説明

表面機能性部材の製造方法

【課題】 基材表面に機能性素材が強固に吸着してなる耐久性に優れた機能性素材吸着層を有し、且つ機能性素材の保持性及びその持続性に優れた表面機能性部材の製造方法、及び該製造方法により得られた表面機能性部材を提供する。
【解決手段】 基材上に、機能性素材と相互作用しうる官能基及び架橋性官能基を有するグラフトポリマーを直接結合させる工程と、該グラフトポリマーが有する機能性素材と相互作用しうる官能基に、機能性素材を吸着させて機能性素材吸着層を形成する工程と、該機能性素材吸着層にエネルギーを付与することにより、該機能性素材吸着層中に架橋構造を形成する工程と、を有することを特徴とする表面機能性部材の製造方法である。
である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面機能性部材の製造方法に係り、より詳細には、各種機能性材料を吸着してなる機能性の表面層を有する表面機能性部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、任意の基材に機能性の微粒子又は低分子(機能性素材)を吸着させて、各種の機能を有する表面層を形成した表面機能性部材が種々提案されている。基材上に機能性素材を吸着させた材料としては、例えば、基材上に存在するグラフトポリマーに微粒子又は低分子を吸着させた材料が挙げられ、このような材料は種々の用途に有用である。
例えば、特許文献1には、支持体上に存在するグラフトポリマー鎖に、微粒子としてシリカ粒子を吸着させたものが反射防止部材として有用である旨が開示されている。特許文献2には、グラフトポリマーに赤外線吸収色素を吸着させた膜(赤外線吸収層)は、従来の色素を含有させ塗布した膜に比較して、薄層で高い赤外線吸収能を有することが記載されている。また、上述のようなグラフトポリマーは、基材と直接共有結合により結合しているため、かかるグラフトポリマーに機能性素材を吸着させることで、基材との密着力が強く、機械的な耐磨耗性や有機溶剤耐性が高く、耐久性にも優れた表面機能性部材が得られていた。
【0003】
しかし、従来の方法により得られた表面機能性部材においては、グラフトポリマーと吸着物質である機能性素材とはイオン結合により結合されていたため、グラフトポリマーに機能性素材を吸着させても、食塩水などの電解質溶液に触れた場合等に、当該機能性素材がグラフトポリマーから脱離てしまい、機能性素材の効果が持続しないという問題があった。特に、屋外において使用される材料などにおいては、雨水などに長期に亘って晒されると、機能性素材がグラフトポリマーから脱離してしまう傾向が顕著であった。
【0004】
以上のように、表面機能性部材における機能性素材の保持性及びその持続性の向上については、さらなる改良が望まれているのが現状である。
【特許文献1】特開2003−112379号
【特許文献2】特開2003−57435号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明の目的は、基材表面に機能性素材が強固に吸着してなる耐久性に優れた機能性素材吸着層を有し、且つ機能性素材の保持性及びその持続性に優れた表面機能性部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討した結果、機能性素材が吸着したグラフトポリマーを含む機能性素材吸着層中に、架橋構造を導入することにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明に想到するに至った。
【0007】
即ち、基材上に、機能性素材と相互作用しうる官能基(以下、適宜「相互作用性基」と称する。)及び架橋性官能基(以下、適宜「架橋性基」と称する。)を有するグラフトポリマーを直接結合させる工程と、
該グラフトポリマーが有する機能性素材と相互作用しうる官能基に、機能性素材を吸着させて機能性素材吸着層を形成する工程と、
該機能性素材吸着層にエネルギーを付与することにより、該機能性素材吸着層中に架橋構造を形成する工程と、
を有することを特徴とする表面機能性部材の製造方法である。
【0008】
上述の如く、本発明は、基材上に直接結合したグラフトポリマーが有する相互作用性基に機能性素材を吸着させて機能性素材吸着層を設けた後に、グラフトポリマー中に存在する架橋性基を反応させて、機能性素材吸着層中に架橋構造を形成することを特徴としている。本発明の作用は明確ではないが、機能性素材吸着層中に架橋構造を形成したことで、グラフトポリマー中の相互作用性基に吸着した機能性素材が架橋構造中に内包されて、機能性素材吸着層中に安定に固定化されるため、本発明に係る機能性素材吸着層は、高い耐久性を発揮すると共に、機能性素材の保持性及びその持続性についても著しく向上したものと推測される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基材表面に機能性素材が強固に吸着してなる耐久性に優れた機能性素材吸着層を有し、且つ機能性素材の保持性及びその持続性に優れた表面機能性部材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
[表面機能性部材の製造方法]
基材上に、機能性素材と相互作用しうる官能基(相互作用性基)及び架橋性基を有するグラフトポリマーを直接結合させる工程(以下、適宜「グラフトポリマー生成工程」と称する)と、該グラフトポリマーが有する機能性素材と相互作用しうる官能基に、機能性素材を吸着させて機能性素材吸着層を形成する工程(以下、適宜「機能性素材吸着層形成工程」と称する)と、該機能性素材吸着層にエネルギーを付与することにより、該機能性素材吸着層中に架橋構造を形成する工程(以下、適宜「架橋構造形成工程」と称する)と、を有することを特徴とする。以下、本発明における各工程について順次説明する。
【0011】
<グラフトポリマー生成工程>
本発明においては、先ず、グラフトポリマー生成工程において、基材上にグラフトポリマーを直接結合させる。
このように、基板上にグラフトポリマーが結合している状態を形成する方法としては、公知の方法を適用すればよく、具体的には、例えば、日本ゴム協会誌,第65巻,604,1992年,杉井新治著,「マクロモノマーによる表面改質と接着」の記載を参考にすることができる。その他、以下に述べる表面グラフト重合法と呼ばれる方法を適用することもできる。
【0012】
(表面グラフト重合法)
本発明におけるグラフトポリマーは、表面グラフト重合法により形成されたものであることが好ましい。
表面グラフト重合法とは、一般に、固体表面を形成する高分子化合物鎖上に活性種を与え、この活性種を起点として別の単量体を更に重合させ、グラフト(接ぎ木)重合体を合成する方法である。
【0013】
本発明を実現するための表面グラフト重合法としては、文献記載の公知の方法をいずれも使用することができる。例えば、新高分子実験学10、高分子学会編、1994年、共立出版(株)発行、p135には、表面グラフト重合法として、光グラフト重合法、プラズマ照射グラフト重合法が記載されている。また、吸着技術便覧、NTS(株)、竹内監修、1999.2発行、p203,p695には、γ線、電子線などの放射線照射グラフト重合法が記載されている。
光グラフト重合法の具体的方法としては、特開昭63−92658号公報、特開平10−296895号公報、及び特開平11−119413号公報に記載の方法を使用することができる。
【0014】
プラズマ照射グラフト重合法、放射線照射グラフト重合法においては、上記記載の文献、及びY.Ikada et al,Macromolecules vol.19,page 1804(1986)などの記載の方法にて作製することができる。具体的には、PETなどの高分子表面をプラズマ若しくは電子線にて処理し、表面にラジカルを発生させ、その後、その活性表面とモノマーとを反応させることによりグラフトポリマーを得ることができる。
光グラフト重合法は、上記記載の文献の他に、特開昭53−17407号公報(関西ペイント)や、特開2000−212313号公報(大日本インキ)記載のように、フィルム基材の表面に光重合性組成物を塗布し、その後、ラジカル重合化合物を接触させ光を照射することによってもグラフトポリマーを得ることができる。
【0015】
また、基板上にグラフトポリマーが結合している状態を形成する手段としては、これらの他、高分子化合物鎖の末端にトリアルコキシシリル基、イソシアネート基、アミノ基、水酸基、カルボキシル基などの反応性官能基を付与し、これと基材表面官能基とのカップリング反応により形成することもできる。
【0016】
本発明におけるグラフトポリマー生成工程において、表面グラフト重合法を用いる場合の具体的な方法について説明する。
