説明

表面検査装置

【課題】被検査物の表面の微小な凹凸等を単独で欠陥として検出されるおそれを排除しつつ、その微小な凹凸等が密集している領域を欠陥又は欠陥に準じて検出する。
【解決手段】被検査物の表面を検査光で走査し、表面からの反射光の光量に応じた信号を出力する検出手段を備えた表面検査装置において、検出手段の出力信号に基づいて被検査物の表面の2次元画像を生成し(S1)、2次元画像に含まれる画素を被検査物の表面の欠陥に対応した階調の第1の画素群と欠陥に対応しない階調の第2の画素群とに区別し、第1の画素群を第2の画素群にて囲まれた範囲毎に欠陥候補部として抽出し(S3〜S5)、所定の大きさ以上の欠陥候補部を欠陥として識別し(S6)、2次元画像を所定の検査領域毎に検査し、該検査領域内における所定の大きさに満たない欠陥候補部の密集度が所定レベル以上の検査領域を欠陥領域として識別する(S7、S8)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査物の表面を検査光で走査してその表面からの反射光を受光し、その反射光の光量に基づいて被検査物の表面の欠陥を検出する表面検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒状の被検査物の内周面を検査する装置として、軸状の検査ヘッドをその軸線の回り回転させつつ軸線方向に送り出して被検査物の内部に検査ヘッドを挿入し、その検査ヘッドの外周から検査光としてのレーザ光を被検査物に照射してその被検査物の内周面をその軸線方向一端から他端まで逐次走査し、その走査に対応した被検査物からの反射光を検査ヘッドを介して受光し、その受光した反射光の光量に基づいて被検査物の内周面における欠陥の有無を判別する表面検査装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−281582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した表面検査装置は、レーザ光を検査光として利用しているので、検査光の照射範囲を絞り込んで微小な欠陥を検出することができる。しかし、検出可能な欠陥の分解能を必要以上に高めると、目視による検査では欠陥として扱われないような微細な凹凸等までも欠陥として判定され、目視検査と装置による検査とで検査結果が食い違うおそれがある。このような不都合を解消するためには、検出対象の欠陥の大きさに閾値を設定し、その閾値を超えるもののみを欠陥として扱うことが効果的である。しかし、単独では閾値に満たない微小な凹凸等が比較的近接した範囲に集まっている場合、検査者の目にはそれらの集合が一つのまとまった欠陥として識別されることがある。一方、表面検査装置では、一つ一つの微小な凹凸を区別して閾値と大小比較し、それらを全て欠陥ではないと判定してしまう。従って、目視による検査結果を基準とすれば、欠陥の見逃しと評価されて検査の信頼性が損なわれるおそれがある。
【0004】
そこで、本発明は被検査物の表面の微小な凹凸等を単独で欠陥として検出されるおそれを排除しつつ、単独では欠陥として検出されない微小な凹凸等が比較的近接した範囲に密集している場合に、これを欠陥又は欠陥に準じて検出することを可能とした表面検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の表面検査装置は、被検査物(100)の表面(100a)を検査光で走査して該表面からの反射光を受光し、その反射光の光量に応じた信号を出力する検出手段(5)と、前記検出手段の出力信号に基づいて前記被検査物の表面の2次元画像(200)を生成する画像生成手段(60)と、前記2次元画像に含まれる画素(203)を前記被検査物の表面の欠陥に対応した階調の第1の画素群と前記欠陥に対応しない階調の第2の画素群とに区別し、前記第1の画素群を前記第2の画素群にて囲まれた範囲毎に欠陥候補部(210)として抽出する欠陥候補抽出手段(60)と、前記欠陥候補部のうち、所定の大きさ以上の欠陥候補部を欠陥として識別する欠陥識別手段(60)と、前記2次元画像を所定の検査領域(B)毎に検査し、該検査領域内における前記所定の大きさに満たない欠陥候補部の密集度が所定レベル以上の検査領域を欠陥領域として識別する欠陥領域識別手段とを備えることにより、上述した課題を解決する。
【0006】
