薬組成物の哺乳動物への経口投与後の胃刺激を低減する方法であって、NSAID の表面に約 400nm未満の平均粒径を維持するのに十分な量の表面改質剤を吸着させたNSAID から実質的に構成される粒子の形態で前記医薬組成物を投与することを含んでなる、胃刺激を低減する方法。
【請求項12】
NSAID を含む医薬組成物の哺乳動物への投与後の作用開始を早める方法であって、NSAID の表面に約 400nm未満の平均粒径を維持するのに十分な量の表面改質剤を吸着させたNSAID から実質的に構成される粒子の形態で前記医薬組成物を投与することを含んでなる、作用開始を早める方法。
【請求項13】
医薬組成物の哺乳動物への投与後の作用開始を早める方法であって、薬物の表面に約 400nm未満の平均粒径を維持するのに十分な量の表面改質剤を吸着させた薬物から実質的に構成される粒子の形態で前記医薬組成物を投与することを含んでなる、作用開始を早める方法。
【請求項14】
NSAID を液状分散媒に分散させる工程、そして硬質粉砕媒体の存在下、前記媒体のpHを湿式粉砕中2〜6の範囲内に維持して、NSAID の粒径を有効平均粒径約 400nm未満となるように前記NSAIDを湿式粉砕する工程を含んでなる、請求項1に記載の粒子の製造方法。
【請求項15】
前記湿式粉砕中に表面改質剤が存在する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記表面改質剤と前記分散媒とを混合することにより、湿式粉砕の後で前記NSAID と表面改質剤とを接触せしめる工程をさらに含む、請求項14に記載の方法。

【公開番号】特開2009−197003(P2009−197003A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92791(P2009−92791)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【分割の表示】特願平6−501515の分割
【原出願日】平成5年6月1日(1993.6.1)
【出願人】(500370883)エラン ファーマ インターナショナル,リミティド (45)
【Fターム(参考)】