本発明では、基材表面に下記に示す相互作用性基を有する重合性化合物及び架橋性基を有する重合性化合物を接触させ、エネルギーを付与することで、該基板表面のに活性点を発生させて、この活性点と重合性化合物の重合性基とが反応し、表面グラフト重合反応が引き起こされる。
これら重合性化合物の基材表面への接触は、該重合性化合物を含有する液状組成物中に基材を浸漬することで行ってもよいが、取り扱い性や製造効率の観点からは、該重合性化合物を含有する液状組成物を基板表面に塗布することで行われることが好ましい。
また、エネルギーの付与方法としては、例えば、加熱や、輻射線照射を用いることができる。具体的には、例えば、UVランプ、可視光線などによる光照射、ホットプレートなどでの加熱等が可能である。
【0017】
本発明において、基材上に直接結合させるグラフトポリマーは、相互作用性基及び架橋性基を有するグラフトポリマーであり、そのポリマー構造中に相互作用性基と架橋性基とを有していることで、導電性粒子の吸着及び架橋構造形成の両機能を発揮することができる。
【0018】
本発明におけるグラフトポリマーは、相互作用性基を有する重合性化合物と架橋性基を有する重合性化合物との共重合により形成されるものであり、上記した表面グラフト重合法を用いることで、基材上に、この共重合体であるグラフトポリマーを直接結合させることができる。
なお、相互作用性基を有する重合性化合物及び架橋性基を有する重合性化合物は共に、モノマー、マクロマー、重合性基を有するポリマーのいずれの態様でも構わないが、重合性の観点から、モノマーであることが特に好ましい。
【0019】
グラフトポリマーの形成に使用される、相互作用性基を有するモノマー、及び、架橋性基を有するモノマーとしては、それぞれ1種づつを用いてもよいし、複数種のモノマーを併用してもよい。
本発明におけるグラフトポリマーの形成に際しては、相互作用性基を有するモノマーと架橋性基を有するモノマーとを、少なくとも1種づつ用いる必要があるが、本発明の効果を損ねない範囲で、更に、それ以外の他の共重合モノマーを用いてもよい。
【0020】
グラフトポリマーにおける相互作用性基を有するモノマー成分と架橋性基を有するモノマー成分との含有比としては、機能性素材の吸着と架橋構造形成の両立の観点からは、モル比で、30:70〜99:1が好ましく、50:50〜95:5がより好ましく、60:40〜90:10がさらに好ましい。
なお、機能性素材の吸着に関する事項及び架橋構造形成に関する事項の詳細は、後述する「機能性素材吸着層形成工程」及び「架橋構造形成工程」の説明において詳述する。
【0021】
以下、本発明におけるグラフトポリマーの形成に用いうる、相互作用性基を有するモノマー、及び架橋性基を有するモノマーについて詳細に説明する。
【0022】
−相互作用性基を有するモノマー−
グラフトポリマーが有する相互作用性基は、グラフトポリマーに吸着させる機能性素材に応じた相互作用性を有する官能基である。
本発明において、相互作用性基は機能性素材を吸着しうる官能基であるが、機能性素材が吸着していない場合には、架橋反応に用いられる構造を有する官能基として機能してもよい。
【0023】
本発明における相互作用性基としては、極性基であることが好ましく、イオン性基であることがより好ましい。従って、本発明における相互作用性基を有するモノマーとしては、イオン性基を有するモノマー(イオン性モノマー)が好適に用いられる。
【0024】
上記イオン性モノマーとしては、アンモニウム、ホスホニウムなどの正の荷電を有するモノマー、又は、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基などの負の荷電を有するか負の荷電に解離しうる酸性基を有するモノマー等が挙げられる。
【0025】
本発明において好適に用い得るイオン性基を形成し得るイオン性モノマーとは、前記したように、アンモニウム,ホスホニウムなどの正の荷電を有するモノマーもしくはスルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基などの負の荷電を有するか負の荷電に解離しうる酸性基を有するモノマーが挙げられる。
【0026】
本発明において特に有用なイオン性モノマーの具体例としては、次のモノマーを挙げることができる。例えば、(メタ)アクリル酸もしくはそのアルカリ金属塩およびアミン塩、イタコン酸もしくはそのアルカリ金属塩およびアミン酸塩、アリルアミンもしくはそのハロゲン化水素酸塩、3−ビニルプロピオン酸もしくはそのアルカリ金属塩およびアミン塩、ビニルスルホン酸もしくはそのアルカリ金属塩およびアミン塩、スチレンスルホン酸もしくはそのアルカリ金属塩およびアミン塩、2−スルホエチレン(メタ)アクリレート、3−スルホプロピレン(メタ)アクリレートもしくはそのアルカリ金属塩およびアミン塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸もしくはそのアルカリ金属塩およびアミン塩、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートもしくはそれらの塩、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートもしくはそのハロゲン化水素酸塩、3−トリメチルアンモニウムプロピル(メタ)アクリレート、3−トリメチルアンモニウムプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N,N−トリメチル−N−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピル)アンモニウムクロライド、などを使用することができる。
【0027】
また、本発明においては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−モノメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルアセトアミド、ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどの極性モノマーも有用である。
【0028】
本発明における相互作用性基を有するモノマーとしては、特に、アクリル酸などのアニオン性官能基を有するモノマー(アニオン性モノマー)が好ましい。
【0029】
−架橋性基を有するモノマー−
グラフトポリマーが有する架橋性基は、相互作用性基又は、グラフトポリマー中に含まれる他の官能基と反応し、共有結合を形成する反応性基であり、例えば、水酸基、メチロール基、グリシジル基、イソシアネート基、アミノ基、等の官能基が挙げられる。
【0030】
本発明においては用いうる架橋性基を有するモノマー(即ち、反応性モノマー)としては、公知のものから適宜選択して使用することができる。
架橋性基を有するモノマーの具体例としては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、3−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、3−ヒドロキシブチルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレートなどの水酸基を有するもの;N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、メチロールステアロアミドなどのメチロール基を有するもの;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどのグリシジル基を有するもの;2−イソシアネートエチルメタアクリレート(例えば、商品名:カレンズMOI,昭和電工)などのイソシアネート基を有するもの;2−アミノエチルアクリレート、2−アミノエチルメタアクリレートなどのアミノ基を有するものなどが挙げられるれる。
【0031】
(基材)
本発明において使用される基材としては、寸度的に安定な板状物であり、必要な可撓性、強度、耐久性等を満たせばいずれのものも使用でき、使用目的に応じて適宜選択される。
光透過性を必要とする透明基材を選択する場合には、例えば、ガラス、プラスチックフィルム(例えば、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール等)等が挙げられる。また、透明性を必要としない表面機能性部材の基材としては、上記のものに加えて、紙、プラスチックがラミネートされた紙、金属板(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、上記の如き金属がラミネート若しくは蒸着された紙若しくはプラスチックフィルム等を挙げることができる。