本発明の表面検査装置によれば、被検査物の表面からの反射光の光量に応じた階調分布の2次元画像が画像生成手段にて生成され、その2次元画像に含まれる画素が欠陥に対応する階調の第1の画素群と、欠陥に対応しない階調の第2の画素群とに区別され、さらに第1の画素群が前記第2の画素群にて囲まれた範囲毎に欠陥候補部として抽出されることにより、被検査物の表面に存在する個々の欠陥を欠陥候補部として2次元画像上で特定することができる。そして、欠陥候補部のうち所定の大きさ以上のものが欠陥として識別される一方、単独では欠陥として識別されない比較的小さい欠陥候補部が検査領域内にて所定のレベル以上に密集しているときにはその検査領域が欠陥領域として識別される。従って、被検査物の表面の微小な凹凸等を単独で欠陥として検出するおそれを排除しつつ、単独では欠陥として検出されない微小な凹凸等が比較的近接した範囲に密集している場合に、その密集した領域を欠陥領域として識別し、その欠陥領域を欠陥、又は欠陥に準じた領域として検出して装置のユーザに提示することができる。
【0007】
本発明の表面検査装置の一形態において、前記欠陥候補抽出手段は、前記2次元画像に含まれる第1の画素群をラベリング処理することにより前記欠陥候補部を抽出してもよい。ラベリング処理は2次元画像に含まれる画素群を、それらの階調を手掛かりとしてグループ化する手法として知られており、そのラベリング処理を利用することにより、被検査物の表面の2次元画像から、欠陥に対応する階調を有する第1の画素群を、第2の画素群に囲まれた範囲毎に欠陥候補部として抽出することができる。
【0008】
本発明の表面検査装置の一形態において、前記欠陥領域識別手段は、前記検査領域内における前記所定の大きさに満たない欠陥候補部の面積及び個数の少なくともいずれか一方に基づいて前記密集度を判別してもよい。検査領域内における微小な欠陥候補部の密集度は、それらの欠陥候補部の個数、あるいは面積に相関性を有しているため、個数又は面積の少なくとも一方を参照することによって密集度の大小を適切に判別することができる。
【0009】
本発明の表面検査装置の一形態において、前記欠陥領域識別手段は、前記検査領域内における前記所定の大きさに満たない欠陥候補部のうち、所定の面積以上の欠陥候補部の個数が所定値以上のときに前記密集度が前記所定レベル以上と判別してもよい。このような判別基準を用いることにより、微小な凹凸等の密集部分に関する検査者の判断傾向と、表面検査装置による欠陥領域の識別傾向との一致度を高めることができる。
【0010】
本発明の表面検査装置の一形態においては、前記欠陥領域として識別された検査領域に含まれる欠陥候補部の群の重心位置を、当該検査領域内における欠陥候補部の群を代表する位置として演算する位置演算手段をさらに備えてもよい。微小な欠陥候補部の密集部分については、検査者の目視検査では一つのまとまった欠陥として見える可能性が高い。従って、欠陥候補部の個々の位置に代えて、それらの欠陥候補部を代表する位置として重心位置を演算することにより、検査者に対して欠陥候補部の密集部分の位置をより適切に提示することができる。
【0011】
なお、以上の説明では本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記したが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0012】
以上に説明したように、本発明の表面検査装置によれば、被検査物の表面の2次元画像から抽出された欠陥候補部のうち、所定の大きさ以上のものが欠陥として識別される一方、単独では欠陥として識別されない比較的小さい欠陥候補部が検査領域内にて所定のレベル以上に密集しているときにはその検査領域が欠陥領域として識別される。従って、被検査物の表面の微小な凹凸等を単独で欠陥として検出するおそれを排除しつつ、単独では欠陥として検出されない微小な凹凸等が比較的近接した範囲に密集している場合に、その密集した領域を欠陥領域として識別し、その欠陥領域を欠陥、又は欠陥に準じた領域として検出して装置のユーザに提示することができる。これにより、微小な凹凸等が密集した領域の見逃しを防止し、ユーザの目視による検査結果と表面検査装置による検査結果との一致度を高め、表面検査装置を利用した検査の信頼性の低下を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は本発明の一形態に係る表面検査装置の概略構成を示している。表面検査装置1は被検査物100に設けられた円筒形の内周面100aの検査に適した装置であり、検査を実行するための検査機構2と、その検査機構2の動作制御、検査機構2による測定結果の処理等を実行するための制御部3とを備えている。さらに、検査機構2は、被検査物100に対して検査光を投光し、かつ被検査物100からの反射光を受光するための検出手段としての検出ユニット5と、その検出ユニット5に所定の動作を与えるための駆動ユニット6とを備えている。