基材は、表面機能性部材の用途及び吸着される機能性素材との関係に応じて適宜選択されるが、加工性、透明性の観点からは、高分子樹脂からなる表面を有する基材が好ましく、具体的には、樹脂フィルム、表面に樹脂が被覆されているガラスなどの透明無機基材、表面層が樹脂層からなる複合材のいずれも好適である。
表面に樹脂が被覆されている基材としては、表面に樹脂フィルムが貼着された積層板、プライマー処理された基材、ハードコート処理された基材などが代表例として挙げられる。表面層が樹脂層からなる複合材としては、裏面に接着剤層が設けられた樹脂シール材、ガラスと樹脂との積層体である合わせガラスなどが代表例として挙げられる。
【0032】
例えば、本発明が好適に適用される赤外線カットフィルターの基材を例にすれば、窓ガラス、ディスプレイケース、レンズなどに要する場合には、視認性を確保し、透過光の色調を変更させないことが重要になるため、基材自体も光透過性に優れ、可視光領域に吸収のないものを選択することが好ましく、明るさを確保して赤外線による熱のみを遮断しようとする場合には、ある程度可視光領域に吸収を有するものでもよく、また、顔料や繊維のような光透過性を有しない材料を併用したものであってもよい。
光透過性の材料としては、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリジエチレングリコールビスアリルカーボネートなどの樹脂材料が好適である。
【0033】
また、基材は、その使用目的に応じて粗面化処理が行われていてもよい。
例えば、上記の赤外線カットフィルターの場合であれば、視認性を必要とする窓ガラスやビデオカメラ、カメラなどの光学機械の視感度補正用フィルターに適用する場合は、形成する表面凹凸性状を制御するため表面平滑性の透明基材を用いることが好ましいが、赤外線吸収剤の単位面積当たりの吸着量をより向上させるためには、表面積を増加させてより多くのイオン性基の導入を図る目的で、基材表面を予め粗面化することも可能である。
【0034】
基材を粗面化する方法としては基材の材質に適合する公知の方法を選択することができる。具体的には、例えば、基材が樹脂フィルムの場合には、グロー放電処理、スパッタリング、サンドブラスト研磨法、バフ研磨法、粒子付着法、粒子塗布法等が挙げられる。また、基材がガラス板などの無機材料の場合には、機械的に粗面化する方法が適用できる。機械的方法としては、ボール研磨法、ブラシ研磨法、ブラスト研磨法、バフ研磨法などの公知の方法を用いることができる。
【0035】
−基材表面或いは中間層−
本発明における基材は、上記した本発明におけるグラフトポリマーが化学的に結合できるような表面を有するものである。本発明においては、基材の表面自体がこのような特性を有していてもよく、このような特性を有する中間層を基材表面に設けてもよい。
【0036】
中間層としては、特に、光グラフト重合法、プラズマ照射グラフト重合法、放射線照射グラフト重合法によりグラフトポリマーを合成する場合には、有機表面を有する層であることが好ましく、特に有機ポリマーの層であることが好ましい。また有機ポリマーとしてはエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、スチレン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド系樹脂、メラミン系樹脂、フォルマリン樹脂などの合成樹脂、ゼラチン、カゼイン、セルロース、デンプンなどの天然樹脂のいずれも使用することができる。光グラフト重合法、プラズマ照射グラフト重合法、放射線照射グラフト重合法などではグラフト重合の開始が有機ポリマーの水素の引き抜きから進行するため、水素が引き抜かれやすいポリマー、特にアクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ樹脂などを使用することが、特に製造適性の点で好ましい。
【0037】
−重合開始能を発現する層−
本発明においては、基材表面に、エネルギーを付与することにより重合開始能を発現する化合物として、重合性化合物と重合開始剤を添加し、中間層或いは基材表面として重合開始能を発現する層を形成することが、活性点を効率よく発生させるという観点から好ましい。
重合開始能を発現する層(以下、適宜、重合性層と称する)は、必要な成分を、それらを溶解可能な溶媒に溶解し、塗布などの方法で基材表面上に設け、加熱又は光照射により硬膜し、形成することができる。
【0038】
(a)重合性化合物
重合性層に用いられる重合性化合物は、基材との密着性が良好であり、且つ、活性光線照射などのエネルギー付与により上層に含まれるモノマーが付加し得るものであれば特に制限はないが、中でも、分子内に重合性基を有する疎水性ポリマーが好ましい。
このような疎水性ポリマーとしては、具体的には、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリぺンタジエンなどのジエン系単独重合体、アリル(メタ)アクリレー卜、2−アリルオキシエチルメタクリレー卜などのアリル基含有モノマーの単独重合体;
更には、前記のポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリペンタジエンなどのジエン系単量体又はアリル基含有モノマーを構成単位として含む、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリルなどとの二元又は多元共重合体;
不飽和ポリエステル、不飽和ポリエポキシド、不飽和ポリアミド、不飽和ポリアクリル、高密度ポリエチレンなどの分子中に炭素−炭素二重結合を有する線状高分子又は3次元高分子類;などが挙げられる。
なお、本明細書では、「アクリル、メタクリル」の双方或いはいずれかを指す場合、「(メタ)アクリル」と表記することがある。
重合性化合物の含有量は、重合性層中、固形分で0〜100質量%の範囲が好ましく、10〜80質量%の範囲が特に好ましい。
【0039】
(b)重合開始剤
本発明における重合性層には、エネルギー付与により重合開始能を発現させるための重合開始剤を含有することが好ましい。ここで用いられる重合開始剤は、所定のエネルギー、例えば、活性光線の照射、加熱、電子線の照射などにより、重合開始能を発現し得る公知の熱重合開始剤、光重合開始剤などを目的に応じて、適宜選択して用いることができる。中でも、熱重合よりも反応速度(重合速度)が高い光重合を利用することが製造適性の観点から好適であり、このため、光重合開始剤を用いることが好ましい。
光重合開始剤は、照射される活性光線に対して活性であり、重合性層に含まれる重合性化合物と、上層に含まれる重合性基を有する化合物とを重合させることが可能なものであれば、特に制限はなく、例えば、ラジカル重合開始剤、アニオン重合開始剤、カチオン重合開始剤などを用いることができる。
【0040】
そのような光重合開始剤としては、具体的には、例えば、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、2,2’−ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンの如きアセトフェノン類;ベンゾフェノン(4,4’−ビスジメチルアミノベンゾフェノン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、の如きケトン類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルの如きベンゾインエーテル類;ベンジルジメチルケタール、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの如きベンジルケタール類、などが挙げられる。
重合開始剤の含有量は、重合性層中、固形分で0.1〜70質量%の範囲が好ましく、1〜40質量%の範囲が特に好ましい。
【0041】
重合性化合物及び重合開始剤を塗布する際に用いる溶媒は、それらの成分が溶解するものであれば特に制限されない。乾燥の容易性、作業性の観点からは、沸点が高すぎない溶媒が好ましく、具体的には、沸点40℃〜150℃程度のものを選択すればよい。
具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、トルエン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、アセチルアセトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、3−メトキシプロパノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3−メトキシプロピルアセテートなどが挙げられる。
これらの溶媒は、単独或いは混合して使用することができる。そして塗布溶液中の固形分の濃度は、2〜50質量%が適当である。
【0042】
重合性層を基板上に形成する場合の塗布量は、充分な重合開始能の発現、および、膜性を維持して膜剥がれを防止するといった観点からは、乾燥後の質量で、0.1〜20g/m2が好ましく、更に、1〜15g/m2が好ましい。
【0043】
上記のように、基材表面上に上記の重合性層形成用の組成物を塗布などにより配置し、溶剤を除去することにより成膜させて重合性層を形成するが、このとき、加熱及び/又は光照射を行って硬膜することが好ましい。特に、加熱により乾燥した後、光照射を行って予備硬膜しておくと、重合性化合物のある程度の硬化が予め行なわれるので、基材上にグラフトポリマーが生成した後に重合性層ごと脱落するといった事態を効果的に抑制し得るため好ましい。ここで、予備硬化に光照射を利用するのは、前記光重合開始剤の項で述べたのと同様の理由による。
加熱温度と時間は、塗布溶剤が充分乾燥し得る条件を選択すればよいが、製造適正の点からは、温度が100℃以下、乾燥時間は30分以内が好ましく、乾燥温度40〜80℃、乾燥時間10分以内の範囲の加熱条件を選択することがより好ましい。
【0044】
加熱乾燥後に所望により行われる光照射は、光源として、例えば、水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ、カーボンアーク灯等がある。放射線としては、電子線、X線、イオンビーム、遠赤外線などがある。また、g線、i線、Deep−UV光、高密度エネルギービーム(レーザービーム)も使用される。引き続き行われるグラフトパターンの形成と、エネルギー付与により実施される重合性層の活性点とグラフト鎖との結合の形成を阻害しないという観点から、重合性層中に存在する重合性化合物が部分的にラジカル重合しても、完全にはラジカル重合しない程度に光照射することが好ましく、光照射時間については光源の強度により異なるが、一般的には30分以内であることが好ましい。このような予備硬化の目安としては、溶剤洗浄後の膜残存率が10%以上となり、且つ、予備硬化後の開始剤残存率が1%以上であることが、挙げられる。
【0045】
また、本発明における基材上にグラフトポリマーを生成させる好適な態様の一つとして、基材表面に重合開始能を有する化合物を結合させ、かかる化合物が有する重合開始部位を起点として、グラフトポリマー生成させる態様が挙げられる。
上記態様に適用しうる重合開始能を有する化合物としては、例えば、光開裂によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位(Q)と基材結合部位(Y)とを有する化合物(以下、適宜「光開裂化合物(Q−Y)」と称する。)等が挙げられる。
【0046】
以下、光開裂化合物(Q−Y)を基材表面に結合させてる方法について説明する。
光開裂化合物(Q−Y)を基材表面に結合させるには、基材上に光開裂化合物(Q−Y)を付与し、基材表面と接触させ、基材表面に存在する官能基(Z)と、基材結合部位(Q)とを結合させて、基材表面に光開裂化合物(Q−Y)を導入すればよい。
【0047】
基材表面に存在する官能基(Z)としては、具体的には、例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基などが挙げられる。これらの官能基はシリコン基板、ガラス基板における基材の材質に起因して基材表面にもともと存在しているものでもよく、基材表面にコロナ処理などの表面処理を施すことにより表面に存在させたものであってもよい。
【0048】
光開裂によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位(以下、単に「重合開始部位(Y)」と称する。)は、光により開裂しうる単結合を含む構造である。
この光により開裂する単結合としては、カルボニルのα開裂、β開裂反応、光フリー転位反応、フェナシルエステルの開裂反応、スルホンイミド開裂反応、スルホニルエステル開裂反応、N−ヒドロキシスルホニルエステル開裂反応、ベンジルイミド開裂反応、活性ハロゲン化合物の開裂反応、などを利用して開裂が可能な単結合が挙げられる。これらの反応により、光により開裂しうる単結合が切断される。この開裂しうる単結合としては、C−C結合、C−N結合、C−O結合、C−Cl結合、N−O結合、及びS−N結合等が挙げられる。
【0049】
また、これらの光により開裂しうる単結合を含む重合開始部位(Y)は、グラフトポリマー生成工程におけるグラフト重合の起点となることから、光により開裂しうる単結合が開裂すると、その開裂反応によりラジカルを発生させる機能を有する。このように、光により開裂しうる単結合を有し、かつ、ラジカルを発生可能な重合開始部位(Y)の構造としては、以下に挙げる基を含む構造が挙げられる。
【0050】
芳香族ケトン基、フェナシルエステル基、スルホンイミド基、スルホニルエステル基、N−ヒドロキシスルホニルエステル基、ベンジルイミド基、トリクロロメチル基、ベンジルクロライド基、などが挙げられる。
【0051】
このような重合開始部位(Y)は、露光により開裂して、ラジカルが発生すると、そのラジカル周辺に重合可能な化合物が存在する場合には、このラジカルがグラフト重合反応の起点として機能し、所望のグラフトポリマーを生成することができる。
【0052】
基材結合部位(Q)としては、基材表面に存在する官能基(Z)と反応して結合しうる反応性基で構成され、その反応性基としては、具体的には、以下に示すような基が挙げられる。
【0053】
【化1】

【0054】
重合開始部位(Y)と、基材結合部位(Q)と、は直接結合していてもよいし、連結基を介して結合していてもよい。この連結基としては、炭素、窒素、酸素、及びイオウからなる群より選択される原子を含む連結基が挙げられ、具体的には、例えば、飽和炭素基、芳香族基、エステル基、アミド基、ウレイド基、エーテル基、アミノ基、スルホンアミド基、等が挙げられる。また、この連結基は更に置換基を有していてもよく、その導入可能な置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、等が挙げられる。
【0055】
基材結合部位(Q)と、重合開始部位(Y)と、を有する化合物(Q−Y)の具体例〔例示化合物1〜例示化合物16〕を、開裂部と共に以下に示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0056】
【化2】

【0057】
【化3】

【0058】
【化4】

【0059】
光開裂化合物(Q−Y)を基材表面に存在する官能基(Z)に結合させる具体的な方法としては、光開裂化合物(Q−Y)を、トルエン、ヘキサン、アセトンなどの適切な溶媒に溶解又は分散し、その溶液又は分散液を基材表面に塗布する方法、又は、溶液又は分散液中に基材を浸漬する方法などを適用すればよい。このとき、溶液中又は分散液の光開裂化合物(Q−Y)の濃度としては、0.01質量%〜30質量%が好ましく、特に0.1質量%〜15質量%であることが好ましい。接触させる場合の液温としては、0℃〜100℃が好ましい。接触時間としては、1秒〜50時間が好ましく、10秒〜10時間がより好ましい。
【0060】
以上のようにして、基材上にグラフトポリマーが結合され、しかる後に、機能性素材吸着層形成工程が行われる。
【0061】
<機能性素材吸着層形成工程>
機能性素材吸着層形成工程においては、前記グラフトポリマー生成工程により、基材上に結合されたグラフトポリマーに、機能性素材を吸着させて機能性素材吸着層を形成する。
本発明における機能性素材は、機能性表面の目的に応じて適宜選択すればよい。機能性素材の形態についても、微粒子、低分子等の形態が適宜選択される。
機能性素材が微粒子である場合には、微粒子の粒径も目的に応じて選択することができる。微粒子はイオン的に吸着するため、微粒子の表面電荷、イオン性基の数により、粒径や吸着量が制限されることはいうまでもない。粒径は、一般的には0.1nmから1μmの範囲であることが好ましく、1nmから300nmの範囲であることがさらに好ましく、5nmから100nmの範囲であることが特に好ましい。
グラフトポリマーに結合する粒子は、極性基としてイオン性基を挙げて説明するに、イオン性基の存在状態に応じて、規則正しくほぼ単層状態に配置されたり、長いグラフト鎖のそれぞれのイオン性基にナノスケールの微粒子が一つづつ吸着し、結果として多層状態に配列されたりする。
【0062】
次に、本発明に用い得る機能性素材の例について、表面機能性部材の目的に応じて具体的に説明する。
【0063】
1.機能性素材
1−1.反射防止部材用微粒子