【0014】
検出ユニット5は、検査光の光源としてのレーザダイオード(以下、LDと呼ぶ。)11と、被検査物100からの反射光を受光し、その反射光の単位時間当りの光量(反射光強度)に応じた電流又は電圧の信号を出力するフォトディテクタ(以下、PDと呼ぶ。)12と、LD11から射出される検査光を被検査物100に向かって導く投光ファイバ13と、被検査物100からの反射光をPD12に導くための受光ファイバ14と、それらのファイバ13、14を束ねた状態で保持する保持筒15と、その保持筒15の外側に同軸的に設けられる中空軸状の検査ヘッド16とを備えている。検査ヘッド16は不図示の軸受を介して回転自在に支持されている。
【0015】
保持筒15の先端には、投光ファイバ13を介して導かれた検査光を検査ヘッド16の軸線AXの方向(以下、軸線方向と呼ぶ。)に沿ってビーム状に射出させ、かつ検査ヘッド16の軸線方向に沿って検査光とは逆向きに進む反射光を受光ファイバ14に集光するレンズ17が設けられている。検査ヘッド16の先端部(図1において右端部)には、光路変更手段としてのミラー18が固定され、検査ヘッド16の外周にはそのミラー18と対向するようにして透光窓16aが設けられている。ミラー18は、レンズ17から射出された検査光の光路を透光窓16aに向けて変更し、かつ、透光窓16aから検査ヘッド16内に入射した反射光の光路をレンズ17に向かって進む方向に変更する。
【0016】
駆動ユニット6は、直線駆動機構30と、回転駆動機構40と、焦点調節機構50とを備えている。直線駆動機構30は検査ヘッド16をその軸線方向に移動させる直線駆動手段として設けられている。そのような機能を実現するため、直線駆動機構30は、ベース31と、そのベース31に固定された一対のレール32と、レール32に沿って検査ヘッド16の軸線方向に移動可能なスライダ33と、そのスライダ33の側方に検査ヘッド16の軸線AXと平行に配置された送りねじ34と、その送りねじ34を回転駆動する電動モータ35とを備えている。スライダ33は検出ユニット5の全体を支持する手段として機能する。すなわち、LD11及びPD12はスライダ33に固定され、検査ヘッド16は回転駆動機構40を介してスライダ33に取り付けられ、保持筒15は焦点調節機構50を介してスライダ33に取り付けられている。さらに、スライダ33にはナット36が固定され、そのナット36には送りねじ34がねじ込まれている。従って、電動モータ35にて送りねじ34を回転駆動することにより、スライダ33がレール32に沿って検査ヘッド16の軸線方向に移動し、それに伴ってスライダ33に支持された検出ユニット5の全体が検査ヘッド16の軸線方向に移動する。直線駆動機構30を用いた検出ユニット5の駆動により、被検査物100の内周面100aに対する検査光の照射位置(走査位置)を検査ヘッド16の軸線方向に関して変化させることができる。
【0017】
ベース31の前端(図1において右端)には壁部31aが設けられ、その壁部31aには検査ヘッド16と同軸の通し孔31bが設けられている。その通し孔31bにはサンプルピース37が取り付けられている。サンプルピース37は表面検査装置1の動作状態を判別するためのサンプルとして設けられるものであり、その中心線上には検査ヘッド16と同軸の貫通孔37aが設けられている。貫通孔37aは検査ヘッド16が通過可能な内径を有しており、検査ヘッド16はその貫通孔37aを通過して被検査物100の内部へと繰り出される。
【0018】