本発明の機能性部材を反射防止部材として用いる場合には、機能性微粒子として、樹脂微粒子、及び、金属酸化物微粒子から選択される少なくとも1種の微粒子を用いることが好ましい。このような微粒子を用いることで、画像表示体表面へ好適に用いられる、均一で優れた反射防止能を有し、画像コントラストを低下させることなく鮮明な画像を得ることができ、優れた耐久性を達成し得る反射防止材料に好適に用い得る粗面化部材を提供することができる。
【0064】
樹脂微粒子ではコアと呼ばれる微粒子の中心部分は有機ポリマーであり、金属酸化物微粒子としては、シリカ(SiO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnO2)などが好適なものとして挙げられる。また、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、クレー、タルク等のいわゆる透明顔料、白色顔料と呼ばれる顔料微粒子なども以下に述べる好ましい形状を有するものであれば使用することができる。
樹脂微粒子としては耐久性の観点から硬度の高いものが好ましく、具体的には例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂などの樹脂からなる球状微粒子が挙げら、なかでも、架橋樹脂微粒子が好ましい。
この用途においては、微粒子の粒径は、100nmから300nmの範囲であることが好ましく、100nmから200nmの範囲であることがさらに好ましい。本態様においては、グラフト界面とイオン的に結合する粒子は規則正しくほぼ単層状態に配置される。本発明の粗面化部材を特に反射防止材料として用いる場合には、反射を防止すべき波長(λ)に対して、λ/4となるように膜厚を制御することが効果の観点からは好ましく、微粒子の粒径は粗面化層の膜厚とほぼ同一になることを考慮すれば、粒径が100nmよりも小さくなると、粗面化層が薄くなりすぎて反射防止性が低下する傾向にあり、また、300nmよりも大きくなると、拡散反射が大きく、白濁が著しくなるため、透明感が得がたく、且つ、グラフト界面とイオン的に結合する接触面積が小さくなりすぎて、粗面化層の強度が低下する傾向がでてくる。
【0065】
1−2.導電膜用微粒子
本発明の機能性部材を導電膜として用いる場合には、機能性微粒子として、導電性樹脂微粒子、導電性或いは半導体の金属微粒子、金属酸化物微粒子、及び、金属化合物微粒子から選択される少なくとも1種の微粒子を用いることが好ましい。
導電性金属微粒子又は金属酸化物微粒子としては、比抵抗値が1×103Ω・cm以下の導電性金属化合物粉末であれば幅広く用いることができ、具体的には、例えば、銀(Ag)、金(Au)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、錫(Sn)、鉛(Pb)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)などの単体とその合金の他、酸化錫(SnO2)、酸化インジウム(In23)、ITO(Indium Tin Oxide)、酸化ルテニウム(RuO2)、などを用いることができる。
また、半導体としての特性を有する金属酸化物、金属化合物微粒子を用いてもよく、例えば、In23、SnO2、ZnO、Cdo、TiO2、CdIn24、Cd2SnO2、Zn2SnO4、In23−ZnOなどの酸化物半導体微粒子、及びこれらに適合する不純物をドーパントさせた材料を用いた微粒子、さらには、MgInO、CaGaOなどのスピネル形化合物微粒子、TiN、ZrN、HfNなどの導電性窒化物微粒子、LaBなどの導電性ホウ化物微粒子などが挙げられる。これらは単独で又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0066】
1−3.表面抗菌性材料用微粒子
本発明の機能性部材を抗菌性材料として用いる場合には、機能性微粒子として、抗菌作用、殺菌作用を有する金属或いは金属酸化物微粒子を用いることが好ましい。
このような金属(化合物)微粒子を形成し得る材料としては、具体的には、例えば、銀(Ag)、銅(Cu)などの殺菌性を有する金属単体と、これらを1種以上含有するその合金、或いはこれらの金属酸化物が挙げられる。また、金属化合物半導体であって、蛍光灯や太陽光など紫外領域の波長を含む光の照射によって殺菌作用を発現する酸化チタン、酸化鉄、酸化タングステン、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム等、及び、これらを白金、金、パラジウム、銀、銅、ニッケル、コバルト、ロジウム、ニオブ、スズなどで修飾した金属化合物などが挙げられる。
【0067】
1−4.紫外線吸収部材用微粒子
本発明の機能性部材を紫外線吸収部材として用いる場合には、機能性微粒子として、例えば、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化コバルト、酸化クロム、酸化錫、酸化アンチモン等の金属酸化物微粒子を用いることが、紫外線A,B領域(光波長280〜400nm)における高い遮蔽機能を有するため好ましい。本発明において、基材として高分子化合物を用い、これと複合化することにより紫外線遮蔽フィルム・シートとしての高い機能と加工性が発現され、種々の応用が期待される。また、金属酸化物の紫外線遮蔽効果を利用して高分子素材の耐光性を改良することも期待される。
【0068】
1−5.光学材料用微粒子
光学機器に用いられるカラーフィルター、シャープカットフィルター、非線形光学材料などに用いる機能性微粒子としては、CdS、CdSe等の半導体又は金等の金属からなる微粒子が挙げられ、基材としてシリカガラス又はアルミナガラスを用いることで、カラーフィルターなどに好適に用いられるのみならず、3次の光非線形感受率が大きいことが確認されてから、光スイッチ、光メモリ用材料などの非線形光学材料として期待される。ここで用いられる微粒子としては、具体的には、金、白金、銀、パラジウム等の貴金属又はその合金等が挙げられ、安定性の観点から、金、白金等のアルカリによって急激に溶解することのない物質等が好適に挙げられる。
【0069】
また、非線形光学材料として好適な金属(化合物)の超微粒子としては、具体的には、例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、オスミウム(Os)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、ルテニウム(Ru)などの単体と、これらを1種以上含有するその合金であって、10〜1000オングストロームの平均粒子径を有する超微粒子が挙げられる。なお、この粒子径は1次粒子、2次粒子のいずれであってもよいが、可視光を散乱させないものが好ましい。なかでも、トルエン等の溶剤中に独立分散した粒径10nm以下の、Au,Pt,Pd,Rh,Agから選ばれた貴金属微粒子、あるいはTi,V,Cr,Mn,Fe,Ni,Cu,Zn,Cd,Y,W,Sn,Ge,In,Gaから選ばれた金属微粒子が好適に挙げられる。
【0070】
これらの超微粒子を用いて、通常の方法、即ち、ゾル−ゲル法、含浸法、スパッタ法、イオン注入法、あるいは溶融析出法などにより非線形光学材料を作成する場合、微粒子が非常に凝集しやすいため、複合物中の微粒子濃度を増加させることが困難となったり、生産性が低下する、などの問題が生じていた。特に、微粒子の濃度が低く、物理特性に微粒子の寄与する割合が小さいものは、用途が限定され、3次の非線形光学効果を利用した画像メモリ、光集積回路などには不向きであった。本発明の構成によれば、微粒子は基材表面のイオン性基に直接イオン的に結合し、該イオン性基はグラフトにより高密度で存在するため、微粒子濃度を容易に増加させることができ、光学材料中において、このような非線形光学材料用途に特に好適であるといえる。
【0071】
1−6.ガスバリアフィルム用微粒子
本発明の表面機能性部材をガスバリアフィルムとして用いる場合には、機能性微粒子として、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化チタン、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化錫のような無機化合物、又はアルミニウム、錫、亜鉛のような金属から作られる超微粉末、即ち平均粒子径が100nm以下、好ましくは50nm以下の微粒子が好ましい。超微粉末は、前記の無機化合物や金属から選ばれる1種又は、2種以上の混合物の形態で用いることができる。超微粉末として酸化ケイ素のような絶縁性無機化合物を用いることによって、機能性部材全体に絶縁性を持たせることが可能になる。前記超微粉末は、特に超微粉末化が容易な酸化ケイ素が好ましい。
また、基材としては、ガスバリア性の高い有機樹脂フィルム、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリプロピレン、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコールなどを用いることが好ましい。
【0072】
1−7.有機発光素子用微粒子
微粒子として、ホットキャリアーによる励起によって発光する有機色素分子うが凝集した微粒子を用い、電極を有する基材表面にこれらによる層を形成することで、有機発光素子を形成することができる。ここで用いられる有機色素としては以下のようなものが挙げられるが、もちろんそれらに限定されるものではなく、固体光機能素子の使用目的等を考慮して適宜選択される。
【0073】
p−ビス[2−(5−フェニルオキサゾール)]ベンゼン(POPOP)等の青色発光のオキサゾール系色素;クマリン2、クマリン6、クマリン7、クマリン24、クマリン30、クマリン102、クマリン540等の緑色発光のクマリン系色素;ローダミン6G、ローダミンB、ローダミン101、ローダミン110、ローダミン590、ローダミン640等の赤色発光のローダミン系(赤色)色素;およびオキサジン1、オキサジン4、オキサジン9、オキサジン118等の近赤外領域の発光が得られ、特に光通信に適合した光機能素子に好適なオキサジン系色素などが挙げられる。
さらにフタロシアニン、ヨウ化シアニン化合物等のシアニン系色素等をも挙げられる。なお、これらの色素を選択する際に、アクリル樹脂等の高分子に溶けやすいものを選択することが薄膜形成の目的上好ましい。そのような色素としては、POPOP、クマリン2、クマリン6、クマリン30、ローダミン6G、ローダミンB、ローダミン101等が挙げられる。
【0074】
また、有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)膜に使われる有機分子、例えば8−ヒドロキシキノリンアルミニウム(AlQ3)、1,4ビス(2,2ジフェニルビニル)ビフェニル、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)誘導体、ジスチリルアリレーン誘導体、スチリルビフェニル誘導体、フェナントロリン誘導体等、あるいは該有機分子に添加物を加えた媒体などにより形成された微粒子であってもよい。
【0075】
1−8.赤外線吸収部材(赤外線カットフィルター)用素材
本発明の機能性部材を赤外線カットフィルターとして用いる場合には、機能性素材として、赤外線吸収剤を用いることができる。
赤外線吸収剤としては、波長760nmから1200nmに吸収極大を有する赤外線吸収性染料(赤外線吸収色素)が好ましく挙げられる。赤外線吸収色素としては耐光堅牢度が高いものが安定性、耐久性の観点から好ましく、また、透明性、即ち、可視光の透過性に優れた赤外線カットフィルターを得ようとする場合には、極大吸収が長波長側にあるものが好ましい。
代表的なものとしては、シアニン色素を含むポリメチン系色素、フタロシアニン系色素、ナフトキノン・アントラキノン系色素、ジチオール金属錯体系色素、トリフェニルメタン系色素、アミニウム・ジインモニウム系色素などが挙げられる。なかでも、安定性の観点からはピリリウム・チオピリリウム系、スクワリリウム系などのポリメチン色素が好ましく、また、透明性の観点からは、極大吸収波長を900nmを超える長波長域に有するアミニウム・ジインモニウム系色素が好ましい。
これら赤外線吸収剤としては、例えば、池田忠三郎ら編「特殊機能色素−技術と市場−」(CMC社、1986年)に記録表示用の色素として記載されている各種赤外線吸収色素やメガネレンズに用いる赤外線吸収色素なども好適に使用しうる。また、本願出願人が先に提出した特願2001−4748号明細書段落番号〔0039〕乃至〔0065〕に光熱変換剤として例示される染料なども適用可能である。
【0076】
以上、1−1〜1−8において、本発明の表面機能性部材の応用例とその分野で好適に用いられる機能性素材を具体例を挙げて説明したが、本発明はこれに制限されるものではなく、少なくとも片面にグラフトポリマーが結合してなる基材と、該グラフトポリマーと結合しうる物性を有する機能性素材の種類を選択し、それらを適宜組合せることで、機能性素材が有する物性を生かした機能性の表面を有する部材を種々、構成することができることは言うまでもない。
【0077】
2.機能性素材の物性(グラフトポリマーが有する官能基とイオン的に結合する場合の荷電)について
機能性素材の物性については、例えば、シリカ微粒子のようにそれ自体荷電を有するものである場合や、赤外線吸収剤のように通常は塗布液中でイオンに解離している状態のものを用いる場合であれば、当該機能性素材が有する荷電とは反対のイオン性基を有するグラフトポリマーを選択してこれを結合させたグラフトポリマー層に、当該機能性素材をそのまま吸着させることができる。
また、機能性部材が微粒子である場合には、イオン性基と吸着させる目的で、公知の方法により表面に高密度で荷電を有する微粒子を作製し、それをグラフトポリマーが有するイオン性基に吸着させることもできる。このような場合、微粒子の選択の幅を広げることが可能となる。
【0078】
機能性素材は、基材上に存在するグラフトポリマーが有するイオン性基に吸着し得る最大量で結合されることが耐久性の点で好ましい。
例えば、機能性素材として微粒子が用いられる場合であれば、機能性表面における機能性発現の効率からは、微粒子含む分散液の分散濃度は、0.01〜10質量%程度が好ましい。また、赤外線吸収剤等のイオンに解離している素材を含む塗布液が用いられる場合であれば、塗布液中の機能性素材の濃度は、0.01〜10質量%程度が好ましい。
【0079】
3.機能性素材吸着の態様
グラフトポリマー層に機能性素材を吸着させ、機能性素材吸着層を設ける方法としては、機能性素材を溶解又は分散した液を、グラフトポリマーが直接結合した基材上に塗布する方法、及び、表面上に荷電を有する微粒子の分散液中にグラフトポリマーが直接結合した基材を浸漬する方法などが挙げられる。塗布、浸漬のいずれの場合にも、過剰量の機能性素材が供給され、グラフトポリマー層との間に充分な吸着が行われるためには、溶解、分散液と、グラフトポリマーが結合した表面を有する基材との接触時間は、10秒から180分程度であることが好ましく、1分から100分程度であることがさらに好ましい。
機能性素材吸着の具体的な態様の例として、下記(1)及び(2)を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0080】
(1)相互作用性基として、正の電荷を有するアンモニウムの如きイオン性モノマーを用いて基材表面にイオン性基を有するグラフトポリマー鎖を導入し、その後、シリカ微粒子分散液にこの基材を所定時間浸漬し、その後、余分な分散液を水により洗浄、除去することで、透明基材の表面にはシリカ微粒子が、イオン性基の存在密度に応じて、ほぼ1層の状態から多層の状態まで、いずれも緻密に吸着してなる微粒子吸着層(機能性素材吸着層)が形成される。
【0081】
(2)正の電荷を有するアンモニウムの如きイオン性モノマーを用いて透明基材の表面にイオン性基を導入し、その後、下記式で表されるメルカプトナフトール金属錯塩(極大吸収波長:1110nm)の分散液にこの基材を所定時間浸漬し、その後、余分な分散液を水により洗浄、除去することで、透明基材の表面には赤外線吸収剤が緻密に吸着してなる赤外線吸収層(機能性素材吸着層)が形成される。
【0082】
【化5】

【0083】
このようにして、機能性素材吸着層を設けることができる。機能性素材吸着層の膜厚は目的により選択できるが、耐キズ性や透明性などの観点からは、一般的には、0.001μm〜10μmの範囲が好ましく、0.01μm〜5μmの範囲がさらに好ましく、0.03μm〜2μmの範囲が最も好ましい。
【0084】
<架橋構造形成工程>
架橋構造形成工程においては、前記機能性素材吸着工程により形成された機能性素材吸着層にエネルギーを付与することにより、該機能性素材吸着層中に架橋構造を形成する。
【0085】
架橋構造形成においては、(1)機能性素材が吸着していない相互作用性基が架橋構造形成に用いられる態様であってもよいし、(2)相互作用性基は機能性素材を吸着するのみであって架橋構造形成に用いられない態様であってもよい。
【0086】
上記(1)及び(2)の架橋構造形成におけるグラフトポリマーの例は以下の通りである。
上記(1)の場合としては、例えば、グラフトポリマーが、カルボキシル基を有するモノマーとグリシジル基を有するモノマーの二元重合体である場合が挙げられる。
上記(2)の場合としては、例えば、グラフトポリマーが、カルボキシル基を有するモノマーと、水酸基を有するモノマーと、イソシアネート基を有するモノマーとの三元重合体である場合や、グラフトポリマーが、カルボキシル基を有するモノマーと、N−メチロールアクリルアミド等のそれ自身が反応して架橋構造を形成しうるモノマーとの二元重合体である場合等が挙げられる。