回転駆動機構40は検査ヘッド16を軸線AXの回りに回転させる回転駆動手段として設けられている。そのような機能を実現するため、回転駆動機構40は、回転駆動源としての電動モータ41と、その電動モータ41の回転を検査ヘッド16に伝達する伝達機構42とを備えている。伝達機構42には、ベルト伝達装置、歯車列等の公知の回転伝達機構を利用してよいが、この形態ではベルト伝達装置が利用される。電動モータ41の回転を伝達機構42を介して検査ヘッド16に伝達することにより、検査ヘッド16がその内部に固定されたミラー18を伴って軸線AXの回りに回転する。回転駆動機構40を用いた検査ヘッド16の回転により、被検査物100の内周面100aに対する検査光の照射位置を被検査物100の周方向に関して変化させることができる。そして、検査ヘッド16の軸線方向への移動と軸線AXの回りの回転とを組み合わせることにより、被検査物100の内周面100aをその全面に亘って検査光で走査することが可能となる。なお、検査ヘッド16の回転時において、保持筒15は回転しない。さらに、回転駆動機構40には、検査ヘッド16が所定の単位角度回転する毎にパルス信号を出力するロータリエンコーダ43が設けられている。ロータリエンコーダ43から出力されるパルス信号の個数は検査ヘッド16の回転量(回転角度)に相関し、そのパルス信号の周期は検査ヘッド16の回転速度に相関する。
【0019】
焦点調節機構50は、検査光が被検査物100の内周面100aにて焦点を結ぶように保持筒15を軸線AXの方向に駆動する焦点調整手段として設けられている。その機能を実現するため、焦点調節機構50は、保持筒15の基端部に固定された支持板51と、直線駆動機構30のスライダ33と支持板51との間に配置されて支持板51を検査ヘッド16の軸線方向に案内するレール52と、検査ヘッド16の軸線AXと平行に配置されて支持板51にねじ込まれた送りねじ53と、その送りねじ53を回転駆動する電動モータ54とを備えている。電動モータ54にて送りねじ53を回転駆動することにより、支持板51がレール52に沿って移動して保持筒15が検査ヘッド16の軸線方向に移動する。これにより、検査光が被検査物100の内周面100a上で焦点を結ぶようにレンズ17からミラー18を経て内周面100aに至る光路の長さを調節することができる。
【0020】
次に制御部3について説明する。制御部3は、表面検査装置1による検査工程の管理、検出ユニット5の測定結果の処理等を実行するコンピュータユニットとしての演算処理部60と、その演算処理部60の指示に従って検出ユニット5の各部の動作を制御する動作制御部61と、PD12の出力信号に対して所定の処理を実行する信号処理部62と、演算処理部60に対してユーザが指示を入力するための入力部63と、演算処理部60が処理した検査結果等をユーザに提示するための出力部64と、演算処理部60にて実行すべきコンピュータプログラム、及び、測定されたデータ等を記憶する記憶部65とを備えている。演算処理部60、入力部63、出力部64及び記憶部65はパーソナルコンピュータ等の汎用コンピュータ機器を利用してこれらを構成することができる。この場合、入力部63にはキーボード、マウス等の入力機器が設けられ、出力部64にはモニタ装置が設けられる。プリンタ等の出力機器が出力部64に追加されてもよい。記憶部65には、ハードディスク記憶装置、あるいは記憶保持が可能な半導体記憶素子等の記憶装置が用いられる。動作制御部61及び信号処理部62はハードウエア制御回路によって実現されてもよいし、コンピュータユニットによって実現されてもよい。
【0021】
被検査物100の内周面100aの表面を検査する場合、演算処理部60、動作制御部61及び信号処理部62のそれぞれは次の通り動作する。なお、この場合、被検査物100は検査ヘッド16と同軸上に配置される。検査の開始にあたって、演算処理部60は入力部63からの指示に従って動作制御部61に被検査物100の内周面100aを検査するために必要な動作の開始を指示する。その指示を受けた動作制御部61は、LD11を所定の強度で発光させるとともに、検査ヘッド16が軸線方向に移動し、かつ軸線AXの回りに一定速度で回転するようにモータ35及び41の動作を制御する。さらに、動作制御部61は、検査光が被検査面としての内周面100a上で焦点を結ぶようにモータ54の動作を制御する。このような動作制御により、内周面100aがその一端から他端まで検査光によって走査される。なお、検査ヘッド16の軸線方向の駆動に関しては、一定速度の送り動作としてもよいし、検査ヘッド16が一回転する毎に所定ピッチずつ移動する間欠的な送り動作としてもよい。
【0022】