【0087】
架橋反応は、機能性素材吸着層に対して、グラフフトポリマー生成とは異なる条件のエネルギーを付与することにより生起される。エネルギー付与の態様としては、加熱、光照射、超音波、電子線照射等が挙げられる。
本発明においては、加熱により架橋構造を形成させる態様であることが好ましい。具体的な例としては、グラフトポリマーが有する相互作用性基であるカルボキシル基と架橋性基であるグリシジル基との反応を挙げることができる。
【0088】
エネルギー付与が加熱により行われる場合であれば、加熱手段としては、例えば、ヒーターを用いたオーブン、ホットプレート、赤外線や可視光を用いた光熱変換による加熱等を用いることができる。
また、加熱処理は、形成されるグラフトポリマーの種類によっても異なるが、50℃〜300℃で0.1秒〜60分程度加熱することにより行われる。
エネルギー付与が光照射により行われる場合であれば、光照射手段としては、例えば、低圧〜超高圧までの各水銀灯、メタルハライドランプ、Xeランプなどの紫外から可視域までの光源等を用いることができる。
【0089】
なお、本発明により形成される架橋構造における架橋率は、溶媒に一定時間浸漬した後の架橋膜(機能性素材吸着層)の重量増加率で見積もることができる。溶媒は形成された膜と最も親和性の高い溶媒から選ばれるものであり、グラフトポリマーが極性モノマー又はイオン性モノマーを含んで構成される場合には、水、又は、N,N−ジメチルアセトアミドなどを選択することができる。架橋された膜の好ましい重量増加率は30%以下、さらに好ましくは10%以下、特に好ましくは5%以下である。
【0090】
以上説明した、本発明の製造方法に係る各工程により、表面機能性部材(本発明の表面機能性部材)を製造することができる。
【0091】
本発明により得られる表面機能性部材は、グラフトポリマーを基板上に直接結合させたことにより、該グラフトポリマーが有する相互作用性基に、赤外線吸収剤やシリカに代表される金属酸化物微粒子などの特定の機能を有する素材(機能性素材)が、静電気的に高密度で均一に吸着した、耐久性に優れた機能性素材吸着層を有する。また、本発明においては、バインダーを用いることなく、しかも、グラフトポリマーが有する相互作用性基に機能性素材が単層状態或いは多層状態で吸着した表面層が形成されているため、該表面は機能性素材の物性をそのまま反映した機能性表面となる。さらには、機能性素材吸着層中に架橋構造が形成されることで、機能性素材が機能性素材吸着層中に安定に固定化されることから、表面機能性部材が使用される環境等に起因して機能性素材の脱離れが生じることもなく、機能性素材の保持性を持続させることができる。
【0092】
例えば、機能性素材として粗面化部材用の微粒子を用いた場合であれば、微粒子の形状均一な凹凸性を有し、均一で緻密な凹凸を有する粗面化層が形成される。この粗面化部材を反射防止材料として用いた場合であれば、高い反射防止能が達成されながらその層自体は薄層で、基材として透明基材を用いることで光透過性を妨げる懸念がなくなることから、反射型のみならず、透過型の画像表示体にも好適に使用できる。
【0093】
機能性素材として赤外線吸収剤を用いた場合であれば、グラフトポリマーが有する極性基(イオン性基)に、シアニン色素に代表される赤外線吸収剤が、静電気的に高密度で均一に吸着した層が形成された赤外線吸収部材(赤外線カットフィルター)とすることができる。このような赤外線カットフィルターにおいては、赤外線吸収剤が赤外線カットフィルター表面に局在することから、均一で、且つ、吸着した赤外線吸収剤の量に比較して高い赤外線カット性を有する赤外線吸収層(機能性素材吸着層)が形成されている。さらに、この赤外線カットフィルターを熱遮断用のフィルターなどに用いた場合、高い赤外線吸収能が達成されながらその層自体は薄層で、基材として透明基材を用いることで可視光の透過性を妨げる懸念がなくなることから、視認性を妨げず、透過光の色調を変えることもない。
【0094】
以上のように、本発明においては、機能性素材を適宜選択することで、機能性素材の特性を反映させることができる。また、機能性素材が吸着してなる機能性素材吸着層は、任意の基材表面に比較的簡易な処理で形成することが可能である。さらには、優れた機能性を発現しうる機能性素材吸着層の耐久性が良好であるため、多用な目的に好適に使用しうるという利点を有する。
【0095】
本発明により得られる表面機能性部材の用途に関してさらに例示すれば、機能性素材を選択することで、導電性の有機或いは無機微粒子を用いることで、機能性表面に電子・電気的機能を、フェライト粒子などの磁性体微粒子を用いることで磁気的機能を、特定の波長の光を吸収、反射、散乱するような微粒子を用いて光学的機能を、というように種々の機能を機能性表面に発現させることができ、種々の工業製品、医薬品、触媒、バリスター(可変抵抗器)、塗料、化粧品など幅広い分野で使用することができる。また、種々の微粒子構成材料が有するこれらの多種多様な機能に加え、基材として高分子材料を用いることにより、高分子材料が有する成形加工の容易性をも利用することができ、新規な材料の開発も期待される。
【0096】
適用範囲の具体例を述べれば、例えば、光学部品、サングラス、紫外線・可視光・赤外線などの光に対する、遮蔽フィルム、遮蔽ガラス、遮光窓、遮光容器、遮光プラスチックボトル等への適用、抗菌性フィルム、微生物除菌フィルター、抗菌性プラスチック成形体、漁網、テレビ用部品、電話機用部品、OA機器用部品、電気掃除機用部品、扇風機用部品、エアーコンディショナー用部品、冷蔵庫用部品、洗濯機用部品、加湿器用部品、食器乾燥機用部品などの各種のOA機器や家電製品、あるいは便座、洗面台用部品などのサニタリー用品、その他の建材、車両部品、日用品、玩具、雑貨などの幅広い用途が挙げられる。
【実施例】
【0097】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0098】
[実施例1]
本実施例では、本発明の表面機能性部材である赤外線カットフィルターを、以下のようにして作製した。
【0099】
1.グラフトポリマー生成工程
基材として、膜厚188μの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(A4100、東洋紡(株)社製)を用い、グロー処理として平版マグネトロンスパッタリング装置(芝浦エレテック製CFS−10−EP70)を使用し、下記の条件で酸素グロー処理を行った。
−酸素グロー処理条件−
初期真空 :1.2×10-3Pa
酸素圧力 :0.9Pa
RFグロー:1.5kW,処理時間:60sec
【0100】
−グラフトポリマーの生成−
次に、グロー処理したフィルムをアクリル酸/グリシジルメタクリレート(80/20モル比)の5wt%水溶液に浸漬して窒素雰囲気下で70℃で7時間加熱した。加熱後、基材を取りだし、蒸留水で一夜浸漬した。その後、さらに流水で余分なポリマーを洗い流した。以上のようにして、アクリル酸とグリシジルメタクリレートとの共重合体が基材表面にグラフトポリマー化された基材を得た。得られたを基材Aとする。
【0101】
2.機能性素材吸着層形成工程
本実施例においては、機能性素材として赤外線吸収剤を用いた。赤外線吸収剤としては、溶液中で正電荷を有する下記構造のシアニン色素(メタノール中での極大吸収波長813nm)を使用した。
【0102】
−基材Aへの赤外線吸収剤溶液の塗布−
下記シアニン色素 0.05gとメタノール5gとからなる溶液中に、上記により得られた基材Aを20分間浸漬した。その後、流水で表面を充分洗浄して余分な赤外線吸収剤溶液を除去し、基材Aの表面に赤外線吸収層(機能性素材吸着層)を形成した。
【0103】
【化6】

【0104】
3.架橋構造形成工程
赤外線吸収層が形成された基材Aを、ホットプレート(型式:T2B、Banstead社製)を用いて、140℃で5分加熱を行い、グラフトポリマーが有するカルボキシル基とグリシジル基を架橋させた。
以上のように、実施例1の表面機能性部材である赤外線カットフィルターを得た。これを赤外線カットフィルター(1−1)とした。
【0105】
[比較例1]
実施例1のクラフトポリマー生成工程のグラフトポリマー生成において、アクリル酸とグリシジルメタクリレート(80/20モル比)とからなるグラフトポリマーを基材表面に結合させる代わりに、下記の方法によりアクリル酸からなるグラフトポリマーを基材表面に結合させ、さらに、架橋構造形成工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にして比較例1の表面機能性部材である赤外線カットフィルターを得た。これを赤外線カットフィルター(1−2)とした。