上述した内周面100aの走査に連係して信号処理部62にはPD12の出力信号が順次導かれる。信号処理部62は、PD12の出力信号を演算処理部60にて処理するために必要なアナログ信号処理を実施し、さらに、その処理後のアナログ信号を所定のビット数でA/D変換し、得られたデジタル信号を反射光信号として演算処理部60に出力する。演算処理部60にて実行する信号処理としては、PD12が検出した反射光の明暗差を拡大するようにその出力信号を非線形に増幅する処理、出力信号からノイズ成分を除去する処理といった各種の処理を適宜に用いてよい。高速フーリエ変換処理、逆フーリエ変換処理等を適宜に組み合わせることも可能である。また、信号処理部62によるA/D変換は、ロータリエンコーダ43から出力されるパルス列をサンプリングクロック信号として利用して行われる。これにより、検査ヘッド16が所定角度回転する間のPD12の受光量に相関した階調のデジタル信号が生成されて信号処理部62から出力される。
【0023】
信号処理部62から反射光信号を受け取った演算処理部60は、その取り込んだ信号を記憶部65に記憶する。さらに、演算処理部60は、記憶部65が記憶する反射光信号を利用して被検査物100の内周面100aを平面的に展開した2次元画像を生成する。その2次元画像の一例を図2に示す。2次元画像200は、被検査物100の周方向をx軸方向、検査ヘッド16の軸線方向をy軸方向とする直交2軸座標系で定義される平面上に内周面100aを展開した画像に相当する。2次元画像200では、内周面100aに存在する欠陥等の凹凸部が暗部201として表現され、内周面100aの正常な部分が明部202として表現される。被検査物100が鋳物である場合、内周面100aに存在する鋳巣、切削加工時の傷等といった欠陥が暗部201として撮像される。演算処理部60は、得られた2次元画像200を検査して一定の条件を満たす暗部201を欠陥として判別する。以下、図3を参照して欠陥検出の詳細な手順を説明する。
【0024】
図3は、演算処理部60が被検査物100の欠陥を検出するために実行する欠陥検出ルーチンを示している。図3のルーチンにおいて、演算処理部60はまずステップS1で信号処理部62から受け取った反射光信号に基づいて内周面100aの2次元画像200を生成する。なお、この2次元画像200は演算処理部60のRAM上に仮想的に生成される画像である。2次元画像200の一つの画素203の大きさは適宜でよいが、一例としてx軸方向に150μm、y軸方向に50μmである。
【0025】
続くステップS2において、演算処理部60は2次元画像200を構成する画素203の階調を所定の閾値と比較し、その閾値よりも暗い画素の階調を1、明るい画素の階調を0として2次元画像200を2値化する。これにより、図2の2次元画像200の暗部201に対応する画素の階調が1、それ以外の画素の階調が0にそれぞれ変換される。図2のA部を2値化した画像を図4に示す。図4では階調が1の画素203にハッチングが付されている。なお、被検査物100の内周面100aに存在する凹凸等の形状を想像線L1、L2にて併せて示している。図4において、階調1が付された画素群(ハッチングが付された画素群)は、被検査物100の内周面100aの欠陥に対応した階調の第1の画素群に相当し、階調0が付された画素群は欠陥に対応しない階調の第2の画素群に相当する。
【0026】
図3に戻って、画像の2値化後、演算処理部60はステップS3に進み、2値化された画像に対してラベリング処理を実施する。ラベリング処理は、2次元画像に含まれる画素にグループ属性を付加する公知の処理である。ラベリング処理は2次元画像を構成する画素の全てを対象として実施されるものであるが、以下では図2のA部に対応する図4の2値化画像を例に挙げてラベリング処理を説明する。ラベリング処理では、2値化された画像の各画素の階調を所定方向に順次検査する。そして、階調が1でかつまだラベルが付されていない画素が存在する場合、その画素を注目画素として検出する。例えば、図4の中段の画素列Nを図面の右方に検査する場合には、まず図5で太線にて示された画素203aが注目画素として検出される。注目画素203aを検出したならば、続いて、その注目画素203aに隣接する所定数の画素(通常は4又は8画素)の階調が0から1かを調べる。そして、注目画素203a及びこれに連続する階調が1の画素に対して2値化画像上でまだ使用されていないユニークなラベル番号を付す。図5では注目画素203a及びこれに連続する階調が1の画素にラベル番号1が付されている。演算処理部60は、このような処理を注目画素が検出される毎に繰り返す。図5の例では、注目画素203b、203cが順次検出され、注目画素203b及びこれに隣接する階調1の画素にラベル番号2が、注目画素203c及びこれに隣接する階調1の画素にラベル番号3がそれぞれ付されている。なお、注目画素203bの右隣の画素203dは注目画素203bの検査時にラベル番号2が付されるために注目画素としては検出されない。また、注目画素203cに関する検査時において、画素203dにはラベル番号2が既に付されているので、ラベル番号3は付されない。ラベリング処理は、2値化画像上で注目画素が検出されなくなるまで繰り返され、その後にラベリング処理が終了する。
【0027】
図3に戻って、演算処理部60はラベリング処理が終わると、続いてステップS4に進んでラベル番号の整理を実施する。ラベル番号の整理では、隣接する画素間で異なるラベル番号が付されている部分が検出され、隣接する画素同士が同一のラベル番号となるようにラベル番号が付け直される。図5の例では画素203c、203dが互いに隣接するにも関わらず、それらにラベル番号2、3が付されているため、これを解消すべく、ラベル番号3が付されている全ての画素203c、203eのラベル番号が2に変更される。ラベル変更後の状態を図6に示す。図6では同一のラベル番号が付された画素群を太線で囲んで示している。図4と図6との対比から明らかなように、左側の暗部201に対応して階調1が与えられた全ての画素はラベル番号1が付されてグループ化され、右側の暗部201に対応して階調が1が付された全ての画素はラベル番号2が付されてグループ化される。このようにしてグループ化された画素は、被検査物100の内周面100aの欠陥に対応した階調の第1の画素群であって、しかも、欠陥に対応しない階調の第2の画素群にて囲まれた範囲毎に抽出される欠陥候補部210に相当する。なお、欠陥候補部210の最小単位は1画素である。つまり、単一の画素203の階調が1、周囲の画素203の階調が全て0の場合、その階調1の画素は単独で欠陥候補部210として扱われる。このようにして得られた欠陥候補部210は、図2に示した2次元画像内の暗部201に対応する。
【0028】
さらに、ラベル番号の整理では、画素数の多い順に各グループのラベル番号が付け直される。図6の例では右側の画素群の方が左側の画素群よりも画素数が多いため、右側の画素群のラベル番号が1に、左側の画素群のラベル番号が2に付け替えられる。なお、図4〜図7では二つの暗部201が存在する場合を例に挙げているが、ラベル番号の付け替えは2値化画像の全ての領域を対象として実施される。従って、図6及び図7に例示したラベル番号は必ずしも図2の2次元画像全体に対する処理結果とは一致しない。
【0029】
図3に戻って、ラベル番号の整理が終了した後、演算処理部60はステップS3及びS4の処理によって抽出された全ての欠陥候補部210に関してそれぞれの面積、長辺、短辺の長さ、2次元画像上の位置を演算し、その演算結果を演算処理部60のRAM又は記憶部65に記憶する。面積は欠陥候補部210に含まれる画素の個数によって表現されてもよいし、一画素が占める面積と画素数との積によって欠陥候補部210の実面積が求められてもよい。欠陥候補部210の長辺及び短辺の大きさは、欠陥候補部210のx軸方向及びy軸方向に占める画素数と一画素当たりの実寸法との積から求めることができる。欠陥候補部210の位置は例えば欠陥候補部210を代表する位置(一例として重心位置)をx軸座標、y軸座標で表せばよい。
【0030】
続くステップS6において、演算処理部60は所定の大きさ以上の欠陥候補部210を検出し、これらの欠陥候補部210を全て欠陥として識別する。例えば、短辺が0.2mm以上の欠陥候補部210を欠陥として識別する。さらに、次のステップS7において、演算処理部60はステップS6で欠陥として扱われなかった欠陥候補部210、つまり所定の大きさに満たない欠陥候補部210の密集度を2次元画像上の所定の検査領域毎に検査する。この処理は、ステップS6では欠陥として判定されない微小な暗部201が一定の範囲内に集中していると検査者の目には欠陥として認識されるおそれがあるため、そのような微小な暗部201が密集する領域を欠陥領域として識別する処理である。
【0031】
ステップS7の処理では、図2に示すように2次元画像内に所定の大きさの検査領域Bを設定し、その検査領域B毎に欠陥候補部210の密集度を検査する。図8は図2の検査領域Bの拡大図である。検査領域Bのx軸方向及びy軸方向の大きさxd、ydは適宜に設定してよい。図8の検査領域Bでは、単独では欠陥に満たない微小な欠陥候補部210が比較的接近した範囲に集中している。演算処理部60は、このような領域を欠陥領域として識別するため、検査領域Bに存在する所定の面積以上の欠陥候補部210の個数をステップS5で取得した欠陥候補部210の面積等の情報に基づいてステップS7で判別し、その個数から検査領域Bにおける欠陥候補部210の密集度を判別する。