【0106】
−グラフトポリマーの生成−
実施例1と同様にして得られたグロー処理したフィルムを、窒素バブルしたアクリル酸水溶液(10wt%)に70℃にて7時間浸漬した。浸浸したフィルムを水にて8時間洗浄することにより、アクリル酸が基材表面にグラフトポリマー化された基材を得た。
【0107】
<評価1−1>
機能性素材の保持性の評価を以下のように行った。
得られた赤外線カットフィルター(1−1)及び(1−2)を飽和食塩水に10分間浸漬し、浸漬前後の赤外線透過率(%)を比較することにより、機能性素材の保持性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0108】
<評価1−2>
耐久性の評価として擦り試験を行った。
得られた赤外線カットフィルター(1−1)及び(1−2)の表面を、水で湿らせた綿(BEMCOT、旭化成工業社製)を用いて手で往復100回擦った。評価は、擦り前後における赤外線透過率(%)を比較することにより行った。結果を下記表1に示す。
【0109】
<評価1−3>
架橋構造の形成性の重量増加率(%)で見積もることにより評価した。
評価は、得られた赤外線カットフィルター(1−1)及び(1−2)を、水に1時間浸漬し、浸漬前後の重量増加率(%)を比較することにより行った。
【0110】
【表1】

【0111】
表1に示されるように、赤外線吸収剤層(機能性素材吸着層)中に架橋構造を形成した、実施例の赤外線カットフィルタ(1−1)は、飽和食塩水浸漬前後における赤外線透過率の変化がなく、赤外線吸収剤の保持性が高いことが分かる。一方、赤外線吸収剤層に架橋構造を形成しなかった、比較例の赤外線カットフィルター(1−2)は、飽和食塩水浸漬前は、実施例と同様の赤外線透過率であったものの、飽和食塩水浸漬後では赤外線透過率が著しく増加しており、赤外線吸収剤層における赤外線吸収剤の保持性及びその持続性が低いことが分かる。
また、実施例の赤外線カットフィルタ(1−1)は、重量増加率が低く、赤外線吸収剤層に充分な架橋構造が形成されていることが推認できる。
【0112】
[実施例2−1〜2−3]
本実施例では、ガラス基材上に色素を吸着させた表面機能性部材を作製した。
1.グラフトポリマー生成工程
−重合開始能を有する化合物が結合した基材の作製−
ガラス基板(日本板硝子(株))を、終夜、ピランハ液(硫酸/30%過酸化水素=1/1容積比混合液)に浸漬した後、純水で洗浄した。その基材を、窒素置換したセパラブルフラスコ中に入れ0.5wt%の下記化合物Aの脱水トルエン溶液に浸漬し、1時間加熱還流した。取り出し後、トルエン、アセトン、純水で順に洗浄した。得られた基材を基材A1とする。
【0113】
【化7】

【0114】
−グラフトポリマーの生成−
上記にて得られた基板A1の上に、アクリル酸/グリシジルメタクリレート(モル比は90/10)の5wt%モノマー水溶液を5ml落とし、石英板を被せて、5wt%モノマー水溶液を均一に基材A1と石英板の間に挟み込んだ。次に、露光機(UVX−02516S1LP01、ウシオ電機(株)製)を用いて5分間露光した。その後、石英板を取り外し、水で洗浄し、アクリル酸とグリシジルメタクリレートとが共重合された基材を得た。これを基材Bとする。
【0115】
2.機能性素材吸着工程
得られた基材Bを、5wt%の重曹水中に5分間浸漬した。取り出した後、メチレンブルーの0.5wt%の水溶液に1分間浸漬した後、水洗し、メチレンブルーを吸着させたガラス板(基材C)を得た。
【0116】
3.架橋構造形成工程
得られた基材Cを、ホットプレート(型式:T2B、Banstead社製)を用いて、実施例2−1では120℃(実施例2−2では140℃、実施例2−3では160℃)で5分間加熱を行い、グラフトポリマーが有するカルボキシル基とグリシジル基を架橋させた。
以上のようにして、実施例2−1〜2−3の各表面機能性部材を得た。これらを、表面機能性部材(2−1)〜(2−3)とする。
【0117】
[比較例2]
実施例2−1の作製において、架橋構造形成工程(加熱)を行わなかった以外は、実施例2−1と同様にして、比較例1の表面機能性部材を得た。これを表面機能性部材(2−4)とする。
【0118】
[実施例3−1〜3−3]
実施例2−1〜2−3のグラフトポリマー生成工程において、アクリル酸/グリシジルメタクリレートのモル比を90/10から80/20に変更した以外は、実施例2−1〜2−3と同様にして、実施例3−1〜3−3の各表面機能性部材を得た。これらを、表面機能性部材(3−1)〜(3−3)とする。
【0119】
[比較例3]
実施例3−1の作製において、架橋構造形成工程(加熱)を行わなかった以外は、実施例3−1と同様にして、比較例1の表面機能性部材を得た。これを表面機能性部材(3−5)とする。
【0120】
[実施例4−1〜4−3]
実施例2−1〜2−3のグラフトポリマー生成工程において、アクリル酸/グリシジルメタクリレートのモル比を90/10から70/30に変更した以外は、実施例2−1〜2−3と同様にして、実施例4−1〜4−3の各表面機能性部材を得た。これらを、表面機能性部材(4−1)〜(4−3)とする。
【0121】
[比較例4]
実施例4−1の作製において、架橋構造形成工程(加熱)を行わなかった以外は、実施例4−1と同様にして、比較例4の表面機能性部材を得た。。これを表面機能性部材(4−4)とする。
【0122】
<評価2−1>
架橋構造形成工程における加熱条件による機能性素材の保持性の変化(脱色)について評価した。結果を表2に示す。
評価は、表面機能性部材(2−1)〜(2−4)、(3−1)〜(3−4)、及び(4−1)〜(4−4)を、それぞれ飽和食塩水に5間浸漬した後、色素(メチレンブルー)の吸収波長である570nmにおける吸光度を、UV−Vis 吸収スペクトルにより測定し、飽和食塩水浸漬前後における色素残存率(%)を、以下の式にて算出することにより行った。
色素残存率(%)=飽和食塩水浸漬後の吸光度/飽和食塩水浸漬前の吸光度 × 100
【0123】
<評価2−2>
架橋構造の形成性について、重量増加率(%)で見積もることにより評価した。評価は、得られた機能性部材を、水に1時間浸漬し、浸漬前後の重量増加率(%)を比較することにより行った。なお、本評価は、表面機能性部材(2−1)〜(2−4)についてのみ行った。結果を表2に示す。
【0124】
【表2】

【0125】
表2に示されるように、実施例の各表面機能性部材は、何れについても、比較例の各表面機能性部材と比較した場合に色素残存率が高く、架橋構造形成工程を行ったことにより、機能性素材(色素)の保持性及びその持続性が向上したことが分かる。
また、アクリル酸/グリシジルメタクリレート(90/10)では160℃で5分、アクリル酸/グリシジルメタクリレート(80/20)又は(70/30)では140℃で5分以上の加熱操作を行った場合に80%以上の色素残存率が認められた。このことから、機能性素材吸着層中に充分な架橋構造が形成されることにより、機能性素材(色素)の保持性及びその持続性がより一層向上することが分かる。
また、実施例の各表面機能性部材は、いずれも重量増加率が低く、機能性素材吸着層中に充分な架橋構造が形成されていることが推認できる。
【0126】
[実施例5]
実施例2−1のグラフトポリマー生成工程において、アクリル酸/グリシジルメタクリレート(モル比90/10)を、アクリル酸/N−メチロールアクリルアミド(モル比80/20)に変更して、アクリル酸とN−メチロールアクリルアミドのグラフトポリマーを生成させ、更に、架橋構造形成工程における加熱条件を130℃で10分間に変更した以外は、実施例2−1と同様にして、実施例5の表面機能性部材を得た。これを表面機能性部材5とする。
得られた表面機能性部材5の評価を、上記<評価2>と同様にして行ったところ、
色素残存率は80%以上であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、機能性素材と相互作用しうる官能基及び架橋性官能基を有するグラフトポリマーを直接結合させる工程と、
該グラフトポリマーが有する機能性素材と相互作用しうる官能基に、機能性素材を吸着させて機能性素材吸着層を形成する工程と、
該機能性素材吸着層にエネルギーを付与することにより、該機能性素材吸着層中に架橋構造を形成する工程と、
を有することを特徴とする表面機能性部材の製造方法。

【公開番号】特開2006−56948(P2006−56948A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−238704(P2004−238704)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】