【0032】
続くステップS8において、演算処理部60は、欠陥候補部210の密集度が所定のレベル以上の検査領域Bを欠陥領域として識別する。例えば、所定の面積以上の欠陥候補部210の個数が所定値以上存在しているときに密集度が高いとみなして検査領域Bを欠陥領域として識別する。さらに、ステップS8においては、欠陥領域として識別された場合に、その領域内に含まれる微小な欠陥候補部210の群の重心位置を、それらの欠陥候補部210を代表する位置として演算する。なお、図9に示したように、検査領域Bは、2次元画像上において一部を重複させながらx軸方向に順次位置を変えて設定される。x軸方向に関して検査領域Bが内周面100aを一周すると、検査領域Bはy軸方向に一部を重複させながらシフトされ、以下、同様にして検査領域Bの設定と、その領域内における密集度の検査とが繰り返される。なお、密集度の検査において、ステップS6で欠陥として識別された欠陥候補部210は検査対象から除外してもよいし、除外しなくてもよい。除外しない場合でも、ステップS6で欠陥として識別されない微小な欠陥候補部210のみが集中している領域を欠陥領域として識別することができる。
【0033】
図3に戻って、ステップS8で欠陥領域の識別を終えた後、演算処理部60はステップS9に進み、ステップS6及びS8における識別結果を検査結果として記憶部65に記憶し、かつ出力部64に出力する。出力部64への出力に関して、ステップS6で識別された欠陥、及びステップS8で識別された欠陥検査領域を区別することなく同種の欠陥としてユーザに提示してもよいし、両者を区別してユーザに提示してもよい。両者を区別してユーザに提示した場合であっても、単独では欠陥と判定されない微小な鋳巣等が集中する領域を欠陥に準じて検出してユーザにその存在を知らしめることができる。さらに、ステップS8にて演算された欠陥候補部210の重心位置をユーザに提示することにより、欠陥とみなし得る微小な凹凸等が存在する位置をユーザに知らしめて検査結果の確認の用に供することができる。以上の処理を終えた後、演算処理部60は欠陥検出ルーチンを終了する。なお、図4〜図8で示した欠陥候補部等と画素の大きさとの対応関係はあくまで説明のためのものであり、実際の検査時の様子を示すものではない。
【0034】
以上に説明したように、本形態の表面検査装置1によれば、内周面100aの2次元画像上で所定の大きさ以上の欠陥候補部210を欠陥として識別するとともに、その大きさに満たず、単独では欠陥として扱われない微小な欠陥候補部210が比較的接近した範囲に密集している場合にはその領域を欠陥領域として識別することができる。これにより、欠陥と判定するための欠陥候補部210の大きさの閾値を必要以上に小さく設定する必要がなくなり、微小かつ単独で存在する欠陥候補部210を欠陥として過度に検出するおそれを排除することができる。その一方、ユーザの目視では欠陥として識別され得る微小な欠陥候補部210の密集部分を見逃すことなく、欠陥、又は欠陥に準じたものとして検出してユーザにその存在を提示することができる。
【0035】
また、本発明では、欠陥領域の検査において評価対象とすべき微小な暗部201が2次元画像上で少なくとも一画素を占めるように2次元画像の解像度、言い換えれば一画素のサイズを設定すればよいので、検査の分解能を必要以上に微小に設定する必要がない。このため、検査ヘッド16を比較的高速で回転させても欠陥及び欠陥領域を高精度に検出することができ、解像度又は分解能の高精細化による検査効率の低下を防止することができる。
【0036】
以上の形態では、演算処理部60が図3のステップS1を実行することにより画像生成手段として機能し、ステップS2〜S5を実行することにより欠陥候補抽出手段として機能し、ステップS6を実行することにより欠陥識別手段として機能し、ステップS7及びS8を実行することにより欠陥領域識別手段として機能する。
【0037】
本発明は以上の形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、上記の形態では検査ヘッドを回転させつつ軸線方向に送り出して内周面を検査光で走査しているが、検査ヘッドの回転運動及び直線運動のうち少なくとも一方を省略し、これに代えて被検査物を回転運動又は直線運動させることにより被検査物の表面を走査する表面検査装置であっても本発明は適用可能である。2次元画像から欠陥に対応する階調の第1の画素と、それ以外の第2の階調の画素とに区別するための処理では、画像を2値化して区別する例に限らず、グレースケール画像、あるいはカラー画像を用いて欠陥に対応する画素を区別するものでもよい。欠陥候補部を抽出する処理もラベリング処理に限らず、各種の画像処理手法を用いてよい。
【0038】
上記の形態では所定面積以上の欠陥候補部の個数を用いて検査領域内の欠陥候補部の密集度を判別したが、検査領域の面積に占める欠陥候補部の総面積の割合によって密集度を判別してもよい。あるいは、単独では欠陥として識別されない微小な欠陥候補部の一つに注目し、その注目した欠陥候補部とこれに隣接する欠陥候補部との距離を参照して密集度を判別する等、欠陥候補部の密集度の判別は種々の情報を用いてこれを実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一形態に係る表面検査装置の概略構成を示す図。
【図2】図1の表面検査装置にて生成される被検査物の内周面の2次元画像の一例を示す図。
【図3】図1の表面検査装置の演算処理部にて実行される欠陥検出ルーチンを示す図。
【図4】図2のA部を拡大して示した図。
【図5】図4の画像にラベリング処理を施した状態を示す図。
【図6】図5の画素に付されたラベル番号を整理した状態を示す図。
【図7】図6の画素に付されたラベル番号をさらに整理した状態を示す図。
【図8】図2のB部を拡大して示した図。
【図9】検査領域をシフトする様子を示す図。
【符号の説明】
【0040】
1 表面検査装置
2 検査機構
3 制御部
5 検出ユニット(検出手段)
16 検査ヘッド
60 演算処理部(画像生成手段、欠陥候補抽出手段、欠陥識別手段、欠陥領域識別手段)
100 被検査物
100a 被検査物の内周面
200 2次元画像
201 暗部
202 明部
203 画素
203a、203b、203c 注目画素
210 欠陥候補部
B 検査領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査物の表面を検査光で走査して該表面からの反射光を受光し、その反射光の光量に応じた信号を出力する検出手段と、
前記検出手段の出力信号に基づいて前記被検査物の表面の2次元画像を生成する画像生成手段と、
前記2次元画像に含まれる画素を前記被検査物の表面の欠陥に対応した階調の第1の画素群と前記欠陥に対応しない階調の第2の画素群とに区別し、前記第1の画素群を前記第2の画素群にて囲まれた範囲毎に欠陥候補部として抽出する欠陥候補抽出手段と、
前記欠陥候補部のうち、所定の大きさ以上の欠陥候補部を欠陥として識別する欠陥識別手段と、
前記2次元画像を所定の検査領域毎に検査し、該検査領域内における前記所定の大きさに満たない欠陥候補部の密集度が所定レベル以上の検査領域を欠陥領域として識別する欠陥領域識別手段と、
を備えたことを特徴とする表面検査装置。
【請求項2】
前記欠陥候補抽出手段は、前記2次元画像に含まれる第1の画素群をラベリング処理することにより前記欠陥候補部を抽出することを特徴とする請求項1に記載の表面検査装置。
【請求項3】
前記欠陥領域識別手段は、前記検査領域内における前記所定の大きさに満たない欠陥候補部の面積及び個数の少なくともいずれか一方に基づいて前記密集度を判別することを特徴とする請求項1又は2に記載の表面検査装置。
【請求項4】
前記欠陥領域識別手段は、前記検査領域内における前記所定の大きさに満たない欠陥候補部のうち、所定の面積以上の欠陥候補部の個数が所定値以上のときに前記密集度が前記所定レベル以上と判別することを特徴とする請求項1又は2に記載の表面検査装置。
【請求項5】
前記欠陥領域として識別された検査領域に含まれる欠陥候補部の群の重心位置を、当該検査領域内における欠陥候補部の群を代表する位置として演算する位置演算手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の表面検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−315803(P2007−315803A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−143181(P2006−143181)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(390014661)キリンテクノシステム株式会社 (126)
【Fターム(参考)】